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技術 硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性、耐剥離性を発揮する表面被覆切削工具

出願人 三菱マテリアル株式会社
発明者 柳澤光亮龍岡翔佐藤賢一西田真
出願日 2016年8月29日 (5年2ヶ月経過) 出願番号 2016-166818
公開日 2018年3月8日 (3年8ヶ月経過) 公開番号 2018-034216
状態 特許登録済
技術分野 フライス加工 CVD バイト、中ぐり工具、ホルダ及びタレット
主要キーワード 低温度範囲 平均酸素含有量 供給周期 オージェピーク 成膜終期 ガス群 カッタ径 進展方向
関連する未来課題
重要な関連分野

この項目の情報は公開日時点(2018年3月8日)のものです。
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図面 (6)

課題

高速断続切削加工において、硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性耐剥離性を備え、長期の使用に亘ってすぐれた切削性能を発揮する表面被覆切削工具を提供する。

解決手段

部層α、密着層β、下部層γの少なくとも3層を含む硬質被覆層が形成されている表面被覆切削工具において、上部層αは低温条件成膜されたα−Al2O3層からなり、密着層βは、前記上部層αとの界面に接する最表層は、少なくとも0.5μm以上の層厚を有するTiCN層を少なくとも含み、かつ、前記TiCN層と前記上部層αとの界面から、前記TiCN層の層厚方向の内部へ最大0.5μmまでの深さにのみ0.5〜3原子%の酸素が含有され、下部層γは、NaCl型の面心立方構造単相の(Ti1−XAlX)(CYN1−Y)からなり、この組成式におけるAlの平均含有割合XavgおよびCの平均含有割合Yavgは、0.60≦Xavg≦0.95、0≦Yavg≦0.005(Xavg、Yavgは原子比)を満足する。

概要

背景

従来、一般に、炭化タングステン(以下、WCで示す)基超硬合金炭窒化チタン(以下、TiCNで示す)基サーメットあるいは立方晶窒化ホウ素(以下、cBNで示す)基超高圧焼結体で構成された工具基体(以下、これらを総称して工具基体という)の表面に、硬質被覆層として、Ti−Al系複合窒化物層物理蒸着法により被覆形成した被覆工具が知られており、これらは、すぐれた耐摩耗性を発揮することが知られている。
ただ、前記従来のTi−Al系の複合窒化物層を被覆形成した被覆工具は、比較的耐摩耗性にすぐれるものの、高速断続切削条件で用いた場合にチッピング剥離等の異常損耗を発生しやすいことから、硬質被覆層の改善についての種々の提案がなされている。

例えば、特許文献1には、TiCl4、AlCl3、NH3の混合反応ガス中で、650〜900℃の温度範囲において化学蒸着を行うことにより、Alの含有割合xの値が0.65〜0.95である(Ti1−xAlx)N層蒸着形成できることが記載されているが、この文献では、この(Ti1−xAlx)N層の上にさらにAl2O3層を被覆し、これによって断熱効果を高めることを目的としているが、Alの含有割合xの値を0.65〜0.95まで高めた(Ti1−xAlx)N層の形成によって、切削性能にどのような影響を及ぼすかについてまでは明らかにされていない。

また、例えば、特許文献2には、TiCN層、Al2O3層を内層として、その上に、化学蒸着法により、立方晶構造あるいは六方晶構造を含む立方晶構造の(Ti1−xAlx)N層(ただし、原子比で、xは0.65〜0.90)を外層として被覆するとともに該外層に100〜1100MPaの圧縮応力を付与することにより、被覆工具の耐熱性疲労強度を改善することが提案されている。

また、特許文献3には、低温度(625〜800℃)で化学蒸着によって切削工具インサート上に結晶質α−Al2O3層を堆積する方法及びこの方法によって作製した切削工具について記載されている。特許文献3に記載の方法では、まず、X+Y+Z≧1及びZ>0(好ましくはZ0.2)であり、0.1〜1.5μmのTiCXNYOZの層を堆積する工程、ついで、0.5〜3vol%のO2好ましくはCO2とH2またはO2とH2を含有するガス混合物中で任意に0.5〜6vol%のHClの存在する中において約0.5〜4分の短い時間625〜1000℃で前記層を処理する工程、ついで、40〜300ミリバール処理圧力と625〜800℃の温度で、処置した前記層を、H2中に2〜10vol%のAlCl3と16〜40vol%のCO2とを含有するガス混合物と、0.8〜2vol%の硫黄含有剤(好ましくはH2S)とに接触させることによって、前記Al2O3層を堆積させる工程、によって作製された切削工具インサートが提案されている。

概要

高速断続切削加工において、硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性耐剥離性を備え、長期の使用に亘ってすぐれた切削性能を発揮する表面被覆切削工具を提供する。上部層α、密着層β、下部層γの少なくとも3層を含む硬質被覆層が形成されている表面被覆切削工具において、上部層αは低温条件成膜されたα−Al2O3層からなり、密着層βは、前記上部層αとの界面に接する最表層は、少なくとも0.5μm以上の層厚を有するTiCN層を少なくとも含み、かつ、前記TiCN層と前記上部層αとの界面から、前記TiCN層の層厚方向の内部へ最大0.5μmまでの深さにのみ0.5〜3原子%の酸素が含有され、下部層γは、NaCl型の面心立方構造単相の(Ti1−XAlX)(CYN1−Y)からなり、この組成式におけるAlの平均含有割合XavgおよびCの平均含有割合Yavgは、0.60≦Xavg≦0.95、0≦Yavg≦0.005(Xavg、Yavgは原子比)を満足する。

目的

本発明は、鋳鉄ステンレス鋼等の切れ刃断続的・衝撃的な高負荷が作用する高速断続切削等に供した場合であっても、すぐれた耐チッピング性、耐剥離性を備え、長期の使用に亘ってすぐれた耐摩耗性を発揮する被覆工具を提供する

効果

実績

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請求項1

炭化タングステン基超硬合金炭窒化チタンサーメットまたは立方晶窒化ホウ素超高圧焼結体のいずれかで構成された工具基体の表面に、上部層α、密着層β、下部層γの少なくとも3層を含む硬質被覆層が形成されている表面被覆切削工具において、(a)前記上部層αは1.0〜10μmの平均層厚を有するα型の結晶構造を有するAl2O3層からなり、(b)前記密着層βは、0.5〜10.0μmの合計平均層厚を有し、前記上部層αとの界面に接する前記密着層βの最表層は、少なくとも0.5μm以上の層厚を有するTiCN層を少なくとも含み、(c)前記TiCN層と前記上部層αとの界面から、前記TiCN層の層厚方向の内部へ最大0.5μmまでの深さに酸素が含有されており、前記深さ領域に含有される平均酸素含有量は前記深さ領域に含有されるTi、C,N,Oの合計含有量の0.5〜3原子%であり、(d)前記下部層γは、平均層厚1.0〜20μmのTiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層からなり、(e)前記TiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層は、NaCl型の面心立方構造単相からなり、(f)前記TiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層は、平均組成を(Ti1−XAlX)(CYN1−Y)で表した場合、AlのTiとAlの合量に占める平均含有割合XavgおよびCのCとNの合量に占める平均含有割合Yavg(但し、Xavg、Yavgはいずれも原子比)は、それぞれ、0.60≦Xavg≦0.95、0≦Yavg≦0.005を満足することを特徴とする表面被覆切削工具。

請求項2

前記上部層αは、0.05〜0.5原子%の塩素を含有することを特徴とする請求項1に記載の表面被覆切削工具。

請求項3

前記下部層γにおけるTiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層のAlのTiとAlの合量に占める平均含有割合Xavgは、0.70≦Xavg≦0.95であることを特徴とする請求項1または2に記載の表面被覆切削工具。

請求項4

前記密着層βは、Tiの炭化物層窒化物層炭窒化物層炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちから選ばれる1層または2層以上をさらに含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の表面被覆切削工具。

請求項5

前記密着層βは、TiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層をさらに含み、該TiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層の平均層厚Lavg(μm)は、0.30≦Lavg≦5.0を満たし、該TiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層に対し[Lavg]+2分割した各区間においてAlのTiとAlの合量に占める平均含有割合Xβavgをとると、各区間のXβavg<Xavgを満たし、より表面側の区間のXβavgが基体側の区間のXβavgに比べ同等か、より小さくなることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の表面被覆切削工具。

請求項6

前記下部層γにおけるTiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層を、工具基体の表面と垂直な任意の断面から分析した場合、TiとAlの周期的な組成変化を有するNaCl型の面心立方構造を有する結晶粒が存在し、かつ、TiとAlの周期的な組成変化の周期が最小となる方向が、工具基体表面に垂直な面とのなす角が30度以内であるような前記結晶粒が少なくとも存在することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の表面被覆切削工具。

請求項7

前記工具基体と前記下部層γの間に、最下部層δが存在し、該最下部層δは、前記下部層γとは組成の異なるTiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層、Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちから選ばれる1層または2層以上からなり、0.1〜10μmの合計平均層厚を有することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の表面被覆切削工具。

技術分野

0001

本発明は、例えば、鋳鉄ステンレス鋼等の高熱発生を伴うとともに、切刃に対して断続的・衝撃的な高負荷が作用する高速断続切削加工で、硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性耐剥離性を備え、長期の使用に亘ってすぐれた切削性能を発揮する表面被覆切削工具(以下、被覆工具という)に関するものである。

背景技術

0002

従来、一般に、炭化タングステン(以下、WCで示す)基超硬合金炭窒化チタン(以下、TiCNで示す)基サーメットあるいは立方晶窒化ホウ素(以下、cBNで示す)基超高圧焼結体で構成された工具基体(以下、これらを総称して工具基体という)の表面に、硬質被覆層として、Ti−Al系複合窒化物層物理蒸着法により被覆形成した被覆工具が知られており、これらは、すぐれた耐摩耗性を発揮することが知られている。
ただ、前記従来のTi−Al系の複合窒化物層を被覆形成した被覆工具は、比較的耐摩耗性にすぐれるものの、高速断続切削条件で用いた場合にチッピング剥離等の異常損耗を発生しやすいことから、硬質被覆層の改善についての種々の提案がなされている。

0003

例えば、特許文献1には、TiCl4、AlCl3、NH3の混合反応ガス中で、650〜900℃の温度範囲において化学蒸着を行うことにより、Alの含有割合xの値が0.65〜0.95である(Ti1−xAlx)N層蒸着形成できることが記載されているが、この文献では、この(Ti1−xAlx)N層の上にさらにAl2O3層を被覆し、これによって断熱効果を高めることを目的としているが、Alの含有割合xの値を0.65〜0.95まで高めた(Ti1−xAlx)N層の形成によって、切削性能にどのような影響を及ぼすかについてまでは明らかにされていない。

0004

また、例えば、特許文献2には、TiCN層、Al2O3層を内層として、その上に、化学蒸着法により、立方晶構造あるいは六方晶構造を含む立方晶構造の(Ti1−xAlx)N層(ただし、原子比で、xは0.65〜0.90)を外層として被覆するとともに該外層に100〜1100MPaの圧縮応力を付与することにより、被覆工具の耐熱性疲労強度を改善することが提案されている。

0005

また、特許文献3には、低温度(625〜800℃)で化学蒸着によって切削工具インサート上に結晶質α−Al2O3層を堆積する方法及びこの方法によって作製した切削工具について記載されている。特許文献3に記載の方法では、まず、X+Y+Z≧1及びZ>0(好ましくはZ0.2)であり、0.1〜1.5μmのTiCXNYOZの層を堆積する工程、ついで、0.5〜3vol%のO2好ましくはCO2とH2またはO2とH2を含有するガス混合物中で任意に0.5〜6vol%のHClの存在する中において約0.5〜4分の短い時間625〜1000℃で前記層を処理する工程、ついで、40〜300ミリバール処理圧力と625〜800℃の温度で、処置した前記層を、H2中に2〜10vol%のAlCl3と16〜40vol%のCO2とを含有するガス混合物と、0.8〜2vol%の硫黄含有剤(好ましくはH2S)とに接触させることによって、前記Al2O3層を堆積させる工程、によって作製された切削工具インサートが提案されている。

先行技術

0006

特表2011−516722号公報
特表2011−513594号公報
特開2004−308008号公報

発明が解決しようとする課題

0007

近年の切削加工における省力化および省エネ化の要求は強く、これに伴い、切削加工は一段高速化、高効率化の傾向にあり、被覆工具には、より一層、耐チッピング性、耐欠損性、耐剥離性等の耐異常損傷性が求められるとともに、長期の使用に亘ってすぐれた耐摩耗性が求められている。
しかし、前記特許文献1で提案される化学蒸着法で蒸着形成した(Ti1−xAlx)N層については、Alの含有割合xを高めることができ、また、立方晶構造を形成させることができることから、所定の硬さを有する硬質被覆層が得られるものの、上部Al2O3層成膜時に耐摩耗性に優れるα−Al2O3層を得るため通常条件成膜温度1000℃程度において成膜を行うと(Ti1−xAlx)N層中に六方晶構造のAlNの相分離が発生し、一方、(Ti1−xAlx)N層表面に、700〜900℃という低温度範囲でα−Al2O3層を成膜した場合には、(Ti1−xAlx)N層中での六方晶構造のAlN相の相分離は発生しないものの、(Ti1−xAlx)N層の最表面にアモルファスのAl2O3が形成されるため、(Ti1−xAlx)N層とα−Al2O3層の付着強度が十分ではなくなるという問題があった。
また、前記特許文献2で提案される被覆工具は、所定の耐熱性およびサイクル疲労強度を有しているものの、耐摩耗性および靭性に劣ることから、鋳鉄の断続切削加工等に供した場合には、チッピング、欠損、剥離等の異常損傷が発生しやすく、満足できる切削性能を発揮するとはいえないという問題があった。
また、前記特許文献3で提案される被覆工具は、機械的衝撃がともなう断続切削加工に供した場合には中間層の硬さが十分でなく、膜界面の剥離やチッピング、欠損等の異常損傷が発生しやすく、満足できる切削性能を発揮するとはいえないという問題があった。

0008

そこで、本発明は、鋳鉄、ステンレス鋼等の切れ刃に断続的・衝撃的な高負荷が作用する高速断続切削等に供した場合であっても、すぐれた耐チッピング性、耐剥離性を備え、長期の使用に亘ってすぐれた耐摩耗性を発揮する被覆工具を提供することを目的とする。

課題を解決するための手段

0009

本発明者らは、前述の観点から、少なくともTiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物(以下、「(Ti,Al)(C,N)」あるいは「(Ti1−xAlx)(CyN1−y)」で示すことがある)層を下部層として含み、また、上部層としてα型の結晶構造を有するAl2O3層(以下、単に「α−Al2O3層」で示すことがある)を含む硬質被覆層を化学蒸着で蒸着形成した被覆工具の耐チッピング性、耐剥離性の改善をはかるべく、鋭意研究を重ねた結果、次のような知見を得た。

0010

即ち、本発明者らは、下部層である(Ti,Al)(C,N)層上に、直接、通常条件でα−Al2O3層を蒸着形成した場合には、立方晶構造の(Ti,Al)(C,N)層は準安定相であるため、α−Al2O3層の成膜温度1000℃程度において、(Ti,Al)(C,N)層中に六方晶構造のAlNの相分離が発生し、(Ti,Al)(C,N)層に十分な硬さが得られないこと、一方、(Ti,Al)(C,N)層表面に、700〜900℃という低温度範囲でα−Al2O3層を成膜した場合には、(Ti,Al)(C,N)層中での六方晶構造のAlN相の相分離は発生しないものの、(Ti,Al)(C,N)層の最表面にアモルファスのAl2O3が形成されるため、(Ti,Al)(C,N)層とα−Al2O3層の付着強度が十分ではなくなることを見出した。
また、下部層の(Ti,Al)(C,N)層とα−Al2O3層との間に、両層の付着強度を高めるために、通常成膜温度条件で、TiCN層を形成した場合にも、TiCN層の1000℃程度の成膜温度によって、下部層の(Ti,Al)(C,N)層に、六方晶構造のAlN相の相分離が生じ、その結果、硬質被覆層全体として十分な硬さが得られないことを見出した。

0011

そこで、本発明者らは、(Ti,Al)(C,N)層とα−Al2O3層との付着強度向上を図るべくさらに検討を進めたところ、立方晶(Ti,Al)(C,N)層を下部層として、その上部に、密着層として、TiCN層を相対的に低温度の成膜条件で成膜する(以下、相対的に低温成膜条件で成膜したTiCN層を、「TiCN層」で示す。)とともに、TiCN層とα−Al2O3層の界面における付着強度を向上させるため、α−Al2O3層との界面に接するTiCN層表面近傍には、酸素を含有するTiCN層(以下、「酸素含有TiCN層」という場合もある。)を成膜し、さらに、上部層であるα−Al2O3層を低温度条件で成膜した場合には、(Ti,Al)(C,N)層における六方晶AlN相の相分離発生を抑制することができると同時に、該層の硬さを維持することができ、さらに、前記下部層−密着層−上部層間の付着強度を高めることができることを見出したのである。
したがって、前記下部層、密着層及び上部層からなる硬質被覆層を備えた本発明の被覆工具は、鋳鉄、ステンレス鋼等の切れ刃に断続的・衝撃的な高負荷が作用する高速断続切削等に供した場合であっても、すぐれた耐チッピング性、耐剥離性を備え、長期の使用に亘ってすぐれた耐摩耗性を発揮することができる。

0012

本発明は、前記知見に基づいてなされたものであって、
「(1)炭化タングステン基超硬合金、炭窒化チタン基サーメットまたは立方晶窒化ホウ素基超高圧焼結体のいずれかで構成された工具基体の表面に、上部層α、密着層β、下部層γの少なくとも3層を含む硬質被覆層が形成されている表面被覆切削工具において、
(a)前記上部層αは1.0〜10μmの平均層厚を有するα型の結晶構造を有するAl2O3層からなり、
(b)前記密着層βは、0.5〜10.0μmの合計平均層厚を有し、前記上部層αとの界面に接する前記密着層βの最表層は、少なくとも0.5μm以上の層厚を有するTiCN層を少なくとも含み、
(c)前記TiCN層と前記上部層αとの界面から、前記TiCN層の層厚方向の内部へ最大0.5μmまでの深さに酸素が含有されており、前記深さ領域に含有される平均酸素含有量は前記深さ領域に含有されるTi、C,N,Oの合計含有量の0.5〜3原子%であり、
(d)前記下部層γは、平均層厚1.0〜20μmのTiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層からなり、
(e)前記TiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層は、NaCl型の面心立方構造単相からなり、
(f)前記TiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層は、平均組成を(Ti1−XAlX)(CYN1−Y)で表した場合、AlのTiとAlの合量に占める平均含有割合XavgおよびCのCとNの合量に占める平均含有割合Yavg(但し、Xavg、Yavgはいずれも原子比)は、それぞれ、0.60≦Xavg≦0.95、0≦Yavg≦0.005を満足することを特徴とする表面被覆切削工具。
(2)前記上部層αは、0.05〜0.5原子%の塩素を含有することを特徴とする前記(1)に記載の表面被覆切削工具。
(3)前記下部層γにおけるTiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層のAlのTiとAlの合量に占める平均含有割合Xavgは、0.70≦Xavg≦0.95であることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の表面被覆切削工具。
(4)前記密着層βは、Tiの炭化物層窒化物層炭窒化物層炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちから選ばれる1層または2層以上をさらに含むことを特徴とする前記(1)乃至(3)のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
(5)前記密着層βは、TiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層をさらに含み、該TiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層の平均層厚Lavg(μm)は、0.30≦Lavg≦5.0を満たし、該TiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層に対し[Lavg]+2分割した各区間においてAlのTiとAlの合量に占める平均含有割合Xβavgをとると、各区間のXβavg<Xavgを満たし、より表面側の区間のXβavgが基体側の区間のXβavgに比べ同等か、より小さくなることを特徴とする前記(1)乃至(4)のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
(6)前記下部層γにおけるTiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層を、工具基体の表面と垂直な任意の断面から分析した場合、TiとAlの周期的な組成変化を有するNaCl型の面心立方構造を有する結晶粒が存在し、かつ、TiとAlの周期的な組成変化の周期が最小となる方向が、工具基体表面に垂直な面とのなす角が30度以内であるような前記結晶粒が少なくとも存在することを特徴とする前記(1)乃至(5)のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
(7)前記工具基体と前記下部層γの間に、最下部層δが存在し、該最下部層δは、前記下部層γとは組成の異なるTiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層、Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちから選ばれる1層または2層以上からなり、0.1〜10μmの合計平均層厚を有することを特徴とする前記(1)乃至(6)のいずれかに記載の表面被覆切削工具。」
に特徴を有するものである。

0013

本発明について、以下に詳細に説明する。

0014

まず、本発明被覆工具の硬質被覆層の層構造の例を、図面とともに説明する。
図1図5に、本発明被覆工具の硬質被覆層の層構造のいくつかの具体例を示す。

0015

図1は、上部層αがα−Al2O3層で構成され、密着層βが所定量の酸素を含有するTiCN層(ただし、層厚は0.5μm)のみで構成され、下部層γが(Ti,Al)(C,N)層で構成されている硬質被覆層の層構造の一例を示す。
図2図4に示す被覆工具は、いずれも、上部層αはα−Al2O3層、下部層γは(Ti,Al)(C,N)層であるが、密着層βが種々の態様を示す。

0016

図2においては、密着層βは、上部層αとの界面から、TiCN層の層厚方向の内部へ最大0.5μmまでの深さに酸素が含有されており、該深さ領域に含有される平均酸素含有量は前記深さ領域に含有されるTi、C,N,Oの合計含有量の0.5〜3原子%である酸素含有TiCN層と、酸素を積極的に導入していない通常のTiCN層で構成する。

0017

図3に示されるものでは、密着層βは、酸素含有TiCN層と、TiCN層と、Ti化合物層TiC層TiN層、TiCN層、TiCO層およびTiCNO層のうちから選ばれる1層または2層以上のTi化合物層)によって形成される。

0018

図4に示されるものでは、密着層βは、酸素含有TiCN層と、TiCN層と、(Ti,Al)(C,N)層によって形成される。
ただ、密着層βの構成層である上記(Ti,Al)(C,N)層においては、該層における平均層厚Lavg(μm)は、0.30≦Lavg≦5.0を満たし、該TiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層に対し[Lavg]+2分割した各区間においてAlのTiとAlの合量に占める平均含有割合Xβavgをとると、各区間のXβavg<Xavgを満たし、表面側の区間のXβavgが基体側の区間のXβavgに比べ同等か、より小さくなることが必要であり、この意味で、図4における密着層βの構成層である(Ti,Al)(C,N)層を、「(Ti,Al)(C,N)*層」で示した。
ここで[Lavg]はガウス記号を表す。 [x]はxを超えない最大の整数を表す数学記号であり、[x]=nである時、n≦x<n+1で定義される(ただし、nは整数)。
各区間のXβavg<Xavgを満たし、表面側の区間のXβavgが基体側の区間のXβavgに比べ同等か、より小さくなることとする理由は、下部層γとTiCN層、あるいはTi化合物層(TiC層、TiN層、TiCN層、TiCO層およびTiCNO層のうちから選ばれる1層または2層以上のTi化合物層)との格子歪の急激な変化を抑えつつ、膜表面方向へ歪を緩和することで界面における密着強度担保し、耐チッピング性、耐剥離性を向上させるためである。
なお、(Ti,Al)(C,N)層からなる密着層βにおけるAlの含有割合は、下部層γ側から上部層α側へ向かうにしたがって、層厚方向に漸次連続的にあるいは不連続的に減少する値を採ることもでき、各区間のXβavg<Xavgを満たし、より表面側の区間のXβavgが基体側の区間のXβavgに比べ同等か、より小さくなる関係を満たしていればよい。

0019

図5は、図4に示す態様の層構造において、工具基体と下部層γとの間に、さらに最下部層δを介在形成したものに相当する。
最下部層δは、下部層γとは組成の異なる(Ti,Al)(C,N)層、TiC層、TiN層、TiCN層、TiCO層、TiCNO層のうちから選ばれる1層または2層以上で構成し、工具基体と下部層γとの付着強度をさらに向上させることができる。
なお、例えば、最下部層δとして、(Ti,Al)(C,N)層を形成し、該層を [Lavg]+2分割した各区間においてAlのTiとAlの合量に占める平均含有割合Xδavgをとると、各区間のXδavg<Xavgを満たし、より表面側の区間のXδavgが基体側の区間のXδavgに比べ同等か、より大きくなることを満たすことが必要である。但し、(Ti,Al)(C,N)層からなる最下部層δにおけるAlの含有割合は、工具基体側から下部層γ側へ向かうにしたがって、層厚方向に漸次連続的にあるいは不連続的に増加する値を採ることもでき、各区間のXδavg<Xavgを満たし、より表面側の区間のXδavgが基体側の区間のXδavgに比べ同等か、より大きくなる関係を満たしていればよい。
そして、このようなAlの組成傾斜構造を採ることによって、硬質被覆層の全体的な硬さを低下させることなく、工具基体と下部層γとの付着強度を一段と高めることができる。

0020

次に、本発明被覆工具の硬質被覆層のそれぞれの層について説明する。

0021

上部層α:
本発明の上部層αは、α−Al2O3層で構成することによって、すぐれた高温硬さと耐高温酸化性を発揮するが、上部層αの平均層厚が1.0μm未満の場合には、長期にわたるすぐれた耐摩耗性を発揮することができず、一方、上部層αの平均層厚が10μmを超える場合には、チッピングを発生しやすくなるので、上部層αの平均層厚は1.0μm〜10μmとする。
既に述べたように、(Ti,Al)(C,N)層からなる下部層γにおいて、六方晶AlN相の相分離を発生させないためには、上部層αの形成は、従来の成膜温度に比して比較的低温(800〜900℃)で成膜することが望ましい。
比較的低温で上部層αを成膜する場合、α−Al2O3層の成膜は、α−Al2O3の初期核生成段階と、α−Al2O3の成長段階二段階に分けた化学蒸着を行うことが望ましい。
具体的なα−Al2O3層からなる上部層αの化学蒸着条件は、例えば、次のとおりである。
<α−Al2O3初期核生成条件
反応ガス組成(容量%):AlCl3 1〜3%、CO2 1〜5%、HCl 0.3〜1.0%、残部H2
反応雰囲気圧力:5.0〜15.0kPa、
反応雰囲気温度:800〜900℃、
<α−Al2O3成長条件
反応ガス組成(容量%):AlCl3 1.5〜5.0%、CO2 2〜8%、HCl 3〜8%、H2S 0.5〜1.0%、残部H2
反応雰囲気圧力:5.0〜15.0kPa、
反応雰囲気温度:800〜900℃、
上記α−Al2O3の初期核生成段階と、α−Al2O3の成長段階という二段階に分けた化学蒸着で、α−Al2O3層からなる上部層αを形成することができる。
なお、比較的低温(800〜900℃)でα−Al2O3層を成膜した場合、反応ガス成分である塩素が層中に混入されるようになる。
α−Al2O3層中への塩素の混入は必須の要件ではないが、層中に含有される塩素含有量が0.05原子%以上になると、α−Al2O3層が潤滑性具備するようになり、刃先に機械的衝撃が作用する断続切削に供した場合に機械的衝撃を吸収し、チッピング等の異常損傷を抑制する効果を発揮する。一方、塩素含有量が0.5原子%を超え過度に含有されると、α−Al2O3層の耐摩耗性の劣化を招くことになる。
したがって、α−Al2O3層からなる上部層αにおける塩素含有量は、0.05〜0.5原子%とすることが望ましい。

0022

密着層β:
密着層βは、前述したように、0.5〜10.0μmの合計平均層厚を有することが必要であるとともに、上部層αとの界面に接する層は、少なくとも酸素含有TiCN層であることが必要である。
密着層βの合計平均層厚が0.5μm未満であると、下部層γと上部層αの密着性を確保することができず、一方、10.0μmを超えると特に刃先が高温となる高速重切削・断続切削では熱塑性変形を起こしやすくなり偏摩耗やそれに伴うチッピング等の異常損傷を生じやすくなるから、密着層βの合計平均層厚は0.5〜10.0μmとする。

0023

密着層βにおける酸素含有TiCN層:
密着層βは、上部層αとの界面に接し、前記TiCN層の層厚方向の内部へ最大0.5μmまでの深さに酸素が含有される酸素含有TiCN層を形成しており、該深さ領域に含有される平均酸素含有量は、該深さ領域に含有されるTi、C,N,Oの合計含有量の0.5〜3原子%である。
前記酸素含有TiCN層の厚さ(言い換えれば、上部層αとの界面に接する前記密着層βの酸素含有領域の深さ)が0.5μmを超えると、酸素含有TiCN層の最表面組織形態が柱状組織から粒状組織に変化し、熱塑性変形を起こしやすくなり偏摩耗やそれに伴うチッピング等の異常損傷を生じやすくなるから、酸素含有TiCN層の最大厚さ(前記密着層βの酸素含有領域の最大深さ)は、0.5μmとする。
また、前記酸素含有TiCN層における平均酸素含有量が0.5原子%未満であると、比較的低温条件で形成する上部層αとの十分な付着強度を望めず、一方、平均酸素含有量が3原子%を超えると、上部層αを構成するα−Al2O3の高温強度、耐摩耗性が低下し、十分な切削性能を発揮できない。
したがって、密着層βにおいて、上部層αに接して形成される酸素含有TiCN層の層厚は最大で0.5μmとし、かつ、該酸素含有TiCN層における平均酸素含有量は0.5〜3原子%とする。

0024

密着層βは、前記酸素含有TiCN層に加え、図2図5にも例示したように、(Ti,Al)(C,N)層、Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちから選ばれる1層または2層以上をさらに含むことができる。
図3に示すように、密着層βが、Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上のTi化合物層を含む場合、密着層βと下部層γの密着性が改善される。
また、図4図5に「(Ti,Al)(C,N)*」として示すように、密着層βが、(Ti,Al)(C,N)層を含む場合、密着層βの硬さも向上し、硬質被覆層全体としての耐摩耗性が向上する。
ただし、密着層βの構成層である(Ti,Al)(C,N)層においては、該層における平均層厚Lavg(μm)は、0.30≦Lavg≦5.0を満たし、該TiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層に対し[Lavg]+2分割した各区間においてAlのTiとAlの合量に占める平均含有割合Xβavgをとると、各区間のXβavg<Xavgを満たし、表面側の区間のXβavgが基体側の区間のXβavgに比べ同等か、より小さくなることが必要である。
これは、下部層γにおける(Ti,Al)(C,N)層の場合と同様、密着層βにおける(Ti,Al)(C,N)層も、立方晶構造の単相として形成し、下部層γ及び密着層βの両層の硬さを担保することで、硬質被覆層全体としての耐摩耗性を向上させるためである。
なお、(Ti,Al)(C,N)層からなる密着層βにおけるAlの含有割合は、層厚方向に沿って必ずしも一定である必要はなく、下部層γ側から上部層α側へ向かうにしたがって、層厚方向に漸次連続的にあるいは不連続的に減少する値を採ることもできる。

0025

密着層βの成膜:
密着層βは、上部層αの場合と同様に、下部層γが相分離を起こし、六方晶AlN相を生成しないように、下部層γへの熱影響を考慮した低温条件での成膜が必要である。
このような成膜条件としては、例えば、TiCN層の成膜に際して、
反応ガス組成(容量%):TiCl4 2.0〜6.0%、C2H4 2.0〜3.0、NH30.5〜1.0%、N2 10.0〜20.0%、残部H2、
反応雰囲気温度:800〜900℃、
反応雰囲気圧力:6〜10kPa、
という条件の化学蒸着によって成膜することができる。
さらに、上部層αに接する酸素含有TiCN層の成膜は、前記TiCN層の成膜条件において、前記全反応ガス量に対して1〜5容量%の組成となるようにCO2ガスを添加した反応ガス雰囲気中で、反応雰囲気温度800〜900℃、反応雰囲気圧力6〜10kPaという条件での化学蒸着を行うことによって、酸素含有TiCN層を成膜することができる。

0026

下部層γ:
図1〜5で下部層γとして示される(Ti,Al)(C,N)層は、上部層αと密着層βが、それぞれ低温条件で成膜されることによって、六方晶AlN相が生成していないNaCl型の面心立方構単相からなる高温硬さを維持した層である。
下部層γは、平均層厚1.0〜20μmを有するが、平均層厚が1.0μm未満であると、長期の使用にわたってすぐれた耐摩耗性を発揮することができず、一方、平均層厚が20μmを超えるとチッピングが発生し易くなる。
また、下部層γは、密着層βおよび上部層αがいずれも低温で成膜されることから、NaCl型の面心立方構造の単相からなる。
(Ti,Al)(C,N)層からなる下部層γの平均組成を(Ti1−XAlX)(CYN1−Y)で表した場合、AlのTiとAlの合量に占める平均含有割合XavgおよびCのCとNの合量に占める平均含有割合Yavg(但し、Xavg、Yavgはいずれも原子比)は、それぞれ、0.60≦Xavg≦0.95、0≦Yavg≦0.005を満足することが必要である。
これは、Alの平均含有割合Xavgが0.60未満では該層の硬さが不十分であり、一方、0.95を超えると硬さを担保する上で重要なNaCl型の面心立方構造を維持するのが難しく、硬さが低い六方晶構造のAlN相が生成してしまうためである。
なお、Alの平均含有割合Xavgは、好ましくは、0.7≦Xavg≦0.95であり、これは、Alの平均含有割合Xavgが0.7以上で最大硬さに近い硬さが得られるためである。
また、CのCとNの合量に占める平均含有割合Yavgは、0≦Yavg≦0.005の範囲の微量であるとき、工具基体あるいは密着層β(もしくは最下部層δ)との密着性が向上し、かつ、潤滑性が向上することによって切削時の衝撃を緩和し、結果として、硬質被覆層全体としての耐欠損性および耐チッピング性が向上する。
一方、Cの平均含有割合Yavgが0≦Yavg≦0.005の範囲を外れると、(Ti,Al)(C,N)層の靭性が低下するため耐欠損性および耐チッピング性が逆に低下するため好ましくない。
したがって、Cの平均含有割合Yavgは、0≦Yavg≦0.005と定めた。

0027

前記下部層γにおける(Ti,Al)(C,N)層を、工具基体の表面と垂直な任意の断面から分析した場合、TiとAlの周期的な組成変化を有するNaCl型の面心立方構造を有する結晶粒が存在し、かつ、TiとAlの周期的な組成変化の周期が最小となる方向が、工具基体表面に垂直な方向とのなす角が30度以内であるような前記結晶粒が少なくとも存在することが望ましい。
これは、次の理由による。
本発明では、(Ti,Al)(C,N)層の成膜を、反応ガス群Aとガス群Bを工具基体表面に到達する時間に差が生じるように供給する事により、結晶粒内にTiとAlの局所的な濃度差を形成することができ、周期的な濃度変化の方向が工具基体表面に垂直な面となす角度が30度以内の方向として安定化する。
前記工具基体表面に垂直な面となす角度が30度以内の方向の周期的な濃度変化は、切削時に摩耗が進行する面に作用するせん断力により生じる基体と垂直な方向へのクラック進展を抑制し、靭性が向上するが、周期的な濃度変化の方向が、工具基体表面に垂直な面となす角度が30度を超えると、基体と垂直な方向へのクラックの進展を抑制する効果が見込めず、靭性向上の効果も見込めない。このクラック進展抑制効果については、TiとAlの濃度の異なる境界において、その進展方向の曲がりや屈折が生じることにより発揮されるものと推測される。
したがって、本発明では、結晶粒内における周期的な組成変化の周期が最小となる方向が、工具基体表面に垂直な面となす角度が30度以内の方向であるNaCl型の面心立方構造を有する結晶粒が存在することが望ましい。

0028

なお、結晶粒内における周期的な濃度変化の方向が、工具基体表面に垂直な面となす角度が30度以内の方向であるNaCl型の面心立方構造を有する結晶粒の存在の測定・確認は、透過型電子顕微鏡を用いて、1μm×1μmの像におけるTiとAlの周期的な濃度変化に対応する画像のコントラストの変化、あるいはエネルギー分散型X線分光法(EDS)によって確認されるTiとAlの周期的な濃度変化を有する領域から、各結晶粒の濃度変化の方向を求め、これらの中から、周期的濃度変化の方向が工具基体表面となす角が30度以内である結晶粒を抽出することによって、測定・確認することが出来る。

0029

下部層γの成膜:
下部層γの成膜は、具体的には、例えば、以下に述べる成膜条件のNH3を用いた熱CVD法で成膜することができる。
反応ガス組成(容量%):
ガス群A:NH3:2.0〜3.0%、H2:65〜75%、
ガス群B:AlCl3:0.6〜0.9%、TiCl4:0.1〜0.4%、N2:0.0〜12.0%、C2H4:0〜0.5%、H2:残、
反応雰囲気圧力:4.5〜5.0kPa、
反応雰囲気温度:700〜900℃、
ガス群Aとガス群Bの供給周期:1〜5秒、
1周期当たりのガス供給時間:0.15〜0.25秒、
ガス群Aの供給とガス群Bの供給の位相差:0.10〜0.20秒

0030

最下部層δ:
前記工具基体と前記下部層γの間に最下部層δが存在し、該最下部層δは、前記下部層γとは組成の異なる(Ti,Al)(C,N)層、Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちから選ばれる1層または2層以上からなり、0.1〜10μmの合計平均層厚を有する
前記最下部層δは、0.1〜10μmの合計平均層厚で形成した場合、工具基体と下部層γとの密着強度をさらに高める効果を有する。
なお、最下部層δとして、下部層γとは組成の異なる(Ti,Al)(C,N)層を形成した場合、最下部層δとして、(Ti,Al)(C,N)層における [Lavg]+2分割した各区間においてAlのTiとAlの合量に占める平均含有割合Xδavgをとると、各区間のXδavg<Xavgを満たし、より表面側の区間のXδavgが基体側の区間のXδavgに比べ同等か、より大きくなることを満たすことが必要である。
これは、密着層βにおける(Ti,Al)(C,N)層の場合と同様、最下部層δにおける(Ti,Al)(C,N)層も、立方晶構造の単相として形成し、工具基体と下部層γの密着性を担保し、硬質被覆層全体としての耐チッピング性、耐剥離性を向上させるためである。
なお、(Ti,Al)(C,N)層からなる最下部層δにおけるAlの含有割合は、層厚方向に沿って必ずしも一定である必要はなく、工具基体側から下部層γ側へ向かうにしたがって、層厚方向に漸次連続的にあるいは不連続的に増加する値を採ることもでき、この場合、工具基体と下部層γのより一段とすぐれた密着強度を確保することができる。

発明の効果

0031

本発明は、工具基体の表面に、硬質被覆層を設けた表面被覆切削工具において、硬質被覆層は、化学蒸着法により成膜されたNaCl型の面心立方構造単相の(Ti,Al)(C,N)層からなる下部層γ、その上部に、低温条件(800〜900℃)で成膜された密着層β、さらに、その上部に、低温条件(800〜900℃)で成膜されたα−Al2O3層からなる上部層αを少なくとも含み、密着層β及び上部層αが、相対的に低温度(800〜900℃)の成膜条件で成膜されているため、下部層γは、NaCl型立方晶構造の単相となり、六方晶AlN相の相分離発生を抑制し高硬度を維持することができる。
さらに、低温条件で成膜された上部層αと密着層βとの間には、上部層αとの密着性にすぐれた酸素含有TiCN層が形成されているため、チッピングの発生、剥離の発生が抑制される。
したがって、上記の硬質被覆層を備える本発明の被覆工具は、切れ刃に断続的・衝撃的負荷が作用する高速断続切削加工に供した場合でも、チッピング、剥離等を発生することなく、長期の使用に亘ってすぐれた耐摩耗性を発揮する。
さらに、前記硬質被覆層の下部層γにおいて、TiとAlの周期的な組成変化が存在し、かつ、周期的な組成変化の周期が最小となる方向が、工具基体表面に垂直な面となす角度が30度以内の方向となるNaCl型の面心立方構造を有する結晶粒が存在する場合には、
切削時に摩耗が進行する面に作用するせん断力により生じる工具基体と垂直な方向へのクラックの進展を抑制することから、靭性が向上し、より一段と耐チッピング性、耐剥離性が向上するのである。

図面の簡単な説明

0032

本発明の硬質被覆層の層構造の縦断面模式図の一つの態様を示す。
本発明の硬質被覆層の層構造において、密着層βがTiCN層を含む縦断面模式図の態様を示す。
本発明の硬質被覆層の層構造において、密着層βがTi化合物層を含む縦断面模式図の態様を示す。
本発明の硬質被覆層の層構造において、密着層βが(Ti,Al)(C,N)層を含む縦断面模式図の態様を示す。
本発明の硬質被覆層の層構造において、最下部層δを含む縦断面模式図の態様を示す。

0033

つぎに、本発明の被覆工具を実施例により具体的に説明する。
なお、以下の実施例では、工具基体として、炭化タングステン基超硬合金(以下、「WC基超硬合金」で示す。)あるいは炭窒化チタン基サーメット(以下、「TiCN基サーメット」で示す。)を用いた場合について説明するが、立方晶窒化ホウ素基超高圧焼結体を工具基体として用いた場合も同様である。

0034

原料粉末として、いずれも1〜3μmの平均粒径を有するWC粉末TiC粉末、TaC粉末、NbC粉末、Cr3C2粉末およびCo粉末を用意し、これら原料粉末を、表1に示される配合組成に配合し、さらにワックスを加えてアセトン中で24時間ボールミル混合し、減圧乾燥した後、98MPaの圧力で所定形状の圧粉体プレス成形し、この圧粉体を5Paの真空中、1370〜1470℃の範囲内の所定の温度に1時間保持の条件で真空焼結し、焼結後、ISO規格SEEN1203AFSNのインサート形状をもったWC基超硬合金製の工具基体A〜Cをそれぞれ製造した。

0035

また、原料粉末として、いずれも0.5〜2μmの平均粒径を有するTiCN(質量比でTiC/TiN=50/50)粉末、Mo2C粉末、ZrC粉末、NbC粉末、WC粉末、Co粉末およびNi粉末を用意し、これら原料粉末を、表2に示される配合組成に配合し、ボールミルで24時間湿式混合し、乾燥した後、98MPaの圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を1.3kPaの窒素雰囲気中、温度:1500℃に1時間保持の条件で焼結し、焼結後、ISO規格SEEN1203AFSNのインサート形状をもったTiCN基サーメット製の工具基体Dを作製した。

0036

つぎに、これらの工具基体A〜Dの表面に、通常の化学蒸着装置を用い、Ti化合物層、(Ti,Al)(C,N)層のいずれか一方、または、両層を最下部層δとして形成した。
具体的に言えば、Ti化合物層としての最下部層δは、表3に示される条件で、表6に示されるTi化合物層を形成し、また、(Ti,Al)(C,N)層としての最下部層δは、表4に示されるガス条件及び表5に示される形成条件で、表6に示される(Ti,Al)(C,N)層を形成した。
一部については、最下部層δとして、Ti化合物層と(Ti,Al)(C,N)層の両層を形成した。
なお、(Ti,Al)(C,N)層からなる最下部層δの成膜条件Aδ〜Eδにおいては、表4、表5に示されるようにガス条件および形成条件を成膜初期成膜終期で変化させ、工具基体表面から下部層γに向かうにしたがって、(Ti,Al)(C,N)層中のAl含有割合が、連続的にあるいは段階的に、次第に増加するような(Ti,Al)(C,N)層を成膜した。
つぎに、これらの最下部層δの表面に化学蒸着装置を用い、表7に示されるガス条件Aγ〜Eγで、また、表8に示される形成条件Aγ〜Eγで、NaCl型の面心立方構造単相の(Ti,Al)(C,N)層からなる下部層γを成膜した。
つまり、表8、表9に示される形成条件Aγ〜Eγにしたがい、NH3とH2からなるガス群Aと、TiCl4、AlCl3、N2、C2H4、H2からなるガス群B、および、おのおのガス供給方法として、反応ガス組成(ガス群Aおよびガス群Bを合わせた全体に対する容量%)を、ガス群AとしてNH3:2.0〜3.0%、H2:65〜75%、ガス群BとしてAlCl3:0.6〜0.9%、TiCl4:0.1〜0.4%、N2:0.0〜12.0%、C2H4:0〜0.5%、H2:残、反応雰囲気圧力:4.5〜5.0kPa、反応雰囲気温度:700〜900℃、供給周期1〜5秒、1周期当たりのガス供給時間0.15〜0.25秒、ガス群Aの供給とガス群Bの供給の位相差0.10〜0.20秒として、所定時間、熱CVD法を行い、表14に示される(Ti,Al)(C,N)層からなる下部層γを成膜した。

0037

ついで、下部層γの表面に、密着層βを形成した。
密着層βとしては、Ti化合物層、(Ti,Al)(C,N)層のいずれか一方、または、両層を形成することができる。
但し、密着層βとして、Ti化合物層を形成するか、あるいは、(Ti,Al)(C,N)層を形成するか、あるいは、Ti化合物層と(Ti,Al)(C,N)層の両層を形成するかにかかわらず、密着層βの最表面(上部層αとの界面に接する密着層βの最表層)には、少なくとも0.5μm以上の層厚を有する酸素含有TiCN層を形成する。
Ti化合物層からなる密着層βを形成する成膜条件は表9に示し、また、(Ti,Al)(C,N)層からなる密着層βを形成する成膜条件Aβ〜Eβは表10、表11に示し、さらに、Ti化合物層の内の一つの層ではあるが、TiCN層と酸素含有TiCN層からなる密着層βを形成する成膜条件A〜Dは、表12に示す。
表9〜12に示される成膜条件により、表14に示される密着層βを成膜した。
なお、(Ti,Al)(C,N)層からなる密着層βの成膜条件Aβ〜Eβにおいては、表10、表11に示されるようにガス条件および形成条件を成膜初期と成膜終期で変化させ、下部層γから上部層αに向かうにしたがって、(Ti,Al)(C,N)層中のAl含有割合が、連続的にあるいは段階的に、次第に減少するような(Ti,Al)(C,N)層を成膜した。

0038

ついで、TiCN層と酸素含有TiCN層を最表層に少なくとも含む前記密着層βの表面に、表13に示す成膜条件によって表14に示される上部層αを形成した。
なお、上部層αは、成膜初期にα−Al2O3の核生成を行い、ついで、α−Al2O3を成膜するという二段階の成膜処理を行った。

0039

上記の各成膜工程により、WC基超硬合金あるいはTiCN基サーメットからなる工具基体の表面に、下部層γ、密着層βおよび上部層αからなる硬質被覆層を形成することにより、表14に示す本発明被覆上具1〜15を作製した。

0040

また、比較の目的で、工具基体A〜Dの表面に、化学蒸着装置を用い、表7に示されるガス条件Aγ〜Eγで、また、表8に示される形成条件Aγ〜Eγで、NaCl型の面心立方構造単相の(Ti,Al)(C,N)層からなる下部層γを成膜した。

0041

ついで、前記下部層γの表面に、Ti化合物層からなる密着層β、あるいは、(Ti,Al)(C,N)層からなる密着層β、あるいは、これら両層からなる密着層βを形成した。
Ti化合物層からなる密着層βは表15に示される条件で形成し、(Ti,Al)(C,N)層からなる密着層βは表10、表11に示される本発明の条件と同じ条件で形成した。
なお、(Ti,Al)(C,N)層からなる密着層βは、本発明と同様に、下部層γから上部層αに向かうにしたがって、(Ti,Al)(C,N)層中のAl含有割合が、連続的にあるいは段階的に、次第に減少するように成膜した。
ついで、密着層βの最表面(上部層αとの界面に接する密着層βの最表層)に、表16に示される条件で、酸素含有TiCN層を形成した。
なお、表15に示されるTi化合物層の成膜温度は、表9に示される本発明のTi化合物の成膜温度に比して高く、また、表16に示される酸素含有TiCN層の成膜温度も、表12に示される本発明のTiCN層、酸素含有TiCN層の成膜温度に比して高温である。

0042

ついで、酸素含有TiCN層が形成されている密着層βの表面に、表17に示す成膜条件によって上部層αを形成した。
なお、上部層αは、成膜初期にα−Al2O3の核生成を行い、ついで、α−Al2O3を成膜するという二段階の成膜処理を行った。
また、表17に示される上部層αの成膜温度は、表13に示す本発明の上部層αの成膜温度に比して高い温度である。

0043

前記各成膜工程により、WC基超硬合金あるいはTiCN基サーメットからなる工具基体の表面に、下部層γ、密着層βおよび上部層αからなる硬質被覆層を形成することにより、表18に示す比較例被覆上具1〜15を作製した。

0044

本発明被覆工具1〜15、比較例被覆工具1〜15の各構成層の工具基体に垂直な方向の断面を、走査型電子顕微鏡倍率5000倍)を用いて測定し、観察視野内の5点の層厚を測って平均して平均層厚を求めたところ、いずれも表14および表18に示される目標層厚と実質的に同じ平均層厚を示した。
また、下部層γを構成する(Ti,Al)(C,N)層の平均Al含有割合Xavgについては、電子マイクロアナライザ(EPMA,Electron−Probe−Micro−Analyser)を用い、表面を研磨した試料において、電子線を試料表面側から照射し、得られた特性X線解析結果の10点平均からAlの平均Al含有割合Xavgを求めた。平均C含有割合Yavgについては、二次イオン質量分析SIMS,Secondary−Ion−Mass−Spectroscopy)により求めた。イオンビームを試料表面側から70μm×70μmの範囲に照射し、スパッタリング作用によって放出された成分について深さ方向の濃度測定を行った。平均C含有割合Yavgは(Ti,Al)(C,N)層についての深さ方向の平均値を示す。

0045

また、前記下部層γを構成する(Ti,Al)(C,N)層の結晶構造については、X線回折により測定した回折ピークより同定し、NaCl型の立方晶構造の単相であるか六方晶結晶構造の(Ti,Al)(C,N)結晶粒が含まれているかを調査した。なお、X線回折は、X線回折装置としてスペクトリス社PANalytical Empyreanを用いて、CuKα線による2θ‐θ法で測定し、測定条件として、測定範囲(2θ):30〜130度、X線出力:45kV、40mA、発散スリット:0.5度、スキャンステップ:0.013度、1ステップ辺り測定時間:0.48sec/stepという条件で測定した。

0046

また、下部層γを構成する(Ti,Al)(C,N)層について、透過型電子顕微鏡を用いて、加速電圧200kVの条件において該層の微小領域の観察を行い、エネルギー分散型X線分光法(EDS)を用いて、断面側から面分析を行うことによって、前記NaCl型の面心立方構造を有する結晶粒内に、組成式:(Ti1−XAlX)(CYN1−Y)におけるTiとAlの周期的な組成変化が存在するか否かを調べるとともに、組成変化が存在する結晶粒のうちで、本発明組成変化の方向を有する結晶粒が存在するか否かを調べた。
なお、「本発明組成変化の方向を有する結晶粒」とは、TiとAlの周期的な組成変化の周期が最小となる方向が、工具基体表面に垂直な方向とのなす角が30度以内であるような結晶粒をいう。
上記周期的な組成変化の方向について、工具基体表面に垂直な面となす角度は次のようにして測定した。
透過型電子顕微鏡を用いて、前記NaCl型の面心立方構造を有する結晶粒内における基体と垂直な任意の断面から任意の1μm×1μmの領域において観察を行い、TiとAlの周期的な組成変化が存在し、前記断面におけるTiとAlの周期的な組成変化の周期が最小になる方向と工具基体表面のなす角を測定することにより、求めることが出来る。
表14、表18に、その結果を示す。

0047

ついで、密着層βについて、該層の最表面を構成する酸素含有TiCN層について、該層の層厚方向に0.5μmまでの深さ領域における平均酸素含有割合(=O/(Ti+C+N+O)×100)、さらに、0.5μmを超える深さ領域における平均酸素含有割合(=O/(Ti+C+N+O)×100)を、オージェ電子分光分析器を用い、密着層βの縦断面研磨面に直径10nmの電子線を照射させていき、Ti,C,N,Oのオージェピークの強度を測定し、それらのピーク強度の総和に占めるOのオージェピークの割合から、平均酸素含有割合を原子%として算出した。
表14、表18に、これらの値を示す。

0048

また、密着層βが、(Ti,Al)(C,N)層を含む場合については、該(Ti,Al)(C,N)層の層厚方向に[Lavg]+2分割した各区間においてAlのTiとAlの合量に占める平均含有割合Xβavgをエネルギー分散型X線分光法(EDS)によって面分析を行うことにより求めた。ここで[Lavg]はガウス記号を表す。 [x]はxを超えない最大の整数を表す数学記号であり、[x]=nである時、n≦x<n+1で定義される(ただし、nは整数)。
表14、表18に、これらの値を示す。

0049

また、上部層αにおける塩素含有量を、電子線マイクロアナライザ(EPMA,Electron−Probe−Micro−Analyser)を用い、試料断面を研磨し、加速電圧10kVの電子線を試料断面側から照射し、得られた特性X線の解析結果の10点平均から平均塩素含有量Clavgを算出した。
表14、表18に、これらの値を示す。

0050

0051

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0068

つぎに、前記各種の被覆工具をいずれもカッタ径125mmの工具鋼カッタ先端部に固定治具にてクランプした状態で、本発明被覆工具1〜15、比較例被覆工具1〜15について、以下に示す、鋳鉄の高速断続切削の一種である湿式高速正面フライスセンターカット切削加工試験を実施し、切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。
表19に、その結果を示す。

0069

切削試験:湿式高速正面フライス、センターカット切削加工、
カッタ径: 125 mm、
被削材: JIS・FCD700幅100mm、長さ400mmのブロック材
回転速度: 891 min−1、
切削速度: 350 m/min、
切り込み: 1.5 mm、
一刃送り量: 0.3 mm/刃、
切削時間: 5分、
(通常の切削速度は、200m/min)

0070

0071

表19に示される結果から、本発明被覆工具は、下部層γがNaCl型立方晶構造の単相であって高硬度を有し、さらに、低温条件で成膜された上部層αと密着層βとの間には、上部層αとの密着性にすぐれた酸素含有TiCN層が形成されているため、チッピングの発生、剥離の発生が抑制されるため、切れ刃に断続的・衝撃的負荷が作用する高速断続切削加工において、長期の使用にわたってすぐれた耐摩耗性を発揮する。
これに対して、比較例被覆工具においては、チッピング、剥離等の異常損傷の発生を原因として、短期間で使用寿命に至る。

0072

表1に示すWC基超硬合金製の工具基体A〜Cおよび表2に示すTiCN基サーメット製の工具基体Dの表面に、通常の化学蒸着装置を用い、Ti化合物層、(Ti,Al)(C,N)層のいずれか一方、または、両層を最下部層δとして形成した。
具体的に言えば、Ti化合物層としての最下部層δは、表3に示される条件で、表22に示されるTi化合物層を形成し、また、(Ti,Al)(C,N)層としての最下部層δは、表20に示されるガス条件及び表21に示される形成条件で、表22に示される(Ti,Al)(C,N)層を形成した。
一部については、最下部層δとして、Ti化合物層と(Ti,Al)(C,N)層の両層を形成した。
なお、(Ti,Al)(C,N)層からなる最下部層δの成膜条件Aδ〜Eδにおいては、表20、表21に示されるようにガス条件および形成条件を成膜初期と成膜終期で変化させ、工具基体表面から下部層γに向かうにしたがって、(Ti,Al)(C,N)層中のAl含有割合が、連続的にあるいは段階的に、次第に増加するような(Ti,Al)(C,N)層を成膜した。
ただし、最下部層δとして、(Ti,Al)(C,N)層における [Lavg]+2分割した各区間においてAlのTiとAlの合量に占める平均含有割合Xδavgをとると、各区間のXδavg<Xavgを満たし、より表面側の区間のXδavgが基体側の区間のXδavgに比べ同等か、より大きくなることを満たす。

0073

ついで、これらの工具基体A〜Dの表面に形成した最下部層δの表面に、化学蒸着装置を用い、表7に示されるガス条件Aγ〜Eγで、また、表8に示される形成条件Aγ〜Eγで、NaCl型の面心立方構造単相の(Ti,Al)(C,N)層からなる表23に示される下部層γを成膜した。

0074

ついで、下部層γの表面に、密着層βを形成した。
密着層βとしては、Ti化合物層、(Ti,Al)(C,N)層のいずれか一方、または、両層を形成した。
但し、密着層βとして、Ti化合物層を形成するか、あるいは、(Ti,Al)(C,N)層を形成するか、あるいは、Ti化合物層と(Ti,Al)(C,N)層の両層を形成するかにかかわらず、密着層βの最表面(上部層αとの界面に接する密着層βの最表層)には、少なくとも0.5μm以上の層厚を有する酸素含有TiCN層を形成した。
Ti化合物層からなる密着層βを形成する成膜条件は表9に示し、また、(Ti,Al)(C,N)層からなる密着層βを形成する成膜条件Aβ〜Eβは表10、表11に示し、さらに、Ti化合物層の内の一つの層ではあるが、TiCN層と酸素含有TiCN層からなる密着層βを形成する成膜条件A〜Dは、表12に示す。
表9〜12に示される成膜条件により、表23に示される密着層βを成膜した。
なお、(Ti,Al)(C,N)層からなる密着層βの成膜条件Aβ〜Eβにおいては、実施例1の場合と同様に、表10、表11に示されるようにガス条件および形成条件を成膜初期と成膜終期で変化させ、下部層γから上部層αに向かうにしたがって、(Ti,Al)(C,N)層中のAl含有割合が、連続的にあるいは段階的に、次第に減少するような(Ti,Al)(C,N)層を成膜した。
ただし、密着層βの(Ti,Al)(C,N)層における平均層厚Lavg(μm)は、0.30≦Lavg≦5.0を満たし、該TiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層に対し[Lavg]+2分割した各区間においてAlのTiとAlの合量に占める平均含有割合Xβavgをとると、各区間のXβavg<Xavgを満たし、表面側の区間のXβavgが基体側の区間のXβavgに比べ同等か、より小さくなることを満たす。

0075

ついで、TiCN層と酸素含有TiCN層を最表層に少なくとも含む前記密着層βの表面に、表13に示す成膜条件によって表23に示される上部層αを形成した。
なお、上部層αは、成膜初期にα−Al2O3の核生成を行い、ついで、α−Al2O3を成膜するという二段階の成膜処理を行った。

0076

上記工程で、工具基体A〜C、Dの表面に、最下部層δ、下部層γ、密着層β及び上部層αからなる硬質被覆層を形成することで、本発明被覆工具16〜25を作製した。

0077

本発明被覆工具16〜25について、実施例1の場合と同様にして、以下の各測定を行った。
まず、各層の平均層厚を求めたところ、いずれも、表22、表23に示される目標層厚と実質的に同じ平均層厚を示した。
また、下部層γを構成する(Ti,Al)(C,N)層の平均Al含有割合Xavg、平均C含有割合Yavgを求め、表23にその結果を示した。
また、前記下部層γを構成する(Ti,Al)(C,N)層が、NaCl型の立方晶構造の単相であるか六方晶結晶構造の(Ti,Al)(C,N)結晶粒が含まれているかを調査し、表23にその結果を示した。
さらに、下部層γを構成する(Ti,Al)(C,N)層について、NaCl型の面心立方構造を有する結晶粒内に、TiとAlの周期的な組成変化が存在するか否かを調べるとともに、組成変化が存在する結晶粒のうちで、本発明組成変化の方向を有する結晶粒(TiとAlの周期的な組成変化の周期が最小となる方向が、工具基体表面に垂直な方向とのなす角が30度以内であるような結晶粒)が存在するか否かを調べた。
表23にその結果を示す。

0078

また、密着層βについて、該層の最表面を構成する酸素含有TiCN層について、該層の層厚方向に0.5μmまでの深さ領域における平均酸素含有割合(=O/(Ti+C+N+O)×100)、さらに、0.5μmを超える深さ領域における平均酸素含有割合(=O/(Ti+C+N+O)×100)を、実施例1の場合と同様に、オージェ電子分光分析によって求めた。
表23にその結果を示す。

0079

また、密着層βが、(Ti,Al)(C,N)層を含む場合については、該(Ti,Al)(C,N)層の層厚方向に[Lavg]+2分割した各区間においてAlのTiとAlの合量に占める平均含有割合Xβavgをエネルギー分散型X線分光法(EDS)によって面分析を行うことにより求めた。ここで[Lavg]はガウス記号を表す。 [x]はxを超えない最大の整数を表す数学記号であり、[x]=nである時、n≦x<n+1で定義される(ただし、nは整数)。
表22、表23にその結果を示す。

0080

また、上部層αにおける塩素含有量を、電子線マイクロアナライザ(EPMA,Electron−Probe−Micro−Analyser)を用い、試料断面を研磨し、加速電圧10kVの電子線を試料断面側から照射し、得られた特性X線の解析結果の10点平均から平均塩素含有量Clavgを算出した。
表23に、その値を示す。

0081

0082

0083

0084

0085

つぎに、前記本発明被覆工具16〜25をいずれも工具鋼製バイトの先端部に固定治具にてネジ止めした状態で、以下に示す、ステンレス鋼の湿式高速断続切削試験を実施し、いずれも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。
被削材:JIS・SUS304の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒
切削速度:300 m/min、
切り込み:1.0 mm、
送り:0.2 mm/rev、
切削時間:5 分、
(通常の切削速度は、150m/min)、
表24に、前記切削試験の結果を示す。

0086

実施例

0087

表24に示される結果から、本発明の被覆工具においては、下部層γがNaCl型立方晶構造の単相であって高硬度を有し、さらに、低温条件で成膜された上部層αと密着層βとの間には、上部層αとの密着性にすぐれた酸素含有TiCN層が形成されているため、チッピングの発生、剥離の発生が抑制される。
したがって、本発明被覆工具は、切れ刃に断続的・衝撃的負荷が作用する高速断続切削加工において、長期の使用にわたってすぐれた耐摩耗性を発揮する。

0088

前述のように、本発明の被覆工具は、切れ刃に断続的・衝撃的負荷が作用する高速断続切削加工において、長期の使用にわたってすぐれた耐摩耗性を発揮するから、切削装置高性能化並びに切削加工の省力化および省エネ化、さらに低コスト化に十分満足に対応できるものである。

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