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課題
解決手段
概要
背景
土壌汚染とは、人の健康にとって有害な物質で土壌が汚染された状態をいい、操業活動での不用意な取り扱いによって有害物質が地表から浸透することで、あるいは排煙に含まれる有害物質が地表面に降下して堆積または浸透することで発生し、盛土や埋土が行われる際に汚染土壌が持ち込まれることで発生するケースもある。この有害物質は土壌汚染対策法によって指定されており、現在、揮発性有機化合物、重金属、農薬等の計25物質が特定有害物質とされている。
また、土壌汚染対策法で指定された特定有害物質以外にも、ダイオキシン類、PAH(polycyclic aromatic hydrocarbon)など、人の健康に被害を与える物質があることが知られており、その他、発がん性が疑われている1,4−ジオキサンも近年では注目されている。1,4−ジオキサンは有機溶剤に反応剤や安定剤として添加されるものであり、界面活性剤やPET(Polyethyleneterephthalat)樹脂の製造工程で副生成されることもある。また1,4−ジオキサンは、原料や製品に不純物として混入することがあり、あるいは製造工程からの排水に非意図的に含まれていることもあることから、直接使用していないにもかかわらず1,4−ジオキサンが排出されることも珍しくない。我が国では河川や地下水における1,4−ジオキサンの検出事例の増加に伴い、平成21年11月に水質環境基準及び地下水環境基準の対象物質に追加され、平成24年5月には水質汚濁防止法の有害物質に指定されるなど、排水基準や地下浸透規制等により環境中への排出規制がなされることとなった。
1,4−ジオキサンは、水に溶け易く揮発しにくい難分解性の合成化学物質であり、揮発性有機化合物(VOC:VolatileOrganicCompounds)とはその性質が異なる。また1,4−ジオキサンには、土壌粒子への吸着性が低いという特徴もあり、浅層部に残留しやすい重金属類や農薬類とも性質が異なる。そのため地下環境中における1,4−ジオキサンの挙動(浸透性や地下水汚染の広がり方等)は、VOCや重金属類、農薬類とは異なり、したがってVOCや重金属類等に対して採用される浄化方法では1,4−ジオキサンを適切に浄化できないこともある。
1,4−ジオキサンは水に溶け易いことから帯水層(地下水のある層)に高濃度で存在することもあり、したがって浄化方法としては地下水揚水処理が効果的である。VOCや油類を対象に用いられるバイオレメディエーション(微生物を活用した土壌汚染浄化)も浄化方法として考えられるが、1,4−ジオキサンに対する分解能をもつ微生物の存在は既に確認されているものの、未だ原位置での浄化は実用化されていないのが現状である。
地下水揚水処理の他、酸化剤の地中注入による原位置浄化が行われることもある。1,4−ジオキサンは難分解性ではあるが、ラジカル反応によって分解することが確認されており、薬剤からのラジカル生成を促すことで1,4−ジオキサンを分解することができる。特許文献1でも、重亜硫酸塩などの触媒とともに過硫酸塩を添加することによって、土壌と地下水を浄化する技術を提案している。添加する触媒と過硫酸塩を適切なモル比とすることで過硫酸塩のラジカル反応を促し、このラジカル反応により1,4−ジオキサンを分解するわけである。
概要
本願発明の課題は、従来が抱える問題を解決することであり、すなわち揚水が難しい場所でも採用でき、そのうえ触媒の添加を必要としない、汚染土壌と地下水の浄化方法を提供することである。本願発明の「汚染土壌と地下水の浄化方法」は、1,4−ジオキサンで汚染された土壌と地下水を浄化する浄化方法であり、土壌加温工程と注入工程を備え他方法である。土壌加温工程では、土壌内に構築された3以上の電極井戸に印加し、土壌に電流を流すことによって土壌と地下水を加温する。また注入工程では、常温水に溶解した過硫酸塩を、加温された状態の土壌又は地下水に注入し、この過硫酸塩が加温されることで硫酸ラジカルを発生させ、この硫酸ラジカルによって1,4−ジオキサンを分解する。
目的
本願発明の課題は、従来が抱える問題を解決することであり、すなわち揚水が難しい場所でも採用でき、そのうえ触媒の添加を必要としない、汚染土壌と地下水の浄化方法を提供する
効果
実績
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請求項1
1,4−ジオキサンで汚染された土壌と地下水を浄化する浄化方法において、土壌内に構築された3以上の電極井戸に印加し、土壌に電流を流すことによって、土壌と地下水を加温する土壌加温工程と、常温水に溶解した過硫酸塩を、加温された状態の土壌又は地下水に注入し、該過硫酸塩が加温されることで硫酸ラジカルを発生させる注入工程と、を備え、前記硫酸ラジカルによって1,4−ジオキサンを分解する、ことを特徴とする汚染土壌と地下水の浄化方法。
請求項2
前記土壌加温工程では、土壌又は地下水を40〜50℃に加温する、ことを特徴とする請求項1記載の汚染土壌と地下水の浄化方法。
請求項3
前記注入工程では、常温水に溶解した過硫酸塩を帯水層に向けて注入する、ことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の汚染土壌と地下水の浄化方法。
技術分野
背景技術
0002
土壌汚染とは、人の健康にとって有害な物質で土壌が汚染された状態をいい、操業活動での不用意な取り扱いによって有害物質が地表から浸透することで、あるいは排煙に含まれる有害物質が地表面に降下して堆積または浸透することで発生し、盛土や埋土が行われる際に汚染土壌が持ち込まれることで発生するケースもある。この有害物質は土壌汚染対策法によって指定されており、現在、揮発性有機化合物、重金属、農薬等の計25物質が特定有害物質とされている。
0003
また、土壌汚染対策法で指定された特定有害物質以外にも、ダイオキシン類、PAH(polycyclic aromatic hydrocarbon)など、人の健康に被害を与える物質があることが知られており、その他、発がん性が疑われている1,4−ジオキサンも近年では注目されている。1,4−ジオキサンは有機溶剤に反応剤や安定剤として添加されるものであり、界面活性剤やPET(Polyethyleneterephthalat)樹脂の製造工程で副生成されることもある。また1,4−ジオキサンは、原料や製品に不純物として混入することがあり、あるいは製造工程からの排水に非意図的に含まれていることもあることから、直接使用していないにもかかわらず1,4−ジオキサンが排出されることも珍しくない。我が国では河川や地下水における1,4−ジオキサンの検出事例の増加に伴い、平成21年11月に水質環境基準及び地下水環境基準の対象物質に追加され、平成24年5月には水質汚濁防止法の有害物質に指定されるなど、排水基準や地下浸透規制等により環境中への排出規制がなされることとなった。
0004
1,4−ジオキサンは、水に溶け易く揮発しにくい難分解性の合成化学物質であり、揮発性有機化合物(VOC:VolatileOrganicCompounds)とはその性質が異なる。また1,4−ジオキサンには、土壌粒子への吸着性が低いという特徴もあり、浅層部に残留しやすい重金属類や農薬類とも性質が異なる。そのため地下環境中における1,4−ジオキサンの挙動(浸透性や地下水汚染の広がり方等)は、VOCや重金属類、農薬類とは異なり、したがってVOCや重金属類等に対して採用される浄化方法では1,4−ジオキサンを適切に浄化できないこともある。
0005
1,4−ジオキサンは水に溶け易いことから帯水層(地下水のある層)に高濃度で存在することもあり、したがって浄化方法としては地下水揚水処理が効果的である。VOCや油類を対象に用いられるバイオレメディエーション(微生物を活用した土壌汚染浄化)も浄化方法として考えられるが、1,4−ジオキサンに対する分解能をもつ微生物の存在は既に確認されているものの、未だ原位置での浄化は実用化されていないのが現状である。
0006
地下水揚水処理の他、酸化剤の地中注入による原位置浄化が行われることもある。1,4−ジオキサンは難分解性ではあるが、ラジカル反応によって分解することが確認されており、薬剤からのラジカル生成を促すことで1,4−ジオキサンを分解することができる。特許文献1でも、重亜硫酸塩などの触媒とともに過硫酸塩を添加することによって、土壌と地下水を浄化する技術を提案している。添加する触媒と過硫酸塩を適切なモル比とすることで過硫酸塩のラジカル反応を促し、このラジカル反応により1,4−ジオキサンを分解するわけである。
先行技術
0007
特開2011−173089号公報
発明が解決しようとする課題
0008
1,4−ジオキサンの浄化方法としての地下水揚水処理は、直接的な浄化対策としてだけでなく拡散防止の意味でも効果的であるが、適切な井戸設計(数・配置・揚水量等)を行わなければ期待した浄化効果が得られないという難しさがある。また、地下水濃度が排水基準を大きく上回る場合は高度な水処理設備が必要であり、さらに、流動性の小さい地下水(宙水や難透水層中の間隙水)等、十分量の揚水が困難な場合には採用することができない。
0009
一方の酸化剤の地中注入による原位置浄化は、流動性の小さい地下水に対しても適用できるが、従来の手法では鉄塩などの触媒の添加が必要であり、しかも浄化効果を得るためには酸化剤に対して適切な比率で鉄触媒を添加しなければならず、相当の手間とコストがかかっていた。更に、添加した鉄塩の析出により、井戸閉塞等の弊害もでていた。
0010
本願発明の課題は、従来が抱える問題を解決することであり、すなわち揚水が難しい場所でも採用でき、そのうえ触媒の添加を必要としない、汚染土壌と地下水の浄化方法を提供することである。
課題を解決するための手段
0011
本願発明は、加温した土壌と地下水に過硫酸塩をすることで、熱活性状態で硫酸ラジカルを発生させ、これにより1,4−ジオキサンを分解する、という点に着目したものであり、従来にはなかった発想に基づいてなされた発明である。
0012
本願発明の「汚染土壌と地下水の浄化方法」は、1,4−ジオキサンで汚染された土壌と地下水を浄化する浄化方法であり、土壌加温工程と注入工程を備えた方法である。土壌加温工程では、土壌内に構築された3以上の電極井戸に印加し(電圧をかけ)、土壌に電流を流すことでジュール熱によって土壌と地下水を加温する。また注入工程では、常温水に溶解した過硫酸塩を、加温された状態の土壌又は地下水に注入し、この過硫酸塩が加温されることで硫酸ラジカルを発生させる。そして、この硫酸ラジカルによって1,4−ジオキサンが分解される。
0013
本願発明の「汚染土壌と地下水の浄化方法」は、土壌加温工程において土壌又は地下水を40〜50℃に加温する方法とすることもできる。
0014
本願発明の「汚染土壌と地下水の浄化方法」は、注入工程において薬剤(常温水に溶解した過硫酸塩)を帯水層に向けて注入する方法とすることもできる。
発明の効果
0015
本願発明の「汚染土壌と地下水の浄化方法」には、次のような効果がある。
(1)揚水を伴わないことから揚水処理が難しい場所でも幅広く採用でき、鉄触媒の添加を必要としないことから従来の酸化剤注入方法よりも手間とコストを軽減することができる。
(2)電気発熱法(ジュール熱により土壌自体を発熱させる方法)を用いることから、継続して土壌等を加温することができ、常温の薬剤を注入しても土壌等の中高温(例えば40〜50℃)状態を維持することができる。
(3)常温で溶解できる、すなわち薬剤自体を暖める必要がないことから、過硫酸塩のロスを低減することができる。
(4)目標とする土壌等の温度は中高温(例えば40〜50℃)程度でよいため、他の加温方法(例えば、スチームやヒーター)と比べエネルギーの消費量を抑えることができる。
(5)過硫酸塩注入後も加温が可能である(特に過硫酸塩がイオン化するため電気も流れやすくなる)ことから、他の酸化剤よりも効果の持続期間が長い過硫酸の特徴を生かすことができる。
(6)加温することによって反応性も高まることから、常温で実施するより薬剤量を削減することができる。
図面の簡単な説明
0016
本願発明の「汚染土壌と地下水の浄化方法」の主な工程の流れを示すフロー図。
複数の電極井戸を示す断面図。
三角形を形成するように平面配置された電極井戸を示す平面図。
帯水槽に向けて薬剤が注入される状況を示す断面図。
実施例
0017
本願発明の「汚染土壌と地下水の浄化方法」の実施形態の一例を、図1に示すフロー図を参照しながら説明する。本願発明は、あらかじめ土壌と地下水を加温し、加温状態の土壌や地下水に過硫酸塩を注入することを一つの特徴としている。そこで大きく2段階に分けて、すなわち土壌と地下水を加温する段階と、過硫酸塩を注入する段階とに分けて説明する。
0018
1.電気発熱法による加温
本願発明の場合、土壌と地下水を加温する手法としては、加温にかかる設備規模を軽減できる、容易に温度調整できる、土壌自体を発熱するため熱容量が高く温度が低下しにくい、といった理由から電気発熱法が適している。以下、電気発熱法による加温について説明する。
0019
浄化対象となる土壌内に3以上の電極井戸を設置する(Step10)。図2は、複数(この図では3つ)の電極井戸10を示す断面図である。この電極井戸10は鋼製のケーシングで形成されており、したがって図2に示すように各電極井戸10のケーシングを電源装置20に接続することで、電極井戸10間に電流が流れ、途中の土壌にジュール熱を発生させることができる。そのため各電極井戸10は、対象となる土壌を取り囲むように配置するとよく、例えば図3に示すように三角形を形成するように配置することができる。なお図3に示す4つの三角形はそれぞれ一辺が約3.5mの正三角形となっているが、もちろんこれに限らず種々の形状となるよう電極井戸10を配置することができる。
0020
電極井戸10が設置できると、上記したとおり電源装置20を利用して電極井戸10に印加する(Step20)。印加された電極井戸10間には電流が流れ、電極井戸10間にある土壌にジュール熱が発生し、これに伴って土壌や地下水の温度が上昇していく。このとき、土壌や地下水があらかじめ設定した温度となるよう、印加する電圧の大きさを調整するとよい。
0021
ところで本願発明の発明者は、鉄塩等の触媒がなくても過硫酸塩から硫酸ラジカルを発生させる手法を模索した結果、加熱することで硫酸ラジカルが発生することを見出した。具体的には、土壌や地下水を適当な温度に加温した条件で、溶解した過硫酸塩を注入すると、過硫酸塩が熱活性して硫酸ラジカルが発生することを確認している。つまり、鉄触媒に代えて加熱することで、硫酸ラジカルの発生を促進するわけである。さらに本願発明の発明者は、土壌や地下水の温度が中高温となった状況で硫酸ラジカルの発生が促進され、特に40〜50℃となった土壌や地下水に過硫酸塩を注入すると硫酸ラジカルが発生しやすいことを確認している。
0022
つまり土壌や地下水の温度を上げる目的は、硫酸ラジカルが発生し得る環境をつくることである。そのため、土壌や地下水の温度が中高温(特に、40〜50℃)になるまで上昇するように、電圧を調整したうえで各電極井戸10に印加するとよい。なお、加温された土壌や地下水の現実の温度は、予測された(あるいは解析された)温度とは異なることも十分考えられるため、実際の温度を観測しながら(Step30)電極井戸10に印加していくこともできる。この場合、図3に示すように各電極井戸10の間に温度観測井戸30を構築しておき、この温度観測井戸30を利用して土壌や地下水の温度を観測するとよい。
0023
2.薬剤の注入
電極井戸10に印加する一方で、土壌や地下水に注入する薬剤を調整する(Step40)。薬剤とは、常温(15〜25℃)の水に過硫酸塩を溶解したものであり、ここで用いる過硫酸塩としては過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどが例示できる。なお、過硫酸塩を溶解させる水を常温とする理由は、過硫酸塩は常温では熱活性しないことから常温水に溶解することで土壌や地下水に到達する前に硫酸ラジカルが発生することを防止できるからであり、換言すると常温水に溶解することで過硫酸塩の状態のまま土壌や地下水に送ることができるからである。
0024
土壌や地下水が目的の温度(中高温)になったことを確認したうえで(Step30)薬剤の調整を行い(Step40)、土壌や地下水に薬剤を注入していく(Step50)。このとき、図3に示すように、対象となる土壌内に構築した注入井戸40を利用することができる。具体的には、ポンプ等の圧送手段を用いて貯留槽から薬剤を圧送し、注入井戸40から土壌や地下水に対して薬剤を注入していく。あるいは注入井戸40に代えて、電極井戸10を利用して薬剤を注入してもよい。
0025
1,4−ジオキサンは水に溶け易い性質があることから、地下水に多く存在することが考えられる。したがって薬剤の注入は、地下水を含む土層を選んで行うとよい。図4は、帯水層に向けて薬剤が注入される状況を示す断面図である。帯水層は透水性が高いことから地下水を多く含んでおり、すなわち多くの1,4−ジオキサンが存在していることから、この帯水層を選んで薬剤を注入すると効果的となる。もちろん、土層を選ぶことなく全体的に薬剤を注入してもよい。
0026
土壌や地下水は中高温が保たれていることから、土壌や地下水に到達した薬剤は徐々に温度を上げて中高温となり、その結果、過硫酸塩が熱活性して硫酸ラジカルが発生する(Step60)。そして、この硫酸ラジカルによって1,4−ジオキサンが分解していく(Step70)。あらかじめ設定した時間だけ薬剤の注入を続けた後、薬剤注入を停止し、電極井戸10への引加も停止する(Step80)。
0027
本願発明の「汚染土壌と地下水の浄化方法」は、1,4−ジオキサンが使用され、排出され、あるいは副生成される操業地(又は操業跡地)で利用することができる。本願発明が、我が国の環境改善にとって極めて有益であることを考えれば、産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献が期待できる発明といえる。
0028
10電極井戸
20電源装置
30 温度観測井戸
40 注入井戸