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技術 アトピー性皮膚炎の皮膚局所の重症度及び治療効果の指標

出願人 株式会社資生堂
発明者 田中千華水本智恵子小野寺智子相場節也菊地克子山崎研志小澤麻紀
出願日 2016年4月28日 (5年0ヶ月経過) 出願番号 2016-092020
公開日 2017年11月2日 (3年6ヶ月経過) 公開番号 2017-198632
状態 特許登録済
技術分野 生物学的材料の調査,分析 酵素、微生物を含む測定、試験
主要キーワード 適格条件 階級分け 主観的要素 表面濃縮 最高点数 測定板 粘着テープ片 重症者
関連する未来課題
重要な関連分野

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図面 (12)

課題

アトピー性皮膚炎の完治や症度の診断客観的かつ簡便な指標の提供。

解決手段

本発明は、アトピー性皮膚炎の治療を受療中の対象者において当該治療方針を決定する診断補助方法であって、当該対象者の皮膚角層細胞中のSCCA-1の発現値を測定し、i)当該SCCA-1の発現値がアトピー性皮膚炎を有しない者の値に比べ、統計学的に有意に高くない場合、当該治療により当該疾患は治療を継続する必要がないと決定し、治療を継続する必要があると決定した場合、さらに、ii)当該SCCA-1の発現値を指標として当該対象者のアトピー性皮膚炎の症度を階級分けし、各階級に合ったアトピー性皮膚炎治療方法を当該対象者に適用することを決定する、アトピー性皮膚炎の治療方針を決定する、診断補助方法を提供する。

概要

背景

アトピー性皮膚炎は、皮膚疾患の中で最も多い疾患の一つであり、主に乳幼児期に好発するが、近年では思春期以後の患者数が増加している。アトピー性皮膚炎は、増悪寛解を繰り返す、そう痒のある湿疹を主病原とする疾患であり、その発症機序はなお不明であるが、主に遺伝的素因のもとにいろいろな環境要因が加わって発症するものと考えられている。遺伝的素因とは、1)気管支喘息アレルギー性鼻炎結膜炎、アトピー性皮膚炎などの家族歴既往歴があるか、あるいは2)IgE抗体を産生しやすい素因を示す(日本皮膚科学会 アトピー性皮膚炎診療ガイドライン非特許文献1))。アトピー性皮膚炎は同一患者内に異なる症度の皮疹が混在し、その経過中に様々な要因によって寛解・悪化の変動あるいは反復がみられることも、特徴のひとつである。例えば、季節等による症状の変動や生活環境の変化による変動、あるいは何らかの要因による重症難治化などがみられる。治療状況も経過に大きく影響する。

アトピー性皮膚炎の治療においてはその症状をコントロールし増悪を防ぐことが大変重要である。アトピー性皮膚炎は慢性の疾患であり、真の意味での完治に至ることは難しい。そのため、治療においては外観及び患者の意識として症状のない寛解期を維持し、増悪させないことを目指していく。近年アトピー性皮膚炎と食物アレルギー等他のアレルギーとの関連が示唆されており、特に乳幼児期については早期に適した治療を行い寛解期に近づける必要がある。乳幼児成人関わらず治療が長期にわたることが多い疾患であるため、患者への十分な説明や治療へのコンプライアンスアドアランスを特に考慮すべき疾患である。

現在、アトピー性皮膚炎の症度の判断は専ら肉眼による所見を頼りとする。所見項目には、乾燥症状、紅斑鱗屑丘疹、掻破痕、脹脹、浮腫疲の付着、小水疱びらん、痒診結節など様々が存在するが、いずれも主観的要素入り込むため、医師の技量により判断に差が生じる可能性を含んでおり、アトピー性皮膚炎の症度の判断は客観性に乏しいという問題がある。医師などは所見による症度判断を頼りに、患者の治療指針を決定する。

アトピー性皮膚炎の重症度分類に世界的に頻用されるのは、European Task Force on Atopic Dermatisis によるSeverity Scoring of Atopic Dermatitis (SCORAD)やEczema Area and Severity Index (EASI)である(非特許文献1)。両者とも客観性の高い点数により重症度を分類するものであり、最高点数はSCORADについては103点、EASIについては72点である。その中でも特によく利用されるSCORADの場合、皮膚症状スコアは皮疹の面積体表面積に占める割合)および紅斑、浸潤/丘疹、滲出液/痂皮、掻破痕、苔癬化、乾燥の各皮疹につき、その程度(0=なし、1=軽度、2=中程度、3=重度)の合計を求め、被験者による自覚症状目視アナログスケール(Visual analogue scale(VAS))によって評価し、SCORAD値を算出するといったステップを要する。SCORAD値の算出には熟練した医師などによる専門的な技量を要し、また手間暇もかかるといった欠点がある。被験者が乳幼児の場合、評価に時間を要するのは望ましくない。したがって、より簡便でかつ客観的に重症度を分類できる手法が求められている。SCORADよりも専門性及び煩雑さが少ない症度判定方法が、日本アレルギー学会より提唱されている(非特許文献2)。体表面積に占める皮疹の割合で症度判定するものであるが、前述のとおりアトピー性皮膚炎は異なる症度の皮疹が同一患者内に存在する複雑な疾患であるため、十分ではない。

アトピー性皮膚炎の治療は、皮疹の症度が軽微の場合には、乾燥及びバリアー機能の低下を補完し、炎症の再燃を予防する目的で、保湿剤保護剤スキンケア対処できるが、症度が進むと保湿剤などの使用のみでは十分な効果が得られない。アトピー性皮膚炎の炎症の抑制にはステロイド外用薬タクロリムス軟膏(カルシニューリン阻害外用薬)が使用される。

多量のステロイド外用日常診療で継続して行った場合などの極端な例において、副腎機能抑制などの副作用が生じた例の報告がある。ステロイド外用薬を適切に使用すれば、日常診療における通常の使用量では、副腎不全糖尿病満月様顔貌などの内服薬でみられる全身的副作用は起こり得ない。局所的副作用のうち、ステロイドざ瘡、ステロイド潮紅皮膚萎縮多毛、細菌、真菌ウィルス皮膚感染症などは時に生じ得るが、治療の中止あるいは適切な処置により回復する。しかしながら、ステロイド内服薬との混同や、アトピー性皮膚炎そのものの悪化とステロイド外用薬の副作用との混同が多いことなどから、ステロイド外用薬に対する誤解も多く、患者側にステロイド外用薬の恐怖忌避が生じ、コンプライアンス低下が往々にしてみられる。このような誤解のため、必要とされるステロイド外用薬の塗布がされず、治療効果が得られない場合がある。よって、患者に皮疹の重症度を提示し、それに対応したステロイドの外用の意味を十分に説明して、患者に納得させることができれば、選択した外用剤が適切に使用され、十分な治療効果は達成され得る。そのためにも、客観的な皮膚局所の指標をもって皮疹の重症度を患者に提示し、治療の納得性を高め、十分な治療効果を生み出すことは重要である。

臨床効果の強い順に分類されるステロイド外用剤の強度、剤形は、個々の皮疹の重症度と、塗布部位年齢などを考慮して選択する必要がある。ステロイド外用薬の効果の強さと副作用の起こりやすさは一般には平衡することから、必要以上に強いステロイド外用薬を選択することなく、個々の皮疹に見合ったランクの薬剤を適切に選択することが重要である。そのためにも、アトピー性皮膚炎の局所症度の客観的指標の提示が望まれる。

また、上述のとおり、皮疹の症度が軽微の場合にはステロイドやタクロリムスを含まない保湿剤や保護剤などの使用によるスキンケアで対処できるが、軽微な皮膚症状に対しても外用療法を継続する必要があり、これを怠ると炎症が容易に再燃し、より強いステロイド外用薬等の使用に頼らざるを得なくなる場合もある。しかしながら、上述のとおりアトピー性皮膚炎の症度の判断は肉眼による所見を頼りとするため実際には投薬が不要にも関わらず、不要な治療が続けられてしまう場合や、必要な治療を中断したことにより、症状が再燃してしまうことも多々ある。最も多いのは、医師の判断を仰ぐことなく、患者が自らの判断でアトピー性皮膚炎が完治したと思いこみ、治療を中断したり、中止してしまうことにある。特に、アトピー性皮膚炎には外観上の所見では疾患がないと判断されるいわゆる「寛解」状態がある。「寛解」は、患者にとっては皮疹が無くなり、そう痒などの自覚症状もない状態であり、医師は「寛解」を維持することが目指すところである。しかし、湿疹が例えば抗炎症外用薬により一旦改善して「寛解」に至ったとしても、組織像では低いレベルでの血管周囲リンパ球等による炎症細胞浸潤内皮細胞腫脹基底膜肥厚を伴う軽度病変の存在がある場合がある(Fiset PO, Leung DY. JACI; 118:287-290, 2006)(非特許文献3)。寛解における病態把握は、外観による所見のみでは極めて困難であるため、従来は寛解の状態で治療を保湿剤などを使用したスキンケアに切り替え、目で見える炎症が再燃したら、治療薬をステロイドやタクロリムスに切り替えるといったいわゆる「リアクティブ療法」が採用されていた。しかしながら、寛解における病態把握が可能になれば、症状が激しく再燃する前に弱い抗炎症剤とスキンケアによる治療を行う、といったプロアクティブ療法(予防的な間欠塗布法)を採用することができる。そのためにも、肉眼では判断しにくい病態の把握を可能にする客観的な局所指標が強く望まれる。

このように、アトピー性皮膚炎は症状のコントロールが重要であるにもかかわらず、その病態の把握が難しく、しかも使用する治療薬の持つ副作用、さらにはその副作用についての患者の誤解などから、患者への十分な説明や治療へのコンプライアンス、アドヒアランスの考慮は必須であり、そのためにも症度の客観的指標の提示は、患者側及び医師側の双方から切望されている。

アトピー性皮膚炎の症度の指標となる物質として、血液の末梢血好酸球数、血清総IgE値LDH(乳酸デヒドロゲナーゼ)値、血清中のThymus and Activation-Regulated Chemokine(TARC)がある(Sugawara et al., Allergy (2002) 57:180-181:非特許文献4)。血清中のTARCの量はアトピー性皮膚炎の症度と相関し、全身性疾患状態を示す指標とはなり得る。しかしながら、アトピー性皮膚炎は全身にわたり発症する場合もあるが、局所的に発症することが多く、また発症箇所のそれぞれにおいて症度が異なることも多々ある。したがって、発症した各部位の症度に合わせた治療方針を決定する必要があり、アトピー性皮膚炎の診断には、全身的な指標よりは、局所的な診断を可能にする指標が必要である。また、血清中のTARCの測定のための試料採血侵襲性を要し、簡便さに欠ける。特に、アトピー発症率の約89%を占める乳幼児においては、痛みを伴う採血の患者負担、医療現場の技術的難しさもあり、血液を用いた客観的な重症度診断を実施することは困難である。さらに、乳幼児期においてアトピー性皮膚炎は短期間で悪化するため、鋭敏に病勢を反映する指標が必要であるが、既存指標は病勢を鋭敏に反映しない、あるいは乳幼児期に高値を示すなど、課題がある。

一方、角層中のTARC(以下、「角層TARC」)は局所の症度を客観的に判断する指標としては不十分である。なぜなら、健常人の角層TARCの測定値と、アトピー性疾患を有する患者の無疹部由来の角層TARCの値とで有意な差が認められないためである(Morita et al., Allergy (2010)65: 1166-1172:非特許文献5のFig.2)。かつ、角層TARCは、症度が中程度の患者と重篤な患者とで有意差が認められないため(同非特許文献4のFig.3)、症度との相関性も低い。したがって、TARCをアトピー性疾患の症度の指標とする場合、血清中のTARCの測定しか手立てはなく、血清試料採取という観点で簡便さに欠け、しかも局所的な診断には使用できない点で有効な指標とは言えない。上述のとおりアトピー性皮膚炎の患者には乳幼児が多く、採血などといった侵襲的な試料採取は患者、医師双方にとって困難であり、回避できる方が望ましい。

扁平上皮細胞癌関連抗原(SCCA)は扁平上皮癌細胞から抽出される抗原であり、子宮頚部食道、皮膚の扁平上皮細胞癌で高い血中濃度を示し、扁平上皮細胞癌の診断によく利用されている(H.Kato et al.Cancer 40:1621−1628(1977)非特許文献6;N.Mino et al.Cancer 62:730−734(1988):非特許文献7)。特に、SCCAの血中レベルは扁平上皮細胞癌の進行段階悪性度腫瘍の大きさなどに良好に相関するため、癌の早期発見のみならず、癌治療効果の評価や再発のおそれの診断などにおいて特に有効な癌マーカーである。

SCCAはまた、乾癬表皮上層において発現亢進が認められることでも知られる(Takeda A.et al., J.Invest.Dermatol.(2002)118(1),147−154;非特許文献8)。乾癬は皮膚病の一つであり、表皮細胞の増殖・分化異常と炎症細胞浸潤を特徴とする慢性、再発性炎症性不全角化症である乾癬がある。乾癬は遺伝的素因に種々の環境因子が加わって発症すると考えられる(Hopso‐Havu et al.British Journal of Dermatology(1983)109,77−85:非特許文献9)。

Mitsuishi et al., Clin. Exp., Allergy (2005) 35;1327-1333(非特許文献10)には、血清中のSCCAがアトピー性皮膚炎の症度と相関することが開示されている。しかしながら、血清中のタンパク質と、角層細胞中の同タンパク質が相関関係にあるとは限らない。表皮角化細胞は、基底層で増殖し、上層に移行して分化し、角層となり、最後に皮膚から剥がれ落ちるが、この角層は、皮膚の正常な角化が行われることで角質細胞において核が消滅する「脱核」という現象等特徴的な状態を経て、生成される。角化細胞は分化して核が消失する過程において、様々な内因性プロテアーゼ漏出により、内因性タンパク質の一部は分解して消失又はその量が著しく減少する。そのため、角層中に存在するタンパク質のさらされる環境は血流中のものとは全く異なり、その量も血流中とは全く異なる挙動を示すことがある。血清中のTARCがアトピー性皮膚炎の症度の指標となるのに対し、角層TARCではその指標とならない理由もここにある可能性がある。よって、血清中のSCCAがアトピー性皮膚炎の症度と相関するという知見があったとしても、その知見が角層中のSCCAがアトピー性皮膚炎の症度と相関することを示唆するものではない。特に、アトピー性皮膚炎は症度の異なる複数の皮疹が混在する疾患であり、医師の所見が複数の項目から成立していることからもそれは明らかである。

国際公開第2006/098523号(特許文献1)には、皮膚角層細胞のSCCA(以下、角層SCCA」と称する場合がある)がアトピー性皮膚炎を原因とする不全角化予知のための指標となることが開示されている。同公報は、角層SCCAを指標とし、未だアトピー性疾患を患っていない被験者が将来的に同疾患を患うリスクを予知できるという知見を示す。よって、角層SCCAがアトピー性皮膚炎の発症に関与していることは明らかである。しかしながら、角層SCCAがアトピー性皮膚炎の発症の原因因子であるとしても、それが必ずしも疾患発症後の症度の指標となるとは限らない。たとえ角層SCCAがアトピー性皮膚炎の原因因子であったとしても、発症後の症状の進行に別の因子に委ねられ、症状の進行には関与しなくなる可能性もあるため、疾患の原因因子が疾患の予後マーカーに使用されるとは限らないからである。現に、疾患の診断マーカーとして利用される物質が、疾患の症度の指標にはならない例は多々ある。たとえば、腫瘍マーカーであるαフェトプロテインAFP)は診断マーカーであるが、その値は腫瘍の大小とは一致せず、また、数値の上昇の度合いにより予後判断はできない。

冒頭で述べたとおり、アトピー性皮膚炎は増悪、寛解を繰り返す疾患であり、完治が容易でなく、治療過程においてその症状のコントロールが重要であるため、その治療方針の採択には、非侵襲性であり、局所的な症度の指標となり、それ故患者への治療方針の説明において客観的な指標となり得るマーカーが医師、患者双方から望まれているが、存在しない。

概要

アトピー性皮膚炎の完治や症度の診断の客観的かつ簡便な指標の提供。本発明は、アトピー性皮膚炎の治療を受療中の対象者において当該治療方針を決定する診断補助方法であって、当該対象者の皮膚角層細胞中のSCCA-1の発現値を測定し、i)当該SCCA-1の発現値がアトピー性皮膚炎を有しない者の値に比べ、統計学的に有意に高くない場合、当該治療により当該疾患は治療を継続する必要がないと決定し、治療を継続する必要があると決定した場合、さらに、ii)当該SCCA-1の発現値を指標として当該対象者のアトピー性皮膚炎の症度を階級分けし、各階級に合ったアトピー性皮膚炎治療方法を当該対象者に適用することを決定する、アトピー性皮膚炎の治療方針を決定する、診断補助方法を提供する。

目的

本発明は、皮膚角層細胞中の扁平上皮細胞癌関連抗原(Squamous Cell Carcinoma Antigen‐1、以下「SCCA-1」と称す)を指標とした、アトピー性皮膚炎の局所病態を非侵襲的に評価する方法を提供する

効果

実績

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請求項1

アトピー性皮膚炎治療を受療中の対象者において当該治療方針を決定するための診断補助方法であって、当該対象者の皮膚角層細胞中のSCCA-1の発現値を測定し、i)当該SCCA-1の発現値がアトピー性皮膚炎を有しない者の値に比べ、統計学的に有意に高くない場合、当該治療を中断し当該疾患は治療を継続する必要はないと決定する、診断補助方法。

請求項2

アトピー性皮膚炎の治療を受療中の対象者において、当該治療方針を決定する診断補助方法であって、当該対象者の皮膚角層細胞中のSCCA-1の発現値を測定し、ii)当該SCCA-1の発現値を指標として当該対象者のアトピー性皮膚炎の症度を階級分けし、各階級に合ったアトピー性皮膚炎治療方法を当該対象者に適用することを決定する、アトピー性皮膚炎の治療方針を決定する診断補助方法。

請求項3

アトピー性皮膚炎の治療の要否判断が必要な対象者あるいは治療を受療中の対象者において、当該治療の要否判断あるいは当該治療を必要と判断した場合の治療方針を決定する診断補助方法であって、当該対象者の皮膚角層細胞中のSCCA-1の発現値を測定し、i)当該SCCA-1の発現値がアトピー性皮膚炎を有しない者の値に比べ、統計学的に有意に高くない場合、当該治療は不要と判断するあるいは受療中の場合は当該治療により当該疾患は治療を継続する必要がないと決定し、統計学的に有意に高い場合、治療を開始する判断あるいは当該治療を継続する必要があると決定した場合、さらに、ii)当該SCCA-1の発現値を指標として当該対象者のアトピー性皮膚炎の症度を階級分けし、各階級に合ったアトピー性皮膚炎治療方法を当該対象者に適用することを決定する、アトピー性皮膚炎の治療の要否判断あるいは治療方針を決定する診断補助方法。

請求項4

前記治療方針の決定を長期にわたり繰り返し行う、請求項1〜3のいずれか1項に記載の診断補助方法。

請求項5

アトピー性皮膚炎の症度の項目が、紅斑(erythema)、浸潤(oozing)、丘疹(papule)、掻破痕(excoriation)、苔癬化(lichenification)、乾燥・落屑(xerosis)及びそう痒感(itch)から成る群から選ばれる1または複数である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の診断補助方法。

請求項6

前記皮膚細胞テープストリッピングにより非侵襲的採取される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の診断補助方法。

請求項7

前記SCCA-1の発現の測定をSCCA-1に特異的な抗体を使用する免疫学的検出方法により実施する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の診断補助方法。

請求項8

請求項9

前記皮膚細胞の採取及び前記SCCA-1の発現の測定が在宅あるいは検診で行われる、請求項6〜8のいずれか1項に記載の診断補助方法。

請求項10

前記テープストリッピングによる採取を、対象者当たり3箇所以上の皮膚部位にて行う、請求項1〜9のいずれか1項に記載の診断補助方法。

技術分野

0001

本発明は、皮膚角層細胞中扁平上皮細胞癌関連抗原(Squamous Cell Carcinoma Antigen‐1、以下「SCCA-1」と称す)を指標とした、アトピー性皮膚炎局所病態非侵襲的に評価する方法を提供する。

背景技術

0002

アトピー性皮膚炎は、皮膚疾患の中で最も多い疾患の一つであり、主に乳幼児期に好発するが、近年では思春期以後の患者数が増加している。アトピー性皮膚炎は、増悪寛解を繰り返す、そう痒のある湿疹を主病原とする疾患であり、その発症機序はなお不明であるが、主に遺伝的素因のもとにいろいろな環境要因が加わって発症するものと考えられている。遺伝的素因とは、1)気管支喘息アレルギー性鼻炎結膜炎、アトピー性皮膚炎などの家族歴既往歴があるか、あるいは2)IgE抗体を産生しやすい素因を示す(日本皮膚科学会 アトピー性皮膚炎診療ガイドライン非特許文献1))。アトピー性皮膚炎は同一患者内に異なる症度の皮疹が混在し、その経過中に様々な要因によって寛解・悪化の変動あるいは反復がみられることも、特徴のひとつである。例えば、季節等による症状の変動や生活環境の変化による変動、あるいは何らかの要因による重症難治化などがみられる。治療状況も経過に大きく影響する。

0003

アトピー性皮膚炎の治療においてはその症状をコントロールし増悪を防ぐことが大変重要である。アトピー性皮膚炎は慢性の疾患であり、真の意味での完治に至ることは難しい。そのため、治療においては外観及び患者の意識として症状のない寛解期を維持し、増悪させないことを目指していく。近年アトピー性皮膚炎と食物アレルギー等他のアレルギーとの関連が示唆されており、特に乳幼児期については早期に適した治療を行い寛解期に近づける必要がある。乳幼児成人関わらず治療が長期にわたることが多い疾患であるため、患者への十分な説明や治療へのコンプライアンスアドアランスを特に考慮すべき疾患である。

0004

現在、アトピー性皮膚炎の症度の判断は専ら肉眼による所見を頼りとする。所見項目には、乾燥症状、紅斑鱗屑丘疹、掻破痕、脹脹、浮腫疲の付着、小水疱びらん、痒診結節など様々が存在するが、いずれも主観的要素入り込むため、医師の技量により判断に差が生じる可能性を含んでおり、アトピー性皮膚炎の症度の判断は客観性に乏しいという問題がある。医師などは所見による症度判断を頼りに、患者の治療指針を決定する。

0005

アトピー性皮膚炎の重症度分類に世界的に頻用されるのは、European Task Force on Atopic Dermatisis によるSeverity Scoring of Atopic Dermatitis (SCORAD)やEczema Area and Severity Index (EASI)である(非特許文献1)。両者とも客観性の高い点数により重症度を分類するものであり、最高点数はSCORADについては103点、EASIについては72点である。その中でも特によく利用されるSCORADの場合、皮膚症状スコアは皮疹の面積体表面積に占める割合)および紅斑、浸潤/丘疹、滲出液/痂皮、掻破痕、苔癬化、乾燥の各皮疹につき、その程度(0=なし、1=軽度、2=中程度、3=重度)の合計を求め、被験者による自覚症状目視アナログスケール(Visual analogue scale(VAS))によって評価し、SCORAD値を算出するといったステップを要する。SCORAD値の算出には熟練した医師などによる専門的な技量を要し、また手間暇もかかるといった欠点がある。被験者が乳幼児の場合、評価に時間を要するのは望ましくない。したがって、より簡便でかつ客観的に重症度を分類できる手法が求められている。SCORADよりも専門性及び煩雑さが少ない症度判定方法が、日本アレルギー学会より提唱されている(非特許文献2)。体表面積に占める皮疹の割合で症度判定するものであるが、前述のとおりアトピー性皮膚炎は異なる症度の皮疹が同一患者内に存在する複雑な疾患であるため、十分ではない。

0006

アトピー性皮膚炎の治療は、皮疹の症度が軽微の場合には、乾燥及びバリアー機能の低下を補完し、炎症の再燃を予防する目的で、保湿剤保護剤スキンケア対処できるが、症度が進むと保湿剤などの使用のみでは十分な効果が得られない。アトピー性皮膚炎の炎症の抑制にはステロイド外用薬タクロリムス軟膏(カルシニューリン阻害外用薬)が使用される。

0007

多量のステロイド外用日常診療で継続して行った場合などの極端な例において、副腎機能抑制などの副作用が生じた例の報告がある。ステロイド外用薬を適切に使用すれば、日常診療における通常の使用量では、副腎不全糖尿病満月様顔貌などの内服薬でみられる全身的副作用は起こり得ない。局所的副作用のうち、ステロイドざ瘡、ステロイド潮紅皮膚萎縮多毛、細菌、真菌ウィルス皮膚感染症などは時に生じ得るが、治療の中止あるいは適切な処置により回復する。しかしながら、ステロイド内服薬との混同や、アトピー性皮膚炎そのものの悪化とステロイド外用薬の副作用との混同が多いことなどから、ステロイド外用薬に対する誤解も多く、患者側にステロイド外用薬の恐怖忌避が生じ、コンプライアンス低下が往々にしてみられる。このような誤解のため、必要とされるステロイド外用薬の塗布がされず、治療効果が得られない場合がある。よって、患者に皮疹の重症度を提示し、それに対応したステロイドの外用の意味を十分に説明して、患者に納得させることができれば、選択した外用剤が適切に使用され、十分な治療効果は達成され得る。そのためにも、客観的な皮膚局所の指標をもって皮疹の重症度を患者に提示し、治療の納得性を高め、十分な治療効果を生み出すことは重要である。

0008

臨床効果の強い順に分類されるステロイド外用剤の強度、剤形は、個々の皮疹の重症度と、塗布部位年齢などを考慮して選択する必要がある。ステロイド外用薬の効果の強さと副作用の起こりやすさは一般には平衡することから、必要以上に強いステロイド外用薬を選択することなく、個々の皮疹に見合ったランクの薬剤を適切に選択することが重要である。そのためにも、アトピー性皮膚炎の局所症度の客観的指標の提示が望まれる。

0009

また、上述のとおり、皮疹の症度が軽微の場合にはステロイドやタクロリムスを含まない保湿剤や保護剤などの使用によるスキンケアで対処できるが、軽微な皮膚症状に対しても外用療法を継続する必要があり、これを怠ると炎症が容易に再燃し、より強いステロイド外用薬等の使用に頼らざるを得なくなる場合もある。しかしながら、上述のとおりアトピー性皮膚炎の症度の判断は肉眼による所見を頼りとするため実際には投薬が不要にも関わらず、不要な治療が続けられてしまう場合や、必要な治療を中断したことにより、症状が再燃してしまうことも多々ある。最も多いのは、医師の判断を仰ぐことなく、患者が自らの判断でアトピー性皮膚炎が完治したと思いこみ、治療を中断したり、中止してしまうことにある。特に、アトピー性皮膚炎には外観上の所見では疾患がないと判断されるいわゆる「寛解」状態がある。「寛解」は、患者にとっては皮疹が無くなり、そう痒などの自覚症状もない状態であり、医師は「寛解」を維持することが目指すところである。しかし、湿疹が例えば抗炎症外用薬により一旦改善して「寛解」に至ったとしても、組織像では低いレベルでの血管周囲リンパ球等による炎症細胞浸潤内皮細胞腫脹基底膜肥厚を伴う軽度病変の存在がある場合がある(Fiset PO, Leung DY. JACI; 118:287-290, 2006)(非特許文献3)。寛解における病態把握は、外観による所見のみでは極めて困難であるため、従来は寛解の状態で治療を保湿剤などを使用したスキンケアに切り替え、目で見える炎症が再燃したら、治療薬をステロイドやタクロリムスに切り替えるといったいわゆる「リアクティブ療法」が採用されていた。しかしながら、寛解における病態把握が可能になれば、症状が激しく再燃する前に弱い抗炎症剤とスキンケアによる治療を行う、といったプロアクティブ療法(予防的な間欠塗布法)を採用することができる。そのためにも、肉眼では判断しにくい病態の把握を可能にする客観的な局所指標が強く望まれる。

0010

このように、アトピー性皮膚炎は症状のコントロールが重要であるにもかかわらず、その病態の把握が難しく、しかも使用する治療薬の持つ副作用、さらにはその副作用についての患者の誤解などから、患者への十分な説明や治療へのコンプライアンス、アドヒアランスの考慮は必須であり、そのためにも症度の客観的指標の提示は、患者側及び医師側の双方から切望されている。

0011

アトピー性皮膚炎の症度の指標となる物質として、血液の末梢血好酸球数、血清総IgE値LDH(乳酸デヒドロゲナーゼ)値、血清中のThymus and Activation-Regulated Chemokine(TARC)がある(Sugawara et al., Allergy (2002) 57:180-181:非特許文献4)。血清中のTARCの量はアトピー性皮膚炎の症度と相関し、全身性疾患状態を示す指標とはなり得る。しかしながら、アトピー性皮膚炎は全身にわたり発症する場合もあるが、局所的に発症することが多く、また発症箇所のそれぞれにおいて症度が異なることも多々ある。したがって、発症した各部位の症度に合わせた治療方針を決定する必要があり、アトピー性皮膚炎の診断には、全身的な指標よりは、局所的な診断を可能にする指標が必要である。また、血清中のTARCの測定のための試料採血侵襲性を要し、簡便さに欠ける。特に、アトピー発症率の約89%を占める乳幼児においては、痛みを伴う採血の患者負担、医療現場の技術的難しさもあり、血液を用いた客観的な重症度診断を実施することは困難である。さらに、乳幼児期においてアトピー性皮膚炎は短期間で悪化するため、鋭敏に病勢を反映する指標が必要であるが、既存指標は病勢を鋭敏に反映しない、あるいは乳幼児期に高値を示すなど、課題がある。

0012

一方、角層中のTARC(以下、「角層TARC」)は局所の症度を客観的に判断する指標としては不十分である。なぜなら、健常人の角層TARCの測定値と、アトピー性疾患を有する患者の無疹部由来の角層TARCの値とで有意な差が認められないためである(Morita et al., Allergy (2010)65: 1166-1172:非特許文献5のFig.2)。かつ、角層TARCは、症度が中程度の患者と重篤な患者とで有意差が認められないため(同非特許文献4のFig.3)、症度との相関性も低い。したがって、TARCをアトピー性疾患の症度の指標とする場合、血清中のTARCの測定しか手立てはなく、血清試料採取という観点で簡便さに欠け、しかも局所的な診断には使用できない点で有効な指標とは言えない。上述のとおりアトピー性皮膚炎の患者には乳幼児が多く、採血などといった侵襲的な試料採取は患者、医師双方にとって困難であり、回避できる方が望ましい。

0013

扁平上皮細胞癌関連抗原(SCCA)は扁平上皮癌細胞から抽出される抗原であり、子宮頚部食道、皮膚の扁平上皮細胞癌で高い血中濃度を示し、扁平上皮細胞癌の診断によく利用されている(H.Kato et al.Cancer 40:1621−1628(1977)非特許文献6;N.Mino et al.Cancer 62:730−734(1988):非特許文献7)。特に、SCCAの血中レベルは扁平上皮細胞癌の進行段階悪性度腫瘍の大きさなどに良好に相関するため、癌の早期発見のみならず、癌治療効果の評価や再発のおそれの診断などにおいて特に有効な癌マーカーである。

0014

SCCAはまた、乾癬表皮上層において発現亢進が認められることでも知られる(Takeda A.et al., J.Invest.Dermatol.(2002)118(1),147−154;非特許文献8)。乾癬は皮膚病の一つであり、表皮細胞の増殖・分化異常と炎症細胞浸潤を特徴とする慢性、再発性炎症性不全角化症である乾癬がある。乾癬は遺伝的素因に種々の環境因子が加わって発症すると考えられる(Hopso‐Havu et al.British Journal of Dermatology(1983)109,77−85:非特許文献9)。

0015

Mitsuishi et al., Clin. Exp., Allergy (2005) 35;1327-1333(非特許文献10)には、血清中のSCCAがアトピー性皮膚炎の症度と相関することが開示されている。しかしながら、血清中のタンパク質と、角層細胞中の同タンパク質が相関関係にあるとは限らない。表皮角化細胞は、基底層で増殖し、上層に移行して分化し、角層となり、最後に皮膚から剥がれ落ちるが、この角層は、皮膚の正常な角化が行われることで角質細胞において核が消滅する「脱核」という現象等特徴的な状態を経て、生成される。角化細胞は分化して核が消失する過程において、様々な内因性プロテアーゼ漏出により、内因性タンパク質の一部は分解して消失又はその量が著しく減少する。そのため、角層中に存在するタンパク質のさらされる環境は血流中のものとは全く異なり、その量も血流中とは全く異なる挙動を示すことがある。血清中のTARCがアトピー性皮膚炎の症度の指標となるのに対し、角層TARCではその指標とならない理由もここにある可能性がある。よって、血清中のSCCAがアトピー性皮膚炎の症度と相関するという知見があったとしても、その知見が角層中のSCCAがアトピー性皮膚炎の症度と相関することを示唆するものではない。特に、アトピー性皮膚炎は症度の異なる複数の皮疹が混在する疾患であり、医師の所見が複数の項目から成立していることからもそれは明らかである。

0016

国際公開第2006/098523号(特許文献1)には、皮膚角層細胞のSCCA(以下、角層SCCA」と称する場合がある)がアトピー性皮膚炎を原因とする不全角化予知のための指標となることが開示されている。同公報は、角層SCCAを指標とし、未だアトピー性疾患を患っていない被験者が将来的に同疾患を患うリスクを予知できるという知見を示す。よって、角層SCCAがアトピー性皮膚炎の発症に関与していることは明らかである。しかしながら、角層SCCAがアトピー性皮膚炎の発症の原因因子であるとしても、それが必ずしも疾患発症後の症度の指標となるとは限らない。たとえ角層SCCAがアトピー性皮膚炎の原因因子であったとしても、発症後の症状の進行に別の因子に委ねられ、症状の進行には関与しなくなる可能性もあるため、疾患の原因因子が疾患の予後マーカーに使用されるとは限らないからである。現に、疾患の診断マーカーとして利用される物質が、疾患の症度の指標にはならない例は多々ある。たとえば、腫瘍マーカーであるαフェトプロテインAFP)は診断マーカーであるが、その値は腫瘍の大小とは一致せず、また、数値の上昇の度合いにより予後判断はできない。

0017

冒頭で述べたとおり、アトピー性皮膚炎は増悪、寛解を繰り返す疾患であり、完治が容易でなく、治療過程においてその症状のコントロールが重要であるため、その治療方針の採択には、非侵襲性であり、局所的な症度の指標となり、それ故患者への治療方針の説明において客観的な指標となり得るマーカーが医師、患者双方から望まれているが、存在しない。

0018

国際公開第2006/098523号

先行技術

0019

日皮会誌 119(8), 151-1534, 2009
アレルギー総合ガイドライン2013 第6章アトピー性皮膚炎
Fiset PO, Leung DY. JACI; 118:287-290, 2006
Sugawara et al., Allergy (2002) 57:180-181
Morita et al., Allergy (2010)65: 1166-1172
H.Kato et al.Cancer 40:1621−1628(1977)
N.Mino et al.Cancer 62:730−734(1988)
Takeda A.et al., J.Invest.Dermatol.(2002)118(1),147−154;
Hopso‐Havu et al.British Journal of Dermatology(1983)109,77−85
Mitsuishi et al., Clin. Exp., Allergy (2005) 35;1327-1333

発明が解決しようとする課題

0020

医師、特に熟練した医師の技量に頼ることのない、アトピー性皮膚炎の完治や症度の局所及び全身診断の客観的かつ簡便な指標の提供。

課題を解決するための手段

0021

本発明者は、アトピー性皮膚炎を患い、且つ当該疾患の治療を受療中の対象者の角層細胞中のSCCA-1の発現量を、アトピー性皮膚炎の指標とされる代表的な項目の医師による肉眼的な診断に基づく皮膚所見と共に調査した。その結果、角層SCCA-1の値と、皮膚所見による疾患の症度とが高度に相関することがわかった(図1)。すなわち、SCCA-1の値が高まるにつれ、皮膚所見も寛解から軽症、中症、重症へと、症度も重くなることがわかった。また、患者自身による自己所見では当該疾患が見かけ上完治したと自己判断した対象者でも、医師による所見では症状がある症例が多々あるところ、本発明者はかかる医師による所見が概ね有意な量のSCCA-1の発現と一致することを見出した。即ち、SCCA-1の発現を指標とすれば、患者は医師の診断を仰ぐことなく、例えば在宅にて自分自身で自己の症度を評価するための客観的な判断材料となり、その結果、例えば当該疾患が未だ治療・医師による観察が必要であるにも関わらず自己所見で完治と断定し、継続治療を怠ることによる疾患の再発、再燃を防ぐことができるという利点がある。その結果、健常よりSCCA-1の発現が高く、例えば寛解期にあると判断された場合には、保湿剤、保護剤などによるスキンケアを行い、全く対応をせずに放置することによる疾患の再発、再燃を防ぐことができるという利点もある。更に、SCCA-1の発現が高くなれば、ステロイド外用薬による治療、ステロイド以外の抗炎症効果のある外用薬による治療が必要か否かを判断できるため症状の悪化を防ぐことができる。
以上のように、皮膚角層細胞中のSCCA-1を指標とすることで、アトピー性皮膚炎の治療を受療中の対象者、過去に受療し、現在は寛解期にある対象者、更には健常と見えるがアトピーの発症の可能性を持っている対象者などにおいて局所病態を把握することが可能となる。

0022

本願は以下の発明を提供する。
(1)アトピー性皮膚炎の治療を受療中の対象者において当該治療方針を決定するための診断補助方法であって、当該対象者の皮膚角層細胞中のSCCA-1の発現値を測定し、
i)当該SCCA-1の発現値がアトピー性皮膚炎を有しない者の値に比べ、統計学的に有意に高くない場合、当該治療を中断し当該疾患は治療を継続する必要はないと決定する、診断補助方法。
(2)アトピー性皮膚炎の治療を受療中の対象者において当該治療方針を決定する診断補助方法であって、当該対象者の皮膚角層細胞中のSCCA-1の発現値を測定し、
ii)当該SCCA-1の発現値を指標として当該対象者のアトピー性皮膚炎の症度を階級分けし、各階級に合ったアトピー性皮膚炎治療方法を当該対象者に適用することを決定する、アトピー性皮膚炎の治療方針を決定する診断補助方法。
(3)アトピー性皮膚炎の治療の要否判断が必要な対象者あるいは治療を受療中の対象者において、当該治療の要否判断あるいは当該治療を必要と判断した場合の治療方針を決定する診断補助方法であって、当該対象者の皮膚角層細胞中のSCCA-1の発現値を測定し、
i)当該SCCA-1の発現値がアトピー性皮膚炎を有しない者の値に比べ、統計学的に有意に高くない場合、当該治療は不要と判断するあるいは受療中の場合は当該治療により当該疾患は治療を継続する必要がないと決定し、統計学的に有意に高い場合、治療を開始する判断あるいは当該治療を継続する必要があると決定した場合、さらに、
ii)当該SCCA-1の発現値を指標として当該対象者のアトピー性皮膚炎の症度を階級分けし、各階級に合ったアトピー性皮膚炎治療方法を当該対象者に適用することを決定する、アトピー性皮膚炎の治療の要否判断あるいは治療方針を決定する診断補助方法。
(4)前記治療方針の決定を長期にわたり繰り返し行う、(1)〜(3)のいずれかの診断補助方法。
(5)アトピー性皮膚炎の症度の項目が、紅斑(erythema)、浸潤(oozing)、丘疹(papule)、掻破痕(excoriation)、苔癬化(lichenification)、乾燥・落屑(xerosis)及びそう痒感(itch)から成る群から選ばれる1または複数である、(1)〜(4)のいずれかの診断補助方法。
(6)前記皮膚細胞テープストリッピングにより非侵襲的に採取される、(1)〜(5)のいずれかの診断補助方法。
(7)前記SCCA-1の発現をSCCA-1に特異的な抗体を使用する免疫学的検出方法により実施する、(1)〜(6)のいずれかの診断補助方法。
(8)前記免疫学的検出方法が酵素免疫測定法ELISA法EIA法を含む)、蛍光免疫測定法放射免疫測定法RIA)、発光免疫測定法表面プラズモン共鳴法(SPR法)、水晶振動子マイクロバランスQCM法)、免疫比濁法ラテックス凝集免疫測定法ラテックス比濁法粒子凝集反応法、金コロイド法キャピラリー電気泳動法グラフェンバイオセンサアンペロメトリックバイオセンサ、レーザー分光法及び表面濃縮免疫測定法から成る群から選ばれる、(7)の診断補助方法。
(9)前記皮膚細胞の採取及び前記SCCA-1の発現の測定が在宅で行われる、(7)又は(8)の診断補助方法。
(10)前記テープストリッピングによる採取を、対象者当たり3箇所以上の皮膚部位にて行う、(1)〜(9)のいずれかの診断補助方法。

発明の効果

0023

角層中のSCCA-1の値は、アトピー性皮膚炎の局所病態を非侵襲的に把握することが可能になる。さらに、アトピー性皮膚炎を患い、且つ当該疾患の治療を受療中の対象者に有効な治療方針の決定のための客観的な指標となる。かくて、疾患の症度に応じた適正な治療方法の決定のための、又は寛解をできるだけ継続させるための治療方針の決定のための、しかも患者に対する今後の治療方針の説明に必要な納得感のある客観的な指標が提供された。それにより、具体的にはステロイド外用薬を継続するか否か、タクロリムス等ステロイド以外の抗炎症効果のある外用薬を継続するか否かなどの治療方針を決定することが可能になった。また、角層中のSCCA-1の値を指標とすることができれば、角層中のSCCA-1の簡易測定キットを開発することで、患者は医師の診断を仰ぐことなく、自分自身で自己の状態が、治療が必要な状態であるかを通院することなく在宅などでも客観的に判断することが可能となる。あるいは、検診などで早期に状態を把握することが可能になる。その結果、当該疾患が未だ治療が必要な状態にあるのに自己所見で治療は不要と断定し、継続治療を怠ることによる疾患の再発、再燃の防ぐことができる。または、必要な治療方法を把握し、早期に対応することが可能になる。そして、医師の技量の差による治療の差も軽減される。さらに、本発明の方法では角層のSCCA-1を指標とするため、本発明の方法は採血を要せず、非侵襲性である。アトピー発症率の約89%を乳幼児が占めることを考えると、痛みを伴う採血の患者負担がなく、医療現場の技術的難しさがない点で極めて有効である。加えて、一被検者につき複数の箇所、例えば3箇所以上において角層試料を採取し、その平均SCCA-1値を指標とすることで、アトピー性皮膚炎の症度分類に頻用されるSCORADやEISAに代わる簡易かつ信頼度の高いアトピー性皮膚炎の全身症度分類方法の提供が可能となる。

図面の簡単な説明

0024

角層SCCA-1の値がアトピー性皮膚炎の症度と高い相関性を有することを示す(皮膚局所)。
角層SCCA-1の値がアトピー性皮膚炎の症度と高い相関性を有することを示す棒グラフ(皮膚局所)。
角層SCCA-1の値がアトピー性皮膚炎の皮膚所見項目別の症度それぞれと高い相関性を有することを示す棒グラフ。
角層SCCA-1の値がアトピー性皮膚炎の皮膚所見項目別の症度それぞれと高い相関性を有することを示す棒グラフ。
角層TARCの値ではアトピー性皮膚炎の症度との相関が低いことを示す図(皮膚局所)。
アトピー性皮膚炎の症度の局所皮膚所見と自己所見との乖離を示す図。
SCCA-1及び医師による皮膚所見を指標としたアトピー性皮膚炎を患う患者の治療経過の追跡を示す図。
SCCA-1及び医師による皮膚所見を指標としたアトピー性皮膚炎を患う患者の治療経過の追跡を示す図。
SCCA-1及び医師による皮膚所見を指標としたアトピー性皮膚炎を患う患者の治療経過の追跡を示す図。
SCCA-1値が高めの被検者のSCCA-1及び医師による皮膚所見を指標としたアトピー性皮膚炎の症度の追跡を示す図。
SCCA-1値が健常人よりもやや高めの被検者のSCCA-1及び医師による皮膚所見を指標としたアトピー性皮膚炎の症度の追跡を示す図。

0025

SCCA-1
SCCAは染色体18q21.3上にタンデムに並んでいる二つの遺伝子SCCA-1及びSCCA-2遺伝子によりコードされる。それらによりコードされるタンパク質、SCCA-1及びSCCA-2は共に分子量約45,000のタンパクであり、高い相同性を示し、そのホモロジー核酸レベルで95%である。これらのSCCAはovalbumin‐serine protease inhibitor(ov-serpin)ファミリーに属している。ov-serpinはセルピンス−パーファミリーの中でもユニークな特徴を有している。一般にセルピンは分泌されて細胞外で働くとされているが、ov-serpinは主に細胞内でも働くprotease inhibitorである。
SCCA-1はパパインシステインプロテアーゼ阻害剤であるが、SCCA-2はキモトリプシンセリンプロテアーゼ阻害であり、相同性が高いにも関わらず反応部位アミノ酸配列が異なるため、異なった特性を有することもある(Schick et al.J.Biol.Chem.(1997)27213,1849−55)。本発明者は、特にSCCA-1が非侵襲的手段により、アトピー性皮膚炎の症度の評価の指標となることを見出した。

0026

アトピー性皮膚炎
以下の用語の定義や説明は、原則として日本皮膚科学会のアトピー性皮膚炎診療ガイドラインに基づく。
<アトピー性皮膚炎>
増悪・寛解を繰り返す、そう痒のある湿疹を主病原とする疾患であり、患者の多くは、アトピー素因を持つ(同一人内に異なる症度の皮疹をもつ)。
<アトピー性皮膚炎の診断基準
一般に、そう痒、特徴的皮疹と分布、慢性・反復的経過(乳児では2か月以上、その他6か月以上)、の基本3項目を満たすものをアトピー性皮膚炎と判断する。

0027

<アトピー性皮膚炎の皮疹の症度及び外用剤の選択>
日本皮膚科学会のアトピー性皮膚炎診療ガイドラインなどによれば、アトピー性皮膚炎の皮疹の症度は、寛解、軽微、軽症、中症、重症に階級分けすることができる。以下、各症度の状態及び選択すべき治療法を示す。
1)重症
・皮疹の重症度:高度の腫脹・浮腫・浸潤または苔癬化を伴う紅斑、丘疹の多発、高度の鱗屑、痂皮の付着、小水疱、びらん、多数の掻破痕、痒疹結節などを主体とする。
・外用剤の選択:必要かつ十分な効果のあるベリーストロングまたはストロンクラスのステロイド外用剤を第一選択とする。痒疹結節でベリーストロングでも十分な効果が得られない場合はその部位に限定してストロンゲストクラスの使用もある。
2)中症
・皮疹の重症度:中程度までの紅斑、鱗屑、少数の丘疹、掻破痕などを主体とする。
・外用剤の選択:ストロングまたはミディアムクラスのステロイド外用薬を第一選択とする。
3)軽症
・皮疹の重症度:乾燥および軽度の紅斑、鱗屑などを主体とする。
・外用剤の選択:ミディアム以下のステロイド外用剤を第一選択とする。
4)軽微:炎症症状に乏しい乾燥症状主体。
・外用剤の選択:ステロイドを含まない外用剤を選択する。
5)寛解:永続的であるか一時的であるかを問わず、病気による症状が好転または、ほぼ消失し、臨床的にコントロールされた状態を指す。すなわち、一般的な意味で完治せずとも、臨床的に「問題ない程度」にまで状態がよくなる。その後、増悪する可能性も含む状態。(治癒、完治とは異なる。)
・外用剤の選択:ステロイドを含まない外用剤、保湿剤などを選択する。

0028

むろん、上記階級分けは一例にすぎず、皮疹の症度が、症状なし、軽症、中等症、重症に分類される場合もある。そのような分類の場合、軽症者にはステロイドを含まない外用剤、中等症者にはミディアムクラスのステロイド外用薬、重症者にはベリーストロングまたはストロングクラスのステロイド外用剤を適用する、などといった治療方針が確定される場合もあるアレルギー総合ガイドライン2013 第6章アトピー性皮膚炎(非特許文献2)。

0029

上記症度の説明で使用する用語の定義を以下に示す。
・皮疹(eruption):皮膚に現れる病変を総称して皮疹又は発疹という。
皮膚炎(dermatitis):皮膚に生じている炎症のこと (皮膚科外来の1/3-1/5を占める)。皮膚で生じた炎症反応が湿疹として表現される。臨床的には、そう痒や発赤、落屑、丘疹を生じる。
・湿疹(eczema):皮膚炎と同義
・紅斑(erythema):真皮乳頭および乳頭下層での血管拡張充血により生じる紅色のこと。
・丘疹(papule):直径1cm以下の限局性隆起変化(皮膚の隆起)をいう。
・結節(nodule):結節は丘疹と同様の限局性の皮膚変化で直径1 cm以上のもので2〜3cm程度のもの。丘疹より深く真皮あるいは皮下組織に及ぶ。
苔癬(lichen): 丘疹の永続したもの。
・浸潤(oozing):皮膚炎が起こった病変部位の皮膚内に、白血球細胞やリンパ球が侵入した状態。病巣が周囲に正常組織へと徐々に侵入していく状況を指す場合もある。
・痂皮(crust, crusting):角質、滲出液、血液、または壊死組織凝固したもの。いわゆる、瘡蓋である。
・そう痒(pruritus):痒み。

0030

ステロイド外用剤の薬効の強さのランクに例については、以下の表1に記載する。なお、これらの薬剤と薬効の強さのランクは例示にすぎない。

0031

角層SCCA-1の発現量の絶対値は、利用する角層SCCA-1の測定系により変動するであろう。したがって、被験者が角層SCCA-1発現値に応じ、適正な症度に割り当てられるようにするには、利用する角層SCCA-1の測定系について、角層SCCA-1発現値と症度との関係を示す検量線を作成する必要がある。検量線の作成には、好ましくは、まず予め医師による診察によって皮膚所見を得る。所見項目には、例えば乾燥症状、紅斑、鱗屑、丘疹、掻破痕、脹脹、浮腫、痂疲の付着、小水疱、びらん、痒診結節など様々が存在する。それぞれの所見について評価基準を、例えば0:なし(absence)、1:軽症(mild)、2:中等症(moderate)、3:重症(severe)とする。検量線作成のための被験者の人数は多いほど好ましく、例えば50人以上などであってよいが、限定されるものではない。そして、これらの各項目の点数を合計し、例えば0点(即ち、全項目が評価基準0の場合)から最高点(即ち、全項目が評価基準3の場合)を横軸とし、角層SCCA-1の測定値を縦軸とし、検量緯線を作成することができる。横軸は適当に階級分けする、例えば点数の少ない方から、健常(正常)、寛解、軽症、中症、重症などの症度に割り当てることができる。被験者のSCCA-1値が得られたら、かかる検量線に当て嵌め、当該被検者の患部の症度がいずれの症度のレベルに該当することがわかる。
かかる症度の客観的な指標を患者に提示することで、例えばステロイド薬に対する誤った知識をもつ患者に対しても、それを使用した治療方針が必要であることを納得させる材料となり、その患者の症度に合った有効な治療方針を適用することを可能にする。アトピー性皮膚炎は治療が長期にわたる疾患であり、医者と患者との信頼関係や患者の受療に対するモチベーションの維持が重要であることから、本指標は有効であると考える。

0032

一旦そのような検量線が作成されたら、当該測定系により被験者の角層SCCA-1の発現値を測定するだけで、いずれの症度に該当するかが判定され、その症度の適した治療方針が確定され得る。それぞれの症度に適した治療方針は、例えばアトピー性皮膚炎診療ガイドラインに従い、確定できる。例えば、角層SCCA-1の発現値により重症と判定された被検者の患部に対しては、同ガイドラインに則し、ストロンゲスト、ベリーストロングまたはストロングクラスのステロイド外用剤を第一選択とすることができる。角層SCCA-1の発現値により軽微と判定された被検者の患部に対しては、同ガイドラインに則し、ステロイドを含まない外用剤、保湿剤などを選択することができる。

0033

アトピー性皮膚炎には外観上の所見では疾患がないと判断されるいわゆる「寛解」状態ある。「寛解」の場合、湿疹が例えば抗炎症外用薬により一旦改善しても、組織像では低いレベルでの血管周囲のリンパ球等による炎症細胞浸潤や内皮細胞の腫脹、基底膜肥厚を伴う軽度病変の存在が証明されている(Fiset PO, Leung DY. JACI; 118:287-290, 2006)(非特許文献2)。寛解における病態の判断は外観による所見では極めて困難であるため、従来は寛解の状態で治療方法を保湿剤などを使用したスキンケアに切り替え、目で見える炎症が再燃したら、治療薬をステロイドやタクロリムスに切り替えるといったいわゆる「リアクティブ療法」が採用されていた。
従前の方法では、アトピー性皮膚炎が、治療が必要かどうかを評価する客観的な指標は存在しなかったため、常に一部の熟練した医師による所見を仰いでいた。本発明によれば、寛解の状態をより詳細に評価することが可能となり、極めて有利である。そのためには、まずアトピー性皮膚炎に罹ってない複数の人数の健常人の角層SCCA-1の値を測定する。測定する健常人の数が特に限定されないが、多いほど好ましくは、例えば10人以上、より好ましくは20人以上、最も好ましくは50人以上とするが、それらに限定されるものではない。これにより、健常人の角層SCCA-1の値がわかり、この値に対し被検者の角層SCCA-1の値が統計学的に有意に高い場合、アトピー性皮膚炎が有意に再燃しやすい状態にあることがわかる。
本発明は寛解において定期的に、弱い抗炎症剤の間欠塗布と、保湿剤、保護剤などのスキンケアによる治療を行い、治療が不要な段階に至ったら保湿剤、保護剤によるスキンケアのみに切り替える、といったプロアクティブ療法(予防的な間欠塗布法)に採用することができる。

0034

好ましくは、角層SCCA-1の発現値の測定は、予め上記検量線の作成された角層SCCA-1測定用キット、例えば市販のキットを利用して行う。これにより、検量線の作成を省略することが出来、当該測定系により被験者の角層SCCA-1の発現値を測定するだけで、いずれの症度に該当するかが判定され、その症度の適した治療方針が確定され得る。

0035

本発明に係るSCCA-1の発現の測定は、SCCA-1を測定することのできる任意の方法に従い、定量的又は定性的に実施することができる。具体的には、SCCA-1に特異的な抗体を利用する免疫測定方法、例えば酵素ラベルを利用するELISA法、放射性ラベルを利用するRIA法、免疫比濁法、ウェスタンブロット法ラテックス凝集法、赤血球凝集法、イムノクロマトグラフィー法共鳴プラズモン共鳴法SAW(Surface Acoustic wave)デバイス電子デバイス法など、様々な方法が挙げられる。免疫測定法の方式には競合法やサンドイッチ法が挙げられる。他に、SCCA-1の発現量はそれをコードする遺伝子の細胞内において発現された量の測定により行うこともできる。この場合、好ましくは、SCCA-1の発現は細胞内のSCCA-1をコードするmRNAの量を測定することにより決定する。mRNAの抽出、その量の定量的又は定性的測定も当業界において周知であり、例えばPCR法、3SR法、NASBA法、TMA法など、さまざまな周知の方法により実施することができる。他に、SCCA-1の発現はin situハイブリダイゼーション法やその生物活性の測定を通じて定性的に決定する。

0036

検体となる皮膚角層試料の採取は任意の方法で実施することができるが、簡便性の観点からテープストリッピング法が好ましい。テープストリッピングとは、皮膚表層粘着テープ片貼付し、剥がし、皮膚角層をその剥がした粘着テープに付着させることで角層試料を採取する方法である。テープストリッピング法を利用すれば、角層をテープ一枚採取するだけでSCCA-1発現の測定が可能となり、SCCA-1を指標としたアトピー性皮膚炎の病態把握方法が可能となる。テープストリッピングの好ましい方法は、まず皮膚の表層皮脂汚れ等を取り除き、適当なサイズ(例えば2×6cm)に切った粘着テープ片を皮膚表面の上に軽く載せ、テープ全体に均等な力を加えて平たく押さえ付け、その後均等な力で粘着テープを剥ぎ取ることで行われる。皮膚表層の皮脂、汚れ等を取り除く方法としては、ティッシュペーパーでの清拭石鹸を用いた洗浄、水またはエタノールによる浄化などが挙げられる。粘着テープは市販のセロファンテープなどであってよく、例えばScotch Superstrength Mailing Tape (3M社製)、セロファンテープ(セロテープ登録商標);ニチバン株式会社)等が使用できる。粘着テープに付着した皮膚角層試料中のSCCA-1は、テープ片を適当な抽出液、例えばTris-buffer (pH 8.0) (0.1M Tris-HCl, 0.14M NaCl, 0.1% Tween-20)に浸漬し、角層を抽出することでテープから単離・抽出させることができる。

0037

本発明の好ましい態様においては、SCCA-1は免疫測定方法、例えばELISAにより測定する。ELISAにおいて使用するSCCA-1に特異的な抗体はモノクローナル抗体でもポリクローナル抗体でもよい。モノクローナル抗体やポリクローナル抗体の作成方法は当業者に周知であり、例えばLunstrum et el., J Biol. Chem. 1986, 261: 9042-9048; Hurle et al. J Cell Science 1994, 107: 2623-2634に記載されている。

0038

本発明に係る方法においては、サンドイッチ免疫測定法が特に好ましい。サンドイッチ免疫測定方法は例えば下記の通りに実施できる。
2種類のSCCA-1に特異的な抗体の一方を一次抗体として担体固定化する。担体としては固体担体が好ましく、例えば固体担体として免疫測定法において常用される任意のものを使用してよく、例えば任意の大きさ、形状に成形されたスチレンポリスチレンなどの高分子担体のほか、これらの適当な材料で成形した反応容器、例えばELISAプレートウェル内壁などが挙げられる。

0039

上記一次抗体の担体への固定化は常法に従って行うことができ、例えば上記一次抗体を緩衝液、例えばリン酸緩衝食塩水PBS)、ホウ酸緩衝液などに溶解して担体に吸着させることにより固定化することができる。また、例えば上記一次抗体に結合する抗体やその他のタンパク質、例えばプロテインCをあらかじめ担体に固定化し、これを上記一次抗体と接触させる等してもよい。更に、非特異的な結合を抑えるため、このようにして一次抗体を固定化した担体に適当なブロッキング剤、例えばPBS−BSAや市販のブロッキング剤、例えばブロクエース(大日本製薬)を加え、約4〜40℃、好ましくは20〜37℃で、5分から数日、好ましくは10分から24時間、より好ましくは10分〜3時間インキュベーションすることによりブロッキングするのが好ましい。

0040

上記2種類のSCCA-1に特異的な抗体の他方の抗体は二次抗体として使用し、標識する。標識としては、酵素標識放射線同位体標識、蛍光標識、などが挙げられる。酵素標識する場合、酵素を二次抗体に直接結合させて標識するか、または例えばアビジンビオチンのような相互反応蛋白質を介して間接的に酵素で標識することもできる。酵素の抗体などへの結合は、例えば市販のチオール導入基試薬を利用して酵素及び標識すべき抗体などのそれぞれにチオール基を導入してから両者をS−S結合させることで行うことができる。酵素としては、ホースラディッシュパーオキシダーゼアルカリ性ホスファターゼ、β−D−ガラクトシダーゼなどが挙げられる。酵素の検出は、その酵素に特異的な基質を用いて行うことができる。例えばホースラディッシュパーオキシダーゼを利用する場合、TMB(3,3’,5,5’−テトラメチルベンジンジン)やABTS(2,2’−アジン‐ジ[3−エチルベンズチアゾリンスルホネート])などが利用できる。

0041

かかる免疫測定は、前記一次抗体を固定した担体、前記標識した二次抗体、被検試料を混合し、インキュベーションすることにより、担体に固定化された一次抗体に被検試料中のSCCA-1を結合せしめ、このSCCA-1分子に標識二次抗体を結合せしめる。

0042

このようにして、標識化抗体は、試料中のSCCA-1の量を反映した量において、担体に固定化された一次抗体と試料に由来するSCCA-1を介して担体上に固定される。かかるインキュベーションは、適当な緩衝液、例えばPBS中で約4〜40℃、好ましくは20〜37℃で、5分から数日、好ましくは10分から24時間、より好ましくは10分〜3時間行う。

0043

次に、上記担体から未結合の標識化抗体を分離する操作を行う。担体が固体担体である場合、この分離操作固液分離により簡単に行うことができる。一定の既知量の標識二次抗体を使用した場合、担体に結合した標識もしくは未結合の標識又はこの両者を測定することができる。他方、任意の標識抗体を使用した場合、担体に結合した標識を検出、測定する。担体に結合した標識を検出するには、好ましくは担体を洗浄液、例えば適当な界面活性剤の入った緩衝液、例えばPBS−Tween20により洗浄して未結合の標識化抗体を除去した後に検出を行う。検出は標識の種類に依存して常法に従って行うことができる。
以下、具体例を挙げて、本発明を更に具体的に説明する。なお、本発明はこれにより限定されるものではない。

0044

1.評価・観察項目
(1)医師による皮膚局所の所見
各部位で、(A)紅斑(erythema)、(B)浸潤(oozing)、(C)丘疹(papule)、(D)掻破痕(excoriation)、(E)苔癬化(lichenification)、(F)乾燥・落屑(xerosis)、(G)そう痒感(itch)を観察し、重症度をケースカード記入した。
評価基準は、0:なし(absence)、1:軽症(mild)、2:中症(moderate)、3:重症(severe)とした。角層を採取した健常部位、皮疹部位、無疹部位を全身図に記載した。

0045

(2)角層テープの採取と測定
被験部位の角層をセロテープ(登録商標)(2 cm x 6cm)を用いて採取した。得られた角層サンプルは、タンパク質抽出液( 0.1M Tris-HCl (pH8.0), 0.14M NaCl ,0.1% Tween 20 )に浸漬し、バイオプターにて抽出した。遠心を行い、その上清をELISAに用いた。

0046

(3)免疫学的SCCA1測定方法
リコンビナントヒトSCCA-1はSCCA-1cDNAをpQE30ベクターに挿入して得た。Ni-Agaroseにてリコンビナントを精製した後に、Mono Q chromatographyで更に精製を行い、ELISAアッセイスタンダードとしたSCCA-1測定方法を示す。Rabbit antiSCCA-1 polyclonal antibody(資生堂作製)を、一次抗体として96-wellプレート固相化して用いた。ImmunoBlock(DS Pharma Biomedical, Osaka, Japan)でブロッキング後 、100 μl の角層抽出液をwellに添加し、プレートを1 h 、37oCで反応させた。Monoclonal anti-SCCA1 antibody (Santa Cruz) を二次抗体として用いて、1 h 、37oCで反応させた。その後、horseradish peroxidase-conjugated anti-mouse F(ab’)2 (GE Healthcare)を添加し、TMB peroxidaseEIAsubstrate kit (Bio-Rad)で発色させた。 反応は1 M H2SO4で停止し、450 nmで測定した。

0047

(4)検量線の作成
健常人52人およびアトピー性皮膚炎患者189人を対象として試験を実施した。健常人は、医師によりアレルギー性疾患(アトピー性皮膚炎を含む)を有さないと診断された者とした。アトピー性皮膚炎患者の適格条件は、1)過去あるいは現在、医師よりアトピー性皮膚炎と診断された者、2)試験開始前から1週間以上、被験部位に試験開始前から1週間以上、被験部位に上記薬剤を使用しないことが可能な者、3)20以上の者とした。
アトピー性皮膚炎の除外基準は、1)試験開始前から1ヶ月以上、ステロイドもしくは免疫抑制剤を含む内服治療を受けた者、2)試験開始前から1週間以上、被験部位にステロイド外用剤、タクロリムス水和物軟膏非ステロイド系抗炎症剤、その他外用剤(一般用医薬品を含む)等による治療を行った者。もしくは試験開始前から1週間以上、被験部位に上記薬剤を使用しないことが不可能な者。ただし、保湿剤の塗布は可とする、3)被験部位にアトピー性皮膚炎以外の皮膚疾病を有する者、4)妊娠中授乳中の者、5)試験責任医師試験分担医師・試験協力医師に、試験への参加が不適当と判断された者とした。

0048

健常人と、アトピー性皮膚炎を患う患者ついてSCCA-1の値を測定した。アトピー性皮膚炎を患者については、被験部位の皮膚所見を、(A)紅斑(erythema)、(B)浸潤(oozing)、(C)丘疹(papule)、(D)掻破痕(excoriation)、(E)苔癬化(lichenification)、(F)乾燥・落屑(xerosis)、(G)そう痒感(itch)について、表題「皮膚局所の所見」の欄に記載の評価基準に則して評価して採点し、被験部位の重症度を皮膚所見のそれぞれの項目の合計値から求めた。各被検者の合計値を横軸、そのSCCA-1値を縦軸にプロットしたグラフ図1に示す。図1はアトピー性皮膚炎における皮膚の重症度と角層SCCA-1値の関連性を示し、そのSpearman相関係数は0.753(p<0.001)と高い値を示した、医師の皮膚所見と皮膚SCCA1は有意に強い相関を示した。

0049

さらに、アトピー性皮膚炎の患者の皮膚所見項目の点数の合計値を0、1〜7、8〜14、15〜21に階級分けし、健常人のSCCA-1の平均値を計算すると共に、各階級のSCCA-1値の平均値も計算した。なお、合計値が0の患者は、アトピー性皮膚炎を患わっているが、該当部位には、所見項目のいずれも観察されなかった患者である。その結果、SCCA-1の平均値は、健常人で19.1 ng/mg、皮膚所見合計値0(寛解)で86.3 ng/mg、皮膚所見合計値1〜7(軽症)で415.7 ng/mg、皮膚所見合計値(中症)8〜14で1380.5 ng/mg、皮膚所見合計値15〜21(重症)で1930.9 ng/mgであった。

0050

図2は各階級の角層SCCA-1値の平均値を棒グラフで示したものである。医師の皮膚所見による重症度が高いほど、角層SCCA-1の値は高くなることがわかる。したがってSCCA-1を指標とすることにより、その患者の症度の程度が客観的に判定でき、治療方針の決定に役立たせることができる。また、興味深いことに、医師の皮膚所見の合計値が0の患者群のSCCA-1の値の平均値は、健常人の平均値よりも統計学的に有意に高かった。すなわち、見かけ上は症状のない箇所であっても、SCCA-1を指標とすることによりその病態を評価できる場合がある。そして、したがってSCCA-1を指標とすることにより、医師でさえも判断が困難な病態を把握することが可能となり得る。その結果、患者の受療停止を防ぎ、症状のコントロールが可能となる場合がある。

0051

図3−1〜2は上記皮膚所見(A)〜(G)の各項目の点数別の患者群のSCCA-1値の平均値を計算し、横軸に各項目の点数、縦軸をSCCA-1の平均とし、棒グラフで示したものである。SCCA-1の値と各所見項目の症度は極めて高い相関を示した。特に丘疹や乾燥・落屑では、所見値が0の患者群と健常人とではSCCA-1値において有意な差(p<0.001)が認められた。よって、SCCA-1を指標とすることで、アトピー性皮膚炎の症状の一般的な所見項目全てにおいてその患者の皮膚局所の症度の程度が客観的に判定でき、各所見項目に適合した治療方針の決定に役立たせることができる。

0052

2.TARCの測定
検量線の作成
SCCA-1と同様、角層TARCについてもその値と皮膚所見と相関を調べた。角層TARCの測定は、得られた角層抽出液をELISAに供することで行った。ELISAにはQuantikine ELISA Human CCL17/TARC(R&D Systems)を用いた。
その結果を図4に示す。アトピー性皮膚炎における皮膚の重症度と角層TARC1値のSpearman相関係数は0.2750と低く、角層TARCはアトピー性皮膚炎の症度の指標にはなれないことを示す。

0053

3.皮膚局所の医師による所見及び自己所見
アトピー性皮膚炎の症度の判別は熟練した医師でさえも困難な場合があり、ましてや医療経験のない一般人が症度を判別するのは極めて困難である。本実施例では、アトピー性皮膚炎の診察について熟練した医師と、患者自身とによる皮膚所見の乖離について調べた。
アトピー性皮膚炎の症度が比較的軽い2名の被検者について、各部位で、(A)紅斑(erythema)、(B)浸潤(oozing)、(C)丘疹(papule)、(D)掻破痕(excoriation)、(E)苔癬化(lichenification)、(F)乾燥・落屑(xerosis)、(G)そう痒感(itch)を、医師及び被検者自身が各々観察し、重症度をケースカードに記入した。評価基準は、0:なし(absence)、1:軽症(mild)、2:中症(moderate)、3:重症(severe)とした。角層を採取した健常部位、皮疹部位、無疹部位を全身図に記載した。
その結果を図5に示す。2名の被検者の自己所見は共に、医師所見に比べ、明らかに低い値を示した。したがって、アトピー性皮膚疾患については、特に症度が軽い場合、患者は自己所見を低く評価しがちであることがわかる。その結果アトピー性皮膚炎は、治療が必要な状態であるにもかかわらず、治療を中止・中断することで症状の再燃が起きやすい疾患であることがわかる。上述のとおり、角層SCCA-1は例えばテープストリッピングといった極めて簡単且つ非侵襲的な操作で採取可能である。SCCA-1の測定は簡易測定キットの開発により病院検査施設でなく、在宅でも可能となる得るため、アトピー性皮膚疾患の症度や現在施されている治療効果の評価にとおり極めて優れた指標となる。特にアトピー性皮膚疾患の患者には乳幼児が多く、自ら症状を訴えることができず、また通院も容易でない対象者にとって簡単に在宅で自己の疾患の症度を判別できることは極めて有利である。

0054

5.治療経過の追跡
治療経過の追跡1-1
患者TA04-1
患者TA04の被験部位1は皮膚所見の合計値が10と、症度としては中症の部類に入っていた。治療観察期間の間、来院毎に観察及び角層の採取を行った。治療に使用した投与内服薬剤及びその投与期間、投与外用剤の名称及び投与被験部位を確認した。治療開始時のSCCA-1値は6510ng/mgと、かなり高い値を呈していた。同患者に抗ヒスタミン剤であるアレロック(登録商標)OD連用すると共に、フロモックス(登録商標)錠100mgを服用させた。治療開始28日後に測定したSCCA-1値は415.9 ng/mgと、治療開始時に比べ顕著に低下し、その結果は皮膚所見(合計値1)と連動していた。その結果を図6(A)に示す。

0055

治療経過の追跡1-2
患者TB03
患者TB03は皮膚所見が4と、症度としては軽症の部類に入っていた。治療観察期間の間、来院毎に観察及び角層の採取を行った。治療に使用した投与内服薬剤及びその投与期間、投与外用剤の名称及び投与被験部位を確認した。治療開始時のSCCA-1の値は392.5ng/mgと、健常人に比べ高めの値を呈し。同患者にはステロイド外用剤アンテペート(登録商標)軟膏を連用した。治療開始42日後に測定板SCCA-1値は112.6ng//mgと、治療開始時に比べ顕著に低下し、その結果は皮膚所見(合計値0)と連動していた。その結果を図6(B)に示す。

0056

治療経過の追跡1-3
患者TA03
28女性患者TA-03は皮膚所見の合計値が7と、症度としては軽症の部類に入っていた。治療観察期間の間、来院毎に観察及び角層の採取を行った。治療に使用した投与内服薬剤及びその投与期間、投与外用剤の名称及び投与被験部位を確認した。治療開始時のSCCA-1値は1745.6ng//mgと、かなり高い値を呈していた。同患者には56日後からアンテベート(登録商標)軟膏を連用させた。治療開始56日後に測定したSCCA-1値は39.6 ng//mgと、治療開始時に比べ顕著に低下し、その結果は良好な皮膚所見(合計値1)と連動していた。その結果を図6(C)に示す。

0057

治療経過の追跡1-4
患者TA04-2
27才男性患者TA04の被験部位2は皮膚所見の合計値が21と、症度としては重症の部類に入っていた。治療観察期間の間、来院毎に観察及び角層の採取を行った。治療に使用した投与内服薬剤及びその投与期間、投与外用剤の名称及び投与被験部位を確認した。治療開始時のSCCA-1値は9119.9ng//mgと、かなり高い値を呈していた。同患者に抗ヒスタミン剤であるアレロック(登録商標)ODを連用すると共に、フロモックス(登録商標)錠100mgを服用させた。治療開始28日後に測定したSCCA-1値は36.6 ng/mgと、治療開始時に比べ顕著に低下し、その結果は良好な皮膚所見(合計値1)と連動していた。その結果を図6(D)に示す。

0058

治療経過の追跡1-5
患者TB03-2
55才男性患者TB03の被験部位2は皮膚所見の合計値が4と、症度としては軽症の部類に入っていた。治療観察期間の間、来院毎に観察及び角層の採取を行った。治療に使用した投与内服薬剤及びその投与期間、投与外用剤の名称及び投与被験部位を確認した。治療開始時のSCCA-1値は392.5ng/mgとの値を呈していた。同患者にはアンテベート(登録商標)軟膏を連用させた。治療開始42日後に測定したSCCA-1値は112.6 ng/mgと、治療開始時に比べ低下し、その結果は極めて良好な皮膚所見(合計値0)と連動していた。その結果を図6(E)に示す。

0059

治療経過の追跡1-6
患者TB05
21才男性患者TB05は皮膚所見の合計値が5と、症度としては軽症の部類に入っていた。治療観察期間の間、来院毎に観察及び角層の採取を行った。治療に使用した投与内服薬剤及びその投与期間、投与外用剤の名称及び投与被験部位を確認した。治療開始時のSCCA-1値は560.9ng/mgとの値を呈していた。同患者に抗ヒスタミン剤であるアレグラ(登録商標)120mgを服用させると共に、マイザー(登録商標)クリームを連用させた。治療開始50日後に測定したSCCA-1値は64.7 ng/mgと、治療開始時に比べ低下し、その結果は極めて良好な皮膚所見(合計値0)と連動していた。治療開始72日後及び113日後に測定したSCCA-1値は、原因は不明であるがそれぞれ125.0 ng/mg及び176.6 ng/mgへと上昇し、皮膚所見も治療開始50日後の合計値0に比べ合計値1へと上昇し、SCCA-1値と皮膚所見は連動していた。その結果を図6(F)に示す。

0060

以上の治療経過追跡試験の結果から、SCCA-1の値は医師によるアトピー性皮膚疾患の症度と連動することがわかる。上述のとおり、角層SCCA-1は例えばテープストリッピングといった極めて簡単且つ非侵襲的な操作で採取可能である。SCCA-1の測定は簡易測定キットの開発により病院や検査施設でなく、在宅でも可能となる得るため、アトピー性皮膚疾患の症度や現在施されている治療効果の評価にとおり極めて優れた指標となる。SCCA-1を指標とすることで、特にアトピー性皮膚疾患の患者には乳幼児が多く、自ら症状を訴えることができず、また付き添いなくしては通院も容易でない対象者にとって簡単に在宅で自己の疾患の症度を客観的に判別できることや治療効果を客観的に評価できるは極めて有利である。

0061

6.経過観察
経過の追跡2-1-1
患者AW1-1
患者AW1の被験部位No.1は医師により寛解期と診断された部位である。観察開始時は皮膚症状を呈しておらず、医師による皮膚所見値(合計値)は0であった。観察期間の間、来院毎に観察及び角層の採取を行った。なお、同患者は観察の期間の間アトピー性皮膚疾患の治療は受けていない。治療開始時のSCCA-1値は約302.4 ng/mgと健常人に比べ優位に高く(19.1 ng/mg)無視できない程度の値を示していた。医師による皮膚所見は、観察を開始してから15日目ぐらいまでは値は0であったが、SCCA-の値の上昇と共に、皮膚所見値が1へと上昇し、悪化し始めた。患者による自己所見の値は観察期間中変動せず、0のままであった。この観察結果図7(A)に示す。

0062

治療経過の追跡2-1-2
患者AW1-2
患者AW1の被験部位No2は医師により観察開始時には軽症と診断された部位である。観察開始時は皮膚症状を呈しておらず、医師による皮膚所見値(合計値)は0であったが、医師による所見は時間経過とともに上昇した。自己所見はわずかながらも上昇したが(0から1に上昇)、医師の所見に比べると、自己所見の値は低かった。なお、同患者は観察の期間の間アトピー性皮膚疾患の治療は受けていない。治療開始時のSCCA-1値は約227.0 ng/mgであった。医師による皮膚所見も、観察を開始してから40日目ぐらいまでは値は0であったが、SCCA-の値の上昇と共に、皮膚所見値も1へと上昇し、悪化し始めた。なお、患者による事故所見の値は観察期間中変動せず、0のままであった。この観察結果を図7(B)に示す。

0063

治療経過の追跡2-1-3
患者AW1-5
患者AW1の被験部位No.5も医師により寛解期と診断された部位である。観察開始時は皮膚症状を呈しておらず、医師による皮膚所見値(合計値)は0であった。観察期間の間、来院毎に観察及び角層の採取を行った。なお、同患者は観察の期間の間アトピー性皮膚疾患の治療は受けていない。治療開始時のSCCA-1値は約313.4 ng/mgであった。医師による皮膚所見も、観察を開始してから30日目ぐらいまでは値は0であったが、SCCA-の値の上昇と共に、皮膚所見値も1へと上昇し、悪化し始めた。なお、患者による事故所見の値は観察期間中変動せず、0のままであった。この観察結果を図7(C)に示す。

0064

以上の観察結果が示すとおり、同患者の被験部位No.1,2,5の疾患が再燃したため、観察の開始時において寛解期であったことが確認された。SCCA-1の値は観察開始時において無視できない程度の値を示していたことから、SCCA-1を指標とすることで、診断部位が寛解であるかを判別することが可能である。また、SCCA−1の指標は、医師による皮膚所見と連動としていた。

0065

治療経過の追跡2-2-1
患者AW3-4
患者AW3の被験部位No.4は、観察開始時も皮膚症状を呈さなかった。観察期間の間、来院毎に観察及び角層の採取を行った。治療開始時のSCCA-1値は43.9 ng/mgと、やや低めながらも健常人に比べ優位に高く(19.1 ng/mg)、無視できない程度の値を示していた。観察開始43日後にSCCA-1値は184.7 ng/mgと、観察開始時に比べ顕著に増加し、その結果は医師による皮膚所見(合計値3)と連動していた。一方、自己所見の上昇は観察期間を通してわずかであった(合計値1)。その結果を図8(A)に示す。

0066

患者AW3-6
患者AW3の被験部位No.6は、観察開始時も皮膚症状を呈さなかった。観察期間の間、来院毎に観察及び角層の採取を行った。治療開始時のSCCA-1値は82.5 ng/mgと、健やや低めながらも健常人に比べ優位に高く(19.1 ng/mg)、無視できない程度の値を示していた。観察開始85日後にSCCA-1値は425.9ng/mgと、観察開始時に比べ顕著に増加し、その結果は医師による皮膚所見(合計値7)と連動していた。一方、自己所見の上昇は観察期間を通してわずかであった(合計値1)。その結果を図8(B)に示す。

0067

患者AW3-7
患者AW3の被験部位No.7は、観察開始時も皮膚症状を呈さなかった。観察期間の間、来院毎に観察及び角層の採取を行った。治療開始時のSCCA-1値は50.7 ng/mgと、やや低めながらも健常人に比べ優位に高く(19.1 ng/mg)、無視できない程度の値を示していた。観察開始85日後にSCCA-1値は250.6ng/mgと、観察開始時に比べ顕著に増加し、その結果は医師による皮膚所見(合計値7)と連動していた。一方、自己所見の上昇は観察期間を通してわずかであった(合計値1)。その結果を図8(C)に示す。

0068

以上の観察結果が示すとおり、同患者の被験部位No.4, 6, 7の疾患が再燃したため、観察の開始時において寛解期であったことが確認された。SCCA-1の値は観察開始時において無視できない程度の値を示していたことから、SCCA-1を指標とすることで、症状のない箇所の病態評価ができる可能性が示された。

実施例

0069

7.SCORAD指数との相関
アトピー性皮膚炎の重症度の分類に頻用されているのはSCORAD値である(非特許文献1)。対象者の皮膚症状を、皮疹の面積(A)(体表面積に占める割合)および紅斑、浸潤/皮疹、滲出液/痂皮、掻破痕、苔癬化、乾燥の各皮疹につき、その程度(0=なし、1=軽度、2=中程度、3=重度)の合計(B)を求め、被験者による自覚症状をVASによって評価(C)し、A/5+7XB/2+CによりSCORAD値として算出した。
SCORAD値を求めた各対象者について、テープストリッピングにより角層試料を採譜し、SCCA-1値も測定した。その際、皮膚の採取は対象者によりを1箇所のみ行った者(N=1)、2箇所行った者(N=2)、3箇所行なった者(N=3)とに分け、2箇所、3箇所採取した場合の対象者のSCCA-1値はそれぞれ平均値を求めた。次に、各対象者のSCORAD値と、N=1、N=2、N=3の各対象者のSCCA-1値との相関を求めた。
以下にその結果をまとめた。



以上の結果から、皮膚採取を3箇所以上行い、その平均SCCA-1値を求めた場合、SCORAD値と高い相関性を示すことがわかる。SCORAD値の算出には熟練した医師などによる専門的な作業を要し、また時間もかかるといった欠点がある。したがって、角層SCCA-1値を指標とすることで、SCORADに代わるより簡便でかつ客観的に重症度を分類できる手法が提供される。

0070

本発明は、皮膚角層中のSCCA-1を指標とすることで、アトピー性皮膚炎の治療を受療中の対象者において当該治療方針を簡易かつ客観的な評価のための診断補助方法の提供を可能にする。

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