図面 (/)

この項目の情報は公開日時点(2017年8月10日)のものです。
また、この項目は機械的に抽出しているため、正しく解析できていない場合があります

図面 (4)

課題

遺伝子組換えカイコ哺乳動物型糖鎖であるシアル酸が付加された組換えタンパク質バキュロウイルス発現系やシアル酸の経口及び経皮投与を行うことなく単独、かつ個体レベルで簡便に生産させる技術を開発し、提供する。

解決手段

哺乳動物型糖鎖修飾された組換えタンパク質がカイコ自身に有害とならないように絹糸腺内のみで哺乳動物型糖鎖付加関連遺伝子群発現誘導できる発現ベクターを開発し、それを導入した遺伝子組換えカイコを作製した。

概要

背景

遺伝子組換え技術を用いた組換えタンパク質生産は、新素材や高付加価値素材の開発、医薬品、化粧品等の生産産業上極めて重要である。例えば、2010年の世界医薬品売上高上位10品目における医療用タンパク質占有率は45.9%にのぼり(非特許文献1)、今後もさらに成長を続けることが予想されている。

組換えタンパク質の生産では、従来、大腸菌酵母等の微生物昆虫細胞動物細胞等の培養細胞宿主として利用されてきた。宿主は生産するタンパク質の構造や用途等に応じて選択される。一般に、微生物を用いたタンパク質生産系は、低コストで高効率な生産が可能であるが、大量生産や複雑な構造の組換えタンパク質の生産には適さない。一方、哺乳類培養細胞等の培養細胞を用いたタンパク質生産系は、複雑な構造の組換えタンパク質の生産が可能である。それ故、従来はバイオ医薬品の生産で主に利用されてきた。しかし、培養細胞によるタンパク質生産系は、巨額な設備投資、高価な培養液等による高コスト生産を避けることができない。バイオ医薬品の継続的な使用は患者に対する経済的負担を大きく、そのため複雑な構造を有する組換えタンパク質を低コストで生産できるタンパク質生産系の開発が求められていた。

上記問題を解決し得る新たなタンパク質生産系宿主として、近年、カイコ(silkworm: Bombyx mori)が注目を集めている。チョウ昆虫に属するカイコは、古くから絹糸生産を担う産業上有用な昆虫であったが、遺伝子組換え技術の躍進から、近年では有用タンパク質生産系としての期待が高まっている。カイコが幼虫期に絹糸を生産、分泌する絹糸腺は、大量のタンパク質を短期間に合成できることが知られている。そこで、この絹糸腺のタンパク質合成能を利用することで、絹糸腺内で目的のタンパク質を大量に生産させることが可能となる。カイコをタンパク質生産系とする場合には、目的のタンパク質をコードした外来遺伝子をカイコ細胞内に導入して形質転換体、すなわち遺伝子組換えカイコトランスジェニックカイコ)を作製する遺伝子組換え技術が必須となる。幸い、カイコではトランスポゾンpiggyBacを用いて外来遺伝子をゲノム内で安定に維持させる技術が確立している(非特許文献2)。カイコを用いたタンパク質生産系は、タンパク質生産量をカイコの飼育頭数によって容易に制御できる点、数万匹レベルでも省スペースで飼育できる点、孵化から5齢幼虫後期又はまでの期間が1か月弱と比較的短期間である点、人工孵化技術及び人工飼料により一年を通して飼育可能である点、生産されたタンパク質をとして回収容易な点等においても他の宿主を用いたタンパク質生産系と比較して優れている。

一方、カイコで生産されるタンパク質は、付加される糖鎖の構造がヒトをはじめとする哺乳動物とは異なる。図1に示すようにタンパク質のアスパラギン残基に結合するN型糖鎖において、カイコの蛹、中腸脂肪体等で生産されるタンパク質は、主として非還元末端マンノースが付加した高マンノース型末端構造を有している(B)。さらに、カイコの絹糸腺で生産される絹糸腺タンパク質は、非還元末端において前記末端マンノースにさらにN−アセチルグルコサミン(本明細書では、しばしば「GlcNAc」と表記する)が付加されたGlcNAc末端構造を有している(C)。これに対して、哺乳動物で主としてみられる糖鎖は非還元末端が上記GlcNAcにさらにガラクトースシアル酸が付加されたシアル酸末端構造となっている(A)。

タンパク質の糖鎖は、翻訳後修飾の一つとして付加され、生体内のタンパク質の50%以上に存在する。糖鎖は、タンパク質の安定化、保護、生理活性抗原抗体反応ウイルス感染及び体内動態等に関与する等、様々な機能をタンパク質に付与する重要な役割を担う。しかし、カイコと哺乳動物の糖鎖構造差異は、免疫原性を示す可能性が懸念され、アレルギー反応発症原因となり得る。したがって、カイコを宿主として医薬品タンパク質を生産する場合、糖鎖構造の差異が医薬品タンパク質の活性や安定性に影響を与えるリスクを伴う。それ故、遺伝子組換えカイコで生産される組換えタンパク質の糖鎖を哺乳動物型糖鎖改変する技術が求められていた。

昆虫培養細胞を用いた研究では、ヒト型糖鎖修飾経路を導入することで、組換えタンパク質の非還元末端にシアル酸を付加する哺乳動物型糖鎖修飾が可能となった培養細胞が報告されている(非特許文献3)。

また、糖タンパク質糖鎖のN-アセチルヘキソサミンを分解するヘキソミニダ—ゼの阻害剤培地に添加したところ、バキュロウイルスによって生産された組換えタンパク質の糖鎖非還元末端にシアル酸が付加したという報告もある(非特許文献4)。

さらに、特許文献1は、カイコにガラクトース転移酵素遺伝子を導入して、個体レベルでN型糖鎖の非還元末端にガラクトースを付加できたことを開示している。しかしながら、そのガラクトースの非還元末端にシアル酸を付加する機能を付与した遺伝子組換えカイコは知られていない。

非特許文献5は、ヒト由来Nアセチルグルコサミン転移酵素β1,3-N-acetylglucosaminyltransferase 2をカイコで発現させて、糖鎖を改変することに成功している。しかし、哺乳動物型のシアル酸を非還元末端には付加させていない。

概要

遺伝子組換えカイコに哺乳動物型糖鎖であるシアル酸が付加された組換えタンパク質をバキュロウイルス発現系やシアル酸の経口及び経皮投与を行うことなく単独、かつ個体レベルで簡便に生産させる技術を開発し、提供する。哺乳動物型糖鎖修飾された組換えタンパク質がカイコ自身に有害とならないように絹糸腺内のみで哺乳動物型糖鎖付加関連遺伝子群の発現を誘導できる発現ベクターを開発し、それを導入した遺伝子組換えカイコを作製した。なし

目的

特開2014-012024




日本政策投資銀行西支店資料(2012)
Tamura T. et al., 2000, Nat Biotechnol, 18: 81-84.
Jarivis DL et al., Curr Opin Biotechnol. 1998 Oct;9(5):528-533
Watanabae et al., J Biol Chem. 2002 Feb 15;277(7):5090-5093
Dojima et al., J2009, Biotechnol. 143(1):27-33






従来の発明では、遺伝子組換えカイコとバキュロウイルス発現系、及びシアル酸の経口や経皮投与の組み合わせによって、組換えタンパク質の非還元末端にシアル酸を付加させることに成功はしていたが、より簡便な方法、つまり遺伝子組換えカイコ単独でシアル酸付加機能を導入する技術が望まれていた

効果

実績

技術文献被引用数
0件
牽制数
0件

この技術が所属する分野

(分野番号表示ON)※整理標準化データをもとに当社作成

ライセンス契約や譲渡などの可能性がある特許掲載中! 開放特許随時追加・更新中 詳しくはこちら

請求項1

絹糸由来中部及び/又は後部絹糸腺プロモーター及び該プロモーターの下流に機能的に連結された(a)ガラクトース転移酵素をコードする遺伝子又は該酵素活性断片をコードするヌクレオチド、及び(b)UDP-GlcNAc2エピメラーゼ/ManNAcキナーゼ、Neu5Ac9-リン酸合成酵素、Neu5Ac9-リン酸脱リン酸化酵素、CMP-Neu5Ac合成酵素、及びシアル酸転移酵素、からなる群から選択される3以上のタンパク質をコードする遺伝子又は該タンパク質の活性断片をコードするヌクレオチドを含む独立した1〜3つの発現ベクターからなり、前記タンパク質をコードする遺伝子又は該タンパク質の活性断片をコードするヌクレオチドは、前記中部及び/又は後部絹糸腺プロモーターによる直接的又は間接的な発現制御を受けるように配置されている哺乳動物型糖鎖付加剤

請求項2

前記ガラクトース転移酵素がGalT2である、請求項1に記載の哺乳動物型糖鎖付加剤。

請求項3

前記中部絹糸腺プロモーターがセリシン1遺伝子セリシン2遺伝子、又はセリシン3遺伝子のプロモーターである、請求項1又は2に記載の哺乳動物型糖鎖付加剤。

請求項4

前記後部絹糸腺プロモーターがフィブロインH鎖遺伝子、フィブロインL鎖遺伝子、又はp25遺伝子のプロモーターである、請求項1又は2に記載の哺乳動物型糖鎖付加剤。

請求項5

前記選択される3以上のタンパク質がUDP-GlcNAc2エピメラーゼ/ManNAcキナーゼ、CMP-Neu5Ac合成酵素、及びシアル酸転移酵素を含む3以上のタンパク質である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の哺乳動物型糖鎖付加剤。

請求項6

前記発現ベクターが(c)CMP-Neu5Acシアル酸トランスポーターをコードする遺伝子又は該酵素の活性断片をコードするヌクレオチドをさらに含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の哺乳動物型糖鎖付加剤。

請求項7

前記発現ベクターが前記(a)に記載の遺伝子又はヌクレオチドを含む第1発現ベクター、及び前記(b)に記載の遺伝子又はヌクレオチドを含む第2発現ベクターからなる、請求項1〜6のいずれか一項に記載の哺乳動物型糖鎖付加剤。

請求項8

前記(c)に記載の遺伝子又はヌクレオチドが第2発現ベクターに含まれる、請求項7に記載の哺乳動物型糖鎖付加剤。

請求項9

前記タンパク質をコードする遺伝子又は該タンパク質の活性断片をコードするヌクレオチドが前記中部及び/又は後部絹糸腺プロモーターの下流に機能的に連結している、請求項1〜6のいずれか一項に記載の哺乳動物型糖鎖付加剤。

請求項10

前記発現ベクターが(i)前記中部及び/又は後部絹糸腺プロモーター、及び該プロモーターの下流に機能的に連結された転写調節因子をコードする遺伝子を含む第1サブユニットと、(ii)前記転写調節因子の標的プロモーター、及び該プロモーターの下流に機能的に連結された前記(a)〜(c)に記載の遺伝子又はヌクレオチドを含む一以上の第2サブユニットから構成される、請求項1〜8のいずれか一項に記載の哺乳動物型糖鎖付加剤。

請求項11

前記転写調節因子が酵母由来のGAL4タンパク質であり、その標的プロモーターがUAS(Upstream Activating Sequence)である、請求項10に記載の哺乳動物型糖鎖付加剤。

請求項12

前記絹糸虫がカイコである、請求項1〜11のいずれか一項に記載の哺乳動物型糖鎖付加剤。

請求項13

哺乳動物型がヒト型である、請求項1〜12のいずれか一項に記載の哺乳動物型糖鎖付加剤。

請求項14

請求項1〜9のいずれか一項に記載の哺乳動物型糖鎖付加剤を構成する発現ベクターを含む哺乳動物型糖鎖付加遺伝子組換え絹糸虫。

請求項15

請求項10又は11に記載の哺乳動物型糖鎖付加剤を構成する発現ベクターを含む哺乳動物型糖鎖付加遺伝子組換え絹糸虫。

請求項16

前記第1サブユニットと前記第2サブユニットとが異なる染色体上に存在する、請求項15に記載の哺乳動物型糖鎖付加遺伝子組換え絹糸虫。

請求項17

前記絹糸虫がカイコである、請求項14〜16のいずれか一項に記載の哺乳動物型糖鎖付加遺伝子組換え絹糸虫。

請求項18

哺乳動物型がヒト型である、請求項14〜17のいずれか一項に記載の哺乳動物型糖鎖付加遺伝子組換え絹糸虫。

請求項19

請求項10又は11に記載の哺乳動物型糖鎖付加剤を構成する発現ベクターの第2サブユニットのみを含む、哺乳動物型糖鎖付加遺伝子組換え絹糸虫作出系統

請求項20

哺乳動物型糖鎖付加遺伝子組換え絹糸虫を作製する方法であって、請求項19に記載の哺乳動物型糖鎖付加遺伝子組換え絹糸虫作出系統、及びそれと同種の請求項10又は11に記載の哺乳動物型糖鎖付加剤を構成する発現ベクターの第1サブユニットを有する遺伝子組換え絹糸虫作出系統を交配する交配工程、及び交配第1世代(F1)から第1サブユニット及び第2サブユニットを含む遺伝子組換え絹糸虫を哺乳動物型糖鎖付加遺伝子組換え絹糸虫として選抜する選抜工程を含む前記方法。

技術分野

0001

本発明は、目的の組換えタンパク質哺乳動物型糖鎖を付加することのできる遺伝子組換え絹糸虫、特に遺伝子組換えカイコ、及びその遺伝子組換え体作出するための発現ベクターに関する。

背景技術

0002

遺伝子組換え技術を用いた組換えタンパク質の生産は、新素材や高付加価値素材の開発、医薬品、化粧品等の生産産業上極めて重要である。例えば、2010年の世界医薬品売上高上位10品目における医療用タンパク質占有率は45.9%にのぼり(非特許文献1)、今後もさらに成長を続けることが予想されている。

0003

組換えタンパク質の生産では、従来、大腸菌酵母等の微生物昆虫細胞動物細胞等の培養細胞宿主として利用されてきた。宿主は生産するタンパク質の構造や用途等に応じて選択される。一般に、微生物を用いたタンパク質生産系は、低コストで高効率な生産が可能であるが、大量生産や複雑な構造の組換えタンパク質の生産には適さない。一方、哺乳類培養細胞等の培養細胞を用いたタンパク質生産系は、複雑な構造の組換えタンパク質の生産が可能である。それ故、従来はバイオ医薬品の生産で主に利用されてきた。しかし、培養細胞によるタンパク質生産系は、巨額な設備投資、高価な培養液等による高コスト生産を避けることができない。バイオ医薬品の継続的な使用は患者に対する経済的負担を大きく、そのため複雑な構造を有する組換えタンパク質を低コストで生産できるタンパク質生産系の開発が求められていた。

0004

上記問題を解決し得る新たなタンパク質生産系宿主として、近年、カイコ(silkworm: Bombyx mori)が注目を集めている。チョウ昆虫に属するカイコは、古くから絹糸生産を担う産業上有用な昆虫であったが、遺伝子組換え技術の躍進から、近年では有用タンパク質生産系としての期待が高まっている。カイコが幼虫期に絹糸を生産、分泌する絹糸腺は、大量のタンパク質を短期間に合成できることが知られている。そこで、この絹糸腺のタンパク質合成能を利用することで、絹糸腺内で目的のタンパク質を大量に生産させることが可能となる。カイコをタンパク質生産系とする場合には、目的のタンパク質をコードした外来遺伝子をカイコ細胞内に導入して形質転換体、すなわち遺伝子組換えカイコ(トランスジェニックカイコ)を作製する遺伝子組換え技術が必須となる。幸い、カイコではトランスポゾンpiggyBacを用いて外来遺伝子をゲノム内で安定に維持させる技術が確立している(非特許文献2)。カイコを用いたタンパク質生産系は、タンパク質生産量をカイコの飼育頭数によって容易に制御できる点、数万匹レベルでも省スペースで飼育できる点、孵化から5齢幼虫後期又はまでの期間が1か月弱と比較的短期間である点、人工孵化技術及び人工飼料により一年を通して飼育可能である点、生産されたタンパク質をとして回収容易な点等においても他の宿主を用いたタンパク質生産系と比較して優れている。

0005

一方、カイコで生産されるタンパク質は、付加される糖鎖の構造がヒトをはじめとする哺乳動物とは異なる。図1に示すようにタンパク質のアスパラギン残基に結合するN型糖鎖において、カイコの蛹、中腸脂肪体等で生産されるタンパク質は、主として非還元末端マンノースが付加した高マンノース型末端構造を有している(B)。さらに、カイコの絹糸腺で生産される絹糸腺タンパク質は、非還元末端において前記末端マンノースにさらにN−アセチルグルコサミン(本明細書では、しばしば「GlcNAc」と表記する)が付加されたGlcNAc末端構造を有している(C)。これに対して、哺乳動物で主としてみられる糖鎖は非還元末端が上記GlcNAcにさらにガラクトースシアル酸が付加されたシアル酸末端構造となっている(A)。

0006

タンパク質の糖鎖は、翻訳後修飾の一つとして付加され、生体内のタンパク質の50%以上に存在する。糖鎖は、タンパク質の安定化、保護、生理活性抗原抗体反応ウイルス感染及び体内動態等に関与する等、様々な機能をタンパク質に付与する重要な役割を担う。しかし、カイコと哺乳動物の糖鎖構造差異は、免疫原性を示す可能性が懸念され、アレルギー反応発症原因となり得る。したがって、カイコを宿主として医薬品タンパク質を生産する場合、糖鎖構造の差異が医薬品タンパク質の活性や安定性に影響を与えるリスクを伴う。それ故、遺伝子組換えカイコで生産される組換えタンパク質の糖鎖を哺乳動物型糖鎖に改変する技術が求められていた。

0007

昆虫培養細胞を用いた研究では、ヒト型糖鎖修飾経路を導入することで、組換えタンパク質の非還元末端にシアル酸を付加する哺乳動物型糖鎖修飾が可能となった培養細胞が報告されている(非特許文献3)。

0008

また、糖タンパク質糖鎖のN-アセチルヘキソサミンを分解するヘキソミニダ—ゼの阻害剤培地に添加したところ、バキュロウイルスによって生産された組換えタンパク質の糖鎖非還元末端にシアル酸が付加したという報告もある(非特許文献4)。

0009

さらに、特許文献1は、カイコにガラクトース転移酵素遺伝子を導入して、個体レベルでN型糖鎖の非還元末端にガラクトースを付加できたことを開示している。しかしながら、そのガラクトースの非還元末端にシアル酸を付加する機能を付与した遺伝子組換えカイコは知られていない。

0010

非特許文献5は、ヒト由来Nアセチルグルコサミン転移酵素β1,3-N-acetylglucosaminyltransferase 2をカイコで発現させて、糖鎖を改変することに成功している。しかし、哺乳動物型のシアル酸を非還元末端には付加させていない。

0011

特開2014-012024

先行技術

0012

日本政策投資銀行西支店資料(2012)
Tamura T. et al., 2000, Nat Biotechnol, 18: 81-84.
Jarivis DL et al., Curr Opin Biotechnol. 1998 Oct;9(5):528-533
Watanabae et al., J Biol Chem. 2002 Feb 15;277(7):5090-5093
Dojima et al., J2009, Biotechnol. 143(1):27-33

発明が解決しようとする課題

0013

従来の発明では、遺伝子組換えカイコとバキュロウイルス発現系、及びシアル酸の経口や経皮投与の組み合わせによって、組換えタンパク質の非還元末端にシアル酸を付加させることに成功はしていたが、より簡便な方法、つまり遺伝子組換えカイコ単独でシアル酸付加機能を導入する技術が望まれていた。しかし、シアル酸が付加されたヒト型糖鎖はカイコ個体に有害であり、通常の遺伝子発現システムではカイコの発生を阻害する問題があった。

課題を解決するための手段

0014

上記課題を解決するため、本発明者らは、カイコの絹糸腺内のみでヒト等の哺乳動物に由来する糖鎖付加関連遺伝子群の発現を誘導できる発現ベクターを開発した。それを導入した遺伝子組換えカイコは、発生上、有害な影響を受けることなく、絹糸腺内で生産された目的の組換えタンパク質のN型糖鎖末端に効率的にガラクトース及びシアル酸を付加することができた。また、哺乳動物型糖鎖の付加にはガラクトース転移酵素と、シアル酸合成系に関連する酵素遺伝子群から選択される3種以上の遺伝子を導入すれば足りること、シアル酸トランスポーター遺伝子をカイコに導入することで糖鎖付加効率が著しく増大すること、そしてガラクトース転移酵素のアイソザイムがこれまで一般的に使用されていたGalT1よりもGalT2の方が転移効率が高いことを見出した。本発明は、上記結果と知見に基づくもので、具体的には以下の(1)〜(20)で示す発明を提供する。

0015

(1)絹糸虫由来の中部及び/又は後部絹糸腺プロモーター(MSG又はPSGプロモーター)及び該プロモーターの下流に機能的に連結された(a)ガラクトース転移酵素(GalT)をコードする遺伝子又は該酵素活性断片をコードするヌクレオチド、及び(b)UDP-GlcNAc2エピメラーゼ/ManNAcキナーゼ(GNE)、Neu5Ac9-リン酸合成酵素(NANS)、Neu5Ac9-リン酸脱リン酸化酵素(NANP)、CMP-Neu5Ac合成酵素(CAMS)、及びシアル酸転移酵素(ST6GAL1)からなる群から選択される3以上のタンパク質をコードする遺伝子又は該タンパク質の活性断片をコードするヌクレオチドを含む独立した1〜3つの発現ベクターからなり、前記タンパク質をコードする遺伝子又は該タンパク質の活性断片をコードするヌクレオチドは、前記MSG又はPSGプロモーターによる直接的又は間接的な発現制御を受けるように配置されている哺乳動物型糖鎖付加剤
(2)前記ガラクトース転移酵素がGalT2である、(1)に記載の哺乳動物型糖鎖付加剤。
(3)前記中部絹糸腺プロモーターがセリシン1遺伝子セリシン2遺伝子、又はセリシン3遺伝子のプロモーターである、(1)又は(2)に記載の哺乳動物型糖鎖付加剤。
(4)前記後部絹糸腺プロモーターがフィブロインH鎖遺伝子、フィブロインL鎖遺伝子、又はp25遺伝子のプロモーターである、(1)又は(2)に記載の哺乳動物型糖鎖付加剤。
(5)前記選択される3以上のタンパク質がGNE、CAMS、及びST6GAL1を含む3以上のタンパク質である、(1)〜(4)のいずれかに記載の哺乳動物型糖鎖付加剤。
(6)前記発現ベクターが(c)CMP-Neu5Acシアル酸トランスポーター(SLC35A1)をコードする遺伝子又は該酵素の活性断片をコードするヌクレオチド
をさらに含む、(1)〜(5)のいずれかに記載の哺乳動物型糖鎖付加剤。
(7)前記発現ベクターが前記(a)に記載の遺伝子又はヌクレオチドを含む第1発現ベクター、及び前記(b)に記載の遺伝子又はヌクレオチドを含む第2発現ベクターからなる、(1)〜(6)のいずれかに記載の哺乳動物型糖鎖付加剤。
(8)前記(c)に記載の遺伝子又はヌクレオチドが第2発現ベクターに含まれる、(7)に記載の哺乳動物型糖鎖付加剤。
(9)前記タンパク質をコードする遺伝子又は該タンパク質の活性断片をコードするヌクレオチドが前記MSG又はPSGプロモーターの下流に機能的に連結している、(1)〜(6)のいずれかに記載の哺乳動物型糖鎖付加剤。
(10)前記発現ベクターが(i)前記MSG又はPSGプロモーター、及び該プロモーターの下流に機能的に連結された転写調節因子をコードする遺伝子を含む第1サブユニットと、(ii)前記転写調節因子の標的プロモーター、及び該プロモーターの下流に機能的に連結された前記(a)〜(c)に記載の遺伝子又はヌクレオチドを含む一以上の第2サブユニット
から構成される、(1)〜(8)のいずれかに記載の哺乳動物型糖鎖付加剤。
(11)前記転写因子酵母由来のGAL4タンパク質であり、その標的プロモーターがUAS(Upstream Activating Sequence)である、(10)に記載の哺乳動物型糖鎖付加剤。
(12)前記絹糸虫がカイコである、(1)〜(11)のいずれかに記載の哺乳動物型糖鎖付加剤。
(13)哺乳動物型がヒト型である、(1)〜(12)のいずれかに記載の哺乳動物型糖鎖付加剤。

0016

(14)(1)〜(9)のいずれかに記載の哺乳動物型糖鎖付加剤を構成する発現ベクターを含む哺乳動物型糖鎖付加遺伝子組換え絹糸虫。
(15)(10)又は(11)のいずれかに記載の哺乳動物型糖鎖付加剤を構成する発現ベクターを含む哺乳動物型糖鎖付加遺伝子組換え絹糸虫。
(16)前記第1サブユニットと前記第2サブユニットとが異なる染色体上に存在する、(15)に記載の哺乳動物型糖鎖付加遺伝子組換え絹糸虫。
(17)前記絹糸虫がカイコである、(14)〜(16)のいずれかに記載の哺乳動物型糖鎖付加遺伝子組換え絹糸虫。
(18)哺乳動物型がヒト型である、(14)〜(17)のいずれかに記載の哺乳動物型糖鎖付加遺伝子組換え絹糸虫。
(19)(10)又は(11)に記載の哺乳動物型糖鎖付加剤を構成する発現ベクターの第2サブユニットのみを含む、哺乳動物型糖鎖付加遺伝子組換え絹糸虫作出系統
(20)哺乳動物型糖鎖付加遺伝子組換え絹糸虫を作製する方法であって、(19)に記載の哺乳動物型糖鎖付加遺伝子組換え絹糸虫作出系統、及びそれと同種の(10)又は(11)に記載の哺乳動物型糖鎖付加剤を構成する発現ベクターの第1サブユニットを有する遺伝子組換え絹糸虫作出系統を交配する交配工程、及び交配第1世代(F1)から第1サブユニット及び第2サブユニットを含む遺伝子組換え絹糸虫を哺乳動物型糖鎖付加遺伝子組換え絹糸虫として選抜する選抜工程を含む前記方法。

発明の効果

0017

本発明の哺乳動物型糖鎖付加剤によれば、絹糸虫、好ましくはカイコに導入することで、その絹糸虫を容易に哺乳動物型糖鎖付加遺伝子組換え絹糸虫に改変することができる。

0018

本発明の哺乳動物型糖鎖付加遺伝子組換え絹糸虫によれば、その遺伝子組換え絹糸虫の絹糸腺内で生産される目的の組換えタンパク質又はペプチドに哺乳動物型N型糖鎖を付加することができる。

0019

本発明の哺乳動物型糖鎖付加遺伝子組換え絹糸虫作出方法によれば、宿主絹糸虫に本発明の哺乳動物型糖鎖付加剤を投与することで、哺乳動物型糖鎖付加剤を構成する発現ベクターを絹糸虫に導入して目的の哺乳動物型糖鎖付加遺伝子組換え絹糸虫を得ることができる。

図面の簡単な説明

0020

哺乳動物及びカイコ絹糸腺タンパク質のN型糖鎖の概念図である。Aは哺乳動物の、Bはカイコの蛹、中腸、脂肪体等に存在するタンパク質の、Cは絹糸腺に存在するタンパク質のN型糖鎖構造である。
ゴルジ装置内における哺乳動物型及び昆虫型のN型糖鎖合成経路とヒトシアル合成経路の概念図である。図中、斜体で示す7種のタンパク質(ガラクトース転移酵素GalTと6種のシアル酸関連タンパク質GNE、NANS、NANP、CMAS、ST6GAL1及びSLC35A1)をコードする遺伝子が本発明において、カイコ個体内強制発現させる遺伝子群である。破線で示す経路は、本発明で生じる反応経路の概念図である。
精製したATIIIのSDS-PAGEの結果を示す。レーン1は中部絹糸腺(MSG)抽出液、及びレーン2〜7はNiカラム精製溶出液を示す。矢印はATIIIの位置を示している。枠内は、ゲル消化のために切り出した領域である。
精製したIFNγのSDS-PAGEの結果を示す。レーン1はMSG抽出液、レーン2はNiカラム精製の素通り画分、レーン3及び4は洗浄液、及びレーン5及び6は溶出液を示す。矢印は、検出された3本のバンドを示している。*及び**はゲル内消化用に切り出したバンドである。

0021

1.哺乳動物型糖鎖付加剤
1−1.概要
本発明の第の態様は、哺乳動物型糖鎖付加剤である。本発明の糖鎖付加剤は、独立した1〜3つの発現ベクターで構成される。本発明の糖鎖付加剤をカイコ等の絹糸虫内に導入することで哺乳動物型糖鎖付加遺伝子組換え絹糸虫を容易に作製することができる。

0022

1−2.定義
本明細書で頻用する以下の用語について定義する。
本明細書において「哺乳動物型糖鎖付加剤」とは、後述する構成を有する絹糸虫に適用する薬剤をいう。

0023

本明細書において「哺乳動物型糖鎖」とは、タンパク質のアスパラギン残基に付加されるN型糖鎖で、図1のAで示すように、GlcNAc非還元末端にガラクトースが付加され、さらにそのガラクトースにシアル酸が付加したシアル酸非還元末端糖鎖構造を有する糖鎖である。一般にはSianGalnGlcNAcnManm-Asn(Siaはシアル酸、特にNアセチルノイラミン酸を、Galはガラクトースを、Manはマンノースを、そしてmは独立に2以上の整数を、またnは独立に1以上の整数を表す)で表される構造を有する。

0024

本発明において「哺乳動物」は、特に限定はしないが、好ましくはヒト、チンパンジーラットマウスイヌネコウシブタウマヤギヒツジ等が該当する。好ましくはヒトである。つまり、「ヒト型糖鎖」が好ましい。

0025

「絹糸」とは、主として絹糸虫の絹糸腺内で生合成される動物繊維をいう。
本明細書において「絹糸虫(silk-spinning worm)」とは、絹糸腺を有し、絹糸を吐糸することのできる昆虫の総称をいう。具体的には、チョウ目昆虫、ハチ目昆虫アミメカロウ目昆虫、トビケラ目昆虫等において、主として幼虫期に営巣営繭又は移動のために吐糸することのできる種類を指す。ここで、チョウ目昆虫は、分類学上のチョウ目(鱗翅目:Lepidoptera)に属する昆虫で、各種チョウ又はガが該当する。ハチ目昆虫は、分類学上のハチ目(膜翅目:Hymenoptera)に属する昆虫で、各種ハチ又はアリが該当する。アミメカゲロウ目昆虫は、アミメカゲロウ目(脈翅目:Neuroptera)に属する昆虫で、ヘビトンボツノトンボ、ウスカゲロウ等が該当する。トビケラ目昆虫は、トビケラ目(毛翅目:Trichoptera)に属する昆虫で、各種トビケラが該当する。本発明における絹糸虫には、大型の絹糸腺を有し、多量の絹糸を吐糸できるチョウ目昆虫が好ましく、中でもカイコガ科(Bombycidae)、ヤママユガ科(Saturniidae)、イボタガ科(Brahmaeidae)、オビガ科(Eupterotidae)、カレハガ科(Lasiocampidae)、ミノガ科(Psychidae)、ヒトリガ科(Archtiidae)、ヤガ科(Noctuidae)等に属する種が好適であり、Bombyx属、Samia属、Antheraea属、Saturnia属、Attacus属、Rhodinia属に属する種、具体的には、カイコの他、クワコ(Bombyx mandarina)、シンジュサン(Samia cynthia;エリサンSamia cynthia ricini及びシンジュサンとエリサンの交配種を含む)、ヤママユガ(Antheraea yamamai)、サクサン(Antheraea pernyi)、ヒメヤママユ(Saturnia japonica)、オオミズアオ(Actias gnoma)等の野蚕と呼ばれるグループに属する種は特に好適である。最も好ましい絹糸虫は、カイコである。

0026

「絹糸腺」とは、絹糸虫が有する唾液腺の変化した管状器官であって、液状絹を産生、蓄積し、また分泌する機能を有する。絹糸腺は、主として絹糸虫の幼虫の消化管に沿って左右一対で存在し、各絹糸腺は、前部、中部及び後部絹糸腺の3領域で構成されている。
カイコをはじめとする多くの絹糸虫において、中部絹糸腺(middle silk gland:本明細書では、しばしば「MSG」と表記する)細胞内では、絹糸の被覆成分である水溶性ゼラチン様タンパク質、セリシンが合成され、中部絹糸腺内腔中に分泌される。また、後部絹糸腺(posterior silk gland:本明細書では、しばしば「PSG」と表記する)細胞内では、絹糸の繊維成分を構成する3つの主要なタンパク質フィブロインH鎖(本明細書では、しばしば「Fib H」と表記する)、フィブロインL鎖(本明細書では、しばしば「Fib L」と表記する)、及びp25/FHX(以下、「p25」と表記する)が合成されている。これら3つのタンパク質は、Fib H:Fib L:p25=6:6:1の比率SFEU(silk fibroin elementary unit)複合体を形成し、後部絹糸腺内腔中に分泌される。その後、SFEU複合体は中部絹糸腺内腔に移行し、セリシンで被覆され、絹糸として前部絹糸腺から吐糸される。したがって、絹糸虫をタンパク質発現系として利用する場合、中部又は後部絹糸腺で特異的に発現する遺伝子発現系を利用すればよい。

0027

本明細書において「発現ベクター」とは、組換えタンパク質をコードする組換え遺伝子又はその活性断片をコードするヌクレオチドを発現可能な状態で含み、その組換え遺伝子等の発現を制御できる発現単位をいう。本発明の発現ベクターは、宿主細胞内で複製可能な様々な発現単位を利用することができる。例えば、自律複製可能なプラスミドベクター若しくはバクミド(Bacmid)ベクターウイルスベクター等が挙げられる。本明細書では主にプラスミドベクターを使用する。本発明の哺乳動物型糖鎖付加剤を構成する発現ベクター(以下、本明細書ではしばしば「糖鎖付加剤発現ベクター」と表記する)は、2つ以上の独立したサブユニットで構成されていてもよい。この場合、サブユニット全体で1つの発現ベクターと解する。各サブユニットの構成については、後述する。

0028

本明細書において「目的の組換えタンパク質」とは、目的の組換え遺伝子にコードされたタンパク質であって、絹糸虫を用いたタンパク質生産系において絹糸腺内で生産すべき組換えタンパク質をいう。本明細書では、哺乳動物型糖鎖付加遺伝子組換え絹糸虫において、哺乳動物型糖鎖が付加される対象となる組換えタンパク質である。目的の組換えタンパク質は、1遺伝子由来又はその遺伝子断片由来の他、複数の遺伝子の一部を連結したキメラ遺伝子由来のいずれであってもよい。目的の組換えタンパク質のアミノ酸長は、特に限定はしない。アミノ酸残基数が8〜10,000個であってもよい。例えば、オキシトシンのように僅か9アミノ酸からなるペプチドホルモン包含する。本明細書における目的の組換えタンパク質の種類は特に限定はしないが、付加価値の高いタンパク質が好適である。例えば、インスリンカルシトニンパラトルモン及び成長ホルモンのようなペプチドホルモン、上皮成長因子(EGF)、繊維芽細胞成長因子(FGF)、インターロイキンIL)、インターフェロン(IFN)、腫瘍壊死因子α(TNF-α)及びトランスフォーミング成長因子β(TGF-β)のようなサイトカイン免疫グロブリンアンチトロンビンIII血清アルブミンヘモグロビン、各種酵素、又はコラーゲン、あるいはそれらの断片(キメラペプチドを含む)が挙げられる。

0029

本明細書において「目的の組換え遺伝子」とは、前記目的の組換えタンパク質をコードする原則として外来性の遺伝子をいう。本明細書において目的の組換え遺伝子は、発現ベクター内で中部及び/又は後部絹糸腺プロモーターに機能的に連結されて存在する。この発現ベクターは、糖鎖付加剤発現ベクターであってもよい。

0030

1−3.構成
1−3−1.構成要素
本発明の哺乳動物型糖鎖付加剤は、糖鎖付加剤発現ベクターで構成される。糖鎖付加剤発現ベクターは、(1)絹糸虫由来の中部及び/又は後部絹糸腺プロモーター、(2)糖鎖付加関連遺伝子又はそのタンパク質の活性断片をコードするヌクレオチド(本明細書では、しばしば「糖鎖付加関連遺伝子等」と表記する)を必須の構成要素として含む。また、糖鎖付加剤発現ベクターが、後述する第1サブユニットと第2サブユニットの2つのサブユニットで構成される場合には、(3)転写調節因子をコードする遺伝子及び(4)該転写調節因子の標的プロモーターを必須の構成要素として包含する。その他、糖鎖付加剤発現ベクターは、前記糖鎖付加関連遺伝子等の発現に寄与し得る他の構成要素を含むことができる。他の構成要素とは、例えば、(5)ターミネーター、(6)標識遺伝子、(7)エンハンサー、(8)インスレーター、及び(9)トランスポゾンの逆位末端反復配列等が挙げられる。以下、各構成要素について、具体的に説明をする。

0031

(1)中部又は後部絹糸腺プロモーター
本明細書において「中部又は後部絹糸腺プロモーター(MSG又はPSGプロモーター)」とは、糖鎖付加剤発現ベクターの必須構成要素であり、絹糸虫の中部又は後部絹糸腺で特異的に発現する遺伝子の発現を制御する部位特異的プロモーターをいう。

0032

絹糸虫の中部絹糸腺(MSG)で特異的に発現する遺伝子には、例えば、セリシン1(本明細書では、しばしば「Ser1」と表記する)遺伝子、セリシン2(本明細書では、しばしば「Ser2」と表記する)遺伝子、及びセリシン3(本明細書では、しばしば「Ser3」と表記する)遺伝子等が挙げられる。したがってSer1〜Ser3遺伝子の発現を制御するプロモーター(本明細書では、それぞれSer1プロモーター、Ser2プロモーター、及びSer3プロモーターと称する)は、糖鎖付加剤発現ベクターの絹糸虫由来のMSGプロモーターとして好適である。これらのプロモーターの具体例として、カイコ由来の、配列番号1で示す塩基配列からなるSer1プロモーター、配列番号2で示す塩基配列からなるSer2プロモーター、及び配列番号3で示す塩基配列からなるSer3プロモーターが挙げられる。

0033

絹糸虫の後部絹糸腺(PSG)で特異的に発現する遺伝子には、例えば、Fib H遺伝子、FibL遺伝子、又はp25遺伝子が挙げられる。したがってこれらの遺伝子の発現を制御するプロモーター(本明細書では、それぞれFib Hプロモーター、Fib Lプロモーター、及びp25プロモーターと称する)は、糖鎖付加剤発現ベクターの絹糸虫由来のPSGプロモーターとして好適である。これらのプロモーターの具体例として、カイコ由来の、配列番号4で示す塩基配列からなるFib Hプロモーター、配列番号5で示す塩基配列からなるFib Lプロモーター、及び配列番号6で示す塩基配列からなるp25プロモーターが、またサクサン由来の配列番号7で示す塩基配列からなるFib Hプロモーター及び配列番号8で示す塩基配列からなるFib Lプロモーターが、挙げられる。

0034

なお、MSG又はPSGプロモーターの塩基配列は、絹糸虫間で進化的に非常によく保存されている。したがって、例えば、PSGプロモーターは異なる絹糸虫種のPSGにおいても作動し得る蓋然性が高い(Sezutsu H., et al., 2009, Journal of Insect Biotechnology and Sericology, 78 :1-10)。よって、MSG又はPSGプロモーターの由来生物種と糖鎖付加剤発現ベクターを導入する絹糸虫の生物種は必ずしも同一種でなくてもよい。好ましくは同じ目に属する種、より好ましくは同じ科に属する種、さらに好ましくは同じ属に属する種、最も好ましいのは同種由来のプロモーターである。

0035

糖鎖付加剤発現ベクターは、MSG又はPSGプロモーターのどちらを含んでいてもよい。後述するように、糖鎖付加剤発現ベクターが2つの独立した発現ベクターで構成される場合、それぞれの発現ベクターは異なる絹糸腺プロモーターを含むこともできる。また1つの発現ベクター内に含まれる後述する複数の糖鎖付加関連遺伝子の発現を異なる絹糸腺プロモーターで制御してもよい。通常は、MSG又はPSGプロモーターのどちらか一方を含んでいれば足りる。好ましくはMSGプロモーターである。

0036

糖鎖付加剤発現ベクターにおいてMSG又はPSGプロモーターは、その下流域(3’末端側)の制御領域範囲内に後述する糖鎖付加関連遺伝子等又は転写調節因子をコードする遺伝子を配置できるように構成されている。

0037

(2)糖鎖付加関連遺伝子等
糖鎖付加関連遺伝子又はその遺伝子がコードするタンパク質の活性断片をコードするヌクレオチド(糖鎖付加関連遺伝子等)は、前述のMSG又はPSGプロモーターと共に糖鎖付加剤発現ベクターにおける中心的な構成要素である。

0038

本明細書において「糖鎖付加関連遺伝子」とは、哺乳動物型糖鎖付加に関連するガラクト—ス転移酵素及び6種のシアル酸関連タンパク質をコードする遺伝子をいう。「その遺伝子がコードするタンパク質の活性断片をコードするヌクレオチド」とは、糖鎖付加関連遺伝子がコードするタンパク質の部分ペプチドであって、そのタンパク質と同等以上の生理活性を有するペプチドのアミノ酸配列をコードするヌクレオチドをいう。例えば、タンパク質の機能ドメインをコードするヌクレオチドが該当する。前記部分ペプチドのアミノ酸の長さは活性を有する限り特に限定しない。40アミノ酸以上、50アミノ酸以上、60アミノ酸以上、70アミノ酸以上、全長未満であればよい。以下、各糖鎖付加関連遺伝子について具体的に説明をする。

0039

A.ガラクトース転移酵素
「ガラクトース転移酵素(β1,4-galactosyltransferase:本明細書ではしばしば「GalT」と表記する)」は、ドナー基質であるUDPガラクトース(UDP-Gal)から糖タンパク質のGlcNAcβ1-2Manにガラクトースを転移する反応を触媒する酵素である。本発明の哺乳動物型糖鎖付加剤においては、絹糸虫の絹糸腺由来タンパク質でN型糖鎖のGlcNAc非還元末端にガラクトースを付加する機能を有する。GalTは、複数のアイソザイムの存在が知られている。例えばマウスでは7種類のアイソザイムが同定されている。そのうち糖タンパク質に関与するのはGalT1、GalT2、GalT3、及びGalT4の4種であるが本発明の哺乳動物型糖鎖付加剤としての活性を有するのはGalT1、GalT2、及びGalT3の3種であり、中でもGalT2が特に好ましい。したがって、本明細書でGalTと表記する場合、特に断りのない限り、GalT1、GalT2、及びGalT3のいずれかを意味するものとする。

0040

GalT遺伝子は、糖鎖付加剤発現ベクターにおいて必須の構成要素である。糖鎖付加剤発現ベクターにおけるGalT遺伝子の由来生物種は、特に限定はしない。例えば、線虫や昆虫等の無脊椎動物脊索動物魚類両生類爬虫類鳥類及び哺乳動物等の脊椎動物等、いずれの生物由来のGalT遺伝子も使用することができる。好ましくは、ヒト、ラット、マウス等の哺乳動物由来のGalT遺伝子である。具体的には、配列番号9で示すアミノ酸配列からなるヒトGalT1をコードするヒトGalT1遺伝子(例えば、配列番号10で示す塩基配列からなるヒトGalT1遺伝子)、配列番号11で示すアミノ酸配列からなるラットGalT1遺伝子(例えば、配列番号12で示す塩基配列からなるラットGalT1遺伝子)、配列番号13で示すアミノ酸配列からなるマウスGalT1遺伝子(例えば、配列番号14で示す塩基配列からなるマウスGalT1遺伝子)、配列番号15で示すアミノ酸配列からなるヒトGalT2をコードするヒトGalT2遺伝子(例えば、配列番号16で示す塩基配列からなるヒトGalT2遺伝子)、配列番号17で示すアミノ酸配列からなるラットGalT2遺伝子(例えば、配列番号18で示す塩基配列からなるラットGalT1遺伝子)、配列番号19で示すアミノ酸配列からなるマウスGalT2遺伝子(例えば、配列番号20で示す塩基配列からなるマウスGalT2遺伝子)、及び配列番号21で示すアミノ酸配列からなるヒトGalT3をコードするヒトGalT3遺伝子(例えば、配列番号22で示す塩基配列からなるヒトGalT3遺伝子)配列番号23で示すアミノ酸配列からなるラットGalT3遺伝子(例えば、配列番号24で示す塩基配列からなるラットGalT3遺伝子)、配列番号25で示すアミノ酸配列からなるマウスGalT3遺伝子(例えば、配列番号26で示す塩基配列からなるマウスGalT3遺伝子)が挙げられる。

0041

B.6種のシアル酸関連タンパク質
「6種のシアル酸関連タンパク質」とは、絹糸虫の絹糸腺細胞内においてN型糖鎖のガラクトース非還元末端にシアル酸を付加する上で必要な一連のタンパク質であり、シアル酸転移酵素の基質合成関連酵素4種、シアル酸転移酵素、及び糖ヌクレオチドトランスポーターからなる。

0042

シアル酸転移酵素の基質合成関連酵素4種は、図2に示すようにGlcNAc-1-P(N-acetylglucosamine-1-phosphate)をCMP-Neu5Ac(CMP-N-acetylneuraminic acid:CMP-シアル酸)に変換するシアル酸合成経路において機能する酵素群であり、UDP-GlcNAc2エピメラーゼ/ManNAcキナーゼ、Neu5Ac9-リン酸合成酵素、Neu5Ac9-リン酸脱リン酸化酵素、CMP-Neu5Ac合成酵素からなる。

0043

なお、本明細書ではシアル酸関連タンパク質をコードする遺伝子をしばしば「シアル酸関連遺伝子」と表記する。以下、6種のシアル酸関連タンパク質について説明する。

0044

「UDP-GlcNAc2エピメラーゼ/ManNAcキナーゼ(UDP-acetylglucosamine 2-epimerase/N-acetylmannosamine kinase:本明細書ではしばしば「GNE」と表記する)」は、GlcNAc-1-PをUDP-GlcNAc(Uridine diphosphate N-acetylglucosamine)に、またUDP-GlcNAcをさらにManNac-6-P(N-acetylmannosamine-6-phosphate)に変換する触媒作用を有する。本明細書ではGNEをコードする遺伝子を「GNE遺伝子」と表記する。糖鎖付加剤発現ベクターにおけるGNE遺伝子の由来生物種は、特に限定はしない。線虫や昆虫等の無脊椎動物、脊索動物、魚類、両生類、爬虫類、鳥類及び哺乳動物等の脊椎動物等、いずれの生物由来のGEN遺伝子も使用することができる。好ましくは、ヒト、ラット、マウス等の哺乳動物由来のGNE遺伝子である。具体的には、配列番号27で示すアミノ酸配列からなるヒトGNEをコードする遺伝子(例えば、配列番号28で示す塩基配列からなるヒトGNE遺伝子)、配列番号29で示すアミノ酸配列からなるラットGNEをコードするラットGNE遺伝子(例えば、配列番号30で示す塩基配列からなるラットGNE遺伝子)、及び配列番号31で示すアミノ酸配列からなるマウスGNEをコードするマウスGNE遺伝子(例えば、配列番号32で示す塩基配列からなるマウスGNE遺伝子)が挙げられる。

0045

「Neu5Ac9-リン酸合成酵素(Neu5Ac9-phosphate synthase:本明細書ではしばしば「NANS」と表記する)」は、GNEの触媒作用によって生じたManNac-6-PをNeu5Ac-9-P(N-acetylneuraminic acid-9-phosphate)に変換する触媒作用を有する。本明細書ではNANSをコードする遺伝子を「NANS遺伝子」と表記する。糖鎖付加剤発現ベクターにおけるNANS遺伝子の由来生物種は、特に限定はしない。線虫や昆虫等の無脊椎動物、脊索動物、魚類、両生類、爬虫類、鳥類及び哺乳動物等の脊椎動物等、いずれの生物由来のNANS遺伝子も使用することができる。好ましくは、ヒト、ラット、マウス等の哺乳動物由来のNANS遺伝子である。具体的には、配列番号33で示すアミノ酸配列からなるヒトNANSをコードするヒトNANS遺伝子(例えば、配列番号34で示す塩基配列からなるヒトNANS遺伝子)、配列番号35で示すアミノ酸配列からなるラットNANSをコードするラットNANS遺伝子(例えば、配列番号36で示す塩基配列からなるラットNANS遺伝子)、及び配列番号37で示すアミノ酸配列からなるマウスNANSをコードするマウスNANS遺伝子(例えば、配列番号38で示す塩基配列からなるマウスNANS遺伝子)が挙げられる。

0046

「Neu5Ac9-リン酸脱リン酸化酵素(Neu5Ac9-phosphate phosphatase:本明細書ではしばしば「NANP」と表記する)」は、NANSの触媒作用によって生じたNeu5Ac-9-Pからリン酸を除去しNeu5Ac(N-acetylneuraminic acid)に変換する触媒作用を有する。本明細書ではNANPをコードする遺伝子を「NANP遺伝子」と表記する。糖鎖付加剤発現ベクターにおけるNANP遺伝子の由来生物種は、特に限定はしない。線虫や昆虫等の無脊椎動物、脊索動物、魚類、両生類、爬虫類、鳥類及び哺乳動物等の脊椎動物等、いずれの生物由来のNANP遺伝子も使用することができる。好ましくは、ヒト、ラット、マウス等の哺乳動物由来のNANP遺伝子である。具体的には、配列番号39で示すアミノ酸配列からなるヒトNANPをコードするヒトNANP遺伝子(例えば、配列番号40で示す塩基配列からなるヒトNANP遺伝子)、配列番号41で示すアミノ酸配列からなるラットNANPをコードするラットNANP遺伝子(例えば、配列番号42で示す塩基配列からなるラットNANP遺伝子)、及び配列番号43で示すアミノ酸配列からなるマウスNANPをコードするマウスNANP遺伝子(例えば、配列番号44で示す塩基配列からなるマウスNANP遺伝子)が挙げられる。

0047

「CMP-Neu5Ac合成酵素(CMP-Neu5Ac synthase:本明細書ではしばしば「CMAS」と表記する)」は、NANPの触媒作用によって生じたNeu5AcをCMP-Neu5Acに変換する触媒作用を有する。本明細書ではCMASをコードする遺伝子を「CMAS遺伝子」と表記する。糖鎖付加剤発現ベクターにおけるCMAS遺伝子の由来生物種は、特に限定はしない。線虫や昆虫等の無脊椎動物、脊索動物、魚類、両生類、爬虫類、鳥類及び哺乳動物等の脊椎動物等、いずれの生物由来のCMAS遺伝子も使用することができる。好ましくは、ヒト、ラット、マウス等の哺乳動物由来のCMAS遺伝子である。具体的には、配列番号45で示すアミノ酸配列からなるヒトCMASをコードするヒトCMAS遺伝子(例えば、配列番号46で示す塩基配列からなるヒトCMAS遺伝子)、配列番号47で示すアミノ酸配列からなるラットCMASをコードするラットCMAS遺伝子(例えば、配列番号48で示す塩基配列からなるラットCMAS遺伝子)、及び配列番号49で示すアミノ酸配列からなるマウスCMASをコードするマウスCMAS遺伝子(例えば、配列番号50で示す塩基配列からなるマウスCMAS遺伝子)が挙げられる。

0048

「シアル酸転移酵素(α2,6-sialyltransferase:本明細書ではしばしば「ST6GAL1」と表記する)」は、糖転移酵素の一種であり、前記シアル酸合成経路で合成され、SLC35A1の作用によりゴルジ装置内に輸送されたドナー基質CMP-Neu5Acから受容体基質である糖タンパク質及び糖脂質中の糖鎖構造にシアル酸残基を転移する反応を触媒する。本明細書ではST6GAL1をコードする遺伝子を「ST6GAL1遺伝子」と表記する。糖鎖付加剤発現ベクターにおけるST6GAL1遺伝子の由来生物種は、特に限定はしない。線虫や昆虫等の無脊椎動物、脊索動物、魚類、両生類、爬虫類、鳥類及び哺乳動物等の脊椎動物等、いずれの生物由来のST6GAL1遺伝子も使用することができる。好ましくは、ヒト、ラット、マウス等の哺乳動物由来のST6GAL1遺伝子である。具体的には、配列番号51で示すアミノ酸配列からなるヒトST6GAL1をコードするヒトST6GAL1遺伝子(例えば、配列番号52で示す塩基配列からなるヒトST6GAL1遺伝子)、配列番号53で示すアミノ酸配列からなるラットST6GAL1をコードするラットST6GAL1遺伝子(例えば、配列番号54で示す塩基配列からなるラットST6GAL1遺伝子)、及び配列番号55で示すアミノ酸配列からなるマウスST6GAL1をコードするマウスST6GAL1遺伝子(例えば、配列番号56で示す塩基配列からなるマウスST6GAL1遺伝子)が挙げられる。

0049

本明細書において「糖ヌクレオチドトランスポーター」とは、ゴルジ装置へのシアル酸輸送能を有するトランスポータータンパク質をいう。例えば、シアル酸トランスポーターが該当する。

0050

「シアル酸トランスポーター(CMP-Neu5Ac transporter:本明細書ではしばしば「SLC35A1」と表記する)」は、ゴルジ装置の膜上に存在する膜輸送タンパク質の一種であり、前記シアル酸合成経路で合成されたCMP-Neu5Acをゴルジ装置内に輸送する作用を有する。本明細書ではSLC35A1をコードする遺伝子を「SLC35A1遺伝子」と表記する。糖鎖付加剤発現ベクターにおけるSLC35A1遺伝子の由来生物種は、特に限定はしない。線虫や昆虫等の無脊椎動物、脊索動物、魚類、両生類及び哺乳動物等の脊椎動物等、いずれの生物由来のSLC35A1遺伝子も使用することができる。好ましくは、ヒト、ラット、マウス等の哺乳動物由来のSLC35A1遺伝子である。具体的には、配列番号57で示すアミノ酸配列からなるヒトSLC35A1をコードするヒトSLC35A1遺伝子(例えば、配列番号58で示す塩基配列からなるヒトSLC35A1遺伝子)、配列番号59で示すアミノ酸配列からなるラットSLC35A1をコードするラットSLC35A1遺伝子(例えば、配列番号60で示す塩基配列からなるラットSLC35A1遺伝子)、及び配列番号61で示すアミノ酸配列からなるマウスSLC35A1をコードするマウスSLC35A1遺伝子(例えば、配列番号62で示す塩基配列からなるマウスSLC35A1遺伝子)が挙げられる。

0051

糖鎖付加剤発現ベクターには、前記6種のシアル酸関連遺伝子のうち、SLC35A1遺伝子を除くGNE遺伝子、NANS遺伝子、NANP遺伝子、CMAS遺伝子及びST6GAL1遺伝子の5種からなる群から選択される3種以上の遺伝子が必須の構成要素として含まれる。例えば、3種であれば、GNE遺伝子、CMAS遺伝子及びST6GAL1遺伝子の組が挙げられる。また、4種であればGNE遺伝子、NANP遺伝子、CMAS遺伝子及びST6GAL1遺伝子の組が挙げられる。好ましくは5種全ての選択である。一方、SLC35A1遺伝子は、糖鎖付加剤発現ベクターにおいて選択構成要素である。SLC35A1遺伝子を加えることで発明の効果が増強されることから、6種全てを含む場合が特に好ましい。

0052

前記各遺伝子は、野生型遺伝子が好ましいが、各遺伝子がコードするタンパク質の活性を維持する限り変異型遺伝子であってもよい。例えば、SNPsのような遺伝子多型による変異型遺伝子が挙げられる。このような変異型遺伝子には、野生型遺伝子の塩基配列において1〜複数個塩基欠失置換又は付加された塩基酸配列からなる遺伝子、野生型遺伝子の塩基配列に対して70%以上、80%以上、85%以上、90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは96%以上、97%以上、98%以上又は99%以上の塩基同一性を有する塩基配列からなる遺伝子が挙げられる。本明細書において「複数個」とは、例えば、2〜20個、2〜15個、2〜10個、2〜7個、2〜5個、2〜4個又は2〜3個をいう。「塩基同一性」とは、二つの塩基配列を整列アラインメント)し、必要に応じていずれかの塩基配列にギャップを導入して、両者の塩基一致度が最も高くなるようにしたときの、野生型遺伝子の全塩基基数に対する同一塩基の割合(%)をいう。

0053

(3)転写調節因子をコードする遺伝子
本明細書において「転写調節因子をコードする遺伝子」とは、後述する第1サブユニットの必須構成要素であって、転写調節因子の遺伝子をいう。本明細書でいう「転写調節因子」とは、後述する標的プロモーターに結合して、その標的プロモーターを活性化することのできるタンパク質因子をいう。例えば、酵母のガラクトース代謝活性化タンパク質であるGAL4タンパク質、及びテトラサイクリン制御性トランス活性化因子であるtTA及びその変異体等が挙げられる。

0054

(4)該転写調節因子の標的プロモーター
本明細書において「転写調節因子の標的プロモーター」とは、後述する第2サブユニットの必須構成要素であって、第1サブユニットにコードされた転写調節因子が結合することよって、その制御下にある遺伝子発現を活性化することのできるプロモーターをいう。前記転写調節因子とその標的プロモーターは、前記転写調節因子とは対応関係にあり、通常、転写調節因子が定まれば、その標的プロモーターも必然的に定まる。例えば、転写調節因子がGAL4タンパク質の場合には、UAS(Upstream Activating Sequence)が使用される。

0055

糖鎖付加剤発現ベクターにおいて転写調節因子の標的プロモーターは、その下流域の制御領域範囲内に前述の糖鎖付加関連遺伝子等を配置できるように構成されている。

0056

(5)ターミネーター
本明細書において「ターミネーター」は、本態様の糖鎖付加剤発現ベクターにおいて遺伝子等の発現時にその転写終結できる塩基配列で構成される選択構成要素である。

0057

(6)標識遺伝子
本明細書において「標識遺伝子」は、選抜マーカーとも呼ばれる標識タンパク質をコードする遺伝子である。標識タンパク質は、その活性に基づいて標識遺伝子の発現の有無を判別することのできるポリペプチドをいう。それ故、糖鎖付加剤発現ベクターが標識遺伝子を含むことによって、糖鎖付加剤発現ベクターを保有している遺伝子組換え絹糸虫を標識タンパク質の活性に基づいて容易に判別することができる。ここで「活性に基づいて」とは「活性の検出結果に基づいて」という意味である。活性の検出は、標識タンパク質の活性そのものを直接的に検出してもよいし、標識タンパク質の活性によって生成される色素のような代謝物を介して間接的に検出してもよい。検出は、化学的検出(酵素反応的検出を含む)、物理的検出(行動分析的検出を含む)、又は検出者感覚的検出(視覚触覚嗅覚聴覚味覚による検出を含む)のいずれであってもよい。

0058

標識タンパク質の種類は、当該分野で公知の方法によってその活性を検出可能な限り、特に限定はしない。好ましくは検出に際して遺伝子組換えカイコに対する侵襲性が低い標識タンパク質である。例えば、蛍光タンパク質色素合成タンパク質、発光タンパク質、外部分泌タンパク質外部形態を制御するタンパク質等が挙げられる。蛍光タンパク質、色素合成タンパク質、発光タンパク質、及び外部分泌タンパク質は、特定の条件下で視覚的に検出可能なことから、遺伝子組換えカイコに対する侵襲性が非常に低く、判別及び選抜が容易なことから特に好適である。

0059

前記蛍光タンパク質は、特定波長励起光を遺伝子組換えカイコに照射したときに特定波長の蛍光を発するタンパク質をいう。天然型及び非天然型のいずれであってもよい。また、励起波長蛍光波長も特に限定はしない。具体的には、例えば、CFP、AmCyan、RFP、DsRed(DsRed monomer、DsRed2のような派生物を含む)、YFP、GFP(EGFP、EYFP等の派生物を含む)等が挙げられる。

0060

前記色素合成タンパク質は、色素の生合成に関与するタンパク質であり、通常は酵素である。ここでいう「色素」とは、形質転換体に色素を付与することができる低分子化合物又はペプチドで、その種類は問わない。好ましくは個体の外部色彩として表れる色素である。例えば、メラニン系色素ドーパミンメラニンを含む)、オモクローム系色素、又はプテリジン系色素が挙げられる。

0061

前記発光タンパク質は、励起光を必要とすることなく発光することのできる基質タンパク質又はその基質タンパク質の発光を触媒する酵素をいう。例えば、イクオリン、酵素としてのルシフェラーゼが挙げられる。

0062

本明細書において外部分泌タンパク質とは、細胞外又は体外に分泌されるタンパク質であり、外分泌性酵素等が該当する。外分泌性酵素には、ブラストサイジンのような薬剤の分解又は不活化に寄与し、宿主に薬剤耐性を付与する酵素の他、消化酵素が該当する。

0063

標識遺伝子は、糖鎖付加剤発現ベクターにおいて、プロモーターの下流に発現可能な状態で配置される。使用するプロモーターは、中部又は後部絹糸腺と同一であってもよいし、異なっていてもよい。

0064

(7)エンハンサー
「エンハンサー」は、プロモーターと協調して標的遺伝子の転写量を増大させることのできる遺伝子発現活性化領域で、特定のDNA配列で構成される。プロモーターと異なり、標的遺伝子の上流域(5’末端側)のみならず、下流域(3’末端側)や標的遺伝子内に配置され、標的遺伝子の転写を調節する。

0065

(8)インスレーター
本明細書において「インスレーター」とは、糖鎖付加剤発現ベクターの選択構成要素であり、周囲の染色体のクロマチンによる影響を受けることなく、その配列に挟まれた遺伝子の転写を、安定的に制御できる塩基配列である。例えば、ニワトリのcHS4配列やショウジョウバエのgypsy配列などが挙げられる。

0066

(9)トランスポゾンの逆位末端反復配列
本明細書において「トランスポゾンの逆位末端反復配列(ITRS:Inverted terminal repeat sequence)」は、糖鎖付加剤発現ベクターが相同組換え可能な発現ベクターの場合に含まれ得る選択構成要素である。逆位末端反復配列は、通常は2個1組で使用され、トランスポゾンとしては、piggyBac、mariner、minos等を用いることができる(Shimizu,K. et al., 2000, Insect Mol. Biol., 9, 277-281;Wang W. et al.,2000, Insect Mol Biol 9(2):145-55)。

0067

1−3−2.糖鎖付加剤発現ベクターのユニット構成
本発明の哺乳動物型糖鎖付加剤を構成する糖鎖付加剤発現ベクターは、糖鎖付加関連遺伝子等をMSG又はPSGプロモーターによる直接的又は間接的な発現制御を受けるように配置している。ここで「直接的又は間接的な発現制御」とは、糖鎖付加剤発現ベクターにおけるMSG又はPSGプロモーターと糖鎖付加関連遺伝子等の配置関係を意味するものであり、これは、糖鎖付加剤発現ベクターのユニット構成に依存する。糖鎖付加剤発現ベクターは、1つのユニットで構成される場合と、2つのサブユニットで構成される場合がある。以下、それぞれの場合について説明をする。

0068

(1)1つのユニットで構成される場合
糖鎖付加剤発現ベクターは、絹糸虫細胞内で糖鎖付加関連遺伝子等を発現させる上で必要な全ての構成要素を1つの糖鎖付加剤発現ベクター内に含む。具体的には、必須の構成要素であるMSG又はPSGプロモーター及びそのプロモーターの下流に機能的に連結された糖鎖付加関連遺伝子等を含む。

0069

本明細書で「機能的に連結」とは、各糖鎖付加関連遺伝子等が発現可能な状態で糖鎖付加剤発現ベクター内に組み込まれていることを意味する。具体的には、前記各糖鎖付加関連遺伝子等が糖鎖付加剤発現ベクター内のMSG又はPSGプロモーター制御下である下流に配置されていることをいう。したがって、1つのユニットで構成される場合、糖鎖付加関連遺伝子等はMSG又はPSGプロモーターによる直接的な発現制御を受けることになる。

0070

糖鎖付加剤発現ベクターが1つのユニットで構成される場合、その糖鎖付加剤発現ベクターを有する遺伝子組換え絹糸虫は、絹糸腺内で生産する組換えタンパク質に常に哺乳動物型糖鎖を付加することができる。

0071

(2)2つのサブユニットで構成される場合
糖鎖付加剤発現ベクターが第1サブユニット及び第2サブユニットの2つのサブユニットで構成される場合、糖鎖付加関連遺伝子等の発現に必須の構成要素は各サブユニットに分割されて存在する。したがって、本構成では、第1及び第2サブユニットが宿主の絹糸虫細胞内に併存してはじめて1つの糖鎖付加剤発現ベクターとして機能する。具体的には、同一細胞内で第1サブユニットに含まれるプロモーターの活性化により第1サブユニットから転写調節因子が発現し、それが第2サブユニットの標的プロモーターを活性化することによって目的の糖鎖付加関連遺伝子等を発現することができる。したがって、2つのサブユニットで構成される場合、糖鎖付加関連遺伝子等はMSG又はPSGプロモーターによる間接的な発現制御を受けることになる。第1及び第2サブユニットは、以下の構成を有する。

0072

「第1サブユニット」は、前記MSG又はPSGプロモーターとそのプロモーターの下流に発現可能な状態で連結された転写調節因子の遺伝子を含んでなる。このとき、1つのMSG又はPSGプロモーター制御下に2以上の転写調節因子を連結していてもよい。例えば、MSGプロモーター制御下にGAL4及びtTAが連結される場合が挙げられる。また、第1サブユニットは、MSG又はPSGプロモーターとその制御下にある転写調節因子の遺伝子からなる組を2組以上有することもできる。この場合、各組は同一の組であっても、又は異なる組であってもよい。例えば、第1サブユニットがMSGプロモーターとGAL4遺伝子からなる組、及び後部絹糸腺プロモーターとGAL4遺伝子からなる組を含む場合が挙げられる。

0073

なお、第1サブユニットに包含されるプロモーターは、既知のMSG又はPSGプロモーターを利用できることから、カイコ等の絹糸虫用に作製されたMSG又はPSGプロモーターを有する既存の遺伝子発現ベクターを利用することもできる。

0074

「第2サブユニット」は、前記第1サブユニットにコードされた転写調節因子の標的プロモーターとその標的プロモーターの下流に機能的に連結された糖鎖付加関連遺伝子等を含んでなる。第2サブユニットに含まれる標的プロモーターは、第1サブユニットにコードされる転写調節因子によって活性化されるプロモーターである。したがって、第1サブユニットにコードされる転写調節因子によって第2サブユニットに含まれる標的プロモーターは、原則として一義的に決定される。例えば、標的プロモーター第1サブユニットに含まれる転写調節因子の遺伝子がGAL4遺伝子であれば、第2サブユニットのGAL4標的プロモーターにはUASが使用される。第2サブユニットは、1つの標的プロモーター制御下に同一の又は異なる糖鎖付加関連遺伝子等を2以上含んでいてもよい。例えば、第2サブユニットが1つのUASの制御下にGNE遺伝子、CMAS遺伝子及びST6GAL1遺伝子からなる3つの遺伝子を配置している場合、GNE遺伝子、CMAS遺伝子、ST6GAL1遺伝子及びNANP遺伝子からなる4つの遺伝子を配置している場合、GNE遺伝子、CMAS遺伝子、ST6GAL1遺伝子、NANS遺伝子及びNANP遺伝子からなる5つの遺伝子を配置している場合、GNE遺伝子、CMAS遺伝子、ST6GAL1遺伝子、NANS遺伝子、NANP遺伝子及びSLC35A1遺伝子からなる6つの遺伝子を配置している場合、そしてGNE遺伝子、CMAS遺伝子、ST6GAL1遺伝子、NANS遺伝子、NANP遺伝子、SLC35A1遺伝子、及びGalT遺伝子からなる7つの遺伝子を配置している場合が該当する。

0075

また、第2サブユニットは、標的プロモーターとその制御下にある糖鎖付加関連遺伝子等からなる組を2組以上有していてもよい。この場合、各組は同一の組であっても、又は異なる組であってもよい。例えば、第2サブユニットが2つのUASを含み、1つのUASの制御下に、GNE遺伝子、CMAS遺伝子、ST6GAL1遺伝子、NANS遺伝子、NANP遺伝子、及びSLC35A1遺伝子からなる6つの遺伝子を配置し、他のUASの制御下にGalT遺伝子を配置している場合が該当する。

0076

さらに、第2サブユニットは、糖鎖付加関連遺伝子等を含む同一の又は異なる2以上のユニットで構成されていてもよい。この場合、1つの第1サブユニットから発現した転写調節因子は、複数の第2サブユニットの標的プロモーターを活性化することによって、それぞれの第2サブユニットに含まれる糖鎖付加関連遺伝子等を発現することができる。例えば、第2AサブユニットがUASの制御下にGNE遺伝子、CMAS遺伝子、ST6GAL1遺伝子、NANS遺伝子、NANP遺伝子、及びSLC35A1遺伝子からなる6つの遺伝子を配置し、第2BサブユニットUASの制御下にGalT遺伝子を配置している場合が該当する。

0077

糖鎖付加剤発現ベクターが2つのサブユニットで構成される場合、第1サブユニットは公知又は既存の中部又は後部絹糸腺特異的な遺伝子発現ベクターを利用できることから、そのような遺伝子発現ベクターを含む既存の遺伝子組換え絹糸虫系統を利用できる。

0078

本構成の糖鎖付加剤発現ベクターは、第1サブユニットにコードされた転写調節因子を介して第2サブユニットの糖鎖付加関連遺伝子等の発現を増幅させることができる。したがって、糖鎖付加関連遺伝子等を宿主細胞内で過剰発現させる上で好適である。

0079

1−3−3.哺乳動物型糖鎖付加剤の構成
本発明の哺乳動物型糖鎖付加剤は、独立した1〜3つの糖鎖付加剤発現ベクターからなる。本明細書において「独立した」とは、1つの糖鎖付加剤発現ベクターのみで糖鎖付加関連遺伝子等を少なくとも1種発現することのできる1つの発現単位として機能し得ることを意味する。したがって、前述した2つのサブユニットで構成される糖鎖付加剤発現ベクターの場合、それぞれのサブユニットは「独立」しているとは言わず、複数のサブユニットをまとめて「独立」していると解する。一方、1つのユニットで構成される場合、そのユニットは「独立」していると解することができる。

0080

本発明の哺乳動物型糖鎖付加剤が独立した複数の糖鎖付加剤発現ベクターで構成される場合、各糖鎖付加剤発現ベクターが包含する糖鎖付加関連遺伝子等の組み合わせは特に限定はしない。例えば、第1の糖鎖付加剤発現ベクター(第1発現ベクター)にGalT遺伝子のみを含み、第2の糖鎖付加剤発現ベクター(第2発現ベクター)にシアル酸関連遺伝子を3種以上含んでいてもよい。また第1発現ベクターにGalT遺伝子のみを含み、第2発現ベクターにSLC35A1遺伝子を除くシアル酸関連遺伝子を3種以上含み、そして第3の糖鎖付加剤発現ベクター(第3発現ベクター)にSLC35A1遺伝子のみを含んでいてもよい。

0081

1−4.導入方法
本態様の哺乳動物型糖鎖付加剤を宿主に適用し、宿主細胞内に糖鎖付加剤発現ベクターを導入する方法について、説明をする。

0082

糖鎖付加剤発現ベクターを導入する宿主は、絹糸虫個体、絹糸虫由来の細胞(株化細胞を含む)、又は、絹糸虫由来の組織のいずれであってもよい。個体の場合にはその個体の発生ステージは問わない。、幼虫、蛹、又は成虫のいずれのステージであってもよい。好ましくは、高い効果が期待できる胚時期である。また、宿主の雌雄も問わない。同様に、細胞若しくは組織の場合にはそれが採取された又はそれが由来する個体の発生ステージは問わない。

0083

導入方法は、導入状況に応じて当該分野で公知の方法によって行えばよい。例えば、導入する宿主がカイコで、外因性遺伝子発現ベクターがトランスポゾンの逆位末端反復配列(Handler AM. et al., 1998, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 95:7520-5)を有するプラスミドの場合であれば、Tamuraらの方法(Tamura T. et al., 2000, Nature Biotechnology, 18, 81-84)を利用して導入できる。簡単に説明すると、前記糖鎖付加剤発現ベクターと共にトランスポゾン転移酵素をコードするDNAを有するヘルパーベクターをカイコの初期胚インジェクションすればよい。前記ヘルパーベクターとしては、例えば、pHA3PIGが挙げられる。本態様の糖鎖付加剤発現ベクターが標識遺伝子を含む場合には、その遺伝子等の発現に基づいて形質転換体を容易に選抜することができる。なお、この方法で得られた遺伝子組換えカイコは、糖鎖付加剤発現ベクターがトランスポゾンの逆位末端反復配列を介して染色体中に組み込まれている。得られた遺伝子組換えカイコを必要に応じて兄妹交配又は同系交配を行い、染色体に挿入された発現ベクターのホモ接合体を得てもよい。

0084

2.哺乳動物型糖鎖付加遺伝子組換え絹糸虫
2−1.概要
本発明の第2の態様は、哺乳動物型糖鎖付加遺伝子組換え絹糸虫である。本発明の哺乳動物型糖鎖付加遺伝子組換え絹糸虫は、前記第1態様の糖鎖付加剤発現ベクターを有し、MSG及び/又はPSGにおいて生産させる組換えタンパク質に哺乳動物型糖鎖を付加できることを特徴とする。

0085

2−2.構成
本明細書において「哺乳動物型糖鎖付加遺伝子組換え絹糸虫(本明細書では、しばしば「糖鎖付加絹糸虫」と略称する)」とは、第1態様に記載の糖鎖付加剤発現ベクターを有する遺伝子組換え絹糸虫をいう。宿主である絹糸虫は、前述したいずれの絹糸虫であってもよい。飼育方法人工試料が確立しており、多頭飼育が可能なカイコ、エリサン及びサクサンは特に好ましい。宿主がカイコの場合、本態様の「哺乳動物型糖鎖付加遺伝子組換え絹糸虫」を「哺乳動物型糖鎖付加遺伝子組換えカイコ(本明細書では、しばしば「糖鎖付加カイコ」と略称する)」と称する。また、哺乳動物型糖鎖は、ヒト型糖鎖であることが好ましい。

0086

本発明の糖鎖付加絹糸虫は、第1態様の糖鎖付加剤発現ベクターを細胞内に一過的に有していてもよいし、ゲノム中に導入された状態等で安定的に有していてもよい。安定的に有することが好ましい。

0087

本発明の糖鎖付加絹糸虫は、第1態様の異なる糖鎖付加剤発現ベクターを2以上有することができる。例えば、第1態様に記載した第1発現ベクターと第2発現ベクターを有する場合が該当する。哺乳動物型糖鎖付加を達成する上で必須の糖鎖付加関連遺伝子等を第1発現ベクターと第2発現ベクターが分割して含む場合、第1発現ベクターと第2発現ベクターの両方を有する糖鎖付加絹糸虫が本発明の効果を奏し得る。また、糖鎖付加剤発現ベクターが第1サブユニット及び第2サブユニットの2つのサブユニットで構成される場合も両方のサブユニットを有する糖鎖付加絹糸虫が本発明の効果を奏し得る。

0088

糖鎖付加剤発現ベクターが異なる2つ又は3つの発現ベクター(第1〜第3発現ベクター)を有し、それぞれが遺伝子組換え絹糸虫の染色体に挿入されている場合、各発現ベクターは同一染色体上に存在していてもよいし、異なる染色体上に存在していてもよい。各発現ベクターが異なる染色体上に存在する場合、第1発現ベクターのみを有する遺伝子組換え絹糸虫系統と、第2発現ベクターのみを有する遺伝子組換え絹糸虫系統を交配すれば、交配第1世代(F1)で第1発現ベクターと第2発現ベクターを有する本発明の糖鎖付加絹糸虫を容易に入手できる。一方、第1発現ベクター及び第2発現ベクターが同一染色体上に存在する場合には、継代過程組換えによってそれぞれが分離しないように、サブユニット間の距離が近く、互いに連鎖している方が好ましい。

0089

糖鎖付加剤発現ベクターが第1及び第2サブユニットの2つのサブユニットで構成される場合も同様である。例えば、第1及び第2サブユニットが異なる染色体上に存在する場合、第1発現ベクターのみを有する遺伝子組換え絹糸虫系統と、第2発現ベクターのみを有する後述の哺乳動物型糖鎖付加遺伝子組換え絹糸虫作出系統を交配すれば、F1で第1及び第2サブユニットを有する本発明の糖鎖付加絹糸虫を容易に入手できる。

0090

3.哺乳動物型糖鎖付加遺伝子組換え絹糸虫作出系統
3−1.概要
本発明の第3の態様は、哺乳動物型糖鎖付加遺伝子組換え絹糸虫作出系統である。本発明の組換え絹糸虫作出系統は、第1態様に記載の糖鎖付加剤発現ベクターの一部を有する遺伝子組換え絹糸虫及びその後代である。本系統を用いることで、糖鎖付加絹糸虫を自在に、かつ容易に作出することができる。

0091

3−2.構成
本明細書で「哺乳動物型糖鎖付加遺伝子組換え絹糸虫作出系統(本明細書では、しばしば「糖鎖付加絹糸虫作出系統」と略称する)」とは、絹糸腺内で生産されるタンパク質に哺乳動物型糖鎖を付加する潜在性を有した継代可能な遺伝子組換え絹糸虫又はその後代をいう。宿主である絹糸虫は、いずれの絹糸虫であってもよいが、第2態様の糖鎖付加絹糸虫と同様の理由からカイコ、エリサン及びサクサンが好ましい。宿主がカイコの場合、本態様の「糖鎖付加絹糸虫作出系統」は「糖鎖付加カイコ作出系統」と称する。また、哺乳動物型糖鎖は、ヒト型糖鎖であることが好ましい。

0092

糖鎖付加絹糸虫作出系統は、第1態様に記載の糖鎖付加剤発現ベクターの一部を有する。「糖鎖付加剤発現ベクターの一部」とは、糖鎖付加剤発現ベクターが2つ又は3つの発現ベクターで構成されるときに、その一部の発現ベクターのみを有する場合や糖鎖付加剤発現ベクターが2つのサブユニットで構成されるときに、第2サブユニットのみを有する場合が該当する。つまり、糖鎖付加絹糸虫作出系統は、第1態様に記載の糖鎖付加剤発現ベクターの一部を有することにより、絹糸腺内で生産されるタンパク質に哺乳動物型糖鎖を付加する潜在性を有するものの、糖鎖付加に必要な最低限の糖鎖付加関連遺伝子等を含まないことから単独では哺乳動物型糖鎖を付加することができない。一方、他の糖鎖付加絹糸虫作出系統と交配して必要な最低限の糖鎖付加関連遺伝子等を一個体内に充足させることによって、又は第1サブユニットを含む遺伝子組換え絹糸虫と交配して第2サブユニットが含む必要な最低限の糖鎖付加関連遺伝子等の発現を誘導することによって、目的の糖鎖付加絹糸虫を必要な時に、容易に作出することができる。なお、第1サブユニットのみを有する遺伝子組換え絹糸虫系統は、哺乳動物型糖鎖を付加する直接的な潜在性はないことから、本発明の糖鎖付加絹糸虫作出系統には該当しない。

0093

4.哺乳動物型糖鎖付加遺伝子組換え絹糸虫作出方法
4−1.概要
本発明の第4の態様は、哺乳動物型糖鎖付加遺伝子組換え絹糸虫(糖鎖付加絹糸虫)を作出する方法である。本発明は、絹糸腺で発現させる目的の組換えタンパク質に哺乳動物型糖鎖を付加できる糖鎖付加絹糸虫を作出できることを特徴とする。

0094

4−2.方法
本発明の遺伝子組換え絹糸虫の作出方法は、交配工程と選抜工程を含む。以下、各工程について説明をする。

0095

(1)交配工程
「交配工程」とは、第3態様に記載の第2サブユニットを有する糖鎖付加絹糸虫作出系統と第1サブユニットを有する遺伝子組換え絹糸虫系統を交配する必須の工程である。宿主である絹糸虫は、いずれの絹糸虫であってもよいが、第2態様の糖鎖付加絹糸虫と同様の理由からカイコ、エリサン及びサクサンが好ましい。交配は、前記2つの絹糸虫系統を常法に基づいて行えばよい。原則として同種の雌雄間で行う。

0096

それぞれのサブユニットがゲノム内に挿入された遺伝子組換え絹糸虫で、交配に用いる糖鎖付加絹糸虫作出系統及び遺伝子組換え絹糸虫系統の絹糸虫は、兄妹交配又は同系交配を行い、各サブユニットに関して予めホモ接合体にしておくことが好ましい。これによって、全ての交配第1世代(F1)個体は両サブユニットを有する糖鎖付加絹糸虫となる。この場合、次の選抜工程は必須工程ではなくなり、確認のために必要に応じて行う選択工程となる。

0097

(2)選抜工程
「選抜工程」とは、F1個体から2つのサブユニットを含む遺伝子組換え絹糸虫を糖鎖付加絹糸虫として選抜する工程である。本工程では、交配工程後に得られるF1個体から、それぞれのサブユニットにコードされた標識タンパク質の活性に基づいて両者の標識タンパク質活性を有する個体を目的の糖鎖付加絹糸虫として選抜すればよい。

0098

以下で本発明の実施形態について例を挙げて説明する。ただし、ここに記載した実施形態は、本発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例に過ぎず、本発明の範囲が以下の実施例範囲に限定されることを示すものではない。

0099

<実施例1:各発現ベクターの構築
(目的)
本発明の哺乳動物型糖鎖付加剤を構成する糖鎖付加剤発現ベクター及び目的の組換えタンパク質を含む発現ベクターを構築する。

0100

本明細書の実施例では、各発現ベクターに第1サブユニットと第2サブユニットの2つのサブユニットからなる発現ベクターを採用した。すなわち、本明細書の実施例で使用する発現ベクターは、MSGプロモーター及びその下流に機能的に連結されたGAL4遺伝子を含む第1サブユニットと、UASプロモーターの下流に機能的に連結された各糖鎖関連遺伝子及び各目的の組換えタンパク質をコードする遺伝子を含む第2サブユニットで構成されている。

0101

(方法)
1.第1発現ユニットの構築
(1)中部絹糸腺発現用第1サブユニットの構築
中部絹糸腺(MSG)での遺伝子発現を誘導する第1サブユニットとして、MSGで特異的に発現するセリシン1遺伝子のプロモーター及びその下流に機能的に結合した転写調節因子GAL4遺伝子、さらにその下流に結合したhsp70 polyA付加配列を有するpBacSer-pro GAL4/3xP3DsRed2を構築した。

0102

セリシン1遺伝子プロモーターは、カイコセリシン1遺伝子の-666から+40(転写開始点をO位とする。以下同様)に相当する配列番号1で示すプロモーター包含領域を、カイコ大造系統のゲノムDNAを鋳型として、プライマーペア配列番号63で示すAscIサイトを含むプライマーと配列番号64で示すBamHIサイトを含むプライマーを用いてPCRで増幅して調製した。増幅断片をpCR-Blunt II-TOPOベクター(Thermo Fisher Scientific社)に挿入し、AscI及びBamHIで切断した後、プロモーター領域を含むAscI-BamHI増幅断片をpBacA3dGAL4(Uchino K. et al., 2006, J Insect Biotechnol Sericol 75:89-97)におけるGAL4遺伝子上流のAscI-BamHIサイトに挿入した。このプラスミドに、pBacA3GAL4/3xP3DsRed2(Uchino K. et al., 2006, J Insect Biotechnol Sericol 75:89-97)からBglIIにより切り出した3xP3-DsRedカセットを選抜マーカーとして挿入し、MSG発現用第1サブユニットpBacSer-pro GAL4/3xP3DsRed2を構築した。

0103

2.第2発現ユニットの構築
(1)基本ベクターの構築
pBac[SerUAS-hr5/3xP3-EGFPinv](Tada M. et al., 2015,. MAbs. 7(6):1138-1150)を鋳型として、プライマーペアSerTATA-U(配列番号65)及びBlnBsmSerK-L(配列番号66)を用いてPCRを行い増幅産物SnaBI-BsmBI断片を得た。次に、pBac[SerUAS_Ser1intron_hr5/3xP3-EYFP_A3-Bla](Tada M. et al., 2015,. MAbs. 7(6):1138-1150)をSnaBI及びBsmBIで切断して短断片を除き、SnaBI-BsmBIサイトに前記SnaBI-BsmBI断片を挿入した。これをpBac[SerUAS_Ser1kozak_hr5/3xP3-EYFP_A3-Bla]とした。続いて、pHC-EGFPを鋳型として、プライマーペアFibHsig-U(配列番号67)及びFibHsig-L(配列番号68)を用いてPCRを行い増幅産物BspH-BlnI断片を得た。前述のpBac[SerUAS_Ser1kozak_hr5/3xP3-EYFP_A3-Bla]をBsmBI及びBlnIで切断して短断片を除き、BsmBI-BlnIサイトに、前記BspH-BlnI断片を挿入した。これをpBac[SerUAS_FibHsigint_hr5/3xP3-EYFP_A3-Bla]とし、発現ベクターにおける第2発現ユニットの基本発現ベクターとした。

0104

(2)糖鎖付加剤発現ベクターの構築
A.GalT発現ベクターの構築
従来型GalT2発現ベクターの構築)
セリシン1遺伝子のプロモーター領域と3’UTR領域を、それぞれカイコゲノムDNAを鋳型として増幅した後、両増幅断片をoverlap-extensionPCRにより連結した。この際、プロモーター領域と3’UTRの境界にBlnIサイトを挿入した。この連結断片をpTAベクター(TOYOBO社)に挿入したものをpTA2[Ser-UTR]とした。pTA2[Ser-UTR]のBlnIサイトにGAL4Δ断片(Kobayashi I., et al., 2011, Arch Insect Biochem Physiol, 76:195-210)を挿入したものをpTA2[Ser-GAL4Δ]とした。pTA2[Ser-GAL4Δ]のAscI断片をpBac[A3KMO,UAS](Kobayashi I., et al., 2007, J. Insect Biotechnol Sericol, 76:145-48)のAscIサイトに挿入したものをpBac[A3KMO, UAS, Ser-GAL4Δ]とした。

0105

マウス由来GalT2のopen reading frameをPCRで末端にBlnIサイトが付加するように増幅した。この断片をpBac[A3KMO,UAS, Ser-GAL4Δ]のBlnIサイトに挿入したものを従来型GalT2発現ベクターであるpBac[SerUAS-GalT2p/A3-KMO_A3-Bla]とした。

0106

改良型発現GalTベクターの基本ベクターの構築)
上記(1)で構築した基本発現ベクターpBac[SerUAS_Ser1kozak_hr5/3xP3-EYFP_A3-Bla]をAscI及びXhoIで切断して短断片を除き、AscI-XhoIサイトにAscI-NheI-XhoI-U(配列番号69)及びAscI-NheI-XhoI-L(配列番号70)をアニーリングして作製したアダプターを挿入した。これをpBac[SerUAS_Ser1kozak_hr5/NheIad_A3-Bla]とした。このプラスミドのNheIサイトにpBac[A3KMO, UAS, Ser-GAL4Δ]のNheI断片を挿入した。これをpBac[SerUAS_Ser1kozak_hr5/A3-KMO_A3-Bla]とした。

0107

(各改良型GalT発現ベクターの構築)
マウス由来のGalT1〜GalT4遺伝子を、マウスGalT1用プライマーペアBspHI-mGalT1 U(配列番号71)及びマウスBlnI-mGalT1 L(配列番号72)、GalT2用BsmBI-GalT2-U(配列番号73)及びBsmBI-GalT2-L(配列番号74)、マウスGalT3用BsmBI-mGalT3 U(配列番号75)及びマウスBsmBI-mGalT3 L(配列番号76)、及びマウスGalT4用NcoI-mGalT4 U(配列番号77)及びマウスBlnI-mGalT4 L(配列番号78)を用いてPCRを行った。それぞれの増幅産物を各プライマー名に記載の制限酵素切断処理した後、上記改良型GalTベクターの基本ベクターpBac[SerUAS_Ser1kozak_hr5/A3-KMO_A3-Bla]のBsmBIサイトに挿入した。得られた改良型GalT発現ベクターのそれぞれをpBac[SerUAS-GalT1/A3-KMO_A3-Bla]、pBac[SerUAS-GalT2i/A3-KMO_A3-Bla]、pBac[SerUAS-GalT3/A3-KMO_A3-Bla]、及びpBac[SerUAS-GalT4/A3-KMO_A3-Bla]とした。なお、GalT2pは従来型GalT2を、GalT2iは改良型GalT2を示す。

0108

B.シアル酸関連遺伝子発現ベクターの構築
(UASユニットベクターの構築)
前記(1)で構築した基本発現ベクターpBac[SerUAS_Ser1kozak_hr5/3xP3-EYFP_A3-Bla]を鋳型としてプライマーペアserUASUNhe(配列番号79)及びserPolyALSpe(配列番号80)でPCRを行った。得られた増幅産物をpZErO2(Thermo Fisher Scientific社)のEcoRVサイトに挿入した。これをUASユニットベクターSerUAS_unit/pZErO2とした。

0109

(シアル酸関連遺伝子断片のUASユニットベクターへの挿入)
シアル酸関連遺伝子(GNE、NANS、NANP、CMAS、ST6GAL1、及びSLC35A1の各遺伝子)は、各遺伝子のORFを以下のプライマーペアを用いたPCRにより増幅し、各シアル酸関連遺伝子断片を得た。GNE遺伝子用プライマーペアにはr2epiU(配列番号81)及びr2epiL(配列番号82)を、NANS遺伝子用プライマーペアにはBsmBI_NANS_U(配列番号83)及びBsmBI_NANS_L(配列番号84)を、NANP遺伝子用プライマーペアにはBsmBI_NANP_U(配列番号85)及びBsmBI_NANP_L(配列番号86)を、CMAS遺伝子用プライマーペアにはhCSSU(配列番号87)及びhCSSL(配列番号88)を、SLC35A1遺伝子用プライマーペアにはBsmBI_hCST_U(配列番号89)及びBsmBI_hCST_L(配列番号90)を、そしてST6GAL1遺伝子用プライマーペアにはhSTU(配列番号91)及びhSTL(配列番号92)を用いた。各シアル酸関連遺伝子断片をBsmBIで切断した後、前述のUASユニットベクターSerUAS_unit/pZErO2のBsmBIサイトへ挿入した。完成した各シアル酸関連遺伝子を含むUASユニットベクターをUAS-GNE/pZErO2(GNE発現用)、UAS-NANS/pZErO2(NANS発現用)、UAS-NANP/pZErO2(NANP発現用)、UAS-CMAS/pZErO2(CMAS発現用)、UAS-ST6GAL1/pZErO2(ST6GAL1発現用)、及びUAS-SLC35A1/pZErO2(SLC35A1発現用)とした。

0110

(HS4インスレーターユニットベクターの構築)
配列番号93で示す塩基配列からなるHS4インスレーター配列をGenscript社で委託合成し、NheI及びSpeIで切り出し、元のHS4インスレーターが入っているベクターのSpeIサイトへ挿入した。これを繰り返し、HS4インスレーターが4回繰り返しになったプラスミドを構築した。これをHS4x4/pUCとした。

0111

(piggyBac/3xP3AmCyanベクターの構築)
pBac[SerUAS/3xP3EGFP](Tatematsu K, et al., 2010, Transgenic Res. 19(3):473-87)のEcoRV-PstIサイトにSpeIadaptU(配列番号94)及びSpeIadaptL(配列番号95)をアニーリングして作製したアダプターを挿入した。これをpBac[3xP3EGFP]とした。pBac[3xP3EGFP]のEcoRIサイトにpBac[SerUAS_Ser1intron_hr5/3xP3-AmCyan_A3-Bla] (Tada M. et al., 2015,. MAbs. 7(6):1138-1150)のEcoRI断片を挿入した。これをpBac[3xP3AmCyan]とした。

0112

(piggyBac/3xP3AmCyanへのUASシアル酸ユニット及びHS4インスレーターの挿入)
各シアル酸関連遺伝子を含む前述のUASユニットベクターUAS-GNE/pZErO2(GNE発現用)、UAS-NANS/pZErO2(NANS発現用)、UAS-NANP/pZErO2(NANP発現用)、UAS-CMAS/pZErO2(CMAS発現用)、UAS-ST6GAL1/pZErO2(ST6GAL1発現用)、及びUAS-SLC35A1/pZErO2(SLC35A1発現用)と、HS4インスレーターユニットベクターHS4x4/pUCをそれぞれNheI及びSpeIで切断した。続いて、UAS-GNE/pZErO2、UAS-CMAS/pZErO2及びUAS-ST6GAL1/pZErO2の3種のNheI-SpeI断片とHS4インスレーターを含むNheI-SpeI断片をpiggyBac/3xP3AmCyanのSpeIサイトへ、各UASシアル酸ユニットとHS4インスレーターが交互に連結された状態となるように挿入した。これをpBac[HS4-UAS-GNE-HS4-UAS-CMAS-HS4-UAS-ST6GAL1-HS4/3xP3AmCyan]とした(以下、pBac[UAS-GNE/CAMS/ST6GAL1/3xP3AmCyan]と略記する)。次に、このpBac[UAS-GNE/CAMS/ST6GAL1/3xP3AmCyan]に、UAS-NANS/pZErO2及びUAS-NANP/pZErO2で示す2種のNheI-SpeI断片がHS4インスレーターを含むNheI-SpeI断片に挟み込まれた状態となるように再度挿入した。これをpBac[HS4-UAS-NANS-HS4-UAS-NANP-HS4-UAS-GNE-HS4- UAS-CMAS-HS4-UAS-ST6GAL1-HS4/3xP3AmCyan]とした(以下、pBac[UAS-NANS/NANP/ GNE/CAMS/ST6GAL1/3xP3AmCyan]と略記する)。また、pBac[UAS-GNE/CAMS/ST6GAL1/3xP3AmCyan]に、UAS-NANS/pZErO2、UAS-NANP/pZErO2及びUAS-SLC35A1/pZErO2で示す3種のNheI-SpeI断片がHS4インスレーターを含むNheI-SpeI断片に挟み込まれた状態となるように挿入した。これをpBac[HS4-UAS-NANS-HS4-UAS-NANP-HS4-UAS-SLC35A1-HS4-UAS-GNE-HS4-UAS-CMAS-HS4-UAS-ST6GAL1-HS4/3xP3AmCyan]とした(以下、pBac[UAS-NANS/NANP/SLC35A1/GNE/CAMS/ST6GAL1/ 3xP3AmCyan]と略記する)。上記の結果、UASシアル酸ユニットを3種(GNE/CAMS/ST6GAL1)、5種(NANS/NANP/GNE/CAMS/ST6GAL1)、そして6種(NANS/NANP/ SLC35A1/GNE/CAMS/ST6GAL1)含むシアル酸関連遺伝子発現ベクターが得えられた。

0113

(3)目的の組換えタンパク質発現ベクターの構築
ヒトアンチトロンビンIII発現ベクターの構築)
ヒトアンチトロンビンIII(hATIII)遺伝子のORFを含むベクターFlexi ORFクローンFHC11758(プロメガ)を鋳型としてプライマーペアBsmBI_AT_FibHsig_U40(配列番号96)及びHisタグを含むAT_C-6His_L45(配列番号97)でPCRを行い、得られた増幅産物のBsmBI断片を(1)で構築した基本発現ベクターpBac[SerUAS_FibHsigint_hr5/3xP3-EYFP_A3-Bla]のBsmBIサイトへ挿入した。これをUAS-rATIII/pZErO2とした。

0114

ヒトインターフェロンγ発現ベクターの構築)
ヒトインターフェロンγ(hIFNγ)遺伝子のORFを含むFlexi ORFクローンORH24802(プロメガ社)を鋳型としてプライマーペアhIFNg_FibHsig_U40(配列番号98)及びHisタグを含むhIFNg_C-6His_L45(配列番号99)でPCRを行い、得られた増幅産物のBsmBI断片を(1)で構築した基本発現ベクターpBac[SerUAS_FibHsigint_hr5/3xP3-EYFP_A3-Bla]のBsmBIサイトへ挿入した。これをUAS-hIFNg/pZErO2とした。

0115

<実施例2:遺伝子組換えカイコの作出>
(目的)
実施例1で構築した各発現ベクターを用いて各種遺伝子組換えカイコを作出した。

0116

(材料と方法)
(1)カイコ系統
国立研究開発法人農業生物資源研究所で維持されている白眼・白非休眠系統のw1-pnd系統を宿主系統として用いた。

0117

(2)飼育条件
25〜27℃の飼育室で、幼虫の全齢を人工飼料(シルクメイト原種1-3齢S、日本農産工)で飼育した。人工飼料は2〜3日毎に交換した(Uchino K. et al., 2006, J Insect Biotechnol Sericol, 75:89-97)。

0118

(3)遺伝子組換えカイコの作出
遺伝子組換えカイコは、Tamuraらの方法(Tamura T. et al., 2000, , Nature Biotechnology, 18, 81-84)に従って作出した。実施例1で構築した第1サブユニット及び第2サブユニットをそれぞれ別個トランスポゼースを発現するヘルパープラスミドpHA3PIG(Tamura T. et al., 2000, , Nature Biotechnology, 18, 81-84)と1:1 の割合で混合し、産卵後2〜8時間のカイコ卵にインジェクションした。インジェクション後の卵は、加湿状態、25℃で孵化するまでインキュベートした。孵化した幼虫を上記の方法で飼育した。

0119

(GAL4発現用遺伝子組換えカイコ系統の作出)
第1サブユニットを含むGAL4発現用遺伝子組換えカイコ系統の作出は、前記インジェクションにおいてMSG発現用第1サブユニットpBacSer-pro GAL4/3xP3DsRed2を用いた。インジェクション後、孵化した幼虫を上記の方法で飼育し、3xP3 DsRed2マーカーによる眼の蛍光の有無で第1サブユニットを含むF1個体を選抜し、本発明の遺伝子組換えカイコの第1サブユニットを含むGAL4発現用遺伝子組換えカイコ系統をそれぞれ得た。

0120

(GalT糖鎖付加カイコ作出系統の作出)
第2サブユニットを含むGalT糖鎖付加カイコ作出系統は、前記インジェクションにおいて、GalT2p発現ベクター、及び各改良型GalT発現ベクター(pBac[SerUAS-GalT1/A3-KMO_A3-Bla]、pBac[SerUAS-GalT2i/A3-KMO_A3-Bla]、pBac[SerUAS-GalT3/A3-KMO_A3-Bla]、及びpBac[SerUAS-GalT4/A3-KMO_A3-Bla])のそれぞれを用いた。インジェクション後、孵化した幼虫を上記の方法で飼育し、A3-KMOマーカーによる1齢幼虫の体表の着色で各改良型GalT発現ベクターを含むF1個体を選抜し、GalT糖鎖付加カイコ作出系統をそれぞれ得た。

0121

(シアル酸関連タンパク質糖鎖付加カイコ作出系統の作出)
第2サブユニットを含むシアル酸関連タンパク質糖鎖付加カイコ作出系統は、前記インジェクションにおいて、上述の各シアル酸関連遺伝子発現ベクターを用いた。インジェクション後、孵化した幼虫を上記の方法で飼育し、3xP3-AmCyanマーカーによる眼の蛍光の有無で各発現ベクターを含むF1個体を選抜し、シアル酸関連タンパク質糖鎖付加カイコ作出系統をそれぞれ得た。

0122

(目的の組換えタンパク質発現用遺伝子組換えカイコ系統の作出)
第2サブユニットを含む目的の組換えタンパク質発現用遺伝子組換えカイコ系統は、前記インジェクションにおいて、上述のアンチトロンビンIII発現ベクター又はインターフェロンγ発現ベクターを用いた。インジェクション後、孵化した幼虫を上記の方法で飼育し、3xP3-EYFPマーカーによる眼の蛍光の有無で各発現ベクターを含むF1個体を選抜し、ATIII発現用遺伝子組換えカイコ系統及びINFγ発現用遺伝子組換えカイコ系統をそれぞれ得た。その後、F1個体の兄妹交配を行い、ホモ接合体を得た。

0123

(4)第1及び第2サブユニットを含む系統の交配
第1サブユニットを含むGAL4発現用遺伝子組換えカイコ系統と第2サブユニットをそれぞれ含む系統(GalT糖鎖付加カイコ作出系統、各シアル酸関連タンパク質糖鎖付加カイコ作出系統、及び目的の組換えタンパク質発現用遺伝子組換えカイコ系統)を交配した。

0124

具体的には、まず、第1サブユニットを含むGAL4発現用遺伝子組換えカイコ系統と第2サブユニットを含む目的の組換えタンパク質発現用遺伝子組換えカイコ系統(ATIII又はIFNγ)の交配、第1サブユニットを含むGAL4発現用遺伝子組換えカイコ系統と第2サブユニットを含むGalT糖鎖付加カイコ作出系統の交配、そして第1サブユニットを含むGAL4発現用遺伝子組換えカイコ系統と第2サブユニットを含む各シアル酸関連タンパク質糖鎖付加カイコ作出系統の交配を行い、各遺伝子の発現確認、及びタンパク質抽出を行った。第1及び第2サブユニットを含む各交配第1世代(F1)を選択し、[GAL4×ATIII又はIFNγ]F1カイコと[GAL4×GalT] F1カイコの交配、及び[GAL4×ATIII又はIFNγ]F1カイコと[GAL4×シアル酸関連タンパク質] F1カイコの交配を行い、各遺伝子の発現確認、及びタンパク質抽出を行った。第1及び2種の第2サブユニットを含む各交配第2世代(F2)を選択し、最後に[GAL4×ATIII又はIFNγ/GalT] F2カイコと[GAL4×ATIII又はIFNγ/シアル酸関連タンパク質] F2カイコの交配を行い、各遺伝子の発現確認、及びタンパク質抽出を行った。その結果、4種のサブユニット(第1サブユニット、及び3種の第2サブユニット)を含むF3カイコを作出した。この他、同様の手順により[GAL4×GalT]F1カイコと[GAL4×シアル酸カイコ] F1カイコの交配も行い[GAL4×GalT/シアル酸関連タンパク質] F2カイコも作出した。GAL4発現用遺伝子組換えカイコ系統、シアル酸関連遺伝子組換えカイコ系統及びGalT遺伝子組換えカイコ系統、及び目的の組換えタンパク質発現用遺伝子組換えカイコは、いずれも異なる選抜マーカーを有しているので、交配順序は特に問わない。

0125

GalT発現ベクターを含む遺伝子組換えカイコ(GalT遺伝子組換えカイコ)と各種シアル酸関連遺伝子発現ベクターを含む遺伝子組換えカイコ(シアル酸関連遺伝子組換えカイコ)の組み合わせを表1に示す。交配後F1個体でマーカーに基づき、各サブユニットを有する系統を選抜した。

0126

0127

表中「-」は、GalT発現ベクター又はシアル酸関連遺伝子発現ベクターを含む遺伝子組換えカイコを交配に使用していないことを示す。表中、「○」は交配を行い、それぞれの発現ベクターを有する遺伝子組換えカイコが得られたことを、また「×」は交配を行っていないことを示す。

0128

本実施例では、共通するMSG発現用第1サブユニットとしてのpBacSer-pro GAL4/3xP3DsRed2に加えて、第2サブユニットとしての目的の組換えタンパク質(ATIII、又はIFNγ)発現ベクターのみ、GalT遺伝子発現ベクターのみ、シアル酸関連遺伝子発現ベクター(3種、5種、又は6種)のみ、目的の組換えタンパク質発現ベクター/GalT遺伝子発現ベクター、目的の組換えタンパク質発現ベクター/シアル酸関連遺伝子発現ベクター(3種、5種、及び6種)、GalT遺伝子発現ベクター/シアル酸関連遺伝子発現ベクター(3種、5種、及び6種)、そして目的の組換えタンパク質発現ベクター/GalT遺伝子発現ベクター/シアル酸関連遺伝子発現ベクターを含む遺伝子組換えカイコを作出した。

0129

<実施例3:糖鎖付加カイコのMSGにおける内腔タンパク質の抽出>
(目的)
実施例2で作出したATIII糖鎖付加カイコ、IFNγ糖鎖付加カイコ、及び対照用のATIII、IFNγ非発現カイコのMSG内腔から組換えタンパク質を含む内腔タンパク質を抽出する。

0130

(方法)
実施例2で作出した各糖鎖付加カイコを実施例2と同様の方法で飼育し、5齢6日目の幼虫を吐糸直前上で麻酔にかけ、背側を切開してピンセットでMSGを傷つけないように摘出した(森靖編,カイコによる新生物実験,三省堂, 1970,pp.249-255参照)。続いて、摘出したMSGをエタノールで固定し、ピンセットで内腔タンパク質と細胞に分離した。ATIII糖鎖付加カイコ及びIFNγ糖鎖付加カイコのそれぞれから得られた内腔タンパク質をLiBrで溶解し、MSG抽出液として調製した。又は、摘出したMSGを1本当たり1mLの100 mMリン酸バッファー(pH 7.2)に入れて、4℃で2時間振とうすることにより水溶性タンパク質を抽出した後、2000×gで10分間遠心した後の上清を回収した。

0131

<実施例4:MSG抽出液からの組換えタンパク質の精製及び調製>
(目的)
実施例3で得た目的の組換えタンパク質を分離・精製し、糖鎖構造分析のための調製を行う。
(方法)
(1)タンパク質濃度の測定
MSG抽出液中のタンパク質濃度をブラッドフォード法により測定した。標準タンパク質にはBSAを用いた。Bradford試薬(ナカライテスク)を用いて作成した希釈系列(BSA濃度:0〜1.0 mg/Ml)についてOD595の吸光度を測定し、検量線を作成した。各MSG抽出液についても同様にOD595を測定し、検量線との比較によりタンパク質濃度を決定した。

0132

(2)タンパク質精製
(ヒトアンチトロンビンIII精製)
Niレジン(profanityIMAC Ni-charged resin)500μLをカラムに詰め、平衡化液(50mMリン酸ナトリウムバッファー/0.3M NaCl)で平衡化した。500μLのMSG抽出液を積載し、1.5mLの洗浄液(50mMリン酸ナトリウムバッファー/0.3M NaCl/10mMイミダゾール)で洗浄した。続いて、300μLの溶出液(50mMリン酸ナトリウムバッファー/0.3M NaCl/200mM イミダゾール)で目的のタンパク質を溶出し、溶出液をAmicon Ultra-0.5mL (30K)を用いて、50mMリン酸ナトリウムバッファーにより濃縮し、タンパク質濃度を測定した。その後1μgに4×sample buffer(glycerol 4.0mL/1.5M Tris-HCl buffer(pH6.8) 1.67mL/10% SDS solution 1.0mL/β-mercaptoethanol 400μL)を加え、100℃で3分間変性処理し、SDS-PAGEで分離した。

0133

(ヒトインターフェロンγ精製)
Niレジン(profanityIMAC Ni-charged resin)50μLをカラムに詰め、平衡化液(50mMリン酸ナトリウムバッファー/0.3M NaCl)で平衡化した。続いて、MSG抽出液500μLを積載し、1.5mLの洗浄液(50mMリン酸ナトリウムバッファー/0.3M NaCl/20mMイミダゾール)で洗浄した。続いて、300μLの溶出液(50mMリン酸ナトリウムバッファー/0.3M NaCl/200mM イミダゾール)で目的タンパク質を溶出し、溶出液をAmicon Ultra-0.5mL (10K)を用い、50mMリン酸ナトリウムバッファーにより濃縮し、タンパク質濃度を測定した。その後1μgに4×sample buffer(glycerol 4.0mL/1.5M Tris-HCl buffer(pH6.8) 1.67mL/10% SDS solution 1.0mL/β-mercaptoethanol 400μL)を加え、100℃で3分間変性処理し、SDS-PAGEで分離した。

0134

(3)タンパク質分離
(ヒトアンチトロンビンIIIサンプル調製
Niカラムの各溶出液10μLに4×sample buffer(glycerol 4.0mL/ 1.5M Tris-HCl buffer(pH6.8) 1.67mL/ 10% SDS solution 1.0mL/β-mercaptoethanol 400μL)3.3μLを加え、100℃で3分間変性処理をした。遠心後、上清を回収し、MSG抽出液1.1μL、回収上清10μLをSDS-PAGEで分離した。泳動後のゲルをCBB染色してhATIII精製の確認を行った。
結果を図3に示す。精製画分にhATIIIのバンドをすることができた。

0135

(ヒトインターフェロンγサンプル調製)
Niカラムの各溶出液をアセトンで1.2 mLにメスアップし、-20℃で3日間静置させた。その後、上清を除去し、遠心乾燥した。1×sample buffer 20μLを加えて沈殿を溶解し、100℃で3分間変性処理をした。遠心後、上清を回収し、MSG抽出液11.25μL、回収上清10μLをSDS-PAGEで分離した。泳動後のゲルをCBB染色してhIFNγ精製の確認を行った。

0136

結果を図4に示す。精製画分に3本のバンドが確認されたため、3000倍希釈したマウス由来抗His抗体でウェスタンブロットを行い、hIFNγを検出した。上述のようにクローニングの際に使用したプライマーにより、hIFNγ遺伝子断片は末端に6Hisタグを含んでいる。二次抗体には10000倍希釈したHRP抗マウスIgG抗体を用いた。その結果、3本のバンドは全てhIFNγであることが確認された。PNGaseFを用いて脱糖鎖を行ったhIFNγをウェスタンブロットで検出したところ、3本のバンドは最も分子量の小さい1本のバンドに収束した。この結果から、hIFNγの2ヶ所の糖鎖付加部位における糖鎖付加の有無によって3本のバンドに分かれて検出されたことが推測された。

0137

(4)ゲル内消化
(ヒトインターフェロンγのゲル内消化)
SDS-PAGEで分離したタンパク質(hIFNγ)のバンド(図4の*及び**で示す糖鎖が付加した2本のバンド)を切り抜き、50mM NH4HCO3/50%MeCN(アセトニトリル)で15分×2回ボルテクッスにかけて脱染色を行った。その後、100% MeCNで5分間ボルテックスにかけ、再度50mM NH4HCO3/50%MeCNで一晩ボルテックスにかけた。翌、100% MeCNで15分×2回ボルテックスを行い、遠心乾燥でMeCNを除去した。

0138

(ヒトアンチトロンビンIIIのゲル内消化)
SDS-PAGEで分離した目的タンパク質(hATIII)のバンドを切り抜き、50mM NH4HCO3/50%MeCN(アセトニトリル)で15分×2回ボルテクッスにかけて脱染色を行った。その後、100% MeCNで5分間ボルテックスにかけ、再度50mM NH4HCO3/50%MeCNで一晩ボルテックスにかけた。翌朝、100% MeCNで15分×2回ボルテックスを行い、遠心乾燥でMeCNを除去した。

0139

25mMDDTを含む50mM NH4HCO3を加えて、56℃で20分間還元反応を行った。その後、上清のDTT溶液を除去し、同量の50mMヨードアセトアミドを含む50mM NH4HCO3を加え、20分間暗所時々振とうを行った。精製水を加えボルテックスし、その後、MeCNを加えて10分間ボルテックスを2回繰り返した。50mM NH4HCO3を加えて15分間膨潤させた後、MeCNで脱水後、遠心乾燥でMeCNを除去した。

0140

氷上でトリプシン溶液を20μL加え、30分間静置し、膨潤させた。その後、0.01% ProteaseMAXTM(プロメガ社)を含む50mM NH4HCO3をゲルが浸る程度加え、50℃で1時間インキュベートした。なお、プロテアーゼ処理は、キモトリプシンでもよい。この場合、25℃で2〜18時間インキュベートする。酵素処理液を15000×gで10分間遠心して回収した。トリプシンを不活化するためにTFAを0.5%となるように添加した。

0141

<実施例5:組換えタンパク質の糖鎖構造解析
(目的)
実施例4で得られた消化ペプチドに付加した糖鎖構造をnanoLC-MS/MSを用いて分析する。

0142

(方法)
実施例4で得られた酵素処理液6μL又は8μLを以下の解析条件でnanoLC-MS/MSに供した。具体的な分析方法については、各使用機器に添付の使用説明書に従った。

0143

液体クロマトグラフィー(LC)条件)
使用機器:Agilent Technologies 1200 series
溶離液A:0.1% HCOOH/milliQ
・溶離液B:0.1% HCOOH/MeCN
・カラム:ZORBAX300SB-C18(Agilent Technologies) 150 mm x 100μm粒子3.5μm
流速:0.6μL/min
時間連続濃度勾配(分)0→5→65→66→71→72→90
B(%)2→8→50→95→95→2→2

0144

(MS/MS条件)
・使用機器:micrOTOF-Q Bruker
・Mass range: 50 - 4,500 m/z
イオン化方法ESI
スキャン速度:5KHz
解析ソフトウェア:Hystar
nanoLC-MS/MSの結果から糖鎖付加ペプチドを同定し、そのペプチドに付加した糖鎖構造を推定した。

0145

(結果)
(1)ヒトアンチトロンビンIIIの糖鎖構造解析
ヒトアンチトロンビンIIIには、糖鎖付加される4か所のアスパラギン残基(N128、N167、N87、及びN224:開始メチオニンをM1とする。以下、同様。)が知られている(Zhou Z. & Smith D.L., 1990, siomedical and environmental mass spectrometry, 19: 782-786)。

0146

(GalTアイソザイムのガラクトース付加効率の比較)
GalTの各アイソザイム遺伝子を導入した組換えカイコの絹糸腺より調製したタンパク質の糖鎖構造を解析した。その糖鎖構造のプロファイルを表2に示す。表中の数値は、検出された糖鎖全体を100%としたときのその糖鎖の割合(%)である。

0147

0148

表2の結果から、GalTアイソザイムの中で、ガラクトース付加効率が最も高いのは従来型GalT2のGalT2pであり、次いで改良型GalT2のGalT2iであった。そして、従来の研究においてガラクトース付加で最も一般的に使用されてきたGalT1と、GalT3が同程度の付加効率を有し、GalT4の付加効率が最も低いことが明らかとなった。よって、以降は、GalT2p、GalT2i、及びGalT1遺伝子組換えカイコを用いたデータを示す。

0149

(シアル酸関連遺伝子の導入数と糖鎖構造の関係)
シアル酸関連遺伝子の導入数とシアル酸付加の有無を検証するため、GalT遺伝子組換えカイコ、及び各種シアル酸関連遺伝子組換えカイコ(3種、5種、及び6種)を交配して得た各糖鎖付加カイコの絹糸腺より調製したタンパク質の糖鎖構造を解析した。その糖鎖構造のプロファイルを表3に示す。GalT遺伝子には、ガラクトースの付加効率が高かったGalT2iを使用した。結果を表3に示す。表中の数値は、検出された糖鎖全体を100%としたときのその糖鎖の割合(%)である。表中、例えばMan5は、糖鎖末端に5個のマンノースを含む構造を、Man3Fは3個のマンノースとフコース修飾を1個含む構造を示す。

0150

0151

シアル酸関連遺伝子組換えカイコがシアル酸関連遺伝子を3種、5種又は6種のいずれを含む場合にも、糖タンパク質にシアル酸末端構造が確認された。この結果から、ガラクトース非還元末端にシアル酸を付加する上で必要なシアル酸関連遺伝子の導入数は、GNE、NANS、NANP、CMAS、及びST6GAL1の各遺伝子から選択される少なくとも3つで足りることが明らかとなった。また、3種や5種のときよりも6種のときにシアル酸付加効率が著しく上昇した。実施例1において作製した5種(NANS/NANP/GNE/CAMS/ST6GAL1)のシアル酸関連遺伝子発現ベクターと6種(NANS/NANP/SLC35A1/GNE/CAMS/ST6GAL1)のシアル酸関連遺伝子発現ベクター間で異なるシアル酸関連遺伝子はSLC35A1遺伝子である。したがって、SLC35A1遺伝子は、ガラクトース非還元末端にシアル酸を付加する上で必須ではないが、その付加効率を増強させる機能を有することが明らかとなった。

0152

(糖鎖付加部位における糖鎖構造の解析)
GalT遺伝子組換えカイコ(GalT1、GalT2p、又はGalT2i)、シアル酸関連遺伝子組換えカイコ(5種又は6種)、及びhATIII遺伝子組換えカイコを交配して得た糖鎖付加カイコが生産する組換えhATIIIタンパク質のN187及びN224の2か所の糖鎖付加部位における糖鎖構造の関係を表4に示す。表中、Man0-4は、糖鎖末端に0〜4個のマンノースを含む構造を、Man2-3Fは2〜3個のマンノースとフコース修飾を1個含む構造を示す。また、非還元末端にGlcNAcをもつ糖鎖をまとめてGlcNAc構造として、非還元末端にGalをもつ糖鎖をまとめてGal構造として、そして非還元末端にSiaをもつ糖鎖をまとめてSia構造として示す。a及びbはカイコ系統(line)を示している。表中の数値は、検出された糖鎖全体を100%としたときのその糖鎖の割合(%)である。表中、ATIII/GalT/シアル酸関連遺伝子の表記に関して、(+/-/-)はhATIII遺伝子組換えカイコを、また(+/-/5種)はGalT遺伝子組換えカイコを交配せず、hATIII遺伝子組換えカイコと5種シアル酸関連遺伝子組換えカイコを交配して得た遺伝子組換えカイコを示す。同様に、(+/GalT2p/-)はシアル酸関連遺伝子組換えカイコを交配せず、hATIII遺伝子組換えカイコとGalT2p遺伝子組換えカイコを交配して得た遺伝子組換えカイコを、また(+/GalT2p/5種)は、hATIII遺伝子組換えカイコ、GalT2p遺伝子組換えカイコ及び5種シアル酸関連遺伝子組換えカイコを交配して得た遺伝子組換えカイコを示す。他の表記についても同様とする。

0153

0154

N187及びN224の糖鎖付加アスパラギン残基は、いずれもGalT(GalT2p、GalT2i又はGalT1)発現ベクター、及び5種又は6種のシアル酸関連遺伝子発現ベクターを含む遺伝子組換えカイコのみで、哺乳動物と同じシアル酸が非還元末端に付加されていた。その効率は、GalT1を使用したときよりもGalT2p又はGalT2iを使用した時の方が高かった。

0155

(2)ヒトインターフェロンγの糖鎖構造解析
ヒトインターフェロンγ(hIFNγ)は、図4において*で示す中央のバンドを第1分子種、**で示す最も移動度の遅いバンドを第2分子種とした。

0156

ヒトインターフェロンγには、糖鎖付加される2か所のアスパラギン残基(N48、及びN120)が知られている。GalT2p遺伝子組換えカイコ、シアル酸関連遺伝子組換えカイコ(5種又は6種)、及びhIFNγ遺伝子組換えカイコを交配して得た糖鎖付加カイコから得られた組換えhIFNγタンパク質の第1及び第2分子種におけるN48及びN120の糖鎖付加部位の糖鎖構造を表5に示す。表中の数値は、検出された糖鎖全体を100%としたときのその糖鎖の割合(%)を、またa及びbはカイコ系統(line)を示している。表中、IFNγ/GalT2p/シアル酸関連遺伝子の表記に関して、(+/-/-)はhIFNγ遺伝子組換えカイコを、また(+/-/5種)はGalT2p遺伝子組換えカイコを交配せず、hIFNγ遺伝子組換えカイコと5種シアル酸関連遺伝子組換えカイコを交配して得た遺伝子組換えカイコを示す。同様に、(+/+/-)はシアル酸関連遺伝子組換えカイコを交配せず、hIFNγ遺伝子組換えカイコとGalT2p遺伝子組換えカイコを交配して得た遺伝子組換えカイコを、また(+/+/5種or6種)はGalT2p遺伝子組換えカイコ、hIFNγ遺伝子組換えカイコ及び5種又は6種シアル酸関連遺伝子組換えカイコを交配して得た遺伝子組換えカイコを示す。

0157

表6は、表5から本発明と直接関係のある糖鎖構造とその割合(%)を抜粋したものである。

0158

さらに、各分子種において検出された糖鎖構造を存在率の高い順から上位4位を表7に示した。この表における対照用遺伝子組換えカイコは、GalT遺伝子組換えカイコ及びシアル酸関連遺伝子組換えカイコを交配しないhIFNγ遺伝子組換えカイコである。したがって、対照用遺伝子組換えカイコでは、実質的にカイコの野生型の糖鎖が付加されることになる。

0159

0160

0161

実施例

0162

以上の結果からhIFNγにおけるN48及びN120の糖鎖付加アスパラギン残基にも、GalT2発現ベクター及びシアル酸関連遺伝子発現ベクターの両発現ベクターを含む遺伝子組換えカイコにおいて、非還元末端にシアル酸を有する哺乳動物型糖鎖が付加されていた。したがって、本発明の糖鎖付加カイコを用いれば、そのカイコの絹糸腺内で生産される目的のタンパク質に哺乳動物型糖鎖を付加することができる。

ページトップへ

この技術を出願した法人

この技術を発明した人物

ページトップへ

関連する挑戦したい社会課題

関連する公募課題

該当するデータがありません

ページトップへ

技術視点だけで見ていませんか?

この技術の活用可能性がある分野

分野別動向を把握したい方- 事業化視点で見る -

(分野番号表示ON)※整理標準化データをもとに当社作成

ページトップへ

おススメ サービス

おススメ astavisionコンテンツ

新着 最近 公開された関連が強い技術

この 技術と関連性が強い技術

関連性が強い 技術一覧

この 技術と関連性が強い人物

関連性が強い人物一覧

この 技術と関連する社会課題

関連する挑戦したい社会課題一覧

この 技術と関連する公募課題

該当するデータがありません

astavision 新着記事

サイト情報について

本サービスは、国が公開している情報(公開特許公報、特許整理標準化データ等)を元に構成されています。出典元のデータには一部間違いやノイズがあり、情報の正確さについては保証致しかねます。また一時的に、各データの収録範囲や更新周期によって、一部の情報が正しく表示されないことがございます。当サイトの情報を元にした諸問題、不利益等について当方は何ら責任を負いかねることを予めご承知おきのほど宜しくお願い申し上げます。

主たる情報の出典

特許情報…特許整理標準化データ(XML編)、公開特許公報、特許公報、審決公報、Patent Map Guidance System データ