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課題
解決手段
概要
背景
病理診断は、患者から採取した検体を薄切してスライドを作製し、所定の方法で染色したときの染色画像に基づいて、細胞または組織の形態を観察するとともに、特定の生体物質の発現レベルを定量、評価することにより、その患者が特定の疾患に罹患しているか否か、あるいは特定の治療薬が奏功するか否かといった様々な事象を診断する方法である。
たとえば、癌組織を採取して作製された検体を用いて、癌遺伝子の一種であるHER2遺伝子(HER2/neu、c-erbB-2)および/またはHER2遺伝子から産生される膜タンパク質であって癌細胞増殖因子の受容体として機能していると推定されるHER2タンパクを定量し、評価することによって、乳癌患者の予後を診断したり、分子標的治療薬「トラスツズマブ」(商品名「ハーセプチン」(登録商標)、抗HER2モノクローナル抗体)による治療効果を予測したりする病理診断が広く行われている。ヒト乳癌症例では、15〜25%でHER2遺伝子の増幅とHER2タンパクの過剰発現が認められるが、癌細胞におけるHER2の過剰発現は基本的にDNAレベルの遺伝子増幅に伴って起きている。癌組織を対象としたHER2の検査法は、DNAレベルの増幅をみる方法、RNAレベルでの過剰発現をみる方法、そしてタンパクレベルでの過剰発現をみる方法に分類される。タンパクレベルでの検査法として代表的なものが、免疫染色法ないし免疫組織化学(IHC)法である。このようなHER2検査は臨床的に重要視されており、免疫染色法(IHC法)によるHER2検査の標準的な手順および判定基準(スコア)は、2007 ASCO/CAPガイドラインによって規定されている。
免疫染色法(IHC法)は、ホルマリン固定パラフィン包埋組織切片上で、蛍光標識された抗HER2抗体を用いて、細胞膜に発現しているHER2タンパクの量を検出する方法である。従来の免疫染色法(本来のIHC法)は、所定の基質を添加したときに色素を生成する酵素で標識した抗HER2抗体を利用する方法(酵素抗体法)が採用されていたが、より識別性に優れる蛍光体で標識した抗HER2抗体を利用する免疫染色法(蛍光抗体法)も利用されるようになってきている。薄切されたホルマリン固定パラフィン包埋組織切片を載せたスライド(標本)を準備し、脱パラフィン処理等を行って免疫染色に適した状態にした後、免疫染色法では、蛍光標識抗体を反応させて細胞膜のHER2タンパクに結合させる。
ここで、蛍光標識のために前述したような蛍光ナノ粒子を用いる場合、従来の酵素を利用するIHC法と違って色素が混合するということがないので、一枚の組織切片上で、免疫染色法による染色処理に加えて、細胞の形態観察用の染色処理を同時に行うことができる。例えば、細胞または組織の形態観察用に標準的に用いられているヘマトキシリン・エオジン染色(HE染色)を利用する場合、ヘマトキシリン染色により細胞核・石灰部・軟骨組織・細菌・粘液が青藍色〜淡青色に染色され、エオジン染色により細胞質・間質・各種線維・赤血球・角化細胞が赤〜濃赤色に染色される。このようにして免疫染色された組織切片は、褪色防止剤を含有する封入剤を用いて封入処理をした後、所定の励起光を照射しながら蛍光画像が撮影され、さらに明視野において形態観察用の染色画像が撮影される(なお、エオジンは蛍光を発するので、エオジンの染色画像は蛍光画像として撮影することも可能である)。そして、撮影されたHER2タンパクが標識された蛍光画像と、細胞膜の位置を特定できる細胞の形態観察用の(蛍光)画像とを重ねあわせ、一細胞あたりの細胞膜領域内に観察される輝点の数を計測し、その値によってHER2タンパクが異常発現しているか否かが判定される。
上記のような免疫染色法(蛍光抗体法)と同時に形態観察染色処理が行われる実施形態においても、蛍光体として蛍光体集積ナノ粒子のような蛍光ナノ粒子を用いることが好適であり、そのような実施形態は、例えば、特許文献1(国際公開WO2013/035703号パンフレット)、特許文献2(国際公開WO2013/147081号パンフレット)などを参照することができる。
概要
免疫染色法により、検体スライド上の組織切片に含まれる目的生体物質を蛍光ナノ粒子で標識する処理(蛍光標識処理)を行い、続いて前記蛍光標識処理された組織切片を形態観察用の染色液で染色する処理(染色処理)を行っても、染色スライドにおける蛍光ナノ粒子の輝度の低下および輝度のばらつきを抑制することのできる方法を提供する。上記蛍光標識処理および染色処理、ならびに染色処理された組織切片を酸性水溶液で洗浄する処理(洗浄処理)を行う、染色スライドの洗浄方法。なし
目的
本発明は、免疫染色法により、検体スライド上の組織切片に含まれる目的生体物質を蛍光ナノ粒子で標識する処理(蛍光標識処理)を行い、続いて前記蛍光標識処理された組織切片を形態観察用染色液で染色する処理(染色処理)を行っても、染色スライドにおける蛍光ナノ粒子の輝度の低下および輝度のばらつきを抑制することのできる方法を提供する
効果
実績
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技術分野
背景技術
0002
病理診断は、患者から採取した検体を薄切してスライドを作製し、所定の方法で染色したときの染色画像に基づいて、細胞または組織の形態を観察するとともに、特定の生体物質の発現レベルを定量、評価することにより、その患者が特定の疾患に罹患しているか否か、あるいは特定の治療薬が奏功するか否かといった様々な事象を診断する方法である。
0003
たとえば、癌組織を採取して作製された検体を用いて、癌遺伝子の一種であるHER2遺伝子(HER2/neu、c-erbB-2)および/またはHER2遺伝子から産生される膜タンパク質であって癌細胞増殖因子の受容体として機能していると推定されるHER2タンパクを定量し、評価することによって、乳癌患者の予後を診断したり、分子標的治療薬「トラスツズマブ」(商品名「ハーセプチン」(登録商標)、抗HER2モノクローナル抗体)による治療効果を予測したりする病理診断が広く行われている。ヒト乳癌症例では、15〜25%でHER2遺伝子の増幅とHER2タンパクの過剰発現が認められるが、癌細胞におけるHER2の過剰発現は基本的にDNAレベルの遺伝子増幅に伴って起きている。癌組織を対象としたHER2の検査法は、DNAレベルの増幅をみる方法、RNAレベルでの過剰発現をみる方法、そしてタンパクレベルでの過剰発現をみる方法に分類される。タンパクレベルでの検査法として代表的なものが、免疫染色法ないし免疫組織化学(IHC)法である。このようなHER2検査は臨床的に重要視されており、免疫染色法(IHC法)によるHER2検査の標準的な手順および判定基準(スコア)は、2007 ASCO/CAPガイドラインによって規定されている。
0004
免疫染色法(IHC法)は、ホルマリン固定パラフィン包埋組織切片上で、蛍光標識された抗HER2抗体を用いて、細胞膜に発現しているHER2タンパクの量を検出する方法である。従来の免疫染色法(本来のIHC法)は、所定の基質を添加したときに色素を生成する酵素で標識した抗HER2抗体を利用する方法(酵素抗体法)が採用されていたが、より識別性に優れる蛍光体で標識した抗HER2抗体を利用する免疫染色法(蛍光抗体法)も利用されるようになってきている。薄切されたホルマリン固定パラフィン包埋組織切片を載せたスライド(標本)を準備し、脱パラフィン処理等を行って免疫染色に適した状態にした後、免疫染色法では、蛍光標識抗体を反応させて細胞膜のHER2タンパクに結合させる。
0005
ここで、蛍光標識のために前述したような蛍光ナノ粒子を用いる場合、従来の酵素を利用するIHC法と違って色素が混合するということがないので、一枚の組織切片上で、免疫染色法による染色処理に加えて、細胞の形態観察用の染色処理を同時に行うことができる。例えば、細胞または組織の形態観察用に標準的に用いられているヘマトキシリン・エオジン染色(HE染色)を利用する場合、ヘマトキシリン染色により細胞核・石灰部・軟骨組織・細菌・粘液が青藍色〜淡青色に染色され、エオジン染色により細胞質・間質・各種線維・赤血球・角化細胞が赤〜濃赤色に染色される。このようにして免疫染色された組織切片は、褪色防止剤を含有する封入剤を用いて封入処理をした後、所定の励起光を照射しながら蛍光画像が撮影され、さらに明視野において形態観察用の染色画像が撮影される(なお、エオジンは蛍光を発するので、エオジンの染色画像は蛍光画像として撮影することも可能である)。そして、撮影されたHER2タンパクが標識された蛍光画像と、細胞膜の位置を特定できる細胞の形態観察用の(蛍光)画像とを重ねあわせ、一細胞あたりの細胞膜領域内に観察される輝点の数を計測し、その値によってHER2タンパクが異常発現しているか否かが判定される。
0006
上記のような免疫染色法(蛍光抗体法)と同時に形態観察染色処理が行われる実施形態においても、蛍光体として蛍光体集積ナノ粒子のような蛍光ナノ粒子を用いることが好適であり、そのような実施形態は、例えば、特許文献1(国際公開WO2013/035703号パンフレット)、特許文献2(国際公開WO2013/147081号パンフレット)などを参照することができる。
先行技術
0007
国際公開WO2013/035703号パンフレット
国際公開WO2013/147081号パンフレット
発明が解決しようとする課題
0008
従来の免疫染色法による組織評価法で使用される蛍光ナノ粒子は、染色液(例えば、形態観察用染色液であるヘマトキシリン溶液および/またはエオジン溶液)と併用される場合、顕微鏡画像の観察において、蛍光ナノ粒子の蛍光輝点の数が減少したり、輝度の低下が生じたりする問題があった。また、蛍光ナノ粒子の輝度低下率は染色液による染色処理ごとに異なり一定ではないため、染色後の蛍光ナノ粒子の輝度のばらつきが大きくなってしまう(つまり一律に補正することができない)という問題もあった。
0009
すなわち、本発明は、免疫染色法により、検体スライド上の組織切片に含まれる目的生体物質を蛍光ナノ粒子で標識する処理(蛍光標識処理)を行い、続いて前記蛍光標識処理された組織切片を形態観察用染色液で染色する処理(染色処理)を行っても、染色スライドにおける蛍光ナノ粒子の輝度の低下および輝度のばらつきを抑制することのできる方法を提供することを目的とする。
課題を解決するための手段
0010
発明者らは、上記のような手順で検体スライドの染色を行った場合、染色液(染色液に含まれるヘマトキシリンおよびエオジン等の染色剤)が蛍光ナノ粒子に吸着することによって、輝度の低下や輝度のばらつきの問題が起きていると推定した。そして、通常は水または中性〜弱アルカリ性の緩衝液(PBS等)を用いて染色液の洗浄を行うのに対し、酸性の水溶液を用いて洗浄することで、そのような染色液の蛍光ナノ粒子への吸着を抑制することができ、その結果、蛍光ナノ粒子の輝度を比較的高く保ち、かつ、ばらつきを抑えることができることを見出した。
0012
すなわち、本発明には下記のような実施形態によって表される発明が包含される。
[項1]
免疫染色法により、検体スライド上の組織切片に含まれる目的生体物質を蛍光ナノ粒子で標識する処理(蛍光標識処理)、
前記蛍光標識処理された組織切片を形態観察用染色液で染色する処理(染色処理)、および
染色処理された組織切片を酸性水溶液で洗浄する処理(洗浄処理)
を行う、染色スライドの洗浄方法。
[項2]
前記酸性水溶液のpHが2以上7未満である、項1に記載の染色スライドの洗浄方法。
[項3]
前記酸性水溶液のpHが3以上6.5以下である、項1に記載の染色スライドの洗浄方法。
[項4]
前記染色液がヘマトキシリンおよび/またはエオジンより選択される、項1〜3のいずれか1項に記載の染色スライドの洗浄方法。
[項5]
前記蛍光ナノ粒子が蛍光体集積ナノ粒子であり、その平均粒子径が20nm〜500nmである、項1〜4のいずれか1項に記載の染色スライドの洗浄方法。
発明の効果
0013
本発明の染色スライドの洗浄方法により、検体スライドに染色液(ヘマトキシリン−エオジン)を用いた染色を行っても、蛍光ナノ粒子の輝度のばらつきが低減され、輝度低下を抑制することができる。それにより、目的タンパク質に対応するシグナル精度が向上した蛍光画像を取得し、目的とするタンパク質の発現レベルをより正確に評価することができるようになり、病理診断の信頼性を高めることにつながる。
図面の簡単な説明
0015
本発明の染色スライドの洗浄方法は、免疫染色法に基づいて行う実施形態(本明細書において単に「本発明の方法」と称することがある。)である。
0017
本発明の方法に関する標本前処理工程には、一般的に、脱パラフィン処理、抗原賦活化処理、洗浄処理などが含まれる。
0018
本発明の方法の染色工程には、免疫染色法に基づき蛍光標識を行う処理(免疫染色処理)、すなわち目的生体物質を直接的に標識するか、間接的に標識するかに応じた、1次抗体処理、2次抗体処理、蛍光標識処理、形態観察用染色処理などが含まれる。
0020
以下、本発明を実施するために必要な処理についてさらに説明する。本明細書に特に記載されていない事項、例えば、免疫染色法に基づいて染色されたスライドを完成するために必要とされる工程および処理の全般的な事項や、完成した染色スライドを用いた観察・撮影工程、撮影された画像を用いた画像処理・分析工程などについては、特許文献1〜2の記載事項およびその他の一般的な技術的事項に準じた適切なものとすることができる。
0021
(蛍光ナノ粒子)
本発明では、目的とする遺伝子またはタンパク質を蛍光標識するための物質として、蛍光ナノ粒子を使用する。蛍光ナノ粒子は、ナノサイズの(直径が1μm以下の)粒子状の蛍光体であり、1粒子で十分な輝度を有する蛍光を発することのできるものである。撮影される蛍光画像において所望の波長の蛍光(色)を発する蛍光ナノ粒子を選択すればよい。また、蛍光標識の対象とする生体目的物質が複数ある場合は、それぞれに対応した異なる波長の蛍光を発する、複数種類の蛍光ナノ粒子を組み合わせて用いればよい。このような蛍光ナノ粒子は、無機蛍光体ナノ粒子および蛍光体集積ナノ粒子に大別することができる。
0022
(無機蛍光体ナノ粒子)
本発明では無機蛍光体ナノ粒子として、量子ドットを用いることができる。これらの無機蛍光体ナノ粒子は、次に述べるような無機蛍光体集積ナノ粒子を調製しなくても単独で、観察可能な輝度を有する輝点の輝度を構成することができる。
0023
量子ドットとしては、II−VI族化合物、III−V族化合物、又はIV族元素を成分として含有する量子ドット(それぞれ、「II−VI族量子ドット」、「III−V族量子ドット」、「IV族量子ドット」ともいう。)のいずれかを用いることができる。具体的には、国際公開WO2012/133047号公報に例示されたCdSe等の粒子ドットを挙げることができる。これらの無機蛍光体ナノ粒子は、いずれかの種類を単独で用いても、複数種を併用してもよい。
0024
また、上記量子ドットをコアとし、その上にシェルを設けた量子ドットを用いることもできる。以下、シェルを有する量子ドットの表記法として、コアがCdSe、シェルがZnSの場合、CdSe/ZnSと表記する。具体的には、国際公開WO2012/133047号公報に例示されたCdSe/ZnS等を挙げることができるが、これらに限定されない。
0025
量子ドットは必要に応じて、有機ポリマー等により表面処理が施されているものを用いてもよい。例えば、市販されている表面カルボキシ基を有するCdSe/ZnS(インビトロジェン社製)、表面アミノ基を有するCdSe/ZnS(インビトロジェン社製)等を用いることが出来る。
0026
(蛍光体集積ナノ粒子)
蛍光体集積ナノ粒子は、蛍光色素や無機蛍光体ナノ粒子のような蛍光体を複数個、母体となる物質に内包したり表面に付着させたりすることで集積化した、ナノサイズの(直径が1μm以下の)粒子状の蛍光体である。免疫染色においてこのような蛍光体集積ナノ粒子を用いることは、蛍光体を単独で(蛍光色素を一分子で、または無機蛍光体ナノ粒子を一粒子で)用いる場合と比較して、目的とする生体分子を標識した蛍光標識体1つあたりが発する蛍光の強度を増強し、細胞の自家蛍光等のノイズや他の色素との識別性を高めることができること、また励起光の照射による褪色を抑制することができることから好ましい。
0027
蛍光体集積ナノ粒子において集積化させる蛍光色素としては、例えば、フルオレセイン系色素、ローダミン系色素、Alexa Fluor(登録商標、インビトロジェン社製)系色素、BODIPY(登録商標、インビトロジェン社製)系色素、カスケード(登録商標、インビトロジェン社)系色素、クマリン系色素、NBD(登録商標)系色素、ピレン系色素、シアニン系色素、ペリレン系色素、オキサジン系色素など、低分子有機化合物(ポリマー等の高分子有機化合物ではないもの)からなる蛍光色素が挙げられる。中でも、スルホローダミン101およびその塩酸塩であるTexasRed(登録商標)などのローダミン系色素や、ペリレンジイミドなどのペリレン系色素は、比較的耐光性が高いため好ましい。
0028
一方、蛍光体集積ナノ粒子において集積化させる無機蛍光体ナノ粒子としては、前述したような、単独で用いることのできる無機蛍光体ナノ粒子と同様のものが挙げられる。
0029
蛍光体集積ナノ粒子を構成する母体としては、樹脂やシリカなど、物理的または化学的な結合力でもって蛍光体を集積化することのできる物質を用いることができる。樹脂としては、例えば、メラミン樹脂、尿素樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、フェノール樹脂、キシレン樹脂等の熱硬化性樹脂;およびスチレン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリアクリロニトリル、AS樹脂(アクリロニトリル−スチレン共重合体)、ASA樹脂(アクリロニトリル−スチレン−アクリル酸メチル共重合体)など、1種類または2種類以上のモノマーを用いて作製される各種の単独重合体および共重合体が挙げられる。中でも、メラミン樹脂やスチレン樹脂は、蛍光色素等の蛍光体を集積させたナノ粒子を作製しやすく、また発光強度の高いナノ粒子が得られるため好ましい。
0030
蛍光体集積ナノ粒子の実施形態の例としては、蛍光体として蛍光色素を用い、母体として樹脂を用いて作製される蛍光色素集積樹脂粒子;蛍光体として蛍光色素を用い、母体としてシリカを用いて作製される蛍光色素集積シリカ粒子;蛍光体として無機蛍光体ナノ粒子を用い、母体として樹脂を用いて作製される無機蛍光体ナノ粒子集積樹脂粒子;蛍光体として無機蛍光体ナノ粒子を用い、母体としてシリカを用いて作製される無機蛍光体ナノ粒子集積シリカ粒子などが挙げられる。
0031
たとえば、蛍光体としてペリレンジイミド、スルホローダミン101またはその塩酸塩(テキサスレッド)等の蛍光色素を用い、母体としてメラミン樹脂、スチレン樹脂等の樹脂を用いて作製される蛍光色素集積樹脂粒子は、標識性能等に優れることから、本発明における蛍光体集積ナノ粒子として好ましい。
0032
蛍光体集積ナノ粒子の平均粒径は、通常20〜500nm、好ましくは50〜200nmであり、粒径の変動係数は、通常は20%以下、好ましくは5〜15%である。なお、蛍光体集積ナノ粒子の粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて電子顕微鏡写真を撮影し、蛍光標識用樹脂粒子の断面積を計測し、その計測値を相当する円の面積としたときの直径(面積円相当径)として測定することができる。蛍光体集積ナノ粒子の集団についての平均粒径および変動係数は、十分な数(たとえば1000個)の蛍光体集積ナノ粒子のそれぞれについて上記のようにして粒径を測定した、平均粒径はその算術平均として算出され、変動係数は式:100×粒径の標準偏差/平均粒径により算出される。
0033
上記のような蛍光体集積ナノ粒子は公知であり、その製造に用いられる蛍光体および母体や製造方法などの詳細、実施形態の具体例については、例えば国際公開WO2013/035703号パンフレット、国際公開WO2013/147081号パンフレット、国際公開WO2014/136776号パンフレットなどを参照することができる。
0034
<蛍光標識処理(免疫染色処理)>
本発明の方法で行われる蛍光標識処理は、染色工程において、免疫染色法に基づいて目的とするタンパク質を蛍光ナノ粒子で標識する処理である。
0035
標識処理を免疫染色法に基づいて行う場合、賦活化処理を経た検体スライドを免疫染色用の標識液に浸漬し、標識液中の1または複数の標識剤を直接的または間接的に標的とするタンパク質(抗原)に結合させて、標識化する。
0036
標的タンパク質(抗原)は特に限定されるものではないが、典型的には、免疫染色法に基づく病理診断の対象となり得る遺伝子、例えばHER2、TOP2A、HER3、EGFR、P53、MET、その他の各種のがん・腫瘍関連遺伝子(いわゆるバイオマーカー遺伝子)由来のタンパク質、さらにはがんの増殖因子、転写制御因子、増殖制御因子受容体、転写制御因子受容体等のがんに関連するタンパク質から選択することができる。したがって、次に述べる抗体も、上記のような標的タンパク質(抗原)に適した結合能を有するものとして、公知の手法に基づいて作製することが可能であり、市販品として入手することもできる。
0037
免疫染色法には様々な手法があり、目的とするタンパク質を蛍光標識して病理診断等に用いることのできるよう組織切片を染色することができれば特に限定されるものではないが、代表的には次のようなものが挙げられる:
蛍光体と1次抗体を連結した蛍光標識1次抗体を用意し、その蛍光標識1次抗体で目的タンパク質を直接的に蛍光標識し染色する方法(1次抗体法);
1次抗体、および蛍光標識体と2次抗体を連結した蛍光標識2次抗体を用意し、目的タンパク質に1次抗体を反応させた後、その1次抗体に蛍光標識2次抗体を反応させることで、目的タンパク質を間接的に蛍光標識し染色する方法(2次抗体法)
1次抗体とビオチンを連結したビオチン修飾1次抗体、および蛍光体とアビジンないしストレプトアビジンを連結したアビジン修飾蛍光体を用意し、目的タンパク質にビオチン修飾1次抗体を反応させた後、さらにアビジン修飾蛍光体を反応させて、アビジン−ビオチン反応を利用して目的タンパク質を間接的に蛍光標識し染色する方法(アビジン−ビオチン併用1次抗体法);
1次抗体、2次抗体とビオチンを連結したビオチン修飾2次抗体、および蛍光体とアビジンないしストレプトアビジンを連結したアビジン修飾蛍光体を用意し、目的タンパク質に1次抗体を反応させ、次いでビオチン修飾2次抗体を反応させた後、さらにアビジン修飾蛍光体を反応させて、アビジン−ビオチン反応を利用して目的タンパク質を間接的に蛍光標識し染色する方法(アビジン−ビオチン併用2次抗体法)。
0038
なお、上記のアビジン−ビオチン併用1次抗体法またはアビジン−ビオチン併用2次抗体法において、ビオチンおよびアビジンの代わりに、ハプテン(免疫原性を有さないが抗原性を示し抗体と反応しうる比較的分子量の低い物質)および抗ハプテン抗体、たとえばジコキシゲニンおよび抗ジコキシゲニン抗体、FITC(フルオレセインイソチオシアネート)および抗FITC抗原、さらには同様の特異的な反応性を有するその他の物質の組み合わせを利用することもできる。
0039
免疫染色法は、上述したような各種の手法のそれぞれにとって標準的な手順および処理条件に従って行えばよい。一般的には、検体を載置した検体スライドを免疫染色法に応じた1種類または2種類以上の試薬に、適切な温度および時間条件の下(例えば4℃で一晩)、浸漬すればよい。免疫染色に必要な各種の試薬、すなわち蛍光標識1次/2次抗体、ビオチン修飾1次/2次抗体、アビジン修飾2次抗体/蛍光体などが溶解し、必要に応じてBSA等のブロッキング剤が添加された緩衝液等の溶液は、公知の方法にしたがって作製することが可能であり、市販品として入手することもできる。
0040
標識液を用いた処理後、好ましくは検体スライドをPBS等の洗浄液に浸漬して洗浄する。通常、この標識液での処理後に行われるPBSを用いた洗浄処理の温度は室温であり、時間は3〜30分である。必要により、浸漬途中でPBSを交換してもよい。
0041
<形態観察用染色処理>
主に本発明の方法の染色工程において、標識物質として蛍光ナノ粒子で検体スライドを標識した後に、細胞ないし組織の形状や細胞の各部の位置情報を得るために検体スライドを形態観察用染色液で染色する形態観察用処理を行うことができる。
0042
形態観察用染色液としては、例えばヘマトキシリン染色液、エオジン染色液、パパニコロウ(Pap)染色液が挙げられる。ヘマトキシリン染色液としては、マイヤーヘマトキシリン液(組成例:ヘマトキシリン1.0g/カリウムミョウバン50g/よう素酸ナトリウム0.2g/抱水クロラール50g/くえん酸1.0g/蒸留水1,000ml)、マイヤーヘマトキシリン液(×2)(組成例:ヘマトキシリン2.0g/カリウムミョウバン50g/よう素酸ナトリウム0.4g/抱水クロラール50g/くえん酸1.0g/蒸留水1,000ml)、カラッチヘマトキシリン液(組成例:ヘマトキシリン1.0g/カリウムミョウバン50g/よう素酸ナトリウム0.2g/グリセリン200ml/蒸留水800ml)、ギルヘマトキシリン液(No.1,組成例:ヘマトキシリン2.0g/硫酸アルミニウム14〜18水17.6g/よう素酸ナトリウム0.2g/エチレングリコール250ml/氷酢酸20ml/蒸留水730ml)およびリリーマイヤーヘマトキシリン液(組成例:ヘマトキシリン5.0g/アンモニウムミョウバン50g/よう素酸ナトリウム0.5g/グリセリン300ml/氷酢酸20ml/蒸留水700ml)が挙げられる。エオシン染色液としては、1%エオシンY溶液(組成例:エオシンY5.0g/蒸留水500ml/酢酸数滴)、0.1%エオシンYエタノール溶液(組成例:10%エオシンY溶液5ml/95%エタノール495ml)、0.5%エオシンYエタノール溶液(組成例:10%エオシンY溶液25ml/95%エタノール475ml)およびエオシンアルコール液、酸抽出品(酸抽出エオシン液100ml/95%エタノール800ml/酢酸8ml)が挙げられる。
0043
形態観察用染色液を用いた染色処理は、一般的な手順に従って行えばよい。例えば、ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色の場合、マイヤーヘマトキシリン液で5分間染色し、45℃の流水で3分間洗浄した後、1%エオシン液で5分間染色するといった処理が行われる。
0044
<洗浄処理>
本発明の方法で行われる洗浄処理は、標本後処理工程において、溶媒置換処理の前に(溶媒置換処理の前に任意工程である脱水処理が行われる場合は脱水処理の前に)行われる処理であって、所定の酸性水溶液を用いて、染色された検体スライドを洗浄する処理である。
0045
本発明の方法においてヘマトキシリン、エオシンのような形態観察用染色液を用いて形態観察用染色処理を行った後に、このような洗浄処理を行う場合、蛍光ナノ粒子に結合した染色液を除去洗浄することが可能となる。染色液は組織のみならず蛍光ナノ粒子にも結合し、その蛍光を失活させる。所定の酸性水溶液による洗浄処理により蛍光ナノ粒子と染色液との結合を弱めることで蛍光の失活を抑制し、蛍光ナノ粒子の観察が可能となる。中性〜アルカリ性の水溶液を用いた場合、蛍光ナノ粒子に染色液が結合したままとなり輝度が低下する。染色液と蛍光ナノ粒子の結合の程度も蛍光ナノ粒子の種類によって異なるため、輝度のばらつきが生じてしまう。
0046
なお、検体スライドの作製過程では、各種の溶液で検体スライドを処理した後にその検体スライドの洗浄が行われる場合があるが、本発明に係る洗浄処理は、形態観察用染色液を用いた、形態観察用染色処理の後、溶媒置換処理の前に(溶媒置換処理の前に任意工程である脱水処理が行われる場合は脱水処理の前に)行われるものを指す。
0047
(酸性水溶液)
本発明の洗浄処理のために用いられる酸性水溶液は、酸と、水とを適切な割合で混合することによって調製することができる。酸性水溶液のpHの範囲は、輝度の低下およびばらつきを抑制する効果を考慮すると、2以上7未満が好ましく、pH3以上6.5以下がより好ましい。酸性水溶液のpHが2以上7未満、好ましくはpH3〜6.5であることにより、蛍光ナノ粒子の輝度のばらつきを抑制する効果が十分に保持され、輝度の低下を低減する効果を発揮できる。
0048
酸は水とよく混ざる(相溶性を有する)ものであれば、有機酸・無機酸を問わず使用することができる。有機酸としては、例えばギ酸、酢酸、クエン酸またはシュウ酸等が挙げられ、無機酸としては、例えば塩酸、硝酸、リン酸または硫酸等が挙げられる。特に、塩酸、クエン酸等が好適に用いられる。
0049
酸性水溶液を用いた洗浄処理のための手法は特に限定されるものではないが、一般的には、容器に収容された酸性水溶液に染色スライドを浸漬するようにして行えばよい。酸性水溶液への浸漬は、通常は室温で行えばよく、浸漬時間は、通常1秒〜30分間、好ましくは5〜15分間である。浸漬等の操作は、複数回繰り返してもよい。
0050
[作製例1]ストレプトアビジン修飾蛍光色素集積メラミン樹脂粒子の作製
"SulfoRhodamine101"(シグマアルドリッチ社製)20.3mgを水22mLに加えて溶解した。その後、この溶液に乳化重合用乳化剤"エマルゲン"(登録商標)430(ポリオキシエチレンオレイルエーテル、花王株式会社製)の5%水溶液を2mL加えた。この溶液をホットスターラー上で撹拌しながら70℃まで昇温させた後、この溶液にメラミン樹脂原料"ニカラックMX−035"(日本カーバイド工業社製)を0.81g加えた。さらに、この溶液に界面活性剤としてドデシルベンゼンスルホン酸(関東化学株式会社製)の10%水溶液を1000μL加え、70℃で50分間加熱撹拌した。その後、90℃に昇温して20分間加熱撹拌した。
0051
得られた蛍光色素集積メラミン樹脂粒子の分散液から、余剰の樹脂原料や蛍光色素等の不純物を除くため、純水による洗浄を行った。具体的には、遠心分離機"マイクロ冷却遠心機3740"(久保田商事株式会社製)にて20000Gで15分間、遠心分離し、上澄み除去後、超純水を加えて超音波照射して再分散した。遠心分離、上澄み除去および超純水への再分散による洗浄を5回繰り返した。
0052
上記蛍光色素集積メラミン樹脂粒子0.1mgをエタノール1.5mL中に分散し、アミノプロピルトリメトキシシラン(LS−3150、信越化学工業社製)2μLを加え、8時間反応させることにより、樹脂粒子の表面に存在するヒドロキシル基をアミノ基に変換する表面アミノ化処理を行った。
0053
2mMのエチレンジアミン四酢酸(EDTA)を含有したリン酸緩衝液生理的食塩水(PBS)を用いて、上記蛍光色素集積メラミン樹脂粒子の濃度を3nMに調整した。濃度調整した蛍光色素集積メラミン樹脂粒子の分散液に対して、終濃度10mMとなるように、SM(PEG)12(スクシンイミジル−[(N−マレイミドプロピオンアミド)−ドデカエチレングリコール]エステル、サーモサイエンティフィック社製)を混合し、20℃で1時間反応させることにより、粒子表面がマレイミド基で修飾された蛍光色素集積メラミン樹脂粒子を含む混合液を得た。
0054
この混合液を10000Gで20分間遠心分離を行い、上澄みを除去した後、2mMのEDTAを含有したPBSを加えて沈降物を分散させ、再度遠心分離を行った。同様の手順による上記洗浄を3回行った後、マレイミド基修飾された蛍光色素集積メラミン樹脂粒子を回収した。
0055
一方、ストレプトアビジン(和光純薬工業社製)とN−スクシミジル−S−アセチルチオ酢酸(SATA)を用いて、ストレプトアビジンに対してチオール基の付加処理を行った後、ゲル濾過して、蛍光色素集積ナノ粒子に結合可能なストレプトアビジンを別途調製した。
0056
上記の蛍光色素集積メラミン樹脂粒子とストレプトアビジンを、2mMのEDTAを含有したPBS中で混合し、室温で1時間反応させて、両者(マレイミド基とチオール基)を結合させた。その後、10mMメルカプトエタノールを添加して反応を停止させた。得られた溶液をφ=0.65μmの遠心フィルターで濃縮した後、精製用ゲル濾過カラムを用いて未反応のストレプトアビジン等を除去し、ストレプトアビジンが修飾された蛍光色素集積メラミン樹脂粒子を得た。
0057
[作製例2]ビオチン修飾2次抗体の作製
蛍光標識処理に使用するビオチン修飾された2次抗体の調製を以下の(i)〜(vii)の手順で行った。(i)50mMTris溶液に抗ウサギIgG抗体50μgを溶解した。(ii)該溶液に、最終濃度3mMとなるようにDTT(dithiothretol)溶液を混合した。その後、該溶液を37℃で30分間反応させた。(iii)その後、脱塩カラムを用いてDTTで還元化した2次抗体を精製した。精製した抗体全量のうち200μLを50mMTris溶液に溶解して抗体溶液を得た。(iv)その一方で、スペーサーの長さが30オングストロームであるリンカー試薬「Biotin−PEG6‐NH‐Mal」(PurePEG社製,製品番号2461006-250)を、DMSOを用いて0.4mMとなるように調製した。この溶液8.5μLを前記抗体溶液に添加し、混和して37℃で30分間反応させた。(v)この反応溶液を脱塩カラム「Zeba Desalt Spin Columns」(サーモサイエンティフィック社製,Cat.#89882)に供して精製した。(vi)脱塩した反応溶液の波長300nmの吸収を分光光度計(日立製「F−7000」)により計測して反応溶液に含まれるタンパク質の量を算出した。(vii)50mMTris溶液により反応溶液を250μg/mLに調製し、該溶液をビオチン修飾2次抗体溶液とした。
0058
[実験例]
<I.免疫染色法に基づく染色スライドの作製>
免疫染色法は以下に示すように、脱パラフィン処理、賦活化処理(ここまで“標本前処理工程”)、1次抗体処理、2次抗体処理、蛍光標識処理および形態観察用染色処理(ここまで“染色工程”)、洗浄処理、脱水処理、溶媒置換処理および封入処理(ここまで“標本後処理工程”)をこの順で行うことで実施した。洗浄処理で用いる洗浄液のpHが1〜6のものが実施例に相当し、pHが7〜10のものが比較例に相当する。
0059
(1)標本前処理工程
(1−1)脱パラフィン処理
HER2陽性染色対照標本の検体スライドとして(コスモバイオ社 CB−A712のシリーズ)を、以下の(i)〜(iii)の手順で脱パラフィン処理を行った。(i)キシレンを入れた容器に検体スライドを30分間、常温で浸漬する。途中3回キシレンを交換した。(ii)エタノールを入れた容器に検体スライドを常温で、30分間浸漬する。途中3回エタノールを交換した。(iii)水を入れた容器に検体スライドを30分浸漬させた。途中3回水を交換した。
0060
(1−2)賦活化処理
検体スライドを脱パラフィン処理した後、以下の(i)〜(v)の手順で賦活化処理を行った。(i)検体スライドを水に置換する洗浄を行った。(ii)10mMクエン酸緩衝液(pH6.0)に検体スライドを30分浸漬させた。(iii)121℃で10分、オートクレーブ処理を行った。(iv)PBSを入れた容器に、オートクレーブ処理後の検体スライドを30分浸漬し、洗浄した。(v)1%BSA含有PBSを検体スライドに載せて、1時間、ブロッキング処理を行った。
0061
(2)免疫染色工程
(2−1)1次抗体処理
検体スライドを賦活化処理した後、1次抗体処理を行った。BSAを1%含有するPBSを用いて、ベンタナ社製「抗HER2ウサギモノクロナール抗体(4B5)」を0.05nMに調製し、該1次抗体の溶液を上述のブロッキング処理した検体スライドに対して4℃で1晩反応させた。
0062
(2−2)2次抗体処理
1次抗体処理を行った検体スライドをPBSで洗浄した後、1%BSA含有のPBSで6μg/mLに希釈した、上記ビオチン修飾2次抗体溶液と室温で30分間反応させた。
0063
(2−3)蛍光標識処理
2次抗体処理を行った検体スライドを以下の(i)〜(ii)の手順で、免疫染色法による蛍光標識処理を行った。(i)検体スライドに対して、1%BSA含有のPBSで0.02nMに希釈した実施例1で作製したストレプトアビジン修飾蛍光色素集積ナノ粒子を、中性のpH環境(pH6.9〜7.4)室温の条件下で3時間反応させた。(ii)該反応後の検体スライドをPBSで洗浄した。
0064
(2−4)形態観察用染色処理
蛍光標識処理を行った検体スライドを以下の(i)〜(ii)の手順で、形態観察染色処理(ヘマトキシリンーエオシン染色)を行った。(i)抗体により蛍光標識処理されたスライドをマイヤーヘマトキシリン液で5分間染色してヘマトキシリン染色を行った。その後、該スライドを45℃の流水で3分間洗浄した。(ii)次に、1%エオシン液で5分間染色してエオシン染色を行い、染色スライドを作製した。
0065
(3)標本後処理工程
(3−1)洗浄処理
染色スライドを以下の(i)〜(ii)の手順で、洗浄処理を行った。(i)pHが1,2,3,4,5,6,7,8,9または10の10種の洗浄液を調製した。pHが1〜6の洗浄液は、1Mの塩酸を希釈して調製した。pHが7の洗浄液としては、純水を用いた。pHが8〜10の洗浄液は、28%アンモニア水溶液を希釈して調製した。(ii)形態観察用染色処理が行われた染色スライドを常温で、各洗浄液に10分間浸漬して、洗浄処理を行った。
0066
(3−2)脱水処理
洗浄処理を行われた染色スライドに対して、脱水エタノールに5分間浸漬した。この操作を4回繰り返し、脱水処理を行った。
0067
(3−3)溶媒置換処理
脱水処理が行われた染色スライドを、常温で2〜10秒、キシレンに浸漬することで、溶媒置換処理を行った。この操作を4回繰り返し、透徹処理を行った。
0068
(3−4)封入処理
染色スライドを以下の(i)〜(ii)の手順で、封入処理を行った。(i)溶媒置換処理が行われた染色スライドを常温でエンテランニュー(メルク社)を滴下した後、カバーガラスを被せ、常温で10分間、風乾することで、封入処理を行った。(ii)その後、シグナルの計測まで、封入処理が行われた染色スライドを遮光して保存した。
0069
<II.蛍光画像の撮影および分析>
封入処理を終えた染色スライドに対して所定の励起光を照射して、蛍光を発光させた。その状態の染色スライドを蛍光顕微鏡(オリンパス社製「BX−53」)、顕微鏡用デジタルカメラ(オリンパス社製「DP73」)により観察および撮像を行った。上記励起光は、光学フィルターに通すことで575〜600nmに設定した。また、観察する蛍光の波長(nm)の範囲についても、光学フィルターを通すことで612〜692nmに設定した。顕微鏡観察、画像取得時の励起波長の条件は、580nmの励起では視野中心部付近の照射エネルギーが900W/cm2となるようにした。画像取得時の露光時間は、画像の輝度が飽和しないように任意に設定(例えば4000μ秒に設定)して撮像した。HER2(3+)の組織の輝点数は、400倍で撮像した画像をもとにImageJ FindMaxims法により計測した1000細胞の平均値とした。また、撮像した画像から、1細胞当たりの蛍光ナノ粒子を算出し、ばらつきを表す指標として変動係数(CV)を算出した。
0070
実験例の結果を表1に示す。pHが1〜6の酸性の洗浄液を用いた場合、pHが7〜10の中性またはアルカリ性の洗浄液を用いた場合に比べ、観察される蛍光ナノ粒子の個数が多く、また蛍光ナノ粒子の輝度のばらつき(CV)が小さいことが分かる。
実施例
0071