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技術 加工性に優れた構造部材用ステンレス鋼板及びその製造方法

出願人 日鉄ステンレス株式会社
発明者 濱田純一札軒富美夫田上利男
出願日 2015年11月9日 (5年1ヶ月経過) 出願番号 2015-219081
公開日 2017年5月25日 (3年7ヶ月経過) 公開番号 2017-088945
状態 特許登録済
技術分野 薄鋼板の熱処理
主要キーワード リーマー加工 静的変形 双晶変形 計算状態 異相界面 高速変形 公称歪み 既設設備
関連する未来課題
重要な関連分野

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図面 (3)

課題

解決手段

質量%で、C:0.01〜0.1%、Si:0.1〜3%、Mn:0.1〜6%、P:0.01〜0.05%、S:0.0001〜0.01%、Ni:0.01〜6%、Cr:10〜25%、N:0.01〜0.3%、Al:0.01〜1%、Cu:0.05〜5%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、母相フェライト相であり、オーステナイト相あるいはマルテンサイト相の総和が面積率で10〜60%存在し、母相のフェライト粒径が10μm以下、0.2%耐力×全伸びが19000MPa・%以上、穴拡げ率が30%以上であることを特徴とする加工性に優れた構造部材用ステンレス鋼板

概要

背景

近年、環境問題の観点から、自動車二輪車バス鉄道車両などの輸送機器燃費向上が必須課題になってきている。その解決手段の一つとして、車体の軽量化が積極的に推進されている。車体の軽量化は、部材を形成する素材の軽量化、具体的には素材板厚薄手化に依るものが大きいが、素材板厚を薄くすると剛性衝突安全性能が低下してしまう。衝突安全性向上の対策としては、部材を構成する材料の高強度化が有効であり、普通鋼高強度鋼板ハイテン鋼)が自動車の衝撃吸収部材に適用されている。しかしながら、普通鋼は耐食性能が低いため、重塗装することが前提となっており、塗装しない、もしくは軽塗装部材には適用できなかったり、重塗装によるコストアップが必須であった。一方、Crを含有するステンレス鋼を適用した場合、普通鋼に比べて大幅に耐食性優位であるため、錆代低減による軽量化、塗装省略化が期待される。更に、衝突安全性向上に対しては、例えば車両の衝突を考えた場合、車両フレームに高い衝撃吸収能を有する材料を適用すれば、部材が圧壊変形することで衝撃を吸収し、車両内人員に与える衝撃を緩和することができる。即ち、車体軽量化による燃費向上、塗装簡略化、安全性の向上などのメリットが大きくなる。

耐食性が要求される車両部材、例えば鉄道車両の構造部材としては、耐食性に優れたSUS301LやSUS304などの延性が高く、成型性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼板が一般的に使用されている。特許文献1には、主として鉄道車両および一般車両の構造部材や補強材に使用することを目的として、高歪み速度での衝撃吸収能に優れたオーステナイト系ステンレス鋼が開示されている。これは、Niを6〜8%含有し、オーステナイト組織を有する素材において、変形時に加工誘起マルテンサイト相が生成することで高速変形において高強度化するものである。上記ハイテン鋼は延性に乏しい欠点があるが、ステンレス鋼の場合種々の合金調整によってハイテン鋼よりも高い延性を確保可能である。しかしながら、Niを多量に含有するためコスト高となる課題や成分系や使用環境によっては応力腐食割れ時効割れが問題になる場合があり、汎用的な構造体としては必ずしも十分ではなかった。この他、特許文献2〜4にはNiを低減してMn等を添加する鋼、双晶変形活用する鋼、マルテンサイトを生成させるオーステナイト系ステンレス鋼板も開示されているものの、穴拡げ性が十分確保されるものではなかった。

焼き入れにより高強度化するマルテンサイト系ステンレス鋼板(例えばSUS420)は、Niを含有しないかオーステナイト系ステンレス鋼に比べて低Ni成分であり、コスト的には有利であるが、延性が著しく低く、溶接部靭性が著しく低い問題がある。自動車、バス、鉄道車両は溶接構造が多いため、溶接部靭性が低い場合、構造物としての信頼性が大きく低下してしまう。また、特許文献5には高強度マルテンサイト系ステンレス鋼板が開示されているが、マルテンサイトステンレス鋼板は低Cr成分であるため、特に足回り部品では耐食性が課題となり、初期錆び対策として軽塗装が必要となるためコストメリットが小さい。

フェライト系ステンレス鋼板(例えばSUS430)もコスト的にはオーステナイト系ステンレス鋼よりも有利であるが、強度が低いために強度や剛性が要求される部材には不適であり、高速で変形する際の衝撃吸収エネルギーが低い問題から、衝突安全性能を向上させることは不可能であった。即ち、特に母相フェライト相とする高強度ステンレス鋼について、車両衝突時の高歪み速度領域での動的変形特性は殆ど解明されていないため、衝撃を吸収する部材にステンレス鋼を適用することは困難な状況であった。更に、マルテンサイト系ステンレス鋼フェライト系ステンレス鋼の成型性は、オーステナイト系ステンレス鋼に比べて伸びの点で著しく低く、固溶強化析出強化粒子分散強化)などの手段を利用して高強度化しても、構造部材への成型ができないという大きな課題があった。

他方、発明者は、特許文献6において、Niを節減するとともにフェライト相を母相とし、主な第2相としてマルテンサイト相を5%以上存在させた衝撃吸収特性に優れた構造部材用ステンレス鋼に関する技術を開示した。これは本発明と類似の発明であるが、第2相が主にマルテンサイト相であり、穴拡げ性が著しく低く、部材成型性に問題があった。

また、特許文献7、8には、成型性に優れたオーステナイト・フェライト系ステンレス鋼に関する技術が開示されている。これは、オーステナイト相体積分率やオーステナイト相の成分分配を考慮し、変形時にオーステナイト相を加工誘起マルテンサイト相に変態させる、いわゆる歪み誘起塑性発現させ、高延性を発現させる技術である。しかしながら、加工硬化特性は良好であるものの、加工誘起マルテンサイト相が母相よりもかなり硬質であるため、穴拡げのような加工時には界面での割れが生じやすく、穴拡げ性に課題があった。また、構造部材としては強度や衝撃吸収性能が重要であるのに対して、特許文献7、8の技術は十分なものではなかった。

加工性と衝撃吸収特性に優れた構造部材用フェライト・オーステナイト系ステンレス鋼板が特許文献9に開示されている。これは、オーステナイト相が10〜62%存在し、残部がフェライト母相で、加工誘起マルテンサイト変態を伴うため加工硬化率が高い鋼であるが、上記のように加工誘起マルテンサイト変態が生じるために穴拡げ性が低い課題があった。加えて、特許文献9では10%変形時の静動差(動的変形時の10%変形時の流動応力静的変形時の10%変形時の流動応力)が150MPa以上と規定されて衝撃吸収性能が優れることが示されているが、動的変形時の10%流動応力は702〜815MPa程度であり、高速変形時の強度は必ずしも十分でなく、今後衝突安全基準が更に厳格化される上では高速変形時の10%流動応力の向上が望まれていた。

概要

衝撃吸収特性と加工性に優れた構造部材用フェライト・オーステナイト系ステンレス鋼板及びその製造方法を提供する。質量%で、C:0.01〜0.1%、Si:0.1〜3%、Mn:0.1〜6%、P:0.01〜0.05%、S:0.0001〜0.01%、Ni:0.01〜6%、Cr:10〜25%、N:0.01〜0.3%、Al:0.01〜1%、Cu:0.05〜5%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、母相がフェライト相であり、オーステナイト相あるいはマルテンサイト相の総和が面積率で10〜60%存在し、母相のフェライト粒径が10μm以下、0.2%耐力×全伸びが19000MPa・%以上、穴拡げ率が30%以上であることを特徴とする加工性に優れた構造部材用ステンレス鋼板

目的

加えて、特許文献9では10%変形時の静動差(動的変形時の10%変形時の流動応力−静的変形時の10%変形時の流動応力)が150MPa以上と規定されて衝撃吸収性能が優れることが示されているが、動的変形時の10%流動応力は702〜815MPa程度であり、高速変形時の強度は必ずしも十分でなく、今後衝突安全基準が更に厳格化される上では高速変形時の10%流動応力の向上が望まれていた

効果

実績

技術文献被引用数
0件
牽制数
0件

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請求項1

質量%で、C:0.01〜0.1%、Si:0.1〜3%、Mn:0.1〜6%、P:0.01〜0.05%、S:0.0001〜0.01%、Ni:0.01〜6%、Cr:10〜25%、N:0.01〜0.3%、Al:0.01〜1%、Cu:0.05〜5%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、母相フェライト相であり、オーステナイト相マルテンサイト相の総和が面積率で10〜60%存在し、母相のフェライト粒径が10μm以下、0.2%耐力×全伸びが19000MPa・%以上、穴拡げ率が30%以上であることを特徴とする加工性に優れた構造部材用ステンレス鋼板

請求項2

歪速度が103/secで引張試験を行った際、10%歪における流動応力が900MPa以上であることを特徴とする請求項1に記載の加工性に優れた構造部材用ステンレス鋼板。

請求項3

前記鋼板が、更に、質量%で、Mo:0.1〜3.5%、V:0.01〜0.5%、Ti:0.005〜0.3%、Nb:0.005〜0.3%、B:0.0002〜0.0050%、Ca:0.0005〜0.010%の1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の加工性に優れた構造部材用ステンレス鋼板。

請求項4

前記鋼板が、更に、質量%で、W:0.1〜3%、Zr:0.05〜0.3%、Sn:0.01〜0.5%、Co:0.03〜0.3%、Mg:0.0002〜0.01%、Sb:0.005〜0.3%、REM:0.002〜0.2%、Ga:0.0002〜0.3%、Ta:0.001〜1.0%の1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の加工性に優れた構造部材用ステンレス鋼板。

請求項5

請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の鋼成分を有する熱延板焼鈍する際、1000〜1150℃に加熱した後、400℃までの冷却速度を20℃/sec以下とすることを特徴とする加工性に優れた構造部材用ステンレス鋼板の製造方法。

請求項6

熱延板を焼鈍した後、さらに冷延、焼鈍することを特徴とする請求項5に記載の加工性に優れた構造部材用ステンレス鋼板の製造方法。

請求項7

請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の加工性に優れた構造部材用ステンレス鋼板を用いた自動車バス二輪車鉄道車両部品

技術分野

0001

本発明は、自動車部品として適正な強度−延性バランスと穴拡げ性を有し、主として強度や衝撃吸収性能が必要な構造用部材として使用されるステンレス鋼板及びその製造方法に関するもので、特に自動車バスフロントサイドメンバーピラーバンパーなどの衝撃吸収部材並びに足回り部材鉄道車両の車体、自転車リムなどの構造部材用鋼板に関わるものである。

背景技術

0002

近年、環境問題の観点から、自動車、二輪車、バス、鉄道車両などの輸送機器燃費向上が必須課題になってきている。その解決手段の一つとして、車体の軽量化が積極的に推進されている。車体の軽量化は、部材を形成する素材の軽量化、具体的には素材板厚薄手化に依るものが大きいが、素材板厚を薄くすると剛性衝突安全性能が低下してしまう。衝突安全性向上の対策としては、部材を構成する材料の高強度化が有効であり、普通鋼高強度鋼板ハイテン鋼)が自動車の衝撃吸収部材に適用されている。しかしながら、普通鋼は耐食性能が低いため、重塗装することが前提となっており、塗装しない、もしくは軽塗装部材には適用できなかったり、重塗装によるコストアップが必須であった。一方、Crを含有するステンレス鋼を適用した場合、普通鋼に比べて大幅に耐食性優位であるため、錆代低減による軽量化、塗装省略化が期待される。更に、衝突安全性向上に対しては、例えば車両の衝突を考えた場合、車両フレームに高い衝撃吸収能を有する材料を適用すれば、部材が圧壊変形することで衝撃を吸収し、車両内人員に与える衝撃を緩和することができる。即ち、車体軽量化による燃費向上、塗装簡略化、安全性の向上などのメリットが大きくなる。

0003

耐食性が要求される車両部材、例えば鉄道車両の構造部材としては、耐食性に優れたSUS301LやSUS304などの延性が高く、成型性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼板が一般的に使用されている。特許文献1には、主として鉄道車両および一般車両の構造部材や補強材に使用することを目的として、高歪み速度での衝撃吸収能に優れたオーステナイト系ステンレス鋼が開示されている。これは、Niを6〜8%含有し、オーステナイト組織を有する素材において、変形時に加工誘起マルテンサイト相が生成することで高速変形において高強度化するものである。上記ハイテン鋼は延性に乏しい欠点があるが、ステンレス鋼の場合種々の合金調整によってハイテン鋼よりも高い延性を確保可能である。しかしながら、Niを多量に含有するためコスト高となる課題や成分系や使用環境によっては応力腐食割れ時効割れが問題になる場合があり、汎用的な構造体としては必ずしも十分ではなかった。この他、特許文献2〜4にはNiを低減してMn等を添加する鋼、双晶変形活用する鋼、マルテンサイトを生成させるオーステナイト系ステンレス鋼板も開示されているものの、穴拡げ性が十分確保されるものではなかった。

0004

焼き入れにより高強度化するマルテンサイト系ステンレス鋼板(例えばSUS420)は、Niを含有しないかオーステナイト系ステンレス鋼に比べて低Ni成分であり、コスト的には有利であるが、延性が著しく低く、溶接部靭性が著しく低い問題がある。自動車、バス、鉄道車両は溶接構造が多いため、溶接部靭性が低い場合、構造物としての信頼性が大きく低下してしまう。また、特許文献5には高強度マルテンサイト系ステンレス鋼板が開示されているが、マルテンサイトステンレス鋼板は低Cr成分であるため、特に足回り部品では耐食性が課題となり、初期錆び対策として軽塗装が必要となるためコストメリットが小さい。

0005

フェライト系ステンレス鋼板(例えばSUS430)もコスト的にはオーステナイト系ステンレス鋼よりも有利であるが、強度が低いために強度や剛性が要求される部材には不適であり、高速で変形する際の衝撃吸収エネルギーが低い問題から、衝突安全性能を向上させることは不可能であった。即ち、特に母相フェライト相とする高強度ステンレス鋼について、車両衝突時の高歪み速度領域での動的変形特性は殆ど解明されていないため、衝撃を吸収する部材にステンレス鋼を適用することは困難な状況であった。更に、マルテンサイト系ステンレス鋼フェライト系ステンレス鋼の成型性は、オーステナイト系ステンレス鋼に比べて伸びの点で著しく低く、固溶強化析出強化粒子分散強化)などの手段を利用して高強度化しても、構造部材への成型ができないという大きな課題があった。

0006

他方、発明者は、特許文献6において、Niを節減するとともにフェライト相を母相とし、主な第2相としてマルテンサイト相を5%以上存在させた衝撃吸収特性に優れた構造部材用ステンレス鋼に関する技術を開示した。これは本発明と類似の発明であるが、第2相が主にマルテンサイト相であり、穴拡げ性が著しく低く、部材成型性に問題があった。

0007

また、特許文献7、8には、成型性に優れたオーステナイト・フェライト系ステンレス鋼に関する技術が開示されている。これは、オーステナイト相体積分率やオーステナイト相の成分分配を考慮し、変形時にオーステナイト相を加工誘起マルテンサイト相に変態させる、いわゆる歪み誘起塑性発現させ、高延性を発現させる技術である。しかしながら、加工硬化特性は良好であるものの、加工誘起マルテンサイト相が母相よりもかなり硬質であるため、穴拡げのような加工時には界面での割れが生じやすく、穴拡げ性に課題があった。また、構造部材としては強度や衝撃吸収性能が重要であるのに対して、特許文献7、8の技術は十分なものではなかった。

0008

加工性と衝撃吸収特性に優れた構造部材用フェライト・オーステナイト系ステンレス鋼板が特許文献9に開示されている。これは、オーステナイト相が10〜62%存在し、残部がフェライト母相で、加工誘起マルテンサイト変態を伴うため加工硬化率が高い鋼であるが、上記のように加工誘起マルテンサイト変態が生じるために穴拡げ性が低い課題があった。加えて、特許文献9では10%変形時の静動差(動的変形時の10%変形時の流動応力静的変形時の10%変形時の流動応力)が150MPa以上と規定されて衝撃吸収性能が優れることが示されているが、動的変形時の10%流動応力は702〜815MPa程度であり、高速変形時の強度は必ずしも十分でなく、今後衝突安全基準が更に厳格化される上では高速変形時の10%流動応力の向上が望まれていた。

先行技術

0009

特許第4334113号公報
特許第5165236号公報
特許第5544633号公報
特許第5597006号公報
特許第5000281号公報
特許第5220311号公報
特開2006−169622号公報
特開2006−183129号公報
特許第5388589号公報

発明が解決しようとする課題

0010

上記のように、特にフェライト相を母相とするステンレス鋼板において、強度−延性バランスを確保しつつ、部材への成形性(穴拡げ性)、更には高速変形時の衝撃吸収エネルギーを向上させる技術は皆無であった。このようなことから、本発明は高強度で高速変形時の衝撃吸収特性に優れ、かつ成型性にも優れたフェライト相を母相しマルテンサイト相あるいはオーステナイト相を第2相とするステンレス鋼板及びその製造方法を提供することを目的とする。

課題を解決するための手段

0011

上記課題を解決するために、本発明者らはステンレス鋼の強度−延性バランス、穴拡げ性、高速変形特性に及ぼす金属組織的研究を鋭意実施した。そして、フェライト母相に第2相としてマルテンサイト相あるいはオーステナイト相を形成させつつ、母相のフェライト相粒径、第2相分率を制御することで、強度−延性バランスと穴拡げ性に優れたステンレス鋼板を提供することが可能となり、かつ変形時の衝撃吸収特性に優れた性能を示すことを見出した。具体的には、一般的なオーステナイト系ステンレス鋼よりも低いNi量でフェライト相を母相とする鋼成分において元素量を調整し、かつオーステナイト相あるいはマルテンサイト相が生成するステンレス鋼とするとともに、母相のフェライト相の粒径を制御することにより、強度−延性バランスと穴拡げ性を両立させる。また、動的変形時の変形抵抗を上昇させて衝撃吸収エネルギーを増大させることである。これにより、本発明鋼を特に自動車、バス、鉄道車両、自転車などの車両構造部品の素材とすることにより、衝突時の衝撃を吸収し、かつ車体崩壊を最小限にして乗員の安全性を飛躍的に向上させるとともに、オーステナイト系ステンレス鋼よりも低コスト化に寄与するものである。

0012

上記課題を解決する本発明の要旨は、
(1)質量%で、C:0.01〜0.1%、Si:0.1〜3%、Mn:0.1〜6%、P:0.01〜0.05%、S:0.0001〜0.01%、Ni:0.01〜6%、Cr:10〜25%、N:0.01〜0.3%、Al:0.01〜1%、Cu:0.05〜5%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、母相がフェライト相であり、オーステナイト相とマルテンサイト相の総和が面積率で10〜60%存在し、母相のフェライト粒径が10μm以下、0.2%耐力×全伸びが19000MPa・%以上、穴拡げ率が30%以上であることを特徴とする加工性に優れた構造部材用ステンレス鋼板
(2)歪速度が103/secで引張試験を行った際、10%歪における流動応力が900MPa以上であることを特徴とする(1)に記載の加工性に優れた構造部材用ステンレス鋼板。
(3)前記鋼板が、更に、質量%で、Mo:0.1〜3.5%、V:0.01〜0.5%、Ti:0.005〜0.3%、Nb:0.005〜0.3%、B:0.0002〜0.0050%、Ca:0.0005〜0.010%の1種又は2種以上を含有することを特徴とする(1)又は(2)に記載の加工性に優れた構造部材用ステンレス鋼板。
(4)前記鋼板が、更に、質量%で、W:0.1〜3%、Zr:0.05〜0.3%、Sn:0.01〜0.5%、Co:0.03〜0.3%、Mg:0.0002〜0.01%、Sb:0.005〜0.3%、REM:0.002〜0.2%、Ga:0.0002〜0.3%、Ta:0.001〜1.0%の1種又は2種以上を含有することを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1つに記載の加工性に優れた構造部材用ステンレス鋼板。
(5)(1)〜(4)のいずれか1つに記載の鋼成分を有する熱延板焼鈍する際、1000〜1150℃に加熱した後、400℃までの冷却速度を20℃/sec以下とすることを特徴とする加工性に優れた構造部材用ステンレス鋼板の製造方法。

0013

(6)熱延板を焼鈍した後、さらに冷延、焼鈍することを特徴とする加工性に優れた(5)に記載の構造部材用ステンレス鋼板の製造方法。
(7)(1)〜(4)のいずれか1つに記載の加工性に優れた構造部材用ステンレス鋼板を用いた自動車、バス、二輪車、鉄道車両部品

発明の効果

0014

以上の説明から明らかなように、本発明によれば特にNiを多量に添加せずとも、複相組織化し、かつ母相のフェライト相の結晶粒径を制御することにより、高強度で高加工性を有するステンレス鋼板を提供することができる。特に、加工性について従来課題であった穴拡げ性が改善されるとともに、高速変形時の衝撃特性にも優れている。この鋼を、特に自動車、バス、鉄道等の運輸に関わる構造部材に適用することにより、軽量化による環境対策、衝突安全性向上など社会的寄与は格段に大きい。

図面の簡単な説明

0015

結晶粒径と穴拡げ性の関係を示す図である。
動的引張試験における応力歪み曲線を示す図である。

0016

以下に本発明の限定理由について説明する。成分含有量についての%は質量%を意味する。

0017

Cはオーステナイト相を残留あるいはマルテンサイト相を生成させるために必要な元素で、高強度−高延性、高衝撃吸収性能を得るために0.01%以上とする。一方、過度な含有は溶接性や耐食性を劣化させるとともに、硬質なマルテンサイト相が生成し、製造性を劣化させるために、上限を0.1%とする。更に製造性や加工性を考慮すると、0.01〜0.05%が望ましい。

0018

Nはオーステナイト相を残留あるいはマルテンサイト相を生成させるために必要な元素であり、特に高速変形時の10%流動応力を著しく上昇させ、衝撃吸収特性に寄与する。これらの効果は0.01%以上で発現するため、下限を0.01%とした。一方、0.3%超の含有は熱間加工性が著しく劣化し、製造性に問題が生じる他、溶接時に窒化物を生成し、溶接部の耐食性や靭性を劣化させるため、上限を0.3%とする。更に耐食性や製造性を考慮すると、0.05〜0.18%が望ましい。

0019

Siは脱酸元素であるとともに、固溶強化元素で高強度化に有効な元素であるため0.1%以上含有させる。一方、3%超の含有は急激に延性を低下させるため、上限を3%とする。更に、耐食性や製造性を考慮すると、0.15〜0.5%が望ましい。

0020

Mnは脱酸元素であるとともに、固溶強化元素である他、低Ni成分にてオーステナイト相の安定度を上げるために0.1%以上含有させる。6%超の添加により耐食性が劣化するため、上限を6%とする。更に、製造性やコストを考慮すると、1〜5%が望ましい。

0021

Pは加工性、耐食性、製造性等を劣化させるため低いほど望ましく、0.05%超になると粗大なリン化物が生成して穴拡げ時にボイド生成の起点となるため、上限を0.05%とする。一方、Pを低減するには精錬コストが増加するため、下限を0.01%とするのが好適である。加工性を考慮すると、0.01〜0.03%が望ましい。

0022

SはMnと結合して耐食性を劣化させるため、低いほど望ましく、0.01%超になると粗大な硫化物が生成して穴拡げ時にボイド生成の起点となるため、上限を0.01%とする。一方、Sを低減するには精錬コストが増加するため、下限を0.0001%とするのが好適である。製造コストを考慮すると、0.0005〜0.009%が望ましい。

0023

Crは耐食性の観点から添加され、構造部材の塗装等を省略するためには10%以上の添加が必要である。一方、25%超の添加は靭性が著しく低下する他、フェライト相率が増加してオーステナイト相が安定的に生成しなため、上限を25%とした。更に、製造性、コストおよび溶接部の耐食性および靭性を考慮すると13〜23%が望ましい。

0024

Niは製品にオーステナイト相を残留させる成分であり、0.01%以上添加する。一方、成分コストとフェライト・オーステナイト相あるいはマルテンサイト相の複相組織とし、強度−延性バランスを向上させるために6%を上限とする。更に、靭性や耐食性を考慮すると、0.5〜4%が望ましい。

0025

CuもNi同様、製品にオーステナイト相を残留させる成分であり、0.05%以上添加する。一方、5%超になるとCu析出物生成により穴拡げ性が著しく低下するとともに、成分コストとフェライト・オーステナイト相あるいはマルテンサイト相の複相組織とし、強度−延性バランスを向上させるために5%を上限とする。更に、靭性や耐食性を考慮すると、0.1〜2.5%が望ましい。

0026

Alは脱酸元素として添加され、この効果を効率的に発現させるために0.01%以上添加する。また、窒化物を形成し加工性を向上させたり、固溶強化による高強度化、耐酸化性の向上に有効な元素である。しかしながら、過度な添加は、表面疵の発生や溶接性の劣化をもたらし、1%超の添加により粗大なAlNによる穴拡げ性低下、オーステナイト相の確保が困難となるため上限を1%とした。更に、脱酸効率や靭性を考慮すると0.02〜0.5%が望ましい。

0027

さらに必要に応じて、以下の元素を選択的に含有させることができる。

0028

Ti、Nb、ZrおよびVは、C,Nと結合しCr炭窒化物の生成を防止し、溶接部の粒界腐食を抑制するため、必要に応じて添加する。但し、フェライト生成元素であり、過度な添加はオーステナイト相が生成しなくなる他、延性を低下させる。また、添加量が多すぎると粗大な炭窒化物を生成し穴拡げ性が著しく低下するため、Ti,Nb,Zrの上限を0.3%、Vの上限を0.5%とした。また、Ti,Nbは0.005%未満、Vは0.01%未満、Zrは0.05未満になるとC,Nの固定が不十分になることがあるため、それぞれを下限とする。

0029

Moは耐食性を向上させ、固溶強化元素であり、使用環境による耐食性レベルに応じて適宜添加すれば良い。過度な添加は加工性の劣化やコスト増になる他、3.5%超になるとオーステナイト相の確保が困難となり、靭性の低下により穴拡げ性が低下するため、上限を3.5%とした。0.1%未満になると耐食性低下が生じることがあるため、望ましくは、0.1〜1.8%が良い。

0030

Bは高強度化に有効な元素である他、2次加工割れを抑制する元素である。過度な添加は、溶接部の耐食性の劣化やコスト増につながる他、粗大なほう化物が穴拡げ時のボイド起点となるため上限を0.0050%とした。0.0002%未満では、2次加工割れ抑制効果が少なくなることがあるため、望ましくは0.0002〜0.0050%が良い。

0031

CaはSを固定し熱間加工性を向上させるために添加される場合がある。一方、0.010%超の添加は耐食性を劣化させる他、粗大なCaSによる穴拡げ性低下を抑制するために、上限を0.010%とする。0.0005%未満では、S固定が不十分になることがあるため、製造性の観点から0.0005〜0.001%が望ましい。

0032

Mgは脱酸元素として添加する場合や、フェライト粒微細化による製造性の向上、リジングと呼ばれる表面欠陥の改善、溶接部の加工性向上に寄与する。一方、0.01%超の添加は耐食性が著しく劣化する他、粗大なMgOによる穴拡げ性低下を抑制するために0.01%を上限とする。0.0002%未満では、組織制御が不十分であることがあるため0.0002%以上とする。製造性を考慮すると、0.0002〜0.002%が望ましい。

0033

Wは耐食性を向上させ、固溶強化元素であり、使用環境による耐食性レベルに応じて適宜添加すれば良い。過度な添加は加工性の劣化やコスト増になる他、3%超になるとオーステナイト相の確保が困難となり、靭性の低下により穴拡げ性が低下するため、上限を3%とした。0.1%未満になると耐食性低下が生じることがあるため、望ましくは、0.1〜1.5%が良い。

0034

Snは、耐食性と高温強度の向上に寄与するため,必要に応じて0.01%以上添加する。0.5%超の添加により鋼板製造時のスラブ割れが生じる場合がある他、穴拡げ時の粒界割れが顕著になるため上限を0.5%とする。更に,精錬コストや製造性を考慮すると、0.01〜0.3%が望ましい。

0035

Coは、高温強度の向上に寄与するため,必要に応じて0.03%以上添加する。0.3%超の添加により鋼板製造時の靭性劣化やコスト増や穴拡げ性の低下につながるため,上限を0.3%とする.更に,精錬コストや製造性を考慮すると、0.03〜0.1%が望ましい。

0036

Sbは、粒界偏析して高温強度を上げる作用をなす元素である。添加効果を得るため、0.005%以上とする。但し、0.3%を超えると、Sb偏析が生じて、穴拡げ時の粒界割れや溶接時に割れが生じるので、上限を0.3%とする。高温特性と製造コスト及び靭性を考慮すると、0.03〜0.2%が望ましい。更に望ましくは0.05〜0.1%である。

0037

REM(希土類元素)は、耐酸化性の向上に有効であり、必要に応じて0.002%以上で添加する。また、0.2%を超えて添加してもその効果は飽和し、REMの粒化物による耐食性や穴拡げ性の低下を生じるため、0.002〜0.2%で添加する。製品の加工性や製造コストを考慮すると、下限を0.002%とし、上限を0.10%とすることが望ましい。REM(希土類元素)は、一般的な定義に従う。スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)の2元素と、ランタン(La)からルテチウム(Lu)までの15元素(ランタノイド)の総称を指す。単独で添加しても良いし、混合物であっても良い。

0038

Gaは、耐食性向上水素脆化抑制のため、0.3%以下で添加しても良いが、0.3%超の添加により粗大硫化物が生成して穴拡げ性が劣化する。硫化物や水素化物形成の観点から下限は0.0002%とする。更に、製造性やコストの観点から0.0020%以上が更に好ましい。

0039

Ta、Hfは高温強度向上のために0.001〜1.0%添加しても良い。0.005%以上で優位に効果が認められ、その効果は0.01%〜0.1%でより顕著である。0.1%以上でさらに高強度が得られる。また、Biを必要に応じて0.001〜0.02%含有してもかまわない。なお、As、Pb等の一般的な有害な元素や不純物元素はできるだけ低減することが望ましい。

0040

本発明は、高強度でかつ成形性に優れたステンレス鋼を提供することが可能となり、母相がフェライト相であり、オーステナイト相とマルテンサイト相の総和が面積率で10〜60%存在し、母相のフェライト粒径が10μm以下、0.2%耐力×全伸びが19000MPa・%以上、穴拡げ率が30%以上であることを特徴とする加工性に優れた構造部材用ステンレス鋼板である。ここで、母相とは凝固する際の初晶組織のことであり、凝固実験計算状態予測によって確認することができる。

0041

薄肉・軽量化のために素材を高強度化すると延性や穴拡げ性が低下し、部品成形が困難となる。特にフェライト相+オーステナイト相、フェライト相+マルテンサイト相、フェライト相+オーステナイト相+マルテンサイト相といった複相組織では、加工硬化特性が異なる異相で構成されるため、加工時に異相界面および硬質相で亀裂が生じやすくなる。この現象自動車部材で多用される穴拡げ加工において顕著である。よって、複相組織鋼板では、穴拡げ性の低下が大きな課題であった。

0042

本発明は複相ステンレス鋼の穴拡げ性を改善するための方策を詳細に検討した結果、高強度化のために複相組織にしつつ、母相であるフェライト相の結晶粒径を微細とすることで、相反する特性を両立することを見出した。具体的には、第2相であるオーステナイト相あるいはマルテンサイト相を10〜60%生成させ、かつ母相フェライト相の結晶粒径を10μm以下とする。第2相が10%未満であると製造時の焼鈍工程にてフェライト相の粗大化が生じて微細組織が得られない。逆に第2相が60%超になると硬質化が過度になり、延性の確保が困難となる。

0043

図1に種々の複相ステンレス鋼板のフェライト粒径と穴拡げ率の関係を示す。ここで、フェライト粒径については、SEMEBSD法を用いて鋼板の幅方向に垂直な断面におけるt/2(tは板厚)部の結晶粒径を求めた。ここで15°以上の方位差を有する結晶界面を結晶粒界とした。また、穴拡げ試験については、JIS Z 2266に規定される方法に準拠し、φ10mmの打ち抜き穴に対して60°円錐ポンチにて穴拡げを行い、端部に生じた亀裂が板厚を貫通した時点の穴径から穴拡げ率を算出した。また、打ち抜き穴だけではなく、切削穴についても同様に試験を行った。これより、フェライト粒径が小さくなるに従い、穴拡げ性は良好となり、フェライト粒径が10μm以下の場合、打ち抜き穴の穴拡げ性が30%以上を確保可能となる。ここで穴拡げ性が30%以上あれば、自動車部品としての加工性を確保できるが、より好ましくは50%以上が良い。更に、より成形自由度を持たせるためには90%以上が良く、この場合は打ち抜き穴をリーマー加工する他、切削穴やレーザーにより加工することが有効である。

0044

尚、本発明では母相がフェライト相であり、第2相の結晶構造は特に規定する必要がなく、フェライト相+オーステナイト相、フェライト相+マルテンサイト相、フェライト相+オーステナイト相+マルテンサイト相といった複相組織であれば良い。加えて、微細な炭窒化物や金属間化合物が生成していても良い。

0045

本発明においては、部材への成形性に加えて、高速で衝撃を受ける際の衝撃吸収エネルギーがポイントである。車体衝突時の衝撃は構造部材に加えられるため、部材を形成する材料の衝撃吸収能が重要である。車両用の構造部材は、ハット型成形品に代表される角形断面が大半で、このような構造部材の高速圧壊変形における吸収エネルギーは、10%までの歪み域で吸収される(「自動車材料の高速変形に関する研究会成果報告書(平成13年3月)」日本鉄鋼協会編,p12)。また、車両衝突時の歪み速度は103/secという極めて高歪み速度に対応するとともに、自動車のフロントサイドメンバー等の部位では、10%歪までの吸収エネルギーが妥当とされている。

0046

10%歪までの吸収エネルギーを高くするためには、動的引張試験における10%流動応力が高ければ良い。そこで、歪速度103/secでの動的引張試験を行い、10%流動応力を求めた。図2には、既存鋼(SUS301L(0.02%C−0.3%Si−0.5%Mn−0.03%P−0.005%S−17%Cr−7%Ni−0.03%Cu−0.12%N))、特許文献9記載の鋼(0.01%C−0.1%Si−3%Mn−0.03%P−0.002%S−2%Ni−21.0%Cr−0.5%Cu−0.01%N)ならびに本発明鋼(0.02%C−0.3%Si−2%Mn−0.02%P−0.001%S−2%Ni−21.2%Cr−1%Cu−0.15%N)を高速引張試験を行った際の応力−歪み曲線を示す。いずれも1.5mm厚の冷延・焼鈍板で、歪速度103/secで圧延方向に高速引張試験をした結果である。図2横軸公称歪み)0.1における公称応力が、動的引張試験における10%流動応力を意味している。

0047

図2より、既存の車輛材に使用されている高強度オーステナイト系ステンレス鋼板に比べて、本発明鋼は高速変形時の応力は高く、10%流動応力における強度は900MPaを超えており、極めて衝撃吸収能力が高い。応力が高いということは衝撃吸収値が高くなるため、衝撃吸収特性に優れる。特許文献9記載の鋼の成分は本発明成分範囲内であるが、衝撃吸収能力が本発明鋼よりも低位である。この理由は、下記に示すように特許文献9記載の鋼は製造工程において熱延板焼鈍後の冷却速度が速いことに起因して、製品板の結晶粒径が10μm超であるためである。

0048

また、高速変形特性のみならず常温でのプレス加工性満足するためには高い強度−延性バランスが必要であり、本発明では0.2%耐力×全伸びが19000MPa・%以上とする。これもフェライト相の結晶粒径微細化が極めて有効であり、結晶粒径が10μm以下と細粒にすることで結晶粒界による強化が図られ、常温変形時の加工硬化能が向上する。

0049

本発明の鋼板は熱延・焼鈍板あるいは冷延・焼鈍板で提供される。本発明鋼の製造方法において、前記本発明の成分を有する鋼について、熱延板を焼鈍する際に1000〜1150℃に加熱した後、400℃までの冷却速度を20℃/sec以下とすることにより、製品板の母相がフェライト相であり、オーステナイト相とマルテンサイト相の総和を面積率で10〜60%とし、母相のフェライト粒径を10μm以下とすることができる。これにより、製品板のフェライト粒径を10μm以下として穴拡げ性を確保するとともに、高速変形時の10%流動応力を高位に得るためである。熱延板は熱延で形成された加工歪を除去し、再結晶粒を形成せしめるために1000℃以上に加熱する。1000℃未満では加工組織あるいは回復組織が大半となる他、σ相やCr2Nなどの析出物が生成して靭性を劣化させる。一方、1150℃超に加熱するとオーステナイト相の生成が殆どなくなり、フェライト相が過度に粗大化し、その後の冷延・焼鈍によってもフェライト粒径が10μmを確保できなくなる。熱延・焼鈍板の靭性や酸洗性を考慮すると、焼鈍温度は1050〜1120℃が望ましい。また、本発明では400℃までの冷却速度を20℃/sec以下と規定する。これは、加熱段階でフェライト+オーステナイト相となるが、上記加熱温度ではフェライト相が主体であり、冷却過程でオーステナイト相が析出する。冷却速度が20℃/sec超ではオーステナイト相の析出が不十分で、その後の冷延・焼鈍においてフェライト相の粗大化が生じやすく、フェライト粒径10μmの確保が困難となる。過度に緩冷にすると、上記析出物が多少に析出し、靭性の劣化をもたらす可能性があるため、望ましくは5〜20℃/secが良い。また、鋼板の形状や酸洗性を考慮すると5〜15℃/secが更に良い。

0050

本発明鋼は熱延・焼鈍後に酸洗を施して提供されても良いが、板厚精度等を考慮するとその後に冷延・焼鈍・酸洗を施して提供することが望ましい。この際の冷延焼鈍条件については特に規定しないが、加熱温度は1000〜1150℃が望ましい。

0051

なお、本発明における鋼板の製造方法について、熱延条件や熱延板厚、製品板厚冷延板焼鈍温度、時間、雰囲気などは適宜選択すれば良い。冷延におけるパススケジュール冷延率ロール径についても特別な設備を必要とせず、既設設備を効率的に使用すれば良い。熱延板あるいは冷延板酸洗条件は既設設備を用いて適正な方法で酸洗処理すれば良く、表面研磨を施しても構わない。また、冷延・焼鈍を繰り返して行っても良く、調質圧延テンションレベラーを付与して、必要に応じて形状および強度調整しても構わない。更に、製品板厚についても、要求部材厚に応じて選択すれば良い。

0052

以下に、本発明を実施例により具体的に説明する。表1に示す化学組成の鋼を溶製してスラブ鋳造し、スラブを熱間圧延した後、焼鈍・酸洗を施し、1.5mm厚まで冷間圧延し、焼鈍・酸洗を施して製品板とした。この際、熱延板焼鈍温度を1150℃とし、400℃までの冷却速度を15℃/secとした。また、冷延板焼鈍については、加熱温度を1100℃とし、通常の通板条件にて製造した。

0053

このようにして得られた製品板に対して、静的引張試験(0.2%耐力、全伸び)、動的引張試験として上記の高速引張試験を行った際の10%流動応力、および穴拡げ試験(打ち抜き穴、切削穴)を行った。打ち抜き穴の穴拡げ試験は、JIS Z 2266に規定される方法に準拠して行った。また、金属組織については、板厚中心層近傍の組織をエッチングにより現出させ、第2相の相率については画像解析装置生成比率を求めた。フェライト相の結晶粒径については、前記のEBSD法を用いて板厚中心層近傍の粒径を測定した。

0054

0055

0056

表1−1のNo.1〜24が本発明例、表1−2のNo.25〜49が比較例である。表1及び後述の表2において、本発明範囲から外れ数値アンダーラインを付している。比較例No.26、35を除いて、母相はフェライト相であった。

0057

表1から明らかなように、本発明の鋼は母相がフェライト相であり、オーステナイト相とマルテンサイト相の総和が面積率で10〜60%存在し、母相のフェライト粒径が10μm以下、0.2%耐力×全伸びが19000MPa・%以上、打ち抜き穴の穴拡げ率が30%以上を満足する。また、高速引張試験における10%歪における流動応力が900MPa以上であり、衝撃特性にも優れることがわかる。一方比較鋼については、これらの特性が不十分であり、車輛部品としての特性を満足しない。

0058

表2の鋼No.に示す鋼(化学組成は表1参照)を用い、熱延板焼鈍条件を表2に示すとおりに変更し、熱延板焼鈍条件以外は前記表1と同じ条件を用いた場合の特性を表2に示す。これより、熱延板焼鈍条件として、1000〜1150℃に加熱した後、400℃までの冷却速度を20℃/sec以下とした場合は所定の特性が発現している。一方、熱延板焼鈍条件が好適範囲から外れる比較鋼については、フェライト粒径が粗粒化し、穴拡げ性や高速変形特性が十分ではない。

実施例

0059

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