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技術 複合硬質被膜を有する物品及びその製造方法

出願人 地方独立行政法人大阪産業技術研究所オテック株式会社
発明者 小畠淳平三浦健一四宮徳章森河務宮阪一郎野中康裕森本泰行原野知己
出願日 2015年10月8日 (5年2ヶ月経過) 出願番号 2015-200622
公開日 2017年4月13日 (3年8ヶ月経過) 公開番号 2017-071838
状態 特許登録済
技術分野 物理蒸着 その他の表面処理 バイト、中ぐり工具、ホルダ及びタレット
主要キーワード 描写装置 陽極エッチング クロムめっき膜 初期溝 回転研磨機 平滑化作用 硬質クロムめっき層 バフ研摩
関連する未来課題
重要な関連分野

この項目の情報は公開日時点(2017年4月13日)のものです。
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図面 (20)

課題

平面や曲面を持つ基材に対して、加工装置を使うことなく、簡便な方法で、表面にミクロンオーダー溝幅を有する溝のネットワークを、素材表面上に、均一で、高密度に、密着性良く、形成するネットワーク状の溝を有する複合硬質膜を有する物品、及びその製造方法を提供する。

解決手段

本発明に係る複合硬質皮膜を有する物品は、摺動部材と、前記摺動部材上に形成され、編目状の溝を有する硬質クロムめっき層と、前記硬質クロムめっき層上に形成された硬質膜であって、前記網目状の溝の少なくとも一部と対応する溝が形成されている、硬質膜と、を備えている。

概要

背景

摺動環境下で使用される機械部品工具金型等の摺動部材の保護膜としては、長寿命信頼性が高く、耐久性があり、安心して使用できる硬質膜被覆が求められている。硬質膜としては、ドライコーティング法で形成した金属窒化物金属炭化物非晶質炭素膜、および湿式めっき法で形成した硬質クロムめっきニッケルリン合金めっき、ニッケルーホウ素合金めっきなどが耐摩耗性向上の皮膜に用いられる。

しかし、摺動部材への硬質膜の被覆だけでは、摺動部における焼き付きあるいは凝着を防ぐことができない。したがって、摺動部材では硬質膜被覆に加えて、潤滑油の併用も行われている。

近年、生産機械では高強度材料を含む難加工が増え、また、作業性・生産性の効率化が強く求められており、機械部品や金型の使用環境はますます厳しくなっている。このようなニーズに応じるために、従来の硬質膜を超える耐摩耗性被膜の開発が進められている。その一方で、製造現場では、潤滑油に極圧添加剤を加え、被加工材と工具・金型、機械部品同士の焼き付きを防止することが広く行われている。

現在、世界的な環境への意識の高まりの中、製造工程において環境負荷物質をできるだけ減らす生産方法への転換が強く求められており、ハロゲンを含む極圧添加剤については、油の使用量を低減あるいは削減する動き加速している。

油使用量の低減としては、保護膜に意図的に溝等の凹凸形状を付与し、潤滑油や潤滑剤の保持性を向上させ、潤滑性を高める技術開発解決法として進められてきた。古くからの例としては、電気めっきによるポーラスクロムめっきがある。これは硬質クロムめっきにある微小クラックエッチングで拡大し、それによって形成された溝中に油を含浸させることで、摺動表面の保油性を高めるもので、現在でも特許文献1のような技術が報告されている。

一方、PVDやCVD法による硬質膜について、溝形状を付与する技術開発も進められた。特許文献2では、基材マスキングを行って硬質膜形成をすることで溝を形成する。特許文献3では、基材にレーザー等で溝形状を作っておき、その上に硬質膜を形成する。特許文献4では、硬質膜にレーザー加工で形状を形成する。
特許文献5では、基材の表面に銅めっきを施し、銅めっきを感光液によるエッチングあるいは電子描写して、その表面に凹凸形状を付与し、その上に硬質膜を形成させて凹凸のある硬質膜を得る。

特許文献6、 7では、硬質クロムめっき上に窒化物炭化物、非晶質炭素膜などの硬質膜をコーティングすることで耐摩耗性を向上する。特許文献8では、硬質クロムめっきを行う際に、めっき膜の電解析出とめっき膜の陽極エッチングを繰り返すことで表面にマクロな凹凸を形成させためっき膜を得て、その上に硬質膜を形成する。

概要

平面や曲面を持つ基材に対して、加工装置を使うことなく、簡便な方法で、表面にミクロンオーダー溝幅を有する溝のネットワークを、素材表面上に、均一で、高密度に、密着性良く、形成するネットワーク状の溝を有する複合硬質膜を有する物品、及びその製造方法を提供する。本発明に係る複合硬質皮膜を有する物品は、摺動部材と、前記摺動部材上に形成され、編目状の溝を有する硬質クロムめっき層と、前記硬質クロムめっき層上に形成された硬質膜であって、前記網目状の溝の少なくとも一部と対応する溝が形成されている、硬質膜と、を備えている。

目的

本発明は、上記の問題を解決するためになされたもので、平面や曲面を持つ基材に対して、加工装置を使うことなく、簡便な方法で、表面にミクロンオーダーの溝幅を有する溝のネットワークを、素材表面上に、均一で、高密度に、密着性良く、形成するネットワーク状の溝を有する複合硬質膜を有する物品、及びその製造方法の提供を目的とする。

効果

実績

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請求項1

摺動部材と、前記摺動部材上に形成され、編目状の溝を有する硬質クロムめっき層と、前記硬質クロムめっき層上に形成された硬質膜であって、前記網目状の溝の少なくとも一部と対応する溝が形成されている、硬質膜と、を備えている、複合硬質被膜を有する物品

請求項2

前記硬質膜に形成されている溝は、前記硬質クロムめっき層の表面に形成されている溝と連通する溝であって、当該硬質クロムめっき層の内部で延びる溝にも連通している、請求項1に記載の複合硬質皮膜を有する物品。

請求項3

前記硬質クロムめっき層の厚みが3〜1000μm、前記硬質膜の厚みが0.1〜30μmである、請求項1または2に記載の複合硬質被膜を備える物品。

請求項4

前記硬質クロムめっき層の溝と連通している前記硬質膜の溝の少なくとも一部の幅は、0.1μm以上である、請求項1から3のいずれかに記載の複合硬質被膜を有する物品。

請求項5

摺動部材の表面に硬質クロムめっき層を形成する工程と、前記硬質クロムめっき層が保有するクラックエッチングにより網目状の溝へ拡張する工程と、前記網目状の溝を有する硬質クロムめっき層上にドライコーティング法で硬質膜を形成する工程と、を備えている、複合硬質被膜を有する物品の製造方法。

請求項6

前記硬質膜の工程に先立って、前記編目状の溝を有する硬質クロムめっき層に対して、アルゴンガスによるイオンボンバード処理を行う工程をさらに備えている、請求項5に記載の複合硬質被膜を有する物品の製造方法。

請求項7

前記硬質膜は、TiN、 TiC、TiCN、TiAlN、AlCrN、CrN、BN、またはDLCである、請求項5または6に記載の複合硬質被膜を有する物品の製造方法。

請求項8

前記硬質膜を成膜した後に、当該硬質膜の表面を研磨する工程をさらに備えている、請求項5から7のいずれかに記載の複合硬質被膜を有する物品の製造方法。

技術分野

0001

本発明は、複合硬質被膜を有する物品及びその製造方法に関する。

背景技術

0002

摺動環境下で使用される機械部品工具金型等の摺動部材の保護膜としては、長寿命信頼性が高く、耐久性があり、安心して使用できる硬質膜被覆が求められている。硬質膜としては、ドライコーティング法で形成した金属窒化物金属炭化物非晶質炭素膜、および湿式めっき法で形成した硬質クロムめっきニッケルリン合金めっき、ニッケルーホウ素合金めっきなどが耐摩耗性向上の皮膜に用いられる。

0003

しかし、摺動部材への硬質膜の被覆だけでは、摺動部における焼き付きあるいは凝着を防ぐことができない。したがって、摺動部材では硬質膜被覆に加えて、潤滑油の併用も行われている。

0004

近年、生産機械では高強度材料を含む難加工が増え、また、作業性・生産性の効率化が強く求められており、機械部品や金型の使用環境はますます厳しくなっている。このようなニーズに応じるために、従来の硬質膜を超える耐摩耗性被膜の開発が進められている。その一方で、製造現場では、潤滑油に極圧添加剤を加え、被加工材と工具・金型、機械部品同士の焼き付きを防止することが広く行われている。

0005

現在、世界的な環境への意識の高まりの中、製造工程において環境負荷物質をできるだけ減らす生産方法への転換が強く求められており、ハロゲンを含む極圧添加剤については、油の使用量を低減あるいは削減する動き加速している。

0006

油使用量の低減としては、保護膜に意図的に溝等の凹凸形状を付与し、潤滑油や潤滑剤の保持性を向上させ、潤滑性を高める技術開発解決法として進められてきた。古くからの例としては、電気めっきによるポーラスクロムめっきがある。これは硬質クロムめっきにある微小クラックエッチングで拡大し、それによって形成された溝中に油を含浸させることで、摺動表面の保油性を高めるもので、現在でも特許文献1のような技術が報告されている。

0007

一方、PVDやCVD法による硬質膜について、溝形状を付与する技術開発も進められた。特許文献2では、基材マスキングを行って硬質膜形成をすることで溝を形成する。特許文献3では、基材にレーザー等で溝形状を作っておき、その上に硬質膜を形成する。特許文献4では、硬質膜にレーザー加工で形状を形成する。
特許文献5では、基材の表面に銅めっきを施し、銅めっきを感光液によるエッチングあるいは電子描写して、その表面に凹凸形状を付与し、その上に硬質膜を形成させて凹凸のある硬質膜を得る。

0008

特許文献6、 7では、硬質クロムめっき上に窒化物炭化物、非晶質炭素膜などの硬質膜をコーティングすることで耐摩耗性を向上する。特許文献8では、硬質クロムめっきを行う際に、めっき膜の電解析出とめっき膜の陽極エッチングを繰り返すことで表面にマクロな凹凸を形成させためっき膜を得て、その上に硬質膜を形成する。

先行技術

0009

特開2006−219756号公報
国際公報第2011/030926号
特開2012−188698号公報
特開2010−137540号公報
特開2007−130996号公報
特開2011−157609号公報
特開2013−174002号公報
特表2011−516726号公報

発明が解決しようとする課題

0010

上述したように、これまで検討されてきたレーザー技術を用いることによる硬質膜への形状付与では、基材もしくは硬質膜自体に対して、描写装置レーザー装置などの加工装置を駆使して作製する。しかし、この方法では、微小パターンを形成する強エネルギーで高価なレーザー加工装置を用いなければならないという問題がある。また、この技術では、マイクロメートル溝幅を有する微細溝を高密度網目状に形成することは技術上困難であり、大きな面積パターンを形成するには長時間を要する。さらに、一般的な摺動部品や金型では、平面と曲面が複雑に混在しており、素材上に均一に凹凸パターンを形成することは極めて難しく、高度な技術と時間、コストがかかる。

0011

また、感光液を利用する技術は、パターン作製として、露光用マスクの作製、樹脂液の塗布、露光現像、そしてエッチングという複雑な工程が必要であり、これを平面と曲面が存在する基材上に、均一にパターン形成することは困難で、実用的でない。

0012

硬質クロムめっきを活用する方法では、硬質クロムめっき上に直にドライコーティングをすると、硬質膜の密着性が悪く、はく離した膜の断片によって、異常摩耗が起こる問題がある。硬質膜の密着性の低下は、めっき時に発生する多量の水素クロムめっきに取り込み、表面の酸化層などにより、単純に硬質被膜だけでは十分な密着性を得ることは難しい。

0013

クロムめっきの生成時に電解およびエッチングを繰り返して凹部を形成する技術では、めっき形成とエッチングを繰り返して、数百μmレベルの各種凹凸形状を得る。しかし大きな凹凸表面では、油の保持性が不十分であり、摺動部材に用いる際には、耐摩耗性を長期間にわたって保持することは難しい。さらに、凹部が網目状となる凹凸形状を形成する場合、摺動時に外部荷重支える凸部の面積が凹部よりも著しく小さくなってしまうため、膜への負荷が大きく、耐久性が問題となる。

0014

本発明は、上記の問題を解決するためになされたもので、平面や曲面を持つ基材に対して、加工装置を使うことなく、簡便な方法で、表面にミクロンオーダーの溝幅を有する溝のネットワークを、素材表面上に、均一で、高密度に、密着性良く、形成するネットワーク状の溝を有する複合硬質膜を有する物品、及びその製造方法の提供を目的とする。

課題を解決するための手段

0015

本発明に係る複合硬質皮膜を有する物品は、摺動部材と、前記摺動部材上に形成され、編目状の溝を有する硬質クロムめっき層と、前記硬質クロムめっき層上に形成された硬質膜であって、前記網目状の溝の少なくとも一部と対応する溝が形成されている硬質膜と、を備えている。

0016

上記複合硬質皮膜を有する物品において、前記硬質膜に形成されている溝は、前記硬質クロムめっき層の表面に形成されている溝と連通する溝であって、当該硬質クロムめっき層の内部で延びる溝にも連通するものとすることができる。

0017

上記各物品においては、前記硬質クロムめっき層の厚みを3〜1000μm、前記硬質膜の厚みを0.1〜30μmとすることができる。

0018

上記各物品においては、前記硬質クロムめっき層の溝と連通している前記硬質膜の溝の少なくとも一部の幅を、0.1μm以上とすることができる。

0019

本発明に係る複合硬質皮膜の製造方法は、摺動部材の表面に硬質クロムめっき層を形成する工程と、前記硬質クロムめっき層が保有するクラックをエッチングにより網目状の溝へ拡張する工程と、前記網目状の溝を有する硬質クロムめっき層上にドライコーティング法で硬質膜を形成する工程と、を備えている。

0020

上記複合硬質皮膜を有する物品の製造方法においては、前記硬質膜の工程に先立って、前記編目状の溝を有する硬質クロムめっき層に対して、アルゴンガスによるイオンボンバード処理を行う工程をさらに備えることができる。

0021

上記各物品の製造方法において、前記硬質膜は、TiN、 TiC、TiCN、TiAlN、AlCrN、CrN、BN、またはDLCとすることができる。

0022

上記各物品の製造方法においては、前記硬質膜を成膜した後に、当該硬質膜の表面を研磨する工程をさらに備えることができる。

発明の効果

0023

本発明によれば、平面や曲面を持つ基材に対しても、加工装置を使うことなくマイクロメートルオーダーの溝幅の網目状かつ高密度な微細溝を硬質膜に付与することができる。

図面の簡単な説明

0024

本発明の一実施形態に係る複合硬質皮膜を有する物品の一部平面図である。
図1の断面図である。
硬質クロムめっき層の一例を示す平面図である。
化学エッチングを行った後の硬質クロムめっき層(a)と、陽極エッチングを行った後の硬質クロムめっき層(b)の平面図。
図5(a)は図4(a)の一部を、図5(b)は図4(b)の一部を拡大した図である。
本発明に係る複合硬質皮膜の概略構成を示す斜視図である。
エッチング後の硬質クロムめっき層を示す図である。
イオンボンバード処理前の溝の拡大図(a)であり、イオンボンバード処理後の溝の拡大図(b)である。
イオンボンバード処理の時間と、溝幅の平均増加長さとの関係を示すグラフである。
実施例1に係る被膜を示す図である。
図10の断面図である。
図10の拡大図である。
実施例2に係る被膜に対しX線回折測定を行った結果を示す図である。
実施例1の被膜を鏡面仕上げした状態を示す図である。
実施例2に係る被膜を示す図である。
実施例2に係る被膜に対してX線回折測定を行った結果を示す図である。
実施例3に係る被膜を示す図である。
実施例3に係る被膜に対してラマンスペクトルの測定を行った結果を示す図である。
硬質膜の膜厚と溝幅の関係を示す図である。
実施例1に係る被膜のスクラッチ試験の結果を示す図である。
実施例2に係る被膜のスクラッチ試験の結果を示す図である。
実施例3に係る被膜のスクラッチ試験の結果を示す図である。
実施例4に係る被膜のスクラッチ試験の結果を示す図である。
比較例1に係る被膜のスクラッチ試験の結果を示す図である。
比較例2に係る被膜のスクラッチ試験の結果を示す図である。
ピンオンディスク試験機を示す図である。
実施例1及び比較例1に係る摩擦摩耗特性を示す図である。
実施例1及び比較例1に係る摩擦摩耗特性を示す図である。
円筒深絞り試験機を示す図である。
実施例1を用いた円筒深絞り試験用ダイの外観写真(a)およびR部の拡大図(b)〜(e)である。
実施例1及び比較例1を用いた円筒深絞り試験1の結果を示す図である。
実施例1及び比較例1を用いた円筒深絞り試験2の結果を示す図である。を

0025

以下、本発明に係る複合硬質被膜及びその製造方法について説明する。
<1.溝構造を有する複合硬質膜の概要
まず、本発明に係る複合硬質被膜を有する物品の一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。図1は本実施形態に係る溝構造を有する複合硬質被膜の一部平面図、図2図1の断面図である。本発明に係る複合硬質被膜は、摺動部に使用される機械部品、工具、金型など摺動部材の表面に成膜されるものであり、図1に示すように、この複合硬質被膜の表面には、ネットワーク状(網目状)の溝が形成されている。すなわち、溝によって、この複合硬質被膜の表面がセグメント化されている。そして、この溝に潤滑油が保持されることで、長期の摺動性能担保できる。

0026

図2に示すように、この複合硬質被膜は、摺動部材の表面に形成される編目状の溝を有する硬質クロムめっき層と、この硬質クロムめっき層上に形成される硬質膜を備えている。下層の硬質クロムめっき層には、編目状の溝が形成されており、上層の硬質膜には、硬質クロムめっき層の溝に対応した溝が形成されている。すなわち、本複合硬質被膜では、編目状の溝を有する硬質クロムめっき層の溝に、硬質膜が積層されることで、硬質クロムめっき層と同様のネットワーク状の溝が硬質膜に形成できるものである。以下、各材料について説明する。

0027

<2.摺動部材>
摺動部材は、主として、ベアリングシリンダーピストンロッドなどの他の部材との摺動が施される機械部品と、摺動が生じる加工に使用する工具および金型であり、炭素鋼低合金鋼高合金鋼、各種ステンレス鋼などの鋼鉄系の材料のほか、Alおよびその合金、Tiおよびその合金、Mg合金、Niおよびその合金、銅およびその合金などの材料で形成されていることが好ましい。これらの材料は、機械部材としての利用範囲が広いうえ、硬質クロムめっき層のための電気めっき処理に対し、良好な電気伝導性を有している。

0028

<3.編目状の溝構造を有する硬質クロムめっき層>
まず、摺動部材の表面上に形成する硬質クロムめっき層は、公知の電気めっき処理でクロムめっきされる。クロムめっき層の厚さは、例えば、3μm〜1000μmとすることができる。めっき液には、公知な、硫酸触媒とするクロム酸めっき液、珪ふっ酸を含有したクロムめっき液有機スルホン酸を触媒とする市販のクロムめっき液、3価クロムめっき液などを用いることができる。複合硬質被膜の溝密度の設定は、クロムめっき液の種類、浴組成クロム濃度10〜400g/Lと触媒濃度0.1〜40g/L)およびめっき条件(電流密度5〜100A/dm2、浴温20〜70℃)を選定し、制御する。

0029

そして、この硬質クロムめっき層に網目状の溝構造を形成するには、上記で得た硬質クロムめっき層をエッチングし、クロムめっき膜内在する微小なクラックを拡大する。その結果、硬質クロムめっき層の表面に、ネットワーク状の溝が形成される。エッチング法としては、希塩酸、あるいは希硫酸、あるいは希硝酸、あるいは酢酸などの有機酸を含む溶液(0.1〜5mol/L)、それらに過酸化水素を数%含有させた酸溶液へ、硬質クロムめっきした部材を浸漬することによる化学エッチング、あるいは水酸化ナトリウム(1g/L〜100g/L)などのアルカリ性溶液またはクロム酸溶液(1〜400g/L)中で硬質クロムめっきした部材を陽極電解エッチング、で達成する。エッチングによって形成する溝幅は、溶液濃度、温度(10〜70℃)、時間(数十秒〜数十分間)、陽極電流密度(1〜50A/dm2)で制御する。このようにして形成した溝の少なくとも一部の幅は、0.2〜16μmの範囲で形成できるが、0.5〜14μmであることが好ましく、1.0〜12μmであることがさらに好ましく、3.0〜10μmが特に望ましい。なお、硬質クロムめっき層のクラックは、その表面だけでなく、内部にも形成されている。すなわち、硬質クロムめっき層の厚み方向にも多数のクラックが三次元的に形成されている。そして、硬質クロムめっき層の表面に形成されたクラック、及びそのクラックに連通する内部のクラックが、エッチングにより拡大され、溝となる。

0030

硬質クロムめっき膜最低厚みは、硬質クロムめっきに内在するクラック密度(数十本/cm)、硬質クロムめっきのエッチングによって拡大した溝幅(0.2μm〜16μm)、その上に被覆する硬質膜の厚み(0.1〜30μm)で決定することが望ましい。エッチングで形成する溝幅が、16μmを超えようになると、溝同士近接し、溝としての形状を保つことが難しく、まためっき面の平面性も失われる。さらに、目的とする摺動部品の使用時には、硬質クロムめっき層が、基材から脱落しやすくなる。

0031

<4.硬質膜>
硬質膜は、窒化物、炭化物、非晶質炭素膜など、種々の材料を適用することができる。具体的には、例えば、TiN、 TiC、TiCN、TiAlN、AlCrN、CrN、BN、またはDLCなどとすることができる。硬質膜の厚さは、例えば、0.1〜30μmとすることが好ましく、0.3〜25μmとすることがさらに好ましく、1〜20μmが特に好ましいが、形成すべき溝の幅に合わせて、適宜変更することができる。また、この硬質膜には、上述した硬質クロムめっき層の溝に対応するように、ネットワーク状の溝が形成されている。そして、この溝の少なくとも一部の幅は、0.1〜15μmの範囲で形成できるが、0.5〜14μmであることが好ましく、1.0〜12μmであることがさらに好ましく、3.0〜10μmが特に望ましい。

0032

<5.摺動部材への複合硬質被膜の製造方法>
次に、摺動部材用被膜の製造方法について説明する。まず、摺動部材の表面に、電気めっき処理により、硬質クロムめっき層を形成する。図3は、その一例を示す平面図であるが、このとき、硬質クロムめっき層に内在するクラックは、0.05μm程度であり、同図では視認することが難しい。

0033

次に、硬質クロムめっき層に対してエッチングを行い、硬質クロムめっき層に内在されたクラックを広げて、表面に網の目構造の溝を形成する。エッチングは、化学エッチング法や、陽極電解エッチング法を用いることができる。

0034

硬質クロムめっき層にエッチング処理を行うことにより、硬質クロムめっき層の0.05μm程度のクラックを、幅が16μmまでの溝状へ拡張できる。例えば、図4(a)は化学エッチングを行った後の硬質クロムめっき層であり、図4(b)は陽極エッチングを行った後の硬質クロムめっき層である。化学エッチングを行った後の硬質クロムめっき層の溝幅は6.6μm、陽極エッチングを行った後の硬質クロムめっき層の溝幅は5.8μmである。これらの図に示すように、エッチングを行うことで、図3のクロムめっきに内在するクラックに比べ、溝形状が明確で、溝幅も大きくできる。このとき、硬質クロムめっき層の表面に開口するクラックのみならず、そのクラックの底に連通する他のクラックも拡大され、溝となる。

0035

溝幅の計測には、光学顕微鏡もしくは走査型電子顕微鏡により、倍率500倍にて、試験片もしくは製品平面部、曲面部、端部付近を含む4箇所を観察し、観察視野内に存在する溝の幅を、光学顕微鏡もしくは走査型電子顕微鏡に備わっているスケールバーもしくはその観察倍率における正確なスケールが分かるツールを参考にして測長することができる。なお、倍率500倍での観察で溝幅の測長が困難な場合は、倍率1000倍にて、試験片もしくは製品の平面部、曲面部、端部付近を含む6箇所以上を観察し、上記の方法で測長する。さらに、倍率1000倍での観察で溝幅の測長が困難となる、平均溝幅が0.5μm以下の場合は、倍率8000倍での観察を行う。その際には、試験片もしくは製品の平面部と端部付近を含む10箇所以上を観察し、上記の方法で測長する。特に記述がない限り、以降に記載する溝幅は、本方法で測長した値である。

0036

図5(a)は図4(a)の、図5(b)は図4(b)の一部を拡大した図である。化学エッチングおよび陽極エッチングにより、最表面の溝が拡張されているだけなく、硬質クロムめっき層内に存在する溝も拡張されている。これらの図によれば、表面の溝の中に、さらに内部に存在する溝が連通していることが分かる。

0037

次に、硬質クロムめっき層の溝の微調整と密着性改善の処理を行う。この処理として、アルゴンによるイオンボンバード処理を行う。イオンボンバード処理は、編目状の溝を有する硬質クロムめっき層上に残留するエッチング残渣、およびバリの除去、さらに、めっき層表面の酸化物除去効果をもたらし、硬質膜の密着性を改善する。また、イオンボンバード処理は、硬質クロムめっきのエッチング工程で形成した溝のエッジ平滑化による溝幅の調整、平坦部平滑化作用があり、ドライコーティングでの硬質膜への良好な溝形状の形成効果も果たしている。イオンボンバード処理に使用するガスは、アルゴンが望ましいが、希ガス窒素酸素も用いることができる。このイオンボーバード処理は、部品使用条件が過酷でない場合には、この処理を行わないことも可能である。

0038

次に、硬質膜の成膜を行う。成膜方法は、ドライコーティングであり、CVD法やPVD法を用いることができる。CVD法としては、例えば、熱CVDプラズマCVDがあり、PVD法としては、例えば、真空蒸着法イオンプレーティングスパッタレーザーアブレーションイオンビームポジションイオン注入法がある。こうして、形成された硬質被膜の表面には、図1に示すように、硬質クロムめっき層の表面に対応するネットワーク状の溝が形成される。このとき、硬質クロムめっき層の溝のすべてに対応する溝が硬質膜に形成されるわけではないが、上述したように、硬質クロムめっき層の溝は、エッチングにより拡大されているため、拡大された溝の大部分に対応する溝が、硬質膜の表面に形成される。

0039

鏡面が要求される部品については、必要に応じて、ネットワーク状の溝を有する複合硬質膜の研摩仕上げを行うことができる。例えば、バフ研磨がある。この場合、バフ研摩条件を制御することで、ネットワーク状の溝を失うことなく鏡面に仕上げできる。

0040

<6.特徴>
以上のように、本発明に係る複合硬質被膜の製造方法によれば、摺動部に使用される機械部品、工具、金型などの摺動部材に対してネットワーク状の溝を形成した複合硬質被膜を形成することができる。この製造方法は、電気めっき処理による硬質クロムめっき層の形成、エッチング処理、及び硬質膜の形成で、摺動部材の形状にかかわらず、3次元形状であっても、ネットワーク状の溝を持つ複合硬質膜が簡易に形成できる。通常、硬質クロムめっき層上へのドライコーティングによる硬質膜の成膜は、密着性が低いが、本発明では、硬質クロムめっき層への溝形成と、イオンボンバードを用いる表面調整で、その上に成膜された硬質膜が分離されたセグメント化し、高い密着性を実現する。

0041

また、本発明の複合硬質被膜においては、ネットワーク状の溝の底部の少なくとも一部で下地の硬質クロムめっきの溝が連続している。これによって、上層の硬質膜に形成された溝だけでなく、下地の硬質クロムめっきに形成された溝内へも潤滑剤が浸透し、この複合硬質被膜の摺動性能を、長期間にわたって維持することができる。

0042

また、硬質膜に形成される溝は、硬質クロムめっき層の溝と対応するように形成されるが、図6に示すように、硬質クロムめっき層には、その表面で開口された溝のみならず、表面の溝に連通する溝が、硬質クロムめっき層の厚さ方向に三次元的に存在している。すなわち、硬質クロムめっき層の表面で開口する溝の底部には、その内部に存在する溝と連通している箇所が多数存在する。そのため、そのような内部の溝にも、硬質膜の表面の溝を介して、潤滑油が侵入し、保持される。したがって、苛酷な摺動により最表面の硬質膜の網目状微細溝に保持された潤滑油が一時的に減少しても、下地の硬質クロムめっき内部の溝に保持されている潤滑油が、摺動時の荷重により連通部分を通じて、表面の溝へ自己拡散し、油切れを防止する効果が期待できる。

0043

以下、本発明の実施例について説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されない。

0044

<1.実施例1>
本発明に係る複合硬質被膜を、次の工程に従って作製した。まず、摺動部材として、合金工具鋼SKD11調質材を準備し、その上に、硬質クロムめっき層を形成する。具体的には、摺動部材を、研磨、洗浄脱脂などの前処理を行った後に、めっき厚さ約50μmの硬質クロムめっき層を形成した。

0045

クロムめっき液としては、一般的な硫酸を触媒とするクロムめっき液を用いた。液組成としては、無水クロム酸250g/L、硫酸2.5g/Lとした。めっき条件としては、液温約50℃、電流密度20A/dm2とした。なお、硬質クロムめっきと素地の密着性を改善するために、電解初期において、品物陽極として約20A/dm2、数分間の密着性改善処理を行った後に、品物を陰極として硬質クロムめっき層を形成した。

0046

次に、硬質クロムめっき層に対し化学エッチングを行い、クロムめっきに内在するクラックを広げ、その表面に編目状の溝を形成した。浸漬に使用した溶液は、希硫酸(約1mol/L)であり、室温、5分間の浸漬を行った。この操作によって図7に示すように、硬質クロムめっき表面全体に、溝幅約5.3μmの編目状の溝を形成した。

0047

次に、アルゴンガスによるイオンボンバード処理を行い、硬質クロムめっき層上の溝をさらに広げた。イオンボンバード処理の条件は以下の通りである。
基板バイアス電圧:−500V
フィラメント電流:5A
・圧力:1.3Pa
・時間:10分
基板回転速度:5rpm

0048

図8(a)はイオンボンバード処理前の溝の拡大図であり、図8(b)はイオンボンバード処理後の溝の拡大図である。イオンボンバード処理を施すことで、処理前の溝幅5.3μmが、処理後の溝幅6.0μmへ広がった。このように、イオンボンバード処理により、クロムめっきの表面をスパッタし清浄化するとともに、溝幅をわずかに拡張できる。

0049

図9は、イオンボンバード処理の時間と、溝幅の平均増加長さとの関係を示すグラフである。図9によれば、イオンボンバード処理の時間は、約10分間までは処理時間を長くするにつれて溝幅が広くなるが、それ以上の時間の処理を行っても、溝幅は広がらない。

0050

イオンボンバード処理で、硬質クロムめっき層上に溝幅約6.0μmの編目状の溝が形成された。

0051

続いて、硬質膜として、編目状の溝を有する硬質クロムめっき層上にアークイオンプレーティングにより、約10μmの厚さのCrN膜を成膜した。成膜条件は、以下の通りである。
・基板バイアス電圧:−50V
・圧力:3.3Pa
アーク電流:70A
・温度:400℃

0052

その結果、図10に示すネットワーク状の溝を有する複合硬質被膜が形成された。この被膜上の溝の平均幅は約4.1μmであった。図11は形成された複合硬質被膜の断面図である。硬質クロムめっき層に形成された溝と対応するように、硬質膜に溝が形成されていることが分かる。さらに、硬質膜は硬質クロムめっき層の溝の内部にも侵入し、その溝の側壁と底部も被覆されていた。この被覆により、溝内部に至るまで、硬質被膜の特性を付与することができる。図12は形成された複合硬質被膜の溝部の拡大図である。同図の矢印に示すように、硬質膜の溝の底部には、下地である硬質クロムめっき層の内部で延びる溝が開口状態で残存している箇所が多数存在する(図6参照)。したがって、複合硬質被膜上に塗布した潤滑油は、最表面の網目状微細溝に保持されているだけでなく、硬質クロムめっき層の溝に侵入し保持される。この特性は、図5に示したように、下地に3次元的に複雑なネットワーク状のクラックをもつ硬質クロムめっき層の溝をエッチングにより溝幅を拡張することで成り立つ。なお、ナノインデンテーション法で、荷重を3mNとして硬質膜であるCrN膜の硬さを測定したところ、複合硬質被膜の硬さは18.5GPaであり、一般的なCrN膜の硬さを示した。

0053

また、この被膜に対し、X線回折測定を行った。測定の条件は、以下の通りである。
特性X線:CuKα
電圧:40kV
電流:150mA

0054

その結果、図13に示すグラフが得られた。図13回折ピークの位置から、この被膜がCrNと決定できる。

0055

次に、CrN膜を、卓上回転研磨機を使って、粒度6μmおよび3μmのダイヤモンドペーストでのバフ研磨を行い、鏡面仕上げした。図14に、研摩後の表面を得た。

0056

バフで鏡面仕上げすることによって、CrN膜の平坦部の平滑性が向上した。研摩の条件を適切に制御することで、複合硬質被膜の表面に形成されているネットワーク状の溝を埋め込むことなく、明確に残すことができる。

0057

<2.実施例2>
次に、実施例2に係る複合硬質被膜を作製した。実施例1との相違は、硬質クロムめっき層上に形成される硬質膜であり、その他は、実施例1と同じである。実施例2では、硬質膜として、アークイオンプレーティングにより、厚さが約10.7μmのTiNを成膜した。成膜条件は、以下の通りである。
・基板バイアス電圧:−50V
・圧力:2.6Pa
・アーク電流:100A
・温度:400℃

0058

その結果、図15に示すような被膜が形成された。この被膜上の溝の平均幅は4.0μmであった。したがって、TiNからなる硬質膜に対しても、十分な幅の溝が形成されていることが分かる。

0059

また、この被膜に対し、X線回折測定を行った。測定の条件は、以下の通りである。
・特性X線:CuKα
・電圧:40kV
・電流:150mA

0060

その結果、図16に示すグラフが得られた。図16の回折ピークの位置からすると、この被膜がTiNと決定できる。なお、ナノインデンテーション法で、荷重を3mNとして硬質膜であるTiN膜の硬さを測定したところ、28.7GPaであり、一般的なTiN膜の硬さを示している。

0061

<3.実施例3>
次に、実施例3に係る複合硬質被膜を作製した。実施例1との相違は、硬質クロムめっき層上に形成される硬質膜であり、その他は、実施例1と同じである。実施例3では、硬質膜として、アンバランスマグネトロンスパッタ法により、厚さが約5.3μm(DLC:3.1μm、Cr/C傾斜中間層2.2μm)のDLCを成膜した。成膜条件は、以下の通りである。
・基板バイアス電圧:−50V
・Arガス流量:200sccm
メタンガス流量:10sccm
・温度:200℃

0062

その結果、図17に示すような被膜が形成された。この被膜上の溝の平均幅は2.2μmであった。したがって、DLCからなる硬質膜に対しても、十分な幅の溝が形成されていることが分かる。

0063

また、この被膜に対し、励起波長532nmをとして、ラマンスペクトルの測定を行った。その結果、図18に示すグラフが得られた。図18によれば、スペクトルが1550cm-1付近のDバンドと1350cm-1付近のGバンドで構成されており、この被膜がDLCと決定できる。なお、ナノインデンテーション法で、荷重を3mNとして硬質膜であるDLC膜の硬さを測定したところ、10.9GPaであり、一般的な水素含有DLC膜の硬さを示している。

0064

<4.硬質膜の膜厚と溝幅の関係>
次に、硬質膜の膜厚と溝幅の関係について検討した。実施例1と同条件で、硬質膜として厚さの異なるCrN膜を成膜し、表面に形成される溝の幅を測定した。結果は、図19に示すとおりである。図19によれば、硬質膜における溝幅と膜厚は反比例の関係となる。すなわち、硬質膜の膜厚が大きくなるほど、表面に形成される溝の幅が小さくなる。ここで、最小二乗法による直線フィッティングの傾きは、−0.298である。この定数を利用することで、初期溝幅が分かれば、任意の膜厚を形成した際の、微細溝幅を計算することが可能となる。したがって、膜厚の制御により、溝幅の制御が可能となる。ただし、本定数はアークイオンプレーティング法による成膜に適用できるものであり、成膜方法が変われば、本定数は変化する。

0065

<5.スクラッチ試験>
上記各実施例における硬質膜の密着性をスクラッチ試験により評価した。また、硬質膜の下地の影響も検討した。すなわち、上記各実施例では、エッチングにより溝幅を大きくした硬質クロムめっき層を下地とし、その上に硬質膜を成膜しているが、本発明者は、この下地の種類により硬質膜が強固に硬質クロムめっき層と密着し、剥離が生じにくいことを見出した。以下、検討する。まず、比較例として、以下の2つを準備し、さらに実施例4を準備した。

0066

(比較例1)
実施例1との相違は、硬質クロムめっき層を設けないことであり、その他は実施例と同じである。すなわち、摺動部材である合金工具鋼SKD11調質材上に、直接、約10μmの厚さのCrN膜を成膜した。

0067

(比較例2)
実施例1との相違は、硬質クロムめっき層にエッチング及びイオンボンバード処理を行わず、鏡面加工を施したことであり、その他は実施例と同じである。すなわち、摺動部材である合金工具鋼SKD11調質材上に、実施例1と同様に、硬質クロムめっき層を形成した後、バフ研磨により鏡面加工を施し、その後、約10μmの厚さのCrN膜を成膜した。

0068

(実施例4)
実施例1との相違は、硬質クロムめっきのエッチング法であり、その他は実施例と同じである。すなわち、実施例1では化学エッチングを施したのに対し、実施例4では、陽極エッチングを施し、その後、実施例1と同様に、約10μmの厚さのCrN膜を成膜した。なお、陽極エッチングには、標準的なクロムめっき液であるクロム酸250g/L、硫酸2.5g/Lの溶液を用いた。陽極電解条件は、室温、電流密度20A/dm2、電解時間1分間とした。

0069

評価方法
ISO20502:2005(E)に基づいて、スクラッチ試験を行った。条件は、以下の通りである。
初期荷重:0.3N
・終了荷重:100N
スクラッチ距離:10mm
圧子ダイヤモンド先端半径0.2mm)

0070

結果は、以下の通りである。図20図25は、それぞれ、スクラッチ試験を行った実施例1〜4、比較例1、2を示している。図20図23に示す実施例1〜4では、いずれも良好な密着性能を示している。実施例1と4とを比較すると(図20図23)、陽極エッチングよりも化学エッチングの方が高い密着力を示している。これは、図5に示すように、化学エッチングの方が硬質クロムめっき層の表面に形成される微小な凹凸が粗くなっており、硬質膜とのアンカー効果が強まったからと考えられる。

0071

また、図25に示す比較例2では、低荷重で剥離が生じており、密着性が低いことが分かる。これは、溝幅を広げることなく、硬質膜が成膜されているためと考えられる。これに対して、実施例1〜4は、硬質膜がネットワーク状の溝により分割されていることで、破壊範囲が減少し、これによって密着性が高くなっている。

0072

<6.摩擦摩耗特性試験1>
次に、ネットワーク状の溝による液体潤滑下での摺動性能を確認するため、図26に示すような装置(新東科学(株)製トライギアTYPE−35S)を用い、ピンオンディスク試験を行った。ここでは、実施例1及び比較例1に係る被膜を用いて試験を行った。まず、実施例1及び比較例1の硬質膜の表面に流動パラフィンを塗布し、ピンオンディスク試験を行った。試験条件は、以下の通りである。
・荷重:15kg
摩擦円半径:5mm
・回転速度:100rpm
摩擦相手材:SKH51(φ3mmのピン
潤滑材:流動パラフィン

0073

結果は、図27に示す摩擦摩耗特性に示すとおりである。比較例1(微細溝なし)では、開始してすぐの100秒付近で急激に摩擦係数が増加したため、この時点で試験を中止した。これは、比較例1では、硬質膜の表面に油を保持することができずピンとの間で油切れを起こし、焼き付きが発生したことで、急激に摩擦係数が増加したからであると思われる。一方、実施例1(微細溝あり)は、終始安定して低い摩擦係数を維持した。実施例1では、ネットワーク状の溝の保油効果により、油切れを起こすことなく、安定した摩擦挙動を示したと考えられる。

0074

<7.摩擦摩耗特性試験2>
摩擦摩耗特性試験1では、液体潤滑下での試験であったが、ここでは、固定潤滑下での試験を行う。試験方法としては、潤滑剤として、二硫化モリブデン粉末を用いるのみが相違する。結果は、図28に示す摩擦摩耗特性に示すとおりである。同図に示すように、比較例1(微細溝なし)では、800秒付近から摩擦係数が増大し、その後は高い摩擦係数を維持した。これは、比較例1では、試験の進行に伴い摺動面の粉末が減少してゆき、800秒付近から部分的な焼き付きが発生し始めたことで、摩擦係数が増大したからであると考えられる。一方、実施例1(微細溝なし)は、終始低い摩擦係数を維持した。これは、ネットワーク状の溝に保持された粉末が、摺動面に供給され続けることで、安定した摩擦挙動を示したからであると考えられる。

0075

<8.金型性能試験1>
次に、塑性加工における金型性能を円筒深絞り試験により評価した。試験機はJTトーシ株式会社製自動型万能深絞り試験機SAS−200Dを使用した。図29に示す円筒深絞り試験機において、合金工具鋼SKD11調質材製のダイ及びしわ押えに対し、実施例1及び比較例1に係る被膜を形成し、オーステナイト系ステンレス鋼(SUS304−2B)の円筒深絞り試験を複数回行った。円筒深絞りの条件は、以下の通りである。
・金型:パンチφ40.0×R8mm
ダイスφ42.5×R8mm
しわ押え φ40.5mm
・被加工材: SUS304−2B(1mmt)
・潤滑油:フォーマ油MS70
動粘度70mm2/s[40℃])
成形速度: 80mm/min
・しわ押え力: 5kN
但し、試験毎に被加工材へ注油した。

0076

図30に実施例1を用いた円筒深絞り試験用ダイの外観写真(a)およびR部の拡大図(b)〜(e)を示す。ダイのR部にも網目状の溝が形成されていることが分かる。これは、本技術が曲面に対してもネットワーク状の溝を形成できることを示している。

0077

図31に実施例1及び比較例1の深絞り最大荷重の変化を示す。比較例1に係る金型を用いるとでは、最初から10試験までは成形中に割れが発生し、成形が安定するまでに20試験を要した。一方、実施例1に係る金型では、終始安定して成形ができた。また、最大荷重について、実施例1の金型は、比較例1の金型に比べ、低い最大荷重を示しており、30〜40試験の平均最大荷重で比較した場合、微細溝を形成することにより最大荷重が約7%低減することが分かった。

実施例

0078

<9.金型性能試験2>
次に、金型性能試験2を行った。金型性能試験1との相違は、試験開始前に金型へ潤滑油を塗布し、試験開始後は金型と加工材への注油を一切行わずに試験した点である。結果は、図32に示すとおりである。比較例1に係る金型では、4試験で最大荷重の大幅な増加が起こり、6試験で割れにより成形が不能となり、成形できた品物は5個であった。一方、実施例1に係る金型では、20試験まで低い最大荷重を維持しながら安定して成形できており、その後は最大荷重が徐々に増加するものの、優れた保油効果により、26個の品物を成形することができた。

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