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技術 藻類の培養密度を向上させるための組成物およびその利用

出願人 岡山県
発明者 小川健一西川正信
出願日 2015年8月24日 (5年9ヶ月経過) 出願番号 2015-165233
公開日 2017年3月2日 (4年3ヶ月経過) 公開番号 2017-042063
状態 特許登録済
技術分野 微生物による化合物の製造 微生物、その培養処理
主要キーワード 環境研究 緑藻植物門 未処理区 窒素飢餓状態 植栽密度 珪藻綱 エネルギー産業 窒素原子換算
関連する未来課題
重要な関連分野

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図面 (4)

課題

藻類培養密度を向上させるための組成物およびその利用を提供する。

解決手段

本発明に係る組成物は、グルタチオンまたはその誘導体を含んでいる。また、本発明に係るバイオマスの製造方法は、本発明が適用された藻類を用いてバイオマスを製造する。

概要

背景

化石燃料代わる燃料として、バイオマス由来の燃料、いわゆるバイオ燃料(例えば、バイオエタノールバイオディーゼル等)が期待されている。

バイオ燃料の原料となる糖類(例えば、デンプン)や油脂等のバイオマスの多くは、植物が光合成を行うことによって産生される。このため、光合成を活発に行い、糖類または油脂を細胞内に蓄積する能力を有する植物は、バイオマスの生産手段として利用可能である。現在、バイオマスを生産するために、主に、トウモロコシダイズが利用されている。トウモロコシやダイズは、食料飼料としても利用されている。このため、バイオ燃料の大幅な増産によって引き起こされる、食料および飼料の価格の高騰が問題視されている。

そこで、トウモロコシやダイズに代わるバイオマス生産手段として、藻類によるバイオマス生産が注目されている(例えば、特許文献1および特許文献2を参照)。藻類によるバイオマス生産は、食料や飼料と競合しない、大量に増殖させることができる、等の利点がある。

例えば、藻類の一種であるクラミドモナスについて、細胞壁欠損した変異体あるいは細胞壁が薄くなる変異体が知られている(cw15,cw92等)。これらの変異体は、DNAを外部から細胞内へ導入する際に都合のよい性質であるため、遺伝子導入実験では広く使われている。また細胞が壊れやすいため、細胞内容物回収が容易という意味でバイオマスの生産性を高めることから、これらの変異体を利用したバイオマス生産について報告されている。例えば、特許文献3には、クラミドモナスにおける細胞壁が欠損した変異体を用いて油脂を生産させる技術が記載されている。また、非特許文献1には、細胞壁変異(cw15)に加え、デンプン合成遺伝子の欠損を有しているクラミドモナスは、油脂からなる油滴細胞外へ放出されることが報告されている。非特許文献2には、クラミドモナスの細胞壁変異体(cw15)において、デンプン合成の遺伝子を破壊することで油脂の生産性が高まることが報告されている。また、クラミドモナス細胞壁の変異に関するレポートとして、非特許文献3が知られている。

また、藻類の一種であるクロレラを材料として、生産したデンプンを細胞外へ放出させ、続いてエタノール発酵を行う技術も報告されている(特許文献4)。さらに、藻類の葉緑体内のグルタチオン濃度を増加させることによって、デンプンの産生能を向上させる技術も報告されている(特許文献5)。

概要

藻類の培養密度を向上させるための組成物およびその利用を提供する。本発明に係る組成物は、グルタチオンまたはその誘導体を含んでいる。また、本発明に係るバイオマスの製造方法は、本発明が適用された藻類を用いてバイオマスを製造する。なし

目的

本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、バイオマスの生産性を向上させ得る藻類およびその利用を提供する

効果

実績

技術文献被引用数
0件
牽制数
0件

この技術が所属する分野

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請求項1

グルタチオンまたはその誘導体を含む、藻類培養密度を向上させるための組成物

請求項2

前記グルタチオンが還元型グルタチオンである、請求項1に記載の組成物。

請求項3

グルタチオンまたはその誘導体の非存在下における培養密度の最大値よりも高い培養密度まで藻類をグルタチオンまたはその誘導体の存在下で培養する工程を包含する、藻類の培養密度を向上させる方法。

請求項4

前記グルタチオンが還元型グルタチオンである、請求項3に記載の方法。

請求項5

グルタチオンまたはその誘導体あるいは請求項1または2に記載の組成物を含む培養液中で培養された藻類を用いることを特徴とするバイオマスを製造する方法。

請求項6

前記藻類を窒素飢餓条件下にてさらに培養する工程を包含する、請求項5に記載の方法。

請求項7

前記窒素飢餓条件下にて培養されている前記藻類に対して光を照射する光照射工程を包含する、請求項6に記載の方法。

請求項8

グルタチオン非存在下における培養密度の最大値よりも高い培養密度まで培養された藻類を用いて藻類バイオマス回収する工程をさらに包含する、請求項5〜7のいずれか1項に記載の方法。

技術分野

0001

本発明は、藻類培養密度を向上させるための組成物およびその利用に関する。

背景技術

0002

化石燃料代わる燃料として、バイオマス由来の燃料、いわゆるバイオ燃料(例えば、バイオエタノールバイオディーゼル等)が期待されている。

0003

バイオ燃料の原料となる糖類(例えば、デンプン)や油脂等のバイオマスの多くは、植物が光合成を行うことによって産生される。このため、光合成を活発に行い、糖類または油脂を細胞内に蓄積する能力を有する植物は、バイオマスの生産手段として利用可能である。現在、バイオマスを生産するために、主に、トウモロコシダイズが利用されている。トウモロコシやダイズは、食料飼料としても利用されている。このため、バイオ燃料の大幅な増産によって引き起こされる、食料および飼料の価格の高騰が問題視されている。

0004

そこで、トウモロコシやダイズに代わるバイオマス生産手段として、藻類によるバイオマス生産が注目されている(例えば、特許文献1および特許文献2を参照)。藻類によるバイオマス生産は、食料や飼料と競合しない、大量に増殖させることができる、等の利点がある。

0005

例えば、藻類の一種であるクラミドモナスについて、細胞壁欠損した変異体あるいは細胞壁が薄くなる変異体が知られている(cw15,cw92等)。これらの変異体は、DNAを外部から細胞内へ導入する際に都合のよい性質であるため、遺伝子導入実験では広く使われている。また細胞が壊れやすいため、細胞内容物回収が容易という意味でバイオマスの生産性を高めることから、これらの変異体を利用したバイオマス生産について報告されている。例えば、特許文献3には、クラミドモナスにおける細胞壁が欠損した変異体を用いて油脂を生産させる技術が記載されている。また、非特許文献1には、細胞壁変異(cw15)に加え、デンプン合成遺伝子の欠損を有しているクラミドモナスは、油脂からなる油滴細胞外へ放出されることが報告されている。非特許文献2には、クラミドモナスの細胞壁変異体(cw15)において、デンプン合成の遺伝子を破壊することで油脂の生産性が高まることが報告されている。また、クラミドモナス細胞壁の変異に関するレポートとして、非特許文献3が知られている。

0006

また、藻類の一種であるクロレラを材料として、生産したデンプンを細胞外へ放出させ、続いてエタノール発酵を行う技術も報告されている(特許文献4)。さらに、藻類の葉緑体内のグルタチオン濃度を増加させることによって、デンプンの産生能を向上させる技術も報告されている(特許文献5)。

0007

日本国公開特許公報「特開平11−196885号公報(1999年7月27日公開)」
日本国公開特許公報「特開2003−310288号公報(2003年11月5日公開)」
国際公開第2009/153439号パンフレット(2009年12月23日公開)
日本国公開特許公報「特開2010−88334号公報(2010年4月22日公開)」
国際公開第2012/029727号パンフレット(2012年3月8日公開)
国際公開第2008/072602号パンフレット(2008年6月19日公開)
国際公開第2008/087932号パンフレット(2008年7月24日公開)

先行技術

0008

Zi Teng Wang, Nico Ullrich, Sunjoo Joo, Sabine Waffenschmidt, and Ursula Goodenough (2009) Eukaryotic Cell Vol. 8 (12): 1856-1868
Yantao Li, Danxiang Han, Guongrong Hu, David Dauvillee, Milton Sommerfeld, Steven Ball and Qiang Hu (2010) Metabolic Engineering Vol. 12 (4): 387-391
Jerry Hyams, D. Roy Davies (1972) Mutation Research Vol. 14 (4): 381-389

発明が解決しようとする課題

0009

しかし、特許文献1〜5、非特許文献1〜3に記載される藻類を用いたバイオマスの生産技術では、生産性の面で問題がある。特に、特許文献5においては、藻の培養密度が上がらず、光合成産物の生産性が上がりきらないという問題点がある。

0010

本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、バイオマスの生産性を向上させ得る藻類およびその利用を提供することにある。

課題を解決するための手段

0011

本発明者らは、上記課題を解決することを目的として検討を重ねた結果、グルタチオン存在下で藻類を培養した際に、グルタチオン非存在下で培養された藻類よりも高い培養密度まで藻類が増殖することを見出し、本発明を完成させるに至った。

0012

すなわち、本発明に係る組成物は、藻類の培養密度を向上させるために、グルタチオンを含むことを特徴としている。

0013

本発明に係る方法は、藻類の培養密度を向上させるために、グルタチオン非存在下における培養密度の最大値よりも高い培養密度まで藻類をグルタチオン存在下で培養する工程を包含することを特徴としている。

0014

本発明に係る製造方法は、バイオマスを製造するために、本発明に係る組成物を含む培養液中で培養された藻類を用いることを特徴としており、グルタチオン非存在下における培養密度の最大値よりも高い培養密度まで培養された藻類を回収する工程を包含することが好ましい。

0015

本発明に係るバイオマスは、上記製造方法によって得られたものであることを特徴としている。

発明の効果

0016

本発明に係る組成物は、藻類の培養密度を向上させることができる。そして、本発明が適用された藻類は、その培養密度の最大値が向上しているので、培養物容積あたりの藻類の収穫量が増加し、より多くのバイオマスを供給することができる。それゆえ、本発明に係るバイオマスの製造方法によれば、従来よりも安価に、多量のバイオマスを藻類から効率よく製造することできる。

図面の簡単な説明

0017

クラミドモナス培養物の増殖能へ与えるグルタチオンの効果を検証した結果を表す図である。
クラミドモナス培養物の増殖能へ与えるグルタチオンの効果を検証した結果を表す図である。
ヘマトコッカス培養物の増殖能へ与えるグルタチオンの効果を検証した結果を表す図である。
セネデスムス培養物の増殖能へ与えるグルタチオンの効果を検証した結果を表す図である。

0018

以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。ただし、本発明はこれに限定されず、記述した範囲内で種々の変形を加えた態様で実施できるものである。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A〜B」は、「A以上、B以下」を意味する。

0019

〔1.本発明に係る組成物〕
本発明は、藻類の培養密度を向上させるための組成物(以下、「本発明の組成物」と称する。)を提供する。本発明に係る組成物は、未処理の藻類の培養密度の最大値を向上させるための組成物であり、藻類の培養密度を向上させるために用いられれば、グルタチオンまたはその誘導体を含んでいればよく、その他の構成は限定されない。本発明の組成物に含まれるグルタチオンは、還元型グルタチオン(以下、「GSH」ともいう。)または酸化型グルタチオン(以下、「GSSG」ともいう。)のどちらか一方であってもGSHおよびGSSGの両方であってもよいが、GSHが好ましく用いられる。グルタチオンの誘導体としては、ホモグルタチオンカルボキシプロピルグルタチオン、ジカルボキシエチルグルタチオン等が挙げられる。

0020

GSHは、当業者によく知られているように、酸化されやすい性質を有する。したがって、本発明の組成物に、グルタチオンとしてGSHを含ませると、通常、該組成物には、GSSGが少なからず含まれている。つまり、本発明の組成物には、グルタチオンとして、GSHとGSSGとが混合した状態で含まれていてもよい。

0021

本発明の組成物は、グルタチオンとしてGSHを含有させ、その保存時もしくは使用時に、該GSHをGSSGに酸化させる形態とすることができる。また、藻類に投与後に、GSHがGSSGに酸化される形態としてもよい。

0022

なお、GSHをGSSGに酸化する方法は特に限定されない。例えば、空気酸化により、GSHをGSSGに容易に変換することができる。また、従来公知のあらゆる人為的な方法で、GSHをGSSGに変換してもよい。

0023

本発明の組成物は、藻類のための培地または培養液として用いられる。グルタチオンまたはその誘導体を含ませる培地または培養液の構成は特に限定されず、従来公知の藻類培養に用いられている培地または培養液の構成を適宜使用することができる。藻類のための培地または培養液としては、TAP培地やHSM培地等が知られており、これらを好適に用いることができる。

0024

本発明の組成物の適用対象である「藻類」としては、種々のバイオマスを生成可能な藻類であれば、特に限定されない。このような藻類としては、例えば、緑藻植物門緑藻綱分類される微細藻類が挙げられ、さらに具体的には、緑藻綱のクラミドモナス属に属するクラミドモナス・ラインハルディ(Chlamydomonas reinhardtii)、クラミドモナス・モエブシイ(Chlamydomonas moewusii)、クラミドモナス・ユーガメタス(Chlamydomonas eugametos)、クラミドモナス・セグニス(Chlamydomonas segnis)等;緑藻綱のドナリエラ属に属するドナリエラ・サリナ(Dunaliella salina)、ドナリエラ・テルチオレクタ(Dunaliella tertiolecta)、ドナリエラ・プリモレクタ(Dunaliella primolecta)等;緑藻綱のセネデスムス属に属するセネデスムス・アキュマナタス(Scenedesmus acumunatus)、セネデスムス・ジモルファス(Scenedesmus dimorphus)、セネデスムス・ジシフォルミス(Scenedesmus disciformis)、セネデスムス・オヴルテルマス(Scenedesmus ovaltermus)、緑藻綱のドナリエラ属に属するドナリエラ・サリナ(Dunaliella salina)、ドナリエラ・テルチオレクタ(Dunaliella tertiolecta)、ドナリエラ・プリモレクタ(Dunaliella primolecta)等;緑藻綱のクロレラ属に属するクロレラ・ブルガリス(Chlorella vulgaris)、クロレラ・ピレノイドーサ(Chlorella pyrenoidosa)等;緑藻綱のヘマトコッカス属に属するヘマトコッカス・プルビアリス(Haematococcus pluvialis)等;緑藻綱のクロコックム属に属するクロロコックム・リトラエ(Chlorococcum littorale)等;緑藻綱または黄緑色藻ボトリオコッカス属に属するボトリオコッカス・ブラウニー(Botryococcus braunii)等;緑藻綱のコリシスチス属に属するコリシスチス・マイナー(Choricystis minor)等;緑藻綱のシュードコリシスチス属に属するシュードコリシスチス・エリプソイディア(Pseudochoricystis ellipsoidea)等;珪藻綱アンフォーラ属に属するアンフォーラ(Amphora sp.)等;珪藻綱のニッチア属に属するニッチア・アルバ(Nitzschia alba)、ニッチア・クロステリウム(Nitzschia closterium)、ニッチア・ラエビス(Nitzschia laevis)等;渦鞭毛藻綱のクリセコディニウム属に属するクリプセコディニウム・コーニー(Crypthecodinium cohnii)等;ミドリムシ綱のミドリムシ属に属するユーグレナグラチリス(Euglena gracilis)、ユーグレナ・プロキシマ(Euglena proxima)等;繊毛虫門のゾウリムシ属に属するミドリゾウリムシ(Paramecium bursaria)等;藍藻門のシネココッカス属に属するシネココッカスアクティリス(Synechococcus aquatilis)、シネココッカス・エロガタス(Synechococcus elongatus)等;藍藻門スピルリナ属に属するスピルリナプラテンシス(Spirulina platensis)、スピルリナ・スブサルサ(Spirulina subsalsa)等;藍藻門のプロクロロコッカス属に属するプロクロロコッカス・マリウス(Prochlorococcus marinus)等;藍藻門のオーシスチス属に属するオーシスチス・ポリモルファ(Oocystis polymorpha)等;等が例示される。

0025

藻類の培養では、培養密度(単位体積あたりの培地または培養液における藻類の細胞数細胞体積または細胞重量)が上昇するにつれて、培養槽表層に存在する細胞による“日陰効果”によって培養槽深層に到達する光が減衰されるので、培養中の藻類の光合成産物の生産能力が一定の値で頭打ちになる。特許文献5には、γ−グルタミルシステインシンセターゼ形質転換された藻類が開示されており、特許文献5に記載の藻類は、野生型と比較して培養密度が小さく維持されるため、光の利用効率が高く、同じ光量(明るさ)であっても、同一種の野生型藻類と比べて、より多くの光合成産物を生産または蓄積させることができる。

0026

特許文献6には、グルタチオン供与によって植物の収穫指数を向上させる技術が記載されている。また、特許文献7には、植物由来のγ−グルタミルシステインシンセターゼで形質転換して植物の収穫指数を向上させる技術が開示されている。なお、「植物の収穫指数」とは、植物全体の重さに対する収穫物の重さの割合であり、植物個体の全バイオマス量に対する収穫物のバイオマス量の割合である。

0027

単位面積あたりの植物の収穫量は土壌栄養状態によって決定され、面積あたりの植物の収穫量はある特定の値で頭打ちとなることは、当該分野における技術常識である(例えば、Crop Sci. (2003) Vol.43: 2206-2211参照)。そのため、通常、植物を育成する場合には、適切な間隔で苗木植栽したり、間引いたりして、個体の植栽密度(単位面積あたりに植栽した個体数)が高まらないようにする。つまり、植栽密度を上げることで単位面積あたりの収穫量は向上するが、その効果は一定の植栽密度で飽和する。「植物の収穫指数を向上させる」とは、グルタチオンを投与しない条件と比較して植物の収穫指数を向上させることであり、単位面積あたりの植物の収穫量を最大限得られるように最適化した従来の標準的な施肥条件であっても、植物の、全バイオマス量に対する収穫物のバイオマス量の割合を増加させる、ということである。なお、「植物の収穫指数の向上」が「植物の生長速度」と何ら関係のない事象であることもまた、当該分野における技術常識である(例えば、Science (1999) Vol. 286: 1960-1962;Plant and Cell Physiology (2005) Vol. 46 (8):1175-1189;Plant Physiology (1987) Vol. 84: 1126-1131;Annals of Botany (1979) Vol. 43: 305-318参照)。

0028

上述したように、グルタチオンの供与と植物由来のγ−グルタミルシステインシンセターゼでの形質転換とは、植物に対して同様の効果を生じさせている(特許文献6および7)。特許文献5には、γ−グルタミルシステインシンセターゼで形質転換された藻類が開示されており、特許文献5に記載の藻類はその培養密度が減少していることから、藻類に対するグルタチオンの供与はその培養密度を低減させることが予想された。しかし、予想に反して、グルタチオン存在下で藻類を培養した際に、グルタチオン非存在下で培養された(すなわち、グルタチオン存在下で培養されていない)藻類(以下、「未処理の藻類」ともいう。)の培養密度の最大値よりも高い培養密度まで藻類が増殖することがわかった。未処理の藻類の培養密度の最大値よりも高い培養密度まで藻類が増殖することができるなどということは、上記従来知られているグルタチオンの機能からは全く予測できないものである。

0029

本発明の組成物に還元型グルタチオンを含ませる場合、該組成物に含まれる還元型グルタチオンの量は藻類の増殖を抑制しない限り特に限定されないが、例えば、クラミドモナスの場合、100μM〜10mMであることが好ましく、より好ましくは100μM〜5mM、さらに好ましくは0.25mM〜5mM、なおさらに0.5mM〜2.5mMであることが好ましい。

0030

本発明の組成物に酸化型グルタチオンを含ませる場合、該組成物に含まれる酸化型グルタチオンの量は、還元型グルタチオンを含ませる場合よりも少ないことが好ましい。具体的には、例えば、クラミドモナスの場合、50μM〜5mMであることが好ましく、より好ましくは50μM〜2.5mM、さらに好ましくは0.125mM〜2.5mM、なおさらには0.25mM〜1.25mMであることが好ましい。

0031

なお、上述した濃度範囲は、あくまで特定の期間、特定の量の溶液でクラミドモナスに投与する場合の好適な範囲であり、対象とする藻類の種類や培養期間および培養液量を変更する場合には、より高濃度またはより低濃度のグルタチオンであっても適用可能性があるといえる。

0032

本発明の趣旨は、グルタチオン存在下で藻類を培養した際に、未処理の藻類の培養密度の最大値よりも高い培養密度まで藻類が増殖することを見出したことにあり、それ以外の限定を意図していない。それゆえ、本発明は、上述した濃度範囲に限られるものではないことを念のため付言しておく。

0033

さらに、本発明の組成物には、他の補助剤を適宜配合することができる。そのような補助剤として、例えばアルキル硫酸エステル類,アルキルスルホン酸塩アルキルアリールスルホン酸塩ジアルキルスルホコハク酸塩等の陰イオン界面活性剤、高級脂肪族アミン塩類等の陽イオン界面活性剤ポリオキシエチレングリコールアルキルエーテル,ポリオキシエチレングリコールアシルエステル,ポリオキシエチレングリコール多価アルコールアシルエステル,セルロース誘導体等の非イオン界面活性剤ゼラチンカゼインアラビアゴム等の増粘剤増量剤結合剤等が挙げられる。

0034

必要に応じて、例えば安息香酸ニコチン酸ニコチン酸アミドピペコリン酸等を、本発明の組成物の所望の効果を損なわない限度において、製剤中に配合することもできる。また、従来公知の栄養成分を、製剤中に配合してもよい。

0035

なお、本明細書において、用語「藻類バイオマス」とは、藻類が光合成による炭素固定等によって産生する物質を含む藻類による生産物を指し、具体的には、例えば、糖類(例えば、デンプン)、油脂、色素(例えば、カロテノイド)等のバイオマスおよびそれらの派生物二次代謝産物等)を指す。なお、光合成による炭素固定とは、光エネルギー由来する化学エネルギーを利用した炭素化合物の代謝全般を指す。従って、代謝系に取り込まれる炭素の由来は、二酸化炭素等の無機化合物に限らず、酢酸等の有機化合物も含まれる。すなわち、「藻類バイオマス」には、光合成に依存することなく藻類が従属栄養的に合成する種々の化合物も含まれる。

0036

通常、藻類の細胞内での藻類バイオマスの生産または蓄積を誘導するためには、窒素飢餓条件下で藻類を培養することが必要である。従属栄養条件(酢酸などの炭素源がある場合)において窒素飢餓状態とした場合、藻類は、増殖期にわずかに細胞内に藻類バイオマスを蓄積し、また定常期に藻類バイオマスを蓄積するが、細胞外ではほとんど藻類バイオマスが検出されない。また、従属栄養条件において窒素飢餓状態としない場合、藻類は、増殖期にほんのわずか細胞内に藻類バイオマスを蓄積するが、定常期にはさらにその蓄積は低下し、細胞外ではほとんど検出されない。一方、独立栄養条件(光合成による二酸化炭素固定に依存して増殖する条件)では、藻類では、窒素飢餓時の藻類バイオマス蓄積誘導に要する光量は、従属栄養条件の場合よりも多く必要となる。

0037

本発明の組成物は、有効成分であるグルタチオンまたはその誘導体を単独で含んでいてもよいが、上述したように、それぞれの藻類に適用可能な剤形、例えば液剤固形剤粉剤乳剤底床添加剤等の剤形で用いることが好ましい。そのような製剤は、それぞれの分野で、製剤学上適用することが可能な公知の担体成分製剤用補助剤等を、本発明の組成物の作用効果が損なわれない限度において、有効成分であるグルタチオンまたはその誘導体に適宜配合し既知の方法で製造することができる。

0038

なお、細胞中のグルタチオンの濃度を調べることにより、本発明の組成物が適用された藻類であるか否かを簡便に調べることができるので、本発明の組成物が適用された藻類を、本発明の組成物が適用されていない方法で得られた藻類と明確に区別できる。細胞中のグルタチオンの濃度を調べる方法以外にも、例えば、DNAマイクロアレイ等を用いて遺伝子発現パターンを比較することによっても調べることができる。具体的には、グルタチオンまたはその誘導体の存在下で培養した藻類の遺伝子発現パターンを予め調べ、他の方法で培養された藻類のそれと比較して、グルタチオンまたはその誘導体が提供された場合に特有発現パターンを特定しておく。そして、調査対象の藻類の遺伝子発現パターンを調べ、上記発現パターンと比較することにより、本発明の組成物が適用された藻類であるか否かを簡便に調べることができる。例示した方法(すなわち、藻類を鑑定する方法)は単独で行ってもよいし、複数を組み合わせて行ってもよい。複数を組み合わせて行うことにより、本発明の組成物が適用された藻類と、それ以外の方法で得られた藻類とをより明確に区別することができる。

0039

このように、本発明は、藻類の培養密度を向上させるための、グルタチオンまたはその誘導体を含む組成物を提供し、同時に、上記組成物を調製するためのグルタチオンまたはその誘導体の使用を提供する。

0040

〔2.本発明に係る方法〕
本発明は、本発明に係る藻類の培養密度を向上させる方法(以下、「本発明の方法」と称する。)を提供する。本発明の方法は、未処理の藻類の培養密度の最大値を向上させるための方法であり、上記最大値よりも高い培養密度での藻類の培養を実現することができる。本発明の方法は、グルタチオンまたはその誘導体の非存在下における培養密度の最大値よりも高い培養密度まで藻類をグルタチオンまたはその誘導体の存在下で培養する工程を少なくとも含んでいればよく、その他の条件、工程等の構成は限定されない。なお、本発明の方法に用いられるグルタチオンまたはその誘導体については、「1.本発明に係る組成物」の項で説明したので、ここでは省略する。

0041

本明細書において、本発明の方法が適用されて得られた藻類を本発明の藻類という。本発明の藻類は、未処理の藻類の培養密度の最大値よりも高い培養密度での培養されている。したがって、本発明の藻類は、通常推奨される条件で培養された場合よりも高い培養密度での培養が可能であることから、培養密度を測定することにより、本発明の方法が適用されていない方法で得られた藻類と明確に区別することができる。また、遺伝子発現解析代謝物解析の結果に基づいて、本発明の藻類を、本発明の方法が適用されていない方法で得られた藻類と明確に区別することができる。

0042

なお、本発明の藻類は、グルタチオンまたはその誘導体の非存在下における培養密度の最大値よりも高い培養密度まで培養された藻類を回収することによって得られる。すなわち、本発明の方法は、グルタチオンまたはその誘導体の非存在下における培養密度の最大値よりも高い培養密度まで培養された藻類を回収する工程をさらに包含してもよい。

0043

本発明に係る方法は、藻類の培養密度を測定する工程を含んでもよい。この場合、藻類の培養密度を測定する方法としては特に限定されないが、例えば、単位培養液量あたりの藻類の細胞数を計測する方法、単位培養液量あたりの藻類の細胞体積を計測する方法、単位培養液量あたりの藻類の細胞重量を計測する方法、等を挙げることが出来る。

0044

本発明の方法では、藻類が、グルタチオンまたはその誘導体を常に吸収し得る条件で提供されてもよいし、培養期間を通して、間欠的にグルタチオンまたはその誘導体を吸収し得る条件で提供されてもよい。

0045

間欠的にグルタチオンまたはその誘導体が提供されることにより、グルタチオンまたはその誘導体の使用量を低減させることができる。それゆえ、藻類の培養コストを低減することができる。なお、間欠的にグルタチオンまたはその誘導体が提供される場合、一定の間隔で提供されることが好ましいが、これに限定されず、不定の間隔で提供されてもよい。

0046

また、グルタチオンまたはその誘導体が提供される間隔は特に限定されず、提供されるグルタチオンまたはその誘導体の濃度、投与対象となる藻類、及びグルタチオンまたはその誘導体が提供される時期等に応じて決定すればよい。

0047

このように、本発明は、グルタチオンまたはその誘導体の非存在下における培養密度の最大値よりも高い培養密度まで藻類をグルタチオンまたはその誘導体の存在下で培養する工程を包含する、藻類の培養密度を向上させるための方法を提供する。すなわち、本発明は、藻類の培養密度を向上させるためのグルタチオンまたはその誘導体または上記組成物の使用を提供するといえる。

0048

〔3.本発明に係るバイオマスの製造方法〕
本発明は、バイオマスの製造方法を提供する。本発明に係るバイオマスの製造方法は(以下、「本発明の製造方法」と称する。)、本発明の組成物を含む培養液中で培養された藻類(本発明の組成物が適用された藻類)を用いてバイオマスを製造する方法である。

0049

本明細書において、上記「バイオマス」とは、光合成による炭素固定によって産生される物質を含む藻類による生産物、例えば、糖類(例えば、デンプン)、油脂、色素(例えば、カロテノイド)等を意図し、「藻類バイオマス」とも言い換えられる。

0050

本発明の製造方法では、藻類の細胞内において藻類バイオマスの生産または蓄積を誘導する手法は、特に限定されない。例えば、本発明の製造方法では、藻類の細胞内における藻類バイオマスの生産または蓄積を誘導するために上記藻類に対して光を照射する、光照射工程を含んでいてもよい。

0051

通常、藻類の細胞内への藻類バイオマスの蓄積を誘導するためには、窒素飢餓条件下にすることが必要であり、かつ、藻類バイオマスの著しい蓄積を促すためには200μE/m2/秒以上の光量の光を照射することが必要である。本発明の製造方法では、特に光量を調節せずとも藻類バイオマスの蓄積を誘導することが可能であるが、好ましくは藻類に対して、1000μE/m2/秒以下、より好ましくは500μE/m2/秒以下、さらに好ましくは400μE/m2/秒以下、300μE/m2/秒以下、200μE/m2/秒以下、150μE/m2/秒以下、100μE/m2/秒以下、80μE/m2/秒以下の光量の光を照射することが好ましい。本発明に係る藻類は、未処理の藻類に比べて少ない光量でも、細胞内にて藻類バイオマスを産生させることができる点で優れる。なお、照射する光量の下限は特に限定されないが、例えば、40μE/m2/秒以上が現実的に設定できる。

0052

上述した範囲の光を照射するための光照射装置として、特別な光照射装置を必要としない。例えば、太陽光;太陽光を鏡、光ファイバーフィルターメッシュ等で質的および量的に調節を加えた光;白熱灯蛍光灯水銀ランプ発光ダイオード等の人工光を用いることができる。また、照射する光は、一般的な藻類の光合成に好適な波長域の光を用いることができ、例えば、400nm〜700nmであることが好ましい。

0053

上記光照射工程は、窒素飢餓条件下において行ってもよい。上記「窒素飢餓条件」とは、無機態窒素含有量窒素原子換算で0.001重量%より少ない培養液中で培養することをいう。特に限定されないが、光照射工程を窒素飢餓条件下において行う場合は、窒素を含有していない培養液として、例えば、標準のTAP培地から窒素源を除いたTAP N−free培地を好適に用いることができる。一実施形態において、本発明の組成物が適用された藻類を、窒素飢餓条件下(TAP N−free培地中)で培養することによって、細胞内へのデンプンの蓄積を誘導することができる。

0054

また、光照射工程は、独立栄養条件下において行ってもよい。ここで、上記「独立栄養条件」とは、二酸化炭素以外に炭素源を供給しないで培養する条件をいう。具体的には、例えば、本発明の組成物が適用された藻類を、HSM培養液中で、大気を送気しつつ光照射する方法によって培養することによって、光照射工程を独立栄養条件下において行うことができる。なお、二酸化炭素の供給源としては、大気に限定されず、火力発電所製鉄所等の煙道中に含まれる二酸化炭素を活用して、大気より高い濃度で二酸化炭素を培地へ送り込み、生産性を高めることも可能である。

0055

独立栄養条件下では、培養容器の底部付近から、二酸化炭素または二酸化炭素を含む気体を送る(通気する)。二酸化炭素の水中での拡散速度は、大気中と比べて極度に遅い。それゆえ、培地を攪拌することが望ましい。培地を攪拌することによって、藻類に対して光をムラ無く照射することも可能となる。二酸化炭素は水中で陰イオンとなるため、培地の緩衝能が弱いと、通気により培地が酸性側に傾き、二酸化炭素の溶解度が低下し、光合成に利用されにくくなる。それゆえ、培地にはpHが中性付近またはアルカリ性側に保たれる緩衝能があることが好ましい。かかる培地としては、従来公知のHSM培地等が好ましく例示される。

0056

一実施形態において、本発明の製造方法は、本発明の方法が適用されて得られた藻類(本発明の藻類)が用いられ、この場合、本実施形態の製造方法は、グルタチオンまたはその誘導体の非存在下における培養密度の最大値よりも高い培養密度まで藻類を本発明の組成物の存在下で培養する工程を包含し、グルタチオンまたはその誘導体の非存在下における培養密度の最大値よりも高い培養密度まで培養された藻類を回収する工程および回収した藻類から藻類バイオマスを回収する工程をさらに包含することが好ましい。なお、本発明の藻類については、「2.本発明に係る方法」の項で説明したので、ここでは省略する。

0057

本発明の製造方法は、本発明の組成物が適用された藻類または本発明の藻類を用いてバイオマスの製造を行うので、藻類バイオマスの蓄積の誘導および藻類バイオマスの回収の両方を、従来技術と比較して、容易に、効率よく行うことができる。それゆえ、本発明の製造方法によれば、従来よりも安価にて、バイオマスを藻類から効率よく製造することできる。

0058

このように、本発明は、グルタチオンもしくはその誘導体または上記組成物を含む培養液中で培養された藻類を用いる、バイオマスの製造方法を提供する。すなわち、本発明は、このような製造方法を実行するための、グルタチオンもしくはその誘導体または上記組成物と、バイオマスの製造に用いる藻類とを備えた、バイオマスを製造するためのキットを提供するといえる。また、本発明は、バイオマスを製造するためのグルタチオンもしくはその誘導体または上記組成物あるいは上記キットの使用を提供するといえる。

0059

以下実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されず、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されず、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。

0060

以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されない。

0061

〔実施例1〕
クラミドモナス・ラインハルディCC503株(クラミドモナスセンター、米国、デューク大学より分譲を受けた)を、pH7のトリス−酢酸−リン酸培地(TAP培地;NH4Cl(400mg/L)、KH2PO4(56mg/L)、K2HPO4(108mg/L)、MgSO4・7H2O(100mg/L)、CaCl2・2H2O(50mg/L)、ZnSO4・7H2O(22mg/L)、H3BO3(11.4mg/L)、MnCl2・4H2O(5.1mg/L)、CoCl2・6H2O(1.6mg/L)、CuSO4・5H2O(1.6mg/L)、(NH4)6Mo7O24・4H2O(1.1mg/L)、FeSO4・7H2O(5mg/L)、Na2−EDTA(2H2O)(50mg/L)、Tris(2420mg/L)、KOH(16mg/L); Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 54, 1665-1669参照)を用いて、24℃、17μE/m2/秒の条件下で5日間培養した。この培養物15mLより集めた細胞を、0mM、1mM、5mMまたは10mM還元型グルタチオン(GSH)を含むTAP培地60mLに再懸濁した。この懸濁液を、24℃、100μE/m2/秒の条件下で6〜14日間培養し、時間経過に伴う細胞(粒子密度の変化を測定した。

0062

試料の状態(細胞数(細胞密度))を詳細に解析するために、フローサイトメトリーを使用した。具体的には、各試料に488nmの励起光を照射し、600nm付近蛍光強度を測定した。かかる600nm付近の蛍光は、クロロフィルの蛍光に相当する。細胞の密度を測定するための内部標準として、ベックマンコールター製の蛍光性微粒子商品名:Flow count)を共存させ、488nmの励起光により発する525nm〜700nmの蛍光を、クロロフィルの上記蛍光と同時に測定した。結果を図1に示す。

0063

示されるように、1mM GSHの存在下において、培養初期増殖速度が向上していることがわかった。また、1mM GSHの存在下で14日間培養することによって、細胞密度が未処理区(0mM GSH)よりも約30%向上することがわかった。さらに、5mM GSHの存在下では、培養初期の立ち上がり遅れるものの、14日間培養することによって細胞密度が約30%向上することがわかった。また、5mM GSHの存在下での立ち上がりは、未処理区の細胞密度が最大値に達するまで抑えられており、その後の増殖速度は、1mM GSHの存在下での対数増殖期の増殖速度よりも向上していた。なお、10mM GSHの存在下では、培養期間にわたって増殖がほとんど見られなかった(結果は示さず)。

0064

〔実施例2〕
CC503株を、pH7のTAP培地を用いて、24℃、17μE/m2/秒の条件下で4日間培養した。この培養物45mLより集めた細胞を、0mM、1mM、5mMまたは10mM GSHを含むTAP培地60mLに再懸濁した。この懸濁液を、24℃、100μE/m2/秒の条件下で6〜14日間培養し、時間経過に伴う細胞(粒子)密度の変化を測定した。結果を図2に示す。

0065

示されるように、1mM GSHの存在下において、培養初期の増殖速度が向上していることがわかった。また、1mM GSHの存在下で6日間培養することによって、細胞密度が未処理区(0mM GSH)よりも約25%向上することがわかった。さらに、5mM GSHの存在下では、培養初期に細胞密度が低下するものの、6日間培養することによって細胞密度が未処理区(0mM GSH)よりも向上していた。また、5mM GSHの存在下での細胞密度の上昇は、未処理区の細胞密度が最大値に達するまで抑えられており、その後の増殖速度は、1mM GSHの存在下での対数増殖期の増殖速度よりも向上していた。なお、10mM GSHの存在下では、培養期間にわたって増殖がほとんど見られなかった(結果は示さず)。

0066

このように、本発明の組成物で藻類を処理した場合、未処理の藻類の培養密度の最大値よりも高い培養密度まで培養することができる。また、本発明の組成物は、藻類の対数増殖期の増殖速度を向上させることができる。すなわち、本発明の組成物を用いれば、藻類の培養密度および増殖のタイミングを適宜調整することができる。

0067

〔実施例3〕
次に、緑藻であるHaematococcus(ヘマトコッカス)に対する、グルタチオン添加効果を確認した。ヘマトコッカスはアスタキサンチン等のカロテノイドを細胞内に蓄積することが知られている。

0068

国立環境研究所より分譲を受けたHaematococcus NIES-144株を、細胞密度が2.18×105細胞/mLとなるまで培養した(前培養)。これを、最終濃度250μMのGSHを含む2×ダイゴIM液体培地に、細胞密度が0.91×104細胞/mLとなるように接種した。対照実験として、同様に前培養した細胞を、GSHを含まない2×ダイゴIMK液体培地に接種した。2×ダイゴIMK液体培地は、海産微細藻類培養用として日本製薬(株)によって製造され、和光純薬工業(株)よって販売されている粉末状の培地成分の混合物を、推奨される標準的な濃度の2倍となるように精製水に溶解し、孔径が0.4μm以下であるフィルターを用いてろ過滅菌したものである。培養は、22℃において、日周期明期/暗期を12時間ずつ、明期の光量が20μE/m2/s)を与える条件で行った。培養物は、細胞の沈降を防ぐ目的で毎日15分間だけ振とうした以外は、静置した。

0069

培養開始から55日後に、培養物1mLから細胞を遠心分離によって回収し、50μLとなるように細胞を再懸濁し、細胞の密度および粒径を測定した。この測定には、バイオラッド社製セルカウンターTC−20を使用した。また、同じ培養物を顕微鏡下での観察に供した。

0070

細胞の粒径のヒストグラムを使用して、細胞が真球であるとの仮定の下に総細胞体積を算出した。結果を表1に示す。培養液当たりの総細胞体積は、GSH無添加条件対照区)が742.6(μm3/mL)であったのに対して、GSHを添加した場合には2184.93(μm3/mL)となっていた。このように、GSH添加によって総細胞体積が上昇し、細胞密度が上昇していることがわかった。

0071

0072

また、培養物を顕微鏡下にて観察したところ、細胞内に赤色色素(アスタキサンチン)が蓄積していることがわかった(図3)。図中の格子の間隔は50μmである。また、顕微鏡画像を取得し、画像解析ソフト(Image J)を用いて、赤みの定量を行った。画像のRGBの各チャンネルスプリットし、REDチャンネルからグレースケール画像を得た。画像の白黒反転させた後、細胞の画像面積内のグレー値の平均を算出し、同時に細胞の画像面積の算出を行った。得られたREDチャンネルの値に細胞の画像面積を乗じ、アスタキサンチンの生産量を見積もった。数値が大きいほど細胞の赤みが濃いことをあらわす。250μM/mLのGSH添加によってアスタキサンチンの生産量が上昇していることが分かった(表2)。

0073

0074

〔実施例4〕
上述した以外の藻類であってもグルタチオンの添加によってバイオマスの生産性が向上することを確認した。具体的には、クラミドモナス以外の藻類として、Scenedesmus(セネデスムス)を用いた。

0075

セネデスムスNIES−2272株(国立環境研究所より分譲)を、公知のTAP液体培地へ播種し、10μE/m2/秒の連続光下で振とう培養し、定常期に達した段階で細胞を遠心分離法により回収した(前培養)。次いで、この回収した細胞を、最終濃度が500μM、100μM、1μMとなるように還元型グルタチオン(GSH)を添加した、公知のYPD液体培地へ、細胞密度が4.0×104細胞/mLになるように再懸濁し、マグネティックスターラー撹拌しながら暗所にて培養した。培養温度を30℃とした。

0076

コントロールとして、GSHを添加していないYPD液体培地を用いて同様に培養した。培養開始72時間後の培養液の一部から細胞を回収し、デンプンの定量試験に供した。試料の状態(細胞数(細胞密度))を詳細に解析するために、フローサイトメトリーを実施した。具体的には、それぞれの試料に488nmの励起光を照射し、600nm付近の蛍光強度を測定した。かかる600nm付近の蛍光は、クロロフィルの蛍光に相当する。細胞の密度を測定するための内部標準として、ベックマン・コールター製の蛍光性微粒子(商品名:Flow count)を共存させ、488nmの励起光により発する525nm〜700nmの蛍光を、クロロフィルの蛍光と同時に測定した。回収したデンプン粒に対してアミログルカナーゼ処理を行い、さらにグルコーステストワコー(和光純薬工業社製)を使用して培養液あたりのデンプンの定量を行った。結果を図4に示す。

0077

図4の(a)は、セネデスムスを暗所で72時間培養したときの細胞数(細胞密度)を示し、図4の(b)は、セネデスムスを暗所で72時間培養したときの培養液あたりのデンプン生産量を示す。培養開始から72時間後において、グルタチオン施用区(500μM GSH、100μM GSH、1μM GSH)でのセネデスムスの細胞数(細胞密度)が、対照区(control)を比較して向上していることがわかった(図4の(a))。また、培養液あたりのデンプン生産量も、対照区(control)に比べて向上していることがわかった(図4の(b))。

実施例

0078

なお、本実施例では、セネデスムスを暗黒条件下で培養しており、これは従属栄養条件(有機物栄養源としかつ光を照射しない条件下での培養)での培養である。すなわち、本発明によるバイオマス生産性の向上には、光合成を必ずしも必要としないことが明らかとなった。

0079

本発明によれば、従来よりも安価に、バイオマスを藻類から効率よく製造することができる。バイオマスは、バイオ燃料の原料として利用が期待されている。このため、本発明は、エネルギー産業等の広範な産業において利用可能性がある。

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