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技術 界面活性ペプチドから短時間で形成する巨大ナノディスク

出願人 国立研究開発法人産業技術総合研究所
発明者 井村知弘茂里康遠藤明平敏彰
出願日 2015年8月20日 (4年7ヶ月経過) 出願番号 2015-163190
公開日 2017年2月23日 (3年1ヶ月経過) 公開番号 2017-039673
状態 特許登録済
技術分野 ペプチド又は蛋白質 食品の着色及び栄養改善 洗浄性組成物 ナノ構造物 医薬品製剤 マイクロカプセルの製造
主要キーワード 極小ピーク 補強処理 ナノディスク 脱樹脂 ヘリカルホイール 二分子膜構造 リン脂質二分子膜 リポソーム水溶液
関連する未来課題
重要な関連分野

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図面 (9)

課題

界面活性剤を使用することなく、ナノディスク簡便かつ短時間で調製することを可能にする界面活性ペプチド、および、当該ペプチドを活用することによって、より大きなサイズのナノディスクを提供する。

解決手段

以下に示す配列(1)〜(4)のいずれかからなるペプチド。(1)V-L-E-S-F-K-V-S-F-L-S-A-L-E-E-Y-T-K-K-L-N(2)V-L-E-S-F-K-A-S-F-L-S-A-L-E-E-W-T-K-K-L-N(3)V-L-E-S-F-K-A-S-C-L-S-A-L-E-E-W-T-K-K-L-N(4)F-I-G-A-L-L-G-P-L-L-N-L-L-K。これらのペプチドの界面活性を利用し、これらのペプチドのミセル会合体リン脂質を混合することで、混合直後から直ちに、短時間で簡便に、大きなサイズのナノディスクを製造することができる。

概要

背景

ナノディスクとは、血中の高密度リポプロテイン(HDL)粒子人工的に再構成したディスク状の形態を持つナノ粒子であり、通常はHDLの主要タンパク質であるアポリポプロテインA−I(ApoA-I)とリン脂質から構成される。
生体内におけるHDL粒子は、脂質輸送、特にコレステロールの逆輸送(RCT)において重要な役割を担っており、肝臓組織からコレステロールを除去するように機能し、多くの細胞の構造及び機能を維持することに寄与する。実際に、HDL粒子の血清レベルが高いと、冠動脈心疾患を抑制するだけでなく、アテローム性動脈硬化症プラーク退縮を促すとされている。このような生体内における作用を有することから、HDL粒子に結合したコレステロールは一般に「善玉コレステロール」と呼ばれている。これに対して、低密度リポプロテイン(LDL)粒子の血清レベルの上昇は、心血管リスクの増加と相関しており、LDL粒子に結合したコレステロールは「悪玉コレステロール」と呼ばれている。
したがって、血中のHDLを模倣したナノディスクは、高脂血症高コレステロール血症、冠動脈心疾患、アテローム性動脈硬化などの心血管疾患を含む、脂質代謝異常障害に対して有効であり、これらを治療または予防する医薬品として注目されている(特許文献1)。

血中のリポプロテインは、脂質とこれに結合するアポリポプロテインから構成される。リポプロテインを構成するアポリポプロテインとしては、上述のApoA-I以外にも、ApoA-II、ApoA-IV、ApoA-V、ApoB、ApoC-I、ApoC-II、ApoC-III、ApoAD、ApoE、ApoJ、ApoHを含む少なくとも10種類以上のものが知られており、血中に投与することで脂質異常症に対して有効な治療薬を供するため、こうしたアポリポプロテインを組み換えDNA技術により動物細胞中で効率的に産生する技術が報告されている(特許文献2)。

血中のHDL粒子を模倣したナノディスクは、上述したアポリポプロテインのうち、主にApoA-Iを用いて調製されている。その構造については、生体膜と同様にリン脂質から構成される脂質二分子膜を、ApoA-Iがベルトのように取り囲むモデル提唱されている。脂質二分子膜構造の水中で不安定な上層下層疎水性エッジ(端)部分を、ApoA-Iがそれぞれ取り囲むことにより安定化し、生体膜と類似の内部環境を有する微細なディスク状の粒子が形成される(図1)。
このようなナノディスクの調製には、“界面活性剤透析法”が一般的に用いられている(特許文献3、非特許文献1)。この方法では、予め調製しておいたリポソーム状リン脂質二分子膜コール酸ナトリウムのような界面活性剤が形成するミセル可溶化して微細化した後に、ApoA-Iを混合し、透析操作により徐々に界面活性剤を取り除くことによって、ナノディスクが形成される。

最近では、このようなユニークな形状を持つナノ粒子であるナノディスクを、薬物送達システム(DDS:Drug Delivery System)のキャリアとして利用することも試みられており、この目的で、ナノディスクの内部にクルクミンなどのポリフェノール類を可溶化し、安定化したことが報告されている(非特許文献2)。こうした難溶性物質の可溶化は、医薬品などの分野に限らず、化粧品食品塗料などの分野においても有用であり、ナノディスクを簡便かつ短時間で量産する技術が構築できれば、更に幅広い分野での応用が期待できる。

また、ナノディスクには、本来のその生理学的役割を超える用途も見出されている。例えば、ナノディスクの脂質二分子膜構造の内部に膜タンパク質を内包・可溶化させることで、各種膜タンパク質の機能解析に多大な貢献をしており、実際に、再構成したナノディスクの内部に、バクテリオロドプシン(非特許文献3)やシトクロムP450(非特許文献4)などを内包させた事例が報告されている。
このような目的で膜タンパク質を可溶化させるためには、通常、界面活性剤が汎用されているが、界面活性剤の添加は膜タンパク質にダメージを与えることが多く、また、界面活性剤が形成するミセルに取り込まれ、可溶化された膜タンパク質は、生体膜中に存在する本来の状態とは大きく異なる。これに対し、ナノディスク中に内包された膜タンパク質は、ナノディスクを構成するリン脂質の二分子膜構造中に、通常の生体膜を構成するリン脂質膜における状態と類似する状態で存在し得るため、生体内における存在状態と類似する状態で機能解析を行うことができる。

このようにナノディスクは、膜タンパク質の解析ツールとして非常に有用であるものの、既存のナノディスクは上述のとおり“界面活性剤透析法”により調製されるため、調製にあたってコール酸ナトリウムのような界面活性剤の添加が必要であり(特許文献3、非特許文献1)、当該界面活性剤が膜タンパク質に悪影響を与えるおそれがある。
すなわち、ナノディスクに膜タンパク質を取り込むには、ナノディスクを形成する際に取り込む方法と、ナノディスクを形成させた後に取り込む方法の2とおりがあり、前者の方法のほうが取り込みの効率がよいが、ナノディスクを形成する際に膜タンパク質を取り込む方法では、ナノディスクの形成に使用される界面活性剤により膜タンパク質にダメージを与えることが懸念される。
また、ナノディスクを形成させた後に取り込む方法では、ナノディスクの形成に用いた界面活性剤は予め透析により除去するが、これにより界面活性剤を完全に除去することは容易ではなく、残存する界面活性剤が膜タンパク質にダメージを与えるおそれがある。また透析プロセスは、多大な時間とエネルギーを要するため、ナノディスクの量産には不向きである。従って、界面活性剤透析法に代わり、簡便かつ短時間でナノディスクを調製する方法が必要となっている。

また、既存のナノディスクは、上述のとおり、天然のHDL粒子と同様に、各種アポリポプロテインがリン脂質二分子膜を取り囲むように配置することで、安定化して形成されるため、その粒子径はアポリポプロテインの長さにより制限され、HDL粒子の8nmから12nm程度の粒子径(非特許文献5)と同程度のものしか得られない。したがって、膜タンパク質の多量体や、比較的大きなサイズの膜タンパク質を封入することができないといった課題がある。

一方、ヒト由来のApoA-Iは、10個の相同性の高いαへリックスがつながった243残基のタンパク質であるが、近年、アポリポプロテイン自体ではなく、このアポリポプロテインを構成するαへリックス構造を有するペプチドを模倣した各種ペプチドを、脂質異常症の治療薬とする試みが報告されている(特許文献4)。
本発明者らは、先に、ヒト由来のApoA-Iを構成するαへリックスが、へリックス構造の一方に親水性アミノ酸残基が、また他方に疎水性アミノ酸残基偏在することにより、両親媒性を示すことに着目し、ApoA-Iに替えて当該αへリックスペプチドを用いることにより、界面活性剤を使用することなく、ナノディスクを作成することに成功した(非特許文献6)。しかしながら、この方法では、ナノディスクの調製に30分の撹拌と24時間のインキュベーションという比較的長時間を要し、また、得られたナノディスクの粒子径は、やはり8nmから12nmの範囲のものであった。

概要

界面活性剤を使用することなく、ナノディスクを簡便かつ短時間で調製することを可能にする界面活性ペプチド、および、当該ペプチドを活用することによって、より大きなサイズのナノディスクを提供する。以下に示す配列(1)〜(4)のいずれかからなるペプチド。(1)V-L-E-S-F-K-V-S-F-L-S-A-L-E-E-Y-T-K-K-L-N(2)V-L-E-S-F-K-A-S-F-L-S-A-L-E-E-W-T-K-K-L-N(3)V-L-E-S-F-K-A-S-C-L-S-A-L-E-E-W-T-K-K-L-N(4)F-I-G-A-L-L-G-P-L-L-N-L-L-K。これらのペプチドの界面活性を利用し、これらのペプチドのミセル様会合体とリン脂質を混合することで、混合直後から直ちに、短時間で簡便に、大きなサイズのナノディスクを製造することができる。

目的

本発明は、界面活性剤を使用することなく、ナノディスクを簡便かつ短時間で調製することを可能にする界面活性ペプチドを提供する

効果

実績

技術文献被引用数
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牽制数
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請求項1

以下に示す、ApoA-Iの221〜241残基のアミノ酸配列、V-L-E-S-F-K-V-S-F-L-S-A-L-E-E-Y-T-K-K-L-N(1)からなるペプチド

請求項2

以下に示す配列、V-L-E-S-F-K-A-S-F-L-S-A-L-E-E-W-T-K-K-L-N(2)からなる、ApoA-Iの221〜241残基のアミノ酸配列において2残基改変(V227→A227、Y236→W236)したペプチド。

請求項3

以下に示す配列、V-L-E-S-F-K-A-S-C-L-S-A-L-E-E-W-T-K-K-L-N(3)からなる、ApoA-Iの221〜241残基のアミノ酸配列において3残基が改変(V227→A227、F229→C229、Y236→W236)したペプチド。

請求項4

請求項3に記載のペプチドのシステイン(C)の側鎖がアルキル化されている、界面活性を有するペプチド。

請求項5

ネッタイツメガエルの皮膚に分泌する以下のアミノ酸配列、F-I-G-A-L-L-G-P-L-L-N-L-L-K(Pxt-5) (4)からなるペプチド。

請求項6

請求項1〜5のいずれか一項に記載のペプチドからなる、界面活性剤

請求項7

水の表面張力を、25℃において少なくとも50mN/m以下まで低下させることができる、請求項6に記載のペプチドからなる界面活性剤。

請求項8

水の表面張力低下能を示し、水中でミセル会合体を形成することを特徴とする請求項6または7に記載のペプチドからなる界面活性剤。

請求項9

請求項6〜8のいずれか一項に記載のペプチドからなる界面活性剤のミセル様会合体とリン脂質を混合することで、混合直後から直ちに、短時間で簡便に得られることを特徴とする、ナノディスクの製造方法。

請求項10

請求項9に記載の方法により得られる、ナノディスク。

請求項11

径8nm〜30nmの範囲であり、通常のナノディスクより大きいことを特徴とする、請求項10に記載のナノディスク。

請求項12

種膜タンパク質や各種疎水性の有効成分を内部に含むことを特徴とする、請求項10または請求項11に記載のナノディスク。

請求項13

請求項10〜12のいずれか一項に記載のナノディスクを含むことを特徴とする、化粧品食品医薬品またはタンパク質解析キット

技術分野

0001

本発明は、表面張力低下能を有し、ミセル会合体を形成することができる界面活性ペプチドに関し、また、それを用いて調製されるナノディスクに関する。

背景技術

0002

ナノディスクとは、血中の高密度リポプロテイン(HDL)粒子人工的に再構成したディスク状の形態を持つナノ粒子であり、通常はHDLの主要タンパク質であるアポリポプロテインA−I(ApoA-I)とリン脂質から構成される。
生体内におけるHDL粒子は、脂質輸送、特にコレステロールの逆輸送(RCT)において重要な役割を担っており、肝臓組織からコレステロールを除去するように機能し、多くの細胞の構造及び機能を維持することに寄与する。実際に、HDL粒子の血清レベルが高いと、冠動脈心疾患を抑制するだけでなく、アテローム性動脈硬化症プラーク退縮を促すとされている。このような生体内における作用を有することから、HDL粒子に結合したコレステロールは一般に「善玉コレステロール」と呼ばれている。これに対して、低密度リポプロテイン(LDL)粒子の血清レベルの上昇は、心血管リスクの増加と相関しており、LDL粒子に結合したコレステロールは「悪玉コレステロール」と呼ばれている。
したがって、血中のHDLを模倣したナノディスクは、高脂血症高コレステロール血症、冠動脈心疾患、アテローム性動脈硬化などの心血管疾患を含む、脂質代謝異常障害に対して有効であり、これらを治療または予防する医薬品として注目されている(特許文献1)。

0003

血中のリポプロテインは、脂質とこれに結合するアポリポプロテインから構成される。リポプロテインを構成するアポリポプロテインとしては、上述のApoA-I以外にも、ApoA-II、ApoA-IV、ApoA-V、ApoB、ApoC-I、ApoC-II、ApoC-III、ApoAD、ApoE、ApoJ、ApoHを含む少なくとも10種類以上のものが知られており、血中に投与することで脂質異常症に対して有効な治療薬を供するため、こうしたアポリポプロテインを組み換えDNA技術により動物細胞中で効率的に産生する技術が報告されている(特許文献2)。

0004

血中のHDL粒子を模倣したナノディスクは、上述したアポリポプロテインのうち、主にApoA-Iを用いて調製されている。その構造については、生体膜と同様にリン脂質から構成される脂質二分子膜を、ApoA-Iがベルトのように取り囲むモデル提唱されている。脂質二分子膜構造の水中で不安定な上層下層疎水性エッジ(端)部分を、ApoA-Iがそれぞれ取り囲むことにより安定化し、生体膜と類似の内部環境を有する微細なディスク状の粒子が形成される(図1)。
このようなナノディスクの調製には、“界面活性剤透析法”が一般的に用いられている(特許文献3、非特許文献1)。この方法では、予め調製しておいたリポソーム状リン脂質二分子膜コール酸ナトリウムのような界面活性剤が形成するミセルに可溶化して微細化した後に、ApoA-Iを混合し、透析操作により徐々に界面活性剤を取り除くことによって、ナノディスクが形成される。

0005

最近では、このようなユニークな形状を持つナノ粒子であるナノディスクを、薬物送達システム(DDS:Drug Delivery System)のキャリアとして利用することも試みられており、この目的で、ナノディスクの内部にクルクミンなどのポリフェノール類を可溶化し、安定化したことが報告されている(非特許文献2)。こうした難溶性物質の可溶化は、医薬品などの分野に限らず、化粧品食品塗料などの分野においても有用であり、ナノディスクを簡便かつ短時間で量産する技術が構築できれば、更に幅広い分野での応用が期待できる。

0006

また、ナノディスクには、本来のその生理学的役割を超える用途も見出されている。例えば、ナノディスクの脂質二分子膜構造の内部に膜タンパク質を内包・可溶化させることで、各種膜タンパク質の機能解析に多大な貢献をしており、実際に、再構成したナノディスクの内部に、バクテリオロドプシン(非特許文献3)やシトクロムP450(非特許文献4)などを内包させた事例が報告されている。
このような目的で膜タンパク質を可溶化させるためには、通常、界面活性剤が汎用されているが、界面活性剤の添加は膜タンパク質にダメージを与えることが多く、また、界面活性剤が形成するミセルに取り込まれ、可溶化された膜タンパク質は、生体膜中に存在する本来の状態とは大きく異なる。これに対し、ナノディスク中に内包された膜タンパク質は、ナノディスクを構成するリン脂質の二分子膜構造中に、通常の生体膜を構成するリン脂質膜における状態と類似する状態で存在し得るため、生体内における存在状態と類似する状態で機能解析を行うことができる。

0007

このようにナノディスクは、膜タンパク質の解析ツールとして非常に有用であるものの、既存のナノディスクは上述のとおり“界面活性剤透析法”により調製されるため、調製にあたってコール酸ナトリウムのような界面活性剤の添加が必要であり(特許文献3、非特許文献1)、当該界面活性剤が膜タンパク質に悪影響を与えるおそれがある。
すなわち、ナノディスクに膜タンパク質を取り込むには、ナノディスクを形成する際に取り込む方法と、ナノディスクを形成させた後に取り込む方法の2とおりがあり、前者の方法のほうが取り込みの効率がよいが、ナノディスクを形成する際に膜タンパク質を取り込む方法では、ナノディスクの形成に使用される界面活性剤により膜タンパク質にダメージを与えることが懸念される。
また、ナノディスクを形成させた後に取り込む方法では、ナノディスクの形成に用いた界面活性剤は予め透析により除去するが、これにより界面活性剤を完全に除去することは容易ではなく、残存する界面活性剤が膜タンパク質にダメージを与えるおそれがある。また透析プロセスは、多大な時間とエネルギーを要するため、ナノディスクの量産には不向きである。従って、界面活性剤透析法に代わり、簡便かつ短時間でナノディスクを調製する方法が必要となっている。

0008

また、既存のナノディスクは、上述のとおり、天然のHDL粒子と同様に、各種アポリポプロテインがリン脂質二分子膜を取り囲むように配置することで、安定化して形成されるため、その粒子径はアポリポプロテインの長さにより制限され、HDL粒子の8nmから12nm程度の粒子径(非特許文献5)と同程度のものしか得られない。したがって、膜タンパク質の多量体や、比較的大きなサイズの膜タンパク質を封入することができないといった課題がある。

0009

一方、ヒト由来のApoA-Iは、10個の相同性の高いαへリックスがつながった243残基のタンパク質であるが、近年、アポリポプロテイン自体ではなく、このアポリポプロテインを構成するαへリックス構造を有するペプチドを模倣した各種ペプチドを、脂質異常症の治療薬とする試みが報告されている(特許文献4)。
本発明者らは、先に、ヒト由来のApoA-Iを構成するαへリックスが、へリックス構造の一方に親水性アミノ酸残基が、また他方に疎水性アミノ酸残基偏在することにより、両親媒性を示すことに着目し、ApoA-Iに替えて当該αへリックスペプチドを用いることにより、界面活性剤を使用することなく、ナノディスクを作成することに成功した(非特許文献6)。しかしながら、この方法では、ナノディスクの調製に30分の撹拌と24時間のインキュベーションという比較的長時間を要し、また、得られたナノディスクの粒子径は、やはり8nmから12nmの範囲のものであった。

0010

特開2012−121928号公報
特開平6−315392号公報
特開2010−138177号公報
特表2010−530433号公報

先行技術

0011

Denisov, I.G.; Grinkova, Y.V.; Lazarides, A.A.; Sligar, S.G. J. AM. Chem. Soc. 126 (2004) 3477-3487
Ghosh, M.; Singh,A.T.K.; Xu, W.; Sulchek, T.; Gordon,L.I.; Ryan,R.O. Nanomedicine: Nanotechnology, Biology, and Medicine 7 (2011)162-167
Bayburt, T. H.; Grinkova, Y. V.; Sligar, S. G. Arch Biochem Biophys 450 (2006) 215-222
Baas, B. J.; Denisov, I. G.; Sligar, S. G. Arch Biochem Biophys 430 (2004) 218-228
Brouillette, C. G.; Anantharamaiah, G. M. Biochimica et Biophysica Acta 1256 (1995) 103-129
Imura, T.; Tsukui, Y.; Taira, T.;Aburai, K.; Sakai, K.; Sakai, H.; Abe, M.;Kitamoto, D. Langmuir 30 (2014) 4752-4759

発明が解決しようとする課題

0012

本発明は、界面活性剤を使用することなく、ナノディスクを簡便かつ短時間で調製することを可能にする界面活性ペプチドを提供すること、そして当該ペプチドを活用することによって、より大きなサイズのナノディスクを提供することを課題とする。

課題を解決するための手段

0013

前記課題を解決するため、本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、ApoA-Iの10番目のへリックス(220〜241残基)の配列から末端プロリン(P220)を除外したペプチド、さらにそれを2残基改変(V227→A227、Y236→W236)したペプチド、ならびに3残基改変(V227→A227、F229→C229、Y236→W236)したペプチド、及びこのシステイン(C)残基をアルキル化したペプチドが、強力な界面活性を発現し、通常の界面活性剤のように表面張力を低下させ、かつ水中でミセル様会合体を形成することができることを見出した(以後、これを界面活性ペプチドという)。システイン(C)残基のアルキル化は、炭素数1〜18のアルキル基で行うことが適切である。
本発明者らは、また、同様の性質を持つ界面活性ペプチドを広く探索したところ、本発明者らが先に見出したネッタイツメガエルの皮膚に分泌するペプチド(本発明者らによる特許出願(特願2014−54538))が、同様の強い界面活性を有することを見出した。本発明者らは、さらに、これらの界面活性ペプチドの界面活性やミセル様会合体形成能を活用することによって、界面活性剤を全く使用することなく、従来より簡便かつ短時間でナノディスクを調製することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明のナノディスクは、その粒子径がアポリポプロテインの長さに限定されないため、例えば界面活性ペプチドと脂質の濃度を調節することにより、粒子径を適宜制御することができ、界面活性ペプチドの濃度を相対的に小さくすることにより、大きなサイズのナノディスクを提供することができる。

0014

すなわち、本発明は以下のとおりである。
〈1〉以下に示す、ApoA-Iの221〜241残基のアミノ酸配列
V-L-E-S-F-K-V-S-F-L-S-A-L-E-E-Y-T-K-K-L-N (1)
からなるペプチド。
〈2〉以下に示す配列
V-L-E-S-F-K-A-S-F-L-S-A-L-E-E-W-T-K-K-L-N (2)
からなる、ApoA-Iの221〜241残基のアミノ酸配列において2残基改変(V227→A227、Y236→W236)したペプチド。
〈3〉以下に示す配列
V-L-E-S-F-K-A-S-C-L-S-A-L-E-E-W-T-K-K-L-N (3)
からなる、ApoA-Iの221〜241残基のアミノ酸配列において3残基が改変(V227→A227、F229→C229、Y236→W236)したペプチド。
〈4〉〈3〉に記載のペプチドのシステイン(C)の側鎖がアルキル化されている、界面活性を有するペプチド。
〈5〉ネッタイツメガエルの皮膚に分泌する以下のアミノ酸配列
F-I-G-A-L-L-G-P-L-L-N-L-L-K(Pxt-5) (4)
からなるペプチド。
〈6〉〈1〉〜〈5〉のいずれかに記載のペプチドからなる、界面活性剤。
〈7〉水の表面張力を、25℃において少なくとも50mN/m以下まで低下させることができる、〈6〉に記載のペプチドからなる界面活性剤。
〈8〉水の表面張力低下能を示し、水中でミセル様会合体を形成することを特徴とする〈6〉または〈7〉のいずれかに記載のペプチドからなる界面活性剤。
〈9〉〈6〉〜〈8〉のいずれかに記載のペプチドからなる界面活性剤のミセル様会合体とリン脂質を混合することで、混合直後から直ちに、短時間で簡便に得られることを特徴とする、ナノディスクの製造方法。
〈10〉〈9〉に記載の方法により得られる、ナノディスク。
〈11〉径8nm〜30nmの範囲であり、通常のナノディスクより大きいことを特徴とする、〈10〉に記載のナノディスク。
〈12〉各種膜タンパク質や各種疎水性の有効成分を内部に含むことを特徴とする、〈10〉または〈11〉に記載のナノディスク。
〈13〉〈10〉〜〈12〉のいずれかに記載のナノディスクを含むことを特徴とする、化粧品、食品、医薬品またはタンパク質解析キット

発明の効果

0015

界面活性剤は、通常は親水基疎水基を持ち、液体の表面に吸着して表面張力を低下させると同時に、表面が飽和吸着に達すると、水中でミセルと呼ばれる会合体を形成する。このミセルが各種化合物を取り囲み、水中で微細化及び可溶化させる。従来法では、この作用を利用して、リン脂質や各種タンパク質を可溶化した後に混合し、徐々に界面活性剤を透析により除去することによって、ナノディスクが調製されていた。
一方、本発明の、従来より強力な界面活性を示す、ApoA-Iの10番目のへリックスをベースとしてこれに修飾を加えた変異ペプチド、あるいはネッタイツメガエルの皮膚に分泌される界面活性ペプチドは、通常の界面活性剤のように親水基と疎水基を持たなくても、αへリックスの片方の面に親水性の側鎖を持つアミノ酸が、また、もう一方の面に疎水性の側鎖を持つアミノ酸が最適に局在することによって、親水面疎水面を構築する。これにより、液体の表面に吸着し、表面張力を低下させるとともに、水中でミセル様会合体を形成できる。本発明は、こうしたポリペプチドの界面活性を巧みに活用することにより、余計な添加物である界面活性剤を用いることなく、簡便かつ短時間でナノディスクを調製することを可能とした。
従来の界面活性剤透析法は、界面活性剤の透析プロセスに多大な時間とエネルギーを要していたため、ナノディスクの量産には不向きであり、その用途が制限されていた。本法は、本発明の界面活性ペプチドとリン脂質を混ぜるだけで、しかも混ぜた直後からナノディスクが形成するため、量産にも向いており、ナノディスクの医薬品以外の幅広い応用、例えば、化粧品、食品、塗料などの分散・可溶化剤としての利用を促進する。
本発明の界面活性ペプチドには、従来の各種アポリポプロテインやペプチドを適宜混合して使うこともできる。また、リン脂質も、諸条件を最適化することにより、フォスファチジルコリン(PC)、フォスファチジルエタノールアミン(PE)、フォスファチジルグリセロール(PG)、フォスファチジルセリン(PS)を親水基とし、鎖長がC12、C14、C16、C18の飽和及び不飽和のアシル基のいずれか一つ、又はこれらを混合して疎水基として2つ有するグリセリンエステル構造のものを用いることができ、また、これに類似した2鎖型両親媒性物質を用いても良い。
また、従来法では、透析により界面活性剤を完全に除去することは容易ではなく、その残存、ならびに過剰の界面活性剤の添加が内部に取り込みたい膜タンパク質にダメージを与えることが懸念されていたが、本発明では界面活性剤を使用しないため、そのような懸念は全くない。このため、本発明のナノディスクには、膜タンパク質をはじめ、各種タンパク質、ペプチド、ビタミン類、ポリフェノール類、脂質、油脂などを内包させることができる。
さらに、本発明の界面活性ペプチドを用いれば、アポリポプロテインの長さに制限されていた従来のナノディスクの粒子径(8nmから12nm)を適切に制御することができ、従来よりも大きなサイズのナノディスクを提供することが可能である。従って、ナノディスクのサイズが小さいため困難であった大きな膜タンパク質、例えば光合成細菌Rps.viridisの集光性複合体Iなどを自在に封入することも可能となる。
従来、こうした膜タンパク質は、様々な手法により、天然と同様に脂質二分子膜に組み込んだ状態で生産することも可能であったが、その大きさは通常ミクロンオーダーであり、これらの水溶液白濁し、そのままでは機能解析ができなかった。
本発明の界面活性ペプチドを用いれば、こうした脂質二分子膜に組み込んだ状態の膜タンパク質に界面活性ペプチドを混ぜるだけで、簡便かつ極めて短時間でナノディスク化することも可能となる。従って、本発明の界面活性ペプチド及びナノディスクは、最適な解析ツールが存在しないため、その機能解析や工業的利用が遅れている膜タンパク質の機能解析や実用に対して大きな貢献をするものである。

図面の簡単な説明

0016

従来のナノディスクの構造を示す模式図。
各種界面活性ペプチド;(a)Native21mer、(b)AW21mer、(c)ACW21merのアミノ酸配列のヘリカルホイールプロット
ネッタイツメガエルの皮膚に分泌される各種界面活性ペプチド;(a)Pxt-1、(b)Pxt-2、(c)Pxt-5のアミノ酸配列のヘリカルホイールプロット。
固相合成した各種界面活性ペプチド;(a)Native21mer、(b)AW21mer、(c)ACW21merのMALDI-TOFMSスペクトル
界面活性ペプチド(a)Native21mer、(b)AW21merの各種濃度の水溶液のCDスペクトル
界面活性ペプチド(a)Native21mer、(b)AW21merの各種濃度の水溶液の表面張力及び散乱光強度
界面活性ペプチド(a)Native21mer、(b)AW21merの各水溶液からナノディスクが形成される様子を観察した写真、及びAW21merから形成するナノディスクのTEM観察写真。
ネッタイツメガエルの皮膚に分泌される各種界面活性ペプチド;(a)Pxt-1、(b)Pxt-2、(c)Pxt-5の水溶液からナノディスクが形成される様子を観察した写真及びPxt-5から形成するナノディスクのTEM観察写真。

0017

以下に、本発明について実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。

0018

(実施例1)
界面活性ペプチドの合成と同定
本発明の界面活性ペプチドを、ペプチド固相合成装置(Biotage社製、SyroI)を用いてFmoc固相合成法により合成した。合成したApoA-Iをベースとした界面活性ペプチドのアミノ酸配列及びヘリカルホイールプロットを図2に示した。図2の(a)は、ApoA-Iの10番目のへリックス(220〜241残基)の配列から末端プロリン(P220)を除外した配列からなるペプチド、(b)は、当該ペプチドに2残基改変(V227→A227、Y236→W236)を加えたペプチド、(c)は、3残基改変(V227→A227、F229→C229、Y236→W236)を加えたペプチドのヘリカルホイールプロットである。図2より、いずれの界面活性ペプチドも、αへリックスの片方の面に、親水性のアミノ酸が、もう片方の面に疎水性のアミノ酸が局在した構造を有することが分かる。また、(b)および(c)のペプチドにおいては、(a)のペプチドと同様に、親水面と疎水面の境界における正電荷(塩基性)アミノ酸の存在(8位及び19位のリシン)、及び、親水面の中心部における負電荷(酸性)アミノ酸の局在(3位及び14位のグルタミン酸)という、ApoA-Iのαへリックスの特徴が保存されている。
ペプチドを伸長させる樹脂には、0.37mmol/gの反応密度のRink-Amide-MBHA-Rejin(ペプチド研究所社製)を使用した。また、樹脂の膨潤は、ジクロロメタン(DCM)中で樹脂をボルテックスで30秒間撹拌した後、1時間静置することにより行った。
使用したアミノ酸の側鎖の保護については、トリプトファン(W)及びリシン(K)については、tert-ブチルオキシカルボニル(Boc)基、アスパラギン(N)及びシステイン(C)については、トリチル(trt)基、アルギニン(R)については、2, 4, 6, 7-ペンタメチルジヒドロベンゾフラン-5-スルホニル(pdf)基、グルタミン酸については、tert-ブチルオキシ(OBut)基、セリン(S)及びスレオニン(T)については、tert-ブチル(tBu)基を用い、渡辺化学社製及びペプチド研究所社製のものを用いた。
膨潤した樹脂248mgを10mLのリアクターに測りとり、DMF溶媒とし、カップリング試薬としては、O-ベンゾトリアゾリル-N,N,N',N'-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスファート(HBTU)と1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)を使用した。塩基としては、エチルジイソプロピルアミド(DIPEA)を用い、4倍過剰量の上述したアミノ酸を添加し、それぞれのカップリングの反応時間は、40分で行った。なお、Fmoc基の脱保護は、40%ピペリジン-DMF溶液を用いた。
樹脂からの界面活性ペプチドの切り出しは、まず、乾燥させた樹脂を、密栓のできるリアクター(PD-10 Empty Columns /GEヘルスケアジャパン社製)に移し替えた。脱樹脂剤TFA(トリフルオロ酢酸):TIS(トリイソプロピルシラン):H2O(水)=92:4:4を、樹脂の浸漬量より少し多めに(約4mL)加え、中型振とう機(BR-23FP、タイテック社製)を用い、160rpmで約4時間撹拌した。その後、濾液を50mL遠沈管に回収し、そこに冷ジエチルエーテルを35mL加え、粗ペプチド析出させ、この遠沈管を遠心分離機にかけ(4℃、5500rpm、10分)、上澄みを除去した。
ジエチルエーテルによる洗浄再沈殿は、冷ジエチルエーテルを加え、ボルテックスミキサーで撹拌、遠心分離した後、上澄みを除去する操作を3回行い、ドラフト内でジエチルエーテルを除去した後、デシケーター内で一晩乾燥させることにより粗ペプチドを得た。
界面活性ペプチドの精製は、Prep逆相液体クロマトグラフィー(ポンプ:GLサイエンス社製のGL-7410、UV検出器:GLサイエンス社製のGL-7450)を用いて行った。カラムは、GLサイエンス社製のInertSustainTM C18(カラム長:14×250mm、粒子径:5μm)を使用した。移動相には、A液H2O(990mL)/アセトニトリル(10mL)/TFA(1mL)とB液H2O(100mL)/アセトニトリル(900mL)/TFA(0.7mL)のグラジエントを用いた。
上記により精製されたペプチドの収量は、Native21merは19.1mg、AW21merは16.4mg、ACW21merは5.0mgであった。なお、それぞれの純度が99%以上であることは、Analytical逆相液体クロマトグラフィー(ポンプ:東ソー社製のDP-8020、UV検出器:東ソー社製のUV-8020、カラム:東ソー社製のTSKgelODS-100V(カラム長:4.6×150mm、粒子径:5μm))を使用して確認した。
また、ネッタイツメガエル由来の界面活性ペプチドについても、Fmoc固相合成法(PSSM8、島津製作所社製)により、本発明者らによる特許出願(特願2014-54538)に記載した方法に準じて、合成及び精製した。そのアミノ酸配列及びヘリカルホイールプロットを図3に示した。
図3の(a)は、ネッタイツメガエル由来のPxt-1ペプチド、(b)は、同じくPxt-2ペプチド、(c)は、同じくPxt-5ペプチドのヘリカルホイールプロットである。
図3から、(c)のPxt-5ペプチドが特に、αへリックスの片方の面に親水性のアミノ酸が、もう片方の面に疎水性のアミノ酸が局在した構造を有することが分かる。なお、(c)のペプチドは、親水性のアミノ酸と疎水性のアミノ酸の局在を有するものの、その比率は、図2に示したApoA-Iのαへリックス由来のペプチドと異なり、親水性領域が小さく、また、親水面と疎水面の境界における正電荷(塩基性)アミノ酸の存在、及び、親水面の中心部における負電荷(酸性)アミノ酸の局在という、ApoA-Iのαへリックスの特徴を有していない。

0019

(実施例2)
MALDI-TOFMSによる界面活性ペプチドの同定
次に、マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析(MALDI-TOFMS)により実施例1で合成・精製したペプチドを同定した。質量分析計としては、ブルカー・ダルトニクス社製のautoflex speedを用いた。
マトリックスにはシナピン酸を用い、これを1.5mLマイクロチューブに2mg量し、実施例1の界面活性ペプチドの精製において用いたもの同組成のA液およびB液を500μLずつ加え、撹拌した後に遠心分離した。この溶液の上澄み1μLをサンプルプレートスポットし、そこに1mg/mlとなるように予め調整した各サンプル溶液を1μL滴下した後に、ピペッティング操作により混合した。サンプルプレートをドラフト内で十分に乾燥させた後、装置内にセットし質量を計測した。その結果を図4に示した。図4に示されるとおり、良好な感度で、それぞれの分子イオンピーク観測された。観測された分子イオンピークの分子量を計算値と併せて表1に示した。計算値と実測値が良く一致していることから、いずれも目的の界面活性ペプチドが合成されていることが同定された。

0020

0021

(実施例3)
各種界面活性ペプチドの二次構造形成
合成された界面活性ペプチドは、いずれも二次構造としてαへリックスを形成することが予想されるが、それを確認するため、円偏光分光光度(CDスペクトル)測定を実施した。装置としては、日本分光社製のJ-820を用いた。なお、各濃度の界面活性ペプチド水溶液は、約1mg/mlになるように、それぞれの界面活性ペプチドを超純水に溶解させた後、これを母液として希釈して調製した。これを、1mm幅石英セルに入れ、測定波長180nmから300nmまでスキャンした。なお、積算回数は20回とした。また、測定で得られた楕円率Θ[m deg]を、平均残基楕円率(Mean residue elipticity):MRE[deg cm2dmol-1]に変換した。
(a)Native21mer及び(b)AW21merのCDスペクトルの測定結果図5に示す。図5より明らかなように、いずれもαへリックスに由来する207nm及び222nm付近極小ピークが認められた。さらに、界面活性ペプチド濃度の減少に応じてピーク強度が減少したことから、ペプチド濃度に依存して、よりαへリックス構造が安定化することが分かった。以上の結果から、合成された界面活性ペプチドがαへリックスを形成することが確認された。

0022

(実施例4)
各種界面活性ペプチドの表面張力低下及び会合対形成
次に、αへリックス構造が確認された界面活性ペプチドの実際の界面活性及び会合体形成能を、表面張力測定及び散乱光強度測定により評価した。表面張力測定には、ペンダントドロップ法を用い、装置として協和界面科学社製のDrop Master DY500を使用した。なお、界面活性ペプチド水溶液の調製は、実施例3と同様である。この方法では、シリンジの先端に作成した液滴の形状解析から表面張力を算出するが、解析にはYoung-Laplaceの式を用いた。
また、分子の空気−液滴界面への平衡を考慮し、液滴作成後15分間、表面張力値経時変化を測定し、吸着平衡に達したと判断できる領域(表面張力値の経時変化が0.2mN/m未満となった領域)の平均値を使用した。
(a)Native21mer及び(b)AW21mer水溶液の表面張力とペプチド濃度との関係を図6に示す。図6より明らかなように、いずれも濃度の増加と共に、表面張力は低下し、界面が飽和吸着になるとやがて一定となった。通常の界面活性剤の場合、飽和吸着に達する濃度は、臨界ミセル濃度と呼ばれ、この濃度から可溶化能を発揮するミセルと呼ばれる会合体を形成する。いずれのペプチドも、界面活性剤のような吸着挙動を示したことから、親水基及び疎水基という明瞭なセグメントを分子内に持たなくても、αへリックス構造における親水面と疎水面の局在により、通常の界面活性剤のように振る舞うことが判明した。
図6より、Native21mer及びAW21merの会合体形成濃度(CAC:Critical Association Concentration)は、Native21merの場合、CACは4.5×10-5Mであり、その際の到達表面張力値(γCAC)は48.3mN/mであること、また、AW21merの場合、CACは3.0×10-5Mであり、その際の到達表面張力値(γCAC)は46.2mN/mであることが読み取れる。AW21merのCAC及びγCACの方が、Native21merよりも低下したことから、Native21merを2残基改変(V227→A227、Y236→W236)したAW21merは、より低濃度から高い界面活性を発現することが明らかになった。なお、Native21merのN末端にプロリン(P220)を導入したもの(すなわち、ApoA-Iの10番目のへリックス(220〜241残基))のCACは2.7×10-5 M、γCACは51.2 mN/mであり(非特許文献6)、本発明のNative21mer及びAW21merの方が、界面活性が大きく優れている。
また、従来のナノディスクの主要な調製法である界面活性剤透析法において用いられる界面活性剤であるコール酸ナトリウムのCACは2.7×10-5Mであり、γCACは48.8mN/mである。本発明のAW21merの方がより表面張力を低下させ、その界面活性が高い。
次に、濃度がCAC以上の界面活性ペプチド水溶液のミセル様会合体の形成を光散乱光度計により評価した。測定装置には、大塚電子社製のDLS7000を用い、レーザー光源にはAr(488nm)を、検出器検出角度は90°で各ペプチド濃度の水溶液の散乱光強度(Is)を計測した。また、同様の条件で測定した超純水の散乱光強度を(I0)として、散乱光強度比Is/I0を算出した。(a)Native21mer及び(b)AW21mer水溶液の散乱光強度比を併せて図6にプロットした。(a)Native21mer及び(b)AW21mer水溶液のいずれの場合も、表面張力測定から算出されたCACよりも上の濃度から散乱光強度比の急激な増加が認められた。このことから、いずれのペプチドとも、界面活性剤のように、CAC以上の濃度において、ミセル様会合体を形成することが明らかになった。
界面活性剤は、ミセルと呼ばれる会合体を形成することにより、その内部に各種の物質を可溶化させることができる。本発明の界面活性ペプチドは、コール酸ナトリウムよりも界面活性が高く、かつミセル様会合体を形成できることから、コール酸ナトリウムを使用しなくても、その代わりにリン脂質を可溶化、微細化して短時間でナノディスクを形成できるものと推測された。

実施例

0023

(実施例5)
ナノディスクの調製及びその構造確認
まず、ナノディスクの前駆体であるリン脂質リポソームを調製した。リン脂質には、日本油脂社製のL-α-ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)を用いた。リポソームは、水和法により調製した。まず、DMPCを試験管に秤量し、そこにクロロホルムを加え、DMPCを溶解した。ボルテックスで撹拌しながら、試験管内に窒素ガスを吹き付け、クロロホルムを除去することにより、試験管壁面にリピッドフィルムを作製した。試験管ごとデシケーター内で一昼夜乾燥させた後、所定量の超純水を加えた。室温で10分間静置した後に、3分間ボルテックス処理し、リポソーム溶液を得た。光学顕微鏡観察により、リポソームの形成を確認したところ、数nmから数十nmの大きなリポソームが多数観察された。
2mMの上述したDMPCリポソーム溶液に、CAC以上の0.2mMとなるように各種ペプチド水溶液(DMPC:ペプチド= 10:1(モル比))を添加し、5分間ボルテックスで撹拌後、25℃で12時間以上インキュベーションしてナノディスクの調製を試みた。その結果、図7に示すように、サイズが大きいため白濁していたリポソームは、特にAW21merの場合、DMPCリポソーム水溶液に混ぜた直後からすぐに透明になり、一昼夜静置後には、完全に透明になった。このことから、AW21merのミセル様会合体がDMPCリポソームを短時間で可溶化及び微細化して、ナノディスクが形成することが分かった。Native21についても、溶液は若干透明になったが、一昼夜静置後も白濁していた。
次に、ナノディスクの形成を確認するため、透過型電子顕微鏡(TEM)観察を行った。装置には、日立ハイテクノロジーズ社製のH-7650を用い、リンタングステン酸ナトリウムによるネガティブ染色法により観察した。なお、加速電圧:120kV、使用グリッドは、銅製、200メッシュカーボン補強処理したものを用いた。
染色液である1%リンタングステン酸ナトリウム溶液の調製は、リンタングステン酸ナトリウムを50mg秤量し、沸騰させた超純水5mLを加え、遮光下で5分間撹拌した。1%リンタングステン酸ナトリウム溶液のpHを、5M水酸化ナトリウム水溶液により、pH6.8に調整した。その後、0.5μmPVDFシリンジフィルターにより、濾過したものを用いた。
図7の、透明になり、一昼夜インキュベーション後のAW21merの水溶液をTEM観察した結果を、図7の右下に併せて示す。非常に微細な多数の粒子が観察され、ナノディスクをサイド(エッジ部分)から見た細長い粒子と、真上から見た円形の粒子が観測されたことから、CAC以上の0.2mMになるようにAW21mer水溶液をDMPCリポソームと混ぜるだけで、界面活性剤を用いなくても、ナノディスクが形成されることが明らかになった。また、そのサイズは、これまでに知られている通常のナノディスクの8nmから12nmよりも非常に大きい、13nmから22nmの範囲であった。当該ナノディスクは、より多くの封入物質を可溶化するのに有効であると考えられ、これまで困難であった大きなサイズの膜タンパク質の封入に極めて効果的である。
Native21merの水溶液からも一部ナノディスクの形成が確認されたが、DMPCリポソームが多数残存しており、DMPCリポソーム水溶液を透明にする速度もAW21merに比べてかなり遅く効率的ではなかった。
以上の結果から、界面活性ペプチド並びにそのミセル様会合体を利用することで、界面活性剤を使用することなく、DMPCリポソームと混ぜた直後から極めて短時間で、大きなサイズのナノディスクを一段階で調製できることが明らかになった。
また、これまでに報告されているナノディスクは、主にApoA-Iをベースに設計されたものばかりであったが、ナノディスクの幅広い応用を考えた際には、多様なペプチドソースから作り出す必要があり、これによりナノディスクの機能性が向上することも十分考えられる。
図8には、図3に示した三種類のネッタイツメガエルの表皮に分泌される界面活性ペプチドを上記と同様にして、ナノディスクの調製を試みた結果を示す。図8より明らかなように、Pxt-1及びPxt-2に関しては、DMPCリポソームは白濁したままであり、混合によりほとんど変化しなかったものの、図3により明確な親水面と疎水面に局在していることが示されたPxt-5の場合、AW21merの場合と同様にDMPCリポソームを可溶化、微細化することにより、水溶液を透明化させることができ、上記と同様にしてTEM観察を行ったところ、粒子径12nmから25nmのナノディスクの形成が確認された。
ApoA-Iの10番目のαへリックスは、親水面と疎水面の境界における正電荷(塩基性)アミノ酸の存在により特徴づけられるクラスAと称され、負電荷(酸性)アミノ酸は親水面の中心部に局在していることを特徴とし、これに由来するAW21mer もこのような特徴を有するが、Pxt-5はこのような特徴を有さない。また、AW21merは、疎水面に比べて親水面の方が相対的に大きいが、Pxt-5ではこれとは逆で、親水面に比べて疎水面の方が相対的に大きい。このように従来のリポプロテインを構成するアポリポプロテインとは無縁のペプチドから、アポリポプロテインに由来するペプチドに類似する特性を有するものを見出した技術的意義は大きい。ネッタイツメガエルの皮膚由来のペプチドは、スキンケア素材としても注目されており、ApoA-I由来のペプチドに依存せず、こうした違うソースのペプチドからナノディスクを調製することは、ナノディスクの幅広い応用、潜在的な可能性を考えても、産業的に極めて重要である。

0024

本発明の界面活性ペプチドを用いることにより、界面活性剤を使用することなく、大きなサイズのナノディスクを簡便な操作で調製することができ、当該ナノディスクは、膜タンパク質をはじめ、各種タンパク質、ペプチド、ビタミン類、ポリフェノール類、脂質、油脂などを内包させることにより、膜タンパク質の機能解析などの研究分野をはじめ、医薬品、化粧品、食品、塗料などの幅広い分野で利用できる。

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