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課題
解決手段
概要
背景
粒状の亜鉛(亜鉛末)による犠牲防食を利用する無機ジンクリッチプライマーや無機ジンクリッチペイントなどの無機ジンク系塗料は、鋼材の防食塗装に用いられている。例えば、無機ジンクリッチプライマーは、鋼材の一次防錆に使用されている。
一方、船舶のバランストタンクなどの厳しい腐食環境に曝される場合や、長期に亘る防食作用等が求められる場合がある。しかし、このような要求に対して、亜鉛末の含有量を高めたり、塗膜の厚みを増加させると、鋼材との密着性や施工性が損なわれることがある。
このような問題に対し、Mgによって防食性能を高めた無機ジンク系塗料が提案されている(例えば、特許文献1〜6、参照。)。このうち、特許文献1及び2では、粒状のZn−Mg合金を含む無機ジンク系塗料が提案されている。一方、特許文献3〜6では、金属MgやMg化合物などを添加した無機ジンク系塗料が提案されている。
概要
耐食性能を向上させた、防食塗装鋼材及びその製造方法、無機ジンク系塗料を塗布して塗膜を形成し、後処理によって耐食性能を向上させる塗装鋼材の防食方法を提供する。鋼材と、前記鋼材の表面上に、粒状の亜鉛とマグネシウムを含む厚さ10μm以上の無機ジンク系塗料組成物含有層を有し、前記無機ジンク系塗料組成物含有層の断面において、前記無機ジンク系塗料組成物含有層の全元素量に対してマグネシウム濃度が0.2質量%以上の領域の面積の割合が5〜55%である防食塗装鋼材を利用する。なし
目的
特開2000−80309号公報
特開2005−305303号公報
特開2007−191730号公報
特開2007−224344号公報
特開2012−91428号公報
特開2012−92404号公報
従来、無機ジンク系塗料にZn−Mg合金を使用したり、Mg化合物などを含む顔料やインヒビターを添加するなど、塗膜自体の防食性能の向上を目的とする
効果
実績
- 技術文献被引用数
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- 牽制数
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この技術が所属する分野
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請求項1
鋼材と、前記鋼材の表面上に、マグネシウムと粒状の亜鉛を含む厚さ10μm以上の無機ジンク系塗料組成物含有層を有し、前記無機ジンク系塗料組成物含有層の断面において、前記無機ジンク系塗料組成物含有層の全元素量に対してマグネシウム濃度が0.2質量%以上の領域の面積の割合が5〜55%であることを特徴とする防食塗装鋼材。
請求項2
前記鋼材が、質量%で、C:0.001%〜0.20%、Si:0.01%〜3.0%、Mn:0.1〜3.0%を含有し、残部がFe及び不純物からなることを特徴とする請求項1に記載の防食塗装鋼材。
請求項3
前記鋼材が、更に、質量%で、Cr:9.99%以下、Sn:0.5%以下、の一方又は両方を含有することを特徴とする請求項2に記載の防食塗装鋼材。
請求項4
前記鋼材が、更に、質量%で、Cr:9.99%以下、及びSn:0.5%以下を含有することを特徴とする請求項2に記載の防食塗装鋼材。
請求項5
前記鋼材が、更に、質量%で、Al:2.0%以下、Cu:2.0%以下、Ni:2.0%以下、Mo:1.0%以下、W:1.0%以下、Sb:0.5%以下、V:0.2%以下、Nb:0.08%以下、Ti:0.1%以下、Mg:0.01%以下、Zr:0.05%以下、B:0.005%以下、Ca:0.02%以下、REM:0.02%以下、Se:0.1%以下、Hf:0.1%以下、Sr:0.1%以下の1種又は2種以上を含有し、P:0.03%以下、S:0.01%以下、N:0.03%以下に制限されたことを特徴とする請求項2〜4のうちいずれか1項に記載の防食塗装鋼材。
請求項6
鋼材の表面上に、粒状の亜鉛を含む無機ジンク系塗料を塗布して厚みが10μm以上の塗膜を形成し、前記塗膜の表面に、水溶性のMg化合物を、Mg換算濃度で0.3質量%以上含む溶液を塗布し、または前記塗膜を形成した鋼材を前記溶液中に浸漬させた後に乾燥させることを特徴とする防食塗装鋼材の製造方法。
請求項7
前記鋼材は、質量%で、C:0.001%〜0.20%、Si:0.01%〜3.0%、Mn:0.1〜3.0%を含有し、残部がFe及び不純物からなることを特徴とする請求項6に記載の防食塗装鋼材の製造方法。
請求項8
前記鋼材が、更に、質量%で、Cr:9.99%以下、Sn:0.5%以下、の一方又は両方を含有することを特徴とする請求項7に記載の防食塗装鋼材の製造方法。
請求項9
前記鋼材が、質量%で、Cr:9.99%以下、及びSn:0.5%以下、を含有することを特徴とする請求項7に記載の防食塗装鋼材の製造方法。
請求項10
前記鋼材が、更に、質量%で、Al:2.0%以下、Cu:2.0%以下、Ni:2.0%以下、Mo:1.0%以下、W:1.0%以下、Sb:0.5%以下、V:0.2%以下、Nb:0.08%以下、Ti:0.1%以下、Mg:0.01%以下、Zr:0.05%以下、B:0.005%以下、Ca:0.02%以下、REM:0.02%以下、Se:0.1%以下、Hf:0.1%以下、Sr:0.1%以下の1種又は2種以上を含有し、P:0.03%以下、S:0.01%以下、N:0.03%以下に制限されたことを特徴とする請求項7〜9のうちいずれか1項に記載の防食塗装鋼材の製造方法。
請求項11
鋼材の表面に、粒状の亜鉛を含む無機ジンク系塗料を塗布して厚みが10μm以上の塗膜を形成し、前記塗膜の表面に、水溶性のMg化合物を、Mg濃度で0.3質量%以上含む溶液を塗布し、または前記塗膜を形成した鋼材を前記溶液中に浸漬させた後に乾燥させることを特徴とする塗装鋼材の防食方法。
請求項12
前記鋼材は、質量%で、C:0.001%〜0.20%、Si:0.01%〜3.0%、Mn:0.1〜3.0%を含有し、残部がFe及び不純物からなることを特徴とする請求項11に記載の塗装鋼材の防食方法。
請求項13
前記鋼材が、更に、質量%で、Cr:9.99%以下、Sn:0.5%以下、の一方又は両方を含有することを特徴とする請求項12に記載の防食塗装鋼材の防食方法。
請求項14
前記鋼材が、質量%で、Cr:9.99%以下、及び、Sn:0.5%以下、を含有することを特徴とする請求項12に記載の防食塗装鋼材の防食方法。
請求項15
前記鋼材が、更に、質量%で、Al:2.0%以下、Cu:2.0%以下、Ni:2.0%以下、Mo:1.0%以下、W:1.0%以下、Sb:0.5%以下、V:0.2%以下、Nb:0.08%以下、Ti:0.1%以下、Mg:0.01%以下、Zr:0.05%以下、B:0.005%以下、Ca:0.02%以下、REM:0.02%以下、Se:0.1%以下、Hf:0.1%以下、Sr:0.1%以下の1種又は2種以上を含有し、P:0.03%以下、S:0.01%以下、N:0.03%以下に制限されたことを特徴とする請求項12〜14のうちいずれか1項に記載の塗装鋼材の防食方法。
技術分野
0001
本発明は、無機ジンクリッチプライマーや無機ジンクリッチペイントなどの無機ジンク系塗料を塗布した防食塗装鋼材及びその製造方法、塗装鋼材の防食方法に関する。
背景技術
0002
粒状の亜鉛(亜鉛末)による犠牲防食を利用する無機ジンクリッチプライマーや無機ジンクリッチペイントなどの無機ジンク系塗料は、鋼材の防食塗装に用いられている。例えば、無機ジンクリッチプライマーは、鋼材の一次防錆に使用されている。
一方、船舶のバランストタンクなどの厳しい腐食環境に曝される場合や、長期に亘る防食作用等が求められる場合がある。しかし、このような要求に対して、亜鉛末の含有量を高めたり、塗膜の厚みを増加させると、鋼材との密着性や施工性が損なわれることがある。
このような問題に対し、Mgによって防食性能を高めた無機ジンク系塗料が提案されている(例えば、特許文献1〜6、参照。)。このうち、特許文献1及び2では、粒状のZn−Mg合金を含む無機ジンク系塗料が提案されている。一方、特許文献3〜6では、金属MgやMg化合物などを添加した無機ジンク系塗料が提案されている。
先行技術
0003
特開2000−80309号公報
特開2005−305303号公報
特開2007−191730号公報
特開2007−224344号公報
特開2012−91428号公報
特開2012−92404号公報
発明が解決しようとする課題
0004
従来、無機ジンク系塗料にZn−Mg合金を使用したり、Mg化合物などを含む顔料やインヒビターを添加するなど、塗膜自体の防食性能の向上を目的とする検討が行われている。しかし、微細なZn−Mg合金は粉末の入手が困難である場合があり、汎用の無機ジンク系塗料の利用が望まれている。また、Mg化合物などを含む顔料やインヒビターは、少量を添加しても効果が得られず、多量に添加すると塗膜の密着性が損なわれることがある。
0005
一方、従来、通常の亜鉛末を含有する無機ジンク系塗料を塗布して塗膜を形成し、後処理によって耐食性能を向上させる検討は行われていない。本発明は、亜鉛合金を含まない無機ジンク系塗料を利用し、特殊な顔料やインヒビターの添加に比べて耐食性能を向上させた、防食塗装鋼材及びその製造方法と、無機ジンク系塗料を塗布して塗膜を形成し、後処理によって耐食性能を向上させる塗装鋼材の防食方法の提供を課題とするものである。
課題を解決するための手段
0006
発明者らは、鋼材の腐食環境因子の主原因である塩化物に対する耐食性向上を目的に、亜鉛合金を含まない汎用の無機ジンク系塗料を塗布した鋼材への各種の後処理により耐食性能を向上させる検討を鋭意実施した。その結果、粒状の亜鉛を含む塗膜にマグネシウムを含有させることにより、耐食性が顕著に向上することを見出した。この粒状の亜鉛とマグネシウムを含む塗膜(以下「無機ジンク系塗料組成物含有層」という。)は、無機ジンク系塗料を鋼材表面上に塗布して形成した塗膜に、マグネシウムイオンを含む溶液を噴霧等により塗布するか、溶液中に浸漬した後、乾燥させることによって得られることを見出した。
0007
本発明はこのような知見に基づいてなされたものであり、その要旨は以下のとおりである。
0008
[1]鋼材と、前記鋼材の表面上に、マグネシウムと粒状の亜鉛を含む厚さ10μm以上の無機ジンク系塗料組成物含有層を有し、
前記無機ジンク系塗料組成物含有層の断面において、前記無機ジンク系塗料組成物含有層の全元素量に対してマグネシウム濃度が0.2質量%以上の領域の面積の割合が5〜55%であることを特徴とする防食塗装鋼材。
[2] 前記鋼材が、質量%で、
C:0.001%〜0.20%、
Si:0.01%〜3.0%、
Mn:0.1〜3.0%
を含有し、残部がFe及び不純物からなることを特徴とする上記[1]に記載の防食塗装鋼材。
[3] 前記鋼材が、更に、質量%で、
Cr:9.99%以下、
Sn:0.5%以下、
の一方又は両方を含有することを特徴とする上記[2]に記載の防食塗装鋼材。
[4] 前記鋼材が、更に、質量で、
Cr:9.99%以下、及び
Sn:0.5%以下、
を含有することを特徴とする上記[2]に記載の防食塗装鋼材。
[5] 前記鋼材が、更に、質量%で、
Al:2.0%以下、
Cu:2.0%以下、
Ni:2.0%以下、
Mo:1.0%以下、
W:1.0%以下、
Sb:0.5%以下、
V:0.2%以下、
Nb:0.08%以下、
Ti:0.1%以下、
Mg:0.01%以下、
Zr:0.05%以下、
B:0.005%以下、
Ca:0.02%以下、
REM:0.02%以下、
Se:0.1%以下、
Hf:0.1%以下、
Sr:0.1%以下
の1種又は2種以上を含有し、
P:0.03%以下、
S:0.01%以下、
N:0.03%以下
に制限されたことを特徴とする上記[2]〜[4]のいずれかに記載の防食塗装鋼材。
0009
[6]鋼材の表面上に、粒状の亜鉛を含む無機ジンク系塗料を塗布して厚みが10μm以上の塗膜を形成し、前記塗膜の表面に、水溶性のMg化合物を、Mg換算濃度で0.3質量%以上含む溶液を塗布し、または前記塗膜を形成した鋼材を前記溶液中に浸漬させた後に乾燥させることを特徴とする防食塗装鋼材の製造方法。
[7] 前記鋼材は、質量%で、
C:0.001%〜0.20%、
Si:0.01%〜3.0%、
Mn:0.1〜3.0%
を含有し、残部がFe及び不純物からなることを特徴とする[6]に記載の防食塗装鋼材の製造方法。
[8] 前記鋼材が、更に、質量%で、
Cr:9.99%以下、
Sn:0.5%以下、
の一方又は両方を含有することを特徴とする上記[7]に記載の防食塗装鋼材の製造方法。
[9] 前記鋼材が、更に、質量%で、
Cr:9.99%以下、及び
Sn:0.5%以下、
を含有することを特徴とする上記[7]に記載の防食塗装鋼材の製造方法。
[10] 前記鋼材が、更に、質量%で、
Al:2.0%以下、
Cu:2.0%以下、
Ni:2.0%以下、
Mo:1.0%以下、
W:1.0%以下、
Sb:0.5%以下、
V:0.2%以下、
Nb:0.08%以下、
Ti:0.1%以下、
Mg:0.01%以下、
Zr:0.05%以下、
B:0.005%以下、
Ca:0.02%以下、
REM:0.02%以下、
Se:0.1%以下、
Hf:0.1%以下、
Sr:0.1%以下
の1種又は2種以上を含有し、
P:0.03%以下、
S:0.01%以下、
N:0.03%以下
に制限されたことを特徴とする上記[7]〜[9]のいずれかに記載の防食塗装鋼材の製造方法。
0010
[11]鋼材の表面に、粒状の亜鉛を含む無機ジンク系塗料を塗布して厚みが10μm以上の塗膜を形成し、前記塗膜の表面に、水溶性のMg化合物を、Mg濃度で0.3質量%以上含む溶液を塗布し、または前記塗膜を形成した鋼材を前記溶液中に浸漬させた後に乾燥させることを特徴とする塗装鋼材の防食方法。
[12] 前記鋼材は、質量%で、
C:0.001%〜0.20%、
Si:0.01%〜3.0%、
Mn:0.1〜3.0%
を含有し、残部がFe及び不純物からなることを特徴とする上記[11]に記載の塗装鋼材の防食方法。
[13] 前記鋼材が、更に、質量%で、
Cr:9.99%以下、
Sn:0.5%以下、
の一方又は両方を含有することを特徴とする上記[12]に記載の防食塗装鋼材の防食方法。
[14] 前記鋼材が、更に、質量%で、
Cr:9.99%以下、及び
Sn:0.5%以下、
を含有することを特徴とする上記[12]に記載の防食塗装鋼材の防食方法。
[15] 前記鋼材が、更に、質量%で、
Al:2.0%以下、
Cu:2.0%以下、
Ni:2.0%以下、
Mo:1.0%以下、
W:1.0%以下、
Sb:0.5%以下、
V:0.2%以下、
Nb:0.08%以下、
Ti:0.1%以下、
Mg:0.01%以下、
Zr:0.05%以下、
B:0.005%以下、
Ca:0.02%以下、
REM:0.02%以下、
Se:0.1%以下、
Hf:0.1%以下、
Sr:0.1%以下
の1種又は2種以上を含有し、
P:0.03%以下、
S:0.01%以下、
N:0.03%以下
に制限されたことを特徴とする上記[12]〜[14]のうちいずれかに記載の塗装鋼材の防食方法。
発明の効果
0011
本発明によれば、亜鉛合金の粉末を使用することなく、特殊な顔料やインヒビターなどの添加と比較して、耐食性能を向上させた防食塗装鋼材及びその製造方法と、亜鉛末を含む汎用の無機ジンク系塗料を塗布して塗膜を形成し、後処理によって耐食性能を向上させる塗装鋼材の防食方法の提供することができる。したがって、本発明は、汎用の無機ジンク系塗料の利用や、補修などによる塗装鋼材の耐食性能の向上などを可能にして、コストの削減に寄与することができるので、産業上の貢献が極めて顕著である。
0012
(無機ジンク系塗料組成物含有層の組成)
本発明において使用される無機ジンク系塗料は、亜鉛合金を含まず、粒状の亜鉛(亜鉛末)とシリケートのバインダを含む無機ジンクリッチプライマーや無機ジンクリッチペイントを利用することができる。前記無機ジンクリッチプライマーとして、JIS K 5552のジンクリッチプライマーが好ましい。また、前記無機ジンクリッチペイントとして、JIS K 5553のジンクリッチペイントが好ましい。そして、鋼材の表面に無機ジンク系塗料を塗布して形成させた塗膜は、水分や酸素が、シリケートのバインダを容易に透過することが可能である。一方、有機系ジンク塗料は、水分が塗膜を透過せず、マグネシウム(Mg)の効果が発現しないため、本発明から除外する。
0013
無機ジンク系塗料を塗布して鋼板の表面に形成した塗膜には、Mg化合物を溶解させた水溶液を塗布するか、又は、水溶液中に塗装鋼板を浸漬することにより、Mgを含有させる。このようにして形成したMgを含有する塗膜、すなわち、無機ジンク系塗料組成物含有層の切断面を走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察し、電子線マイクロアナライザー(Electron Probe MicroAnalyzer、EPMA)を用いて、前記無機ジンク系塗料組成物含有層に含まれるMgの濃度分布を測定すると、亜鉛末及び顔料の粒子とは異なる部位、即ちシリケートからなるバインダにMgが存在している。尚、無機ジンク系塗料組成物含有層には、マグネシウム以外に、カルシウムが含まれていてもよい。
0014
(無機ジンク系塗料組成物含有層に含まれるMg)
本発明において使用される無機ジンク系塗料に含まれる亜鉛末はMgを含有しない。したがって、前記無機ジンク系塗料組成物含有層に含まれるMgは、亜鉛末とは異なる部位、即ちシリケートからなるバインダに存在している。また、Mg化合物を含む特殊な顔料やインヒビターを添加しない場合は、亜鉛末以外の粒状等の形態を呈する部位にもMgは存在しない。
0015
Mgは、鋼材の表面に形成された無機ジンク系塗料の塗膜に、Mg化合物を溶解させた水溶液を塗布するか、又は、水溶液中に塗装鋼板を浸漬することにより、Mgを前記無機ジンク系塗料の塗膜に含有させる。そのため、前記塗膜に含有されるバインダにはMg化合物の粒子が存在していると予想される。しかし、Mgを含む化合物粒子が極めて微細であるためか、SEMでは個々の粒子の形態を観察することが困難である。
0016
そこで、本発明では、EPMAを用いて無機ジンク系塗料組成物含有層の断面のMg濃度の分布を測定し、Mg濃度が0.2質量%以上である領域の面積を求めて、当該領域の面積を、前記EPMAを用いて測定した範囲全体の面積で除し、100を掛けて面積割合を算出する。すなわち、Mg濃度が0.2質量%以上である領域の面積割合は、以下の式(1)により算出する。尚、EPMAにより測定される前記断面は、横方向が少なくとも0.3mm以上であり、厚み方向が下地鋼材と塗料表面が入る視野であれば良い。
[EPMAにより「Mg濃度≧0.2質量%」として検出された全領域の面積]/[EPMAを用いて測定した範囲全体の面積]×100・・・式(1)
0017
Mgによる防食性能の向上の効果を得るには、Mg濃度が0.2質量%以上である領域の面積割合を5%以上にすることが必要である。この面積割合が5%未満であると、無機ジンク系塗料組成物含有層に含まれるMgが不足し、十分な耐食性の向上の効果が得られない。好ましくは、8%以上とする。一方、Mg濃度が0.2質量%以上である面積割合が増加すると、亜鉛末の含有量が相対的に低下するので、耐食性を確保するために、55%以下にすることが必要である。好ましくは25%以下とする。
0018
(無機ジンク系塗料組成物含有層の厚み)
前記無機ジンク系塗料組成物含有層の厚みは、10μm以上であることが必要である。厚みが10μm未満の無機ジンク系塗料組成物含有層を形成しても、亜鉛末の含有量が不足して、十分な防食性能が得られない。好ましくは、前記無機ジンク系塗料組成物含有層の厚みを15μm以上、より好ましくは30μm以上、更に好ましくは70μm以上とする。前記無機ジンク系塗料組成物含有層の厚みの上限は、乾燥に要する時間などの施工性の観点から、300μm以下が好ましい。より好ましくは150μm以下とする。前記無機ジンク系塗料組成物含有層の厚みは、断面をSEMによって観察し、測定することができる。
0020
(C:0.001〜0.20%)
Cは、鋼材の強度の向上に有効な元素である。本発明では、所要の強度を維持するため、C量は、0.001%以上とする。C量は、0.005%以上が好ましく、0.01%以上がより好ましい。一方、C量が0.20%を超えると、溶接性や靭性が低下することがあるため、上限を0.20%とする。C量は、溶接性を考慮すると、0.15%以下がより好ましく、加工性の点から、0.10%以下が更に好ましい。
0021
(Si:0.01〜3.0%)
Siは、脱酸剤として作用し、また、強度の向上に有効な元素である。Si量が0.01%未満では、脱酸が不充分になる場合があるため、本発明では、下限を0.01%とする。また、脱酸をより安定的に行うためには、Si量は0.05%以上がより好ましい。一方、Si量が3.0%を超えると、延性が低下するため、上限を3.0%とする。また、鋼材の溶接性や靭性を考慮すると、Si量は0.5%以下がより好ましい。
0022
(Mn:0.1〜3.0%)
Mnは、鋼の組織制御に有効な元素であり、本発明では、0.1%以上を含有させる。また、組織制御を安定的に行うためには、0.5%以上のMnを含有させることがより好ましい。一方、Mn量が3.0%を超えると、延性が低下する場合があるため、上限を3.0%とする。また、圧延などの製造性を考慮すると、Mn量は2.5%以下がより好ましい。
0023
本発明で用いられる鋼材には、鋼材の耐食性を更に向上させるため、Cr、Sn、Al、Cu、Ni、Mo、W及びSbの1種又は2種以上を選択的に含有させてもよい。以下に、Cr、Sn、Al、Cu、Ni、Mo、W及びSbの含有量を限定する理由について説明する。
0024
(Cr:9.99%以下)
Crは、鋼材の耐食性の向上に有効であり、必要に応じて含有させてもよい。Cr量の下限は特に規定するものではなく、0%でもよいが、本発明では、無機ジンク系塗料組成物含有層と鋼材との相互作用によって顕著な耐食性向上効果を得るため、0.1%以上を含有させる。Cr量は、0.5%以上が好ましく、1%以上がより好ましい。一方、Cr量が9.99%を超えると、鋳片の冷却過程で変態が起きず、フェライト単相組織となって、鋳片割れが生じるため、上限を9.99%とする。また、Cr量は、合金コスト低減のため、8%以下が好ましく、6.5%以下がより好ましい。Cr量は、溶接性等を考慮して、5%以下、4%以下又は3%以下に制限してもよい。
0025
(Sn:0.5%以下)
Snは、鋼の耐食性を向上させる元素であり、必要に応じて含有させてもよい。一方、Snは、過剰に含有させると製造性や機械特性を損なう場合があるため、Sn量の上限を0.5%とすることが好ましい。Sn量は、より好ましくは0.2%以下である。Sn量の下限は特に規定するものではなく、0%でもよいが、鋼の耐食性を安定的に向上させるためには、0.01%以上を含有させることが好ましく、0.05%以上を含有させることがより好ましい。
0026
(Al:2.0%以下)
Alは、一般に脱酸剤として用いられるが、本発明では、鋼の耐食性を更に向上させるために、必要に応じて含有させてもよい。一方、Al量が2.0%を超えると、鋳片の冷却過程で変態が起きず、フェライト単相組織となって、鋳片割れが生じることがあるため、上限を2.0%とすることが好ましい。Al量は、より好ましくは1.5%以下である。Al量の下限は特に規定するものではなく、0%でもよいが、鋼の耐食性を更に向上させるためには、0.002%以上を含有させることが好ましく、0.01%以上を含有させることがより好ましい。また、Al量は、0.02%以上とすることが更に好ましい。
0027
(Cu:2.0%以下)
Cuは、鋼の耐食性を向上させる元素であるため、必要に応じて含有させてもよい。一方、Cu量が2.0%を超えると、鋼材が脆化することがあるため、上限を1.0%とすることが好ましい。Cu量は、より好ましくは0.5%以下である。Cu量の下限は特に規定するものではなく、0%でもよいが、鋼の耐食性を安定的に向上させるためには、0.05%以上を含有させることが好ましい。また、Cuは、強度を改善するとともに、鋳片割れを防止する元素でもあるため、Cu量は、0.10%以上とすることがより好ましい。
0028
(Ni:2.0%以下)
Niは、鋼の耐食性を向上させる元素であり、また、Cuを含有させる場合にはNiを同時に含有させると製造性の劣化を防止することができる。一方で、Niは高価な元素であり、上記の効果は2.0%を超えてNiを含有させると飽和することから、上限を2.0%とすることが好ましい。Ni量は、より好ましくは0.5%以下であり、更に好ましくは0.3%以下である。また、Ni量の下限は特に規定するものではなく、0%でもよいが、上記の効果を安定的に得るためには、0.05%以上を含有させることが好ましく、0.10%以上を含有させることがより好ましい。
0029
(Mo:1.0%以下、W:1.0%以下)
Mo及びWは、鋼の耐食性を向上させる元素であり、必要に応じて含有させてもよい。一方、Mo及びWは、1.0%を超えて含有させても効果が飽和するため、上限を1.0%とすることが好ましく、より好ましくは0.5%以下とする。Mo量及びW量は、より好ましくはそれぞれ0.3%以下である。Mo量及びW量の下限は特に規定するものではなく、0%でもよいが、鋼の耐食性を安定的に向上させるためには、それぞれ0.01%以上を含有させることが好ましく、0.03%以上を含有させることがより好ましい。
0030
(Sb:0.5%以下)
Sbは、鋼の耐食性を向上させる元素であり、必要に応じて含有させてもよい。一方、Sbは、過剰に含有させると製造性や機械特性を損なう場合があるため、Sb量の上限を0.5%とすることが好ましい。Sb量は、より好ましくは0.2%以下である。Sb量の下限は特に規定するものではなく、0%でもよいが、鋼の耐食性を安定的に向上させるためには、0.01%以上を含有させることが好ましく、0.05%以上を含有させることがより好ましい。
0032
(V:0.2%以下)
Vは、機械特性、使用性能、製造安定性を向上させる元素であり、必要に応じて含有させてもよい。一方、Vを過剰に含有させると耐発錆性を損なう可能性があるため、V量の上限を0.2%とすることが好ましい。V量は、より好ましくは0.1%以下、更に好ましくは0.05%以下である。V量の下限は特に規定するものではなく、0%でもよいが、鋼材の諸特性を安定的に向上させるためには、0.005%以上を含有させることが好ましく、0.01%以上を含有させることがより好ましい。
0033
(Nb:0.08%以下)
Nbは、機械特性、使用性能、製造安定性を向上させる元素であり、必要に応じて含有させてもよい。一方、Nbを過剰に含有させると耐発錆性を損なう可能性があるため、Nb量の上限を0.08%とすることが好ましい。Nb量は、より好ましくは0.03%以下である。Nb量の下限は特に規定するものではなく、0%でもよいが、鋼材の諸特性を安定的に向上させるためには、0.002%以上を含有させることが好ましく、0.005%以上を含有させることがより好ましい。
0034
(Ti:0.1%以下)
Tiは、機械特性、使用性能、製造安定性を向上させる元素であり、必要に応じて含有させてもよい。一方、Tiを過剰に含有させると耐発錆性を損なう可能性があるため、Ti量の上限を0.1%とすることが好ましい。Ti量は、より好ましくは0.03%以下である。Ti量の下限は特に規定するものではなく、0%でもよいが、鋼材の諸特性を安定的に向上させるためには、0.005%以上を含有させることが好ましく、0.01%以上を含有させることがより好ましい。
0035
(Mg:0.01%以下)
Mgは、機械特性、使用性能、製造安定性を向上させる元素であり、必要に応じて含有させてもよい。一方、Mgを過剰に含有させると耐発錆性を損なう可能性があるため、Mg量の上限を0.01%とすることが好ましい。Mg量は、より好ましくは0.002%以下である。Mg量の下限は特に規定するものではなく、0%でもよいが、鋼材の諸特性を安定的に向上させるためには、0.0001%以上を含有させることが好ましく、0.0005%以上を含有させることがより好ましい。
0036
(Zr:0.05%以下)
Zrは、機械特性、使用性能、製造安定性を向上させる元素であり、必要に応じて含有させてもよい。一方、Zrを過剰に含有させると耐発錆性を損なう可能性があるため、Zr量の上限を0.05%とすることが好ましい。Zr量は、より好ましくは0.02%以下である。Zr量の下限は特に規定するものではなく、0%でもよいが、鋼材の諸特性を安定的に向上させるためには、0.003%以上を含有させることが好ましく、0.005%以上を含有させることがより好ましい。
0037
(B:0.005%以下)
Bは、機械特性、使用性能、製造安定性を向上させる元素であり、必要に応じて含有させてもよい。一方、Bを過剰に含有させると耐発錆性を損なう可能性があるため、B量の上限を0.005%とすることが好ましい。B量は、より好ましくは0.002%以下である。B量の下限は特に規定するものではなく、0%でもよいが、鋼材の諸特性を安定的に向上させるためには、0.0002%以上を含有させることが好ましく、0.0005%以上を含有させることがより好ましい。
0038
(Ca:0.02%以下)
Caは、機械特性、使用性能、製造安定性を向上させる元素であり、必要に応じて含有させてもよい。一方、Caを過剰に含有させると耐発錆性を損なう可能性があるため、Ca量の上限を0.02%とすることが好ましい。Ca量は、より好ましくは0.003%以下である。Ca量の下限は特に規定するものではなく、0%でもよいが、鋼材の諸特性を安定的に向上させるためには、0.0002%以上を含有させることが好ましく、0.0005%以上を含有させることがより好ましい。
0039
(REM:0.02%以下)
REMは、機械特性、使用性能、製造安定性を向上させる元素であり、必要に応じて含有させてもよい。REMは、希土類金属(Rare Earth Metals)を表しており、原子番号57のLaから原子番号71までの、いわゆるランタノイド元素に対応する。本実施形態では、REMに属する一種類の元素の単体や化合物を添加してもよいし、複数種類のREMを含有する混合物を添加してもよい。このような混合物としては、Ce、La、Nd等を主成分とするミッシュメタルを挙げることができる。
一方、REMを過剰に含有させると耐発錆性を損なう可能性があるため、REM量の上限を0.02%とすることが好ましい。REM量は、より好ましくは0.01%以下である。REM量の下限は特に規定するものではなく、0%でもよいが、鋼材の諸特性を安定的に向上させるためには、0.0002%以上を含有させることが好ましく、0.0005%以上を含有させることがより好ましい。
0040
本発明で用いられる鋼材には、耐食性の向上の観点から、更に、Se、Hf、Srの1種又は2種以上を選択的に含有させてもよい。
0041
(Se:0.1%以下、Hf:0.1%以下、Sr:0.1%以下)
Se、Hf及びSrは、耐食性向上に有効な元素であり、必要に応じて含有させてもよい。一方、Se、Hf及びSrを過剰に含有させると製造性や機械特性を損なう場合があるため、Se、Hf及びSrの含有量の上限を、それぞれ0.1%とすることが好ましく、より好ましくは0.05%以下とする。Se、Hf及びSrの含有量の下限は特に規定するものではなく、0%でもよいが、鋼材の耐食性を安定的に向上させるためには、それぞれ0.0002%以上を含有させることが好ましく、0.0005%以上を含有させることがより好ましい。
0042
なお、上述の選択元素(Cr、Sn、Al、Cu、Ni、Mo、W、Sb、V、Nb、Ti、Mg、Zr、B、Ca、REM、Se、Hf及びSr)の含有量は、鋼材質量に対して、含有する元素の合計で0.004〜1.5%とすることがより好ましく、更に好ましくは0.01〜0.5%とする。
0043
更に鋼材の耐食性を向上させるために、上述の選択元素のうち、CrとSnとを同時に含有させることが好ましい。この理由について以下に説明する。
0045
まず、海水の飛沫等によって鋼材に付着した塩化物粒子が夜間の結露によって溶解し、中性塩化物水溶液中での腐食が進行する。次に、日中の乾燥によって結露水の液膜が薄くなり、Cl−が濃化するとFeの溶解及びFe2+の酸化が進行してFe3+が生成し、加水分解によって水素イオンが生成して酸性塩化物溶液中での腐食が進行する。
0046
このように、鋼材が、海水の飛沫帯等が飛来する屋外の塩化物環境で使用される場合、夜間の結露と日中の乾燥とにより、中性塩化物水溶液中での腐食と、酸性塩化物溶液中での腐食とが、繰り返し進行すると考えられる。
0047
Crは中性塩化物水溶液中の鋼の耐食性向上には有効に作用するものの、酸性塩化物溶液中の耐食性を損なう。これに対して、酸性塩化物環境での耐食性を向上させるSnを同時に含有させると、Crの悪影響が軽減され、腐食環境の変化に拘わらず、極めて有効に耐食性を向上させると考えられる。
0048
本発明で用いられる鋼材では、上記の元素以外の残部は、Fe及び不純物である。ここで、不純物とは、鋼を工業的に製造する際に、鉱石やスクラップ等のような原料を始めとして、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。かかる不純物としては、例えば、P、S、N等を挙げることができ、鋼材の耐発錆性の向上を妨げない範囲で許容される。また、本発明で用いられる鋼材では、本発明の作用効果を害さない更なる元素を微量に含有させることも可能である。
0049
(P:0.03%以下)
P量は、0.03%を超えると、靭性や延性が低下する場合があるため、上限を0.03%に制限することが好ましい。より好ましいP量の上限は、0.01%である。一方、P量を0.001%未満に低減すると製造コストが上昇するため、P量は0.001%以上が好ましい。
0050
(S:0.01%以下)
S量は、0.01%を超えると、靭性や延性が低下したり、熱間加工性を損なったりする場合があるため、上限を0.01%に制限することが好ましい。より好ましいS量の上限は、0.003%である。一方、S量を0.0001%未満に低減すると製造コストが上昇するため、S量は0.0001%以上が好ましい。
0051
(N:0.03%以下)
N量は、0.03%を超えると、靭性や延性が低下する場合があるため、上限を0.03%に制限することが好ましい。より好ましいN量の上限は、0.01%であり、更に好ましくは0.006%とする。一方、N量を0.001%未満に低減すると製造コストが上昇するため、N量は0.001%以上が好ましい。
0052
本発明で用いられる鋼材は、一般的な製造工程(例えば、鋳造、加熱・圧延、冷延、及び、必要に応じた熱処理)を経て製造される。すなわち、本発明では、溶鋼を鋳造して鋼片とし、次いで、熱間圧延、冷間圧延などを施し、必要に応じて熱処理を施し、鋼板、鋼帯、形鋼、鋼管、棒鋼、鋼線等の形状で、通常の一般的な製鉄工程を経て製造される鋼材を用いることができる。また、本発明では、かかる鋼材を用いて構築した溶接構造や鋼構造物についても用いることができる。鋼材の厚さは特に限定されないが、通常3〜50mmである。
0053
(防食塗装鋼材の製造方法、防食方法)
前記鋼板の表面上には、粒状の亜鉛を含む前記無機ジンク系塗料が、乾燥後の塗膜の厚みが10μm以上になるように塗布される。好ましくは塗膜の厚みを25μm以上とし、より好ましくは50μm以上とする。塗膜は厚いほど耐食性が向上するため、厚みの上限は規定しないが、作業性の観点から200μm以下が好ましい。より好ましくは150μm以下、更に好ましくは100μm以下とする。尚、無機ジンク系塗料の乾燥方法は、特に限定されず、室温下で放置することにより前記無機ジンク系塗料を乾燥しても良い。
0054
前記のようにして鋼材の表面に形成された無機ジンク系塗料の塗膜に、Mg化合物を溶解させた溶液を塗布するか、又は、前記溶液中に、前記無機ジンク系塗料の塗膜を有する鋼材を浸漬することにより、前記塗膜中のシリケートからなるバインダにMgを含有させて、塗装鋼材の耐食性を向上させても良い。
0055
尚、無機ジンク系塗料に含まれる亜鉛末は、強酸性又は強アルカリ性の溶液中では溶解速度が著しく増加するため、Mgイオンを含む溶液のpHは弱酸性から弱アルカリ性の範囲が望ましい。また、溶液の溶媒は水が好ましく、Mg化合物は、水溶性であること、即ち、中性のpH領域において水溶液に対して十分な溶解度を有することが必要となる。このようなMg化合物として、例えば、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、リン酸マグネシウム等の化合物を挙げることができる。なお、これらの化合物は単独で用いても、2種以上を複合させて用いてもよい。耐食性の観点から悪影響を及ぼすMg化合物としては、フッ化物、塩化物及び臭化物のようなハロゲン化物を含むものが好ましくない。尚、Mg化合物以外に、Ca化合物が含まれていてもよい。
0056
また、亜鉛末を含む無機ジンク系塗料を塗布した後に、Mg化合物を溶解させた溶液を塗布又は溶液中に鋼板を浸漬する場合、溶液中のMgイオンは0.3質量%以上とすることが必要である。溶液中のMgイオンが0.3質量%未満であると、十分な耐食性の向上の効果を得ることができない。Mgイオンの濃度の上限は規定せず、水溶液の飽和マグネシウムイオン濃度とする。
0057
尚、Mg化合物を溶解させた溶液を塗布又は溶液中に鋼板を浸漬後、当該鋼板を乾燥する方法は特に限定されない。室温或いは温水程度の温度にて、前記鋼板を乾燥しても良い。
0059
まず、表1に示す成分の鋼No.A〜AFを溶製し、前記鋼の鋼塊に熱間圧延を施して厚みが10mmの鋼板を製造した。得られた鋼板から試験片No.1〜35を採取して、各試験片の表面にショットブラスト処理を施した後、日本ペイント製のJIS K 5553、1種の無機ジンクリッチ塗料(ニッペジンキ1000QC:登録商標)を表2に示す厚みで塗布した。このとき、各試験片について、Mgイオンを含む水溶液の噴霧或いは浸漬による処理を施す腐食試験片と、そのまま用いる基準試験片とを準備した。
0060
0061
次に、純水と硫酸マグネシウム試薬を用いて作製した、Mgイオンを含む水溶液を、室温で、一部の試験片(試験No.6、11、13及び20)を除く他の試験片の表面に噴霧した。尚、前記一部の試験片(試験No.6、11、13及び20)はMgイオンを含む水溶液に浸漬した。乾燥後、前記試験片No.1〜35のそれぞれの表面上に形成された無機ジンク系塗料組成物含有層のMg濃度をEPMAで測定し、Mg濃度が0.2質量%以上である領域の面積割合を算出した。その結果を表2に示す。
0062
EPMAによる前記測定後、試験片を蒸留水で洗浄し、塗膜の表面に10質量%濃度の塩化カルシウム水溶液を滴下し、25℃で保持して赤錆が発生するまでの時間を計測した。試験中に塩化カルシウム水溶液から水分が揮発するため、定期的に塩化カルシウム水溶液に純水を加えて揮発分を補った。
0063
前記塗膜の表面に硫酸マグネシウム水溶液の噴霧或いは浸漬による処理が施されていない試験片(基準試験片)についても、同様に塩化カルシウム水溶液を滴下して赤錆が発生するまでの時間を計測し、耐食性の評価の基準とし、これに対する赤錆発生に要した日数の比を腐食比として求めた。試験片の表面に噴霧した水溶液又は試験片を浸漬した水溶液のMgイオン濃度(水溶液中のMgイオン濃度)及び結果を表2に示す。
0064
0065
表2に示したように、無機ジンク塗料を塗布して形成された塗膜の切断面において、0.2質量%以上のMgを含有する領域の面積の割合が5〜55%である場合に、腐食比が増加し、高耐食性がもたらされることがわかる。
0066
(塩化物に対する耐食性試験2)
更に、CrとSnとを同時に含有させた鋼の耐食性、特に、海水の飛沫帯等など、多くの塩化物が飛来し、夜間の結露と昼間の乾燥とが繰り返される腐食環境における耐食性の向上の効果を検証するため、下記の試験を行った。
0067
まず、表3に示す成分の鋼No.BA〜BWを溶製し、鋼塊に熱間圧延を施して厚みが10mmの鋼板を製造した。得られた鋼板から試験片No.51〜73を採取し、表面にショットブラスト処理を施した後、実施例1でも使用した無機ジンクリッチ塗料を表3に示す厚みで塗布した。このとき、実施例1と同様に、Mgイオンを含む水溶液による処理を施す腐食試験片と、そのまま用いる基準試験片とを準備した。
0068
次に、実施例1と同様のMgイオンを含む水溶液を、室温で試験片No.51〜73の表面に噴霧し、乾燥後、形成された無機ジンク系塗料組成物含有層のMg濃度が0.2質量%以上である領域の面積割合を実施例1と同様にして算出した。その後、実施例1と同様に、試験片を蒸留水で洗浄し、腐食試験片とした。
0069
耐食性は、5%のNaCl溶液を35℃で2時間噴霧(塩水噴霧工程)し、停止後、相対湿度(RH)30%以下、60℃で4時間保持し(乾燥工程)、相対湿度(RH)95%以上、50℃で2時間保持する(湿潤工程)を1サイクルとする複合サイクル腐食試験(Cyclic Corrosion Test、以下、「CCT」という。)を行い、赤錆が発生するまでのサイクル数を計測して評価した。
0070
前記塗膜の表面に硫酸マグネシウム水溶液を噴霧或いは浸漬する処理が施されていない試験片(基準試験片)についても、CCTを実施し、赤錆が発生するまでのサイクル数を計測して耐食性の評価の基準とし、これに対する赤錆発生に要したサイクル数の比を腐食比として求めた。表4に示すように、Cr単独あるいはSn単独と比較して、CrとSnとを同時に含有させたものは、より大きな腐食比が得られ、著しく耐食性が向上している。
0071
実施例
0072
0073
本発明は、汎用の無機ジンク系塗料の利用や、補修などによる塗装鋼材の耐食性能の向上などを可能にして、コストの削減に寄与することができる。
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