図面 (/)
課題
手段
概要
背景
木造建物の多くが白蟻の被害を受けている。白蟻は木材には木口から浸入することが多く、木口から浸入した白蟻は、筋目に沿って柔らかい部分を食い進んでいく。このため、木材の食害態様としては、まず、長手方向に長い蟻道が空くのが一般的であり、食害が進むと、表面(外面)にも凹所やクラックが見られるようになる(白蟻(ヤマトシロアリ)は光や乾燥を嫌うので、木材が、光が当たったり乾燥したりする環境にある場合は、表面には食害が及ばない場合もある。)。
そこで、白蟻の被害を受けた木材の補修は、内部に空いた空洞や外面に生じたクラックに補強材(剤)を充填することで行っており、その例として特許文献1では、内部に空いた空所(蟻道)と連通する注入穴をドリルで空けて、この注入穴から液状の樹脂を注入して硬化させている。他方、特許文献2には、木材と同質の粉末やオガクズと接着剤及び殺虫剤とを混合させた材料を注入することが開示されている。また、特許文献2では、外面を補強板で覆った状態で補強材を注入しており、補強板は補強材の注入後に取り外される。
概要
木材に空いた蟻道に樹脂を注入して補強する方法であって、注入の確実化、防蟻性の確実化、補強機能の確実化をる。補修剤10は、エポキシ樹脂等の樹脂10aを主剤として、これにガラスバルーン10bのような強度低下材料と、チアメトキサム10cのような防蟻剤とを混合した構成になっている。ガラスバルーン10bの存在により、硬化後の補修剤10は木材部分と同様のしなりを持つように強度が低下するため、補修剤10が内部で突っ張ることによる耐久性低下を防止できる。強度低下材料は非セルロース系であるため、白蟻の被害を受けることはない。また、ガラスバルーン10b等の強度低下材料は微細であるため、補修剤10は高い流動性を維持できる。
目的
効果
実績
- 技術文献被引用数
- 1件
- 牽制数
- 0件
この技術が所属する分野
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技術分野
背景技術
0002
木造建物の多くが白蟻の被害を受けている。白蟻は木材には木口から浸入することが多く、木口から浸入した白蟻は、筋目に沿って柔らかい部分を食い進んでいく。このため、木材の食害態様としては、まず、長手方向に長い蟻道が空くのが一般的であり、食害が進むと、表面(外面)にも凹所やクラックが見られるようになる(白蟻(ヤマトシロアリ)は光や乾燥を嫌うので、木材が、光が当たったり乾燥したりする環境にある場合は、表面には食害が及ばない場合もある。)。
0003
そこで、白蟻の被害を受けた木材の補修は、内部に空いた空洞や外面に生じたクラックに補強材(剤)を充填することで行っており、その例として特許文献1では、内部に空いた空所(蟻道)と連通する注入穴をドリルで空けて、この注入穴から液状の樹脂を注入して硬化させている。他方、特許文献2には、木材と同質の粉末やオガクズと接着剤及び殺虫剤とを混合させた材料を注入することが開示されている。また、特許文献2では、外面を補強板で覆った状態で補強材を注入しており、補強板は補強材の注入後に取り外される。
先行技術
0004
特開昭61−158567号公報
特開平05−079195号公報
発明が解決しようとする課題
0005
さて、樹脂は硬化すると高い強度を持つ。このような性質を利用して、木材に含浸させて補強することも行われている。含浸の場合は、樹脂は木材を構成する繊維の間に浸入するため、木材は全体として非常に高い強度を有する。
0006
他方、白蟻に食われて形成された空洞(蟻道)に樹脂を充填した場合、樹脂が木材の全体に含浸するわけではなく、いわば、木材の内部に硬い異物が存在するような状態になるため、木材に固有の弾性率と樹脂の弾性率とが相違することにより、撓みや圧縮等の荷重に対しての変形が木材と樹脂とで相違してしまい、補強剤が内部で突っ張った状態になって、十分な補強硬化を得られないおそれがある。つまり、木材としてのしなりが樹脂によって阻害され、食害を受けていない部分に過大な負担が掛かってしまうおそれがある。
0007
この点について、特許文献2では、補強材の主材を木材と同質の木粉やオガクズで構成しているため、補強材の機械的性質を木材の機械的性質に合わせることが容易になると推測される。しかし、木粉やオガクズが主体であると補強材の流れが悪くて、空洞の隅々まで行き亙りにくくなることが懸念される。また、木粉やオガクズは白蟻の好物であるため、殺虫剤の効きが悪いと、補強のために充填した木粉やオガクズが白蟻の食害を受けて、補強材の意味がなくなってしまう事態も生じかねない。
課題を解決するための手段
0009
本願発明は、木材の補修方法とこれに使用する補修剤とを含んでおり、補修方法の典型を請求項1〜4で特定している。このうち請求項1の発明は上位概念を成すもので、この方法は、木材の内部又は表面に空いた空所に、流体状合成樹脂に防蟻剤と微細な非セルロース系強度低下材料とを混合して成る流体状補修剤を充填してから硬化させるものである。
0010
補修剤に使用する樹脂は様々なものを使用できるが、請求項2では、エポキシ樹脂を採用している。また、非セルロース系の強度低下材料としては、樹脂ビーズのような樹脂製品や粉末状ゼオライトのような鉱物系微細粒体、タルク、或いは珪酸カルシウム粉末のような無機化成品など様々な素材を使用できるが、請求項3では、強度低下材料として、ガラスバルーン又はフライアッシュ、若しくはその他の珪素系無機中空球体を採用している。
0011
また、防蟻剤も様々なものを使用できるが、請求項4では、チアメトキサム又はその他のネオニコチノイド系薬剤を採用している。なお、ネオニコチノイド系の他の防蟻剤成分としては、イミダクトプリド、アセタミプリド、クロチアニジン、ジノテフランなどが挙げられる。他の化学系防蟻剤としては、ピレスロイド系のベルメトリン、トラロメトリン、ビフェントリン、シフェノトリン、プラレトリンが挙げられ、非エステルピレスロイド系のエトフェンブロックス、シラフルオフェン、フェニルピロール系のクロルフェナピル、フェニルピラゾール系のフィプロニル、カーバメイト系としてフェノブカルブなどが挙げられ。天然物系のものもの使用できる。
0012
補修剤は、請求項5,6で特定している。このうち請求項5の発明は上位概念を成すものであり、補修剤は、流体状合成樹脂に微細な非セルロース系強度低下材料を混合して構成されている。
0013
請求項5の発明の補修剤の具体例として、請求項6の発明では、前記強度低下材料は、ガラスバルーン又はフライアッシュ若しくはその他の珪素系中空球体であり、かつ、前記強度低下材料に加えて防蟻剤を混合している。
0014
なお、強度低下材料にしても防蟻剤にしても、単一の種類を混合することには限らないのであり、それぞれ複数種類を混合することも可能である。
発明の効果
0015
本願発明では、補修剤の主要材料として樹脂を使用しつつ、非セルロース系の強度低下材料が混入しているため、補強部の曲げ強度や圧縮強度のような機械的性質(機械的強度)を、木材自体の機械的性質に近づけることができる。これにより、木材と補修剤との一体性を高めて、木材の特定部位に負担がかかること(補修剤が木材の内部で突っ張ること)を防止できる。その結果、高い耐久性と補強硬化を得ることができる。
0016
そして、請求項1のように補修剤に防蟻剤を添加することにより、高い防蟻性能を発揮できるが、強度低下材料は非セルロース系であるため、強度低下材料が白蟻の被害の対象になることはなくて、高い防蟻性能も維持できる。また、強度低下材料は微細なものの集まりであるため、高い流動性を維持できる。従って、充填も容易で空所の隅々まで行き渡らせることができる。
0017
樹脂には各種のものが存在するが、エポキシ樹脂は接着剤にも多用されていて高い接着性を有するのみならず、化学反応によって硬化して架橋構造になるため、木材の内部においても放置しておくだけで速やかに硬化する。従って、請求項2のようにエポキシ樹脂を使用すると、強度や信頼性において優れている。
0018
請求項3のように、強度低下材料としてガラスバルーン又はフライアッシュのような珪素系無機中空球体を採用すると、補修剤の重量増大を防止してむしろ軽量化に貢献できるのみならず、木粉やオガクズに比べて遥かに微細であるため、補修剤の流動性を高めて凹所の狭い場所にも行き渡らせることができる。
0019
防蟻剤には、天然系材料や合成薬剤など様々なものを使用できるが、請求項4のようにチアメトキサムその他のネオニコチノイド系のものを使用すると、高い防蟻効果を発揮しつつ人体への安全性に優れているため、好適である。
図面の簡単な説明
0021
第1実施形態の施工方法を示す図で、(A)は一部破断正面図、(B)は注入穴の加工状態を示す図である。
第1実施形態における注入状態を示す図で、(A)は縦断正面図、(B)は平断面図である。
(A)(B)とも他の施工方法を示す図である。
他の施工方法を示す図である。
更に他の施工方法を示す図である。
実施例
0022
(1).第1実施形態(図1〜2)
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。まず、図1〜2に示す第1実施形態を説明する。この実施形態では、木材1は、土台2を支える基礎柱の補修例を示している。基礎柱たる木材1は、玉石3に載っている。
0023
この例では、木材1の内部に、白蟻に食われた空所(蟻道)4が長手方向に延びるように空いている。内部の空所4は、表面に向けては分岐していない。すなわち、白蟻の職害は表面には及んでいない。
0024
そこで、補修方法としては、まず、木材1の適当な高さ位置に、注入穴5をドリル6によって空ける。注入穴5は1個所でもよいし、例えば平行な2つの面に2か所空けるなどしてもよい。対象木材が梁材や土台、或いは床上の柱のように長い長さである場合は、長手方向に飛び飛びで複数個所空けるのが好ましいといえる。
0025
木材1の四周の各面には補強板7を重ねており、平行な2枚の補強板7を、しゃこ万力等のクランプ装置8で押さえ固定している。そして、1つの補強板7にノズル9をねじ込み等で接続し、ノズル9から注入穴5に向けて補修剤10を加圧注入する。ノズル9は、チューブ(ホース)11を介して容器12と接続されており、容器12から補修剤10が供給される。
0026
容器12は例えば円筒状であり、手動式ガンに装着して、プランジャの前進動によって補修剤10を押し出すことができる。手動式でなく、電動式等の動力式ポンプ手段によって圧送することも可能である。手動式の場合、チューブ11を使用せず、容器12の先端にノズル9を直付けすることも可能である。
0027
補修剤10としては、図1(C)に模式的に示すように、エポキシ樹脂10aに、強度低下材料としてのガラスバルーン10b、及び、防蟻剤としてのチアメトキサム10cを混合したものが使用されている。ガラスバルーン10bは、例えば平均粒径が50〜100μm程度のものが使用される。補修剤10には、必要に応じて粘度調整剤(溶剤)を添加できる。
0028
ガラスバルーン10bの添加量は、対象になる木材の種類や空所4の大きさ(木材1の断面積に対する空所4の比率)等によって相違するが、例えば、体積で見て半分程度をガラスバルーン10bで構成することも可能である。一般的には、ガラスバルーン10bの混合割合は、全体に対する体積比(内掛け)で、20〜30%でよいと云える。木材1の断面積に対する空所4の比率が小さい場合は、補修剤10も撓みやすくなるので、ガラスバルーン10bの混入量は少なくてよいといえる。
0029
なお、ガラスバルーン10bの比重を樹脂の比重と同じ程度に設定しておくと、樹脂に均等に混ぜた状態を長時間に亙って維持できるため、使用に際して一々容器を振って混ぜ合わせるような手間がなくて好適である。
0030
本実施形態の木材1(基礎柱)の場合は、荷重は軸方向に対する圧縮荷重として作用するだけである。従って、木材1は座屈に対する抵抗を高めたらよいため、ガラスバルーン10bの混入量は少なくてもよいといえる。土台2の場合も圧縮荷重しか作用しないため、ガラスバルーン10bの添加量は少なくよいと云える。
0031
対象の木材1が梁材や桁材、むな木のように曲げ荷重が作用するものである場合は、硬化後の補修剤10が木材部分と同じ程度に撓むように、ガラスバルーン10bの添加量を調節して強度を調節したらよい。従って、梁のように曲げ荷重がかかる木材と、柱のように圧縮荷重がかかる木材とで、ガラスバルーン10b等の強度低下材料の混合割合を異ならせてもよい。現場で対応するのが手間である場合は、曲げ荷重に対応した混合割合のものを標準品として用意しておいて、これを各種の木材に使用したらよい。
0032
本実施形態では、空所4は木材1の外面には分岐していないので、補強板7は、補修剤10の注入による木材1の膨れ防止の役割を果たしている。木材1が補修剤10の注入圧力に耐えるに十分な強度を有する場合は、補強板7は必ずしも必要ではないのであり、その場合は、ノズル9を注入穴5にねじ込み等で知直接に接続してもよい。
0033
図2(B)に示すように、木材1の外面にも何らかの理由で空所が存在する場合は、内部の空所4に充填するものと同じ補修剤10を充填したり、防蟻性パテを充填したりしたらよい。図では、内部の空所4に充填するものと同じ補修剤10を充填した状態を示している。
0034
補修剤10が硬化したら、補強板7を取り外す。これによって作業は完了する。硬化によって補修剤10は補強機能を発揮するが、ガラスバルーン10bの混入により、曲げ強度や圧縮強度等の機械的性質を木材1と同じ程度に保持できるため、全体を被害前の木材にリニューアルしたような状態に復元できる。従って、木質部分の特定個所に応力が集中することを防止して、全体の耐久性と強度とを向上できる。
0035
また、ガラスバルーン10bは珪素を主要成分とした無機材であるため、白蟻の食害を受けることは皆無であって高い防蟻性能を維持できる。更に、ガラスバルーン10bは平均粒径が50〜100μmと微細であるため、補修剤10の流動性を損なうことはなくて、空所4の隅々まで行き渡らせることができる。
0036
なお、本願発明は、作業員が建物に赴いて、建物を分解せずに木材を補修する場合のみでなく、建物を全体的又は部分的に解体して、構成要素たる木材を工場や作業場で補修する場合も含んでいる。歴史的な建造物では解体して修理することが多いので、本願発明も場所の制約を受けずに容易に実施できるといえる。
0037
(2).第2〜3実施形態(図3)
補修剤10は注入穴5から注入されるが、注入穴5の位置は空所4の位置に依存するものであり、必ずしも木材1の側面に中心線に沿った個所に位置しているとは限らない。すなわち、注入穴5は、木材1の一側面のどこに位置するかは一定していない場合が多い。
0038
この点について図3(A)に示す第2実施形態では、補強板7に多数のノズル穴16を空けておいて、任意のノズル穴16にノズル9を取付けできるようにすると共に、使用しないノズル穴16はプラグ17で塞いでいる。従って、木材1の側面のどの部分に注入穴5が空いていても、補強板7で補強しつつ補修剤10を注入できる(補強板7は、木材1の一側面に全体的に重なっている必要はないのであり、一側面が多少は補強板7の外側に露出していても構わない。)。
0039
図3(B)に示す第3実施形態では、ノズル9が取り付けられた当て板18と、他の補強板7とを併用している(当て板18を使用せずに、ノズル9を注入穴5に直接接続することも可能である。)。この実施形態から理解できるように、木材1の一側面に複数枚の補強板7を配置してもよいのである。
0040
(3).第4実施形態(図4)
図4では、対象の木材1は、その表面にも空所4,14が存在していて、内部の空所(蟻道)4と表面の空所4,14とが連通している。この場合の補修方法の一例として、図4の第4実施形態では、補強板7は使用せずに、内部の空所4に対して注入穴5から補修剤10を注入し、補修剤10を内部の空所4から表面の空所4,14に導いて、表面の空所4,14から補修剤10を溢れさせている。
0041
内外の空所4,14が連通していると、補修剤10を注入穴5に加圧注入しても木材1の内部には圧力はさほど生じないため、必ずしも補強板7は必要はないといえる。そして、表面の空所14から溢れた補修剤10は、ヘラ19で掻き取っている。外観等の問題や垂れ落ちの問題がなければ、溢れた補修剤10をそのままにしておいてもよい。
0042
図示は省略するが、内外の空所4,14が連通している場合、第1実施形態のように木材1の各側面に補強板7を重ね配置して、補強板7によって表面の空所14を塞ぎ、その状態で内部の空所4に補修剤10を充填してもよい。この場合は、表面の凹所14には、補修剤10が木材1の側面と同一面を成した状態に充満する。
0043
(4).第5実施形態(図5)・その他
図4の第5実施形態も、対象の木材1はその内外に空所4,14が存在しており、表面の空所4,14の多くは内部の空所4と連通している。そして、この実施形態では、表面の科各凹所11に補修剤10を充填して、次いで、ヘラ19で余分な部分を掻き取っている。すなわち、まず、表面を補修剤10で修復するのである。
0044
図では、表面の各空所4,14に補修剤10を充填している状態を示しているが、左官作業のように、木材1の一端部に補修剤10を盛り込んで、これをヘラで他端に向けて引き移動させることにより、各空所4,14に補修剤10を充填してもよい。表面の空所4,14が多い場合は、こちらの方が作業性がよいと推測される。
0045
そして、表面の補修剤10が硬化してから、内部の空所4に対して注入穴5から補修剤10を注入する。この場合、補修剤10の注入によって木材1に大きな内圧がかかる場合は、木材1の4側面のうち、全面又は平行な2面等に補強板7を重ねたらよい。
0046
本実施形態は、上記各実施形態の他にも様々に具体化できる。例えば、木材の長さが長い場合は、注入穴から離れた端部に、内部の空所に連通した真空吸引穴を設けて、空所を負圧状態にして補修剤を充填することにより、補修剤を速やかにかつ隅々まで行き渡らせることができる。
0047
また、木材の内部又は表面に空いている空所は白蟻を原因にしたものには限らない。すなわち、本願発明の対象は、白蟻の被害を受けた木材の補修には限定されない。木材は伐採前から芯に空洞が空いている場合があるが、本願発明は、このような木材の補強にも適用できる。また、乾燥によって表面にクラックが生じることがあるが、このような木材の修復にも適用できるのである。この場合は、防蟻剤の混入は必ずしも必要ない。
0048
本願発明は、実際に建造物等の木材の修復に適用できる。従って、産業上利用できる。