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技術 永久磁石、及び、それを備えた回転機

出願人 TDK株式会社
発明者 鈴木健一門田祥悟福地英一郎
出願日 2015年4月21日 (5年2ヶ月経過) 出願番号 2015-086570
公開日 2016年12月8日 (3年6ヶ月経過) 公開番号 2016-207798
状態 特許登録済
技術分野 硬質磁性材料 粉末冶金 磁性薄膜
主要キーワード 酸化防止対策 固有位置 パルス通電加熱 タップ充填 ひずめ 薄膜体 ミリメートルオーダー 遮蔽機構
関連する未来課題
重要な関連分野

この項目の情報は公開日時点(2016年12月8日)のものです。
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図面 (3)

課題

高い飽和磁化Is及び保磁力HcJを具備し、希土類元素Rを用いずとも製造可能である永久磁石を提供する。

解決手段

FeとT(TはCoまたはNiを必須とする1種類以上の遷移金属元素)の濃度が交互に変化する周期構造を有し、濃度の変化の周期が3.3nm以下であり、濃度の変化におけるFeの濃度差が5at%以上である。

概要

背景

正方晶R2T14B構造からなる化合物を主相とするR−T−B系永久磁石(Rは希土類元素、TはFeまたはその一部がCoによって置換されたFe、Bはホウ素)は優れた磁気特性を有することが知られており、1982年の発明(特許文献1)以来、代表的な高性能永久磁石である。

R−T−B系永久磁石の優れた磁気特性は正方晶R2T14B構造の結晶磁気方性に起因する。特に、希土類元素RがNd、Pr、Dy、Ho、TbからなるR−T−B系永久磁石は結晶磁気異方性が大きく永久磁石材料として好ましい。しかしながら、前記の希土類元素Rの産出は一部の地域に偏在しており、供給安定性の面から不安を抱えている。また、希土類元素Rは易酸化性であるために耐食性が低く、R−T−B系永久磁石にはNiめっきなどの酸化防止対策が必要となる。

結晶磁気異方性は結晶構造中における原子配置電子雲の形状によって決定され、前記のR2T14B構造からなる化合物において、c軸磁化容易軸が平行であることはR2T14B構造が正方晶であることに由来する。すなわち、結晶構造が等方的でないことが、優れた永久磁石材料に要求される、高い磁気異方性発現に必要な一要素であるといえる。

一方、高い飽和磁化Isを有する実用材料としてFeCo(パーメンジュール)が知られている。FeCoの飽和磁化Isは2.4Tにおよび、R−T−B系永久磁石の代表であるNd2Fe14Bの飽和磁化Isである1.6Tはおろか、Fe(純鉄)の飽和磁化Isである2.2Tをも大きく上回る。しかしながら、FeCoは体心立方(bcc:body−centered−cubic)構造であり、等方的な結晶構造を有している。そのため、磁気異方性は低く、優れた軟磁性材料として用いられる。すなわち、永久磁石としては好適でない。

ところが、等方的な体心立方構造であるFeCoの結晶構造を体心正方構造へとひずませることによって結晶構造が異方的となり、磁気異方性が発現することが示唆されている(非特許文献1)。保磁力Hcの起源となる磁気異方性がFeCoに発現すれば、FeCoが有する高い飽和磁化Isと相まって、優れた永久磁石材料となることが期待される。しかしながら、この示唆は第一原理計算シミュレーションに基づくものであり、計算される値は絶対零度(0K)における値であるなど、現実の物性とは大きな乖離を伴う。

計算シミュレーションに依れば、FeCoに十分な磁気異方性が発現するために必要な正方晶ひずみは非常に大きく、伸長方向であるc軸と圧縮方向であるa軸の比c/aが凡そ1.2の場合であるとされている。この値は金属の弾性限界をはるかに上回り、c/a=1.2におよぶひずみをFeCoに加えようとしても、原子間のすべりによる塑性変形によってひずみは導入されない。すなわち、いわゆるFeCo合金を以て、永久磁石とすることは極めて困難であるといえる。

特開昭59−46008号公報
Physical Review Letters, 027203−1, Volume93, Number2 (2004) “Giant Magnetic Anisotoropy in Tetragonal FeCo Alloys”
第38回日本磁気学会学術講演概要集, 4aE−1 (2014) “MgO(001)基板上に成長させたRh/FeCo膜の磁気特性”

概要

高い飽和磁化Is及び保磁力HcJを具備し、希土類元素Rを用いずとも製造可能である永久磁石を提供する。FeとT(TはCoまたはNiを必須とする1種類以上の遷移金属元素)の濃度が交互に変化する周期構造を有し、濃度の変化の周期が3.3nm以下であり、濃度の変化におけるFeの濃度差が5at%以上である。

目的

本発明はこうした状況を認識してなされたものであり、高い飽和磁化Isを有するFeCoに磁気異方性を付与し、保磁力Hcを発現させることによって、希土類元素Rを用いずとも優れた磁気特性を有する永久磁石を提供する

効果

実績

技術文献被引用数
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牽制数
0件

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請求項1

FeとT(TはCoまたはNiを必須とする1種類以上の遷移金属元素)の濃度が交互に変化する周期構造を有し、前記濃度の変化の周期が3.3nm以下であり、前記濃度の変化におけるFeの濃度差が5at%以上であることを特徴とする永久磁石

請求項2

前記周期構造における組成がFe1−xTx(0.15≦x≦0.8)であることを特徴とする、請求項1に記載の永久磁石。

請求項3

請求項1または2に記載の永久磁石を備える回転機

技術分野

0001

本発明は、永久磁石、及び、それを備えた回転機に関する。

背景技術

0002

正方晶R2T14B構造からなる化合物を主相とするR−T−B系永久磁石(Rは希土類元素、TはFeまたはその一部がCoによって置換されたFe、Bはホウ素)は優れた磁気特性を有することが知られており、1982年の発明(特許文献1)以来、代表的な高性能永久磁石である。

0003

R−T−B系永久磁石の優れた磁気特性は正方晶R2T14B構造の結晶磁気方性に起因する。特に、希土類元素RがNd、Pr、Dy、Ho、TbからなるR−T−B系永久磁石は結晶磁気異方性が大きく永久磁石材料として好ましい。しかしながら、前記の希土類元素Rの産出は一部の地域に偏在しており、供給安定性の面から不安を抱えている。また、希土類元素Rは易酸化性であるために耐食性が低く、R−T−B系永久磁石にはNiめっきなどの酸化防止対策が必要となる。

0004

結晶磁気異方性は結晶構造中における原子配置電子雲の形状によって決定され、前記のR2T14B構造からなる化合物において、c軸磁化容易軸が平行であることはR2T14B構造が正方晶であることに由来する。すなわち、結晶構造が等方的でないことが、優れた永久磁石材料に要求される、高い磁気異方性発現に必要な一要素であるといえる。

0005

一方、高い飽和磁化Isを有する実用材料としてFeCo(パーメンジュール)が知られている。FeCoの飽和磁化Isは2.4Tにおよび、R−T−B系永久磁石の代表であるNd2Fe14Bの飽和磁化Isである1.6Tはおろか、Fe(純鉄)の飽和磁化Isである2.2Tをも大きく上回る。しかしながら、FeCoは体心立方(bcc:body−centered−cubic)構造であり、等方的な結晶構造を有している。そのため、磁気異方性は低く、優れた軟磁性材料として用いられる。すなわち、永久磁石としては好適でない。

0006

ところが、等方的な体心立方構造であるFeCoの結晶構造を体心正方構造へとひずませることによって結晶構造が異方的となり、磁気異方性が発現することが示唆されている(非特許文献1)。保磁力Hcの起源となる磁気異方性がFeCoに発現すれば、FeCoが有する高い飽和磁化Isと相まって、優れた永久磁石材料となることが期待される。しかしながら、この示唆は第一原理計算シミュレーションに基づくものであり、計算される値は絶対零度(0K)における値であるなど、現実の物性とは大きな乖離を伴う。

0007

計算シミュレーションに依れば、FeCoに十分な磁気異方性が発現するために必要な正方晶ひずみは非常に大きく、伸長方向であるc軸と圧縮方向であるa軸の比c/aが凡そ1.2の場合であるとされている。この値は金属の弾性限界をはるかに上回り、c/a=1.2におよぶひずみをFeCoに加えようとしても、原子間のすべりによる塑性変形によってひずみは導入されない。すなわち、いわゆるFeCo合金を以て、永久磁石とすることは極めて困難であるといえる。

0008

特開昭59−46008号公報
Physical Review Letters, 027203−1, Volume93, Number2 (2004) “Giant Magnetic Anisotoropy in Tetragonal FeCo Alloys”
第38回日本磁気学会学術講演概要集, 4aE−1 (2014) “MgO(001)基板上に成長させたRh/FeCo膜の磁気特性”

発明が解決しようとする課題

0009

本発明はこうした状況を認識してなされたものであり、高い飽和磁化Isを有するFeCoに磁気異方性を付与し、保磁力Hcを発現させることによって、希土類元素Rを用いずとも優れた磁気特性を有する永久磁石を提供することを目的とする。

課題を解決するための手段

0010

本発明の永久磁石は、FeとT(TはCoまたはNiを必須とする1種類以上の遷移金属元素)の濃度が交互に変化する周期構造を有し、前記濃度の変化の周期が3.3nm以下であり、前記濃度の変化におけるFeの濃度差が5at%以上であることを特徴とする。

0011

等方的な体心立方構造であるFeCoの結晶構造を体心正方構造へとひずませることによって結晶構造が異方的となり、磁気異方性が発現することが第一原理計算シミュレーションによって示唆されている。しかしながら、FeCoに十分な磁気異方性が発現するために必要な正方晶ひずみは非常に大きく、伸長方向であるc軸と圧縮方向であるa軸の比c/aが凡そ1.2の場合であるとされており、金属の弾性限界をはるかに上回る。すなわち、いわゆるFeCo合金を以て、永久磁石とすることは極めて困難であると考えられる。

0012

固体物質が界面において何らかの方位関係を有していることをエピタキシーと称し、界面を隔てた両者が同種である場合をホモエピタキシー、異種である場合をヘテロエピタキシーと分類される。ヘテロエピタキシーにおいて、両者の格子定数がわずかに異なる場合、両者は互いにひずんで整合することが知られている。この界面近傍におけるひずみは原子層レベルミクロ事象であり、弾性限界のようなマクロな物性に制約されない。すなわち、ヘテロエピタキシー界面におけるひずみを利用すれば、第一原理計算シミュレーションによって示唆される正方晶FeCoが実現できる。

0013

ヘテロエピタキシー界面を得る方法として分子線エピタキシー(MBE:Molecular Beam Epitaxy)法などの薄膜法がある。MBE法高真空中に導いた原子(もしくは分子)のビームを制御しながら、下地結晶面と一定の方位関係をもった結晶を成長させることができる技術であり、本発明に必要なFeとTの濃度が交互に変化する周期構造を容易に作製することができる。しかしながら、MBE法は結晶成長制御性に優れる反面、堆積速度が極めて小さい。そのため、実用磁石に要求される十分な磁束を取り出しうるサイズをMBE法などの薄膜法にて得ることは極めて困難である。

0014

ヘテロエピタキシー界面のひずみによって磁気異方性を有する正方晶FeCoを得た報告例として、薄膜法を用いてRh(ロジウム下地層上に積層されたFeCo膜がある(非特許文献2)。しかしながら、Rhは白金族元素であるため、資源量および価格の観点から、永久磁石材料として好適でない。

0015

本発明者らは、FeとTを濃度が3.3nm以下の周期にて交互に変化する周期構造とすることによって、希土類元素Rや白金族元素を用いずとも体心正方晶FeCoが得られることを見出した。また、この周期構造は、バルク化が困難なMBE法などの薄膜法を用いずとも、緻密に制御された拡散によって得られることを見出した。

0016

界面を隔てて存在する異種の固体物質に何らかのエネルギーが加わると拡散が生じる。拡散によって異種の固体物質は互いに均一に混じり合った状態となり、これを固溶体という。全組成にわたって固溶体をつくる場合と、限られた組成範囲のみにて固溶体をつくる場合がある。固溶体には、一方の物質が他方の物質の固有位置すきまに位置する侵入型固溶体と、一方の物質の固有位置を他方の物質が置換する置換型固溶体がある。例えば、Feに対してCoは約80at%まで、Feの構造である体心立方(bcc)構造を維持したままFeの固有位置を置換する。すなわち、FeCoはFeとCoの拡散によって置換型固溶体として得ることができる。

0017

拡散を駆動力とした異種の固体物質界面における固溶体の形成の度合い、すなわち拡散距離は加えるエネルギーによって制御可能である。固体物質の拡散を制御するために好適なエネルギーは熱であり、温度と時間の積として与えられる。例えば、FeとCoの界面において拡散に十分な熱エネルギー(すなわち、十分な温度もしくは十分な時間)が与えられたならば、均一なFeCo固溶体が得られる。一方、熱エネルギーが十分でない場合には、FeとCoの界面の一部がFeCo固溶体となり、拡散しきれなかったFeやCoは残存する。

0018

FeCo固溶体の格子定数は組成(FeとCoの比)によって連続的に変化することが知られている。熱エネルギーが十分でないFeとCoの界面の拡散反応によって生成したFeCo固溶体と、残存したFeやCoにおいて、組成は連続的に変化している。組成の変化に伴って格子定数も連続的に変化しており、格子定数の連続的な変化は原子層レベルにおけるひずみを連続的に生じさせていると考えられる。すなわち、FeとCoの界面から生成した十分に均一でないFeCo固溶体には、ひずみに起因した磁気異方性を発現させることが可能となる。

0019

拡散前の構造(FeとCoの周期)を適切に設計することによって、拡散後の構造を制御することが可能である。僅かな熱エネルギーにてFeCo固溶体を得るためには、拡散前のFeとCoの周期構造を微細なものとすればよく、大きな熱エネルギーを加えた後もFeCo固溶体が均一でない状態を保つためには、拡散前のFeとCoの周期構造を粗大なものとすればよい。ただし、粗大すぎる周期構造を有するFeとCoから作製されたFeCo固溶体は、組成の変化(すなわち、格子定数の変化)が緩やかであるため、ひずみに起因した磁気異方性が十分に発現しない。

0020

拡散前の構造(FeとCoの比率)を適切に設計することによって、拡散後の構造を制御することが可能である。拡散後にFeCo固溶体とFeからなる周期構造を得るためには、拡散前の構造におけるFeの占める割合を増やせばよく、拡散後にFeCo固溶体とCoからなる周期構造を得るためには拡散前の構造におけるCoの占める割合を増やせばよい。

0021

FeとCoの周期構造から、拡散によってFeCoを置換型固溶体として得るためには、FeとCoの固有位置が相互に入れ替わらなければならず、固有位置の入れ替えに必要なエネルギー(拡散の駆動力)を外部より与えなければならない。ただし、FeとCoの周期構造が微細である場合には、固有位置の入れ替えに必要なエネルギーは僅かでよく、過剰なエネルギーが与えられれば得られるFeCo固溶体は均一なものとなってしまう。すなわち、組成の変化が残存したFeCo固溶体を得るためには、エネルギー(多くの場合は熱エネルギー)を緻密に制御しなければならない。

0022

組成の変化が残存したFeCo固溶体を比較的容易な製造条件にて得るために、X(XはB、C、Nの1種類以上からなる元素)の添加が有効である。XはFeやCoと比してイオン半径が小さく固有位置のすきまに位置する侵入型固溶体となる格子間侵入元素である。Xが固有位置のすきまに位置すると、FeとCoが相互に入れ替わることは困難となり、拡散にはより大きなエネルギーが必要となる。すなわち、熱エネルギーを緻密に制御せずとも、組成の変化が残存したFeCo固溶体を得ることができる。

0023

FeとCoの拡散によって得られる組成の変化を有するFeCo固溶体のうち、十分に微細な周期構造を有するものは、ひずみに起因した磁気異方性が発現する。しかしながら、微細な周期構造からなる組成の変化は、僅かな熱エネルギーによる拡散によって均一となり、組成の変化は消滅してしまう。すなわち、組成の変化を有するFeCo固溶体は熱的安定性に課題があり、高温環境における使用に好適でない。

0024

格子間侵入元素Xが固有位置のすきまに位置することによってFeとCoが相互に入れ替わることが困難となり拡散に大きなエネルギーが必要となれば、組成の変化を有するFeCo固溶体を均一にするために必要な熱エネルギーも増大する。すなわち、格子間侵入元素Xの添加は組成の変化を有するFeCo固溶体の熱的安定性の向上に寄与しうる。

0025

格子間侵入元素XはFeCo固溶体の固有位置のすきまのうち何れにも位置しうるが、適当な条件(濃度、温度、時間)の下においては、系のエネルギーを最小とする所定のすきまに選択的に位置する。所定のすきまに位置した格子間侵入元素Xによって、FeCo固溶体の結晶格子立方晶から正方晶へとひずみ、ひずみに起因した磁気異方性が発現する。すなわち、格子間侵入元素XによってもFeCoは永久磁石となりうる。ただし、格子間侵入元素Xが所定のすきまに位置することによってひずめられたFeCoは、Xの電子によって磁気異方性が変化するため、立方晶FeCoを単純に正方晶へとひずませた場合よりも磁気異方性が小さいと考えられる。

発明の効果

0026

本発明によれば、FeとT(TはCoまたはNiを必須とする1種類以上の遷移金属元素)の濃度が交互に変化する周期構造とすることによって、希土類元素Rを用いずとも優れた磁気特性を有する永久磁石を得ることができる。

図面の簡単な説明

0027

本発明の実施例4における、FeとCoの濃度が交互に変化する周期構造を有する試料HADF像(a)と、周期の長さを決定するためにHAADF像中の矩形領域より取得された輝度プロファイル(b)である。
本発明の実施例4における、FeとCoの濃度が交互に変化する周期構造を有する試料のHAADF像(a)、周期構造部を拡大・抽出したHAADF像(b)および、周期構造部より取得された組成プロファイル(c)である。

0028

以下、本発明の好適な実施の形態を詳述する。なお、実施の形態は発明を限定するものではなく例示であり、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。

0029

本発明の永久磁石は、FeとT(TはCoまたはNiを必須とする1種類以上の遷移金属元素)の濃度が交互に変化する周期構造を有し、前記濃度の変化の周期が3.3nm以下であることを特徴とする。

0030

本実施形態において、TはCoまたはNiを必須とする1種類以上の遷移金属元素である。FeCoは実用材料とした最大である2.4Tの飽和磁化Isを有し、優れた磁気特性を得ることができる。また、FeNiの飽和磁化Isは1.6Tであり、FeCoにはおよばないものの、現在もっとも優れた実用磁石材料であるNd2Fe14Bと同等の磁気特性を得ることができる。

0031

本実施形態において、FeとTは濃度が交互に変化する周期構造を有する。濃度の交互の変化は連続的であっても、量子的であってもよい。また、連続的な変化と量子的な変化の組合せであってもよい。FeとTは広い組成範囲にて固溶体を形成しうるため、連続的な組成変化を実現可能である。また、量子的な組成変化とはFeとTのみならず、FeとFeT、FeTとT、FeとFeTとT、Fe過剰なFeTとT過剰なFeTのような組合せであってもよい。

0032

本実施形態において、FeとTの濃度が交互に変化する周期は3.3nm以下である。格子定数がわずかに異なるヘテロエピタキシー界面はひずみを包含して整合するが、界面からの距離が離れるに従ってひずみは徐々に緩和される。そのため、FeとTの濃度の周期が過大である場合には、構造中の大部分においてひずみが存在せず、ひずみに起因した磁気異方性は十分に発現しない。

0033

本実施形態において、FeとTの濃度が交互に変化する周期構造におけるFeの濃度差は、好ましくは5at%以上、より好ましくは10%以上である。広い組成範囲にて置換型固溶体となるFeT固溶体は、組成によって格子定数が連続的に変化する。そのため、ヘテロエピタキシー界面における組成の差がわずかである場合には、格子定数の差もわずかであり、界面のひずみに起因した磁気異方性が十分に発現しない。

0034

本実施形態において、FeとTの濃度が交互に変化する周期構造における組成はFe1−xTx(0<x<1)である。飽和磁化Isは、xの増大に伴って緩やかに増大し、x=0.7〜0.8にて最大となった後、xの増大に伴って低下に転じる。保磁力HcJは、xの増大に伴って急峻に増大し、x=0.15にて最大となった後、xの増大に伴って低下に転じ、x>0.8にて急峻に低下する。飽和磁化Isと保磁力HcJともに優れたxの範囲は0.15≦x≦0.8である。

0035

本実施形態において、FeとTの濃度が交互に変化する周期構造における結晶構造は体心正方晶、もしくは、体心立方晶を含む。Feの結晶構造である体心立方構造を維持したままに、TがFeの固有位置を置換する置換型固溶体であるFeT固溶体は、Feと同様に体心立方構造を有する。また、体心立方構造を有するFeT固溶体が、ヘテロエピタキシー界面における格子定数の不整合によってひずめられることによって、体心正方構造へと変化し、磁気異方性が発現する。

0036

本実施形態において、FeとTの濃度が交互に変化する周期構造における組成はX(XはB、C、Nの1種類以上からなる元素)を含むことができる。Xはイオン半径が小さく固有位置のすきまに位置する侵入型固溶体となる格子間侵入元素であり、FeとTの拡散を阻害する。FeとTの拡散が適度に阻害されることによって、組成の変化が残存したFeT固溶体を比較的容易な製造条件にて得ることができる。すなわち、格子定数の変化に伴うひずみを起源とした磁気異方性を有するFeT固溶体を容易に得ることができる。

0037

本実施形態において、Xは適当な条件(濃度、温度、時間)の下において、FeTの結晶構造を立方晶から正方晶へとひずませることができる。FeTの結晶構造がひずむことによって、ひずみを起源とした磁気異方性が発現しうるが、Xの有する電子による場の変化によって、FeTを単純に正方晶化した場合と比して、添加元素Xによる磁気異方性の発現の効果は僅かである。

0038

以下、本件発明の製造方法の好適な例について説明する。

0039

本実施形態において、FeとTの濃度が交互に変化する周期構造は薄膜法やメカニカルアロイ法にて得ることができる。薄膜法はFeとTの濃度が交互に変化する周期構造を容易に実現することが可能である。しかしながら、民生、産業輸送機器に広く用いられる永久磁石同期回転機界磁用磁石に求められる十分な磁束を得るためには、少なくともミリメートルオーダーのサイズを有するバルクが必要となり、薄膜法にてバルクを作製することは容易でない。メカニカルアロイ法はボールミリングなどの機械的エネルギーを利用して、圧延と折りたたみを繰り返すことにより、微細な混合組織を得るもので、バルク作製に必要となる十分な量の紛体を作製することが可能である。ただし、メカニカルアロイ法はミリングに数時間〜数十時間を要するため、種々の条件を検討することは容易でない。そこで、本実施形態では、薄膜法(スパッタリング法)による検討にてFeとTの濃度が交互に変化する周期構造の好適な状態を知見し、薄膜法に得られた知見をもとにして、メカニカルアロイ法にてバルク作製の検証をおこなった。

0040

以下、スパッタリング法にてFeとTの濃度が交互に変化する周期構造(以下、FeT層という)を有する薄膜試料を作製する方法について説明する。

0041

出発原料としてスパッタリングターゲットを準備する。成膜装置にて共蒸着が可能である場合には、スパッタリングターゲットはFeとT(TはCoまたはNiを必須とする1種類以上の遷移金属元素)の2種類以上を準備すればよい。共蒸着が不可能もしくは困難である場合には所望の組成からなる複数の合金ターゲットを準備すればよい。FeT層を得るためのターゲットとして2種類であれば、FeとFeT、FeTとT、FeとFeTとT、Fe過剰なFeTとT過剰なFeTのような組合せが考えられる。また、添加元素X(XはB、C、Nの1種類以上からなる元素)はターゲットとして別途準備してもよく、予めXを添加した化合物ターゲットとして準備してもよい。

0042

スパッタリングターゲットの表面には大気中の成分が吸着する。特に反応性の高い金属からなるスパッタリングターゲットの表面には、大気中の酸素水蒸気との反応によって、酸化物層水酸化物層が形成される。これらの吸着層反応層を除去し、清浄なスパッタリングターゲットの露出させるために、薄膜試料の作製に先立って、プレスパッタリングをおこなうことが有効である。

0043

スパッタリング法にて薄膜試料を作製するためには基板が必要となる。基板には、各種の金属、ガラスシリコンセラミックスなどを選択して使用することができる。ただし、所望のFeT層を得るために熱処理をおこなう必要を考慮し、基板は高融点材料であることが望ましい。また、基板がFeT層と相互に拡散するなどの反応性を有すると、所望のFeT層を制御よく得ることが困難となるため、基板はFeT層と反応しにくい材料であることが望ましい。また、所望のFeT層と基板の密着性を向上させるために、スパッタ装置に備えられた逆スパッタ機構にて基板をクリーニングし、表面の吸着層を除去することが望ましい。

0044

基板とFeT層の間に下地層を設けることができる。基板とFeT層の反応を防止する目的であれば、MoやWなどの高融点材料が下地層として望ましい。また、FeT層の配向性を向上する目的であれば、FeT層の所望の配向面と基板のいずれとも整合する材料が下地層として望ましい。

0045

スパッタリング法による薄膜試料作製に用いる成膜装置(以下、スパッタ装置という)は薄膜試料に不純物酸化物水酸化物)が含まれることを低減するために、10−6Pa以下の圧力に排気可能な真空槽からなる成膜室を有していることが望ましい。また、成膜室を清浄に保つために、成膜室との接続・隔離が自在に可能な基板導入室を有していることが望ましい。さらに、プレスパッタに次いで所望のFeT層を得るために、基板とスパッタリングターゲットの間には排気状態にて操作可能な遮蔽機構を有していることが望ましい。

0046

スパッタ法低圧希ガス(主にAr)放電にてイオン化した希ガス粒子の衝撃によって弾き出されたスパッタリングターゲットが基板上に薄膜を堆積するが、このとき希ガス粒子も薄膜に包含されてしまう。このとき、希ガスに混合してN(窒素)を導入すれば、格子間侵入元素XとしてNを添加することができる。しかしながら、反応に寄与しない希ガス粒子が薄膜中に包含されることは望ましくない。

0047

薄膜に包含される希ガス粒子を低減するためには、より低圧の希ガス雰囲気にて放電し、成膜をおこなう必要がある。低圧の希ガス雰囲気にも関わらず、スパッタリングターゲット表面に高密度プラズマを発生し、安定した放電・成膜を可能とするスパッタリング法として、マグネトロン・スパッタリング法がある。

0048

マグネトロン・スパッタリング法は、スパッタリングターゲット表面の磁場と電場によってサイクロイド運動する荷電粒子によって高密度のプラズマを発生させる。このスパッタリングターゲット表面の磁場はスパッタリングターゲット裏面に配置された強力磁石によって界磁される。そのため、スパッタリングターゲットが高い透磁率を有する強磁性体である場合には、スパッタリングターゲット表面に十分な磁場が漏洩せず、安定した放電・成膜ができない。そのため、強磁性体をスパッタリングターゲットとして用いる場合には、その厚さを適当に調整することが必要となる。

0049

スパッタリングに用いる電源はスパッタリングターゲットの材質に応じて適宜選択する必要がある。スパッタリングターゲットが金属などの導体である場合には、電源はDC、RFのいずれをも選択することができる。しかし、スパッタリングターゲットが絶縁体である場合には、電源はRFもしくはRF+DCの重畳とすればよい。スパッタリング法において、成膜速度は所定の条件(ターゲット材質雰囲気圧力雰囲気ガス種・基板−ターゲット距離)の下において成膜時間および投入電力に凡そ比例する。所望のFeT層の周期が微細である場合には、成膜時間や投入電力を減じ、成膜速度を低下させればよい。なお、成膜速度は所定の条件の下において作製した試料を接触式段差計にて測定することによって得ることができる。また、スパッタ装置に備えられた水晶振動子膜厚計を用いてもよい。

0050

所望のFeT層を制御よく得るために、スパッタ装置は基板を冷却できることが望ましい。極めて微細な周期にてFeとTの濃度が交互に変化する周期構造を得ようとすると、わずかなエネルギーにて拡散が進行してしまい、全体が均一な組成となってしまう。すなわち、濃度が交互に変化する周期構造は得られない。スパッタリング法において、希ガスイオンに弾き出されたスパッタ粒子は高いエネルギーを有しており、このエネルギーによって過度に拡散が進行してしまうことがある。スパッタ粒子の有するエネルギーによる過度の拡散を防止するためには、拡散の駆動力となるエネルギーを奪うこと、すなわち、基板を冷却できることが望ましい。真空槽内に配置された基板を直接冷却することは極めて困難であり、通常は冷媒によって冷却された基板ホルダとの熱伝導によって基板は冷却される。基板ホルダを冷却する冷媒としては、循環冷却水(おおむね、5〜20℃)もしくはフッ素系不活性液体(おおむね、−120〜50℃)が用いられ、基板を冷却する温度は低いほど望ましい。また、冷媒として液体窒素(−196℃)を用いることも可能であるが、スパッタリング法に一般的に用いるArガスがー196℃にて固体となってしまうため使用できないという問題がある。

0051

所望のFeT層を制御よく得るために、成膜後の薄膜試料に対して熱処理をおこなうことが有効である。FeT固溶体をFeとTの拡散によって得るためには、拡散の駆動力となるエネルギーを与える、すなわち、熱処理をおこなうことが有効である。また、基板を加熱することによってFeT層の結晶性を向上させることもできる。スパッタ法にて作製された薄膜はアモルファスのように結晶性が低いことがあり、結晶構造中の原子配置を起源とする磁気異方性(結晶磁気異方性)が発現しにくいことがある。熱処理によって結晶性を向上させることによって、結晶磁気異方性を十分に発現させることが可能である。また、熱処理中の雰囲気は真空もしくは不活性ガス気流とすることがFeT層の酸化を防止するために好適であるが、熱処理中の雰囲気を窒素ガス気流とすることによって格子間侵入元素XとしてN(窒素)を添加することも可能となる。なお、熱処理による拡散が過度であると、全体が均一な組成となってしまい、FeとTの濃度が交互に変化する周期構造が得られないため、熱処理装置は温度および時間を緻密に制御できることが望ましい。

0052

次いで、メカニカルアロイ法にてFeとTの濃度が交互に変化する周期構造(以下、FeT層という)を有するバルク試料を作製する方法について説明する。

0053

出発原料として微細な粒子径からなる粉末(以下、微粉という)を準備する。微粉の粒子径が所望のFeT層におけるFeとTの濃度が交互に変化する周期と同等であれば、わずかなミリング時間にて所望のFeT層を得ることができるが、ナノメートルオーダーのサイズを有する超微粉は極めて高い反応性を有しているため取り扱いが困難である。また、金属は展性延性富むため、超微粉を得ることは容易ではない。長時間のミリングによって圧延と折りたたみが繰り返され微細な混合組織が得られるため、ミリングに必要となる時間を考慮して適当な粒子径の微粉を準備すればよい。

0054

出発原料として準備する微粉は所望のFeT層に応じて2種類以上を準備すればよい。FeT層を得るための微粉として2種類であれば、FeとFeT、FeTとT、FeとFeTとT、Fe過剰なFeTとT過剰なFeTのような組合せが考えられる。なお、準備する微粉の量は所望のFeT層の組成に応じて予め量してあればよい。また、添加元素X(XはB、C、Nの1種類以上からなる元素)は微粉として別途準備してもよく、予めXを添加した化合物微粉として準備してもよい。

0055

FeやTのような金属の微粉を準備することが困難な場合には、Fe酸化物やT酸化物を出発原料として用いてもよい。金属は延性・展性に富むためミリングによって微細化することが困難であるが、酸化物は延性・展性に乏しく、脆性を有するためにミリングによって微細化することが比較的容易である。ただし、酸化物を出発原料として用いた場合には、所望のFeT層を得るために還元処理をおこなう必要がある。

0056

ミリングには遊星ボールミルを用いればよい。ミリングは原料となる微粉に機械的なエネルギーを与えられれば良いが、ボールミルを用いることが機械的エネルギーの制御およびミリング中の雰囲気の制御の観点から有用である。ボールミルには、回転ボールミル振動ボールミル、遊星ボールミル、撹拌ボールミルなどの種類があるが、大きな機械的エネルギーを与えることができる遊星ボールミルが好適である。遊星ボールミルは被処理物媒体密封した容器自転公転運動させ、媒体と容器内壁によって効率的にミリングが行われるため比較的短時間にて処理を完了することが可能となる。なお、被処理物と媒体に加えて、容器に溶媒充填することにより、ミリングの効率を高めることができる場合がある。

0057

ミリングに用いる容器および媒体はクローム鋼もしくはステンレス鋼製とすればよい。強大な機械的エネルギーを長時間に渡って被処理物に与え続ける遊星ボールミルにおいては、被処理物のみならず容器や媒体も少なからずミリングされ、結果として容器や媒体が不純物として被処理物に混入する。そのため、ミリングに用いる容器や媒体の材質には、被処理物と同等もしくは不純物として混入しても問題がないことが要求される。遊星ボールミルに用いる容器および媒体の材質としては、瑪瑙酸化アルミニウム炭化タングステン酸化ジルコニウム窒化シリコンプラスチックポリアミドなどもあるが、所望のFeT層を得るためにはFeが主成分であるクローム鋼もしくはステンレス鋼製の容器および媒体を用いることが望ましい。不純物として被処理物に混入する容器および媒体の量は、ミリングの強度・時間によっておおよそ見当をつけられるため、予め被処理物の組成より減じておけばよい。なお、クローム鋼はステンレス鋼に比して炭素含有量が多いため、添加元素Xとして含まれる炭素の量に応じて選択すればよい。

0058

被処理物の還元処理には、水素雰囲気中におけるミリングが有効である。FeやTのような金属は延性・展性に富むためミリングによって微細化することが困難であるが、酸化物は延性・展性に乏しく、脆性を有するためにミリングによって微細化することができる。この微細化した酸化物微粉を水素雰囲気中にてミリングし還元することによって、金属のミリングでは得られない微細な粒子を得ることができる。なお、雰囲気中のミリングにはバルブが備えられた雰囲気制御容器を用いればよく、還元処理が完了し、酸化物である被処理物が金属微粉となるまで換気・ミリングを繰り返しておこなえばよい。

0059

金属微粉のミリングは、非酸化雰囲気中にておこなう必要がある。非酸化雰囲気としてアルゴンガスもしくは窒素ガスが好適であるが、ミリング中に金属微粉が窒化されることを防止するためには、非酸化雰囲気としてアルゴンガスがより好適である。ただし、格子間侵入元素XとしてN(窒素)を添加するために、金属微粉のミリング時の雰囲気を窒素ガスとすることもできる。

0060

金属微粉のミリングは、低温にておこなうことが望ましい。強大な機械的エネルギーを長時間に渡って与え続けると金属微粉の温度は上昇し、延性・展性が向上するために、微細化することがより困難となる。金属微粉の微細化を容易にするために冷却が有効である。また、ミリング時の冷却によって雰囲気との反応を抑制することもできる。なお、被処理物および媒体とともに液体窒素を容器に充填することによって被処理物を冷却することが可能となる。液体窒素は雰囲気制御用のバルブから注入することができ、気化による減量分は適宜追加すればよい。

0061

ミリング後によって得られた、FeとTの濃度が交互に変化する周期構造を有する微粉(以下、FeT微粉という)は不活性雰囲気中にて取り扱うことが望ましい。FeT微粉は粒径が微細であるために活性が高く、雰囲気ガスと容易に反応してしまう。反応を防止するために不活性雰囲気中にて取り扱う必要がある。不活性雰囲気はアルゴンガスもしくは窒素ガスにて満たされたグローブボックスを用いればよく、グローブボックス内の酸素量および水分量は酸素濃度計および露点計にて制御されればよい。なお、後述の熱処理および成形工程もすべてグローブボックス内に配置することが望ましい。

0062

FeT微粉は熱処理をおこなうことが望ましい。強大な機械的エネルギーを長時間に渡って与え続けることによって、圧延と折りたたみが繰り返され微細な混合組織が得られるが、混合組織の界面における整合は不十分であり、熱処理によって界面における整合性を向上させることができる。ただし、熱処理による拡散が過度であると、全体が均一な組成となってしまい、FeとTの濃度が交互に変化する周期構造が得られないため、熱処理装置は温度および時間を緻密に制御できることが望ましい。外部より熱を与える熱処理装置(いわゆる電気炉)では試料の内部よりも外部が早く昇温するため、試料に対して均一な熱処理をおこなうことができない。試料自体が発熱する誘導加熱もしくはパルス通電加熱が有用である。なお、熱処理中の雰囲気は真空もしくは不活性ガス気流とすることがFeT微粉の酸化を防止するために好適であるが、熱処理中の雰囲気を窒素ガス気流とすることによって格子間侵入元素XとしてN(窒素)を添加することも可能となる。

0063

FeT微粉は磁場中圧焼結に供される。FeとTの濃度が交互に変化する周期構造を有するFeT微粉は磁気異方性を有するため、磁場中成形によって配向し、磁気異方性を有するバルク体を得ることができる。磁場中圧縮焼結において、印加する磁場は800〜1600kA/m(10〜20kOe)とすればよく、圧縮圧力は5〜15ton/cm2(500〜1500MPa)とすればよい。また、焼結のためのパルス通電において、パルス電流は5〜10kAとすればよく、パルス幅は1〜1000msとすればよい。

0064

以上、本件発明を好適に実施するための製造方法に関する形態を説明したが、次いで、本件発明の永久磁石について、FeとTの濃度が交互に変化する周期構造の周期、組成および結晶構造を分析する方法について説明する。なお、濃度が交互に変化する周期構造とは、連続的な濃度の変化であっても、量子的な濃度の変化であってもよく、連続的な変化と量子的な変化の組合せであってもよい。また、量子的な濃度変化とはFeとTのみならず、FeとFeT、FeTとT、FeとFeTとT、Fe過剰なFeTとT過剰なFeTのような組合せであってもよい。いずれの場合の周期構造においても、後述の方法にて周期構造の周期、組成および結晶構造を分析することができる。

0065

FeとTの濃度が交互に変化する周期構造の周期は、走査透過電子顕微鏡(STEM:Scanning Transmission Electron Microscope)から得られる高角散乱暗視野(HAADF:High−Angle Annular Dark−Field)像にて決定することが可能である。試料となる薄膜もしくはバルク体を集束イオンビーム(FIB:Focused Ion Beam)装置にて厚さ100nmの薄片状に加工し、STEMにてHAADF像を得る。HAADF像の輝度は原子番号の略2乗に比例するため、FeとTを判別することが可能である。HAADF像より周期構造の変化が最小となる方向の輝度プロファイルを抽出し、5周期分の輝度の変化の平均を以て周期の長さとする。周期構造の周期を1.1nmとし、周期構造の組成をFe0.4Co0.6として作製した試料(実施例4)より取得されたHAADF像および輝度プロファイルを図1に例示する。

0066

FeとTの濃度が交互に変化する周期構造の組成は、STEMに備えられたエネルギー分散X線分析(EDS:Energy Dispersive Spectroscopy)装置にて決定することが可能である。前記HAADF像の輝度プロファイルを抽出した領域よりEDS像を取得し、前記HAADF像の周期構造の変化が最小となる方向について組成プロファイルを取得し、薄膜補正機能によって定量化する。この定量化された組成プロファイルにおいて、Fe濃度ピーク値の平均とボトム値の平均の差をFeの濃度差(at%)とする。また、当該領域より取得されたEDS像の平均組成を以て、FeとTの濃度が交互に変化する周期構造の組成を得ることができる。周期構造の周期を1.1nmとし、周期構造の組成をFe0.4Co0.6として作製した試料(実施例4)より取得されたHAADF像および組成プロファイルを図2に例示する。

0067

FeとTの濃度が交互に変化する周期構造の結晶構造は、STEMにて電子線回折像(EDI:Electron Diffraction Image)を取得すればよい。本発明に好適である置換型固溶体FeTは、Feの結晶構造である体心立方構造を維持したままに、TがFeの固有位置を置換するものの、Tが過剰となると体立方構造が維持できず、TであるCoやNiに起因した立方最密(ccp:Cubic Closest Packed)構造や六方最密(hcp:Hexagonal Closest Packed)構造となる。そのため、FeとTの濃度が交互に変化する周期構造の結晶構造が体心構造であるか否かは、電子線回折像を以て容易に判別することが可能である。なお、体心正方構造と体心立方構造の差異も、対称性の低下に伴う回折点の出現により容易に判別することが可能である。また、FeとTの濃度が交互に変化する周期構造が試料の大部分を占める場合には、X線回折(XRD:X−Ray Diffraction)によって結晶構造を決定することができる。XRDにおいても、体心正方構造と体心立方構造の差異は、対称性を反映したピークスプリットブロードニングとして明確に観測されるため、判別が可能である。

0068

以下、実施例および比較例に基づき、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。

0069

[薄膜試料の作製:実施例1〜29、比較例1〜14]
薄膜試料の作製には、10−7Pa以下に排気可能なマグネトロン・スパッタリング装置を用いた。ターゲットは純度99.9%のFe、Co、Ni、Cr、Mnを準備し、プレスパッタによって清浄な表面を露出させた。基板には熱酸化膜(1μm)付Si基板(6mm×6mm×0.65mm)を準備し、十分な洗浄の後に、基板導入室を経て−50〜200℃に制御された基板ホルダ上に配置した。成膜は圧力1PaのArガス雰囲気中にておこなった。Fe層およびT層としてCoもしくはNiを成膜する際、ターゲットに印加する電力はいずれもDC50Wとし成膜時間によって膜厚を制御した。T層としてFeNiのような化合物組成を成膜する際は、各ターゲットに印加する電力の比を所望の組成比が得られるように調整した。Fe層およびT層の成膜を交互に繰り返し、周期構造の組成がFe1−xTx(T=Co,Ni,Co50Ni50,Co45Ni45Cr10,Co45Ni45Mn10、 0.0≦x≦1.0)、周期構造の周期が0.3〜7.9nmとなる総厚8〜48nmの試料を得た。積層後の試料に対し、ランプ加熱装置を用いて熱処理をおこなった。熱処理は10−5Pa以下の真空中にておこない、0.5〜50℃/秒の昇温速度にて200℃まで加熱した後に、0〜600秒の保持の後、0.5〜50℃/秒の降温速度にて室温まで冷却した。

0070

[バルク試料の作製:実施例30]
バルク試料の作製には、遊星ボールミルおよび放電プラズマ焼結SPS:Spark Plasma Sintering)装置を用いた。出発原料として、純度99.9%、粒径3μm以下のFe2O3粉末およびCo3O4粉末を準備し、周期構造の組成がFe1−xCox(x=0.5)となるように秤量した。原料をステンレス製の媒体(Φ10mm×30個)ともに、ガス導入バルブが備えられたステンレス鋼製の容器(80cc)に封入し、15時間のミリングをおこない酸化物混合微粉を得た。次いで、酸化物混合微粉を含む容器内の雰囲気を水素ガスに置換し、一定時間ごとに置換を繰り返しながら5時間のミリングをおこない、還元によって金属混合微粉を得た。次いで、金属混合微粉を含む容器内の雰囲気を窒素ガスに置換し、さらに液体窒素を充填しながら、15時間のミリングをおこないFeT微粉を得た。次いで、FeT微粉を酸素濃度5ppm、露点−70℃に制御されたグローブボックス中にてグラファイトダイタップ充填しパルス通電加熱にて熱処理をおこなった。熱処理の後、FeT微粉はグラファイトダイに充填されたまま、配向磁場印加機構が備えられたSPS装置にて圧縮焼結した。

0071

[濃度の変化の周期:実施例1〜5、比較例1〜4]
FeとTの濃度が交互に変化する周期構造(以下、周期構造という)の組成をFe1−xTx(T=Co、x=0.6)とし、周期構造の周期(以下、周期という)を0.3〜7.9nmまで変化させて試料を作製した。周期の増大に伴って、飽和磁化Isおよび保磁力HcJが低下し、特に保磁力HcJは周期が3.3nmよりも大きい場合に30kA/m未満まで著しく低下した。なお、周期が3.3nm以下の試料のXRDパターンはすべて体心立方構造もしくは体心正方構造に指数付することができた。周期が微細となればFeとCoの界面が増大し、FeやCoよりも飽和磁化Isの大きいFeCoが界面近傍に生成することによって、試料全体の飽和磁化Isが増大するものと発明者らは考える。また、周期が極めて微細となり、FeCoにひずみがおよぶサイズ以下となることによって、FeCoのひずみに起因する磁気異方性が発現し、保磁力が急峻に増大するものと発明者らは考える。

0072

[FeとTの組成比:実施例3、実施例6〜16、比較例5〜6]
周期構造の周期を1.1nmとし、周期構造の組成Fe1−xTx(T=Co)におけるFeに対するTの量xを0.0〜1.0まで変化させて試料を作製した。xの増大に伴って、飽和磁化Is増大するものの、x≧0.85およびx≦0.1にて1.6T以下まで急峻に低下した。また、0.1≦x≦0.95の範囲にて周期構造におけるFeの濃度差が5at%を超え、飽和磁化Is≧1.6Tかつ保磁力HcJ≧30kA/mからなる、高い磁気特性が観測された。さらに、0.15≦x≦0.8の範囲では周期構造におけるFeの濃度差が10at%を超え、飽和磁化Is≧1.7Tかつ保磁力HcJ≧70kA/mからなる、特に優れた磁気特性が得られた。なお、特に優れた磁気特性が得られた範囲にて、試料のXRDパターンはすべて体心立方構造もしくは体心正方構造に指数付することができた。すなわち、0.1≦x≦0.95の範囲(望ましくは、0.15≦x≦0.8の範囲)にて高い飽和磁化Isと保磁力HcJを兼ね備えた永久磁石が得られることがわかった。置換型固溶体であるFeCoが、Feの構造である体心立方(bcc)構造を維持したままFeの固有位置を置換できるのは、Feに対してCoは約80at%までであるため、x≧0.85ではFeCoがbcc構造を維持できなくなったために保磁力HcJが急峻に低下したものと発明者らは考える。

0073

[総膜厚:実施例3、実施例17〜21]
周期構造の周期を1.1nmとし、周期構造の組成をFe1−xTx(T=Co、x=0.6)とし、総膜厚を8〜48nmまで変化させて作製した試料では、総膜厚に関わらず、飽和磁化Is≧1.7Tかつ保磁力HcJ≧70kA/mからなる、優れた磁気特性が得られた。なお、すべての試料において周期構造におけるFeの濃度差は10at%を超え、XRDパターンはすべて体心立方構造もしくは体心正方構造に指数付することができた。薄膜は基板との界面においてひずめられ得ることが知られているが、総膜厚の増大(すなわち、薄膜体積に占める基板と薄膜の界面の割合の低下)に関わらず同様の磁気特性が得られる本件発明の周期構造は、基板と薄膜の界面におけるひずみに起因するものではないことが明らかである。すなわち、本件発明は周期を有する構造に固有の磁気異方性を有しており、この磁気異方性は周期構造に起因するひずみを起源としているものと発明者らは考える。

0074

[Tの種類:実施例3、実施例22〜25]
周期構造の周期を1.1nmとし、周期構造の組成Fe1−xTx(x=0.6)におけるTの種類を、Co,Ni,Co50Ni50,Co45Ni45Cr10,Co45Ni45Mn10として作製した試料では、Tの種類に関わらず、飽和磁化Is≧1.7Tかつ保磁力HcJ≧70kA/mからなる、優れた磁気特性が得られた。なお、すべての試料において周期構造におけるFeの濃度差は10at%を超え、XRDパターンはすべて体心立方構造もしくは体心正方構造に指数付することができた。すなわち、TはCoまたはNiを必須とする1種類以上の遷移金属元素であれば、高い飽和磁化Isと保磁力HcJを兼ね備えた永久磁石が得られることがわかった。

0075

[成膜時の基板温度:実施例3、実施例26、比較例7〜8]
周期構造の周期を1.1nmとし、周期構造の組成をFe1−xTx(T=Co、x=0.6)とし、総膜厚を40nmとし、成膜時の基板温度が−50〜200℃として試料を作製した。基板温度の上昇に伴って、周期構造におけるFeの濃度差は著しく低下し、保磁力HcJは30kA/m未満まで著しく低下した。高いエネルギーを有するスパッタ粒子は基板に到達した後に拡散するが、基板を冷却することによって拡散が抑制され、FeとTの濃度が交互に変化する周期構造が得られたものと発明者らは考える。一方、基板の冷却が十分でない、もしくは基板が加熱されている場合には基板に到達したスパッタ粒子が拡散してしまい、FeとTの濃度が交互に変化する周期構造が得られなかったものと発明者らは考える。なお、基板をより低い温度にて冷却することができれば、スパッタ粒子の拡散を低減させ、より急峻な濃度勾配(すなわち、急峻な格子定数の変化)を有し、大きなひずみを包含する構造が得られる可能性があると発明者らは考える。

0076

[熱処理時の昇温速度:実施例3、実施例27、比較例9〜10]
周期構造の周期を1.1nmとし、周期構造の組成をFe1−xTx(T=Co、x=0.6)とし、総膜厚を40nmとし、成膜時の基板温度を−50℃とし、熱処理時の昇温速度を0.5〜50℃/秒として試料を作製した。昇温速度の低下に伴って、周期構造におけるFeの濃度差および保磁力HcJは30kA/m未満まで著しく低下し、飽和磁化Isはわずかに向上した。昇温速度が十分に大きい場合にはFeとTの濃度が交互に変化する周期構造によってひずみを包含する構造が得られ、ひずみに起因する磁気異方性が発現したものと発明者らは考える。一方、昇温速度が十分に大きくない場合には、FeとTの拡散が過度に進行し、全体の組成が均一化してしまったことによって、ひずみに起因する磁気異方性が発現に必要なFeとTの濃度が交互に変化する周期構造が失われたものと発明者らは考える。なお、昇温速度をより大きくすることができれば、FeとTの拡散を低減させ、より急峻な濃度勾配(すなわち、急峻な格子定数の変化)を有し、大きなひずみを包含する構造が得られる可能性があると発明者らは考える。

0077

[熱処理時の保持時間:実施例3、実施例28、比較例11〜12]
周期構造の周期を1.1nmとし、周期構造の組成をFe1−xTx(T=Co、x=0.6)とし、総膜厚を40nmとし、成膜時の基板温度を−50℃とし、熱処理時の保持時間を0〜600秒として試料を作製した。保持時間の増大に伴って、周期構造におけるFeの濃度差および保磁力HcJは30kA/m未満まで著しく低下し、飽和磁化Isはわずかに向上した。保持時間が十分に小さい場合にはFeとTの濃度が交互に変化する周期構造によってひずみを包含する構造が得られ、ひずみに起因する磁気異方性が発現したものと発明者らは考える。一方、保持時間が十分に小さくない場合には、FeとTの拡散が過度に進行し、全体の組成が均一化してしまったことによって、ひずみに起因する磁気異方性が発現に必要なFeとTの濃度が交互に変化する周期構造が失われたものと発明者らは考える。

0078

[熱処理時の降温速度:実施例3、実施例29、比較例13〜14]
周期構造の周期を1.1nmとし、周期構造の組成をFe1−xTx(T=Co、x=0.6)とし、総膜厚を40nmとし、成膜時の基板温度を−50℃とし、熱処理時の降温速度を0.5〜50℃/秒として試料を作製した。周期構造におけるFeの濃度差および保磁力HcJは30kA/m未満まで著しく低下し、飽和磁化Isはわずかに向上した。降温速度が十分に大きい場合にはFeとTの濃度が交互に変化する周期構造によってひずみを包含する構造が得られ、ひずみに起因する磁気異方性が発現したものと発明者らは考える。一方、降温速度が十分に大きくない場合には、FeとTの拡散が過度に進行し、全体の組成が均一化してしまったことによって、ひずみに起因する磁気異方性が発現に必要なFeとTの濃度が交互に変化する周期構造が失われたものと発明者らは考える。なお、降温速度をより大きくすることができれば、FeとTの拡散を低減させ、より急峻な濃度勾配(すなわち、急峻な格子定数の変化)を有し、大きなひずみを包含する構造が得られる可能性があると発明者らは考える。

実施例

0079

[薄膜とバルク:実施例3、実施例30]
周期構造の周期を1.1nmとし、周期構造の組成をFe1−xTx(T=Co、x=0.6)とした試料では、試料の形態に関わらず同様の磁気特性が得られた。薄膜は基板との界面においてひずめられ得ることが知られているが、バルクにおいても薄膜と同様の磁気特性が得られる本件発明は、周期を有する構造に固有の磁気異方性を有しており、この磁気異方性は周期構造に起因するひずみを起源としているものと発明者らは考える。

0080

以上のように、本発明に係る永久磁石は、高い飽和磁化Isおよび保磁力HcJを具備し、希土類元素Rを用いずとも製造可能であるため、民生、産業、輸送機器に広く用いられる永久磁石同期回転機の界磁に有用である。

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