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課題

in-vivoイメージングに好適な近赤外域を高効率かつ安定して発光できる水溶性蛍光標識材を提供する。

解決手段

ダイヤモンド構造を有するとともに表面を炭化水素膜被覆した一つまたは複数のシリコンナノ結晶ブロック共重合体で覆った構造を有する蛍光標識材が提供される。シリコンナノ結晶のサイズを調節することで、生体透過性が高い近赤外域で高い効率で発光する。

概要

背景

生体内において、特定の分子が、いつ、どこで、どの分子と連関して機能しているかを理解することで、生命科学機構解明し、創薬スクリーニングに繋げようとする学術研究活発に行われている。最も一般的な生体分子観察方法は、対象となる分子を蛍光標識し、蛍光顕微鏡下で分子の動態や位置、さらに他分子との相互作用を調べる蛍光イメージング法である。分子生物学実験などにおいて、試験管培養器などの中でヒトや動物組織を用いて、体内と同様の環境を人工的に作り、生体反応を観察することをin-vitroイメージングと呼ぶ。一方、小動物を用い生体内や細胞内で生体反応を観察することをin-vivoイメージングと呼ぶ。近年になって特に、in-vivoイメージングが注目されている。in-vivo蛍光イメージングとは、生体内にある蛍光標識を生体外部から光励起し、蛍光標識剤からの発光を生体外に設置した光検出器へ導きイメージングを行う方法であるので、生体内の細胞を外部より生体を傷つけることなく、非侵襲で観察することができる点で特徴的である。

in-vivoイメージングに際して、外部へ発光を取り出すためには、励起光及び発光が生体を透過する必要がある。多くの蛍光材料の励起光として使用される紫外光は、生体の吸収が高く、ほとんど透過することができないので好ましくない。また、400〜700nmの可視光ヘモグロビンやそのほかの生体構成物質の吸収が大きいため好ましくない。一方で1000nm以上の波長では、水の吸収が強くなるために透過率が低くなり好ましくない。それゆえ、700〜1000nmの近赤外波長域がin-vivoイメージングに好ましい波長域である。当該波長域は「生体の分光学的窓」と呼ばれる生体の透過率が特異的に高い領域である。それゆえ効率良いin-vivoイメージングを行うには、700〜1000nmの近赤外波長域で光励起及び発光を示す蛍光材料が求められている。

一般的に蛍光標識材として有機系色素が最も汎用であるが、次に示す問題を抱えている。
近赤外発光する色素の種類が少ない。
発光量子収率は10〜30%程度と高くない(比較例3で実証)。
励起極大発光極大ストークスシフトが短いので、蛍光イメージング画像において励起光によるバックグラウンドの上昇を抑える策がない。このため、励起極大ではなく、なるべく短波長励起することでイメージング画像コントラストを上げる必要がある。その点で、発光量子収率は10〜30%は高いと言えない。
有機物特有励起光照射時の光劣化光分解伴う低耐久性劣化に伴う退色が見られる。この問題は有機物を使用する限り解決することが難しい。

このような問題(特に4番目)を根本的に解決するには、発光体無機物代替することが望ましい。その候補物質として希土類イオンを内包する無機ナノ物質が注目されてきた。しかしながら、これらにも以下に示す問題がある。
・近赤外波長域で光励起および発光する物質は少ない。
・発光量子収率も10%以下と充分でなく、感度も充分でない。ここで検出感度を高めようと励起光強度を上げると、イメージング画像において、標識されていない領域へ映り込んだ励起光が、イメージング像のコントラストを低くする(非特許文献1)。
・強い励起光は、生体分子に侵襲性を齎す光毒性の問題を引き起こす。この問題は有機色素を用いた場合でも同様である。

上記2種類の蛍光体で起きる問題を解決するために、化合物半導体量子ドットナノ粒子の研究が活発に行われている。近赤外波長域で利用できる物質は、短波長側(700nm〜)から、カドミウムテルルインジウム砒素硫化鉛である。これらの物質は以下の特徴を有する。
・カドミウムテルルは耐光性に優れる。
・硫化鉛やカドミウムテルルの発光量子収率は40%以上である。
・近赤外波長域で発光色をチューニングできる。さらにスペクトル波長位置は粒子サイズに依存するので、バイオイメージングにおいて異なる分子間相互作用パラレル観察することも可能となるといった格別の観察法を提供することもできる。

ところが、これらは一方では以下の問題を持っているが、これらの問題は物質の基本物性なので変えることができない。
・励起極大と発光極大のストークスシフトが短いので、蛍光イメージング画像において励起光によるバックグラウンドの上昇を抑える策がない。このため、励起極大ではなくなるべく短波長で励起することでイメージング画像のコントラストを上げる必要がある。結果として、高い発光量子収率を活かすことができない。
・これらの化合物半導体を構成する原子の多くは環境規制によって使用制限を受けている。環境省の「水質汚濁に係る環境基準」の「別表1 人の健康の保護に関する環境基準」(非特許文献2)によれば、たとえば、カドミウム、鉛、砒素の水質汚濁に係わる環境基準は、各々0.003mg/L、0.01mg/L、0.01mg/Lときわめて微量である。このような環境規制のために、これらの物質は将来的に安定して使用できる物質とはならない。

上述したような、これまでに使用され、あるいは提案されてきた物質についての諸問題を解消するため、蛍光標識材としてシリコンを使用することが考えられる。充分に大きなシリコン結晶間接遷移バンド構造を有する単元半導体として知られ、室温で1.14eVほどの大きさのバンドギャップをもつ。間接遷移型バンド構造を有するために、光励起キャリア放射性再結合を起こすためには運動量保存則満足させる必要がある。そのエネルギー格子振動から得るために、高い発光効率蛍光放射することは原理的に不可能である。ところがダイヤモンド構造結晶の大きさを8nmより小さな球状粒子微小化すると、充分に大きな結晶に比べて10000倍以上の発光量子収率を有するフォトルミネッセンス特性を示すようになる。発光量子収率は一般的に1%以上あれば、蛍光標識材として利用できる。シリコンは化合物半導体のナノ粒子よりも細胞毒性が極めて低いことが知られているので、生体で使用される蛍光標識材として期待されている(非特許文献3)。

シリコンナノ粒子を蛍光標識材として水系で利用するためには、水、生理塩溶液りん緩衝食塩液中で溶媒和し、長期間にわたって安定で、近赤外励起時に発光量子収率1%以上の近赤外発光特性を有する必要がある。ところがシリコンは酸素が存在する環境下に置かれると酸化されてしまう。例えば、2nmの粒子径をもつシリコンを大気中へ放置すると、室温下でもナノ粒子表面から徐々に酸化が進行し2週間ほどで酸化シリコンになってしまう(比較例6で実証)。

酸化の問題を解決すると同時に水溶性を付与するために、ナノ粒子表面を適切な有機単分子膜で修飾する方法が報告されている。汎用的には極性官能基末端にもつ不飽和炭化水素分子が利用される。極性官能基としてはカルボキシル基アミノ基、糖環、スルフォン基水酸基フォスフォン基、オリゴヌクレオチドが代表的であり、生体親和性も高い(特許文献1〜4)。このような不飽和炭化水素分子において極性基とは逆末端にある二重結合(或いは三重結合でも良い)は、ヒドロシリル化を通じてナノ粒子最表面のケイ素原子炭素ケイ素共有結合を形成し、単分子としてナノ粒子表面へ固定化される。表面修飾の点では、金や白金ナノ粒子の表面修飾で利用されるチオール分子も利用できる。しかしながら酸化を抑制できる点において、炭素—ケイ素の共有結合を介した表面修飾は、弱い化学吸着である硫黄—ケイ素分子間相互作用よりも好ましい。

従来の水溶性シリコンナノ粒子の発光波長は、可視短波長域(400〜500nm)に偏重している。可視短波長域は生体構成物質の吸収が大きい波長域である点でin-vivoだけでなくin-vitro環境でのイメージングにも最適であるとは言えない。可視長波長域(500〜700nm)で使用できる水溶性シリコンナノ粒子について、ナノ粒子はカルボキシル基、ヌクレオチド何れかの官能基をもつ単分子膜終端されている(非特許文献4(レビュー論文))。一方、近赤外発光する水溶性シリコンナノ粒子に関する報告例は少ない。その少数例について示す。まずシリコンをナノ粒子にすることで700〜1100nmの発光波長域において発光色を連続的に変調できることは知られている(非特許文献5(レビュー論文))。近赤外で発光する水溶性シリコンナノ粒子を合成するために、両親媒性分子構築されたミセルで保護する方法が報告されている(非特許文献6)。

ところがシリコンナノ粒子に対して上述のような対策を施しても、次に示す問題は解決できないままであった。

[問題1]
・近赤外波長域における発光の量子収率は励起極大で励起した場合に8%以下である。近赤外発光の励起極大は電子構造的に紫外域にあるので、通常イメージングに使用する可視中長波長域で光励起すると、発光の量子収率はさらに低くなる。それゆえ励起に大きなフォトンエネルギーを必要とし、さらにコントラストの高いイメージングが困難であった。

[問題2]
発光スペクトル半値幅は500meV以上で、化合物半導体量子ドットの発光スペクトルの半値幅(300meV以下)と比べると大きい。発光のチューニング特性を利用した多色蛍光イメージングは、半値幅が小さく対称性の高い発光スペクトルを用いて行うのが好ましく、500eVの半値幅は適当でない。

[問題3]
・シリコンナノ粒子における発光ピークは発光波長に依存せず一般的に長波長側へ裾をひくため対称性が低い。700〜1100nmの波長域において発光極大は粒子サイズに依存するが、発光スペクトルの終点波長位置は粒子サイズに依存せず同じである。このようにして現れるスペクトルの裾の広さは、多色蛍光イメージングのコントラスト性下げる結果となる。そのような理由から、これまでに近赤外波長域における多色蛍光イメージングを達成した例はない。そしてこのような特徴的なスペクトル特性間接遷移型半導体ナノ粒子化したときに現れる特徴であり、結晶粒子の微小化に伴う実空間における電子ホール波動関数の重なりを通じたゼロフォノン遷移に起因すると考えられてきた。

これについてより詳細に説明すれば、以下の通りである。シリコンのバルク結晶は、間接遷移型のバンド構造を有するために、光励起キャリア(電子および正孔)のバンド間再結合には波数選択則が要求される。つまり運動量保存則を満たすためには、フォノンの関与が必要とされる。しかし、バルク結晶を小さくナノ粒子にまで微小化すると、ナノ結晶中では電子と正孔(あるいは励起子エキシトン)が微粒子内に閉じ込められ、実空間での電子と正孔それぞれの波動関数が重なるとともに、波数空間でも不確定性原理によりエキシトンの波数の広がりΔkが大きくなる。結果として、波数選択則が崩れることで、フォノンの関与なくキャリアのバンド間再結合が可能となる。しかしこの遷移は直接遷移型バンド構造におけるバンド間再結合とは根本的に異なる。微粒子化によるΔkの広がりを利用しているために、バルクバンド構造を反映した伝導帯の底と価電子帯の頂のエネルギーギャップ差に相当するフォトンエネルギーは全ての蛍光スペクトルに含まれる。結果として蛍光スペクトルの終点波長に相当するフォトンエネルギーはナノ結晶のサイズに依存せず伝導帯の底と価電子帯の頂のエネルギーギャップに一致する。それゆえ、蛍光スペクトルは長波長側へ裾を引くことになる。

[問題4]
・細胞深部の蛍光イメージングを行うためには、生体透過性の高い700nmよりも長波長帯で光励起することが好ましいが、シリコンナノ粒子は当該波長域の光をほとんど吸収しないので励起効率が極めて低い。それゆえ、励起強度を強くする必要がある。
・励起に紫外光を用いることによる別の問題として、イメージングの対象が生細胞や生組織である場合においては、これらに損傷を与えてしまう。また、イメージング対象がDNAやたんぱく質などである場合においては、紫外光によりこれら分子に損傷が加えられる可能性があり、塩基配列の決定や活性サイトの決定などを精度良く行うに際しての妨げとなる場合があった。近赤外励起(近赤外発光を行うための技術)として、赤外光励起により赤外発光する材料として希土類を含有した蛍光体(所謂「アップコンバージョン蛍光体」)が知られている(非特許文献7)。このような粒子を蛍光標識材に用いると、励起光として近赤外光を使用することができるため、紫外光等のように被分析物に悪影響を及ぼさない。しかしながら、当該粒子は、希土類のドープ量を選択することで任意のアップコンバージョン発光を得ることができるが、異なる発光色を得るにはドープする希土類の材料を選択しなければならないこと、発光色が限定され、選択が困難であるという問題がある。

また、水溶性ナノ粒子合成のため、ブロック共重合体を使用することが知られている。例えば、プルロニックは低毒性で生体適合性の良い等の優れた特色を有しているために、医薬品、化粧品などで利用されている(非特許文献8)。これを転用して、プルロニックで表面修飾したナノ粒子を生体利用する試みがある(特許文献5、特許文献6)

概要

in-vivoイメージングに好適な近赤外域を高効率かつ安定して発光できる水溶性の蛍光標識材を提供する。ダイヤモンド構造を有するとともに表面を炭化水素膜被覆した一つまたは複数のシリコンナノ結晶をブロック共重合体で覆った構造を有する蛍光標識材が提供される。シリコンナノ結晶のサイズを調節することで、生体の透過性が高い近赤外域で高い効率で発光する。

目的

さらにスペクトル波長位置は粒子サイズに依存するので、バイオイメージングにおいて異なる分子間相互作用をパラレル観察することも可能となるといった格別の観察法を提供する

効果

実績

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請求項1

ダイヤモンド構造を有する一つまたは複数のシリコンナノ結晶と、前記シリコンナノ結晶のそれぞれの表面を覆う炭化水素膜と、前記表面が炭化水素膜で覆われた一つまたは複数のシリコンナノ結晶を覆うブロック共重合体とを設けた水溶性であり、励起光照射により近赤外域発光するシリコンナノ粒子

請求項2

励起光の照射により700nm〜1000nmの範囲のピーク波長で発光する、請求項1に記載のシリコンナノ粒子。

請求項3

前記発光のスペクトル半値幅は150meV〜300meVである、請求項2に記載のシリコンナノ粒子。

請求項4

発光量子収率が30%以上である、請求項1から3の何れかに記載のシリコンナノ粒子。

請求項5

前記一つまたは複数のシリコンナノ結晶はサイズが1.9nm〜6.1nmの範囲である、請求項1から4の何れかに記載のシリコンナノ粒子。

請求項6

前記シリコンナノ結晶は単分散粒子である、請求項1から5の何れかに記載のシリコンナノ粒子。

請求項7

近紫外域の励起光の照射による二光子吸収に基づいて近赤外域で発光する、請求項1から6の何れかに記載のシリコンナノ粒子。

請求項8

前記ブロック重合体プルロニック系界面活性剤である、請求項1から7の何れかに記載のシリコンナノ粒子。

請求項9

請求項1から8の何れかに記載のシリコンナノ粒子を有する蛍光標識材。

技術分野

0001

本発明はシリコンナノ(Si)粒子を用いた水溶性近赤外発光ナノ粒子に関し、またこのナノ粒子を使用した蛍光標識材に関する。

背景技術

0002

生体内において、特定の分子が、いつ、どこで、どの分子と連関して機能しているかを理解することで、生命科学機構解明し、創薬スクリーニングに繋げようとする学術研究活発に行われている。最も一般的な生体分子観察方法は、対象となる分子を蛍光標識し、蛍光顕微鏡下で分子の動態や位置、さらに他分子との相互作用を調べる蛍光イメージング法である。分子生物学実験などにおいて、試験管培養器などの中でヒトや動物組織を用いて、体内と同様の環境を人工的に作り、生体反応を観察することをin-vitroイメージングと呼ぶ。一方、小動物を用い生体内や細胞内で生体反応を観察することをin-vivoイメージングと呼ぶ。近年になって特に、in-vivoイメージングが注目されている。in-vivo蛍光イメージングとは、生体内にある蛍光標識を生体外部から光励起し、蛍光標識剤からの発光を生体外に設置した光検出器へ導きイメージングを行う方法であるので、生体内の細胞を外部より生体を傷つけることなく、非侵襲で観察することができる点で特徴的である。

0003

in-vivoイメージングに際して、外部へ発光を取り出すためには、励起光及び発光が生体を透過する必要がある。多くの蛍光材料の励起光として使用される紫外光は、生体の吸収が高く、ほとんど透過することができないので好ましくない。また、400〜700nmの可視光ヘモグロビンやそのほかの生体構成物質の吸収が大きいため好ましくない。一方で1000nm以上の波長では、水の吸収が強くなるために透過率が低くなり好ましくない。それゆえ、700〜1000nmの近赤外波長域がin-vivoイメージングに好ましい波長域である。当該波長域は「生体の分光学的窓」と呼ばれる生体の透過率が特異的に高い領域である。それゆえ効率良いin-vivoイメージングを行うには、700〜1000nmの近赤外波長域で光励起及び発光を示す蛍光材料が求められている。

0004

一般的に蛍光標識材として有機系色素が最も汎用であるが、次に示す問題を抱えている。
・近赤外発光する色素の種類が少ない。
発光量子収率は10〜30%程度と高くない(比較例3で実証)。
励起極大発光極大ストークスシフトが短いので、蛍光イメージング画像において励起光によるバックグラウンドの上昇を抑える策がない。このため、励起極大ではなく、なるべく短波長励起することでイメージング画像コントラストを上げる必要がある。その点で、発光量子収率は10〜30%は高いと言えない。
有機物特有励起光照射時の光劣化光分解伴う低耐久性劣化に伴う退色が見られる。この問題は有機物を使用する限り解決することが難しい。

0005

このような問題(特に4番目)を根本的に解決するには、発光体無機物代替することが望ましい。その候補物質として希土類イオンを内包する無機ナノ物質が注目されてきた。しかしながら、これらにも以下に示す問題がある。
・近赤外波長域で光励起および発光する物質は少ない。
・発光量子収率も10%以下と充分でなく、感度も充分でない。ここで検出感度を高めようと励起光強度を上げると、イメージング画像において、標識されていない領域へ映り込んだ励起光が、イメージング像のコントラストを低くする(非特許文献1)。
・強い励起光は、生体分子に侵襲性を齎す光毒性の問題を引き起こす。この問題は有機色素を用いた場合でも同様である。

0006

上記2種類の蛍光体で起きる問題を解決するために、化合物半導体量子ドットナノ粒子の研究が活発に行われている。近赤外波長域で利用できる物質は、短波長側(700nm〜)から、カドミウムテルルインジウム砒素硫化鉛である。これらの物質は以下の特徴を有する。
・カドミウムテルルは耐光性に優れる。
・硫化鉛やカドミウムテルルの発光量子収率は40%以上である。
・近赤外波長域で発光色をチューニングできる。さらにスペクトル波長位置は粒子サイズに依存するので、バイオイメージングにおいて異なる分子間相互作用パラレル観察することも可能となるといった格別の観察法を提供することもできる。

0007

ところが、これらは一方では以下の問題を持っているが、これらの問題は物質の基本物性なので変えることができない。
・励起極大と発光極大のストークスシフトが短いので、蛍光イメージング画像において励起光によるバックグラウンドの上昇を抑える策がない。このため、励起極大ではなくなるべく短波長で励起することでイメージング画像のコントラストを上げる必要がある。結果として、高い発光量子収率を活かすことができない。
・これらの化合物半導体を構成する原子の多くは環境規制によって使用制限を受けている。環境省の「水質汚濁に係る環境基準」の「別表1 人の健康の保護に関する環境基準」(非特許文献2)によれば、たとえば、カドミウム、鉛、砒素の水質汚濁に係わる環境基準は、各々0.003mg/L、0.01mg/L、0.01mg/Lときわめて微量である。このような環境規制のために、これらの物質は将来的に安定して使用できる物質とはならない。

0008

上述したような、これまでに使用され、あるいは提案されてきた物質についての諸問題を解消するため、蛍光標識材としてシリコンを使用することが考えられる。充分に大きなシリコン結晶間接遷移バンド構造を有する単元半導体として知られ、室温で1.14eVほどの大きさのバンドギャップをもつ。間接遷移型バンド構造を有するために、光励起キャリア放射性再結合を起こすためには運動量保存則満足させる必要がある。そのエネルギー格子振動から得るために、高い発光効率蛍光放射することは原理的に不可能である。ところがダイヤモンド構造結晶の大きさを8nmより小さな球状粒子微小化すると、充分に大きな結晶に比べて10000倍以上の発光量子収率を有するフォトルミネッセンス特性を示すようになる。発光量子収率は一般的に1%以上あれば、蛍光標識材として利用できる。シリコンは化合物半導体のナノ粒子よりも細胞毒性が極めて低いことが知られているので、生体で使用される蛍光標識材として期待されている(非特許文献3)。

0009

シリコンナノ粒子を蛍光標識材として水系で利用するためには、水、生理塩溶液りん緩衝食塩液中で溶媒和し、長期間にわたって安定で、近赤外励起時に発光量子収率1%以上の近赤外発光特性を有する必要がある。ところがシリコンは酸素が存在する環境下に置かれると酸化されてしまう。例えば、2nmの粒子径をもつシリコンを大気中へ放置すると、室温下でもナノ粒子表面から徐々に酸化が進行し2週間ほどで酸化シリコンになってしまう(比較例6で実証)。

0010

酸化の問題を解決すると同時に水溶性を付与するために、ナノ粒子表面を適切な有機単分子膜で修飾する方法が報告されている。汎用的には極性官能基末端にもつ不飽和炭化水素分子が利用される。極性官能基としてはカルボキシル基アミノ基、糖環、スルフォン基水酸基フォスフォン基、オリゴヌクレオチドが代表的であり、生体親和性も高い(特許文献1〜4)。このような不飽和炭化水素分子において極性基とは逆末端にある二重結合(或いは三重結合でも良い)は、ヒドロシリル化を通じてナノ粒子最表面のケイ素原子炭素ケイ素共有結合を形成し、単分子としてナノ粒子表面へ固定化される。表面修飾の点では、金や白金ナノ粒子の表面修飾で利用されるチオール分子も利用できる。しかしながら酸化を抑制できる点において、炭素—ケイ素の共有結合を介した表面修飾は、弱い化学吸着である硫黄—ケイ素分子間相互作用よりも好ましい。

0011

従来の水溶性シリコンナノ粒子の発光波長は、可視短波長域(400〜500nm)に偏重している。可視短波長域は生体構成物質の吸収が大きい波長域である点でin-vivoだけでなくin-vitro環境でのイメージングにも最適であるとは言えない。可視長波長域(500〜700nm)で使用できる水溶性シリコンナノ粒子について、ナノ粒子はカルボキシル基、ヌクレオチド何れかの官能基をもつ単分子膜終端されている(非特許文献4(レビュー論文))。一方、近赤外発光する水溶性シリコンナノ粒子に関する報告例は少ない。その少数例について示す。まずシリコンをナノ粒子にすることで700〜1100nmの発光波長域において発光色を連続的に変調できることは知られている(非特許文献5(レビュー論文))。近赤外で発光する水溶性シリコンナノ粒子を合成するために、両親媒性分子構築されたミセルで保護する方法が報告されている(非特許文献6)。

0012

ところがシリコンナノ粒子に対して上述のような対策を施しても、次に示す問題は解決できないままであった。

0013

[問題1]
・近赤外波長域における発光の量子収率は励起極大で励起した場合に8%以下である。近赤外発光の励起極大は電子構造的に紫外域にあるので、通常イメージングに使用する可視中長波長域で光励起すると、発光の量子収率はさらに低くなる。それゆえ励起に大きなフォトンエネルギーを必要とし、さらにコントラストの高いイメージングが困難であった。

0014

[問題2]
発光スペクトル半値幅は500meV以上で、化合物半導体量子ドットの発光スペクトルの半値幅(300meV以下)と比べると大きい。発光のチューニング特性を利用した多色蛍光イメージングは、半値幅が小さく対称性の高い発光スペクトルを用いて行うのが好ましく、500eVの半値幅は適当でない。

0015

[問題3]
・シリコンナノ粒子における発光ピークは発光波長に依存せず一般的に長波長側へ裾をひくため対称性が低い。700〜1100nmの波長域において発光極大は粒子サイズに依存するが、発光スペクトルの終点波長位置は粒子サイズに依存せず同じである。このようにして現れるスペクトルの裾の広さは、多色蛍光イメージングのコントラスト性下げる結果となる。そのような理由から、これまでに近赤外波長域における多色蛍光イメージングを達成した例はない。そしてこのような特徴的なスペクトル特性間接遷移型半導体ナノ粒子化したときに現れる特徴であり、結晶粒子の微小化に伴う実空間における電子ホール波動関数の重なりを通じたゼロフォノン遷移に起因すると考えられてきた。

0016

これについてより詳細に説明すれば、以下の通りである。シリコンのバルク結晶は、間接遷移型のバンド構造を有するために、光励起キャリア(電子および正孔)のバンド間再結合には波数選択則が要求される。つまり運動量保存則を満たすためには、フォノンの関与が必要とされる。しかし、バルク結晶を小さくナノ粒子にまで微小化すると、ナノ結晶中では電子と正孔(あるいは励起子エキシトン)が微粒子内に閉じ込められ、実空間での電子と正孔それぞれの波動関数が重なるとともに、波数空間でも不確定性原理によりエキシトンの波数の広がりΔkが大きくなる。結果として、波数選択則が崩れることで、フォノンの関与なくキャリアのバンド間再結合が可能となる。しかしこの遷移は直接遷移型バンド構造におけるバンド間再結合とは根本的に異なる。微粒子化によるΔkの広がりを利用しているために、バルクバンド構造を反映した伝導帯の底と価電子帯の頂のエネルギーギャップ差に相当するフォトンエネルギーは全ての蛍光スペクトルに含まれる。結果として蛍光スペクトルの終点波長に相当するフォトンエネルギーはナノ結晶のサイズに依存せず伝導帯の底と価電子帯の頂のエネルギーギャップに一致する。それゆえ、蛍光スペクトルは長波長側へ裾を引くことになる。

0017

[問題4]
・細胞深部の蛍光イメージングを行うためには、生体透過性の高い700nmよりも長波長帯で光励起することが好ましいが、シリコンナノ粒子は当該波長域の光をほとんど吸収しないので励起効率が極めて低い。それゆえ、励起強度を強くする必要がある。
・励起に紫外光を用いることによる別の問題として、イメージングの対象が生細胞や生組織である場合においては、これらに損傷を与えてしまう。また、イメージング対象がDNAやたんぱく質などである場合においては、紫外光によりこれら分子に損傷が加えられる可能性があり、塩基配列の決定や活性サイトの決定などを精度良く行うに際しての妨げとなる場合があった。近赤外励起(近赤外発光を行うための技術)として、赤外光励起により赤外発光する材料として希土類を含有した蛍光体(所謂「アップコンバージョン蛍光体」)が知られている(非特許文献7)。このような粒子を蛍光標識材に用いると、励起光として近赤外光を使用することができるため、紫外光等のように被分析物に悪影響を及ぼさない。しかしながら、当該粒子は、希土類のドープ量を選択することで任意のアップコンバージョン発光を得ることができるが、異なる発光色を得るにはドープする希土類の材料を選択しなければならないこと、発光色が限定され、選択が困難であるという問題がある。

0018

また、水溶性ナノ粒子合成のため、ブロック共重合体を使用することが知られている。例えば、プルロニックは低毒性で生体適合性の良い等の優れた特色を有しているために、医薬品、化粧品などで利用されている(非特許文献8)。これを転用して、プルロニックで表面修飾したナノ粒子を生体利用する試みがある(特許文献5、特許文献6)

発明が解決しようとする課題

0019

本発明は上述した従来技術の問題点を解消し、高発光効率かつ高安定性の水溶性近赤外発光シリコンナノ粒子及びそれを用いた蛍光標識材を提供することを課題とする。

課題を解決するための手段

0020

本発明の一側面によれば、ダイヤモンド構造を有する一つまたは複数のシリコンナノ結晶と、前記シリコンナノ結晶のそれぞれの表面を覆う炭化水素膜と、前記表面が炭化水素膜で覆われた一つまたは複数のシリコンナノ結晶を覆うブロック共重合体とを設けた、水溶性であり、励起光の照射により近赤外域で発光するシリコンナノ粒子が与えられる。
ここで、前記シリコンナノ粒子は励起光の照射により700nm〜1000nmの範囲のピーク波長で発光してよい。
また、前記発光のスペクトルの半値幅は150meV〜300meVであってよい。
また、前記シリコンナノ粒子の発光量子収率が30%以上であってよい。
また、前記一つまたは複数のシリコンナノ結晶はサイズが1.9nm〜6.1nmの範囲であってよい。
また、前記シリコンナノ結晶は単分散粒子であってよい。
また、前記シリコンナノ粒子は近紫外域の励起光の照射による二光子吸収に基づいて近赤外域で発光してよい。
また、前記ブロック重合体がプルロニック系界面活性剤であってよい。
本発明のほかの側面によれば、前記何れかのシリコンナノ粒子を有する蛍光標識材が与えられる。

発明の効果

0021

本発明によれば、非常に高い効率で蛍光を発するとともに、急峻な形状の発光スペクトルを有するようにできる新規な構造の水溶性近赤外発光シリコンナノ粒子及びそれを用いた蛍光標識材が提供される。

図面の簡単な説明

0022

水溶性近赤外発光ナノ粒子の構造を示す概念図。
エッチング時間に伴う粉末X線回折図形の変化を示す図。
オクタデカン終端シリコンナノ粒子(左)およびプルロニック外殻形成後のナノ粒子(左)の典型的な透過型電子顕微鏡像
典型的なナノ粒子の光吸収スペクトルPLスペクトル
粒子サイズで発光波長を連続的に制御できる本発明の水溶性ナノ粒子の典型的な(a)紫外可視吸収スペクトル、及び(b)発光スペクトル(各PLスペクトルの絶対量子収率を百分率グラフ中に記入)。
カルボキシル基で終端されたシリコンナノ結晶粒子(比較例4)のpHの変化に伴う安定性を示す写真
水溶性ナノ粒子の近赤外PLスペクトルの蛍光極大波長と半値幅との関係を示すグラフ。ここで使用した水溶性ナノ粒子は遠心分離処理クロマトグラフィー処理を行って高い単分散性および表面均質性を持つようにしたSiナノ結晶内殻として含む本発明のSiナノ粒子である。

0023

本発明のシリコンナノ粒子は図1に示すようなダブルシェル構造コアを内殻及び外殻が二重に覆う構造)を有する水溶性のシリコンナノ粒子であり、700〜1000nmの近赤外波長域内で強い発光を示す。図示するように、コアは1つ以上のシリコン(Si)ナノ結晶で構成されており、ナノ結晶はダイヤモンド構造をもつ。このダイヤモンド構造は粒子の中心部から最表面まで維持されている。これによって、高い発光量子収率がもたらされる。アモルファス化を引き起こす最表面層再構築を防ぐためにアルキル基等の炭化水素による効果が効果的である。

0024

ここで、錨効果について説明すれば、Siナノ結晶の粒子径が2.5nm程度(発光極大で言えば850nm程度に相当する)にまで小さくなると内部よりも表面を構成する原子の数が圧倒的に多くなるので、Siナノ結晶の相構造を安定化させるためには、ナノ結晶内部から表面に向かって原子は最安定な構造をとろうと格子を歪ませ、時間経過とともに徐々にアモルファス構造へと構造緩和が起きる。この緩和はナノ結晶の粒子径に依存する。ところが、有機分子がナノ結晶表面に高密度に存在すると、有機分子同士が立体障害となり、また質量の大きな原子団が1つの表面シリコン原子に結合することで原子団は錨の役割を果たすので、表面近傍原子の再配列に基づく構造緩和が抑制され、表面までダイヤモンド構造が維持される。なお、Siナノ粒子表面を被覆する炭化水素の単分子膜としてアルキル単分子膜を使用する場合、その炭化水素鎖長さはC1〜C22が好ましい。特にC11以上が好ましい。なお、C23より長い場合でも有効性が失われることはない。

0025

なお、Siナノ結晶の粒子径が2.5nmより小さくなると構造緩和が顕著になると言うだけであり、2.5nmより大きくなっても構造緩和は起こる。水素原子では構造緩和を抑制できず、アルキル基などの炭化水素であれば抑制できる。構造緩和の起こる速度は粒子径に依存する。水素終端では粒子最表面はアモルファス化してしまうために、非輻射再結合をもたらす欠陥が多数形成される。ところがアルキル基などを接合させ秩序だった最表面を構築すると欠陥数が減るので、非輻射再結合の確率が大幅に減少する。これにより効率良い発光が得られることになる。それゆえ、構造緩和抑制は粒子のサイズに依存せず、全ての粒子で働くと考えるべきである。

0026

また、ナノ結晶表面に炭化水素を結合させると、ナノ結晶最表面のSi原子および点欠陥無極性元素である炭素で終端することになるが、これにより非輻射遷移確率を低減させ、光励起キャリアの放射性再結合確率を増大させることができる。

0027

各ナノ結晶は上述のように炭化水素の単分子膜で終端されている。当該炭化水素膜を内殻と称する。炭化水素膜はナノ結晶最表面に炭素−ケイ素共有結合を介して固定化されている。なお、単分子の組成に酸素、窒素フッ素が含まれていると、単分子膜形成時にそれぞれの単分子内に存在する非共有電子対が隣り合う分子間で反発するため、単分子膜の分子密度が低くなる。その結果として、内部のSiナノ結晶が酸化し易くなり、また上述の錨効果が効率良く発揮されず、発光色の安定性が低下する。

0028

内殻表面はブロック共重合体で覆われている。当該ブロック共重合体を外殻と称する。1つの外殻中に単一の内殻だけが収容されている場合もあり、また複数の内殻が収容されている場合もある。ブロック共重合体を構成するブロックの内で親水性が低い方のブロックが、内殻の炭化水素膜表面と疎水性相互作用を通じて化学吸着する。逆に親水性の高い方のブロックが最表面に露出し水溶性を与える。水溶性粒子の粒子径は内殻に内包される結晶数に依存し、およそ5〜80nmである。水溶性を与えることにより、水、生理的塩溶液、りん酸緩衝食塩液中で長期間安定となる。

0029

一つの外殻中に複数の内殻を収容することでいくつかの利点が生じる。例えば、蛍光法を使用してナノ粒子の動きを生体外からモニタリングする際の光学系として、集団で粒子が動いてくれた方が粒子群からの蛍光強度が強いので、簡易セットアップ蛍光観察可能になり、また励起強度も低くて済む。さらには長時間の蛍光モニタリングにも有用である。一つのナノ粒子に収容されている粒子群の個数がごく少数である場合、これらが退色してしまうとモニタリングはできなくなる。しかし、多数の粒子で構成されていれば、仮に幾つかの粒子が退色してしまっても問題は生じない。また、モニタリング技術という点では、励起強度を低くできると蛍光粒子の退色も抑制することができる。

0030

もちろん、小さな蛍光粒子群にも利点は有る。すなわち、蛍光粒子群が小さければイメージングの解像度が高くなり、また微小空間のイメージングも可能になる。ブロック共重合体で覆われた粒子径の大きさを制御できれば、蛍光モニタリングの用途別に蛍光粒子を使い分けることができるようになる。

0031

この水溶性のシリコンナノ粒子のフォトルミネッセンスPL)は、生きた生体組織ベルの観察に好適とされる700〜1000nmの近赤外波長域にある。当該粒子は二光子励起技術に最適の電子構造をもつ蛍光標識材なので、光励起に生体透過性の高い近赤外波長域の光を使用できる(当該波長域を「生体の分光学的窓」と呼ぶ)。また、700〜1000nmの波長域内でのPL波長の設定は、ナノ結晶のサイズ制御によって達成される。

0032

その近赤外発光の絶対蛍光量子収率は30%以上と高い値である。この収率は従来の水溶性Siナノ粒子より格段に高く。また商用化されている蛍光色素蛍光量子収率よりも高い。このように高い絶対蛍光量子溜率が実現できた理由は、上で説明した構造で次の3項目が初めて満足されたことによる。
・ダイヤモンド構造が維持されること(光励起キャリアの遷移モード一元化される)。
・炭化水素膜が表面酸化を抑制すること(酸化膜の形成は光励起キャリアの新たなる遷移モードを生む原因となる)。
・炭素−ケイ素結合の存在が、非輻射遷移を誘導する表面欠陥数を減少させること。

0033

なお、30%を超える量子収率は化合物半導体の量子ドット(CdTe、PbSe、PbS、InAs)でも実現可能である。しかしこれら量子ドットを構成する元素は毒性が高く生体での使用に適していない。

0034

本発明に係るSiナノ粒子のPLスペクトルの半価幅は、図7に示すように150〜300meVとなった。これらの値は従来の水溶性Siナノ粒子よりも狭い。それらの半値幅の幾つかは近赤外発光する代表的な量子ドットPbSに匹敵する。これはナノ構造結晶性、サイズ、表面層)の精密な制御を達成したからである。更に、その発光スペクトルは図5に示す通り対称性が高く、また裾をひかないため、化合物半導体量子ドットに類似の発光チューニング特性が達成される。さらに近赤外波長域での多色蛍光イメージングも可能となる。

0035

本発明により、Siが二光子励起近赤外バイオイメージング用の蛍光標識材として使用可能なことを初めて実験的に証明した。生体の蛍光イメージングでは、二光子吸収技術を利用するとコントラストが高く検出感度の良いイメージングが可能になる。なぜなら、二光子吸収を利用することで近赤外励起—近赤外発光を達成できるからである。さらに、二光子吸収であるために、シリコンナノ粒子を励起極大で励起させることが可能となる。つまり、生体外から近赤外光を放射して近赤外発光を得ることができる。さらに発光量子収率は700〜1100nmの範囲内のいずれの波長帯においても30%以上であるため、弱い励起光で検出感度の高いイメージングが可能となる。なお、二光子吸収技術自体は良く知られている事項であるため、その詳しい説明は省略する。

0036

また、PL波長を近赤外域で細かくチューニングできる。それゆえ、狭い半値幅や裾を引かない発光スペクトル形状、またPL波長を変化させても必要な励起波長が変化しないことと相俟って、単一励起照射下で異なる複数の生体分子間相互作用をパラレル観察(つまり、相互に独立して同時に観察)することを許す蛍光標識材を実現することができる。従来、このような標識材の報告例はない。

0037

ここで発光スペクトルが裾を引かないことについて説明する。背景技術の項において[問題3]としてこの問題に言及した。しかしながら、本願発明者は、ダイヤモンド構造シリコンナノ粒子における近赤外発光スペクトルにおいて、長波長側へ裾を引くピーク表面極性およびサイズの異なる粒子群から成ることに帰着されることを見出した。それゆえ、従来の考え方どおり長波長側へ裾を引くピークの起源が電子構造に基づいているのであれば、これを制御する(スペクトル半価幅を狭くするなど)ことは不可能であるが、異なる粒子から構成されているのであれば、スペクトル半価幅を広げている原因を案した上で、同質のナノ粒子ごとに分類或いは分級していくことは可能であり、またこれを実験的に証明した。

0038

また、本発明の水溶性標識材は従来のSiナノ粒子に比べて最も細胞毒性が低い。これは外殻に生体親和性が高く、両親媒性をもつプルロニック(ビーエーエスエフコーポレーシヨン(BASF社)の登録商標)を使用し、そして当該両親媒性分子が外殻を形成する際の自己組織化を制御したことで達せられた。具体的には、内殻は分子密度が高いアルキル単分子膜で構成されているために、疎水的である。それゆえ、プルロニックの低親水性ブロックが内殻と強く相互作用し、一方で外殻に生体親和性の高い親水ブロックが高密度で露出する分子膜構造自己組織的に創りだすことができた。このような構造は、ベアなSiナノ粒子、水素原子で終端されたSiナノ粒子、シリカなど極性基で保護されたSiナノ粒子表面へ、単純にプルロニックの分子を作用させても形成できない。

0039

なお、プルロニックとは、親水性のエチレンオキサイド(Ethylene Oxide、EO)と疎水性プロピレンオキシド(Propylene Oxide、PO)とのトリブロック共重合型非イオン性界面活性剤を指し、現在はBASF社から販売されている。EO重合度PO重合度を変化させることで界面活性剤としての特性を変化させることができる。ここでは、EO重合度が100、PO重合度が65の(EO)100(PO)100(EO)100の分子量12570から成るプルロニック系界面活性剤を使用した。

0040

更には、本発明のナノ粒子は、純水、生理的塩溶液、りん酸緩衝食塩液中に良く分散し、しかも半年以上安定であった。この点でも本発明のナノ粒子は生体に使用される蛍光標識材として望ましい特性を有する。

0041

以下、実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。ここで、実施例はあくまで本発明の理解を助けるためのものであって、本発明を限定するものでないことに注意すべきである。

0042

[実験例1]
Siナノ結晶から蛍光を得るためには、ナノ結晶を8nmより小さな粒子径範囲で制御し、ダイヤモンド構造をもつSi結晶単相を得る必要がある。そこで、フッ化水素酸水溶液(48%)によるエッチング時間を0〜5時間の間で制御し、Si結晶単相が得られる範囲を見積もった。結晶相の定性には粉末X線回折法を用いた。

0043

<実施例1>
トリエトキシシラン加水分解することで得たHSiO1.5を真空下、1150℃で不均化することで、Siナノ結晶を内包するSiO2粉末を得た。フッ化水素酸水溶液中(48%)で当該粉末を撹拌することで、SiO2を除去し、水素終端化されたSiナノ結晶(H−Si)を得た。撹拌時間は、70〜120分の間で制御した。遠心分離処理を通じて得た粉末を乾燥後に粉末X線回折により定性分析した。

0044

<比較例1>
トリエトキシシランを加水分解することで得たHSiO1.5を真空下、1150℃で不均化することで、Siナノ結晶を内包するSiO2粉末を得た。フッ化水素酸水溶液中(48%)で当該粉末を撹拌することで、SiO2を除去し、水素終端化されたSiナノ結晶(H−Si)を得た。撹拌時間は、25〜70分、120〜300分の間でそれぞれ制御した。遠心分離処理を通じて得た粉末を乾燥後に粉末X線回折により定性分析した。

0045

<実施例1と比較例1との比較・検討>
図2に、実施例1と比較例1から得た粉末X線回折図形を示す。フッ化水素酸水溶液中で粉末を撹拌することでSiO2を除去した。SiO2の存在は2シータ=22°附近に現れる回折ピークの有無で判断した。一方、Siの存在は、2シータ=28°、45°、56°附近に現れる(111)、(220)、(311)面のX線回折に基づいて判断した。25分のエッチング時間では両者とも存在しており、エッチング時間が長くなるほどSiO2の存在を示す2シータ=22°のピークは小さくなった。そして70〜120分の間では、ダイヤモンド構造をもつSiに由来する回折ピークだけになった。この範囲内で、エッチング時間に伴う各々の回折ピークのブロードニングは、Siナノ粒子のサイズダウンに基づく。一方、120分を超えると、2シータ=17°付近にSi−F−O系の副次生成物が形成する。それゆえ、当該濃度のフッ化水素酸水溶液を用いてエッチングを行う際には、70〜120分の間でSiナノ粒子のサイズを制御するのが良いと考えられる。

0046

[実験例2]
本発明で提案した水溶性蛍光標識材はダブルシェル構造をもつSiナノ結晶で構成される。具体的には、1つ以上のSiナノ結晶をコアにもち、各ナノ結晶は発光特性を安定化させるために炭化水素膜で終端されている。そして水溶性を付与するブロック共重合体を外殻にもつ。実施例2では水溶性蛍光標識材(ダブルシェル構造により水溶化したSiナノ粒子)の典型的な合成方法水系溶媒中での可溶性及び安定性を議論し、実施例3では、外殻の存在が発光特性を減じないことを実証する。

0047

<実施例2>
トリエトキシシランを加水分解することで得たHSiO1.5を真空下、1150℃で不均化することで、Siナノ結晶を内包するSiO2を得た。フッ化水素酸水溶液中で80分撹拌することで、SiO2を除去し、水素終端化されたSiナノ結晶(H−Si)を得た。H−Siナノ結晶を予め脱気した1−オクタデセンを含むメシチレン中で150℃熱処理することで、オクタデカン単分子膜で終端されたSiナノ結晶を得た。次にナノ結晶のトルエン分散液をプルロニック分散液と混合した。プルロニックにはF127を用い、酸水溶液(水:HCl=10:1)中に溶媒和させることでプルロニック分散液を得た。1時間混合した後にトルエン相を除去した。透析により未反応のプルロニックおよび塩化水素を取り除いた。乾燥することで生成物を得た。生成物を純水、生理的塩溶液、りん酸緩衝食塩液へ、各々分散させた後に静置した。所定の時間静置分散性および安定性を評価した。評価は目視および蛍光分光光度計にもとづき行った。

0048

<実施例3>
トリエトキシシランを加水分解することで得たHSiO1.5を真空下、1150℃で不均化することで、Siナノ結晶を内包するSiO2を得た。フッ化水素酸水溶液中で80分撹拌することで、SiO2を除去し、水素終端化されたSiナノ結晶(H−Si)を得た。H−Siナノ結晶を予め脱気した1−オクタデセンを含むメシチレン中で150℃熱処理することで、オクタデカン単分子膜で終端されたSiナノ結晶を得た。次にナノ結晶のトルエン分散液をプルロニック分散液と混合した。プルロニックにはF127を用い、酸水溶液(水:HCl=10:1)中に溶媒和させることでプルロニック分散液を得た。1時間混合した後にトルエン相を除去した。透析により未反応のプルロニックおよび塩化水素を取り除いた。生成物を乾燥後に、無蛍光水に再分散させた。蛍光分光光度計を用いてフォトルミネッセンス(PL)スペクトルと励起スペクトルを測定した。また励起極大で励起した時のPL量子収率絶対法で見積もった。

0049

<実施例4>
トリエトキシシランを加水分解することで得たHSiO1.5を真空下、1100℃〜1250℃で不均化することで、Siナノ結晶を内包するSiO2を得た。フッ化水素酸水溶液中で80分撹拌することで、SiO2を除去し、水素終端化されたSiナノ結晶(H−Si)を得た。H−Siナノ結晶を予め脱気した1−オクタデセンを含むメシチレン中で150℃熱処理することで、オクタデカン単分子膜で終端されたSiナノ結晶を得た。次にナノ結晶のトルエン分散液をプルロニック分散液と混合した。プルロニックにはF127を用い、酸水溶液(水:HCl=10:1)中に溶媒和させることでプルロニック分散液を得た。1時間混合した後にトルエン相を除去した。透析により未反応のプルロニックおよび塩化水素を取り除いた。生成物を乾燥後に、無蛍光水に再分散させた。蛍光分光光度計を用いてフォトルミネッセンス(PL)スペクトルと励起スペクトルを測定した。

0050

<比較例2>
トリエトキシシランを加水分解することで得たHSiO1.5を真空下、1150℃で不均化することで、Siナノ結晶を内包するSiO2を得た。フッ化水素酸水溶液中で80分撹拌することで、SiO2を除去し、水素終端化されたSiナノ結晶(H−Si)を得た。H−Siナノ結晶を予め脱気した1−オクタデセンを含むメシチレン中で150℃熱処理することで、オクタデカン単分子膜で終端されたSiナノ結晶を得た。当該ナノ結晶を乾燥後、無蛍光ジクロロメタンに再分散させた。蛍光分光光度計を用いてフォトルミネッセンス(PL)スペクトルと励起スペクトルを測定した。また励起極大で光励起した時のPL量子収率を絶対法で見積もった。

0051

<比較例3>
本発明で作製したサンプルの蛍光量子収率は絶対法により測定した。同一の装置を使用し、2種類の蛍光色素を絶対法で見積もった。Cy7(商品コード15020,フナコシ株式会社)を測定したところ蛍光量子収率は30.3%、HiLyte Fluor 750,Amine(商品コード81267,フナコシ株式会社)の蛍光量子収率は10.8%と見積もられた。これらの値は、それぞれの色素の販売会社公開している蛍光量子収率30%および12%とほぼ一致した。

0052

<実施例2、3、4と比較例2、3との比較・検討>
実施例2で得たサンプルは純水中に容易に分散したが、ジクロロメタンやアルカン系溶媒には分散しなかった。一方で、比較例2で得たサンプルはジクロロメタンやアルカン系溶媒には容易に分散したが、純水には分散しなかった。この違いは目視で容易に判別できた。これらの結果から比較例2で作製されたサンプルは、オクタデカンで終端されたSiナノ結晶であり、オクタデカン単分子膜の存在により油溶性を示した。実施例2で作製したサンプルは、オクタデカン単分子で終端されたSiナノ結晶をブロック共重合体で被覆することで、親水基が外に配設されたナノ構造を有していると考えられた。図3にこれら2つのサンプルの典型的な透過型電子顕微鏡像を示す。いずれのナノ結晶を見てもナノ結晶間距離が一定である。そして、ナノ結晶同士が結合した領域がない。以上より、オクタデカン単分子膜の被覆密度は高いと考えられる。また、ブロック共重合体の一つであるプルロニック水溶液中で処理したサンプルの透過型電子顕微鏡では、単一ナノ結晶で存在している粒子、複数個のナノ結晶が凝集している粒子、数十個のナノ結晶が凝集している粒子がそれぞれ観察された。オクタデカン単分子膜の存在ゆえに、各凝集体を構成するナノ結晶は互いに一定のナノ結晶間距離を保っていた。それゆえ、本発明の水溶性蛍光標識材は図1に示すようなナノ構造で構成されていると考えられる。具体的には、コアは1個以上のSiナノ結晶で構成されている。各ナノ結晶表面は炭化水素鎖で終端されており、当該炭化水素膜の分子密度は高い。1個以上のナノ結晶から構成される油溶性ナノ粒子はブロック共重合体で覆われている。本発明ではプルロニックをブロック共重合体の一例として用いた。炭化水素膜で修飾されたナノ結晶表面へはプルロニック分子の低親水性ブロックが疎水性相互作用を通じて化学吸着し、一方プルロニック分子の親水性ブロックが外側に向くことで水溶性を与えている。

0053

プルロニックで保護された水溶性ナノ粒子は、純水だけでなく、生理的塩溶液、りん酸緩衝食塩液にも容易に分散し、目視する限りにおいて半年以上の長期にわたって分散性に変化はなかった。また、PLスペクトルにも変化のないことから、光学特性を決定するコアを内殻及び外殻が廃れることなく被覆した結果、発光機能が劣化しないと結論できる。

0054

実施例3で得たサンプルのPLスペクトル及び励起スペクトルを図4に示す。励起極大で光励起した時にPL極大は985nmに観察された。励起極大は386nmに観察された。励起−発光間のストークスシフトは約600nmであった。このような大きなストークスシフトはダイヤモンド構造結晶をもつシリコンナノ結晶に特徴付けられる特性である。PLスペクトルの半値幅は168nm(220meV)と見積もられた。蛍光量子収率は31.3%であった。一方、比較例1で取得されたPLスペクトルの蛍光極大は985nmにあった。PLスペクトルの半値幅は167nm(218meV)であった。また、蛍光量子収率は31.0%であった。0.3%は実験誤差に含まれることから、本発明において用いたブロック共重合体で構成される外殻は発光特性に影響を及ぼさないことが分かった。

0055

実施例4を通じて作製された水溶性ナノ粒子の典型的なPLスペクトルを図5に示す。熱処理時間は3価のSiが、0価と4価のSiに不均化した際の0価Siナノ結晶のサイズを決定する。熱処理温度が高く時間が長い方が初期結晶径が大きくなる。同条件で熱処理した各サンプルにおいて、フッ化水素酸水溶液中での撹拌時間が長いほどシリコン結晶もエッチングされ、粒子径が小さくなる。結果として、撹拌時間が長くなるに従い、ナノ結晶からのPLスペクトルは短波長側へシフトする。1.9〜6.1nmの範囲で粒子径を制御することで700〜1000nmの波長範囲でPLスペクトルを連続的に制御できる。Siのナノ結晶において粒度分布とPLスペクトルの半値幅は相関するので、作製されたSiナノ結晶を遠心分離およびカラムクロマトグラフィープロセスを通じて分級することで単分散性を上げることでPLスペクトル半値幅の小さいものが得られる。図5に典型的なPLスペクトル特性を示す。発光の量子収率は30%より高く、スペクトルの半価幅は、図7に示す通り、全てのPLスペクトルにおいて150〜300meVの範囲であった。なお、図7には蛍光極大波長が1050nm付近までしかプロットされていないが、1050〜1100nmの範囲でも1050nm付近とほぼ同じであった。

0056

[実験例3]
本発明の蛍光標識材が従来のシングルシェル構造に比べ水溶系溶媒中で高い安定性を示すことを実証するために、pH依存性を調べた。各pHにおける水溶性粒子の安定性は、励起光として365nmのUV光を照射しながら蛍光を目視で観察することで判断した。

0057

<実施例5>
トリエトキシシランを加水分解することで得たHSiO1.5を真空下、1100℃で不均化することで、Siナノ結晶を内包するSiO2を得た。フッ化水素酸水溶液中で100分撹拌することで、SiO2を除去し、水素終端化されたSiナノ結晶(H−Si)を得た。H−Siナノ結晶を予め脱気した1−オクタデセンを含むメシチレン中で150℃熱処理することで、オクタデカン単分子膜で終端されたSiナノ結晶を得た。次にナノ結晶のトルエン分散液をプルロニック分散液と混合した。プルロニックにはF127を用い、酸水溶液(水:HCl=10:1)中に溶媒和させることでプルロニック分散液を得た。1時間混合した後にトルエン相を除去した。透析により未反応のプルロニックおよび塩化水素を取り除いた。生成物を乾燥後に超純水に再分散させた後に、石英セル封入した。365nmのUV光で励起したところ赤色発光を得た。

0058

<比較例4>
トリエトキシシランを加水分解することで得たHSiO1.5を真空下、1100℃で不均化することで、Siナノ結晶を内包するSiO2を得た。フッ化水素酸水溶液中で100分撹拌することで、SiO2を除去し、水素終端化されたSiナノ結晶(H−Si)を得た。H−Siナノ結晶を予め脱気したアクリル酸を含むメシチレン中で150℃熱処理することで、カルボキシル基で終端されたSiナノ結晶を得た。超純水に再分散させた後に、石英セルに封入した。365nmのUV光で励起したところ赤色発光を得た。

0059

<比較例5>
トリエトキシシランを加水分解することで得たHSiO1.5を真空下、1100℃で不均化することで、Siナノ結晶を内包するSiO2を得た。フッ化水素酸水溶液中で100分撹拌することで、SiO2を除去し、水素終端化されたSiナノ結晶(H−Si)を得た。H−Siナノ結晶を予め脱気したアリルアミンを含むメシチレン中で150℃熱処理することで、カルボキシル基で終端されたSiナノ結晶を得た。超純水に再分散させた後に、石英セルに封入した。365nmのUV光で励起したところ赤色フォトルミネッセンスを示さなかった。

0060

<実施例5と比較例4、5との比較・検討>
実施例5から得た水溶性ナノ粒子は、pH1.5〜12の範囲で変化させても蛍光赤色は石英セルに封入された溶液全面から均一に放射されており、pHの変化に依存せず安定に分散していると確かめられた。比較例4から得たカルボキシル基で終端されたSiナノ結晶は、図6に示す通りpH1.7〜9.2の範囲では溶液全面から均一に蛍光が放射されたが、pH10を超えると粒子の凝集が始まり、pH12を超えると粒子は沈澱し溶液からの蛍光は見られなくなった。比較例5から得たアミノ基で終端されたSiナノ結晶は赤色蛍光を示さなかった。これは、アミノ基の窒素のローンペアが最表面Si原子と相互作用することで形成する分子軌道Siナノ構造中に形成したエネルギー準位間に形成されたためであると考えられる。それゆえ、光励起により発生した電子—ホール対は、Siのナノ構造で規定されるHOMO−LUMO遷移ではなく、新たに形成された界面準位を経由して起こると考えられる。実証の一つとして、消光したと考えられたPLは850nmへレッドシフトしていた。

0061

[実験例4]
内殻を形成する炭化水素単分子膜の酸化抑制効果を調べるために、水素終端Siナノ結晶とオクタデセン終端Siナノ結晶の乾燥粉末を大気に暴露して、酸素に対する反応性を調べた。結晶相の同定は粉末X線回折法から調べた。

0062

<実施例6>
トリエトキシシランを加水分解することで得たHSiO1.5を真空下、1100℃で不均化することで、Siナノ結晶を内包するSiO2を得た。フッ化水素酸水溶液中で90分撹拌することで、SiO2を除去し、水素終端化されたSiナノ結晶(H−Si)を得た。H−Siナノ結晶を予め脱気した1−オクタデセンを含むメシチレン中で150℃熱処理することで、オクタデカン単分子膜で終端されたSiナノ結晶を得た。2週間大気放置した後に粉末X線回折で分析したところ回折図形に変化はなかった。

0063

<比較例6>
トリエトキシシランを加水分解することで得たHSiO1.5を真空下、1100℃で不均化することで、Siナノ結晶を内包するSiO2を得た。フッ化水素酸水溶液中で90分撹拌することで、SiO2を除去し、水素終端化されたSiナノ結晶(H−Si)を得た。2週間大気放置した後に粉末X線回折で分析したところ、Siの結晶相を示す回折は見受けられず、代わりに、21°附近に酸化シリコンの形成を示すブロードなピークが見られた。

0064

<実施例6と比較例6との比較・検討>
実施例6で作製したオクタデカン単分子膜で終端されたSiナノ結晶は、2週間の大気暴露下においても粉末X線回折図形に変化無く、それゆえ、シェラーの式から見積もることのできる結晶サイズにも変化無かった。これは、図3に示す透過型電子顕微鏡像から議論された通り、オクタデカン分子の末端炭素がナノ結晶最表面のSiと共有結合で強く結びつき、さらに、オクタデカン単分子膜内では炭化水素間で発生する疎水性相互作用を通じて高い密度のオクタデカン分子が結晶表面を覆っているために、酸素の侵入阻害されたと考えられる。一方、比較例6の水素終端Siナノ結晶では容易に酸化が進んだ。水素原子はケイ素原子に比べると小さく、大気中に存在する酸素種の中でも特に反応性の高い活性酸素は容易にナノ結晶最表面まで接近できケイ素と反応、その後結晶内部へ拡散することで酸化が進んだと考えられる。通常、大気中に置かれた水素終端化Siの酸化はバルク結晶のウェハーでも起きる。酸化膜の厚さは季節によって多少の差があるが、室温下では1.7〜2.1nmであるので、蛍光発光特性を示すSiナノ粒子であれば酸化されて酸化シリコンナノ粒子になるのは納得できる。

0065

[実験例5]
本発明の蛍光標識材の細胞毒性を調べた。本発明で記載のナノ構造を用いた場合に高い細胞生存率が達成されることを示す。また二光子励起によるバイオイメージングを行った。

0066

<実施例7>
トリエトキシシランを加水分解することで得たHSiO1.5を真空下、1100℃で不均化することで、Siナノ結晶を内包するSiO2を得た。フッ化水素酸水溶液中で80分撹拌することで、SiO2を除去し、水素終端化されたSiナノ結晶(H−Si)を得た。H−Siナノ結晶を予め脱気した1−オクタデセンを含むメシチレン中で150℃熱処理することで、オクタデカン単分子膜で終端されたSiナノ結晶を得た。次にナノ結晶のトルエン分散液をプルロニック分散液と混合した。プルロニックにはF127を用い、酸水溶液(水:HCl=10:1)中に溶媒和させることでプルロニック分散液を得た。1時間混合した後にトルエン相を除去した。透析により未反応のプルロニックおよび塩化水素を取り除いた。当該水溶性蛍光標識材の細胞毒性試験は、Cell Counting Kit-8を用いておこなった。NIH3T3細胞の懸濁液をDulbecco's Modified Eagle Medium(通称DMEM培地分配した。尚、培地には、10%の fetal bovine serum、100units/mLのペニシリン、100mg/mLのストレプトマイシンが添加された。これを37℃、5%二酸化炭素を含む加湿空気中で1日インキュベート後に、蛍光標識材を所定量添加して37℃、5%二酸化炭素を含む加湿空気中で1日インキュベートした。これに10μLのCCK−8溶液を添加し、24時間インキュベート後に、マイクロプレートリーダーを用いて吸光度から細胞生存率を調べた。水溶性蛍光標識材の濃度を25〜500μg/mLまで増加させた時、300μg/mLまではNIH3T3細胞の生存率はほぼ100%、500μg/mLの高濃度下においても95%以上の生存率を示した。

0067

<実施例8>
トリエトキシシランを加水分解することで得たHSiO1.5を真空下、1100℃で不均化することで、Siナノ結晶を内包するSiO2を得た。フッ化水素酸水溶液中で80分撹拌することで、SiO2を除去し、水素終端化されたSiナノ結晶(H−Si)を得た。H−Siナノ結晶を予め脱気した1−オクタデセンを含むメシチレン中で150℃熱処理することで、オクタデカン単分子膜で終端されたSiナノ結晶を得た。次にナノ結晶のトルエン分散液をプルロニック分散液と混合した。プルロニックにはF127を用い、酸水溶液(水:HCl=10:1)中に溶媒和させることでプルロニック分散液を得た。1時間混合した後にトルエン相を除去した。透析により未反応のプルロニックおよび塩化水素を取り除いた。

0068

NIH3T3細胞を1mLあたり105個の細胞を含むように調製し、所定のガラス基板上へ配設した。これに100μg/mLの780nmに発光極大をもつ水溶性Siナノ粒子を作用させ、24時間インキュベートした。リン酸バッファーで数回洗浄したあとに、パラフォルムアルデヒドで固定化することで蛍光イメージング用試料とした。

0069

蛍光イメージングは二光子励起法を用いた。波長790nmのフェムト秒チタンサファイアレーザパルス励起光源とし、二光子励起発光をダイクロイックミラーフィルターによって分離し、試料を395nmに相当するフォトンエネルギーで励起したところ、蛍光コントラストの高いNIH3T3細胞のイメージング像を獲た。

0070

<比較例7>
近年の水溶性Siナノ粒子の細胞毒性試験の結果を記載することで比較例とする。
リン脂質のミセルで保護されたSiナノ粒子の膵臓がん細胞毒性をMTT試験で評価したところ、ナノ粒子濃度が4μg/mLを超えると細胞生存率は単調に減少を始め10μg/mLで80%、12μg/mLで60%を下回る(非特許文献9)
リシンで修飾されたSiナノ粒子の膵臓がん細胞毒性をMTS試験で評価したところ、ナノ粒子濃度が200μg/mLまでは細胞生存率100%であったが、500μg/mLでは60%まで減少した(非特許文献10)。
エポキシ基、アミノ基、ジオール基で終端されたSiナノ粒子のA549細胞およびHepG2ヒト肝由来細胞に対する細胞毒性をMTT試験で評価したところ、50μg/mLまでは、ほぼ細胞生存率100%であったが、100μg/mLを超えると生存率が50〜60%まで減少し、200μg/mLを超えると20%以下になった(非特許文献11)。
・アミノ基、カルボキシル基で終端されたSiナノ粒子のHella細胞毒性をMTT試験で評価したところ、ナノ粒子濃度が60μg/mLを超えると生存率が80%まで減少した(非特許文献12)。
カルボキシ基で終端されたSiナノ粒子を分子量の高いポリエチレングリコールのミセルに封入した水溶性蛍光標識の膵臓がん細胞毒性をMTS試験で評価したところ、ナノ粒子濃度が200μg/mLまでは細胞生存率100%であったが、500μg/mLでは60%以下になった(非特許文献13)。

0071

<実施例7、8と比較例7との比較・検討>
細胞毒性はこれまで単分子膜で構成されるシングルシェル形成により水溶性化したSiナノ粒子において研究されてきた。従来、Siナノ粒子を対象にした細胞毒性は、表面官能基に強く依存されると報告され、チオール基は細胞毒性を増加させ、アミノ基やエステル基などは低細胞毒性基と考えられてきた。ところが、比較例7から、ナノ粒子の高濃度環境下では、アミノ基やエステル基なども細胞毒性が高いことが明らかになった。生体親和性の高いことで知られ他のナノ粒子においても表面保護材に使われるポリエチレングリコールを高分子量で保護しても、本発明の蛍光標識材に比べると毒性がある。さらにリン脂質などの生体親和性の高い表面保護層を用いても本発明の水溶性蛍光標識材と比較すると細胞毒性が高いと言える。プルロニック系界面活性剤の生体親和性はよく知られているが、細胞毒性の低さはプルロニックのもつ分子化学的性質だけに依存するのではなく、内殻の存在により外殻の薄膜構造自己組織化的に制御され、その結果として緻密親水膜を粒子最表面へ露出できたことによると考えられる。

実施例

0072

実施例8において、二光子励起によって細胞の蛍光イメージングを行った。入射光は790nmであるので、395nmに相当するフォトンエネルギーで蛍光体を励起したことになる。図3より395nmは励起極大に非常に近い波長であることから、蛍光体を効率良く励起したことになる。蛍光体には780nmに蛍光極大をもつナノ粒子であることから、本イメージングは生体分光窓に相当する波長範囲で行われたことを意味している。重要な点は、フェムト秒レーザーのなかでもっとも汎用される波長790nmは、本発明ナノ粒子全てを効率良く光励起できる波長に相当することである。たとえば、実施例8で使用したナノ粒子は、図5に記載の通り、励起極大で光励起することで、絶対蛍光量子収率40%を超える効率で発光するため、励起強度が微弱で済み、コントラスの高い蛍光イメージングを提供できた。

0073

以上説明したように、本発明によれば、発光効率が良くまた安定して発光するシリコンナノ粒子が得られ、これを例えば生体の蛍光イメージングのための蛍光標識材に応用できるため、産業上の利用可能性は大きいものがある。

0074

特開2006-77124号公報
特開2009−227703号公報
特開2009−256530号公報
特開2013−227253号公報
特開2013−56916号公報
特表2013−504692号公報

先行技術

0075

Small,2011,7,199.
https://www.env.go.jp/kijun/wt1.html
ACS Nano 2011, 5, 413.
Physical Chemistry Chemical Physics 2011, 13, 7284.
Science and Technology of Advanced Materials, 2014, 15,014207.
ACS Nano 2011, 5, 413.
Journal of Physical Chemistry Letters 4 (2013) 402.
日本油化学会誌 49(200)1071:プルロニック系界面活性剤の総説
ACS Nano, 2008, 2, 873-878.
Bioconjugate Chemistry, 2011, 22, 1081-1088.
J. Am. Chem. Soc., 2010, 132, 248-253.
Langmuir 2014, 30, 5209-5216.
ACS Nano 2011, 5, 413-423.

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