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解決課題
解決手段
概要
背景
導電性、成形加工性、及び機械的強度を備えた材料はエレクトロニクス、電気化学、エネルギー、自動車等の様々な分野で広く使用されており、特に、高い導電性、成形加工性、及び機械的強度が求められる用途においては、金属のような腐食の無い黒鉛と高分子材料とを組み合わせた複合材料が開発され、例えば、水素と酸素の酸化還元反応を利用する固体高分子形燃料電池、バナジウム等のイオンの酸化還元反応を利用するレドックスフロー電池、リン酸電解質で隔てられた燃料極と空気極とで別々に行う電気化学反応を利用するリン酸形燃料電池等の燃料電池の分野において、セパレータ、双極板、集電体、電極、放熱板、集積体等の用途に用いられているほか、精密機械部品、電気・電子製品、自動車精密部品等の分野においても、各種の基板材料、シート材料等の用途に用いられている。
しかしながら、黒鉛と高分子材料とを組み合わせた複合材料においては、高い導電性を得るためには黒鉛の配合割合を高くする必要があるが、この黒鉛の配合割合を高くすると、得られた成形体において靱性が損なわれ、成形加工性や機械的強度が著しく低下する。そこで、従来においても、高い導電性を維持しつつ良好な成形加工性や機械的強度を発現させるために、様々な工夫や提案が行われている。
例えば、特許文献1及び2においては、黒鉛を炭素数10〜32の直鎖脂肪酸で表面処理し、あるいは、黒鉛を低密度ポリエチレン等の融点95〜180℃の物質で表面処理し、これにより成形時に良好な流動性を与えて導電性を損なうことなく成形性を向上させ、特に燃料電池用セパレータの成形材料として有用な熱硬化性樹脂成形材料が提案されている。また、特許文献3及び4においては、黒鉛粉をアミン系又はエポキシ系等のシランカップリング剤で被覆し、あるいは、黒鉛粉をシランカップリング剤及び柔軟なエポキシ樹脂で表面被覆し、これにより黒鉛粉と熱硬化性樹脂との親和性を高めて密着性を良好にし、導電性と機械的強度とに優れた黒鉛/硬化樹脂成形体からなる燃料電池用セパレータが提案されている。更に、特許文献5及び6においては、黒鉛に配合する結着樹脂として硬化性樹脂と所定のムーニー粘度を有するエラストマーとの樹脂組成物を用い、あるいは、炭素材料として球状黒鉛とカーボンブラックを用いると共に結着樹脂として硬化性樹脂とエラストマーとの樹脂組成物を用い、エラストマーの添加効果により導電性と成形加工性、放熱性、取扱性等とに優れており、燃料電池用セパレータ、電池用集積体、電極、放熱板等の用途に有用な導電性硬化性樹脂組成物が提案されている。
そして、特許文献7においては、熱可塑性樹脂、黒鉛等の導電性カーボン及び可塑剤を含む複合導電材料のシートであって、前記熱可塑性樹脂と可塑剤とが電離放射線で結合されており、導電性とシート加工性等に優れたレドックスフロー電池用双極板が提案されており、また、特許文献8においては、黒鉛に配合する樹脂としてPPS樹脂とフッ素樹脂とを組成重量比率(PPS樹脂/フッ素樹脂)99/1〜70/30で含む熱可塑性樹脂組成物が用いられ、曲げ強度40MPa以上、体積抵抗値10mΩ・cm以下、及び水の接触角80°以上であって、導電性と機械的強度及び撥水性に優れた燃料電池用セパレータが提案されている。
概要
成形加工性に優れているだけでなく、温水や硫酸水溶液等に長期間晒された場合であっても成形体膨潤の問題を可及的に抑制することができ、長期に亘って優れた導電性及び機械的強度を維持することができる長期耐久性にも優れた導電性樹脂組成物及び導電性樹脂成形体を提供する。黒鉛粉と熱可塑性樹脂とを含み、黒鉛粉(G)と熱可塑性樹脂(P)との体積組成比(G/P)が50/50〜95/5であり、また、黒鉛粉が、平均粒子径1〜100μm、酸素含有量0.5〜5.0質量%、及び表面官能基pH2.0〜5.0のものである導電性樹脂組成物及び導電性樹脂成形体である。なし
目的
本発明の目的は、成形加工性に優れているだけでなく、温水や硫酸水溶液等に長期間晒された場合であっても成形体膨潤の問題を可及的に抑制することができ、長期に亘って優れた導電性及び機械的強度を維持することができる長期耐久性にも優れた導電性樹脂組成物及び導電性樹脂成形体を提供する
効果
実績
- 技術文献被引用数
- 1件
- 牽制数
- 0件
この技術が所属する分野
(分野番号表示ON)※整理標準化データをもとに当社作成
技術分野
0001
この発明は、黒鉛粉と熱可塑性樹脂とを含む樹脂組成物に係り、特に黒鉛粉の含有割合が50体積%以上であって、導電性、成形加工性、機械的強度、及び長期耐久性に優れた導電性樹脂組成物、及びこの導電性樹脂組成物を成形して得られた導電性樹脂成形体に関する。
背景技術
0002
導電性、成形加工性、及び機械的強度を備えた材料はエレクトロニクス、電気化学、エネルギー、自動車等の様々な分野で広く使用されており、特に、高い導電性、成形加工性、及び機械的強度が求められる用途においては、金属のような腐食の無い黒鉛と高分子材料とを組み合わせた複合材料が開発され、例えば、水素と酸素の酸化還元反応を利用する固体高分子形燃料電池、バナジウム等のイオンの酸化還元反応を利用するレドックスフロー電池、リン酸電解質で隔てられた燃料極と空気極とで別々に行う電気化学反応を利用するリン酸形燃料電池等の燃料電池の分野において、セパレータ、双極板、集電体、電極、放熱板、集積体等の用途に用いられているほか、精密機械部品、電気・電子製品、自動車精密部品等の分野においても、各種の基板材料、シート材料等の用途に用いられている。
0003
しかしながら、黒鉛と高分子材料とを組み合わせた複合材料においては、高い導電性を得るためには黒鉛の配合割合を高くする必要があるが、この黒鉛の配合割合を高くすると、得られた成形体において靱性が損なわれ、成形加工性や機械的強度が著しく低下する。そこで、従来においても、高い導電性を維持しつつ良好な成形加工性や機械的強度を発現させるために、様々な工夫や提案が行われている。
0004
例えば、特許文献1及び2においては、黒鉛を炭素数10〜32の直鎖脂肪酸で表面処理し、あるいは、黒鉛を低密度ポリエチレン等の融点95〜180℃の物質で表面処理し、これにより成形時に良好な流動性を与えて導電性を損なうことなく成形性を向上させ、特に燃料電池用セパレータの成形材料として有用な熱硬化性樹脂成形材料が提案されている。また、特許文献3及び4においては、黒鉛粉をアミン系又はエポキシ系等のシランカップリング剤で被覆し、あるいは、黒鉛粉をシランカップリング剤及び柔軟なエポキシ樹脂で表面被覆し、これにより黒鉛粉と熱硬化性樹脂との親和性を高めて密着性を良好にし、導電性と機械的強度とに優れた黒鉛/硬化樹脂成形体からなる燃料電池用セパレータが提案されている。更に、特許文献5及び6においては、黒鉛に配合する結着樹脂として硬化性樹脂と所定のムーニー粘度を有するエラストマーとの樹脂組成物を用い、あるいは、炭素材料として球状黒鉛とカーボンブラックを用いると共に結着樹脂として硬化性樹脂とエラストマーとの樹脂組成物を用い、エラストマーの添加効果により導電性と成形加工性、放熱性、取扱性等とに優れており、燃料電池用セパレータ、電池用集積体、電極、放熱板等の用途に有用な導電性硬化性樹脂組成物が提案されている。
0005
そして、特許文献7においては、熱可塑性樹脂、黒鉛等の導電性カーボン及び可塑剤を含む複合導電材料のシートであって、前記熱可塑性樹脂と可塑剤とが電離放射線で結合されており、導電性とシート加工性等に優れたレドックスフロー電池用双極板が提案されており、また、特許文献8においては、黒鉛に配合する樹脂としてPPS樹脂とフッ素樹脂とを組成重量比率(PPS樹脂/フッ素樹脂)99/1〜70/30で含む熱可塑性樹脂組成物が用いられ、曲げ強度40MPa以上、体積抵抗値10mΩ・cm以下、及び水の接触角80°以上であって、導電性と機械的強度及び撥水性に優れた燃料電池用セパレータが提案されている。
先行技術
0006
特開2002-294,079号公報
特開2003-226,817号公報
特開2006-351,265号公報
特開2007-048,558号公報
特開2003-176,327号公報
特開2013-164,984号公報
特開2012-221,775号公報
特開2013-120,737号公報
発明が解決しようとする課題
0007
しかしながら、特許文献1〜6に記載された導電性樹脂組成物は、いずれも高分子材料として熱硬化性樹脂が用いられており、たとえ成形時に良好な流動性を与える物質や黒鉛粉と熱硬化性樹脂との親和性を高めるシランカップリング剤を用いて黒鉛の表面処理を行い、あるいは、結着樹脂中にエラストマーを添加しても、得られた成形体においてマトリックスとなる高分子材料が熱硬化性樹脂であると、得られた成形体は不可避的にその弾性が劣ることになり、機械的強度、特に比較的大きな変形時に割れが発生し易くて曲げ強度に限界があり、また、例えば固体高分子形燃料電池のセパレータやレドックスフロー電池の電極等のように、温水や硫酸水溶液等に長期に亘って晒されると、次第に成形体が膨潤し、導電性や機械的強度が低下するという問題が生じる。
0008
また、特許文献7においては、熱可塑性樹脂と可塑剤とが結合されてシート加工性が改善され、また、特許文献8においては、PPS樹脂とフッ素樹脂とが所定の割合で配合されて機械的強度や水の排出性が改善されてはいるものの、これら特許文献7及び8においても、黒鉛と熱可塑性樹脂との間の化学的親和性が十分ではなく、温水や硫酸水溶液等に長期に亘って晒されると、次第に成形体が膨潤し、導電性や機械的強度が低下するという問題が生じる。
0009
そして、本発明者らは、上述した温水や硫酸水溶液等に長期に亘って晒された場合に成形体が膨潤するという問題(以下、「成形体膨潤の問題」ということがある。)について、その発生原因と解決策の検討をする中で、次のような知見を得た。すなわち、固体の表面においては、通常、原子の規則的な配列が途切れ、周囲の酸素や水分と結合して表面官能基を形成しており、この表面官能基が当該個体の性質に大きな影響を与えているが、導電性樹脂成形体において炭素材料として用いられる通常の黒鉛においては、この表面官能基の状態が適切ではなく、マトリックスとなる高分子材料の改善だけでは限界があり、成形体膨潤の問題を解決するには黒鉛の表面を適切な状態にすることが必要であることを知見した。
0010
また、本発明者らは、更に上記の成形体膨潤の問題を解決するために、黒鉛の表面が適切な状態であるかを判断する上で、黒鉛の表面における酸素含有量(いわゆる化学分析における酸素分析値)と、この黒鉛表面の酸素がカルボキシル基、フェノール性水酸基、カルボニル基、キノン基等の表面官能基のうちのどのような形態で存在するかを規定するpH値や強酸性官能基量を指標とすることが最適であることを知見し、また、単にpHが低い、すなわち、強酸性官能基が多く存在するということだけでは必ずしも十分ではなく、黒鉛の表面改質の効果を効果的に発現させるためには、例えば熱濃硝酸による強い酸化処理等により酸素含有量を通常想定されるよりも多くすることが必要であることも知見した。
0011
そこで、本発明者らは、この知見を基に、優れた成形加工性を有するだけでなく、たとえ温水や硫酸水溶液等に長期に亘って晒された場合であっても、上述した成形体膨潤の問題を可及的に抑制することができ、導電性及び機械的強度を長期に亘って維持することができる導電性樹脂組成物について鋭意検討した結果、炭素材料として用いる黒鉛の平均粒子径を所定の範囲にすると共に、黒鉛の表面における酸素含有量と表面官能基とを適切な状態にし、また、マトリックスとなる高分子材料として熱可塑性樹脂を用いることにより、黒鉛と熱可塑性樹脂との間の化学的親和性が改善され、単に成形加工性、導電性及び機械的強度に優れているだけでなく、成形体膨潤の問題を解決することができ、長期耐久性に優れた導電性樹脂組成物を得ることができることを見出し、本発明を完成した。
0012
従って、本発明の目的は、成形加工性に優れているだけでなく、温水や硫酸水溶液等に長期間晒された場合であっても成形体膨潤の問題を可及的に抑制することができ、長期に亘って優れた導電性及び機械的強度を維持することができる長期耐久性にも優れた導電性樹脂組成物及び導電性樹脂成形体を提供することにある。
課題を解決するための手段
0013
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)黒鉛粉と熱可塑性樹脂とを含む組成物であって、
前記黒鉛粉(G)と熱可塑性樹脂(P)との体積組成比(G/P)が50/50〜95/5であり、また、
前記黒鉛粉が、平均粒子径1〜100μm、酸素含有量0.5〜5.0質量%、及び表面官能基pH2.0〜5.0であることを特徴とする導電性樹脂組成物。
(2) 前記黒鉛粉が、強酸性官能基量0.3〜3.0mmol/gであることを特徴とする前記(1)に記載の導電性樹脂組成物。
(3) 前記熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン(PO)と変性ポリオレフィン(MPO)との質量組成比(PO/MPO)10/90〜90/10の混合物であることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の導電性樹脂組成物。
(4) 黒鉛粉の平均粒子径が2〜50μmであることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の導電性樹脂組成物。
(5) 前記(1)〜(4)のいずれかに記載された導電性樹脂組成物を成形した導電性樹脂成形体であって、圧縮強度が3MPa以上であり、曲げ歪が0.17%以上であって割れが無いことを特徴とする導電性樹脂成形体。
発明の効果
0014
本発明によれば、成形加工性に優れていて燃料電池の分野を始めとし、精密機械部品、電気・電子製品、自動車精密部品等の様々な分野において、セパレータ、双極板、集電体、電極、放熱板、集積体等の用途を始め、導電性が求められる各種の基板材料、シート材料等の用途に有用であり、しかも、温水や硫酸水溶液等に長期間晒された場合であっても成形体膨潤の問題を可及的に抑制することができ、長期に亘って優れた導電性及び機械的強度を維持することができる長期耐久性に優れた導電性樹脂組成物及び導電性樹脂成形体を提供することができる。
0015
以下、本発明の導電性樹脂組成物及び導電性樹脂成形体を詳細に説明する。
本発明の導電性樹脂組成物は、黒鉛粉(G)と熱可塑性樹脂(P)との体積組成比(G/P)が50/50〜95/5であり、好ましくは50/50〜90/10である。この体積組成比(G/P)が50/50より低くなると、得られる導電性樹脂成形体に対して高い導電性を与えることが難しくなり、反対に、95/5よりも高くなると、所望の成形加工性や機械的強度が得られ難くなる。
0016
本発明において、使用する黒鉛粉については、その平均粒子径が1μm以上100μm以下、好ましくは2μm以上50μm以下であり、また、酸素含有量が0.5質量%以上5.0質量%以下、好ましくは1.0質量%以上4.5質量%以下であり、また、表面官能基がpH2.0以上pH5.0以下、好ましくはpH3.0以上pH4.5以下である。この黒鉛粉の平均粒子径が1μmよりも小さくなると、所望の機械的強度を発現させるのに必要な熱可塑性樹脂の使用量が増加し、得られた導電性樹脂組成物における黒鉛粉(G)と熱可塑性樹脂(P)との体積組成比(G/P)が低下し、結果として所望の導電性が得られなくなり、反対に、100μmを超えて大きくなると、黒鉛の樹脂との接着面積が小さくなり過ぎて強度が低下する虞がある。また、黒鉛粉の酸素含有量が0.5質量%より低いと、界面の化学的親和性が低く、機械的強度の改善が得られない虞があり、反対に、5.0質量%より高くなると、黒鉛表面の官能基が多くなりすぎて黒鉛同士の接触抵抗が増大し、導電特性が悪化する虞がある。更に、黒鉛粉の表面官能基がpH2.0より低いと、カルボキシル基よりもpH値の低い酸素由来でない官能基の存在が示唆され、黒鉛表面と熱可塑性樹脂との界面における化学的親和性が低下し、カルボキシル基に由来する化学結合が形成されずに空隙が生じ易くなり、この形成された空隙内に水が入り込んで成形体膨潤の問題が発生し、長期間のうちに導電性及び機械的強度が低下するという問題が生じ、反対に、pH5.0より高くなると、黒鉛表面のカルボキシル基が減少し、黒鉛表面と熱可塑性樹脂との界面における化学的親和性が低下し、このカルボキシル基に由来する化学結合が形成されずに空隙が生じ易くなる虞がある。
0017
更に、黒鉛粉については、好ましくは強酸性官能基量が0.3mmol/g以上3.0mmol/g以下、より好ましくは0.4mmol/g以上2.5mmol/g以下であるのがよい。この強酸性官能基量は、カルボキシル基量を定量的に示す指標であり、表面官能基pHでの規定を更に厳密に規定するものである。強酸性官能基量が3.0mmol/gよりも多いと、樹脂との親和性が高すぎるために黒鉛粒子同士の接触点が減少し、その結果、黒鉛樹脂組成物の接触抵抗が大きくなる虞がある。反対に、強酸性官能基量が0.3mmol/gよりも少ないと、黒鉛表面のカルボキシル基量が減少し、黒鉛表面と熱可塑性樹脂との界面における化学的親和性が低下し、このカルボキシル基に由来する化学結合が形成されずに空隙が生じ易くなる虞がある。
0018
ここで、このような黒鉛粉については、高い導電性を得るためには結晶性が高いものがよく、また、所定のpH値で表面官能基を導入するためには黒鉛表面に炭素六角網面の端部がある程度存在する必要があり、具体的には、X線回折による結晶子サイズLcが10nm以上であり、また、ラマン分光によるR値が0.1〜0.8のものであるのがよい。また、このような黒鉛粉、特に所望の酸素含有量及び表面官能基の黒鉛粉を得る方法については、特に制限されるものではないが、例えば、所望の平均粒子径を有する黒鉛粉について、適当な酸を用いた酸処理を行い、引き続いて不活性雰囲気下に200℃以上800℃以下、好ましくは300℃以上700℃以下の加熱処理を行う酸処理及び加熱処理を行う方法や、オゾンにより酸素官能基を導入する方法、酸素プラズマにより表面処理を行う方法等を例示することができ、より好ましくは濃硝酸を用いて100℃〜沸騰状態及び2〜5時間の処理条件で行う熱濃硝酸による強い酸化処理であるのがよく、更に必要により炭酸ガス流通下に1000〜1500℃及び2〜5時間の処理条件で加熱する賦活処理を行った後に更に上記の熱濃硝酸による強い酸化処理を行うのがよい。
0019
本発明において、導電性樹脂成形体のマトリックスとなる高分子材料としては熱可塑性樹脂が用いられ、この熱可塑性樹脂としては、通常この種の技術分野で用いられている樹脂を用途等に応じて適宜選択して用いることができ、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のオレフィン系樹脂や、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン等の塩化ビニル系樹脂や、アクリル酸エステルやメタクリル酸エステルの重合体である(メタ)アクリル系樹脂や、芳香族ビニル化合物をモノマーとして製造されるポリスチレン(PS)等のスチレン系樹脂や、ポリ酢酸ビニル(PVAc)等の酢酸ビニル系樹脂や、イソシアネート基と水酸基を有する化合物を縮合させて得られるポリウレタン(PUR)等のウレタン系樹脂や、フッ素を含むエチレン系炭化水素を重合して得られるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系樹脂や、上記の熱可塑性樹脂を得るための各種のモノマーのうちの2種類以上をラジカル共重合、イオン共重合あるいは共縮合させて得られるランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、及びグラフト共重合体等の熱可塑性共重合樹脂が挙げられる。
0020
これらの熱可塑性樹脂のうちで接着性、耐熱性、耐水性、耐薬品性、機械的強度等の観点から好ましいものはオレフィン系樹脂であり、また、このオレフィン系樹脂としてはポリオレフィンやその接着性を改善させた変性ポリオレフィンがあり、更に、変性オレフィンとしては、ポリオレフィンを塩素で変性させた塩素化ポリオレフィン、ポリオレフィンを酸で変性させた酸変性ポリオレフィン、塩素化ポリオレフィンを酸で変性された酸変性塩素化ポリオレフィン、酸変性ポリオレフィンを塩素で変性させた塩素化酸変性ポリオレフィン、及びアミン変性ポリオレフィン等が挙げられ、これらはその1種のみを単独で用いてもよく、また、2種以上を併用してもよい。
0021
ここで、ポリオレフィンとしては、α-オレフィンの単独重合体及び2種以上の共重合体を挙げることができ、前記α-オレフィンの具体例としては、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン-1、ペンテン-1、2-メチルブテン-1、3-メチルブテン-1、ヘキセン-1、3-メチルペンテン-1、4-メチルペンテン-1、3,3-ジメチルブテン-1、ヘプテン-1、メチルヘキセン-1、ジメチルペンテン-1、トリメチルブテン-1、エチルペンテン-1、オクテン-1、メチルペンテン-1、ジメチルヘキセン-1、トリメチルペンテン-1、エチルヘキセン-1、メチルエチルペンテン-1、ジエチルブテン-1、プロピルペンテン-1、デセン-1、メチルノネン-1、ジメチルオクテン-1、トリメチルヘプテン-1、エチルオクテン-1、メチルエチルヘプテン-1、ジエチルヘキセン-1、ドデセン-1、ヘキサドデセン-1、シクロペンテン、シクロへキセン、ノルボルネン、ブタジエン、ヘキサジエン、オクタジエン等が挙げられる。また、ポリオレフィンの具体例としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ4-メチルペンテン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン共重合体、プロピレン-ブテン共重合体、プロピレン-エチレン-ブテン共重合体等が挙げられる。
0022
また、前記塩素化ポリオレフィン及び塩素化酸変性ポリオレフィンについては、上記のポリオレフィン又は後述する酸変性ポリオレフィンを有機溶媒に溶解して常法に従って塩素化することにより、例えば、ポリオレフィンをクロロホルム、テトラクロロエチレン、クロロベンゼン等の塩素系溶媒に溶解し、無触媒で、あるいは、有機過酸化物やアゾニトリル等のラジカル発生剤(ラジカル重合開始剤と同様のもの)の存在下に、50〜140℃の温度で塩素と接触させることにより得ることができ、塩素含有率5質量%以上50質量%以下、好ましくは10質量%以上45質量%以下のものを挙げることができる。
0023
更に、上記の酸変性ポリオレフィンや酸変性塩素化ポリオレフィンについては、変性剤としてカルボキシル基、カルボン酸無水物基、又はカルボン酸エステル基と不飽和二重結合とを有する重合性化合物を使用し、常法により上記のポリオレフィンや塩素化ポリオレフィンに前記重合性化合物をグラフト共重合させる酸変性及び/又はアクリル変性により得ることができる。上記の重合性化合物の具体例としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、α-エチルアクリル酸等のモノカルボン酸類や、これらモノカルボン酸類のエステルや、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸、シトラコン酸、テトラヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸、エンドシス-ビシクロ[2,2,1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボン酸、メチル-エンドシス-ビシクロ[2,2,1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボン酸等のジカルボン酸類や、これらジカルボン酸類の酸無水物やエステル等を例示することができる。また、上記の重合性化合物で酸変性及び/又はアクリル変性を行う際のグラフト率については、通常0.6〜4.0質量%、好ましくは0.7〜3.0質量%であるのがよい。
0024
また、上記の重合性化合物をポリオレフィンや塩素化ポリオレフィンにグラフト共重合させる具体的な方法としては、例えば、ポリオレフィン又は塩素化ポリオレフィンを有機溶媒に溶解し、得られた溶液中に上記の重合性化合物と有機過酸化物やアゾニトリル等のラジカル重合開始剤とを添加し、撹拌下に100〜180℃に加熱してラジカル付加反応を行う方法や、ポリオレフィン又は塩素化ポリオレフィンと重合性化合物及びラジカル重合開始剤とをバンバリーミキサー、ニーダー、スクリュー押出し機等を用いて全体が融解する温度以上300℃以下の温度で加熱する方法や、重合性化合物とラジカル重合開始剤とを有機溶媒に溶解し、得られた溶液をポリオレフィン又は塩素化ポリオレフィンの粉体中に含浸させ、その後に粉体が溶融しない温度まで加熱する方法等が挙げられる。
0025
なお、本発明で用いられる熱可塑性樹脂について、黒鉛粉に対して適用する際の適用形態については、特に制限されるものではなく、粉末状、ペレット状、エマルジョン等どのような形態であってもよい。なお、エマルジョンは乳化剤、水以外の溶剤、界面活性剤等を用いて調製することができる。
0026
本発明で用いる変性ポリオレフィンについて、市販品として入手可能なものとしては、例えば、タフマー(登録商標)XMシリーズ(三井化学社製)、スーパークロン(登録商標)シリーズ(日本製紙ケミカル社製)、アウローレン(登録商標)シリーズ(日本製紙ケミカル社製)、ザイクセン(登録商標)シリーズ(住友精化社製)、リコセンPPシリーズ(クラリアント社製)、ケミパール(登録商標)シリーズ(三井化学社製)、アドマー(登録商標)シリーズ(三井化学社製)、アローベーズ(登録商標)シリーズ(ユニチカ社製)等を例示することができる。
0027
本発明において、熱可塑性樹脂として上記のオレフィン系樹脂を用いる場合、ポリオレフィン又は変性ポリオレフィンをそれぞれ単独で用いてもよいが、用途等に応じてポリオレフィンが有する耐水性や耐薬品性と変性ポリオレフィンが有するより優れた接着性とを効率的に発現させるために、好ましくはこれらポリオレフィンと変性ポリオレフィンとを併用するのがよく、より好ましくはポリオレフィン(PO)と変性ポリオレフィン(MPO)とを質量組成比(PO/MPO)5/95〜95/5の割合で、更に好ましくは質量組成比(PO/MPO)10/90〜90/10の割合で混合して得られた混合物であるのがよい。
0028
本発明の導電性樹脂組成物を得るには、上記の黒鉛粉(G)と熱可塑性樹脂(P)とを体積組成比(G/P)50/50〜95/5の割合で配合し、ロール、押出し機、ニーダー、バンバリーミキサー、ヘンシェルミキサー、プラネタリーミキサー等の樹脂組成物の分野で一般的に用いられている混合機や混練機を使用し、全体が均一になるように混合すればよい。ここで、黒鉛粉(G)と熱可塑性樹脂(P)との体積組成比(G/P)については、黒鉛粉の比重を2.2g/cm3とし、また、熱可塑性樹脂(固形分)の比重を0.9g/cm3とし、これら黒鉛粉(G)と熱可塑性樹脂(P)の質量割合から求められた計算値である。なお、後述する比較例で用いた熱硬化性樹脂のフェノール樹脂については、比重を1.3g/cm3とした。
0029
また、本発明の導電性樹脂組成物については、成形機や金型への材料供給を容易にする目的で、必要により粉砕あるいは造粒してもよく、粉砕には、ホモジナイザー、ウィレー粉砕機、高速回転粉砕機(ハンマーミル、ピンミル、ケージミル、ブレンダー)等が使用でき、また、造粒には、押出機、ルーダー、コニーダー等を用いてペレット化する方法や、パン型造粒機等を使用する方法等がある。そして、本発明の導電性樹脂組成物を用いて導電性樹脂成形体を製造する方法については、その用途や形状等に応じて適宜選択することができ、特に制限されるものではないが、例えば、圧縮成型法、トランスファー成形法、射出成形法、注型法、射出圧縮成形法が挙げられる。
0030
このようにして得られた本発明の導電性樹脂成形体については、その用途等に応じて異なるが、例えば固体高分子形燃料電池(PEFC)用セパレータの用途である場合には、接触抵抗が20mΩ・cm2以下、好ましくは10mΩ・cm2以下であり、圧縮強度が3MPa以上、好ましくは5MPa以上であり、更に、曲げ歪が0.17%以上、好ましくは0.2%以上において割れが認められないものであって、曲げ強度に優れているものである。
0031
以下、実施例及び比較例に基づいて、本発明の導電性樹脂組成物及び導電性樹脂成形体を具体的に説明する。
〔実施例1〜35及び比較例1〜14〕
1.黒鉛(G):黒鉛粉の調製
以下の実施例及び比較例において、黒鉛粉としては、平均粒子径3μmの人造黒鉛(昭和電工社製UF-G5)、平均粒子径20μmの球状黒鉛(伊藤黒鉛社製SG-BH)、平均粒子径50μmの球状黒鉛(伊藤黒鉛社製AGB-604、)、平均粒子径60μmの鱗片状黒鉛(伊藤黒鉛社製X-100)、及び平均粒子径150μmの鱗片状黒鉛(伊藤黒鉛社製XD-150)を使用し、更に、前記平均粒子径3μmの人造黒鉛を微粉分級機(栗本社製SFシャープカットセパレータKSF-01)で粉砕し、分級して得られた平均粒子径0.8μmの人造黒鉛及び平均粒子径1.0μmの人造黒鉛を使用した。なお、これらの黒鉛粉の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(Malvern製「Mastersizer2000」)を用いて測定し、D50(累積50体積%径)の値を「平均粒子径」とした。
0032
また、上記の各黒鉛粉については、下記の酸処理、加熱処理、及び賦活処理後の酸処理を行って、各実施例及び比較例で用いる黒鉛粉の酸素含有量及び表面官能基の調整を行った。
(1) 酸処理及び加熱処理
500mLビーカー中に上記の各黒鉛粉10〜20gを入れ、これに市販の特級試薬の硝酸(比重1.42)200mLを添加し、撹拌下に沸騰状態で3時間の酸処理を行った。
次に、上記の酸処理が終了した後、全体を3Lビーカー中に移して蒸留水で希釈し、次いでメンブレンフィルターで減圧下に濾過し、更に得られた酸処理後の黒鉛粉を蒸留水2L中に再分散させて洗浄し、濾過して得られた酸処理・洗浄後の黒鉛粉を90℃の乾燥器内で乾燥させた。その後、得られた酸処理後の黒鉛粉について、横型管状電気炉を用い、アルゴンガスを流通させるアルゴン雰囲気下に300〜700℃で加熱処理を行った。
このようにして酸素含有量及び表面官能基の調整を行った各黒鉛粉を、実施例1〜23及び比較例1〜11の導電性樹脂組成物の調製に用いた。
0033
(2)賦活処理、酸処理、及び加熱処理
酸素導入量を更に多くする目的で、上記の平均粒子径3μmの人造黒鉛に対して、横型管状電気炉を用い、炭酸ガス流通下に1300℃及び3時間の条件で加熱する、いわゆる賦活処理を行った。この賦活処理により黒鉛表面にnmスケールの凹凸を導入し、更に引き続き上記の酸処理と加熱処理とを行い、酸素量がより多く導入された平均粒子径3μmの人造黒鉛を調製した。
実施例24〜35及び比較例12〜14の導電性樹脂組成物の調製に際しては、このようにして酸素含有量及び表面官能基の調整を行った平均粒子径3μmの人造黒鉛を用いたこと以外は、実施例1〜23及び比較例1〜11の場合と同様に酸素含有量及び表面官能基の調整を行った各黒鉛粉を用いた。
0034
2.樹脂(P):熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂について
以下の実施例及び比較例において、使用した熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂は以下の通りである。
A1:ポリエチレン(粉末タイプ:住友精化社製UF-20S)
A2:カルボン酸変性ポリエチレン(水系タイプ:住友精化製ザイクセンAC;固形分濃度25質量%)
A3:塩素変性ポリプロピレン(ペレットタイプ:日本製紙ケミカル製スーパークロン814HS、塩素含有率41%)
A4:熱硬化性フェノール樹脂(粉末タイプ:リグナイト社製LPS-50A)
0035
3.黒鉛粉の酸素含有量の測定
微量酸素分析による酸素含有量(O:質量%)は、分析装置として有機元素分析装置(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製Flash EA1112)を用いた。試料約0.1gを測り採り、これを黒鉛るつぼで800℃に加熱し、その際に発生した水素量を測定し、測定された水素量から酸素含有量の値(質量%)を算出する不活性ガス融解熱伝導方法にて実施した。
4.黒鉛粉の表面官能基の測定
JIS K6221 6.4.2に準じて以下の方法で測定した。
50ccビーカーに黒鉛粉5gと蒸留水8mLとを入れ、加熱して沸騰させた後に氷水で室温まで急冷し、黒鉛粉の中にガラス電極を挿入した状態でpHを測定した。
5.強酸性官能基量の測定
50mLサンプル瓶に黒鉛粉1gを採取し、この黒鉛粉に1N-NaHCO3水溶液30mLを加えて密栓し、次いで振とう器で4時間振とうした後、濾過して濾液10mLを分取し、そこに10mLの1N-HClを加えて混合し、0.1N-NaOHで中和滴定し、中和点の滴下量から消費したNaHCO3を算出し、消費したNaHCO3のモル数から炭素1g当たりの強酸性官能基量を求めた。
0036
6.導電性樹脂組成物及び導電性樹脂成形体の調製
(1)粉末タイプのポリオレフィン(A1)と、水系タイプのカルボン酸変性ポリオレフィン(A2)と、黒鉛粉とをそれぞれ固形分割合で表1又は表2に示す割合となるように混合し、ニーダーを用いて室温〜90℃で混練し、得られた混練物を2軸ロールで厚さ5mmのシート状に成形し、得られたシート状成形物を乾燥させた。次に、このようにして調製されたシート状成形物をプレス装置(一軸加熱圧縮成型装置)の金型内に入れ、成形後の厚さが3〜5mmとなるようにホットプレスし、その後に冷却して各実施例及び比較例のシート状導電性樹脂成形体を調製した。
0037
(2)粉末タイプのポリオレフィン(A1)と、ペレットタイプの塩素変性ポリオレフィン(A3)と、黒鉛粉とをそれぞれ固形分割合で表1又は表2に示す割合となるように混合し、ニーダーを用いて130〜190℃で混練し、得られた混練物を2軸ロールで厚さ5mmのシート状成形物に成形した。次に、このようにして調製されたシート状成形物をプレス装置(一軸加熱圧縮成型装置)の金型内に入れ、成形後の厚さが3〜5mmとなるようにホットプレスし、その後に冷却して各実施例及び比較例のシート状導電性樹脂成形体を調製した。
0038
(3)粉末タイプの熱硬化性フェノール樹脂(A4)を用い、混練機を用いて表1又は表2に示す割合となるように室温で黒鉛粉と混合し、得られた混練物をプレス装置(一軸加熱圧縮成型装置)の金型内に充填し、成形後の厚さが3〜5mmとなるようにホットプレスし、比較例10のシート状導電性樹脂成形体を調製した。
0039
7.接触抵抗の測定
以上のようにして調製された各実施例及び比較例のシート状導電性樹脂成形体について、それぞれ長さ17〜20mm及び幅3〜5mmの試験片を切り出し、この切り出された試験片と、同じ大きさに調整されたカーボンペーパー(東レ株式会社製商品名「TGP-H-120」)とを重ね合わせ、これらを2つの金メッキ銅製金具で所定の圧力(1MPa)で挟み込み、これら2つの金メッキ銅製金具の間に試験材/カーボンペーパーの接触面積値(単位:cm2)と同じ値の直流電流(単位:A)を流し、金メッキ製金具/カーボンペーパー/試験材の接続部に生じる電圧降下(単位:mΩ・cm2)を測定し、これを接触抵抗とした。
0040
8.圧縮強度の測定
上で調製された各実施例及び比較例のシート状導電性樹脂成形体から50mm×50mmの大きさの試験片を切り出し、この切り出された試験片を厚さ10mm以上の鉄板の上に置き、試験片の上から直径10mmの鉄芯を用いて大きさの異なる応力(3MPa、5MPa、及び10MPa)で押圧し、目視で圧痕の有無を確認し、下記の評価基準で評価した。
○:5MPaでも圧痕が残らない場合
△:5MPaでは圧痕が残るが3MPaでは残らない場合
×:3Mpaで圧痕が残る場合
0041
9.曲げ強度の測定
上で調製された各実施例及び比較例のシート状導電性樹脂成形体から60mm×10mm×3mmの大きさの試験片を切り出し、JIS K7171に準拠してStress-Strain曲線を測定し、歪み0.2%の時に試験片が破壊するかしないかを調べ、下記の基準で曲げ強度を評価した。
○:0.2%歪みで破壊しない場合
△:0.17%歪みで破壊しない場合
×:0.17%歪みで破壊する場合
0042
10.膨潤試験
上で調製された各実施例及び比較例のシート状導電性樹脂成形体から長さ50mm×幅30mmの大きさの試験片を切り出し、また、内径38mm×高さ75mmの大きさのポリエチレン製容器内に5M-硫酸水溶液を入れ、上記の試験片をポリエチレン製容器内に入れて5M-硫酸水溶液中に浸漬し、このように準備されたポリエチレン製容器を高温水槽内にセットして60℃で24時間保持し、その後、ポリエチレン製容器内から試験片を取り出して水洗し、乾燥させて膨潤試験後の試験片を調製し、この膨潤試験前の試験片の場合と同様に、接触抵抗、圧縮強度、及び曲げ強度を測定した。
0043
11.沸騰水浸漬試験(吸水率)
上で調製された各実施例及び比較例のシート状導電性樹脂成形体から一辺10mmの正方形の試験片を切り出し、各試験片の質量を測定した。次にこの試験片を沸騰させた蒸留水中に浸漬させ、そのまま50時間浸漬を続けた後に取出し、表面に付着した水分を拭き取った後に質量を測定した。浸漬後の質量増加分を浸漬前の質量の百分率で表し、浸漬後の質量増加分が1%%以下である場合を〇:良好とし、1%を超える場合を×:不合格とした。
0044
以上の各実施例1〜23で得られた結果を下記の表1に、また、各比較例1〜11で得られた結果を下記の表2に、各実施例24〜35及び比較例12〜14で得られた結果を下記の表3に示す。
0045
0046
0047
0048
表1に示す結果から明らかなように、平均粒子径1〜100μm、酸素含有量0.5〜5.0質量%、及び表面官能基pH2.0〜5.0の黒鉛粉を用いて調製され、黒鉛粉(G)と熱可塑性樹脂(P)との体積組成比(G/P)が50/50〜95/5である実施例1〜23の導電性樹脂組成物においては、これを用いて得られた導電性樹脂成形体が膨潤試験前に優れた導電性(接触抵抗)及び機械的強度(圧縮強度及び曲げ強度)を有するだけでなく、膨潤試験後においても優れた導電性及び機械的強度を示し、長期耐久性に優れていることが理解される。
0049
これに対して、表2に示す結果から明らかなように、酸処理後の加熱処理を行わなかった比較例1、5、及び6の黒鉛粉は、酸素含有量が5質量%を超えると共に表面官能基を示すpH値が2より低くなり、黒鉛の表面にカルボキシル基よりもpH値の低い酸素由来でない官能基の存在が示唆され、熱可塑性樹脂との界面における化学的親和性が低下し、カルボキシル基に由来する化学結合が形成されずに空隙が生じ易くなり、その結果、膨潤試験においてその空隙内に水が入り込んで膨潤試験後には接触抵抗、圧縮強度、及び曲げ強度が劣る結果になったものと推察される。
0050
また、酸処理後の加熱処理における加熱温度が高い比較例2の黒鉛粉は、加熱により黒鉛表面のカルボキシル基が減少し、表面官能基のpH値が5より高くなり、その結果として、黒鉛表面のカルボキシル基に基づく熱可塑性樹脂との界面における化学的親和性が低下し、カルボキシル基に由来する化学結合が形成されずに空隙が生じ易くなり、膨潤試験においてその空隙内に水が入り込んで膨潤試験後には接触抵抗、圧縮強度、及び曲げ強度が劣る結果になったものと推察される。
0051
更に、黒鉛/樹脂の体積組成比(G/P)が50/50より低い比較例3の場合には、たとえ黒鉛粉と熱可塑性樹脂との間が適切な状態になっていても、黒鉛同士の接触点が少なくなって電気が流れ難くなり、その結果、接触抵抗が20mΩ・cm2を超えて高くなり、導電性が低下する。一方、比較例4のように黒鉛/樹脂の体積組成比(G/P)が95/5を超えて97/3になると、接触抵抗は基準を満たすものの、マトリックスとなる熱可塑性樹脂が少なく、黒鉛同士を接着・保持することが難しくなり、膨潤試験前の時点で圧縮強度及び曲げ強度が共に劣る結果になった。
0052
なお、比較例1、2、及び5〜7の場合のように黒鉛/樹脂の体積組成比(G/P)が50/50〜95/5の範囲内にあっても、酸素含有量が0.5質量%より小さい場合や5質量%より大きい場合には、また、表面官能基のpH値が2.0より低い場合や5.0より高い場合には、黒鉛表面のカルボキシル基に基づく熱可塑性樹脂との界面における化学的親和性が低下し、カルボキシル基に由来する化学結合が形成されずに空隙が生じ易くなり、膨潤試験においてその空隙内に水が入り込んで膨潤試験後には接触抵抗、圧縮強度、及び曲げ強度が劣る結果になったものと推察される。
0053
更に、比較例8及び9の場合のように、黒鉛粉の平均粒子径が1μmより小さい場合や100μmを超えて大きくなると、たとえ黒鉛表面の酸素含有量や表面官能基が適切な状態になっていても、必要な機械的強度を確保するために必要な樹脂量が増えて接触抵抗が高くなったり、あるいは、必要な導電性を確保しようとすると黒鉛粉と熱可塑性樹脂との間の接着面積が少なくなって、特に曲げ強度が低下する。
0054
なお、比較例10は、黒鉛粉について、酸処理を行わずに加熱処理のみ実施して得られた黒鉛粉を使用し、樹脂と混連後ホットプレスしたときの例であり、膨潤試験前の導電性(接触抵抗)については良好であったが、膨潤試験後の導電性及び機械的強度が顕著に低下し、長期耐久性に劣るものであった。また、比較例11は、熱可塑性樹脂に代えて熱硬化性樹脂のフェノール樹脂を用いた例であり、熱硬化性樹脂が熱可塑性樹脂に比べて樹脂の流動性に乏しく、また、黒鉛との化学結合が形成され難く、このために空隙が生じ易く、膨潤試験においてその空隙内に水が入り込んで膨潤試験後に曲げ強度が低下したものと考えられる。
実施例
0055
そして、表3に示す実施例24〜35及び比較例12〜14の結果から明らかなように、賦活処理を行ってから酸処理を行って黒鉛粉中の強酸性官能基量を調整した場合には、導電性樹脂成形体における膨潤試験前の導電性及び機械的強度が優れているだけでなく、膨潤試験後における導電性及び機械的強度がより優れており、長期耐久性により優れていることが理解される。