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課題
解決手段
概要
背景
車両のシート装置は、シートクッションとその後端部に前後方向に揺動可能に連結されたシートバックとを有する。特に運転席用のシート装置にあっては、体格の相違にかかわらず、ペダル操作のために適切な運転ポジションをとり得ると共に、適切な前方視界の確保ということが望まれる。このため、シートバックの揺動角度調整やシート全体の前後方向の位置調整機構(スライド調整機構)はもとより、シート全体の高さ調整を行うリフト機構を設けたりすることが行われている。特許文献1には、太股部を適切にサポートできるように、シートクッションの前端部に、後部を中心にして上下方向に揺動角度が調整可能なサイサポート部を構成することが提案されている。
また、前後位置を調整可能とする場合に、前上がりの傾斜角度を有するように設定して(スライドレールを前上がりに傾斜させる設定)、前方位置を選択したときは、後方位置を選択したときよりもシートが若干高い位置となるようにすることも一般的に行われている。
適切な運転ポジションとしては、ペダル操作の観点から、安楽状態を維持でき(定常運転状態では筋力を極力発揮する必要のない状態)かつ必要時にはペダル操作のための操作力を十分に発揮しやすいということが望まれる。より具体的には、ペダル操作の観点からは、腰から下方部分における複数の関節角度(ヒップ角、膝角、足首角)が所定の角度範囲となるようにしつつ、特に、太股部分を適切にサポートできるようにすることが望まれる。また、適切な前方視界の確保としては、最短明視距離(乗員の眼の位置からフロントウインドガラスを通して目視可能なもっとも近い路面位置までの水平方向距離)が、大きすぎずかつ小さ過ぎないことが望まれることになる。
概要
シートの重量を大きく増加させることなく、体格の相違にかかわらず、適切な運転ポジションの確保と適切な前方視界の確保とを共に満足できるようにする。運転席用となるシートSの前後位置調整のためのスライドレール21が、前上がりの傾斜角度θを有する。スライドレール21の前上がりの傾斜角度θは、例えば10°というように極めて大きくされて、スライド前端位置では小柄な乗員(例えば身長150cm程度)ついて、またスライド後端位置では大柄な乗員(例えば身長190cm程度)について、それぞれ、最短明視距離が所定の距離範囲(例えば7.0m〜8.1m)とされる。シートクッション10の前端部に、上下方向の揺動角度が調整可能なサイサポート部(前部分10B)が構成されている。
目的
本発明は以上のような事情を勘案してなされたもので、その目的は、シートの重量を大きく増加させることなく、体格の相違にかかわらず、適切な運転ポジションの確保と適切な前方視界の確保とを共に満足できるようにした車両のシート装置を提供する
効果
実績
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請求項1
シートクッションと該シートクッションの後端部に連結されたシートバックとを有する運転席用となる車両のシート装置であって、前上がりの傾斜角度をもって、所定長さ範囲に渡って前後位置調整可能とされ、前記前上がりの傾斜角度が、前記所定長さ範囲の前端位置ではあらかじめ設定された小柄な乗員ついての最短明視距離があらかじめ設定された所定の距離範囲となるように、かつ該所定長さ範囲の後端位置ではあらかじめ設定された大柄な乗員についての最短明視距離が該所定の距離範囲となるように設定され、前記シートクッションの前端部に、上下方向の揺動角度が調整可能なサイサポート部が構成されている、ことを特徴とする車両のシート装置。
請求項2
請求項3
請求項4
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、前記前上がりの傾斜角度が、10度以上とされている、ことを特徴とする車両のシート装置。
請求項5
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、前記サイサポート部における前記上下方向の揺動角度の調整範囲が、4度以上とされている、ことを特徴とする車両のシート装置。
請求項6
請求項7
請求項1において、前記小柄な乗員がAF05規格相当とされると共に、前記大柄な乗員がDM95規格相当とされ、前記所定の距離範囲における最長距離と最小距離との偏差が1.5m以下とされ、前記前上がりの傾斜角度が10度以上とされ、前記サイサポート部における前記上下方向の揺動角度の調整範囲が4度以上とされ、高さ調整のためのリフト機構を別途有していない、ことを特徴とする車両のシート装置。
請求項8
請求項7において、車両のステアリングハンドルが、テレスコピック機能を有していない、ことを特徴とする車両のシート装置。
技術分野
背景技術
0002
車両のシート装置は、シートクッションとその後端部に前後方向に揺動可能に連結されたシートバックとを有する。特に運転席用のシート装置にあっては、体格の相違にかかわらず、ペダル操作のために適切な運転ポジションをとり得ると共に、適切な前方視界の確保ということが望まれる。このため、シートバックの揺動角度調整やシート全体の前後方向の位置調整機構(スライド調整機構)はもとより、シート全体の高さ調整を行うリフト機構を設けたりすることが行われている。特許文献1には、太股部を適切にサポートできるように、シートクッションの前端部に、後部を中心にして上下方向に揺動角度が調整可能なサイサポート部を構成することが提案されている。
0003
また、前後位置を調整可能とする場合に、前上がりの傾斜角度を有するように設定して(スライドレールを前上がりに傾斜させる設定)、前方位置を選択したときは、後方位置を選択したときよりもシートが若干高い位置となるようにすることも一般的に行われている。
0004
適切な運転ポジションとしては、ペダル操作の観点から、安楽状態を維持でき(定常運転状態では筋力を極力発揮する必要のない状態)かつ必要時にはペダル操作のための操作力を十分に発揮しやすいということが望まれる。より具体的には、ペダル操作の観点からは、腰から下方部分における複数の関節角度(ヒップ角、膝角、足首角)が所定の角度範囲となるようにしつつ、特に、太股部分を適切にサポートできるようにすることが望まれる。また、適切な前方視界の確保としては、最短明視距離(乗員の眼の位置からフロントウインドガラスを通して目視可能なもっとも近い路面位置までの水平方向距離)が、大きすぎずかつ小さ過ぎないことが望まれることになる。
先行技術
0005
特開2009−96423号公報(特許第5165334号公報)
発明が解決しようとする課題
0006
ところで、車両によっては、軽量化等の観点から、大型かつ重量物となるリフト機構(シートを全体的に上下方向に変位させる機構)を有しない設定とすることが考えられる。この場合、あらかじめ設定された小柄な乗員から大柄な乗員の範囲内の体格を有する全ての乗員に対して、適切な運転ポジションを確保することと適切な運転視界を確保することの両方を満足させることが難しいものとなる。
0007
なお、前述した前後方向の位置調整における従来の前上がりの傾斜角度は一般的に6度以下であって、高さ変更量が小さいものであり、この前後方向の位置調整のみでは、小柄な乗員から大柄な乗員全てに渡って、適切な前方視界を確保することすら困難である。
0008
本発明は以上のような事情を勘案してなされたもので、その目的は、シートの重量を大きく増加させることなく、体格の相違にかかわらず、適切な運転ポジションの確保と適切な前方視界の確保とを共に満足できるようにした車両のシート装置を提供することにある。
課題を解決するための手段
0009
前記目的を達成するため、本発明にあっては次のような解決手法を採択してある。すなわち、請求項1に記載のように、
シートクッションと該シートクッションの後端部に連結されたシートバックとを有する運転席用となる車両のシート装置であって、
前上がりの傾斜角度をもって、所定長さ範囲に渡って前後位置調整可能とされ、
前記前上がりの傾斜角度が、前記所定長さ範囲の前端位置ではあらかじめ設定された小柄な乗員ついての最短明視距離があらかじめ設定された所定の距離範囲となるように、かつ該所定長さ範囲の後端位置ではあらかじめ設定された大柄な乗員についての最短明視距離が該所定の距離範囲となるように設定され、
前記シートクッションの前端部に、上下方向の揺動角度が調整可能なサイサポート部が構成されている、
ようにしてある。
0010
上記解決手法によれば、前後方向のスライド調整のための前上がりの傾斜角度は従来よりも大きくなるものの、この傾斜角度の設定だけで(重量の大幅な増加となるリフト機構を別途用いることなく)、小柄な乗員から大柄な乗員に渡って全て好ましい最短明視距離(好ましい前方視界の確保)を得ることができる。また、前上がりの傾斜角度を含む前後方向の位置調整およびシートバックの揺動角度調整により、小柄な乗員から大柄な乗員に渡って全て、好ましい運転ポジションの条件となる関節角度のうち適切なヒップ角を得ることができる。一方、前上がりの傾斜角度が大きくなることから、体格に応じて適切な前後位置を選択した際に、太股の前端部分(膝付近)をサポートする部分がきつくなったり(特にシートを大きく前方位置とする小柄な乗員において生じやすく、シートクッションの座面角が過剰になる場合)、逆に緩くなったり(特にシートを大きく後方位置とする大柄な乗員において生じやすく、シートクッションの座面角が不足になる場合)するという事態が発生しやすいものとなる。しかしながら、サイサポート部の揺動角度を調整することにより好ましい運転ポジションの条件となる関節角度のうち適切な膝角と足首角をも得ることができる。すなわち、太股の前端部分のサポートも適切に行うことができる。そして、サイサポート部によって太股部分を適切にサポートできることから、乗員が適切と感じる前後方向位置の選択幅が広がって、各人の体格に合った適切な運転ポジションを確保しつつ、さらに乗員が着用する衣服や靴の相違にも対応した前後位置とすることが可能になる。
0011
ちなみに、サイサポート部を設けない(座面角が一定の)場合は、膝角がシートの座面角によって一定に決定されてしまうために、ヒップ角と足首角の選択幅が狭まり、適切な運転ポジションを得る事が困難になる。たまたま適切な運転ポジションを得られる体格のドライバーであったとしても、服や靴の相違によっては適切な関節角度の範囲から外れてしまう。なお、揺動角度が調整可能なサイサポート部に代えて、シートクッションを全体的にチルトさせるチルト機構を設けることも考えられるが、この場合は、シートバックを含めてシート全体がチルトされることになるので、乗員の眼の高さ位置が変更される等の大きな姿勢変更をきたしてしまう他、シートクッションの一部のみを揺動調整可能とするサイサポート部に比して重量増加になってしまうことになる。
0012
上記解決手法を前提とした好ましい態様は、特許請求の範囲における請求項2以下に記載のとおりである。
0013
前方へ向けて位置調整させるための操作力低減用のアシストスプリングが設けられている、ようにしてある(請求項2対応)。この場合、前上がりの傾斜角度が大きくなることから,シートを前方へ向けて変位させるための操作力が大きくなるが、アシストスプリングを設けることによってこの操作力を軽減することができる。
0014
前記所定の距離範囲における最長距離と最小距離との偏差が1.5m以下とされている、ようにしてある(請求項3対応)。この場合、速度感覚と停止距離感覚と高速走行時での安心感とを、運転者の体格の相違にかかわらずほぼ同じ感覚となるように設定する上で好ましいものとなる。
0015
前記前上がりの傾斜角度が、10度以上とされている、ようにしてある(請求項4対応)。この場合、相当に小柄な乗員から相当に大柄な乗員に全てについて、請求項1に対応した効果を得ることができる。
0016
前記サイサポート部における前記上下方向の揺動角度の調整範囲が、4度以上とされている、ようにしてある(請求項5対応)。この場合、相当に小柄な乗員から相当に大柄な乗員に全てについて、太股を適切に支承することができる。
0017
高さ調整のためのリフト機構を別途有していない、ようにしてある(請求項6対応)。この場合、軽量化の上で極めて好ましいものとなる。
0018
前記小柄な乗員がAF05規格相当とされると共に、前記大柄な乗員がDM95規格相当とされ、
前記所定の距離範囲における最長距離と最小距離との偏差が1.5m以下とされ、
前記前上がりの傾斜角度が10度以上とされ、
前記サイサポート部における前記上下方向の揺動角度の調整範囲が4度以上とされ、
高さ調整のためのリフト機構を別途有していない、
ようにしてある(請求項7対応)。この場合、身長約150cm程度の女性から身長約190cm程度の男性に渡って、請求項3,4,5,6に対応した効果を得ることができる。
0019
車両のステアリングハンドルが、テレスコピック機能を有していない、ようにしてある(請求項8対応)。この場合、運転者の適切な運転ポジションを確保しつつ、車両の軽量化をより一層十分に行う上で好ましいものとなる。すなわち、ハンドルの前後方向位置が一定であっても、同じ体格の運転者についての適切な運転ポジションはシートの前後方向位置を多少変更しても得られることから、運転者の手指をハンドル位置に適切に合わせることができる。
発明の効果
0020
本発明によれば、シートの重量を大きく増加させることなく、体格の相違にかかわらず、適切な運転ポジションの確保と適切な前方視界の確保とを共に満足させることができる。
図面の簡単な説明
0021
本発明の一実施形態を示す簡略側面図。
最短明視距離を説明するための図。
揺動角度が調整可能なサイサポート部を有するシートの一例を示す斜視図。
適切な運転ポジションとして望まれる関節角度範囲を示す図。
揺動角度が調整可能なサイサポート部を設けることの利点を説明するための図。
実施例
0022
図1に示す車両Vにおいて、1は車室とエンジンルームとを仕切るダッシュパネル、2はフロントウインドガラス、3はエンジンルームを覆うボンネット、4はフロアパネル、5はルーフパネルである。また、6はインストルメントパネル、7はステアリングハンドルである。ステアリングハンドル7は、実施形態では、手動式のチルト機構を有しているが、テレスコピック機構は有しないものとなっている。なお、車両Vは、実施形態では軽量化が特に望まれる小型のスポーツタイプの車両とされて、その変速機はマニュアル式とされている。なお、ステアリングハンドル7は、チルト機能(機構)を有しているが、テレスコピック機能(機構)は有していないものとなっている。
0023
図1中、Sは、運転席用のシートである。このシートSは、シートクッション10と、シートバック11と、ヘッドレスト12とを有している。シートバック11は、シートクッション10の後端部に対して、図示を略すブラケットを介して、支点11aを中心にして前後方向に揺動調整可能に連結されている(実施形態では手動式での揺動角度の調整)。
0024
シートSは、ベースフレーム20とスライドレール21とを利用して、フロアパネル4に取付けられている。すなわち、フロアパネル4にベースフレーム20が固定され、このベースフレーム20に、前後方向に延びるスライドレール21のロアレール21aが固定される一方、シートクッション10に固定されたアッパレール21bが、ロアレール21aに前後方向にスライド可能に係合されている。
0025
ロアレール21aとアッパレール21bとからなるスライドレール21は、フロアパネル4に対して、前上がりの傾斜角度θを有しており、実施形態ではこの傾斜角度θが10度とされている。スライドレール21を利用して、シートクッション10(つまりシートS)は、前後方向において所定長さ範囲(実施形態では260mm)だけ、前後方向に位置調整可能とされている。実施形態では、前後方向の位置調整は、手動式とされて、その位置調整可能なピッチ(単位)は例えば10mmとされている。なお、シートSは、シートクッション10やシートバック11を全体的に上下動させるリフト機構(シートリフタ)を有していないものとなっている。
0026
図1において、体格の相違する乗員が、J1、J2、J3として示される。実線で示す乗員J1は、あらかじめ設定されたもっとも大柄な乗員であり、実施形態ではDM95規格相当の乗員(身長が約190cmの男性)とされている。一点鎖線で示す乗員J2は、あらかじめ設定されたもっとも小柄な乗員であり、実施形態では、AF05規格相当の乗員(身長が約150cmの女性)とされている。二点鎖線で示す乗員J3は、中間の体格を有するもので、例えばAM50規格相当の乗員(身長が約173cmの男性)とされている。なお、乗員の体格を区別する必要のないときは、乗員を単に「J」の符号で示すこともある。
0027
ここで、図2を参照しつつ、最短明視距離について説明する。まず、乗員J(J1、J2、J3)が、フロントウインドガラス2を通して目視可能な路面位置のうち、乗員Jの眼からもっとも近い距離となるものが最短明視距離となる。すなわち、車体が視界制限となって(一般的にはボンネット3の前端部付近が視界制限となる)、最短明視距離が決定されることになる。
0028
最短明視距離は、速度感覚、停止距離感覚、高速走行時での安心感に対して大きく影響するため、極端に小さ過ぎても、また極端に大きすぎても好ましなく、適正な距離範囲というものがある。具体的には、速度感覚や停止距離感覚の上では、例えば8.1m以下というように、最短明視距離が小さいほど好ましいものとなる。この一方、高速走行時の安心感のためには、最短明視距離が大きい方が好ましく、例えば7.0m以上とするのが好ましい。速度感覚、停止距離感覚、高速走行時での安心感という3つの要素を全て満足するには、最短明視距離を7.0m〜8.1mの範囲に設定すればよいことになる。
0029
上記最短明視距離は、車種に応じて適宜変更できるものである。例えば、ファミリーカーの場合は、最短明視距離を相対的に小さい距離に設定し(例えば6.2m〜7.3m)、スポーツカーの場合は最短明視距離を相対的に大きい距離(例えば7.5m〜8.6m)に設定することができる。そして、上記最短明視距離の最長距離と最小距離との偏差は、速度感覚、停止距離感覚、高速走行時での安心感という3種類の感覚について、運転者の体格の相違に応じて大きく異ならないように、例えば1.5m以下、好ましくは1.2m以下とするのが好ましい。
0030
前記スライドレール21の前上がりの傾斜角度θは、シートSの前後方向位置調整によって、もっとも大柄な乗員J1ともっとも小柄な乗員J2との間の体格を有する乗員(J1とJ2を含む乗員)全てについて、その最短明視距離が所定距離範囲(実施形態では7.0m〜8.1mの範囲)となるように設定されている。具体的には、乗員J1とJ2とを含むその間の範囲の体格の乗員全てについてそれぞれ、最短明視距離が7.0m〜8.1mの範囲となるように揺動角度θが設定され、実施形態ではθ=10度に設定してある。
0031
図1には、最短明視距離の上記所定の距離範囲となる部分を、視線α1とα2との2つの視線範囲でもって示してある。視線α1は、所定の距離範囲のうちもっとも小さい距離に対応しており、視線α2は、所定の距離範囲のうちもっとも大きい距離に対応している。大柄な乗員J1と小柄な乗員J2からその間の体格を有する乗員全てについて、シートSの前後方向位置調整によって、その眼が視線α1とα2との間の範囲に位置させることが可能となっている。つまり、もっとも大柄な乗員J1が、シートSをもっとも後方位置に位置調整した状態で、その眼が視線α1とα2との間の範囲に位置される。また、もっとも小柄な乗員J2が、シートSをもっとも前方位置に位置調整した状態で、その眼が視線α1とα2との間の範囲に位置される。なお、傾斜角度θを、従来のように6度程度に設定したのでは、乗員J1からJ2の範囲の体格の乗員全てについて、最短明視距離を所定距離範囲にすることは、シートリフタ無しでは到底不可能である。
0032
スライドレール21の傾斜角度θは、前述したように、従来よりもはるかに大きな前上がりの角度とされている。したがって、シートSを前方へ向けてスライド操作する際には、シートSの重量に応じた大きな抵抗力に打ち勝ちつつ行う必要がある。このため、図1に簡略的に示すように、前方へのスライド操作力を軽減させるべく、アシストスプリング22が設けられている。アシストスプリング22は、実施形態ではコイルスプリングとされて、その一端部がベースフレーム20に固定される一方、その他端がシートクッション10に固定されている。アシストスプリング22は、シートクッション10つまりシートSを前方へ向けて付勢するものであるが、その付勢力は、シートSの重量のうち傾斜角度θに応じた後方への分力に相当する程度の大きさとされている。なお、アシストスプリング22は、コイルスプリングに限らず、ガススプリング等、適宜の付勢手段を用いることができる。
0033
シートSの詳細を示す図3において、シートクッション10は、シートバック11が連結される後部分10Aと、前部分10Bとの分割構成とされている。前部分10Bの上後端縁(後部分10Aとの境界部位)が符号10bで示される。
0034
前部分10Bは、その後部を中心にして上下方向に揺動可能とされたサイサポート部を構成している。前部分10Bの揺動中心が、図1において符号10aで示される。前部分10Bの揺動角度調整は、実施形態では手動式とされて、例えば0.5度ピッチでもって、4度以上(実施形態では5度程度)の角度範囲でもって揺動角度が調整可能となっている。なお、前部分10Bの長さは、シートクッション10全体の前後方向長さに対して、例えば1/3〜1/2程度の長さを有するように設定されている。なお、サイサポート部となる前部分10Bの揺動角度1度分の変更は、乗員が敏感に感じて、相当に大きな揺動角度の変更となる。
0035
次に、図4を参照しつつ、運転ポジションに関連する関節角度について説明する。まず、腰から下の部分となる下半身での関節角度として、ヒップ角、膝角、足首角が示されるが、これらは、それぞれ図示を略すアクセルペダル、ブレーキペダル、クラッチペダル、フットレストという足操作の関係で重要な角度となる。また、上半身での好ましい関節角度として、腋角と肘角がある。適切な運転ポジションとするには、上記全ての関節角について、姿勢が安楽で、操作しやすいこと、さらに走行時における各関節角の特徴に応じた条件を考慮することである。具体的には、ヒップ角は筋力を使わずに減速Gに抵抗できること、足首角は疲れにくい(ペダルを)押す側の筋肉のみで操作できること、脇角と肘角は身体を保持し続けやすいことである。
0036
次に、図5を参照しつつ、シートクッション10にサイサポート部(揺動角度調整可能な前部分10B)を設けたことの利点について説明する。
0037
図5(a)は、運転者が適切な運転ポジションとされている状態を示し、図5(b)は、適切な運転ポジションとしつつ図5(a)の状態から1ノッチ(実施形態では10mm)後方にスライドされたときの状態を示す。AM50の体格の場合、図5(a)の状態に比して図5(b)の状態では、ヒップポイントが低下(具体的には2mm低下)すると共に膝の高さが低下(具体的には30mm低下)し、さらに膝角が大きくなる状態(具体的には膝角が9°増大)へと変更される。膝角は、適切な運転ポジションとする際の変更の自由度が元々高い関節であることから、膝角の変更は、適切な運転ポジション確保点でなんら問題のないものとなる。そして、図5(a)と図5(b)とでは、運転ポジションの理想度は等価である。そして、サイサポート部の揺動角度変更により、図5(a)および図5(b)の場合共に、膝角の相違に応じて膝を適切に支承することができる。なお、乗員の眼の高さ位置を決定づける後部分10Aはなんら姿勢変更されないので、最短明視距離を所定の距離範囲内にする上でなんら問題は生じないものとなる。
0038
ちなみに、座面角が過大になると、次のような種々の好ましくない状況が生じる。すなわち、「定常走行時でのアクセル開度でも、シートクッション10の前縁部が硬く感じたり、この前縁部で圧迫されて右の太股の血流が悪くなる感じとなる」、「アクセルペダル操作で踵が浮きやすくなる」、「クラッチペダルを操作するときに、足首を足裏側に向けて無理に曲げる必要がある」、「足首がきつく感じる」、「股を外に広げた姿勢にせざるを得ない」、等の好ましくない状況が生じることになる。
0039
逆に、座面角が不足する場合は、次のような好ましくない状況が生じる。すなわち、「膝裏があき、フィット感がない」、「膝がブラブラして、右足の踵が固定されず、アクセルペダルを操作しにくい」、「クラッチペダルの軌跡が、感覚に合わなくなる」、「上から踏みたいが、まっすぐ押すことを強いられる」という好ましくない状況が生じる。なお、サイ角(座面角)が調整できない場合に、サイ角が不足するということで、太股にサポートを与えるべくシートSを後方へスライドさせた場合は、好ましい関節角度範囲から外れてしまったり、「ステアリングハンドルが遠くなってしまって肩が疲れる」、「アクセルペダルを踏み込んだとき、足首に延びきり感があり疲れる」というような好ましくない状況が生じてしまうことになる。
0040
ここで、例えばもっとも小柄な乗員(例えばAF05)ともっとも大柄な乗員(例えばAM95)とその中間の体格を有する中柄な乗員(例えばAM50)とを想定した場合に、好ましいサイ角を座面角に対応させて考えた場合、各乗員間で共通する適切な座面角は存在しないものである。サイ角の適切な範囲は、もっとも小柄な乗員からもっとも大柄な乗員との間で4°程度であるので、サイサポート部となる前部分10Bの揺動角度範囲を少なくとも4°以上に設定するのが好ましく、前部分10Bのクッション性(容易な変形性)や乗員の好みを考慮すれば、前部分10Bの揺動角度範囲を5°以上に設定するのが好ましい。
0041
以上実施形態について説明したが、本発明は、実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲において適宜の変更が可能である。ステアリングハンドル7は、チルト機構に加えてテレスコピック機構を有するものであってもよく、テレスコピック機構のみを有するものであってもよく、チルト機構およびテレスコピック機構の両方共に有しないものであってもよい。シートSの前後方向の調整長さ範囲は、実施形態での260mmよりも短くてもよくあるいは長くてもよい。前上がりの傾斜角度θは、あらかじめ設定されたもっとも小柄な乗員と大柄な乗員との間で最短明視距離が所定の距離範囲にあるようにできるのであればよく、例えば9°〜11°の範囲で適宜設定できる。変速機は、自動変速であってもよい。シートSの前後方向の位置変更に応じて、サイサポート部としての前部分10Bの揺動角度が変更されるように両者を連動させるようにしてもよい(例えば、ウオームギアとピニオンギアとを利用した連動で、シートSが前位置になるほどサイ角が大きくなるような連動))。勿論、本発明の目的は、明記されたものに限らず、実質的に好ましいあるいは利点として表現されたものを提供することをも暗黙的に含むものである。
0042
本発明は、軽量化を図りつつ、適切な運転ポジションを確保することのできるシート装置を提供することができる。
0043
V:車両
S:シート
10:シートクッション
10A:後部分
10B:前部分
10a:前部分の揺動中心
11:シートバック
20:ベースフレーム
21:スライドレール
21a:ロアレール
21b:アッパレール
22:アシストスプリング