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技術 殺菌作用を備えた表面を有する合成高分子膜

出願人 シャープ株式会社
発明者 山田美穂箕浦潔中原隆裕厚母賢
出願日 2016年4月28日 (3年2ヶ月経過) 出願番号 2016-091480
公開日 2016年8月25日 (2年10ヶ月経過) 公開番号 2016-153510
状態 未査定
技術分野 高分子成形体の製造 曲げ・直線化成形、管端部の成形、表面成形
主要キーワード 隣接間距離 ブラックシリコン 濾過袋 残存層 ポーラスアルミナ層 バイト切削 反射防止表面 ナノピラー
関連する未来課題
重要な関連分野

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図面 (13)

課題

殺菌作用を備えた表面を有する合成高分子膜を提供する。

解決手段

複数の凸部(34Ap)、(34Bp)を有する表面を備える合成高分子膜(34A)、(34B)であって、合成高分子膜(34A)、(34B)の法線方向から見たとき、複数の凸部(34Ap)、(34Bp)の2次元的な大きさは20nm超500nm未満の範囲内にあり、表面が殺菌効果を有し、表面に含まれる窒素元素の濃度が0.7at%以上である。

概要

背景

最近、ブラックシリコンセミトンボの羽が有するナノ表面構造殺菌作用を有することが発表された(非特許文献1)。ブラックシリコン、セミやトンボの羽が有するナノピラー物理的な構造が、殺菌作用を発現するとされている。

非特許文献1によると、グラム陰性菌に対する殺菌作用は、ブラックシリコンが最も強く、トンボの羽、セミの羽の順に弱くなる。ブラックシリコンは、高さが500nmのナノピラーを有し、セミやトンボの羽は、高さが240nmのナノピラーを有している。また、これらの表面の水に対する静的接触角(以下、単に「接触角」ということがある。)は、ブラックシリコンが80°であるのに対し、トンボの羽は153°、セミの羽は159°である。また、ブラックシリコンは主にシリコンから形成され、セミやトンボの羽はキチン質から形成されていると考えられる。非特許文献1によると、ブラックシリコンの表面の組成はほぼ酸化シリコン、セミおよびトンボの羽の表面の組成は脂質である。

概要

殺菌作用を備えた表面を有する合成高分子膜を提供する。複数の凸部(34Ap)、(34Bp)を有する表面を備える合成高分子膜(34A)、(34B)であって、合成高分子膜(34A)、(34B)の法線方向から見たとき、複数の凸部(34Ap)、(34Bp)の2次元的な大きさは20nm超500nm未満の範囲内にあり、表面が殺菌効果を有し、表面に含まれる窒素元素の濃度が0.7at%以上である。

目的

本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、その主な目的は、殺菌作用を備えた表面を有する合成高分子膜、合成高分子膜の表面を用いた殺菌方法、合成高分子膜を製造するための型および型の製造方法を提供する

効果

実績

技術文献被引用数
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牽制数
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請求項1

複数の凸部を有する表面を備える合成高分子膜であって、前記合成高分子膜の法線方向から見たとき、前記複数の凸部の2次元的な大きさは20nm超500nm未満の範囲内にあり、前記表面が殺菌効果を有し、前記表面に含まれる窒素元素の濃度が0.7at%以上である、合成高分子膜。

技術分野

0001

本発明は、殺菌作用を備えた表面を有する合成高分子膜、合成高分子膜の表面を用いた殺菌方法、合成高分子膜を製造するための型および型の製造方法に関する。ここでいう「型」は、種々の加工方法スタンピングキャスティング)に用いられる型を包含し、スタンパということもある。また、印刷ナノプリントを含む)にも用いられ得る。

背景技術

0002

最近、ブラックシリコンセミトンボの羽が有するナノ表面構造が殺菌作用を有することが発表された(非特許文献1)。ブラックシリコン、セミやトンボの羽が有するナノピラー物理的な構造が、殺菌作用を発現するとされている。

0003

非特許文献1によると、グラム陰性菌に対する殺菌作用は、ブラックシリコンが最も強く、トンボの羽、セミの羽の順に弱くなる。ブラックシリコンは、高さが500nmのナノピラーを有し、セミやトンボの羽は、高さが240nmのナノピラーを有している。また、これらの表面の水に対する静的接触角(以下、単に「接触角」ということがある。)は、ブラックシリコンが80°であるのに対し、トンボの羽は153°、セミの羽は159°である。また、ブラックシリコンは主にシリコンから形成され、セミやトンボの羽はキチン質から形成されていると考えられる。非特許文献1によると、ブラックシリコンの表面の組成はほぼ酸化シリコン、セミおよびトンボの羽の表面の組成は脂質である。

0004

特許第4265729号公報
特開2009−166502号公報
国際公開第2011/125486号
国際公開第2013/183576号

先行技術

0005

Ivanova, E. P. et al., "Bactericidal activity of black silicon", Nat. Commun. 4:2838 doi: 10.1038/ncomms3838(2013).

発明が解決しようとする課題

0006

非特許文献1に記載の結果からは、ナノピラーによって細菌が殺されるメカニズムは明らかではない。さらに、ブラックシリコンがトンボやセミの羽よりも強い殺菌作用を有する理由が、ナノピラーの高さや形状の違いにあるのか、表面自由エネルギー(接触角で評価され得る)の違いにあるのか、ナノピラーを構成する物質にあるのか、表面の化学的性質にあるのか、不明である。

0007

また、ブラックシリコンの殺菌作用を利用するにしても、ブラックシリコンは、量産性に乏しく、また、硬く脆いので、形状加工性が低いという問題がある。

0008

本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、その主な目的は、殺菌作用を備えた表面を有する合成高分子膜、合成高分子膜の表面を用いた殺菌方法、合成高分子膜を製造するための型および型の製造方法を提供することにある。

課題を解決するための手段

0009

本発明の実施形態による合成高分子膜は、複数の凸部を有する表面を備える合成高分子膜であって、前記合成高分子膜の法線方向から見たとき、前記複数の凸部の2次元的な大きさは20nm超500nm未満の範囲内にあり、前記表面が殺菌効果を有し、前記表面に含まれる窒素元素の濃度が0.7at%以上である。

0010

ある実施形態において、前記合成高分子膜は、ウレタン樹脂を含む。

0011

ある実施形態において、前記ウレタン樹脂が有する官能基は10個未満である。

0012

ある実施形態において、前記ウレタン樹脂が有する官能基は6個未満である。

0013

ある実施形態において、前記合成高分子膜は、アミノ基、イソシアネート基およびシアノ基のいずれかを有する。前記合成高分子膜は、アミノ基、イソシアネート基およびシアノ基のいずれかを前記表面に有してもよい。

0014

ある実施形態において、前記合成高分子膜は、末端官能基が−NH2または−NHR(ここで、Rは炭化水素基を表す)である化合物を含む。

0015

ある実施形態において、前記合成高分子膜は、アミノ基、イソシアネート基およびシアノ基のいずれかを有するカップリング剤を含む。

0016

ある実施形態において、前記合成高分子膜は、前記カップリング剤を前記表面に有し、前記カップリング剤に含まれる窒素原子の濃度が0.7at%以上である。

0017

ある実施形態において、前記合成高分子膜は、アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩を含む。

0018

ある実施形態において、前記合成高分子膜は、リチウム塩を含む。

0019

本発明の他の実施形態による合成高分子膜は、複数の凸部を有する表面を備える合成高分子膜であって、前記合成高分子膜の法線方向から見たとき、前記複数の凸部の2次元的な大きさは20nm超500nm未満の範囲内にあり、前記表面が殺菌効果を有し、前記表面に含まれる硫黄元素の濃度が3.7at%以上である。

0020

ある実施形態において、前記合成高分子膜は、メルカプト基を有する。前記合成高分子膜は、メルカプト基を前記表面に有してもよい。

0021

ある実施形態において、前記合成高分子膜は、末端官能基が−SHである化合物を含む。

0022

ある実施形態において、前記合成高分子膜は、メルカプト基を有するカップリング剤を含む。

0023

ある実施形態において、前記合成高分子膜は、前記カップリング剤を前記表面に有し、前記カップリング剤に含まれる硫黄元素の濃度が3.7at%以上である。

0024

本発明のさらに他の実施形態による合成高分子膜は、複数の第1の凸部を有する表面を備える合成高分子膜であって、前記合成高分子膜の法線方向から見たとき、前記複数の第1の凸部の2次元的な大きさは20nm超500nm未満の範囲内にあり、前記表面が殺菌効果を有する。

0025

ある実施形態において、前記複数の第1の凸部の隣接間距離は20nm超1000nm以下である。

0026

ある実施形態において、前記複数の第1の凸部の高さは、50nm以上500nm未満である。前記複数の第1の凸部の高さは、150nm以下であってもよい。

0027

ある実施形態において前記複数の第1の凸部に重畳して形成された複数の第2の凸部をさらに有し、前記複数の第2の凸部の2次元的な大きさは、前記複数の第1の凸部の2次元的な大きさよりも小さく、かつ、100nmを超えない。

0028

ある実施形態において、前記複数の第2の凸部は略円錐形の部分を含む。

0029

ある実施形態において、前記複数の第2の凸部の高さは、20nm超100nm以下である。

0030

本発明の実施形態による気体または液体を殺菌する方法は、上記のいずれかの合成高分子膜の前記表面に、気体または液体を接触させる。

0031

本発明の実施形態による型は、複数の第1の凹部と、前記複数の第1の凹部内に形成された複数の第2の凹部とを有する表面を備える型であって、前記型の前記表面の法線方向から見たとき、前記複数の第1の凹部の2次元的な大きさは20nm超500nm未満の範囲内にあり、前記複数の第2の凹部の2次元的な大きさは、前記複数の第1の凹部の2次元的な大きさよりも小さく、かつ、100nmを超えない。

0032

本発明の実施形態による型の製造方法は、上記の型を製造する方法であって、(a)アルミニウム基材または支持体の上に堆積されたアルミニウム膜を用意する工程と、(b)前記アルミニウム基材または前記アルミニウム膜の表面を電解液に接触させた状態で、第1のレベル電圧印加することによって、第1の凹部を有するポーラスアルミナ層を形成する陽極酸化工程と、(c)前記工程(b)の後に、前記ポーラスアルミナ層をエッチング液に接触させることによって、前記第1の凹部を拡大させるエッチング工程と、(d)前記工程(c)の後に、前記ポーラスアルミナ層を電解液に接触させた状態で、前記第1のレベルよりも低い第2のレベルの電圧を印加することによって、前記第1の凹部内に、第2の凹部を形成する工程とを包含する。

0033

ある実施形態において、前記第1のレベルは、40V超であり、前記第2のレベルは、20V以下である。

0034

ある実施形態において、前記電解液は蓚酸水溶液である。

発明の効果

0035

本発明の実施形態によると、殺菌作用を備えた表面を有する合成高分子膜、合成高分子膜の表面を用いた殺菌方法、合成高分子膜を製造するための型および型の製造方法が提供される。

図面の簡単な説明

0036

(a)および(b)は、それぞれ本発明の実施形態による合成高分子膜34Aおよび34Bの模式的な断面図である。
(a)〜(e)は、モスアイ用型100Aの製造方法およびモスアイ用型100Aの構造を説明するための図である。
(a)〜(c)は、モスアイ用型100Bの製造方法およびモスアイ用型100Bの構造を説明するための図である。
モスアイ用型100を用いた合成高分子膜の製造方法を説明するための図である。
(a)は、実験1において試料フィルムNo.1の殺菌性を評価した結果を示すグラフであり、(b)は、実験1において試料フィルムNo.2の殺菌性を評価した結果を示すグラフである。(a)および(b)において、横軸放置時間(時間)であり、縦軸は、菌希釈液B2中の菌数(CFU/mL)を示している。
実験3において試料フィルムNo.1〜No.5の殺菌性を評価した結果を示すグラフであり、横軸は放置時間(時間)であり、縦軸は、菌希釈液B2中の菌数(CFU/mL)を示している。
実験4において試料フィルムNo.10〜No.16の殺菌性を評価した結果を示すグラフであり、横軸は放置時間(時間)であり、縦軸は、菌希釈液B2中の菌数(CFU/mL)を示している。
(a)および(b)は、試料フィルムNo.10のモスアイ構造を有する表面で死に至った緑膿菌をSEM走査型電子顕微鏡)で観察したSEM像を示す図である。
実験5において試料フィルムNo.17およびNo.18の殺菌性を評価した結果を示すグラフであり、横軸は放置時間(時間)であり、縦軸は、菌希釈液B2中の菌数(CFU/mL)を示している。
(a)は、実験6において試料フィルムNo.19〜No.21の殺菌性を評価した結果を示すグラフであり、(b)は、実験6において試料フィルムNo.22の殺菌性を評価した結果を示すグラフである。(a)および(b)において、横軸は放置時間(時間)であり、縦軸は、菌希釈液B2中の菌数(CFU/mL)を示している。
(a)はアルミニウム基材の表面のSEM像を示し、(b)はアルミニウム膜の表面のSEM像を示し、(c)はアルミニウム膜の断面のSEM像を示す。
(a)は型のポーラスアルミナ層の模式的な平面図であり、(b)は模式的な断面図であり、(c)は試作した型のSEM像を示す図である。

実施例

0037

以下、図面を参照して、本発明の実施形態による、表面が殺菌効果を有する合成高分子膜および合成高分子膜の表面を用いた殺菌方法、さらには、合成高分子膜を製造するための型および型の製造方法を説明する。

0038

なお、本明細書においては、以下の用語を用いることにする。

0039

「殺菌(sterilization(microbicidal))」は、物体や液体といった対象物や、限られた空間に含まれる、増殖可能な微生物(microorganism)の数を、有効数減少させることをいう。

0040

「微生物」は、ウィルス、細菌(バクテリア)、真菌カビ)を包含する。

0041

抗菌(antimicrobial)」は、微生物の繁殖を抑制・防止することを広く含み、微生物に起因する黒ずみやぬめりを抑制することを含む。

0042

本出願人は、陽極酸化ポーラスアルミナ層を用いて、モスアイ構造を有する反射防止膜反射防止表面)を製造する方法を開発した。陽極酸化ポーラスアルミナ層を用いることによって、反転されたモスアイ構造を有する型を高い量産性で製造することができる(例えば、特許文献1〜4)。参考のために、特許文献1〜4の開示内容のすべてを本明細書に援用する。なお、これまでに、本出願人が製造販売している液晶テレビの表面に配置されている反射防止膜は、親水性を有している。これは、モスアイ構造に付着した指紋などの油脂を拭き取りやすくするためである。モスアイ構造が親水性でないと、水系の洗浄液が、モスアイ構造の凸部の間に効果的に侵入できず、油脂を拭き取ることができない。

0043

本発明者は、上記の技術を応用することによって、表面が殺菌効果を有する合成高分子膜を開発するに至った。

0044

図1(a)および(b)を参照して、本発明の実施形態による合成高分子膜の構造を説明する。

0045

図1(a)および(b)は、本発明の実施形態による合成高分子膜34Aおよび34Bの模式的な断面図をそれぞれ示す。ここで例示する合成高分子膜34Aおよび34Bは、いずれもベースフィルム42Aおよび42B上にそれぞれ形成されているが、もちろんこれに限られない。合成高分子膜34Aおよび34Bは、任意の物体の表面に直接形成され得る。

0046

図1(a)に示すフィルム50Aは、ベースフィルム42Aと、ベースフィルム42A上に形成された合成高分子膜34Aとを有している。合成高分子膜34Aは、表面に複数の凸部34Apを有しており、複数の凸部34Apは、モスアイ構造を構成している。合成高分子膜34Aの法線方向から見たとき、凸部34Apの2次元的な大きさDpは20nm超500nm未満の範囲内にある。ここで、凸部34Apの「2次元的な大きさ」とは、表面の法線方向から見たときの凸部34Apの面積円相当径を指す。例えば、凸部34Apが円錐形の場合、凸部34Apの2次元的な大きさは、円錐の底面の直径に相当する。また、凸部34Apの典型的な隣接間距離Dintは20nm超1000nm以下である。図1(a)に例示するように、凸部34Apが密に配列されており、隣接する凸部34Ap間に間隙が存在しない(例えば、円錐の底面が部分的に重なる)場合には、凸部34Apの2次元的な大きさDpは隣接間距離Dintと等しい。凸部34Apの典型的な高さDhは、50nm以上500nm未満である。後述するように、凸部34Apの高さDhが150nm以下であっても殺菌作用を発現する。合成高分子膜34Aの厚さtsに特に制限はなく、凸部34Apの高さDhより大きければよい。

0047

合成高分子膜34Aの表面は、殺菌性を有している。合成高分子膜34Aの表面に含まれる窒素元素の濃度は、0.7at%以上である。後で実験例を示して説明するように、合成高分子膜34Aの表面の物理的構造(凸部34Ap)と、窒素元素を含む合成高分子膜34Aの表面の化学的性質とにより、合成高分子膜34Aは優れた殺菌効果を有する。例えば図8(a)および(b)を参照して後述するように、凸部34Apは、例えばグラム陰性菌の一種である緑膿菌の細胞壁破壊することによって、死に至らしめ得ると考えられる。このとき、合成高分子膜34Aの表面の化学的性質によって、より優れた殺菌効果が得られる。詳細は後述する。

0048

後述するように、合成高分子膜34Aの表面は、窒素元素を0.7at%以上含むのに代えて、硫黄元素を3.7at%以上含んでもよい。合成高分子膜34Aの表面は、窒素元素を0.7at%以上含み、かつ、硫黄元素を3.7at%以上含んでももちろんよい。

0049

図1(a)に示した合成高分子膜34Aは、特許文献1〜4に記載されている反射防止膜と同様のモスアイ構造を有している。反射防止機能を発現させるためには、表面に平坦な部分がなく、凸部34Apが密に配列されていることが好ましい。また、凸部34Apは、空気側からベースフィルム42A側に向かって、断面積入射光線に直交する面に平行な断面、例えばベースフィルム42Aの面に平行な断面)が増加する形状、例えば、円錐形であることが好ましい。また、光の干渉を抑制するために、凸部34Apを規則性がないように、好ましくはランダムに、配列することが好ましい。しかしながら、合成高分子膜34Aの殺菌作用をもっぱら利用する場合には、これらの特徴は必要ではない。例えば、凸部34Apは密に配列される必要はなく、また、規則的に配列されてもよい。ただし、凸部34Apの形状や配置は、微生物に効果的に作用するように選択されることが好ましい。

0050

図1(b)に示すフィルム50Bは、ベースフィルム42Bと、ベースフィルム42B上に形成された合成高分子膜34Bとを有している。合成高分子膜34Bは、表面に複数の凸部34Bpを有しており、複数の凸部34Bpは、モスアイ構造を構成している。フィルム50Bは、合成高分子膜34Bが有する凸部34Bpの構造が、フィルム50Aの合成高分子膜34Aが有する凸部34Apの構造と異なっている。フィルム50Aと共通の特徴については説明を省略することがある。

0051

合成高分子膜34Bの法線方向から見たとき、凸部34Bpの2次元的な大きさDpは20nm超500nm未満の範囲内にある。また、凸部34Bpの典型的な隣接間距離Dintは20nm超1000nm以下であり、かつ、Dp<Dintである。すなわち、合成高分子膜34Bでは、隣接する凸部34Bpの間に平坦部が存在する。凸部34Bpは、空気側に円錐形の部分を有する円柱状であり、凸部34Bpの典型的な高さDhは、50nm以上500nm未満である。また、凸部34Bpは、規則的に配列されていてもよいし、不規則に配列されていてもよい。凸部34Bpが規則的に配列されている場合、Dintは配列の周期をも表すことになる。このことは、当然ながら、合成高分子膜34Aについても同じである。

0052

なお、本明細書において、「モスアイ構造」は、図1(a)に示した合成高分子膜34Aの凸部34Apの様に、断面積(膜面に平行な断面)が増加する形状の凸部で構成される、優れた反射機能を有するナノ表面構造だけでなく、図1(b)に示した合成高分子膜34Bの凸部34Bpの様に、断面積(膜面に平行な断面)が一定の部分を有する凸部で構成されるナノ表面構造も包含する。なお、微生物の細胞壁および/または細胞膜を破壊するためには、円錐形の部分を有することが好ましい。ただし、円錐形の先端は、ナノ表面構造である必要は必ずしもなく、セミの羽が有するナノ表面構造を構成するナノピラー程度の丸み(約60nm)を有していてもよい。

0053

後に実験例を示して説明するように、合成高分子膜34Aおよび34Bの殺菌性は、合成高分子膜34Aおよび34Bの物理的構造のみならず、合成高分子膜34Aおよび34Bの化学的性質とも相関関係を有する。ここで、合成高分子膜の化学的性質とは、例えば、合成高分子膜の組成、合成高分子膜に含まれる成分、合成高分子膜が有する化合物(高分子化合物および低分子化合物を含む)の官能基等を含む。本発明者の検討によると、合成高分子膜34Aおよび34Bが優れた殺菌性を有するためには、例えば、以下の化学的性質のいずれかを有することが好ましい。

0054

なお、ここでは、紫外線硬化樹脂(例えばアクリル樹脂メタクリル樹脂を包含する))を用いて合成高分子膜を形成する場合を例示するが、他の光硬化性樹脂熱硬化性樹脂電子線硬化樹脂を用いる場合も同様である。

0055

第1の化学的性質:合成高分子膜34Aおよび34Bの表面に含まれる窒素元素(N)の濃度が0.7at%以上であることが好ましい。

0056

合成高分子膜34Aおよび34Bの表面に含まれる窒素元素の濃度は、合成高分子膜34Aおよび34Bを形成する樹脂材料そのものを選択することによって調整することもできるし、複数の樹脂材料を混ぜ合わせることによって調整することもできる。あるいは、樹脂材料に、窒素元素を含む材料(例えば下記の表面処理剤)を混合することによって調整することもできる。上記のいずれかを組み合わせることもできる。

0057

このようにして調整された、窒素元素の濃度が0.7at%以上である樹脂材料(混合物を含む)を用いて合成高分子膜が形成されることで、合成高分子膜34Aおよび34Bに含まれる窒素元素の濃度が0.7at%以上となる。このような樹脂材料が一様に用いられていると、合成高分子膜34Aおよび34Bの表面に含まれる窒素元素の濃度が、0.7at%以上になり得る。

0058

合成高分子膜34Aおよび34Bを形成する樹脂材料(混合物を含む)に含まれる窒素元素の濃度が0.7at%未満であっても、合成高分子膜34Aおよび34Bの表面が処理されることによって、合成高分子膜34Aおよび34Bの表面に含まれる窒素元素の濃度を0.7at%以上とすることができる。

0059

例えば、合成高分子膜34Aおよび34Bの表面に、表面処理剤(例えばシランカップリング剤離型剤帯電防止剤等を含む)を付与してもよい。表面処理剤の種類によっては、合成高分子膜34Aおよび34Bの表面に薄い高分子膜が形成される。また、合成高分子膜34Aおよび34Bの表面をプラズマなどを用いて改質してもよい。例えば、プラズマ処理によって、合成高分子膜34Aおよび34Bの表面に窒素元素を含む官能基や窒素元素を付与することができる。

0060

合成高分子膜34Aおよび34Bを形成する樹脂材料(混合物を含む)の選択と併用して、または、独立に、上述の表面処理を施してもよい。

0061

合成高分子膜34Aおよび34Bは、例えば、ウレタン樹脂を含む。合成高分子膜34Aおよび34Bは、例えば、ウレタンメタアクリレートシアノ(メタ)アクリレート等を含む。ウレタン樹脂が有する官能基は、例えば10個未満であることが好ましい。ウレタン樹脂が有する官能基は、例えば6個未満であることがさらに好ましい。ウレタン樹脂が有する官能基の数が多いと、樹脂の粘度が高くなることがある。この場合、モスアイ用型(モスアイ構造を表面に形成するための型)の表面の反転されたモスアイ構造に樹脂が入り込みにくくなることがあり、その結果、形成される反射防止膜の反射防止機能が抑制されるという問題(転写性の低下)が生じることがある。この問題に対処するために、すなわち樹脂の粘度を低くするために、例えば、樹脂中のモノマー分子量を小さくすることができる。モノマーの分子量を小さくすると、樹脂の架橋密度が高くなるので、形成された反射防止膜をモスアイ用型から剥離(分離)させにくくなる(離型性の低下)という問題が生じ得る。反射防止膜の離型性が低下すると、モスアイ用型の表面の反転されたモスアイ構造に樹脂(膜の一部)が残留する、および/または、樹脂を表面に有する被加工物(例えば図1のベースフィルム42Aおよび42B)が破断するという問題が生じることがある。

0062

合成高分子膜34Aおよび34Bは、アミノ基(−NH2、−NHR、または−NRR’:RおよびR’は、それぞれ、炭化水素基を表す)、イソシアネート基(−N=C=O)およびシアノ基(−C≡N)のいずれかを有することが好ましい。

0063

合成高分子膜34Aおよび34Bは、上記の官能基のいずれかを有する高分子化合物を有してもよいし、上記の官能基のいずれかを有する表面処理剤(例えばシランカップリング剤、離型剤、帯電防止剤等を含む)を有してもよい。高分子化合物または表面処理剤は、上記の官能基のいずれかが他の官能基と反応し結合した化合物を有してもよい。表面処理剤は、合成高分子膜34Aおよび34Bの表面に付与されてもよいし、合成高分子膜34Aおよび34Bを形成するモノマーに混合されてもよい。

0064

合成高分子膜34Aおよび34Bは、末端官能基にアミノ基(−NH2、−NHR、または−NRR’:RおよびR’は、それぞれ、炭化水素基を表す)、イソシアネート基(−N=C=O)およびシアノ基(−C≡N)のいずれかを有する化合物(高分子化合物および表面処理剤を含む)を含むことが好ましい。合成高分子膜34Aおよび34Bは、末端官能基に−NH2または−NHR(Rは炭化水素基を表す)を有する化合物を含むことが、さらに好ましい。合成高分子膜34Aおよび34Bは、主鎖にNHを含む高分子を含んでもよい。

0065

合成高分子膜34Aおよび34Bは、アルカリ金属塩(例えばリチウム(Li)塩、ナトリウム(Na)塩、カリウム(K)塩を含む)またはアルカリ土類金属塩(例えばカルシウム(Ca)塩)もしくはマグネシウム塩を有してもよい。合成高分子膜34Aおよび34Bは、例えば第4級アンモニウム塩を有してもよい。合成高分子膜34Aおよび34Bは、これらの塩(金属塩を含む)を有することにより、より優れた殺菌性を有し得る。

0066

合成高分子膜34Aおよび34Bは、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、マグネシウム塩、または第4級アンモニウム塩を含む高分子から形成されてもよい。このような高分子として、例えば公知の帯電防止剤(静電防止剤)または導電剤を用いることができる。アルカリ金属塩のうち、リチウム塩には、例えば、LiBF4、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiSO3CF3、LiN(SO2CF3)2、LiSO3C4F9、LiC(SO2CF3)3、およびLiB(C6H5)4が含まれる。

0067

合成高分子膜34Aおよび34Bの中で、上記の塩(金属塩を含む)は、カチオンアルカリ金属イオンアルカリ土類金属イオンマグネシウムイオン、または第4級アンモニウムカチオン)として存在していてもよい。合成高分子膜34Aおよび34Bは、例えば、エーテル結合を有する高分子(例えばポリエチレンオキシド)および/または潤滑剤をさらに有することが好ましい。

0068

第2の化学的性質:合成高分子膜34Aおよび34Bの表面に含まれる硫黄元素(S)の濃度が3.7at%以上である。

0069

例えば、合成高分子膜は、メルカプト基(−SH)を有することが好ましい。合成高分子膜は、メルカプト基を有する高分子化合物を有してもよいし、メルカプト基を有する表面処理剤(例えばシランカップリング剤、離型剤を含む)を有してもよい。表面処理剤は、合成高分子膜の表面に付与されてもよいし、合成高分子膜を形成するモノマーに混合されてもよい。合成高分子膜は、末端官能基に−SHを有する化合物を含むことが好ましい。

0070

合成高分子膜は、例えば硫化銅を含むアクリル樹脂から形成されてもよい。

0071

合成高分子膜は、上記第1および第2の化学的性質のいずれか1つを有してもよいし、両方を有してもよい。

0072

本発明者は、上記第1または第2の化学的性質を有することにより、合成高分子膜が優れた殺菌効果を持つ理由について以下のように考察した。

0073

窒素元素(N)は、(1s)2(2s)2(2p)3の電子配置を取り、価電子を5個有する。これらのうち3個は不対電子であり、孤立電子対非共有電子対)を1組有する。例えば、アミノ基の窒素元素も1組の孤立電子対を有する。アミノ基は、窒素元素が孤立電子対を有するので、水素イオン(H+)と配位結合することができる。これによりアミノ基は塩基性を示す。同様に、孤立電子対を有するアミノ基は、求核性を有する。また、孤立電子対を有するアミノ基を有する化合物は、配位子として作用し、金属と配位結合することができる。

0074

このように、窒素元素を有する化合物(窒素元素を含む官能基を有する化合物を含む)は、窒素元素の有する孤立電子対に起因した性質を有し得る。上述したアミノ基に限られず、例えば、シアノ基(−C≡N)の窒素元素は1組の孤立電子対を有する。イソシアネート基(−N=C=O)の窒素元素は1組の孤立電子対を有し、酸素元素は2組の孤立電子対を有する。アミノ基を含む官能基であるウレイド基(−NHC(=O)NH2)の窒素元素はそれぞれ1組の孤立電子対を有し、酸素元素は2組の孤立電子対を有する。

0075

また、窒素元素は比較的大きな電気陰性度を有するので、他の元素と結合(配位結合を含む)したときに電子を引き寄せる力が大きい。すなわち、窒素元素と他の元素とが結合(配位結合を含む)した分子は極性を有することが多い。

0076

窒素元素を表面に含む合成高分子膜が優れた殺菌性を有するのは、上述の孤立電子対を有する点および大きな電気陰性度を有する点という特徴に起因している可能性があると考えられる。これらの特徴は、硫黄元素にも当てはまる特徴である。硫黄元素は、価電子を6個有し、孤立電子対を2組有する。

0077

このように考えると、本発明の実施形態による合成高分子膜は、上記第1または第2の化学的性質を有するものに限られない。本発明の実施形態による合成高分子膜は、窒素元素および硫黄元素に限られず、第15族元素、第16元素、または第17族元素のいずれかの元素を表面に有していてもよい。第15族元素(例えば窒素元素(N)、リン元素(P)等)は、孤立電子対を1組有し、第16族元素(例えば酸素元素(O)、硫黄元素(S)等)は、孤立電子対を2組有し、第17族元素(例えばフッ素元素(F)、塩素元素(Cl)等)は、孤立電子対を3組有するという特徴を有する。また、これらの元素のうち原子番号の小さいもの(例えばF、O、N、Cl、S、P等)は電気陰性度が大きいという特徴を有するので、特に好ましい。

0078

本出願人が特許第5788128号に記載しているように、フッ素含有アクリル樹脂またはフッ素系潤滑剤を混合したウレタンアクリレート含有アクリル樹脂から形成され、かつ、表面にモスアイ構造を有する合成高分子膜に殺菌性が認められている。これらの合成高分子膜が殺菌効果を有するのは、孤立電子対を3組有し、かつ、大きい電気陰性度を有するフッ素元素を表面に有していることが寄与しているとも考えることができるかもしれない。

0079

図1(a)および(b)に例示したようなモスアイ構造を表面に形成するための型(以下、「モスアイ用型」という。)は、モスアイ構造を反転させた、反転されたモスアイ構造を有する。反転されたモスアイ構造を有する陽極酸化ポーラスアルミナ層をそのまま型として利用すると、モスアイ構造を安価に製造することができる。特に、円筒状のモスアイ用型を用いると、ロール・ツー・ロール方式によりモスアイ構造を効率良く製造することができる。このようなモスアイ用型は、特許文献2〜4に記載されている方法で製造することができる。

0080

図2(a)〜(e)を参照して、合成高分子膜34Aを形成するための、モスアイ用型100Aの製造方法を説明する。

0081

まず、図2(a)に示すように、型基材として、アルミニウム基材12と、アルミニウム基材12の表面に形成された無機材料層16と、無機材料層16の上に堆積されたアルミニウム膜18とを有する型基材10を用意する。

0082

アルミニウム基材12としては、アルミニウム純度が99.50mass%以上99.99mass%未満である比較的剛性の高いアルミニウム基材を用いる。アルミニウム基材12に含まれる不純物としては、鉄(Fe)、ケイ素(Si)、銅(Cu)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、鉛(Pb)、スズ(Sn)およびマグネシウム(Mg)からなる群から選択された少なくとも1つの元素を含むことが好ましく、特にMgが好ましい。エッチング工程におけるピット(窪み)が形成されるメカニズムは、局所的な電池反応であるので、理想的にはアルミニウムよりも貴な元素を全く含まず、卑な金属であるMg(標準電極電位が−2.36V)を不純物元素として含むアルミニウム基材12を用いることが好ましい。アルミニウムよりも貴な元素の含有率が10ppm以下であれば、電気化学的な観点からは、当該元素を実質的に含んでいないと言える。Mgの含有率は、全体の0.1mass%以上であることが好ましく、約3.0mass%以下の範囲であることがさらに好ましい。Mgの含有率が0.1mass%未満では十分な剛性が得られない。一方、含有率が大きくなると、Mgの偏析が起こり易くなる。モスアイ用型を形成する表面付近に偏析が生じても電気化学的には問題とならないが、Mgはアルミニウムとは異なる形態の陽極酸化膜を形成するので、不良の原因となる。不純物元素の含有率は、アルミニウム基材12の形状、厚さおよび大きさに応じて、必要とされる剛性に応じて適宜設定すればよい。例えば圧延加工によって板状のアルミニウム基材12を作製する場合には、Mgの含有率は約3.0mass%が適当であるし、押出加工によって円筒などの立体構造を有するアルミニウム基材12を作製する場合には、Mgの含有率は2.0mass%以下であることが好ましい。Mgの含有率が2.0mass%を超えると、一般に押出加工性が低下する。

0083

アルミニウム基材12として、例えば、JIS A1050、Al−Mg系合金(例えばJIS A5052)、またはAl−Mg−Si系合金(例えばJIS A6063)で形成された円筒状のアルミニウム管を用いる。

0084

アルミニウム基材12の表面は、バイト切削が施されていることが好ましい。アルミニウム基材12の表面に、例えば砥粒が残っていると、砥粒が存在する部分において、アルミニウム膜18とアルミニウム基材12との間で導通しやすくなる。砥粒以外にも、凹凸が存在するところでは、アルミニウム膜18とアルミニウム基材12との間で局所的に導通しやすくなる。アルミニウム膜18とアルミニウム基材12との間で局所的に導通すると、アルミニウム基材12内の不純物とアルミニウム膜18との間で局所的に電池反応が起こる可能性がある。

0085

無機材料層16の材料としては、例えば酸化タンタル(Ta2O5)または二酸化シリコン(SiO2)を用いることができる。無機材料層16は、例えばスパッタ法により形成することができる。無機材料層16として、酸化タンタル層を用いる場合、酸化タンタル層の厚さは、例えば、200nmである。

0086

無機材料層16の厚さは、100nm以上500nm未満であることが好ましい。無機材料層16の厚さが100nm未満であると、アルミニウム膜18に欠陥(主にボイド、すなわち結晶粒間の間隙)が生じることがある。また、無機材料層16の厚さが500nm以上であると、アルミニウム基材12の表面状態によって、アルミニウム基材12とアルミニウム膜18との間が絶縁されやすくなる。アルミニウム基材12側からアルミニウム膜18に電流を供給することによってアルミニウム膜18の陽極酸化を行うためには、アルミニウム基材12とアルミニウム膜18との間に電流が流れる必要がある。円筒状のアルミニウム基材12の内面から電流を供給する構成を採用すると、アルミニウム膜18に電極を設ける必要がないので、アルミニウム膜18を全面にわたって陽極酸化できるとともに、陽極酸化の進行に伴って電流が供給され難くなるという問題も起こらず、アルミニウム膜18を全面にわたって均一に陽極酸化することができる。

0087

また、厚い無機材料層16を形成するためには、一般的には成膜時間を長くする必要がある。成膜時間が長くなると、アルミニウム基材12の表面温度が不必要に上昇し、その結果、アルミニウム膜18の膜質が悪化し、欠陥(主にボイド)が生じることがある。無機材料層16の厚さが500nm未満であれば、このような不具合の発生を抑制することもできる。

0088

アルミニウム膜18は、例えば、特許文献3に記載されているように、純度が99.99mass%以上のアルミニウムで形成された膜(以下、「高純度アルミニウム膜」ということがある。」)である。アルミニウム膜18は、例えば、真空蒸着法またはスパッタ法を用いて形成される。アルミニウム膜18の厚さは、約500nm以上約1500nm以下の範囲にあることが好ましく、例えば、約1μmである。

0089

また、アルミニウム膜18として、高純度アルミニウム膜に代えて、特許文献4に記載されている、アルミニウム合金膜を用いてもよい。特許文献4に記載のアルミニウム合金膜は、アルミニウムと、アルミニウム以外の金属元素と、窒素とを含む。本明細書において、「アルミニウム膜」は、高純度アルミニウム膜だけでなく、特許文献4に記載のアルミニウム合金膜を含むものとする。

0090

上記アルミニウム合金膜を用いると、反射率が80%以上の鏡面を得ることができる。アルミニウム合金膜を構成する結晶粒の、アルミニウム合金膜の法線方向から見たときの平均粒径は、例えば、100nm以下であり、アルミニウム合金膜の最大表面粗さRmaxは60nm以下である。アルミニウム合金膜に含まれる窒素の含有率は、例えば、0.5mass%以上5.7mass%以下である。アルミニウム合金膜に含まれるアルミニウム以外の金属元素の標準電極電位とアルミニウムの標準電極電位との差の絶対値は0.64V以下であり、アルミニウム合金膜中の金属元素の含有率は、1.0mass%以上1.9mass%以下であることが好ましい。金属元素は、例えば、TiまたはNdである。但し、金属元素はこれに限られず、金属元素の標準電極電位とアルミニウムの標準電極電位との差の絶対値が0.64V以下である他の金属元素(例えば、Mn、Mg、Zr、VおよびPb)であってもよい。さらに、金属元素は、Mo、NbまたはHfであってもよい。アルミニウム合金膜は、これらの金属元素を2種類以上含んでもよい。アルミニウム合金膜は、例えば、DCマグネトロンスパッタ法で形成される。アルミニウム合金膜の厚さも約500nm以上約1500nm以下の範囲にあることが好ましく、例えば、約1μmである。

0091

次に、図2(b)に示すように、アルミニウム膜18の表面18sを陽極酸化することによって、複数の凹部(細孔)14pを有するポーラスアルミナ層14を形成する。ポーラスアルミナ層14は、凹部14pを有するポーラス層と、バリア層(凹部(細孔)14pの底部)とを有している。隣接する凹部14pの間隔(中心間距離)は、バリア層の厚さのほぼ2倍に相当し、陽極酸化時の電圧にほぼ比例することが知られている。この関係は、図2(e)に示す最終的なポーラスアルミナ層14についても成立する。

0092

ポーラスアルミナ層14は、例えば、酸性の電解液中で表面18sを陽極酸化することによって形成される。ポーラスアルミナ層14を形成する工程で用いられる電解液は、例えば、蓚酸酒石酸燐酸硫酸クロム酸クエン酸リンゴ酸からなる群から選択される酸を含む水溶液である。例えば、アルミニウム膜18の表面18sを、蓚酸水溶液(濃度0.3mass%、液温10℃)を用いて、印加電圧80Vで55秒間陽極酸化を行うことにより、ポーラスアルミナ層14を形成する。

0093

次に、図2(c)に示すように、ポーラスアルミナ層14をアルミナエッチャントに接触させることによって所定の量だけエッチングすることにより凹部14pの開口部を拡大する。エッチング液の種類・濃度、およびエッチング時間を調整することによって、エッチング量(すなわち、凹部14pの大きさおよび深さ)を制御することができる。エッチング液としては、例えば10mass%の燐酸や、蟻酸酢酸、クエン酸などの有機酸や硫酸の水溶液やクロム酸燐酸混合水溶液を用いることができる。例えば、燐酸水溶液(10mass%、30℃)を用いて20分間エッチングを行う。

0094

次に、図2(d)に示すように、再び、アルミニウム膜18を部分的に陽極酸化することにより、凹部14pを深さ方向に成長させるとともにポーラスアルミナ層14を厚くする。ここで凹部14pの成長は、既に形成されている凹部14pの底部から始まるので、凹部14pの側面は階段状になる。

0095

さらにこの後、必要に応じて、ポーラスアルミナ層14をアルミナのエッチャントに接触させることによってさらにエッチングすることにより凹部14pの孔径をさらに拡大する。エッチング液としては、ここでも上述したエッチング液を用いることが好ましく、現実的には、同じエッチング浴を用いればよい。

0096

このように、上述した陽極酸化工程およびエッチング工程を交互に複数回(例えば5回:陽極酸化を5回とエッチングを4回)繰り返すことによって、図2(e)に示すように、反転されたモスアイ構造を有するポーラスアルミナ層14を有するモスアイ用型100Aが得られる。陽極酸化工程で終わることによって、凹部14pの底部を点にできる。すなわち、先端がった凸部を形成することができる型が得られる。

0097

図2(e)に示すポーラスアルミナ層14(厚さtp)は、ポーラス層(厚さは凹部14pの深さDdに相当)とバリア層(厚さtb)とを有する。ポーラスアルミナ層14は、合成高分子膜34Aが有するモスアイ構造を反転した構造を有するので、その大きさを特徴づける対応するパラメータに同じ記号を用いることがある。

0098

ポーラスアルミナ層14が有する凹部14pは、例えば円錐形であり、階段状の側面を有してもよい。凹部14pの二次元的な大きさ(表面の法線方向から見たときの凹部の面積円相当径)Dpは20nm超500nm未満で、深さDdは50nm以上1000nm(1μm)未満程度であることが好ましい。また、凹部14pの底部は尖っている(最底部は点になっている)ことが好ましい。凹部14pは密に充填されている場合、ポーラスアルミナ層14の法線方向から見たときの凹部14pの形状を円と仮定すると、隣接する円は互いに重なり合い、隣接する凹部14pの間に鞍部が形成される。なお、略円錐形の凹部14pが鞍部を形成するように隣接しているときは、凹部14pの二次元的な大きさDpは隣接間距離Dintと等しい。ポーラスアルミナ層14の厚さtpは、例えば、約1μm以下である。

0099

なお、図2(e)に示すポーラスアルミナ層14の下には、アルミニウム膜18のうち、陽極酸化されなかったアルミニウム残存層18rが存在している。必要に応じて、アルミニウム残存層18rが存在しないように、アルミニウム膜18を実質的に完全に陽極酸化してもよい。例えば、無機材料層16が薄い場合には、アルミニウム基材12側から容易に電流を供給することができる。

0100

ここで例示したモスアイ用型の製造方法は、特許文献2〜4に記載の反射防止膜を作製するための型を製造することができる。高精細表示パネルに用いられる反射防止膜には、高い均一性が要求されるので、上記のようにアルミニウム基材の材料の選択、アルミニウム基材の鏡面加工、アルミニウム膜の純度や成分の制御を行うことが好ましいが、殺菌作用に高い均一性は求められないので、上記の型の製造方法を簡略化することができる。例えば、アルミニウム基材の表面を直接、陽極酸化してもよい。また、このときアルミニウム基材に含まれる不純物の影響でピットが形成されても、最終的に得られる合成高分子膜34Aのモスアイ構造に局所的な構造の乱れが生じるだけで、殺菌作用に与える影響はほとんどないと考えられる。

0101

また、上述の型の製造方法によると、反射防止膜の作製に好適な、凹部の配列の規則性が低い型を製造することができる。モスアイ構造の殺菌性を利用する場合には、凸部の配列の規則性は影響しないと考えられる。規則的に配列された凸部を有するモスアイ構造を形成するための型は、例えば、以下のようにして製造することができる。

0102

例えば厚さが約10μmのポーラスアルミナ層を形成した後、生成されたポーラスアルミナ層をエッチングにより除去してから、上述のポーラスアルミナ層を生成する条件で陽極酸化を行えばよい。厚さが10μmのポーラスアルミナ層は、陽極酸化時間を長くすることによって形成される。このように比較的厚いポーラスアルミナ層を生成し、このポーラスアルミナ層を除去すると、アルミニウム膜またはアルミニウム基材の表面に存在するグレインによる凹凸や加工ひずみの影響を受けることなく、規則的に配列された凹部を有するポーラスアルミナ層を形成することができる。なお、ポーラスアルミナ層の除去には、クロム酸と燐酸との混合液を用いることが好ましい。長時間にわたるエッチングを行うとガルバニック腐食が発生することがあるが、クロム酸と燐酸との混合液はガルバニック腐食を抑制する効果がある。

0103

図1(b)に示した合成高分子膜34Bを形成するためのモスアイ用型も、基本的に、上述した陽極酸化工程とエッチング工程とを組み合わせることによって製造することができる。図3(a)〜(c)を参照して、合成高分子膜34Bを形成するための、モスアイ用型100Bの製造方法を説明する。

0104

まず、図2(a)および(b)を参照して説明したのと同様に、型基材10を用意し、アルミニウム膜18の表面18sを陽極酸化することによって、複数の凹部(細孔)14pを有するポーラスアルミナ層14を形成する。

0105

次に、図3(a)に示すように、ポーラスアルミナ層14をアルミナのエッチャントに接触させることによって所定の量だけエッチングすることにより凹部14pの開口部を拡大する。このとき、図2(c)を参照して説明したエッチング工程よりも、エッチング量を少なくする。すなわち、凹部14pの開口部の大きさを小さくする。例えば、燐酸水溶液(10mass%、30℃)を用いて10分間エッチングを行う。

0106

次に、図3(b)に示すように、再び、アルミニウム膜18を部分的に陽極酸化することにより、凹部14pを深さ方向に成長させるとともにポーラスアルミナ層14を厚くする。このとき、図2(d)を参照して説明した陽極酸化工程よりも、凹部14pを深く成長させる。例えば、蓚酸水溶液(濃度0.3mass%、液温10℃)を用いて、印加電圧80Vで165秒間陽極酸化を行う(図2(d)では55秒間)。

0107

その後、図2(e)を参照して説明したのと同様に、エッチング工程および陽極酸化工程を交互に複数回くり返す。例えば、エッチング工程を3回、陽極酸化工程を3回、交互に繰り返すことによって、図3(c)に示すように、反転されたモスアイ構造を有するポーラスアルミナ層14を有するモスアイ用型100Bが得られる。このとき、凹部14pの二次元的な大きさDpは隣接間距離Dintより小さい(Dp<Dint)。

0108

続いて、図4を参照して、モスアイ用型100を用いた合成高分子膜の製造方法を説明する。図4は、ロール・ツー・ロール方式により合成高分子膜を製造する方法を説明するための模式的な断面図である。

0109

まず、円筒状のモスアイ用型100を用意する。なお、円筒状のモスアイ用型100は、例えば図2を参照して説明した製造方法で製造される。

0110

図4に示すように、紫外線硬化樹脂34'が表面に付与されたベースフィルム42を、モスアイ用型100に押し付けた状態で、紫外線硬化樹脂34'に紫外線(UV)を照射することによって紫外線硬化樹脂34'を硬化する。紫外線硬化樹脂34'としては、例えばアクリル系樹脂を用いることができる。ベースフィルム42は、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムまたはTAC(トリアセチルセルロース)フィルムである。ベースフィルム42は、図示しない巻き出しローラから巻き出され、その後、表面に、例えばスリットコータ等により紫外線硬化樹脂34'が付与される。ベースフィルム42は、図4に示すように、支持ローラ46および48によって支持されている。支持ローラ46および48は、回転機構を有し、ベースフィルム42を搬送する。また、円筒状のモスアイ用型100は、ベースフィルム42の搬送速度に対応する回転速度で、図4に矢印で示す方向に回転される。

0111

その後、ベースフィルム42からモスアイ用型100を分離することによって、モスアイ用型100の反転されたモスアイ構造が転写された合成高分子膜34がベースフィルム42の表面に形成される。表面に合成高分子膜34が形成されたベースフィルム42は、図示しない巻き取りローラにより巻き取られる。

0112

合成高分子膜34の表面は、モスアイ用型100のナノ表面構造を反転したモスアイ構造を有する。用いるモスアイ用型100のナノ表面構造に応じて、図1(a)および(b)に示した合成高分子膜34Aおよび34Bを作製することができる。合成高分子膜34を形成する材料は、紫外線硬化性樹脂に限られず、可視光で硬化可能な光硬化性樹脂を用いることもできるし、熱硬化性樹脂を用いることもできる。

0113

以下に、実験例を示して、上述のモスアイ構造を有する表面を備える合成高分子膜が殺菌性を有することを説明する。

0114

上述の型の製造方法に従って作製した型を用いて、図1(a)に示したフィルム50Aの凸部34Apのような円錐形の凸部を有する合成高分子膜を作製した。殺菌作用の評価に供した試料フィルムにおけるDpは約200nm、Dintは約200nm、Dhは約150nmであった(例えば図8参照)。細胞壁に局所的な変形を生じさせるためには、隣接する凸部は離れていることが好ましく、DpとDintとの差は、例えば、Dpの0倍〜2倍が好ましく、0.5倍〜2倍がより好ましい。ここで、Dp、Dint、およびDhはSEM像から求めた平均値を指す。SEM像の撮影には、電界放出型走査電子顕微鏡日立製作所製のS−4700)を用いた。

0115

合成高分子膜を形成する樹脂材料としては、紫外線硬化樹脂を用いた。窒素元素の割合が異なるアクリル樹脂を用いて、試料フィルムNo.1〜No.3を作製した。それぞれの試料フィルム中の原子濃度は、XPS(X線光電子分光)によって測定した。

0116

試料フィルムNo.1は、窒素元素を含まないアクリル樹脂Aを用いて作製した。アクリル樹脂Aは、ウレタンアクリレートを含有しない。アクリル樹脂Aが有する官能基は3.43個(テトラメチロールメタントリアクリレート57mol%、テトラメチロールメタンテトラアクリレート43mol%)である。

0117

試料フィルムNo.2は、ウレタンアクリレートを含有するアクリル樹脂Bを用いて作製した。ウレタンアクリレート含有アクリル樹脂B中の窒素元素の原子濃度は0.7at%である。ウレタンアクリレート含有アクリル樹脂Bは、官能基を3個有する樹脂を31.8mass%、官能基を3.43個有する上記アクリル樹脂Aを28.2mass%、官能基を4個有する樹脂を40.0mass%含む。

0118

試料フィルムNo.3は、ウレタンアクリレートを含有するアクリル樹脂Cを用いて作製した。ウレタンアクリレート含有アクリル樹脂C中の窒素元素の原子濃度は2.2at%である。ウレタンアクリレート含有アクリル樹脂Cが有する官能基は3個である。

0119

以下の実験1から実験3においては、主に、合成高分子膜に含まれる窒素元素の濃度と合成高分子膜の殺菌効果との関係に注目した。

0120

(実験1)
まず、試料フィルムNo.1およびNo.2について殺菌性を評価した。殺菌性の評価は、以下の手順で行った。

0121

1.冷凍保存された緑膿菌付きのビーズ(独立行政法人製品評価技術基盤機構から購入)を37℃の培養液中に24時間浸漬することによって解凍
2.遠心分離(3000rpm、10分間)
3.培養液の上澄み液を捨てる
4.滅菌水を入れて撹拌した後、再び遠心分離
5.上記2〜4の操作を3回繰り返すことによって菌原液(菌数は1E+07CFU/mLのオーダー)を得る
6.1/500NB培地および菌希釈液A(菌数は1E+05CFU/mLのオーダー)を調製
1/500NB培地:NB培地(栄研化学株式会社製、普通ブイヨン培地E−MC35)を滅菌水で500倍に希釈
菌希釈液A:菌原液500μL+滅菌水49.5mL
7.菌希釈液Aに、栄養源として1/500NB培地を添加した菌希釈液Bを調製(JISZ2801の5.4a)に準拠
8.菌希釈液B(この時の菌希釈液B中の菌数を初期菌数ということがある)を各試料フィルム上に400μLを滴下し、菌希釈液B上にカバー(例えばカバーガラス)を配置し、単位面積当たりの菌希釈液Bの量を調整
9.一定時間37℃、相対湿度100%の環境で放置する(放置時間:5分、4時間、24時間または48時間)
10.菌希釈液Bが付いた試料フィルム全体と滅菌水9.6mLとを濾過袋に入れ、濾過袋の上から手で揉んで、試料フィルムの菌を十分に洗い流す。濾過袋の中の洗い出し液は、菌希釈液Bが25倍に希釈されたものである。この洗い出し液を菌希釈液B2ということがある。菌希釈液B2は、菌希釈液B中の菌数の増減がない場合は、菌数1E+04CFU/mLのオーダーとなる。
11.菌希釈液B2を10倍希釈して菌希釈液Cを調製する。具体的には、洗い出し液(菌希釈液B2)120μLを滅菌水1.08mLに入れて調製する。菌希釈液Cは、菌希釈液B中の菌数の増減がない場合は、菌数1E+03CFU/mLのオーダーとなる。
12.菌希釈液Cの調製と同じ方法で、菌希釈液Cを10倍希釈して菌希釈液Dを調製する。菌希釈液Dは、菌希釈液B中の菌数の増減がない場合は、菌数1E+02CFU/mLのオーダーとなる。さらに、菌希釈液Dを10倍希釈して菌希釈液Eを調製する。菌希釈液Eは、菌希釈液B中の菌数の増減がない場合は、菌数1E+01CFU/mLのオーダーとなる。
13.菌希釈液B2および菌希釈液C〜Eをペトリフィルム(登録商標)培地(3M社製、製品名:生菌数測定用ACプレート)に1mLを滴下して、37℃、相対湿度100%で培養して48時間後に菌希釈液B2中の菌数をカウントする。

0122

なお、JISZ2801の5.6h)では、希釈液を調製する際にリン酸緩衝生理食塩水を用いるが、実験1においては滅菌水を用いた。滅菌水を用いた場合、試料フィルムの表面の物理的構造および化学的性質ではなく、微生物の細胞内の溶液浸透圧が異なることが、菌が死滅する原因になる可能性が考えられる。これに対しては、後述する試料フィルムNo.5(PET)において菌が死滅しないことを確認できた。滅菌水を用いても、試料フィルムの表面の物理的構造および化学的性質による殺菌効果を調べられることを確認している。

0123

試料フィルムNo.1については、初期菌数を3.1E+05CFU/mLとして、試料フィルムNo.2については、初期菌数を1.4E+05CFU/mLとして、殺菌性の評価を行った。試料フィルムNo.1については、放置時間5分の場合の測定は行っていない。

0124

結果を図5に示す。図5(a)は、実験1において試料フィルムNo.1の殺菌性を評価した結果を示すグラフである。図5(b)は、実験1において試料フィルムNo.2の殺菌性を評価した結果を示すグラフである。図5において、横軸は放置時間(時間)であり、縦軸は菌希釈液B2中の菌数(CFU/mL)を示す。なお、図5において、見やすさのために、菌数が0の場合は0.1としてプロットしている。

0125

図5(a)および図5(b)から分かるように、窒素元素が含まれている樹脂で形成された試料フィルムNo.2は、殺菌性を示すのに対し、窒素元素が含まれていない樹脂で形成された試料フィルムNo.1は、殺菌性を示さなかった。

0126

実験結果より、合成高分子膜が窒素元素を含むと殺菌性を有することが分かる。合成高分子膜は、窒素元素を例えば0.7at%以上含むことが好ましいことが分かった。

0127

(実験2)
次に、初期菌数の値を変更して、試料フィルムNo.2およびNo.3の殺菌性を評価した。実験1では1E+05CFU/mLオーダーであったのに対し、実験2においては初期菌数を1E+06CFU/mLオーダーとした。評価の手順は、実験1と基本的に同じである。ただし、37℃、相対湿度100%の環境で放置する時間(放置時間)は67.5時間とした。

0128

実験の結果、試料フィルムNo.2においては十分な殺菌効果が得られなかったが、試料フィルムNo.3においては殺菌性が認められた。実験1においては、試料フィルムNo.2の殺菌性が認められていたが、初期菌数が増加したことにより、実験2においては十分に殺菌効果が得られなかったと考えられる。初期菌数と殺菌効果との関係については、後述する。

0129

また、実験2の結果から、合成高分子膜に含まれる窒素元素の原子濃度が高い方が、より強い殺菌性を有することが分かる。合成高分子膜は、窒素元素を2.2at%以上含むことがさらに好ましいことが分かった。

0130

(実験3)
続いて、初期菌数を2.5E+06CFU/mLとし、かつ、菌希釈液B中の栄養源を実験1の10倍に増加させた条件で、試料フィルムNo.1〜No.5の殺菌性を評価した。すなわち、上記菌希釈液Aに、栄養源として1/50NB培地(NB培地(栄研化学株式会社製、普通ブイヨン培地E−MC35)を滅菌水で50倍に希釈)を添加して菌希釈液Bを調製した。

0131

試料フィルムNo.4は、試料フィルムNo.2と同じウレタンアクリレート含有アクリル樹脂Bを用いて作製した。試料フィルムNo.4は、表面にモスアイ構造を有していない点において、試料フィルムNo.2と異なる。

0132

試料フィルムNo.5は、試料フィルムNo.1〜No.4のベースフィルムとして用いたPETフィルムである。

0133

評価の手順は、実験1と基本的に同じである。

0134

結果を図6に示す。図6は、実験3において試料フィルムNo.1〜No.5の殺菌性を評価した結果を示すグラフである。図6において、横軸は放置時間(時間)であり、縦軸は菌希釈液B2中の菌数(CFU/mL)を示す。

0135

図6から分かるように、試料フィルムNo.2およびNo.3においては、放置時間が3時間から24時間へ変化する際に菌数は減少しなかったものの、最も菌数の増加が認められた試料フィルムNo.5と比較すると、菌数の増加が抑制されていることが分かる。すなわち、窒素元素を含む試料フィルムNo.2およびNo.3においては、菌数の増加を抑制することができる抗菌効果静菌効果)が認められた。また、窒素元素の原子濃度が高い(2.2at%)樹脂から形成された試料フィルムNo.3の方が、試料フィルムNo.2(0.7at%)よりも優れた抗菌効果を示している。

0136

また、試料フィルムNo.2およびNo.4の結果を比較すると、試料フィルムNo.2は、表面にモスアイ構造を有することによって、試料フィルムNo.4よりも優れた抗菌効果を有していることが分かる。合成高分子膜が表面にモスアイ構造を有することと、合成高分子膜に窒素元素が含まれることとによって、合成高分子膜が優れた殺菌効果および/または抗菌効果を有することが分かる。

0137

発明者は、初期菌数と殺菌効果との関係について、以下のように考察した。

0138

細菌の増殖は、世代時間T0ごとに1個の細菌が2個に分裂して、その数が2倍になるという方式である。つまり、以下の式(1)に表すように、時刻t=nT0における細菌数N(nT0)は、時刻t=(n−1)T0における細菌数N((n−1)T0)の2倍になる。ここで、nは正の整数を表す。

0139

世代時間T0は、細菌の種類や培養条件によって異なる。例えば、増殖に適した条件下における緑膿菌の世代時間は、およそ30分〜40分である。式(1)は、時刻t=0における細菌数N(0)を用いて、式(2)のように表すことができる。

0140

式(2)から、時刻tにおける細菌数N(t)は、式(3)のように表される。細菌数は、経過時間とともに対数的に増加する。

0141

0142

上記の増殖の考え方に基づいて、殺菌効果を有する合成高分子膜上の細菌数を考察する。単位時間当たりに合成高分子膜(試料フィルム)の表面で殺菌される細菌の数をDとすると、時刻t=nT0における細菌数N(nT0)は、以下の式(4)のように表される。

0143

式(4)は、上記式(1)に殺菌効果を表す項(−DT0)が導入された形である。式(4)を変形することにより、式(5)を得る。

0144

式(5)から、時刻tにおける細菌数N(t)は、式(6)のように表される。

0145

0146

式(6)によると、時刻t=0における細菌数(すなわち初期菌数)N(0)と、世代時間当たりに殺菌される菌数DT0との大小関係によって、時刻tにおける細菌数N(t)が決定される。初期菌数N(0)が、世代時間当たりに殺菌される菌数DT0よりも大きければ(N(0)>DT0)、時刻tが大きくなるとともに細菌数は増加し続ける。初期菌数N(0)が、世代時間当たりに殺菌される菌数DT0よりも小さければ(N(0)<DT0)、時刻tが大きくなると細菌数は減少し、有限時間経過後に細菌数は0になる。

0147

上述したように、実験1においては、試料フィルムNo.2の殺菌効果が認められていたが、初期菌数を増加させた実験2においては、十分に試料フィルムNo.2の殺菌効果が得られなかった。これらの結果は、式(6)によって説明することができる。実験1における初期菌数は、試料フィルムNo.2が世代時間当たりに殺菌することができる菌数よりも小さかったのに対し、実験2における初期菌数は、試料フィルムNo.2が世代時間当たりに殺菌することができる菌数よりも大きかったことが考えられる。

0148

なお、式(6)は簡略化されたモデルであるので、式(6)に反映されていない要素を考慮する必要がある場合もある。例えば、式(6)においては、単位時間当たりの殺菌数Dを、細菌数によらずに一定としたが、細菌数によって変化する可能性もある。

0149

細菌の栄養源(例えば有機物)の量が殺菌効果に与える影響も考慮する必要がある場合がある。例えば、栄養源を増加させた実験3においては、試料フィルムNo.2およびNo.3は、実験2と比較して十分な殺菌効果を示さず、菌数の増加を抑制するにとどまった。一般には、例えばモノーの式(Monod equation)によると、栄養源が増加すると増殖速度が速くなる。すなわち、栄養源が増加すると世代時間T0が短くなる。この場合、式(6)からは、殺菌効果を得るためにはより少ない初期菌数であることが必要になることが考えられる。

0150

微生物は一般に栄養源である有機物と接触する確率を増やすために、物体の表面に付着しやすい表面構造を有している。従って、栄養源が少ない場合には、物体の表面への付着しやすさが増幅されることも考えられる。これにより、より効率よく合成高分子膜の表面で殺菌されることも考えられる。

0151

細胞は一般に極性を有する物質(栄養源を含む)を取り込む機構を有している(エンドサイトーシス)。実際に、図8を参照して後述するように、合成高分子膜の凸部が細胞壁に取り込まれたかのように見える。栄養源が少ない場合には、合成高分子膜の凸部が細胞壁に取り込まれる効率が増幅され、効率よく合成高分子膜の表面で殺菌されることも考えられる。

0152

なお、細菌を培養すると、全ての培養時間において、式(1)〜式(6)で記述されるように対数的に細菌が増殖するわけではない。式(1)〜式(6)で記述されるような対数期対数増殖期)の前に、ほとんど細菌の数が変化しない誘導期が現れることがある。誘導期は、細菌は分裂をほとんど行わずに、分裂のための準備(例えば細胞の修復酵素生合成)や培地への適応を行う期間であると考えられている。例えば、図6に示す実験3の結果において、試料フィルムNo.1〜No.4は、放置時間3時間後には菌数が減少しているのに対し、24時間後には菌数が増加する振舞いを示している。これらの振舞いは、誘導期から対数期への遷移を反映しているとも考えられる。

0153

以下の実験4および実験5においては、合成高分子膜の表面にシランカップリング剤を付与することによって、合成高分子膜の表面の化学的性質を変化させ、合成高分子膜が有する殺菌効果を評価した。特に、合成高分子膜の表面に含まれる化合物が有する官能基と、合成高分子膜の殺菌効果との関係に注目した。

0154

(実験4)
実験4においては、下記の表1に示す7種類の試料フィルムNo.10〜No.16について、殺菌性を評価した。

0155

0156

試料フィルムNo.10〜No.16は、先と同じ型を用いて作製した。試料フィルムNo.10〜No.16は、アクリル樹脂D(上記のアクリル樹脂Aと異なる)にシリコーン系潤滑剤を混合した樹脂を用いて作製した。シリコーン系潤滑剤を混合したアクリル樹脂Dは窒素元素を含まない。試料フィルムNo.10の表面には、表面処理剤を付与していない。試料フィルムNo.11〜No.16は、得られた合成高分子膜の表面に、それぞれ異なるシランカップリング剤を付与することで、表面の化学的性質(表面に付与されたシランカップリング剤が有する官能基)が異なる合成高分子膜を作製した。

0157

試料フィルムNo.11には、シランカップリング剤S0を付与した。シランカップリング剤S0は、信越化学工業株式会社製のKBM−1003であり、以下の化学式(7)で表される。シランカップリング剤S0が表面に付与されているので、試料フィルムNo.11の合成高分子膜の表面には窒素元素が含まれない。シランカップリング剤S0は、ビニル基(−CH=CH2)を有する。
(CH3O)3SiCH=CH2 (7)

0158

試料フィルムNo.12には、シランカップリング剤S1を付与した。シランカップリング剤S1は、信越化学工業株式会社製のKBM−603であり、以下の化学式(8)で表される。シランカップリング剤S1が表面に付与されているので、試料フィルムNo.12の合成高分子膜の表面に含まれる窒素元素の濃度は5.6at%である。シランカップリング剤S1は、アミノ基(−NH2)を有する。
(CH3O)3SiC3H6NHC2H4NH2 (8)

0159

試料フィルムNo.13には、シランカップリング剤S2を付与した。シランカップリング剤S2は、信越化学工業株式会社製のKBM−903であり、以下の化学式(9)で表される。シランカップリング剤S2が表面に付与されているので、試料フィルムNo.13の合成高分子膜の表面に含まれる窒素元素の濃度は3.6at%である。シランカップリング剤S2は、アミノ基(−NH2)を有する。
(CH3O)3SiC3H6NH2 (9)

0160

試料フィルムNo.14には、シランカップリング剤S3を付与した。シランカップリング剤S3は、信越化学工業株式会社製のKBE−585であり、以下の化学式(10)のアルコール溶液である。化学式(10)において、Rは炭化水素基を表す。シランカップリング剤S3は、ウレイド基(−NHC(=O)NH2)を有する。ウレイド基はアミノ基(−NH2)を含む官能基である。
(RO)3SiC3H6NHC(=O)NH2 (10)

0161

試料フィルムNo.15には、シランカップリング剤S4を付与した。シランカップリング剤S4は、信越化学工業株式会社製のKBM−803であり、以下の化学式(11)で表される。シランカップリング剤S4が表面に付与されているので、試料フィルムNo.15の合成高分子膜の表面に含まれる硫黄元素の濃度は3.7at%である。シランカップリング剤S4は、メルカプト基(−SH)を有する。
(CH3O)3SiC3H6SH (11)

0162

試料フィルムNo.16には、シランカップリング剤S5を付与した。シランカップリング剤S5は、信越化学工業株式会社製のKBE−9007であり、以下の化学式(12)で表される。シランカップリング剤S5が表面に付与されているので、試料フィルムNo.16の合成高分子膜の表面に含まれる窒素元素の濃度は2.7at%である。シランカップリング剤S5は、イソシアネート基(−N=C=O)を有する。
(C2H5O)3SiC3H6N=C=O (12)

0163

殺菌性の評価の手順は、上記の実験1と基本的に同じである。実験4においては、試料フィルムNo.10については、初期菌数を1.4E+05CFU/mLとし、試料フィルムNo.11〜No.16については、初期菌数は3.0E+05CFU/mLとした。

0164

結果を図7に示す。図7は、実験4において試料フィルムNo.10〜No.16の殺菌性を評価した結果を示すグラフであり、横軸は放置時間(時間)であり、縦軸は菌希釈液B2中の菌数(CFU/mL)を示す。なお、図7において、見やすさのために、菌数が0の場合は0.1としてプロットしている。

0165

図7から明らかなように、試料フィルムNo.10は、合成高分子膜の表面に窒素元素を含まないにもかかわらず、殺菌性を有する。樹脂に混合されたシリコーン系潤滑剤が何らかの理由で殺菌効果を有する可能性が考えられる。

0166

試料フィルムNo.12〜No.16は、いずれも殺菌性および/または抗菌性を有する。特に、アミノ基(−NH2)を有する試料フィルムNo.12およびNo.13は、優れた殺菌性を有することが分かる。試料フィルムNo.12〜No.16は、合成高分子膜の表面に付与されたシランカップリング剤が有する官能基が殺菌効果を有すると考えられる。また、試料フィルムNo.12〜No.16においては、合成高分子膜の表面にシランカップリング剤が付与されることで、合成高分子膜の表面が窒素元素を0.7at%以上有している。合成高分子膜の表面が有する窒素元素が殺菌効果を有するとも考えられる。

0167

一方で、試料フィルムNo.11は、殺菌性を示さなかった。合成高分子膜の表面に窒素元素が含まれていないことがその理由として考えられる。表面に付与されたビニル基による殺菌効果は認められなかった。試料フィルムNo.10と試料フィルムNo.11とを比較すると、合成高分子膜の表面にシランカップリング剤S0が付与されることで、殺菌効果が認められなくなったことが分かる。

0168

図8(a)および図8(b)は、試料フィルムNo.10のモスアイ構造を有する表面で死に至った緑膿菌をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察した例を示す。図8(b)は、図8(a)を拡大したものである。

0169

これらのSEM像を見ると、凸部の先端部分が緑膿菌の細胞壁(外膜)内に侵入している様子が見て取れる。また、図8(a)および図8(b)を見ると、凸部が細胞壁を突き破ったように見えず、凸部が細胞壁に取り込まれたかのように見える。これは、非特許文献1のSupplemental Informationにおいて示唆されているメカニズムで説明されるかもしれない。すなわち、グラム陰性菌の外膜(脂質二重膜)が凸部と近接して変形することによって、脂質二重膜が局所的に1次の相転移に似た転移自発的な再配向)を起こし、凸部に近接する部分に開口が形成され、この開口に凸部が侵入したのかもしれない。あるいは、細胞が有する、極性を有する物質(栄養源を含む)を取り込む機構(エンドサイトーシス)によって、凸部が取り込まれたのかもしれない。

0170

(実験5)
次に、下記の表2に示す試料フィルムNo.17およびNo.18について、殺菌性を評価した。

0171

0172

試料フィルムNo.17およびNo.18は、表面に同じ物質を付与したが、表面のモスアイ構造を有するか否かにおいて異なる。

0173

試料フィルムNo.17は、シリコーン系潤滑剤を混合したアクリル樹脂D(先の試料フィルムNo.10〜No.16に用いたものと同じ)を用い、先と同じ型を用いて作製した。得られた合成高分子膜の表面に、シアノアクリレートを付与した。シアノアクリレートの付与は、1gの瞬間接着剤(製品名:強力瞬間接着剤、輸入元:高分子商事株式会社)をアセトン50mLに混合した混合液を調製し、混合液を合成高分子膜の表面にかけ流すように付与した。表面のモスアイ構造が混合液によって埋まっていないことを走査型電子顕微鏡(SEM)で観察して確認した。

0174

試料フィルムNo.18は、試料フィルムNo.10〜No.17のベースフィルムとして用いたPETフィルムの表面に、試料フィルムNo.17と同じ混合液を付与することによって作製した。従って、試料フィルムNo.18は、表面の化学的性質において試料フィルムNo.17と同じであるが、表面にモスアイ構造を有していない点において、試料フィルムNo.17と異なる。

0175

殺菌性の評価の手順は、上記の実験1と基本的に同じである。実験5において、どちらの試料フィルムの場合も、初期菌数は3.0E+05CFU/mLとした。

0176

結果を図9に示す。図9は、実験5において試料フィルムNo.17およびNo.18の殺菌性を評価した結果を示すグラフであり、横軸は放置時間(時間)であり、縦軸は菌希釈液B2中の菌数(CFU/mL)を示す。なお、図9において、見やすさのために、菌数が0の場合は0.1としてプロットしている。

0177

図9から明らかなように、試料フィルムNo.17は殺菌性を有するのに対し、試料フィルムNo.18は殺菌性を有していない。表面のモスアイ構造の有無によって、殺菌性の有無が異なる。すなわち、表面にシアノ基を有するのみでは合成高分子膜は殺菌性を有さず、表面の物理的構造(モスアイ構造)および表面に付与されたシアノ基の両方が殺菌性に寄与していることが考えられる。

0178

(実験6)
次に、下記の表3に示す試料フィルムNo.19〜No.22について、殺菌性を評価した。

0179

0180

試料フィルムNo.20〜No.22は、先と同じ型を用いて作製した。試料フィルムNo.19〜No.22の表面には、表面処理剤を付与していない。

0181

試料フィルムNo.19は、試料フィルムNo.20〜22のベースフィルムとして用いたPETフィルムである。

0182

試料フィルムNo.20は、ウレタンアクリレート含有アクリル樹脂B(先の試料フィルムNo.2に用いたものと同じ)を用いて作製した。

0183

試料フィルムNo.21は、試料フィルムNo.20と同じウレタンアクリレート含有アクリル樹脂Bに、リチウム塩を含むシリコーンオイル(帯電防止剤、丸菱油化工業株式会社製、製品名:PC−3662)を混合した樹脂を用いて作製した。

0184

試料フィルムNo.22は、アクリル樹脂A(先の試料フィルムNo.1に用いたものと同じ)に、リチウム塩を含むシリコーンオイル(試料フィルムNo.21に用いたものと同じ)を混合した樹脂を用いて作製した。

0185

殺菌性の評価の手順は、上記の実験1と基本的に同じである。試料フィルムNo.19〜No.20については、初期菌数を1.4E+05CFU/mLとし、試料フィルムNo.21については、初期菌数を3.0E+05CFU/mLとし、試料フィルムNo.22については、初期菌数を2.5E+06CFU/mLとした。

0186

結果を図10(a)および(b)に示す。図10(a)は、実験6において試料フィルムNo.19〜No.21の殺菌性を評価した結果を示すグラフであり、図10(b)は、実験6において試料フィルムNo.22の殺菌性を評価した結果を示すグラフである。図10において、横軸は放置時間(時間)であり、縦軸は菌希釈液B2中の菌数(CFU/mL)を示す。なお、図10において、見やすさのために、菌数が0の場合は0.1としてプロットしている。

0187

図10(a)および(b)から明らかなように、試料フィルムNo.20およびNo.21は、いずれも殺菌性を有する。試料フィルムNo.20およびNo.21の結果を比較すると、合成高分子膜にリチウム塩が含まれることで、より優れた殺菌性を有することが分かる。

0188

試料フィルムNo.21およびNo.22の結果を比較すると、合成高分子膜がウレタンアクリレートを含むことで殺菌性を有するように見える。ただし、試料フィルムNo.22の初期菌数は、試料フィルムNo.21の初期菌数のおよそ10倍であるので、実験6においては試料フィルムNo.22の殺菌性が十分に確認できなかった可能性も考えられる。

0189

本発明の実施形態による合成高分子膜は、例えば、水に接触する表面のぬめりの発生を抑制する用途に好適に用いられる。例えば、加湿器製氷機に用いられる水用の容器内壁に合成高分子膜を貼り付けることによって、容器の内壁にぬめりが発生することを抑制できる。ぬめりは、内壁等に付着した細菌が分泌する細胞外多糖EPS)によって形成されるバイオフィルムに起因している。したがって、内壁等へ付着した細菌を殺すことによって、ぬめりの発生を抑制することができる。

0190

上述したように、本発明の実施形態による合成高分子膜の表面に液体を接触させることによって、液体を殺菌することができる。同様に、合成高分子膜の表面に気体を接触させることによって、気体を殺菌することもできる。微生物は一般に栄養源である有機物と接触する確率を増やすために、物体の表面に付着しやすい表面構造を有している。したがって、本発明の実施形態による合成高分子膜の殺菌性を有する表面に、微生物を含む気体や液体を接触させると、微生物は合成高分子膜の表面に付着しようとするので、その際に、殺菌作用を受けることになる。

0191

ここでは、グラム陰性菌である緑膿菌について、本発明の実施形態による合成高分子膜の殺菌作用を説明したが、グラム陰性菌に限られず、グラム陽性菌や他の微生物に対しても殺菌作用を有すると考えられる。グラム陰性菌は、外膜を含む細胞壁を有する点に1つの特徴を有するが、グラム陽性菌や他の微生物(細胞壁を有しないものを含む)も細胞膜を有し、細胞膜もグラム陰性菌の外膜と同様に脂質二重膜で構成されている。したがって、本発明の実施形態による合成高分子膜の表面の凸部と細胞膜との相互作用は、基本的には、外膜との相互作用と同様であると考えられる。

0192

ただし、微生物の大きさはその種類によって異なる。ここで例示した緑膿菌の大きさは約1μmであるが、細菌には、数100nm〜約5μmの大きさのものがあり、真菌は数μm以上である。上記で例示した合成高分子膜が有する凸部(2次元的な大きさが約200nm)は、約0.5μm以上の大きさの微生物に対しては殺菌作用を有すると考えられるが、数100nmの大きさの細菌に対しては、凸部が大きすぎるために十分な殺菌作用を発現しない可能性がある。また、ウィルスの大きさは数10nm〜数100nmであり、100nm以下のものも多い。なお、ウィルスは細胞膜を有しないが、ウィルス核酸を取り囲むカプシドと呼ばれるタンパク質の殻を有している。ウィルスは、この殻の外側に膜状のエンベロープを有するウィルスと、エンベロープを有しないウィルスとに分けられる。エンベロープを有するウィルスにおいては、エンベロープは主として脂質からなるので、エンベロープに対して凸部が同様に作用すると考えられる。エンベロープを有するウィルスとして、例えば、インフルエンザウィルスエボラウィルスが挙げられる。エンベロープを有しないウィルスにおいては、このカプシドと呼ばれるタンパク質の殻に対して凸部が同様に作用すると考えられる。凸部が窒素元素を有すると、アミノ酸から構成されるタンパク質との親和性が強くなり得る。

0193

そこで、数100nm以下の微生物に対しても殺菌作用を発現し得る凸部を有する合成高分子膜の構造およびその製造方法を以下に説明する。

0194

以下では、上記で例示した合成高分子膜が有する、2次元的な大きさが20nm超500nm未満の範囲にある凸部を第1の凸部という。また、第1の凸部に重畳して形成された凸部を第2の凸部といい、第2の凸部の2次元的な大きさは、第1の凸部の2次元的な大きさよりも小さく、かつ、100nmを超えない。なお、第1の凸部の2次元的な大きさが100nm未満、特に50nm未満の場合には、第2の凸部を設ける必要はない。また、第1の凸部に対応する型の凹部を第1の凹部といい、第2の凸部に対応する型の凹部を第2の凹部という。

0195

上述の陽極酸化工程とエッチング工程とを交互に行うことによって、所定の大きさおよび形状の第1の凹部を形成する方法をそのまま適用しても、第2の凹部を形成することができない。

0196

図11(a)にアルミニウム基材(図2中の参照符号12)の表面のSEM像を示し、図11(b)にアルミニウム膜(図2中の参照符号18)の表面のSEM像を示し、図11(c)にアルミニウム膜(図2中の参照符号18)の断面のSEM像を示す。これらのSEM像からわかるように、アルミニウム基材の表面およびアルミニウム膜の表面に、グレイン(結晶粒)が存在している。アルミニウム膜のグレインは、アルミニウム膜の表面に凹凸を形成している。この表面の凹凸は、陽極酸化時の凹部の形成に影響を与えるので、DpまたはDintが100nmよりも小さい第2の凹部の形成を妨げる。

0197

そこで、本発明の実施形態による型の製造方法は、(a)アルミニウム基材または支持体の上に堆積されたアルミニウム膜を用意する工程と、(b)アルミニウム基材またはアルミニウム膜の表面を電解液に接触させた状態で、第1のレベルの電圧を印加することによって、第1の凹部を有するポーラスアルミナ層を形成する陽極酸化工程と、(c)工程(b)の後に、ポーラスアルミナ層をエッチング液に接触させることによって、第1の凹部を拡大させるエッチング工程と、(d)工程(c)の後に、ポーラスアルミナ層を電解液に接触させた状態で、第1のレベルよりも低い第2のレベルの電圧を印加することによって、第1の凹部内に、第2の凹部を形成する工程とを包含する。例えば、第1のレベルは、40V超であり、第2のレベルは、20V以下である。

0198

すなわち、第1のレベルの電圧での陽極酸化工程で、アルミニウム基材またはアルミニウム膜のグレインの影響を受けない大きさを有する第1の凹部を形成し、その後、エッチングによってバリア層の厚さを小さくしてから、第1のレベルよりも低い第2のレベルの電圧での陽極酸化工程で、第1の凹部内に第2の凹部を形成する。このような方法で、第2の凹部を形成すると、グレインによる影響が排除される。

0199

図12を参照して、第1の凹部14paと、第1の凹部14pa内に形成された第2の凹部14pbとを有する型を説明する。図12(a)は型のポーラスアルミナ層の模式的な平面図であり、図12(b)は模式的な断面図であり、図12(c)は試作した型のSEM像を示す。

0200

図12(a)および(b)に示すように、本実施形態による型の表面は、2次元的な大きさは20nm超500nm未満の範囲内にある複数の第1の凹部14paと、複数の第1の凹部14paに重畳して形成された複数の第2の凹部14pbをさらに有している。複数の第2の凹部14pbの2次元的な大きさは、複数の第1の凹部14paの2次元的な大きさよりも小さく、かつ、100nmを超えない。第2の凹部14pbの高さは、例えば、20nm超100nm以下である。第2の凹部14pbも、第1の凹部14paと同様に、略円錐形の部分を含むことが好ましい。

0201

図12(c)に示すポーラスアルミナ層は、以下の様にして製造した。

0202

アルミニウム膜として、Tiを1mass%含むアルミニウム膜を用いた。陽極酸化液には蓚酸水溶液(濃度0.3mass%、温度10℃)を使用して、エッチング液には、燐酸水溶液(濃度10mass%、温度30℃)を使用した。電圧80Vにおける陽極酸化を52秒間行った後、エッチングを25分間、続いて、電圧80Vにおける陽極酸化を52秒間、エッチング25分間を行った。この後、20Vにおける陽極酸化を52秒間、エッチングを5分間、さらに、20Vにおける陽極酸化を52秒間行った。

0203

図12(c)からわかるように、Dpが約200nmの第1の凹部の中に、Dpが約50nmの第2の凹部が形成されている。上記の製造方法において、第1のレベルの電圧を80Vから45Vに変更して、ポーラスアルミナ層を形成したところ、Dpが約100nmの第1の凹部の中に、Dpが約50nmの第2の凹部が形成された。

0204

このような型を用いて合成高分子膜を作製すると、図12(a)および(b)に示した第1の凹部14paおよび第2の凹部14pbの構造を反転した凸部を有する合成高分子膜が得られる。すなわち、複数の第1の凸部に重畳して形成された複数の第2の凸部をさらに有する合成高分子膜が得られる。

0205

このように第1の凸部と、第1の凸部に重畳して形成された第2の凸部を有する合成高分子膜は、100nm程度の比較的小さな微生物から、5μm以上の比較的大きな微生物に対して殺菌作用を有し得る。

0206

もちろん、対象とする微生物の大きさに応じて、2次元的な大きさが20nm超100nm未満の範囲内にある凹部だけを形成してもよい。このような凸部を形成するための型は、例えば、以下の様にして作製することができる。

0207

酒石酸アンモニウム水溶液などの中性塩水溶液ホウ酸アンモニウムクエン酸アンモニウムなど)や、イオン解離度の小さい有機酸(マレイン酸マロン酸フタル酸、クエン酸、酒石酸など)を用いて陽極酸化を行い、バリア型陽極酸化膜を形成し、バリア型陽極酸化膜をエッチングによって除去した後、所定の電圧(上記の第2のレベルの電圧)で陽極酸化することによって、2次元的な大きさが20nm超100nm未満の範囲内にある凹部を形成することができる。

0208

例えば、アルミニウム膜として、Tiを1mass%含むアルミニウム膜を用い、酒石酸水溶液(濃度0.1mol/l、温度23℃)を用いて、100Vにおいて2分間、陽極酸化を行うことによってバリア型陽極酸化膜を形成する。この後、燐酸水溶液(濃度10mass%、温度30℃)を用いて25分間、エッチングすることによって、バリア型陽極酸化膜を除去する。その後、上記と同様に、陽極酸化液には蓚酸水溶液(濃度0.3mass%、温度10℃)を使用し、20Vにおける陽極酸化を52秒間、上記エッチング液を用いたエッチングを5分間、交互に、陽極酸化を5回、エッチングを4回繰り返すことによって、2次元的な大きさが約50nmの凹部を均一に形成することができる。

0209

本発明の実施形態による殺菌性表面を有する合成高分子膜は、例えば、水回りの表面を殺菌する用途など、種々の用途に用いられ得る。本発明の実施形態による殺菌性表面を有する合成高分子膜は、安価に製造され得る。

0210

34A、34B合成高分子膜
34Ap、34Bp 凸部
42A、42Bベースフィルム
50A、50Bフィルム
100、100A、100B モスアイ用型

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