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技術 レーダシステム、レーダ信号処理装置、車両走行制御装置および方法、ならびにコンピュータプログラム

出願人 日本電産株式会社国立大学法人静岡大学
発明者 加茂宏幸桑原義彦
出願日 2015年1月29日 (5年1ヶ月経過) 出願番号 2015-015791
公開日 2016年8月8日 (3年7ヶ月経過) 公開番号 2016-142526
状態 特許登録済
技術分野 レーダ方式及びその細部 駆動装置の関連制御、車両の運動制御 方向探知 交通制御システム
主要キーワード ピーク値レベル メインメモリ装置 素子ビーム 確定回路 設定速 ビーム素子 ターゲット群 プレーナアレイ
関連する未来課題
重要な関連分野

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図面 (20)

課題

自車両から同じ距離で併走する先行車両台数および先行車両が走行している車線を直接に識別する技術を提供する。

解決手段

レーダシステムは、1個または複数個到来波応答して受信信号を出力する独立マルチビームアンテナと、学習済みニューラルネットワーク構築された信号処理回路とを備えている。信号処理回路は、受信信号を受け取り、受信信号または受信信号から生成した二次信号をニューラルネットワークへ入力し、当該受信信号または二次信号、およびニューラルネットワークの学習データを用いて演算を行い、ニューラルネットワークから、到来波の個数を示す信号を出力するように構成されている。

概要

背景

従来、車載レーダシステムには、FMCW(Frequency Modulated Continuous Wave)レーダ、多周波CW(Continuous Wave)レーダ、およびパルスレーダの方式を利用した電子走査型のレーダが用いられている。このようなレーダシステムにおいては、一般に、変調された連続波、またはパルス波を「送信波」として送信アンテナから放射し、先行車両反射されて受信アンテナに戻ってきた到来波を「受信波」として受け取る。そして、受信波によるアンテナ信号受信信号)に基づいて、先行車両の位置および速度が推定される。先行車両の位置は、レーダシステムが搭載された車両を基準として、先行車両までの距離および先行車両の方向によって規定される。なお、本明細書では、レーダシステムが搭載された車両を「自車両」と称し、自車両よりも前を走行する車両を「先行車両」と称する。「先行車両」は、自車両が走行する車線と同じ車線、またはその車線に隣接する同一方向の車線を走行しているとする。

車載レーダシステムにおいて、先行車両の「方向」は、道路を含む面(近似的には「平面」)内における方位(azimuth)によって規定され得る。このため、本明細書では、レーダによって探知される物体に関して、「方向(direction)」と「方位(azimuth)」とを同意義の用語として使用する場合がある。

先行車両の方向は、到来波の到来方向DOA: Direction Of Arrival)」の角度で表すことができる。レーダ技術の分野において、先行車両のように送信波を反射する物体は、「物標ターゲット)」と呼ばれることがある。物標は、「反射波」の波源として機能する。物標は、受信アンテナに到来する波、すなわち受信波、の信号源である。

車載用のレーダシステムでは、小型で低価格のアンテナを用いることが求められている。例えば4個または5個のアンテナ素子を構成要素とする「アレーアンテナ」が受信用アンテナとして用いられている。アレーアンテナには、アンテナ素子の配列形態に応じて、リニアアレイ型、プレーナアレイ型、サーキュラーアレイ型、およびコンフォーマルアレイ型がある。

このようなアレーアンテナの各アンテナ素子から得られる受信信号に基づけば、信号処理技術により、送信波を反射する物体の方位(到来方向)を推定することが可能になる。しかし、送信波を反射する物体の個数が複数であるとき、個々の物体で生じた反射波は異なる角度で受信アンテナに入射する。このため、受信アンテナからは、複数の到来波が重畳された複雑な信号が得られる。また、車載レーダシステムでは、受信アンテナに対する物体の配置関係および距離が動的に変化する。したがって、受信アンテナの受信信号に基づいて1または複数台の先行車両の各方位を正確に推定するためには、コンピュータを用いて膨大な演算高速に実行することが必要になる。

到来方向を推定するため、アレーアンテナの受信信号を処理する各種のアルゴリズムが提案されている。公知の到来方向推定アルゴリズムには、以下の方法が含まれる(特許文献1及び2参照)。
(1)デジタルビームフォーマ(DBF: Digital Beam Former)法
(2)Capon法
(3)線形予測法
(4)最小ノルム法
(5)MUSIC(MUltiple SIgnal Classification)法
(6)ESRIT(Estimation of Signal Parameters via Rotational Invariance Techniques)法

一般に、方向推定角度分解能が高いほど、信号処理に要する演算の量が増大する。上記の到来方向推定方法(1)〜(6)においては、方法(1)から方法(6)までの順序で角度分解能が高くなり、演算量が増加する。角度分解能が特に高いMUSIC法およびESPRIT法は、「超分解能アルゴリズム」とも呼ばれ、アレーアンテナの受信信号に対して演算量が多い処理を高速に行うことを必要とする。具体的には、超分解能アルゴリズムによると、各アレーアンテナの受信信号のデータから自己相関行列を作成する。そして、この自己相関行列の固有値展開(eigenvalue decomposition)により、受信波の到来方向が推定される。行列の固有値展開とは、行列を、固有値対角成分に持つ対角行列に分解することであり、「固有値分解」とも呼ばれる。自己相関行列の固有値展開を行うとき、自己相関行列の固有値および固有ベクトルが求められる(例えば特許文献3)。

到来方向の推定精度は、自己相関行列のノイズ成分が除去されるほど向上する。エルゴード性からアンサンブル平均時間平均に等しいとすることができるため、受信データの時間平均を用いて自己相関行列が作成される。例えば、FMCWレーダでは、ビート信号データセット周波数領域のデータに変換できる、一定時間区間の時系列データ)のサンプル数、すなわちスナップショット数、をできる限り多くし、平均化した自己相関行列を使用することが好ましい。したがって、先行車両の位置が常に変化し得る状況で到来方向推定の精度を高めるには、高速なサンプリングを行う必要があり、サンプリングされたデータのメモリ容量も増大する。

車載レーダシステムには、上記のアレーアンテナを用いる方式(アレーアンテナ方式)とは別に、独立した複数の電磁波ビームを形成する方式(「独立マルチビームアンテナ方式」と称する。)がある。

上記のアレーアンテナが備える複数のアンテナ素子は、それぞれ、典型的には同一の指向性を有する。また、各アンテナ素子から得られる受信信号は相互に相関を有している。上述した各種の到来方向推定アルゴリズムは、アレー状に並んだ複数のアンテナ素子がそれぞれ生成する複数の受信信号の間に相関のあることを利用している。

一方、独立マルチビームアンテナ方式では、複数の焦点を持つレンズまたは反射鏡によって複数の電磁波ビーム(以下、単に「電磁波」または「ビーム」と称する。)を、同時、または、それと実効的に等価な短い時間間隔で形成するマルチビームアンテナが使用され得る。ある特定の方位からマルチビームアンテナに入射した電磁波は、レンズまたは反射鏡の働きにより、複数の焦点のうちの対応する1つの焦点に集束される。電磁波がどの焦点に集束されるかは、マルチビームアンテナに入射する電磁波の方向に依存して決まる。複数の焦点の位置には、それぞれ、複数のアンテナ素子が配置されている。これらのアンテナ素子は「ビーム素子」とも呼ばれる。

仮に、レンズおび反射鏡が存在しなければ、平面波に近似される電磁波が複数のアンテナ素子の全てに入射し、複数のアンテナ素子はそれぞれ受信信号を生成する。こうして生成される受信信号の間にはアンテナ素子の配置および電磁波の入射角度に依存して決まる位相差が存在する。

しかしながら、レンズまたは反射鏡によって電磁波が集束されると、集束後の電磁波は、複数のアンテナ素子の一部、典型的には1つに入射する。どのアンテナ素子に入射するかは、電磁波の入射角度(ビームの方向)に依存する。

このような独立マルチビームアンテナ方式では、複数のアンテナ素子が配列されている領域の広さに相当する「アンテナ開口面積」の全体を用いて各ビームを形成することができる。このため、アレーアンテナ方式と比べると、高い利得が得られる。また、独立マルチビームアンテナ方式では、送信波そのものがビーム状に絞られて高い指向性を有するため、マルチパスの影響を抑制する効果を期待することができる。

概要

自車両から同じ距離で併走する先行車両の台数および先行車両が走行している車線を直接に識別する技術を提供する。レーダシステムは、1個または複数個の到来波に応答して受信信号を出力する独立マルチビームアンテナと、学習済みニューラルネットワーク構築された信号処理回路とを備えている。信号処理回路は、受信信号を受け取り、受信信号または受信信号から生成した二次信号をニューラルネットワークへ入力し、当該受信信号または二次信号、およびニューラルネットワークの学習データを用いて演算を行い、ニューラルネットワークから、到来波の個数を示す信号を出力するように構成されている。

目的

本開示の実施形態は、独立マルチビームアンテナ方式には適用できないと考えられていた到来方向推定アルゴリズムを適用し、物標の方位をより高い分解能で推定するレーダシステム技術を提供する

効果

実績

技術文献被引用数
0件
牽制数
0件

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請求項1

1個または複数個到来波応答して受信信号を出力する独立マルチビームアンテナと、学習済みニューラルネットワーク構築された信号処理回路とを備え、前記信号処理回路は、前記受信信号を受け取り、前記受信信号または前記受信信号から生成した二次信号を前記ニューラルネットワークへ入力し、前記受信信号または前記二次信号、および前記ニューラルネットワークの学習データを用いて演算を行い、前記ニューラルネットワークから、前記到来波の個数を示す信号を出力するように構成されている、レーダシステム

請求項2

前記独立マルチビームアンテナは、レンズまたは反射鏡と、複数のアンテナ素子とを備える、請求項1に記載のレーダシステム。

請求項3

前記独立マルチビームアンテナは、1個以上のアンテナ素子と、前記1個以上のアンテナ素子の位置を変化させることによって、少なくともビームの受信に関する指向性を制御するアクチュエータとを備え、前記アクチュエータによって一部または全部のアンテナ素子を機械的に駆動して、異なる方向に放射される複数のビームの数が、前記アンテナ素子の数より多くなるよう、前記複数のビームを受信するように構成されている、請求項1に記載のレーダシステム。

請求項4

前記信号処理回路は、前記到来波の個数を示す信号を用いて、最尤推定法によって前記到来波の到来方向推定し、推定した値を出力するよう構成されている、請求項1から3のいずれかに記載のレーダシステム。

請求項5

前記信号処理回路は、前記ニューラルネットワークが実装されたニューラルネットワーク回路、および前記到来波の到来方向を示す角度を推定し、推定結果を示す信号を出力する到来波推定ユニットをさらに有しており、前記到来波推定ユニットは、前記受信信号または前記二次信号、および前記ニューラルネットワーク回路から前記到来波の個数を示す信号を受け取り、前記到来波の個数と、前記受信信号または前記二次信号に基づく複素振幅データとを使用して前記最尤推定法の演算を実行することにより、前記到来波の到来方向を示す角度を検出する、請求項4に記載のレーダシステム。

請求項6

前記ニューラルネットワーク回路および前記到来波推定ユニットは、前記受信信号に基づいて生成されたビート信号を前記二次信号として受信し、前記到来波推定ユニットは、複素振幅データから共分散行列を生成し、前記共分散行列の固有値分解を行って、固有値および固有ベクトルから尤度が最も大きくなる角度を算出するよう構成されている、請求項5に記載のレーダシステム。

請求項7

前記到来波推定ユニットは、前記ビート信号の周波数成分を利用して、前記到来波の波源との距離および相対速度を算出し、少なくとも、前記距離、前記相対速度、および前記尤度が最も大きくなる角度に基づいて、前記波源を確定するよう構成されている、請求項6に記載のレーダシステム。

請求項8

前記レーダシステムが車両に搭載されたときにおいて、前記信号処理回路は、前記到来波の個数を示す信号または自車両の前方を走行する1または複数の併走する先行車両の配置を示すパターンを、前記先行車両の数を示す信号として出力するよう構成されている、請求項1に記載のレーダシステム。

請求項9

前記信号処理回路は、前記自車両が走行する自車線上、および自車線に隣接するいずれか一方の隣接車線上にそれぞれ先行車両が存在するか否かを示す信号を、前記1または複数の併走する先行車両の配置のパターンを示す信号として出力するよう構成されている、請求項8に記載のレーダシステム。

請求項10

前記信号処理回路は、前記1または複数の併走する先行車両の配置のパターンを数値で示す信号を出力するよう構成されている、請求項9に記載のレーダシステム。

請求項11

前記信号処理回路は、前記受信信号に基づいて前記到来波の到来方向を推定するように構成されている、請求項8から10のいずれかに記載のレーダシステム。

請求項12

前記信号処理回路は、前記ニューラルネットワークから出力された前記到来波の個数を示す信号を用いて前記到来波の到来方向を推定する第1モード、および前記到来波の個数を示す信号を用いずに前記到来波の到来方向を推定する第2モードのいずれか一方で選択的に動作するように構成されている、請求項11に記載のレーダシステム。

請求項13

前記第2モードは、到来方向推定アルゴリズムにより、前記到来波の到来方向を推定する、請求項12に記載のレーダシステム。

請求項14

前記信号処理回路は、前記到来波の到来方向を推定することなく、前記1または複数の併走する先行車両の配置のパターンを示す信号を出力するモードを備える、請求項9または10に記載のレーダシステム。

請求項15

前記信号処理回路は、前記到来波の個数を示す信号を用いずに前記到来波の到来方向を推定するモードをさらに備え、前記信号処理回路は、前記先行車両の配置のパターンを示す信号を出力するモードによって前記先行車両の配置のパターンを取得した後、前記到来波の到来方向を推定するモードに切り替え、前記先行車両の配置のパターンを利用して、前記到来波の到来方向を推定するよう構成されている、請求項14に記載のレーダシステム。

請求項16

前記信号処理回路は、カメラまたは電波を用いて、前記自車両が走行する車線を特定するよう構成されており、前記学習済みのニューラルネットワークは、予め定められた、自車両が走行する車線ごとに構築されており、前記信号処理回路は、前記自車両が走行する車線に応じて、学習済みのニューラルネットワークを選択し、前記先行車両の配置のパターンを示す信号を出力する、請求項8に記載のレーダシステム。

請求項17

前記信号処理回路は、前記受信信号に基づいて、1個または複数の物標を検知し、前記物標までの距離および前記アレーアンテナに対する前記物標の相対速度を決定するよう構成されている、請求項1から13のいずれかに記載のレーダシステム。

請求項18

前記ニューラルネットワークは、同一方向の隣接する2車線の各々に他の車両が存在する状況下および存在しない状況下で得られた前記受信信号と、各状況下における車線毎の車両の配置を示す教師信号とを用いて学習が行われている、請求項9に記載のレーダシステム。

請求項19

前記信号処理回路はプログラマブルロジックデバイスである、請求項1から18のいずれかに記載のレーダシステム。

請求項20

前記信号処理回路は、前記演算を行う複数の演算素子と、前記ニューラルネットワークの学習データを格納した複数のメモリ素子とを有する、請求項19に記載のレーダシステム。

請求項21

前記信号処理回路は、前記演算を行うプロセッサと、前記ニューラルネットワークの学習データを格納したメモリ装置とを有する、請求項1から18のいずれかに記載のレーダシステム。

請求項22

前記学習データは、前記ニューラルネットワークの各ノードへの各入力に適用される重みの値である、請求項1から21のいずれかに記載のレーダシステム。

請求項23

車両に搭載されるレーダ信号処理装置であって、1個または複数個の到来波に応答して受信信号を出力する独立マルチビームアンテナから、前記受信信号を取得する第1端子と、学習済みのニューラルネットワークが構築された信号処理回路と、前記信号処理回路から出力された信号を送信する第2端子とを備え、前記信号処理回路は、前記第1端子を介して前記受信信号を受け取り、前記受信信号または前記受信信号から生成した二次信号を前記ニューラルネットワークへ入力し、前記受信信号または前記二次信号、および前記ニューラルネットワークの学習データを用いて演算を行い、前記ニューラルネットワークから、前記到来波の個数を示す信号を出力するように構成されている、レーダ信号処理装置。

請求項24

前記信号処理回路は、前記受信信号を用いて演算した、自車線上、および前記自車線に隣接するいずれか一方の隣接車線上の先行車両と自車両との距離、および相対速度を示す信号をさらに出力するよう構成されている、請求項23に記載のレーダ信号処理装置。

請求項25

車両に搭載される車両走行制御装置であって、1個または複数個の到来波に応答して受信信号を出力する独立マルチビームアンテナと、請求項24に記載のレーダ信号処理装置と、前記レーダ信号処理装置から出力された、前記距離、前記相対速度、および前記到来波の個数をそれぞれ示す信号を用いて前記自車両のアダプティブクルーズコントロールを行い、前記自車両の速度を制御する電子制御装置とを備える車両走行制御装置。

請求項26

1個または複数個の到来波に応答して受信信号を出力する独立マルチビームアンテナを用いて、受信信号を取得し、前記受信信号または前記受信信号から生成した二次信号を、学習済みのニューラルネットワークが構築された信号処理回路へ入力し、前記信号処理回路を用いて前記受信信号または前記二次信号、および前記ニューラルネットワークの学習データを用いて演算を行い、前記ニューラルネットワークから、前記到来波の個数を示す信号を出力し、前記受信信号を用いて、前記到来波に対応する、自車線上、および自車線に隣接するいずれか一方の隣接車線上の先行車両と自車両との距離、および相対速度を示す信号を出力し、前記距離、前記相対速度、および前記到来波の個数をそれぞれ示す信号を用いて前記自車両のアダプティブクルーズコントロールを行い、前記自車両の速度を制御する車両走行制御方法。

請求項27

車両に搭載されるプロセッサによって実行されるコンピュータプログラムであって、前記車両は、1個または複数個の到来波に応答して受信信号を出力する独立マルチビームアンテナを有しており、前記コンピュータプログラムは前記プロセッサに、前記受信信号を受け取らせ、前記受信信号または前記受信信号から生成した二次信号を、学習済みのニューラルネットワークへ入力させ、前記受信信号または前記二次信号、および前記ニューラルネットワークの学習データを用いて演算を行わせ、前記ニューラルネットワークから、前記到来波の個数を示す信号を出力させる、コンピュータプログラム。

技術分野

0001

本開示は、1台または複数台先行車両個数および方位レーダによって推定する技術に関する。

背景技術

0002

従来、車載レーダシステムには、FMCW(Frequency Modulated Continuous Wave)レーダ、多周波CW(Continuous Wave)レーダ、およびパルスレーダの方式を利用した電子走査型のレーダが用いられている。このようなレーダシステムにおいては、一般に、変調された連続波、またはパルス波を「送信波」として送信アンテナから放射し、先行車両で反射されて受信アンテナに戻ってきた到来波を「受信波」として受け取る。そして、受信波によるアンテナ信号受信信号)に基づいて、先行車両の位置および速度が推定される。先行車両の位置は、レーダシステムが搭載された車両を基準として、先行車両までの距離および先行車両の方向によって規定される。なお、本明細書では、レーダシステムが搭載された車両を「自車両」と称し、自車両よりも前を走行する車両を「先行車両」と称する。「先行車両」は、自車両が走行する車線と同じ車線、またはその車線に隣接する同一方向の車線を走行しているとする。

0003

車載レーダシステムにおいて、先行車両の「方向」は、道路を含む面(近似的には「平面」)内における方位(azimuth)によって規定され得る。このため、本明細書では、レーダによって探知される物体に関して、「方向(direction)」と「方位(azimuth)」とを同意義の用語として使用する場合がある。

0004

先行車両の方向は、到来波の到来方向DOA: Direction Of Arrival)」の角度で表すことができる。レーダ技術の分野において、先行車両のように送信波を反射する物体は、「物標ターゲット)」と呼ばれることがある。物標は、「反射波」の波源として機能する。物標は、受信アンテナに到来する波、すなわち受信波、の信号源である。

0005

車載用のレーダシステムでは、小型で低価格のアンテナを用いることが求められている。例えば4個または5個のアンテナ素子を構成要素とする「アレーアンテナ」が受信用アンテナとして用いられている。アレーアンテナには、アンテナ素子の配列形態に応じて、リニアアレイ型、プレーナアレイ型、サーキュラーアレイ型、およびコンフォーマルアレイ型がある。

0006

このようなアレーアンテナの各アンテナ素子から得られる受信信号に基づけば、信号処理技術により、送信波を反射する物体の方位(到来方向)を推定することが可能になる。しかし、送信波を反射する物体の個数が複数であるとき、個々の物体で生じた反射波は異なる角度で受信アンテナに入射する。このため、受信アンテナからは、複数の到来波が重畳された複雑な信号が得られる。また、車載レーダシステムでは、受信アンテナに対する物体の配置関係および距離が動的に変化する。したがって、受信アンテナの受信信号に基づいて1または複数台の先行車両の各方位を正確に推定するためには、コンピュータを用いて膨大な演算高速に実行することが必要になる。

0007

到来方向を推定するため、アレーアンテナの受信信号を処理する各種のアルゴリズムが提案されている。公知の到来方向推定アルゴリズムには、以下の方法が含まれる(特許文献1及び2参照)。
(1)デジタルビームフォーマ(DBF: Digital Beam Former)法
(2)Capon法
(3)線形予測法
(4)最小ノルム法
(5)MUSIC(MUltiple SIgnal Classification)法
(6)ESRIT(Estimation of Signal Parameters via Rotational Invariance Techniques)法

0008

一般に、方向推定角度分解能が高いほど、信号処理に要する演算の量が増大する。上記の到来方向推定方法(1)〜(6)においては、方法(1)から方法(6)までの順序で角度分解能が高くなり、演算量が増加する。角度分解能が特に高いMUSIC法およびESPRIT法は、「超分解能アルゴリズム」とも呼ばれ、アレーアンテナの受信信号に対して演算量が多い処理を高速に行うことを必要とする。具体的には、超分解能アルゴリズムによると、各アレーアンテナの受信信号のデータから自己相関行列を作成する。そして、この自己相関行列の固有値展開(eigenvalue decomposition)により、受信波の到来方向が推定される。行列の固有値展開とは、行列を、固有値対角成分に持つ対角行列に分解することであり、「固有値分解」とも呼ばれる。自己相関行列の固有値展開を行うとき、自己相関行列の固有値および固有ベクトルが求められる(例えば特許文献3)。

0009

到来方向の推定精度は、自己相関行列のノイズ成分が除去されるほど向上する。エルゴード性からアンサンブル平均時間平均に等しいとすることができるため、受信データの時間平均を用いて自己相関行列が作成される。例えば、FMCWレーダでは、ビート信号データセット周波数領域のデータに変換できる、一定時間区間の時系列データ)のサンプル数、すなわちスナップショット数、をできる限り多くし、平均化した自己相関行列を使用することが好ましい。したがって、先行車両の位置が常に変化し得る状況で到来方向推定の精度を高めるには、高速なサンプリングを行う必要があり、サンプリングされたデータのメモリ容量も増大する。

0010

車載レーダシステムには、上記のアレーアンテナを用いる方式(アレーアンテナ方式)とは別に、独立した複数の電磁波ビームを形成する方式(「独立マルチビームアンテナ方式」と称する。)がある。

0011

上記のアレーアンテナが備える複数のアンテナ素子は、それぞれ、典型的には同一の指向性を有する。また、各アンテナ素子から得られる受信信号は相互に相関を有している。上述した各種の到来方向推定アルゴリズムは、アレー状に並んだ複数のアンテナ素子がそれぞれ生成する複数の受信信号の間に相関のあることを利用している。

0012

一方、独立マルチビームアンテナ方式では、複数の焦点を持つレンズまたは反射鏡によって複数の電磁波ビーム(以下、単に「電磁波」または「ビーム」と称する。)を、同時、または、それと実効的に等価な短い時間間隔で形成するマルチビームアンテナが使用され得る。ある特定の方位からマルチビームアンテナに入射した電磁波は、レンズまたは反射鏡の働きにより、複数の焦点のうちの対応する1つの焦点に集束される。電磁波がどの焦点に集束されるかは、マルチビームアンテナに入射する電磁波の方向に依存して決まる。複数の焦点の位置には、それぞれ、複数のアンテナ素子が配置されている。これらのアンテナ素子は「ビーム素子」とも呼ばれる。

0013

仮に、レンズおび反射鏡が存在しなければ、平面波に近似される電磁波が複数のアンテナ素子の全てに入射し、複数のアンテナ素子はそれぞれ受信信号を生成する。こうして生成される受信信号の間にはアンテナ素子の配置および電磁波の入射角度に依存して決まる位相差が存在する。

0014

しかしながら、レンズまたは反射鏡によって電磁波が集束されると、集束後の電磁波は、複数のアンテナ素子の一部、典型的には1つに入射する。どのアンテナ素子に入射するかは、電磁波の入射角度(ビームの方向)に依存する。

0015

このような独立マルチビームアンテナ方式では、複数のアンテナ素子が配列されている領域の広さに相当する「アンテナ開口面積」の全体を用いて各ビームを形成することができる。このため、アレーアンテナ方式と比べると、高い利得が得られる。また、独立マルチビームアンテナ方式では、送信波そのものがビーム状に絞られて高い指向性を有するため、マルチパスの影響を抑制する効果を期待することができる。

0016

特開2009−156582号公報
特開2006−275840号公報
特開2006−047282号公報
特開2005−295201号公報

先行技術

0017

山田喜、「高分解能到来波推定法の基礎と実際」、電子情報通信学会アンテナ・伝播研究専門委員会、2006年10月

発明が解決しようとする課題

0018

アレーアンテナ方式と比べると、独立マルチビームアンテナ方式では、各アンテナ素子から同時にまたはそれと実効的に等価な短い時間間隔で得られる入力信号の間で位相情報連続性が少ない。言い換えると、受信信号間に相関が低い。よって、従来の独立マルチビームアンテナ方式では、振幅モノパルス方式または重心計算ベル応答方式のような限られた到来波推定法のみが適用されていた。

0019

本開示の実施形態は、独立マルチビームアンテナ方式には適用できないと考えられていた到来方向推定アルゴリズムを適用し、物標の方位をより高い分解能で推定するレーダシステム技術を提供することができる。

課題を解決するための手段

0020

本開示の例示的なレーダシステムは、1個または複数個の到来波に応答して受信信号を出力する独立マルチビームアンテナと、学習済みニューラルネットワーク構築された信号処理回路とを備え、前記信号処理回路は、前記受信信号を受け取り、前記受信信号または前記受信信号から生成した二次信号を前記ニューラルネットワークへ入力し、前記受信信号または前記二次信号、および前記ニューラルネットワークの学習データを用いて演算を行い、前記ニューラルネットワークから、前記到来波の個数を示す信号を出力するように構成されている。

発明の効果

0021

本開示の例示的なレーダシステムによれば、独立マルチビームアンテナ方式を採用し、受信信号または前記受信信号から生成した二次信号を、学習済みのニューラルネットワークに入力して、到来波の個数を示す信号を得ることができる。ニューラルネットワークの演算に必要な演算処理量は、MUSICなどの超分解能アルゴリズムに必要な演算処理と比較すると、相対的に非常に少ない。またニューラルネットワークの学習を予め十分行っておくことで、到来波の個数の判定精度を高めることができる。

0022

ある態様では、上述の到来波の個数は、先行車両の配置を示す情報として取得される。

図面の簡単な説明

0023

図1は、本開示による車両の識別処理の手順を示すフローチャートである。
図2は、一般的な階層型ニューラルネットワーク構造モデルを示す図である。
図3は、例示的なガウス核関数波形概要を示す図である。
図4(a)〜(d)は、自車両5が第1車線を走行している際の先行車両(5−1)および/または(5−2)の走行状況と、教師信号T1とを示す図である。
図5(a)〜(d)は、自車両5が第2車線を走行している際の先行車両(5−1)および/または(5−2)の走行状況と、教師信号T2とを示す図である。
図6(a)〜(e)は、自車両5が3車線のうちの中央の車線を走行している際の先行車両(5−1)、(5−2)および/または(5−3)の走行状況と、教師信号T3とを示す図である。
図7は、学習処理の手順を示すフローチャートである。
図8は、先行車両の識別処理の手順を示すフローチャートである。
図9は、本開示による車両走行制御装置1の基本構成の一例を示すブロック図である。
図10は、送受信回路20の詳細なハードウェア構成を示す図である。
図11は、本開示の例示的な実施形態に係る独立マルチビームの指向性の一例を示すグラフの図である。
図12は、三角波生成回路21が生成した信号に基づいて変調された送信信号周波数変化を示す図である。
図13は、「上り」の期間におけるビート周波数fu、および「下り」の期間におけるビート周波数fdを示す図である。
図14は、信号処理回路30の詳細なハードウェア構成を示す図である。
図15は、到来波推定ユニットAUの方位検出回路37による最尤推定に基づく方位検出処理の詳細な手順を示すフローチャートである。
図16は、信号処理回路30の変形例による信号処理回路30aの詳細なハードウェア構成を示す図である。
図17は、車両走行制御装置1(図9)の変形例にかかる車両走行制御装置2の構成を示す図である。
図18は、車両走行制御装置1(図9)のさらなる変形例にかかる車両走行制御装置3の構成を示す図である。
図19は、レーダシステム100(図9)と、車載カメラシステム500とを備える車両走行制御装置4の構成を示す図である。
図20は、車両走行制御装置1(図19)の処理手順を示すフローチャートである。
異なる2つの方法によって波数の情報をそれぞれ取得し、それらが一致する場合に方位(角度)を算出する処理の手順を示すフローチャートである。

実施例

0024

用語説明
「独立マルチビームアンテナ」は、一般に、方向が相互に異なる独立した複数のビームを送信し、受信することが可能なアンテナである。

0025

独立マルチビームアンテナの典型例は、複数の焦点を有するレンズまたは反射鏡と、複数の焦点の位置にそれぞれ置かれた複数のアンテナ素子(複数のビーム素子)とを備える。この例の独立マルチビームアンテナは、相互に異なる方向に複数のビームを同時に放射したり、「同時」に準ずる「充分に短い時間」内において、順次、異なる方向に1個または複数のビームを放射したりすることができる。

0026

ここで、「同時」に準ずる「充分に短い時間」とは、時間に依存して変化し得る「アンテナに対する物標の相対位置」の変化が無視できる程度に短い時間を意味する。「同時」に準ずる「充分に短い時間」は、独立マルチビームアンテナが搭載されるレーダシステムの分解能(距離分解能および/または方位分解能)に応じて定めることができる。物標の移動量が、レーダの距離分解能および/または方位分解能以下に収まるとき、その移動に要する時間は「充分に短い時間」である。

0027

たとえば、76GHz帯を利用するレーダシステムでは、25ミリ秒以下を「充分に短い時間」とすることができる。その根拠は以下のとおりである。76GHzレーダシステムの距離分解能は、およそ0.7mである。いま、自車と物標(他の自動車)との間で想定される最大の相対速度を100km/h(約27.8m/s)とする。すると、距離分解能に相当する移動時間は、約25ミリ秒である。同様に、レーダシステムの方位分解能を1度とする。距離一定で前方40mを100km/hで横切る自動車が1度分移動するのに要する時間も、やはり25ミリ秒である。よって、76GHz帯を利用するレーダシステムでは、25ミリ秒以下を、「充分に短い時間」とし得る。

0028

独立マルチビームアンテナの第2の例は、1個または複数のアンテナ素子と、少なくとも1個のアンテナ素子の位置および/または指向方向機械的に切り替え機構とを備える。この例の独立マルチビームアンテナは、同時に準ずる充分に短い時間内において、ビームの指向方向を機械的に切り替えることにより、相互に方向が異なる複数のビームを順次形成することができる。

0029

独立マルチビームアンテナの第3の例は、複数の部分アレーアンテナを備える。部分アレーアンテナごとにビームの放射方向を変えることにより、異なる方向に複数のビームを同時に放射したり、同時に準ずる充分に短い時間内において、順次、異なる方向に1個または複数のビームを放射したりすることができる。各部分アレーアンテナはアレー状に配置された数個のアンテナ素子を有しており、これら数個のアンテナ素子を利用してある特定方向へのビームを放射する。各アンテナ素子は、いずれか1つの部分アレーアンテナの構成要素であってもよいし、2つまたはそれ以上の部分アレーアンテナの構成要素であってもよい。各「部分アレーアンテナ」は、上述の「ビーム素子」に対応する。

0030

独立マルチビームアンテナの第4の例は、複数のアンテナ素子と、各アンテナ素子に対応して設けられたデジタル移相器とを有する。各デジタル移相器によって給電位相を制御することにより、任意の指向性を有するビームを形成することが可能である。各デジタル移相器は、予め定められた移相制御電圧に対応した移相量だけ、送信する電磁波の位相を変化させるよう構成されている。

0031

この例による独立マルチビームアンテナは、デジタル移相器によって給電位相を離散的(段階的)に制御する。これにより、ある角度範囲でビームの放射角度および受信角度を、その段階に応じた角度(最小ステップ角)ごとに順次変化させる。これにより、その角度範囲を電磁波で走査することが可能である。デジタル移相器は、例えばGaAsMMIC(Monolithic Microwave IntegratedCircuit)であるマイクロ波シグナルプロセッサを用いて実現し得る。

0032

上述のとおり、独立マルチビームアンテナは、方向が相互に異なる独立した複数のビームを放射する機能を有し得る。以下の説明においても、「独立マルチビームアンテナ」は受信および送信の機能を有するとして説明する。

0033

独立マルチビームアンテナを用いてビームの送信および受信の両方を行うと、トンネル内など多数回反射(マルチパス)が起きやすい環境下では有用である。その理由は、ビーム間独立性がより高く、ビームの送信および受信を特定の方向に限定できるからである。

0034

ただし、本願発明にかかる例示的な実施の形態では、少なくとも、方向が相互に異なる独立した複数のビームを受信する機能を備えていればよく、複数のビームを放射する機能は必須ではない。たとえば、指向性の低い電磁波、換言すれば広角指向性を有するビームを放射するアンテナを別途設け、そのアンテナからビームを放射させ、独立マルチビームアンテナにおいてそのビームの反射波を含む複数のビームを受信させてもよい。その場合には、独立マルチビームアンテナはビームを受信する機能のみを有していればよく、ビームの受信に関して指向性を有することになる。

0035

ビーム送信用のアンテナと、独立マルチビームアンテナとを別個に設け、環境に応じてビームの送信を行うアンテナを切り替えてもよい。たとえば、マルチパスが起きやすいトンネル等においては独立マルチビームアンテナを用いてビームを送受信させる。一方、マルチパスが起きにくい、トンネル等以外の環境ではビーム送信用のアンテナを用いてビームを送信させる。

0036

独立マルチビームアンテナの場合、複数のビーム素子の各々における受信信号は、原則としてビームの方向に応じて異なる。より具体的には、ある方位角から到来するビームの受信信号は、所定以上異なる方位角から到来する他のビームの受信信号から独立しており、これらの受信信号の間に実質的な相関はない。ここでいう「相関はない」とは、複数のビームのサイドローブ感度まで含めて相関がないことを意味する。

0037

一方、たとえば隣接する2つのビーム素子において、ある方位角から到来するビームの受信信号同士には相関は存在し得る。サイドローブの感度まで含めると、隣接する2つのビーム素子は、同時にその受信信号を検出し得るからである。

0038

本願において「独立マルチビームアンテナ」を用いる方式は、一般的には「マルチビームアンテナ方式」と呼ばれることがあるが、以下では「独立マルチビームアンテナ」と表記することとする。

0039

「車両」は、走行のための駆動力を発するエンジンおよび/または電気モータを備え、道路上を走行する乗り物(Vehicle)である。車両は、4輪自動車、3輪自動車、および鞍乗り型モータサイクルを含む。車両の走行の一部または全部が自動制御によって実行されても良いし、無人で走行するように構成されていても良い。

0040

「受信信号」は、各アンテナ素子からの出力信号アナログデジタル両方を含む)である。

0041

「二次信号」は、受信信号を処理して得られる信号を意味する。二次信号の例は、ビート信号、相関係数非対角成分を含む信号、および、解析信号(analythic
signal)を含む。ここで「解析信号」とは、受信信号(実数成分)と、受信信号の直交信号(虚数成分)との和で表される複素信号である。受信信号の直交信号は、例えばヒルベルト変換によって受信信号から生成され得る。

0042

「学習データ」は、ニューラルネットワークの各ノードへの各入力に適用される重みの値である。

0043

「到来波」は、物標(波源または信号源)からアンテナに到来する電磁波である。アンテナが自車両の前面に搭載されているとき、到来波の波源として機能する物標の典型例は先行車両である。アンテナが自車両の後面に搭載されているときは、物標の典型例は後続車両である。

0044

<本願発明者の知見>
自動車の衝突防止システム自動運転などの安全技術には、特に自車両から同じ距離だけ離れた位置を並んで走行する(併走する)複数の車両(物標)の識別が不可欠である。本明細書で「同じ距離」とは、完全に同一の距離のみならず、レーダシステムの距離に関する分解能以下の差を有する場合も含む。そのような場合、車両の識別には、到来波の方向を推定することが不可欠であると考えられてきた。

0045

到来波の方向推定技術を車載用レーダシステムに適用する場合には、より高速なレスポンスを実現することが好ましい。その理由は、道路では、自車両の位置および速度、ならびに先行車両の位置および速度が刻々変化するため、それらを正確かつ高速に認識することが必要とされるからである。また、車両の衝突防止衝突被害軽減レーンキーピングアシストを行うため、画像センサおよび他のレーダを用いて周囲の情報を取得し、種々の信号処理を行うことが必要になりつつある。このような各種の信号処理を行うことを目的として、際限なく処理能力の高いプロセッサを搭載することはできない。また、高性能のプロセッサを採用しても、十分と言える程度の高速なレスポンスを得ることは必ずしもできない。このため、到来方向推定アルゴリズムにおける演算量を削減することが種々検討されている。

0046

車載レーダシステムに広く利用されている従来のアレーアンテナ方式では、アンテナ素子の間隔およびアレーウエイトの変更によるアンテナ特性の調整が容易であり、利用可能な到来方向推定法選択肢も多い。しかしながら、車載用アレーアンテナとして一般に想定されるアンテナ開口面積では、小さな利得しか得られない。また、アレーアンテナ方式は必要な視野角に相当する指向性を有するため、マルチパスの影響を受けやすく、物標のゴーストを引き起こし得る。

0047

一方、独立マルチビームアンテナ方式では、利得が大きく、マルチパスの影響も受けにくい。しかしながら、独立マルチビームアンテナ方式では、従来のアレーアンテナ方式と比べて、アンテナの出力信号間に相関が低い。よって、自己相関行列を利用する高分解能アルゴリズムを利用することは行われず、振幅モノパルス方式などの、分解能が相対的に低い到来方向推定アルゴリズムが用いられていた。

0048

このような問題を解決するため、特許文献4は、独立したマルチビームの受信信号を空間的にフーリエ変換することにより、仮想のアレーアンテナの信号を生成することを開示している。仮想のアレーアンテナ信号に対して、MUSIC法を適用すれば、アレーアンテナ方式に使用される到来方向推定が可能になる。しかし、仮想アレーアンテナ信号の生成には膨大な計算量が必要である。

0049

本開示のレーダシステムのある実施形態は、独立マルチビームアンテナ方式のレーダシステムにおいて、より小さい計算負荷で到来波の到来方向推定を可能にする。

0050

<本開示にかかる原理の説明>
以下、実施の形態の説明に先立って、本願発明者らによって得られた知見の基本原理を説明する。

0051

本願発明者らは、独立マルチビームアンテナ方式で得た各アンテナ素子の信号に空間平均処理を行っても、十分に意味のある信号を抽出することは困難である、という知見を得た。その理由は、各アンテナ素子の位相応答が一致しないためであると推測される。換言すれば、従来の独立マルチビームアンテナ方式では、ほぼ同時に受信したビーム内コヒーレント性の高い到来波を分離識別することが困難であったからであると推測される。

0052

本願発明者らが検討を進めた結果、独立マルチビームアンテナ方式を利用してコヒーレント性の高い到来波を受信した場合であっても、たとえばSAGE法のような最尤推定法を用いれば、それらの到来方位を推定できることが分かった。

0053

最尤推定法を適用するためには、その計算原理上、到来波の個数の情報が予め必要である。到来波の個数を求めるために、従来のアレーアンテナ方式であれば、受信信号に基づく自己相関行列の固有値展開を行えばよかった。独立マルチビームアンテナ方式に関しては、その到来波の個数の情報を得るための、さらに他の適用可能な新たな到来方位の推定方法が必要とされていた。

0054

本願発明者らは、最尤推定法の適用に必要となる到来波の個数の推定を、ニューラルネットワークを用いて行うことに想到した。各アンテナ素子に到来する受信信号のパターンと到来波の方向との組み合わせを学習するため、到来波間の相関の有無は問題にはならない。そして、予め学習を済ませたニューラルネットワークを用いた演算の演算量は、たとえば自己相関行列の固有値展開の演算量よりもはるかに少ないため、演算負荷は非常に小さい。または、演算量は比較的多くなるものの、ニューラルネットワークと自己相関行列の固有値展開演算とを組み合わせて波数の推定精度を高めることも可能である。

0055

本明細書では、マルチビームレーダによって得られた受信信号と予め学習させたニューラルネットワークとを利用して到来波の個数を示す信号を生成し、推定した到来波数を最尤推定法に適用することとした。これにより、仮想アレーアンテナ信号を生成する必要のない、高分解の到来方向推定アルゴリズムが利用可能になる。

0056

学習処理が一度行われると、その後、識別処理を行うことが可能となる。本開示の車載用のレーダシステムでは、典型的には、学習処理はレーダシステムの実装前に行われ、識別処理は、車両に搭載されたプロセッサに代表される信号処理回路によってドライバによる運転時に行われ得る。

0057

ニューラルネットワークを利用する利点の一つは、高分解能アルゴリズムを用いて到来波の到来方向を推定し、それによって先行車両の数および配置を検出する処理と比較すると、識別処理に要する計算資源を大幅に低減できることにある。以下では、まず図1を参照しながらニューラルネットワークを用いた先行車両の識別処理を説明し、その後、識別処理に関する各ステップの説明とともに、学習処理の内容を説明する。

0058

図1は、本開示による車両の識別処理の手順を示す。図1の各処理は、信号処理回路が実行する。

0059

まず、ステップS1において、信号処理回路は、M個のアンテナ素子(M:3以上の整数。以下同じ。)の独立マルチビームアンテナMAが取得した受信信号に前処理を行い、入力ベクトルbを生成する。入力ベクトルbの内容は後述する。

0060

ステップS2において、信号処理回路は、入力ベクトルbを学習済みのニューラルネットワークに入力する。

0061

ステップS3において、信号処理回路は、ニューラルネットワークの出力Yから、車線ごとの車両の有無を判断する。車両の有無は、到来波を生み出す波源の数、つまり波数Zの有無として捉えることができる。信号処理回路は、ニューラルネットワークの出力Yを利用して波数Zを検出し、出力する。

0062

ステップS4において、信号処理回路は、波数Zの情報を用いて最尤推定法を適用し、到来波の到来方向を推定する。

0063

以下、ステップS1〜S4の各々を説明する。

0064

ステップS1において、信号処理回路は、M個のアンテナ素子の独立マルチビームアンテナMAが取得した各受信信号と、対応する各送信信号とを利用して、ビート信号を生成する。このビート信号は、入力ベクトルbとして次のステップS2におけるニューラルネットワークに入力される。

0065

独立マルチビームアンテナMAが受信した信号は、M個の要素を持つ「ベクトル」として、数1のように表現できる。
(数1)
S=[s1,s2,…,sM]T
ここで、sm(m:1〜Mの整数;以下同じ。)は、m番目のアンテナ素子が受信した信号の値である。上つきのTは転置を意味する。Sは列ベクトルである。

0066

上述の受信信号は、下記数2の送信信号Yに由来する反射波であるとする。
(数2)
Y=[y1,y2,…,yM]T
ym(m:1〜Mの整数;以下同じ。)は、受信信号smに対応する送信信号である。ただし、受信信号は、ノイズ成分を含み得る。

0067

信号処理回路は、少なくとも上述の受信信号Sに基づいてベクトルb0を生成する。たとえば、ベクトルb0は数1に示す受信信号そのものであってもよい。この場合には、下記数3が成り立つ。
(数3)
b0=S

0068

または、ベクトルb0は、上述の受信信号Sおよび送信信号Yに基づいて得られるビート信号であってもよい。ビート信号を用いる例の詳細は、後に図10図13を参照しながら説明する。

0069

信号処理回路は、上記ベクトルb0を単位ベクトル化規格化)し、ニューラルネットワークへ入力されるベクトルbとして求める。

0070

0071

右辺分母(||b0||)は、ベクトルb0のノルムを表す。

0072

数4のような規格化を行う理由は、ニューラルネットワークへの入力が過大になることを防ぐためである。ただし、規格化は必須ではない。上述のベクトルb0および/またはbは、本明細書において、受信信号から生成した二次信号、と記述することもある。

0073

次に、図1のステップS2において用いられるニューラルネットワークを詳細に説明する。

0074

図2は、一般的な階層型ニューラルネットワークの構造モデルを示す。本明細書では、階層型ニューラルネットワークの一例であるRBF(Radial Basis Function:放射基底関数)ニューラルネットワークを用いて説明するが、他の階層型ニューラルネットワーク、または非階層型のニューラルネットワークを利用してもよい。

0075

図2に示されるように、RBFニューラルネットワークは、入力信号xi(i:1〜Iの整数)を受け付けるノード1〜Iの入力層xiと、ノード1〜Jの中間層φj(j:1〜Jの整数)と、ノード1〜Kの出力層yk(k:1〜Kの整数)とを有する。

0076

RBFネットワークの出力yk(x)は数5のように表される。

0077

0078

数5において、Jは中間層のニューロン数、wkjは中間層のj番目のニューロンと出力層k番目ニューロン間の重み、cjは中間層のj番目のニューロンの中心ベクトル、xは入力ベクトルである。また、φjは数6に示すガウス型核関数である。

0079

0080

数6において、σjは、中間層のj番目のニューロンの中心ベクトルの幅を示すパラメータである。

0081

図3は、数6に示すガウス型核関数の波形の概要を示す。横軸は入力、縦軸は出力である。図3から理解されるように、中間層の各ニューロンは、入力ベクトルがRBFの中心ベクトルに近い場合にのみ大きな反応を示す。すなわち、各中間層は特定の入力に対してのみ反応する。

0082

RBFニューラルネットワークは、入力層xiに与えられるパターンと、出力層ykから出力されるパターン(教師信号)との関係を学習させることができる。

0083

本願発明者らは、レーダシステムを用いて、自車両の前方を走行する1台または複数台の先行車両の数および配置を認識する際に、RBFニューラルネットワークを利用する態様を想定した。

0084

RBFニューラルネットワークを学習させる際に、RBFニューラルネットワークの入力層xiに与えられるパターンは、受信信号から得られた数4に記載のベクトルbである。一方、教師信号として、そのベクトルbが得られた時の1台または複数台の先行車両の数および配置を特定する信号(ベクトル表記)が与えられる。その対応付けの学習を繰り返すことにより、あるパターンが入力層xiに与えられたときに出力される信号は、学習結果を反映した、1台または複数台の先行車両の数および配置を精度よく特定する信号となる。

0085

以下、RBFニューラルネットワークの学習方法を具体的に説明する。

0086

本願発明者らは、本開示によるレーダシステムを搭載した自車両の走行状況を以下のように想定した。
(A)自車両が、同一方向の隣接する2車線(第1および第2車線)のうちの第1車線を走行している。
(B)自車両が、同一方向の隣接する2車線(第1および第2車線)のうちの第2車線を走行している。
(C)自車両が、同一方向の連続する3車線(第1〜第3車線)のうち、第2車線(中央車線)を走行している。

0087

図4(a)〜(d)は、自車両5が第1車線を走行している際の先行車両(5−1)および/または(5−2)の走行状況と、教師信号T1とを示す。図4は、上記(A)に対応する。なお、本明細書では、図面の上方向から下方向に向かって、第1車線、第2車線と呼ぶ。

0088

図5(a)〜(d)は、自車両5が第2車線を走行している際の先行車両(5−1)および/または(5−2)の走行状況と、教師信号T2とを示す。図5は、上記(B)に対応する。

0089

図6(a)〜(e)は、自車両5が3車線のうちの中央の車線を走行している際の先行車両(5−1)、(5−2)および/または(5−3)の走行状況と、教師信号T3とを示す。図6は上記(C)に対応する。

0090

本明細書では、図4および図5の各(d)に関しては、レーダシステムを利用して先行車両を検出するパターンからは便宜的に除外する。以下では、図4および図5の各(a)〜(c)の3つのパターンを説明する。

0091

また、図6(a)〜(e)に関しては、全ての走行状況を網羅していないことに留意されたい。実際には全部で8パターンの走行状況が存在する。具体的には、図6(e)の第3車線を走行する1つの物標が、第2車線を走行しているパターン、および第1車線を走行しているパターン、物標が存在しないパターンが省略されている。図6に関しても、先行車両が存在しないパターンは、レーダシステムを利用して物標を検出するパターンからは便宜的に除外する。

0092

上記(C)および図6に関連して、自車両が、同一方向の連続する3車線の第1車線および第3車線を走行している場合を想定しなくてもよい理由は、レーダシステムは車線変更時隣接車線他車を認識できればよい、という動作条件を考慮したからである。自車両が第1車線から第2車線へ移ろうとするとき、第1車線および第2車線の車両を識別できればよい。その場合には上記(A)または(B)の状況であるとみなすことが可能である。自車両が第3車線から第1車線へ移ろうとするときも全く同様である。

0093

図7は、学習処理の手順を示すフローチャートである。学習処理により、3種類のニューラルネットワークを構築する。具体的には、同一方向の2車線のうちの第1車線に自車両が存在するとき(図4)のニューラルネットワーク、同一方向の2車線のうちの第2車線に自車両が存在するとき(図5)のニューラルネットワーク、および同一方向の3車線のうちの第2車線に自車両が存在するとき(図6)のニューラルネットワークである。

0094

学習処理は、図4の例では、(a)〜(c)に示す3パターンから1つのニューラルネットワークを構築する。図5の例では、(a)〜(c)に示す3パターンから1つのニューラルネットワークを構築する。図6の例では、(a)〜(e)を含む7パターンから1つのニューラルネットワークを構築する。さらに、学習処理は、各パターンについて条件を変えながら少なくとも約80回行われる。条件とは自車両と先行車両との車間距離である。具体的には、学習処理は、車間距離を20mから100mまで1mごとに設定して都度電波を放射し、受信した反射波から得られたアレー受信信号を用いて、車間距離ごとの入力ベクトルb(数4)を生成する。この入力ベクトルbと、図4図5および図6に示すパターン毎の教師信号とを精度よく対応付けるような重みが、求めるべき学習結果である。

0095

以下、図7を説明する。図7に示される処理は、図4〜6のそれぞれの状況下で行われる。なお、図7の各処理は、信号処理回路によって実行される。この信号処理回路は、例えば車載用のレーダシステムを製造するメーカが所有する機器に実装されたCPUである。

0096

ステップS10において、信号処理回路は、RBFニューラルネットワークに重みの初期値を設定する。

0097

ステップS11において、信号処理回路は、学習の対象となるパターンを設定する。

0098

ステップS12において、信号処理回路は、パターンに応じた教師信号を設定する。

0099

ステップS13において、信号処理回路は、車間距離を設定する。初期値は20mである。

0100

ステップS14において、各受信素子において受信信号を検出する。

0101

ステップS15において、信号処理回路は、得られた各受信信号を用いて列ベクトルb0(たとえば数3)を生成する。

0102

ステップS16において、信号処理回路は、列ベクトルb0を規格化して列ベクトルb(数4)を求める。

0103

ステップS17において、信号処理回路は、数5および数6を利用した演算(順方向演算)を行う。

0104

ステップS18において、信号処理回路は、求められた結果と目標である教師信号との平均二重誤差を求め、平均二重誤差が最も小さくなるよう、重みを修正する演算(逆方向演算)を行う。修正された重みは以後の学習に利用される。

0105

ステップS19において、信号処理回路は、全ての車間距離において学習が終了したかどうかを判定する。終了していると判定したとき、処理はステップS20に進み、終了していないと判定したとき、処理はステップS13に戻る。ステップS13に戻った際に、1m離れた車間距離が設定される。

0106

ステップS20において、信号処理回路は、全てのパターンにおいて学習が終了したかどうかを判定する。終了していると判定したとき、処理はステップS21に進み、終了していないと判定したとき、処理はステップS11に戻る。ステップS11に戻った際に、他のパターンが設定される。

0107

ステップS21において、信号処理回路は、得られた重みを学習の結果(学習データ)として抽出する。

0108

以上で、学習処理は終了する。

0109

上述のステップS14〜S16は、予め行われていてもよい。車間距離を変えながら受信信号を連続的に取得してその情報を保存しておき、上述の列ベクトルの生成を別途行っておくことは可能である。

0110

上述の説明では、2車線の例である図4および図5と、3車線の例である図6とを分けて説明したが、これは一例である。3車線のパターンに代えて、2車線のパターンを組み合わせてもよい。例えば図6(a)のパターンは、図4(a)および図5(a)の2つのパターンの組み合わせで実現され得る。図6(b)のパターンは、図4(a)および図5(c)の2つのパターンの組み合わせで実現され得る。また、図6(c)のパターンは、図4(c)および図5(b)の2つのパターンの組み合わせで実現され得る。図6(d)のパターンは、図4(b)および図5(a)の2つのパターンの組み合わせで実現され得る。図6(e)のパターンは、図4(c)および図5(d)のパターンとの組み合わせで実現され得る。なお、図4(d)および図5(d)のパターンの認識は、たとえば後述のようなカメラを用いた画像認識処理によって実現され得る。

0111

図6に示されていない他のパターンも、2車線のパターンを組み合わせて特定することができる。このような変形例を採用すれば、学習処理は図4および図5に示す、2車線を対象とすればよくなる。

0112

図8は、先行車両の識別処理の手順を示すフローチャートである。この処理は、図7に示す学習処理が行われた後、得られた学習データを用いて実行される。なお図8の各処理もまた、信号処理回路によって実行される。ただし、この信号処理回路は図7の処理を実行した信号処理回路と同じである必要はない。図8の各処理を実行する信号処理回路は、例えば車両に搭載されたレーダシステムの電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)に含まれ得る。

0113

図8には、図7と同じ処理であるステップS14〜S17が含まれている。これらについては同じステップ番号を付し、その説明は省略することがある。

0114

ステップS30において、信号処理回路は、RBFニューラルネットワークに、学習処理によって得られた重み(学習データ)を設定する。

0115

ステップS31において、信号処理回路は、自車両が走行している同一方向の道路の車線総数と、自車両の現在の車線位置とを設定する。本明細書では、車線総数は2または3であるとしている。また、自車両の現在の車線位置は、同一方向に2車線が存在する場合には第1車線または第2車線であり、同一方向に3車線が存在する場合には、第1車線、第2車線または第3車線である。3車線の例では、自社の車両が第1車線または第3車線に位置する場合には車線総数が2の例とみなして取り扱えばよい。

0116

続いて、ステップS14において、信号処理回路は、受信信号を検出する。このとき、自車両と先行車両との車間距離は特定されている必要はないが、学習が行われた20mから100mの範囲内であることが好ましい。その後、ステップS15〜S17が順次行われる。

0117

ステップS32において、信号処理回路は、ステップS17において行われた演算結果Tを出力する。演算結果Tの出力例は以下のとおりである。
(a)T=[1 0]T
(b)T=[0 1]T
(c)T=[1 1]T

0118

左辺の演算結果Tは、車線毎前方車両の有無を示している。2車線においては、列ベクトルの1行目は第1車線の先行車両の有無を示し、列ベクトルの2行目は第2車線の先行車両の有無を示す。例えば上記(b)の出力結果Tは、第1車線には先行車両が存在しないが、第2車線には先行車両が存在することを示している。

0119

上述の図7および図8のステップS14では、受信信号からベクトルb0を求めている。上述したように、ビート信号をベクトルb0として用いてもよい。

0120

上述の先行車両の配置を示すベクトルTは、反射波の波源とみなすことができる。そして、反射波の波源の数、すなわち波数Zは、上述のベクトルTの成分の和の値として得ることができる。具体的には、上記(a)、(b)、(c)の例では、波数Zは、それぞれ1、1、2である。

0121

以上、本開示にかかる波数を求める原理を説明した。

0122

この波数Zの情報を最尤推定の演算に利用することにより、仮想アレーアンテナ信号を生成することなく、高分解の到来方向推定アルゴリズムを用いて到来方向を推定することが可能になる。

0123

物標ごとに到来方向を推定する場合、物標までの距離によっては非常に高い推定精度が要求され得る。例えば、100m程度前方で複数台の車両が併走する状況下では、各車両で反射された反射波(自車両への到来波)の方向を識別するためには、約1度またはそれ未満の角度分解能が必要である(各先行車両の波源の位置の間隔は2mとした)。このような角度分解能を従来技術によって実現するには、膨大な演算を伴う高分解能到来方向推定アルゴルリズムを実行することが必要になる。

0124

しかし、本願発明者らによる、ニューラルネットワークを用いた先行車両の台数判別技術によれば、上記状況下に対応する学習を予めさせておくことにより、簡単な演算で、何台の先行車両が存在しているのか、および各先行車両がどの車線を走行しているのかを、直接求めることが可能になる。

0125

上述の説明では実数型ニューラルネットワーク(RBFニューラルネットワーク)を挙げて説明したが、複素ニューラルネットワークを利用してもよい。複素ニューラルネットワークは、実数型ニューラルネットワークの入出力信号や重みを複素数拡張したニューラルネットワークとして知られている。そのため、中間層ノードの出力を決める活性化関数複素関数になる。

0126

複素ニューラルネットワークを利用する場合には、各アンテナ素子の受信信号Im(t)から、その実信号に複素平面上で直交する直交信号Qm(t)が求められる。そして、Im(t)+jQm(t)をそれぞれ複素ニューラルネットワークへの入力として用いる。上述の受信信号Im(t)は先のsmに対応する。直交信号Q(t)は、たとえば、各アンテナ素子の受信信号をヒルベルト変換することによって得られる。なお、受信信号Im(t)のヒルベルト変換を行う際には周知のヒルベルト変換器を用いればよい。複素ニューラルネットワークの学習、および学習後認識処理は、重みや活性化関数が相違する以外は、後述する図7および図8の処理と同様に信号処理回路によって行われ得る。複素ニューラルネットワークにおいて用いられる活性化関数の具体例は省略する。

0127

<実施形態>
以下、適宜図面を参照しながら、本開示による実施の形態を詳細に説明する。ただし、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。本願発明者らは、当業者が本開示を十分に理解するために添付図面および以下の説明を提供する。これらによって特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。

0128

まず、図9を参照する。図9は、本開示による車両走行制御装置1の基本構成の一例を示すブロック図である。図9に示される車両走行制御装置1は、車両に実装されたレーダシステム100と、レーダシステム100に接続された走行支援電子制御装置60とを備えている。レーダシステム100は、各々が1個または複数個の到来波に応答して受信信号を出力する複数のアンテナ素子を有する独立マルチビームアンテナMAと、物体検知装置400とを有している。物体検知装置400は、送受信回路20と、レーダ信号処理装置300とを有している。

0129

独立マルチビームアンテナMAは、例えば、誘電体レンズまたは反射鏡と、複数のアンテナ素子とを含み得る。図9に示される例において、独立マルチビームアンテナMAは、複数の焦点を有する誘電体レンズ1aと、複数の焦点の位置にそれぞれ配置された複数のアンテナ素子(ビーム素子)1bとを備えている。複数の焦点は、焦点面上に離散的に位置している。この例において、各ビーム素子から放射された電磁波は、誘電体レンズ1aの働きにより、ビーム状に指向性を持ち、相互に異なる方向に空間を伝播する。これらのビームの一部は物標で反射され、到来波として独立マルチビームアンテナMAに戻ってくる。誘電体レンズ1aに入射した到来波は、誘電体レンズ1aの働きにより、誘電体レンズ1aの焦点面上に集束される。焦点面上のどの位置に集束するかは、独立マルチビームアンテナMAに対する入射角度に依存する。なお、本実施形態では、独立マルチビームアンテナMAは誘電体レンズ1aを備えるとしたが、誘電体レンズ以外のレンズであってもよい。

0130

車載用のレーダシステム100のうち、独立マルチビームアンテナMAおよび送受信回路20は車両に取り付けられる必要があるが、レーダ信号処理装置300の少なくとも一部の機能は、車両走行制御装置1の外部(例えば自車両の外)に設けられたコンピュータ82およびデータベース84によって実現されてもよい。その場合、レーダ信号処理装置300のうちで車両内に位置する部分は、車両が備える通信デバイス80、および一般の通信ネットワークを介して、車両の外部に設けられたコンピュータ82およびデータベース84に、信号またはデータの双方向通信が行えるように、常時または随時に接続され得る。

0131

データベース84は、ニューラルネットワークのための学習データおよび各種の信号処理アルゴリズムを規定するプログラムを格納していても良い。レーダシステム100の動作に必要なデータおよびプログラムの内容は、通信デバイス80を介して外部から更新され得る。このように、レーダシステム100の少なくとも一部の機能は、クラウドコンピューティングの技術により、自車両の外部(他の車両の内部を含む)において実現し得る。したがって、本開示における「車載」のレーダシステムは、構成要素のすべてが車両に搭載されていることを必要としない。ただし、本願では、簡単のため、特に断らない限り、本開示の構成要素のすべてが1台の車両(自車両)に搭載されている形態を説明する。

0132

レーダ信号処理装置300は、学習済みのニューラルネットワークNNが構築された信号処理回路30を有している。ニューラルネットワークNNの構成および動作は、前述した通りである。この信号処理回路30は、送受信回路20から受信信号を受け取り、受信信号、または受信信号から生成した二次信号(たとえばビート信号)をニューラルネットワークNNへ入力する。受信信号から二次信号を生成する回路(不図示)の一部または全部は、たとえば送受信回路20に設けられていてもよいし、レーダ信号処理装置300または信号処理回路30に設けられていてもよい。

0133

信号処理回路30は、受信信号または二次信号、およびニューラルネットワークNNの学習データを用いて演算を行い、到来波の個数(波数Z)を示す信号を出力するように構成されている。ここで、「到来波の個数(波数Z)を示す信号」は、典型的には、前述した「車両の配置」を示す信号である。「到来波の個数を示す信号」は、自車両の前方を走行する1または複数の併走する先行車両の数を示す信号ということもできる。

0134

この信号処理回路30は、公知のレーダ信号処理装置が実行する各種の信号処理を実行するように構成されていても良い。信号処理回路30は、後述する「超分解能アルゴリズム」(スーパーレゾリューション法)を実行するように構成され得る。

0135

図9に示す例においては、ニューラルネットワークNNとは別に到来波推定ユニットAUが信号処理回路30内に設けられている。この到来波推定ユニットAUは、後に詳しく説明する到来方向推定アルゴリズムにより、到来波の方位を示す角度を推定し、推定結果を示す信号を出力するように構成されている。この信号処理回路30は、到来波推定ユニットAUが実行する公知のアルゴリズムにより、到来波の波源である物標までの距離、物標の相対速度、物標の方位を推定し、推定結果を示す信号を出力するように構成され得る。

0136

本開示における「信号処理回路」の用語は、単一の回路に限られず、複数の回路の組み合わせを概念的に一つの機能部品として捉えた態様も含む。信号処理回路は、1個または複数のシステムオンチップ(SoC)によって実現されても良い。例えば、信号処理回路30の一部または全部がプログラマブルロジックデバイスPLD)であるFPGA(Field−Programmable Gate Array)であってもよい。その場合、信号処理回路30は、複数の演算素子(例えば汎用ロジックおよびマルチプライヤ)および複数のメモリ素子(例えばルックアップテーブルまたはメモリブロック)を含む。または、信号処理回路30は、汎用プロセッサおよびメインメモリ装置集合であってもよい。信号処理回路30は、プロセッサコアとメモリとを含む回路であってもよい。これらは本開示における信号処理回路として機能し得る。特にニューラルネットワークNNは、並列処理に優れた車載コンピュータ出現により、本開示のアルゴリズムを実行するソフトウェアを、汎用的なハードウェアに組み合わせることによって容易に実現され得る。

0137

本明細書では、信号処理回路は、記憶素子を有するかどうかを問わず、与えられた信号をニューラルネットワークへの入力として与え、記憶素子に記憶された学習データを適用して演算を行い、結果を出力することが可能であればよい。このような動作を行うことが可能な信号処理回路を、「学習済みのニューラルネットワークが構築された信号処理回路」と呼ぶこともある。

0138

走行支援電子制御装置60は、レーダ信号処理装置300から出力される各種の信号に基づいて車両の走行支援を行うように構成されている。走行支援電子制御装置60は、以下の機能を発揮するように各種の電子制御ユニットに指示を行う。これらの機能とは、例として、先行車両までの距離(車間距離)が予め設定された値よりも短くなったときに警報を発してドライバにブレーキ操作を促す機能、ブレーキを制御する機能、アクセルを制御する機能を含む。例えば、自車両のアダプティブクルーズコントロール(以下、「ACC」と記述することもある。)を行う動作モードのとき、走行支援電子制御装置60は、各種の電子制御ユニット(不図示)およびアクチュエータに所定の信号を送り、自車両から先行車両までの距離を予め設定された値に維持したり、自車両の走行速度を予め設定された値に維持したりする。

0139

走行支援電子制御装置60において行われる制御の内容に応じて、信号処理回路30を動作させることが必要とされ得る。例えば信号処理回路30は、ニューラルネットワークNNおよび到来波推定ユニットAUを、走行制御条件に応じて一方だけ利用してもよいし、相互に切り替えてもよいし、順次利用して動作させてもよい。その結果、信号処理回路30は、1または複数の併走する先行車両の配置のパターン、または、推定された、到来波の方位を示す角度の情報を、走行支援電子制御装置60へ出力する。

0140

信号処理回路30は、1または複数の併走する先行車両の配置のパターンを示す信号のみを出力する動作モードを備えていてもよい。この動作モードのとき、ニューラルネットワークNNが利用され、到来波推定ユニットAUは動作しない。

0141

ニューラルネットワークNNによって先行車両の配置がわかれば、先行車両の個数、すなわち到来波の個数を知ることができる。ニューラルネットワークNNによって検知した到来波の個数の情報に基づいて、後述する到来方向推定アルゴリズムを実行し、先行車両の方向を高い精度で推定することが可能になる。

0142

以下、到来方向推定アルゴリズムに基づく、先行車両の方向推定処理を詳細に説明する。

0143

まず、図10図13を参照しながら送受信回路20を説明する。その後、図14および図15を参照しながら信号処理回路30を説明する。

0144

図10は、送受信回路20の詳細なハードウェア構成を示す。送受信回路20は、アンテナ装置10から受信信号を受け取り、後述の処理を行って、デジタルデータを信号処理回路30に送る。

0145

アンテナ装置10は独立マルチビームアンテナMA(図9)を含む構造体である。アンテナ装置10は、ミリ波の電磁波を送受信可能である。アンテナ装置10は、誘電体レンズ1aと複数のアンテナ素子(ビーム素子)1bとを備えている。個々のアンテナ素子は、「アンテナ素子1b1」などのように示されている。アンテナ装置10は、M個(Mは3以上の整数)のアンテナ素子1b1、1b2、・・・、1bMを備えている。アンテナ素子1b1〜1bMは、誘電体レンズ1aの焦点位置に配列されている。各アンテナ素子1b1、1b2、・・・、1bMは、到来波に応答して、受信信号S1、S2、・・・、SMを出力する。

0146

図11は、本発明の一実施形態に係る独立マルチビームの指向性の一例を示すグラフの図である。

0147

図11に示されるグラフにおいて、横軸は放射角を表し、縦軸は利得(ゲイン)を表す。本例では、ビームが5本であるマルチビームの放射角と利得(ゲイン)との関係、すなわちビームの指向性を示している。具体的には、第1のビームの信号1001、第2のビームの信号1002、第3のビームの信号1003、第4のビームの信号1004、第5のビームの信号1005を示してある。

0148

図11では5素子ビームの例を説明したが、FOV(視野角)、ビーム幅、ビーム素子数などについては、レーダのアプリケーション仕様によって、任意に設定することができる。特に、レンズアンテナによる独立マルチビームアンテナ方式では、レンズの形状と1次フィード(ビーム素子)の位置によって柔軟な設定を行うことができ、組み合わせとして好適である。

0149

なお、送受信を行うアンテナを構成する複数のビーム素子1b1〜1bMの数(M)について、マルチターゲットに関する検知を行う場合には、例えば最尤推定法の場合は複数のビーム素子1b1〜1bMの数より1つ少ない数(M−1)だけのターゲットに関する検知を行うことができる。

0150

再び図10を参照する。

0151

送受信回路20は、三角波生成回路21、VCO(VoltageContlledOscillator:電圧制御可変発振器)22、分配器23、ミキサ24、フィルタ25、スイッチ26、A/Dコンバータ27、制御器28を備える。本実施形態におけるレーダシステムは、FMCW方式でミリ波の送受信を行うように構成されているが、本開示のレーダシステムは、この方式に限定されない。送受信回路20は、独立マルチビームアンテナMAからの受信信号と送信アンテナTAのための送信信号とに基づいて、ビート信号を生成するように構成されている。

0152

以下、送受信回路20の構成および動作を詳細に説明する。

0153

三角波生成回路21は三角波信号を生成し、VCO22に与える。VCO22は、三角波信号に基づいて変調された周波数を有する送信信号を出力する。図12は、三角波生成回路21が生成した信号に基づいて変調された送信信号の周波数変化を示している。この波形の変調幅はΔf、中心周波数はf0である。このようにして周波数が変調された送信信号は分配器23に与えられる。分配器23は、VCO22から得た送信信号を、各ミキサ24および送信アンテナTAに分配する。こうして、送信アンテナは、図12に示されるように三角波状に変調された周波数を有するミリ波を放射する。

0154

図12には、送信信号に加えて、単一の先行車両で反射された到来波による受信信号の例が記載されている。受信信号は、送信信号に比べて遅延している。この遅延は、自車両と先行車両との距離に比例している。また、受信信号の周波数は、ドップラー効果により、先行車両の相対速度に応じて増減する。

0155

受信信号と送信信号とを混合すると、周波数の差異に基づいてビート信号が生成される。このビート信号の周波数(ビート周波数)は、送信信号の周波数が増加する期間(上り)と、送信信号の周波数が減少する期間(下り)とで異なる。各期間におけるビート周波数が求められると、それらのビート周波数に基づいて、物標までの距離と、物標の相対速度が算出される。

0156

図13は、「上り」の期間におけるビート周波数fu、および「下り」の期間におけるビート周波数fdを示している。図13のグラフにおいて、横軸が周波数、縦軸が信号強度である。このようなグラフは、ビート信号の時間−周波数変換を行うことによって得られる。ビート周波数fu、fdが得られると、下記数7に基づいて、物標までの距離rが算出され、下記数8に基づいて物標の相対速度vが算出される。なお、当該演算は、後述する距離/速度検出回路35(図14図16)によって行われる。

0157

(数7)
r={C・T/(2・Δf)}・{(fu+fd)/2}

0158

(数8)
v={C/(2・f0)}・{(fu−fd)/2}

0159

距離r及び相対速度vを算出する式において、Cは光速度、Tは変調周期である。

0160

なお、距離rの分解能下限値は、C/(2Δf)で表される。したがって、Δfが大きくなるほど、距離rの分解能が高まる。周波数f0が約76ギガヘルツ(GHz)帯の場合において、Δfを600メガヘルツMHz)程度に設定するとき、距離rの分解能は例えば0.7メートル(m)程度である。このため、2台の先行車両が併走しているとき、FMCW方式では車両が1台なのか2台なのかを識別することは困難である場合がある。このような場合、角度分解能が極めて高い到来方向推定アルゴリズムを実行すれば、2台の先行車両の方位を分離して検出することも可能である。しかし、前述したように、このような到来方向推定アルゴリズムの実行には膨大な演算を高速に実行することが求められる。また、先行車両の走行状況が急変した場合、演算が変化に追い付かず、2台の併走する先行車両の数を誤って1台と推定する可能性がある。しかしながら、本実施形態によれば、ニューラルネットワークNNにより先行車両の配置を少ない演算量によって迅速に把握できるため、そのような誤りを避けることが容易である。

0161

本実施形態では、以下に説明する構成および動作により、アンテナ装置10の各アンテナ素子1b1〜1bMに対応したビート周波数を求め、それに基づいて物標の位置情報を推定することが可能になる。

0162

再び図10を参照する。図10に示される例において、各アンテナ素子1b1〜1bMに対応したチャンネルCh1〜ChMからの受信信号は、増幅器によって増幅され、対応するミキサ24に入力される。ミキサ24の各々は、増幅された受信信号に送信信号を混合する。この混合により、受信信号と送信信号との間にある周波数差に対応したビート信号が生成される。生成されたビート信号は、対応するフィルタ25に与えられる。フィルタ25は、チャンネルCh1〜ChMのビート信号の帯域制限を行い、帯域制限されたビート信号をスイッチ26に与える。

0163

スイッチ26は、制御器28から入力されるサンプリング信号に応答してスイッチングを実行する。制御器28は、例えばマイクロコンピュータによって構成され得る。制御器28は、ROMなどのメモリに格納されたコンピュータプログラムに基づいて、送受信回路20の全体を制御する。制御器28は、送受信回路20の内部に設けられている必要は無く、後述する信号処理回路30の内部に設けられていても良い。または、制御器28の機能の一部または全部は、送受信回路20および信号処理回路30の全体を制御する中央演算ユニットなどによって実現されていても良い。

0164

フィルタ25の各々を通過したチャンネルCh1〜ChMのビート信号は、スイッチ26を介して、順次、A/Dコンバータ27に与えられる。A/Dコンバータ27は、制御器28からの制御信号または別途受け取るサンプリング信号に同期してスイッチ26から入力されるチャンネルCh1〜ChMのビート信号をデジタル信号に変換する。

0165

次に、信号処理回路30の構成および動作を詳細に説明する。

0166

図14は、信号処理回路30の詳細なハードウェア構成を示す。本実施形態にかかる信号処理回路30は、FMCW方式によって物標までの距離および物標の相対速度を推定するとともに、ニューラルネットワークNNから出力された波数Zの情報を利用して最尤推定を行い、受信波の到来方向を推定する。なお、以下に説明するFMCW方式は一例である。2周波CWまたはスペクトル拡散などの他の方式を用いてもよい。

0167

信号処理回路30は、メモリ31と、ニューラルネットワーク回路NNと、到来波推定ユニットAUとを備えている。

0168

メモリ31は、半導体メモリハードディスクおよび/または光ディスクなどの一般的な記憶媒体である。ニューラルネットワーク回路NNおよび到来波推定ユニットAUは、全体として1つの中央処理回路(いわゆるCPU)またはプロセッサによって実現され得る。または、ニューラルネットワーク回路NNおよび到来波推定ユニットAUは、それぞれが1つまたは複数のCPUによって実現されてもよい。

0169

メモリ31は、A/Dコンバータ27によって変換された、デジタル信号であるビート信号(上り部分および下り部分)の時系列データを受け取る。メモリ31は、その記憶領域に、各アンテナ素子1b1〜1bMに対応させて時系列データを格納する。例えば、上り部分および下り部分のそれぞれにおいて256個のサンプリングが行われた場合、メモリ31は、2×256個×素子数Mのデータを記憶領域に記憶する。

0170

ニューラルネットワーク回路NNは上述の数5に基づく演算を行う回路であり、その演算に必要な、数6に示すガウス型核関数を特定するための種々のパラメータを保持している。ニューラルネットワーク回路NNはメモリ31に格納されたビート信号のデジタルデータを入力として用いて演算を行い、波数Zを示す情報を出力する。

0171

到来波推定ユニットAUは、メモリ31に格納されたビート信号のデジタルデータ、およびニューラルネットワーク回路NNから出力された波数Zの情報を用いて、最尤推定法を適用した演算を行い、到来波の到来方向を推定する。

0172

到来波推定ユニットAUは、周波数分解回路32と、ピーク検知回路33と、ピーク組合せ回路34と、距離/速度検出回路35と、ペア確定回路36と、方位検出回路37と、ターゲット確定回路38を備える。

0173

周波数分解回路32は、各ビーム素子1b1〜1bMのチャネルごとに、ビート信号をフーリエ変換などして、ビート周波数のレンジに変換する。より具体的に説明すると、周波数分解回路32は、例えばフーリエ変換などにより、各CH1〜CHMに対応するビート信号のそれぞれを、あらかじめ設定された分解能に応じて周波数成分に変換し、ビート周波数を示す周波数ポイントと、そのビート周波数の複素数データを出力する。例えば、ビーム素子1b1〜1bMごとに上り部分および下り部分のそれぞれについて256個のサンプリングが為されたデータを有する場合、ビーム素子1b1〜1bMごとの複素数の周波数領域データとしてビート周波数に変換され、上り部分および下り部分のそれぞれにおいて128個の複素数データ(2×128個×素子数のデータ)となる。また、ビート周波数は周波数ポイントにて示される。

0174

ピーク検知回路33は、ビーム素子1b1〜1bMにおける複素数データのそれぞれを周波数スペクトル化することにより、それぞれのスペクトルの各ピーク値を、ビート周波数、すなわち距離に依存したターゲットの存在として検出する。より具体的に説明すると、ピーク検知回路33は、周波数変換されたビート周波数の三角波の上り領域および下り領域のそれぞれの強度のピーク値に関し、複素数データを用いて信号強度(または、振幅など)におけるピークから、あらかじめ設定された数値ピーク検知閾値)を超えるピーク値を有するビート周波数を検出する。これにより、ピーク検知回路33は、ビート周波数ごとのターゲットの存在を検出して、ターゲット周波数を選択する。

0175

ピーク組合せ回路34は、ビーム素子ごとでピーク検知回路33が出力するビート周波数とそのピーク値について、上り領域および下り領域のそれぞれのビート周波数とそのピーク値をマトリクス状に総当たりにて組み合わせ、これにより上り領域および下り領域のそれぞれのビート周波数をすべて組み合わせて、順次、距離/速度検出回路35に出力する。

0176

なお、本実施形態では、このような組み合わせが、ビーム素子1b1〜1bMのチャネルごとに行われるので、それぞれのビーム方位でターゲットの存在を検出することができる。

0177

距離/速度検出回路35は、順次入力される上り領域および下り領域のそれぞれの組み合わせのビート周波数を加算した数値によりターゲットとの距離rを演算する。また、距離/速度検出回路35は、順次入力される上り領域および下り領域のそれぞれの組み合わせのビート周波数の差分によりターゲットとの相対速度vを演算する。

0178

なお、本実施形態では、このような距離rおよび相対速度vの演算が、ビーム素子1b1〜1bMのチャネルごとに行われる。

0179

ペア確定回路36は、チャネルごとに、入力される距離r、相対速度vおよび上り、下りのピーク値レベルにより、第1のペアテーブルを生成する。そして、ペア確定回路36は、ターゲットごとに対応した上り領域および下り領域のそれぞれのピークの適切な組み合わせを判定し、第2のペアテーブルとして上り領域および下り領域のそれぞれのピークのペアを確定する。ペア確定回路36は、確定した距離rおよび相対速度vを示すターゲット群番号をターゲット確定回路38に出力する。

0180

第1のペアテーブルは、ピーク組合せ回路34における上り領域および下り領域のビート周波数のマトリクスと、そのマトリクスの交点、すなわち上り領域および下り領域のビート周波数の組み合わせにおける距離および相対速度を示すテーブルである。

0181

第2のペアテーブルは、ターゲット群ごとの距離および相対速度と周波数ポイントを示すテーブルである。一例として、第2のペアテーブルには、ターゲット群番号に対応して、距離、相対速度および周波数ポイント(上り領域および/または下り領域)が記憶される。なお、第1のペアテーブルおよび第2のペアテーブルは、例えば、ペア確定回路36の内部記憶領域に記憶される。

0182

ペア確定回路36では、例えば、前回検知サイクルにて最終的に確定した各ターゲットとの距離rおよび相対速度vから今回の検知サイクルにて予測される値を優先してターゲット群の組み合わせの選択を行う等の手法を用いることもできる。

0183

また、ペア確定回路36は、チャネルごとにペアが確定した周波数の情報を周波数分解回路32に通知する。周波数の情報を受けて、周波数分解回路32は、方位検出(方位推定)を行うためのビーム素子1b1〜1bM(CH)の特定周波数ポイントデータ(複素数データ)を方位検出回路37に出力する。つまり、あるCHの特定周波数ポイントにペアがあれば、他のCHの同一周波数ポイントのデータとセットで方位検出する複素数データとすることになる。ここで、この複素数データとしては、上りと下りのいずれか一方が用いられてもよく、あるいは、上りと下りの両方が用いられてもよい。

0184

方位検出回路37は、ターゲットの方位を検出し、その検出結果の情報をターゲット確定回路38に出力する。本実施形態では、方位検出回路37は、ビーム素子1b1〜1bMに係る複素振幅データに基づいて、高分解能アルゴリズムの最尤推定法によってターゲットの方位を検出する。

0185

ターゲット確定回路38は、ペア確定回路36が出力する距離r、相対速度v、周波数ポイントと、方位検出回路37によって検出されたターゲットの方位(角度)とを用いて、ターゲットを確定する。

0186

図15は、到来波推定ユニットAUの方位検出回路37による最尤推定に基づく方位検出処理の詳細を示す。

0187

まず方位検出回路37は、ターゲットからの反射波による受信信号に基づいてステアリングベクトルを生成し、反射波の到来方向の尤度を算出することにより、最も尤度が大きく(高く)なる到来方向をターゲットの方向として算出する。

0188

具体的には、方位検出回路37は、周波数分解回路32で抽出されたターゲットが存在するビート周波数のうちの1つについて、複数のビーム素子1b1〜1bMの各チャネルの複素数データを読み込む(ステップS40)。

0189

ステップS41〜ステップS43の処理では、ステップS40の処理で読み込んだ複素数データを最尤推定法により処理する。

0190

最尤推定法そのものについては、一般的に用いられており、様々な公知の技術を利用することが可能である(例えば、非特許文献1参照。)。

0191

概略的には、方位検出回路37は、複数のビーム素子1b1〜1bMの各チャネルの複素数データをRBFニューラルネットワークへの入力として用い、RBFニューラルネットワークから出力された車両の数の情報を取得する(ステップS41)。得られた車両の数は、波数Zを意味する。

0192

次に、方位検出回路37は、尤度が最も大きくなる(最尤度となる)角度を算出する(ステップS42)。

0193

そして、方位検出回路37は、ターゲットの角度を検知する(ステップS43)。

0194

このように、方位検出回路37は、最尤推定法により、ターゲットの方位(角度)を検出する。

0195

以下で、さらに詳しく説明する。

0196

<本実施形態に係る独立マルチビームアンテナ方式における最尤推定法の演算>
本実施形態では、独立マルチビームアンテナ方式において、最尤推定法を適用することで、ビームの信号を反射した物体(反射対象物)の方位を計測(検出)する。

0197

本実施形態では、非特許文献1に記載された最尤推定法の演算を利用する(非特許文献1参照。)。

0198

以下で具体的に説明する。

0199

なお、数9〜数20に関する説明において、x(tn)、xd(l)(tn)、a(θd)、a(θd(l))、a(θ)、s(tn)、s(0)(tn)、s(l)(tn)、Θ(0)は、それぞれベクトルを表す。また、a(z)のzに式(9)の左辺(=θd(l)に上側の線を引いたもの)を代入したものも、ベクトルを表す。

0200

また、数9〜数20に関する説明において、A、A(0)、A(l)、Cd 、Cd(l)は、それぞれ行列を表す。

0201

本実施形態に係る信号処理において、パラメータ(受信信号や到来方向)を推定する問題は、数9に示される尤度関数FML を最小化する問題と等価である。

0202

0203

ここで、x(tn)は、マルチビームで受信した信号のベクトルであり、数10で表される。tnは時刻を表しており、xi(tn)は時刻tnにおけるi番目のビームの受信信号を表わしており、iは1以上M以下の整数であり、Mはマルチビームにおけるビームの総数(2以上の整数)を表わしている。

0204

ベクトルや行列に付された上付きのTは、転置を表している。

0205

nは、1以上Ns以下の整数である。

0206

Nsは、スナップショットの数であり、2以上の整数である。

0207

0208

Aは、角度θdから到来する信号のマルチビームの複素応答a(θd)を並べた方向行列であり、数11で表される。

0209

dは1以上D以下の整数である。

0210

Dは、到来波数を表わしており、2以上の整数である。到来波数Dは、図8のステップS32において得られた、波数Zに等しい。

0211

ここで、θd が既知であれば、計算や測定でa(θd)が既知となる。

0212

0213

s(tn)は、到来信号ベクトルであり、数12で表される。sd(tn)は時刻tnにおけるd番目の角度θdの到来信号を表わしている。

0214

例えば、SAGE(Serial Analysis of Gene Expressinon)法により、x(tn)からθdとs(tn)が求められる。

0215

0216

最初に、到来方向の初期値Θ(0)を適当に定める。この初期値Θ(0)は、数13で表される。

0217

記号に付された上付きの(0)は初期値であることを示す。

0218

0219

設定した初期値Θ(0)に対応する到来信号s(0)(tn)は、数14によって推定する。

0220

行列に付された上付きのHは、エルミート転置を表している。

0221

0222

初期値Θ(0)および到来信号s(0)(tn)を元にして、x(tn)の最尤推定値を計算する。

0223

第d波についての第l繰り返しでの最尤推定値は、数15で表される。

0224

各記号に付された上付きの(l)は第l繰り返しであることを示す。l=0は、実測によって取得された到来信号を用いていることを表す。

0225

βは、雑音項の非負の係数である。このβの値により収束特性が変化する。

0226

0227

最尤推定値を使用して、数16により、xd(l)(tn)の相関行列Cd(l)を推定する。

0228

0229

上述のように、l=0のときのCd(0)は、実測によって取得された到来信号から生成された相関行列であるが、それ以降(l>0)のCd(l)は、推定された相関行列である。

0230

次の探索によって、数17および数18により、到来波パラメータを更新する。

0231

0232

0233

数19および数20により、更新パラメータを方向行列と信号ベクトルに適用して更新する。

0234

0235

0236

ここで、d<Dである場合には、d=d+1として(つまり、dに1を加えて)、式(7)に戻る。

0237

また、d=Dである場合には、l=l+1として(つまり、lに1を加えて)、式(6)に戻る。

0238

この操作をパラメータが収束するまで繰り返す。

0239

以上の処理により、方向行列および信号ベクトルの各々について、特定の成分が0または0以外の値に収束する。この「0以外の値」を有する成分が、ターゲットの方位(角度)を表している。

0240

上述の図14に示す信号処理回路30の構成は一例であり、他の構成を採用することもできる。

0241

たとえば図16は、信号処理回路30の変形例による信号処理回路30aの詳細なハードウェア構成を示す。以下、図16の構成と図14に示す構成例との相違点を説明し、一致する構成の説明は省略する。なお、ハードウェア構成に関しては、図16の構成は図14の構成と同じである。メモリ31は、たとえばRAMであり、ニューラルネットワーク回路NNおよび到来波推定ユニットAUは、全体として1つの中央処理回路(いわゆるCPU)またはプロセッサによって実現され得る。または、ニューラルネットワーク回路NNおよび到来波推定ユニットAUは、それぞれが1つまたは複数のCPUによって実現されてもよい。

0242

周波数分解回路32aは、アンテナ素子ごとの上り領域と下り領域のビート信号を複
素数データに変換し、そのビート周波数を示す周波数ポイントと、複素数データをピーク検知回路33aに出力する。

0243

また、周波数分解回路32aは、上り領域および下り領域のそれぞれについて該当する複素数データを、方位検出回路37aに出力する。この複素数データが、上り領域および下り領域のそれぞれのターゲット群(上り領域および下り領域においてピークを有するビート周波数)となる。

0244

ピーク検知回路33aは、上り領域および下り領域のそれぞれのピーク値と、そのピーク値が存在する周波数ポイントを検出し、その周波数ポイントを周波数分解回路32aに出力する。

0245

方位検出回路37aは、ターゲットの方位を検出し、その検出結果の情報をターゲット確定回路38aに出力する。本実施形態では、方位検出回路37aは、ニューラルネットワーク回路NNから波数Zの情報、およびビーム素子1b1〜1bMに係る複素振幅データに基づいて、高分解能アルゴリズムの最尤推定法によってターゲットの方位を検出する。

0246

また、方位検出回路37aは、上り領域および下り領域の各々について角度θを検出し、方位テーブルとしてピーク組合せ回路34aに出力する。ここで、方位テーブルは、上り領域および下り領域のそれぞれのピークを組み合わせるためのテーブルである。

0247

具体例として、上り領域の方位テーブルは、ターゲット群ごとに角度1、角度2、・・・、および周波数ポイントfが関連付けられている。例えば、ターゲット群1は、角度1のt1_ang1 、角度2のt1_ang2 、周波数ポイントのf1が関連付けられている。また、ターゲット群2は、角度1のt2_ang1 、角度2のt2_ang2 、周波数ポイントのf2が関連付けられている。また、以降のターゲット群についても同様である。

0248

また、下り領域の方位テーブルは、ターゲット群ごとに角度1、角度2、・・・、および周波数ポイントfが関連付けられている。例えば、ターゲット群1は、角度1のt1_ang1 、角度2のt1_ang2 、周波数ポイントのf1が関連付けられている。また、ターゲット群2は、角度1のt2_ang1 、角度2のt2_ang2、周波数ポイントのf2が関連付けられている。また、以降のターゲット群についても同様である。

0249

ピーク組合せ回路34aは、方位検出回路37aが出力する方位テーブルの情報を用いて、同様の角度を有する組み合わせを検出し、上り領域と下り領域とのビート周波数の組み合わせの情報(ここでは、ビート周波数の情報)を距離/速度検出回路35aに出力する。

0250

距離/速度検出回路35aは、順次入力される上り領域および下り領域のそれぞれの組み合わせのビート周波数を加算した数値によりターゲットとの距離rを所定の式(例えば、一般的なものを用いることができ、ここでは省略する。)により演算する。

0251

また、距離/速度検出回路35aは、順次入力される上り領域および下り領域のそれぞれの組み合わせのビート周波数の差分によりターゲットとの相対速度vを、所定の式(例えば、一般的なものを用いることができ、ここでは省略する。)により演算する。

0252

ここで、距離/速度検出回路35aは、距離と相対速度の値を、それぞれ、ビート周波数の上り領域および下り領域の組み合わせにて計算する。

0253

ターゲット確定回路38aは、上り領域および下り領域のそれぞれのピークのペアを決め、ターゲットを確定する。

0254

なお、第2の構成例に係る信号処理回路8aでは、上り領域および下り領域のそれぞれのピーク値に基づいてターゲットの方位を検出した後に、上り領域および下り領域のそれぞれのピーク値を組み合わせる手順を示したが、他の構成例として、上り領域および下り領域のそれぞれのピーク値を組み合わせた後に、組み合わせられたピーク値に基づいてターゲットの方位を検出することもできる。

0255

図16に示される変形例による信号処理回路30aもまた、図15に示されるフローチャートにしたがって動作する。従って処理の説明は省略する。

0256

次に、車両走行制御装置の他の変形例を説明する。

0257

図17は、車両走行制御装置1(図9)の変形例にかかる車両走行制御装置2の構成を示す。車両走行制御装置2と、車両走行制御装置1(図9)との相違点は、アンテナ装置の構成である。すなわち、車両走行制御装置2にはレーダシステム100aが搭載されており、このレーダシステム100aに設けられたアンテナ装置10aの構成が、車両走行制御装置1(図9)のレーダシステム100に設けられたアンテナ装置10の構成と異なっている。他の構成は同じであるため、説明は省略する。

0258

車両走行制御装置1(図9)におけるアンテナ装置10の独立マルチビームアンテナMAは、送信するビームおよび/または受信するビームの指向性を確保するために、誘電体レンズ1a、および複数のアンテナ素子(ビーム素子)1bを備えていると説明した。

0259

一方、車両走行制御装置2におけるアンテナ装置10aの独立マルチビームアンテナは、指向性を有する1つのビーム素子1bと、ビーム素子1bの位置を変更するアクチュエータ1cとを有している。アンテナ装置10aには誘電体レンズは設けられていない。アンテナ装置10aは、アクチュエータ1cでビーム素子1bを駆動して、ビーム素子1bから放射されるビームの方向を調整することができる。物体検知装置400は、アクチュエータ1cの駆動を制御して、所望の方向に向けてビームを放射することができる。

0260

なお、図17では、1つのビーム素子1bおよび1つのアクチュエータ1cが示されているが、これは一例である。複数のビーム素子と対応する複数のアクチュエータとを設けてもよい。この構成によっても、一部または全部のアンテナ素子を機械的に駆動して受信するビームの指向方向を切り替えて、アンテナ素子の数より多い複数のビームを形成または受信することが可能になる。

0261

図18は、車両走行制御装置1(図9)の変形例にかかる車両走行制御装置3の構成を示す。車両走行制御装置3と、車両走行制御装置1(図9)との相違点は、送受信回路20の有無である。車両走行制御装置3は送受信回路20を有していない。車両走行制御装置3のレーダシステム100bのレーダ信号処理装置300は、アンテナ装置10から出力される受信信号をそのまま受け取る。

0262

そのため、レーダ信号処理装置300のニューラルネットワークNNは、アンテナ装置10から出力される受信信号をそのまま用いて学習が行われておく必要がある。

0263

レーダ信号処理装置300の到来波推定ユニットAUは、受信信号をそのまま利用して到来波の到来方向を推定する。

0264

図9図17および図18は、レーダシステムが車両に搭載され、車両走行制御装置の一部を構成する形態を示している。このレーダシステムにおける信号処理回路30には、前述した学習が行われたニューラルネットワークNNが構築されているため、従来の過大な演算量を必要とするアルゴリズムを用いて先行車両の方位を推定することなく、先行車両の配置を把握することが可能になる。また、先行車両の台数を把握できれば、最尤推定法により、先行車両の方位を高い分解能で推定することが可能になる。ニューラルネットワークNNによって先行車両の配置がわかれば、先行車両の方位の正確な推定値を求めなくても、オートクルーズなどの走行支援が可能になる。

0265

なお、本開示によるレーダシステムは、車両に搭載される形態の例に限定されず、道路または建物に固定されて使用され得る。

0266

次に、図19を参照する。図19に示される車両走行制御装置4は、レーダシステム100(図9)と、車載カメラシステム500とを備えている。レーダシステム100(図9)に代えて、レーダシステム100a(図17)またはレーダシステム100b(図18)を採用することもできる。以下ではレーダシステム100(図9)を有する車両走行制御装置4を説明する。

0267

基本的な構成として、レーダシステム100は、アンテナ装置10と、アンテナ装置10に接続された送受信回路20と、信号処理回路30とを有している。信号処理回路30には、図9に示すように学習済みのニューラルネットワークNNが構築され、かつ到来方向推定ユニットAUが設けられている。

0268

車載カメラシステム500は、車両に搭載される車載カメラ50と、車載カメラ50によって取得された画像または映像を処理する画像処理回路52とを有している。

0269

車両走行制御装置4は、アンテナ装置10および車載カメラ50に接続された物体検知装置400と、物体検知装置400に接続された走行支援電子制御装置60とを備えている。この物体検知装置400は、前述した信号処理装置30に加えて、送受信回路20および画像処理回路52を含んでいる。本実施形態における物体検知装置400は、レーダシステム100によって得られる情報だけではなく、画像処理回路52によって得られる情報を利用して、道路上または道路近傍における物標を検知することができる。例えば自車両が同一方向の2本以上の車線のいずれかを走行中において、自車両が走行している車線がいずれの車線であるかを、画像処理回路52によって判別し、その判別の結果を信号処理回路30に与えることができる。信号処理回路30は、ニューラルネットワークNNによって先行車両の配置を認識するとき、画像処理回路30からの情報を参照することにより、先行車両の配置について、より信頼度の高い情報を提供することが可能になる。

0270

なお、車載カメラシステム500は、自車両が走行している車線がいずれの車線であるかを特定する手段の一例である。他の手段を利用して自車両の車線位置を特定してもよい。例えば、超広帯域無線(UWB:Ultra Wide Band)を利用して、複数車線のどの車線を自車両が走行しているかを特定することができる。超広帯域無線は、位置測定および/またはレーダとして利用可能なことは広く知られている。超広帯域無線を利用すれば、路肩ガードレール、または中央分離帯からの距離を特定することが可能である。各車線の幅は、各国の法律等で予め定められている。これらの情報を利用して、自車両が現在走行中の車線の位置を特定することができる。なお、超広帯域無線は一例である。他の無線による電波を利用してもよい。また、レーザレーダを用いてもよい。

0271

アンテナ装置10は、一般的な車載用ミリ波レーダアンテナであり得る。図19の例では、アンテナ装置10には送信アンテナTAが示されている。送信アンテナTAは、ミリ波を送信波として車両の前方に放射する。送信波の一部は、典型的には先行車両である物標によって反射され、物標を波源とする反射波が発生する。反射波の一部は、到来波としてアレーアンテナ(受信アンテナ)AAに到達する。独立マルチビームアンテナMAを構成している複数のアンテナ素子の各々は、1個または複数個の到来波に応答して、受信信号を出力する。反射波の波源として機能する物標の個数がK個(Kは1以上の整数)である場合、到来波の個数はK個であるが、到来波の個数Kは既知ではない。前述したニューラルネットワークを用いた信号処理を実行することにより、到来波の個数Kを従来に比べて少ない演算量で推定することが可能になる。

0272

本実施形態におけるアンテナ装置10は、車両の前方に位置する物標を検知できるように車両の前面に配置されている。車両に配置されるアンテナ装置10の個数および位置は、特定の個数および特定の位置に限定されない。アンテナ装置10は、車両の後方に位置する物標を検知できるように車両の後面に配置されてもよい。また、車両の前面または後面に複数のアンテナ装置10が配置されていても良い。アンテナ装置10は、車両の室内に配置されていても良い。特に独立マルチビームアンテナMAを構成する各アンテナ素子がホーンアンテナである場合、そのようなアンテナ素子を備えるアレーアンテナは、スペース余裕のある車両の室内に配置され得る。独立マルチビームアンテナMAおよび送信アンテナTAが同一の車両に搭載される場合、独立マルチビームアンテナMAと送信アンテナTAとの距離は、例えば100ミリメートル以上離れていても良い。

0273

信号処理回路30は、独立マルチビームアンテナMAから受信信号を受け取り、処理する。この処理は、受信信号をニューラルネットワークNNへ入力すること、または、受信信号から二次信号を生成して二次信号をニューラルネットワークへ入力することを含む。ニューラルネットワークNNは、受信信号または二次信号と学習データとを用いて演算を行い、到来波の個数(波数Z)を示す信号を出力するように構成されている。信号処理回路30の一部である到来方向推定ユニットAUは、波数Zを示す信号に基づいて最尤推定法により、先行車両の方位を推定する。個々の処理の詳細は既に説明した通りである。

0274

図19の例では、信号処理回路30から出力される信号および画像処理回路52から出力される信号を受け取る選択回路54が物体検知装置400内に設けられている。選択回路54は、信号処理回路30から出力される信号および画像処理回路52から出力される信号の一方または両方を走行支援電子制御装置60に与える。

0275

物体検知装置400によって先行物体の位置情報を受け取った走行支援電子制御装置60は、予め設定された条件により、物体位置情報の距離や大きさ、自車両の速度、降雨降雪晴天などの路面状態等の条件と併せて、自車両を運転しているドライバに対して操作が安全あるいは容易となるような制御を行う。例えば、走行支援電子制御装置60は、物体位置情報に物体が検出されていない場合、予め設定されている速度までスピードを上げるようにアクセル制御部76に制御信号を送り、アクセル制御部76を制御してアクセルペダルを踏み込むことと同等の動作を行う。

0276

走行支援電子制御装置60は、物体位置情報に物体が検出されている場合において、自車両から所定の距離であることが分かれば、ブレーキバイワイヤ等の構成により、ブレーキ制御部74を介してブレーキの制御を行う。すなわち、速度を落とし、車間距離を一定に保つように操作する。走行支援電子制御装置60は、物体位置情報を受けて、警告制御部72に制御信号を送り、車内スピーカを介して先行物体が近づいていることをドライバに知らせるように音声またはランプ点灯を制御する。走行支援電子制御装置60は、先行車両の配置を含む物体位置情報を受けとり、予め設定された走行速度の範囲であれば、先行物体との衝突回避支援を行うために自動的にステアリングを左右どちらかに操作し易くするか、あるいは、強制的に車輪の方向を変更するようにステアリング側の油圧を制御する等を行うことができる。

0277

上述の物体検知装置400は、一般的なコンピュータを、上述の各構成要素として機能させるプログラムにより動作させることで実現することができる。このプログラムは、通信回線を介して配布することも可能であるし、半導体メモリまたはCD−ROM等の記録媒体に書き込んで配布することも可能である。

0278

物体検知装置400では、選択回路54が前回検出サイクルにおいて一定時間連続して検出していた物体位置情報のデータで、今回検出サイクルで検出できなかったデータに対して、カメラで検出したカメラ映像からの先行物体を示す物体位置情報が紐付けされれば、トラッキングを継続させる判断を行い、信号処理回路30からの物体位置情報を優先的に出力するようにしても構わない。

0279

信号処理回路30および画像処理回路52の出力を選択回路54に選択するための具体的構成の例および動作の例は、特開2014−119348号公報に開示されている。この公報の内容の全体をここに援用する。

0280

図20は、車両走行制御装置1(図19)の処理手順を示すフローチャートである。一例として、アダプティブクルーズコントロールモード時の車両制御を説明する。

0281

ステップS50において、車両走行制御装置1は、車載カメラシステム500を用いて、自車両が現在走行している車線を識別する。上述のように、車載カメラシステム500に代えて、または車載カメラシステム500と共に電波を利用して車線を識別してもよい。

0282

ステップS51において、信号処理回路30は、車載カメラシステム500の画像処理回路52から出力された車線位置の情報、および、送受信回路20から出力された受信信号に基づいて、ニューラルネットワークNNを利用した車両識別処理を行う。

0283

ステップS52において、信号処理回路30は、ニューラルネットワークNNからの出力を利用して、先行車両の配置を識別する。

0284

ステップS53において、信号処理回路30は、自車両の車線上に先行車両が存在するかどうかを判定する。先行車両が存在する場合には処理はステップS54に進み、存在しない場合には処理はステップS55に進む。

0285

ステップS54において、走行支援電子制御装置60は、ブレーキ制御部74に指示してブレーキを制御させ、および/またはアクセル制御部76に指示して燃料噴射量を制御させる。これにより、走行支援電子制御装置60は自車両を設定速度以下で走行させることができる。

0286

ステップS55においても、走行支援電子制御装置60は、ブレーキ制御部74に指示してブレーキを制御させ、および/またはアクセル制御部76に指示して燃料噴射量を制御させる。これにより、走行支援電子制御装置60は設定速度および設定距離満足させながら、自車両を先行車両に追従させることができる。

0287

以上、本開示による具体的な実施形態を説明した。

0288

上述の説明では、自車両から同じ距離で併走する先行車両の台数および先行車両が走行している車線を直接識別し、さらにその情報を利用して、アダプティブクルーズコントロールモード時の車両制御方法を例示した。

0289

以下では、自車両から同じ距離で併走する先行車両の台数および先行車両が走行している車線を、2種類の方法によって識別した結果を利用するさらに他の例を説明する。

0290

図21は、異なる2つの方法によって波数の情報をそれぞれ取得し、それらが一致する場合に方位(角度)を算出する処理の手順を示す。

0291

図21は、図15の処理にステップS61〜S64の処理が追加されて構成されている。図21では、図15と同じ処理には同じ参照符号を付し、その説明は省略する。

0292

ステップS61において、方位検出回路37は、複数のビーム素子1b1〜1bMの各チャネルの複素数データを利用して、自己相関行列(共分散行列)を生成する。

0293

ここで、独立マルチビームアンテナMAを用いた場合でも、自己相関行列を生成することが可能である理由を説明する。アレーアンテナとは異なり、独立マルチビームアンテナMAは、1つの波源からの電磁波が、すべてのビーム素子1b1〜1bMにおいて受信されることは実際上想定されていない。つまり、ある時刻においてビーム素子1b1〜1bMによって受信されたすべての信号同士には相関がない。よって、自己相関行列(共分散行列)と呼べる行列を観念し得るかどうかが問題となる。

0294

たとえば独立マルチビームアンテナMAの隣接する2つのビーム素子は、互いに重複して電磁波を受信するよう、その感度が設定されている。上述の図11は、5本のビームを放射する例として説明したが、ビームを受信する際の特性として捉えることもできる。たとえば、図11に示す第4のビームの信号1004を主として受信するビーム素子1b4、および第5のビームの信号1005を主として受信するビーム素子1b5が存在するとする。図11に示すように、たとえば第4のビームの信号1004のゲインがピークとなる角度において、第5のビームの信号1005はゲインを有している。同様に、第5のビームの信号1005のゲインがピークとなる角度において、第4のビームの信号1004はゲインを有している。これは、ビーム素子1b4および1b5は、いずれも、第4のビームの信号1004および第5のビームの信号1005を検出し得ることを意味する。別の見方をすれば、ビームが、第4のビームの信号1004の方位角と第5のビームの信号1005の方位角との中間の角度から独立マルチビームアンテナMAに入射してきたとき、ビーム素子1b4および1b5はそれぞれ、その信号を受信することになる。

0295

つまり、ビーム素子1b4および1b5においてそれぞれ受信された信号には、相関があると言える。すべてのビーム素子のうち、一部のビーム素子において受信された信号同士には相関が存在しているため、自己相関行列を求めることが可能である。

0296

ステップS62において、方位検出回路37は、自己相関行列の固有値分解を行う。行列の固有値分解とは、行列を、固有値を対角成分に持つ対角行列に分解することである。自己相関行列の固有値展開を行うと、自己相関行列の固有値および固有ベクトルが求められる。

0297

ステップS63において、方位検出回路37は、分解した固有値を利用してその次数Z1を特定する。次数Z1は、到来波の個数、すなわち波数を意味する(以下「波数Z1」と記述する。)。到来波の個数を示す信号は、自己相関行列の各固有値のうちの、熱雑音によって定まる所定値以上の値を有する固有値(信号空間固有値)の個数として得られる。

0298

ステップS64において、方位検出回路37は、ステップS63において得られた波数Z1と、ステップS41において得られた波数Zとが一致するかどうかを判定する。一致する場合は処理はステップS42に進み、一致しない場合にはステップS40に戻る。ステップS40に戻った後は、方位検出回路37は、新たば受信信号から得られた別の複素数データを用いて、再度図21の処理を行う。

0299

上述の変形例では、本開示によるニューラルネットワークを用いた車両識別処理の結果を到来波数の推定値として取得し、かつ、自己相関行列を利用した到来波数の推定値を求める。そして、両推定値が一致する場合に、その一致した推定値を到来波数の情報として利用する。自己相関行列を利用した到来波数の推定値を補助的に用いて、ニューラルネットワークによる到来波数の推定精度を向上させる。これにより、その波数の情報を用いて求めた到来波の到来方向を示す角度に対する信頼性を向上させることができる。

0300

上述の実施形態の説明では、レーダシステムは車両の前部に設けられ、先行車両の配置を示す情報を得ると説明した。しかしながら、レーダシステムは車両の後部に設けられてもよい。その場合、レーダシステムは自車両の後ろを走行する後続車両の配置を示す情報を出力することになる。ここでいう「後続車両」は、自車両が走行する車線と同じ車線、またはその車線に隣接する同一方向の車線を走行している。車線変更時に後続車両の配置を把握しておくことは重要である。

0301

本開示は、たとえば先行車両および/または後続車両の配置を認識する処理が必要な車載用レーダシステムに利用可能である。さらに本開示は、認識した先行車両および/または後続車両の配置を到来波の波数の情報として用いて、SAGE法などの最尤推定法などの前処理に利用可能である。

0302

1、2、3車両走行制御装置
10、10aアンテナ装置
1b1、1b2、・・・、1bMアンテナ素子(ビーム素子)
20送受信回路
21三角波生成回路
22VCO
23分配器
24ミキサ
25フィルタ
26 スイッチ
27 A/Dコンバータ
28制御器
30、30a信号処理回路
31メモリ
32周波数分解回路
33ピーク検知回路
34ピーク組合せ回路
35 距離/速度検出回路
36ペア確定回路
37方位検出回路
38ターゲット確定回路
50車載カメラ
52画像処理回路
60走行支援電子制御装置
82コンピュータ
84データベース
80通信デバイス
100、100aレーダシステム
300レーダ信号処理装置
400物体検知装置
500車載カメラシステム
MA 独立マルチビームアンテナ
TA送信アンテナ
NNニューラルネットワーク
AU到来方向波ユニット
fu 「上り」の期間におけるビート周波数
fd 「下り」の期間におけるビート周波数

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