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技術 腎性貧血のバイオマーカーとしての赤血球ADMAの使用

出願人 学校法人久留米大学国立大学法人東北大学公立大学法人岡山県立大学
発明者 横路三有紀中山陽介三枝大輔上田誠二木本眞順美阿部高明奥田誠也
出願日 2015年12月11日 (5年7ヶ月経過) 出願番号 2015-242083
公開日 2016年6月23日 (5年0ヶ月経過) 公開番号 2016-114606
状態 特許登録済
技術分野 生物学的材料の調査,分析
主要キーワード 測定値比較 単回帰分析 診断基準値 改善目標 不飽和鉄結合能 閉塞率 治療判定 リン酸水素二ナトリウム溶液
関連する未来課題
重要な関連分野

この項目の情報は公開日時点(2016年6月23日)のものです。
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図面 (11)

課題

ESAの適正使用ができるバイオマーカーを提供する。

解決手段

以下の(1)から(3)をモニターするための、非対称性ジメチルアルギニン(以下、ADMAという)のバイオマーカーとしての使用:(1)哺乳動物における腎性貧血発症;(2)赤血球造血刺激因子製剤(ESA)の投与治療を行っている哺乳動物のESA低反応性;または(3)哺乳動物における心疾患の発症。ADMAが、哺乳動物またはESA治療中の上記哺乳動物から得られた血液試料の赤血球中に存在するADMAである、同使用。

概要

背景

貧血は疾患名でなく、血液単位容積中のヘモグロビンHb)量が減少した状態と定義され、WHO基準では、成人男子は13g/dl未満、成人子や小児は12g/dl未満、妊婦幼児は11g/dl未満と定められている。通常、Hb濃度の低下とともに赤血球数ヘマトクリット値も減少するが、赤血球の主な生理機能がHbによるから全身組織への酸素運搬であることから、Hb濃度が生体にとって最も重要な指標となる。

貧血は、MCV(mean corpuscular volume;平均赤血球容積)に基づいて、小球性(鉄欠乏性貧血慢性疾患に伴う貧血、鉄芽球性貧血サラセミア、無トランスフェリン血症)、正球性(腎性貧血溶血性貧血再生不良性貧血赤芽球癆骨髄異形成症候群、慢性疾患に伴う貧血、白血病)および大球性(腎性貧血、巨赤芽球性貧血ビタミンB12欠乏葉酸欠乏)、肝障害甲状腺機能低下症、再生不良性貧血、骨髄異形成症候群、薬剤によるDNA合成障害)に分類される。腎性貧血は、正球性あるいは大球性貧血を示すといわれている。

骨髄における赤血球の産生は、腎臓で産生されるエリスロポエチン(EPO:165個のアミノ酸からなるペプチドホルモン)によって刺激される。すなわち、腎臓で生成され、流血中に出て骨髄に到達したEPOは、赤血球前駆細胞上の受容体に結合し、その分化と増殖を促進する。このように、EPOは主に腎臓で産生されるので、腎臓が荒廃している腎不全患者では、EPOが生成されないか、あるいは生成が極めて低下する。そのため、腎不全患者では赤血球の産生が抑制されて高度の貧血が生じる。この機序による貧血が腎性貧血である。すなわち、腎性貧血とは、腎障害によるでのEPO産生能の低下による貧血をいう。腎性貧血には、赤血球寿命の短縮、造血細胞のEPO反応性の低下、栄養障害血液透析(HD)患者における回路内残血などの要因も含まれる。

そこで、透析患者など、腎性貧血の患者に対してEPOを補充するために、遺伝子組換えヒトエリスロポエチン製剤(rHuEPO)が開発された。遺伝子組換えヒトエリスロポエチン製剤は、ハムスター細胞にヒトのEPO産生遺伝子を組み込んで大量培養することにより生産される。現在市販されている遺伝子組換えヒトエリスロポエチン製剤にはエポエチンαエポエチンβがある。その後、rHuEPOにもダルベポエチンアルファなどの第2世代が現れ、これにともなってヒトエリスロポエチン製剤という名称に代わって第2世代をも包括する赤血球造血刺激因子製剤(以下、ESAという)の名称が用いられるようになった。腎性貧血に対する第一選択薬は、ESAである。

ESAは約8割の末期腎不全患者に使用される。我が国では30万人を超える維持透析患者や保存期腎不全患者がESAを使用している現状である。また患者数も多いのみならず、2015年度のEPO市場予測では全世界で1,430億ドル(日本では15億ドル)を超えると予想されており、企業の新薬研究も盛んな分野である。

慢性腎障害CKD)では腎疾患の進行に伴い内因性EPOの産生が低下し、栄養低下、鉄欠乏出血傾向、赤血球寿命の短縮などと相まって、貧血をきたすことがある。通常はCKDステージ3より貧血患者の割合が増加するが、CKDの原疾患によっては早期のステージにおいても貧血を呈する症例もある。ステージ3では6カ月ごと、ステージ4では3カ月ごと、ステージ5では毎月貧血のチェックを行うとされている(非特許文献1;非特許文献2;非特許文献3)。

貧血は心不全の独立した増悪因子であり(非特許文献4;非特許文献5)、貧血の治療により生命予後の改善が期待できる。さらにCKD患者において、腎疾患、貧血、心疾患が互いに影響し合う悪循環を形成するという心腎貧血症候群(Cardio-Renal-Anemia syndrome)が提唱され(非特許文献4;非特許文献5;非特許文献6;非特許文献7;非特許文献8)、貧血治療が勧められている。

貧血は独立したCKDの進行要因であり、ESAにより貧血を早期に改善することにより、CKDの進行を抑制するとの報告がある(非特許文献8;非特許文献9;非特許文献10)。CKD患者において貧血を認めた場合は、ESAなどを用いて積極的に加療することが必要であると主張されている。

ところが、2006年に報告された大規模無作為化介入試験CREATE研究(非特許文献11)とCHOIR研究(非特許文献12)において、これらの目標値の設定にそぐわない結果が報告された。すなわち、前者でHb値を正常範囲内(13.0〜15.0g/dL)に維持した群とHb値をやや低め(10.5〜11.5g/dL)に維持した群を比較すると、正常範囲まで改善させた群で心血管合併症発症は減少せず、また腎機能低下速度も差がなかった。後者では、Hbを高値(13.5g/dL)に維持した群が低値(11.3g/dL)に維持した群より、死亡心筋梗塞、心不全による入院、脳卒中の発症が増加した。その後、透析患者および保存期慢性腎不全患者を対象とした9つのRCTをメタ解析した成績でも(非特許文献13)、Hb高値群の総死亡が多く、高血圧コントロールが不良で、シャント閉塞率が高いと報告された。Hb値を高値に維持した群で予後が増悪する理由としては、高血圧・血栓症の増悪によるものや、ESAの高用量投与による直接作用が推測されている(非特許文献11;非特許文献12;非特許文献13)。これらの成績を基に、FDAの指示による能書改訂が行われ、K/DOQIガイドラインも改訂され、現在、目標Hb値11.0〜12.0g/dLとされている(非特許文献1;非特許文献2;非特許文献3)。

このように、腎性貧血は独立したCKDや心血管疾患CVD)の発症・進展因子であることが知られている。それゆえ、ESAによる腎性貧血治療はCKD進展抑制や生命予後の改善に寄与することが期待されるものの、その腎保護効果や合併症予防に対する明らかな効果は見出せていない。これより2010年米国FDAにより腎性貧血治療効果をHb値の上昇のみで評価することは適切でないことが示唆された(非特許文献14)。

DMAは、アミノ酸の一種であるアルギニンに2つのメチル基が付加された修飾アミノ酸である。アルギニンのメチル化は、翻訳によって合成されたタンパク質上において行われ、タンパク質アルギニンメチル基転移酵素(protein arginine methyltransferases;PRMT)によってタンパク質に組み込まれているアルギニン残基グアニジノ基窒素に1つずつメチル基が付加される。PRMTは、アルギニン残基を非対称的にメチル化するタイプIと、対称的にメチル化するタイプIIが存在し、ADMAはタイプIPRMTによって産生される(図1)。

タンパク質中のアルギニン残基のメチル基は、PRMTがS−アデノシルメチオニン(AdoMetまたはSAM)をメチル基供与体として、アルギニン側鎖のδ−グアノジノ基に存在するω−窒素原子にメチル基の導入を触媒することで生じる。PRMTは酵母からヒトまで高度に保存されたタンパク質であり、4つの特徴的なモチーフ(モチーフとそれに続くpostI、II、III)、そしてTHWループを持つ。モチーフIとpostI、そしてTHWループはSAMとの結合ポケットを形成している。PRMTはそのメチル基転移の様式の違いからタイプIとタイプIIに分類されている(図1)。タイプIに属するPRMTはPRMT1、2、3、4、6、8が知られており、タンパク質中のアルギニン残基をモノメチル化、および非対称性ジメチル化する。一方、タイプIIに属するPRMTはPRMT5、7(PRMT7はモノメチル化しか触媒しないタイプIIIのアルギニンメチル基転移酵素であると主張する報告もある)が知られており、これらはアルギニン残基のモノメチル化、および対称性ジメチル化を触媒している。どちらの反応においてもタンパク質の(ジ)メチル基の転移副産物としてS−アデノシルホモシステイン(AdoHcy)を生成する。

アルギニン残基がメチル化されたタンパク質は、代謝回転に伴って分解される(図2)。このタンパク質分解により遊離されたメチルアルギニン類は、常に一定濃度で細胞内や体液中に存在している。クリアランス経路は、尿中排泄されたり、肝臓で代謝されたりするが、モノメチルアルギニン(MMA)とADMAはそれらに特異的な加水分解酵素であるジメチルアルギニンジメチルアミノ基加水分解酵素(Dimethylarginine Dimethylaminohydrolase:DDAH)によって、シトルリンメチルアミン類に分解される。この代謝バランス崩れ生体内のADMA濃度が上昇すると、血管内皮由来血管弛緩因子である一酸化窒素(NO)の合成酵素(NOS)活性阻害し、NO産生量を低下させ、血管内皮障害惹起し、動脈硬化、高血圧、糖尿病を始め、心血管疾患や腎疾患など様々な疾患の発症や進展に関わっていることが知られている(非特許文献15)。

近年、本発明らは赤血球中にメチル化タンパク質および遊離型ADMAが豊富に存在するという先行研究をもとに赤血球自身にADMA代謝系全体が存在していることを明らかとしてきた(図3;非特許文献16;非特許文献17;非特許文献18)。

メチル化アルギニン誘導体は30年以上も前に同定・単離されていたものの、その生理学役割については長らく不明なままであった。ここ10年の間に、PRMTの同定、またメチル化を検出する解析技術の進歩により、アルギニン残基のメチル化がシグナル伝達RNAプロセシング転写制御DNA修復など、多岐に渡る細胞機能関与していることが示されてきている。

これまで、ADMAの用途としては、子癇前症のためのスクリーニング(特許文献1)、肝機能を評価するためのバイオマーカー(特許文献2)、染色体優性多発性嚢胞腎の判定(特許文献3)、透析膜の評価(特許文献4)およびうつ病のバイオマーカー(特許文献5)が知られているが、腎性貧血との相関については知られていない。

概要

ESAの適正使用ができるバイオマーカーを提供する。以下の(1)から(3)をモニターするための、非対称性ジメチルアルギニン(以下、ADMAという)のバイオマーカーとしての使用:(1)哺乳動物における腎性貧血の発症;(2)赤血球造血刺激因子製剤(ESA)の投与治療を行っている哺乳動物のESA低反応性;または(3)哺乳動物における心疾患の発症。ADMAが、哺乳動物またはESA治療中の上記哺乳動物から得られた血液試料の赤血球中に存在するADMAである、同使用。なし

目的

本発明はまた、哺乳動物における腎性貧血発症モニター用キットおよび哺乳動物における心疾患発症モニター用キットをも提供する

効果

実績

技術文献被引用数
0件
牽制数
1件

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請求項1

以下の(1)から(3)をモニターするための、非対称性ジメチルアルギニン(以下、ADMAという)のバイオマーカーとしての使用:(1)哺乳動物における腎性貧血発症;(2)赤血球造血刺激因子製剤(ESA)の投与治療を行っている哺乳動物のESA低反応性;または(3)哺乳動物における心疾患の発症。

請求項2

ADMAが、哺乳動物またはESA治療中の上記哺乳動物から得られた血液試料の赤血球中に存在するADMAである、請求項1記載のADMAのバイオマーカーとしての使用。

請求項3

哺乳動物から得られた血液試料の赤血球中のADMA濃度を測定またはモニターすることを含む、以下の(1)から(3)に記載の方法:(1)哺乳動物における腎臓貧血検査方法;(2)ESA投与治療哺乳動物のESA低反応性をモニターする方法;または(3)哺乳動物における心疾患の検査方法。

請求項4

哺乳動物から得られた血液試料の赤血球中のADMA濃度を測定する手段を含む、以下の(1)から(3)に記載のモニター用キット:(1)哺乳動物における腎臓貧血発症モニター用キット;(2)ESA投与治療哺乳動物におけるESA低反応性モニター用キット;または(3)哺乳動物における心疾患発症モニター用キット。

請求項5

請求項4記載の哺乳動物における腎臓貧血発症モニター用キットが、哺乳動物からの血液試料を受領する手段と、血液試料に含まれる赤血球中のADMA濃度を測定する手段と、測定したADMA濃度を基準値と比較する手段と、基準値との比較から該哺乳動物が腎性貧血を発症しているかおよび/または腎性貧血の程度を判定する手段を含む、請求項4記載の哺乳動物における腎性貧血発症モニター用キット。

請求項6

請求項4記載のESA投与治療哺乳動物におけるESA低反応性モニター用キットが、ESA治療を行っている患者からの血液試料を受領する手段と、ESA治療を行っている患者から得た血液試料に含まれる赤血球中のADMA濃度をモニターする手段と、測定したADMA濃度を基準値と比較する手段と、基準値との比較から該患者がESA低反応性を示すかを判定する手段を含む、請求項4記載のESA投与治療哺乳動物におけるESA低反応性モニター用キット。

請求項7

請求項4記載の哺乳動物における心疾患発症用モニターキットが、哺乳動物からの血液試料を受領する手段と、血液試料に含まれる赤血球中のADMA濃度を測定する手段と、測定したADMA濃度を基準値と比較する手段と、基準値との比較から該哺乳動物が心疾患を発症しているかを判定する手段を含む、請求項4記載の哺乳動物における心疾患発症モニター用キット。

請求項8

哺乳動物から得られた血液試料の赤血球中のADMA濃度の増大をスクリーニングすることを含む、(1)から(3)に記載のモニターする方法:(1)哺乳動物における腎臓貧血発症をモニターする方法;(2)ESA投与治療哺乳動物におけるESA低反応性をモニターする方法;または(3)哺乳動物における心疾患発症をモニターする方法。

請求項9

ADMA濃度の増大がヘモグロビンHb)濃度の減少と相関する、請求項8記載の腎臓貧血発症をモニターする方法。

請求項10

ADMA濃度の増大が造血に対する鉄利用能の低下と相関する、請求項8記載の腎臓貧血発症をモニターする方法。

請求項11

ADMA濃度の増大が、血清鉄および/またはトランスフェリン飽和度(TSAT)の低下と相関する、請求項8記載の腎臓貧血発症をモニターする方法。

請求項12

ADMA濃度の増大が、NT−proBNP濃度の増大と相関する、請求項8記載の心疾患の発症をモニターする方法。

請求項13

哺乳動物の赤血球中のADMAの濃度の増大をスクリーニングすることを含む、哺乳動物における腎性貧血または心疾患の診断方法

請求項14

哺乳動物の赤血球中のADMA濃度の増大をスクリーニングし、赤血球中のADMA濃度が基準値を超えた場合にESAの投与量を適正値まで低下させることを含む、哺乳動物におけるESAの過剰投与を防止するESAの投与方法

請求項15

請求項8記載のESA投与治療哺乳動物のESA低反応性をモニターする方法が、ESA治療抵抗性判別することを含む、請求項8記載のESA投与治療哺乳動物のESA低反応性をモニターする方法。

請求項16

哺乳動物がヒトである請求項1〜8、または13〜15のいずれかに記載の使用、方法またはキット。

技術分野

0001

本発明は、腎性貧血バイオマーカーとしての非対称性ジメチルアルギニン(以下、ADMAという)の使用に関する。

背景技術

0002

貧血は疾患名でなく、血液単位容積中のヘモグロビンHb)量が減少した状態と定義され、WHO基準では、成人男子は13g/dl未満、成人子や小児は12g/dl未満、妊婦幼児は11g/dl未満と定められている。通常、Hb濃度の低下とともに赤血球数ヘマトクリット値も減少するが、赤血球の主な生理機能がHbによるから全身組織への酸素運搬であることから、Hb濃度が生体にとって最も重要な指標となる。

0003

貧血は、MCV(mean corpuscular volume;平均赤血球容積)に基づいて、小球性(鉄欠乏性貧血慢性疾患に伴う貧血、鉄芽球性貧血サラセミア、無トランスフェリン血症)、正球性(腎性貧血、溶血性貧血再生不良性貧血赤芽球癆骨髄異形成症候群、慢性疾患に伴う貧血、白血病)および大球性(腎性貧血、巨赤芽球性貧血ビタミンB12欠乏葉酸欠乏)、肝障害甲状腺機能低下症、再生不良性貧血、骨髄異形成症候群、薬剤によるDNA合成障害)に分類される。腎性貧血は、正球性あるいは大球性貧血を示すといわれている。

0004

骨髄における赤血球の産生は、腎臓で産生されるエリスロポエチン(EPO:165個のアミノ酸からなるペプチドホルモン)によって刺激される。すなわち、腎臓で生成され、流血中に出て骨髄に到達したEPOは、赤血球前駆細胞上の受容体に結合し、その分化と増殖を促進する。このように、EPOは主に腎臓で産生されるので、腎臓が荒廃している腎不全患者では、EPOが生成されないか、あるいは生成が極めて低下する。そのため、腎不全患者では赤血球の産生が抑制されて高度の貧血が生じる。この機序による貧血が腎性貧血である。すなわち、腎性貧血とは、腎障害によるでのEPO産生能の低下による貧血をいう。腎性貧血には、赤血球寿命の短縮、造血細胞のEPO反応性の低下、栄養障害血液透析(HD)患者における回路内残血などの要因も含まれる。

0005

そこで、透析患者など、腎性貧血の患者に対してEPOを補充するために、遺伝子組換えヒトエリスロポエチン製剤(rHuEPO)が開発された。遺伝子組換えヒトエリスロポエチン製剤は、ハムスター細胞にヒトのEPO産生遺伝子を組み込んで大量培養することにより生産される。現在市販されている遺伝子組換えヒトエリスロポエチン製剤にはエポエチンαエポエチンβがある。その後、rHuEPOにもダルベポエチンアルファなどの第2世代が現れ、これにともなってヒトエリスロポエチン製剤という名称に代わって第2世代をも包括する赤血球造血刺激因子製剤(以下、ESAという)の名称が用いられるようになった。腎性貧血に対する第一選択薬は、ESAである。

0006

ESAは約8割の末期腎不全患者に使用される。我が国では30万人を超える維持透析患者や保存期腎不全患者がESAを使用している現状である。また患者数も多いのみならず、2015年度のEPO市場予測では全世界で1,430億ドル(日本では15億ドル)を超えると予想されており、企業の新薬研究も盛んな分野である。

0007

慢性腎障害CKD)では腎疾患の進行に伴い内因性EPOの産生が低下し、栄養低下、鉄欠乏出血傾向、赤血球寿命の短縮などと相まって、貧血をきたすことがある。通常はCKDステージ3より貧血患者の割合が増加するが、CKDの原疾患によっては早期のステージにおいても貧血を呈する症例もある。ステージ3では6カ月ごと、ステージ4では3カ月ごと、ステージ5では毎月貧血のチェックを行うとされている(非特許文献1;非特許文献2;非特許文献3)。

0008

貧血は心不全の独立した増悪因子であり(非特許文献4;非特許文献5)、貧血の治療により生命予後の改善が期待できる。さらにCKD患者において、腎疾患、貧血、心疾患が互いに影響し合う悪循環を形成するという心腎貧血症候群(Cardio-Renal-Anemia syndrome)が提唱され(非特許文献4;非特許文献5;非特許文献6;非特許文献7;非特許文献8)、貧血治療が勧められている。

0009

貧血は独立したCKDの進行要因であり、ESAにより貧血を早期に改善することにより、CKDの進行を抑制するとの報告がある(非特許文献8;非特許文献9;非特許文献10)。CKD患者において貧血を認めた場合は、ESAなどを用いて積極的に加療することが必要であると主張されている。

0010

ところが、2006年に報告された大規模無作為化介入試験CREATE研究(非特許文献11)とCHOIR研究(非特許文献12)において、これらの目標値の設定にそぐわない結果が報告された。すなわち、前者でHb値を正常範囲内(13.0〜15.0g/dL)に維持した群とHb値をやや低め(10.5〜11.5g/dL)に維持した群を比較すると、正常範囲まで改善させた群で心血管合併症発症は減少せず、また腎機能低下速度も差がなかった。後者では、Hbを高値(13.5g/dL)に維持した群が低値(11.3g/dL)に維持した群より、死亡心筋梗塞、心不全による入院、脳卒中の発症が増加した。その後、透析患者および保存期慢性腎不全患者を対象とした9つのRCTをメタ解析した成績でも(非特許文献13)、Hb高値群の総死亡が多く、高血圧コントロールが不良で、シャント閉塞率が高いと報告された。Hb値を高値に維持した群で予後が増悪する理由としては、高血圧・血栓症の増悪によるものや、ESAの高用量投与による直接作用が推測されている(非特許文献11;非特許文献12;非特許文献13)。これらの成績を基に、FDAの指示による能書改訂が行われ、K/DOQIガイドラインも改訂され、現在、目標Hb値11.0〜12.0g/dLとされている(非特許文献1;非特許文献2;非特許文献3)。

0011

このように、腎性貧血は独立したCKDや心血管疾患CVD)の発症・進展因子であることが知られている。それゆえ、ESAによる腎性貧血治療はCKD進展抑制や生命予後の改善に寄与することが期待されるものの、その腎保護効果や合併症予防に対する明らかな効果は見出せていない。これより2010年米国FDAにより腎性貧血治療効果をHb値の上昇のみで評価することは適切でないことが示唆された(非特許文献14)。

0012

ADMAは、アミノ酸の一種であるアルギニンに2つのメチル基が付加された修飾アミノ酸である。アルギニンのメチル化は、翻訳によって合成されたタンパク質上において行われ、タンパク質アルギニンメチル基転移酵素(protein arginine methyltransferases;PRMT)によってタンパク質に組み込まれているアルギニン残基グアニジノ基窒素に1つずつメチル基が付加される。PRMTは、アルギニン残基を非対称的にメチル化するタイプIと、対称的にメチル化するタイプIIが存在し、ADMAはタイプIPRMTによって産生される(図1)。

0013

タンパク質中のアルギニン残基のメチル基は、PRMTがS−アデノシルメチオニン(AdoMetまたはSAM)をメチル基供与体として、アルギニン側鎖のδ−グアノジノ基に存在するω−窒素原子にメチル基の導入を触媒することで生じる。PRMTは酵母からヒトまで高度に保存されたタンパク質であり、4つの特徴的なモチーフ(モチーフとそれに続くpostI、II、III)、そしてTHWループを持つ。モチーフIとpostI、そしてTHWループはSAMとの結合ポケットを形成している。PRMTはそのメチル基転移の様式の違いからタイプIとタイプIIに分類されている(図1)。タイプIに属するPRMTはPRMT1、2、3、4、6、8が知られており、タンパク質中のアルギニン残基をモノメチル化、および非対称性ジメチル化する。一方、タイプIIに属するPRMTはPRMT5、7(PRMT7はモノメチル化しか触媒しないタイプIIIのアルギニンメチル基転移酵素であると主張する報告もある)が知られており、これらはアルギニン残基のモノメチル化、および対称性ジメチル化を触媒している。どちらの反応においてもタンパク質の(ジ)メチル基の転移副産物としてS−アデノシルホモシステイン(AdoHcy)を生成する。

0014

アルギニン残基がメチル化されたタンパク質は、代謝回転に伴って分解される(図2)。このタンパク質分解により遊離されたメチルアルギニン類は、常に一定濃度で細胞内や体液中に存在している。クリアランス経路は、尿中排泄されたり、肝臓で代謝されたりするが、モノメチルアルギニン(MMA)とADMAはそれらに特異的な加水分解酵素であるジメチルアルギニンジメチルアミノ基加水分解酵素(Dimethylarginine Dimethylaminohydrolase:DDAH)によって、シトルリンメチルアミン類に分解される。この代謝バランス崩れ生体内のADMA濃度が上昇すると、血管内皮由来血管弛緩因子である一酸化窒素(NO)の合成酵素(NOS)活性阻害し、NO産生量を低下させ、血管内皮障害惹起し、動脈硬化、高血圧、糖尿病を始め、心血管疾患や腎疾患など様々な疾患の発症や進展に関わっていることが知られている(非特許文献15)。

0015

近年、本発明らは赤血球中にメチル化タンパク質および遊離型ADMAが豊富に存在するという先行研究をもとに赤血球自身にADMA代謝系全体が存在していることを明らかとしてきた(図3;非特許文献16;非特許文献17;非特許文献18)。

0016

メチル化アルギニン誘導体は30年以上も前に同定・単離されていたものの、その生理学役割については長らく不明なままであった。ここ10年の間に、PRMTの同定、またメチル化を検出する解析技術の進歩により、アルギニン残基のメチル化がシグナル伝達RNAプロセシング転写制御DNA修復など、多岐に渡る細胞機能関与していることが示されてきている。

0017

これまで、ADMAの用途としては、子癇前症のためのスクリーニング(特許文献1)、肝機能を評価するためのバイオマーカー(特許文献2)、染色体優性多発性嚢胞腎の判定(特許文献3)、透析膜の評価(特許文献4)およびうつ病のバイオマーカー(特許文献5)が知られているが、腎性貧血との相関については知られていない。

0018

特表2006−524325号公報
特表2010−502979号公報
特開2012−112784号公報
特開2012−112785号公報
特開2012−211908号公報

先行技術

0019

日本透析医学会、2008年版「慢性腎臓病における腎性貧血治療ガイドライン」透析会誌41; 2008: 661-716
National Kidney Foundation. K/DOQI clinical practice guidelines and clinical practice recommendations for anemia in chronic kidney disease, Am J Kidney Dis 2006; 47(Suppl 3):S11-S145
National Kidney Foundation, K/DOQI clinical practice guidelines and clinical practice recommendations for anemia in chronic kidney disease: 2007 Update of Hemoglobin Target, Am J Kidney Dis 2007; 50:471-530
Vlagopoulos PT, et al., J Am Soc Nephrol 2005; 16: 3403-3410
Al−Ahmad A, et al., J Am Coll Cardiol 2001; 38:955-962
Hayashi T, et al., Am J Kidney Dis 2000; 35:250-256
Roth D, et al., Am J Kidney Dis 1994; 24:777-784
Silverberg DS, et al., J Am Coll Cardiol 2001; 37:1775-1780
Kuriyama S, et al., Nephron 1997; 77:176-185
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Singh AK, et al., N Engl J Med 2006; 355:2085-2098
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発明が解決しようとする課題

0020

これまで、腎性貧血に対するESA使用に関して適切な投与のためのモニター法は存在せず、Hb濃度でのみESA投与量を調節している現状である。その結果、短期間でのESAの過量投与や、ESA低反応性患者の出現、ESA低反応性患者への長期間にわたるESA使用といった問題が生じている。ESAの過量投与はHb上昇による体液量増多や末梢血管収縮作用などにより高血圧を起こす可能性がある。また、知らないうちにESA低反応性患者へ使用しており、結果的に過剰投与につながっている。

0021

慢性腎不全患者数は増加の一途を辿っており、ESAを投与される患者数も増加している。ESAの需要は全世界で増加しており、薬剤販売額の統計においても常に上位を占めている。そのため我が国のみならず、多くの国の医療経済に対する負担は大きく、ESAの適正使用ができるバイオマーカーの確立、腎性貧血治療を把握しうるモニター方法創出が急務の課題となっている。また、新たな腎性貧血治療薬の開発の際には、Hb以外の適切な指標が必要である。

課題を解決するための手段

0022

本発明らは、腎性貧血のバイオマーカーを確立することでESAの適正使用が可能になると考え、腎性貧血を惹起する因子として赤血球ADMAに着目し、鋭意研究した。その結果、赤血球ADMA濃度とHb値との間に相関関係があること、それゆえ、CKD患者において赤血球ADMAが腎性貧血のマーカーとして使用でき、赤血球ADMA濃度を指標としてESAの適正使用の判別に応用しうることを見出した。また、ESA治療がすでに行われている患者における赤血球ADMA濃度がESA低反応性指数と有意な正相関を示すこと、それゆえ、赤血球ADMA濃度はESA低反応性を反映し、赤血球ADMA濃度の低下はESA低反応性の改善の有用な指標となることを見出した。さらに、赤血球ADMA濃度は、心疾患のリスク因子として知られるNT−proBNPと強い正相関を示したことから、赤血球ADMA濃度は貧血の程度のみならず心疾患合併リスクも予測することができ、心疾患合併予防効果のある貧血治療判定に有用なマーカーとなることを見出した。

0023

すなわち、本発明は、赤血球ADMAと腎性貧血との相関関係に基づいて、腎性貧血の発症をモニターするためのバイオマーカーとしてのADMAの使用に関する。本発明に従って、バイオマーカーとしてのADMAは、(i)ESAの適正使用の指標、(ii)ESA低反応性患者の判別、(iii)心疾患合併リスクの予測に用いることができる。

0024

本発明は、以下を含む。
[1]以下の(1)から(3)をモニターするための、ADMAのバイオマーカーとしての使用:
(1)哺乳動物における腎性貧血の発症;
(2)ESAの投与治療を行っている哺乳動物のESA低反応性;または
(3)哺乳動物における心疾患の発症。
[2]ADMAが、哺乳動物またはESA治療中の上記哺乳動物から得られた血液試料の赤血球中に存在するADMAである、上記[1]記載のADMAのバイオマーカーとしての使用。
[3]哺乳動物から得られた血液試料の赤血球中のADMA濃度を測定またはモニターすることを含む、以下の(1)から(3)に記載の方法:
(1)哺乳動物における腎臓貧血の検査方法
(2)ESA投与治療哺乳動物のESA低反応性をモニターする方法;または
(3)哺乳動物における心疾患の検査方法。
[4]哺乳動物から得られた血液試料の赤血球中のADMA濃度を測定する手段を含む、以下の(1)から(3)に記載のモニター用キット
(1)哺乳動物における腎臓貧血発症モニター用キット;
(2)ESA投与治療哺乳動物におけるESA低反応性モニター用キット;または
(3)哺乳動物における心疾患発症モニター用キット。
[5]上記[4]記載の哺乳動物における腎臓貧血発症モニター用キットが、哺乳動物からの血液試料を受領する手段と、血液試料に含まれる赤血球中のADMA濃度を測定する手段と、測定したADMA濃度を基準値と比較する手段と、基準値との比較から該哺乳動物が腎性貧血を発症しているかおよび/または腎性貧血の程度を判定する手段を含む、上記[4]記載の哺乳動物における腎性貧血発症モニター用キット。
[6]上記[4]記載のESA投与治療哺乳動物におけるESA低反応性モニター用キットが、ESA治療を行っている患者からの血液試料を受領する手段と、ESA治療を行っている患者から得た血液試料に含まれる赤血球中のADMA濃度をモニターする手段と、測定したADMA濃度を基準値と比較する手段と、基準値との比較から該患者がESA低反応性を示すかを判定する手段を含む、上記[4]記載のESA投与治療哺乳動物におけるESA低反応性モニター用キット。
[7]上記[4]記載の哺乳動物における心疾患発症用モニターキットが、哺乳動物からの血液試料を受領する手段と、血液試料に含まれる赤血球中のADMA濃度を測定する手段と、測定したADMA濃度を基準値と比較する手段と、基準値との比較から該哺乳動物が心疾患を発症しているかを判定する手段を含む、上記[4]記載の哺乳動物における心疾患発症モニター用キット。
[8]哺乳動物から得られた血液試料の赤血球中のADMA濃度の増大をスクリーニングすることを含む、(1)から(3)に記載のモニターする方法:
(1)哺乳動物における腎臓貧血発症をモニターする方法;
(2)ESA投与治療哺乳動物におけるESA低反応性をモニターする方法;または
(3)哺乳動物における心疾患発症をモニターする方法。
[9]ADMA濃度の増大がヘモグロビン(Hb)濃度の減少と相関する、上記[8]記載の腎臓貧血発症をモニターする方法。
[10]ADMA濃度の増大が造血に対する鉄利用能の低下と相関する、上記[8]記載の腎臓貧血発症をモニターする方法。
[11]ADMA濃度の増大が、血清鉄および/またはトランスフェリン飽和度(TSAT)の低下と相関する、上記[8]記載の腎臓貧血発症をモニターする方法。
[12]ADMA濃度の増大が、NT−proBNP濃度の増大と相関する、上記[8]記載の心疾患の発症をモニターする方法。
[13]哺乳動物の赤血球中のADMAの濃度の増大をスクリーニングすることを含む、哺乳動物における腎性貧血または心疾患の診断方法
[14]哺乳動物の赤血球中のADMA濃度の増大をスクリーニングし、赤血球中のADMA濃度が基準値を超えた場合にESAの投与量を適正値まで低下させることを含む、哺乳動物におけるESAの過剰投与を防止するESAの投与方法
[15]上記[8]記載のESA投与治療哺乳動物のESA低反応性をモニターする方法が、ESA治療抵抗性を判別することを含む、上記[8]記載のESA投与治療哺乳動物のESA低反応性をモニターする方法。
[16]哺乳動物がヒトである上記[1]〜[8]、または[13]〜[15]のいずれかに記載の使用、方法またはキット。

0025

本発明の第1の態様は、以下の(1)から(3)をモニターするための、ADMAのバイオマーカーとしての使用に関する:(1)哺乳動物における腎性貧血の発症;(2)ESAの投与治療を行っている哺乳動物のESA低反応性;または(3)哺乳動物における心疾患の発症。ここで、ADMAは、哺乳動物またはESA治療中の上記哺乳動物から得られた血液試料の赤血球中に存在するADMAである。

0026

本発明の第2の態様は、哺乳動物から得られた血液試料の赤血球中のADMA濃度を測定またはモニターすることを含む、以下の(1)から(3)に記載の方法に関する:(1)哺乳動物における腎臓貧血の検査方法;(2)ESA投与治療哺乳動物のESA低反応性をモニターする方法;または(3)哺乳動物における心疾患の検査方法。

0027

本発明の第3の態様は、哺乳動物から得られた血液試料の赤血球中のADMA濃度を測定する手段を含む、以下の(1)から(3)に記載のモニター用キットに関する:(1)哺乳動物における腎臓貧血発症モニター用キット;(2)ESA投与治療哺乳動物におけるESA低反応性モニター用キット;または(3)哺乳動物における心疾患発症モニター用キット。

0028

本発明による哺乳動物における腎臓貧血発症モニター用キットは、哺乳動物からの血液試料を受領する手段と、血液試料に含まれる赤血球中のADMA濃度を測定する手段と、測定したADMA濃度を基準値と比較する手段と、基準値との比較から該哺乳動物が腎性貧血を発症しているかおよび/または腎性貧血の程度を判定する手段を含んでいてよい。

0029

本発明によるESA投与治療哺乳動物におけるESA低反応性モニター用キットは、ESA治療を行っている患者からの血液試料を受領する手段と、ESA治療を行っている患者から得た血液試料に含まれる赤血球中のADMA濃度をモニターする手段と、測定したADMA濃度を基準値と比較する手段と、基準値との比較から該患者がESA低反応性を示すかを判定する手段を含んでいてよい。

0030

本発明による哺乳動物における心疾患発症用モニターキットは、哺乳動物からの血液試料を受領する手段と、血液試料に含まれる赤血球中のADMA濃度を測定する手段と、測定したADMA濃度を基準値と比較する手段と、基準値との比較から該哺乳動物が心疾患を発症しているかを判定する手段を含んでいてよい。

0031

本発明の第4の態様は、哺乳動物から得られた血液試料の赤血球中のADMA濃度の増大をスクリーニングすることを含む、(1)から(3)に記載のモニターする方法に関する:(1)哺乳動物における腎臓貧血発症をモニターする方法;(2)ESA投与治療哺乳動物におけるESA低反応性をモニターする方法;または(3)哺乳動物における心疾患発症をモニターする方法。ここで、上記腎臓貧血発症をモニターする方法において、ADMA濃度の増大は、ヘモグロビン(Hb)濃度の減少と相関している。上記腎臓貧血発症をモニターする方法において、ADMA濃度の増大はまた、造血に対する鉄利用能の低下と相関している。さらに、上記腎臓貧血発症をモニターする方法において、ADMA濃度の増大はまた、血清鉄および/またはトランスフェリン飽和度(TSAT)の低下と相関している。上記ESA投与治療哺乳動物のESA低反応性をモニターする方法は、ESA治療抵抗性を判別することを含むのが好ましい。上記心疾患発症をモニターする方法において、ADMA濃度の増大は、NT−proBNP濃度の増大と相関している。

0032

本発明の第5の態様は、哺乳動物の赤血球中のADMAの濃度の増大をスクリーニングすることを含む、哺乳動物における腎性貧血または心疾患の診断方法に関する。

0033

本発明の第6の態様は、哺乳動物の赤血球中のADMA濃度の増大をスクリーニングし、赤血球中のADMA濃度が基準値を超えた場合にESAの投与量を適正値まで低下させることを含む、哺乳動物におけるESAの過剰投与を防止するESAの投与方法に関する。

0034

本発明はまた、哺乳動物から得た血液試料の赤血球中のADMAの濃度を測定することを含む、腎性貧血および心疾患の同時検査方法を包含する。

0035

本発明のさらなる態様はまた、哺乳動物から得た血液試料に含まれる赤血球中のADMA濃度を測定する手段を含む、腎性貧血発症および心疾患発症を同時にモニターするキットを包含する。

0036

さらに、本発明はまた、腎性貧血におけるESA治療抵抗性患者を判別する方法であって、ESA治療を行っている患者から得た血液試料に含まれる赤血球中のADMA濃度をモニターすることを含む、方法に関する。

発明の効果

0037

赤血球ADMAはEPOと独立して腎性貧血と強い相関を認めるため、EPO産生低下以外の腎性貧血バイオマーカーになり得る。またESA投与が過剰な場合やESA低反応性に対しても赤血球ADMAは有意に上昇するため、腎性貧血でのESAの適正使用の指標に最適である。この結果、腎性貧血におけるESA治療抵抗性患者を判別できる。またESA使用時に赤血球ADMAをモニターすることで、ESA量が適正化され、ESA治療抵抗性患者の減少や医療費削減につながる。さらに、新たな腎性貧血治療薬の開発の際には、Hb以外の適切な指標が必要であり、赤血球ADMAは新薬開発時のマーカーとして貢献ができる。

図面の簡単な説明

0038

図1は、アルギニンからのADMAの生成過程を示す模式図である。
図2は、ADMAの代謝経路NO産生低下を示す模式図である。
図3は、赤血球中のADMA代謝経路を示す模式図である。
図4は、赤血球ADMA濃度と貧血との関係を示す図である。
図5は、赤血球ADMA濃度と鉄代謝指標の相関を示す図である。(A)は赤血球ADMA濃度と血清鉄との相関、(B)は赤血球ADMA濃度とTSATとの相関をそれぞれ示す。
図6は、赤血球ADMA濃度と心疾患マーカーであるNT−proBNPとの相関を示す図である。
図7は、ESA治療後の赤血球ADMA濃度とESA低反応性の関係を示す図である。
図8は、健常者とCKD患者の血清中、赤血球中ADMA濃度比較を示す図である。
図9は、CKDモデルマウスにおける赤芽球関連遺伝子の発現を示す図である。
図10は、エリスロポエチンシグナルとADMA蓄積によるエリスロポエチン受容体発現阻害を介した赤血球産生障害を示す図である。
図11は、LC−MSとELISAによる測定値比較を示す図である。

0039

本発明は、腎性貧血のバイオマーカーとしてのADMAの使用に関する。詳細には、以下の(1)から(3)をモニターするための、ADMAのバイオマーカーとしての使用に関する:(1)哺乳動物における腎性貧血の発症;(2)赤血球造血刺激因子製剤(ESA)の投与治療を行っている哺乳動物のESA低反応性;または(3)哺乳動物における心疾患の発症。

0040

以下、本発明を詳細に説明する。以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこの実施の形態のみに限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱しない限り、様々な形態で実施をすることができる。

0041

A.腎性貧血
本発明において腎性貧血とは、腎障害による腎でのEPO産生能の低下による貧血をいう。腎性貧血の原因には、uremic toxinやendotoxin、炎症などによる赤血球寿命の短縮、造血細胞のEPO反応性の低下、栄養障害、血液透析(HD)患者における回路内残血などの要因も含まれる。腎性貧血の頻度が急激に増加する糸球体濾過量(GFR)低下の目安は、血清クレアチニン(Cr)値≧2mg/dLまたはクレアチニンクリアランス(Ccr)値<20〜35mL/分程度(CKDステージ4〜5)である(Hakim RMら、Am J Kidney Dis 11: 238-247, 1988;Chandra Mら、J Pediatr 113: 1015-1021, 1988;Chandra Mら、J Pediatr)。

0042

健常人生理的なHb値は年齢、性、人種などにより異なる。従って貧血の診断基準はこれらの要因を考慮して設定する必要がある。貧血の診断に際しては、貧血をきたすさまざまな疾患を鑑別する必要がある。その際、平均赤血球容積(MCV)による分類が有用である。腎性貧血の主因は腎障害に伴うEPOの産生低下であり、これ以外に貧血の原因疾患が認められない時に初めて診断される。

0043

日本人における貧血の診断基準値は、成人男性ではHb値<13.5g/dL(ヘマトクリットHt)値<40%)、成人女性ではHb値<11.5g/dL(Ht値<35%)である。

0044

一方、EPO抵抗性貧血は、厳密な定義はないが、通例として、血液透析患者ではrHuEPO最高投与量9,000IU/週、CAPD患者ではrHuEPO最高投与量6,000IU/週を投与してもHt値≧25%に維持できない高度の貧血を有する者、あるいは、血液透析患者では最高投与量9,000IU/週、CAPD患者では最高投与量6,000IU/週を投与してもHt値≧6%[Hb値≧2g/dL]の上昇がみられない者とされている。

0045

EPO反応性低下の原因としては、(1)赤血球の産生低下(鉄欠乏状態最多の原因)、慢性感染症IL−1、TNF)、悪性腫瘍の合併、骨髄線維症、高度の二次性副甲状腺機能亢進症アルミニウム蓄積(治療初期の抵抗性に関与)、透析量の不足栄養不足(特に葉酸、ビタミンB6、B12の欠乏)、骨髄機能抑制作用のある薬剤使用)、および(2)赤血球の喪失出血顕性潜在性)、多量の採血、高度の脾機能亢進症肝硬変などに合併)、溶血亢進状態人工弁など)、ダイアライザー再利用時の残留物)が挙げられる。

0046

B.赤血球造血刺激因子製剤(ESA)
腎性貧血に対する第一選択薬はESAである。現在市販されている遺伝子組換えヒトエリスロポエチン製剤にはエポエチンαとエポエチンβがある。その後、遺伝子組換えヒトエリスロポエチン製剤にもダルベポエチンアルファなどの第2世代が現れ、これにともなってヒトエリスロポエチン製剤(EPO)という名称に代わって第2世代をも包括する赤血球造血刺激因子製剤(ESA)の名称が用いられるようになった。

0047

投与量や投与回数は、ESAの種類、投与開始時のHb値、貧血改善目標値、予測される、あるいは目標とする貧血改善速度などを案して決定されるべきである。

0048

本発明のモニター法は、いずれのESAに対しても用いることができる。以下に示す各ESAの投与量の調整に際し、本発明に従ってHb濃度の代わりに赤血球ADMA濃度を用いることができる。

0049

1.エポエチンαとエポエチンβ
エポエチンαとエポエチンβは、腎性貧血に対し、初期量として週3回、1回1500単位を投与する。その後は、Hb濃度が10〜11g/dL(ヘマトクリット値に換算して30〜33%)に維持されるように投与量と投与頻度を調整する。エポエチンαとエポエチンβは、血液回路から、原則として透析終了時にゆっくりと静注する。エポエチンαあるいはエポエチンβの投与量の上限は、通常、週3回、1回3000単位である。エポエチンアルファ(遺伝子組換え)epoetin alfaは、エスポー(協和発酵キリン)として市販されている。エポエチンベータ(遺伝子組換え)epoetin betaは、エポジン中外製薬)として市販されている。

0050

2.ダルベポエチンα
ダルベポエチンαは、エポエチンαの165個のアミノ酸残基のうちの5ヶ所が別のアミノ酸残基に置き換えられ、さらに2本の糖鎖が付加された遺伝子組換えヒトエリスロポエチン製剤である。ダルベポエチンαの半減期は25.3時間と、エポエチンαの半減期(8.5時間)の3倍である。したがって、ダルベポエチンαでは、エポエチンαやエポエチンβよりも少ない投与頻度(週1回ないし2週1回)でHb濃度(本発明に従えば、赤血球ADMA濃度)を目標域に維持することができる。

0051

ダルベポエチンαは、以前は、すでにエポエチンαあるいはエポエチンβを使用している患者において、これらの製剤から切り替えて使用することになっていた。しかし、平成22年8月より、腎性貧血に対して、最初からダルベポエチンαを使用してもよいこととなった。ダルベポエチンαは、週1回、20μgから開始する。ダルベポエチンαの投与量の上限については、週1回、1回60μgとすることが多い。ダルベポエチンαも、透析終了時に血液回路からゆっくりと静注する。ダルベポエチンアルファは、ネスプ(協和発酵キリン)として市販されている。

0052

3.エポエチンベータペゴル
エポエチンネスプベータペゴルは、エポエチンβに1分子の直鎖メトキシポリエチレングリコール(PEG)分子を化学的に結合させた遺伝子組換えヒトエリスロポエチン製剤である。このような化学的修飾により、エポエチンベータペゴルの半減期は168〜217時間と、エポエチンβの半減期である9.4時間の約20倍、ダルベポエチンアルファの半減期である32〜49時間の約4倍となった。したがって、エポエチンベータペゴルは4週間に1回の投与(初回は2週間に1回)で、Hb濃度(本発明に従えば、赤血球ADMA濃度)を至適範囲内まで上昇させることができる。エポエチンベータペゴルは、ミルセラ(中外製薬)として市販されている。

0053

a.初期用量
エポエチンベータペゴルは、初期には1回50μgを2週に1回静脈内投与する。これによってはHb濃度に適度な上昇がみられなかった場合(本発明に従えば、赤血球ADMA濃度に適度な低下がみられなかった場合)、エポエチンベータペゴルの投与量を増やす。エポエチンベータペゴルの造血効果は長時間持続するので、エポエチンベータペゴルの投与開始後はHb濃度(本発明に従えば、赤血球ADMA濃度)の推移を十分に観察し、効果が不十分であったり、あるいは効果が予想以上であれば、早めに投与量の増減を検討する。なお、エポエチンベータペゴルの投与量を増やす場合には原則として、表1にしたがって1段階ずつ増量していく。

0054

表1:エポエチンベータペゴルの投与量を増やす場合の投与段階

0055

初期投与期間中、目標とするHb濃度が得られ、かつ、濃度が安定したら、エポエチンベータペゴルの投与間隔延長することができる。その場合には1回の投与量を2倍にし、投与間隔を2週1回から4週1回に変更する。4週に1回の投与間隔ではHb濃度(本発明に従えば、赤血球ADMA濃度)を目標範囲に維持できない場合、1回の投与量を半分にし、かつ2週に1回の投与間隔に戻す。

0056

b.エポエチンαやエポエチンβからエポエチンベータペゴルに切替える場合の初回用量
エポエチンαやエポエチンβからエポエチンベータペゴルに切替える場合には、Hb濃度(本発明に従えば、赤血球ADMA濃度)の推移が安定していることを確認したうえで、エポエチンαあるいはエポエチンβの週あたりの投与量が4,500IU未満の患者ではエポエチンベータペゴルの100μgを、4,500IU以上の患者では150μgを4週に1回、静脈内投与する。なお、ダルベポエチンアルファからエポエチンベータペゴルへ切替える際の初回用量については報告がない。

0057

c.維持用量
目標とするHb濃度(本発明に従えば、赤血球ADMA濃度)が得られ、かつ、濃度が安定したら、そのときのエポエチンベータペゴル投与量を維持投与量とする。維持投与量の上限は1回250μgとする。

0058

腎性貧血治療の目標としては、保存期慢性腎臓病の腎性貧血目標Hb値は、11g/dL以上とし、ESAの投与開始基準は複数回の検査でHb値11g/dL未満となった時点とする。貧血の過剰な改善はESA高用量投与による弊害など、生命予後の悪化をもたらす可能性があるので、13g/dL超をESA減量・休薬基準とする。すでに心血管合併症を有する患者や、医学的に必要と考えられる患者の上限は12g/dLにとどめる。本発明では、これらHb値に代えて赤血球ADMA濃度をモニターすることができる。

0059

C.ADMA
ADMAは、アミノ酸の一種であるアルギニンに2つのメチル基が付加された修飾アミノ酸である。ADMAは、一酸化窒素(NO)生成酵素の内因性阻害物質である。ADMAは、メチル化タンパク質の分解過程で形成された後、腎臓で排泄されるか、ジメチルアルギニンジメチルアミノ基加水分解酵素(Dimethylarginine Dimethylaminohydrolase:DDAH)により代謝分解される。ヒト内皮細胞および尿細管細胞などの多くの細胞種では、ADMAの合成能と代謝能を有する。ADMAの血中濃度の上昇は、内皮機能障害に関連する数多くの疾患に相関性がある。例えば、透析患者の血中ADMA濃度の上昇は、動脈硬化および心臓血管疾患リスクと相関性を示す。さらに、ADMA濃度の上昇は高コレステロール血症、高血圧、動脈硬化、慢性腎不全慢性心不全などの患者でも確認されており、内皮血管拡張の制限と関連があると考えられている。近年では、ADMAは重要な新規心臓血管危険因子となる可能性が示されている。

0060

本発明では、腎性貧血の発症・程度の指標として赤血球ADMA濃度を用いる。これまで、赤血球ADMA濃度が腎性貧血と相関を有することは知られていなかった。

0061

D.赤血球ADMA濃度のモニター
赤血球ADMA濃度を測定するには、まず赤血球試料の調製を行い、ついでADMA濃度測定を行えばよい。赤血球試料の調製は、以下のようにして行う。ヘパリン採血した全血遠心(3,000rpm、4℃、10分)し、血漿採取する。血球画分に2倍量のPBSを加え、軽く転倒混和し、遠心(3,000rpm、4℃、10分)する。PBSおよびbuffy coatを除去し、赤血球画分とする。赤血球画分に等量の0.1Mリン酸緩衝液を加え、溶血させる(保存の場合はここで−80℃保存)。溶血試料を遠心し(12,000rpm、4℃、20分)、上清を赤血球試料とする。

0062

ADMA濃度測定は、以下のようにして行う。試料(10uL)をチューブに採取する。0.1%FAアセトニトリル(70uL)およびIS(内標準物質)(20uL)を添加する。ミキサーにて撹拌(30秒)、ついで超音波水浴上にて撹拌(5分)する。遠心分離(16,400×g、4℃、10分)の後、上清をフィルター(0.2μm)に通し、LC/MS/MSにて分析する。また、LC/MS/MSに代えてELISAにより測定することもできる。ELISAにより測定する場合、以下のようにして行う。赤血球試料(100uL)に等量の10%トリクロロ酢酸を加え混和後、遠心(15,000rpm、4℃、20分)し、上清(80uL)を新しいチューブにとり、適量の1Mリン酸水素二ナトリウム溶液(pH12)で中和し、測定試料とする。測定試料および検量線用ADMA溶液(各10uL)に0.1Mリン酸緩衝液(50uL)、0.1MN−スクシンイミジル3−マレイミドベンゾエートDMSO(20uL)を加え、30分撹拌後、遠心分離(15,000rpm、4℃、30分)した上清を用い、競合阻害ELISA法にて測定する。

0063

赤血球ADMA濃度が測定されたら、これをHb濃度との相関関係から腎性貧血の発症・程度を判定し、ESAの使用量を適正にすることができ、これによりESAの過量投与やESA低反応性患者への長期間の使用を回避することができる。具体的には、例えばエポエチンαやエポエチンβで治療を行っている場合、Hb濃度が10〜11g/dL(ヘマトクリット値に換算して30〜33%)に維持されるように投与量と投与頻度を調整する必要があるが、これを赤血球ADMA濃度のモニターにより行うことができる。ダルベポエチンαやエポエチンベータペゴルでも同様である。エポエチンベータペゴルの場合は、造血効果が長時間持続するので、エポエチンベータペゴルの投与開始後は赤血球ADMA濃度の推移を十分に観察し、効果が不十分であったり、あるいは効果が予想以上であれば、早めに投与量の増減を検討する。なお、エポエチンベータペゴルの投与量を増やす場合には原則として、表1にしたがって1段階ずつ増量していく。

0064

EPO抵抗性貧血は、厳密な定義はないが、通例として、血液透析患者ではrHuEPO最高投与量9,000IU/週、CAPD患者ではrHuEPO最高投与量6,000IU/週を投与してもHt値≧25%に維持できない高度の貧血を有する者、あるいは、血液透析患者では最高投与量9,000IU/週、CAPD患者では最高投与量6,000IU/週を投与してもHt値≧6%[Hb値≧2g/dL]の上昇がみられない者とされている。

0065

本発明により、ESA治療がすでに行われている患者における赤血球ADMA濃度はESA低反応性指数と有意な正相関を示すことがわかった。この結果から赤血球ADMA濃度はESA低反応性を反映し、赤血球ADMA濃度の低下はESA低反応性の改善の有用な指標となる。ここで、ESA低反応性指数(ESA resistant index)とは、ESA dose/week/Hb/BWで示され、1週間当たりのESA使用量をHb値、体重で補正した値をいう。

0066

腎性貧血はCKD進展だけでなく心疾患のリスク因子でもあり、腎性貧血による病態の把握や治療効果の判定において貧血の程度と心疾患リスクの両方を反映することは重要である。赤血球ADMA濃度は、心疾患のリスク因子として知られるNT−proBNPと強い正相関を示した。このことから、赤血球ADMA濃度は貧血の程度のみならず心疾患合併リスクをも予測しうることが示唆され、心疾患合併予防効果のある貧血治療判定に有用なマーカーとなると考えられる。

0067

E.キット
本発明はまた、哺乳動物における腎性貧血発症モニター用キットおよび哺乳動物における心疾患発症モニター用キットをも提供する。

0068

本発明による腎性貧血発症および/または心疾患発症モニター用キットは、哺乳動物から得た血液試料に含まれる赤血球中のADMA濃度を測定する手段を含む。本発明による腎性貧血発症モニター用キットはまた、哺乳動物からの血液試料を受領する手段、測定したADMA濃度を基準値と比較する手段、および基準値との比較から腎性貧血を発症しているかおよび/または腎性貧血の程度および/または心疾患を発症しているかを判定する手段を含んでいてよい。

0069

本発明によるESA治療を行っている患者におけるESA低反応性モニター用キットは、ESA治療を行っている患者から得た血液試料に含まれる赤血球中のADMA濃度をモニターする手段を含む。本発明によるESA治療を行っている患者におけるESA低反応性モニター用キットはまた、ESA治療を行っている患者からの血液試料を受領する手段、測定したADMA濃度を基準値と比較する手段、および基準値との比較から該患者がESA低反応性を示すかを判定する手段を含んでいてよい。

0070

上記基準値としては、ESA低反応性について現在も明確な判断基準がなく、日本透析医学会、2008年版「慢性腎臓病における腎性貧血治療ガイドライン」においても「ESA療法低反応性の明確な定義は存在しない」とされているが、目安として以下のように規定されている。
「HD(血液透析)患者:rHuEPOは1回3,000単位を週3回(週当たり9,000単位)静注で使用、DAでは60mgを週1回静注使用しても貧血の改善が得られず、目標Hb値が達成できない場合をESA療法低反応性とする。
PD(腹膜透析)患者:rHuEPOは1回6,000単位を週1回(週当たり6,000単位)皮下注で使用、DAでは60mgを週1回静注で使用しても貧血の改善が得られず、目標Hb値が達成できない場合をESA療法低反応性とする。
ND(保存期慢性腎臓病)患者:ND患者ではrHuEPOを1回6,000単位,週1回(週当たり6,000単位)皮下注で使用しても貧血の改善が得られず、目標Hb値が達成できない場合をrHuEPO療法低反応性とする。」

0071

本発明において、赤血球中ADMAは誘導体化し、競合ELISAで測定することができる。例えば、本発明によるキットは、以下を含んでいてよい。
・ADMA−SMB−BSA(ADMAと牛血清アルブミン(BSA)をN−スクシンイミジル3−マレイミドベンゾエート(SMB)で架橋した複合体)をコーティングした96wellプレート
・検量線を作成するためのSMB−ADMA標品
サンプル中ADMAを誘導体化するためのSMB標品
一次抗体;ADMA−SMBを認識するマウスモノクローナル抗体
二次抗体:HRP標識抗マウスIgG抗体
発色試薬
・必要に応じて遠心式限外濾過ユニット(赤血球溶血サンプルの除タンパクのため)

0072

検量線は、0〜500nMの濃度範囲のADMAに対して、0nMのOD値を100%とした各濃度の阻害率を求めることにより作成することができる。
F.診断方法
本発明はさらに、哺乳動物の赤血球中のADMA濃度の増大をスクリーニングすることを含む、哺乳動物における腎性貧血の診断方法、および哺乳動物の赤血球中のADMA濃度の増大をスクリーニングすることを含む、哺乳動物における心疾患の診断方法をも提供する。

0073

本発明に従って、赤血球ADMA濃度は腎性貧血と負の相関関係があるため、被験者からの血液試料中の赤血球ADMA濃度を測定し、一定の基準値を超える赤血球ADMA濃度に基づいて腎性貧血の診断を行うことができる。

0074

B型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)とN末端プロBNP(NT−proBNP)の血中濃度は、急性冠症候群(ACS)発症早期から上昇し、BNPとNT−proBNPとは心機能・心不全のバイオマーカーとして知られている。本発明に従い、赤血球ADMA濃度が心疾患のリスク因子として知られるNT−proBNPと強い正の相関関係があることがわかった。このため、被験者からの血液試料中の赤血球ADMA濃度を測定し、一定の基準値を超える赤血球ADMA濃度に基づいて心疾患の診断を行うことができる。ここで、本発明に従って診断できる心疾患としては、心不全、急性冠症候群(ACS)、急性心筋梗塞等が挙げられる。

0075

本発明において、「哺乳動物」には、ヒト、ウマウシネコイヌブタヤギヒツジウサギなどが含まれるが、ヒトが好ましい。

0076

以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。

0077

赤血球ADMA濃度と貧血との相関関係
保存期CKD患者(<eGFR60ml/分/1.73m2)61人を対象にして、赤血球ADMA濃度と貧血との相関関係を調べた。このうち、強い炎症や重篤な肝障害のある患者およびその時点または直近急性腎障害と診断された、手術を受けた後の患者4人は除外し、患者57人について調査した。

0078

の採血時に採血および採尿を行った。ADMA濃度は東北大学にてLC−MS/MS分析により測定を行った。赤血球中の濃度はBCA法にて測定したタンパク質濃度で補正し、g proteinあたりのmol数で表した。

0079

1.赤血球ADMAの測定方法
(1)赤血球試料の調製
ヘパリン採血した全血(10ml)を遠心(3,000rpm、4℃、10分)し、血漿を採取した。血球画分に2倍量のPBSを加え、軽く転倒混和し、遠心(3,000rpm、4℃、10分)した。PBSおよびbuffy coatを除去し、赤血球画分とした。赤血球画分(0.2ml)に等量の0.1Mリン酸緩衝液を加え、溶血させた(保存の場合はここで−80℃保存した)。溶血試料(0.4ml)を遠心し(12,000rpm、4℃、20分)、上清を赤血球試料とした。

0080

(2)ADMA濃度測定
試料(10uL)をチューブに採取した。0.1%FA−アセトニトリル(70uL)およびIS(内標準物質)(20uL)を添加した。ミキサーにて撹拌(30秒)、ついで超音波水浴上にて撹拌(5分)した。遠心分離(16,400×g、4℃、10分)の後、上清をフィルター(0.2μm)に通し、LC/MS/MSにて分析した。

0081

(3)赤血球ADMA濃度と貧血との関係
保存期CKD患者における赤血球ADMA濃度と貧血との関係を見るために、横軸に赤血球ADMA濃度と縦軸にHbの値をとり、単回帰分析を行った。その結果を図4に示す。図4から明らかなように、赤血球ADMA濃度が高いほどHb値が低下する有意な負の相関がみられた。このことから、赤血球ADMA濃度は貧血の指標なると考えられた。

0082

このとき赤血球ADMA濃度はeGFRとも相関関係を示したので、赤血球ADMA濃度を中央値で分け、二項ロジスティック回帰分析を行った。その結果を表2に示す。

0083

表2:二項ロジスティック回帰分析(Low rADMA<7.09 vs High rADMA >7.09)

表2から明らかなように、赤血球ADMA濃度は年齢や性別、BMIトータルコレステロール、eGFRよりも強くHbと関係することがわかった。

0084

赤血球ADMAと鉄代謝指標の相関関係
赤血球ADMA濃度がHb値を反映する理由を明らかとするため、貧血増悪因子である鉄代謝との関連を確認した。具体的には、赤血球ADMA濃度と血清鉄およびトランスフェリン飽和度(TSAT)との相関を調べた。

0085

(1)血清鉄の測定
プレイン採血した全血(10ml)を遠心(3,000rpm、4℃、10分)し、血清を採取した。自動分析装置LABOSPECT008(ヒタチハイテクノロジー)および試薬L−タイプワコーFe(和光純薬工業株式会社)を使用し、血清試料(7.5ul)を用いて測定した。

0086

(2)TSATの測定
プレイン採血した全血(10ml)を遠心(3,000rpm、4℃、10分)し、血清を採取した。自動分析装置LABOSPECT008(ヒタチハイテクノロジー)および試薬L−タイプワコーUIBC(和光純薬工業株式会社)を使用し、血清試料(7.5ul)を用いてUIBC(unsaturated iron binding capacity;不飽和鉄結合能)を測定した。TSATは血清鉄/(血清鉄+UIBC)の式で算出した。

0087

(3)赤血球ADMA濃度と血清鉄およびTSATとの相関
赤血球ADMA濃度と血清鉄およびTSATとの相関を図5に示す。図5に示す結果から明らかなように、赤血球ADMA濃度は血清鉄(パネル(A))およびTSAT(パネル(B))と有意な負の相関を示した。このことから、赤血球ADMA濃度の上昇は造血に対する鉄利用能の低下と関連し、貧血の増悪を反映すると考えられた。

0088

赤血球ADMAとNT−proBNP(心疾患マーカー)の相関関係
腎性貧血はCKD進展だけでなく心疾患のリスク因子であり、腎性貧血による病態の把握や治療効果の判定において貧血の程度と心疾患リスクの両方を反映することは重要であると考えられた。そこで、赤血球ADMA濃度と、心疾患のリスク因子として知られるNT−proBNPとの相関を調べた。

0089

(1)NT−proBNPの測定
プレイン採血した全血(10ml)を遠心(3,000rpm、4℃、10分)し、血清を採取した。免疫分析装置スフィアライトワコー(和光純薬工業株式会社)および専用試薬スフィアライトproBNP(三洋化成工業株式会社)を使用し、血清試料(40ul)を用いてNT−proBNPを測定した。

0090

(2)赤血球ADMA濃度とNT−proBNPとの相関
赤血球ADMA濃度とNT−proBNPとの相関を調べた。その結果を図6に示す。図6に示す結果から明らかなように、赤血球ADMA濃度は、心疾患のリスク因子として知られるNT−proBNPと強い正相関を示した。このことから、赤血球ADMA濃度は貧血の程度のみならず心疾患合併リスクも予測しうることが示唆され、心疾患合併予防効果のある貧血治療判定に有用なマーカーとなると考えられた。

0091

Hbと同様に赤血球ADMA濃度を中央値で分けた二項ロジスティック回帰分析を行った。その結果を表3に示す。
表3:二項ロジスティック回帰分析(Low rADMA <7.09 vs High rADMA >7.09)

表3から明らかなように、腎機能の影響を除いてもNT−proBNPは赤血球ADMA濃度と強い相関関係が認められた。

0092

ESA治療がすでに行われている患者における赤血球ADMA濃度とESA低反応性指数の相関関係
ESA治療がすでに行われている患者における赤血球ADMA濃度について、ESA低反応性指数(ESA resistant index)との相関を調べた。ESA低反応性指数は、ESA dose/week/Hb/BWと定義した。つまり、ESA低反応性指数は、1週間当たりのESA使用量をHb値、体重で補正した値をいう。その結果を図7に示す。

0093

図7に示す結果から明らかなように、ESA治療がすでに行われている患者における赤血球ADMA濃度はESA低反応性指数と有意な正相関を示すことがわかった。このことから、赤血球ADMA濃度はESA低反応性を反映し、赤血球ADMA濃度の低下はESA低反応性の改善の有用な指標となる。

0094

健常者とCKD患者の血清中、赤血球中ADMA濃度比較
明らかな疾患を有さない健常者31名(男性女性;24/7、平均年齢±標準偏差;39.7±7.9)とCKD患者54名の血漿ADMA濃度および赤血球ADMA濃度を比較した。赤血球試料の調製およびADMA濃度測定法は、実施例1の「赤血球ADMAの測定方法」の記載と同様にして行った。二群の比較は、独立したt検定で行った。

0095

その結果を図8に示す(A:**P<0.01;B:*P<0.05)。図8の結果から明らかなように、CKD患者は、血漿ADMA濃度のみならず赤血球ADMA濃度においても健常者に比べて上昇していた。これまでCKD患者において血漿ADMA濃度が上昇することは報告されていたが、CKD患者において赤血球ADMA濃度も有意に上昇していることが本発明によって初めて示された。

0096

CKDモデルマウスにおける赤芽球関連遺伝子の発現
ADMA分解酵素DDAH1TgマウスとワイルドタイプとしてC57BL6マウスを用い、CKDモデルは5/6腎摘を行い作成した。5/6腎摘後12週目に評価したところ、WT−CKD群において、血漿および赤血球のADMA濃度は疑似手術(sham)群と比較し有意に上昇したが、DDAH1Tgマウスにおいてどちらも有意に抑制されていた。CKD群における血圧および腎機能は、WTとTg間に有意な差は認められなかった。一方、興味深いことに、WT—CKDマウスで観察されるHbおよびHtの低下は、Tgマウスにおいて軽度ではあったが有意な改善を認め、網状赤血球の割合も有意に上昇しており、貧血、造血障害が改善された。

0097

マウスにおいて脾臓造血組織である。脾臓のmRNAを抽出し、RTPCRを行った。その結果を図9に示す。図9の結果から明らかなように、WT−CKDにおいて、WT−shamと比較しEpo受容体(EpoR)の発現が有意に低下したが、DDAH1−Tg−CKDにおいてEpoR発現が有意に上昇していた。それにともない、Epo/EpoRシグナルの下流にあって赤芽球の鉄利用に関わる遺伝子(TfR−1、TfR−2、エリスロフェロン)の発現がDDAH−1Tgマウスにおいて有意に上昇していた。

0098

この結果から、CKDにおいて赤芽球中でのADMA蓄積は、EpoRの発現を低下させ、Epo/EpoRシグナルを阻害し、赤芽球の成熟障害を惹起する結果、貧血やESA抵抗性の発症に関与することが示唆された(図10)。赤血球中ADMA濃度は、この赤芽球でのADMA蓄積を反映するため、貧血やESA抵抗性指数と相関したと考えられる。

実施例

0099

LC−MSとELISAによる測定値比較
ADMA濃度測定をLC/MS/MSで行った場合とELISAにより行った場合との相関を調べた。
健常者からの赤血球検体((n=16)について、赤血球溶血サンプル中のADMA濃度をLC/MS/MSおよびELISAの両方法で測定し、得られた測定濃度の相関を調べた。
その結果を図11に示す。得られたピアソン相関係数は0.552であり、LC/MS/MSとELISAとの間で正の相関が認められた。

0100

慢性腎不全患者数は増加の一途を辿っており、ESAを投与される患者数も増加している。ESAの需要は全世界で増加しており、薬剤販売額の統計においても常に上位を占めている。そのため我が国のみならず、多くの国の医療経済に対する負担は大きく、ESAの適正使用ができるバイオマーカーの確立、腎性貧血治療を把握しうるモニター方法の創出が急務となっている。本発明は斯かるバイオマーカーやモニター方法として、腎性貧血におけるESA適正使用のモニターに用いることができる。本発明はさらに、赤血球中ADMA阻害剤の探索におけるリサーチツールやバイオマーカーとして用いることができる。

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