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概要
背景
銅などの非鉄金属の電解製錬では電解精製や電解採取が行われており、例えば電解精製では乾式製錬によって製造された粗金属アノードと、電解液に対して不溶性のステンレスやチタンなどからなるカソードとの間に電解液を介して電流を流してカソード側に目的金属を電着させ、所定の厚みまで目的金属が電着した時に目的金属をカソードから剥ぎ取って回収すると共に剥ぎ取った後のカソードを再利用する方式が一般的に採用されている。
一方、電解採取では粗金属アノードを用いずに不溶性のアノードを用い、析出対象となる目的金属は金属塩として電解浴中に溶解させて還元分解を行うことでカソード側に目的金属を電着させ、所定の厚みまで目的金属が電着した時に目的金属をカソードから剥ぎ取って回収すると共に剥ぎ取った後のカソードを再利用する方式が一般的に採用されている。
上記したように電着した目的金属を剥ぎ取った後のカソードを再利用する方式をパーマネントカソード方式と称しており、この方式で使用されるカソードをパーマネントカソードと称している。パーマネントカソード方式では、前述したように電着した目的金属を剥ぎ取ったあと再び使用することができるので生産コストを低減できる上、製錬操業の全般的な生産効率を向上させることができる。更に、パーマネントカソードは、従来の種板方式の電解精製または電解採取で使用される種板のカソードに比べて電解槽内に装入した時にカソードの垂直性が良好であることを特徴としている。
すなわち、種板のカソードは、種板製造用の電着工程と剥ぎ取り工程を経た電着金属の板をベースに作製されるため板厚が比較的薄く、入手段階で変形している場合がある。そのため、特許文献1に示すようにプレス工程などを経てコーナー部分の反りを修正することが行われるが、依然として比較的大きなひずみが残存することは避けられない。これに対して、パーマネントカソードは、市販のステンレス板等をベースに作製されるため板厚が比較的厚く、新品のみならずある程度使用したものであっても繰り返し使用回数が比較的少ない間は、非常に良好な垂直性を備えている。
ここで、カソードの垂直性とは、カソードのひずみの度合い、すなわちカソードの曲がりや反りの程度を表す定量的な評価基準であり、具体的にはカソードをその上端部を把持して懸垂させた時に、該カソードに対向して設けられた垂直な基準面との距離が最も近い場所と最も遠い場所の差の絶対値でひずみを評価するものである。電解製錬で用いられるパーマネントカソードの場合、未使用で新品のカソードの垂直性はほぼ5mm以内に調整されている。従って、前述したカソードの垂直性が良好とは、カソード全体に曲がりや反りなどのひずみが非常に少なく平坦な状態であり、またカソード表面に凹凸が少なく平滑な状態を指す。
このような垂直性が良好なカソードを電解槽内に懸垂させると、同様に懸垂された隣接するアノードとの局所的な距離のバラツキが少なくなり、アノードとカソードとの間の平均的な距離、すなわち極間距離を小さくすることが可能となる。更に、電流密度を比較的高くしても、カソードとアノードとの間の短絡が発生しにくくなるので電流ロスを低減でき、単位時間当たりの生産量を増やすことができる。また、電着する目的金属の表面状態が平滑になるので、品質の良好な電着金属を得ることができる。
このように、パーマネントカソード方式は種板方式のカソードに比べて垂直性に優れているが、電解槽への装入や電着した目的金属の剥ぎ取りが繰り返されると、装入時に受ける外部からの衝撃や剥ぎ取り装置で受ける曲げの力によりひずみ(塑性変形)が生じてパーマネントカソードの垂直性が徐々に悪化してゆくことがある。
例えば、図1に示すような概略のサイズが縦1200mm×横1200mm×厚さ3mm程度の略矩形形状であって、材質がステンレスやチタンのパーマネントカソードにおいては、繰り返し使用により曲がりや反りが発生して図2に示すように板の厚さ方向に距離Xのひずみを生じる。この距離Xは、使用開始時にはほぼ5mm以内に調整されているが、繰り返し使用することによってひずみが徐々に増加して大きくなっていく。そして、距離Xが10mmを超えるようになると、電解槽内に懸垂させた時に隣接するアノードとの距離が非常に狭くなってしまうため、ひずみを除去するための修正が必要となる。
パーマネントカソードのひずみ修正は、一般にひずみがあると判断されたパーマネントカソードを操業ラインから外してひずみ修正工程に移送し、そのひずみの状況に応じてハンマーによる手作業の修正が加えられたり、特許文献2に示されているように変形の峰の部分に当たる凸部頂点を油圧シリンダーで押込んだりすることが行われる。
概要
平滑性の悪化や飛び移り座屈現象を生じさせることなくパーマネントカソードの反りを修正装置を提供する。カソード面の略中央部を頂部とする凸状ひずみが形成されたパーマネントカソードCのひずみを修正するひずみ修正装置1であって、パーマネントカソードCをその上端部を把持して懸垂させる懸垂手段2と、該パーマネントカソードCの全体的な垂直性が向上するように該凸状ひずみの突出側からカソード面に垂直な方向の静荷重を加えて該凸状ひずみを押し込む油圧シリンダ3bと、該押し込まれるカソード面の反対側の面から、該静荷重が加えられる部分を挟んだ少なくとも2箇所でパーマネントカソードCを水平方向に受け止める受止手段4とを備えているパーマネントカソードCのひずみ修正装置。
目的
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、カソード面の平滑性の悪化や飛び移り座屈現象を生じさせることなくパーマネントカソードのひずみの大きさを低減することが可能な、パーマネントカソードのひずみの修正装置を提供する
効果
実績
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請求項1
カソード面の略中央部を頂部とする凸状ひずみが形成されたパーマネントカソードのひずみを修正するひずみ修正装置であって、パーマネントカソードをその上端部を把持して懸垂させる懸垂手段と、該パーマネントカソードの全体的な垂直性が向上するように該凸状ひずみの突出側からカソード面に垂直な方向の静荷重を加えて該凸状ひずみを押し込む押込手段と、該押し込まれるカソード面とは反対側の面において、該静荷重が加えられる部分を挟んだ少なくとも2箇所で懸垂状態のパーマネントカソードを水平方向に受け止める受止手段とを備えていることを特徴とするパーマネントカソードのひずみ修正装置。
請求項2
前記押込手段は、懸垂状態のパーマネントカソードのカソード面の左右両端部のうち、該凸状ひずみの頂部と同じ水平方向の位置にある2箇所に対して前記静荷重を加えることを特徴とする、請求項1に記載のパーマネントカソードのひずみ修正装置。
請求項3
前記懸垂状態のパーマネントカソードのカソード面の1箇所以上の任意の位置に対してその垂直方向から光線を照射することにより、平坦なカソードを懸垂した時の基準面との差を測定する測定手段を更に備え、該測定手段により得た情報に基づいて前記押込手段による押し込みの距離を決定することを特徴とする、請求項1又は2に記載のパーマネントカソードのひずみ修正装置。
請求項4
技術分野
0001
本発明は、非鉄金属を電解精製または電解採取する際に使用されるパーマネントカソードのひずみ修正装置に関する。
背景技術
0002
銅などの非鉄金属の電解製錬では電解精製や電解採取が行われており、例えば電解精製では乾式製錬によって製造された粗金属アノードと、電解液に対して不溶性のステンレスやチタンなどからなるカソードとの間に電解液を介して電流を流してカソード側に目的金属を電着させ、所定の厚みまで目的金属が電着した時に目的金属をカソードから剥ぎ取って回収すると共に剥ぎ取った後のカソードを再利用する方式が一般的に採用されている。
0003
一方、電解採取では粗金属アノードを用いずに不溶性のアノードを用い、析出対象となる目的金属は金属塩として電解浴中に溶解させて還元分解を行うことでカソード側に目的金属を電着させ、所定の厚みまで目的金属が電着した時に目的金属をカソードから剥ぎ取って回収すると共に剥ぎ取った後のカソードを再利用する方式が一般的に採用されている。
0004
上記したように電着した目的金属を剥ぎ取った後のカソードを再利用する方式をパーマネントカソード方式と称しており、この方式で使用されるカソードをパーマネントカソードと称している。パーマネントカソード方式では、前述したように電着した目的金属を剥ぎ取ったあと再び使用することができるので生産コストを低減できる上、製錬操業の全般的な生産効率を向上させることができる。更に、パーマネントカソードは、従来の種板方式の電解精製または電解採取で使用される種板のカソードに比べて電解槽内に装入した時にカソードの垂直性が良好であることを特徴としている。
0005
すなわち、種板のカソードは、種板製造用の電着工程と剥ぎ取り工程を経た電着金属の板をベースに作製されるため板厚が比較的薄く、入手段階で変形している場合がある。そのため、特許文献1に示すようにプレス工程などを経てコーナー部分の反りを修正することが行われるが、依然として比較的大きなひずみが残存することは避けられない。これに対して、パーマネントカソードは、市販のステンレス板等をベースに作製されるため板厚が比較的厚く、新品のみならずある程度使用したものであっても繰り返し使用回数が比較的少ない間は、非常に良好な垂直性を備えている。
0006
ここで、カソードの垂直性とは、カソードのひずみの度合い、すなわちカソードの曲がりや反りの程度を表す定量的な評価基準であり、具体的にはカソードをその上端部を把持して懸垂させた時に、該カソードに対向して設けられた垂直な基準面との距離が最も近い場所と最も遠い場所の差の絶対値でひずみを評価するものである。電解製錬で用いられるパーマネントカソードの場合、未使用で新品のカソードの垂直性はほぼ5mm以内に調整されている。従って、前述したカソードの垂直性が良好とは、カソード全体に曲がりや反りなどのひずみが非常に少なく平坦な状態であり、またカソード表面に凹凸が少なく平滑な状態を指す。
0007
このような垂直性が良好なカソードを電解槽内に懸垂させると、同様に懸垂された隣接するアノードとの局所的な距離のバラツキが少なくなり、アノードとカソードとの間の平均的な距離、すなわち極間距離を小さくすることが可能となる。更に、電流密度を比較的高くしても、カソードとアノードとの間の短絡が発生しにくくなるので電流ロスを低減でき、単位時間当たりの生産量を増やすことができる。また、電着する目的金属の表面状態が平滑になるので、品質の良好な電着金属を得ることができる。
0008
このように、パーマネントカソード方式は種板方式のカソードに比べて垂直性に優れているが、電解槽への装入や電着した目的金属の剥ぎ取りが繰り返されると、装入時に受ける外部からの衝撃や剥ぎ取り装置で受ける曲げの力によりひずみ(塑性変形)が生じてパーマネントカソードの垂直性が徐々に悪化してゆくことがある。
0009
例えば、図1に示すような概略のサイズが縦1200mm×横1200mm×厚さ3mm程度の略矩形形状であって、材質がステンレスやチタンのパーマネントカソードにおいては、繰り返し使用により曲がりや反りが発生して図2に示すように板の厚さ方向に距離Xのひずみを生じる。この距離Xは、使用開始時にはほぼ5mm以内に調整されているが、繰り返し使用することによってひずみが徐々に増加して大きくなっていく。そして、距離Xが10mmを超えるようになると、電解槽内に懸垂させた時に隣接するアノードとの距離が非常に狭くなってしまうため、ひずみを除去するための修正が必要となる。
0010
パーマネントカソードのひずみ修正は、一般にひずみがあると判断されたパーマネントカソードを操業ラインから外してひずみ修正工程に移送し、そのひずみの状況に応じてハンマーによる手作業の修正が加えられたり、特許文献2に示されているように変形の峰の部分に当たる凸部頂点を油圧シリンダーで押込んだりすることが行われる。
先行技術
0011
特開平11−256387号公報
特開2012−207273号公報
発明が解決しようとする課題
0012
しかし、ハンマーを用いて手作業でひずみの修正を行う場合、パーマネントカソードには局所的に大きな荷重が加えられるため、パーマネントカソードの表面に凹凸やキズがついて表面の平滑性が損なわれることが多く、そのまま再使用すると電着金属を剥ぎ取る際の剥離性が悪化するなどの問題が生じていた。また、ハンマーをパーマネントカソードに打ち付ける作業は騒音の発生を伴うので耳栓などの保護具を着用する必要があり、作業環境を悪化させる要因になっていた。
0013
特許文献2のひずみ修正方法は自動制御によるカソード面の変形修正方法であるため、上記したハンマーを用いた手作業の問題は生じないが、パーマネントカソードを繰り返し使用していると、図2に示すような初期段階に生じる横方向に端から端まで屈曲部が連続するような変形以外に、図3に示すようなカソード面の略中央部を頂部とする凸状のひずみが発生し始める。そして、凸状ひずみの高さが大きくなった時に凸状ひずみの頂部を油圧シリンダーで押込むことによりひずみを修正しようとすると、押込み行程の途中の段階で凸状ひずみがいわゆる飛び移り座屈現象を生じ、凸状ひずみの突出方向がカソード面の反対側へ移るだけで、ひずみを十分に低減できない場合があった。
0014
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、カソード面の平滑性の悪化や飛び移り座屈現象を生じさせることなくパーマネントカソードのひずみの大きさを低減することが可能な、パーマネントカソードのひずみの修正装置を提供することを目的とする。
課題を解決するための手段
0015
上記目的を達成するため、本発明が提供するパーマネントカソードのひずみ修正装置は、カソード面の略中央部を頂部とする凸状ひずみが形成されたパーマネントカソードのひずみを修正するひずみ修正装置であって、パーマネントカソードをその上端部を把持して懸垂させる懸垂手段と、該パーマネントカソードの全体的な垂直性が向上するように該凸状ひずみの突出側からカソード面に垂直な方向の静荷重を加えて該凸状ひずみを押し込む押込手段と、該押し込まれるカソード面とは反対側の面において、該静荷重が加えられる部分を挟んだ少なくとも2箇所で懸垂状態のパーマネントカソードを水平方向に受け止める受止手段とを備えていることを特徴としている。
発明の効果
0016
本発明によれば、パーマネントカソードのカソード面の平滑性を損なわせたり、飛び移り座屈現象を生じさせたりすることなく、パーマネントカソードのひずみの大きさを低減することが可能になる。これにより得られるひずみが小さく垂直性が良好なパーマネントカソードは、電解槽内に懸垂した時に隣接するアノードとの間の距離の局所的なバラツキが少なくなり、よって互いに隣接するアノードとカソードとの間の平均的な距離、すなわち極間距離を小さくすることが可能となる。更に、比較的高い電流密度で電解精製や電解採取を行っても、カソードとアノードとの間の短絡が発生しにくくなるので電流ロスを低減でき、単位時間当たりの生産量を増やすことができる。また、電着する目的金属の表面状態を平滑にできるので、品質の良好な電着金属を得ることができる。
図面の簡単な説明
0017
基準となるひずみのないパーマネントカソードを模式的に示す正面図(a)及び側面図(b)である。
初期段階の直線状のひずみを有するパーマネントカソードを模式的に示す正面図(a)、側面図(b)及び斜視図(c)である。
繰り返し使用した結果発生した略中央部を頂部とする凸状ひずみを有するパーマネントカソードを模式的に示した斜視図である。
略中央部を頂部とする凸状ひずみを有するパーマネントカソードを本発明の修正装置を用いて修正した後の模式的な斜視図である。
本発明によるパーマネントカソードのひずみ修正装置の一具体例を示す正面図(a)、側面図(b)及び斜視図(c)である。
図5のひずみ修正装置を用いてパーマネントカソードのひずみを修正している様子を示す正面図(a)、側面図(b)及び斜視図(c)である。
0018
以下、本発明のパーマネントカソードのひずみの修正装置の一具体例について詳細に説明する。なお、以下の説明においては、図1に示すような縦1200mm×横1200mm×厚さ3mm程度のパーマネントカソードに図3に示すようなカソード面の略中央部を頂部とする凸状のひずみが形成された場合にこのひずみの大きさを低減させる場合を例に挙げて説明するが、本発明のひずみ修正装置はこのような場合に限定されるものではない。
0019
図5(a)〜(c)に示すように、本発明の一具体例のひずみ修正装置1は、修正対象となるパーマネントカソード(図示せず)をその上端部を把持して懸垂させる懸垂手段2を有している。この懸垂手段2は、具体的にはホイストクレーンの可動部Mに取り付けられた略三角形の枠形状の吊手部2aと、その下側の2つの隅部から各々垂下する棒状の係合部2bとから構成される。各係合部2bの先端はムの字状に折り曲げられており、この先端部分にパーマネントカソードの上端部に形成されている開口部が引っ掛けて把持できるようになっている。懸垂手段2は、懸垂状態のパーマネントカソードの位置合わせのため、そのカソード面に対して縦横方向や垂直方向、すなわち図5(a)における紙面の上下左右前後の方向に任意に移動可能であることが好ましい。
0020
本発明の一具体例のひずみ修正装置1は、更に、上記した懸垂手段2によって懸垂状態にあるパーマネントカソードのカソード面の左右両端部のうち、カソード面に形成されている凸状ひずみの頂部と略同じ水平方向の位置にある2箇所の特定部位に対して、カソード面に垂直であって且つ該凸状ひずみが突出している側から静荷重を加えて押し込むことが可能な押込手段3を有している。この押込手段3は、具体的には上記した2箇所の特定部位が互いに離間する距離以上の長さを有する棒状部材であって且つ該2箇所の特定部位に対応する位置に各々突起部が設けられた押し冶具3aと、この押し冶具3aをその突起部を水平に突出させ且つその長手方向を水平に維持した状態で該突起部の突出方向に押し冶具3aを往復動させる油圧シリンダ3bとからなる。
0021
本発明の一具体例のひずみ修正装置1は、更に、上記した押込手段3で押し込まれるカソード面とは反対側の面において、静荷重が加えられるカソード面の部分を挟んだ少なくとも2箇所でパーマネントカソードを水平方向に受け止める受止手段4を有している。この受止手段4は、具体的には壁面が鉛直方向に固定された固定壁部4aと、パーマネントカソードのカソード面の横幅以上の長さを有し且つ固定壁部4aの壁面上において水平方向に固定された棒状部材4bとからなる。
0022
この棒状部材4bの具体的な長手方向の長さ、該長手方向に垂直な断面の形状やサイズ、及び固定壁部4aに設ける個数は、修正対象となるパーマネントカソードのひずみの状況により適宜選択すればよい。但し棒状部材4bの材質は、受け止めるパーマネントカソードを傷つけないように、パーマネントカソードCの材質よりも軟らかい木材などの材質が好ましい。また、固定壁部4aの壁面上における棒状部材4bの設置方法は、ボルトとナットによるネジ止め方式や、棒状部材4bにシート状磁石などを接合させると共に固定壁部4aの材質を鉄などの強磁性体にすることで棒状部材4bを固定する磁力方式や、フックとレールによる懸垂方式など任意の方式を採用することができる。
0023
パーマネントカソードの凸形状がほぼ同じ位置に発生することが分かっている場合は、固定壁部4aの水平方向両端部に1対のフック状保持部を取り付け、それらに棒状部材4bを引っ掛けて架け渡すようにしてもよい。これにより、連続使用等により棒状部材4bが損傷して交換を要する場合に、容易に取付け取外しを行うことができる。
0024
次に、図6を参照しながら上記したひずみ修正装置1を用いてパーマネントカソードCのひずみを修正する方法について説明する。まず、繰り返し使用されてカソード面のほぼ中央部に頂部を有する凸状のひずみが発生したパーマネントカソードCの上端の開口部に、ホイストクレーンの可動部Mに取り付けられた懸垂手段2の係合部2bの先端を係合させてカソード面が水平方向に対して略垂直になるように懸垂し、パーマネントカソードCの該凸状ひずみの凸側のカソード面が押込手段3に対面し、且つ凸状ひずみの凹側のカソード面が受止手段4の固定壁部4aに対面するように、パーマネントカソードCを押し冶具3aと棒状部材4bとの間に装入する。
0025
次に、懸垂手段2によって懸垂状態にあるパーマネントカソードCを、上下左右に適宜移動させて、油圧シリンダ3bのシリンダの先端部が凸状ひずみの頂部を指し示すように位置合わせする。これにより、油圧シリンダ3bの先端部に取り付けられている押し冶具3aをパーマネントカソードCに向けて前進させた時、該押し冶具3aの両端部に設けられている突起部をパーマネントカソードCの両端部のうち凸状ひずみの頂部と同じ水平方向の位置にある2箇所に凸側からパーマネントカソードCの厚み方向に同時に押し込むことができる。この時、押し冶具3aの長手方向は水平方向から傾かないようにしっかりと保持されているのが好ましい。
0026
パーマネントカソードCのひずみを修正するためには、パーマネントカソードCを適度に塑性変形させる必要がある。従って、油圧シリンダ3bでパーマネントカソードCを押し込む際の押込み量(ストローク距離)を決める場合は、パーマネントカソードの弾性変形によるスプリングバックを考慮し、このスプリングバック分だけ余分に押し込む必要がある。ただし、押込み量が過剰になったり押し込む位置が不適切であったりすると凸部の飛び移り座屈が発生したり、逆方向にひずみ量が増加してしまう場合があるので、適切な押込み量と押込み部位を設定するのが好ましい。上記の方法で修正を行うことにより、修正前にカソード面の略中央部を頂部とする凸状のひずみを有していたパーマネントカソードを図4に示すように修正することができる。この図4に示すパーマネントカソードは、図3に示すような一般的な修正前のパーマネントカソードに比べて紙面左側の2隅部分がより基準面に近づいており、修正によりパーマネントカソードの全体的な垂直性が向上しているのが分かる。
0027
本発明の一具体例のひずみ修正装置においては、上記したように略中央部に頂部を有する凸状ひずみが形成されたパーマネントカソードCのカソード面の左右両端部のうち、該凸状ひずみの頂部と同じ水平方向の位置にある2箇所に対してカソード面に垂直に押圧するので、上記した座屈等の問題が生じにくくなる。ここでカソード面の左右両端部とは、カソード面の左右両縁部からそれぞれ150mm内側まで、好ましくはそれぞれ100mm内側までの帯状領域をいうものとする。
0028
一方、油圧シリンダ3bの押込み量は、パーマネントカソードCに発生した凸状ひずみの高さやそのカソード面に占める割合等に応じて適宜決定してもよいが、一般に最適な押込み量は、上記のひずみの大きさのほか、カソードの材質や大きさ、厚みによって異なる。そのため、事前に使用するパーマネントカソードと同じ材質、同じサイズの物を用いて、押込み量とひずみ量の関係を求めておくのが好ましい。この場合の油圧シリンダ3bの押込み量は、押し冶具3aがカソード面に接した状態を0と規定することにより、毎回同じ条件で処理することが可能になる。また、同じ形状の修正データを積み上げフィードバックすることにより、ひずみ量と押込み量との相関関係の精度を向上させることが出来る。ここで凸状ひずみのひずみ量あるいは凸状ひずみの高さとは、パーマネントカソードをその上端部を把持して懸垂させた時、該把持部におけるひずみの凸側の面を通る垂直面(基準面)から凸状部の頂点までの距離をいうものとする。
0029
油圧シリンダ3bで静荷重を加える際、押し冶具3aで押される位置を上下から挟んだ少なくとも2箇所に、パーマネントカソードCを固定壁部4a側から受け止めるような棒状部材4bを固定壁部4aのカソード側に設置する。これにより、いわゆる3点曲げの状態でパーマネントカソードCを押し込むことができる。この棒状部材4bがあることで、押し冶具3aで押されたパーマネントカソードCの両端部のうち凸状ひずみの頂点と同じ水平位置にある2箇所では、固定壁部4a側に凸形状となるように塑性変形させることができる。その結果、油圧シリンダ3bの荷重を取り去った後に弾性変形によりスプリングバックが発生しても、パーマネントカソードCの左右両端部分は修正前に比べて平坦になるか、あるいは修正前とは表裏逆向きの凸状ひずみが局所的に形成されることでパーマネントカソードCの全体のひずみを低減することができる。
0030
なお、本装置を用いてひずみを修正する場合、油圧シリンダ3bを押込んでいき、パーマネントカソードCを押し冶具3aと棒状部材4bで挟み、これらとパーマネントカソードCとの摩擦力によりパーマネントカソードCが落下しない状態になった時に、ホイストクレーンに取り付けられている懸垂手段2を少し下げて、押し冶具3aを更に押込んだ場合にパーマネントカソードCの上部が自由に動けるようにして変形を妨げないようにするのが好ましい。
0031
全体のひずみ量は、固定壁部4aにおいて油圧シリンダ3bの設置側とは反対側に設置した光学式距離計により測定することができる。測定の際は、パーマネントカソードCを所定の位置に固定してカソード面上の同じ位置を毎回測定するのが好ましい。そのため、パーマネントカソードCを吊り下げる懸垂手段に専用のフックを用いてもよい。固定壁部4aには予め厚み方向に貫通する測定孔5を設けておき、光学式距離計から放出される光線を測定孔5を経てパーマネントカソードCのカソード面に投射し、カソード面で光線を反射させてその反射光を再度測定孔5を経て光学式距離計の受光部で検知する。これにより光学式距離計とカソード面の測定部位との間の距離を測定することができる。
0032
上記のようにして凸状に変形したパーマネントカソードCのひずみ量を測定する前に、変形がほとんどない平坦な基準板を光学式距離計で測定し、基準面の測定結果として参照するのが好ましい。そして、凸形状に変形したパーマネントカソードCの測定の際に、カソード面上の同じ位置を同様に測定し、基準面との差分量を求めることで、任意の位置におけるパーマネントカソードCの基準面からの変位量を推定することができる。また、懸垂状態のパーマネントカソードCの上下方向中央に位置する中心線上の各変位量を測定することで、懸垂状態のパーマネントカソードCを該中心線で切断した時の断面形状を把握することができ、この結果からパーマネントカソードCの凸形状の高さを見積もることができる。
0033
ひずみ量が管理値である10mmを超えて修正対象となったパーマネントカソードCの凸形状の高さを上記の方法で測定したところ、ほぼ4〜6mmのものが多かった。凸形状の高さがこの範囲にあるパーマネントカソードCに対して上記した本発明の一具体例のひずみ修正装置を用いて修正する場合は、飛び移り座屈を発生させずにひずみ量を最低レベルまで低減できる油圧シリンダ3bの押込み量は、実測とシミュレーションを繰り返し行った結果、18〜21mmであった。
0034
以上説明したように、本発明のパーマネントカソードのひずみ修正装置を用いることで、パーマネントカソードの中央部分の凸形状が大きく変形した際に、その凸形状頂点を押した場合に生じる凸形状全体の飛び移り座屈を発生させることなく、ひずみを低減することができる。凸形状で飛び移り座屈が発生した場合、ひずみ量は修正前と同等もしくはそれ以上になることが多いため、飛び移り座屈を生じさせないことは重要である。
0035
また、本発明のひずみ修正装置は静荷重によりひずみを修正するものであるため、ハンマーで修正する場合と比較して、パーマネントカソードの表面を傷つけたり、表面粗さを大きくすることはない。よって、電着金属の剥離性が悪化することは無く、またハンマーを使用した作業に比べて、作業者への肉体的、作業環境的な負担は格段に小さい。また、プレス機、レベラー等の機械に比べて本発明のひずみ修正装置は機構が簡易であって比較的安価であり、設置費用や設置面積を小さく抑えることができる。更に、作業者の身体の一部が挟まれたり巻き込まれたりする労働災害上の危険性も少ないので、コストアップの要因となる特殊な安全装置を準備する必要は特にない。
0036
(実施例)
銅電解工程において繰り返し使用することで略中央部に頂部を有する凸状ひずみが生じたステンレス製のパーマネントカソード100枚に対して、図5に示すようなひずみ修正装置を用いてひずみ修正作業を実施した。修正前のパーマネントカソードは、凸状ひずみの高さが4〜6mmで、厚み方向のひずみは図1に示す距離Xにおいて10mm以上であったが、修正後はすべてのパーマネントカソードが上記距離Xで7mm以下になった。これら100枚のパーマネントカソードのひずみ修正に必要とした作業工数は延べ16時間×人程度であった。
0037
[比較例1]
パーマネントカソードのひずみの状況に合わせて、ハンマー作業およびプレス作業を選択しながら従来のひずみ修正作業をしたこと以外は、上記実施例と同様にひずみの修正作業を実施したところ、すべてのパーマネントカソードを、上記距離Xが7mm以下となるようにひずみ修正するために必要とした作業工数は延べ48時間×人程度であった。
実施例
0038
[比較例2]
押込手段に用いる押し冶具をパーマネントカソードの横幅よりも長い単なる棒状治具に変更した以外は、上記実施例と同様にしてひずみの修正作業を実施したところ、100枚中35枚で飛び移り座屈を生じ、上記距離Xを5mm以下にすることができなかった。
0039
Cパーマネントカソード
1ひずみ修正装置
2懸垂手段
3押込手段
4 受止手段
5 測定孔