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技術 機能欠損型グルコラファサチン合成酵素遺伝子及びその利用

出願人 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
発明者 柿崎智博石田正彦小原隆由吹野伸子
出願日 2014年11月7日 (5年3ヶ月経過) 出願番号 2014-226635
公開日 2016年5月23日 (3年8ヶ月経過) 公開番号 2016-086761
状態 特許登録済
技術分野 植物の育種及び培養による繁殖 突然変異または遺伝子工学 酵素・酵素の調製 酵素、微生物を含む測定、試験
主要キーワード 両系統とも 破砕試料 対象ダイ 切り干し大根 特定品種 優良個体 重イオンビーム 辛み成分
関連する未来課題
重要な関連分野

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図面 (19)

課題

大根加工食品等における風味劣化沢庵臭の発生、及び黄変化等の品質劣化の問題を根本的に解決する技術に関して、グルコラファサチン欠失性を示すダイコン系統を、短期間で且つ高い精度にて作出可能とする技術を提供することを目的とする。

解決手段

(A)グルコラファサチン合成酵素遺伝子を構成するエクソン内に、コード蛋白質における2オキソグルタル酸−鉄(II)依存性オキシゲナーゼドメインの全部又は一部の欠失を伴う変異を有する特徴、(B)野生型遺伝子コーディング領域に相当する領域に存在する変異の数が、野生型遺伝子のコーディング領域の塩基数の5%以下である特徴、及び(C)ダイコンゲノムにおけるグルコラファサチン合成酵素遺伝子座が当該機能欠損型遺伝子のホモ型となった場合に、肥大根部のグルコラファサチンを欠失又は実質的に欠失する特徴、を有する機能欠損型グルコラファサチン合成酵素遺伝子。

概要

背景

グルコシノレートは、カラシ油配糖体とも呼ばれる含硫化合物の総称であり、アブラナ科及びその近縁科の植物に特徴的に含まれる二次代謝物質である。アブラナ科植物には、化合物構造の異なる120種以上のグルコシノレートが報告されている。
アブラナ科植物の一種であるダイコン(Raphanus sativus)では、その主要なグルコシノレートは「グルコラファサチン」と呼ばれる物質である。ダイコンの肥大根部に含まれる総グルコシノレート量は、実に90%以上がグルコラファサチンで占められている。
グルコラファサチンは、ダイコンに特徴的なグルコシノレートであり、ダイコンが属するRaphanusと同じアブラナ科の植物(例えば、近縁属であるBrassicaなど)においても、グルコラファサチンを優占グルコシノレート成分として含む植物は見出されていない。

ダイコンに含まれるグルコラファサチンは、それ自体はほとんど無味無臭化合物であるが、内在性酵素ミロシナーゼが作用して4メチルチオ−3−ブテニルイソチオシアネートと呼ばれるダイコン特有辛み成分となる。「4メチルチオ−3−ブテニルイソチオシアネート」は、イソチオシアネートの一種であるが、化合物として不安定な物質であるため、短時間で化学分解されてしまう性質を有する。ダイコンおろし等のダイコン加工品辛味が短時間で消失してしまい、風味劣化を抑えた保管がしにくい問題は、4メチルチオ−3−ブテニルイソチオシアネートの不安定さに起因する現象である。
さらに、ダイコンに含まれるグルコラファサチンは、ダイコンを加工した食品において、ダイコン特有の悪臭黄変の問題を引き起こす、深刻な原因成分となっている。
図1に示すように、ダイコンに特徴的な悪臭である沢庵臭大根臭等と表現される場合もある)の原因成分であるメチルメルカプタン等の生成や、黄変による色ムラ発生の原因成分である黄色成分TPMP(2−[3−(2−チオキソピロリジン−3−イリデンメチル]−トリプトファン)の生成などは、グルコラファサチンから生成された4メチルチオ−3−ブテニルイソチオシアネートの分解によって引き起こされる現象である。
このような「風味劣化」、「沢庵臭の発生」及び「黄変化による色ムラの発生」は、特に保存等の経時変化加熱処理等に伴って顕著な問題となる現象である。特に、一部の大根漬、大根おろし切り干し大根等の大根加工食品において、その品質を著しく劣化させる主たる原因となっている。
現在、日本国内のダイコン生産量の約6割が加工用として使用されていることから、大根加工食品等における風味劣化防止、低臭化、及び黄変化防止を実現可能とする技術は、農業及び飲食品産業の各分野の製造業者等にとって、その解決が切望されている技術である。

このような産業分野からの要望応えて、本発明者らは、大根加工食品等における風味劣化、沢庵臭の発生、及び黄変化等の品質劣化の問題を解決するため、グルコシノレート組成が通常のダイコン品種系統とは全く異なるダイコン系統作出に取り組んだ。
その結果、本発明者らは、特定の品種系統に着目して人為的な育種的操作を行うことによって、グルコラファサチンとは別種のグルコシノレートを高含有する形質を有するダイコン系統を作出できることを見出した(特許文献1)。具体的には、本発明者らは、特許文献1に記載の方法に従って、種子やスプラウト等に「グルコラファニン」(※抗癌作用成分であるスルホラファン前駆物質)を高含有する系統、肥大根部に「グルコエルシン」を高含有する系統、などを複数系統作出し、そのうちの1系統である「安濃5号」を、ダイコン品種「だいこん中間母本農5号」として品種登録した(品種登録第22662号)。

概要

大根加工食品等における風味劣化、沢庵臭の発生、及び黄変化等の品質劣化の問題を根本的に解決する技術に関して、グルコラファサチン欠失性を示すダイコン系統を、短期間で且つ高い精度にて作出可能とする技術を提供することを目的とする。(A)グルコラファサチン合成酵素遺伝子を構成するエクソン内に、コード蛋白質における2オキソグルタル酸−鉄(II)依存性オキシゲナーゼドメインの全部又は一部の欠失を伴う変異を有する特徴、(B)野生型遺伝子コーディング領域に相当する領域に存在する変異の数が、野生型遺伝子のコーディング領域の塩基数の5%以下である特徴、及び(C)ダイコンゲノムにおけるグルコラファサチン合成酵素遺伝子座が当該機能欠損型遺伝子のホモ型となった場合に、肥大根部のグルコラファサチンを欠失又は実質的に欠失する特徴、を有する機能欠損型グルコラファサチン合成酵素遺伝子。

目的

本発明は、上記従来技術の課題を鑑みて、大根加工食品等における風味劣化、沢庵臭の発生、及び黄変化等の品質劣化の問題を根本的に解決する技術に関して、グルコラファサチン欠失性を示すダイコン系統を、短期間で且つ高い精度にて作出可能とする技術を提供する

効果

実績

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請求項1

下記(A)、(B)、及び(C)に記載の特徴を有する、機能欠損型グルコラファサチン合成酵素遺伝子;(A)下記(a1)に記載の遺伝子を構成するエクソン内に、コード蛋白質における2オキソグルタル酸−鉄(II)依存性オキシゲナーゼドメインの全部又は一部の欠失を伴う変異を有する特徴、(a1)配列番号5に記載のアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列と95%以上の配列相同性を示すアミノ酸配列、からなる蛋白質をコードする遺伝子であって、グルコエルシンからグルコラファサチンへの合成反応関与する蛋白質をコードする遺伝子、(B)当該機能欠損型グルコラファサチン合成酵素遺伝子において、配列番号2に記載の塩基配列からなる遺伝子のコーディング領域に相当する領域に存在する置換、挿入、及び/又は欠失による変異の数が、配列番号2に記載の塩基配列からなる遺伝子のコーディング領域を構成する塩基数の5%以下である特徴、(C)ダイコンゲノムにおけるグルコラファサチン合成酵素遺伝子座が当該機能欠損型グルコラファサチン合成酵素遺伝子のホモ型となった場合に、肥大根部のグルコラファサチン含量が3μmоl/g以下となる特徴。

請求項2

上記(A)に記載の変異が、少なくとも1kbpの塩基配列の挿入を伴う変異である、請求項1に記載の機能欠損型グルコラファサチン合成酵素遺伝子。

請求項3

上記機能欠損型グルコラファサチン合成酵素遺伝子が、配列番号7又は9に記載の塩基配列を含む遺伝子である、請求項1又は2に記載の機能欠損型グルコラファサチン合成酵素遺伝子。

請求項4

請求項1〜3のいずれかにおける上記(A)に記載の変異の存在の有無を検出することを特徴とする、ダイコンにおけるグルコラファサチン合成酵素遺伝子座の遺伝子型判定方法。

請求項5

下記(D)及び(E)に記載のオリゴヌクレオチドプライマーを含んでなることを特徴とする、ダイコンにおけるグルコラファサチン合成酵素遺伝子座の遺伝子型判定用キット;(D)請求項1〜3のいずれかに記載の機能欠損型グルコラファサチン合成酵素遺伝子又は当該遺伝子と同じ染色体上の領域、を構成する塩基配列又はその相補配列に含まれる塩基配列であって、上記(A)に記載の変異の存在を検出可能な位置に設計された少なくとも12塩基からなる塩基配列、を含むオリゴヌクレオチドプライマー、(E)請求項1〜3のいずれかに記載の機能欠損型グルコラファサチン合成酵素遺伝子又は当該遺伝子と同じ染色体上の領域、を構成する塩基配列又はその相補配列に含まれる少なくとも12塩基からなる塩基配列であって、上記(D)に記載のプライマープライマー対を形成可能な位置にある塩基配列、を含むオリゴヌクレオチドプライマー。

請求項6

上記(D)に記載のプライマーが、下記(d1)又は(d2)に記載のオリゴヌクレオチドプライマーである、請求項5に記載の遺伝子型判定用キット;(d1)上記(A)に記載の変異が挿入変異である場合において、当該変異を構成する塩基配列又はその相補配列を含むオリゴヌクレオチドプライマー、(d2)上記(A)に記載の変異をその配列内に含む塩基配列、を含むオリゴヌクレオチドプライマー。

請求項7

さらに、下記(F)及び(G)に記載のオリゴヌクレオチドプライマーを含んでなる、請求項5又は6に記載の遺伝子型判定用キット;(F)請求項1〜3のいずれかにおける上記(a1)に記載のグルコラファサチン合成酵素遺伝子又は当該遺伝子と同じ染色体上の領域、を構成する塩基配列又はその相補配列に含まれる塩基配列であって、上記(A)に記載の変異の不存在を検出可能な位置に設計された少なくとも12塩基からなる塩基配列、を含むオリゴヌクレオチドプライマー、(G)請求項1〜3のいずれかにおける上記(a1)に記載のグルコラファサチン合成酵素遺伝子又は当該遺伝子と同じ染色体上の領域、を構成する塩基配列又はその相補配列に含まれる少なくとも12塩基からなる塩基配列であって、上記(F)に記載のプライマーとプライマー対を形成可能な位置にある塩基配列、を含むオリゴヌクレオチドプライマー。

請求項8

下記(H)又は(I)に記載のオリゴヌクレオチドプローブを含んでなることを特徴とする、ダイコンにおけるグルコラファサチン合成酵素遺伝子座の遺伝子型判定用キット;(H)請求項1〜3のいずれかに記載の機能欠損型グルコラファサチン合成酵素遺伝子を構成する塩基配列又はその相補配列に含まれる少なくとも12塩基からなる塩基配列であって、上記(A)に記載の変異が挿入変異である場合における当該変異を構成する塩基配列又はその相補配列、を含むオリゴヌクレオチドプローブ、(I)請求項1〜3のいずれかに記載の機能欠損型グルコラファサチン合成酵素遺伝子を構成する塩基配列又はその相補配列に含まれる少なくとも12塩基からなる塩基配列であって、上記(A)に記載の変異をその配列内に含む塩基配列、を含むオリゴヌクレオチドプローブ。

請求項9

下記(J)、(K)、及び(L)に記載の特徴を有する、請求項5〜8のいずれかに記載の遺伝子型判定用キット;(J)上記機能欠損型グルコラファサチン合成酵素遺伝子が、配列番号7又は9に記載の塩基配列を含む機能欠損型グルコラファサチン合成酵素遺伝子である特徴、(K)上記グルコラファサチン合成酵素遺伝子が、配列番号2に記載の塩基配列からなるグルコラファサチン合成酵素遺伝子である特徴、(L)上記染色体上の領域が、配列番号1における第1番目から第2971番目までの塩基からなる塩基配列で構成される領域、及び、配列番号1における第4759番目から第7424番目までの塩基からなる塩基配列で構成される領域、である特徴。

請求項10

請求項1〜3のいずれかに記載の機能欠損型グルコラファサチン合成酵素遺伝子を、ゲノムにおけるグルコラファサチン合成酵素遺伝座にホモ型で有し、肥大根部の乾燥重量に対するグルコラファサチン含量が3μmоl/g以下であることを特徴とするダイコン系統

請求項11

下記(M)〜(O)のいずれかに記載のダイコンを自殖操作し又は所望のダイコンと交配し、その後代集団から選抜して得られた、請求項10に記載のダイコン系統;(M)ゲノムにおけるグルコラファサチン合成酵素遺伝子座に、請求項1〜3のいずれかに記載の機能欠損型グルコラファサチン合成酵素遺伝子が導入されたダイコン、(N)ゲノムにおけるグルコラファサチン合成酵素遺伝子に機能欠損型変異が導入されたダイコンであって、ゲノムにおけるグルコラファサチン合成酵素遺伝子座に請求項1〜3のいずれかに記載の機能欠損型グルコラファサチン合成酵素遺伝子を有するダイコン、(O)上記(M)又は(N)に記載のダイコンの後代集団から得られたダイコンであって、請求項1〜3のいずれかに記載の機能欠損型グルコラファサチン合成酵素遺伝子をゲノムにおけるグルコラファサチン合成酵素遺伝子座に有するダイコン。

請求項12

上記機能欠損型グルコラファサチン合成酵素遺伝子が、配列番号7又は9に記載の塩基配列を含む機能欠損型グルコラファサチン合成酵素遺伝子である、請求項10又は11に記載のダイコン系統。

請求項13

請求項10〜12のいずれかに記載のダイコン系統の植物体から得られた、根、胚軸部、肥大根部、葉、葉柄花蕾、花、種子、スプラウトベビーリーフ、又は

請求項14

下記(P)に記載の工程を含むことを特徴とする、ダイコンにおけるグルコラファサチン欠失系統作出方法;(P)ゲノムにおけるグルコラファサチン合成酵素遺伝座に請求項1〜3のいずれかに記載の機能欠損型グルコラファサチン合成酵素遺伝子を有するダイコンを、自殖操作又は所望のダイコンと交配する工程。

請求項15

さらに下記(Q)に記載の工程を含むことを特徴とする、請求項14に記載の作出方法;(Q)上記(P)に記載の工程により得られた後代集団から、請求項4に記載の遺伝子型判定方法を使用して、グルコラファサチン欠失性を示すダイコン個体を選抜する工程。

技術分野

0001

本発明は、ダイコン機能欠損型グルコラファサチン合成酵素遺伝子に係る発明に関する。また、本発明は、前記機能欠損型遺伝子を利用したグルコラファサチンを欠失したダイコン系統作出技術に係る発明に関する。また、本発明は、ゲノムにおけるグルコラファサチン合成酵素遺伝子座に前記機能欠損型遺伝子をホモ型で有するダイコン系統に係る発明に関する。

背景技術

0002

グルコシノレートは、カラシ油配糖体とも呼ばれる含硫化合物の総称であり、アブラナ科及びその近縁科の植物に特徴的に含まれる二次代謝物質である。アブラナ科植物には、化合物構造の異なる120種以上のグルコシノレートが報告されている。
アブラナ科植物の一種であるダイコン(Raphanus sativus)では、その主要なグルコシノレートは「グルコラファサチン」と呼ばれる物質である。ダイコンの肥大根部に含まれる総グルコシノレート量は、実に90%以上がグルコラファサチンで占められている。
グルコラファサチンは、ダイコンに特徴的なグルコシノレートであり、ダイコンが属するRaphanusと同じアブラナ科の植物(例えば、近縁属であるBrassicaなど)においても、グルコラファサチンを優占グルコシノレート成分として含む植物は見出されていない。

0003

ダイコンに含まれるグルコラファサチンは、それ自体はほとんど無味無臭化合物であるが、内在性酵素ミロシナーゼが作用して4メチルチオ−3−ブテニルイソチオシアネートと呼ばれるダイコン特有辛み成分となる。「4メチルチオ−3−ブテニルイソチオシアネート」は、イソチオシアネートの一種であるが、化合物として不安定な物質であるため、短時間で化学分解されてしまう性質を有する。ダイコンおろし等のダイコン加工品辛味が短時間で消失してしまい、風味劣化を抑えた保管がしにくい問題は、4メチルチオ−3−ブテニルイソチオシアネートの不安定さに起因する現象である。
さらに、ダイコンに含まれるグルコラファサチンは、ダイコンを加工した食品において、ダイコン特有の悪臭黄変の問題を引き起こす、深刻な原因成分となっている。
図1に示すように、ダイコンに特徴的な悪臭である沢庵臭大根臭等と表現される場合もある)の原因成分であるメチルメルカプタン等の生成や、黄変による色ムラ発生の原因成分である黄色成分TPMP(2−[3−(2−チオキソピロリジン−3−イリデンメチル]−トリプトファン)の生成などは、グルコラファサチンから生成された4メチルチオ−3−ブテニルイソチオシアネートの分解によって引き起こされる現象である。
このような「風味劣化」、「沢庵臭の発生」及び「黄変化による色ムラの発生」は、特に保存等の経時変化加熱処理等に伴って顕著な問題となる現象である。特に、一部の大根漬、大根おろし切り干し大根等の大根加工食品において、その品質を著しく劣化させる主たる原因となっている。
現在、日本国内のダイコン生産量の約6割が加工用として使用されていることから、大根加工食品等における風味劣化防止、低臭化、及び黄変化防止を実現可能とする技術は、農業及び飲食品産業の各分野の製造業者等にとって、その解決が切望されている技術である。

0004

このような産業分野からの要望応えて、本発明者らは、大根加工食品等における風味劣化、沢庵臭の発生、及び黄変化等の品質劣化の問題を解決するため、グルコシノレート組成が通常のダイコン品種系統とは全く異なるダイコン系統の作出に取り組んだ。
その結果、本発明者らは、特定の品種系統に着目して人為的な育種的操作を行うことによって、グルコラファサチンとは別種のグルコシノレートを高含有する形質を有するダイコン系統を作出できることを見出した(特許文献1)。具体的には、本発明者らは、特許文献1に記載の方法に従って、種子やスプラウト等に「グルコラファニン」(※抗癌作用成分であるスルホラファン前駆物質)を高含有する系統、肥大根部に「グルコエルシン」を高含有する系統、などを複数系統作出し、そのうちの1系統である「安濃5号」を、ダイコン品種「だいこん中間母本農5号」として品種登録した(品種登録第22662号)。

先行技術

0005

特開2012−110238号公報(グルコラファニンを高含有するダイコン系統の作出方法

発明が解決しようとする課題

0006

しかしながら、特許文献1に記載の所望のグルコシノレート組成を有するダイコン系統を得る方法では、グルコシノレート組成が野生型で維持されている特定品種系統集団の中から変異個体を選抜する方法であるため、作出効率が低いという課題があった。
また、特許文献1に記載の方法では、表現型の判定のために、グルコシノレート組成を測定したい組織部位を用いて高速液体クロマトグラフィーHPLC)等を用いて分析することが必要であった。しかし、HPLC分析等に供するための十分な試料量採取するには、数週間の栽培期間を要するため、迅速な分析が困難であるという課題があった。また、HPLC分析等で得られる情報はあくまでも表現型の情報に過ぎないため、育種を効率に行うことを可能とする遺伝子型の情報までは原理的に得ることができなかった。
また、得られた作出系統(特に中間母本系統)を形質供与体である交配親として用いて、他の有用形質を備えた品種系統と交配して新たな系統等を作出する場合、表現型の後代検定のための育成に甚大な労力と時間が必要であるという課題があった。

0007

本発明は、上記従来技術の課題を鑑みて、大根加工食品等における風味劣化、沢庵臭の発生、及び黄変化等の品質劣化の問題を根本的に解決する技術に関して、グルコラファサチン欠失性を示すダイコン系統を、短期間で且つ高い精度にて作出可能とする技術を提供することを目的とする。

課題を解決するための手段

0008

本発明者らは、上記課題に鑑み、本発明者らが独自に作出した優れたグルコラファサチン欠失性を示す系統(NR154E系統、MR050E系統)を用いて、ダイコンのグルコシノレート組成を劇的に変化させる原因の1つであると考えられるグルコラファサチン欠失性を支配する遺伝子、を同定するという視点に着目した。
しかしながら、グルコラファサチン欠失性遺伝子を同定するためには、対象がダイコン植物であるという本件特有の事情に起因して、分子生物学的手法の適用の困難な技術的な問題が存在した。

0009

i )まず、植物においてグルコラファサチン代謝に関与する遺伝子の情報は一切不明であった。そのため、本件課題を解決する手段として、他の植物の遺伝子の相同性配列手掛かりにする遺伝子単離法(縮重配列プライマーを利用したPCR法ハイブリダイゼーションを利用したスクリーニング法など)の手段を、全く利用することができない状況にあった。
ii)また、近年の次世代シーケンサー等の遺伝子解析技術の進展により、ダイコンのドラフトゲノム配列データベースとして公開されて、網羅的解析基盤整備が充実しつつある(Raphanus sativus Genome DataBase(http://radish.kazusa.or.jp/))が、当該データベースにおいては、機能解析が行われていない遺伝子のアノテーション情報までは掲載されていなかった。
当該データベースに掲載されているゲノム配列上の予測遺伝子推定機能は、既知の他の生物相同性検索情報ドメイン予測から推定された情報を掲載したものに過ぎないため、「遺伝子機能解析が行われていない新規のダイコン遺伝子」については、当該データベース上でその存在を見出すことはできなかった。
また、勿論であるが、各変異系統変異型遺伝子配列情報登録されていないため、当該データベース上にて各変異体原因遺伝子を見出すことはできなかった。

0010

以上に示すように、既知の遺伝子配列情報を利用する手段によっては、グルコラファサチン代謝に関わる遺伝子(ダイコンの新規遺伝子)の単離・同定を行うことはできない状況であった。
そこで、本発明者らは鋭意研究を重ね、膨大な量の実験を行った。まず、本発明者らが独自に作出したNR154E系統というグルコラファサチン欠失系統と、グルコラファサチン含有系統(野生型)との連鎖マーカー(SNP,SSR)を同定して、両系統間の連鎖マーカーの連鎖地図を作製した。そして、当該連鎖地図を利用して、ポジショナルクローニング法により連鎖解析と高精度連鎖解析を繰り返すことで、対象遺伝子の座乗領域を狭める操作を繰り返し行い、23.8kbpの座乗領域を特定した。
配列予測、定量的発現解析、及び機能獲得型(gain of function)の遺伝子導入試験等の詳細な解析を行った結果、当該座乗領域にあるグルコラファサチン欠失性を支配する原因遺伝子を同定した。当該遺伝子は、野生型のダイコンにおいては、グルコラファサチン合成酵素をコードする遺伝子であることが明らかになった。
また、当該機能欠損誘起する挿入配列は、対象遺伝子内の変異配列であるため、対象形質との分離が生じ得ない優れた選抜DNAマーカーとして利用できることが示された。

0011

本発明は、上記知見に基づいて想到されたものであり、具体的には以下の機能欠損型グルコラファサチン合成酵素遺伝子及びその利用に係る発明に関する。
[1]
下記(A)、(B)、及び(C)に記載の特徴を有する、機能欠損型グルコラファサチン合成酵素遺伝子;
(A)下記(a1)に記載の遺伝子を構成するエクソン内に、コード蛋白質における2オキソグルタル酸−鉄(II)依存性オキシゲナーゼドメインの全部又は一部の欠失を伴う変異を有する特徴、
(a1)配列番号5に記載のアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列と95%以上の配列相同性を示すアミノ酸配列、からなる蛋白質をコードする遺伝子であって、グルコエルシンからグルコラファサチンへの合成反応に関与する蛋白質をコードする遺伝子、
(B)当該機能欠損型グルコラファサチン合成酵素遺伝子において、配列番号2に記載の塩基配列からなる遺伝子のコーディング領域に相当する領域に存在する置換、挿入、及び/又は欠失による変異の数が、配列番号2に記載の塩基配列からなる遺伝子のコーディング領域を構成する塩基数の5%以下である特徴、
(C)ダイコンゲノムにおけるグルコラファサチン合成酵素遺伝子座が当該機能欠損型グルコラファサチン合成酵素遺伝子のホモ型となった場合に、肥大根部のグルコラファサチン含量が3μmоl/g以下となる特徴。
[2]
上記(A)に記載の変異が、少なくとも1kbpの塩基配列の挿入を伴う変異である、前記[1]に記載の機能欠損型グルコラファサチン合成酵素遺伝子。
[3]
上記機能欠損型グルコラファサチン合成酵素遺伝子が、配列番号7又は9に記載の塩基配列を含む遺伝子である、前記[1]又は[2]に記載の機能欠損型グルコラファサチン合成酵素遺伝子。
[4]
前記[1]〜[3]のいずれかにおける上記(A)に記載の変異の存在の有無を検出することを特徴とする、ダイコンにおけるグルコラファサチン合成酵素遺伝子座の遺伝子型判定方法。
[5]
下記(D)及び(E)に記載のオリゴヌクレオチドプライマーを含んでなることを特徴とする、ダイコンにおけるグルコラファサチン合成酵素遺伝子座の遺伝子型判定用キット
(D)前記[1]〜[3]のいずれかに記載の機能欠損型グルコラファサチン合成酵素遺伝子又は当該遺伝子と同じ染色体上の領域、を構成する塩基配列又はその相補配列に含まれる塩基配列であって、上記(A)に記載の変異の存在を検出可能な位置に設計された少なくとも12塩基からなる塩基配列、を含むオリゴヌクレオチドプライマー、
(E)前記[1]〜[3]のいずれかに記載の機能欠損型グルコラファサチン合成酵素遺伝子又は当該遺伝子と同じ染色体上の領域、を構成する塩基配列又はその相補配列に含まれる少なくとも12塩基からなる塩基配列であって、上記(D)に記載のプライマーとプライマー対を形成可能な位置にある塩基配列、を含むオリゴヌクレオチドプライマー。
[6]
上記(D)に記載のプライマーが、下記(d1)又は(d2)に記載のオリゴヌクレオチドプライマーである、前記[5]に記載の遺伝子型判定用キット;
(d1)上記(A)に記載の変異が挿入変異である場合において、当該変異を構成する塩基配列又はその相補配列を含むオリゴヌクレオチドプライマー、
(d2)上記(A)に記載の変異をその配列内に含む塩基配列、を含むオリゴヌクレオチドプライマー。
[7]
さらに、下記(F)及び(G)に記載のオリゴヌクレオチドプライマーを含んでなる、前記[5]又は[6]に記載の遺伝子型判定用キット;
(F)前記[1]〜[3]のいずれかにおける上記(a1)に記載のグルコラファサチン合成酵素遺伝子又は当該遺伝子と同じ染色体上の領域、を構成する塩基配列又はその相補配列に含まれる塩基配列であって、上記(A)に記載の変異の不存在を検出可能な位置に設計された少なくとも12塩基からなる塩基配列、を含むオリゴヌクレオチドプライマー、
(G)前記[1]〜[3]のいずれかにおける上記(a1)に記載のグルコラファサチン合成酵素遺伝子又は当該遺伝子と同じ染色体上の領域、を構成する塩基配列又はその相補配列に含まれる少なくとも12塩基からなる塩基配列であって、上記(F)に記載のプライマーとプライマー対を形成可能な位置にある塩基配列、を含むオリゴヌクレオチドプライマー。
[8]
下記(H)又は(I)に記載のオリゴヌクレオチドプローブを含んでなることを特徴とする、ダイコンにおけるグルコラファサチン合成酵素遺伝子座の遺伝子型判定用キット;
(H)前記[1]〜[3]のいずれかに記載の機能欠損型グルコラファサチン合成酵素遺伝子を構成する塩基配列又はその相補配列に含まれる少なくとも12塩基からなる塩基配列であって、上記(A)に記載の変異が挿入変異である場合における当該変異を構成する塩基配列又はその相補配列、を含むオリゴヌクレオチドプローブ、
(I)前記[1]〜[3]のいずれかに記載の機能欠損型グルコラファサチン合成酵素遺伝子を構成する塩基配列又はその相補配列に含まれる少なくとも12塩基からなる塩基配列であって、上記(A)に記載の変異をその配列内に含む塩基配列、を含むオリゴヌクレオチドプローブ。
[9]
下記(J)、(K)、及び(L)に記載の特徴を有する、前記[5]〜[8]のいずれかに記載の遺伝子型判定用キット;
(J)上記機能欠損型グルコラファサチン合成酵素遺伝子が、配列番号7又は9に記載の塩基配列を含む機能欠損型グルコラファサチン合成酵素遺伝子である特徴、
(K)上記グルコラファサチン合成酵素遺伝子が、配列番号2に記載の塩基配列からなるグルコラファサチン合成酵素遺伝子である特徴、
(L)上記染色体上の領域が、配列番号1における第1番目から第2971番目までの塩基からなる塩基配列で構成される領域、及び、配列番号1における第4759番目から第7424番目までの塩基からなる塩基配列で構成される領域、である特徴。
[10]
前記[1]〜[3]のいずれかに記載の機能欠損型グルコラファサチン合成酵素遺伝子を、ゲノムにおけるグルコラファサチン合成酵素遺伝座にホモ型で有し、肥大根部の乾燥重量に対するグルコラファサチン含量が3μmоl/g以下であることを特徴とするダイコン系統。
[11]
下記(M)〜(O)のいずれかに記載のダイコンを自殖操作し又は所望のダイコンと交配し、その後代集団から選抜して得られた、前記[10]に記載のダイコン系統;
(M)ゲノムにおけるグルコラファサチン合成酵素遺伝子座に、前記[1]〜[3]のいずれかに記載の機能欠損型グルコラファサチン合成酵素遺伝子が導入されたダイコン、
(N)ゲノムにおけるグルコラファサチン合成酵素遺伝子に機能欠損型変異が導入されたダイコンであって、ゲノムにおけるグルコラファサチン合成酵素遺伝子座に前記[1]〜[3]のいずれかに記載の機能欠損型グルコラファサチン合成酵素遺伝子を有するダイコン、
(O)上記(M)又は(N)に記載のダイコンの後代集団から得られたダイコンであって、前記[1]〜[3]のいずれかに記載の機能欠損型グルコラファサチン合成酵素遺伝子をゲノムにおけるグルコラファサチン合成酵素遺伝子座に有するダイコン。
[12]
上記機能欠損型グルコラファサチン合成酵素遺伝子が、配列番号7又は9に記載の塩基配列を含む機能欠損型グルコラファサチン合成酵素遺伝子である、前記[10]又は[11]に記載のダイコン系統。
[13]
前記[10]〜[12]のいずれかに記載のダイコン系統の植物体から得られた、根、胚軸部、肥大根部、葉、葉柄花蕾、花、種子、スプラウト、ベビーリーフ、又は
[14]
下記(P)に記載の工程を含むことを特徴とする、ダイコンにおけるグルコラファサチン欠失系統の作出方法;
(P)ゲノムにおけるグルコラファサチン合成酵素遺伝座に前記[1]〜[3]のいずれかに記載の機能欠損型グルコラファサチン合成酵素遺伝子を有するダイコンを、自殖操作又は所望のダイコンと交配する工程。
[15]
さらに下記(Q)に記載の工程を含むことを特徴とする、前記[14]に記載の作出方法;
(Q)上記(P)に記載の工程により得られた後代集団から、前記[4]に記載の遺伝子型判定方法を使用して、グルコラファサチン欠失性を示すダイコン個体を選抜する工程。

発明の効果

0012

本発明によれば、機能欠損型グルコラファサチン合成酵素遺伝子及びその遺伝子配列情報を、ダイコンの育種に有効に利用することが可能となる。これにより、本発明によれば、大根加工食品等における風味劣化、沢庵臭の発生、及び黄変化等の品質劣化の問題について、当該問題を本質的に解決可能とするグルコラファサチン欠失性を示すダイコン系統を、短期間で且つ高い精度にて作出することが可能となる。

図面の簡単な説明

0013

グルコシノレート組成が通常野生型である一般のダイコン品種系統について、グルコラファサチンに関する分解経路を示した模式図である。

0014

NR154E系統ダイコンの特徴を模式的に説明した図である。(A):NR154E系統について、植物体の外観形状を撮影した写真像図。当該図中の符号は次のものを示す。符号1:肥大根部。符号2:葉柄。(B):NR154E系統について、グルコラファサチン欠失による分解経路への影響を示した模式図。

0015

実施例1において、連鎖解析にて明らかになった連鎖地図(連鎖群R1〜3)を示した図である。

0016

実施例1において、連鎖解析にて明らかになった連鎖地図(連鎖群R4〜6)を示した図である。

0017

実施例1において、連鎖解析にて明らかになった連鎖地図(連鎖群R7〜9)を示した図である。

0018

実施例1に係るポジショナルクローニング法において、各工程の説明を模式的に示したフロー図である。図中「N」が示す数は、連鎖解析又は高精度連鎖解析に供した植物体の数を示す。

0019

実施例1に係る高精度連鎖解析において、絞り込まれたグルコラファサチン欠失性原因遺伝子の座乗領域を示した模式図である。図中の数字1〜7は、候補遺伝子1〜7を示す。図中の矢印は、配列解析により存在が予測された遺伝子を示す。矢印の向きは遺伝子が座乗する方向を示す。

0020

実施例2に係るRTPCRによる発現解析において、遺伝子3(グルコラファサチン合成酵素遺伝子、図7における灰色矢印)のRT−PCR後の電気泳動ゲルを撮影した写真像である。当該図中における省略記号は、次のダイコン品種系統名を示す。「TIB」:耐病総太り。「NR154E」:NR154E。

0021

実施例3に係る配列解析において、遺伝子3蛋白質に存在するドメイン構造の予測結果を示した図である。

0022

実施例3に係る配列解析において、遺伝子3の遺伝子構造をエクソン/イントロン構造により模式的に示した図である。(A):野生型遺伝子3。(B):NR154E型遺伝子3(機能欠損型遺伝子)。(C):MR050E型遺伝子3(機能欠損型遺伝子)。

0023

実施例3に係る配列解析において、機能欠損型遺伝子3の挿入配列の導入部位を示した図である。(A):NR154E型遺伝子3。(B):MR050E型遺伝子3。図中における塩基配列の下段にある英文字1文字表記は、コドンによって指定されるアミノ酸を示す。

0024

実施例3に係る配列解析において、各ダイコン系統からの遺伝子3の予測アミノ酸配列のアライメント結果を示した図である。図中における省略記号は、次の蛋白質の予測アミノ酸配列を示す。「W.T.」:HAGHN系統。「MR050E」:MR050E系統。「NR154E」:NR154E系統。また、図中の矩形域で囲った領域は、次のドメインを示す。「白色」:non-haem dioxygenase in morphine synthesis N-terminal domain。「灰色」:2-oxoglutarate and Fe(II)-dependent oxygenase domain。

0025

実施例4に係る定量的RT−PCRによる発現解析において、遺伝子3の相対発現量測定結果を示した図である。当該図中における省略記号は、次のダイコン品種系統名を示す。「HAG」:HAGHN。「TIB」:耐病総太り。「MYS」:重ダイコン。「KRM」:辛味199。「NR154E」:NR154E。「MR050E」:MR050E。

0026

実施例5に係る遺伝子導入試験において、抽苔前の育成植物体を上面視にて撮影した写真像を示す図である。(A):エンプティベクター導入シロイヌナズナ。(B):遺伝子3過剰発現体シロイヌナズナ。

0027

実施例5に係る遺伝子導入試験において、育成した植物体のグルコシノレートプロファイルをHPLC分析クロマトグラフにより示した図である。当該図中の符号は、次のものを示す。符号21:グルコエルシンのピーク。符号22:グルコラファサチンのピーク。(A):エンプティベクター導入シロイヌナズナ。(B):遺伝子3過剰発現体シロイヌナズナ。

0028

野生型ダイコン又は遺伝子3過剰発現体シロイヌナズナにおいて、グルコエルシンからグルコラファサチンが生成される反応を示した模式図である。

0029

グルコラファサチン合成酵素遺伝子座の遺伝子型判定用プライマーセットの設計例の一例を示した模式図である。当該図中の符号は次のものを示す。符号31:グルコラファサチン合成酵素遺伝子を構成するゲノムDNA。符号32:機能欠損型の変異型遺伝子における挿入配列。符号33:機能欠損型遺伝子検出用プライマー。符号34:野生型遺伝子検出用プライマー。符号35:共通用プライマー。

0030

実施例6に係る遺伝子型判定例において、遺伝子型判定用プライマーセットを用いてPCRを行った後、電気泳動ゲルを撮影した写真像図である。

0031

以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
本発明は、ダイコンにおける機能欠損型グルコラファサチン合成酵素遺伝子に係る発明に関する。また、本発明は、前記機能欠損型遺伝子を利用したグルコラファサチンを欠失したダイコン系統の作出技術に係る発明に関する。また、本発明は、ゲノムのグルコラファサチン合成酵素遺伝子座に前記機能欠損型遺伝子をホモ型で有するダイコン系統に係る発明に関する。

0032

1.用語の説明
本明細書で用いる用語について、以下に説明する。
明細書中、「ダイコン(ダイコン植物)」とは、アブラナ科ダイコン属サティバス(Raphanus sativus)に属する植物種を指す。具体的には、日本ダイコン(R. sativus var. longipinnatus)、ハツカダイコン(R. sativus var. sativus)、クロダイコン(R. sativus var. niger)等を含めて、全世界で千種以上の品種系統が存在することが知られている。ダイコンの植物体では、主に肥大した根が食用となり、加工食品としても利用される。スプラウト(かいわれ)、ベビーリーフ、葉も食用となる。
本明細書中、「肥大根部」とは、ダイコンの成熟した根及び胚軸部を指す。

0033

本明細書中、「遺伝子」とは、エクソン及びイントロンから構成されるゲノムDNA中の領域を指し、最初のエクソンの最上流塩基(ORFの5’末端転写開始点)から最後のエクソンの最下流塩基(ORFの3’末端)までの領域を指す。
本明細書中、「コーディング領域(CDS)」とは、遺伝子において蛋白質に翻訳される領域を指し、エクソンにおける開始コドンの第1塩基〜終止コドンの第3塩基までの領域を指す。真核生物のゲノムDNAにおいては、イントロンで分断されて存在する場合が多い。

0034

本明細書中、「グルコシノレート」(本明細書中、単に「GSL」という場合がある。)とは、カラシ油配糖体とも呼ばれる含硫化合物の総称であり、アブラナ科及びその近縁科の植物に特徴的に含まれる二次代謝物質である。アブラナ科植物には、化合物構造の異なる120種以上のグルコシノレートが報告されている。ダイコンでは、その主要なグルコシノレートは「グルコラファサチン」と呼ばれる物質である。ダイコン肥大根部に含まれる総グルコシノレート量は、実に90%以上がグルコラファサチンで占められている。

0035

本明細書中、「グルコラファサチン」(Glucoraphasatin)とは、下記(式1)に示す化学式の化合物を指す。グルコラファサチンは、ダイコンにおいて特徴的に存在するグルコシノレートであり、他の植物にはほとんど存在しない化合物である。ダイコンが属するRaphanusと同じアブラナ科の植物(例えば、近縁属であるBrassicaなど)においても、グルコラファサチンを優占グルコシノレート成分として含有する植物は、ダイコン以外には確認されていない。

0036

0037

本明細書中、「野生型ダイコン品種系統」とは、ダイコンの植物体においてグルコラファサチンを主要なグルコシノレート成分として含有する性質を示すダイコン品種系統を示す。

0038

2.機能欠損型グルコラファサチン合成酵素遺伝子
本発明に係る「機能欠損型グルコラファサチン合成酵素遺伝子」(本明細書中、単に「機能欠損型遺伝子」という場合がある。)とは、ダイコンのグルコラファサチン合成酵素遺伝子に機能欠損型の変異が存在する、グルコラファサチン合成酵素遺伝子の変異型遺伝子を指す。

0039

[野生型のグルコラファサチン合成酵素遺伝子]
「グルコラファサチン合成酵素遺伝子」(本明細書中、単に「野生型遺伝子」という場合がある。)とは、本発明者らが見出した新規遺伝子であり、ダイコンにおいてグルコエルシンからグルコラファサチンへの合成反応に関与する蛋白質をコードする遺伝子を指す。具体的には、配列番号5に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質をコードする遺伝子を指す。
なお、当該遺伝子のアミノ酸配列は、宮重ダイコン系の自殖系統西理想系の自殖系統、及び辛味ダイコン系の自殖系統などの品種系統においては、配列番号5に記載のアミノ酸配列と一致するアミノ酸配列であることが確認されている。

0040

また、グルコラファサチン合成酵素遺伝子としては、ダイコン種内における品種系統間の違いによるアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、及び/又は付加を伴う遺伝子配列の変異を許容するものである。
遺伝子配列の変異の許容範囲として、具体的には、i)配列番号5に記載のアミノ酸配列に対して高い配列相同性を示すアミノ酸配列からなる蛋白質をコードする遺伝子であり、且つ、ii)その遺伝子機能を担保するアミノ酸配列からなる蛋白質をコードする遺伝子であれば、配列番号5に記載のアミノ酸配列に対する変異は許容される。

0041

ここで、i)「高い配列相同性」としては、具体的には、配列番号5に記載のアミノ酸配列に対して95%以上、好ましくは96%以上、より好ましくは97%以上、さらに好ましくは98%以上、特に好ましくは99%以上、の配列相同性を挙げることができる。
また、ii)「遺伝子機能の担保」とは、コード蛋白質が、グルコエルシンからグルコラファサチンへの合成反応に関与する蛋白質であること、が担保されていることを指す。
具体的には、当該遺伝子がダイコン植物体にて通常の発現量にて発現して、生体内にてコード蛋白質が正常に合成された場合、当該ダイコンが「グルコラファサチン含有性」の表現型を示すことを指す。
ここで、「グルコラファサチン含有性」とは、具体的には、肥大根部の乾燥重量に対するグルコラファサチン含量が、3μmоl/gを超える含量、好ましくは4μmоl/g以上、より好ましくは6μmоl/g以上、さらに好ましくは10μmоl/g以上、となる表現型を示す性質を指す。

0042

当該遺伝子のコード蛋白質である「グルコラファサチン合成酵素」は、グルコエルシンからグルコラファサチンを合成する反応に関与する酵素蛋白質である。当該蛋白質は、グルコエルシンからグルコラファサチンを生成する反応のいずれかに関与する酵素として機能し、当該酵素の機能が欠損するとダイコン植物体におけるグルコラファサチンは欠失する。
当該蛋白質は、2オキソグルタル酸−鉄(II)依存性オキシゲナーゼドメイン(2-oxoglutarate and Fe(II)-dependent oxygenase domain、2 OG-Fe(II) oxygenase domainともいう。)というドメイン構造を有する。当該ドメインは、配列番号5に記載のアミノ酸配列上においては、第223番目から第319番目までの97アミノ酸残基からなるアミノ酸配列に相当する領域である(図9、12)。
なお、2オキソグルタル酸−鉄(II)依存性オキシゲナーゼドメインを有する蛋白質は、植物においてスーパーファミリーを形成しており、様々な酸化還元酵素を含む酵素であることが知られているが、ダイコンのグルコラファサチン合成酵素と同様の活性を有する酵素の存在は報告されていない。
また、当該蛋白質には、配列番号5に記載のアミノ酸配列上、第65番目から第178番目までの114アミノ酸残基からなるアミノ酸配列に相当する領域に、酸化還元酵素ドメインの一種であるnon-haem dioxygenase in morphine synthesis N-terminal domainも存在する(図9、12)。

0043

野生型のグルコラファサチン合成酵素遺伝子のゲノム配列としては、上記グルコラファサチン合成酵素である蛋白質をコードする遺伝子であれば特に制限はなく、イントロン等の配列に変異は特に問題なく許容されるものである。なお、宮重ダイコン系の自殖系統では、野生型のグルコラファサチン合成酵素遺伝子のゲノム配列の全長(第1エクソンの最上流塩基から第3エクソンの最下流塩基)は、配列番号2に記載の塩基配列である。
また、グルコラファサチン合成酵素遺伝子のゲノム構造は、既存の野生型のダイコン品種系統において、3つのエクソンと2つのイントロンから構成される構造であることを確認しているが(図10)、当該エクソン及びイントロン構造と同一構造であるものに限定されるものではない。
なお、ダイコンゲノムにおけるグルコラファサチン合成酵素遺伝子座の数は、単一遺伝子座であると認められる。また、当該遺伝子に対して機能相補性や冗長性を示す極めて高い相同性を示す遺伝子の存在は確認されていない。

0044

ダイコン以外の他のアブラナ科植物では、配列番号5に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質をコードする遺伝子の相同遺伝子が存在する。具体的には、Arabidopsis(ダイコンが属するRaphanusの近縁属)のシロイヌナズナには、配列番号5に記載のアミノ酸配列と、80%程度の配列相同性を示すアミノ酸配列からなる蛋白質をコードする遺伝子が存在する。
しかし、シロイヌナズナには、グルコシノレート組成にグルコラファサチンが存在しない。この点、シロイヌナズナには、配列番号5に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質をコードする遺伝子の「相同遺伝子」は存在するものの、当該相同遺伝子のコード蛋白質は、グルコエルシンからグルコラファサチンへの合成反応に関与する機能を有していない。

0045

[機能欠損型グルコラファサチン合成酵素遺伝子の特徴]
本発明に係る機能欠損型グルコラファサチン合成酵素遺伝子は、上記したグルコラファサチン合成酵素遺伝子を構成するエクソン内の塩基配列上に、遺伝子としての重要機能が欠損する変異を有する遺伝子である。
ここで、グルコラファサチン合成酵素遺伝子が「機能欠損型遺伝子」であるかどうかは、ダイコンにおけるグルコラファサチン合成酵素遺伝子の遺伝子座が、当該変異型遺伝子のホモ型となった場合に、ダイコン植物体におけるグルコラファサチンが完全に又は実質的に欠失している状態であれば、機能欠損型遺伝子であると判定することができる。

0046

本明細書中、「ダイコン植物体においてグルコラファサチンが実質的に欠失している状態」であるか否かの判定は、次の値を指標とするものである。ダイコンにおけるグルコラファサチン合成酵素遺伝子座が、対象とする変異型遺伝子のホモ型となった場合に、肥大根部の乾燥重量に対するグルコラファサチン含量が3μmоl/g以下、好ましくは2μmоl/g以下、さらに好ましくは1μmоl/g以下、より好ましくは0.1μmоl/g以下、特に好ましくは0.01μmоl/g以下であれば、グルコラファサチンが実質的に欠失している状態であると判定することができる。
なお、通常の野生型ダイコン品種系統では、当該含量が数十〜数百μmоl/gのものがほとんどである。

0047

また、別の判定指標としては、ダイコンにおけるグルコラファサチン合成酵素遺伝子座が、対象とする変異型遺伝子のホモ型となった場合に、肥大根部の乾燥重量に対するグルコラファサチン含量が総グルコシノレート量に対して、1/10以下、好ましくは1/100以下、さらに好ましくは1/1000以下であれば、グルコラファサチンが実質的に欠失している状態であると判定することができる。
また、当該総グルコシノレート量に対する比率の指標と、上記グルコラファサチン含量の指標とを、両方合わせて判定指標とするとさらに好適である。
ここで、グルコラファサチン及びグルコシノレート含量の測定は、常法によりHPLC分析等で行うことができる。

0048

なお、最も好適には、ダイコンにおけるグルコラファサチン合成酵素遺伝子座が当該変異型遺伝子のホモ型となった場合に、肥大根部においてグルコラファサチンを全く含まない状態(完全に欠失した状態)となる機能欠損型遺伝子が最も好適である。

0049

・蛋白質構造上の機能欠損
グルコラファサチン合成酵素遺伝子が機能欠損型遺伝子となるためには、当該遺伝子のコード蛋白質を構成するアミノ酸配列に置換、欠失、挿入及び/又は付加を伴う変異を有することが必要である。具体的には、グルコラファサチン合成酵素遺伝子が「機能欠損型遺伝子」になるためには、当該遺伝子のコード蛋白質が、「2オキソグルタル酸−鉄(II)依存性オキシゲナーゼドメイン」の全部又は一部の欠失を伴う変異であることが好適である。
ここで、「一部を欠失する変異」とは、当該ドメインを構成する97アミノ酸残基のうち1アミノ酸残基以上、好ましくは5アミノ酸残基以上、より好ましくは10アミノ酸残基以上の欠失を伴う変異を挙げることができる。特には、当該ドメインのC端側を構成する16アミノ酸残基以上、好ましくは32アミノ酸残基以上、より好ましくは48アミノ酸残基以上、さらに好ましくは64アミノ酸残基以上、特に好ましくは72アミノ酸残基以上の欠失を伴う変異である場合、当該遺伝子の機能欠損型の変異としてより好適である。
なお、本発明においては、当該ドメインの全部を欠失する変異であることが最も好適である。「全部を欠失する変異」とは、当該ドメインを構成する97アミノ酸残基からなる領域について、当該ドメイン全領域の欠失を伴う変異を意味する。

0050

当該変異が存在する部位としては、上記「ドメイン欠失」を伴う変異であれば、特に制限はないが、好ましくは第1エクソン又は第2エクソン内の変異、より好ましくは第1エクソン内の変異であることが好適である。
当該「ドメイン欠失」を伴う変異の態様としては、具体的には、i)コーディング領域内の塩基配列に終止コドンの出現を伴う置換、挿入、又は欠失による変異、ii) 塩基配列の挿入変異であって当該挿入塩基配列上に終止コドンの出現を伴う変異、iii)フレームシフトにより終止コドンの出現を伴う挿入又は欠失による変異、などを挙げることができる。

0051

遺伝子発現の低減による遺伝子機能欠損
本発明に係る機能欠損型グルコラファサチン合成酵素遺伝子は、コード蛋白質の構造的な機能欠損がやや不十分であると推測される場合であっても、その「遺伝子発現量」が大幅に低減されている場合には、機能欠損型遺伝子であると認められる。
例えば、上記コーディング領域への変異が存在するものの、アミノ酸配列上での酵素機能の欠損がやや不十分であると推測される場合であっても、遺伝子発現量が著しく低下したものであれば、ダイコン植物体におけるグルコラファサチンが完全に又は実質的に欠失している状態となる。即ち、当該変異型遺伝子は、グルコラファサチン合成酵素遺伝子としては「機能欠損型遺伝子」となる。なお、ダイコン植物体においてグルコラファサチンが欠失又は実質的に欠失している状態とは、上記段落「2.機能欠損型グルコラファサチン合成酵素遺伝子」に記載した状態を指す。

0052

遺伝子発現量が大幅に低減された変異型遺伝子となるのは、エクソン内の「挿入変異」を有する変異型遺伝子の場合が好適である。この場合、転写されるmRNA長が長くなる程、遺伝子発現量自体が低下する傾向が認められる。例えば、少なくとも1kbpの挿入変異を有することで、遺伝子発現量が激減した遺伝子となる。挿入塩基長としては、lkbp以上、好ましくは1.2kbp以上、より好ましくは3kbp以上、さらに好ましくは5kbp以上、特に好ましくは8.8kbp以上、一層好ましくは9kbp以上を挙げることができる。
なお、挿入配列の上限としては特に制限はないが、強いて挙げるならば、1000kbp以下、好ましくは500kbp以下、より好ましくは100kbp以下、さらに好ましくは50kbp以下を挙げることができる。
例えば、グルコラファサチン合成酵素遺伝子の発現量を、品種「耐病総太り」(一般的なグルコシノレート組成である通常野生型)と比較した場合、約1.2kbpの挿入変異型遺伝子をホモ型で有するダイコン変異体では、遺伝子発現量は約1/40と激減する。
特に、約9kbpの挿入変異型遺伝子のホモ型変異体では、約1/1000以下となり、遺伝子発現自体がほとんど起こらなくなる。当該変異体は、null変異体に近い状態となる。

0053

・変異数の範囲
本発明に係る機能欠損型グルコラファサチン合成酵素遺伝子は、上記した「機能欠損」を伴う変異以外の変異についてもその存在を許容するものであるが、遺伝子における変異数の上限については、次のように変異の数の範囲を定義することができる。

0054

当該「変異数」の範囲としては、配列番号2に記載の塩基配列と比較した場合において、配列番号2に記載の塩基配列からなる遺伝子の「コーディング領域に相当する領域」に存在する変異数が、一定数以下であると定義することができる。具体的には、当該変異型遺伝子における「コーディング領域に相当する領域」に存在する置換、挿入、及び/又は欠失による変異の数が、配列番号2に記載の塩基配列からなる遺伝子におけるコーディング領域、を構成する塩基数の5%以下、好ましくは4%以下、より好ましくは3%以下、さらに好ましくは2%以下、特に好ましくは1%以下、である数と定義することができる。

0055

ここで、本明細書における「変異数」とは、変異が生じた数(即ち、変異が導入された回数)を指す数である。例えば、100bpの挿入配列が「1回」の挿入変異で導入された場合であれば、変異の数は「1」となる。一方、1bpの置換変異が独立して「10ヶ所」で導入されている場合であれば、変異の数は「10」となる。
例えば、配列番号2に記載の塩基配列におけるコーディング領域(配列番号4)の塩基数は1119bpであるため、その5%に相当する数は約「56」となる。当該変異の全てがアミノ酸変異を伴う変異であると仮定した場合であっても、配列番号5に記載のアミノ酸配列(野生型グルコラファサチン合成酵素を構成するアミノ酸配列)に対して、約85%という高い配列相同性を有するアミノ酸配列の範囲に含まれるものとなる。

0056

また、本発明に係る機能欠損型グルコラファサチン合成酵素遺伝子の変異数の範囲は、上記のように定義するものであるが、遺伝子を構成するエクソン及びイントロン全体として、次のような定義を加えることもできる。
具体的には、配列番号2に記載の塩基配列と比較した場合において、当該変異型遺伝子の「全領域」に存在する置換、挿入、欠失、及び/又は付加による変異の数が、配列番号2に記載の塩基配列を構成する塩基数の20%以下、好ましくは15%以下、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは5%以下、特に好ましくは2%以下、一層好ましくは1%以下、である数と定義することができる。なお、ここで「変異数」とは、上記と同様の意味であり、変異が生じた数(即ち、変異が導入された回数)を指す。

0057

・機能欠損型遺伝子の具体例
上記のような機能欠損型グルコラファサチン合成酵素遺伝子としては、後述する実施例に記載した機能欠損型の変異型遺伝子を挙げることができる。
具体的には、配列番号7に記載の塩基配列を含むグルコラファサチン合成酵素遺伝子(NR154E型遺伝子)を挙げることができる。当該機能欠損型遺伝子は、野生型グルコラファサチン合成酵素遺伝子(配列番号2)の第557番目の塩基と第558番目の塩基の間に、約9kbpの挿入配列(配列番号7における第558番目から第9410番目までの塩基からなる塩基配列)が導入された変異を有し、インレームにて終止コドンが出現する変異型遺伝子である。コード蛋白質は、2オキソグルタル酸−鉄(II)依存性オキシゲナーゼドメインを完全に欠失した構造を有する。
また、配列番号9に記載の塩基配列を含むグルコラファサチン合成酵素遺伝子(MR050E型遺伝子)を挙げることもできる。当該機能欠損型遺伝子は、野生型グルコラファサチン合成酵素遺伝子(配列番号2)の第1243番目の塩基と第1244番目の塩基の間に、約1.2kbpの挿入配列(配列番号9における第1244番目から第2465番目までの塩基からなる塩基配列)が導入された変異を有し、インレームにて終止コドンが出現する変異型遺伝子である。コード蛋白質は、2オキソグルタル酸−鉄(II)依存性オキシゲナーゼドメインのC端側16アミノ酸残基を欠失した構造を有する。

0058

3.遺伝子型判定用DNAマーカー
本発明においては、ダイコンゲノム中におけるグルコラファサチン合成酵素遺伝子の「機能欠損を引き起こす変異」の存在を、グルコラファサチン合成酵素遺伝子の遺伝子型判定用のDNAマーカーとして利用することが可能となる。
即ち、本発明においては、グルコラファサチン合成酵素遺伝子の機能欠損を引き起こす変異の有無を検出することによって、グルコラファサチン合成酵素遺伝子座における「遺伝子型」を高精度で判定することが可能となる。

0059

当該機能欠損変異をDNAマーカーとして利用する場合、当該変異はグルコラファサチン合成酵素遺伝子内の変異そのものであるため、組換え分離によって対象遺伝子型と不一致となる現象は原理的に生じないと解される。即ち、グルコラファサチン合成酵素遺伝子の遺伝子型を、極めて高精度に判定することが可能となる。
一方、連鎖マーカーであるSNP(一塩基多型)やSSR(マイクロサテライト多型)などの遺伝子型を指標とした場合では、極めて近接する領域のものを利用しない限りは、組換え分離によって、連鎖マーカー型と対象遺伝子型が一致しない場合がある。この場合、必ずしも正確な遺伝子型が判定できるとは限らない。

0060

また、本発明においては、当該グルコラファサチン合成酵素遺伝子の遺伝子型を判定することによって、その遺伝子型を有する個体のグルコシノレート組成に関する「表現型」を、高精度で判定することができる。即ち、一般的な核酸検出技術を利用して遺伝子型を調べるのみで、対象のダイコン個体がグルコラファサチン欠失系統に属する個体であるか、又は、グルコラファサチン含有系統に属する個体であるかを、高い精度で識別することが可能となる。

0061

当該機能欠損変異の検出手段としては、既存の核酸検出技術を利用することによって、容易に行うことが可能である。例えば、PCR法を利用した技術、ハイブリダイゼーション法を利用した技術、を利用することができる。また、プローブとプライマーを併用したリアルタイムPCR法変異型と野生型の2種類のプローブを併用したドットブロット法、などの多型検出技術を利用することも可能である。また、制限酵素断片長多型、シーケンサーによる塩基配列決定、などによって、変異を検出することも可能である。

0062

[オリゴヌクレオチドプライマー]
核酸検出技術によって当該機能欠損変異を検出するためには、オリゴヌクレオチドプライマーを用いたPCR法を利用する方法が有効である。
本明細書中、「オリゴヌクレオチドプライマー」とは、デオキシヌクレオチド重合させて合成したオリゴヌクレオチドであって、PCR反応におけるDNA伸長反応の起点として機能する、特定塩基配列に特異的にハイブリダイズする塩基配列で構成されるように設計された一本鎖DNAを指すものである。

0063

当該オリゴヌクレオチドプライマーとしては、グルコラファサチン合成酵素遺伝子(機能欠損型遺伝子、野生型遺伝子)を構成する塩基配列又はその相補配列に含まれる塩基配列を、連続して少なくとも12塩基含むプライマーが好適である。好適な塩基長(塩基:mer)としては、当該塩基配列又はその相補配列に含まれる塩基配列を、連続して少なくとも12塩基以上、好ましくは15塩基以上、より好ましくは20塩基以上、さらに好ましくは25塩基以上含むプライマーであることが好適である。
また、オリゴヌクレオチドプライマーの塩基長の上限としては、プライマーとして機能する範囲を逸脱しない内であれば特に制限はないが、例えばプライマー全長の塩基長が、200塩基以下、好ましくは100塩基以下、より好ましくは50塩基以下、のものを挙げることができる。
また、配列特異的性を上げて、非特異的PCR増幅下げるためには、プライマー対を形成するプライマーとのTm値を合わせた上で、塩基長の長い適切なプライマーを設計することが好適である。
なお、オリゴヌクレオチドプライマーの5’端は、ベクター挿入等に利用するための制限酵素サイトや各種ベクター導入用修飾塩基配列を付加したものであっても良い。また、蛍光物質標識物質等を結合した形態のものであっても良い。
また、オリゴヌクレオチドプライマーの3’端は、機能欠損型遺伝子を構成する塩基配列又はその相補配列と完全一致する塩基配列であることが好適である。

0064

・機能欠損型遺伝子検出用プライマーセット
本発明では、機能欠損型グルコラファサチン合成酵素遺伝子の存在を特異的に検出可能なプライマーセットを設計することによって、機能欠損遺伝子を有する遺伝子型を判定することが可能となる。ここで、機能欠損型遺伝子の存在を検出可能なプライマーセットとしては、「機能欠損変異を含む塩基配列」又は「機能欠損変異を構成する塩基配列」を、PCR反応にて特異的に増幅可能なプライマー対(機能欠損型遺伝子検出用プライマー1及び2)からなるプライマーセットを指すものである。

0065

PCR法を利用して当該機能欠損変異を検出するためのプライマーセットとしては、「機能欠損型遺伝子検出用プライマー1」を設計することが必要である。機能欠損型遺伝子検出用プライマー1は、当該機能欠損変異の「存在」を検出可能な塩基配列を含むオリゴヌクレオチドプライマーである。
機能欠損型遺伝子検出用プライマー1の設計可能な位置は、下記(1)又は(2)に記載の条件を満たす限り、機能欠損型グルコラファサチン合成酵素遺伝子と同じ染色体上にあるゲノムDNA領域上であれば、如何なる領域にある塩基配列(当該領域を構成する塩基配列又はその相補配列)に設計することが可能である。即ち、機能欠損型グルコラファサチン合成酵素遺伝子の領域だけでなく、その周辺プロモータースペーサー領域に設計することも可能である。

0066

機能欠損型遺伝子検出用プライマー1としては、具体的には、(1)機能欠損型遺伝子に存在する「機能欠損型遺伝子に特異的な塩基配列」を含むプライマーを挙げることができる。即ち、当該プライマーは、野生型遺伝子には、ハイブリダイズしないプライマーとなる。この場合、機能欠損型遺伝子検出用プライマー2(後述)とのPCRを行うことで、機能欠損型遺伝子に対してはPCR増幅するが、野生型遺伝子が対してはPCR増幅産物が得られないプライマーセットとなる。例えば、i)挿入変異の場合において、当該挿入変異上の塩基配列又はその相補配列、を含むプライマーを挙げることができる。また、ii)置換、欠失、又は挿入変異の場合において、当該変異を配列内に含む塩基配列(好ましくは変異部位を3’端に有する塩基配列)、を含むプライマーを挙げることができる。即ち、これらのプライマーは、野生型遺伝子には、ハイブリダイズしないプライマーとなる。
また、機能欠損型遺伝子検出用プライマー1としては、(2)機能欠損型遺伝子に挿入又は欠失による当該機能欠失変異がある場合において、「当該変異を挟む位置の一方」に設計したプライマーを挙げることができる。この場合、機能欠損型遺伝子検出用プライマー2とのPCRを行うことで、機能欠損型遺伝子と野生型遺伝子とで、異なる塩基長のPCR増幅産物が得られることになる。例えば、iii) 挿入又は欠失変異の場合における当該変異の5’側にある塩基配列、を含むプライマーを挙げることができる。

0067

なお、機能欠損型遺伝子検出用プライマー1を設計する領域としては、好ましくは、上記 i) の場合では、挿入配列と元々の遺伝子配列の境界に近接する5’側の領域に設計することが好適である。上記 ii) の場合では、当該変異がプライマー配列内の3’側(好ましくは3’端)に含まれるように、設計することが好適である。上記 iii) の場合では、当該機能欠損変異に近接する5’側の領域に設計することが好適である。

0068

PCR法により当該機能欠損型変異を検出するためには、「機能欠損型遺伝子検出用プライマー2」を設計することが必要である。機能欠損型遺伝子検出用プライマー2は、PCR反応において上記した機能欠損型遺伝子検出用プライマー1とプライマー対を形成可能な位置にある塩基配列、を含むオリゴヌクレオチドプライマーである。
機能欠損型遺伝子検出用プライマー2を設計可能な領域としては、上記した機能欠損型遺伝子検出用プライマー1とプライマー対を形成して、PCR増幅が可能なダイコンゲノム領域であれば、機能欠損型遺伝子又は当該遺伝子と同じ染色体上にある領域(当該領域を構成する塩基配列又はその相補配列)に設計することが可能である。
PCRの技術的な点を考慮すると、機能欠損型遺伝子検出用プライマー2を設計可能な領域としては、増幅産物の塩基長がPCR増幅に適した領域であることが好適である。具体的には、PCR増幅産物の塩基長(塩基対:bp)が、5kbp以下となる位置に、上記機能欠損型遺伝子検出用プライマー2を設計することが好適である。好ましくは、30bp〜5kbp、好ましくは50bp〜3kbp、より好ましくは75bp〜2kbp、さらに好ましくは100bp〜1.5kbp、となる塩基長が好適である。なお、増幅長があまりに長鎖になり過ぎるように設計した場合、PCR増幅産物が得られ難くなり好適でない。

0069

機能欠損型遺伝子検出用プライマー1及び2を設計可能な領域としては、具体的には、NR154E型遺伝子の変異を検出する場合、上記条件を満たすようにして、配列番号1、2、又は7に記載の塩基配列又はその相補配列上に設計することができる。また、MR050E型遺伝子の変異を検出する場合、上記条件を満たすようにして、配列番号1、2、又は9に記載の塩基配列又はその相補配列上に、オリゴヌクレオチドプライマーを設計することができる。

0070

・野生型遺伝子検出用プライマーセット
また、本発明では、野生型グルコラファサチン合成酵素遺伝子の存在を特異的に検出可能なプライマーセットをさらに設計することによって、より詳細な遺伝子型の判定が可能となる。ここで、野生型遺伝子を検出可能なプライマーとしては、野生型グルコラファサチン合成酵素遺伝子を構成する塩基配列をPCR反応にて特異的に増幅可能なプライマー対(野生型遺伝子検出用プライマー1及び2)、からなるプライマーセットを指すものである。

0071

PCR法を利用して当該野生型遺伝子を特異的に検出するためのプライマーセットとしては、「野生型遺伝子検出用プライマー1」を設計することが必要である。野生型遺伝子検出用プライマー1は、当該機能欠損変異の「不存在」を検出可能な塩基配列を含むオリゴヌクレオチドプライマーである。
野生型遺伝子検出用プライマー1の設計可能な位置は、下記(3)又は(4)に記載の条件を満たす限り、グルコラファサチン合成酵素遺伝子と同じ染色体上にあるゲノムDNA領域上であれば、如何なる領域にある塩基配列(当該領域を構成する塩基配列又はその相補配列)に設計することが可能である。即ち、野生型グルコラファサチン合成酵素遺伝子の領域だけでなく、その周辺のプロモーターやスペーサー領域に設計することも可能である。

0072

野生型遺伝子検出用プライマー1としては、具体的には、(3)機能欠損型遺伝子には存在しない野生型に特異的な塩基配列を含むプライマーを挙げることができる。この場合、野生型遺伝子に対してはPCR増幅するが、機能欠損型遺伝子に対してはPCR増幅産物が得られないプライマーセットとなる。即ち、野生型遺伝子検出用プライマー2(後述)とのPCRを行うことで、野生型遺伝子に対してはPCR増幅するが、機能欠損型遺伝子に対してはPCR増幅産物が得られないプライマーセットとなる。例えば、機能欠損型遺伝子に置換、欠失、又は挿入による当該機能欠損変異が存在する場合において、当該機能欠損変異に対応する野生型部位を有する塩基配列(好ましくは、当該機能欠損に対応する野生型部位を3’端に有する塩基配列)、を含むプライマーを挙げることができる。即ち、機能欠損型変異を有する塩基配列とはハイブリダイズしないプライマーとなる。
また、野生型遺伝子検出用プライマー1としては、(4)機能欠損型遺伝子に挿入又は欠失による当該機能欠失変異がある場合において、これに対応する野生型部位を挟む位置の一方に設計したプライマーを挙げることができる。この場合、野生型遺伝子検出用プライマー2とのPCRを行うことで、野生型遺伝子と機能欠損型遺伝子とで、異なる塩基長のPCR増幅産物が得られるプライマーセットとなる。例えば、機能欠損型遺伝子に挿入又は欠失変異が存在する場合において、当該機能欠損変異に対応する野生型部位の5’側にある塩基配列、を含むプライマーを挙げることができる。

0073

なお、野生型遺伝子検出用プライマー1を設計する領域としては、好ましくは、上記(3)の場合では、当該変異に対応する野生型部位が、プライマー配列内の3’側(好ましくは3’端)に含まれるように設計することが好適である。上記(4)の場合では、当該機能欠損変異に近接する5’側の領域に設計することが好適である。

0074

PCR法により当該野生型遺伝子を機能欠損型遺伝子と区別して検出するためには、「野生型遺伝子検出用プライマー2」を設計することが必要である。野生型遺伝子検出用プライマー2は、PCR反応において上記した野生型遺伝子検出用プライマー1とプライマー対を形成可能な位置にある塩基配列、を含むオリゴヌクレオチドプライマーである。
野生型遺伝子検出用プライマー2を設計可能な領域としては、上記した野生型遺伝子検出用プライマー1とプライマー対を形成して、PCR増幅が可能なダイコンゲノム領域であれば、野生型遺伝子又は当該遺伝子と同じ染色体上にある領域(当該領域を構成する塩基配列又はその相補配列)を用いることができる。

0075

PCRの技術的な点を考慮すると、野生型遺伝子検出用プライマー2を設計可能な領域としては、増幅産物の塩基長がPCR増幅に適した領域であることが好適である。具体的には、PCR増幅産物の塩基長(塩基対:bp)が、5kbp以下となる位置に、上記野生型遺伝子検出用プライマー2を設計することが好適である。好ましくは、30bp〜5kbp、好ましくは50bp〜3kbp、より好ましくは75bp〜2kbp、さらに好ましくは100bp〜1.5kbp、となる塩基長が好適である。なお、増幅長があまりに長鎖になりすぎるように設計した場合、PCR増幅産物が得られにくくなり好適でない。

0076

野生型遺伝子検出用プライマー1及び2を設計可能な領域としては、具体的には、上記条件を満たすようにして、配列番号1又は2に記載の塩基配列又はその相補配列上に設計することができる。

0077

・PCR法による遺伝子型判定
PCR法による遺伝子型判定を行うためには、対象ダイコン植物体におけるDNAを、PCR反応にて増幅可能な試料として調製することが必要である。プライマーセットの設計条件によっては、破砕試料溶出試料等を用いることも可能であるが、好適には常法や市販キット等を用いてDNA抽出を行って、PCR反応に適した試料を調製することが望ましい。なお、PCR法は極めて感度が高い検出法であるため、調製する試料の量は微量(例えば、発直後のスプラウトの一部分)でも十分に分析に供することが可能である。また、試料調製に用いるダイコン植物体の組織は、DNAを含む如何なる組織であっても使用可能である。

0078

本発明においては、上記した「機能欠損型遺伝子検出用プライマー1及び2」を用いてPCR反応を行うことによって、対象であるダイコンのグルコラファサチン合成酵素遺伝子における「機能欠失変異」の存在を検出することが可能となり、この結果を基に遺伝子型を判定することができる。
具体的には、上記(1)又は(2)に記載のプライマーセットを用いて機能欠損型遺伝子に特異的PCR増幅産物が得られた場合、対象ダイコンのグルコラファサチン合成酵素遺伝子座の遺伝子型は、「機能欠損型遺伝子を有する遺伝子型」であると判定することができる。即ち、この場合、対象であるダイコンの遺伝子型は、「機能欠損型遺伝子ホモ型」又は「ヘテロ型」(機能欠損型遺伝子/野生型遺伝子のヘテロ型)であると判定することができる。
なお、上記(2)に記載のプライマーセットを用いた場合において、増幅産物の塩基長の設定が適正である場合、塩基長の違いによって「機能欠損型遺伝子ホモ型」と「ヘテロ型」の判別も可能となる。
これらの遺伝子型であるダイコン個体は、そのゲノム中に機能欠損型グルコラファサチン合成酵素遺伝子を有する個体であるため、グルコラファサチン欠失系統を作出するための育種素材及び遺伝子資源として、有効に用いることができる。

0079

また、さらに本発明においては、「野生型遺伝子検出用プライマー1及び2」を用いることによって、「機能欠損型遺伝子ホモ型」と「ヘテロ型」を区別して、より確実に検出することが可能となる。
具体的には、上記(3)又は(4)に記載のプライマーセットを用いて野生型遺伝子に特異的PCR増幅産物が得られた場合、対象ダイコンのグルコラファサチン合成酵素遺伝子座の遺伝子型は、「野生型遺伝子を有する遺伝子型」であると判定することができる。即ち、この場合、対象であるダイコンの遺伝子型は、「野生型遺伝子ホモ型」又は「ヘテロ型」であると判定することができる。
従って、本発明においては、「機能欠損型遺伝子検出用プライマー1及び2」と「野生型遺伝子検出用プライマー1及び2」の2対のプライマーセットを両方用いることによって、「機能欠損型遺伝子ホモ型」、「ヘテロ型」、及び「野生型遺伝子ホモ型」の3種類の遺伝子型を区別して、遺伝子型を高精度で判定することが可能となる。

0080

ここで、上記におけるPCR反応は、通常のPCR法により行うことが可能である。また、dNTPに標識物質を結合させて、PCR反応を行う方法も可能である。PCR反応後は、通常の手法(インターカレート法、蛍光検出法発光検出法、発色検出法、抗体検出法、RI検出法など)によって、PCR増幅産物が得られているかを容易に検出することが可能である。簡便な方法としては、エチジウムブロマイド、蛍光物質等を用いて容易に検出が可能である。リアルタイムPCR装置を利用した手法を用いることも好適である。

0081

本発明においては、「機能欠損型遺伝子検出用プライマー1及び2」と「野生型遺伝子検出用プライマー1及び2」の2対のプライマーセットを用いてPCRを行う場合、具体的には次に示す方法にてPCRを行うことが可能である。
まず、i )第1の方法としては、プライマーセットごとに2つの反応液を調製して、それぞれ別途にPCR反応を行う方法を挙げることができる。この場合、それぞれの反応液を電気泳動し、増幅パターン総合することで遺伝子型を判定することができる。
また、ii)第2の方法としては、当該2対のプライマーセットを混合して1つの反応液として調製し、1回のPCRを行う方法を挙げることができる。この場合、1つのレーンにおける電気泳動後の増幅パターンから遺伝子型を判定することが可能となる。そのため、1検体につき1試料の調製のみで結果が得られ、検体数が極めて多い場合に有効である。しかし、当該方法においては、野生型遺伝子由来の増幅産物と機能欠損型遺伝子由来の増幅産物の間で、2種類の増幅産物の差異を区別できるようにする必要がある。例えば、増幅産物の塩基長の長さが異なるようにプライマーセットを設計する、プライマーに両者を区別可能な標識物質等をそれぞれに付与する、等の態様が必要となる。
なお、各プライマーセットで検出可能な遺伝子型の例を表1に示した。

0082

0083

また、2対のプライマーセットの設計例の応用として、機能欠損型遺伝子検出用プライマー2と野生型遺伝子検出用プライマー2とを共用プライマーとするようにプライマーセットを設計することによって、2対のプライマーセットを3種類のプライマーのみで構成する態様を挙げることができる。この場合の具体的態様としては、「機能欠損型遺伝子検出用プライマー1」、前記プライマーとプライマー対を形成する「共通用プライマー(機能欠損型遺伝子検出用プライマー2であり且つ野生型遺伝子検出用プライマー2であるプライマー)」、及び前記共通用プライマーとプライマー対を形成する「野生型遺伝子検出用プライマー1」、の3種類のプライマーからなるプライマーセットを挙げることができる。

0084

[オリゴヌクレオチドプローブ]
本発明において当該機能欠損変異を検出する手段としては、オリゴヌクレオチドプローブを用いた技術を利用する方法も有効である。
本明細書中、「オリゴヌクレオチドプローブ」とは、デオキシヌクレオチド又はヌクレオチドを重合させて合成したオリゴヌクレオチドであって、特定塩基配列に特異的にハイブリダイズする塩基配列で構成された一本鎖核酸を指すものである。核酸分子種としてはDNA、RNAのいずれも利用することができる。また、モルフォリノオリゴなどの核酸類似物質を用いることもできる。

0085

ハイブリダイゼーション法により当該機能欠損型遺伝子を野生型遺伝子と区別して検出するためには、機能欠損変異の存在を特異的に検出可能なプローブを設計することが必要である。
ここで、当該機能欠損変異を検出するためのプローブ(「機能欠損型遺伝子検出用プローブ」)としては、機能欠損型グルコラファサチン合成酵素遺伝子を構成する塩基配列又はその相補配列に含まれる塩基配列であって、当該機能欠損変異を特異的に検出可能な塩基配列を含むプローブを挙げることができる。
具体的に、i)挿入変異の場合において、当該挿入変異上の塩基配列又はその相補配列、を含むプローブを挙げることができる。当該態様の場合、野生型遺伝子とのミスハイブリを回避して、検出シグナル特異性を担保するために、好ましくは野生型遺伝子に共通して存在する領域の塩基配列又はその相補配列を含まないプローブとすることが好適である。当該態様の場合、機能欠損型遺伝子に対しては特異的にハイブリダイゼーションするが、野生型遺伝子に対してはハイブリダイゼーションしないプローブとなる。
また、当該プローブの別態様としては、ii)置換、欠失、又は挿入変異の場合において、当該変異部位を含む塩基配列、を含むプローブを挙げることができる。当該態様の場合、機能欠損型遺伝子に対してはハイブリダイゼーションしやすいが、野生型遺伝子に対してはハイブリダイゼーションしにくいプローブとなる。

0086

機能欠損型遺伝子検出用プローブと野生型遺伝子とのミスハイブリを回避し、検出感度を向上させる手段としては、マスキングプローブの使用を挙げることができる。ここで、「マスキングプローブ」とは、野生型遺伝子に特異的な塩基配列又はその相補配列を含むプローブであって、当該機能欠損変異に対応する野生型部位を含む塩基配列、を含むプローブを指すものである。
当該マスキングプローブは、機能欠損型遺伝子検出用プローブよりも野生型遺伝子にハイブリダイズする親和性が高いため、機能欠損型遺伝子検出用プローブとマスキングプローブが競合する共存在下においては、機能欠損型遺伝子検出用プローブが野生型遺伝子にミスハイブリすることを顕著に抑制することが可能となる。特に、上記ii)に記載のプローブの場合、マスキングプローブの使用は極めて好適である。

0087

当該オリゴヌクレオチドプローブとしては、プローブの用途によって異なるが、グルコラファサチン合成酵素遺伝子(機能欠損型遺伝子、野生型遺伝子)を構成する塩基配列又はその相補配列と一致する塩基配列を、連続して少なくとも12塩基有するプローブが好適である。好適な塩基長(塩基:mer)としては、当該塩基配列又はその相補配列に含まれる塩基配列を、連続して少なくとも12塩基以上、好ましくは15塩基以上、より好ましくは20塩基以上、さらに好ましくは25塩基以上、含むプローブであることが好適である。
また、オリゴヌクレオチドプローブの塩基長の上限としては、挿入配列の塩基長自体を上限とすることもできるが、例えば、1000塩基以下、好ましくは500塩基以下、より好ましくは100塩基以下を挙げることができる。
また、ドットブロット法、TaqMan(R)プローブ法、マイクロアレイ法などによって、1〜数塩基の相違を検出するのであれば、検出感度を担保するために、上限値が短い鎖とした方が好適である。この場合の上限値としては、200塩基以下、好ましくは100塩基以下、より好ましくは50塩基以下程度の短いプローブとすることが好適である。
また、オリゴヌクレオチドプローブの5’端や3’端は、検出用の蛍光物質や標識物質等を結合したものを好適に用いることができる。また、プローブ合成時に、dNTPやNTPに標識物質を結合させたものをプローブ構成塩基として取り込ませて用いることもできる。

0088

・オリゴヌクレオチドプローブを用いた遺伝子型判定
プローブを用いた遺伝子型判定を行うためには、対象ダイコン植物体におけるDNAを鋳型としたPCR反応が可能な試料を調製することが必要である。
ハイブリダイゼーションの条件によっては、破砕試料や溶出試料等を用いることも可能であるが、具体的には、常法や市販キット等を用いてDNA抽出を行って、ハイブリダイゼーション反応に適した試料を調製することが望ましい。なお、ハイブリダイゼーション法は極めて感度が高い検出法であるため、調製する試料の量は微量(例えば、発芽直後のスプラウトの一部分)でも十分に分析に供することが可能である。また、試料調製に用いるダイコン植物体の組織は、DNAを含む如何なる組織であっても使用可能である。
シグナルの検出法としては、通常の手法(インターカレート法、蛍光検出法、発光検出法、発色検出法、抗体検出法、RI検出法など)によって、特異的なハイブリダイゼーションシグナルが得られているかを容易に検出することが可能である。好ましくは、プローブ自体に蛍光物質や標識物質を結合して、ハイブリダイズしたプローブのシグナルを特異的に検出する方法が好適である。

0089

本発明においては、上記機能欠損型遺伝子検出用プローブを用いて機能欠損型遺伝子に特異的なシグナルが得られた場合、対象ダイコンのグルコラファサチン合成酵素遺伝子座の遺伝子型は、「機能欠損型遺伝子を有する遺伝子型」であると判定することができる。即ち、この場合、対象であるダイコンの遺伝子型は、「機能欠損型遺伝子ホモ型」又は「ヘテロ型」であると判定することができる。
これらの遺伝子型であるダイコン個体は、当該ゲノム中に機能欠損型グルコラファサチン合成酵素遺伝子を有する個体であるため、グルコラファサチン欠失系統を作出するための育種素材及び遺伝子資源として、有効に用いることができる。

0090

近接領域連鎖マーカーの利用]
本発明においては、グルコラファサチン合成酵素遺伝子と分離が生じ得ないような極めて近接な領域に存在する連鎖マーカー(SNP、SSRなど)については、グルコラファサチン合成酵素遺伝子の変異の有無の検出に利用することが可能である。即ち、当該近接領域連鎖マーカーについては、当該遺伝子座の「機能欠損変異の有無」を間接的であるが比較的精度良く検出して、グルコラファサチン合成酵素遺伝子座の遺伝子型を判定することが可能となる。

0091

このような近接領域として、具体的には、グルコラファサチン合成酵素遺伝子の3’側及び5’側のそれぞれに近接する200kbp以内、好ましくは100kbp以内、より好ましくは75kbp以内、さらに好ましくは50kbp以内、特に好ましくは20kbp以内、一層好ましくは10kbp以内の領域を挙げることができる。このようなグルコラファサチン合成酵素遺伝子座と極めて近接する領域にある連鎖マーカーであれば、組換えによるグルコラファサチン合成酵素遺伝子との分離は極めて生じ難いため、連鎖マーカー型から当該機能欠損型変異の有無を判定することができる。この点は、ポジショナルクローニング法により近傍連鎖マーカーを利用するためには、大規模分離集団を用いた高精度連鎖解析が必要となる点からも支持される知見である。
当該近接領域に存在する連鎖マーカー型の検出は、PCR法を利用した技術、ハイブリダイゼーション法を利用した技術、を利用することができる。また、プローブとプライマーを併用したリアルタイムPCR法、変異型と野生型の2種類のプローブを併用したドットブロット法、などの多型検出技術を利用することも可能である。また、制限酵素断片長多型、シーケンサーによる塩基配列決定、などによって、マーカー型を検出することも可能である。

0092

当該近接領域連鎖マーカーとしては、一例として挙げると、後述するNR154E系統又は当該系統に由来する系統の場合であれば、実施例1(6)に記載の連鎖マーカーを用いることが可能である。但し、NR154E系統以外の別系統(例えば、MR050E系統など)において機能欠失型遺伝子を検出する場合であれば、各変異系統に特異的な近傍連鎖マーカーを探索して、利用することが必要となる。

0093

[系統識別]
本発明においては、グルコラファサチン合成酵素遺伝子座の遺伝子型を判定することによって、その判定した遺伝子型情報を用いて、グルコラファサチン含有性又は欠失性に関する表現型を識別することが可能となる。ここで、当該遺伝子型は、グルコラファサチン合成酵素遺伝子そのものの変異を指標としているため、通常の連鎖マーカー(上記、近接領域連鎖マーカーを除く)を利用した方法とは異なり、グルコラファサチン欠失性を示す表現型の高精度での識別及び選抜が可能となる。
また、勿論であるが、当該機能欠損型の変異をDNAマーカーとして利用した場合の方が、原理的に上記近傍連鎖マーカーよりも正確な識別及び選抜が可能となる。

0094

グルコラファサチン欠失性は劣性遺伝子によるものであるため、遺伝子型と表現型の関係は次のようになる。
具体的には、当該遺伝子型が「野生型遺伝子ホモ型」及び「ヘテロ型」を示す遺伝子型である場合、そのダイコン個体は、他のグルコラファサチン代謝を司る遺伝子にグルコラファサチンを欠失させる変異が生じていない限り、その表現型はグルコラファサチン含有性を示す表現型となる。
一方、当該遺伝子型が「機能欠損型遺伝子ホモ型」の場合、グルコラファサチン欠失性を示す表現型となる。

0095

以上に示すように、本発明においては、上記プライマーセット及び/又はプローブを用いて遺伝子型の判定を行うことによって、当該遺伝子型に起因する「グルコラファサチン欠失系統」を高精度で識別することが可能となる。

0096

[遺伝子型判定用キット、系統識別用キット]
本発明においては、上記オリゴヌクレオチドプライマーセット及び/又はオリゴヌクレオチドプローブを含むキットを、グルコラファサチン合成酵素遺伝子座の遺伝子型判定用キットとすることができる。当該キットは、PCR反応用試薬、ハイブリダイゼーション反応用試薬、検出用試薬等、を含めた製品形態のキットとすることもできる。
また、上記オリゴヌクレオチドプライマーセット及び/又はオリゴヌクレオチドプローブを、メンブレン濾紙等のセルロース担体ガラスチップ等の基盤担体、合成樹脂等のカラム担体などに固定して、簡易に遺伝子型判定が可能な製品形態とすることもできる。
さらに、当該遺伝子型判定キットは、系統識別用キットとして、グルコラファサチン欠失系統識別用キットの製品形態とすることも可能である。

0097

4.機能欠損型遺伝子をホモ型で有するダイコン系統
ダイコンゲノムにおいて、グルコラファサチン合成酵素遺伝子座に上記した機能欠損型遺伝子を「ホモ型」で有する個体は、グルコシノレート組成がグルコラファサチン欠失性を示すダイコンとなる。
ここで、「グルコラファサチン欠失性」とは、ダイコン植物体においてグルコラファサチンが欠失又は実質的に欠失している性質を指す。具体的には、上記段落「2.機能欠損型グルコラファサチン合成酵素遺伝子」に記載したグルコラファサチン含量及び/又はグルコシノレート組成である性質を指す。
なお、当該遺伝子座において、当該機能欠損型遺伝子と野生型遺伝子の組み合わせで有する個体(機能欠損型遺伝子/野生型遺伝子のヘテロ型個体)では、「グルコラファサチン欠失性」を示す個体にはならず、通常野生型のグルコシノレート組成である「グルコラファサチン含有性」の表現型を示す個体となる。

0098

ここで、グルコラファサチン合成酵素遺伝子座に当該機能欠損型遺伝子をホモ型に有することにすることが可能な「ダイコン(ダイコン植物)」とは、一般的なRaphanus sativusに属する植物種であれば、いずれの品種系統のものを挙げることができる。具体的には、日本ダイコン(R. sativus var. longipinnatus)、ハツカダイコン(R. sativus var. sativus)、クロダイコン(R. sativus var. niger)等を挙げることができる。より具体的には、日本ダイコン(R. sativus var. longipinnatus)に属する品種系統を挙げることができる。
なお、ダイコンゲノムにおけるグルコラファサチン合成酵素遺伝子座の数は、単一遺伝子座であると認められる。また、当該遺伝子に対して機能相補性や冗長性を示す極めて高い相同性を示す遺伝子の存在は確認されていない。
なお、通常のダイコンは二倍体であるが、染色体の倍数体化(例えば複二倍体化、四倍体化等)が生じた品種系統である場合、当該遺伝子座における全ての遺伝子が機能欠損型遺伝子になる(ホモ型になる)ようにすることで、グルコラファサチン欠失性の表現型を示すダイコンとなる。

0099

[機能欠損型遺伝子ホモ型系統の作出困難性]
本発明者らが見出したグルコラファサチン欠失性を誘起する原因遺伝子は、NR154E系統を用いたポジショナルクローニング法(連鎖解析及び高精度連鎖解析)、定量的発現解析、機能獲得型遺伝子導入試験、遺伝子配列解析、等を駆使して同定された、グルコラファサチン欠失性を誘起する原因遺伝子である。当該原因遺伝子の野生型遺伝子は、グルコラファサチンの合成反応に関与する酵素をコードする遺伝子である。

0100

NR154E系統は、品種「西町理想」(通常野生型のグルコシノレート組成を示す品種)を原集団として、人為的な自殖操作及びグルコシノレート組成を指標とする優良個体の選抜を繰り返して行うことによって、作出された系統のうちの1系統である。具体的には、ゲノム中のグルコラファサチン合成酵素遺伝子座に、配列番号7に記載の塩基配列を含む遺伝子をホモ型で有するダイコン系統である。
なお、原集団である品種「西町理想」は、通常野生型のグルコラファサチン含有性を示す品種であり、グルコラファサチン欠失性を示すことは知られていない。NR154E系統は、品種「西町理想」の人為的な栽培集団内において生じた当該機能欠損型の突然変異遺伝子を「ホモ型」で有する個体について、自殖操作と集団内からグルコラファサチン含量を指標として選抜することによってはじめて得られた系統である。

0101

ここで、ダイコンの「自殖操作」とは、人為的な隔離操作を行って、開花前の自家不和合性のみられない一定期間内に自家花粉受粉させ、得られた集団からグルコラファサチン欠失性を示す個体を選抜する操作を行う工程である。なお、ダイコンの自家受粉は、自由交配の状態では起こり難い現象である。
また、「グルコラファサチン欠失性」という表現型は、植物体の外形では判別できない内在成分に係るグルコシノレート組成に関する形質であるため、当該含量を指標とした表現型判定を行うためには、HPLC分析等により行うことが必要となる。即ち、ダイコンの形態(形状、色彩等)を見ても、当該表現型を判定することはできない。
これらの点から明らかなように、当該「グルコラファサチン欠失性」という形質を集団内で固定するためには、HPLC分析等で各個体のグルコシノレート含量を測定した上で、人為的に自殖操作及び選抜操作を行うことが必要であると認められる。

0102

なお、本発明者らは、本発明に係る研究を開始するにあたり、世界中で保存されているダイコン遺伝子資源「650品種系統以上」を対象にして、グルコラファサチン欠失性を示す品種系統の探索を網羅的に行ったが、「グルコラファサチン欠失性」を示す形質が集団内に固定されたダイコン品種系統は見出されなかった。
従来品種系統において、グルコラファサチン欠失系統(具体的には当該機能欠損型遺伝子をホモ型で有するダイコン系統を含む集団)が見いだされなかった理由としては、次の理由が考えられる。即ち、ダイコンでは、i)通常の状態では本発明に係る劣性突然変異が生じにくく、ii)また、劣性突然変異型遺伝子は、集団内に広がる前に淘汰され消滅していた可能性が考えられる。

0103

[グルコラファサチン欠失性を誘起する作用機序
本発明におけるグルコラファサチン欠失性ダイコン系統は、グルコラファサチン合成酵素遺伝子座に機能欠損型遺伝子をホモ型で有すること(作用機序)によって、グルコラファサチン欠失性を示すようになったダイコン系統である。
例えば、NR154E系統は、グルコラファサチン合成酵素遺伝子の第1エクソンに機能欠損型変異を有する遺伝子(配列番号7に記載の塩基配列を含む遺伝子)をホモ型で有するダイコン系統である。また、MR050E系統は、グルコラファサチン合成酵素遺伝子の第3エクソンに機能欠損型変異を有する遺伝子(配列番号9に記載の塩基配列を含む遺伝子)をホモ型で有するダイコン系統である。

0104

ここで、ダイコンにおけるグルコラファサチン代謝(合成や分解等)に関与する遺伝的因子は、原理的には、本発明に係るグルコラファサチン合成酵素遺伝子以外にも複数存在すると考えられる。具体的には、当該遺伝子とは別途にグルコラファサチンの合成・生成に関与する遺伝子、当該グルコラファサチン合成酵素遺伝子の発現調節を行う遺伝子、グルコラファサチンの分解反応に関与する遺伝子、グルコラファサチンからの二次代謝物の生成に関与する遺伝子、などの存在が推測される。
これらの遺伝子のいずれかにその機能を欠損又は過剰作用する変異が生じた場合、グルコラファサチンが欠失する表現型になると推測される。
また、グルコラファサチン代謝の例ではないが、近縁属の植物であるシロイヌナズナには、アリファティック系グルコシノレート全般の生合成を制御する転写制御因子であるMyb転写因子が存在することが知られている(Hirai et al., 2007 PNAS, 104: 6478-6483)。
以上の知見は、「グルコラファサチン欠失性」を示すダイコン系統の全ての系統が、本発明に係るグルコラファサチン合成酵素遺伝子の機能欠損によって誘起されるわけではない可能性を示している。即ち、「グルコラファサチン欠失性」という表現型は、グルコラファサチン合成酵素遺伝子とは異なる別の遺伝子の機能欠損や機能異常によって誘起される可能性があり、本発明とは全く異なる「作用機序」の存在も想定される。

0105

[グルコラファサチン欠失系統の作出方法]
グルコラファサチンを欠失したダイコン系統を作出するためには、グルコラファサチン合成酵素遺伝子座に当該機能欠失型遺伝子を「ホモ型」で有するダイコンを作出する必要がある。そのためには、当該遺伝子座に当該機能欠失型遺伝子を有するダイコンを「遺伝子供与体」として用いた育種的手法を利用することが好適である。
ここで、遺伝子供与体(交配親)として用いる「当該遺伝子座に当該機能欠失型遺伝子を有するダイコン」としては、上記した機能欠損型遺伝子を当該遺伝子座に有するダイコンであれば、如何なる個体を用いることができる。また、機能欠損型遺伝子をホモ型で有する個体だけでなく、ヘテロ型(機能欠損型遺伝子/野生型遺伝子のヘテロ型)で有する個体も、遺伝子供与体として好適に用いることができる。

0106

「機能欠損型遺伝子の供与体(交配親)」として用いることが可能なダイコンとしては、具体的には、i)当該遺伝子座へ「当該機能欠損型遺伝子が導入されたダイコン」を用いることができる。ここで、当該遺伝子座への当該機能欠損型遺伝子の導入手段としては、如何なる遺伝子導入手段を挙げることができる。例えば、アグロバクテリウムエレクトロポレーションパーティクルガン細胞融合等、遺伝子導入を利用した相同組み換え技術により、当該機能欠損型遺伝子が当該遺伝子座に導入されたダイコンを挙げることができる。また、人為的な交配手法によって当該機能欠損型遺伝子が当該遺伝子座に導入されたダイコンを挙げることができる。
また、ii)当該遺伝子座に存在する野生型のグルコラファサチン合成酵素遺伝子に、機能欠損型の変異が導入されたダイコンを得て、当該ダイコンを遺伝子供与体として用いることができる。ここで、当該遺伝子への当該機能欠損型変異の導入として、如何なる変異導入を挙げることができる。例えば、トランスポゾンレトロトランスポゾン植物ウイルス等を介した挿入配列導入を伴う変異導入を挙げることができる。また、種子に対する放射線照射処理重イオンビーム処理、変異源物質を含む溶液での処理などを行った突然変異促進により変異導入を挙げることができる。また、遺伝子編集技術(ZFN、CRISPR等)による変異導入を挙げることができる。
このような変異導入によって得られた機能欠損型遺伝子を有する個体は、遺伝子供与体として好適に用いることができる。
また、iii)既に作出した当該遺伝子座に当該機能欠損型遺伝子を有するダイコンがある場合、そのダイコンを遺伝子供与体として用いることができる。
また、iv)上記 i)〜iii)のいずれかのダイコンに由来する後代系統自殖及び/又は交配により得られた系統)に属するダイコンであって、当該遺伝子座に機能欠損型遺伝子を有するダイコンについても、遺伝子供与体として用いることができる。

0107

一方、他方の交配親(所望のダイコン)としては、通常であれば、i)当該機能欠損型遺伝子の受容体として、所望の形質を有するダイコン品種系統に属する個体(所望のダイコン個体)を用いることができる。
ここで、「所望の形質」としては、栽培特性や品質、ダイコン加工品等に有利になる全ての形質を挙げることができる。例えば、肥大根部の品質を向上させる形質(例えば、肥大根部の大きさ、肥大根部の形状、肥大根部の柔組織密度等)、環境耐性に関する形質(例えば、耐寒性耐暑性等)、耐病性に関する形質、成長に関する形質(例えば、栽培期間の早晩性植物ホルモン合成系等)、生殖に関する形質(例えば、花成制御、自家不和合性、細胞質雄性不稔性等)、色素に関する形質(例えば、アントシアニン組成、アントシアニン含量等)等を挙げることができる。
また、他方の交配親(所望のダイコン)としては、ii)当該機能欠損型遺伝子を有するダイコンをそのまま用いることも可能である。この場合、当該機能欠損型遺伝子を有するダイコンどうしである2個体(同系統どうし又は他系統どうし)を、他殖操作によって受粉させる操作を行う。また、iii)所望によっては、他方の交配親を用いずに自家受粉による交配(自殖操作)を行うことによって、所望のダイコンを得ることも可能である。

0108

上記交配操作を行った後は、必要に応じて自殖操作及び選抜操作を行うことによって、所望の優良形質を有し且つ当該機能欠損型遺伝子をホモ型で有する個体を得ることが可能である。また、更に必要に応じて、更なる所望のダイコン個体との交配、自殖操作、及び選抜操作を繰り返して行うことによって、更に優良形質を有するダイコン個体を得ることもできる。
本発明では、当該グルコラファサチン欠失性及び所望の形質が遺伝的に固定された集団を得ることで、グルコラファサチン欠失性を示すダイコン系統(又は品種)を作出することが可能となる。

0109

本発明では、上記交配後の後代集団からの「選抜操作」において、本発明に係る遺伝子型判定方法を利用することにより、グルコラファサチン合成酵素遺伝子座の遺伝子型を高精度で判定することが可能となる。これにより、グルコラファサチンに関する所望の個体を高い精度にて選抜することが可能となり、グルコラファサチン欠失系統を短期間で且つ効率良く作出することが可能となる。

0110

[グルコラファサチン欠失系統の植物体]
本発明に係るグルコラファサチン欠失系統のダイコンから得られた植物体は、農業及び食品等の様々な分野において、極めて有効に利用することができる。当該植物体を利用することによって、農作物としてのダイコン、大根加工食品(沢庵漬物、大根おろし、切り干し大根、つま、など)、大根を利用した各種製品(飲料、色素等)等の各分野において、「風味劣化」、「沢庵臭の発生」、及び「黄変化による色ムラの発生」などの品質劣化の問題を根本的に解決することが可能となる。
ここで、「ダイコンから得られた植物体」としては、ダイコンの植物体を構成する全ての部位や組織、全ての生育段階に属する植物体を挙げることができる。具体的には、根(側根や未発達状態の根を含む)、胚軸部、葉、葉柄、茎、花蕾、花、種子、スプラウト、ベビーリーフ、苗、などを挙げることができる。
農作物及び加工食品等の利用を考慮すると、肥大根(根と胚軸部からなる部分)部を好適に用いることができる。生鮮食品として、スプラウト(発芽直後の子葉、胚軸、及び根からなる植物体)も好適に用いることができる。また、ベビーリーフや葉についても食品として用いることができる。
また、種子、苗(好ましくは発芽後40日程度までの幼苗)は、栽培や育種に好適に用いることができる。

0111

以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明の範囲はこれらにより限定されるものではない。

0112

[実施例1]『ポジショナルクローニングによる遺伝子座の同定』
ポジショナルクローニングによる連鎖解析及び高精度連鎖解析を行い、グルコラファサチン欠失形質の原因遺伝子座の同定を行った。

0113

(1)「グルコラファサチン欠失性ダイコン系統」
ポジショナルクローニング法によりグルコラファサチン欠失性の原因遺伝子座を同定するため、グルコシノレート組成の表現型がグルコラファサチン欠失性を示す「NR154E」系統を用いた(図2)。
当該NR154E系統は、本発明者らが独自に作出した複数のグルコラファサチン欠失系統のうちの1系統である。具体的には、当該系統は、品種「西町理想」(通常野生型のグルコシノレート組成を示す品種)を原集団として、人為的な自殖操作及びグルコシノレート組成を指標とする優良個体の選抜を繰り返して行うことによって、作出した系統のうちの1系統である。
当該「NR154E」系統は、他の通常野生型の品種系統と比べて、グルコラファサチンを含まず、その代わりにグルコエルシン含量が高いという性質を示す。また、グルコシノレート総量自体が低いという性質を示す。

0114

「NR154E」系統の優れたグルコラファサチン欠失性を確認するため、肥大根(肥大した根及び胚軸)部の乾燥重量あたりのグルコシノレート含量の測定を行った。当該測定は、肥大根部を液体窒素凍結粉末化した後、70%メタノールで抽出したグルコシノレートを脱硫化してHPLC分析に供し、グルコシノレート組成を内部標準であるシニグリン換算定量化することで行った。
その結果、表2に示すように、「NR154E」系統ではグルコラファサチンが検出されず、グルコラファサチン欠失性という観点において、極めて優れた性質を示す系統であることが示された。(※なお、表2における「MR050E」系統も本発明者らが作出したグルコラファサチン欠失系統であるが、NR154E系統とは別起源であるグルコシノレート総量が多い系統である。)

0115

また、本発明者らは、世界中で保存されているダイコン遺伝子資源「650品種系統以上」を対象にして、グルコラファサチン欠失性を示す品種系統の探索を網羅的に行ったが、当該グルコラファサチン欠失性形質が固定された品種系統を発見することができなかった。

0116

0117

(2)「分離比解析」
戻し交雑(BC1)集団の分離比の解析を行ったところ、当該グルコラファサチン欠失性は、単因子劣性遺伝子によることが示唆された。

0118

(3)「原因遺伝子座の同定(連鎖解析)」
「NR154E」及び「HAGHN」の両系統の個体からそれぞれDNAを抽出し、無作為に選択した遺伝子領域2880ヶ所をPCR法により増幅し、その塩基配列を決定して両系統間の多型を同定した。
得られた多型のうち131ヵ所のSNP領域に、NR154E型SNPを含む塩基配列からなる標識したオリゴヌクレオチドプローブを設計した。また、SNPのHAGHN型対立座)の塩基配列からなる非標識のオリゴヌクレオチドプローブも設計した。これら対立座の関係にある2種類のオリゴヌクレオチドプローブを含む溶液を混合した。
131ヶ所それぞれのSNPについて、同様にしてプローブ溶液を調製して、131ヶ所のそれぞれのSNP領域に対応したSNP検出用プローブ溶液を調製した。また、49ヵ所の片親特異的に増幅するプライマーを同定した。

0119

連鎖解析用の集団を確保するため、上記グルコラファサチン欠失性(変異型)である「NR154E」系統と、グルコラファサチン含有性(通常野生型)であるダイコン自殖系統「HAGHN」とを交配することで、グルコラファサチン欠失形質の原因遺伝子(以下、単に原因遺伝子という場合がある。)を同定するための分離F2集団を育成した。
当該育成したF2集団96個体からDNAを抽出し、前記131ヶ所のSNP領域をPCR法により増幅し、SNPごとに各個体から得られたPCR増幅産物をナイロンメンブレンスポットして固定した。(即ち、SNPごとにPCR産物をスポットしたナイロンメンブレンを131枚作成した。)
各ナイロンメンブレン(各SNPのPCR増幅産物)に対応するSNP検出用プローブ溶液を用いて、ドットブロットハイブリダイゼーション法(Dot-blot hybridization法;Shirasawa et. al., 2006 Theor. Appl. Genet. 113: p147-155)を行うことで、F2集団96個体それぞれにおける131ヶ所のSNP型を決定した。
当該遺伝子型の情報からJoinMap4.0(Kyazma)を用いて各マーカー間組換え価を算出し、連鎖地図を構築した。当該連鎖地図において、本実施例に係る原因遺伝子のマッピングに利用したSNPを表3及び図3〜5に示した。

0120

F2集団96個体の本葉1gを用いて、グルコラファサチン含量を測定し、各個体の表現型を判定した。グルコラファサチン含量の測定は、石田ら(Ishida et al., 2011 Breeding Science 61: 208-211)に記載の方法に準じたHPLC分析により行った。
ここで、上記(2)で記載したように、当該グルコラファサチン欠失形質性は、単因子劣性遺伝子によること示唆されていることから、原因遺伝子の遺伝子型を次のように仮定した。
即ち、 i) グルコラファサチン欠失性を示す個体の遺伝子型を「NR154Eホモ型」と仮定した。また、ii) グルコラファサチン含有性を示す個体の遺伝子型を「HAGHNホモ型」又は「ヘテロ型」と仮定した。

0121

各個体における原因遺伝子の予測遺伝子型と上記各マーカー遺伝子型の情報を用いて、原因遺伝子と各マーカー間の組換え価を算出した。当該組換え価の値から、連鎖地図上に当該原因遺伝子の座乗領域を位置づけた。
その結果、当該原因遺伝子の座乗領域は、SNPマーカー「CL4624」と「CL6024」の範囲の間に存在することが示された(図6)。

0122

(4)「原因遺伝子座の絞り込み(連鎖解析)」
近傍連鎖マーカー(SNP、SSRなど)を利用して、さらなる原因遺伝子座の絞り込みを行った。
上記原因遺伝子座乗領域の近傍SNPである「CL4624」と「CL6024」のF2集団1358個体のSNP型を決定し、2つのSNPの間で組換えが生じていた44個体を選抜した。
次に、当該両SNPで挟まれた領域内に、「NR154E」系統と「HAGHN」系統とが区別できるDNAマーカーを新たに探索して同定した。DNAマーカーの探索及びDNAマーカー型の決定は、上記(3)に記載のSNP型の決定手順に準じて行った。探索の結果、新たなSNP及びSSRを同定した。
上記選抜した44個体について、上記(3)に記載の方法と同様にして、本葉におけるグルコラファサチン含量を測定し、表現型及び原因遺伝子の遺伝子型を判定した。そして、当該原因遺伝子と、上記新たに見出した各DNAマーカーとの組換え値を算出し、当該組換え価と比較することで、座乗領域をさらに絞り込んだ。
その結果、当該原因遺伝子の座乗領域は、SSRマーカー「4D01_NED」とSNPマーカー「6C04_post」の間(約1cM)に絞り込めることが明らかになった(図6)。

0123

(5)「ゲノムコンティグ配列」
次に、グルコラファサチン含有性(野生型)系統である「Aokubi S-h」系統のBACライブラリーの塩基配列及びScaffold配列(Rsa1.0_00457.1)を用いて、前述のSSRマーカー「4D01_NED」及びSNPマーカー「6C04_post」を用いたスクリーニングを行った。ダイコンのゲノム塩基配列は、Raphanus sativus Genome DataBase(http://radish.kazusa.or.jp/)から入手した。
その結果、当該原因遺伝子は、「Aokubi S-h」系統で解析された1つのScaffold配列と2クローンのBACライブラリーによりカバーされる領域内に、座乗することが明らかとなった(図6)。
これらの塩基配列情報から、当該対象原因遺伝子の座乗範囲を物理的にカバーするゲノムコンティグ配列(野生型である「Aokubi S-h」系統のゲノム配列)を作成した。

0124

(6)「高精度連鎖解析」
高精度連鎖解析により当該原因遺伝子をマップベースクローニング法で単離するためには、大量の分離集団を用いて組換え価を算出することが必要となる。そこで、当該原因遺伝子座が「ヘテロ型」となっているF2個体について自殖操作を行い、3840個体からなるF3集団を育成した。F3集団の育成は128穴セルトレイを用いて行い、各植物体からDNAを抽出した。
当該原因遺伝子を挟み込む位置にあるSSRマーカー「sca8159_A02」及び「node11_F03」に着目し、これら2つのマーカー間で組換えのある21個体を選抜した。得られた組換え個体を9cmポット移植した。
選抜個体について、上記(3)に記載の方法と同様にして、本葉におけるグルコラファサチン含量を測定し、表現型及び原因遺伝子の遺伝子型を判定した。

0125

次に、原因遺伝子の座乗領域を狭めるため、当該原因遺伝子と上記(4)で同定した各DNAマーカーとの組換え価を高精度で算出し、当該組換え価と比較することで、座乗領域をさらに絞り込んだ。
その結果、最終的に、SSRマーカー「sca8159_D07」及び「ssG02」に挟まれる約23.8kbpの領域内に、当該原因遺伝子が座乗することが明らかになった(図6)。

0126

0127

[実施例2]『グルコラファサチン欠失性原因遺伝子の推定』
上記高精度連鎖解析にて明らかになった座乗領域において、当該座乗領域に存在する遺伝子の中からグルコラファサチン欠失性原因遺伝子の推定を行った。

0128

(1)「配列予測」
実施例1にて同定された原因遺伝子の座乗領域について、当該領域に含まれる全ての遺伝子を推定した。遺伝子配列の推定には、遺伝子予測プログラムであるAugustus(http://augustus.gobics.de/)及びGENSCAN(http://genes.mit.edu/GENSCAN.html)による配列解析を行った。
その結果、高精度連鎖解析で絞り込んだ当該座乗領域には、7つの遺伝子(遺伝子1〜7)が存在することが推定された(図7)。即ち、当該解析により、グルコラファサチン欠失性原因遺伝子の候補が、7つの候補遺伝子に絞り込めることが示された。

0129

(2)「発現解析による候補遺伝子の推定」
上記高精度連鎖解析で得られた座乗領域に存在する7つの候補遺伝子(遺伝子1〜7)について、発現解析を行うことによって、当該原因遺伝子の候補の絞り込みを行った。
グルコラファサチン欠失系統である「NR154E」系統の肥大根部及び本葉から、RNeasy plant mini kit(QIAGEN社製)を使用して、全RNA(total RNA)を抽出した。得られたRNAを鋳型として、PrimeScriptRTreagent Kit(TaKaRa bio社製)を用いて、cDNA相補鎖DNA)を合成した。対照試料として、グルコラファサチン含有品種(野生型)である「耐病総太り」を用い、同様にして全RNAを抽出してcDNAを合成した。
合成した各cDNAを鋳型として、RT−PCRを行うことで、遺伝子1〜7のそれぞれの遺伝子発現を検出した。PCR反応は、SYBR(R) Premix Ex Taq(TM)(TliRNaseH Plus)(TaKaRa bio社製)を使用し、上記鋳型cDNAを用いて、95℃ 5秒,60℃ 30秒、表4に示すプライマーを用いて、30サイクル又は35サイクルのPCR反応を行った。
得られたPCR産物をアガロースゲルに電気泳動し、試料間のPCR産物の増幅量度合いを検出することで、各遺伝子における「NR154E」及び「耐病総太り」の間での発現量の相対的な差異を検出した。結果を表5に示した。当該表中において、PCR増幅が明確に確認された試料を「+」、増幅が明確に確認されなかった試料を「−」で示した。また、両系統間で増幅量に明確な差異が検出された場合、「*」で示した。

0130

その結果、「NR154E」系統と「耐病総太り」とでは、遺伝子3の遺伝子発現に顕著な差異があることが明らかになった(表5)。具体的には、図8ゲル写真が示すように、遺伝子3の遺伝子発現は、グルコラファサチン欠失系統である「NR154E」系統では、グルコラファサチン含有品種(野生型)の「耐病総太り」よりも、著しく減少していることが明らかになった。当該結果は、肥大根部及び本葉の両方において、同様の発現様式を示す結果であった。
一方、他の6つの遺伝子(遺伝子1,2,4〜7)では、「NR154E」系統と「耐病総太り」との間で、発現様式に明確な差異は検出されなかった(表5)。

0131

これらの結果から、グルコラファサチン含有品種(野生型)である「耐病総太り」では、遺伝子3は正常に遺伝子発現していることが示唆された。一方、グルコラファサチン欠失系統である「NR154E」系統では、当該遺伝子が発現しておらず、遺伝子機能が欠失している可能性が示唆された。
当該遺伝子発現解析の結果を踏まえると、高精度連鎖解析で絞り込んだ座乗領域に存在する7つの遺伝子(遺伝子1〜7)のうち、「遺伝子3」が、グルコラファサチン欠失性原因遺伝子であることが示唆された。

0132

0133

0134

[実施例3]『グルコラファサチン欠失性原因遺伝子の遺伝子構造』
上記実施例にてグルコラファサチン欠失性原因遺伝子と推定された「遺伝子3」について、その遺伝子構造を詳細に解析した。

0135

(1)「野生型遺伝子3の構造」
グルコラファサチン含有系統「HAGHN」(野生型)の本葉からDNAを抽出し、「Aokubi S-h」のScaffold配列(Rsa1.0_00457.1)の配列を基に作成したプライマーを用いてPCRを行い、遺伝子3のゲノム配列を単離してゲノムの塩基配列を決定した。

0136

また、「HAGHN」(野生型)の本葉からRNeasy Plant(QIAGEN社製)を用いて全RNAを抽出し、First Choice RLM-RACE Kit(ライフテクノロジーズ社)を使用してCAP構造を有するmRNAを特異的に選抜し、5’RACE法によりcDNA配列の単離を行った。シーケンサー(3730xl DNA Analyzer, Applied Biosystems社製)を用いて5’端cDNA配列の決定し、ゲノム配列と比較することで「転写開始点」(ORFの5’端、第1エクソンの第1塩基)の決定を行った。
その結果、遺伝子3の「転写開始点」は、翻訳開始コドンの最初の塩基から上流29bpの位置にあると推測された。

0137

また、同様にして、「HAGHN」(野生型)の本葉からRNAを用いて3’RACEを行って、3’端cDNA配列を決定し、ゲノム配列と比較することで「ORF3’末端」(オープンリーディングフレーム末端である第3エクソンの最下流塩基)の決定を行った。
その結果、遺伝子3の「ORF3’末端」は、終止コドンの第3塩基から334bpの位置にあると推測された。

0138

以上、得られた当該ゲノム配列情報と転写開始点及びORF末端の情報を総合すると、野生型遺伝子3(「HAGHN」由来の遺伝子)は、配列番号2に記載の塩基配列からなる全長1787bpの遺伝子であることが明らかになった。当該ゲノム配列上の遺伝子構造は、3つのエクソン及び2つのイントロンを含むゲノム構造であることが明らかにあった(図10)。
ここで、野生型遺伝子3の全長は、第1エクソンの最上流の塩基(ORF5’端)から第3エクソンの最下流の塩基(ORF3’末端)までの塩基配列(全長1787bp)であった(表6)。また、当該「HAGHN」(野生型)からのゲノムDNA配列は、「Aokubi S-h」のScaffold配列の遺伝子3配列(配列番号1における第2972番目から第4758番目までの塩基からなる塩基配列)と一致する配列であることが確認された。

0139

0140

当該野生型遺伝子3のゲノム配列を基にグルコラファサチン含有系統「HAGHN」(野生型)から、完全長cDNAの単離を行ったところ、遺伝子3のcDNA配列は、配列番号3に記載の塩基配列であることが明らかになった。その構造は、5’UTR〜3’UTRまで全長1482bpのDNAであった(表7)。
また、コーディング領域(CDS:開始コドンの第1塩基〜終止コドンの第3塩基)は、配列番号4の塩基配列からなる1119bpのDNAであった(表7)。

0141

0142

次に、アミノ酸配列予測ソフト(GENETYX ver.12.0.1, GENETYX社製)を用いて野生型遺伝子3にコードされるアミノ酸配列を予測したところ、配列番号5に記載のアミノ酸配列からなる全長372aaの蛋白質であることが示された。
NCBIデータベースを用いた相同性検索を行った結果、先行の登録配列は存在せず、完全に新規タンパク質をコードする遺伝子であることが分かった。また、ドメイン予測解析(NCBI, Conserved Domain Search Service (CD Service), http://www.ncbi.nlm.nih.gov/Structure/cdd/wrpsb.cgi)を行ったところ、2オキソグルタル酸−鉄(II)依存性オキシゲナーゼドメイン(2-oxoglutarate and Fe(II)-dependent oxygenase domain、2 OG-Fe(II) oxygenase domainともいう。)を有することが示された(図9、表8)。
ここで、当該酵素ドメインを有する蛋白質は、植物においてスーパーファミリーを形成しており、様々な酸化還元酵素を含む酵素群である。
以上の知見から、遺伝子3の翻訳産物は、酸化還元酵素の一種として機能する酵素蛋白質であると認められた。なお、高度連鎖解析における他の6つの候補遺伝子(遺伝子1、2、4〜6)に、他に酵素をコードする遺伝子は存在しなかった。

0143

0144

(2)「変異型遺伝子3の構造」
i)NR154E変異型遺伝子3
上記野生型遺伝子3の配列からプライマーを作成し、グルコラファサチン欠失系統である「NR154E」系統の遺伝子3の塩基配列を決定した。
その結果、NR154E系統からの遺伝子3は、野生型遺伝子3の第1エクソンに相当する領域に、約9kbpの挿入配列が導入された変異型遺伝子であることが明らかになった(図10)。
具体的には野生型遺伝子3(配列番号2)の第557番目の塩基と第558番目の塩基の間に、8853bpの挿入配列(配列番号7における第558番目から第9410番目までの塩基からなる塩基配列)が導入された変異を有し、インフレームにて終止コドンが導入された変異型遺伝子(NR154E型遺伝子3)であることが明らかになった(図11)。当該変異型遺伝子3に係るゲノム配列を配列番号7に示した。
その予測アミノ酸配列は、配列番号8に記載のアミノ酸配列からなる全長176aaの蛋白質であると推定されたが、野生型遺伝子3蛋白質のC端側184aaを欠失した構造であった(図12)。特に、2オキソグルタル酸−鉄(II)依存性オキシゲナーゼドメインの全部が完全欠失した構造であることから、酵素としての蛋白質機能が失われていると推測された。
当該結果は、NR154E系統に遺伝子3の機能欠損型の挿入変異が存在するという結果であった。即ち、当該結果は、遺伝子3がグルコラファサチン欠失性原因遺伝子であることを裏付ける結果であると認められた。

0145

ii)MR050E型遺伝子3の構造
「MR050E」系統は、本発明者らがNR154E系統とは別途に作出したグルコラファサチン欠失系統の1系統である。そこで、当該MR050E系統についても遺伝子3の塩基配列を解析し、遺伝子3の変異の有無を確認した。
その結果、MR050E系統からの遺伝子3は、野生型遺伝子3の第3エクソンに相当する領域に、約1.2kbpの挿入配列が導入された変異型遺伝子であることが明らかになった(図10)。
具体的には、野生型遺伝子3(配列番号2)の第1243番目の塩基と第1244番目の塩基の間に、1222bpの挿入配列(配列番号9における第1244番目から第2465番目までの塩基からなる塩基配列)が導入された変異を有し、インレームにて終止コドンが導入された変異型遺伝子(MR050E型遺伝子3)であることが明らかになった(図11)。当該変異型遺伝子3に係るゲノム配列を配列番号9に示した。
その予測アミノ酸配列は、配列番号10に記載のアミノ酸配列からなる全長303aaの蛋白質であると推定されたが、野生型遺伝子3蛋白質のC端側69aaを欠失した構造であった(図12)。特に、2オキソグルタル酸−鉄(II)依存性オキシゲナーゼドメインのC端側16aaが欠失した構造であることから、酵素としてのその蛋白質機能は、大幅に欠失していると推測された。

0146

当該結果から明らかなように、MR050E系統は、NR154E系統と同じ遺伝子にインフレームでの挿入変異が導入されて作出された、グルコラファサチン欠失系統であることが示された。但し、MR050E系統の有する遺伝子3の変異(MR050E型変異)は、NR154E系統の変異(NR154E型変異)とは異なるものであった。
以上の結果は、遺伝子3の機能欠損(loss of function)により、グルコラファサチン欠失型の表現型が作出できることを支持する結果と認められた。

0147

0148

[実施例4]『遺伝子3の定量的発現解析』
上記実施例により原因遺伝子と推定された遺伝子3について、グルコラファサチン欠失系統と野生型品種系統とを比較した遺伝子発現量を、定量的RT−PCRにより詳細に分析した。

0149

表11に示す各ダイコン品種系統の本葉から、RNeasy plant mini kit(QIAGEN社製)を使用して、全RNA(total RNA)を抽出した。得られたRNAを鋳型として、PrimeScriptRTreagent Kit(TaKaRa bio社製)を用いて、cDNA(相補鎖DNA)を合成した。
得られた各本葉(試料)からのcDNAを用いて、リアルタイムPCR法によりグルコラファサチン合成酵素遺伝子の定量的RT−PCRを行った。グルコラファサチン合成酵素遺伝子の増幅プライマーとしては、第3エクソン後半から3’UTRの共通配列ターゲットとした、表10に示すプライマーセットを用いた。また、内部標準遺伝子としてはアクチン遺伝子(Zou et al. 2013PLos One 8: e53541.)を採用し、その増幅プライマーとしては、表10に示すプライマーセットを用いた。
リアルタイムPCR分析は、Thermal Cycler Dice(R) Real Time System II(TaKaRa bio社製)を分析装置として用いて行った。PCR反応は、SYBR(R) Premix Ex Taq(TM)(TliRNaseH Plus)(TaKaRa bio社製)を使用し、上記鋳型cDNAとプライマーセットを用いて、95℃ 5秒,60℃ 30秒のサイクル反応を35サイクル行うPCR反応を行った。上記分析装置によりPCR反応中の増幅産物の蛍光強度をリアルタイムにて経時的に測定した。
測定対象である「グルコラファサチン合成酵素遺伝子の蛍光強度測定値(平均値)」を、「内部標準遺伝子の蛍光強度測定値(平均値)」で除した値を求め、各試料間で比較可能なグルコラファサチン合成酵素遺伝子の相対発現量として算出した。結果を表11及び図13に示した。当該表において、括弧内の数値は、品種「耐病総太り」の値を基準にした場合の値である。

0150

その結果、本葉における遺伝子発現量は、グルコラファサチン欠失系統である「NR154E」及び「MR050E」の両系統では、グルコラファサチン含有品種系統(野生型)と比較して、「遺伝子3」の発現量が顕著に減少していることが明らかになった。
具体的には、「MR050E」系統では、野生型である「HAGHN」系統に比べて、当該遺伝子が1/40しか発現していないことが示された。そして、特に「NR154E」系統では、野生型である「HAGHN」系統に比べて、当該遺伝子が1/1000未満という極微量しか発現してないことが示された。
一方、野生型品種系統である「HAGHN」、「耐病総太り」、「宮重ダイコン」、及び「辛味199」の4品種系統の間では、グルコラファサチン合成酵素遺伝子の発現量に大きな差異はなく、当該遺伝子が正常に発現し機能していると認められた。

0151

当該結果から、グルコラファサチン欠失性系統においては、蛋白質の構造欠失の点に加えて、遺伝子発現量の点においても、「遺伝子3」の機能が大幅に失われていることが示された。

0152

0153

0154

[実施例5]『機能獲得型遺伝子導入試験』
上記実施例にてグルコラファサチン欠失性原因遺伝子と推定された「遺伝子3」について、シロイヌナズナへの機能獲得型の遺伝子導入試験を行った。

0155

(1)「シロイヌナズナで機能獲得型遺伝子導入試験をする意義
ここで、「シロイヌナズナ」は、ダイコンの属するRaphanusと近縁関係にある属であるArabidopsisに属する植物である。遺伝子3について、NCBIデータベースを用いた相同性検索を行った結果、シロイヌナズナのゲノム配列には、遺伝子3と配列類似性を示す、2オキソグルタル酸−鉄(II)依存性オキシゲナーゼドメインを有する遺伝子(当該遺伝子ファミリーに属する遺伝子)が複数存在することが示された(The Arabidopsis Information Resource(TAIR), http://www.arabidopsis.org/)。
しかし、「グルコラファサチン」はダイコン植物に特徴的なグルコシノレートであり、シロイヌナズナには、グルコラファサチンが全く含まれない点で、シロイヌナズナとダイコンとは、全く異なるグルコシノレート組成を有している(表12)。
また、シロイヌナズナでは全ゲノム配列が解読されている(Nature 2000 Dec.14; 408 (6814): p796-815)。
以上の知見から明らかなように、シロイヌナズナゲノム配列には、「遺伝子3と同等の機能を有する遺伝子」は存在しない。
従って、シロイヌナズナに「遺伝子3」を遺伝子導入した過剰発現体を作製し、本来はグルコラファサチンを含まないはずのシロイヌナズナからグルコラファサチンが検出されれば、「遺伝子3」がグルコラファサチン合成に関与する遺伝子であることの証拠となる

0156

0157

(2)「強制発現コンストラクト
グルコラファサチン含有系統(野生型)である「HAGHN」の本葉からRNeasy plant mini kit(QIAGEN社製)を用いて全RNAを抽出し、PrimeScriptRTreagent Kit(TaKaRa bio社製)を用いてcDNAを合成した。当該cDNAを鋳型として、表13に記載のプライマーを用いて野生型遺伝子3の完全長cDNAをRT−PCR法により増幅した。
得られた完全長cDNAをCaMV35Sプロモーターの下流に連結した後、pPZP202(Hajdukiewicz P. et al., 1994 Plant Mol. Biol, 25: p989-994)より改変したバイナリベクターpZK3B(Kuroda et al., 2010 Biosci. Biotechnol. Biochem., 74:2348-2351)へ組み込んだコンストラクトを作製し、当該コンストラクトのプラスミドDNAを調製した。
また、対照として、cDNAを組み込まない以外は同様にしてエンプティベクターのプラスミドDNAを調製した。

0158

0159

(3)「遺伝子3過剰発現体の作製」
上記調製したプラスミドDNAをアグロバクテリウムGV3101へ形質転換し、当該アグロバクテリウム懸濁液を用いたフローラルディップ法(Floral-dip法)によりシロイヌナズナ(Col−0系統)へ導入し種子を得た。
得られた種子を50mg/mLのカナマイシン存在下で育成して形質転換体の選抜を行い、T2世代の後代検定により導入遺伝子がホモ型に固定されている系統を選抜した。形質転換した植物体(遺伝子3過剰発現体(実験対象)及びエンプティベクター導入体(対照))の育成は、22℃にて12時間日長チャンバー内で行った。なお、植物体の生育状態は、遺伝子3強制発現体(実験対象)及びエンプティベクター導入体(対照)の間で、差異は見られなかった(図14)。

0160

(4)「グルコシノレート組成の分析」
育成個体について、抽だい直前の植物体からHPLC分析によりグルコシノレート組成を分析した。分析方法は、実施例1(1)に記載の方法に準じて行った。HPCL分析後のグルコシノレートプロファイリングの結果を図15に示した。当該図中において、溶出時間13.897分のピークは「グルコエルシン」(符号21)を、溶出時間14.655分のピークは「グルコラファサチン」(符号21)を表す。
また、グルコエルシン(符号21)とグルコラファサチン(符号22)のピークについては、ピーク面積値相対値)を表14に示した。

0161

その結果、図15及び表14が示すように、エンプティベクター導入体(対照)では、グルコエルシンのピーク(符号21)が確認されたが、グルコラファサチンのピーク(符号22)は全く確認されなかった。
一方、遺伝子3過剰発現体(実験対象)では、グルコエルシンのピーク(符号21)が減少し、グルコラファサチンのピーク(符号22)が生成されていることが確認された。

0162

(5)「原因遺伝子の同定」
以上の結果から、ダイコンにおけるグルコラファサチン欠失性原因遺伝子に関して、次の重要な知見が得られた。
i )通常の野生型シロイヌナズナの植物体では、グルコラファサチンを含まないことから、「遺伝子3」は「グルコラファサチン合成に関与する遺伝子」であることが示された。
ii)「遺伝子3過剰発現体」では、グルコエルシン含量が低下しその代わりにグルコラファサチンの生成が確認された。グルコエルシンの分子構造は、3位と4位の炭素間二重結合化される(酸化される)と、グルコラファサチンの分子構造となる関係にある。また、アミノ酸配列予測の結果から、遺伝子3のコード蛋白質は、遺伝子発現を調節する蛋白質(転写因子等)ではなく、酸化還元酵素の一種であると認められる。
以上の知見から、「遺伝子3」がコードする蛋白質は、グルコエルシンからグルコラファサチンを合成するいずれかの反応に関与する酵素であると認められた(図16)。即ち、遺伝子3は、「グルコラファサチン合成酵素遺伝子」であると認められた。
iii)野生型シロイヌナズナでは、グルコシノレート組成の点でグルコラファサチン欠失性の表現型を示す。従って、本実施例における遺伝子導入試験(機能獲得:gain of function)は、ダイコンのグルコラファサチン欠失系統での機能相補試験とみなすことができる。
従って、本実施例において遺伝子3過剰発現体シロイヌナズナから、本来存在しないはずのグルコラファサチンが検出されたという結果は、「遺伝子3」がグルコラファサチン欠失系統の原因遺伝子であることを示す結果であると認められた。
iv)原因遺伝子の同定に関する当該知見は、NR154E系統とは別途に作出されたMR050E系統において、当該遺伝子3に遺伝子機能欠損(loss of function)が導入されていたことからも支持される結果であった。

0163

以上の結果から、ダイコンにおけるグルコラファサチン欠失性原因遺伝子は、遺伝子3が原因遺伝子であると同定された。また、遺伝子3は、グルコエルシンからグルコラファサチンを生成する反応に関与する酵素をコードする遺伝子(グルコラファサチン合成酵素遺伝子)であると同定された。
なお、「グルコラファサチン」が野生型シロイヌナズナに全く存在しない点を踏まえると、遺伝子3の当該遺伝子機能は、シロイヌナズナの類似配列遺伝子(例えば、At1g03410等,The Arabidopsis Information Resource(TAIR), http://www.arabidopsis.org/)には存在しない機能であることが示された。

0164

0165

[実施例6]『選抜DNAマーカーとしての利用』
機能欠損型グルコラファサチン合成酵素遺伝子の挿入塩基配列を利用して、グルコラファサチン合成酵素遺伝子座における遺伝子型の判定が可能なPCRプライマーセットを設計した。

0166

(1)「プライマーセットの設計」
グルコラファサチン合成酵素遺伝子の塩基配列を利用したPCRプライマーセットとして、次の3つのプライマーからなるプライマーセットを設計した(表15、図17)。
まず、 i) 第1のプライマーとして、NR154E系統におけるグルコラファサチン合成酵素遺伝子の第1エクソンへの挿入配列上(図17)に、「機能欠損型遺伝子検出用プライマー」を設計した。具体的には、配列番号47に記載の塩基配列からなるプライマー(図17符号33のリバースプライマー)を設計した。
また、ii) 第2のプライマーとして、上記挿入配列が挿入された部位より下流側に、「野生型遺伝子検出用プライマー」を設計した。具体的には、配列番号48に記載の塩基配列からなるプライマー(図17符号34のリバースプライマー)を設計した。
また、iii) 第3のプライマーとして、上記 i) 及び ii) に記載のプライマーとの増幅対になる「共通用プライマー」をグルコラファサチン合成酵素遺伝子の第1エクソン上に設計した。具体的には、配列番号49に記載の塩基配列からなるプライマー(図17符号35のフォワードプライマー)を設計した。

0167

0168

(2)「PCR増幅パターンによる遺伝子型の識別」
表17に示す系統又はF1の本葉からDNAを抽出し、上記3つ全てのプライマーを含むプライマーセットを用いてPCR反応を行った。PCR反応は、表16に記載の条件にて行った。結果を表17及び図18に示した。
その結果、グルコラファサチン欠失系統である「NR154E」系統からは、機能欠損型遺伝子検出用プライマーと共通プライマーの増幅長と一致する588bpの増幅が得られることが確認された。当該増幅は、NR154E系統の変異型遺伝子に由来するものと認められた。
一方、野生型である「HAGHN」系統からは、野生型遺伝子検出用プライマーと共通用プライマーの増幅長と一致する714bpの増幅が得られた。当該増幅は、HAGHN系統の野生型遺伝子に由来するものと認められた。
また、両者のF1個体からは、上記変異型遺伝子及び野生型遺伝子に相当する2つの増幅が確認された。
以上の結果から、当該プライマーセットを用いたPCRにより、得られた増幅パターンからグルコラファサチン合成酵素遺伝子座の遺伝子型が識別できることが示された。特に、表現型に現れない遺伝子型である「ヘテロ型」の検出も可能であることが示された。

0169

0170

0171

(3)「分離集団と表現型との相関
上記作成したプライマーセットを用いて分類した分離集団について、マーカー遺伝子型と表現型が相関するかを確認した。
グルコラファサチン欠失系統である「NR154E」系統について、表18〜20に示すグルコラファサチン含有性(野生型)系統との戻し交雑を2回行い、次いで自殖操作を2回行って、BC2F2集団を得た。
BC2F2集団の各個体について、上記(2)に記載の操作と同様にしてPCR反応を行って、PCR増幅パターンからグルコラファサチン合成酵素遺伝子座の遺伝子型を推定して、3集団(機能欠損型遺伝子ホモ型、野生型遺伝子ホモ型、ヘテロ型)に分類した。
また、BC2F2集団の各個体について、肥大根部におけるグルコラファサチン含量を測定し、選抜マーカーにより分類した遺伝子型と表現型との一致を確認した。なお、グルコラファサチン含量の測定方法は、実施例1(3)に記載の方法と同様にして行った。結果を表18〜20に示した。

0172

その結果、いずれのグルコラファサチン含有性(野生型)系統との戻し交雑及び自殖を経た集団においても、上記プライマーセットを用いて分類して得た分離集団では、遺伝子型と表現型が一致することが確認された。
即ち、選抜マーカーのPCR増幅パターンによる当該遺伝子型が「機能欠損型遺伝子ホモ型」と分類された集団では、グルコラファサチン含量が著しく低い値を示した。一方、当該遺伝子型が「野生型遺伝子ホモ型」又は「ヘテロ型」に分類された集団では、グルコラファサチン含量が高い値を示した。
また、これら分類された集団全てにおいて、グルコラファサチン含量の標準誤差のばらつきが著しく少ないことから、当該選抜DNAマーカーによる表現型の識別精度は極めて高いことが示された。

0173

0174

0175

0176

[実施例1〜6からの知見]
以上、上記実施例に係る実験結果からの知見を整理して示した。

0177

(1)「グルコラファサチン欠失性原因遺伝子について」
上記実施例1〜5から、グルコラファサチン欠失性原因遺伝子に関して、次の知見が得られた。
i)ポジショナルクローニング法による連鎖解析及び高精度連鎖解析から、グルコラファサチン欠失性原因遺伝子の座乗領域が特定された。当該座乗領域には、7つの候補遺伝子の存在が予測されたが、RT−PCRの発現解析の結果、「遺伝子3」が候補遺伝子であると推測された。
ii)グルコラファサチン欠失性系統である「NR154E」と「MR050E」の両系統とも、遺伝子3のコード蛋白質は、インレームにて終止コドンが挿入された変異蛋白質となっており、蛋白質の重要構造である2オキソグルタル酸−鉄(II)依存性オキシゲナーゼドメインの全部又は一部を欠失していることが示された。
また、当該両系統における変異型遺伝子3の発現量は、野生型品種系統より著しく低い値であり、遺伝子発現量の点でも、遺伝子機能が失われていることが示された。
iii)シロイヌナズナへの遺伝子3の機能獲得(gain of function)型の遺伝子導入試験により、ダイコンにおけるグルコラファサチン欠失性原因遺伝子は、遺伝子3が原因遺伝子であると同定された。また、遺伝子3は、グルコラファサチン合成酵素遺伝子であると同定された。

実施例

0178

(2)「DNAマーカーについて」
また、実施例6から、グルコラファサチン合成酵素遺伝子のゲノム配列内の挿入配列をDNAマーカーとして利用することについて、次の知見が得られた。
i)PCR増幅パターンによって、グルコラファサチン合成酵素遺伝子座の遺伝子型(野生型、変異型、ヘテロ型)を、容易に判定できることが示された。
ii)通常の連鎖マーカー(SNP、SSRなど)とは異なり、グルコラファサチン合成酵素遺伝子そのものの変異を指標としているため、当該グルコラファサチン合成酵素遺伝子の遺伝子型を利用することで、グルコラファサチン欠失性を示す表現型の高精度での識別及び選抜が可能であることが示された。
iii)従来においては、劣性ホモ遺伝子のBC1世代以降の戻し交雑を行うためには、当該遺伝子がヘテロ型となっている個体を選抜する必要があった。そのため、ヘテロ型の遺伝子型を判別するためには、それぞれの個体について自殖操作を行って後代集団の表現型分離比を調べる必要があった。当該選抜DNAマーカーを用いることによって、後代集団の育成を行うことなく各個体におけるPCR増幅パターンを調べるのみで、容易に「ヘテロ型」の遺伝子型を判別できることが示された。
iv)本実施例は、NR154E系統の変異型遺伝子を検出する例であるが、変異配列の識別を可能とするプライマー設計が可能であれば、原理的には全ての機能欠損型遺伝子の検出に応用可能であると認められた。

0179

本発明は、ダイコン品種系統の開発を行っている種苗メーカー及び公設試験場において、有効に利用される技術となることが期待される。また、ダイコン生産農家及び大根加工飲食品等を扱う各分野の製造業者等にとって有効に利用される技術となることが期待される。

0180

1.肥大根部
2. 葉柄

0181

21.グルコエルシンを示すピーク
22.グルコラファサチンを示すピーク

0182

31.グルコラファサチン合成酵素遺伝子(ゲノムDNA)
32.機能欠損型遺伝子における挿入配列
33. 機能欠損型遺伝子検出用プライマー
34.野生型遺伝子検出用プライマー
35. 共通用プライマー

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