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課題
解決手段
概要
背景
スマートフォンやタブレットに代表される移動体通信機器の更なる高速大容量通信化に対応するために複数の周波数帯域を同時に用いるMIMO技術(Multi−Input Multi−Output)の実用化が始まっている。通信に使用する周波数帯域が増えると、周波数帯域毎にそれぞれ高周波部品が必要となるが、機器サイズを維持したまま部品点数を増やすには、各部品の更なる小型化、高機能化が求められる。
このような高周波対応の電子部品として、例えばダイプレクサやバンドパスフィルタ等がある。これらはいずれもキャパシタを担う誘電体とインダクタを担う磁性体の組み合わせによって構成されているが、良好な高周波特性を得るためには、高周波領域でのそれぞれの損失を抑制することが求められる。
誘電体に注目すると、(1)小型化の要求への対応として、キャパシタ部の面積を小さくするために、比誘電率(εr)が高いこと、(2)周波数の選択性を良好にするために、誘電損失が低い、すなわちQ値が高いことなどが要求される。
例えば、GHz帯で誘電損失が低い代表的な材料として、アモルファスSiNx膜が挙げられる。しかし、比誘電率(εr)が6.5と低いことから、目的の機能をもたせるためには大きな面積が必要となり、小型化の要求に応えることが困難であった。
特許文献1には、誘電損失が低い、すなわちQ値が高い材料であるBa(Mg1/3Ta2/3)O3についての技術が開示されている。これらは1500℃以上の熱処理を経て得られた緻密な焼結体として、10GHzで比誘電率(εr)=24.7、Q=51000を得ている。
また、非特許文献1では、Ba(Mg1/3Ta2/3)O3をPLD法(パルスレーザー蒸着法)によって成膜し、600℃の熱処理により結晶化し、2.66GHzで比誘電率(εr)=33.3、tanδ=0.0158(Q値に換算するとQ=63.3)を得ている。
概要
小型化した場合でも、比誘電率が高く、誘電損失が低い、すなわちQ値が高い誘電体組成物及びその誘電体組成物を用いた電子部品を提供すること。一般式xAO−yB’O−zB’’2O5(Aは、Ba、Ca、Srの少なくとも一種以上から選択される元素、B’は、Mg、Zn、Niの少なくとも一種以上から選択される元素、B’’は、Nb、Taの少なくとも一種以上から選択される元素。)で表され、x、y、zの関係がx+y+z=1.0000.375≦x≦0.5630.250≦y≦0.500x/3≦z≦x/3+1/9である複合酸化物を主成分として含むことを特徴とする誘電体組成物。
目的
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、小型化した場合でも、比誘電率が高く、誘電損失が低い、すなわちQ値が高い誘電体組成物及びその誘電体組成物を用いた電子部品を提供する
効果
実績
- 技術文献被引用数
- 0件
- 牽制数
- 0件
この技術が所属する分野
(分野番号表示ON)※整理標準化データをもとに当社作成
請求項1
一般式xAO−yB’O−zB’’2O5(Aは、Ba、Ca、Srの少なくとも一種以上から選択される元素、B’は、Mg、Zn、Niの少なくとも一種以上から選択される元素、B’’は、Nb、Taの少なくとも一種以上から選択される元素。)で表され、x、y、zの関係がx+y+z=1.0000.375≦x≦0.5630.250≦y≦0.500x/3≦z≦x/3+1/9である複合酸化物を主成分として含むことを特徴とする誘電体組成物。
請求項2
前記一般式において、x、y、zの関係がx+y+z=1.0000.425≦x≦0.5250.275≦y≦0.409x/3+0.025≦z≦x/3+0.081である複合酸化物を主成分として含むことを特徴とする請求項1に記載の誘電体組成物。
請求項3
請求項1または請求項2のいずれかに記載の誘電体組成物を有する電子部品。
技術分野
背景技術
0002
スマートフォンやタブレットに代表される移動体通信機器の更なる高速大容量通信化に対応するために複数の周波数帯域を同時に用いるMIMO技術(Multi−Input Multi−Output)の実用化が始まっている。通信に使用する周波数帯域が増えると、周波数帯域毎にそれぞれ高周波部品が必要となるが、機器サイズを維持したまま部品点数を増やすには、各部品の更なる小型化、高機能化が求められる。
0003
このような高周波対応の電子部品として、例えばダイプレクサやバンドパスフィルタ等がある。これらはいずれもキャパシタを担う誘電体とインダクタを担う磁性体の組み合わせによって構成されているが、良好な高周波特性を得るためには、高周波領域でのそれぞれの損失を抑制することが求められる。
0004
誘電体に注目すると、(1)小型化の要求への対応として、キャパシタ部の面積を小さくするために、比誘電率(εr)が高いこと、(2)周波数の選択性を良好にするために、誘電損失が低い、すなわちQ値が高いことなどが要求される。
0005
例えば、GHz帯で誘電損失が低い代表的な材料として、アモルファスSiNx膜が挙げられる。しかし、比誘電率(εr)が6.5と低いことから、目的の機能をもたせるためには大きな面積が必要となり、小型化の要求に応えることが困難であった。
0006
特許文献1には、誘電損失が低い、すなわちQ値が高い材料であるBa(Mg1/3Ta2/3)O3についての技術が開示されている。これらは1500℃以上の熱処理を経て得られた緻密な焼結体として、10GHzで比誘電率(εr)=24.7、Q=51000を得ている。
0007
また、非特許文献1では、Ba(Mg1/3Ta2/3)O3をPLD法(パルスレーザー蒸着法)によって成膜し、600℃の熱処理により結晶化し、2.66GHzで比誘電率(εr)=33.3、tanδ=0.0158(Q値に換算するとQ=63.3)を得ている。
0008
Jpn. J. Appl. Phys. vol. 42 (2003) pp. 7428−7431『Properties of Ba(Mg1/3Ta2/3)O3 Thin Films Prepared by Pulsed−Laser Deposition』
先行技術
0009
特開平8−319162号公報
発明が解決しようとする課題
0010
しかしながら、特許文献1の技術では、高周波対応の電子部品に用いるには大き過ぎ、一方、小型化を図るため特許文献1のBa(Mg1/3Ta2/3)O3を薄膜化すると、従来焼結体で得られていたような高いQ値を得ることが困難であることが分かった。また、非特許文献1の技術は、薄膜として比誘電率(εr)=33.3、Q値換算で63.3が得られているものの、高周波対応の電子部品に用いるには、より高いQ値が求められる。
0011
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、小型化した場合でも、比誘電率が高く、誘電損失が低い、すなわちQ値が高い誘電体組成物及びその誘電体組成物を用いた電子部品を提供することを目的とする。
課題を解決するための手段
0012
上記目的を達成するために、本発明にかかる誘電体組成物は、
一般式xAO−yB’O−zB’’2O5
(Aは、Ba、Ca、Srの少なくとも一種以上から選択される元素、B’は、Mg、Zn、Niの少なくとも一種以上から選択される元素、B’’は、Nb、Taの少なくとも一種以上から選択される元素。)
で表され、x、y、zの関係が
x+y+z=1.000
0.375≦x≦0.563
0.250≦y≦0.500
x/3≦z≦x/3+1/9
である複合酸化物を主成分として含むことを特徴とする。
0013
前記x、y、zの範囲にすることで、高い比誘電率と、高いQ値が得られる。
0014
本発明の望ましい態様としては、
前記一般式において、x、y、zの関係が
x+y+z=1.000
0.450≦x≦0.575
0.213≦y≦0.377
x/3+0.025≦z≦x/3+0.081
である複合酸化物を主成分として含む誘電体組成物であることが好ましい。
0016
また、上記本発明に係る誘電体膜を使用することにより、従来高周波対応の電子部品に用いられて来た誘電体組成物と比較して、小型化した場合でも十分に高い比誘電率を得られ、Q値が高く、すなわち、高いS/N比を示す誘電体共振器や誘電体フィルタ等の電子部品を提供することができる。
発明の効果
0017
本発明は、小型化した場合でも、比誘電率が高く、誘電損失が低い、すなわちQ値が高い誘電体組成物及びその誘電体組成物を用いた電子部品を提供することが出来る。
図面の簡単な説明
0018
図1は、本発明の一実施形態に係る薄膜コンデンサの断面図である。
図2は、基板を200℃に加熱して成膜した、本発明の一実施形態に係る誘電体膜の表面をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察した写真である。
図3は、基板を200℃に加熱して成膜した、本発明の一実施形態よりもBaが過剰な誘電体膜の表面をSEMで観察した写真である。
0019
以下、本発明の好適な実施形態について、場合により図面を参照して説明する。
0020
<薄膜コンデンサ10>
図1は、本発明の一実施形態に係る誘電体組成物を用いた電子部品の一例としての、薄膜コンデンサ10の断面図である。薄膜コンデンサ10は、支持基板1の表面に積層された下部電極3と、上部電極4、及び下部電極3と上部電極4の間に設けられた誘電体膜5とを備えている。支持基板1と下部電極3の間に、支持基板1と下部電極3の密着性を向上させるために下地層2を備える。支持基板1は、薄膜コンデンサ10全体の機械的強度を確保する機能を有する。
0021
薄膜コンデンサの形状に特に制限はないが、通常、直方体形状とされる。またその寸法にも特に制限はなく、厚みや長さは用途に応じて適当な寸法とすればよい。
0022
<支持基板1>
図1に示す支持基板1を形成するための材料はとくに限定されるものではなく、単結晶としてはSi単結晶、SiGe単結晶、GaAs単結晶、InP単結晶、SrTiO3単結晶、MgO単結晶、LaAlO3単結晶、ZrO2単結晶、MgAl2O4単結晶、NdGaO3単結晶や、セラミック多結晶基板としてはAl2O3多結晶、ZnO多結晶、SiO2多結晶や、Ni、Cu、Ti、W、Mo、Al、Ptなどの金属や、それらの合金の基板などによって支持基板1を形成することができるが特に限定されるものではない。これらの中では、低コスト、加工性から、Si単結晶を基板として使用されることが一般的である。支持基板1は、基板の材質によってその抵抗率が異なる。抵抗率が低い材料を基板として使用する場合、そのまま使用すると基板側への電流のリークが薄膜コンデンサ10の電気特性に影響を及ぼすことがある。そのため、支持基板1の表面に絶縁処理を施し、使用時の電流が支持基板1へ流れないようにする場合もある。例えば、Si単結晶を支持基板1として使用する場合においては、支持基板1表面を酸化させてSiO2絶縁層の形成を行うことや、支持基板1表面にAl2O3、SiO2、Si3Nxなどの絶縁物を形成してもよく、支持基板1への絶縁が保てればその絶縁層の材料や膜厚は限定されないが、0.01μm以上が好ましい。0.01μm未満では絶縁性が保てないため、絶縁層の厚みとして好ましくない。支持基板1の厚さは、薄膜コンデンサ全体の機械的強度を確保することができれば、とくに限定されるものではないが、たとえば、10μm〜5000μmに設定される。10μm未満の場合は機械的強度が確保できなく、5000μmを超えると電子部品の小型化に寄与できないといった問題が生じる場合がある。
0023
<下地層2>
本実施形態において、図1に示す薄膜コンデンサ10は、好ましくは、絶縁処理を施した支持基板1表面に、下地層2を有している。下地層2は、支持基板1と下部電極3の密着性向上を目的として挿入される。一例として、下部電極3にCuを使用する場合には下地層2はCrを、下部電極3にPtを使用する場合にはTiを下地層2として挿入することが一般的である。
0024
密着性向上を目的としていることから、前記材料に限定されるものではなく、また支持基板1と下地層2の密着性を保つことが出来れば、下地層2は省略しても良い。
0025
<下部電極3>
下部電極3を形成するための材料は、導電性を有していれば良く、例えば、Pt、Ru、Rh、Pd、Ir、Au、Ag、Cu、Niなどの金属や、それらの合金、又は導電性酸化物などによって形成することができる。そのため、コストや誘電体層4を熱処理するときの雰囲気に対応した材料を選択すればよい。誘電体層4は大気中の他、不活性ガスであるN2やAr、またO2、不活性ガスと還元性ガスであるH2の混合ガスで熱処理を行うことが出来る。下部電極3の膜厚は電極として機能すれば良く、0.01μm以上が好ましい。0.01μm未満の場合、導電性が悪くなることから好ましくない。また、支持基板1に電極として使用可能なCuやNi、Pt等や酸化物導電性材料などを使用した基板を使用する場合は、前述した下地層2と下部電極3は省略することができる。
0026
下部電極3の形成後に熱処理を行い、下地層2と下部電極3の密着性向上と、下部電極3の安定性向上を図ってもよい。熱処理を行う場合、昇温速度は好ましくは10℃/分〜2000℃/分、より好ましくは100℃/分〜1000℃/分である。熱処理時の保持温度は、好ましくは400℃〜800℃、その保持時間は、好ましくは0.1時間で〜4.0時間である。上記の範囲を超えると、密着不良の発生、下部電極3の表面に凹凸が発生することで、誘電体膜5の誘電特性の低下が生じやすくなる。
0027
<誘電体膜5>
誘電体膜5を構成する誘電体組成物は、一般式xAO−yB’O−zB’’2O5
(Aは、Ba、Ca、Srの少なくとも一種以上から選択される元素、B’は、Mg、Zn、Niの少なくとも一種以上から選択される元素、B’’は、Nb、Taの少なくとも一種以上から選択される元素。)
で表される複合酸化物を主成分として含む
0028
また、誘電体組成物の主成分をxAO−yB’O−zB’’2O5と表したときに、x、y、zの関係がx+y+z=1.000、0.375≦x≦0.563、0.250≦y≦0.500、x/3≦z≦x/3+1/9である。
0029
本発明者らは、高い比誘電率を維持したまま、Q値が改善される効果が得られる要因を次のように考えている。一般的に、超格子構造をとりやすいA2+(B’2+1/3B’’5+2/3)O3は、B’サイトとB’’サイトの長距離秩序により高いQ値を持つことが知られているが、薄膜にすると従来の結晶構造は維持されず、B’サイトの欠損が起こりやすくなり、B’サイトとB’’の長距離秩序が維持されないため、Q値が低下する傾向にあった。B’サイトイオンを過剰にすると、B’サイトの欠損を抑制することができるため、B’サイトとB’’サイトの長距離秩序が維持しやすくなり、Q値も高くなるものと考えている。
0030
xが0.375未満では、十分な比誘電率を得られない。yが0.500を超えると成膜後にクラックが生じやすく、Q値が大幅に低下してしまう傾向にある。zがx/3+1/9を超えると、過剰なTa2O5が酸素欠損を起こしやすく、半導体化し、誘電損失が高くなる、すなわちQ値が低くなってしまう傾向にある。xが0.563を超える、またはyが0.250未満、あるいはzがx/3未満の場合、過剰なBaOが大気中のCO2やH2Oと反応し、誘電体組成物が変質してしまい、形状が維持できない傾向にある。x、y、zの範囲を、x+y+z=1.000、0.375≦x≦0.563、0.250≦y≦0.500、x/3≦z≦x/3+1/9とすることで、高い比誘電率と高いQ値を両立することが可能となる。
0031
Aは、Ba、Ca、Srの少なくとも一種以上から選択される元素である。Ba,Ca,Srを一種で用いても、複数含有させて用いても同様な効果が得られる。また、B’は、Mg、Zn、Niの少なくとも一種以上から選択される元素であり、B’’は、Nb、Taの少なくとも一種以上から選択される元素である。これらについても、一種で用いても複数含有させて用いても同様な効果が得られる。
0032
更に、前記一般式において、x、y、zの関係がx+y+z=1.000、0.425≦x≦0.525、0.275≦y≦0.409、x/3+0.025≦z≦x/3+0.081である複合酸化物を主成分として含む。
0033
前記x、y、zの範囲にすることで、高いQ値を有するB’サイトとB’’サイトの長距離秩序がより維持しやすくなり、より高いQ値が得られ易くなる効果がある。
0034
誘電体膜5の厚さは、好ましくは10nm〜50μm、より好ましくは50nm〜1000nmである。10nm未満では絶縁破壊が生じやすく、2000nmを超える場合においては、コンデンサの静電容量を大きくするために電極面積を広くする必要があり、電子部品の設計によっては小型化が困難となる場合がある。誘電体膜厚の計測はFIB(集束イオンビーム)加工装置で掘削し、得られた断面をSIM(走査型イオン顕微鏡)等で観察して測長すれば良い。
0035
誘電体膜5は、好ましくは真空蒸着法、スパッタリング法、PLD(パルスレーザー蒸着法)、MO−CVD(有機金属化学気相成長法)、MOD(有機金属分解法)やゾル・ゲル法、CSD(化学溶液堆積法)などの各種薄膜形成法を用いて形成したものである。その際に使用する原料(蒸着材料、各種ターゲット材料や有機金属材料等)には微少な不純物や副成分が含まれている場合があるが、絶縁性を大きく低下させる不純物でなければ、特に問題はない。
0036
誘電体組成物はまた、本発明の効果である誘電特性、すなわち比誘電率やQ値を大きく低下させるものでなければ、微少な不純物や副成分を含んでいてもかまわない。よって、残部である主成分の含有量は特に限定されるものではないが、たとえば前記主成分を含有する誘電体組成物全体に対して50%以上、100%以下である。
0037
また、誘電体膜5は通常、本発明の誘電体組成物のみで構成されるが、別の誘電体組成物の膜と組み合わせた積層構造であっても構わない。例えば、既存のSi3Nx、SiOx、Al2Ox、ZrOx、Ta2Ox等のアモルファス誘電体膜や結晶膜との積層構造とすることで、誘電体膜5のインピーダンスや比誘電率の温度変化を調整することが可能となる。
0038
<上部電極4>
本実施形態の一例において、薄膜コンデンサ10は、誘電体膜5の表面に、薄膜コンデンサ10の他方の電極として機能する上部電極4を備えている。上部電極4を形成するための材料は、導電性を有していれば、とくに限定されるものではなく、下部電極3と同様の材料によって、上部電極4を形成することができる。上部電極4の膜厚は電極として機能すれば良く、0.01μm以上が好ましい。膜厚が0.01μm以下の場合、導電性が悪化するため上部電極4として好ましくない。
0039
上述した実施形態では、本発明の一実施形態に係る誘電体組成物を用いた電子部品の一例としての、薄膜コンデンサを例示したが、本発明に係る誘電体組成物を用いた電子部品としては、薄膜コンデンサに限定されず、たとえば、ダイプレクサ、バンドパスフィルタ、バランやカプラ等、誘電体膜を有する電子部品であれば何でも良い。
0040
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
0041
<実施例1><比較例1>
まず、350μm厚のSiの表面に6μm厚のSiO2絶縁膜を備えた10mm×10mm角の基板の表面上に、下地層であるTi薄膜を20nmの厚さとなるようにスパッタリング法で形成した。
0042
次いで、上記で形成したTi薄膜上に下部電極であるPt薄膜を100nmの厚さとなるようにスパッタリング法で形成した。
0044
誘電体膜の形成にはPLD法を使用した。誘電体膜の形成に必要なターゲットは次のように作製した。
0045
まず、表1に示す試料No.1〜試料No.25のMg、Taの量となるようにMgO、Ta2O5の秤量を行い、1Lの広口ポリポットに秤量した原料粉末と水、及びφ2mmのZrO2ビーズを入れて20時間の湿式混合を行った。その後、混合粉末スラリーを100℃、20時間で乾燥させ、得られた混合粉末をAl2O3坩堝に入れ、大気中1250℃で5時間保持する焼成条件で1次仮焼を行い、MgO−Ta2O5仮焼粉末を得た。
0046
次に、表1に示す試料No.1〜試料No.25のzの値となるように、得られたMgO−Ta2O5仮焼粉末とBaCO3とを秤量し、1Lの広口ポリポットに秤量した原料粉末と水、及びφ2mmのZrO2ビーズを入れて20時間の湿式混合を行った。その後、混合粉末スラリーを100℃、20時間で乾燥させ、得られた混合粉末をAl2O3坩堝に入れ、大気中1050℃で5時間保持する焼成条件で2次仮焼を行い、BaO−MgO−Ta2O5仮焼粉末を得た。
0047
Mgを含まないBaO−Ta2O5系化合物は、目的とするBaO−MgO−Ta2O5の生成を阻害してしまうが、このように2段階の仮焼を行うことで、BaO−Ta2O5系化合物が生成することを抑制することができる。
0048
得られた仮焼粉末乳鉢に入れ、バインダーとして濃度6wt%のPVA(ポリビニルアルコール)水溶液を、仮焼粉末に対して10wt%となるように添加し、乳棒を使用して造粒粉を作製した後、φ20mmの金型へ厚みが5mm程度となるように造粒粉を入れた。次に一軸加圧プレス機を使用し成形体を得た。成形条件は、圧力:2.0×108Pa、温度:室温とした。
0049
その後、得られた成形体について、昇温速度を100℃/時間、保持温度を400℃、温度保持時間を4時間として、雰囲気は常圧の空気中で脱バインダー処理を行った後に、昇温速度を200℃/時間、保持温度を1600℃〜1700℃、温度保持時間を12時間とし、雰囲気は常圧の空気中で焼成を行った。
0051
こうして得られたPLD用ターゲットを用いて、下部電極上に400nmの厚さとなるようにPLD法で誘電体膜を形成した。PLD法による成膜条件は、酸素圧を1×10−1(Pa)とし、基板を200℃に加熱した。また、下部電極の一部を露出させるために、メタルマスクを使用して、誘電体膜が一部成膜されない領域を形成した。
0052
誘電体膜厚の計測はFIBで掘削し、得られた断面をSIMで観察して測長した。
0054
次いで、得られた上記誘電体膜上に、蒸着装置を使用して上部電極であるAg薄膜を形成した。上部電極の形状を、メタルマスクを使用して、直径100μm、厚さ100nmとなるように形成することで、図1に示す構造の試料No.1〜試料No.45を得た。
0055
得られたすべての薄膜コンデンサ試料について、比誘電率、Q値を、それぞれ下記に示す方法により行った。
0056
<比誘電率(εr),Q値>
比誘電率(εr)およびQ値は、薄膜コンデンサ試料に対し、基準温度25℃において、RFインピーダス/マテリアルアナライザ(Agilent社製4991A)にて、周波数2GHz,入力信号レベル(測定電圧)0.5Vrmsの条件下で測定された静電容量と膜厚測定の結果から算出した(単位なし)。比誘電率は高い方が好ましく、10以上を良好とした。また、Q値は高い方が好ましく、400以上を良好とした。
0057
0058
試料No.1〜試料No.17
試料No.1〜試料No.17は、図2に示したものと同様に表面にクラック等の欠陥は見られなかった。表1より、BaO−MgO−Ta2O5を主成分とする誘電体膜であって、前記誘電体膜の主成分をxBaO−yMgO−zTa2O5と表したときに、x、y、zの関係がx+y+z=1.000、0.375≦x≦0.563、0.250≦y≦0.500、x/3≦z≦x/3+1/9である試料No.1〜試料No.17は、比誘電率が10以上、Q値が400以上であることが確認できた。
0059
試料No.9〜試料No.17
表1より、誘電体膜の主成分をxBaO−yMgO−zTa2O5と表したときに、x、y、zの関係がx+y+z=1.000、0.425≦x≦0.525、0.275≦y≦0.409、x/3+0.025≦z≦x/3+0.081である試料No.9〜試料No.17は、比誘電率が15以上、Q値が500以上であることが確認できた。
0060
試料No.18〜試料No. 25
x>0.563であった試料No.18、試料No.19は、図3に示したものと同様に表面にクラックが生じたため誘電特性を評価できなかった。試料No.20〜試料No.25は、図2に示したものと同様に表面にクラック等の欠陥は見られなかった。y>0.500であった試料No.20、試料No.21は、比誘電率が10未満であった。z>x/3+1/9であった試料No.22〜試料No.25は、Q値が400未満であった。
0061
<実施例2>
Ba、Ca、Sr、Mg、Taの量を表2に示す値となるように、BaCO3、CaCO3、SrCO3、MgO、Ta2O5の秤量を行い、1次仮焼ではMgO−Ta2O5仮焼粉末を、2次仮焼ではそれぞれ、CaO−MgO−Ta2O5(試料No.26)、SrO−MgO−Ta2O5(試料No.27)、(Ba−Ca)O−MgO−Ta2O5(試料No.28)、(Ca−Sr)O−MgO−Ta2O5(試料No.29)、(Sr−Ba)O−MgO−Ta2O5(試料No.30)、(Ba−Ca−Sr)O−MgO−Ta2O5(試料No.31)の仮焼粉末を得た。組成以外は実施例1と同様にしてターゲットを作製し、それぞれ試料No.26〜試料No.31の薄膜コンデンサ試料を作製した。実施例1と同様の評価を行った結果を表2に示す。
0062
0063
試料No.11、試料No.26〜試料No.31
試料No.26〜試料No.31は、図2に示したものと同様に表面にクラック等の欠陥は見られなかった。表2より、AO−MgO−Ta2O5を主成分とする誘電体膜であって、Aが、Ba、Ca、Srの少なくとも一種以上含有した試料No.11、試料No.26〜試料No.31は、ほぼ同様な特性を示し、比誘電率が10以上、Q値が400以上を有することが確認できる。
0064
<実施例3>
Ba、Mg、Zn、Ni、Taの量を表3に示す値となるように、BaCO3、MgO、ZnO、NiO、Ta2O5の秤量を行い、1次仮焼ではそれぞれ、ZnO−Ta2O5(試料No.32)、NiO−Ta2O5(試料No.33)、(Mg−Zn)O−Ta2O5(試料No.34)、(Zn−Ni)O−Ta2O5(試料No.35)、(Ni−Mg)O−Ta2O5(試料No.36)、(Mg−Zn−Ni)O−Ta2O5(試料No.37)の仮焼粉末を、2次仮焼ではそれぞれ、BaO−ZnO−Ta2O5(試料No.32)、BaO−NiO−Ta2O5(試料No.33)、BaO−(Mg−Zn)O−Ta2O5(試料No.34)、BaO−(Zn−Ni)O−Ta2O5(試料No.35)、BaO−(Ni−Mg)O−Ta2O5(試料No.36)、BaO−(Mg−Zn−Ni)O−Ta2O5(試料No.37)の仮焼粉末を得た。組成以外は実施例1と同様にしてターゲットを作製し、それぞれ試料No.32〜試料No.37の薄膜コンデンサ試料を作製した。実施例1と同様の評価を行った結果を表3に示す。
0065
0066
試料No.11、試料No.32〜試料No.37
試料No.32〜試料No.37は、図2に示したものと同様に表面にクラック等の欠陥は見られなかった。表3より、BaO−B’O−Ta2O5を主成分とする誘電体膜であって、B’が、Mg、Zn、Niの少なくとも一種以上含有した試料No.11、試料No.32〜試料No.37は、ほぼ同様な特性を示し、比誘電率が10以上、Q値が400以上を有することが確認できる。
0067
<実施例4>
Ba、Mg、Ta、Nbの量を表4に示す値となるように、BaCO3、MgO、Ta2O5、Nb2O5の秤量を行い、1次仮焼ではそれぞれ、MgO−Nb2O5(試料No.38)、MgO−(Ta−Nb)2O5(試料No.39)の仮焼粉末を、2次仮焼ではそれぞれ、BaO−MgO−Nb2O5(試料No.38)、BaO−MgO−(Ta−Nb)2O5(試料No.39)の仮焼粉末を得た。組成以外は実施例1と同様にしてターゲットを作製し、それぞれ試料No.27、試料No.28の薄膜コンデンサ試料を作製した。実施例1と同様の評価を行った結果を表4に示す。
0068
0069
試料No.11、試料No.38、試料No.39
試料No.38、試料No.39は、図2に示したものと同様に表面にクラック等の欠陥は見られなかった。表4より、BaO−MgO−B’’2O5を主成分とする誘電体膜であって、B’’が、Nb、Taの少なくとも一種以上含有した試料No.11、試料No.38、試料No.39は、ほぼ同様な特性を示し、比誘電率が10以上、Q値が400以上を有することが確認できる。
0070
<実施例5>
Ba、Ca、Sr,Mg、Zn、Ni、Ta、Nbの量を表5に示す値となるように、BaCO3、CaCO3、SrCO3、MgO、ZnO、NiO、Ta2O5、Nb2O5の秤量を行い、1次仮焼ではそれぞれ、(Mg−Zn)O−(Ta−Nb)2O5(試料No.40)、(Zn−Ni)O−(Ta−Nb)2O5(試料No.41)、(Ni−Mg)O−(Ta−Nb)2O5(試料No.42)、(Mg−Zn−Ni)O−(Ta−Nb)2O5(試料No.43)の仮焼粉末を、2次仮焼ではそれぞれ、(Ba−Ca)O−(Mg−Zn)O−(Ta−Nb)2O5(試料No.40)、(Ca−Sr)O−(Zn−Ni)O−(Ta−Nb)2O5(試料No.41)、(Sr−Ba)O−(Ni−Mg)O−(Ta−Nb)2O5(試料No.42)、(Ba−Ca−Sr)O−(Mg−Zn−Ni)O−(Ta−Nb)2O5(試料No.43)の仮焼粉末を得た。組成以外は実施例1と同様にしてターゲットを作製し、それぞれ試料No.40〜試料No.43の薄膜コンデンサ試料を作製した。実施例1と同様の評価を行った結果を表5に示す。
0071
0072
試料No.40〜試料No.43
試料No.40〜試料No.43は、図2に示したものと同様に表面にクラック等の欠陥は見られなかった。表5より、AO−B’O−B’’2O5を主成分とする誘電体膜であって、Aは、Ba、Ca、Srの少なくとも一種以上から選択される元素を含み、B’は、Mg、Zn、Niの少なくとも一種以上から選択される元素を含み、B’’は、Nb、Taの少なくとも一種以上から選択される元素を含有した試料No.40〜試料No.43は、ほぼ同様な特性を示し、比誘電率が10以上、Q値が400以上を有することが確認できる。
0073
<実施例6>
誘電体膜の成膜をスパッタリング法で成膜した以外は実施例1の試料No.11と同様の手法で試料を作製し、実施例1と同様の評価を行った。結果を表6に示す。
0074
<実施例7>
誘電体膜厚みを800nmとした以外は、実施例1の試料No.11と同様の手法で試料を作製し、実施例1と同様の評価を行った。結果を表6に示す。
0075
実施例
0076
試料No.44、試料No.45
試料No.44、試料No.45は、図2に示したものと同様に表面にクラック等の欠陥は見られなかった。表7より、誘電体膜の製法(試料No.44)や誘電体膜厚(試料No.45)が異なっても、本実施形態の誘電体膜を使用することで、比誘電率が10以上、Q値が400以上であることが確認できた。
0077
以上に説明したように、本発明は、誘電体組成物及び電子部品に係るものであり、本発明は小型化しても比誘電率が高く、誘電損失が小さい、すなわちQ値が高い誘電体組成物及びその誘電体組成物を用いた電子部品を提供する。それにより、誘電体組成物を使用する電子部品において、小型化、高機能化を図ることができる。本発明は、たとえば、誘電体膜を使用する、ダイプレクサやバンドパスフィルタなど薄膜高周波部品等に対して広く新技術を提供するものである。
0078
1…支持基板
2…下地層
3… 下部電極
4… 上部電極
5…誘電体膜
10… 薄膜コンデンサ
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