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技術 リンフタロシアニン錯体、その塩及びその水和物

出願人 国立研究開発法人物質・材料研究機構
発明者 砂金宏明藤田晴美
出願日 2015年5月28日 (5年6ヶ月経過) 出願番号 2015-108056
公開日 2016年4月28日 (4年7ヶ月経過) 公開番号 2016-065205
状態 特許登録済
技術分野 化学的手段による非生物材料の調査、分析 化学反応による材料の光学的調査・分析 染料 発光性組成物 蛋白脂質酵素含有:その他の医薬 化合物または医薬の治療活性 抗原、抗体含有医薬:生体内診断剤
主要キーワード 吸収スペクトル強度 アンチモン錯体 任意スケール 大規模施設 観測波 水溶性フタロシアニン 光線力学的治療法 光感受性薬剤
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重要な関連分野

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図面 (16)

課題

生体に安全であり、光線力学的診断法、及び光線力学的治療法に有用な光感受性薬剤となるフタロシアニン錯体を提供する。

解決手段

下記式(1)で表されるリンフタロシアニン錯体、その塩又はその水和物 Rは、少なくとも1のスルホ基置換されたアリール基であり、zは連結基であり、nは互いに独立に0〜2の整数である。

概要

背景

高齢化が進む我が国にあっては、癌疾病対策は必要不可欠かつ喫緊の課題である。癌疾病対策では、まず、微小癌組織を精度良く検出することが必要である。微小な癌組織を精度良く検出する方法の一つに、PET法(positron emission tomography)がある。しかし、PET法では、加速器等の大型の機器施設を必要とし、検出に時間と経費がかかり、医療現場での利用に多くの制約をもたらしている。

そこで、大規模施設等を必要としない癌組織検出方法が検討されており、例えば、光線力学的診断法(PDD:Photodynamic Diagnosys)がある。PDDとは、ガン組織集積された光感受性物質有機色素等)をレーザー等の光で励起し、その蛍光モニターする診断法である。PDDに用いられる光感受性物質として、無機系の量子ドット、及び有機色素がある。無機系の量子ドットはカドミウム、鉛、セレン等の生体に有害な元素を含むものが多いので、有機色素が開発の主流となっている。

有機色素の中でも、「生体の光の窓(therapeutic windowとも言う。)」の波長領域(可視近赤外光領域:波長650〜900nm)に光吸収発光を示す色素は特に有望である。これは、650nmより短波長側の光は、筋肉皮質、血液(デオキシ−及びオキシ−ヘモグロビン)、メラニンシトクロム等の生体物質によって強く吸収され、900nmよりも長波長側の光は水や脂質等の倍音振動等により吸収されるからである(例えば、H.Kobayashi,et al.Chem.Rev.,110(2010)2620-2640)。

上記「生体の光の窓(可視〜近赤外光領域(波長650〜900nm))」の波長領域に光吸収・発光を示す色素として、フタロシアニン系色素がある。フタロシアニン系色素は癌細胞に特異的に集積されるために、該色素からの蛍光によって癌の位置を特定できる。さらに励起状態の色素が活性酸素を生成して癌細胞を殺すことが知られており、光線力学的治療法(PDT:photodynamic therapy)に使用される。

しかし、フタロシアニン系色素は、水はもちろん一般的な有機溶媒にも難溶性であるので、生体への適用が難しいという問題がある。さらに分子間の相互作用により会合体を形成し易く、生体の光の窓で蛍光が見られなくなるだけでなく、活性酸素が生成されなくなるという問題もある。

水溶性のフタロシアニン系色素として、IRDye700DX NHS ester(中心元素ケイ素水溶液中で吸収極大689nm、モル吸光係数(ε);17万M−1cm−1;蛍光極大700nm、量子収率(φ)14%(非特許文献1))が実用化されている。しかし、蛍光量子収率が10%台と低く、また合成も困難である。

また、水溶性を高めるために、フタロシアニン骨格の外側のベンゼン環水素原子親水性の基で置換することが知られている(非特許文献2)。さらに、分子会合を抑制するために、界面活性剤アルコール等の添加物を加えることも知られている(非特許文献3、特許文献1、2)。

さらに、フタロシアニン骨格のベンゼン環がスルホフェノキシ基で置換され、軸配位子としてOH基を備えるフタロシアニンアンチモン錯体が知られている(非特許文献4、特許文献3)。該アンチモン錯体は光吸収極大波長が730nmに位置し、比較的高濃度(〜10−4M)で水に溶解し、且つ会合しない。しかし、アンチモンは毒性であり、その重原子効果により蛍光量子収率が1%未満と著しく低く、蛍光色素には適さないという問題がある。

生体に無害フタロシアニン錯体としては、リン(V)フタロシアニン錯体が知られており、例えば本発明者らによるリン(V)テトラ(2’,6’−ジメチルフェノキシ)フタロシアニン(以下、[P(tppc)(OH)(O)]という)に関する報告がある(非特許文献5)。

概要

生体に安全であり、光線力学的診断法、及び光線力学的治療法に有用な光感受性薬剤となるフタロシアニン錯体を提供する。 下記式(1)で表されるリンフタロシアニン錯体、その塩又はその水和物 Rは、少なくとも1のスルホ基で置換されたアリール基であり、zは連結基であり、nは互いに独立に0〜2の整数である。

目的

高齢化が進む我が国にあっては、癌疾病対策は必要不可欠かつ喫緊の課題である

効果

実績

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牽制数
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請求項1

下記式(1)で表されるリンフタロシアニン錯体、その塩又はその水和上式においてRは、少なくとも1のスルホ基置換された炭素数6〜13のアリール基であり、zは−O−、−S−、炭素数1〜4のアルキレン基及び炭素数1〜4のオキシアルキレン基からなる群より選ばれる連結基であり、nは互いに独立に0〜2の整数、但しnの合計は2以上、である。

請求項2

該Rが、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基シアノ基ニトロ基、及びハロゲノ基からなる群より選ばれる少なくとも1つの基でさらに置換されている、請求項1記載のリンフタロシアニン錯体、その塩又はその水和物。

請求項3

Rが少なくとも1のスルホ基、及び炭素数1又は2のアルキル基で置換されたフェニル基である、請求項1又は2記載のリンフタロシアニン錯体、その塩又はそれらの水和物。

請求項4

Rが4’−スルホ−2’,6’−ジメチルフェニル基である、請求項3記載のリンフタロシアニン錯体、その塩又はそれらの水和物。

請求項5

zが−O−又は−S−である、請求項1〜4のいずれか1項記載のリンフタロシアニン錯体、その塩又はそれらの水和物。

請求項6

全てのnが1である、請求項1〜5のいずれか1項記載のリンフタロシアニン錯体。

請求項7

請求項1〜6のいずれか1項記載のリンフタロシアニン錯体、その塩又はそれらの水和物を含む、光線力学的診断法用の光感受性薬剤

請求項8

請求項1〜6のいずれか1項記載のリンフタロシアニン錯体、その塩又はそれらの水和物を含む、光線力学的治療法用の光感受性薬剤。

技術分野

0001

本発明はリンフタロシアニン錯体に関し、詳細には、中心元素がリンであり、軸配位子としてオキソ基(=O)およびヒドロキシル基(−OH)を有し、さらにスルホ基を有するリンフタロシアニン錯体、その塩、及びそれらの水和物に関する。

背景技術

0002

高齢化が進む我が国にあっては、癌疾病対策は必要不可欠かつ喫緊の課題である。癌疾病対策では、まず、微小癌組織を精度良く検出することが必要である。微小な癌組織を精度良く検出する方法の一つに、PET法(positron emission tomography)がある。しかし、PET法では、加速器等の大型の機器施設を必要とし、検出に時間と経費がかかり、医療現場での利用に多くの制約をもたらしている。

0003

そこで、大規模施設等を必要としない癌組織検出方法が検討されており、例えば、光線力学的診断法(PDD:Photodynamic Diagnosys)がある。PDDとは、ガン組織集積された光感受性物質有機色素等)をレーザー等の光で励起し、その蛍光モニターする診断法である。PDDに用いられる光感受性物質として、無機系の量子ドット、及び有機色素がある。無機系の量子ドットはカドミウム、鉛、セレン等の生体に有害な元素を含むものが多いので、有機色素が開発の主流となっている。

0004

有機色素の中でも、「生体の光の窓(therapeutic windowとも言う。)」の波長領域(可視近赤外光領域:波長650〜900nm)に光吸収発光を示す色素は特に有望である。これは、650nmより短波長側の光は、筋肉皮質、血液(デオキシ−及びオキシ−ヘモグロビン)、メラニンシトクロム等の生体物質によって強く吸収され、900nmよりも長波長側の光は水や脂質等の倍音振動等により吸収されるからである(例えば、H.Kobayashi,et al.Chem.Rev.,110(2010)2620-2640)。

0005

上記「生体の光の窓(可視〜近赤外光領域(波長650〜900nm))」の波長領域に光吸収・発光を示す色素として、フタロシアニン系色素がある。フタロシアニン系色素は癌細胞に特異的に集積されるために、該色素からの蛍光によって癌の位置を特定できる。さらに励起状態の色素が活性酸素を生成して癌細胞を殺すことが知られており、光線力学的治療法(PDT:photodynamic therapy)に使用される。

0006

しかし、フタロシアニン系色素は、水はもちろん一般的な有機溶媒にも難溶性であるので、生体への適用が難しいという問題がある。さらに分子間の相互作用により会合体を形成し易く、生体の光の窓で蛍光が見られなくなるだけでなく、活性酸素が生成されなくなるという問題もある。

0007

水溶性のフタロシアニン系色素として、IRDye700DX NHS ester(中心元素はケイ素水溶液中で吸収極大689nm、モル吸光係数(ε);17万M−1cm−1;蛍光極大700nm、量子収率(φ)14%(非特許文献1))が実用化されている。しかし、蛍光量子収率が10%台と低く、また合成も困難である。

0008

また、水溶性を高めるために、フタロシアニン骨格の外側のベンゼン環水素原子親水性の基で置換することが知られている(非特許文献2)。さらに、分子会合を抑制するために、界面活性剤アルコール等の添加物を加えることも知られている(非特許文献3、特許文献1、2)。

0009

さらに、フタロシアニン骨格のベンゼン環がスルホフェノキシ基で置換され、軸配位子としてOH基を備えるフタロシアニンアンチモン錯体が知られている(非特許文献4、特許文献3)。該アンチモン錯体は光吸収極大波長が730nmに位置し、比較的高濃度(〜10−4M)で水に溶解し、且つ会合しない。しかし、アンチモンは毒性であり、その重原子効果により蛍光量子収率が1%未満と著しく低く、蛍光色素には適さないという問題がある。

0010

生体に無害なフタロシアニン錯体としては、リン(V)フタロシアニン錯体が知られており、例えば本発明者らによるリン(V)テトラ(2’,6’−ジメチルフェノキシ)フタロシアニン(以下、[P(tppc)(OH)(O)]という)に関する報告がある(非特許文献5)。

0011

国際公開第2010/098359号
米国特許第8524890号明細書
特許第5586010号公報

先行技術

0012

L.A.Lavis and R.T.Raines,ACS Chem.Biol.,3(2008)142-155
F.Dumoulin,Coord.Chem.Rev.,254(2010)2792-2847
H.Isago,et al.,J.Inorg.Biochem.,111(2012)91-98
H.Isago,et al.,J.Inorg.Biochem.,117(2012)111-117
H.Isago,et al.,J.Porphyrins Phthalocyanines,17(2013)763-771

発明が解決しようとする課題

0013

しかし、上記[P(tppc)(OH)(O)]は、界面活性剤の存在下で僅かに水に溶解するだけである。

課題を解決するための手段

0014

そこで、本発明者らは該[P(tppc)(OH)(O)]の水溶性を高めるためにスルホ基を導入したところ、驚くことに、単に水溶性が向上しただけでなく、分子会合が著しく抑制され、蛍光量子効率が一桁高くなることを見出し、本発明を完成した。即ち、本発明は下記のものである。
下記式(1)で表されるリンフタロシアニン錯体、その塩又はその水和物




上式においてRは、少なくとも1のスルホ基で置換された炭素数6〜13のアリール基であり、
zは−O−、−S−、炭素数1〜4のアルキレン基及び炭素数1〜4のオキシアルキレン基からなる群より選ばれる連結基であり、
nは互いに独立に0〜2の整数、但しnの合計は2以上、である。
また、本発明は、上記リンフタロシアニン錯体、その塩又はそれらの水和物を含む、光線力学的診断法用の光感受性薬剤又は光感受性薬剤にも関する。

発明の効果

0015

上記本発明の錯体、塩又は水和物(以下、まとめて「錯体等」という場合がある)は、生体に安全であり、水性溶媒に溶解し、且つ650〜800nmに強い光吸収及び高輝度の蛍光を示す。該錯体等はPPD用及びPDT用の光感受性薬剤として有用である。

図面の簡単な説明

0016

図1(a)〜(c)は式(1)のリンフタロシアニン錯体の構造例を示す。
本発明のリンフタロシアニン錯体由来イオンの構造例を示す。
本発明のリンフタロシアニン錯体の製造法の一例を示すフローチャートである。
実施例で調製したリンフタロシアニン錯体の二次イオン質量分析SIMS)スペクトルである。
図4のSIMSスペクトルにおける分子イオンピーク近傍の拡大図と同位体分布に基づく理論的SIMSスペクトルである。
実施例で調製したリンフタロシアニン錯体の水溶液中における蛍光スペクトル実線励起波長600nm)、励起スペクトル破線観測波長730nm)、吸収スペクトル(灰実線)である。
実施例で調製したリンフタロシアニン錯体の水溶液中、蟻酸溶液中、又は炭酸水素ナトリウム溶液中の吸収スペクトルの変化(上段)と、磁気円偏光二色性スペクトル下段)である。
実施例で調製したリンフタロシアニン錯体水溶液の、TRIS(トリスヒドロキシメチルアミノメタン緩衝液でpHを調整した際の吸収スペクトルの変化(a)、各pHでの676nmにおける吸光度プロットしたもの(b)である。
図8−1に示すスペクトル変化のpKaを求めたグラフ(c)及び該変化に関与する水素イオンの数を求めたグラフ(d)である。
実施例で調製したリンフタロシアニン錯体水溶液の、炭酸水素ナトリウムを用いてpHを変更した際の吸収スペクトルの変化である。
実施例で調製したリンフタロシアニン錯体のルチジン水溶液中の蛍光スペクトル、励起スペクトル、及び吸収スペクトルである。
実施例で調製したリンフタロシアニン錯体の水酸化ナトリウム水溶液中の蛍光スペクトル、励起スペクトル、及び吸収スペクトルである。
実施例で調製したリンフタロシアニン錯体の水溶液中における吸収スペクトルの濃度による変化を示す図である。
実施例で調製したリンフタロシアニン錯体の、異なるpHにおける濃度に対する吸収強度の変化を示すグラフである。
実施例で調製したリンフタロシアニン錯体、無金属類縁体及び銅錯体の水溶液中における吸収スペクトルを比較したものである。

0017

(リンフタロシアニン錯体)
本発明のリンフタロシアニン錯体(以下、単に「錯体」という場合がある)は、下記式(1)で表される。




上式において、Rは少なくとも1のスルホ基(SO3H)で置換された、炭素数6〜13のアリール基である。zは−O−、−S−、及び炭素数1〜4のアルキレン基及び炭素数1〜4のオキシアルキレン基からなる群より選ばれる連結基であり、nは互いに独立に0〜2の整数、但しnの合計は2以上、である。

0018

炭素数6〜13のアリール基としては、フェニル基インデニル基ナフチル基、及びアズレニル基等が挙げられ、これらのうちフェニル基及びナフチル基が好ましい。

0019

各アリール基は、少なくとも1のスルホ基(SO3H)で置換されている。該スルホ基の数の上限は特にないが、該アリール基がフェニル基の場合には、合成上の制約から実際上3である。スルホ基以外の極性基、例えばカルボキシ基ホスホリル基(−P(=O)(OH)2)、アミノ基等も水溶性向上の目的で使用することができるが、極性が高く且つ合成上の制御が容易である点でスルホ基が最も好ましい。該スルホ基は、水性媒体中ではプロトン解離したスルホネート(−SO3−)の形態で存在し得る。

0020

各Rは、スルホ基に加えて他の置換基を有していてよい。該置換基としては、スルホン化反応を困難にしない基が好ましく、例えばメチル基エチル基等の炭素数1〜4のアルキル基メトキシ基等の炭素数1〜4のアルコキシ基シアノ基ニトロ基、及び、フロロ基等のハロゲノ基が挙げられる。好ましくは炭素数1〜4のアルキル基、及び炭素数1〜4のアルコキシ基であり、より好ましくは炭素数1又は2のアルキル基である。

0021

各Rにおけるスルホ基の置換位置は任意であってよい。後述の実施例で調製したリンフタロシアニン錯体では連結基−O−のパラ位であるが、これは構造解析のために、位置異性体が無いものを便宜上選んだだけのことであり、他の置換位置であってもフタロシアニン骨格への影響はほとんど無く蛍光特性には影響しない。

0022

zは−O−、−S−、炭素数1〜4のアルキレン基、及び炭素数1〜4のオキシアルキレン基からなる群より選ばれる連結基である。炭素数1〜4のアルキレン基としてはメチレン基エチレン基が、炭素数1〜4のオキシアルキレン基としてはエチレンオキシ基プロピレンオキシ基が挙げられる。これらのうち、−O−、及び−S−が好ましい。

0023

好ましいRとして、少なくとも1のスルホ基、及び炭素数1又は2のアルキルで置換されたフェニル基、例えばスルホメチルフェニル基、スルホジメチルフェニル基、4’−スルホ−2’,6’−ジメチルフェニル基が挙げられる。

0024

Rの位置は、フタロシアニン骨格中の周辺ベンゼン環のα位及びβ位の少なくとも一方である。フタロシアニンの軸配位子をより活性化する点でβ位が好ましい。

0025

nは、互いに独立に0〜2の整数であり、但しnの合計は2以上である。nが2未満の場合には、所望の水溶性を達成するのが困難となる場合がある。好ましくは、nの合計は3以上であり、より好ましくは4以上であり、例えば各nが全て1である。図1(a)〜(c)に、式(1)でnの合計が5等のリンフタロシアニン錯体の構造例を示す。これらの図において、化合物名称中の「リン」は略してある。

0026

該錯体は、軸配位子、即ち、フタロシアニン骨格をxy方向とした場合のz方向の配位子、としてオキソ基(=O)と水酸基(−OH)を有する。これらの配位子は、後述するように水性媒体中ではプロトンが付加した−OH+もしくは解離された−O−で存在し得、該錯体の水への溶解性を高めるだけでなく、分子会合性を低下する効果をも奏することが見出された。

0027

本発明は、上記錯体の塩にも関する。該塩は上記錯体由来のイオンと対イオンを含み、さらに水和水を含んでいてもよい。該錯体由来のイオンは、少なくとも1つのスルホネート基、軸配位子のオキソ基にプロトンが付加した−OH+基、及び水酸基がイオン化した−O−基のいずれかを含み、例えば図2に示す構造を有することが磁気円偏光二色性スペクトルによって確認された。このイオン化は、プロトン移動によって起こる迅速かつ可逆な反応であることも確認された。各イオン化の解離定数(pKa)はR、z等に依存して異なり得るが、図2の構造の場合、夫々、3〜5及び7〜9程度である。

0029

上記錯体または塩は、夫々、水和物であってよい。水和水の数は、錯体又は塩の乾燥の程度に依存して異なり得るが、通常、4〜10程度の水和物で得られることが多い。

0030

上記本発明の錯体等の構造は、元素分析、二次イオン質量分析及びNMRにより特定することができる。

0031

上記本発明の錯体等は、PDD及びPDTの光感受性物質として有用である。特に、軸配位子が−OH+もしくは解離された−O−である形態のものは、分子会合の程度が顕著に低く、PDTの光感受性物質として大変有用である。例えば後述する実施例で調製したリン(V)テトラ(4’−スルホン酸−2’,6’−ジメチルフェノキシ)フタロシアニン(以下、[P(H4tsppc)(O)(OH)]と表記する場合がある)は、上記いずれかの軸配位子を有する場合、10−4Mの濃度でも吸光度はLambert-Beer則に従い、濃度に比例する。特に−O−を有するものは強い蛍光を放ち、テトラ‐t‐ブチルフタロシアニンのTHF溶液の量子収率を基準とした蛍光量子収率で表すと、46〜49%と、市販の水溶性フタロシアニン系色素であるIRDye700DX NHS esterの量子収率14%に比べて顕著に高い。
なお、本出願において、蛍光量子収率(φ)とは、発光(蛍光)した分子の個数mと、吸収された光子の個数nとの比m/nのことである。量子収率46%とは、光を吸収して励起された分子が100個あったとすると、そのうちの46個が蛍光を出すことを意味する。蛍光の輝度は、モル吸光係数(ε)×蛍光量子収率(φ)に比例する。

0032

(リンフタロシアニン錯体の製造方法)
本発明の錯体は、例えば図3に示すフローチャートに従い作ることができる。該製造方法は、スルホン化工程と、精製工程とに大きく分けることができる。

0033

固体生成物作成工程S1)
これは、スルホン化工程である。出発物質として、例えばリン2,6−ジメチルフェノキシフタロシアニン([PPc(O)(OH)])を非特許文献5に記載の方法で用意する。

0034

次に、[PPc(O)(OH)]をスルホン化する。スルホン化剤は特に限定されず、例えば発煙硫酸濃硫酸等の硫酸クロロスルホン酸等を使用することができる。好ましくは反応溶媒を兼ねて、出発物質を溶解するのに十分な量の濃硫酸が使用される。スルホン化の温度は、0℃(氷冷下)〜室温、好ましくは10℃以下である。該スルホン化は迅速に起こり、出発物質を濃硫酸に溶解して未反応物をろ過で除去している間に完結していると考えられる。出発物質の溶解からろ過迄の全工程を含めて約5分〜30分程度、典型的には10分以下で、スルホン化物を得ることができる。

0035

反応終了後反応物濾過して、濾液を集める。濾過残渣固体廃棄する。出発物質が十分に精製されていれば、固体はほとんど残らない。濾液を氷水中に滴下してスルホン化物を沈殿させた後、濾過して粗スルホン化物を得る。

0036

得られた粗スルホン化物を以下の再沈及び分離工程により精製し、最後に乾燥する。
タール状生成物作成工程S2)
固体生成物を冷水に溶解してから、濾過して、濾液を集め、濾液にアルコールを加えてから、ロータリーエバポレーター(RE)等を用いて濃縮して、タール状生成物を得る。

0037

皮膜状生成物作成工程S3)
上記タール状生成物をアルコールに再溶解してから、REで濃縮して、皮膜状生成物を作成する。

0038

(細かい固体生成物作成工程S4)
上記皮膜状生成物をアルコールに再溶解してから、エーテル中に滴下して、母液中に細かい固体生成物を再沈する。

0039

遠心分離工程S5)
遠心分離工程S5は、遠心分離する工程である。最初の遠心分離工程S5−1、溶液滴下工程S5−2、別の遠心分離工程S5−3を含む。

0040

(最初の遠心分離工程S5−1)
S4で得られた細かい固体生成物のアルコール/エーテル分散液を遠心分離する。細かい固体生成物が母液から分離され、タール状物質に変化する。

0041

(溶液滴下工程S5−2)
タール状物質をアルコールに溶解してから、タール状物質溶液をエーテル中に滴下して、母液中に細かい固体生成物を作成する。

0042

(別の遠心分離工程S5−3)
細かい固体生成物のアルコール/エーテル溶液を遠心分離する。遠心分離により、細かい固体生成物が母液から分離され、タール状物質に変化した場合は、溶液滴下工程S5−2、別の遠心分離工程S5−3を繰り返す。繰り返し工程では、アルコール/エーテルの混合比を変えることが好ましい。
遠心分離により、細かい固体生成物が母液から分離され、タール状物質に変化せず、固体が得られた場合、真空乾燥工程S6へ進む。

0043

(真空乾燥工程S6)
固体を、真空乾燥して、リンフタロシアニン錯体が得られる。

0044

リンフタロシアニン錯体の塩は、該錯体を水性溶媒に溶解し、対イオンを含む酸もしくは塩基を添加し、水性溶媒を除去することによって調製することができる。後述するように該錯体の酸もしくは塩基の添加による構造変化は可逆的であり、且つ、該酸もしくは塩基の拡散速度が律速となるほど迅速である。

0045

以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<合成>
非特許文献5に記載の方法に従って、下記式で表されるリンフタロシアニン錯体[P(tppc)(O)(OH)]・4H2O(以下、[P(tppc)(O)(OH)]と表す)を合成した。

0046

[P(tppc)(O)(OH)]は、エタノール溶液中、励起波長532nm(1mW)により、赤色の蛍光を発した。この化合物は僅かに水溶性であるが、10−6M未満の濃度であっても界面活性剤の存在下でなければ著しく会合する(非特許文献5)。

0047

200g(0.19mmol)の[P(tppc)(O)(OH)]を、氷冷した濃硫酸21mlに溶解して、10分間攪拌してスルホン化した後、濾過して、得られた濾液を約17gの中に滴下して、緑色の固体スルホン化物を析出させた。

0048

次に、濾過して、緑色の固体を集めた。次に、集めた緑色の固体を冷水40mlに溶かして、もう一度濾過した。濾過により得られた固体は廃棄した。原料が十分に精製されていたので、固体はほとんど残らなかった。次に、濾液に20mlのエタノールを加えてから、ロータリーエバポレーターを用い、約40℃で濃縮して、タール状の生成物を得た。

0049

次に、このタール状の生成物を約5mlのエタノールに溶解してから、ロータリーエバポレーターを用い、50℃以下で濃縮した。この操作を繰り返して、二回目に乾いた皮膜状の生成物を得た。

0050

次に、この乾いた皮膜状の生成物を10mlのメタノールに溶かしてから、約40mlのエーテルに滴下して、緑色の細かい固体を沈殿させた。
次に、この緑色の細かい固体を母液から遠心分離した。さらに、メタノール5ml/エーテル45mlで2回、メタノール2ml/エーテル48mlで1回、溶解及び再沈の操作を繰り返して精製することによって、緑色の固体を得た。
得られた緑色の固体を12時間、真空中、40℃で乾燥させて、最終生成物であるリン(V)テトラ(4’−スルホン酸−2’,6’−ジメチルフェノキシ)フタロシアニン([P(H4tsppc)(O)(OH)])を75mg(0.048mmol)得た。収率は25%であった。

0051

<構造解析>
得られた錯体の構造を、二次イオン質量分析(SIMS)及び元素分析により解析した。
[SIMS]
日本電子製JEOL−JMS−T100LCを用いた。図4は、該錯体のSIMSスペクトルと、主なピーク帰属を示す。分子イオンピークは、プロトン化した形(m/z=1377[M+H+])で検出された。図5は上記分子イオンピーク近傍の拡大図であり、挿入図は同位体分布に基づく理論的SIMSスペクトルである。図4と5の大変良い一致から、帰属の正しさが確認された。
他の主なピークは以下のとおりである:
m/z=1359:[M−OH]、イオン化の際に軸配位子OHを1個失ったもの。
m/z=1314:[M−P(=O)(OH)+2H]、中心元素及び軸配位子が失われて水素が2つ付加したもの、即ち中心元素が無いフタロシアニン。
非常に弱いが、非プロトン型の分子イオンピークも検出された(m/z=1376[M])。

0052

[元素分析]
元素分析の結果は、炭素49.22%;水素4.11%;窒素7.22%であった。ここから、[P(H4tsppc)(OH)(O)]・10H2O(C64H69N8O28PS4)(理論値:炭素49.35%;水素4.47%;窒素7.19%)であることが確認された。

0053

<吸収及び蛍光スペクトル>
上記[P(H4tsppc)(OH)(O)]・10H2Oの水溶液の蛍光及び励起スペクトルを、日立製F−2500蛍光測定装置を用いて測定した。また、水溶液の吸収スペクトルを、島津社製UV−1800分光光度計を用いて測定した。
図6に、蛍光スペクトル(実線:励起波長600nm)、励起スペクトル(破線:観測波長730nm)、及び吸収スペクトル(灰実線)を合わせて示す。同図において、蛍光スペクトル及び励起スペクトルの強度は任意スケールであり、吸収スペクトルとの比較のために規格化されている。
同図から、[P(H4tsppc)(OH)(O)]・10H2Oは「生体の光の窓」の波長領域に強い吸収と、該吸収に基づく高輝度の蛍光を示すことが分かる。
テトラ‐t‐ブチルフタロシアニンのTHF溶液の量子収率を基準とした蛍光量子収率は、0.326(約33%)であった(方法の詳細はN.Kobayashi,Chem.Lett.,(1994)
1813-1816を参照されたい)。
また、692nmに極大を有する吸収帯のモル吸光係数は16万M−1cm−1であった。
上記蛍光量子収率は、市販の水溶性フタロシアニン系色素、IRDye700DX NHS ester(中心元素はケイ素;水溶液中で吸収極大689nm、モル吸光係数;17万M−1cm−1;蛍光極大700nm、量子収率14%(非特許文献1)と比較して倍以上であり、モル吸光係数はほぼ同等である。

0054

イオン形態による吸収スペクトルの変化>
既に述べたとおり、本発明の錯体は水性媒体中のpH変化に応じて迅速にイオン化し、それに伴うスペクトル変化を示す。図7は、[P(H4tsppc)(O)(OH)]の水溶液中(2.5x10−6 M、実線)、0.13 M蟻酸溶液中(濃度8.6x10−6 M、破線)および24mM炭酸水素ナトリウム溶液中(濃度6.8x10-6 M、一点破線)の吸収スペクトル(上段)の変化と、磁気円偏光二色性スペクトル(下段)である。吸収極大が、弱塩基性下で短波長シフトし、弱酸性下で長波長シフトする。これらの吸収極大波長は、磁気円偏光二色性スペクトルのΔε(左右の円偏光吸光係数の差)がゼロである波長と一致していることから、[P(H4tsppc)(O)(OH)]分子のC4対称性が維持されており、pHによる構造変化が軸配位子上で起きていることが確認された。

0055

図8−1は、TRIS(トリスヒドロキシメチルアミノメタン)緩衝液でpHを調整した際の吸収スペクトルの変化(a)と、各pHでの676nmにおける吸光度をプロットしたもの(b)である。pHが高くなるにつれピークがシャープに且つ強くなり、吸収極大が短波長シフトする。図(a)に示すように、680nm付近等吸収点があることから、平衡反応が起きていることが分かった。
図8−1(b)に示すS字状の曲線は、各pHでの676nmにおける吸光度(A)、初期吸光度(A0)、pH変化終点の吸光度(Af)及び解離定数(pKa=7.87)を用いて得られたものであり、該pKaは図8−2(c)に示すグラフから求めた。これらの結果から、同図における吸収スペクトルの変化には1つの水素イオン(図8−2(d)でn=1.22)が関与していることが分かった。酸性側についても同様の現象が観察された。

0056

TRISに代えて、炭酸水素ナトリウムを用いてpHを変更した際にも、同様の吸収スペクトルの変化が見られた(図9)。

0057

上記pH変化に応じたイオン形態及びスペクトルの変化は非常に速く、対イオンを含む酸もしくは塩基を添加した瞬間に起こる。酸性側では蛍光が近赤外領域となるため目視では確認できなくなり、中性及び塩基性側では強い赤色の蛍光が確認できる。この現象を利用すれば、生理的環境のpHを示す高感度指示薬として用いることができる。

0058

上述のとおり、本発明の錯体は塩基性側で強い吸収を示し、蛍光も強くなる。塩基をルチジンにした場合を図10に、水酸化ナトリウムにした場合を図11にそれぞれ示す。中性での蛍光量子収率が約33%であったのに対し、ルチジン存在下では49%、水酸化ナトリウム存在下では46%であった。ここから、本発明の錯体をルチジニウム塩、ナトリウム塩等の形態にして、又は炭酸水素ナトリウム等の塩基と共に生体に投与する等によって弱塩基性の生理的環境を作ることによって、優れた蛍光用色素となることが期待される。

0059

[吸収スペクトルの濃度依存性
分子会合の有無を調べるために、[P(H4tsppc)(O)(OH)]の吸収スペクトル強度の濃度依存性を調べた。会合が起きていても、Lambert-Beer則に従う吸光度の直線性が維持される場合があるが、一般に直線性から外れた場合には会合が起きていると云える。
図12は、水中における吸収スペクトルの濃度による変化を示す。同様の実験を異なるpHにおいても行い、濃度に対する単位光路長当たりの吸光度の変化をプロットした(図13)。
図13から分かるように、水中(○)では、0.1×10−4Mを過ぎると直線から外れ始めるが、NaOH溶液(●)及びHCl(△)中では1×10−4Mまで良好な直線性を示し、酸性及び塩基性下では中性下より少なくとも一桁高い1×10−4Mまでは、分子会合の影響は無視できることが分かった。ここからも、本発明の錯体等は、優れたPDT用色素となることが期待される。

実施例

0060

<既存の色素との比較>
図14は、[P(H4tsppc)(O)(OH)]と、無金属類縁体及び銅錯体の水溶液中における吸収スペクトル(非特許文献4)を比較したものである。[P(H4tsppc)(O)(OH)]の吸収スペクトルピーク値は、無金属類縁体及び銅錯体の水溶液中における吸収スペクトルピーク値に比べて、顕著に高かった。該無金属類縁体および銅錯体は、界面活性剤やアルコールが存在しない条件では、水溶液中で強く会合した。

0061

本発明のリンフタロシアニン錯体は、PDD用、PDT用の光感受性薬剤として、またpH指示薬として有用である。

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