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課題

視床痛を有する非ヒト霊長類モデルを提供することを課題とする。

解決手段

視床痛を有する非ヒト霊長類モデル動物またはその生体の一部であって、視床後外側腹側核内の少なくとも1つの感覚神経線維走行する領域に血管障害を有しており、これにより感覚神経線維に対応する身体の一部に異痛症様の症状を有するモデル動物またはその生体の一部。

概要

背景

外傷や感染・炎症に対する痛みは身体への危険警報であり、生理的に必要な反応であると言える。しかし、神経系に損傷を受けた後に生じる、"神経障害性疼痛"とよばれる慢性的な痛みは、「痛みそのものが病気」である点でその他の痛みとは性質が大きく異なる。とくに脳卒中により脳内に損傷を受けた後の中枢性神経障害性疼痛視床痛)は治療が極めて難しく、その発症メカニズムとして神経回路の変化などの仮説提唱されているものの、充分に理解されているとは言い難い。神経障害性疼痛に対する治療法も、現状では根本的な治療というよりも対処療法的なものがほとんどである。神経障害性疼痛の発症メカニズムの理解を飛躍的に進め、より効果的な治療技術を開発するためには、適切なモデル動物確立が不可欠である。近年、齧歯類ラットおよびマウス)を用いた中枢神経損傷後の疼痛モデルが開発され(非特許文献1および非特許文献2)、神経障害性疼痛の背景にあるメカニズムの解明が始められている。
ただし疼痛には感覚統合など認知的側面が関係しており、また患者において疼痛との関連が知られている脳領域の一部は霊長類のみに存在していることが知られている。すなわち、上述したような疼痛モデルとして供されるラットやマウス等の齧歯類の脳では、疼痛に関わるヒトと相同な脳領域がそもそも欠落しているという問題があった。
さらに、脳内に生じた血管障害由来する中枢性神経障害性疼痛は、特に視床における血管障害により引き起こされるケース(視床痛)が多いことが知られている。このような視床痛の発生は、血管障害による病変と当該病変による周囲の構造の機能再編成が大きな要因であると示唆されている。このような血管障害による病変とその周囲の構造の機能再構成は視床痛の個々の病態を複雑にし、その他の個々の治療は症例により異なり、困難となる。そこで視床痛に対しては、個々の例において脳内活動等の詳細な病態解析を行い、脳内の疼痛関連構造における異常な活動部位等の把握が重要となる。しかしながら、従来の齧歯類の疼痛モデルでは脳の大きさが小さく、機能的脳画像法等による詳細な脳内活動の解析は実質的に困難であった。
このように、ラットやマウス等の疼痛モデルでは、ヒトの神経障害性疼痛、とりわけ視床痛のメカニズムの解明には不十分であった。

概要

視床痛を有する非ヒト霊長類モデルを提供することを課題とする。 視床痛を有する非ヒト霊長類モデル動物またはその生体の一部であって、視床後外側腹側核内の少なくとも1つの感覚神経線維走行する領域に血管障害を有しており、これにより感覚神経線維に対応する身体の一部に異痛症様の症状を有するモデル動物またはその生体の一部。なし

目的

本発明の課題は、視床痛ヒト患者において疼痛に関連する脳領域と類似の構造を有する視床痛モデル動物、特に、脳内活動の詳細な病態解析を可能とする視床痛モデル動物を提供する

効果

実績

技術文献被引用数
0件
牽制数
0件

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請求項1

視床痛を有する非ヒト霊長類モデル動物またはその生体の一部であって、前記モデル動物は、視床後外側腹側核内の少なくとも1つの感覚神経線維走行する領域に血管障害を有しており、これにより前記感覚神経線維に対応する身体の一部に異痛症様の症状を有することを特徴とするモデル動物またはその生体の一部。

請求項2

請求項1に記載のモデル動物またはその生体の一部であって、前記モデル動物は、視床後外側腹側核内の上肢または下肢の感覚神経線維が走行する領域に血管障害を有しており、これにより上肢または下肢に異痛症様の症状を有することを特徴とするモデル動物またはその生体の一部。

請求項3

請求項1または2に記載のモデル動物またはその生体の一部であって、前記モデル動物が、マカクザルであることを特徴とするモデル動物またはその生体の一部。

請求項4

請求項1〜3のいずれか一項に記載のモデル動物またはその生体の一部であって、前記モデル動物が、視床後外側腹側核以外の脳の領域に血管障害を有していないことを特徴とするモデル動物またはその生体の一部。

請求項5

視床痛を有する非ヒト霊長類モデル動物またはその生体の一部の作成方法であって、(a)前記モデル動物の脳のうち視床後外側腹側核を含む部分を画像化して、前記視床後外側腹側核の位置を同定する工程と、(b)前記位置が同定された視床後外側腹側核のうち目的の感覚神経線維が走行する領域を、電気生理学的手法を用いて同定する工程と(c)同定した前記目的の感覚神経線維が走行する領域に血管障害誘導剤注入する工程とを含み、これにより、前記非ヒト霊長類モデル動物が前記目的の感覚神経線維に対応する身体の一部に異痛症様の症状を有することを特徴とする、作成方法。

請求項6

請求項5に記載の作成方法であって、前記(a)工程において、前記視床後外側腹側核を含む部分の画像化が、核磁気共鳴装置により行われることを特徴とする作成方法。

請求項7

請求項5または6に記載の作成方法であって、前記電気生理学的手法が、(b’)前記位置が同定された視床後外側腹側核内の目的の感覚神経線維が走行する領域へ電極を挿入する工程と(b’’)前記目的の感覚神経線維に対応する身体の一部に刺激を加え、前記目的の感覚神経線維における神経細胞活動電位を測定し、活動電位が検出された場合に前記電極が挿入された領域を前記目的の感覚神経線維が走行する領域として同定する工程とを含む手法であることを特徴とする作成方法。

請求項8

請求項5〜7のいずれか一項に記載の方法であって、目的の感覚神経線維が、上肢または下肢の感覚神経線維であることを特徴とする作成方法。

請求項9

請求項5〜8のいずれか一項に記載の方法であって、前記血管障害誘導剤が、コラゲナーゼIVまたはエンドセリン−1であることを特徴とする作成方法。

請求項10

請求項5〜9のいずれか一項に記載の方法であって、前記モデル動物が、視床後外側腹側核以外の脳の領域に血管障害を有していないことを特徴とする作成方法。

請求項11

請求項1〜4のいずれか一項に記載のモデル動物に対して被験物質投与する工程と、前記モデル動物が有する異痛症様の症状に対する前記被験物質の効果を測定する工程とを含む、視床痛に対する治療薬スクリーニング方法

請求項12

請求項1〜4のいずれか一項に記載のモデル動物がリハビリテーションを行う工程と、前記モデル動物が有する異痛症様の症状に対する前記リハビリテーションの効果を測定する工程とを含む、視床痛の改善のためのリハビリテーションの評価方法

技術分野

0001

本発明は、視床痛を有する非ヒト霊長類モデル動物、当該モデル動物の作成方法、当該モデル動物を用いた視床痛に対する治療薬スクリーニング方法、および、当該モデル動物を用いたリハビリテーション評価方法に関する。

背景技術

0002

外傷や感染・炎症に対する痛みは身体への危険警報であり、生理的に必要な反応であると言える。しかし、神経系に損傷を受けた後に生じる、"神経障害性疼痛"とよばれる慢性的な痛みは、「痛みそのものが病気」である点でその他の痛みとは性質が大きく異なる。とくに脳卒中により脳内に損傷を受けた後の中枢性神経障害性疼痛(視床痛)は治療が極めて難しく、その発症メカニズムとして神経回路の変化などの仮説提唱されているものの、充分に理解されているとは言い難い。神経障害性疼痛に対する治療法も、現状では根本的な治療というよりも対処療法的なものがほとんどである。神経障害性疼痛の発症メカニズムの理解を飛躍的に進め、より効果的な治療技術を開発するためには、適切なモデル動物の確立が不可欠である。近年、齧歯類ラットおよびマウス)を用いた中枢神経損傷後の疼痛モデルが開発され(非特許文献1および非特許文献2)、神経障害性疼痛の背景にあるメカニズムの解明が始められている。
ただし疼痛には感覚統合など認知的側面が関係しており、また患者において疼痛との関連が知られている脳領域の一部は霊長類のみに存在していることが知られている。すなわち、上述したような疼痛モデルとして供されるラットやマウス等の齧歯類の脳では、疼痛に関わるヒトと相同な脳領域がそもそも欠落しているという問題があった。
さらに、脳内に生じた血管障害由来する中枢性神経障害性疼痛は、特に視床における血管障害により引き起こされるケース(視床痛)が多いことが知られている。このような視床痛の発生は、血管障害による病変と当該病変による周囲の構造の機能再編成が大きな要因であると示唆されている。このような血管障害による病変とその周囲の構造の機能再構成は視床痛の個々の病態を複雑にし、その他の個々の治療は症例により異なり、困難となる。そこで視床痛に対しては、個々の例において脳内活動等の詳細な病態解析を行い、脳内の疼痛関連構造における異常な活動部位等の把握が重要となる。しかしながら、従来の齧歯類の疼痛モデルでは脳の大きさが小さく、機能的脳画像法等による詳細な脳内活動の解析は実質的に困難であった。
このように、ラットやマウス等の疼痛モデルでは、ヒトの神経障害性疼痛、とりわけ視床痛のメカニズムの解明には不十分であった。

先行技術

0003

Wasserman and Koeberle., Neuroscience, 161 (2009) 173-183
Hanada et al., Neuroscience Research, 78 (2014) 72-80

発明が解決しようとする課題

0004

すなわち、本発明の課題は、視床痛ヒト患者において疼痛に関連する脳領域と類似の構造を有する視床痛モデル動物、特に、脳内活動の詳細な病態解析を可能とする視床痛モデル動物を提供することにある。

課題を解決するための手段

0005

本発明者らは、上記課題に鑑みて、ヒトの脳構造により近い非ヒト霊長類に着目し、研究を重ねた結果、視床後外側腹側核(視床VPL)内に血管障害を生じさせ身体の一部に異痛症様の症状を生じさせた視床痛モデル動物の作成に成功した。なお、核磁気共鳴画像法等の脳内の画像化方法のみで視床後外側腹側核および視床後外側腹側核内の特定の領域を特定することは困難であった。そこで、本発明者らは脳内の画像化方法に加えて、電気生理学的方法を組み合わせることにより本発明に至った。すなわち、本発明者らは、非ヒト霊長類である被験体の脳内を核磁気共鳴画像法等により画像化して視床後外側腹側核の領域を同定し、さらに電気生理学的手法により視床後外側腹側核内の目的とする感覚神経線維走行する領域を同定し、当該目的とする感覚神経線維が走行する領域に血管障害導入剤注入することにより、当該感覚神経線維に対応する身体の一部に異痛症様の症状を有する非ヒト霊長類モデル動物を作成するに至った。

0006

即ち、本発明は、
視床痛を有する非ヒト霊長類モデル動物またはその生体の一部であって、
前記モデル動物は、視床後外側腹側核内の少なくとも1つの感覚神経線維が走行する領域に血管障害を有しており、これにより前記感覚神経線維に対応する身体の一部に異痛症様の症状を有することを特徴とするモデル動物またはその生体の一部に関する。

0007

ここで、本発明の非ヒト霊長類モデル動物またはその生体の一部の一実施の形態においては、
前記モデル動物が、視床後外側腹側核内の上肢または下肢の感覚神経線維が走行する領域に血管障害を有しており、これにより上肢または下肢に異痛症様の症状を有することを特徴とする。
また、本発明のモデル動物またはその生体の一部の一実施の形態においては、
前記モデル動物が、マカクザルであることを特徴とする。
また、本発明のモデル動物またはその生体の一部の一実施の形態においては、
前記モデル動物が、視床後外側腹側核以外の脳の領域に血管障害を有していないことを特徴とする。

0008

また、本発明の別の態様によれば、本発明は、視床痛を有する非ヒト霊長類モデル動物またはその生体の一部の作成方法であって、
(a)前記モデル動物の脳のうち視床後外側腹側核を含む部分を画像化して、前記視床後外側腹側核の位置を同定する工程と、
(b)前記位置が同定された視床後外側腹側核のうち目的の感覚神経線維が走行する領域を、電気生理学的手法を用いて同定する工程
(c)同定した前記目的の感覚神経線維が走行する領域に血管障害誘導剤を注入する工程
とを含み、これにより、前記非ヒト霊長類モデル動物が前記目的の感覚神経線維に対応する身体の一部に異痛症様の症状を有することを特徴とする、作成方法に関する。
ここで、本発明の視床痛を有する非ヒト霊長類モデル動物またはその生体の一部の作成方法の一実施の形態においては、
前記(a)工程において、前記視床後外側腹側核を含む部分の画像化が、核磁気共鳴画像装置により行われることを特徴とする。
また、本発明の視床痛を有する非ヒト霊長類モデル動物またはその生体の一部の作成方法の一実施の形態においては、前記電気生理学的手法が、
(b’)前記位置が同定された視床後外側腹側核内の目的の感覚神経線維が走行する領域へ電極を挿入する工程と
(b’’)前記目的の感覚神経線維に対応する身体の一部に刺激を加え、前記目的の感覚神経線維における神経細胞活動電位を測定し、活動電位が検出された時に前記電極が挿入された領域を前記目的の感覚神経線維が走行する領域として同定する工程と
を含む手法であることを特徴とする。
また、本発明の視床痛を有する非ヒト霊長類モデル動物またはその生体の一部の作成方法の一実施の形態においては、目的の感覚神経線維が、上肢または下肢の感覚神経線維であることを特徴とする。
また、本発明の視床痛を有する非ヒト霊長類モデル動物またはその生体の一部の作成方法の一実施の形態においては、前記血管障害誘導剤が、コラゲナーゼIVまたはエンドセリン−1であることを特徴とする。
また、本発明の視床痛を有する非ヒト霊長類モデル動物またはその生体の一部の作成方法の一実施の形態においては、前記モデル動物が、視床後外側腹側核以外の脳の領域に血管障害を有していないことを特徴とする。

0009

また、本発明の別の態様によれば、本発明は、視床痛に対する治療薬のスクリーニング方法であって、
前記非ヒト霊長類モデル動物に対して被験物質投与する工程と、
前記非ヒト霊長類モデル動物が有する異痛症様の症状に対する前記被験物質の効果を測定する工程と
を含む、視床痛に対する治療薬のスクリーニング方法に関する。
また、本発明の別の態様によれば、本発明は、視床痛の改善のためのリハビリテーションの評価方法であって、
前記非ヒト霊長類モデル動物がリハビリテーションを行う工程と、
前記非ヒト霊長類モデル動物が有する異痛症様の症状に対する前記リハビリテーションの効果を測定する工程と
を含む、視床痛の改善のためのリハビリテーションの評価方法に関する。

0010

本発明の視床痛を有する非ヒト霊長類モデル動物において、上記に記載する各特徴を二つ以上組み合わせて有するものも、本発明の視床痛を有する非ヒト霊長類モデル動物の一実施の形態として本発明に含まれる。同様に、本発明の異なる態様である、視床痛を有する非ヒト霊長類モデル動物の作成方法、視床痛を有する非ヒト霊長類モデル動物を用いたスクリーニング方法、視床痛を有する非ヒト霊長類モデル動物を用いた視床痛のリハビリテーションの評価方法についても、同様に、上記の各特徴を二つ以上組み合わせて有する形態も、本明細書に開示される。

発明の効果

0011

本発明者らは、上述のように、非ヒト霊長類であるサルの視床VPLに限局的な損傷を作成し、異痛症の症状を示すモデルを確立した。本発明の視床痛を有する非ヒト霊長類モデル動物は、下記の実施例に示すように、行動だけでなく脳活動の面からも、サルが疼痛を感じていることを示す結果が得られた。近年報告された齧歯類の視床痛モデルに加えて霊長類の視床痛モデルが確立できたことで、薬剤など疼痛を抑制する技術の開発を促進することができると考えられる。本モデルは人に近いモデルであることに加えて、以下の優位性を持っている。
(1)本発明の視床疼痛を有する非ヒト霊長類モデルによれば、ヒトと同様の疼痛に関わる脳領域を有しているため、視床痛のメカニズム解明、治療方法開発等のためのより好ましいモデル動物を提供することができる。
(2)従来の齧歯類モデルでは視床VPL以外の領域にも損傷を生じるケースが多かったが、本発明の非ヒト霊長類モデル動物では脳が齧歯類と比べて大きいことを利用し、視床VPL内に限局的な損傷の作成を試みた。背景にあるメカニズムを検証するためには、安定して特定の領域に限局した損傷を作成することが重要であり、本発明の非ヒト霊長類モデル動物はこのニーズを満たすことができる。さらに、本発明の非ヒト霊長類モデル動物によれば、視床後外側腹側核内のうち特定の身体の一部(例えば、上肢)に対応する神経線維が走行する領域へ障害を生じさせることができるため、上肢や下肢、片側や両側、またはそれらの組み合わせのように、障害を選択的に生じさせることが可能である。
(3)本発明の非ヒト霊長類モデル動物によれば、齧歯類モデルでは実質的な評価が困難であった機能的MRI等を用いた脳活動の計測が可能である。齧歯類でも原理的に不可能ではないが、脳が小さいために空間解像度が極めて悪くなり、実質的には困難である。また、齧歯類モデルでは、一部の脳領域ではヒトと相同な領域が存在しないためにヒト患者の脳活動と比較することができない。自ら疼痛を報告できない動物において、行動学のみならず脳活動からも疼痛の発生やメカニズムを推定できること、また治療過程の脳内活動を評価できることは大きなメリットである。
(4)ヒトの脳卒中患者では発症後数週間経過したのちに疼痛の症状が生じることが多い。疼痛の背景には神経回路の不適切な再構成があるために、このような時間差が生じると考えられている。非ヒト霊長類を用いた本発明のモデルにおいても、脳損傷後2週間以降に疼痛の症状が生じた。一方、これまでに報告されている齧歯類のモデルでは、脳の損傷から早い段階で疼痛の症状が生じており、ヒトの脳卒中患者でみられるような脳損傷から疼痛の症状発生までの時間差が再現されていない。このような点においても、本発明のモデル動物のほうが疼痛の背景にある神経回路の変化を検証するために有効であると考えられる。

図面の簡単な説明

0012

図1は、アカゲザルの視床後外側腹側核(視床VPL)にコラゲネースIVを注入した際の脳内の状態を核磁気共鳴画像法により経時的に画像化したT2強調画像(T2−MRI)を示す。画像は、コラゲネースIV注入より1日目、4日目、1週間後、2週間後、1か月後の様子を示す。また、図1中のA13、A11、A9、A7は、それぞれ、Horsley−Clarke座標系の0点(耳孔眼窩下縁で頭部を固定したときの耳孔間の中心)から前方に13mm、11mm、9mm、7mm前方の前額断での画像を示す。図中の矢印はコラゲネースIV注入による損傷の中心領域を示し、その周辺浮腫によるとみられるT2高信号領域(白色)が存在する。
図2は、アカゲザルの視床後外側腹側核(視床VPL)にコラゲネースIVを注入した後3カ月後の脳内の状態を核磁気共鳴画像法(MRI)により画像化したT2強調画像(T2−MRI)を示す。図中の矢印はコラゲネースIV注入による損傷の中心領域を示す。
図3は、アカゲザルの視床後外側腹側核(視床VPL)にコラゲネースIVを注入した後3カ月後の脳を摘出し、視床VPL領域を含む切片を作成後、各切片をニッスル染色した染色後の画像を示す(図3b)。なお、図3aは切片の作成領域を示す説明図であり、切片は吻側から尾側へ向けて前額断面で作成されたことを示す。また、図3cは切片のうちの損傷を受けていない正常領域の拡大図を示し、図3dは切片のうち損傷を受けた領域の拡大図を示す。
図4は、視床後外側腹側核(視床VPL)にコラゲネースIVを注入したアカゲザルに対してホットプレートテストを経時的に行った際の結果を示すグラフである。グラフ上の縦軸は、37度の温度刺激に対する逃避反応時間に対する50度の温度刺激に対する逃避反応時間の比を示す。また、Lは患側である左手を示し、Rは健側である右手を示す。なお、図4中、*印は、脳損傷前の当該比と比べて有意な差が生じていることを示し、#印は、左右の手間における当該比と比べて有意な差が生じていることを示す。
図5は、視床後外側腹側核(視床VPL)にコラゲネースIVを注入したアカゲザルに対してVon Freyテストを経時的に行った際の結果を示すグラフである。縦軸は、逃避行動を示した機械強度閾値逃避スコア(g))を示す。また、Lは患側である左手を示し、Rは健側である右手を示す。なお、図5中、*印は、脳損傷前の閾値と比べて有意な差が生じていることを示し、#印は、左右の手間における閾値を比べて有意な差が生じていることを示す。
図6は、視床後外側腹側核(視床VPL)にコラゲネースIVを注入したアカゲザルに対して、50度または37度の温度刺激を健側である右手または患側である左手に与えた際の当該アカゲサルの脳内活動を機能的MRIにより撮影した画像を示す。なお、画像中の信号領域は、50度の温度刺激に対する脳内活動が30度の温度刺激に対する脳内活動と比較して有意(p<0.05)に高い領域を示している。なお、図6aおよびbは健側である右手を刺激した際の画像を示し、図6cおよびdは患側である左手を刺激した際の画像を示す。また、図6eおよびfは、それぞれ図6cおよびdの四角で囲まれた部分の拡大図を示す。なお、図6a、b、c、およびd中において、脳の右半球が各図中の左側に、脳の右半球が各図中の右側に表示されている。

0013

以下、本発明の実施の形態について、詳細な説明をする。
本明細書において、「視床痛」とは、視床における出血性虚血性の血管障害等により引き起こされる視床の損傷または機能障害に起因する疼痛をいう。そして、視床痛は運動や温度刺激等の外部刺激により誘発され得る場合があり、身体の一部に異痛症(allodynia)を発症する場合が多々ある。ここで、異痛症とは、通常では疼痛をもたらさない様な刺激が、疼痛として認識される感覚異常のことをいう。本発明の視床痛を有する非ヒト霊長類モデル動物では、とりわけ、視床後外側腹側核内に人工的に血管障害を引き起こすことにより、身体の一部に異痛症様の症状を生じさせたものである。

0014

また、本明細書において「血管障害」とは、虚血性および出血性の両方の血管障害を含む。特に、本発明の非ヒト霊長類モデル動物における血管障害は、血管障害誘導剤の脳内への注入により誘起される。本発明に使用される血管障害誘導剤は、脳内の注入された部位において虚血性の血管障害または出血性の血管障害を誘起できる薬剤であればよく、公知の薬剤を使用することができる。虚血性の血管障害を誘起する血管障害誘導剤としては、例えば、エンドセリン(エンドセリン-1(ET-1)、エンドセリン-2(ET-2)、エンドセリン-3(ET-3))等の血管収縮剤を挙げることができる。なお、エンドセリン-3は組織により活性が弱い場合があり、その点においてはエンドセリン-1またはエンドセリン-2の使用が好ましい。また、出血性の血管障害を誘起する血管障害誘導剤としては、コラゲネースIV(collagenase IV)を好適に使用することができる。なお、コラゲネースIV以外のコラゲネースでは、血管以外の組織や神経細胞の受容体等を破壊する可能性があるため、この点においてコラゲネースIVの使用が好ましい。

0015

本明細書において、「非ヒト霊長類」とは、視床後外側腹側核内の特定の感覚神経線維が走行する領域に血管障害を起こすことにより、当該感覚神経線維に対応する身体の一部に異痛症様の症状を患うことのできる非ヒト霊長類であればよく、ヒトを除く霊長類から適宜選択することができる。特に、本発明の視床痛を有する非ヒト霊長類モデル動物は、ヒトと同様に大脳皮質発達しており、ヒトおける疼痛に関わる脳内の領域(例えば、視床、第一次および第二次体性感覚野島皮質前帯皮質前頭前野)と相同の領域を有する非ヒト霊長類であることが好ましい。このような脳構造を有する非ヒト霊長類としては、類人猿またはオナガザル科に属するサル、オマキザル科に属するサルを挙げることができる。類人猿としては、例えばチンパンジーゴリラオランウータンを挙げることができる。また、オナガザル科に属するサルとしては、例えばマカク属に属するニホンザル、アカゲザル、カニクイザルブタオザル、ボンネットモンキーなどのマカクザルを挙げることができる。また、オマキザル科に属するサルとしては、例えば、オマキザル属に属するフサオマキザルもしくはリスザル属に属するコモンリスザル、または、マーモセット属に属するコモンマーモセットなどを挙げることができる。

0016

また、「非ヒト霊長類モデル動物の生体の一部」も本発明の「非ヒト霊長類モデル動物」と同様の目的で使用することができる。「非ヒト霊長類モデル動物の生体の一部」とは、作成された視床痛を有する非ヒト霊長類モデル動物由来の細胞、組織、臓器などを含み、例えば、脳、血管、その他の臓器や臓器由来組織片および細胞などを挙げることができる。これら非ヒト霊長類モデル動物の生体の一部も、例えば、疼痛の治療薬の評価試験や疼痛のメカニズム、または疼痛治療の解明のための試験(例えば、組織学的な解析等)に供することができる。

0017

ここで、視床後外側腹側核(視床VPL)とは、脳のほぼ中心部に位置する視床の核の一つを指し、文字通り後方の外腹側に位置する核である。末梢からの体性感覚情報延髄を介して受け取り、大脳皮質の感覚野中継する役割を持つ。視床後内側腹側核(視床VPM)が顔面口腔感覚情報を中継するのに対し、視床VPLは四肢と体の感覚情報を中継する。

0018

なお、感覚神経線維とは感覚器官からの刺激を中枢へ伝達する求心性感覚神経を構成する神経線維を意味し、本発明においては、このような感覚神経線維のうち、脳内の視床後外側腹側核内に走行する感覚神経線維を対象として血管障害を生じさせる。このような視床後外側腹側核内に走行する感覚神経線維としては、例えば、上肢の感覚神経線維、下肢の感覚神経線維、体幹の感覚神経線維を挙げることができる。なお、上肢は感覚の弁別能力が高いために、上肢の感覚神経線維が走行する領域が視床後外側腹側核内の多くの体積を占めている。
本発明においては、被験体の脳のうち、上記の感覚神経線維が走行する領域に血管障害を生じさせることで、対応する身体の一部に異痛症様の症状を発症させる。なお、本明細書において、「感覚神経線維が走行する領域に血管障害を生じさせる」という場合、視床VPL内の当該領域に走行する神経線維に当該血管障害に起因した損傷を生じさせることに加え、視床VPLを構成するニューロン細胞体に対しても当該血管障害に起因した損傷を生じさせることを含む。また、血管障害の対象として選択される感覚神経線維の走行する領域は、少なくとも1つの感覚神経線維が走行する領域であればよく、例えば、上肢および下肢に関わる感覚神経線維が走行する領域のように、複数の感覚神経線維が走行する領域を選択することもできる。また、右脳または左脳のいずれか片側の脳の視床後外側腹側核内に血管障害を生じさせることもできるし、両側の脳の視床後外側腹側核内に血管障害を生じさせてもよい。
また、本明細書において、特定の身体の部分からの刺激信号が視床後外側腹側核内の特定の感覚神経線維へ伝達される関係について、当該特定の身体の一部と当該特定の感覚神経線維が対応しているといい、本明細書において「感覚神経線維に対応する身体の一部」とは、例えば、上肢の感覚神経線維に対応する身体の一部は上肢であり、下肢の感覚神経線維に対応する身体の一部は下肢であることを意味する。

0019

なお、本発明の一実施の形態によれば、視床痛を有する非ヒト霊長類モデル動物は、脳内の視床後外側腹側核に限局した血管障害を生じさせることができる。これにより非ヒト霊長類モデル動物は、視床後外側腹側核以外の脳の領域に血管障害を有さない。このような非ヒト霊長類モデル動物によれば、視床後外側腹側核以外の他の脳の領域における血管障害による直接の影響を排除することができ、視床後外側腹側核に血管障害が生じたヒト視床痛患者の後遺症の治療法確立のためのより適したモデル動物を提供することが可能となる。さらに、視床後外側腹側核以外の他の脳の領域に血管障害を有さないので、視床後外側腹側核以外の脳内の領域における脳損傷後の神経回路の再構成を正しく評価することができる。なお、より好ましい形態は、本発明の視床痛を有する非ヒト霊長類モデル動物が、視床後外側腹側核のうちの目的とする感覚神経線維が走行する領域以外の領域にも血管障害を有しない形態である。例えば、上肢のみに異痛症様の症状を有する非ヒト霊長類モデル動物は、上肢の感覚神経線維が走行している領域のみに血管障害を有し、視床後外側腹側核の他の領域(例えば、下肢の感覚神経線維が走行している領域)にも血管障害を有しないモデル動物である。

0020

本発明の視床痛を有する非ヒト霊長類モデル動物は、(a)前記モデル動物の脳のうち視床後外側腹側核を含む部分を画像化して、前記視床後外側腹側核の位置を同定する工程と、(b)前記位置が同定された視床後外側腹側核のうち目的の感覚神経線維が走行する領域を、電気生理学的手法を用いて同定する工程と、(c)同定した目的の感覚神経線維が走行する領域に血管障害誘導剤を注入する工程とにより作成することができる。
本発明の視床痛を有する非ヒト霊長類モデル動物を作成するにあたり、まず、(a)モデル動物の脳のうち視床後外側腹側核を含む部分を画像化し、前記視床後外側腹側核の位置を同定する。

0021

視床後外側腹側核を含む部分の画像化は、各被験体の脳内の構造を把握し、視床後外側腹側核の位置を同定するために行うことができる。このような脳内の画像化は、脳内の構造を画像化して脳内の視床後外側腹側核の位置を同定できる方法であれば特に限定されず、当業者であれば公知の方法により行うことができる。このような脳内の画像化方法としては、例えば、核磁気共鳴装置を用いた核磁気共鳴画像法(MRI;magnetic resonance imaging)、コンピュータ断層撮影法(CT;computed tomography)により行うことができる。また、核磁気共鳴画像法等により画像化された脳内の断面図は、公知の画像解析装置プログラム等を用いて三次元再構成することができる。三次元再構成された脳内の画像により、脳内における視床後外側腹側核の位置をより正確に同定することができる。このような三次元再構成された画像は、実際に視床後外側腹側核内に対して電極やマイクロシリンジ等を刺入する際の参考資料として用いることができるためより好ましい。

0022

なお、脳内の視床後外側腹側核の位置は、当業者であれば公知の資料(例えば、Kadharbatcha S. Saleem and Nikos K. Logothetis; A CombinedMRIand Histology Atlas of the Rhesus Monkey Brain in Stereotaxic Coordinates, Academic Press, 2006)等を参照することにより同定することができる。
なお、脳内の構造はマカク属に属するサルで詳細に調べられており、マカクザルにおいて視床後外側腹側核の位置を同定することは容易である。また、非ヒト霊長類として上記に列挙したオナガザル科に属するサルまたはオマキザル科に属するサルにおいても脳内の構造および視床後外側腹側核の位置はマカクザルとほぼ同一であり、マカク属のサルの脳内の情報を基にこれらのサルについても視床後外側腹側核の位置を同定することが可能である。さらに、類人猿の脳においてもマカク属のサルと脳内の構造および視床後外側腹側核の位置はほぼ同じであると考えられ、同様に視床後外側腹側核の位置を同定することができる。

0023

なお、脳内の画像化の際には、被験体に麻酔を導入しておくことが好ましい。麻酔の導入については、当業者であれば、各被験体のサルの種別、体重等により適宜好ましい麻酔の導入方法を選択することができる。例えば、アカゲザルに対しては、ケタミンメデトミジン、およびミダゾラム筋肉注射により麻酔を導入することができる。
また、脳内の画像化の際には、麻酔導入後、ステレオタキシッククレーム等の頭部固定用の装置を用いて麻酔下にある被験体の頭部を固定することができる。

0024

ここで、視床後外側腹側核は、内外側に2〜3mm程度および尾側に3〜4mm程度の拡がりを持った小さな領域であること、また細胞密度が低く、脳溝など明らかな目印がないために核磁気共鳴画像法等での確認が難しい領域である。よって、核磁気共鳴画像法等では、視床後外側腹側核のうち、特定の感覚神経線維が走行する領域を同定することは実質的に不可能である。そこで、視床後外側腹側核の位置を同定した後に、(b)前記同定した視床後外側腹側核のうち目的の感覚神経線維が走行する領域を、電気生理学的手法を用いて同定する。

0025

目的の感覚神経線維が走行する領域を同定するために用いられる電気生理学的手法としては、電極を神経細胞の活動電位を測定したい脳内の領域に挿入し、特定の身体の部位に刺激を加えて当該神経細胞の活動電位を測定することにより、特定の身体の部位に対応した感覚神経線維が走行する領域を同定できる手法であれば限定されず、当業者であれば公知の技術により適宜行うことができる。本発明に使用される電気生理学的手法の一形態としては、例えば、(b’)位置が同定された視床後外側腹側核内の目的の感覚神経線維が走行する領域へ電極を挿入し、(b’’)目的の感覚神経線維に対応する身体の一部に刺激を加え、目的の感覚神経線維における神経細胞の活動電位を測定し、活動電位が検出された場合に電極が挿入された領域が目的の感覚神経線維が走行する領域であると同定する手法である。

0026

(b’)位置が同定された視床後外側腹側核内の目的の感覚神経線維が走行する領域へ電極を挿入する方法および(b’’)目的の感覚神経線維に対応する身体の一部に刺激を加え、目的の感覚神経線維における神経細胞の活動電位を測定し、活動電位が検出された場合に電極が挿入された領域が目的の感覚神経線維が走行する領域であると同定する方法は、以下の方法に限定されないが、例えば次のようにして行うことができる。
まず、電極を視床後外側腹側核内の目的の領域へ刺入するために、頭部固定用の装置に頭部が固定された被験体に麻酔を導入し、頭皮切開および頭蓋骨の除去を行う。これにより、視床後外側腹側核領域の背側に位置する硬膜露出させる。その後、麻酔が代謝・排出された被験体に対して鎮静剤を投与し、鎮静下において、露出した硬膜から視床後外側腹側核内の目的の神経線維が走行する領域へ向けて電極を刺入する。電極は計測装置につながれており、刺入した領域の神経細胞の活動電位を検出することができる。また、電極は、例えばマニュピレーターを使用して、目的の領域を同定する為に特定の間隔(例えば0.5mm〜2mm程度)ごとに、前後方向、内外側方向、および深度方向背腹側方向)に刺入位置をずらしながら刺入する。その際、各刺入位置において電極および計測装置により神経細胞の活動電位を計測した状態で、刷毛等を用いて身体の一部を触り(刺激を加え)、当該身体の一部と電極が刺入された領域に走行している神経線維とが対応していることを確認する。これにより、目的とする身体の一部への刺激に対して活動電位の電気信号が検出される領域を目的の感覚神経線維が走行する領域であると同定することができる。また、刷毛等を用いた刺激は身体の各部分に対して行うことが好ましく、これにより目的とする身体の一部への刺激のみに対して活動電位の電気信号が検出される領域を目的の感覚神経線維のみが走行する領域であると同定することができる。このようにして、特定の身体の一部のみへの刺激に反応する感覚神経線維が走行する領域を同定することにより、異痛症様の症状が目的の身体の一部に限局された非ヒトモデル動物を作成することが可能となる。

0027

また、感覚神経線維が走行している領域は拡がりを有するため、複数点に電極を挿入して神経細胞の活動電位を測定し、当該領域の拡がりを特定することが好ましい。このようにして感覚神経線維が走行している領域の拡がりを特定することで、その特定した領域の内側の領域(好ましくは、中心の領域)に血管障害誘導剤を注入することができる。

0028

電気生理学的手法における頭部の固定方法や麻酔または鎮静剤の導入については、当業者であれば、各被験体のサルの種別、体重等により適宜好ましい方法を選択することができる。頭部の固定には、公知の頭部固定用装置や脳定位固定装置を使用することができる。また、例えば、アカゲザルへの麻酔の導入は、ケタミンの筋肉注射およびペントバルビタール静脈注射により行うことができる。また、アカゲザルに使用する鎮静剤としては、例えば、アトロピンおよびケタミンの組み合わせを使用することができる。

0029

電気生理学的手法に用いられる電極や計測装置についても、感覚神経線維における神経細胞の活動電位を計測できるものであれば限定されず、当業者であれば適宜公知の電極および計測装置を使用することができる。また、電極を視床後外側腹側核内へ刺入する際には、マニュピレーターを使用することで正確に刺入間隔を制御することができ、また刺入箇所を記録しておける点で好ましい。電極の刺入に使用するマニュピレーターは、公知のマニュピレーターや公知の固定装置マイクロマニュピレーター等を使用することができる。
なお、電極の視床後外側腹側核内への刺入の方向は、視床後外側腹側核内へ正しく電極を刺入でき、脳内の他の領域への障害を最小限に留められる限りにおいて、上記の方向に限定されず、よって、頭皮の切開部位および頭蓋骨の除去部位も適宜変更することができる。

0030

上記工程(b)により視床後外側腹側核のうち目的の感覚神経線維が走行する領域を同定した後、(c)同定した目的の感覚神経線維が走行する領域に血管障害誘導剤を注入することにより、当該感覚神経線維に対応する身体に異痛症様の症状を生じさせる。
血管障害誘導剤の注入の方法は、上記工程(b)により同定された領域に対してマイクロシリンジ等を用いて血管障害誘導剤を注入することにより行うことができる。なお、工程(b)の電極の刺入時にマニュピレーターを使用することで、記録されたマイクロシリンジを刺入すべき位置を正確に再現することができ、この点においてマニュピレーターの使用が好ましい。

0031

なお、視床後外側腹側核のうちの目的の感覚神経線維が走行する領域への血管障害誘導剤の注入は、1箇所ではなく、複数個所に対して行うことが好ましい。視床後外側腹側核は前後および背腹側に拡がっているため、一箇所に過剰な薬剤の量を注入してしまうと視床後外側腹側核を超えて、特に内外側方向に隣接した脳領域(内包や視床髄板内核群)に薬剤が拡がることになる。それにより認知、覚醒状態運動機能重篤な障害が生じてしまうと、特に、疼痛を評価するためにふさわしくない。例えば、上肢に異痛症様の症状を生じた非ヒト霊長類モデル動物を作成する場合には、視床後外側腹側核のうち、上肢に関わる感覚神経線維が走行する領域全体に薬剤が分布するように血管障害誘導剤を注入することが好ましい。

0032

目的とする感覚神経線維が走行する領域全体に血管障害誘導剤を注入するには、電気生理学的手法により特定された領域の形状を考慮して、脳の前後方向、内外方向、または背腹側方向に1mm〜3mmの間隔を空けて複数個所に血管障害誘導剤を注入すればよい。各注入箇所における血管障害誘導剤の注入量は等量であることが好ましいが、これに限定されない。例えば、脳の前後方向および背腹側方向に広がる領域に対して脳の背側から薬剤を注入する場合、前後方向に上記の間隔を空けて複数箇所にマイクロシリンジを刺入し、それぞれの刺入箇所において、刺入深度方向(背腹側方向)に上記の間隔を空けて複数個所に注入すればよい。また、注入箇所の数については、被験体ごとの目的とする領域の大きさ、上記の好ましい間隔の範囲、血管障害誘導剤の注入量および注入後の浸透範囲を考慮して適宜選択することができる。

0033

血管障害誘導剤は、使用する薬剤や注入量にもよるが、例えば、コラゲネースIVを4μl程度注入した際に視床後外側腹側核内において注入箇所より半径1mm程度浸透すると考えられる。この薬剤注入後の拡がりを考慮して、目的の感覚神経線維が走行していると特定した領域内のみに薬剤が拡がるように、1箇所または複数個所において血管障害誘導剤を注入することが好ましい。これにより、目的の感覚神経線維が走行する領域を超えて、血管障害誘導剤が浸透しないように調節することができる。

0034

また、血管障害誘導剤の注入は、所望する異痛症の症状発症部位により適宜設定することができ、右脳または左脳のいずれか一方または両方に血管障害誘導剤を注入することができる。また、1種または複数種(例えば、上肢に関する感覚神経線維と下肢に関する感覚神経線維の組み合わせ等)の感覚神経線維が走行する領域に血管障害誘導剤を注入することができる。所望する障害とは、例えば、上下肢のうち一肢のみにおける異痛症様の症状、身体の同側の上下肢における異痛症様の症状、または、身体の両側上下肢における異痛症様の症状等を挙げることができる。

0035

なお、本発明において好適に使用されるエンドセリン-1の注入量は、各注入箇所において、それぞれ2〜16μlの範囲で注入することが好ましく、4〜8μlの範囲で注入することがより好ましい。2μlよりも少ないと目的とする身体の一部に異痛症様の症状を引き起こすことができず、また、16μlよりも多いと目的の感覚神経線維が入力する領域または視床後外側腹側核を超えて隣接した脳領域(内包や視床髄板内核群)に拡がってしまう。また、エンドセリン-1の各注入箇所の合計である注入総量は、4〜64μlの範囲とすることが好ましく、8〜32μlの範囲で注入することがより好ましい。4μlよりも少ないと目的とする身体の一部に異痛症様の症状を引き起こすことができず、また、64μlよりも多いと隣接脳領域の損傷により目的とする身体の一部以外への部分における異痛症様の症状の発症やその他の機能障害が生じる。また、本発明において好適に使用されるコラゲネースIVの注入量は、各注入箇所において、それぞれ1〜8μlの範囲で注入することが好ましく、2〜4μlの範囲で注入することがより好ましい。また、コラゲネースIVの各注入箇所の合計である注入総量は、2〜32μlの範囲とすることが好ましく、4〜16μlの範囲で注入することがより好ましい。なお、コラゲネースIVの上記範囲外の投与は、エンドセリン-1と同様の結果を招くため好ましくない。

0036

上記のようにして作成された視床痛を有する非ヒト霊長類モデル動物において、視床後外側腹側核内の損傷の状態は、例えば、核磁気共鳴画像法により確認することができる。血管障害誘導剤の注入直後では、核磁気共鳴画像法によるT1強調画像においてマイクロシリンジ等の刺入跡を確認することができる。核磁気共鳴画像法による血管障害誘導剤の注入位置の確認は、例えば、血管障害誘導剤の注入時から数日経過するまでに確認することができる。
また、血管障害誘導剤の注入により生じた脳損傷の経時的変化についても、例えば、核磁気共鳴画像法により評価することが可能である。血管障害誘導剤の注入により生じた血管障害の部分は、核磁気共鳴画像法のT2強調画像において、T2高信号として検出することができる。また、T2強調画像を三次元再構築させることにより、浮腫や梗塞等の血管障害が生じている部分の体積を測定することが可能である。これにより、経時的に血管障害が生じている部分の体積の変化を評価することも可能となる。

0037

また、上記のようにして作成された視床痛を有する非ヒト霊長類モデル動物の脳損傷部位は、組織学的解析によっても評価することができる。具体的には、被験体を犠死させた後、被験体の脳より視床後外側腹側核を含む部分を摘出する。その後、視床後外側腹側核を含む部分の切片を作成し、ニッスル染色等により損傷部位を評価することができる。

0038

また、上記のようにして作成された視床痛を有する非ヒト霊長類モデル動物において、目的の身体の一部に異痛症様の症状を評価するためには、例えば、ホットコールドプレートテストのような温度刺激に対する逃避行動の評価や、Von Freyテストのような機械刺激に対する逃避行動の評価等の痛覚感受性のテストを行うことができる。また、これ以外にも、当業者であれば公知の方法より適宜、選択または設計することで異痛症様の症状の評価を行うことができる。
なお、ホット・コールドプレートテストは、例えば、45度〜55度の高い温度、5度〜10度の低い温度、または、37度の基準温度にそれぞれ設定されたプレートに被験体の異痛症様が生じた身体の部位を接触させ、それぞれのプレートから逃避反応を示すまでの時間を計測することにより行うことができる。テスト結果の評価は、例えば、基準温度における逃避反応時間に対する高い温度における逃避反応時間の比の値を比べることにより評価することができる。比較対象としては、例えば、脳損傷前と血管障害誘導剤注入による脳損傷後との比較、または患側の身体の一部と健側の身体の同じ部位との比較等を挙げることができる。また当業者であれば、温度設定や評価方法等、適宜設計して行うことができる。
また、Von Freyテストは、被験体の異痛症様が生じた身体の部位にプラスチックナイロン等のフィラメントを押し当てて機械刺激強度を少しずつ加えていき、逃避反応を示したときの機械刺激強度を閾値として測定する。例えば、患側の身体の一部における閾値と健側の身体の同じ部位の閾値を比較することで、異痛症様の症状を評価することができる。

0039

また、本発明の視床痛を有する非ヒト霊長類モデル動物に対しては、脳の血流動態や神経細胞の電気活動可視化する脳機能イメージングにより脳内の活性を画像化することができる。脳機能イメージングとしては、機能的核磁気共鳴画像法(機能的MRI;functional magnetic resonance imaging)やポジトロン断層法、脳電図脳磁図等を挙げることができる。脳機能イメージングの各種方法のうち、異痛症様の症状に対する脳内活動の変化を測定するには、機能的MRIを好適に使用することができる。機能的MRIの使用方法としては、例えば、鎮静剤により鎮静化した被験体の頭部を頭部固定装置を用いて固定し、その状態で機能的MRIにより頭部を測定することで、被験体の脳内活動を画像化することができる。この際、被験体の異痛症様の症状が生じている身体の一部へ温度刺激を加えることにより、温度刺激に対する脳内活動の強度および領域を測定することが可能である。

0040

また、本発明の別の態様によれば、上記の方法で作成される視床痛を有する非ヒト霊長類モデル動物に対して被験物質を投与することにより、視床痛を治療するための治療薬をスクリーニングする方法を提供する。すなわち、本発明の視床痛を有する非ヒト霊長類モデル動物は視床痛を有するヒト患者と同一または類似の病態を示すため、当該非ヒト霊長類モデル動物に被験物質を投与して当該症状の改善のために使用できる物質をスクリーニングすることが可能である。

0041

上記被験物質は、視床痛の改善に有効な効果を示す候補物質となり得る化合物であれば特に限定されない。また、上記被験物質は、動物、植物、または微生物等由来の天然化合物であってもよく、合成化合物であってもよい。
被験物質を非ヒト霊長類モデル動物へ投与する方法は、静脈内、皮下内、腹腔内、筋肉内等への注射もしくは点滴経口投与、または経皮投与等、公知の方法から適宜選択することができる。

0042

また、本発明の別の態様によれば、上記の方法で作成される視床痛を有する非ヒト霊長類モデル動物に対してリハビリテーションを行うことにより、当該リハビリテーションによる視床痛の改善を評価することができる。
ここで、リハビリテーションとは、視床痛による疼痛の改善または予防を目的とした訓練を意味し、特に身体的訓練を意味するが、これに限定されない。身体的訓練とは、例えば、脳損傷後に適切な感覚入力を伴うような課題等を行わせることであり、身体的訓練の前後で疼痛が抑制されるか否かを評価することができる。
このようにして本発明の視床痛を有する非ヒト霊長類モデル動物を用いることで、視床痛の改善により適したリハビリテーションを見出すことが可能となる。
なお、リハビリテーションは、視床痛を治療するための治療薬の投与と併用して行うこともできる。

0043

上記のスクリーニング方法における候補物質の評価の方法およびリハビリテーションにおける評価の方法は、温度刺激や機械刺激による逃避行動の評価、機能的MRIによる脳内活動の評価、核磁気共鳴画像法による脳内の画像化による評価、視床後外側腹側核領域の物理的な摘出による解析等、適宜好ましい方法を用いることができる。

0044

また、本発明の視床痛を有する非ヒト霊長類モデル動物は、上記に挙げる視床痛の治療薬のスクリーニング方法、視床痛を有する患者への適切なリハビリテーション作成のための評価方法の他、脳外科的治療法の評価等、視床痛の治療方法の開発に供試することができる。これらの治療方法の開発においても、上記に挙げた温度刺激や機械刺激による逃避行動の評価、機能的MRIによる脳内活動の評価、核磁気共鳴画像法による脳内の画像化による評価、視床後外側腹側核領域の物理的な摘出による解析の他、当業者により適宜好ましい方法により視床痛の回復過程等を評価することができる。

0045

なお、本明細書における「含む」の用語は、本明細書の記載から明らかに異なる解釈をすべき場合を除き、記述された事項(工程、要素など)が存在することを意図し、かつ、それ以外の事項(工程、要素など)が存在することを排除するものではない。

0046

また、本明細書に用いられる用語は、異なる定義が無い限り、本発明が属する技術の当業者によって広く理解されるのと同じ意味を有する。ここに用いられる用語は、異なる定義が明示されていない限り、本明細書及び関連技術分野における意味と整合的な意味を有するものとして解釈されるべきであり、理想化され、又は、過度形式的な意味において解釈されるべきではない。

0047

以下において、本発明を、実施例を参照してより詳細に説明する。しかしながら、本発明はいろいろな態様により実施することができ、ここに記載される実施例に限定されるものとして解釈されてはならない。

0048

視床後外側腹側核(視床VPL)を含む脳領域に脳卒中を生じると疼痛症状が多く生じることが知られているため、マカクザルの一種であるアカゲザルを対象として、視床VPLのうち上肢の神経線維が走行する領域に限局的な脳出血を作成した。なお、以下の実施例では、右脳の視床VPLに限局的な脳出血を起こし、対側となる左手に異痛症様の症状を生じさせた。
より詳細には、まず、被験動物であるアカゲザルに対して、ケタミン、メデトミジン、およびミダゾラムを筋肉注射することにより麻酔を導入したのち、ステレオタキシックフレームに頭部を固定した。アカゲザルの脳内における視床VPLの位置を特定するために核磁気共鳴画像法(MRI)を用いてT1およびT2強調画像撮影を行うことにより麻酔下にあるアカゲザルの脳内を画像化した。頭部の画像は前額断面で撮影し、画像解析プログラム(Brain Explorer;田圭司制作)を用いて三次元再構成を行った。三次元再構成後の画像より、アカゲザルの脳内における視床VPLの位置を同定した。具体的には、テキスト(Kadharbatcha S. Saleem and Nikos K. Logothetis; A Combined MRI and Histology Atlas of the Rhesus Monkey Brain in Stereotaxic Coordinates, Academic Press, 2006)を参考にし、前後軸としては被殻後端、さらに外側膝状体が大きく見える断面を基準として、外側膝状体の内背側に位置する背側視床の最も腹外側に位置する核を視床VPLとして同定した。
なお、視床VPLは2〜3mm程度の拡がりを持った小さな領域であること、また細胞密度が低く、脳溝など明らかな目印がないためにMRIでの確認が難しい領域である。特に、MRIでは、視床VPLのうち、特定の神経線維が走行する領域を同定することは困難である。よって、MRIに加えて、電気生理学的手法を用いて神経活動を記録し、視床VPLの位置の同定を行った。視床VPLは触覚の中継核であるため、触覚により誘発される神経活動を測定することで当該神経活動が検出された位置を視床VPLのうち、特定の身体の部分に対応する神経線維と同定することができる。具体的には下記のようにして行った。ステレオタキシックフレームに頭部が固定されたアカゲザルに対して、ケタミンの筋肉注射およびペントバルビタールの静脈注射をすることにより麻酔を導入した。麻酔下において、当該視床VPL領域の背側周辺の頭皮を切開し、頭蓋骨を除去することにより、大脳領域を覆う硬膜を露出させた。後日、アトロピンおよびケタミンによる鎮静下において、露出した硬膜の背側から、タングステン電極(Microprobe社)を視床VPL領域と思われる領域へ刺入した。電極の刺入中は、神経の活動電位を計測装置(プレアンプ、JH-110J、日本光電アンプ、MEG-5100、日本光電;オシロスコープVC-6723A、日立製作所;スピーカーBSPKMA01SVA、Buffalo)により計測した。マニュピレーター(SM-11、成茂科学器械研究所)をもちいて、1mmごとに電極の刺入位置を、前後方向、内外側方向および、深度(背腹側方向)方向にずらしながら活動電位を計測した状態で、刷毛を用いて体の各部位を触り、刺激を加えた。その際、手への触覚刺激にのみ同期した神経活動を示す領域を、視床VPLにおいて上肢に関する神経繊維が走行する領域であると同定した。
上記の電気生理学的手法により視床VPLにおける手に関する神経線維が走行する領域を同定したのち、血管破壊作用を持つタンパク分解酵素であるコラゲネースIV(200U/ml、1箇所につき4μlを注入、被験体により1〜4箇所に注入(計4〜16μl))を、マイクロシリンジ((イトーマイクロシリンジMS−N10、外径0.52mm、内径0.18mm、伊製作所))を用いて当該領域に注入した。

0049

コラゲネースIVの注入より1日目、4日目、1週間後、2週間後、1ヶ月後、および3カ月後の被験体の脳内を核磁気共鳴画像法(MRI)により撮影し、T2強調画像(T2−MRI)として画像化した(図1)。T2−MRI画像において、コラゲネースIV注入後に視床VPLに血腫とみられる組織の空白領域(T2高信号領域)が見られた(図1の矢印)。コラゲネースIV注入後一週間程度は視床VPL周囲の領域にもT2の高信号領域が見られた。この視床VPL周囲のT2高信号領域は浮腫による二次的なダメージを示していると考えられ、このT2高信号領域はコラゲネースIV注入2週間後にはほぼ消滅し、視床VPLと思われる領域に限局したT2高信号領域が残った。また、コラゲネースIVの注入より3カ月の脳内のT2−MRI画像は、視床VPLに限局した損傷を有することを示す(図2)。

0050

また、損傷した視床VPLの領域について組織学的解析を行うため、コラゲネースIVの注入より3カ月経過した被験体を犠死させ、被験体の脳より視床VPL領域を摘出した。摘出した脳は、吻側から尾側へ向けて前額断面に切断し切片を作成した。作成された切片に対して、すべての細胞を染色するニッスル染色を用いた組織学的解析を行った。その結果、視床VPL内に2mm程度の拡がりを持つ限局した損傷が作成されていることが示された(図3b)。また、損傷領域は正常なニューロンが欠落し、小型の細胞の増加が見られた。

0051

また、コラゲネースIV注入による視床VPL内の手に関する神経線維が走行する領域の損傷後に、異痛症の症状の有無を検証する行動テストを行った。なお、異痛症とは、上述したように、本来は痛くない触覚刺激を痛み(疼痛)と感じる症状である。
コラゲネースIVの注入による損傷に起因した疼痛の発生を検証するために、2つの行動学的テストをコラゲネースIV注入の前後に行った。ホットプレートテストでは、37度を基準としてそれよりも高い温度(45〜55度)に設定したプレートの上にサルの手を置き、逃避反応を示すまでの時間を計測した。37度の温度刺激に対する逃避反応時間に対する50度の温度刺激に対する逃避反応時間の比について、経時的にプロットした結果を図4に示す。その結果、コラゲネースIV注入による視床VPLの損傷から2週後以降において、被験体の左手(患側)における試験では50度の温度刺激に対してより早く逃避反応を示し始め、右手(健側)の試験結果に対して有意に差が生じた(図4)。次に、疼痛患者において用いられるVon Freyテストを行った。Von Freyテストは、プラスチック製のフィラメントを手にあてて、フィラメントによる圧力(機械刺激)を被験体の手に対して加えていき、逃避反応を示した時の機械刺激強度の閾値を測定する手法である。Von Freyテストにおいても、コラゲネースIV注入より2週後以降において、左手(患側)への刺激に対して逃避反応を示す機械刺激強度の閾値が有意に減弱する時期が見られた(図5)。これらの行動学的テストの結果から、コラゲネースIVを注入した右脳とは対側の左手(患側)に温度および触覚刺激の両方に対する異痛症が生じたことが示唆される。

実施例

0052

次に、機能的MRIを用いて、コラゲネースIV注入による視床VPLの損傷後に脳活動の変化が生じるかを検証した。具体的には、損傷後3カ月経過した時点で、プロポフォールによる鎮静下のサルの頭部をステレオタキシックフレームに固定した。MRIのガントリーにサルの上半身に入れ、機能的MRIの撮像を開始した。この状態で、37度または50度に加熱した温感ジェルレンジでゆたぽん(登録商標)、白元)をサルの手に触れさせることで、温度刺激を与えた。
図6は、37度の温度刺激を与えた場合の脳内活動と比べて50度の温度刺激を与えた場合の脳内活動が有意に高い領域をMRI画像中に示している。その結果、右手(健側)および左手(患側)の両方において、37度の温度刺激が与えられた際の脳内活動に対して50度の温度刺激が与えられた際の脳内活動が有意に高い領域を確認することができた。とりわけ、左手(患側)においては、50℃の温度刺激を与えた場合に、第一次および第二次体性感覚野や、島皮質など、疼痛患者において異常興奮が生じることが知られている脳領域に、37℃の温度刺激を与えた場合と比べて有意に高い活動が見られた(図6)。一方、右手(健側)においては、第一次および第二次体性感覚野や、島皮質などの領域において高い活動は観察されなかった。また、図6において右手(健側)の画像は信号がオレンジで表示されており、左側(患側)の画像は信号が赤で表示されている。これは、右手(健側)と比較して、左手(患側)に温度刺激を加えた際により強い脳内活動の差が生じていたことを示す。これらの結果より、上記実施例で作成されたモデル動物は、異痛症の症状に伴って、疼痛患者と同様の異常な脳の過活動が生じていると考えられる。

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