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技術 高Cr系CSFE鋼のタンデムサブマージアーク溶接方法

出願人 株式会社神戸製鋼所
発明者 井海和也山下賢
出願日 2014年7月18日 (6年5ヶ月経過) 出願番号 2014-147998
公開日 2016年2月8日 (4年10ヶ月経過) 公開番号 2016-022504
状態 特許登録済
技術分野 アーク溶接一般
主要キーワード チップ角度 後退角α 電源極 化学反応容器 電源特性 ベント角 火力発電ボイラ ベンド角
関連する未来課題
重要な関連分野

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図面 (12)

課題

Cr系CSFE鋼のタンデムサブマージアーク溶接において、溶接能率に優れるとともに、スラグ剥離性およびビードの状態が良好であり、溶接金属高温割れの発生を抑制できる溶接方法を提供する。

解決手段

高Cr系CSEF鋼のタンデムサブマージアーク溶接方法は、先行極ワイヤ給速度VLを45〜90g/min、後行極のワイヤ送給速度VTを60〜110g/min、溶接速度vを30〜55cm/min、単位長当り溶着量を2.8〜3.8g/cmとする条件で溶接することを特徴とする。

概要

背景

火力発電ボイラタービン脱硫改質重油分解)用の化学反応容器リアクタ)は、高温高圧運転されるため、材料としては、1.25Cr−0.5Mo鋼、2.25Cr−1.0Mo鋼、2.25Cr−1.0Mo−V鋼などが適用されている。近年、重油の有効利用や石油精製において、さらなる高能率化が求められており、8質量%以上のCrを含有する高Cr系CSEF鋼の適用が検討されている。高Cr系CSEF鋼には、ASTM(American Society for Testing and Materials:米国材料試験協会)規格やASME(American Society of Mechanical Engineers:米国機械協会)規格に規定されるSA387Gr.91、SA213Gr.T91等がある。

火力発電ボイラやタービン、リアクタは、鍛造リングパイプ曲げ加工鋼板を適宜組み合わせて溶接される。ちなみに鍛造リングは、板厚150〜450mm、最大外径7m弱、全長数〜数十mにもなる。火力発電ボイラやタービン、リアクタの溶接方法としては、被覆アーク溶接TIG溶接サブマージアーク溶接が用いられる。この中でもサブマージアーク溶接は、他溶接方法と比較して高能率であることから多用されている溶接方法である。また、さらなる高能率化に対しては、タンデム電極でサブマージアーク溶接する方法がある。しかし高Cr系CSEF鋼のタンデムサブマージアーク溶接は、高温割れの課題がある。そこで、サブマージアーク溶接における高温割れを抑制し、溶接の高能率化を図る技術としては、以下のような技術が開示されている。

例えば、特許文献1には、開先幅が10〜25mm、開先角度が15度以下である狭開先をサブマージアーク溶接により1層1パスで溶接するに当たり、先行電極として1.6〜3.2mmφの電極を、又後行電極として4.0〜4.8mmφの電極を夫々使用すると共に、電極間距離を50〜150mmとし、焼結型フラックスを用いて溶接することを特徴とするナロウギャップサブマージアーク溶接方法が開示されている。
この溶接方法では、タンデム溶接で電極間距離を50〜150mmとすることで、ビード形状比(ビード深さH/ビード幅W)を抑えている。その際、先行電極のワイヤ径を1.6〜3.2mmφ、後行電極のワイヤ径を4.0〜4.8mmφとしている。これにより、高温割れの発生を抑制している。

概要

高Cr系CSFE鋼のタンデムサブマージアーク溶接において、溶接能率に優れるとともに、スラグ剥離性およびビードの状態が良好であり、溶接金属の高温割れの発生を抑制できる溶接方法を提供する。 高Cr系CSEF鋼のタンデムサブマージアーク溶接方法は、先行極ワイヤ給速度VLを45〜90g/min、後行極のワイヤ送給速度VTを60〜110g/min、溶接速度vを30〜55cm/min、単位長当り溶着量を2.8〜3.8g/cmとする条件で溶接することを特徴とする。なし

目的

本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その課題は、高Cr系CSFE鋼のタンデムサブマージアーク溶接において、溶接能率に優れるとともに、スラグ剥離性およびビードの状態が良好であり、溶接金属の高温割れの発生を抑制できる溶接方法を提供する

効果

実績

技術文献被引用数
0件
牽制数
0件

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請求項1

先行極ワイヤ給速度VLを45〜90g/min、後行極のワイヤ送給速度VTを60〜110g/min、溶接速度vを30〜55cm/min、単位長当り溶着量を2.8〜3.8g/cmとする条件で溶接することを特徴とする高Cr系CSEF鋼のタンデムサブマージアーク溶接方法。

技術分野

0001

本発明は、サブマージアーク溶接方法に関し、より詳しくは、高Cr系CSEF(Creep strength-Enhanced Ferritic:クリープ強度強化フェライト)鋼のタンデムサブマージアーク溶接方法に関する。

背景技術

0002

火力発電ボイラタービン脱硫改質重油分解)用の化学反応容器リアクタ)は、高温高圧運転されるため、材料としては、1.25Cr−0.5Mo鋼、2.25Cr−1.0Mo鋼、2.25Cr−1.0Mo−V鋼などが適用されている。近年、重油の有効利用や石油精製において、さらなる高能率化が求められており、8質量%以上のCrを含有する高Cr系CSEF鋼の適用が検討されている。高Cr系CSEF鋼には、ASTM(American Society for Testing and Materials:米国材料試験協会)規格やASME(American Society of Mechanical Engineers:米国機械協会)規格に規定されるSA387Gr.91、SA213Gr.T91等がある。

0003

火力発電ボイラやタービン、リアクタは、鍛造リングパイプ曲げ加工鋼板を適宜組み合わせて溶接される。ちなみに鍛造リングは、板厚150〜450mm、最大外径7m弱、全長数〜数十mにもなる。火力発電ボイラやタービン、リアクタの溶接方法としては、被覆アーク溶接TIG溶接サブマージアーク溶接が用いられる。この中でもサブマージアーク溶接は、他溶接方法と比較して高能率であることから多用されている溶接方法である。また、さらなる高能率化に対しては、タンデム電極でサブマージアーク溶接する方法がある。しかし高Cr系CSEF鋼のタンデムサブマージアーク溶接は、高温割れの課題がある。そこで、サブマージアーク溶接における高温割れを抑制し、溶接の高能率化を図る技術としては、以下のような技術が開示されている。

0004

例えば、特許文献1には、開先幅が10〜25mm、開先角度が15度以下である狭開先をサブマージアーク溶接により1層1パスで溶接するに当たり、先行電極として1.6〜3.2mmφの電極を、又後行電極として4.0〜4.8mmφの電極を夫々使用すると共に、電極間距離を50〜150mmとし、焼結型フラックスを用いて溶接することを特徴とするナロウギャップサブマージアーク溶接方法が開示されている。
この溶接方法では、タンデム溶接で電極間距離を50〜150mmとすることで、ビード形状比(ビード深さH/ビード幅W)を抑えている。その際、先行電極のワイヤ径を1.6〜3.2mmφ、後行電極のワイヤ径を4.0〜4.8mmφとしている。これにより、高温割れの発生を抑制している。

先行技術

0005

特開昭60−177966号公報

発明が解決しようとする課題

0006

しかしながら、従来の技術においては以下の問題がある。
特許文献1において、実施例に記載されている溶接用ソリッドワイヤは、軟鋼である。高クロム鋼共材で構成された溶接用ソリッドワイヤは軟鋼と共材で構成された溶接用ソリッドワイヤと比較し、ジュール発熱が大きいため、溶着量が大きくなり高温割れの感受性が高まる。つまり、特許文献1に記載の方法のみで、高Cr系CSEF鋼の溶接における高温割れについての解決することは難しい。また、先行の電極で形成したスラグが、後行の電極で十分溶融しきれないリスクもあり、リアクタの周溶接のような高品質を要求される箇所に適さない。

0007

また、厚板を高能率で溶接するためには、溶接入熱を上げる、すなわち、溶接電流アーク電圧を高め、溶接速度を低めにすることが有効である。しかし、溶接入熱を上げると、特に狭開先ではビード形状がなし型となりやすく、高温割れの発生リスクが高まる。ここで問題となる高温割れは、溶接金属中に含まれるP、S、Si、Nbによる低融点化合物凝固時にデンドライト間やオーステナイト結晶粒界偏析し、溶接収縮ひずみが加わって発生するいわゆる凝固割れである。
そのため、高温割れの抑制策として、溶接材料化学成分調整、具体的には、P、S等の不純物超高純度(Extra High Purity)溶解で100ppm以下に抑えることも効果的である。しかしながら、超高純度溶解は、電子ビーム溶解や専用の特殊炉壁耐火材を使わざるを得ないことから経済的に難点がある。このため、一般的な不純物レベルでも、高温割れの発生を抑制できる技術が求められている。

0008

さらに、高Cr系CSEF鋼のサブマージアーク溶接は、ワイヤの主要成分にも高温割れを引き起こす原因がある。すなわち、高Cr系CSEF鋼と共材で構成されたサブマージアーク溶接用ソリッドワイヤは、従来使用されていた1.25Cr−0.5Mo,2.25−Cr−1.0Mo,2.25Cr−1.0Mo−V鋼と共材で構成された各ソリッドワイヤと比較し、ジュール発熱が高く、溶着量が大きい。さらに、その溶接金属は1.25Cr−0.5Mo,2.25Cr−1Mo,2.25Cr−1Mo−V鋼ワイヤのものと比較して、凝固収縮量が大きい。すなわち、高Cr系CSEF鋼のサブマージアーク溶接では、単に溶接材料の化学成分調整だけでは高温割れの抑制が困難である。
また、タンデムサブマージアーク溶接では、溶接能率の向上に加え、良好なスラグ剥離性や、ビードの状態が良好であることも求められる。

0009

本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その課題は、高Cr系CSFE鋼のタンデムサブマージアーク溶接において、溶接能率に優れるとともに、スラグ剥離性およびビードの状態が良好であり、溶接金属の高温割れの発生を抑制できる溶接方法を提供することにある。

課題を解決するための手段

0010

本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、ワイヤの送給速度、溶接速度、両者の比で算出される単位長当りの溶着量を規定することにより、高温割れの発生を抑制できることを見出した。

0011

すなわち、本発明に係る高Cr系CSEF鋼のタンデムサブマージアーク溶接方法は、先行極のワイヤ送給速度VLを45〜90g/min、後行極のワイヤ送給速度VTを60〜110g/min、溶接速度vを30〜55cm/min、単位長さ当りの溶着量を2.8〜3.8g/cmとする条件で溶接することを特徴とする。

0012

かかる溶接方法によれば、高Cr系CSEF鋼のタンデムサブマージアーク溶接方法(以下、適宜、サブマージアーク溶接方法あるいは、単に溶接方法という)は、ワイヤの送給速度、溶接速度、単位長さ当りの溶着量を規定することにより、溶接能率、ビードの状態およびスラグ剥離性が向上するとともに溶接金属の高温割れの発生が抑制される。

発明の効果

0013

本発明の高Cr系CSEF鋼のタンデムサブマージアーク溶接方法は、高Cr系CSEF鋼の溶接において、溶接能率に優れるとともに、ビードの状態が良好であり、スラグ剥離性、耐高温割れ性に優れた溶接金属を得ることができる。

図面の簡単な説明

0014

本発明の溶接方法における先行極と後行極の状態を示す正面図である。
本発明の溶接方法における溶接チップの形状を示す正面図である。
図2に示す溶接チップの側面図である。
図2に示す溶接チップのチップ先端部側の端面図である。
本発明の溶接方法における溶接チップの状態を示す正面図である。
本発明の溶接方法における溶接チップの状態を示す正面図である。
本発明の溶接方法における溶接チップの状態を示す正面図である。
本発明の溶接方法における溶接チップの状態を示す正面図である。
本発明の溶接方法における溶接チップの状態を示す正面図である。
本発明の溶接方法における溶接チップの状態を示す正面図である。
実施例で用いた試験体および溶接金属の積層状態を示す断面図である。
実施例で用いた試験体および溶接金属の積層状態を示す断面図である。

0015

以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明の溶接方法は、高Cr系CSEF鋼のタンデムサブマージアーク溶接方法である。タンデムサブマージアーク溶接方法とは、例えば図1に示すように、高Cr系CSEF鋼で構成された母材10を、ワイヤ12a、12bがそれぞれ内挿された溶接チップ11a、11bと、図示しない溶接フラックスを用いてアーク溶接で溶接する方法である。すなわち、本発明の溶接方法は、図1に示すように、先行極15aおよび後行極15bの2電極で溶接するものである。
なお、図2〜10は先行極あるいは後行極を示しており、便宜上、これらをまとめて図示している。

0016

本発明の溶接方法は、母材(被溶接材)として高Cr系CSEF鋼を対象とするものである。高Cr系CSEF鋼には、各種の規格があり、例えば、ASTM規格やASME規格に規定されたSA387Gr.91、Gr.122、Gr.92、Gr.911およびSA213Gr.T91、EN規格に規定されたX10CrMoVNb9−1、並びに火力技術規準に規定された火SFAF28、火SFVAF29、火STBA28、火STPA28、火SCMV28がある。なお、高Crとは、Cr含有量が8質量%以上のものをいう。

0017

好ましい母材の化学成分としては、C、Si、Mn、P、S、Ni、Cr、Mo、V、Nb、Al、Ti、Zr、Nを所定量含有し、残部がFeおよび不可避的不純物である。あるいはさらに、所定量のCuを含有してもよい。なお、母材の各成分含有量は、母材全体に対するものである。

0018

具体的には、C:0.08〜0.12質量%、Si:0.20〜0.50質量%、Mn:0.30〜0.60質量%、P:0.020質量%以下、S:0.010質量%以下、Ni:0.40質量%以下、Cr:8.00〜9.50質量%、Mo:0.85〜1.05質量%、V:0.18〜0.25質量%、Nb:0.06〜0.10質量%、Al:0.02質量%以下、Ti:0.01質量%以下、Zr:0.01質量%以下、N:0.030〜0.070質量%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物である。さらに、Cu:0.06質量%以下含有してもよい。

0019

高温割れの発生を抑制する手法の一つとして、入熱を制限するという手法がとられる。しかしながら、溶接電流やアーク電圧は、ワークの状態、通電点などの溶接環境により、ワイヤの溶融に使われるエネルギーが変わってしまう傾向がある。すなわち、同じ入熱で溶接しても、高温割れの発生の有無に差が生じる。そこで、本発明者らは、ワイヤの送給速度、溶接速度、単位長さ当りの溶着量を規定することにより、その課題を解決した。

0020

すなわち、本発明の溶接方法は、高Cr系CSEF鋼のタンデムサブマージアーク溶接方法であって、先行極のワイヤ送給速度VLを45〜90g/min、後行極のワイヤ送給速度VTを60〜110g/min、溶接速度vを30〜55cm/min、単位長さ当りの溶着量を2.8〜3.8g/cmとする条件で溶接することを特徴とする。以下に各条件の数値限定理由について説明する。

0021

<ワイヤの送給速度:先行極のワイヤ送給速度VLが45〜90g/min、後行極のワイヤ送給速度VTが60〜110g/min>
先行極のワイヤの送給速度が45g/min未満、または、後行極のワイヤ送給速度が60g/min未満では、溶接電流が小さすぎてアークが不安定となり、溶込不良が発生する。一方、先行極のワイヤの送給速度が90g/minを超える、または、後行極のワイヤ送給速度が110g/minを超えると、溶着量が多すぎて高温割れが発生すると共に、スラグ剥離性も劣化する。よって、ワイヤ送給速度は、先行極のワイヤ送給速度VLを45〜90g/min、後行極のワイヤ送給速度VTを60〜110g/minとする。

0022

先行極のワイヤ送給速度は、溶込不良の発生をより抑制する観点から、好ましくは50g/min以上、より好ましくは55g/min以上である。また、高温割れの発生、スラグ剥離性の劣化をより抑制する観点から、好ましくは85g/min以下、より好ましくは80g/min以下である。後行極のワイヤ送給速度は、溶込不良の発生をより抑制する観点から、好ましくは65g/min以上、より好ましくは70g/min以上である。また、高温割れの発生、スラグ剥離性の劣化をより抑制する観点から、好ましくは105g/min以下、より好ましくは100g/min以下である。

0023

ワイヤの送給速度について、先行極のワイヤ送給速度の範囲と、後行極のワイヤ送給速度の範囲とを比較すると、先行極のワイヤ送給速度の範囲のほうが小さめである。ここで、先行極による溶接金属量と後行極による溶接金属量は、先行極によるものと後行極によるものとで等分にするより、先行極による溶接金属量が少なめとなることで、ビード深さを小さく、ビード幅を大きくできる。このため、高温割れに対し有利となる。したがって、ワイヤの送給速度は、「先行極VL<後行極VT」が好ましい。

0024

<溶接速度v:30〜55cm/min>
溶接速度が30cm/min未満では、溶着量が多すぎて高温割れが発生する。一方、溶接速度が55cm/minを超えると、溶融金属の供給が間に合わず、ビード形状が不安定となって、融合不良やスラグ巻き込みが発生する。よって、溶接速度vは30〜55cm/minとする。溶接速度は、高温割れの発生をより抑制する観点から、好ましくは35cm/min以上である。また、ビード形状安定化と融合不良・スラグ巻込み防止の観点から、好ましくは50cm/min以下である。なお、溶接速度とは、図1に示すように、溶接機の溶接チップ11a、11bの溶接方向への移動速度である。

0025

<単位長さ当りの溶着量:2.8〜3.8g/cm>
単位長さ当りの溶着量は、「ワイヤの送給速度/溶接速度」により計算される。すなわち、単位長さ当りの溶着量は、ワイヤの送給速度と溶接速度との比で求める。なお、ワイヤの送給速度は、先行極のワイヤ送給速度と、後行極のワイヤ送給速度との合計である。
本発明のポイントはこの単位長さ当りの溶着量を適切に制御することである。単位長さ当りの溶着量が2.8g/cm未満では、溶着量が少なすぎて溶接能率が悪化する。一方、単位長さ当りの溶着量が3.8g/cmを超えると、収縮に伴う力が大きくなる。また、ビードの形状は、なし形に近くなるため、溶接金属の凝固方向がビード中央に向かって水平になり、収縮力のかかる方向が最終凝固部に対し垂直となる。そのため、高温割れが発生しやすくなる。よって、単位長さ当りの溶着量は2.8〜3.8g/cmとする。単位長さ当りの溶着量は、溶接能率をより向上させる観点から、好ましくは2.9g/cm以上、より好ましくは3.0g/cm以上である。また、高温割れの発生をより抑制する観点から、好ましくは3.7g/cm以下、より好ましくは3.6g/cm以下である。

0026

本発明の溶接方法は、前記溶接条件の規定に加えて、所定の溶接ワイヤと、所定の溶接フラックスとを組み合わせて使用することが好ましい。具体的には、溶接ワイヤは、C、Si、Mn、P、S、Ni、Cr、Mo、V、Nb、Nを所定量含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、所定のワイヤ径を有するものである。また、溶接ワイヤは、母材成分に左右されるものではないが母材同等の機械性能を有することが好ましい。このため、ワイヤには、適宜、Cu、B、W、Coを所定量含有してもよい。また、溶接フラックスは、CaF2、CaO、MgO、Al2O3、SiおよびSiO2を所定量含有し、所定の塩基度をもったものである。なお、溶接ワイヤの成分は、高Cr系のCSEF鋼であれば、特に限定されるものではない。一方、溶接フラックスは、溶接作業性に影響を及ぼすため、後述する成分範囲のものを使用するのが特に好ましい。以下、溶接ワイヤ、溶接フラックスについて説明する。

0027

[溶接ワイヤ]
本発明で使用する溶接ワイヤは、C:0.03〜0.13質量%、Si:0.05〜0.50質量%、Mn:0.50〜2.20質量%、P:0.015質量%以下、S:0.010質量%以下、Ni:0.20質量%を超え1.00質量%以下、Cr:8.00〜10.50質量%、Mo:0.20〜1.20質量%、V:0.05〜0.45質量%、Nb:0.020〜0.080質量%、N:0.02〜0.08質量%を含有し、さらに適宜Cu、B、W、Coを所定量含有し、残部がFeおよび不可避的不純物であり、ワイヤ径が2.0〜5.0mmφが好ましい。以下、各構成の数値限定理由について説明する。なお、溶接ワイヤの各成分含有量は、溶接ワイヤ全体に対するものである。

0028

<C:0.03〜0.13質量%>
Cは、NとともにCr、Mo、W、V、Nb、およびBと結合して各種炭窒化物析出し、クリープ破断強度を向上させる効果がある。ただし、C含有量が0.03質量%未満では十分な効果が得られない。一方、Cを過剰に含有すると、具体的には、C含有量が0.13質量%を超えると、高温割れが発生する。よって、溶接ワイヤのC含有量は0.03〜0.13質量%とする。C含有量は、前記効果をより向上させる観点から、好ましくは0.04質量%以上である。また、高温割れの発生をさらに抑制する観点から、好ましくは0.12質量%以下である。

0029

<Si:0.05〜0.50質量%>
Siは、脱酸剤として作用し、溶着金属中酸素量を低減して溶接金属の靱性を改善する効果がある。ただし、Si含有量が0.05質量%未満では十分な効果が得られない。一方、Siはフェライト生成元素であり、過剰に含有すると、具体的には、Si含有量が0.50質量%を超えると、溶接金属におけるδ−フェライトの残留を引き起こし、溶接金属の靱性が劣化する。よって、溶接ワイヤのSi含有量は0.05〜0.50質量%とする。Si含有量は、前記効果をより向上させる観点から、好ましくは0.05質量%を超えるものである。また、溶接金属の靱性の劣化をより抑制する観点から、好ましくは0.48質量%以下、より好ましくは0.45質量%以下である。

0030

<Mn:0.50〜2.20質量%、Ni:0.20質量%を超え1.00質量%以下>
Mnは脱酸剤として作用し、溶着金属中の酸素量を低減して靱性を改善する効果がある。また、MnおよびNiはオーステナイト生成元素であり、いずれも溶接金属におけるδ−フェライトの残留による靱性劣化を抑制する効果がある。ただし、Mn含有量が0.50質量%未満の場合、または、Niが0.20質量%以下の場合は、これらの効果は得られず溶接金属の靱性が劣化する。一方、Mn含有量が2.20質量%を超える場合、または、Ni含有量が1.00質量%を超える場合は、溶接金属の靱性が劣化する。よって、溶接ワイヤのMn含有量は0.50〜2.20質量%、溶接ワイヤのNi含有量は0.20質量%を超え1.00質量%以下とする。なお、MnおよびNiの総含有量が1.50質量%を超える場合は、溶接金属の靱性が劣化すると共に溶着金属Ac1変態点が低下して高温焼戻しが不可能となり組織安定化処理ができなくなる。したがって、MnおよびNiの総含有量は1.50質量%以下が好ましい。

0031

Mn含有量は、前記効果をより向上させる観点から、好ましくは0.55質量%以上である。また、溶接金属の靱性をより抑制する観点から、好ましくは2.15質量%以下である。
Ni含有量は、前記効果をより向上させる観点から、好ましくは0.25質量%以上、より好ましくは0.30質量%以上である。また、溶接金属の靱性の劣化をより抑制する観点から、好ましくは0.95質量%未満ある。

0032

<Cr:8.00〜10.50質量%>
Crは、本発明で用いる溶接ワイヤが対象としている高Cr系CSEF鋼の主要元素であり、耐酸化性高温強度を確保するために不可欠な元素である。ただし、Cr含有量が8.00質量%未満では、耐酸化性および高温強度が不十分になる。一方、Crはフェライト生成元素であり、過剰に含有すると、具体的には、Cr含有量が10.50質量%を超えると、δ−フェライトの残留を引き起こし、溶接金属の靱性が劣化する。よって、溶接ワイヤのCr含有量は8.00〜10.50質量%とする。これにより、優れた耐酸化性および高温強度が得られる。Cr含有量は、前記効果をより向上させる観点から、好ましくは8.05質量%以上である。また、溶接金属の靱性の劣化をより抑制する観点から、好ましくは10.45質量%以下である。

0033

<Mo:0.20〜1.20質量%>
Moは、固溶強化元素であり、クリープ破断強度を向上させる効果がある。ただし、Mo含有量が0.20質量%未満では、十分なクリープ破断強度が得られない。一方、Moはフェライト生成元素であるため、過剰に含有すると、具体的には、Moを含有量が1.20質量%を超えると、溶接金属におけるδ−フェライトの残留を引き起こし、溶接金属の靱性が劣化する。よって、溶接ワイヤのMo含有量は0.20〜1.20質量%とする。Mo含有量は、前記効果をより向上させる観点から、好ましくは0.22質量%以上である。また、溶接金属の靱性の劣化をより抑制する観点から、好ましくは1.18質量%以下である。

0034

<V:0.05〜0.45質量%>
Vは、析出強化元素であり、炭窒化物として析出してクリープ破断強度を向上させる効果がある。ただし、V含有量が0.05質量%未満では、十分なクリープ破断強度が得られない。一方、Vはフェライト生成元素でもあり、過剰に含有すると、具体的には、V含有量が0.45質量%を超えると、溶接金属におけるδ−フェライトの残留を引き起こし、溶接金属の靱性が劣化する。よって、溶接ワイヤのV含有量は0.05〜0.45質量%とする。V含有量は、前記効果をより向上させる観点から、好ましくは0.10質量%以上である。また、溶接金属の靱性の劣化をより抑制する観点から、好ましくは0.40質量%以下である。

0035

<Nb:0.020〜0.080質量%>
Nbは、固溶強化および窒化物として析出してクリープ破断強度の安定化に寄与する元素である。ただし、Nb含有量が0.020質量%未満では、十分なクリープ破断強度が得られない。一方、Nbはフェライト生成元素でもあり、過剰に含有すると、具体的には、Nb含有量が0.080質量%を超えると、溶接金属におけるδ−フェライトの残留を引き起こし、溶接金属の靱性が劣化する。よって、溶接ワイヤのNb含有量は0.020〜0.080質量%とする。Nb含有量は、前記効果をより向上させる観点から、好ましくは0.022質量%以上である。また、溶接金属の靱性の劣化をより抑制する観点から、好ましくは0.078質量%以下である。

0036

<P:0.015質量%以下>
Pは、高温割れ感受性を高める元素である。P含有量が0.015質量%を超えると、高温割れが発生する。よって、溶接ワイヤのP含有量は0.015質量%以下に規制する。P含有量は、高温割れの発生をさらに抑制する観点から、好ましくは0.010質量%以下である。

0037

<S:0.010質量%以下>
Sは、高温割れ感受性を高める元素である。S含有量が0.010質量%を超えると、高温割れが発生する。よって、溶接ワイヤのS含有量は0.010質量%以下に規制する。S含有量は、高温割れの発生をさらに抑制する観点から、好ましくは0.009質量%以下である。

0038

<N:0.02〜0.08質量%>
Nは、CとともにCr、Mo、W、V、Nb、およびBと結合して各種炭窒化物を析出し、クリープ破断強度を向上させる効果がある。ただし、N含有量が0.02質量%未満では十分な効果が得られない。一方、Nを過剰に含有すると、具体的には、N含有量が0.08質量%を超えると、スラグ剥離性が劣化する。よって、溶接ワイヤのN含有量は0.02〜0.08質量%とする。N含有量は、クリープ破断強度をさらに向上させる観点から、好ましくは0.03質量%以上である。また、スラグ剥離性の向上の観点から、好ましくは0.07質量%以下である。

0039

適宜所定量含有してもよい成分として、Cu、B、W、Coの数値限定理由を説明する。
<Cu:1.70質量%以下>
Cuは、オーステナイト生成元素であり、溶接金属におけるδ−フェライトの残留による靱性劣化を抑制する効果があることから含有してもよい。一方、過剰な含有は高温割れを引き起こす。そのため、Cuは1.70質量%以下とする。Cuの望ましい上限は1.0質量%、更に望ましい上限は0.5質量%である。Cuの含有方法は、ワイヤ表面へのメッキでも構わない。

0040

<B:0.005質量%以下>
Bは微量含有により炭化物を分散・安定化させ、クリープ破断強度を高める効果があるため、含有してもよい。一方、過剰な含有は高温割れを引き起こす。そのため、Bは0.005質量%以下とする。Bの望ましい上限は0.003質量%、更に望ましい上限は0.0015質量%である。

0041

<W:2.0質量%以下>
Wは、マトリックスの固溶強化と微細炭化物析出によってクリープ破断強度の安定化に寄与する元素であるため、含有してもよい。一方、Wはフェライト生成元素でもあることから過剰な含有は、δ−フェライトの残留による靱性劣化を引き起こす。このため、Wは2.0質量%以下とする。Wの望ましい上限は1.8質量%、更に望ましい上限は1.7質量%である。

0042

<Co:3.0質量%以下>
Coは、δフェライトの残留を抑制する元素であるため、含有してもよい。一方、過剰含有するとAc1点を下げるため、高温焼戻しが不可能となり組織の安定化処理ができなくなる。このためCoは3.0質量%以下とする。Coの望ましい上限は2.0質量%、更に望ましい上限は1.8質量%である。

0043

<残部:Feおよび不可避的不純物>
溶接ワイヤの成分の残部は、Feおよび不可避的不純物である。不可避的不純物としては、例えば、Ti、Al等が挙げられる。

0044

<溶接ワイヤのワイヤ径>
本発明で用いるワイヤ径は2.0〜5.0mmφが好ましい。ワイヤ径が2.0mmφ未満では、十分な溶着量を得ることができず、溶接能率が犠牲になる。一方、5.0mmφを超えると、前記した溶接条件の工夫を図っても溶着量が多いため、高温割れの発生を抑制できない。

0045

[溶接フラックス]
フラックスのCaF2:10〜60質量%>
CaF2は、スラグの融点を下げて流動性を高めるため、ビード形状を整える効果がある。但し、CaF2が不足すると十分な効果が得られないのに対し、過剰であるとビード表面リップルが不均一かつ粗くなり、なじみ性が損なわれる。このため、フラックスのCaF2は10〜60質量%とする。

0046

<フラックスのCaO:2〜25質量%>
CaOはスラグの粘性を調整してビード形状を整える効果がある。但し、CaOが不足すると十分な効果が得られないのに対し、過剰であるとビード表面にポックマークが発生し、なじみ性が損なわれる。このため、フラックスのCaOは2〜25質量%とする。

0047

<フラックスのMgO:10〜50質量%>
MgOもCaOと同様にスラグの粘性を調整してビード形状を整える効果がある。但し、MgOが不足すると十分な効果が得られないのに対し、過剰であるとビード表面にポックマークが発生し、なじみ性が損なわれる。このため、フラックスのMgOは10〜50質量%とする。

0048

<フラックスのAl2O3:2〜30質量%>
Al2O3は、スラグの融点を高めて流動性を調整し、ビード形状を整える効果がある。但し、Al2O3が不足すると十分な効果が得られないのに対し、過剰であるとスラグの焼付きを招く。このため、フラックスのAl2O3は2〜30質量%とする。

0049

<フラックスのSiおよびSiO2:6〜30質量%(SiO2換算)>
Siは、スラグの粘性を調整してビード形状を整える効果がある。但し、Siが不足すると十分な効果が得られないのに対し、過剰であるとアーク雰囲気中で還元されて溶接金属のSi量を増加させ、スラグの焼付きを招く。これは、フラックス中に脱酸剤として適宜添加されるSiも同様である。このため、フラックス造粒時に固着剤として使用する水ガラス中のSiO2も含めて、フラックスのSiおよびSiO2を制限する必要がある。よって、フラックスのSiおよびSiO2の合計は、SiO2換算で6〜30質量%とする。

0050

以上がフラックスの必須成分である。これらの必須成分は、単独物質、これらの成分を含有する化合物鉱石および溶融フラックスの形態で添加することができる。例えば、CaF2は蛍石、CaOは石灰および溶融フラックス、MgOはマグネシアクリンカおよび溶融フラックス、Al2O3はアルミナおよび溶融フラックス、SiO2はカリ長石ソーダ長石および溶融フラックス等の形態で添加することができる。またフラックスには上記必須成分の他に合金成分および溶接作業性を調整するために、合金粉末酸化物およびフッ化物を適宜添加することができる。

0051

本発明で使用するサブマージアーク溶接用フラックスは、塩基度が2.3〜2.7であることが好ましい。塩基度が2.3未満では、溶接金属中の酸素量が十分に下がらず低靭性となる。一方、塩基度が2.7を超えると、ビード外観やビード形状が劣化する。よって、塩基度は2.3〜2.7の範囲内とする。塩基度は、溶接金属の靱性の劣化をより抑制する観点から、好ましくは2.4質量%以上である。また、ビード外観やビード形状の劣化をより抑制する観点から、好ましくは2.6質量%以下である。
なお、本発明での塩基度は下記式(1)による。

0052

塩基度=(CaF2+CaO+MgO+SrO+Na2O+Li2O+1/2(MnO+FeO))/(SiO2+1/2(Al2O3+TiO2+ZrO2))・・・・(1)
ここで、各化合物フラックス全質量あたりの各化合物の含有量(質量%)を示す。

0053

本発明の溶接方法は、前記溶接条件に加えて、チップ母材間距離チップ形状チップ角度を所定のものとすることが好ましい。

0054

<チップ/母材間距離>
前記したように、高Cr系CSEF鋼と共材のサブマージアーク溶接用ワイヤは、1.25Cr−0.5Mo、2.25Cr−1Mo、2.25Cr−1Mo−V鋼と共材のソリッドワイヤと比較して電気抵抗が高く、このためジュール発熱量が大となり溶着量が多くなる。すなわち、高Cr系CSEF鋼と共材のワイヤは、同じ溶接電流であっても溶着量が多くなり、高温割れが発生し易くなる。そして、ジュール発熱量は、図1図5〜7、図8〜10に示す溶接チップ11a、11b、30と母材10との間の距離が長くなるほど大となる。したがって、高温割れの発生をさらに抑制するためには、チップ/母材間距離Lを20〜40mmに管理することが好ましい。チップ/母材間距離Lが20mm未満では、チップ先端部13a、13b、30aがアークによって溶損する危険性がある。チップ/母材間距離Lが40mmを超えると、溶着量が過剰となる。また、チップ/母材間距離Lは、チップ先端部13a、13b、30aの溶損をさらに抑制する観点から25mm以上、溶着量が過剰になるのをさらに抑制する観点から35mm以下が好ましい。なお、先行極で形成した溶接ビードに後行極のチップが接触しないように、後行極のチップ/母材間距離は、先行極のそれより高めに設定する方がよい。
ここで、チップ/母材間距離は、図1図5〜7、図8〜10に示すように、ワイヤ12a、12b、40が最終的に溶接チップ11a、11b、30から突出する部分であるチップ先端部13a、13b、30aと、母材10との間の垂直な距離Lである。

0055

<チップ形状>
チップ形状は、図1に示すような直管状、図2〜4に示すようなベンド角材状、あるいは特公昭62−58827公報のFig.3bに示されるような形状でも構わず、ワイヤ送給性給電位置安定化を確保する観点から適宜選択される。特に、図2〜4に示すような、ワイヤ送給を阻害しない範囲でチップ先端部30aが曲げられたベンド角材状チップでは、給電位置が安定化して、結果としてワイヤ送給速度が安定化する。

0056

<チップ角度>
チップ角度は、図1図5〜7、図8〜10に示すように、母材10の表面に対して垂直な線と、ワイヤ12a、12b、40が最終的に溶接チップ11a、11b、30から突出する部分であるチップ先端部13a、13b、30aでの軸線とがなす角度である。そして、チップ角度は、溶接アークによるワイヤの加熱度合を左右し、結果としてワイヤ送給速度を増減させる。具体的には、同じ溶接電流、同じチップ母材間距離Lであれば、チップ角度が前進角β(図1図6図9参照)のほうが後退角α図1図5図8参照)よりもワイヤ送給速度が増加する。このため、チップ角度は、溶接アークによるワイヤの加熱度合を左右し、結果として溶着量を増減させる。このため、先行極のチップ角度は、後退角αで0°から50°、後行極のチップ角度は、前進角βで0°から50°の範囲に管理することが、ワイヤ送給速度を安定化させるために好ましい。

0057

なお、図1における符号Wは電極間距離であり、図1に示すように、先行極15aのワイヤ12aの先端と後行極15bのワイヤ12bの先端との水平な距離Wである。

0058

次に、本発明の溶接方法における電源特性電源極性について説明する。
電源特性は、垂下特性定電圧特性いずれでも構わない。ここで、垂下特性とは、アーク長が変動しても、電流の変化が少なく安定した溶接ができる電源の特性のことである。具体的には、アーク長が長くなった場合は、一時的にワイヤの送給速度を速くし、アーク長が短くなった場合はワイヤの送給速度が遅くすることによって、電流を一定に安定化する。電源極性はDCEP、ACいずれでも構わない。
なお、溶接電流およびアーク電圧は、上記ワイヤ送給速度を適正範囲にコントロールする一手段として調整される。

0059

本発明の溶接方法は、前記のように火力発電ボイラやタービン、リアクタを好適な溶接対象とする。したがって、母材板厚は150〜450mmが好ましい。しかしながら、本発明の溶接方法は、母材板厚が150mm未満の溶接への適用も可能である。同様に、本発明の溶接方法は、母材開先形状として図11に示すような狭開先を好適な溶接対象とする。しかしながら、本発明の溶接方法は、図12に示すようなV開先、図示しないX開先への適用も可能である。
ここで、本発明において、母材10の狭開先は、板厚tが50mm以上、開先角度θが0〜5°の開先と定義する(図11参照)。例えば、後述する実施例で用いる図11の試験体20では、板厚tが250mm、開先角度θが、2°+2°の4°である。

0060

以下、本発明の範囲に入る実施例について、その効果を本発明の範囲から外れる比較例と比較して説明する。
表1に示す化学成分の母材を用い、高Cr系CSEF鋼の母材を3種類用意した。この母材について、図11に示すように、板厚tが250mm、溝底曲率半径Rが10mm、開先角度θが、2°+2°の4°の狭開先を機械加工で形成して試験体20とした。あるいは、この母材について、図12に示すように、開先角度θが60°のV開先の試験体20Aとした。
また、表2に示す化学成分のワイヤを3種類使用した。また、表3に示す粒度、化学成分のフラックスを3種類使用した。

0061

0062

0063

0064

そして、図11に示す試験体20の狭開先内、あるいは、図12に示す試験体20AのV開先内を、表2に記載のワイヤと表3に記載のフラックスを用いて、ワイヤ送給速度および溶接速度を変化させサブマージアーク溶接を実施した。ワイヤ送給速度は、溶接電流、溶接速度を変化させることによりコントロールした。なお、本溶接において、溶接金属21は、図中の矢印方向に積層される。
溶接条件は以下のとおりである。また、その他の条件は表4、5に示す。なお、表中、本発明の範囲を満たさないものは数値下線を引いて示す。また、開先形状の「G−1」は試験体20の狭開先、「G−2」は試験体20AのV開先である。

0065

<溶接条件>
ワイヤ径:4mmφ
溶接チップ:図2〜4に示す先端曲りチップ(ベント角材状チップ)
電極間距離:20mm
極性:AC−ACタンデム
溶接姿勢:下向き
積層方法初層1パス、以降1層2パス(図11
初層〜3層1パス、以降1層2パス(図12

0066

この溶接を行った試験体20、20Aについて、スラグ剥離性、ビードの状態、溶接能率、耐高温割れ性を評価した。
<スラグ剥離性の評価>
溶接終了後、ビード表面に付着したフラックスをハンマーで3回たたき、容易に剥離した条件は○、剥離しなかった条件は×と判定した。

0067

<ビードの状態の評価>
前記スラグ剥離性の評価においてスラグを剥離した後の表面外観目視で確認し、溶接欠陥がなく、ビード形状が良好であれば○、溶接欠陥が発生した場合またはビード形状が不安定な場合は×と判定した。

0068

<溶接能率の評価>
溶接能率は、積層方法が1層当たり2パスで溶接可能であれば○、溶着量が減り1層当たり3パス以上で溶接が必要になった場合は×と評価した。

0069

<耐高温割れ性の評価>
溶接ビードのスタートエンド部を除外した300mmの範囲で、50mmごとの断面でマクロ組織を観察した。計5つの断面全てで、割れが発生していない条件を○、割れが発生した条件を×と判定した。
これらの結果を表4、5に示す。なお、表中、「−」は、評価を行わなかったものである。

0070

0071

0072

表4、5に示すように、No.1〜7は本発明の範囲を満たしており、スラグ剥離性、ビードの状態、溶接能率に問題なく、高温割れが未発生であった。
No.8は、先行極および後行極のワイヤの送給速度が本発明の下限を外れている。No.8では、溶接電流が小さくワイヤの送給速度が少ないため、アークが安定せず、開先面とビードの境界で溶込不良が発生した。また、単位長さ当りの溶着量が本発明の下限を外れた。なお、ビードの状態が不良のため、溶接能率および耐高温割れ性の評価は行わなかった。
No.9は、先行極および後行極のワイヤの送給速度が本発明の上限を外れている。溶接電流が大きくワイヤの送給速度が大きいため、溶着量が多すぎて高温割れが発生すると共に、スラグ剥離性も低下した。また、単位長さ当りの溶着量が本発明の上限を外れ、高温割れが発生した。なお、スラグ剥離性が不良のため、ビードの状態および溶接能率の評価は行わなかった。

0073

No.10は、溶接速度が本発明の下限を外れている。溶接速度が遅いため、溶着量が多すぎて高温割れが発生した。また、単位長さ当りの溶着量が本発明の上限を外れ、高温割れが発生した。
No.11は、溶接速度が本発明の上限を外れている。よって、ワイヤの送給が溶接速度に対して間に合わず、ビード幅が不安定となった。また、単位長さ当りの溶着量が本発明の下限を外れた。なお、ビードの状態が不良のため、溶接能率および耐高温割れ性の評価は行わなかった。

0074

No.12、14、15は、単位長さ当りの溶着量が本発明の上限を外れている。よって、ビード形状がなし型に近くなり、高温割れが発生した。
No.13は、単位長さ当りの溶着量が本発明の下限を外れている。よって、溶着量が小さいため、開先内部の溶接回数が増え、溶接能率が低下した。なお、溶接能率が不良のため、耐高温割れ性の評価は行わなかった。

実施例

0075

以上、本発明について実施の形態および実施例を示して詳細に説明したが、本発明の趣旨は前記した内容に限定されることなく、その権利範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて広く解釈しなければならない。なお、本発明の内容は、前記した記載に基づいて広く改変・変更等することが可能であることはいうまでもない。

0076

10母材(被溶接材)
11a、11b、30溶接チップ
12a、12b、40溶接ワイヤ
13a、13b、30aチップ先端部
15a先行極
15b後行極
20、20A 試験体

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