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技術 滑水・滑油性膜、その製造方法、及びそれにより被覆された表面を有する物品

出願人 大和製罐株式会社株式会社SNT
発明者 白鳥世明岡田一生
出願日 2014年6月30日 (6年0ヶ月経過) 出願番号 2014-133786
公開日 2016年1月21日 (4年5ヶ月経過) 公開番号 2016-011375
状態 特許登録済
技術分野 多孔性物品の製造および廃物の回収・処理 潤滑剤
主要キーワード 不親和性 スダレ状 極高温 高接触角 スクイージ 内部凹凸 未処理ガラス 質量濃度比
関連する未来課題
重要な関連分野

この項目の情報は公開日時点(2016年1月21日)のものです。
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課題

容易に製造可能であり、且つ耐久性の改善された滑水滑油性膜を提供する。

解決手段

繊維状の高分子が三次元方向に相互に絡み合った網目構造骨格を形成し、その空隙として連続細孔構造を有する多孔質高分子膜と、前記多孔質高分子膜の孔内部に含浸された滑剤液とを有することを特徴とする滑水・滑油性膜。

概要

背景

太陽電池自動車医療機器燃料輸送建築食品容器等、多くの分野において、防汚表面の開発が望まれている。近年、新しいタイプの防汚表面として、Slippery Liquid-Infused Porous Surfaces (SLIPS)が報告されており、これは液体潤滑剤含浸させた低エネルギー微細孔表面である(非特許文献1参照)。SLIPSは、ほとんどすべての流体に対して非ぬれ性を示し、潤滑剤が細孔内にあるため、高温高圧に対して安定である。例えば、ロータスリーフハスの葉)効果に基づいた非ぬれ性の表面が、数十年にわたって研究されているものの、低表面張力液体や、落下衝撃極高温あるいは極高圧に対して安定なものを得るのは非常に難しかった。このため、SLIPSは非常に魅力的な材料であると言える。

SLIPSの製造方法については多数報告されているものの、以下の点から、未だ十分に汎用性の高いものとは言えなかった。Wonらは、潤滑剤を適用するための粗表面として、ポリテトラフルオロエチレンメッシュエポキシ樹脂アレイを用いている(非特許文献1参照)。PTFEメッシュは成形性が非常に悪いため、複雑な構造の表面に適用することができず、また、可視光領域で透明でない。また、エポキシ樹脂アレイ表面は複雑な構造とすることができるものの、二段階のソフト−リソグラフィー工程は長時間を要する。これらの製造工程は、大量生産に不向きであり、汎用性が無い。

これらの他にも、煩雑且つ長時間を要し、高コストのプロセスとして、フォトリソグラフィー法深部反応性イオンエッチング法化学蒸着法等が挙げられる。反対に、粗面を形成する上でよりコストが低く簡易な方法として、Maらにより、アルミナゾルゲルによるSLIPS製造プロセスが報告されている(非特許文献2参照)。これは簡易な湿式プロセスであり、可視光領域における光透過性の高い層が得られる。しかし、400℃程度の高温でのアニーリング及び表面エネルギーの低下を行なう必要があり、基板選択性が限られるとともに、追加のプロセス及び材料が必要なため、コストも増加してしまう。その他、アルミニウムベーマイト処理、銅のアルカリエッチングポリピロール電解重合等の製法においても、同様の問題がある。

また、従来のSLIPSにおいて多孔性粗表面として用いられる基板のうち、フォトリソグラフィー法によるエポキシ樹脂アレイやエッチングによるポーラスシリコン等は、表面上に針状の微細凹凸、あるいは不連続な微細貫通孔蓮根貫通孔)を形成したものである。ゾルゲル法により形成したアルミナ薄膜も、単に表面上に微細凹凸を有しているに過ぎない。このため、SLIPSとして、これらの多孔性粗表面上に含浸された液体潤滑剤は、比較的容易に滲出あるいは漏出してしまい、実際に使用するには頻繁に液体潤滑剤を補給しなければならない。

延伸法により形成された多孔性PTFEシートは、より複雑な細孔構造を有しているものの、シートが一軸方向に引き伸ばされたスダレ状、あるいは二軸方向に引き伸ばされた蜘蛛状であり、長期間にわたって液体潤滑剤を細孔内に保持することはできず、特に振動や圧力に対する耐久性の点で十分なものとは言えない。

また、例えば、窓ガラスや自動車のフロントガラス等、透明性が要求される製品貼付して防汚効果を付与することのできる透明フィルムの開発は非常に有用であると考えられる。しかし、フォトリソグラフィーやエッチング、ゾルゲル法等を用いたSLIPSは、物品の表面を直接処理するものであり、独立した膜を形成するものではない。他方、延伸法による多孔性PTFEシートは、独立したフィルムとすることも可能であるが、比較的膜厚が厚いため、透明性に劣る。このため、従来のSLIPSにおいて、高い透明性を有しつつ、独立したフィルムとして十分な強度を有するものはなかった。

概要

容易に製造可能であり、且つ耐久性の改善された滑水滑油性膜を提供する。 繊維状の高分子が三次元方向に相互に絡み合った網目構造骨格を形成し、その空隙として連続細孔構造を有する多孔質高分子膜と、前記多孔質高分子膜の孔内部に含浸された滑剤液とを有することを特徴とする滑水・滑油性膜。

目的

太陽電池、自動車、医療機器、燃料輸送、建築、食品容器等、多くの分野において、防汚表面の開発が望まれている

効果

実績

技術文献被引用数
0件
牽制数
0件

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請求項1

繊維状の高分子が三次元方向に相互に絡み合った網目構造骨格を形成し、その空隙として連続細孔構造を有する多孔質高分子膜と、前記多孔質高分子膜の孔内部に含浸された滑剤液とを有することを特徴とする滑水滑油性膜

請求項2

前記多孔質高分子膜の平均細孔径が500〜1000nmであることを特徴とする請求項1記載の滑水・滑油性膜。

請求項3

前記多孔質高分子膜の平均繊維径が100〜400nmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の滑水・滑油性膜。

請求項4

前記多孔質高分子膜の二乗平均平方根粗さが0.3〜0.6μmであることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の滑水・滑油性膜。

請求項5

前記多孔質高分子膜がフッ素系樹脂又はシリコーン系樹脂からなることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の滑水・滑油性膜。

請求項6

前記多孔質高分子膜がポリフッ化ビニリデン又はその共重合体からなることを特徴とする請求項5記載の滑水・滑油性膜。

請求項7

前記滑剤液が前記多孔質高分子膜に対して親和性であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の滑水・滑油性膜。

請求項8

前記滑剤液がフッ素系油又はシリコーン油であることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の滑水・滑油性膜。

請求項9

前記滑剤液がパーフルオロポリエーテルであることを特徴とする請求項8記載の滑水・滑油性膜。

請求項10

前記多孔質高分子膜と前記滑剤液との屈折率差が0.3以下であることを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載の滑水・滑油性膜。

請求項11

波長400〜700nmの光の平均透過率が80%以上であることを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載の滑水・滑油性膜。

請求項12

高分子と、該高分子を溶解しない細孔形成剤とを、該高分子及び該細孔形成剤ともに溶解可能な揮発性有機溶媒中で混合撹拌する工程と、前記工程により得られた混合物を任意の物品の表面上に塗布し、前記揮発性溶媒気化乾燥させ、塗布膜を形成する工程と、前記工程により得られた塗布膜を、前記高分子を溶解せず前記細孔形成剤を溶解可能な有機溶媒と接触させ、前記細孔形成剤を除去し、多孔質高分子膜を形成する工程と、前記工程により得られた多孔質高分子膜の孔内部に滑剤液を含浸させる工程とを備えることを特徴とする滑水・滑油性膜の製造方法。

請求項13

前記高分子と前記細孔形成剤の混合比(質量比)が、高分子:細孔形成剤=1:1.5〜1:5であることを特徴とする請求項12記載の滑水・滑油性膜の製造方法。

請求項14

前記高分子がフッ素系樹脂又はシリコーン系樹脂であることを特徴とする請求項12又は13に記載の滑水・滑油性膜。

請求項15

前記高分子がポリフッ化ビニリデン又はその共重合体であることを特徴とする請求項14記載の滑水・滑油性膜の製造方法。

請求項16

前記高分子が、アセトンに可溶、且つエタノール不溶な高分子であることを特徴とする請求項12から15のいずれかに記載の滑水・滑油性膜の製造方法。

請求項17

前記細孔形成剤がエタノールに可溶な低分子溶媒であることを特徴とする請求項12から16のいずれかに記載の滑水・滑油性膜の製造方法。

請求項18

前記細孔形成剤がフタル酸又はその誘導体であることを特徴とする請求項17に記載の滑水・滑油性膜の製造方法。

請求項19

前記揮発性有機溶媒が沸点100℃以下の有機溶媒であることを特徴とする請求項12から18のいずれかに記載の滑水・滑油性膜の製造方法。

請求項20

前記揮発性有機溶媒がアセトンであることを特徴とする請求項19に記載の滑水・滑油性膜の製造方法。

請求項21

前記高分子を溶解せず前記細孔形成剤を溶解可能な有機溶媒がエタノールであることを特徴とする請求項12から20のいずれかに記載の滑水・滑油性膜の製造方法。

請求項22

前記滑剤液がフッ素系油又はシリコーン油であることを特徴とする請求項12から21のいずれかに記載の滑水・滑油性膜の製造方法。

請求項23

前記滑剤液がパーフルオロポリエーテルであることを特徴とする請求項22記載の滑水・滑油性膜の製造方法。

請求項24

請求項1から11のいずれかに記載の滑水・滑油性膜よりなり、任意の物品に貼付可能な自立した膜であることを特徴とする防汚フィルム

請求項25

請求項1から11のいずれかに記載の滑水・滑油性膜により被覆された表面を有することを特徴とする物品。

請求項26

請求項1から11のいずれかに記載の滑水・滑油性膜により被覆された表面を有することを特徴とする医療器具

請求項27

請求項1から11のいずれかに記載の滑水・滑油性膜により被覆された表面を有することを特徴とする容器

請求項28

請求項1から11のいずれかに記載の滑水・滑油性膜により被覆された表面を有することを特徴とする光学機器

請求項29

請求項1から11のいずれかに記載の滑水・滑油性膜により被覆された表面を有することを特徴とする防汚ガラス

請求項30

請求項1から11のいずれかに記載の滑水・滑油性膜により被覆された表面を有することを特徴とする太陽電池

技術分野

0001

本発明は、容易に製造可能であり、優れた防汚効果を発揮し得る滑水滑油性膜の提供、及びその耐久性の改良、さらには、高い透明性を有するとともに、独立したフィルムとして十分な強度を有する滑水・滑油性膜の提供に関する。

背景技術

0002

太陽電池自動車医療機器燃料輸送建築食品容器等、多くの分野において、防汚表面の開発が望まれている。近年、新しいタイプの防汚表面として、Slippery Liquid-Infused Porous Surfaces (SLIPS)が報告されており、これは液体潤滑剤含浸させた低エネルギー微細孔表面である(非特許文献1参照)。SLIPSは、ほとんどすべての流体に対して非ぬれ性を示し、潤滑剤が細孔内にあるため、高温高圧に対して安定である。例えば、ロータスリーフハスの葉)効果に基づいた非ぬれ性の表面が、数十年にわたって研究されているものの、低表面張力液体や、落下衝撃極高温あるいは極高圧に対して安定なものを得るのは非常に難しかった。このため、SLIPSは非常に魅力的な材料であると言える。

0003

SLIPSの製造方法については多数報告されているものの、以下の点から、未だ十分に汎用性の高いものとは言えなかった。Wonらは、潤滑剤を適用するための粗表面として、ポリテトラフルオロエチレンメッシュエポキシ樹脂アレイを用いている(非特許文献1参照)。PTFEメッシュは成形性が非常に悪いため、複雑な構造の表面に適用することができず、また、可視光領域で透明でない。また、エポキシ樹脂アレイ表面は複雑な構造とすることができるものの、二段階のソフト−リソグラフィー工程は長時間を要する。これらの製造工程は、大量生産に不向きであり、汎用性が無い。

0004

これらの他にも、煩雑且つ長時間を要し、高コストのプロセスとして、フォトリソグラフィー法深部反応性イオンエッチング法化学蒸着法等が挙げられる。反対に、粗面を形成する上でよりコストが低く簡易な方法として、Maらにより、アルミナゾルゲルによるSLIPS製造プロセスが報告されている(非特許文献2参照)。これは簡易な湿式プロセスであり、可視光領域における光透過性の高い層が得られる。しかし、400℃程度の高温でのアニーリング及び表面エネルギーの低下を行なう必要があり、基板選択性が限られるとともに、追加のプロセス及び材料が必要なため、コストも増加してしまう。その他、アルミニウムベーマイト処理、銅のアルカリエッチングポリピロール電解重合等の製法においても、同様の問題がある。

0005

また、従来のSLIPSにおいて多孔性粗表面として用いられる基板のうち、フォトリソグラフィー法によるエポキシ樹脂アレイやエッチングによるポーラスシリコン等は、表面上に針状の微細凹凸、あるいは不連続な微細貫通孔蓮根貫通孔)を形成したものである。ゾルゲル法により形成したアルミナ薄膜も、単に表面上に微細凹凸を有しているに過ぎない。このため、SLIPSとして、これらの多孔性粗表面上に含浸された液体潤滑剤は、比較的容易に滲出あるいは漏出してしまい、実際に使用するには頻繁に液体潤滑剤を補給しなければならない。

0006

延伸法により形成された多孔性PTFEシートは、より複雑な細孔構造を有しているものの、シートが一軸方向に引き伸ばされたスダレ状、あるいは二軸方向に引き伸ばされた蜘蛛状であり、長期間にわたって液体潤滑剤を細孔内に保持することはできず、特に振動や圧力に対する耐久性の点で十分なものとは言えない。

0007

また、例えば、窓ガラスや自動車のフロントガラス等、透明性が要求される製品貼付して防汚効果を付与することのできる透明フィルムの開発は非常に有用であると考えられる。しかし、フォトリソグラフィーやエッチング、ゾルゲル法等を用いたSLIPSは、物品の表面を直接処理するものであり、独立した膜を形成するものではない。他方、延伸法による多孔性PTFEシートは、独立したフィルムとすることも可能であるが、比較的膜厚が厚いため、透明性に劣る。このため、従来のSLIPSにおいて、高い透明性を有しつつ、独立したフィルムとして十分な強度を有するものはなかった。

先行技術

0008

Wong, T.-S.; Kang, S. H.; Tang, S. K. Y.; Smythe, E. J.; Hatton, B.D.; Grinthal, A.; Aizenberg, J. Nature 2011, 477, 443-447.
Ma, W.; Higaki, Y.; Otsuka, H.; Takahara, A. Chem. Commun. 2013, 49, 597-599.

発明が解決しようとする課題

0009

本発明が解決しようとする課題は、容易に製造可能であり、且つ耐久性の改善された滑水・滑油性膜およびその製造方法を提供することにある。さらには、高い透明性を有しつつ、独立したフィルムとして十分な強度を有する滑水・滑油性膜を提供することにある。

課題を解決するための手段

0010

前記課題を解決するため、本発明者らが鋭意検討を行なった結果、特定比率の高分子細孔形成剤とを揮発性有機溶媒中で混合撹拌したものを基板上に塗布乾燥した後、有機溶媒を用いて細孔形成剤を除去して得られた多孔質高分子膜を調製し、この多孔質高分子膜に滑剤液を含浸させることによって、優れた防汚効果を示す滑水・滑油性膜を容易に製造することができ、また、得られた滑水・滑油性膜の耐久性も非常に優れていることを見出した。さらに、この方法によって、高い透明性を有するとともに、独立したフィルムとして十分な強度を有する滑水・滑油性膜が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。

0011

すなわち、本発明にかかる滑水・滑油性膜は、繊維状の高分子が三次元方向に相互に絡み合った網目構造骨格を形成し、その空隙として連続細孔構造を有する多孔質高分子膜と、前記多孔質高分子膜の孔内部に含浸された滑剤液とを有することを特徴とするものである。

0012

また、前記滑水・滑油性膜において、前記多孔質高分子膜の平均細孔径が500〜1000nmであることが好適である。また、前記多孔質高分子膜の平均繊維径が100〜400nmであることが好適である。また、前記多孔質高分子膜の二乗平均平方根粗さが0.3〜0.6μmであることが好適である。
また、前記滑水・滑油性膜において、前記多孔質高分子膜がフッ素系樹脂又はシリコーン系樹脂からなることが好適である。さらに、前記多孔質高分子膜がポリフッ化ビニリデン又はその共重合体からなることが好適である。

0013

また、前記滑水・滑油性膜において、前記滑剤液が前記多孔質高分子膜に対して親和性であることが好適である。また、前記滑剤液がフッ素系油又はシリコーン油であることが好適である。さらに、前記滑剤液がパーフルオロポリエーテルであることが好適である。
また、前記滑水・滑油性膜において、前記多孔質高分子膜と前記滑剤液との屈折率差が0.3以下であることが好適である。また、前記滑水・滑油性膜において、波長400〜700nmの光の平均透過率が80%以上であることが好適である。

0014

また、本発明にかかる滑水・滑油性膜の製造方法は、高分子と、該高分子を溶解しない細孔形成剤とを、該高分子及び該細孔形成剤ともに溶解可能な揮発性有機溶媒中で混合撹拌する工程と、前記工程により得られた混合物を任意の物品の表面上に塗布し、前記揮発性溶媒気化乾燥させ、塗布膜を形成する工程と、前記工程により得られた塗布膜を、前記高分子を溶解せず前記細孔形成剤を溶解可能な有機溶媒と接触させ、前記細孔形成剤を除去し、多孔質高分子膜を形成する工程と、前記工程により得られた多孔質高分子膜の孔内部に滑剤液を含浸させる工程とを備えることを特徴とするものである。

0015

また、前記滑水・滑油性膜の製造方法において、前記高分子と前記細孔形成剤の混合比(質量比)が、高分子:細孔形成剤=1:1.5〜1:5であることが好適である。
また、前記滑水・滑油性膜の製造方法において、前記高分子がフッ素系樹脂又はシリコーン系樹脂であることが好適である。さらに、前記高分子がポリフッ化ビニリデン又はその共重合体であることが好適である。また、前記滑水・滑油性膜の製造方法において、前記高分子がアセトンに可溶、且つエタノール不溶な高分子であることが好適である。

0016

また、前記滑水・滑油性膜の製造方法において、前記細孔形成剤がエタノールに可溶な低分子溶媒であることが好適である。さらに、前記細孔形成剤がフタル酸又はその誘導体であることが好適である。
また、前記滑水・滑油性膜の製造方法において、前記揮発性有機溶媒が沸点100℃以下の有機溶媒であることが好適である。さらに、前記揮発性有機溶媒がアセトンであることが好適である。
また、前記滑水・滑油性膜の製造方法において、前記高分子を溶解せず前記細孔形成剤を溶解可能な有機溶媒がエタノールであることが好適である。
また、前記滑水・滑油性膜の製造方法において、前記滑剤液がフッ素系油又はシリコーン油であることが好適である。さらに、前記滑剤液がパーフルオロポリエーテルであることが好適である。

0017

本発明にかかる防汚フィルムは、前記滑水・滑油性膜よりなり、任意の物品に貼付可能な自立した膜であることを特徴とするものである。
また、本発明にかかる物品は、前記滑水・滑油性膜により被覆された表面を有することを特徴とするものである。
また、本発明にかかる医療器具は、前記滑水・滑油性膜により被覆された表面を有することを特徴とするものである。

0018

また、本発明にかかる容器は、前記滑水・滑油性膜により被覆された表面を有することを特徴とするものである。
また、本発明にかかる光学機器は、前記滑水・滑油性膜により被覆された表面を有することを特徴とするものである。
また、本発明にかかる防汚ガラスは、前記滑水・滑油性膜により被覆された表面を有することを特徴とするものである。
また、本発明にかかる太陽電池は、前記滑水・滑油性膜により被覆された表面を有することを特徴とするものである。

発明の効果

0019

本発明によれば、容易に製造することができ、優れた防汚効果を示す滑水・滑油性膜が得られ、また、その耐久性も非常に優れている。また、本発明によって、高い透明性を有し、且つ独立したフィルムとして十分な強度を有する滑水・滑油性膜が得られる。

図面の簡単な説明

0020

本発明にかかる滑水・滑油性膜の断面の概略図である。
本発明の一例にかかる滑水・滑油性膜の製造方法の概略説明図である。
高分子/細孔形成剤(PVDF-HFP/DBP)比率=1:0.5で作製したPVD-HFP多孔質高分子膜のSEM写真図である。
高分子/細孔形成剤(PVDF-HFP/DBP)比率=1:1で作製したPVD-HFP多孔質高分子膜のSEM写真図である。
高分子/細孔形成剤(PVDF-HFP/DBP)比率=1:2で作製したPVD-HFP多孔質高分子膜のSEM写真図である。
高分子/細孔形成剤(PVDF-HFP/DBP)比率=1:5で作製したPVD-HFP多孔質高分子膜のSEM写真図である。
各種PVD-HFP多孔質高分子膜の孔径繊維径測定結果である。
各種PVD-HFP多孔質高分子膜の表面粗さ(二乗平均平方根粗さ)の測定結果である。
各種PVD-HFP多孔質高分子膜の厚さの測定結果である。
各種PVD-HFP多孔質高分子膜にPFPEを含浸させた膜の水及びオレイン酸に対する転落角の測定結果である。
PVDF-HFP多孔質(PFPE含浸)膜表面の液体の粘着性の説明図である。
各種PVDF-HFP膜のPFPE含浸の前後における可視光領域の透過率の測定結果である。
各種PVDF-HFP膜のPFPE含浸の前後における波長600nmの光の透過率の測定結果である。
レンズ表面にPVDF-HFP多孔質(PFPE含浸)膜を被覆処理した眼鏡写真図である(右側レンズ:未処理,左側レンズ:膜被覆)。
太陽電池、ガラスカバー太陽電池、PVDF-HFP膜(PFPE含浸前)カバー太陽電池、PVDF-HFP膜(PFPE含浸後)カバー太陽電池の高電流密度(Jsc)-電位(Voc)曲線である。
PVDF-HFP(PFPE含浸)自立膜の引っ張り強度の測定結果である。
PVDF-HFP(PFPE含浸)自立膜の伸張速度の測定結果である。
PVDF-HFP(PFPE含浸)自立膜の写真図である。
PVDF-HFP(PFPE含浸)膜を各種回転速度で1分間回転させた後の水転落角の測定結果である。
PVDF-HFP(PFPE含浸)膜に80g/cm2の荷重条件で所定時間摩耗を与えた後の水転落角の測定結果である。
PVDF-HFP(PFPE含浸)膜に血液を滴下した際の写真図である。
PVDF-HFP(PFPE含浸)膜に高粘性飲料(お汁粉)を滴下した際の写真図である。
PVDF-HFP(PFPE含浸)膜に食品用油を滴下した際の写真図である。
PVDF-HFP(PFPE含浸)膜に洗浄剤を滴下した際の写真図である。

0021

滑水・滑油性膜
図1に、本発明にかかる滑水・滑油性膜の断面の概略図を示す。図1に示すように、本発明にかかる滑水・滑油性膜10は、繊維状の高分子が三次元方向に相互に絡み合った網目構造の骨格を形成し、その空隙として連続細孔構造を有する多孔質高分子膜12と、前記多孔質高分子膜の孔内部に含浸された滑剤液14とを有している。また、滑水・滑油性膜10の表面上にある外部液体20は、滑剤液14との不親和性により高接触角の液滴となり、滑り落ちて除去されるため、表面に付着残留しない。

0022

<多孔質高分子膜>
多孔質高分子膜を構成する高分子は、分子量1万以上の化合物であれば、その化学構造等について特に限定されるものではないが、あらゆる性質の液体に対する防汚効果(滑水・滑油効果)の点から、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン、あるいはこれらの共重合体等のフッ素系樹脂又はシリコーン系樹脂を用いることが望ましい。また、特にポリフッ化ビニリデン又はその共重合体を好適に用いることができる。

0023

本発明に用いられる多孔質高分子膜は、繊維状の高分子が三次元方向に相互に絡み合った網目構造の骨格を形成し、その空隙として連続細孔構造を有するものであり、後述する特定の方法によって、穏和な条件下、短時間で容易に製造することができる。簡単に言えば、特定比率の高分子と細孔形成剤とを揮発性有機溶媒中で混合撹拌したものを基板上に塗布乾燥した後、有機溶媒を用いて細孔形成剤を除去することで、上記構造の多孔質高分子膜が得られる。そして、このような特定の構造を有する多孔質高分子膜とすることによって、孔内部へと含浸させた滑剤液が滲出あるいは漏出し難く、特に振動や圧力に対して耐久性の高い滑水・滑油性膜が得られる。例えば、従来のSLIPSに用いられるフォトリソグラフィー法によるエポキシ樹脂アレイ、エッチングによるポーラスシリコン、ゾル−ゲル法によりアルミナ薄膜等は、いずれも表面上に微細凹凸を有しているか、あるいは不連続な微細貫通孔が形成されたものであって、滑剤液を含浸させても容易に滲出あるいは漏出してしまう。また、延伸法により形成された多孔性PTFEシートは、シートが一軸方向に引き伸ばされたスダレ状であるか、二軸方向に引き伸ばされた蜘蛛の巣状であって、繊維状の高分子が三次元方向、特にシートの厚み方向において相互に絡み合ったものではないため、細孔の曲路率が低く、長時間の使用あるいは振動や圧力によって孔内部の滑剤液が滲出あるいは漏出してしまい、耐久性の点で十分でない。

0024

本発明に用いられる多孔質高分子膜は、以上に説明した特定の構造を備えたものであればよいが、さらに以下の構造特性を満たしていることが望ましい。
多孔質高分子膜の平均細孔径は、500〜1000nmであることが好ましく、さらに500〜700nmであることが好ましい。細孔径が上記範囲よりも大きいと、滑剤液を保持できす、滑水・滑油効果が十分に得られないほか、耐久性にも劣る場合がある。他方、細孔径が上記範囲よりも小さいと、膜自体の機械的強度や柔軟性が十分に得られず、汎用性に劣る場合がある。多孔質高分子膜の平均細孔径は、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡TEM)、原子間力顕微鏡AFM)等を用いて撮影した写真図から、直接あるいは画像処理により算出したり、あるいはガス吸着法水銀圧入法等に基づく市販の測定装置を用いて決定することもできる。

0025

また、多孔質高分子膜において、網目構造の骨格を構成する繊維状高分子の平均繊維径は、100〜400nmであることが好ましく、さらに300〜400nmであることが好ましい。繊維径が上記範囲よりも大きいと、滑剤液を十分に保持できず、耐久性に劣る場合があり、また、上記範囲よりも小さいと、膜自体の機械的強度に劣る場合がある。なお、平均繊維径は、上記平均細孔径と同様、SEM,TEMあるいはAFMを用いて撮影した写真図から算出することができる。

0026

また、多孔質高分子膜の二乗平均平方根粗さは、0.3〜0.6μmであることが好ましく、さらに0.3〜0.45μmであることが好ましい。なお、本発明において二乗平均平方根粗さとは、JIS B0601−2013に準拠して測定された数値[Rq(Rms)]であり、下記数式により定義される。二乗平均平方根粗さが上記範囲よりも大きいと、液体が滑りにくくなって滑水・滑油効果が十分に得られない場合があり、他方、上記範囲よりも小さいと、膜自体の機械的強度に劣る場合がある。二乗平均平方根粗さは、通常、原子間力顕微鏡(AFM)等を用いて測定することができる。




Rq:二乗平均平方根粗さ,l:基準長さ,Z(x):位置xにおける輪郭曲線の高さ

0027

多孔質高分子膜の空隙率は、10〜99%であることが好ましく、さらに30〜90%であることが好ましい。空隙率が上記範囲よりも大きいと、滑剤液を保持できず、耐久性に劣る場合があり、また、上記範囲よりも小さいと、滑剤液の含浸量が少なくなって、滑水・滑油効果が十分に得られない場合がある。なお、空隙率は、例えば、かさ密度測定値と高分子固有真密度の値から算出することができる。

0028

多孔質高分子膜の厚さは、特に限定されるものではないが、通常、1μm〜5mm程度であり、特に好ましくは、2μm〜2mmである。あまり薄すぎると、滑剤液の含浸量が少なくなって耐久性が悪くなる場合があるほか、任意の物品に貼付して使用する自立膜としては強度が足りず、使用できない場合がある。他方、厚さが厚すぎると、柔軟性に劣り複雑な構造の物品に適用し難くなるほか、不透明となってしまい、透明性の要求される物品に使用できないことがある。

0029

<滑剤液>
本発明に用いられる滑剤液は、以上に説明した多孔質高分子膜の孔内部に含浸される。なお、滑剤液は多孔質高分子膜に対して化学的に不活性である必要があり、例えば、多孔質高分子を溶解してしまってはならない。また、滑剤液は、親水性親油性いずれの性質を有していてもかまわないが、多孔質高分子膜に対して親和性を有することが好ましい。ここで、「親和性を有する」とは、滑剤液の多孔質高分子膜表面に対する接触角が90°未満であることを意味する。多孔質高分子膜との接触角が90°を超える滑剤液の場合、多孔質高分子膜の孔内部に含浸させ難く、含浸させたとしても経時で滲出あるいは漏出してしまうことがある。滑剤液と多孔質高分子膜との接触角は、特に好ましくは45°未満である。

0030

例えば、滑剤液として油性液体を使用した場合、主として水性の外部液体に対する防汚性滑水性)を示し、反対に水性液体を使用した場合、主として油性の外部液体に対する防汚性(滑油性)を示す。あらゆる種類の液体に対して防汚性を発揮するためには、滑剤液としては、フッ素系油又はシリコーン油といった、いわゆる撥水・撥油性液体を使用することが好ましい。これらには、例えば、パーフルオロポリエーテル、パーフルオロアルキルエーテルパーフルオロシクロエーテル、パーフルオロアルキルアミン、パーフルオロアルキルスルフィド、パーフルオロアルキルスルフォキシドパーフルオロアルキルホスフィンパーフルオロカーボンパーフルオロカルボン酸フッ素化ホスホン酸フッ素化スルホン酸フッ素化シラン等のフッ素系油、ジメチルポリシロキサンメチルフェニルポリシロキサンメチルハイドロジェンポリシロキサンオクタメチルシクロテトラシロキサンデカメチルシクロペンタシロキサンドデカメチルシクロヘキサシロキサンアミノ変性シリコーン油、ポリエーテル変性シリコーン油カルボキシ変性シリコーン油、アルキル変性シリコーン油、アンモニウム塩変性シリコーン油、フッ素変性シリコーン油等のシリコーン油が含まれる。これらのうち、特にパーフルオロポリエーテルを好適に用いることができる。

0031

また、滑剤液は、多孔質高分子膜に対して屈折率差の小さいものを選択することが望ましい。これにより、多孔質高分子膜と滑剤液との界面での光反射量が少なくなるため、透明性の高い滑水・滑油性膜とすることができる。より具体的には、多孔質高分子膜と滑剤液との屈折率差を0.3以下、あるいは0.2以下とすることが望ましい。多孔質高分子膜の多孔性(細孔径、繊維径、空隙率等)や膜厚等、他の条件にもよるものの、屈折率差の小さい多孔質高分子膜と滑剤液との組み合わせを選択することで、通常、波長400〜700nmの光の平均透過率が80%以上の透明膜とすることができる。例えば、太陽電池の表面保護板、あるいは自動車のフロントガラス等においては、高い透明性が要求されるものの、透明性の高い滑水・滑油性膜とすることで、このような透明製品の防汚の目的で使用することもできる。

0032

製造方法
本発明の滑水・滑油性膜は、例えば、以下の第一工程から第四工程を順に行なうことによって製造することができる。
・第一工程(塗布液調製工程)
高分子と、該高分子を溶解しない細孔形成剤とを、該高分子及び該細孔形成剤ともに溶解可能な揮発性有機溶媒中で混合撹拌する工程
・第二工程(塗膜形成工程)
前記工程によって得られた混合物を任意の物品の表面上に塗布し、前記揮発性溶媒を気化乾燥させ、塗布膜を形成する工程
・第三工程(細孔剤除去・多孔質膜形成工程)
前記工程により得られた塗布膜を前記細孔形成剤を溶解可能な有機溶媒と接触させ、前記細孔形成剤を除去し、多孔質高分子膜を形成する工程
・第四工程(滑剤液含浸工程)
前記工程により得られた多孔質高分子膜の孔内部に滑剤液を含浸させる工程

0033

図2に、本発明の滑水・滑油性膜の製造方法の一例について、各工程ごとの説明図を示す。
<第一工程(塗布液調製工程)>
第一工程では、高分子と細孔形成剤とを揮発性有機溶媒中で混合撹拌する。
ここで用いられる高分子は、上記多孔質高分子膜の項においても述べたとおり、分子量1万以上の化合物であれば、その化学構造等について特に限定されるものではないが、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン、あるいはこれらの共重合体等のフッ素系樹脂又はシリコーン系樹脂を用いることが望ましい。また、特にポリフッ化ビニリデン又はその共重合体を好適に用いることができる。さらに、高分子がアセトンに可溶、且つエタノールに不溶であることが好適である。

0034

細孔形成剤は、高分子を溶解せず、後述する揮発性有機溶媒には溶解可能である必要がある。すなわち、第一工程において高分子とともに揮発性有機溶媒中に溶解している細孔形成剤は、第二工程において揮発性有機溶媒が気化乾燥した後、高分子との間で相分離を生じる。そして、第三工程において細孔形成剤が除去されると、細孔形成剤の抜けた跡が孔となって多孔質高分子膜が形成される。細孔形成剤としては、通常、分子量2000以下の低分子溶媒が用いられ、例えば、エタノールに可溶な低分子溶媒を使用することができる。このような低分子溶媒のうち、特にフタル酸又はその誘導体を好適に用いることができる。

0035

揮発性有機溶媒は、沸点260℃以下、特に好ましくは100℃以下の有機溶媒であって、高分子と細孔形成剤とをともに溶解するものである。高分子及び細孔形成剤の種類にもよるが、例えば、トルエンベンゼンペンタンヘキサンヘプタンシクロヘキサン等の炭化水素系溶媒塩化メチル臭化メチル等のハロゲン系溶媒酢酸エチル等のエステル系溶媒ジエチルエーテルテトラヒドロフランエチルセロソルブ等のエーテル系溶媒、アセトン、メチルエチルケトンメチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒メタノール、エタノール、n−プロパノールイソプロパノールn−ブタノールイソブタノール、t−ブタノール等のアルコール系溶媒等が挙げられる。

0036

高分子と細孔形成剤の混合比は、質量比で、高分子:細孔形成剤=1:1.5〜1:5の範囲とすることが好ましく、より好ましくは、1:2〜1:3の範囲である。細孔形成剤の割合は、得られる高分子多孔質膜の多孔性、特に空隙率や細孔径、表面粗さ等に大きく影響する。細孔形成剤の割合が少なすぎると、滑剤液の含浸量が制限され、滑水・滑油効果を十分に発揮することができない。一方で、細孔形成剤の割合が多くなると、滑剤液が滲出あるいは漏出しやすくなるほか、膜自体の強度や柔軟性に劣る傾向にあり、自立した滑水・滑油性膜として使用することができない場合がある。揮発性溶媒の量は、特に限定されないが、高分子に対する質量濃度比として、20〜500質量%に調整することが望ましい。揮発性溶媒の量が多すぎると塗膜の形成に時間がかかり、反対に、揮発性溶媒の量が少なすぎるとキャスティングスプレー等による塗布作業がしにくくなる。

0037

混合撹拌の温度及び時間は特に制限されないが、通常、20〜60℃で10〜240分程度行なうことが望ましい。なお、混合撹拌の程度が十分でないと、混合物中で細孔形成剤が不均一に存在することとなり、結果として均一な孔を有する多孔質高分子膜が得られない場合がある。

0038

<第二工程(塗膜形成工程)>
つづく第二工程では、第一工程によって得られた混合物を任意の物品の表面上に塗布し、揮発性溶媒を気化乾燥させ、塗布膜を形成する。
塗布する物品は、滑水・滑油性(防汚効果)を付与すべき対象であればよく、例えば、ガラスや金属、プラスチック等の表面上に混合物を直接塗布すればよい。あるいは、ガラスや金属等の平板に混合物を塗布して適当な厚さの多孔質高分子膜を形成し、平板から剥がして、独立した多孔質高分子膜としてもよい。

0039

混合物を物品表面上に塗布する方法としては、例えば、バーコーティング法スプレーコーティング法スピンコーティング法ディップコーティング法等の公知の塗布方法が挙げられるほか、公知の印刷方法によって物品表面上に印刷してもよい。なお、図2においては、スキージーを用いた塗布方法が示されているが、これに限定されるものではない。

0040

塗布後、揮発性溶媒を乾燥させることによって、高分子と細孔形成剤からなる塗布膜が物品表面上に形成される。乾燥の際の温度及び時間は、第一工程での高分子及び細孔形成剤の濃度(揮発性溶媒の量)にもよるが、通常、10〜40℃で1〜600秒程度、より具体的には、常温で5秒程度乾燥すればよい。

0041

<第三工程(細孔剤除去・多孔質膜形成工程)>
第三工程では、第二工程により得られた塗布膜を、高分子を溶解せず細孔形成剤を溶解可能な有機溶媒と接触させ、細孔形成剤を除去し、多孔質高分子膜を形成する。
有機溶媒は、高分子及び細孔形成剤の種類にもよるものの、例えば、水、グリセリン、メタノール、エタノール、2−プロパノール等の親水性溶媒、あるいはこれらを適当な割合で混合した混合溶媒を用いてもよい。また、塗布膜と有機溶媒とを接触させる手段も特に限定されないものの、例えば、図2に示すように、塗布膜を有機溶媒中に所定時間浸漬すればよい。

0042

ここで、第二工程において揮発性有機溶媒の量が気化乾燥によって徐々に減少していくと、高分子と細孔形成剤とは互いに相溶しないため、次第に相分離を生じる。その後、揮発性溶媒が完全に失われると、高分子と細孔形成剤とが相分離を生じた状態で共存した塗膜が形成される。そして、第三工程において、この塗膜を有機溶媒に浸漬する等して細孔形成剤が除去されると、細孔形成剤の抜けた跡が孔となって多孔質高分子膜が形成される。塗布膜を有機溶媒と接触させる時間は、特に限定されるものではないが、有機溶媒中への浸漬の場合、通常、10〜600秒程度、より具体的には、常温で10秒程度浸漬すればよい。
行なう。

0043

<第四工程(滑剤液含浸工程)>
第四工程では、第三工程により得られた多孔質高分子膜の孔内部に滑剤液を含浸させる。
滑剤液は、先にも述べたとおり、多孔質高分子膜に対して化学的に不活性である必要があり、また、多孔質高分子膜に対して親和性を有することが好ましい。滑剤液は、親水性、親油性いずれの性質を有していてもかまわないが、撥水・撥油性を有するフッ素系油又はシリコーン油が好ましく、特にパーフルオロポリエーテルを特に好適に用いることができる。

0044

滑剤液を含浸させる手段としては、特に限定されるものではないが、例えば、スポイトによる滴下、あるいはスプレーによる噴霧等が挙げられる。滑剤液と多孔質高分子膜との親和性が高く、例えば、滑剤液の多孔質高分子膜表面に対する接触角が90°未満、さらには45°未満である場合、滑剤液を多孔質高分子膜表面上に滴下するだけで、膜内の孔へと滑剤液を急速に浸透させることができる。

0045

また、先に説明したように、滑剤液の種類を適宜選択し、多孔質高分子膜に対して屈折率差の小さいものとすることによって、透明性の高い滑水・滑油性膜とすることもできる。この場合、多孔質高分子膜は微細な表面又は内部凹凸拡散反射により、通常、薄白色を呈しているものの、適切な種類(屈折率)の滑剤液を含浸させることによって、瞬時に透明に変化する。そして、このような透明膜とすることで、特に透明性を要求される製品に対して好適に使用することもできる。

0046

以上のようにして、本発明の滑水・滑油性膜によって任意の物品表面を被覆することができ、これによって当該物品に対して滑水・滑油性、すなわち防汚効果を付与することができる。あるいは、ガラス平板等、任意の支持体の表面上に適当な厚さの滑水・滑油性膜を形成し、これをガラス平板から剥がすことで自立した膜とすることができ、この自立膜を防汚フィルムとして任意の物品表面上に貼付して用いてもよい。特に、透明性の自立膜とすることによって、あらゆる製品に対して防汚フィルムとして好適に適用することができる。

0047

滑水・滑油性膜の厚さは、例えば、第二工程の塗布量によって適宜調整することができる。厚さは特に限定されるものではないが、通常、1μm〜2mm程度である。薄すぎると十分な防汚効果を発揮することができず、自立膜として十分な強度が得られない場合がある。また、必要以上に厚くしても効果の改善は見られない一方で、透明性が失われ、自立膜の場合には柔軟性に劣り、所望の物品に適用することができない場合がある。

0048

本発明の滑水・滑油性膜は、概略以上のようにして製造することができるものであるが、高温加熱処理を必要とせず、また、第一工程から第四工程まで非常に短い時間で処理を完了することができる。典型的には、第一工程で約1時間、第二工程で約1分、第三工程で約1分、第四工程で約1分程度で、全ての処理を完了することができ、非常に短時間で滑水・滑油性膜を製造することができる。加えて、例えば、100℃以上の高温加熱処理を必要としないので、熱可塑性樹脂等、熱に弱い物品の表面を処理することもできる。また、細孔形成剤によって形成された多孔質高分子膜の孔は、繊維状の高分子が三次元方向に相互に絡み合った網目構造の骨格と、その空隙として連続細孔構造を有しており、このような孔の内部へと含浸された滑剤液は、振動や圧力によっても容易に滲出あるいは漏出することがなく、滑水・滑油性膜として、優れた耐久性を有している。

0049

本発明の滑水・滑油性膜を適用する防汚対象として特に好適な物品には、例えば、医療器具、容器、光学機器等が挙げられる。医療器具は、多くの場合、血液の付着が操作の妨げになり、例えば、内視鏡器具においては、操作中に器具へと付着した血液をしばしば除去する必要がある。また、容器は、食品、飲料、洗浄剤といった内容物の外面への付着、あるいは内面に付着した内容物の残存が問題になることがある。光学機器においては、特にレンズへの液体の付着により測定結果に大きな影響を与えることがある。本発明の滑水・滑油性膜は、さまざまな液体に対して、これを滑落させて表面への付着を妨げることができ、水や油だけでなく、血液や食品、飲料、洗浄料等に対しても防汚効果を発揮することができることから、以上の物品に対して特に好適に用いることができる。

0050

その他、本発明の滑水・滑油性膜は、透明性の高い膜とすることができるため、窓ガラス、自動車のフロントガラス等の透明性を必要とする透明ガラス製品へと被覆して、防汚効果を付与することができる。特に、太陽電池の表面保護用ガラス基板は、屋外へと設置されるため、雨風による砂やほこり落ち葉フン等、さまざまな種類のものが表面に付着し、発電効率が低下してしまう場合がある。これに対して、本発明の滑水・滑油性膜を被覆することで、これらの付着が妨げられ、あるいは固形物として一時的に付着してしまった場合にも雨水とともに流し落とされるため、汚れの付着による発電効率の低下を防ぐことができる。

0051

本発明の滑水・滑油性膜は、防汚対象とする物品の表面上に直接形成してもよく、あるいは、先に述べたように、予め形成した自立性の滑水・滑油性膜を、対象とする物品に貼付して使用してもよい。

0052

以下、実施例を参照して本発明についてより詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
試料
・高分子:ポリ(フッ化ビニリデンヘキサフルオロプロピレン)共重合体(SigmaAldrich社製,PVDF-HFP; Mw〜400000, Mn〜130000,HEP/VDF=10mol%)
・細孔形成剤:フタル酸ジn−ブチル(Kanto Chemical社製, DBP, 99.5%)
・揮発性溶媒:アセトン(Kanto Chemical社製, 99.5%)
・細孔除去用有機溶媒:エタノール(Kanto Chemical社製, 99.5%)
・滑剤液:パーフルオロポリエーテル(DuPont社製, PFPE, Krytox 103)
・基板:ガラス基板(Matsunami社製, Microslide glass s 122,RI=1.52)

0053

<高分子/細孔形成剤(PVDF-HFP/DBP)溶液の調製>
PVDF-HFPとDBPを合計20質量%となるようにアセトン中に添加した。PVDF-HFP:DVPの質量比を、それぞれ1:0.5,1:1,1:2,1:3,1:4,1:5となるように調整した各種溶液をそれぞれ準備した。50℃で1時間撹拌し、1昼夜以上放置した。

0054

<多孔質高分子膜(PVDF-HFP)の作成>
高分子/細孔形成剤(PVDF-HFP/DBP)溶液を、簡易な湿式スクイージ法によって、ガラス基板表面上に塗布した。ガラス基板上に厚さ0.058mmのメンディングテープ2片を巻き、その間隙にスクイージを用いてPVDF-HFP/DBP溶液を塗布した。このため、ガラス基板表面上のPVDF-HFP/DBP溶液の容積は、1.0cm2当たり5.8mm3であった。PVDF-HFP/DBP層を室温で1分以上乾燥した。その間、PVDF-HFPとDBPの相分離が自然に生じ、乾燥によってその構造が固定された。つづいて、このPVDF-HFP/DBP層をエタノール中に1分以上浸漬してDBPを抽出分離した後、10秒間送風乾燥して、PVDF-HFPの多孔質高分子膜を得た。

0055

<滑水・滑油性膜の製造>
パーフルオロポリエーテル(PFPE)をPVDF-HFPの多孔質高分子膜に注入した。最初、半透明外観であったが、PFPEの含浸により透明に変化した。その後、PVDF-HFP膜の表面に送風し、余分のPFPEを除去した。

0056

物性測定
PVDF-HFP多孔質高分子膜の表面形態は、電界放射型走査電子顕微鏡(FE-SEM, S-4700, Hitachi社製)を用いて調べた。厚さ及び表面粗さは、レーザー顕微鏡(VK-9700 Generation II, Keyence社製)を用いて決定した。転落角は、接触角計(CA-DT, Kyowa社製)を用いて測定した。透過率は、紫外可視吸収分光計(UV-mini 1240, Shimadzu社製)を用いて測定した。単結晶標準太陽電池(CIC社製)の光電流密度電圧曲線は、被覆面積2.8cm2、AM1.5疑似太陽光(1000mWcm-2)照射条件下で測定した。光源として500Wキセノンランプ(UXL-500SX, Ushio社製)を使用した。機械的強度及び柔軟性(伸長速度)は、引っ張り強度試験機(EZ-LX, Shimadzu社製)を用いて決定した。引っ張り強度試験用サンプルは、20×60mm、厚さ2μmとした。

0057

PVDF-HFP多孔質高分子膜の表面形態
高分子/細孔形成剤(PVD-HFP/DBP)の比率を各種変化させて作製した多孔質高分子膜のSEM写真を撮影し、それぞれの膜の表面形態を調べた。使用した多孔質高分子膜のPVD-HFP/DBP比率は、それぞれ、1:0.5,1:1,1:2,1:5である。それぞれの多孔質高分子膜のSEM写真図を図3A〜Dに示す。

0058

図3A〜Dに示すように、PVD-HFP/DBP比率によって表面形態はそれぞれ異なっていた。1:0.5では、膜表面は平坦領域と孔とからなっていた。また、1:1,1:2,1:5では、繊維と孔とからなる網目状構造が形成されていた。1:0.5と1:1とを比較すると、DBPの増量によって孔密度が増加し、平坦領域が減少している。このため、1:1では、平坦というよりはむしろ繊維状と見ることができる。1:2では、1:1よりもさらに孔密度が増加し、繊維径が小さくなっている。1:2と1:5とを比較すると、繊維径は小さくなっているものの、むしろ個々の孔径が大きくなってしまっていることが確認できる。これは、孔密度の増加により孔同士が互いに連結してしまっているためと考えられる。

0059

表1及び図4に、上記試験に用いたPVD-HFP/DBP比率の異なる各種多孔質高分子膜の孔径と繊維径の測定結果を示す。

0060

表1及び図4に示されるように、DBP比の増加によって繊維径は小さくなる傾向にあった。これに対し、孔径は、1:0.5を除いて、DBP量の増加に伴って大きくなることが確認された。1:0.5の孔径が1:1よりも大きい理由は、1:1においては孔がアンプル状構造、すなわち、小さな開口部とより大きな内部空間とを有しているためであり、孔径が見かけ上小さく見えるためである。このようなアンプル状構造は、塗布膜形成工程において、アセトンが気化してPVDF-HFPとDBPとが相分離を生じた際、より比重の軽いDBPが表面上に浮かび上がる途中で固定化されるために生じていると考えられる。

0061

表2及び図5に、PVD-HFP/DBP比率の異なる各種多孔質高分子膜の表面粗さ(二乗平均平方根粗さ:Rms)の測定結果を示す。

0062

表2及び図5に示されるように、DBP比の増加に応じて表面粗さの値も増大していることが確認された。なお、表面粗さの相違は、1:1と1:2との間で最も大きく、1.2から1:5の間ではそれほどでなかった。

0063

表3及び図6に、PVD-HFP/DBP比率の異なる各種多孔質高分子膜の厚さの測定結果を示す。

0064

表3及び図6に示されるように、多孔質高分子膜の厚さは、1:0.5から1:3の間でほとんど同じであり、1:4ではより薄く、1:5ではさらに薄くなっていた。これは、1:0.5から1:3の間では、DBP比の増加は多孔性(空隙率)の増加に影響する一方で、DBP比が1:4を超えると過剰のDBPによって厚みが減少するものと考えられる。このため、PVD-HFP/DBP比が1:4を超える多孔質高分子膜は、より壊れやすいと考えられる。なお、膜の機械的強度及び柔軟性については、後述する。

0065

滑水・滑油性膜の転落角
表4及び図7に、PVD-HFP/DBP比率の異なる各種多孔質高分子膜を用いて調製した滑水・滑油性膜における水及び油(オレイン酸)に対する転落角の測定結果を示す。なお、滑剤液としては、パーフルオロポリエーテル(PFPE)を使用した。

0066

表4及び図7に示すように、1:2及び1:5の膜においては、水、オレイン酸の両者に対して、十分に小さな転落角を示した。これに対して、1:0.5及び1:1の膜では、転落角が大きく、膜表面への液体の粘着を示した。
図8に、PVDF-HFP多孔質(PFPE含浸)膜表面の液体の粘着性の説明図を示す。図3A,Bにも示されているように、1:0.5及び1:1の膜表面には平坦な領域が存在し、また、表面粗さも1:2及び1:5の膜表面と比べて小さい。このため、1:0.5及び1:1の膜は、滑剤液を保持するために適した構造を有していないといえる。すなわち、平坦領域においては滑剤液を保持することはできず、図8上部に図示されるように、露出した平坦領域によって液滴が捕捉されて付着する。これに対して、1:2及び1:5の膜は、図8下部に図示されるように、平坦領域がほとんどないため、水及びオレイン酸ともに非常に小さい転落角を示す。さらに、1:2及び1:5の膜は、より表面エネルギーの小さいヘキサンに対しても、それぞれ3.4°,3.6°と小さい転落角を示した。このことから、これらの滑水・滑油性膜は、さまざまな種類の液体を滑り落として除去し、その付着による汚れを防ぐことができると考えられる。

0067

滑水・滑油性膜の透明性
図9に、各種PVDF-HFP膜について、滑剤液(PFPE)の含浸の前後における可視光領域の透過率を測定した結果を示す。なお、図9中、実線AはPFPE含浸後、点線BはPFPE含浸前である。また、表5及び図10に、波長600nmの光の透過率の測定結果を示す。

0068

図9に示されるように、いずれのPVDF-HFP膜も、PFPEの含浸前には可視光領域の透過率が80%未満であったにもかかわらず、PFPE含浸後にはおおよそ80%程度の透過率を示した。また、表5及び10に示されるように、PFPE含浸後の600nmの光透過率は約88%であった。なお、PVDF-HFP膜の屈折率(RI)は1.40であり、PFPE含浸前には、膜内の光経路においてPVDF-HPF(RI=1.40)と空気(RI=1.00)mpが存在することになる。これに対して、PFPE含浸後には、膜内にPVDF−HPF(RI=1.40)とPFPE(RI=1.29)が存在し、これらの屈折率の差が小さいため、界面での反射も非常に小さくなる。これら2物質間の光反射率を計算すると、PVDF-HFP/空気間では2.8%、PVDF-HFP/PFPE間では0.17%となる。したがって、PFPE含浸前には、PVDF-HPF繊維と空気との界面で乱反射を生じるため透明性は低下し、対してPFPE含浸後には、PVDF-HFPとPFPEとの界面での光反射が少なくなるので、透明性が高くなる。PFPE含浸後のPVDF-HPF膜の光透過率は、未処理ガラス基板と比較しても5%程度であり、非常に透明性が高いことが確認できる。

0069

図11に、丸みをおびた形状のレンズ表面に、キャスト法にてPVDF-HFP多孔質(PFPE含浸)膜を作製した眼鏡の写真図を示す。なお。左側レンズは未処理であり、右側レンズにPVDF-HFP多孔質(PFPE含浸)膜が被覆されている。図11に示されるように、左側のPVDF-HFP多孔質(PFPE含浸)膜を被覆したレンズの透明性は、右側の未処理レンズと遜色なく、眼鏡として十分に使用可能であることが確認できる。なお、図11は、左側レンズ表面上の水滴転落している途中の写真図であり、図中矢印は水滴の転落方向を示している。

0070

図12に、裸太陽電池、ガラス基板でカバーした太陽電池、PVDF-HFP膜(PFPE含浸前)、PVDF-HFP膜(PFPE含浸後)のそれぞれを被覆したガラス基板でカバーした太陽電池を作製し、それぞれの太陽電池について高電流密度(Jsc)-電位(Voc)曲線を測定した結果を示す。なお、PVD-HFP/DBP比は1:2の膜を用いた。その他、各種太陽電池について、曲線因子(FF)、光電変換効率ηについても測定した。結果を表6に示す。

0071

0072

図12及び表6に示される結果は、図9,10に示した透過率の測定結果とおおよそ合致した。すなわち、表6に示されるように、PFPE含浸前のPVDF-HFP膜を用いて作製した太陽電離においては、裸太陽電池あるいはガラスカバー太陽電池と比較して、電池特性、特に光電変換効率ηが著しく低下していたものの、PFPE含浸後のPVDF-HFP膜を用いて作製した太陽電池では、各種電池特性の低下は小さく抑えられていた。PVDF-HFP膜はガラス基板上に被覆して試験を行なっていることから、PFPE含浸後のPVDF-HFP膜の被覆による光電変換効率ηの低下は、実質的に0.565%(ガラスカバー太陽電池との差)である。これらの結果から、PFPE含浸後のPVDF-HFP膜は太陽電池の防汚フィルムとして有用であると考えられる。

0073

滑水・滑油性膜の機械的強度及び柔軟性
ガラス基板上に作製したPVDF-HFP膜の端部に粘着テープを貼り、これをガラス基板から剥がすと同時にPVDF-HFP膜をガラス基板から分離した。得られたPVDF-HFP(PFPE含浸)の自立膜について、引っ張り強度を測定した結果を表7及び図13に、伸張速度を測定した結果を表8及び図14に示す。

0074

0075

表7及び図13に示されるように、引っ張り強度はDBP比率の増加により減少し、1:5では自立した膜が得られなかった。これは、図3A〜Dからも明らかなように、DBP比率の増加に反比例して、PVDF-HFP骨格の密度が減少してしまうためである。DBP比率が1:2の膜の引っ張り強度が最も小さく、0.22Nであった。また、表8及び図14に示されるように、PVDF-HFP(PFPE含浸)からなる自立膜の伸張速度は168.8%以上であり、優れた柔軟性を示していた。

0076

図15に、上記試験により作製したDBP比率1:2のPVDF-HFP(PFPE含浸)からなる自立膜の写真図を示す。図15に示されるように、ガラス基板から剥がして得られた自立膜は、透明性が高く、且つ独立したフィルムとして使用可能である。このため、例えば、使い捨ての防汚フィルムとして任意の物品に貼付して用いることができる。

0077

滑水・滑油性膜の耐久性
ガラス基板表面上に形成したPVDF-HFP膜にPFPEを含浸させ、各種回転速度で1分間回転させた後、水の転落角を測定した結果を表9及び図16に示す。

0078

表9及び図16に示されるように、PVDF-HFP(PFPE含浸)膜に回転を与えた後も、滑水効果(水転落角)にほとんど影響はなかった。この結果から、回転によって、PVDF-HFP多孔質膜からのPFPEの滲出あるいは漏出が生じておらず、滑水・滑油性膜として優れた耐久性を示すことが明らかとなった。

0079

また、上記試験と同様、PVDF-HFP(PFPE含浸)膜に対して、80g/cm2の荷重条件で所定時間摩耗を与えた後、水の転落角を測定した結果を表10及び図17に示す。

0080

表10及び図17に示されるように、PVDF-HFP(PFPE含浸)膜に対して摩耗を与えた後も、水転落角の測定結果はほとんど変化しておらず、PVDF-HFP多孔質膜からのPFPEの滲出あるいは漏出が生じていないことが確認された。以上の回転試験と同様、これらの優れた耐久性は、PVDF-HFP多孔質膜の内部構造に起因しているものと考えられる。すなわち、PVDF-HFP多孔質膜の内部が、繊維状の高分子が三次元方向に相互に絡み合った網目構造の骨格を有しており、その空隙としての連続細孔の内部にPFPEが含浸されるため、回転あるいは摩耗によっても、孔内部のPFPEが容易に滲出あるいは漏出することい。このため、耐久性に非常に優れた滑水・滑油性膜が得られる。

実施例

0081

各種液体に対する防汚性
ガラス基板表面上に作製したPVDF-HFP/DBP比率1:2のPVDF-HFP(PFPE含浸)膜に対して、性質の異なる各種液体を滴下し、それら液体に対する防汚性について評価した。図18A〜Dに写真図を示す。使用した液体は、A:血液、B:高粘性飲料(お汁粉)、C:食品用油、D:洗浄剤である。
図18A〜Dに示されるように、PVDF-HFP(PFPE含浸)膜は、いずれの液体に対しても高い接触角を示しており、ガラス基板を斜めに傾けることで即時に液滴が滑り落ちた(なお、図18A〜Dは液滴が転落している途中の写真図である)。これらの結果から、PVDF-HFP(PFPE含浸)膜によって、性質の異なるさまざまな種類の液体に対する優れた防汚効果を付与することが可能であるといえる。

0082

10滑水・滑油性膜
12多孔質高分子膜
14滑剤液
20 外部液体

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