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技術 時効硬化型ベイナイト非調質鋼

出願人 大同特殊鋼株式会社株式会社デンソー
発明者 田中優樹針谷誠宮崎貴大森田耕司谷村圭宏伊藤登史政西脇正福岡朋光
出願日 2015年3月4日 (5年9ヶ月経過) 出願番号 2015-042253
公開日 2015年10月15日 (5年2ヶ月経過) 公開番号 2015-180773
状態 特許登録済
技術分野 鋼の加工熱処理 物品の熱処理
主要キーワード 亀裂進行 円錐圧子 寸法修正 先端周り 空冷処理 選択的添加 時効硬化処理後 シャフト類
関連する未来課題
重要な関連分野

この項目の情報は公開日時点(2015年10月15日)のものです。
また、この項目は機械的に抽出しているため、正しく解析できていない場合があります

図面 (2)

課題

従来に増して高い破壊靭性値の得られる時効硬化ベイナイト非調質鋼を提供する。

解決手段

時効硬化型ベイナイト非調質鋼を、質量%でC:0.06〜0.35%,Si:0.01〜2.00%,Mn:0.10〜3.00%,S:0.001〜0.200%,Cu:0.001〜2.00%,Ni:0.40〜3.00%,Cr:0.10〜3.00%,Mo:0.10〜1.00%,V:0.10〜1.00%,s-Al:0.001〜0.100%,残部Fe及び不可避的不純物から成り、且つ下記式(1)の値が20以上,式(2)の値が0.82以上をそれぞれ満たす組成を有するものとする。 3×[C]+10×[Mn]+2×[Cu]+2×[Ni]+12×[Cr]+9×[Mo]+2×[V]・・式(1) 1.66×[C]+0.18×[Si]+0.27×[Mn]+0.09×[Ni]+0.32×[Cr]+0.34×[Mo]+0.44×[V]・・式(2) (但し式(1),式(2)中[ ]は[ ]内元素含有質量%を表す)

概要

背景

従来において、強度,靭性を必要とする自動車用部品機械構造部品等には、熱間鍛造等の熱間加工後焼入れ焼戻し処理調質処理)されて使用される調質鋼が用いられてきた。

ところが調質鋼は強度,靭性に優れているものの、部品製造に際して熱間加工後の焼入れ焼戻し処理(調質処理)のための熱処理コストが高いといった問題の他、マルテンサイト変態に伴う熱処理歪みが大で、熱処理後の形状修正寸法修正のための機械加工量が多くなって歩留りの悪化を招き、しかもその加工を硬いマルテンサイト状態の下で行うことから被削性加工性)が悪く、部品製造のための所要時間が長くまた高コストとなる問題がある。

熱間加工まま(詳しくはその後の主として空冷による冷却まま)で所要硬さを発現し、熱間加工後の焼入れ焼戻し処理を省略しても目的とする強度を得ることのできる非調質鋼は、コスト低減応え得るものとして調質鋼代替材料として機械構造部品等に広く適用されている。

このような非調質鋼として、中炭素鋼に微量のVを添加したフェライトパーライト型の非調質鋼があるが、フェライト・パーライト非調質鋼においては、強度を一定以上に高めるためにはほぼパーライト単相になるまでパーライトの面積率を高める必要がある。
ところがこの場合、鋼組織がフェライトに比べ脆いパーライト主体組織となるため靭性が著しく低下してしまう。従って靭性を確保しながら強度を一定以上に高くすることは難しい。

非調質鋼として、熱間加工ままでベイナイト組織を呈するベイナイト非調質鋼があり、このものはフェライト・パーライト非調質鋼に比べれば靭性が優れているが、一方で耐力が低いといった問題がある。
また耐力を向上させるために単純に硬さを高めれば被削性が劣化し、切削加工の際の負荷を増大させ加工性を悪化させてしまう。
1つの解決手段として、時効硬化型のベイナイト非調質鋼が研究されている。

時効硬化型のベイナイト非調質鋼は、熱間加工ままの組織をベイナイトとした上で、その後の時効硬化処理により硬さを高めるもので、この時効硬化型のベイナイト非調質鋼では、熱間加工後の軟らかい状態で機械加工を行うことができ、その後の時効硬化処理で硬さを所要硬さまで高めることができる。

しかしながら従来の時効硬化型ベイナイト非調質鋼は、フェライト・パーライト非調質鋼に比べれば靭性が良好であるものの、従来の調質鋼に比べればなお靭性が不十分である。
ところが従来の時効硬化型ベイナイト非調質鋼においては、研究の主眼が主として高硬度高強度化に向けられており、靭性を高めるための研究は十分には行われていない。

そうした中で、下記特許文献1には「高疲労強度、高靭性機械構造用鋼部品およびその製造方法」についての発明が示され、そこにおいてベイナイトラス微細化によって靭性の向上を図った点が開示されている。
しかしながらこの特許文献1においての靭性改善は衝撃特性シャルピー衝撃値)の改善に関するもので、衝撃特性とは別の靭性である破壊靭性については未だ不十分であり、破壊靭性が要求される部品への適用は困難である。
また、特許文献1に記載のものは高い冷却速度を要し、このため製造面において大きな制約がつく。

尚、本発明に対する他の先行技術として、下記特許文献2には「浸炭および浸炭窒化用鋼」についての発明が示され、そこにおいて高いピッチング疲労強度とともに高い衝撃強度が要求される歯車シャフト類に適用される浸炭及び浸炭窒化用鋼において、Si含有量の増量による焼戻し硬さの向上と、Ni或いはMoの単独若しくは複合添加による浸炭相及び心部の破壊靭性値の向上を図るようにした点が開示されている。
しかしながら、この特許文献2に記載のものは時効硬化型のベイナイト非調質鋼でない点で基本的に本発明と異なる。

下記特許文献3には「熱間鍛造用圧延棒鋼および熱間鍛造素形材およびその製造方法」についての発明が示され、そこにおいて引張強度に与える影響の指標となるパラメータの式Fn1が1.20を超えると、熱間鍛造後に、熱間鍛造素形材にベイナイトが生成して破壊靭性値が低下することから、Fn1の値を1.20以下とするように合金成分を規制する点が開示されている。
しかしながらこの特許文献3に開示のものは、鋼組織がフェライト・パーライト組織であって時効硬化型のベイナイト非調質鋼ではなく、またNi含有量が0.20%以下と少ない点で本発明とは異なる。

下記特許文献4には「時効硬化鋼」についての発明が示され、そこにおいて時効処理前のベイナイト組織の面積率が50%以上で、時効処理によって硬さが時効処理前の硬さよりも7HRC以上高くなる時効硬化鋼が開示されている。
この特許文献4に記載のものは、特許請求の範囲において選択的添加成分としてのNi含有量が1.0%以下と規定されているものの、Niを添加した実施例の開示は一切なく、実質的にこの特許文献4に記載のものはNi非添加のもので本発明とは異なる。

概要

従来に増して高い破壊靭性値の得られる時効硬化型ベイナイト非調質鋼を提供する。時効硬化型ベイナイト非調質鋼を、質量%でC:0.06〜0.35%,Si:0.01〜2.00%,Mn:0.10〜3.00%,S:0.001〜0.200%,Cu:0.001〜2.00%,Ni:0.40〜3.00%,Cr:0.10〜3.00%,Mo:0.10〜1.00%,V:0.10〜1.00%,s-Al:0.001〜0.100%,残部Fe及び不可避的不純物から成り、且つ下記式(1)の値が20以上,式(2)の値が0.82以上をそれぞれ満たす組成を有するものとする。 3×[C]+10×[Mn]+2×[Cu]+2×[Ni]+12×[Cr]+9×[Mo]+2×[V]・・式(1) 1.66×[C]+0.18×[Si]+0.27×[Mn]+0.09×[Ni]+0.32×[Cr]+0.34×[Mo]+0.44×[V]・・式(2) (但し式(1),式(2)中[ ]は[ ]内元素含有質量%を表す) なし

目的

熱間加工まま(詳しくはその後の主として空冷による冷却まま)で所要硬さを発現し、熱間加工後の焼入れ焼戻し処理を省略しても目的とする

効果

実績

技術文献被引用数
0件
牽制数
0件

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請求項1

質量%でC:0.06〜0.35%Si:0.01〜2.00%Mn:0.10〜3.00%S:0.001〜0.200%Cu:0.001〜2.00%Ni:0.40〜3.00%Cr:0.10〜3.00%Mo:0.10〜1.00%V:0.10〜1.00%s-Al:0.001〜0.100%残部Fe及び不可避的不純物から成り、且つ下記式(1)の値が20以上,式(2)の値が0.82以上をそれぞれ満たす組成を有することを特徴とする時効硬化ベイナイト非調質鋼。3×[C]+10×[Mn]+2×[Cu]+2×[Ni]+12×[Cr]+9×[Mo]+2×[V]・・式(1)1.66×[C]+0.18×[Si]+0.27×[Mn]+0.09×[Ni]+0.32×[Cr]+0.34×[Mo]+0.44×[V]・・式(2)(但し式(1),式(2)中[]は[]内元素含有質量%を表す)

請求項2

請求項1において、更に以下の式(3)の値が600以上を満たす組成を有することを特徴とする時効硬化型ベイナイト非調質鋼。727+21.2×[Si]−37.8×([Mn]+[Ni])+13.5×[Cr]+2.7×[Mo]・・式(3)(但し式(3)中[]は[]内元素の含有質量%を表す)

請求項3

請求項1,2の何れかにおいて、質量%でTi:≦0.300%Nb:≦0.300%の何れか1種若しくは2種を更に含有することを特徴とする時効硬化型ベイナイト非調質鋼。

請求項4

請求項1〜3の何れかにおいて、質量%でPb:0.001〜0.300%Bi:0.001〜0.300%Te:0.001〜0.300%Ca:0.001〜0.010%の何れか1種又は2種以上を更に含有することを特徴とする時効硬化型ベイナイト非調質鋼。

技術分野

0001

この発明は熱間加工後においてベイナイト組織を有し、その後の時効硬化処理によって析出硬化高硬度化する時効硬化ベイナイト非調質鋼に関し、詳しくは従来のものに比べて高い破壊靭性を有する時効硬化型ベイナイト非調質鋼に関する。

背景技術

0002

従来において、強度,靭性を必要とする自動車用部品機械構造部品等には、熱間鍛造等の熱間加工後に焼入れ焼戻し処理調質処理)されて使用される調質鋼が用いられてきた。

0003

ところが調質鋼は強度,靭性に優れているものの、部品製造に際して熱間加工後の焼入れ焼戻し処理(調質処理)のための熱処理コストが高いといった問題の他、マルテンサイト変態に伴う熱処理歪みが大で、熱処理後の形状修正寸法修正のための機械加工量が多くなって歩留りの悪化を招き、しかもその加工を硬いマルテンサイト状態の下で行うことから被削性加工性)が悪く、部品製造のための所要時間が長くまた高コストとなる問題がある。

0004

熱間加工まま(詳しくはその後の主として空冷による冷却まま)で所要硬さを発現し、熱間加工後の焼入れ焼戻し処理を省略しても目的とする強度を得ることのできる非調質鋼は、コスト低減応え得るものとして調質鋼代替材料として機械構造部品等に広く適用されている。

0005

このような非調質鋼として、中炭素鋼に微量のVを添加したフェライトパーライト型の非調質鋼があるが、フェライト・パーライト非調質鋼においては、強度を一定以上に高めるためにはほぼパーライト単相になるまでパーライトの面積率を高める必要がある。
ところがこの場合、鋼組織がフェライトに比べ脆いパーライト主体組織となるため靭性が著しく低下してしまう。従って靭性を確保しながら強度を一定以上に高くすることは難しい。

0006

非調質鋼として、熱間加工ままでベイナイト組織を呈するベイナイト非調質鋼があり、このものはフェライト・パーライト非調質鋼に比べれば靭性が優れているが、一方で耐力が低いといった問題がある。
また耐力を向上させるために単純に硬さを高めれば被削性が劣化し、切削加工の際の負荷を増大させ加工性を悪化させてしまう。
1つの解決手段として、時効硬化型のベイナイト非調質鋼が研究されている。

0007

時効硬化型のベイナイト非調質鋼は、熱間加工ままの組織をベイナイトとした上で、その後の時効硬化処理により硬さを高めるもので、この時効硬化型のベイナイト非調質鋼では、熱間加工後の軟らかい状態で機械加工を行うことができ、その後の時効硬化処理で硬さを所要硬さまで高めることができる。

0008

しかしながら従来の時効硬化型ベイナイト非調質鋼は、フェライト・パーライト非調質鋼に比べれば靭性が良好であるものの、従来の調質鋼に比べればなお靭性が不十分である。
ところが従来の時効硬化型ベイナイト非調質鋼においては、研究の主眼が主として高硬度高強度化に向けられており、靭性を高めるための研究は十分には行われていない。

0009

そうした中で、下記特許文献1には「高疲労強度、高靭性機械構造用鋼部品およびその製造方法」についての発明が示され、そこにおいてベイナイトラス微細化によって靭性の向上を図った点が開示されている。
しかしながらこの特許文献1においての靭性改善は衝撃特性シャルピー衝撃値)の改善に関するもので、衝撃特性とは別の靭性である破壊靭性については未だ不十分であり、破壊靭性が要求される部品への適用は困難である。
また、特許文献1に記載のものは高い冷却速度を要し、このため製造面において大きな制約がつく。

0010

尚、本発明に対する他の先行技術として、下記特許文献2には「浸炭および浸炭窒化用鋼」についての発明が示され、そこにおいて高いピッチング疲労強度とともに高い衝撃強度が要求される歯車シャフト類に適用される浸炭及び浸炭窒化用鋼において、Si含有量の増量による焼戻し硬さの向上と、Ni或いはMoの単独若しくは複合添加による浸炭相及び心部の破壊靭性値の向上を図るようにした点が開示されている。
しかしながら、この特許文献2に記載のものは時効硬化型のベイナイト非調質鋼でない点で基本的に本発明と異なる。

0011

下記特許文献3には「熱間鍛造用圧延棒鋼および熱間鍛造素形材およびその製造方法」についての発明が示され、そこにおいて引張強度に与える影響の指標となるパラメータの式Fn1が1.20を超えると、熱間鍛造後に、熱間鍛造素形材にベイナイトが生成して破壊靭性値が低下することから、Fn1の値を1.20以下とするように合金成分を規制する点が開示されている。
しかしながらこの特許文献3に開示のものは、鋼組織がフェライト・パーライト組織であって時効硬化型のベイナイト非調質鋼ではなく、またNi含有量が0.20%以下と少ない点で本発明とは異なる。

0012

下記特許文献4には「時効硬化鋼」についての発明が示され、そこにおいて時効処理前のベイナイト組織の面積率が50%以上で、時効処理によって硬さが時効処理前の硬さよりも7HRC以上高くなる時効硬化鋼が開示されている。
この特許文献4に記載のものは、特許請求の範囲において選択的添加成分としてのNi含有量が1.0%以下と規定されているものの、Niを添加した実施例の開示は一切なく、実質的にこの特許文献4に記載のものはNi非添加のもので本発明とは異なる。

先行技術

0013

特開2012−246527号公報
特開2001−192765号公報
特開2013−166983号公報
特開2006−037177号公報

発明が解決しようとする課題

0014

本発明は以上のような事情背景とし、従来に増して高い破壊靭性値の得られる時効硬化型ベイナイト非調質鋼を提供することを目的としてなされたものである。

課題を解決するための手段

0015

而して請求項1のものは、質量%でC:0.06〜0.35%,Si:0.01〜2.00%,Mn:0.10〜3.00%,S:0.001〜0.200%,Cu:0.001〜2.00%,Ni:0.40〜3.00%,Cr:0.10〜3.00%,Mo:0.10〜1.00%,V:0.10〜1.00%,s-Al:0.001〜0.100%,残部Fe及び不可避的不純物から成り、且つ下記式(1)の値が20以上,式(2)の値が0.82以上をそれぞれ満たす組成を有することを特徴とする。
3×[C]+10×[Mn]+2×[Cu]+2×[Ni]+12×[Cr]+9×[Mo]+2×[V]・・式(1)
1.66×[C]+0.18×[Si]+0.27×[Mn]+0.09×[Ni]+0.32×[Cr]+0.34×[Mo]+0.44×[V]・・式(2)
(但し式(1),式(2)中[ ]は[ ]内元素含有質量%を表す)

0016

請求項2のものは、請求項1において、更に以下の式(3)の値が600以上を満たす組成を有することを特徴とする。
727+21.2×[Si]−37.8×([Mn]+[Ni])+13.5×[Cr]+2.7×[Mo]・・式(3)
(但し式(3)中[ ]は[ ]内元素の含有質量%を表す)

0017

請求項3のものは、請求項1,2の何れかにおいて、質量%でTi:≦0.300%,Nb:≦0.300%の何れか1種若しくは2種を更に含有することを特徴とする。

0018

請求項4のものは、請求項1〜3の何れかにおいて、質量%でPb:0.001〜0.300%,Bi:0.001〜0.300%,Te:0.001〜0.300%,Ca:0.001〜0.010%の何れか1種又は2種以上を更に含有することを特徴とする。

0019

以上のように本発明は、時効硬化型ベイナイト非調質鋼の破壊靭性を高めるべく、Niを0.40%以上の高含有量としたことを1つの特徴としたものである。
例えば靭性のうちの1つの特性であるシャルピー衝撃値は、亀裂の無い状態から亀裂発生するまでの抵抗力と、亀裂発生してから亀裂進行破断に到るまでの抵抗力との合計の抵抗力で定まる特性であるのに対し、破壊靭性値は予亀裂を与えた状態即ち亀裂のある状態で、外部から力を加えたときに亀裂が伝播進行する際の抵抗力で定まる特性で、脆性的な破壊に対する材料の抵抗特性である。

0020

本発明では、Ni以外の合金成分を上記所定量で含有させた上で、Niを0.40%以上の高含有量とすることで時効硬化型ベイナイト非調質鋼の破壊靭性を高くし得たもので、本発明によれば、目標とする破壊靭性値KIC=50MPa・m1/2以上を得ることが可能である。
その理由は必ずしも明確ではないが、Niを多く含有することで、亀裂の先端周りでの塑性変形が多く生成し易くなって加工硬化起り難くなり、結果として亀裂周りでの応力緩和が生じ易くなって応力集中が少なくなり、亀裂進行が抑制されることによるものと推定される。
但しこの効果を得るためには0.40%以上の高含有量とすることが必要である。
尚本発明において、破壊靭性値KICは、ASTM−E−399に規定する破壊靭性試験方法に準じて測定される値を意味する。

0021

本発明の時効硬化型ベイナイト非調質鋼は、時効硬化処理前の組織が実質的にベイナイト単相組織であること、詳しくはベイナイト組織の面積率が85%以上であることが望ましい。より好ましくは90%以上である。
時効硬化処理前の組織中にフェライト組織が混在していると、時効硬化特性が低下するばかりでなく、耐力比耐久比も低下し、疲労強度の低下が懸念される。
従って時効硬化処理前の組織はベイナイト単相組織であることが望ましい。
また時効硬化後の硬さは28HRC(室温硬さ)以上であることが望ましい。

0022

本発明では、3×[C]+10×[Mn]+2×[Cu]+2×[Ni]+12×[Cr]+9×[Mo]+2×[V]で表される式(1)の値が20以上となるようにC,Mn,Cu,Ni,Cr,Mo,Vの含有量を規制する。
また1.66×[C]+0.18×[Si]+0.27×[Mn]+0.09×[Ni]+0.32×[Cr]+0.34×[Mo]+0.44×[V]で表される式(2)の値が0.82以上となるようにC,Si,Mn,Ni,Cr,Mo,Vの含有量を規制する。
式(1)はベイナイトを安定して形成するための指数となるもので、また式(2)は時効処理後の硬さを表す指数となるものである。これらについては後により詳しく説明する。

0023

本発明ではまた、727+21.2×[Si]−37.8×([Mn]+[Ni])+13.5×[Cr]+2.7×[Mo]で表される式(3)の値が600以上となるようにSi,Mn,Ni,Cr,Moの含有量を規制することが望ましい(請求項2)。
式(3)は島状マルテンサイトの生成のし難さを表す指数となるもので、この式(3)の値が600以上となるようにすることで、島状マルテンサイトの生成を抑制でき、破壊靭性の特性を高めることができる。詳しくは、目標とする室温での破壊靭性値50MPa・m1/2以上を得易い。

0024

本発明ではまた、必要に応じてTi,Nbの1種又は2種を所定含有量で含有させることができる。
またPb,Bi,Te,Caの1種若しくは2種以上を所定含有量で含有させることができる。

0025

尚、本発明の時効硬化型ベイナイト非調質鋼は、例えば以下のように製造することができる。
即ち圧延,粗鍛造等の熱間鍛造後又は固溶化熱処理後に、温度800℃〜300℃の間を0.05〜10℃/秒の平均冷却速度で、通常は空冷により冷却することで製造することができる。
その後に必要に応じて切削加工や塑性加工等の加工を施し、しかる後に500〜700℃の温度にて0.5〜10時間かけて時効硬化処理を施すことにより、破壊靭性に優れた、目的とする硬さの部品を得ることができる。

0026

次に本発明における各化学成分等の限定理由につき、以下に詳述する。
C:0.06〜0.35%
Cは強度を確保するために必要な元素であるとともに、時効硬化処理によりMo,Vの炭化物析出させて鋼を高強度化する。その働きのために0.06%以上が必要であり、0.06%未満では所要の硬さ,強度が確保できない。
一方0.35%を超えて過剰に含有させると、セメンタイト量が増加し靭性が悪化するため、0.35%を上限とする。
より好ましい範囲は0.08〜0.16%である。

0027

Si:0.01〜2.00%
Siは鋼の溶製時の脱酸材として及び強度向上のために加えられる。その働きのためには0.01%以上含有させる必要がある。
一方2.00%を超えて過剰に含有させると金型等の寿命低下の要因となるため、2.00%を上限とする。
より好ましい範囲は0.10〜1.00%である。

0028

Mn:0.10〜3.00%
焼入性確保(ベイナイト組織の確保),強度向上,被削性向上(MnS晶出)のために0.10%以上含有させる必要がある。但し3.00%を超えて過剰に含有させるとマルテンサイト生成を招くので、3.00%を上限とする。
より好ましい範囲は0.50〜2.00%である。

0029

S:0.001〜0.200%
Sは被削性確保のために0.001%以上含有させる必要がある。但し0.200%を超えて過剰に含有させると製造性悪化の要因となるため、0.200%を上限とする。
より好ましい範囲は0.010〜0.120%である。

0030

Cu:0.001〜2.00%
Cuは焼入性確保(ベイナイト組織確保)及び強度向上のために含有させる。その働きのために0.001%以上含有させる必要がある。但し2.00%を超えて過剰に含有させるとコストの増大をもたらし、また製造性を悪化させるため、2.00%を上限とする。
より好ましい範囲は0.010〜1.00%である。

0031

Ni:0.40〜3.00%
Niは靭性(破壊靭性)確保のために本発明において不可欠な成分であり、その働きのために0.40%以上含有させる。但し3.00%を超えて過剰に含有させるとコスト増をもたらすため、3.00%を上限とする。
より好ましい範囲は0.40超〜2.00%であり、更に好ましくは0.50〜1.50%である。

0032

Cr:0.10〜3.00%
Crは焼入性確保(ベイナイト組織確保)及び強度向上のために含有させる。その働きのためには0.10%以上含有させる必要がある。但し3.00%を超えて過剰に含有させるとコスト増をもたらすため、3.00%を上限とする。
より好ましい範囲は0.50〜2.00%である。

0033

Mo:0.10〜1.00%
Moは時効硬化処理によりMo炭化物を析出させ、高強度化が得られるため含有させる。その働きのために0.10%以上含有させる。但し1.00%を超えて過剰に含有させるとコスト増をもたらすため、1.00%を上限とする。
より好ましい範囲は0.20〜0.80%である。

0034

V:0.10〜1.00%
VはMoと同様、時効硬化処理によりV炭化物を析出させ鋼を高強度化させる。その働きのため0.10%以上含有させる必要がある。但し1.00%を超えて過剰に含有させるとコスト増をもたらすため、1.00%を上限とする。
より好ましい範囲は0.20〜0.80%である。

0035

s-Al:0.001〜0.100%
s-Alは溶解中の脱酸に使用し、少なくとも0.001%以上含有させる。また、AlNの析出による結晶粒微細化効果によって靭性の向上をもたらす。但しAlNの過剰析出は被削性の劣化に繋がるため、0.100%を上限とする。
s-Alは、酸可溶性アルミニウムを表し、JIS G 1257(1994)の付属書15に記載された方法により定量される。尚、JIS G 1257(1994)の内容はここに参照として取り込まれる。

0036

Ti:≦0.300%
Tiは時効硬化処理によりTi炭化物を析出させ、更なる高強度化に寄与する。またTiN析出によるMnS微細化により加工性向上に寄与するため、必要に応じて含有させることができる。但し0.300%を超えて過剰に含有させると靭性を低下させるため、上限を0.300%とする。
尚Tiを含有させる場合、好ましくは0.005%以上含有させる。

0037

Nb:≦0.300%
Nbは時効硬化処理によりNb炭化物を析出させ、更なる高強度化に寄与する。但し0.300%を超えて過剰に含有させると靭性を低下させるため、0.300%を上限とする。
尚Nbを含有させる場合、好ましくは0.005%以上含有させる。
尚Ti,Nbは何れか一方だけを含有させることもできるし、或いはその両方を含有させることもできる。

0038

Pb:0.001〜0.300%
Bi:0.001〜0.300%
Te:0.001〜0.300%
Ca:0.001〜0.010%
これらの元素は快削元素として必要に応じ含有させることができる。但し含有量が多過ぎると強度や熱間加工性の低下をもたらすので、Pb,Bi,Teは0.300%を上限とする。またCaは0.010%を上限とする。

0039

式(1)の値:≧20.0 (式(1)・・3×[C]+10×[Mn]+2×[Cu]+2×[Ni]+12×[Cr]+9×[Mo]+2×[V])
式(1)はベイナイトを安定して形成するための指数となるもので、本発明では時効硬化処理前の鋼組織を実質的にベイナイト単相組織とする上で、詳しくはベイナイト組織の面積率を85%以上とする上で、この式(1)の値を20以上とすることが必要である。
式(1)の値が20よりも小さいとフェライト生成し易く、而してフェライト組織が15%以上混在すると、時効硬化特性が低下するばかりでなく耐力比,耐久比も低下し、そのことが疲労強度の低下に繋がる問題が懸念される。
式(1)の値は、好ましくは25.0以上50.0以下である。式(1)の値が50.0以下であればマルテンサイトが生成せず、被削性に優れる。

0040

式(2)の値:≧0.82 (式(2)・・1.66×[C]+0.18×[Si]+0.27×[Mn]+0.09×[Ni]+0.32×[Cr]+0.34×[Mo]+0.44×[V])
式(2)は時効硬化処理後の硬さを表す指数となるものであり、その値が大きいほど時効硬化処理後の硬さは硬くなる。
本発明では目標とする時効硬化後の硬さ28HRC以上を得るためには、式(2)の値を0.82以上とすることが必要である。
式(2)の値は、好ましくは1.00以上3.76以下である。

0041

式(3)の値:≧600 (式(3)・・727+21.2×[Si]−37.8×([Mn]+[Ni])+13.5×[Cr]+2.7×[Mo])
この式(3)は、島状マルテンサイトの生成のし難さを表す指数となるものであり、その値が小さいほど島状マルテンサイトが生成し易く、これにより破壊靭性値の低下が起る。
逆に値が大きいほど島状マルテンサイトが生成し難く、式(3)の値が600以上を満たすことで、島状マルテンサイトの生成を効果的に抑制でき、高靭性(破壊靭性)が得られ易い。
式(3)の値は、640以上であることがより好ましく、640以上780以下であることが更に好ましい。

0042

式(3)の値は、具体的にはベイナイト鋼を時効硬化処理する際に、逆変態によってオーステナイトが生成する温度を表している。
式(3)の値が例えば650であれば、640℃で時効硬化処理しても逆変態によるオーステナイト生成は生じず、また式(3)の値がこれよりも更に高ければ高いほどオーステナイトが出難い。

0043

本発明者らは、時効硬化型のベイナイト非調質鋼の場合、時効硬化処理すると、どうも破壊靭性が良くない点に着眼し、そこでその理由を探求したところ、実は時効硬化処理の際にベイナイトが逆変態してオーステナイトとなり、そしてその後の冷却時にオーステナイトの一部がマルテンサイト化して、残留オーステナイトの周りにマルテンサイト相が島状に生成すること、そしてその島状マルテンサイトが原因で破壊靭性が著しく低下することを突きとめた。

0044

そこで、発明者が見出したこの新規な課題を解決する上で、時効硬化処理の際にベイナイトが逆変態してオーステナイト化するのを抑制するのが有効であるとの意識の下に研究を行ったところ、逆変態によってオーステナイトが生成する温度を表す式(3)の値を600以上とすることで、時効硬化処理の際の島状マルテンサイトの発生を良好に抑制でき、破壊靭性を有利に高め得るとの知見を得た。
ここで式(3)の値はSi,Mn,Ni,Cr,Mo等の成分によって左右されることから、本発明ではそれら成分の含有量を、式(3)の値が600以上となるように規制することが望ましい。

発明の効果

0045

以上のような本発明によれば、従来に増して高い破壊靭性値を有する時効硬化型ベイナイト非調質鋼を提供できる。かかる時効硬化型ベイナイト非調質鋼は破壊靭性の求められる部品の材料として好適に適用可能である。

図面の簡単な説明

0046

(A)引張試験片採取についての説明図である。(B)破壊靭性試験片採取についての説明図である。
破壊靭性試験片の形状を示した図である。

0047

表1に示す化学組成の鋼150kgを真空誘導溶解炉にて溶製し、1250℃でφ60mmの丸棒鍛伸した。その後φ60mm丸棒材を1250℃加熱、1100℃鍛造の条件の下でφ45mmの丸棒に鍛造した後、室温まで空冷処理した。
その後、550〜675℃で2時間の条件で時効硬化処理を行い、引張試験硬さ試験ミクロ組織観察破壊靭性試験に供した。
またそれ以外に鍛造後空冷ままで、時効硬化処理しない状態でも硬さ試験を実施した。
ここで引張試験、硬さ試験、ミクロ組織観察、破壊靭性試験はそれぞれ以下のようにして行った。

0048

<引張試験>
引張試験については、図1(A)に示すように上記のφ45mmの丸棒より引張試験用の棒状の素材10を採取し、この素材10から平行部φ6mmで両端部にM10のネジ部を備えたJIS Z 2241の14A号試験片を作製して、引張速度1mm/secの条件で引張試験を行い、0.2%耐力比(0.2%耐力/引張強度)を求めた。目標値0.80以上を○、未満を×として表2に評価を示した。表2には、これら○、×の評価と併せて耐力比の数値も示した。

0049

<硬さ試験>
硬さ試験はJIS Z 2245に準拠し、ロックウェル硬度計にて荷重150kgfダイヤモンド円錐圧子で実施した。
硬さは試験片の半径1/2の個所で測定を行った。

0050

<ミクロ組織観察>
ミクロ組織観察については、ナイタール腐食後光学顕微鏡倍率400倍)にて観察し、ベイナイト率を測定した。ベイナイト率については、ベイナイト組織の面積率が85%以上であった場合を○、ベイナイト組織とフェライト組織の混合(フェライト組織の面積率15%以上)であった場合を×Fとし、ベイナイト組織とマルテンサイト組織混合組織(マルテンサイト組織の面積率15%以上)であった場合を×Mとして評価を行った。
尚、表中ではこれら○、×の評価と併せて、括弧書きで実際に測定されたベイナイトの面積率も併せて示してある。

0051

<破壊靭性試験>
破壊靭性試験については、ASTM−E−399に準じて行った。
図1(B)で示すように上記のφ45mmの丸棒より破壊靭性試験用の素材12を採取し、図2に示す試験片14を作成した。
試験片14は、径φ44mm、厚さ16mmの略円盤形状をなしており、外周部から中心部に向かう切欠き18が加工され、この切欠き18を挟んで対称位置には一対の円孔16,16が形成されている。
切欠き18の長さ(円孔16と16の各中心を結ぶ線分からの長さ)は12.5mmで、その先端には更に長さ2mmの予亀裂20が導入されている(トータル亀裂長さは14.5mm)。
そして試験片14には、図2で示すF方向に引張負荷を付与して、荷重と開口変位の変化を測定し破壊靭性値を求めた。
尚、試験温度は25℃、試験方向はC−R方向(軸心方向と直角方向に亀裂進行させる向き)、負荷速度は250N/s、導入予亀裂周波数は10Hz、とした。

0052

0053

0054

表1の結果において、比較鋼1及び比較鋼2はNi量が0.08%、また比較鋼3はNi量が0.20%で、いずれも本発明の下限値である0.40%よりも少量であり、そのため破壊靭性値が目標値50MPa・m1/2よりも低い。

0055

比較鋼4は、ベイナイト単相化の指数である式(1)の値が19で本発明の下限値である20よりも低く、鋼組織がフェライトとの混合組織となっている。その結果、時効硬化処理による硬さの上昇の程度が低く、時効硬化処理後の硬さも発明鋼に比べて低い。

0056

比較鋼5は、時効硬化処理後の硬さを表す指数である式(2)の値が0.81で本発明の下限値である0.82よりも低く、時効硬化処理後の硬さが27.5HRCで目標値28HRCよりも低い。

0057

比較鋼6は、Mn量が3.20%で本発明の上限値である3.00%よりも多量であり、また島状マルテンサイトの生成を抑制するための指数である式(3)の値が576で本発明の下限値600よりも低く、鋼組織がマルテンサイトとの混合組織となっており、被削性が悪い。

0058

比較鋼7は、Cr量が3.32%で本発明の上限値である3.00%よりも多量であり、鋼組織がマルテンサイトとの混合組織となっており、被削性が悪い。
これに対して本発明の条件を満たす1〜22の発明鋼は、何れの特性も良好である。

0059

以上本発明の実施例を詳述したがこれらはあくまで一例示であり、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた態様で実施可能である。

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