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課題
解決手段
概要
背景
被検体、とりわけ人体の内部の画像を写し出す装置の1つとして、超音波を送受信して得た受信信号に基づいて画像を表示する超音波診断装置が知られている。その超音波診断装置には、通常、受信信号に基づいて被検体内の観察領域内の血流分布をカラー表示する機能が備えられている。
この超音波診断装置では、電圧印加を受けて振動して超音波を送波し、また超音波による振動を受けて電圧信号を発生する超音波振動子が多数個配列された超音波探触子を備えたプローブが使われる。このプローブの超音波探触子を被検体の体表に宛てがい、超音波探触子を構成している多数個の超音波振動子のそれぞれに、所定の遅延パターンに従ってそれぞれ遅延された、中心周波数f0の複数のパルスからなるバースト波信号を印加する。すると、その超音波探触子から被検体内に、中心周波数f0の、所定の深さ位置に焦点を結ぶ超音波ビームが所定の方向に送波される。そしてその反射超音波を、超音波探触子を構成する複数の超音波振動子のそれぞれでピックアップして複数の信号を得、それら複数の信号を所定の遅延パターンに従ってそれぞれ遅延させて互いに加算する。これにより、被検体内に延びる超音波ビームを表わす、RF信号としての受信信号が得られる。この超音波送受信が複数回繰り返され、その間の超音波のドプラ遷移による位相の変化Φ(t)が求められて、その位相の変化Φ(t)と中心周波数f0とから、
但し、Tは送受信の繰返し周期
Cは音速
Vd(t)は超音波ビーム方向のドプラ速度(血流速度)
tは時刻
である。
が算出される。そして、観察領域内の各点の速度Vdを、通常は体表に近づく向きの血流が赤、遠ざかる向きの血流が青で、かつVdの大きさを色の輝度で表現する。この演算法は、複素自己相関法と呼ばれる。
特許文献1には、この複素自己相関法において、2つの周波数の超音波を送受信して位相差を補正する提案がなされている。
また、この複素自己相関法に代えて、時間領域の相互相関法(CCM)を採用することも提案されている。このCCMを採用すると、上記の複素自己相関法を採用したときのような、血流速度の算出可能速度範囲の制限を受けずに、高速な血流速度も算出可能である。
ただし、このCCMは計算量が膨大である。特許文献2には、このCCMにおいて計算量を低減させる提案がなされている。
概要
スペックルノイズによる血流速度の算出値の乱れを改善し血流速度を高精度に算出可能な超音波診断装置を提供する。被検体内の互いに異なる深さ位置に焦点を結ぶ超音波ビームをプローブに送波させる複数種類のパルス信号を生成してプローブに順次に送信し、複数種類のパルス信号に応じた複数種類の受信信号を生成し、それら複数種類の受信信号に基づいて血流速度を算出し、その算出された血流速度の、観察領域内の分布を表示する。
目的
効果
実績
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請求項1
被検体内への超音波ビームの送波と該被検体内で反射して戻ってきた超音波の受波とを担うプローブと、被検体内の互いに異なる深さ位置に焦点を結ぶ超音波ビームを前記プローブに送波させる複数種類のパルス信号を生成して該プローブに順次に送信する送信部と、前記プローブでの超音波の受波を捉えて、前記複数種類のパルス信号に応じた複数種類の受信信号を生成する受信部と、前記受信部で生成された前記複数種類の受信信号に基づいて血流速度を算出する演算部と、前記演算部で算出された血流速度の、観察領域内の分布を表示する表示部とを備えたことを特徴とする超音波診断装置。
請求項2
前記送信部は、中心周波数が互いに異なり、かつ、被検体内の、中心周波数に応じてそれぞれ異なる深さ位置に焦点を結ぶ超音波ビームを前記プローブに送波させる複数種類のパルス信号を生成して、該複数種類のパルス信号を該プローブに順次送信するものであることを特徴とする請求項1記載の超音波診断装置。
請求項3
前記演算部が、前記受信部で生成された、それぞれが超音波ビームを表わす、前記複数種類のバースト波信号に応じた複数種類の受信信号のうちの各1種類の受信信号ごとに、超音波のドプラ遷移に基づく血流速度の1次算出を行なう1次算出部と、該複数種類の受信信号に基づいて該1次算出部で1次算出された血流速度の複数の算出値に基づいて血流速度の2次算出を行なう2次算出部とを有するものであることを特徴とする請求項2記載の超音波診断装置。
請求項4
前記送信部は、被検体内の互いに異なる深さ位置に焦点を結ぶ超音波ビームを前記プローブに送波させる、1つのパルス信号内における周波数の変化軌跡が互いに異なる複数種類のチャープ信号からなる複数種類のパルス信号を生成して、該プローブに順次送信するものであることを特徴とする請求項1記載の超音波診断装置。
請求項5
前記演算部が、前記受信部で生成された、それぞれが超音波ビームを表わす、前記複数種類のパルス信号に応じた複数種類の受信信号を互いに加算することにより加算受信信号を生成し、該加算受信信号に基づいて血流速度を算出するものであることを特徴とする請求項4記載の超音波診断装置。
請求項6
前記複数種類のチャープ信号が、1つのパルス信号内において周波数が上昇した後下降する山形の周波数カーブを描く第1のチャープ信号と、1つのパルス信号のパルス幅内において周波数が下降した後上昇する谷形の周波数カーブを描く第2のチャープ信号とを含むものであることを特徴とする請求項4記載のカラードプラ超音波診断装置。
請求項7
前記複数種類のチャープ信号が、1つのパルス信号内において周波数が連続的に上昇する周波数カーブを描く第1のチャープ信号と、1つのパルス信号内において周波数が連続的に下降する周波数カーブを描く第2のチャープ信号とを含むものであることを特徴とする請求項4記載の超音波診断装置。
請求項8
技術分野
0001
本発明は被検体内に超音波ビームを送波し反射して戻ってきた超音波を受波して受信信号を得、その受信信号に基づいて超音波のドプラ遷移に基づく血液速度を算出して、観察領域内の血流速度分布をカラー表示する超音波診断装置に関する。
背景技術
0002
被検体、とりわけ人体の内部の画像を写し出す装置の1つとして、超音波を送受信して得た受信信号に基づいて画像を表示する超音波診断装置が知られている。その超音波診断装置には、通常、受信信号に基づいて被検体内の観察領域内の血流分布をカラー表示する機能が備えられている。
0003
この超音波診断装置では、電圧印加を受けて振動して超音波を送波し、また超音波による振動を受けて電圧信号を発生する超音波振動子が多数個配列された超音波探触子を備えたプローブが使われる。このプローブの超音波探触子を被検体の体表に宛てがい、超音波探触子を構成している多数個の超音波振動子のそれぞれに、所定の遅延パターンに従ってそれぞれ遅延された、中心周波数f0の複数のパルスからなるバースト波信号を印加する。すると、その超音波探触子から被検体内に、中心周波数f0の、所定の深さ位置に焦点を結ぶ超音波ビームが所定の方向に送波される。そしてその反射超音波を、超音波探触子を構成する複数の超音波振動子のそれぞれでピックアップして複数の信号を得、それら複数の信号を所定の遅延パターンに従ってそれぞれ遅延させて互いに加算する。これにより、被検体内に延びる超音波ビームを表わす、RF信号としての受信信号が得られる。この超音波送受信が複数回繰り返され、その間の超音波のドプラ遷移による位相の変化Φ(t)が求められて、その位相の変化Φ(t)と中心周波数f0とから、
0004
0005
但し、Tは送受信の繰返し周期
Cは音速
Vd(t)は超音波ビーム方向のドプラ速度(血流速度)
tは時刻
である。
が算出される。そして、観察領域内の各点の速度Vdを、通常は体表に近づく向きの血流が赤、遠ざかる向きの血流が青で、かつVdの大きさを色の輝度で表現する。この演算法は、複素自己相関法と呼ばれる。
0007
また、この複素自己相関法に代えて、時間領域の相互相関法(CCM)を採用することも提案されている。このCCMを採用すると、上記の複素自己相関法を採用したときのような、血流速度の算出可能速度範囲の制限を受けずに、高速な血流速度も算出可能である。
0008
ただし、このCCMは計算量が膨大である。特許文献2には、このCCMにおいて計算量を低減させる提案がなされている。
先行技術
0009
特開平4−269949号公報
特開2001−286472号公報
発明が解決しようとする課題
0010
上記の複素自己相関法、CCMのいずれを採用した場合も、血流による反射超音波を捉え、その反射超音波を表わす受信信号に基づいて血流速度を算出する演算法である。
0011
ここで、血流による超音波の反射は、血液中の多数の赤血球等で発生するが、多数の赤血球等によるランダムな散乱反射により、いわゆるスペックルノイズが発生し、これにより弱め合う干渉が発生した点においては受信信号が弱まって、算出される位相の変化が激しく、分散が大きく、速度が正確に求められなくなるケースが頻繁に発生する。
0012
上掲の特許文献1には、2つの周波数の超音波を送受信して位相差を補正する提案がなされている。しかながら、上記の(1)式に基づく血流速度Vd(t)を算出するには、中心周波数f0で割り算する必要があるにも拘わらず、2つ存在する中心周波数をどのように使って血流速度を算出するのか不明である。また、2つの周波数の超音波を送受信して位相差を補正することによってスペックルノイズあるいはその他のノイズの影響による血流速度の算出値の乱れが解消されるかどうか不明である。
0013
また、CCMを採用した特許文献2には、互いに極性を反転させた関係にある2つの超音波ビームを送受信して得た受信信号の位相を補正して互いに加算することにより、超音波ビームのサイドロープを低減させる提案がなされている。ただし、この提案は、メインの超音波ビームのビーム径を細めるものではなく、ノイズの影響による血流速度の誤検出を有効に低減させるとは考え難い。
0014
本発明は、上記事情に鑑み、ノイズの影響による血流速度の誤検出を低減させた超音波診断装置を提案すること目的とする。
課題を解決するための手段
0015
上記目的を達成する本発明の超音波診断装置は、
被検体内への超音波ビームの送波と被検体内で反射して戻ってきた超音波の受波とを担うプローブと、
被検体内の互いに異なる深さ位置に焦点を結ぶ超音波ビームをプローブに送波させる複数種類のパルス信号を生成してプローブに順次に送信する送信部と、
プローブでの超音波の受波を捉えて、複数種類のパルス信号に応じた複数種類の受信信号を生成する受信部と、
受信部で生成された複数種類の受信信号に基づいて血流速度を算出する演算部と、
演算部で算出された血流速度の、観察領域内の分布を表示する表示部とを備えたことを特徴とする。
0016
本発明の超音波診断装置は、被検体内の互いに異なる深さ位置にそれぞれ焦点を結ぶ複数の超音波ビームを送波している。したがってこれらの超音波ビームを総合すると、被検体内の深さ方向の広い領域においてビーム径が細く絞られた超音波ビームに相当する演算を行なうことができる。このためノイズの影響による血流速度の検出精度の低下を抑え、高い検出精度を確保することができる。
0017
ここで、本発明の超音波診断装置において、上記送信部は、中心周波数が互いに異なり、かつ、被検体内の、中心周波数に応じてそれぞれ異なる深さ位置に焦点を結ぶ超音波ビームをプローブに送波させる複数種類のパルス信号を生成して、それら複数種類のパルス信号をプローブに順次送信するものであることが好ましい。
0018
超音波ビームはその中心周波数によって被検体内を進む間の減衰率が異なり、またその中心周波数によってビーム径を有効に絞ることのできる焦点距離が異なる。そこで上記のように中心周波数が互いに異なり、かつ、被検体内の、中心周波数に応じてそれぞれ異なる深さ位置に焦点を結ぶ超音波ビームを使うと、複数の超音波ビームを総合したときに、被検体内の深さ方向の広い領域において、ビーム径をさらに細く絞ることができ、ノイズの影響による血流速度の検出精度の低下をさらに有効に抑えることができる。
0019
また、本発明の超音波診断装置において、互いに中心周波数が異なる複数の超音波ビームを送波する場合に、上記演算部が、受信部で生成された、それぞれが超音波ビームを表わす、複数種類のバースト波信号に応じた複数種類の受信信号のうちの各1種類の受信信号ごとに、超音波のドプラ遷移に基づく血流速度の1次算出を行なう1次算出部と、それら複数種類の受信信号に基づいて1次算出部で1次算出された血流速度の複数の算出値に基づいて血流速度の2次算出を行なう2次算出部とを有するものであることが好ましい。
0020
各周波数の受信信号に基づいて血流速度の1次算出を行い、複数の周波数の血流速度の算出値に基づく血流速度の2次算出を行なうことにより、スペックルノイズに強い高精度な血流速度が求められる。
0021
また、本発明の超音波診断装置において、上記送信部は、被検体内の互いに異なる深さ位置に焦点を結ぶ超音波ビームをプローブに送波させる、1つのパルス信号内における周波数の変化軌跡が互いに異なる複数種類のチャープ信号からなる複数種類のパルス信号を生成して、プローブに順次送信するものであることも好ましい態様である。
0022
チャープ信号には様々な周波数成分が含まれており、したがってスペックルノイズの影響を一層有効に抑えることができる。
0023
また、本発明の超音波診断装置において、複数種類のチャープ信号を用いた態様の場合に、上記演算部が、受信部で生成された、それぞれが超音波ビームを表わす、複数種類のパルス信号に応じた複数種類の受信信号を互いに加算することにより加算受信信号を生成し、加算受信信号に基づいて血流速度を算出するものであることが好ましい。
0024
超音波の周波数が異なるとスペックルノズルの表われ方が異なり、超音波の周波数によって受信信号が弱められる箇所が異なる。したがって複数種類の受信信号を互いに加算すると、受信信号の弱められる箇所がそれら複数種類の受信信号により互いに相殺された加算受信信号が得られる。この加算受信信号を生成し、その加算受信信号に基づいて血流速度を算出することにより、スペックルノイズの影響を受け難い高精度な血流速度が算出される。
0025
ここで、上記複数種類のチャープ信号が、1つのパルス信号内において周波数が上昇した後下降する山形の周波数カーブを描く第1のチャープ信号と、1つのパルス信号のパルス幅内において周波数が下降した後上昇する谷形の周波数カーブを描く第2のチャープ信号とを含むものであってもよく、あるいは上記複数種類のチャープ信号が、1つのパルス信号内において周波数が連続的に上昇する周波数カーブを描く第1のチャープ信号と、1つのパルス信号内において周波数が連続的に下降する周波数カーブを描く第2のチャープ信号とを含むものであってもよい。
0026
また、本発明の超音波診断装置において、チャープ信号を採用した場合、上記演算部は、血流速度を、2つの受信信号の、波形どうしが近似している領域のずれ量に基づいて算出するものであることが好ましい。
0027
チャープ信号は、様々な周波数成分の集合体からなる、複素自己相関法を採用しようとすると、中心周波数が一意に定まらないため、上述の(1)式による血流速度の算出は困難であって、前掲の特許文献1と同じジレンマに陥る可能性がある。
0028
CCMに代表されるような、2つの加算受信信号の波形どうしが近似している領域のずれ量に基づいて血流速度を算出する演算法を採用すると、そのような矛盾が生じなくて済み、この点からも高精度な血流速度の算出に役立つ。
発明の効果
0029
以上の本発明によれば、スペックルノイズによる血流速度の算出値の乱れが改善され、血流速度の高精度な算出が可能となる。
図面の簡単な説明
0030
従来の一例としての超音波診断装置の構成を表わすブロック図である。
複数回(ここではN回)の超音波ビームを送波するときに送信部で生成されるパルス信号送受信間隔の模式図である。
受信信号の一例とその受信信号に基づいて算出された血流速度を示した図である。
本発明の第1実施形態としての超音波診断装置の構成を表わすブロック図である。
焦点を異ならせたときの超音波ビームの概略図である。
送信周波数f0のみを採用したときの超音波ビーム形状のシミュレーション結果を示した図である。
2つの送信周波数f1,f2を採用したときの超音波ビーム形状のシミュレーション結果を示した図である。
2つの送信周波数f1,f2を採用し、かつ別々の焦点を形成したときの超音波ビーム形状のシミュレーション結果を示した図である。
送信部から送信されるバースト波信号の送信タイミングを示した図である。
2つのカラードプラ処理部で算出可能な血流速度の範囲を示した図である。
本発明の第2実施形態としての超音波診断装置の構成を表わすブロック図である。
チャープ信号の一例を示した図である。
図11に示す超音波診断装置1Cにおける送受信および演算処理の説明図である。
図13(B)に示す加算処理に採用される重みの一例を表わした図である。
受信信号(A)と、その受信信号から算出された代表振幅値および代表時刻(B)を示した図である。
受信信号からの代表振幅値および代表時刻の算出方法の説明図である。
(26)式に従う演算の説明図である。
シミレーション結果を示した図である。
チャープ信号の別例を示した図である。
実施例
0031
以下、本発明の実施の形態を説明する。
0032
ここでは先ず、比較例として、従来の典型的な超音波診断装置について説明し、それに続いて、本発明の一実施形態の超音波診断装置を説明する。
0033
図1は、従来の一例としての超音波診断装置の構成を表わすブロック図である。
0034
この超音波診断装置1Aには、プローブ10と、送信部11と、受信部12と、制御部13が設けられている。
0035
プローブ10には、多数の超音波振動子が配列された超音波探触子(不図示)が備えられている。その超音波探触子が、被検体としての人体の体表に宛がわれる。
0036
送信部11はパルス信号を生成し、プローブ10の超音波探触子を構成する多数の超音波振動子それぞれに向けてパルス信号を送信する。このパルス信号は、一定の中心周波数f0であって長さが複数波長のバースト波信号、又は周波数の変化軌跡が異なるチャープ信号である。この生成されたパルス信号は、人体内の超音波ビームの延びる向き、およびその超音波ビームの焦点の深さに応じて定められる遅延パターンに従ってそれぞれ遅延されて、各超音波振動子に印加される。すると、それら多数の超音波振動子それぞれから超音波が送波され、それらの超音波の干渉作用により、所望の向きに延び、かつ所望の深さ位置に焦点を持つ超音波ビームが人体内に送り込まれる。人体内に送り込まれた超音波ビームは、その超音波ビームが人体内の浅い位置から深い位置へと進むに従って人体内の各深さ位置で反射されて超音波探触子に戻り、多数の超音波振動子のそれぞれで受波される。したがってこの受波により得られる信号は、時間軸が超音波探触子からの人体内の深さに対応している。
0037
受信部12では、それら多数の超音波振動子での受波により、各超音波振動子で得られた信号を、これも人体内において超音波ビームの延びる向きや焦点の深さ等に応じた遅延パターンに従ってそれぞれ遅延させて互いに加算する。こうすることにより、人体内を所望の向きに延びる超音波ビームを表わす、RF(Radio Frequency)信号としての受信信号が生成される。この受信部12で生成された受信信号は、Bモード処理部14とMTIフィルタ15に入力される。
0038
制御部13は、送信部11からのパルス信号の送信タイミングや、受信部12での受信タイミングを制御する。また制御部13は、この他にも、この超音波診断装置1Aの動作全体の制御を担っている。
0039
表示部19にBモード像、すなわち人体内の超音波反射率分布に基づく画像を表示するときは、送信部11では、プローブ10から人体内に向けて、人体内の観察領域内において順次に向きの異なる超音波ビームが送波されるように、順次異なる遅延パターンに基づいて遅延させたパルス信号がプローブ10に送信される。受信部12でも同様に、その超音波ビームが送波された向きの超音波ビームが生成されるように遅延加算される。
0041
受信部12で得られる受信信号は、各超音波ビームに沿う深さ方向を時間軸とする信号である。これに対して、表示部19では、ラスタスキャンの向きに並ぶピクセルデータからなる画像信号に基づいて画像が表示される。そこで、座標変換部17では、Bモード処理部14から入力されてきた信号が表示部19での表示に適したピクセルデータの配列からなる信号に変換される。
0042
この座標変換部17から出力された信号は画像合成部18に入力される。この画像合成部18では、Bモード像と人体内の血流を表わすカラードプラ画像を合成する。人体内の血流を表わすカラードプラ画像は、通常は、Bモード像に重ねて表示される。カラードプラ画像を表示することなく、Bモード像のみ表示することもある。
0044
また、人体内の血流を表わすカラードプラ画像を表示させるときは、上記のBモード像の生成に加えて以下の処理が行われる。
0045
プローブ10からは人体内の同一の向きに延びる超音波ビームが複数回送波され、かつプローブ10で受波されるように、送信部11によるパルス信号の遅延、受信部12での遅延加算が行われる。
0046
この人体内の同一の向きへの送受信が、観察領域内に延びる超音波ビームの各向きそれぞれについて行われる。
0047
このようにして得られた受信信号はMTIフィルタ15に入力される。MTIフィルタ15はハイパスフィルタの一種であり、ここでは血流のドプラ遷移に起因する成分が通過され、臓器等の動きに起因する成分がカットされる。
0048
MTIフィルタ15を通過した後の受信信号は、カラードプラ処理部16に入力される。このカラードプラ処理部16では入力されてきた受信信号の複素自己相関が算出され、その複素自己相関から位相差が算出され、その位相差に基づいて血流速度等が算出される。この血流速度等は、超音波ビーム上の各点ごとに行われる。超音波ビームは観察領域内で順次向きを変えるため、観察領域内の2次元的な各点について血流速度等が算出される。この算出された血流速度等を表わすデータは座標変換部17に入力されて座標変換を受け、画像合成部18においてBモード像に重ねられる。そして表示部19でBモード像に重ねられた血流分布が表示される。この血流分布は、通常は、プローブ10の、体表に宛てがわれている超音波探触子に向かう向きの血流が赤、遠ざかる向きの血流が青で表示される。さらに血流の速度が、赤あるいは青の色の輝度で表示される。このようにして、観察領域内の血流分布が表示されて診断に供される。
0049
以下、このカラードプラ処理部16での処理を説明する。
0050
図2は、複数回(ここではN回)の超音波ビームを送波するときに送信部で生成されるパルス信号送受信間隔の模式図である。
0052
送信部11でこの図2に模式的に示すパルス信号がプローブ10に同一の遅延パターンで送信されたときの受信部12で受信されさらにMTIフィルタ15を経由してカラードプラ処理部16に入力されてきた受信信号は、
0053
0054
但し、S(n,t)はMTIフィルタからの出力信号
nは、送受信信号の番号であって、図2に示す、n=1,2,…,N−1,N
tは、各受信信号ごとの基準時刻からの時間
A(n,t)は、振幅
ejθ(n,t)は、位相
jは、虚数単位
I(n,t)は、実部
Q(n,t)は、虚部
である。
0055
カラードプラ処理部16では、この受信信号S(n,t)の複素自己相関
0056
0057
但し、*は複素共役を表わす。
が算出される。この複素自己相関R(1,t)の実部Reと虚部Imは、以下の通りとなる。
0058
0059
0060
カラードプラ処理部16では、さらにこの複素自己相関から位相差
0061
0062
が算出される。
0064
0065
0066
の関係にある。またドプラ定理
0067
0068
但し、Cは音速である。
から分かるように、ドプラ周波数fdは、送信の中心周波数f0に比例する。これらの関係から、血流速度、すなわち超音波ビーム方向のドプラ速度、Vd(t)が、
0069
0070
が算出される。
0071
さらに、カラードプラ処理部16では、血流のパワーPower(t)、および分散Var(t)を算出することもできる。血流のパワーPower(t)、および分散Var(t)は、それぞれ
0072
0073
0074
に従って算出される。
0075
次に、時間領域の相互相関法(CCM)による血流速度算出処理について説明する。
0076
上述の複素自己相関法の場合、(6)式で算出される位相差Φ(t)は、
0077
0078
の制限を受ける、この制限により(10)式で算出される血流速度Vdに関し、算出可能な最高速度が制限される。これに対し、CCMを採用すると、上記のような制限を受けず高速な血流速度も算出可能である。
0079
このCCMでは、2つの受信信号を
0080
0082
0083
但し、
0084
0085
は、波形のセグメントの範囲、
0086
0087
は、サーチ範囲、
0088
0089
は、サーチ範囲内での最大の相関値を表わす。
に従って、最大相関値
0090
0091
を満たす
0092
0093
を求め、
0094
0095
但し、
0096
0097
は、サンプリング周期を表わす。
に従って時間シフト
0098
0099
を求め、
0100
0101
但し、
0102
0103
は音速、
0104
0105
は、送受信の繰返し周期を表わす。
に従って、速度
0106
0107
を算出する。
0108
この演算法を採用すれば、前述の複素自己相関法を採用したときのような制限を受けずに速度の算出が可能である。
0110
前掲の特許文献2には、信号振幅の差を用いて速度を求める最小自乗法として、上記の(14)式に代えて、
0111
0112
但し、
0113
0114
は、サーチ範囲内での最小誤差を表わす。
に従って、最小誤差
0115
0116
を満たす
0117
0118
を求め、その後、上記の(15),(16)式に従って速度
0119
0120
を算出することが知られている。
0121
(17)式を採用すると、(14)式を採用する場合と比べ、信号振幅の強さに依存せず、血流速度が精度良く検出できる。
0122
ところで、複素自己相関法あるいは時間領域の相互相関法のいずれにおいても、血流速度は、血液中の多数の赤血球等で超音波が反射する際のドプラ遷移に基づいて算出されるが、多数の赤血球等での散乱反射によりスペックルノイズが発生し、干渉によって受信信号が弱まる箇所が生じる。受信信号が弱まると、算出される位相差が激しく変動し、血流速度が正しく算出されないケースが頻繁に発生する。
0123
図3は、受信信号の一例とその受信信号に基づいて算出された血流速度を示した図である。図3(A)、図3(B)のいずれについても、横軸は時間軸、すなわち人体の深さに対応する軸である。図3(A)の縦軸は受信信号の振幅、図3(B)の縦軸は血流速度である。
0125
図3(A)に示す受信信号には、受信信号が弱まった領域a,bが存在し、図3(B)に示す血流速度は、その領域a,bについて、特に領域aについて、大きく変動している。これは、スペックルノイズにより誤って算出された血流速度である。
0126
以上の比較例としての超音波診断装置の説明を踏まえ、次に本発明の一実施形態の超音波診断装置について説明する。
0127
図4は、本発明の第1実施形態としての超音波診断装置の構成を表わすブロック図である。この図4において、図1に示す比較例としての超音波診断装置1Aの構成要素と同一の構成要素には、図1に付した符号と同一の符号を付して示す。またここでは、前述の比較例との相違点について説明する。
0128
この図4に示す超音波診断装置1Bには、2つのMTIフィルタ15_1,15_2と2つのカラードプラ処理部16_1,16_2と、合成部20が備えられている。2つのカラードプラ処理部16_1,16_2は、本発明にいう1次算出部の一例に相当し、合成部20は、本発明にいう2次算出部の一例に相当する。
0129
この図4に示す超音波診断装置1Bの説明については少し後に回す。
0130
図5は、焦点を異ならせたときの超音波ビームの概略図である。
0131
ここでは、繰返し送信周波数f1の超音波ビームについては、従来の単一パルス信号を送信する場合の送信周波数f0の超音波ビームの焦点よりも浅い位置に焦点が形成されている。一方、送信周波数f2の超音波ビームについては、送信周波数f0の超音波ビームの焦点よりも深い位置に焦点が形成されている。尚、全体の扇形の領域Dは観察領域Dを表わしており、点線Lは、超音波ビームの延びる向き、すなわち超音波の進行方向を表わしている。
0132
図6は、送信周波数f0のみを採用したときの超音波ビーム形状のシミュレーション結果を示した図である。ここでは、送信周波数f0=3MHz,焦点距離=80mmが採用されている。ここでは、図6(A),図6(B)のいずれについても、超音波ビームの強度分布が等高線で表わされている。但し、図6(A)は斜視図的、図6(B)は平面的に表わされている。後述する図7、図8においても同様である。また(a)は、送信側の超音波ビーム、(b)は、受信側の超音波ビーム、(c)は、送受信双方を総合したときの超音波ビームである。また、どの図においても、xは超音波振動子の配列方向、zは深さ方向を表わしている。
0133
図7は、2つの送信周波数f1,f2を採用したときの超音波ビーム形状のシミュレーション結果を示した図である。ここでは、送信周波数f1=2MHz、f2=4MHzが採用されている。焦点距離はどちらの送信周波数f1,f2を用いた場合も80mmである。
0134
図7(A)の送信側超音波ビームは、送信周波数f1の超音波ビームと送信周波数f2の超音波ビームを重ねたものである。図7(B)の受信側超音波ビーム、図7(C)の送受信双方を総合した超音波ビームについても同様である。
0135
図6と図7を比較すると、2つの送信周波数f1,f2を採用した図7の場合の方が、単一の送信周波数f0を採用した図6の場合よりも、焦点付近の音響パワーが強く、ビーム幅も狭まっていることが分かる。
0136
図8は、2つの送信周波数f1,f2を採用し、かつ別々の焦点を形成したときの超音波ビーム形状のシミュレーション結果を示した図である。ここでは、図7の場合と同様、繰返し送信周波数f1=2MHz、f2=4MHzが採用されている。また、焦点に関しては繰返し送信周波数f1=2MHzの超音波ビームについては焦点距離=60mm、繰返し送信周波数f2=4MHzの超音波ビームについては、焦点距離=120mmとしている。
0137
図8(A)は、図7(A)と同様、送信周波数f1の送信側超音波ビームと送信周波数f2の送信側超音波ビームを重ねて示したものである。図8(B)の受信側超音波ビーム、図8(C)の送受信双方を総合した超音波ビームなついても同様である。
0138
図7と図8を比較すると、図8の場合、送信周波数f1の超音波ビームと送信周波数f2の超音波ビームとで焦点を変えたことにより、観察領域全範囲内(特に遠距離)の音響パワーが強く、ビーム幅も狭まっている。これを採用すると、カラードプラ画像の方位分解能をさらに改善でき、信号のS/Nも良くなり、全領域の血流検出精度も高めることができる。
0139
図4の超音波診断装置1Bの説明に戻る。
0140
図4に示す送信部11では、被検体内の、互いの異なる2つの深さ位置にそれぞれ焦点を結ぶように調整された各遅延パターンに基づいて複数のパルス信号を生成してプローブ10に送信する。複数の超音波ビームを総合したとき、被検体内の深さ方向に広い領域についてビーム径の細い超音波ビームが生成され、カラードプラ画像の方位解能が向上できる、信号S/Nも良くなり、ノイズの影響による血流速度の検出精度の低下の防止が期待できる。
0142
図9は、送信部から送信されるパルス信号の送信タイミングを示した図である。
0143
ここではある深度までの血流速度を検出するために、必要なPRFを定めてそのPRFに固定する。従来の一例としての超音波診断装置(図1)で採用されている送信周波数f0より低い第1周波数f1、ここではf1=(2/3)f0のバースト波信号を送信する。また送信周波数f0より高い第2周波数f2、ここではf2=(4/3)f0を送信する。
0144
これら周波数が異なる2種類のバースト波信号は、被検体内の互いに異なる深さ位置に焦点を結ぶ超音波ビームに変換されるように互いに異なる遅延パターンによってそれぞれ遅延されてからプローブ10に送信される。
0146
また図9(B)では、送信周波数f1のパルス信号と送信周波数f2のパルス信号が交互に繰り返し送信されている。
0147
図9(A)、図9(B)のいずれの送信方式の場合であっても、送信周波数f1のときの受信信号はMTIフィルタ15_1に入力され、送信周波数f1に応じたフィルタリングが行われてカラードプラ処理部16_1に入力される。これと同様に、送信周波数f2のときの受信信号はMTIフィルタ15_2に入力され、送信周波数f2に応じたフィルタリングが行われてカラードプラ処理部16_2に入力される。
0148
カラードプラ処理部16_1では、送信周波数f1の受信信号から、血流速度Vd1が
0149
0150
により算出される。但し、fd1はドプラ周波数である。
0151
このカラードプラ処理部16_1で算出される最大、最小血流速度は、
0152
0153
0154
但し、Vdmax1,Vdmin1は、送信周波数f1の場合の最大、最小血流速度、
Vdmax,Vdminは、送信周波数f0の場合の最大、最小血流速度、K0,K1は、送信周波数がそれぞれf0,f1のときの、MTIフィルタのカットオフ周波数を定めるための、PRFに対する各割合(%)である。
0155
また、これと同様に、もう1つのカラードプラ処理部16_2では送信周波数f2の受信信号から、血流速度Vd2が、
0156
0157
により算出される。但し、fd2はドプラ周波数である。
0158
このカラードプラ処理部16_2で算出される最大、最小血流速度は、
0159
0160
0161
但し、Vdmax2,Vdmin2は、送信周波数f2の場合の最大、最小血流速度、
Vdmax,Vdminは、送信周波数f0の場合の最大、最小血流速度、K0,K2は、送信周波数がそれぞれf0,f2のときの、MTIフィルタのカットオフ周波数を定めるための、PRFに対する各割合(%)である。
0162
図10は、2つのカラードプラ処理部で算出可能な血流速度の範囲を示した図である。
0163
図10(A)は、送信周波数f1=(2/3)・f0のときの受信信号に基づく算出可能な血流速度の範囲を示しており、図10(B)は送信周波数f2=(4/3)・f0のときの受信信号に基づく算出可能な血流速度の範囲を示している。
0164
さらに図10(C)は、送信周波数f0(f1<f0<f2)のときの受信信号に基づく算出可能な血流速度の範囲を示している。
0165
図4に示す合成部20では、2つのカラードプラ処理部16_1,16_2で算出された血流速度の算出値に基づき、以下の演算により最終的な血流速度が算出される。
0166
血流速度の算出値が血流速度領域R1の範囲内にあるときは、カラードプラ処理部16_1の算出値、すなわち、血流速度Vd、パワーPower、および分散Varとして、
Vd=Vd1
Power=Power1
Var=Var1
但し、Vd1,Power1,Var1は、送信周波数f1のときの受信信号から 算出される血流速度、パワー、および分散である。
が採用される。
0167
また、血流速度の算出値が血流速度領域R2の領域内にあるときは、カラードプラ処理部16_2の算出値、すなわち、
Vd=Vd2
Power=Power2
Var=Var2
但し、Vd2、Power2、Var2は、送信周波数f2のときの受信信号から算出される血流速度、パワー、分散である。
が採用される。
0168
また、血流速度の算出値が、血流速度領域R0の領域内にあるときは、2つのカラードプラ処理部16_1、16_2の双方での算出が可能であるので、双方での算出値の平均値
0169
0170
が算出され、この平均値としての血流速度、パワー、分散が採用される。
0171
このように、本実施形態では2つの送信周波数f1,f2を採用していることで血流速度の算出可能範囲が広がっている。すなわち、図4に示す超音波診断装置1Bでの算出可能最大、最小血流速度Vndmax,Vndminは、
0172
0173
となる。MTIフィルタ15_1における、クラッタ成分除去のためのカットオフ周波数は、繰返し周波数PRFのある割合K(%)に定められることが多い。ここでは、2つのMTIフィルタ15_1,15_2それぞれにおけるカットオフ周波数を定める、繰り返し周波数PRFの割合K1(%),K2(%)を、K1=K2=K0としている。
0174
このように、本実施形態によれば、観察可能な最大、最小血流速度の範囲を広げることができる。
0175
尚、ここでは、K1=K2=K0としているが、表示された画像を観察した結果クラッタ成分が少ないと判断されるときには、さらに遅い血流も検出できるようにもK1とK2を別々に設定してもよい。
0176
また、血流速度の検出精度とカラードプラ画像の分解能はトレードオフの関係にあるが、本実施形態の超音波診断装置1Bでは、送信周波数f1,f2の双方を用いているため、図1に示す超音波診断装置1Aのように単一の送信周波数f0を採用した場合と比べ、そのトレードオフが緩和され、検出速度や分解能が向上する。
0177
さらに、本実施形態の場合、複数の中心周波数の超音波ビームを繰り返し送波するため、S/Nが高く、異なる中心周波数の超音波受波で検出されるドプラ速度の加算平均により、多数の赤血球からの散乱反射に起因する血流速度の誤検出が低減され、血流速度の検出精度が向上する。
0178
図11は、本発明の第2実施形態としての超音波診断装置の構成を表わすブロック図である。この図11においても、図1に示す比較例としての超音波診断装置1Aの構成要素と同一の構成要素には、図1に付した符号と同一の符号を付して示す。またここでも、前述の比較例との相違点について説明する。
0180
図12は、チャープ信号の一例を示した図である。横軸は時間t、縦軸は周波数である。送信部11では、例えばこの図12に示すような、周波数の変化軌跡が互いに異なる複数種類(この図12に示す例では2種類)のチャープ信号からなる複数種類のパルス信号が生成されてプローブ10に送信される。具体的には、この図12に示す例では、この図12(A)に示す、1つのパルス信号内において周波数が上昇した後下降する山形の周波数カーブを描く第1のチャープ信号S1と、図12(B)に示す、1つのパルス信号内において周波数が下降した後上昇する谷形の周波数カーブを描く第2のチャープ信号S2が生成される。これら2種類のチャープ信号それぞれからなる2種類のパルス信号は、被検体内の、互いに異なる深さ位置にそれぞれ焦点を結ぶ超音波ビームに変換されるように互いに異なる遅延パターンによって遅延されて、プローブに交互に送信される。
0182
図13(A)では、1回の送受信が縦1本の線で表わされている。ここでは、第1のチャープ信号S1からなるパルス信号の送信により得られる受信信号をR1、第2のチャープ信号S2からなるパルス信号の送信により得られる受信信号をR2とする。
0184
ここでは、この加算受信信号Cに基づいて、血流速度Vdが算出される。この加算受信信号の繰返し周期をT(繰返し周波数をPRF)としたとき、血流速度は
0185
0186
で表わされる。
0189
横軸は時間軸である。この時間軸は被検体内の深さに対応している。
0190
図13に示す2種類の受信信号の加算にあたっては、
0191
0192
に従って、被検体内の深さ方向に向かって異なる値に調整された重みで重み付け加算される。超音波ビームはその周波数によって被検体内を進む間の減衰率が異なるが、重み付け加算をすることにより、その減衰率の相違が補われた高精度な血流速度の算出が可能な加算受信信号を生成することができる。
0193
図4に戻って説明を続ける。
0194
受信部12で生成される2種類の受信信号S1,S2のうちの一方の受信信号S1は一方のバッファ20_1に一旦格納され、もう一方の受信信号S2は、もう一方のバッファ20_2に一旦格納される。これらの2つのバッファ20_1,20_2にそれぞれ格納された受信信号S1,S2は、加算部21に入力されて図7に示すように重み付け加算され、加算受信信号Cが生成される。その後の処理は図1に示す超音波診断装置1Aの場合と同様である。ただし、加算部21により生成された加算受信信号Cは複数の周波数の信号成分から成り立っている信号である。そこで、この超音波診断装置1Bのカラードプラ処理部16では、時間領域における最小自乗法による血流速度算出が行なわれる。時間領域における最小自乗法を用いた血流速度の算出法については前述したが、ここでは時間領域における最小自乗法のうち、計算量を低減することのできる新たな演算法について説明する。
0195
ここでは、カラードプラ処理部16に入力されてきた受信信号を、
0196
0197
但し、mは、m番目の受信信号であることを表わし、nは、そのm番目の受信信号中
のn番目のサンプリングデータであることを表わす。
とする。
0198
図15は、受信信号(A)とその受信信号から算出された代表振幅値および代表時刻(B)を示した図である。
0199
図11に示すカラードプラ処理部16では、入力されてきた受信信号
0200
0202
0203
および代表時刻
0204
0205
但し、mは、m番目の受信信号であることを表わし、iは、そのm番目の受信信号中 のi番目の半波形であることを表わす。
が算出される。この算出にあたっては、本実施形態では、式
0206
0207
0208
但し、
0209
0211
0212
は、受信信号のサンプリング周期を表わす。
が採用されており、これら(24),(25)式に従って算出される。
0213
図16は、受信信号からの代表振幅値および代表時刻の算出方法の説明図である。
0216
0217
間隔の縦線の長さが、サンプリングデータ
0218
0219
である。
0220
ここでは、(24)式に従って、そのサンプリングデータ
0221
0222
を開始点n=nsから終了点n=neまで加算し、その加算値をこの半波形iの代表振幅値
0223
0224
とする。
0225
また、(25)式に従う、サンプリングデータ
0226
0227
によって重み付けられた時刻をこの半波形iを代表する代表時刻
0228
0229
とする。
0230
すなわち、この演算法により、この半波形iのデータは、図4(B)に示すように、代表時刻
0231
0232
における代表振幅値
0233
0234
というデータに圧縮される。
0237
0238
を対応する代表時刻
0239
0240
に並べたときの、波形どうしが近似している領域のずれ量に基づいて、人体内の血流速度が算出される。
0241
この血流速度の算出にあたり、本実施形態のカラードプラ処理部16では、先ず、m番目とm+1番目の受信信号の代表振幅値
0242
0243
を使い、
0244
0246
0247
は、波形のセグメントの範囲、
0248
0249
は、サーチ範囲、
0250
0251
は、サーチ範囲内での最小誤差を表わす。
に従って、最小誤差
0252
0253
を満たす
0254
0255
を求める。さらに、
0256
0257
に従って時間シフト
0258
0259
を求める。そして、
0260
0261
但し、
0262
0263
は音速、
0264
0265
は送受信の繰り返し周期を表わす。
に従って、血流の速度
0266
0267
を算出する。
0268
図17は、(26)式に従う演算の説明図である。
0269
図17(A),(B)は、それぞれ、m番目、m+1番目の受信信号の代表振幅値を、各代表振幅値に対応する各代表時刻に並べた波形を示した図である。
0270
ここでは、図17(A)に示す、m番目の受信信号から求めたデータ列の枠a内の波形と近似した波形を、図17(B)に示す、m+1番目の受信信号から求めたデータ列の中から探索する。この枠a中の波形(データ列)は、近似した波形を探索するためのデータ列の1つのセグメントであり、ここでは、
0271
0272
の幅の枠aが設定されている。この枠aの幅は、この中に代表振幅値が3又は5程度含まれる幅である。
0273
図17(B)に示すデータ列においても、枠aと同じ幅の枠bが設定される。
0274
そして、(26)式に従い、枠a内のセグメントと枠b内のセグメントの一致の程度が算出される。
0275
誤差
0276
0277
が小さいほど一致していることを意味している。上記の枠bを、サーチ範囲
0278
0279
の中で順次移動させて、移動した各位置において、誤差
0280
0281
が算出され、それらの中の最小誤差
0282
0283
が得られる位置
0284
0285
が検出される。このようにして、
0286
0287
が検出されると、次に上記の(27)式に従って、時間シフト
0288
0289
が算出され、(28)式に従って血流速度
0290
0291
が算出される。
0292
図18は、シミレーション結果を示した図である。
0293
図18(A)は、カラードプラ処理部16に入力されてきた受信信号
0294
0295
をそのまま使い、(17)式に示す最小自乗法で計算したときの血流速度を示している。
0296
また図18(B)は、カラードプラ処理部16に入力されてきた受信信号
0297
0298
から(24)式,(25)式に従って半波形ごとの代表振幅値と代表時刻を算出し、(26)式に示す最小自乗法で計算したときの血流速度を示している。
0299
また、図18(A),(B)とも、左側の図(a)は一定の流速についてのシミュレーション結果、右側の図(b)は、血管壁付近の流れが遅く、血管中心の速度が速い層流の場合のシミュレーション結果を示している。
0300
ここでは、送信周波数f0=2MHz、サンプリング周波数Fs=24MHzを採用している。
0301
図18(A)と図18(B)を比較すると、血流速度の算出精度(縦軸)は、ほぼ同じである。更に、圧縮された代表時刻の間の血流速度を検出する必要がある場合、その代表時刻の隣接の二つの速度値の線形補間により高速に求めることが可能である。
0302
一方、(17)式、(26)式に従って算出される差の自乗和を求める計算量は、1回の計算(図17に示した1つの枠aと1つの枠bとの間での計算)につき、ほぼ1/6となり、また、サーチ範囲内で枠bを動かしながら行なう計算の繰返し回数も1/6となる。
0303
尚、本実施形態では、半波形ごとの代表振幅値および代表時刻を、(24)式、(25)式に従って算出する例を示したが、代表振幅値および代表時刻を算出するための演算式は、(24)式、(25)式に限定されるものではない。例えば半波形ごとのサンプリングデータのピークの値を代表振幅値とし、そのピークのサンプリングデータのサンプリング時刻を代表時刻としてもよい。
0304
図19は、チャープ信号の別例を示した図である。横軸は時間、縦軸は周波数(MHz)である。
0305
図12には、1つのパルス信号内において周波数が上昇した後下降する山形の周波数カーブを描く第1のチャープ信号S1と、1つのパルス信号内において周波数が下降した後上昇する谷形の周波数カーブを描く第2のチャープ信号S2とのペアが示されている。これに対し、この図19には、1つのパルス信号内において周波数が連続的に上昇する周波数カーブを描く第1のチャープ信号S1(図19(A))と、1つのパルス信号内において周波数が連続的に下降する周波数カーブを描く第2のチャープ信号S2(図19(B))が示されている。
0307
尚、ここでは、2つの繰返し送信周波数f1,f2あるいは2種類のチャープ信号S1,S2からなる2種類のバースト波信号を採用した例について説明したが、フレームレートが充分速い場合は2種類のパルス信号に限られるものではなく、3種類以上のパルス信号を被検体内のそれぞれ異なる深さ位置に焦点を結ぶ超音波ビームが生成されるように、それぞれ異なる遅延パターンに従って遅延させて循環的にプローブに送信し、それにより得られる3種類以上の受信信号に基づいて血流速度を算出してもよい。
0308
1A,1B,1C超音波診断装置
10プローブ
11通信部
12 受信部
13 制御部
14Bモード処理
15,15_1,15_2MTIフィルタ
16,16_1,16_2カラードプラ処理部
17座標変換部
18画像合成部
19 表示部
20 合成部
20_1,20_2バッファ
21加算部