図面 (/)

技術 最低空軌道エネルギー準位を制御した炭素電極材料のスクリーニング方法

出願人 日本電気株式会社
発明者 岡本穏治
出願日 2013年8月26日 (7年3ヶ月経過) 出願番号 2013-174532
公開日 2015年3月5日 (5年9ヶ月経過) 公開番号 2015-043284
状態 未査定
技術分野 電池の電極及び活物質
主要キーワード 連続体モデル 金属結合半径 想定内 材料レベル 分子軌道法計算 二次電池電源 ナノカーボン類 動力用電源
関連する未来課題
重要な関連分野

この項目の情報は公開日時点(2015年3月5日)のものです。
また、この項目は機械的に抽出しているため、正しく解析できていない場合があります

図面 (6)

課題

炭素電極動作電位を制御するため、負極活物質として利用する多環芳香族炭化水素(PAH)を構成する適切な炭素原子総数予測するスクリーニング技術を提供する。

解決手段

炭素電極の望ましい動作電位に対応した最低空軌道(LUMO)エネルギー準位を持つPAHを適当な電子状態計算法に基づいて予測する。その際、幾つかのPAHに対して非経験的分子軌道法を用いて高精度なLUMOエネルギー準位を計算し、これらの計算値対数関数などの適当な関数形に適合させることで、任意の炭素原子総数からなるPAHのLUMOエネルギー準位を予測可能とすることで、LUMOエネルギー準位が目標の範囲に含まれるPAHの炭素原子総数の予測が可能となる。

概要

背景

導電性炭素材料は、安価であり、化学的定性が高いことから電極材料に使用されている。さらに、導電性炭素材料は、白金など必要に応じて使用される各種の触媒担持可能であるという長所も具えており、広い分野で利用されている電極材料である。近年、フラーレンナノチューブナノホーンのようなナノカーボン類の構造や形状を制御することによって、さらに有用な特性を見出し、活用する技術が注目されている。

導電性炭素材料の電極材料としての利用に関して、産業応用上の重要分野の1つとして、リチウムイオン二次電池負極材料としての使用が挙げられる。リチウムイオン二次電池の適用分野は、PCや携帯電話等のモバイル機器用二次電池電源のみならず、電動化によるエネルギー利用効率の向上や二酸化炭素排出量の削減を期待して、電気自動車ハイブリッド自動車などの車載用二次電池電源への応用が拡大しつつある。加えて、夜間の余剰電力の活用、夜間に蓄電した電力を昼間に使用することで、昼間の電力消費を抑制する、「節電」目的の家庭用途、あるいは、太陽光風力など出力変動の大きな自然エネルギー発電を、電力系統連携する際の「平準化用途」でのリチウムイオン二次電池の利用も始まっている。

リチウムイオン二次電池が、ハイブリッド自動車、電気自動車の動力用電源、大容量の蓄電装置などの分野における、主要な大容量の二次電池として普及していく上では、長期にわたり、反復して充電放電を繰り返す、これらの利用分野で要求される、安全性と信頼性の水準を満たさねばならない。電池容量が増すと、事故規模も大きくなると懸念されるので、電池容量は制限されている、モバイル機器用電源における水準よりも、遥かに厳しい水準を満たす必要性が考えられる。

リチウムイオン二次電池の公称電圧を基準として、適正な動作条件負荷接続)で放電させると、放電開示時(t=0)の初期電圧(Einitial)は、公称電圧よりやや高く、放電を継続すると、電圧(Edischarge)は徐々に低下し、公称電圧を下回る。放電した電気量が、該リチウムイオン二次電池の放電容量に達すると、電圧は急激に低下する。この急激な電圧低下が開始する、閾値に相当する電圧を終止電圧(Eterminal)と見做す。

例えば、正極材料として、LiCoO2を、負極材料として、導電性炭素材料であるグラファイトを採用するリチウムイオン二次電池の場合、
適正な充電過程では、
正極では、
LiCoO2 → Li1-xCoO2 + xLi+ + xe-平均電圧3.7V
負極では、
xLi+ + xe- + [C6] → Lix[C6] 平均電圧0.1−0.2V
適正な放電過程では、
正極では、
LiCoO2 ← Li1-xCoO2 + xLi+ + xe- 平均電圧3.7V
負極では、
xLi+ + xe- + [C6] ← Lix[C6] 平均電圧0.1−0.2V
以上の可逆的な電極反応が進行する。充電過程では、LiCoIIIO2中のCoは、Co3+からCo4+へ酸化され、Li+を放出して、Li1-x(CoIII1-xCoIVx)O2へと変換されろ。一方、放電過程では、Li1-xCoO2中のCoは、Co4+からCo3+へ還元され、Li+を吸収して、LiCoIIIO2へと変換される。

その際、作製当初のリチウムイオン二次電池における、正極容量負極容量は、「初期充電過程」において、適正な充電範囲となるように調整されている。

過放電に伴い、LiCoIIIO2中のCoが、Co3+からCo2+へと還元されると、下記の不可逆的な反応が部分的に進行し、正極活物質結晶構造欠損が引き起こされる。結晶構造の欠損は、正極容量の減少を生じさせる。

LiCoIIIO2 + Li+ → Li2O + CoIIO
過充電に伴い、LiCoIIIO2中のCoの全てがCo3+からCo4+へと還元されると、下記の不可逆的な反応が部分的に進行し、正極活物質の結晶構造の不安定化が引き起こされる。結晶構造の欠損は、正極容量の減少が生じさせる。

LiCoIIIO2 → CoIVO2 + Li+ + e-
また、過充電に伴い、充電量が、負極容量を超えると、下記の反応に伴い、余剰金属リチウムが、負極材料表面に析出し、「デンドライト成長」する。

Li+ + e- + {Li[C6]} → Li{Li[C6]}
負極側から「デンドライト成長」した金属リチウムは、正極側と接触すると、内部短絡を引き起こす。

その他、過放電時において、負極電位が上昇すると、負極集電体銅箔表面から、銅の溶解が生じる可能性がある。また、非水電解液を構成する有機溶媒の分解、あるいは、ガス発生につながると考えられている(非特許文献1)。ガス発生によりセル内圧限界以上に高まると、セルが破裂する危険性がある。

概要

炭素電極動作電位を制御するため、負極活物質として利用する多環芳香族炭化水素(PAH)を構成する適切な炭素原子総数予測するスクリーニング技術を提供する。炭素電極の望ましい動作電位に対応した最低空軌道(LUMO)エネルギー準位を持つPAHを適当な電子状態計算法に基づいて予測する。その際、幾つかのPAHに対して非経験的分子軌道法を用いて高精度なLUMOエネルギー準位を計算し、これらの計算値対数関数などの適当な関数形に適合させることで、任意の炭素原子総数からなるPAHのLUMOエネルギー準位を予測可能とすることで、LUMOエネルギー準位が目標の範囲に含まれるPAHの炭素原子総数の予測が可能となる。

目的

本発明の目的は、リチウムイオン二次電池のような、負極活物質として、炭素材料を用いる電気化学系において、負極活物質として、最低空軌道準位(LUMO)の位置を制御した炭素材料を設計することにより、回路システムレベルではなく、材料レベルで炭素電極の安全性や信頼性の向上に寄与する技術を提供する

効果

実績

技術文献被引用数
0件
牽制数
0件

この技術が所属する分野

ライセンス契約や譲渡などの可能性がある特許掲載中! 開放特許随時追加・更新中 詳しくはこちら

請求項1

リチウムイオン二次電池用炭素電極の作製に利用される、多環芳香族炭化水素(PAH)からなる炭素電極材料スクリーニングする方法であって、スクリーニングの対象である、多環芳香族炭化水素(PAH)の最低空軌道(LUMO)エネルギー準位の位置(ELUMO)を理論計算に基づき推定し、最低空軌道(LUMO)エネルギー準位の位置(ELUMO)に基づいて、多環芳香族炭化水素(PAH)を構成する炭素原子数を決定することを特徴とする、炭素電極材料のスクリーニング方法

請求項2

LUMOエネルギー準位の位置(ELUMO)に基づいて、多環芳香族炭化水素(PAH)を構成する炭素原子数を決定する際、スクリーニングの対象である、多環芳香族炭化水素(PAH)の最低空軌道(LUMO)エネルギー準位の位置(ELUMO)の理論計算に基づく推定に、電子状態計算法を利用することを特徴とする、請求項1に記載の炭素電極材料のスクリーニング方法。

請求項3

幾つかの多環芳香族炭化水素(PAH)のLUMOエネルギー準位の位置(ELUMO)の計算値を、PAHの炭素原子数を説明変数とした回帰分析により適当な関数適合させることで、回帰式算定し、算定される回帰式を用いて、任意の炭素原子数で構成されるPAHのLUMOエネルギー準位の位置(ELUMO)を予測することを特徴とする、請求項2に記載の炭素電極材料のスクリーニング方法。

請求項4

電子状態計算法として、分子軌道法を用いることを特徴とする、請求項2に記載の炭素電極材料のスクリーニング方法。

請求項5

回帰分析に適合させる関数として、対数関数を用いることを特徴とする、請求項3に記載の炭素電極材料のスクリーニング方法。

請求項6

分子軌道法として、非経験的分子軌道法を用いることを特徴とする、請求項4に記載の炭素電極材料のスクリーニング方法。

請求項7

分子軌道法として、非経験的分子軌道法に加えて、半経験的分子軌道法を用い、スクリーニングの対象である、多環芳香族炭化水素(PAH)の最低空軌道(LUMO)エネルギー準位の位置(ELUMO)の理論計算に基づく推定に、非経験的分子軌道法に基づく理論計算と、半経験的分子軌道法に基づく理論計算を組み合わせて用いることを特徴とする、請求項4に記載の炭素電極材料のスクリーニング方法。

請求項8

LUMOエネルギー準位の位置(ELUMO)に基づいて、多環芳香族炭化水素(PAH)を構成する炭素原子数を決定する工程は、炭素電極材料の望ましい電極電位の範囲を設定するステップと、上記の電極電位の範囲を、絶対電極電位の範囲に変換して、LUMOエネルギー準位の位置(ELUMO)の範囲を計算するステップと、回帰分析に適合させる関数式として算定された回帰式から、上記のLUMOエネルギー準位の位置(ELUMO)の範囲に対応する、多環芳香族炭化水素(PAH)を構成する炭素原子数の範囲を算出するステップを具えることを特徴とする、請求項3に記載の炭素電極材料のスクリーニング方法。

請求項9

請求項1に記載される炭素電極材料のスクリーニング方法により選別される、多環芳香族炭化水素(PAH)からなる炭素電極材料を利用して作製されるリチウムイオン二次電池用炭素電極であって、炭素原子数が26以上93以下のジグザグリボン状PAHからなることを特徴とする、リチウムイオン二次電池用炭素電極。

請求項10

請求項1に記載される炭素電極材料のスクリーニング方法により選別される、多環芳香族炭化水素(PAH)からなる炭素電極材料を利用して作製されるリチウムイオン二次電池用炭素電極であって、炭素原子数が52以上246以下のコロネン状PAHからなることを特徴とする、リチウムイオン二次電池用炭素電極。

技術分野

0001

本発明は、リチウムイオン二次電池負極材料の作製に利用可能な炭素材料分子設計技術に関する。具体的には、縮合芳香環構造からなる多環芳香族炭化水素(polycyclic aromatic hydrocarbon : PAH)のLUMO(Lowest Unoccupied Molecular Orbital:最低空軌道)のエネルギー準位推定結果に基づき、リチウムイオン二次電池の負極材料の作製に利用可能な多環芳香族炭化水素を選別する方法に関する。

背景技術

0002

導電性炭素材料は、安価であり、化学的定性が高いことから電極材料に使用されている。さらに、導電性炭素材料は、白金など必要に応じて使用される各種の触媒担持可能であるという長所も具えており、広い分野で利用されている電極材料である。近年、フラーレンナノチューブナノホーンのようなナノカーボン類の構造や形状を制御することによって、さらに有用な特性を見出し、活用する技術が注目されている。

0003

導電性炭素材料の電極材料としての利用に関して、産業応用上の重要分野の1つとして、リチウムイオン二次電池の負極材料としての使用が挙げられる。リチウムイオン二次電池の適用分野は、PCや携帯電話等のモバイル機器用二次電池電源のみならず、電動化によるエネルギー利用効率の向上や二酸化炭素排出量の削減を期待して、電気自動車ハイブリッド自動車などの車載用二次電池電源への応用が拡大しつつある。加えて、夜間の余剰電力の活用、夜間に蓄電した電力を昼間に使用することで、昼間の電力消費を抑制する、「節電」目的の家庭用途、あるいは、太陽光風力など出力変動の大きな自然エネルギー発電を、電力系統連携する際の「平準化用途」でのリチウムイオン二次電池の利用も始まっている。

0004

リチウムイオン二次電池が、ハイブリッド自動車、電気自動車の動力用電源、大容量の蓄電装置などの分野における、主要な大容量の二次電池として普及していく上では、長期にわたり、反復して充電放電を繰り返す、これらの利用分野で要求される、安全性と信頼性の水準を満たさねばならない。電池容量が増すと、事故規模も大きくなると懸念されるので、電池容量は制限されている、モバイル機器用電源における水準よりも、遥かに厳しい水準を満たす必要性が考えられる。

0005

リチウムイオン二次電池の公称電圧を基準として、適正な動作条件負荷接続)で放電させると、放電開示時(t=0)の初期電圧(Einitial)は、公称電圧よりやや高く、放電を継続すると、電圧(Edischarge)は徐々に低下し、公称電圧を下回る。放電した電気量が、該リチウムイオン二次電池の放電容量に達すると、電圧は急激に低下する。この急激な電圧低下が開始する、閾値に相当する電圧を終止電圧(Eterminal)と見做す。

0006

例えば、正極材料として、LiCoO2を、負極材料として、導電性炭素材料であるグラファイトを採用するリチウムイオン二次電池の場合、
適正な充電過程では、
正極では、
LiCoO2 → Li1-xCoO2 + xLi+ + xe-平均電圧3.7V
負極では、
xLi+ + xe- + [C6] → Lix[C6] 平均電圧0.1−0.2V
適正な放電過程では、
正極では、
LiCoO2 ← Li1-xCoO2 + xLi+ + xe- 平均電圧3.7V
負極では、
xLi+ + xe- + [C6] ← Lix[C6] 平均電圧0.1−0.2V
以上の可逆的な電極反応が進行する。充電過程では、LiCoIIIO2中のCoは、Co3+からCo4+へ酸化され、Li+を放出して、Li1-x(CoIII1-xCoIVx)O2へと変換されろ。一方、放電過程では、Li1-xCoO2中のCoは、Co4+からCo3+へ還元され、Li+を吸収して、LiCoIIIO2へと変換される。

0007

その際、作製当初のリチウムイオン二次電池における、正極容量負極容量は、「初期充電過程」において、適正な充電範囲となるように調整されている。

0008

過放電に伴い、LiCoIIIO2中のCoが、Co3+からCo2+へと還元されると、下記の不可逆的な反応が部分的に進行し、正極活物質結晶構造欠損が引き起こされる。結晶構造の欠損は、正極容量の減少を生じさせる。

0009

LiCoIIIO2 + Li+ → Li2O + CoIIO
過充電に伴い、LiCoIIIO2中のCoの全てがCo3+からCo4+へと還元されると、下記の不可逆的な反応が部分的に進行し、正極活物質の結晶構造の不安定化が引き起こされる。結晶構造の欠損は、正極容量の減少が生じさせる。

0010

LiCoIIIO2 → CoIVO2 + Li+ + e-
また、過充電に伴い、充電量が、負極容量を超えると、下記の反応に伴い、余剰金属リチウムが、負極材料表面に析出し、「デンドライト成長」する。

0011

Li+ + e- + {Li[C6]} → Li{Li[C6]}
負極側から「デンドライト成長」した金属リチウムは、正極側と接触すると、内部短絡を引き起こす。

0012

その他、過放電時において、負極電位が上昇すると、負極集電体銅箔表面から、銅の溶解が生じる可能性がある。また、非水電解液を構成する有機溶媒の分解、あるいは、ガス発生につながると考えられている(非特許文献1)。ガス発生によりセル内圧限界以上に高まると、セルが破裂する危険性がある。

先行技術

0013

電中研報告T99040.

発明が解決しようとする課題

0014

通常、これらの過充電・過放電状態を防止するため、セルの状態を監視し適正な動作範囲に保持する保護回路が電池システムに組み込まれている。さらに、充放電深度を浅く設定して、安全性を高めることが考えられる。また、セルを配置する間隔を広げて低密度実装し、さらに、セル間のスペース難燃剤充填することも考えられる。しかし,保護回路は、長期間の使用や過酷条件下での使用により故障し、機能しないリスクもある。あるいは、配線接続誤りにより動作しないことや異常動作する可能性もある。充放電深度の制限や、セルの低密度実装による対策は、リチウムイオン二次電池が電気エネルギーを高密度で蓄えることができるという最大の長所を損なう問題がある。非水電解液を使用するリチウムイオン二次電池よりも、根本的に安全性を高める方向として、固体電解質を採用する全固体電池も考えられが、これは現時点では研究段階にあって一般的に普及している訳ではない。

0015

そこで、本発明の目的は、リチウムイオン二次電池のような、負極活物質として、炭素材料を用いる電気化学系において、負極活物質として、最低空軌道準位(LUMO)の位置を制御した炭素材料を設計することにより、回路システムレベルではなく、材料レベル炭素電極の安全性や信頼性の向上に寄与する技術を提供することである。安全性向上の一例として、上記リチウムイオン二次電池の過放電対策が挙げられる。リチウムイオン二次電池において、過充電対策として、非水電解液にレドックスシャトルを添加することが考えられている。レドックスシャトルは、過充電時に正極側で酸化され、これが負極へ輸送されて酸化状態が還元されて元に戻る仕組みである。しかし、過放電に対しては、適当な材料レベルの技術がないのが現状である。従って、多数の負極用電極材料(負極活物質)を試作して、望ましい特性を持つ負極用電極材料(負極活物質)を選別することになる。多数の負極用電極材料(負極活物質)を試作する必要があるため、開発時間コストが増大するという問題がある。

課題を解決するための手段

0016

例えば、リチウムイオン二次電池では、天然黒鉛人工黒鉛ハードカーボンソフトカーボンなどの主にsp2炭素からなる材料が、負極活物質として用いられている。リチウムイオン二次電池において利用されている、負極活物質用炭素材料の大部分は、sp2炭素からなる多環芳香族炭化水素(polycyclic aromatic hydrocarbon)が集積したものと見做すことができる。

0017

リチウムイオン二次電池の負極を構成する、負極活物質として利用される、グラファイトは、グラフェン層相互にずれて積層された構造を有している。グラフェン層のずれた配置が、二種類のα黒鉛と、三種類のβ黒鉛が存在している。グラフェン層のずれた配置に付随して、グラファイトを構成している、グラフェン層中には、構造的に等価でない二種の炭素原子が存在している。グラフェン層中の6員環を形成している、炭素−炭素結合の距離は、約142pmである。

0018

0019

積層されている、グラフェン層の層間距離は0.335nmであり、芳香族炭化水素分子の分子面から垂直方法のファンデルワールス半径170pmを考慮すると、弱いファンデルワールス結合により、隣接するグラフェン層の積層は維持されていると解釈されている。

0020

Li+のイオン半径(6配位)は、76pmであり、金属結合半径は、152pmである。従って、充電過程では、グラファイトの層間の端部からLi+は侵入し、グラフェン層の表面をマイグレーションし、グラファイトの層間の深部へと輸送される。電気伝導性に優れるグラファイト中を伝導する電子が、マイグレーションしているLi+に付与され、還元される結果、リチウム原子に復する。リチウム原子は、グラフェン層中の6員環により配位された形状“LiC6”となり、固定化される。

0021

一方、放電過程では、グラフェン層中の6員環により配位された形状“LiC6”は、電子をグラファイトに供与し、イオン化し、Li+となる。Li+は、グラフェン層の表面をマイグレーションし、グラファイトの層間の深部からグラファイトの層間の端部へと移動する。グラファイトの層間の端部に達したLi+は、非水電解液中溶出する。

0022

グラフェンでは、sp2電子配置を有する炭素原子が、縮合された6員環を構成し、「二次元的な平面シート」を構成している。二次元の波数空間(kx、ky)において表記される、「二次元的な平面シート」の非相対論的電子状態は、波数空間のK端で、HOMO(最高被占有軌道)とLUMO(最低空軌道)が縮退している。HOMOのエネルギー準位の符号を反転したものがイオン化エネルギー(IP)であり、LUMOエネルギー準位を反転したものが電子親和力(EA)である。HOMO(最高被占有軌道)とLUMO(最低空軌道)が縮退している、グラフェンでは、IPとEAは、4.6eVに一致する(非特許文献2:Enoki, T.; Suzuki, M.; Endo, M.; Graphite Intercalation Compoundsand Applications, p.3.)。

0023

なお、グラファイトを構成しているグラフェンシートの場合、C軸方向に積層されたグラフェン層相互の配置は、等価でない。従って、グラファイト全体としては、シート間相互作用により、僅かにエネルギーギャップが開く。しかし、実質的に、等価でないグラフェン層相互の配置に起因する、このエネルギーギャップは、無視できる程度である。

0024

また、グラフェンのHOMO(最高被占有軌道)からLUMO(最低空軌道)へと一電子励起された状態を考慮すると、(HOMO)Sp(1/2)(LUMO)Sp(1/2)、(HOMO)Sp(1/2)(LUMO)Sp(-1/2)、(HOMO)Sp(-1/2)(LUMO)Sp(1/2)、(HOMO)Sp(-1/2)(LUMO)Sp(-1/2)の4つのスピン状態が存在し、スピン軌道相互作用により、「一重項状態」と「三重項状態」の二つのエネルギー準位を形成している。

0025

本発明では、実際にPAH分子型炭素材料からなる多数の電極を試作することなく、PAH分子のLUMOエネルギー準位の位置に関する理論計算を基に、望ましい動作電位をもつPAH分子を予測することで、電極の作製に使用可能なPAH分子型炭素材料のスクリーニングを行うことで、上記の課題を解決する。本発明のスクリーニング方法が、広い範囲に適用でき、高い信頼性を有することを検証するためには、以下の3点について検討する必要がある。
1. 電極を構成するPAH分子のサイズおよび形状と、LUMOエネルギー準位の位置の関係
2. 絶対電極電位電気化学的な電極電位の関係
3. 低精度な分子軌道法による、LUMOエネルギー準位の位置の近似計算結果を利用し、高精度な非経験的分子軌道法に基づき計算される、LUMOエネルギー準位の位置を推定する方法
まず、1について、検討する。

0026

グラフェンと同様に縮合芳香環構造からなる、平面状の多環芳香族炭化水素は、PAH(polycyclic aromatic hydrocarbon)と呼ばれている。

0027

一般に、PAH分子はそのサイズを小さくし、分子を構成する6員環の総数を減少させると、量子サイズ効果により、HOMO(最高被占有軌道)からLUMO(最低空軌道)へと一電子励起された状態に対応する「エネルギーギャップ」が増大する。すなわち、PAH分子を構成する6員環の総数を減少させると、HOMO(最高被占有軌道)準位と、LUMO(最低空軌道)準位の間のエネルギー差は増大し、その際、LUMO(最低空軌道)エネルギー準位の位置は上昇する。

0028

また、非特許文献3(Malloci, G.; Mulas. G.; Cappellini, G.; Fiorentini, V.; Porceddu, I.; Astronomy and Astrophys. 2005, 432, 585-594.)のTable Iでは、PAH分子を構成する6員環の総数が増し炭素原子数の合計が増えると、EAが大きくなる傾向が認められる。換言すると、LUMOエネルギー準位の位置が低下する傾向が認められる。

0029

また、PAH分子のEAは、PAH分子を構成する6員環の総数、炭素原子総数に依存して、単調増加するわけではなく、PAH分子の形状に対する依存性があることも、非特許文献3のTable Iは示している。

0030

また、PAH分子を、電極を構成する導電性炭素材料として活用する際、例えば、リチウムイオン二次電池の負極活物質に利用する場合、PAH分子面上にリチウムイオン(Li+)を吸着させ、PAH分子から電子が供与され、還元により生成するリチウム原子(Li)の固定化が可能である必要がある。従って、PAH分子を構成する炭素原子数の合計が小さく、PAH分子を構成する6員環の総数が少ないPAH分子では、該PAH分子の分子量MPAH当たり、蓄積可能なリチウム原子(Li)の原子数NLiで定義される、電気容量(NLi/MPAH)が小さくなる。このように、PAH分子を構成する6員環の総数、炭素原子数の合計に依存する、該PAH分子の「エネルギーギャップ」の大きさと、負極活物質として利用する際の電気容量(NLi/MPAH)の大きさには、トレードオフの関係がある。

0031

そこで、PAH分子を構成する6員環の総数、炭素原子の総数や、分子形状と、LUMO準位の関係を調べるために、非経験的分子軌道法(B97D/6−31++G(d,p))を用いて、以下の計算をおこなった。図1で示されるような(i)zigzag edge方向に発達したグラフェンリボン状のPAH分子、(ii)コロネン(C24H12)の外周を増やし、それと相似形のPAH分子の2つの場合について、ΔSCF法により、EAを計算した。計算されるEAは、基底状態にあるPAH分子に対して、そのLUMOエネルギー準位に一電子を導入した状態の全エネルギーと、基底状態にあるPAH分子の全エネルギーと差異に相当している。従って、EAの符号を反転したものが、LUMOエネルギー準位に相当する。ΔSCF法は、中性状態帯電状態間の全エネルギー差から、EAあるいはIPを計算する方法である(非特許文献4:http://arxiv.org/ftp/cond-mat/papers/0701/0701493.pdf)。ΔSCF法に基づくEAあるいはIPの計算方法は、例えば、Hartree−Fock法(self-consistent field method)で計算される1電子軌道エネルギーから、単純にクープマンスの定理やヤナックの定理に基づいて、EAやIPを推測する手法よりも、信頼性が高いと考えられている。

0032

PHA分子のLUMOエネルギー準位の位置は、PAH分子の分子軌道非局在化と関連している。分子軌道の非局在化の度合いが大きいとLUMOエネルギー準位は大きく低下し、反対に、分子軌道の非局在化の度合いが小さいとLUMOエネルギー準位はあまり低下しない。図1に示す(i)zigzag edge方向に発達したグラフェンリボン状のPAH分子は、ペリレン(C20H12)型ユニットが、zigzagリボン状に一次元的に長く伸びクラスタ構造を形成している。一方、(ii)コロネン(C24H12)の外周を増やし、それと相似形のPAH分子は、コロネン(C24H12)型ユニットが、二次元的に配置されたクラスタ構造を形成している。同じ炭素原子総数、6員環の総数で比較した場合、(i)に示すグラフェンリボン状のPAH分子は、一次元的に長く伸びた分子軌道を持ち、最も非局在化が進んだ状態である。一方、(ii)に示すコロネン型のPAH分子は、コンパクトな分子軌道を持ち、最も非局在化の度合いが小さいと考えられる。すなわち、同じ炭素原子総数のPAH分子では、(i)に示すグラフェンリボン状のPAH分子のLUMOエネルギー準位が最小で、(ii)に示すコロネン型のPAH分子のLUMOエネルギー準位が最大と推測される。従って、この2つの形状について、それぞれPAH分子のLUMOエネルギー準位の位置を推定することで、PAH分子全般における、LUMOエネルギー準位の上限と下限が推定できることになる。

0033

なお、(i)に示すグラフェンリボン状のPAH分子、(ii)に示すコロネン型のPAH分子を構成する6員環の総数(NC6)と、炭素原子総数(NC)は、下記の表に示すように、辺を構成する6員環の数(n)の関数として表記できる。

0034

0035

0036

図2は、上記(i)と(ii)の形状をしたPAH分子が、真空比誘電率εr=1)中に存在すると仮定した場合と、溶媒(比誘電率εr>1)中に存在すると仮定した場合の、LUMOエネルギー準位の位置の計算結果である。いずれの計算結果においても、PAH分子を構成する炭素原子総数が増大すると、LUMOエネルギー準位の位置は低下する。特に、(i)のグラフェンリボン状のPAH分子では、(ii)のコロネン型PAH分子と比較すると、少ない炭素原子総数でより速くLUMOエネルギー準位の位置は低下している。また、溶媒(比誘電率εr>1)中における計算結果と、真空(比誘電率εr=1)中における計算結果を比較すると、比誘電率εrの差異に伴って、LUMOエネルギー準位の位置が下方シフトすることが判る。

0037

より大きなサイズのPHA分子について、高精度の非経験的分子軌道法に基づき、EAの計算を実行することは、計算時間の面において、技術的な障害がある。加えて、より大きなサイズのPHA分子においては、その電子状態は金属的となって、SCF計算が不安定する。具体的には、SCF計算結果の収斂性が低下する結果、高精度でEAの計算を行うことは、現実的には難しい。

0038

より大きなサイズのPHA分子について、ΔSCF法により、EAを高精度で計算することは現実的には困難であるため、(i)と(ii)の形状をしたPAH分子として、それぞれ図1に示す、3種のPHA分子における計算値を、回帰分析により適当な関数形に当て嵌めた。その際、PHA分子を構成する炭素原子総数Ncがより大きくなり、極限として、Ncが無限大となると、ΔEA/ΔNcは、0となる。その点を考慮して、関数形として、1次関数ではなく、対数関数を採用した。実際、1次関数よりも対数関数を用いた場合に当てはまりの適合度が高くなることが、図2中の決定係数(R2)の値から分かる(R2が1のとき適合度が最大)。

0039

上述のように、真空(比誘電率εr=1)中で無限に広いグラフェンシートのLUMOエネルギー準位の位置は、−4.6eVである。図2中に示す対数関数を用いた回帰式から、(i)のグラフェンリボン状のPAH分子では、炭素原子総数Ncが250程度で、LUMOエネルギー準位の位置が、−4.6eVに到達すると予測される。一方、(ii)のコロネン型PAH分子では、炭素原子総数Ncが820程度で、LUMOエネルギー準位の位置が、−4.6eVに到達すると予測される。(i)のグラフェンリボン状のPAH分子と比較し、(ii)のコロネン型PAH分子の方が、より大きなサイズとなっている。

0040

負極活物質は、少なくともその表面は非水電解液に接している。従って、その表面に接している非水電解液の影響を考察することも必要である。一般に、帯電状態は、極性溶媒中で安定化されるため、極性溶媒(比誘電率εr>1)中におけるEAは、真空(比誘電率εr=1)中におけるEAより大きくなる。すなわち、極性溶媒(比誘電率εr>1)中におけるLUMOエネルギー準位の位置は、真空(比誘電率εr=1)中におけるLUMOエネルギー準位の位置準位はよりも低下する。図2には、PAH分子が溶媒(比誘電率εr>1)中にある場合の、LUMOエネルギー準位の位置の計算結果も示している(溶媒の効果は、比誘電率εrが一定の連続体モデルSCRFで、溶媒をアセトン(比誘電率εr=21)として考慮した)。

0041

但し、実際の負極活物質として使用する際には、グラフェンが積層されたグラファイトと同様に、PAH分子は、多数積層された状態の微粒子として存在している。このPAH分子からなる微粒子が、非水電解液に浸漬されている状態では、非水電解液と実際に接触しているのは、微粒子の表面に限定されると思われる。比誘電率εrが一定の連続体モデルを仮定する、上記溶媒中での計算は、相当に厳しい評価条件であるかもしれない。いずれにせよ、(ii)のコロネン型PAH分子と比較して、(i)のグラフェンリボン状のPAH分子では、グラフェンリボン状の1次元方向に伸びたクラスタ構造を有する結果、π電子系の非局在性が強く、エネルギーギャップは狭く、LUMOエネルギー準位の位置の低下が著しい傾向にある。

0042

次に、2について論じる。

0043

上記のLUMOエネルギー準位の位置は、真空準位を基準としたものである。従って、この値は、電気化学的には絶対電極電位(vs abs)に対応した値と考えられる。絶対電極電位(vs abs)を、電気化学で通常用いられる標準水素電極電位(vs SHE)に換算するには、絶対電極電位表示での標準水素電極の電極電位Eo(H+/H2)H2O(abs)を引けば良い.絶対電極電位表示での標準水素電極の電極電位Eo(H+/H2)H2O(abs)について、IUPAC(国際純正応用化学連合)は4.44 Vを推奨している(非特許文献5:http://goldbook.iupac.org/S05917.html)。しかしながら、現状において知られている標準水素電極の電極電位Eo(H+/H2)H2O(abs)の値には、後述するように曖昧さがあることに注意しなければならない。

0044

さらに、3について述べる。

0045

図2中に示す回帰式を用いると、真空(比誘電率εr=1)中と極性溶媒(比誘電率εr=21)中にPHA分子が存在する場合について、LUMOエネルギー準位の位置を所与として、そのLUMOエネルギー準位の位置を与えるPAH分子を構成する炭素原子総数を推定することができる。また、逆に、PAH分子を構成する炭素原子総数を所与として、そのPAH分子のLUMOエネルギー準位の位置を推定できる。しかし、この回帰式を利用する推定方法の信頼性を検証するためには、何らかの低精度であるが、簡便な分子軌道法計算で得られたLUMOエネルギー準位の位置から、上述の高精度な非経験的分子軌道法に基づき計算されるLUMOエネルギー準位の位置を推定できる方法があれば有用である。簡便な分子軌道法計算法して、半経験的分子軌道法を用いることが考えられる。一般的に、半経験的分子軌道法は、非経験的分子軌道法より千倍のオーダー高速に計算可能と思われている。半経験的分子軌道法を利用する計算で得られたLUMOエネルギー準位の位置から、上述の高精度な非経験的分子軌道法に基づき計算されるLUMOエネルギー準位の位置を推定する方法の詳細については、下記の実施例2に記述する。

0046

本発明は、これらの知見に基づいて、完成されたものである。本発明の構成は、以下の(1)ないし(8)に記載のとおりである。
(1)リチウムイオン二次電池用炭素電極の作製に利用される、多環芳香族炭化水素(PAH)からなる炭素電極材料をスクリーニングする方法であって、
スクリーニングの対象である、多環芳香族炭化水素(PAH)の最低空軌道(LUMO)エネルギー準位の位置(ELUMO)を理論計算に基づき推定し、
最低空軌道(LUMO)エネルギー準位の位置(ELUMO)に基づいて、多環芳香族炭化水素(PAH)を構成する炭素原子数を決定する
ことを特徴とする、炭素電極材料のスクリーニング方法。
(2)LUMOエネルギー準位の位置(ELUMO)に基づいて、多環芳香族炭化水素(PAH)を構成する炭素原子数を決定する際、
スクリーニングの対象である、多環芳香族炭化水素(PAH)の最低空軌道(LUMO)エネルギー準位の位置(ELUMO)の理論計算に基づく推定に、電子状態計算法を利用する
ことを特徴とする、(1)に記載の炭素電極材料のスクリーニング方法。
(3)幾つかの多環芳香族炭化水素(PAH)のLUMOエネルギー準位の位置(ELUMO)の計算値を、PAHの炭素原子数を説明変数とした回帰分析により適当な関数に適合させることで、回帰式を算定し、
算定される回帰式を用いて、任意の炭素原子数で構成されるPAHのLUMOエネルギー準位の位置(ELUMO)を予測する
ことを特徴とする、(2)に記載の炭素電極材料のスクリーニング方法。
(4)電子状態計算法として、分子軌道法を用いる
ことを特徴とする、(2)に記載の炭素電極材料のスクリーニング方法。
(5)回帰分析に適合させる関数として、対数関数を用いる
ことを特徴とする、(3)に記載の炭素電極材料のスクリーニング方法。
(6)分子軌道法として、非経験的分子軌道法を用いる
ことを特徴とする、(4)に記載の炭素電極材料のスクリーニング方法。
(7)分子軌道法として、非経験的分子軌道法に加えて、半経験的分子軌道法を用い、
スクリーニングの対象である、多環芳香族炭化水素(PAH)の最低空軌道(LUMO)エネルギー準位の位置(ELUMO)の理論計算に基づく推定に、
非経験的分子軌道法に基づく理論計算と、半経験的分子軌道法に基づく理論計算を組み合わせて用いる
ことを特徴とする、(4)に記載の炭素電極材料のスクリーニング方法。
(8)LUMOエネルギー準位の位置(ELUMO)に基づいて、多環芳香族炭化水素(PAH)を構成する炭素原子数を決定する工程は、
炭素電極材料の望ましい電極電位の範囲を設定するステップと、
上記の電極電位の範囲を、絶対電極電位の範囲に変換して、LUMOエネルギー準位の位置(ELUMO)の範囲を計算するステップと、
回帰分析に適合させる関数式として算定された回帰式から、上記のLUMOエネルギー準位の位置(ELUMO)の範囲に対応する、多環芳香族炭化水素(PAH)を構成する炭素原子数の範囲を算出するステップを具える
ことを特徴とする、(3)に記載の炭素電極材料のスクリーニング方法。

発明の効果

0047

本発明のスクリーニング方法は、炭素電極材料の分子設計において、非経験的分子軌道法と必要に応じて半経験的分子軌道法を組み合わせることにより、個々の問題に対して、望ましい電極電位に対応するPAH分子を構成する炭素原子総数の範囲を簡便に予測する手段を提供する。すなわち、PAH分子のサイズと、そのLUMOエネルギー準位の位置との関係について、信頼性の高い予測を可能にして、LUMOエネルギー準位の位置を電極電位に対応付けることで、望ましい電極電位に対応するPAH分子の炭素原子総数を予測すること可能としている。実際に電極を試作することなく、簡便な計算に基づき、炭素電極材を構成する最適な炭素原子総数の範囲のスクリーニングを可能としたことは、リチウムイオン二次電池の負極活物質として使用する、PAH分子型炭素材料の分野において、開発時間や開発コストの低減に貢献する。

図面の簡単な説明

0048

(i)ジグザグリボン型のPAH分子と、(ii)コロネン型のPAH分子のクラスタ構造モデルを例示する図である。
(i)ジグザグリボン型のPAH分子と、(ii)コロネン型のPAH分子について、PHA分子を構成する炭素原子総数と、非経験的分子軌道法計算によるLUMOエネルギー準位の位置との相関関係を示す図である。
本発明の炭素電極材料のスクリーニング方法における、各処理ステップの処理内容の一例を示す、処理フロー図である。
リチウムイオン二次電池において、過放電の要因となる銅の溶出を抑制するため、負極活物資として使用するPHA分子のLUMOエネルギー準位の位置の許容範囲を模式的に示す図である。
(ii)コロネン型のPAH分子について、非経験的分子軌道法計算によるLUMOエネルギー準位の位置と、半経験的分子軌道法計算によるLUMOエネルギー準位の位置との対応関係を示す図である。

0049

以下に、本発明について、より詳しく説明する。

0050

絶対電極電位表示での標準水素電極の電極電位Eo(H+/H2)H2O(abs)に関して、最近の測定では、4.11 V(非特許文献6:Donald, W. A.; Leib, R. D.; Demireva, M.; O'Brien, J. T.; Prell, J. S.; Williams, E. R.; J. Am. Chem. Soc. 2009, 131, 13328-13337.)とIUPAC推奨値(4.44 V)よりも小さな値が報告されている。一方、過去には、4.73 V(非特許文献7: Gomer, R.; Tryson, G.: J. Chem. Phys. 1977, 66, 4413-4424.)という大きな値も報告されている。従って、IUPAC推奨値(4.44 V)を中心として、4.11 V< Eo(H+/H2)H2O(abs) < 4.73 Vのように幅をもって考えればよい。この上限値と下限値のどちらが重要であるかは、電極電位を過大評価するまたは過小評価するリスクをどれだけ重視するのかなど、個々の問題に応じて決められるべきである。

0051

ΔSCF法により、PHA分子のEAを計算する際、下記の実施例1と実施例2では、非経験的分子軌道法計算としてB97D汎関数を用いているが、この汎関数に限定されるものではなく、B3LYP、BLYP、PBE、PW91、SVWNなど密度汎関数法交換相関汎関数を用いることができる。

0052

高精度の非経験的分子軌道法に基づく、PAH分子のLUMOエネルギー準位の位置の計算に加えて、下記の実施例2では、低精度な分子軌道法計算による、PAH分子のLUMOエネルギー準位の位置の計算を行っている。実施例2では、低精度な分子軌道法計算を行う際、半経験的分子軌道法を用いているが、これに限定されるものではなく、STO-3Gなどの小さな基底関数系を用いた非経験的分子軌道法を用いることもできる。

0053

下記の実施例2では、半経験的分子軌道法計算を行う際、PM6を用いているが、これに限定されるものではなく、PM3、AM1、MINDOなどの半経験的計算方法を用いることもできる。

0054

非経験的分子軌道法計算に基づく、複数種のPAH分子の電子親和力EAの計算値を、対数関数などの適当な関数形にフィッティングする際、フィッティングする電子親和力EAの計算値の点数として、3点以上を用いるべきである。

0055

以下、具体例を挙げて本発明を更に詳しく説明する。以下に示す具体例は、本発明の最良の実施形態の一例であるが、本発明は、具体例に示す実施形態に限定されるものではない。

0056

(実施例1)
本発明のスクリーニング方法における処理手順の一例を示す図3に参照して、本発明のスクリーニング方法を適用する詳細について説明する。

0057

実施例1においては、「設定された問題」として、リチウムイオン二次電池の負極集電体として使用する銅の溶解を抑制することが可能な炭素電極材料のスクリーニングに適用する事例を説明する。従って、図3に示す処理(1)において、リチウムイオン二次電池の負極集電体として使用する銅の溶解を抑制する上で、要求される炭素電極の電位範囲を、下記の手順で決定している。

0058

銅と銅イオン間の酸化還元反応には、Cu+(aq)/Cu、Cu2+(aq)/Cu、Cu2+(aq)/Cu+(aq)で示される3つがあり、各反応の平衡電位は、熱力学データによると、それぞれ、+0.52 V、+0.34 V、+0.15 V[vs SHE]である。これら3種の反応(過程)のうち、銅の溶解では、最初の金属銅(Cu)が酸化され、1価イオン(Cu+)となって溶液溶け出す過程が重要である。報告されている、Cu+(aq)/Cuの酸化還元準位は、バルクの銅(Cu(s))に対するものである。

0059

一方、表面に存在する、Cu原子に対する配位数が、バルク中のCu原子における配位数よりも減少している場合、表面のCu原子の実効的な凝集エネルギーは低下する。その結果、表面のCu原子のイオン化が促進されると考えられる。表面のCu原子のイオン化を考慮する場合、この影響を取り入れる必要がある。

0060

FCC構造をとる銅の結晶における、Cu原子のパッキング状態を下に示す。

0061

0062

例えば,バルクの銅はFCC構造をとっており、Cu原子の周囲を12のCu原子が取り囲み、12配位と見做せる。Cu(111)面の最表面Cu原子は、その上面を被覆する銅原子は存在していないので、周囲に存在するCu原子の総数は9であり、実効的に9配位と見做せる。さらに、ラフネスの大きな表面にあるCu原子では、その周囲に存在するCu原子の総数は、さらに減少している可能性がある。仮に、表面のCu原子の周囲に存在するCu原子の総数が6となっている場合を想定すると、凝集エネルギーは、バルクの場合の3.49 eVから、半分の1.745 eVとなっていると想定される。この状態にある、表面のCu原子における、銅の酸化還元レベルが、凝集エネルギーの差異に相当する1.745 Vだけ、バルクでの値(+0.52 V[vs SHE])よりも卑な方向にシフトすると、シフト後の値は、−1.225 V[vs SHE]となる。

0063

図4に示すように、電極材料の伝導帯下端に相当するLUMOエネルギー準位の位置が、銅の酸化還元準位の位置よりも高い場合、銅の酸化過程;Cu → Cu+ + e-に伴い生成する電子は、電極材料の伝導帯に注入されない。勿論、電極材料の被占有バンド価電子帯バンド)は既に電子に占有されており、銅の酸化過程に伴い生成する電子を受け入れることはできない。

0064

従って、電極材料の伝導帯下端に相当するLUMOエネルギー準位の位置を、銅の酸化還元準位の位置よりも高く設定すると、負極活物質として使用する、炭素材料の電導性関与する伝導帯を経由する、過放電を引き起こす要因となる、銅の酸化過程;Cu → Cu+ + e-の進行を抑制することが可能となる。例えば、電極材料の伝導帯下端に相当するLUMOエネルギー準位の位置を、上で見積もられた、表面のCu原子における、銅の酸化還元準位よりも高い位置となるように、負極活物質として使用する炭素材料の選択を行う。

0065

銅の溶解を引き起こす、銅の酸化過程;Cu → Cu+ + e-に伴って、電子が生成すると、Cuは、電子を供給するドナーとしての役割を持つ。負極活物質として使用する、炭素材料の最高被占軌道以下の電子準位は既に電子に占有されているので、銅の酸化還元レベルが炭素材料の被占有バンド(価電子帯バンド)と重なっても、恐らく問題ないと思われる。

0066

一方、負極活物質として使用する、炭素材料のエネルギーギャップが縮小することに伴い、炭素材料の伝導帯バンド下端が下がり、炭素材料の伝導帯下端に相当するLUMOエネルギー準位の位置より、表面のCu原子における、銅の酸化還元準位が高い位置となると、銅の酸化過程;Cu → Cu+ + e-に伴って生成する電子が、炭素材料の伝導帯に注入され、結果的に、銅の溶解を進行させる。従って、過放電耐性を高めるためには、負極活物質として使用する、炭素材料のLUMOエネルギー準位の位置が、上記の銅の酸化還元準位より高い位置となるように、負極活物質として使用する炭素材料を選べばよい。

0067

一方、負極活物質として使用する炭素材料の望ましい電極電位の下限は、デンドライド成長のような、金属リチウムの負極上での析出が起こらないという条件から決まる。すなわち、負極活物質として使用する炭素材料の電極電位は、金属リチウムの酸化還元電位(-3.04 V[vs SHE])よりも貴である必要がある。

0068

この望ましい電極電位の下限も考慮すると、銅の溶解を抑制する上で、負極活物質として使用する炭素材料の望ましい電極電位(USHE)の範囲は、
-3.04 V < USHE < -1.225 V[vs SHE]
となる。この電極電位(USHE)の範囲を、リチウムイオン二次電池の開発で通常用いられている金属Li基準に換算すると、
0 V < ULi/Li+ < +1.815 V[vs Li/Li+]
となる。この範囲の上限値は、過放電が十分に進んだセルでは、負極活物質の電極電位として想定内の値である。

0069

処理(2)では、上記のSHE基準の電極電位を絶対電極電位に変換する。絶対電極電位表示での標準水素電極の電極電位Eo(H+/H2)H2O(abs)として、IUPAC推奨値(4.44 V)を用いる場合、上記USHEの範囲は、以下のLUMOエネルギー準位の位置(ELUMO)の範囲に変換される。

0070

-3.215 eV < ELUMO < -1.4 eV
処理(3)では、図2に示す、PAH分子のLUMOエネルギー準位の位置(ELUMO)の該PAH分子を構成する炭素原子数(X)に対する依存性を表記する、対数関数の回帰式を用いて、上記のLUMOエネルギー準位の位置(ELUMO)の範囲を満たす、炭素原子数(X)の範囲を決定する。zigzagリボン状のPAH分子に対する回帰式と、コロネン型のPAH分子に対する回帰式は異なっており、それぞれの場合について、上記のLUMOエネルギー準位の位置(ELUMO)の範囲を満たす、炭素原子数(X)の範囲を決定する。図2中には、真空(比誘電率εr=1)中と、溶液(比誘電率εr=21)中の場合について、それぞれ回帰式が算定されている。リチウムイオン二次電池の負極活物質に使用する炭素材料の場合、表面に露出したbasal面を除けば、PAH分子型の炭素材料は、edge部分でのみ非水電解液と接していると考えられる。その点を考慮すると、真空(比誘電率εr=1)中でのLUMOエネルギー準位の位置(ELUMO)に対する回帰式を用い、炭素原子数(X)の範囲を決定することが適当と考えた。

0071

まず、zigzagリボン状のPAH分子の場合、以下の不等式を満たすXの値の範囲を決めれば良い。

0072

-3.215 < -1.4194 ln(X) + 3.2187 < -1.4
前記不等式を解くと、Xの値の範囲は、25.89 < X < 93.01となる。

0073

一方、コロネン型の形状を有するPAH分子の場合、以下の不等式を満たすXの値の範囲を決めれば良い。

0074

-3.215 < -1.1566 ln(X) + 3.1561 < -1.4
前記不等式を解くと,51.82 < X < 246.8となる。

0075

PAH分子の大部分は、zigzagリボン状の1次元的な成長よりも、コロネン型のPHA分子に近い2次元的な成長をすると考えられる。その点を考慮すると、PAH分子を用いて、過放電耐性の高い炭素電極を作製する際、PAH分子を構成する炭素原子総数が、52個〜246個の範囲にあるPAH分子を使用すれば良いことが判る。

0076

(実施例2)
半経験的分子軌道法を適用して、計算されるPAH分子のLUMOエネルギー準位の位置から、非経験的分子軌道法を適用して、計算されるPAH分子のLUMOエネルギー準位の位置を推定する方法の一例を以下に説明する。

0077

PAH分子のLUMOエネルギー準位の位置の低精度な計算に使用する、半経験的分子軌道法として、PM6を採用している。PM6を用いて、3つのコロネン型PAH(C24H12、C54H18、C96H24)のLUMOエネルギー準位の位置を計算する。

0078

これら半経験的分子軌道法を適用して、計算されるPAH分子のLUMOエネルギー準位の位置を、高精度な非経験的分子軌道法(B97D/6−31++G(d,p))に基づく、PAH分子のLUMOエネルギー準位の位置の計算値と比較する。図5に示すように、真空(比誘電率εr=1)中と、溶液(比誘電率εr=21)中のPAH分子に対する計算値のいずれの場合も、半経験的分子軌道法を適用して計算される値は、高精度な非経験的分子軌道法に基づく計算値に対して、線形回帰式で説明可能であることが判る(図5縦軸に示す、半経験的分子軌道法を適用して計算される値の単位は原子単位auであることに注意)。

0079

さらに大きなコロネン型のPAH分子である、C150H30について、PM6を用いてLUMOエネルギー準位の位置を計算すると、計算されたLUMOエネルギー準位の位置は−0.10915 auである。図5中に示す、線形回帰式を利用して、真空(比誘電率εr=1)中と、溶液(比誘電率εr=21)中における、C150H30の高精度な非経験的分子軌道法に基づくLUMOエネルギー準位の位置の計算値を推定する。C150H30の高精度な非経験的分子軌道法に基づくLUMOエネルギー準位の位置の計算値は、真空(比誘電率εr=1)中では、−2.59 eV;溶液(比誘電率εr=21)中では、−3.42 eVと推定される。一方、図2に示す、対数回帰式を用いて、コロネン型のPAH分子である、C150H30について、高精度な非経験的分子軌道法に基づくLUMOエネルギー準位の位置の計算値を推定する。推定される値(外挿値)は、真空(比誘電率εr=1)中では、−2.64 eV;溶液(比誘電率εr=21)中では、−3.45 eVである。

実施例

0080

これら2つの推定方法による、C150H30について、高精度な非経験的分子軌道法に基づくLUMOエネルギー準位の位置の計算値を推定した結果を比較すると、その差異は2%以内であり、信頼性が高いことが判る。

0081

本発明にかかる炭素電極材料のスクリーニング方法を採用すると、炭素電極を用いる電気化学系において、電極試作を重ねることなく、望ましい動作電位を持つPHA分子のサイズをシミュレーションによって選別することが可能となる。従って、本発明にかかる炭素電極材料のスクリーニング方法は、リチウムイオン二次電池の過放電耐性の高い負極用炭素電極の開発に利用可能である。

ページトップへ

この技術を出願した法人

この技術を発明した人物

ページトップへ

関連する挑戦したい社会課題

関連する公募課題

該当するデータがありません

ページトップへ

おススメ サービス

おススメ astavisionコンテンツ

新着 最近 公開された関連が強い技術

この 技術と関連性が強い人物

関連性が強い人物一覧

この 技術と関連する社会課題

関連する挑戦したい社会課題一覧

この 技術と関連する公募課題

該当するデータがありません

astavision 新着記事

サイト情報について

本サービスは、国が公開している情報(公開特許公報、特許整理標準化データ等)を元に構成されています。出典元のデータには一部間違いやノイズがあり、情報の正確さについては保証致しかねます。また一時的に、各データの収録範囲や更新周期によって、一部の情報が正しく表示されないことがございます。当サイトの情報を元にした諸問題、不利益等について当方は何ら責任を負いかねることを予めご承知おきのほど宜しくお願い申し上げます。

主たる情報の出典

特許情報…特許整理標準化データ(XML編)、公開特許公報、特許公報、審決公報、Patent Map Guidance System データ