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技術 アルミニウム合金およびその製造方法

出願人 株式会社UACJ
発明者 一谷幸司鹿川隆廣日比野旭
出願日 2013年2月26日 (7年10ヶ月経過) 出願番号 2013-035437
公開日 2014年9月8日 (6年3ヶ月経過) 公開番号 2014-162958
状態 特許登録済
技術分野 非鉄金属または合金の熱処理
主要キーワード 薄膜試験片 輸送用機械 針状析出物 二次合金 高温疲労特性 高温疲労 アルミニウム合金展伸材 高温疲労試験
関連する未来課題
重要な関連分野

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図面 (2)

課題

焼入れ感受性を高めることなく、比較的大型の部材の場合であっても十分な耐熱性を有することができるアルミニウム合金およびその製造方法を提供する。

解決手段

アルミニウム合金は、含有率が2.0質量%以上3.7質量%以下のCuと、含有率が1.3質量%以上2.2質量%以下のMgと、含有率が0.8質量%以上2.0質量%以下のFeと、含有率が0.8質量%以上2.0質量%以下のNiと、含有率が0.31質量%以上0.90質量%以下のSiと、含有率が0.01質量%以上0.20質量%以下のTiと、を含み、Mnの含有率が0.1質量%未満、Crの含有率が0.1質量%未満、Zrの含有率が0.1質量%未満、Scの含有率が0.1質量%未満、Vの含有率が0.1質量%未満に規制され、残部がAlおよび不可避不純物からなる。

概要

背景

自動車鉄道車両船舶等の輸送分野においては、エンジン部品およびコンプレッサー等の機械部品において、省エネルギーを目的として軽量なアルミニウム合金材が多く使用されている。上記用途では、主に材料の耐熱性が要求されることから、アルミニウム合金種の中でも特に耐熱性に優れる2000系合金(Al−Cu系合金)が使用されている。

最近の自動車における燃費規制強化に代表されるように、自動車・船舶等の輸送用機械においては、さらに強い省エネルギー化が求められ、それに応じて本用途におけるアルミニウム合金材が使用される温度条件荷重負荷条件への要求が高まっており、さらなる耐熱性の向上が必要な状況にある。

本用途での耐熱性に優れたアルミニウム合金としては、従来から、JIS規格で規定されたJIS 2618合金(以下、2618合金)が広く使用されている。2618合金の成分は、Cu:1.9質量%〜2.7質量%、Mg:1.3質量%〜1.8質量%、Si:0.10質量%〜0.25質量%、Fe:0.9質量%〜1.3質量%、Ni:0.9質量%〜1.2質量%、Ti:0.04質量〜0.10質量%、Al残部で規定されているように、Al−Cu−Mg−Si−Fe−Ni合金であって、特に150〜200℃の温度範囲において、他の種々の2000系合金に比較して優れた耐熱性を有している。

この2618合金を改良して、耐熱性をさらに向上させた合金が、例えば特許文献1〜3に記載されている。特許文献1〜3に記載されている合金はいずれも、2618合金の基本成分であるAl、Cu、Mg、Si、Fe、Niに加えて、Mn、Cr、Zr、Sc、V等の遷移元素必須元素として積極的に添加することによって耐熱性の向上を図っている。しかし、特許文献1〜3で記載されているような遷移元素を用いて耐熱性の向上を図った場合には、その付随的な影響として、焼入れ感受性が高まってしまい、部材の径、板厚肉厚が大きくなって、溶体化処理後焼入れにおいて冷却速度不可避的に低下した場合に、耐熱性向上効果が得られなくなることがあった。とりわけ本用途においては、比較的大径・厚板・大肉厚の部材が多いため、これらの技術が適用できる部材は、比較的小型な部材に限定されることが多かった。

一方で、特許文献4には、2618合金と同じ構成のAl−Cu−Mg−Si−Fe−Ni合金であるが、Feの含有率を0.1〜0.7%に低く制限して、Cuの固溶量を高めて耐熱性を高める技術が記載されているが、Feの含有率を制限したことによって、FeおよびNiからなる晶出粒子分布密度が低下することによって、これらの粒子による分散強化の耐熱性向上への寄与が低下して、現状要求されるに足る十分な耐熱性向上効果を得ることは困難であった。

また、一方で、特許文献5には、2618合金とおおよそ同じ範囲のAl−Cu−Mg−Si−Fe−Ni合金の溶体化処理温度条件を最適条件に限定することによって、耐熱性の向上を図る技術が記載されている。しかしながら、この技術によっても、現状要求されるに足る十分な耐熱性向上効果を得ることは困難であった。

概要

焼入れ感受性を高めることなく、比較的大型の部材の場合であっても十分な耐熱性を有することができるアルミニウム合金およびその製造方法を提供する。アルミニウム合金は、含有率が2.0質量%以上3.7質量%以下のCuと、含有率が1.3質量%以上2.2質量%以下のMgと、含有率が0.8質量%以上2.0質量%以下のFeと、含有率が0.8質量%以上2.0質量%以下のNiと、含有率が0.31質量%以上0.90質量%以下のSiと、含有率が0.01質量%以上0.20質量%以下のTiと、を含み、Mnの含有率が0.1質量%未満、Crの含有率が0.1質量%未満、Zrの含有率が0.1質量%未満、Scの含有率が0.1質量%未満、Vの含有率が0.1質量%未満に規制され、残部がAlおよび不可避不純物からなる。なし

目的

本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、焼入れ感受性を高めることなく、比較的大型の部材の場合であっても十分な耐熱性を有することができるアルミニウム合金およびその製造方法を提供する

効果

実績

技術文献被引用数
0件
牽制数
0件

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請求項1

含有率が2.0質量%以上3.7質量%以下のCuと、含有率が1.3質量%以上2.2質量%以下のMgと、含有率が0.8質量%以上2.0質量%以下のFeと、含有率が0.8質量%以上2.0質量%以下のNiと、含有率が0.31質量%以上0.90質量%以下のSiと、含有率が0.01質量%以上0.20質量%以下のTiと、を含み、Mnの含有率が0.1質量%未満、Crの含有率が0.1質量%未満、Zrの含有率が0.1質量%未満、Scの含有率が0.1質量%未満、Vの含有率が0.1質量%未満、に規制され、残部がAlおよび不可避的不純物からなる、ことを特徴とするアルミニウム合金

請求項2

マトリクス中に、Al、CuおよびMgを含む針状析出物を有し、前記針状析出物の平均長さが150nm以上250nm以下であり、前記針状析出物の分布密度が、200個/μm2以上である、ことを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム合金。

請求項3

請求項1または2に記載のアルミニウム合金の製造方法であって、均質化処理工程において、鋳造工程において鋳造されたアルミニウム合金を、470℃以上、該鋳造されたアルミニウム合金の固相線温度以下の温度で1時間以上保持した後、熱間加工された、または、熱間加工および冷間加工されたアルミニウム合金を、溶体化処理工程において、470℃以上、該熱間加工された、または、該熱間加工および冷間加工されたアルミニウム合金の固相線温度以下の温度で1秒間以上保持し、人工時効処理工程において、前記溶体化処理工程において溶体化処理されたアルミニウム合金を、170℃以上210℃以下の温度で5時間以上保持する、ことを特徴とするアルミニウム合金の製造方法。

技術分野

0001

本発明は、アルミニウム合金およびその製造方法に関するものである。

背景技術

0002

自動車鉄道車両船舶等の輸送分野においては、エンジン部品およびコンプレッサー等の機械部品において、省エネルギーを目的として軽量なアルミニウム合金材が多く使用されている。上記用途では、主に材料の耐熱性が要求されることから、アルミニウム合金種の中でも特に耐熱性に優れる2000系合金(Al−Cu系合金)が使用されている。

0003

最近の自動車における燃費規制強化に代表されるように、自動車・船舶等の輸送用機械においては、さらに強い省エネルギー化が求められ、それに応じて本用途におけるアルミニウム合金材が使用される温度条件荷重負荷条件への要求が高まっており、さらなる耐熱性の向上が必要な状況にある。

0004

本用途での耐熱性に優れたアルミニウム合金としては、従来から、JIS規格で規定されたJIS 2618合金(以下、2618合金)が広く使用されている。2618合金の成分は、Cu:1.9質量%〜2.7質量%、Mg:1.3質量%〜1.8質量%、Si:0.10質量%〜0.25質量%、Fe:0.9質量%〜1.3質量%、Ni:0.9質量%〜1.2質量%、Ti:0.04質量〜0.10質量%、Al残部で規定されているように、Al−Cu−Mg−Si−Fe−Ni合金であって、特に150〜200℃の温度範囲において、他の種々の2000系合金に比較して優れた耐熱性を有している。

0005

この2618合金を改良して、耐熱性をさらに向上させた合金が、例えば特許文献1〜3に記載されている。特許文献1〜3に記載されている合金はいずれも、2618合金の基本成分であるAl、Cu、Mg、Si、Fe、Niに加えて、Mn、Cr、Zr、Sc、V等の遷移元素必須元素として積極的に添加することによって耐熱性の向上を図っている。しかし、特許文献1〜3で記載されているような遷移元素を用いて耐熱性の向上を図った場合には、その付随的な影響として、焼入れ感受性が高まってしまい、部材の径、板厚肉厚が大きくなって、溶体化処理後焼入れにおいて冷却速度不可避的に低下した場合に、耐熱性向上効果が得られなくなることがあった。とりわけ本用途においては、比較的大径・厚板・大肉厚の部材が多いため、これらの技術が適用できる部材は、比較的小型な部材に限定されることが多かった。

0006

一方で、特許文献4には、2618合金と同じ構成のAl−Cu−Mg−Si−Fe−Ni合金であるが、Feの含有率を0.1〜0.7%に低く制限して、Cuの固溶量を高めて耐熱性を高める技術が記載されているが、Feの含有率を制限したことによって、FeおよびNiからなる晶出粒子分布密度が低下することによって、これらの粒子による分散強化の耐熱性向上への寄与が低下して、現状要求されるに足る十分な耐熱性向上効果を得ることは困難であった。

0007

また、一方で、特許文献5には、2618合金とおおよそ同じ範囲のAl−Cu−Mg−Si−Fe−Ni合金の溶体化処理温度条件を最適条件に限定することによって、耐熱性の向上を図る技術が記載されている。しかしながら、この技術によっても、現状要求されるに足る十分な耐熱性向上効果を得ることは困難であった。

先行技術

0008

特開2011−122180号公報
特開2010−18854号公報
特開2008−202121号公報
特開平7−242976号公報
特開2008−101264号公報

発明が解決しようとする課題

0009

上述のように、昨今の省エネルギー化を背景として、アルミニウム合金の耐熱性に対する要求が高まっており、従来の2618合金を常法に従って製造したり、また2618合金について溶体化処理条件等を最適化して製造したりする場合には、耐熱性に対する要求を満足させることが困難であった。また、特許文献1〜3に記載された技術にあるようにAl−Cu−Mg−Si−Fe−Ni合金に適宜遷移元素を添加して耐熱性を向上させる場合でもあっても、焼入れ感受性が高まるため、比較的大型の部材になると、耐熱性が不十分な場合が多かった。

0010

本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、焼入れ感受性を高めることなく、比較的大型の部材の場合であっても十分な耐熱性を有することができるアルミニウム合金およびその製造方法を提供することを目的とする。

課題を解決するための手段

0011

本発明の第1の観点に係るアルミニウム合金は、
含有率が2.0質量%以上3.7質量%以下のCuと、
含有率が1.3質量%以上2.2質量%以下のMgと、
含有率が0.8質量%以上2.0質量%以下のFeと、
含有率が0.8質量%以上2.0質量%以下のNiと、
含有率が0.31質量%以上0.90質量%以下のSiと、
含有率が0.01質量%以上0.20質量%以下のTiと、
を含み、
Mnの含有率が0.1質量%未満、
Crの含有率が0.1質量%未満、
Zrの含有率が0.1質量%未満、
Scの含有率が0.1質量%未満、
Vの含有率が0.1質量%未満、
に規制され、
残部がAlおよび不可避的不純物からなる、
ことを特徴とする。

0012

マトリクス中に、Al、CuおよびMgを含む針状析出物を有し、
前記針状析出物の平均長さが150nm以上250nm以下であり、
前記針状析出物の分布密度が、200個/μm2以上であってもよい。

0013

本発明の第2の観点に係るアルミニウム合金の製造方法は、
上記アルミニウム合金の製造方法であって、
均質化処理工程において、鋳造工程において鋳造されたアルミニウム合金を、470℃以上、該鋳造されたアルミニウム合金の固相線温度以下の温度で1時間以上保持した後、
熱間加工された、または、熱間加工および冷間加工されたアルミニウム合金を、溶体化処理工程において、470℃以上、該熱間加工された、または、該熱間加工および冷間加工されたアルミニウム合金の固相線温度以下の温度で1秒間以上保持し、
人工時効処理工程において、前記溶体化処理工程において溶体化処理されたアルミニウム合金を、170℃以上210℃以下の温度で5時間以上保持する、
ことを特徴とする。

発明の効果

0014

本発明によれば、焼入れ感受性を高めることなく、比較的大型の部材の場合であっても十分な耐熱性を有することができるアルミニウム合金およびその製造方法を提供することができる。

図面の簡単な説明

0015

本発明の実施例に係る針状析出物S’の分布形態を模式的に示す図である。
本発明の実施例に係る回転曲げ疲労試験片の形状を模式的に示す図である。

0016

本発明者は、Al−Cu−Mg−Si−Fe−Ni合金をベースとして、Cu、Mg、Si、FeおよびNiの添加量を最適化することによって耐熱性を大幅に向上できることを見出し、本発明をなすに至った。また、本発明者は、上記元素の含有率を最適化することによる耐熱性向上効果をさらに高めるために、製造工程において均質化処理を行い、その均質化条件を最適化した上で、加工後に行われる溶体化処理の条件および人工時効処理条件を最適に行うことが有効であることを見出して、本発明に係るアルミニウム合金の製造方法を見出すに至った。

0017

成分元素
まず、本発明の実施形態に係る耐熱性に優れたアルミニウム合金について、以下に成分元素を説明する。なお、本発明の実施形態に係るアルミニウム合金の残部は、アルミニウムと、不可避不純物と、からなる。

0018

(Cu、Mg)
CuおよびMgは、本発明の実施形態に係る耐熱性に優れたアルミニウム合金を構成する主要元素である。CuおよびMgは、本発明の実施形態に係るアルミニウム合金に対して、470℃以上の温度域に保持する溶体化処理を行った際にアルミニウムマトリクス中に一旦固溶し、その後、室温付近まで急冷すること(焼入れと呼ばれる)によって過飽和固溶体としてから、所定の温度で人工時効処理を行うことによって、Al、CuおよびMgからなる微細析出物(本明細書において、以下、この微細な析出物をS’析出物と呼ぶ)をマトリクス中に形成することにより、本発明の実施形態に係るアルミニウム合金の室温強度および耐熱性の向上に寄与する。本発明の実施形態に係るアルミニウム合金においては、アルミニウム合金中のCuの含有率の下限を2.0質量%、Mgの含有率の下限を1.3質量%とする。Cu、Mgそれぞれの元素の添加量が、この値よりも低いと、CuおよびMgの固溶量が不足して、S’析出物の析出密度が低くなるため、アルミニウム合金が十分な耐熱性を得ることができない。また、本発明の実施形態に係るアルミニウム合金においては、アルミニウム合金中のCuの含有率の上限を3.7質量%、Mgの含有率の上限を2.2質量%とした。Cu、Mgそれぞれの元素の添加量が、この値よりも高いと、Cu、Mgの元素の固溶限を越えてしまうために、溶体化処理によって、これらの元素を完全に固溶させることができず、Al、CuおよびMgからなる晶出物としてマトリクス中に残存する。このような残存晶出粒子は、アルミニウム合金材料高温延性を損なうだけでなく、高温での疲労特性を低下させてしまう。上述の理由により、本発明の実施形態に係るアルミニウム合金においては、アルミニウム合金中のCuの含有率を2.0質量%以上3.7質量%以下、Mgの含有率を1.3質量%以上2.2質量%以下とする。

0019

(Fe、Ni)
FeおよびNiも、CuおよびMgと同様に、本発明の実施形態に係る耐熱性に優れたアルミニウム合金を構成する主要元素である。FeおよびNiは、溶解時や鋳造時に、Al、FeおよびNiからなる微細な晶出粒子をマトリクス中に生成する。溶解・鋳造後の熱間加工や冷間加工によって、この晶出粒子はさらに細かく分断されて、マトリクス中に比較的微細(1μm〜5μmサイズ)、かつ高密度に分散することによって、分散強化を発現させて、上述のCuおよびMgによる微細析出による強化と重畳して、本発明の実施形態に係るアルミニウム合金の室温強度および耐熱性向上に寄与する。また、これらのAl、FeおよびNiからなる微細な晶出粒子は、マトリクス中に高密度に分散することによって、アルミニウム合金の溶体化やアルミニウム合金材料の使用時など、高温で保持される際に、アルミニウム合金内の結晶粒組織の安定化に寄与して、結晶粒成長・粗大化を抑制して、本発明の実施形態に係るアルミニウム合金の耐熱性向上に寄与する。アルミニウム合金中におけるFe、Niそれぞれの含有率が0.8質量%よりも低い場合、Al、FeおよびNiからなる晶出粒子の分布密度が低くなってしまい、十分な分散強化が得られない。また、アルミニウム合金中におけるFe、Niそれぞれの含有率が、2.0質量%よりも高い場合は、Al、FeおよびNiからなる晶出粒子の一部が、溶解時や鋳造時に著しく粗大化して、その後、熱間加工や冷間加工を行った後の最終状態においても非常に粗大な晶出粒子(100μm以上のサイズ)がマトリクス中に残存してしまう。このような場合、この粗大な晶出粒子が破壊の起点となるため、アルミニウム合金の高温延性が著しく低下したり、高温での疲労特性が大幅に低下したりするなどし、アルミニウム合金の材料特性が著しく低下してしまう。上述の理由により、本発明の実施形態に係るアルミニウム合金においては、アルミニウム合金中のFeの含有率を0.8質量%以上2.0質量%以下、Niの含有率を0.8質量%以上2.0質量%以下とする。

0020

(Si)
Siは、本発明の実施形態に係るアルミニウム合金を特徴付ける重要な必須添加元素である。従来技術においては、Siは多くの場合不純物元素と見なされて上限値が規制されるか、また積極的に添加される場合であっても、ほとんどの場合、0.3質量%未満の含有率とされてきた。また、2618合金では、合金中のSiの含有率は0.10質量%以上0.25質量%以下の範囲とされている。これに対して、本発明の実施形態に係るアルミニウム合金においては、アルミニウム合金中のSiの含有率を0.31質量%以上0.90質量%以下の範囲とする。この理由を以下に述べる。アルミニウム合金の溶体化処理を行う前の段階において、SiはMgとともにMg2Si晶出物または析出物としてマトリクス中に存在し、溶体化処理として、470℃以上、アルミニウム合金の固相線温度以下の範囲に保持されると、Mg2Siが溶解して、Si原子はマトリクス中に固溶する。その後、アルミニウム合金を室温付近まで急冷する焼入れ処理を行うと、Si原子は、マトリクス中の原子空孔ペア(Si−空孔ペア)を形成し、溶体化処理温度で平衡的に多数存在した原子空孔を室温まで安定に持ち込み、結果として焼入れ後のマトリクス中には多量の過剰空孔が形成される。その後、180℃以上200℃以下の温度範囲で、5時間以上保持する人工時効処理を行うと、このSi−空孔ペアが分解され、フリー空孔がマトリクス中に形成される。このフリー空孔は、時効析出時に形成されるAl、CuおよびMgからなる微細析出物S’の核生成を助長して、結果としてS’析出物の析出が高密度となり、人工時効処理後のアルミニウム合金の室温強度と耐熱性が大幅に向上する。このような効果を得るための好ましいSiの含有率が、0.31質量%以上0.90質量%以下の範囲である。Siの含有率が0.31質量%未満では、溶体化処理時に形成されるSi−空孔ペア量が不十分で、室温付近まで急冷後の人工時効時のS’析出物の析出密度が低いために、得られる耐熱性が不十分である。またSiの含有率が0.90質量%を超えると、溶体化処理前の状態においてMgと形成されるMg2Siの量が多くなり過ぎ、溶体化処理時に完全に固溶することができず、マトリクス中に粗大なMg2Si粒子が残存してしまう。この粗大粒子は、アルミニウム合金の高温延性を大幅に低下させるとともに、高温疲労特性を低下させ、アルミニウム合金の特性が大幅に低下してしまう。

0021

(Ti)
Tiは溶解・鋳造において、アルミニウム合金が凝固するに際して、凝固の核生成サイトとして機能することにより、鋳塊組織の微細化に寄与する。これによって、溶解・鋳造の後に引き続く熱間加工および冷間加工後の溶体化処理時に微細な結晶粒組織が形成され、アルミニウム合金の耐熱性の向上に寄与する。本発明の実施形態において、Tiは全量を単独で添加されてもよいし、その一部または全量をTi−Bの化合物の形態で添加されてもよい。なお、Ti−Bの化合物の形態で添加される場合、アルミニウム合金中の共添加されるBの含有率は、0.001質量%以上0.05質量%の範囲とすることが、より好ましい。アルミニウム合金中のTiの含有率が0.01質量%未満の場合は、鋳塊組織を微細にする効果が不十分である。また、アルミニウム合金中のTiの含有率が0.20質量%を超えると、鋳造時にAl−Tiからなる粗大な化合物が晶出し、材料の高温延性、高温疲労等の耐熱特性が大幅に低下する。また、Bを共添加する場合は、共添加されるBの含有率が0.001質量%以上であることによって、鋳塊を微細にする効果をより得られる。また、Bの含有率が0.05質量%以下であることによって、鋳造時におけるTi−Bからなる粗大な化合物の晶出が抑制され、高温延性、耐熱性をより高く維持することができる。

0022

(Mn、Cr、Zr、Sc、V)
本発明の実施形態に係るアルミニウム合金においては、アルミニウム合金中のMnの含有率が0.1質量%未満(0質量%を含む)であり、アルミニウム合金中のCrの含有率が0.1質量%未満(0質量%を含む)であり、アルミニウム合金中のZrの含有率が0.1質量%未満(0質量%を含む)であり、アルミニウム合金中のScの含有率が0.1質量%未満(0質量%を含む)であり、アルミニウム合金中のVの含有率が0.1質量%未満(0質量%を含む)であることが好ましい。なお、本明細書において、含有率が「0質量%」とは、0質量%だけではなく、検出機器における当該元素の検出下限以下の微少な含有率をも含むものとする。遷移元素のより好ましい含有率の範囲は、Mn:0.001質量%以上0.1質量%未満、Cr:0.001質量%以上0.1質量%未満、Zr:0.001質量%以上0.1質量%未満、Sc:0.001質量%以上0.1質量%未満、V:0.001質量%以上0.1質量%未満である。より一層好ましい含有率の範囲は、Mn:0.001質量%以上0.05質量%未満、Cr:0.001質量%以上0.05質量%未満、Zr:0.001質量%以上0.05質量%未満、Sc:0.001質量%以上0.05質量%未満、V:0.001質量%以上0.05質量%未満である。また、さらに好ましい含有率の範囲は、Mn:0.001質量%以上0.035質量%未満、Cr:0.001質量%以上0.035質量%未満、Zr:0.001質量%以上0.035質量%未満、Sc:0.001質量%以上0.035質量%未満、V:0.001質量%以上0.035質量%未満である。

0023

遷移元素であるMn、Cr、Zr、Sc、Vは、アルミニウム合金に添加されると、マトリクス中に各遷移元素(Mn、Cr、Zr、Sc、V)とAlとからなる微細な分散粒子粒径1μm未満)を形成し、上述のAl、FeおよびNiからなる晶出粒子と同様に、アルミニウム合金内の結晶粒組織の一層の安定化に寄与する。これによって、アルミニウム合金を高温に保持した際の結晶粒組織を一層安定化する効果を有し、結晶粒の成長・粗大化を抑制して、耐熱性の一層の向上に寄与する。

0024

ここで、これらの遷移元素(Mn、Cr、Zr、Sc、V)とAlとからなる微細な分散粒子がマトリクス中に存在すると、溶体化処理後に急冷する焼入れ時に、主溶質元素であるCuとMgとからなる安定相S相(CuMgAl2)が、この分散粒子とマトリクスの界面上に不均一核生成して、比較的粗大に生成してしまうことがある。これによって、焼入れ後におけるマトリクス中のCuおよびMgの溶質濃度が低下して、その後の人工時効処理時のS’析出物の析出密度が低下して、アルミニウム合金の耐熱性が低下することがある。この焼入れ時の冷却途中におけるS相の析出は、冷却速度が小さいほど顕著となり、冷却速度の低下に伴って、人工時効処理後のアルミニウム合金の強度が大きく低下することがある。この場合のように、人工時効処理後のアルミニウム合金の強度が冷却速度の影響を受けやすいという傾向は一般に「焼入れ感受性が高い」として表現され、焼入れ感受性が高い傾向を有するアルミニウム合金は、部材のサイズが大きくなるにつれて、不可避的に焼入れ時の冷却速度が低下することがあるため、人工時効処理後の強度低下が大きくなり、アルミニウム合金の耐熱性の低下も大きく、比較的大型の部材では、高い耐熱性を確保できなくなってしまうことがある。しかしながら、遷移元素であるMn、Cr、Zr、Sc、Vのアルミニウム合金中の含有率を上述の範囲とすることによって、焼入れ感受性の過度の増大が抑制され、とりわけ溶体化処理後の焼入れ時の部材サイズが大きい場合でも、耐熱性の低下を抑制することができる。

0025

一方で、上述のAl、FeおよびNiからなる晶出粒子による結晶粒組織安定化効果を利用した場合は、この晶出物粒子とマトリクス界面とが不均一核生成のサイトとならないため、溶体化後の急冷時の冷却途中におけるS相の不均一核生成が生じない。このため、上記遷移元素の含有率を上述の範囲とすることによって、アルミニウム合金部材のサイズが大きくなって焼入れ時の冷却速度が低下した場合でも、人工時効処理後のアルミニウム合金の強度低下が小さく(焼入れ感受性が低い)、アルミニウム合金の耐熱性の低下も小さいという特長を有する。

0026

本発明の実施形態に係るアルミニウム合金においては、以上の理由により、遷移元素であるMn、Cr、Zr、Sc、Vの含有率を上述の範囲とすることが、より好ましい。これらの遷移元素は、積極的にアルミニウム合金に添加されない場合でも、リサイクルした二次合金を多く用いた場合に、多く混入する場合があるため、溶解・鋳造段階で溶湯元素分析を行い、これらの遷移元素の混入を確認して、含有率が上述の範囲となるようにすることが、より好ましい。

0027

(その他の元素)
上記の元素の他に、耐食性等を向上させることを目的として微量のZnを添加してもよい。本発明の実施形態に係るアルミニウム合金においては、アルミニウム合金中のZnの含有率を0.001質量%以上1.0質量%未満とすることが、より好ましい。

0028

(製造方法)
以下、本発明の実施形態に係る耐熱性に優れたアルミニウム合金展伸材(アルミニウム合金)の製造方法について説明する。本発明の実施形態に係るアルミニウム合金展伸材は、圧延押出鍛造といったアルミニウム合金展伸材の常法に従って製造することができるが、その製造工程のうち、主に熱処理に関する工程の条件を適切に制御することによって、高い耐熱性を本発明の実施形態に係るアルミニウム合金に付与することができる。

0029

以下、圧延・押出・鍛造といったアルミニウム合金展伸材に共通して行われる製造工程を含む本発明の実施形態に係るアルミニウム合金の製造方法の工程を簡単に述べる。はじめに、溶解・鋳造を行い、アルミニウム合金鋳塊を得る。その後、均質化処理を行ってから、熱間加工を行う。さらにその後、必要に応じて冷間加工を行う。また、この冷間加工の前または途中に必要に応じて中間焼鈍を行ってもよい。その後、溶体化処理を行ってから、室温付近の温度まで急冷する焼入れを行った後に、最終的に人工時効処理を行う。

0030

以下、主要な工程ごとに製造方法を詳述する。

0031

(溶解工程・鋳造工程)
本発明の実施形態に係るアルミニウム合金の成分範囲内に溶解調整されたアルミニウム合金溶湯を、たとえば、半連続鋳造法(DC鋳造法またはホットトップ鋳造法)によって鋳造して、アルミニウム合金鋳塊を製造する。鋳造後には、引き続き行われる熱間加工に備えて、必要に応じて鋳塊表面の鋳肌を削り取る面削を行ってもよい。面削は、後述する均質化処理後に行ってもよい。

0032

(均質化処理工程)
次に、鋳造時に形成される凝固組織に特徴的な濃度偏析を解消することを目的として、アルミニウム合金に対して均質化処理を行う。均質化処理は、アルミニウム合金鋳塊を470℃以上の温度で1時間以上保持する条件で行う。この条件で均質化処理を行うことによって、濃度偏析が解消され、以降に行われる溶体化処理の温度を高く設定することが可能となり、アルミニウム合金に、より高い耐熱性を付与することが可能となる。均質化処理温度の上限は特に規定しないが、鋳造したままの状態での(鋳造工程後の)アルミニウム合金の固相線温度以下(たとえば、約530℃以下)に設定することが適切である。均質化処理の温度を470℃以上とすることによって、凝固組織の濃度偏析を十分に解消することが可能となり、耐熱性の低下を抑制することができる。均質化処理時間を1時間以上とすることによって、凝固組織の濃度偏析を十分に解消することが可能となり、耐熱性の低下を抑制することができる。均質化処理時間の上限は本発明の効果を奏する範囲で適宜設定され、以下に限定されるものではないが、10時間以上行っても均質化効果が飽和してほぼ一定となるので、経済的理由から、たとえば、10時間を上限とすることが、より好ましい。

0033

(熱間加工工程)
均質化処理後、アルミニウム合金を一旦室温まで冷却してから再度加熱して熱間加工を行うか、もしくは均質化処理後に、直接、熱間加工温度まで温度調節して熱間加工を行う。熱間加工は、板を製造する場合は熱間圧延により行い、管や棒などを製造する場合は熱間押出により行い、その他の形状に加工する場合は熱間鍛造によって行ってもよい。本発明の実施形態に係るアルミニウム合金はいずれの熱間加工も行うことができ、またその加工条件は、最終製品の耐熱特性に影響しないため、熱間加工条件素材熱間加工性を考慮して、本発明の効果を奏する範囲で適宜設定される。

0034

(冷間加工工程・中間焼鈍工程)
熱間加工の後、必要に応じて、最終製品の形状に精度良く仕上げるため、冷間加工を行う。冷間加工を行う前に、必要に応じて中間焼鈍を行ってもよい。また、冷間加工を2回以上に分けて行う場合は、冷間加工と冷間加工の間で適宜中間焼鈍を行ってもよい。冷間加工は、板を製造する場合は冷間圧延、管や棒などを製造する場合は冷間引抜き、その他の形状に加工する場合は冷間鍛造等によって行う。冷間加工および中間焼鈍の条件は最終的な耐熱特性に影響しないため本発明の効果を奏する範囲で適宜選択され、以下に限定されるものではないが、中間焼鈍については、たとえば、300℃〜450℃の温度範囲に1時間以上保持することによって行うことが、より好ましい。

0035

(溶体化処理工程)
熱間加工または冷間加工の後、CuおよびMgをマトリクス中に固溶させること、Mg2Siを分解固溶させてSiをマトリクス中に固溶させることを目的としてアルミニウム合金に対して溶体化処理が行われる。溶体化処理は、アルミニウム合金材料を、470℃以上、アルミニウム合金の固相線温度以下の温度範囲で、1秒間以上保持することによって行われることが、より好ましい。さらに好ましい溶体化処理温度の範囲は510℃以上、アルミニウム合金の固相線温度以下の範囲であり、さらに一層好ましい溶体化処理温度の範囲は、530℃以上、アルミニウム合金の固相線温度以下の範囲である。溶体化処理の温度を470℃以上とすることによって、固溶するCu、MgおよびSiの量を確保することができ、十分な耐熱性を得ることができる。溶体化処理温度が上記温度範囲内で高いほど、溶体化処理のために保持されている間のアルミニウム合金中の平衡空孔濃度が増大して、その後の急冷後に、アルミニウム合金材料中に、より多くのSi−空孔ペアを形成することができ、結果としてアルミニウム合金の耐熱性が向上する。保持時間を1秒間以上とすることによって、CuおよびMgが固溶するための時間を確保することができ、また、Mg2Siが分解してSiが固溶するための時間を確保することができるため、結果として十分な耐熱性を得ることができる。溶体化処理時間の上限は本発明の効果を奏する範囲で適宜設定され、以下に限定されるものではないが、10時間を超えて溶体化処理を行っても均質化効果が飽和してほぼ一定となるので、経済的理由から、たとえば、6時間以下とすることが、より好ましく、4時間以下とすることが、より一層好ましい。

0036

なお、展伸材の製造方法のうち、熱間押出による熱間加工の場合は、上述の熱間加工と溶体化処理とを兼ねて行うことができ、この場合は、溶体化処理を兼ねた熱間押出に引き続いて、後述する溶体化処理後の急冷を、たとえば、水焼入れミスト吹きつけ等によって連続的に行うプレス焼入れと呼ばれる工程を採用してもよい。

0037

(溶体化処理後の急冷(焼入れ))
溶体化後の急冷は、たとえば、アルミニウム合金材料を、たとえば、冷水温水に浸漬したり、ミストを吹き付けたり、冷風を吹き付けたりすることによって行われる。冷却速度は本発明の効果を奏する範囲で適宜選択されるが、たとえば、実質的に耐熱性をアルミニウム合金に付与できる冷却速度として、溶体化処理温度から100℃までの平均冷却速度を1℃/秒以上で行うことが、より好ましい。冷却速度を1℃/秒以上とすることによって、焼入れ感受性が低い本発明の実施形態に係るアルミニウム合金における耐熱性の低下を抑制することができる。また、冷却を終了する温度についても本発明の効果を奏する範囲で適宜選択され、以下に限定されるものではないが、たとえば100℃〜室温の範囲で冷却を終了することがより好ましく、それによってアルミニウム合金の最終的な耐熱特性を高く維持することができる。

0038

(人工時効処理工程)
溶体化処理と、それに続く急冷が完了した後に、人工時効処理を行って、アルミニウム合金の材料強度を高めて、耐熱性を向上させる。人工時効処理は、170℃以上210℃以下の温度範囲で、5時間以上保持して行うことが、より好ましい。この条件で処理を行うことによって、適度に時効析出が進み、高い耐熱性が得られる。人工時効処理温度を170℃以上とすることによって、時効効果が得られ、十分な耐熱性を得ることができる。人工時効処理温度を210℃以下とすることによって、析出物が過度に粗大になることが抑制され、アルミニウム合金の強度が維持され、アルミニウム合金の耐熱性を十分に得ることができる。また、人工時効処理時間を5時間以上とすることによって、析出を十分に進めることができ、アルミニウム合金の十分な耐熱性を得ることが可能になる。人工時効処理時間の上限は本発明の効果を奏する範囲で適宜選択され、以下に限定されるものではないが、たとえば、強度がほぼ上限に達する30時間を選択することが、より好ましい。

0039

以上の工程によって、本発明の実施形態に係るアルミニウム合金が製造される。

0040

ミクロ組織の形態)
本発明の実施形態に係るアルミニウム合金には、以下で述べるようなミクロ組織的な特徴が認められる。すなわち、Al、CuおよびMgからなる針状析出物S’の平均長さが150nm以上250nm以下の範囲内であり、かつ、針状析出物S’の分布密度が200個/μm2以上であるという特徴を有する。針状析出物S’の平均長さが150nm以上である場合、針状析出物の成長が十分であるため、強度が高く、耐熱性も十分である。また、針状析出物S’の平均長さが250nm以下である場合、針状析出物が過度に粗大になっていないため、強度が高く、耐熱性も十分である。針状析出物S’の分布密度が200個/μm2以上である場合、針状析出物の分布密度が高いため、強度が高く、耐熱性も十分である。また、針状析出物S’の分布密度の上限は、Cu、Mgの固溶限度より見積もって500個/μm2以下であると考えられる。

0041

以下、上述の針状析出物S’の平均サイズおよび分布密度を測定する方法の一例を説明する。まず、人工時効処理が施されたアルミニウム合金を用いて、たとえば、精密加工装置の一つであるFIB(Focused Ion Beam)装置を用いて、TEM(Transmission Electron Microscope)観察用薄膜試験片(たとえば、厚み0.1μm、縦5μm、横10μmサイズ)を切り出して、TEM観察を行う。この薄膜サンプルについて、TEMにより、Al格子に対して、電子線を[100]の方向より入射して、たとえば、撮影倍率20,000倍で撮像して、たとえば、5視野分のTEM像を得る。得られたTEM像において、図1に模式的に示すようにS’析出物を観察することができる。ここで、針状析出物S’は電子線の入射方向と平行方向および、入射方向と垂直面において互いに直行する2つの方向に伸びた形状で分布している。これらのうち、入射方向と垂直面において互いに直行する形で分布している針状析出物S’(S’1)の長さを、たとえば、任意の析出物30個について計測して、その平均値を求めることによって、針状析出物S’の平均長さを計測する。また、観察される針状析出物S’のうち、入射方向と平行方向に伸びているもの(S’2:粒子状に観察される)と入射方向と垂直面において互いに直行する形で分布している針状析出物S’(S’1)の数を、たとえば、5視野分で計測した合計数を計測した視野の面積で除することによって、針状析出物S’の分布密度を計測することができる。

0042

以上に説明したように、本発明の実施形態に係るアルミニウム合金(アルミニウム合金展伸材)は、従来の耐熱アルミニウム合金よりも高い耐熱特性を有し、また、本発明の実施形態に係るアルミニウム合金(アルミニウム合金展伸材)は、溶体化処理後の急冷において、比較的小さい冷却速度であっても耐熱性の低下が小さく、その高い耐熱性を維持することができ、比較的大型の耐熱部材にも適用できるという特長を有している。すなわち、本発明の実施形態に係るアルミニウム合金は、種々の検討によって最適化されたAl−Cu−Mg−Si−Fe−Ni合金の成分範囲と、最適化された製造プロセスとを用いることによって、2618合金と比較して、より高い耐熱性を有するアルミニウム合金を得ることができる。また、本発明の実施形態に係るアルミニウム合金は、焼入れ感受性が低いことも特徴として有しており、省エネルギー化のために耐熱合金が必要な部材のうち比較的大型の部材としても使用することも可能である。

0043

なお、本発明は上記実施の形態に限定されず、種々の変形及び応用が可能である。

0044

以下、本発明を実施例に基づき、さらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。

0045

(実施例A)
表1に示す組成に調整した各アルミニウム合金を溶解して、ホットトップ鋳造法を用いて鋳造して、φ300mm×長さ800mmサイズの鋳塊(ビレット)を作製した。ビレットを500℃の加熱保持温度に加熱して、6時間保持する均質化処理を行った後、一旦室温まで冷却してから、ビレットの円周方向について表皮5mmを面削した。これらのビレットを480℃に加熱保持したのち、熱間押出を行い、φ80mmの丸棒とした。実施例Aにおけるアルミニウム合金材については、冷間加工と中間焼鈍はいずれも行わず、溶体化処理として、520℃にて20分間保持したのち、80℃の温水に投入する焼入れを行った。実施例Aにおける520℃から100℃までの平均冷却速度は、5℃/秒であった。その後、人工時効処理として190℃で12時間保持する処理を行って、合金番号1〜30のアルミニウム合金材を作製した。上述のアルミニウム合金材を、以下に詳細を示す耐熱性評価試験、および、針状析出物S’のTEM観察に用いた。表1中、「−」は検出下限以下の数値であったことを示す。

0046

0047

(耐熱性評価試験)
上述の工程で製造された各アルミニウム合金材(合金番号1〜30)について、高温での長時間使用を想定して、200℃で100時間保持する熱処理を行った後、押出棒長手方向が引張方向となるように、押出棒の中心部より、JIS4号試験片形状丸棒引張試験片採取した。この丸棒引張試験片を200℃の試験雰囲気にて、引張のクロスヘッド速度5mm/分の条件で高温引張試験を行って、その際の引張強度(TS)を計測した。計測結果を表2に示す。

0048

0049

また、さらに押出棒の長手方向が引張・圧縮方向となるように、各アルミニウム合金材(合金番号1〜30)から、図2に示す回転曲げ疲労試験片を採取して、雰囲気温度200℃中において、回転曲げ疲労試験を行った。回転曲げ疲労試験の試験周波数は20Hzとして、最大最小応力比R=−1、応力振幅160MPaの条件で、破断までの繰り返し数を測定した。測定結果を表2に示す。

0050

(針状析出物S’分布状態評価)
上述の工程で製造された各アルミニウム合金材(合金番号1〜30)について、以下の方法でTEM観察用サンプルを作製して、TEM観察を行って、針状析出物S’の平均長さ、および分布密度を測定した。

0051

FIB精密加工装置(日本電子社製、機種名:JEM−9320FIB)を用いて、TEM観察用の薄膜試験片(厚み0.1μm、縦5μm、横10μmサイズ)を切り出して、透過電子顕微鏡(日本電子社製、機種名:JEM−2100F)を用いて、以下のようにTEM観察を行った。

0052

TEM観察は以下のように行われた。上述の薄膜試験片について、TEMにより、Al格子に対して、電子線を[100]の方向より入射して、撮影倍率20,000倍で撮像して、5視野分のTEM像を得た。得られたTEM像において、図1に模式的に示すようにS’析出物を観察した。針状析出物S’は電子線の入射方向と平行方向および、入射方向と垂直面において互いに直行する2つの方向に伸びた形状で分布していた。これらのうち、入射方向と垂直面において互いに直行する形で分布している針状析出物S’(S’1)の長さを、任意の析出物30個について計測して、その平均値を求めることによって、針状析出物S’の平均長さを計測した。また、観察される針状析出物S’のうち、入射方向と平行方向に伸びているもの(S’2:粒子状に観察される)と入射方向と垂直面において互いに直行する形で分布している針状析出物S’(S’1)の数を、5視野分で計測した合計数を計測した視野の面積で除することによって、針状析出物S’の分布密度を計測した。

0053

各サンプル(合金番号1〜30)についての耐熱性評価試験の結果および針状析出物S’の分布状態評価結果を表2に示す。

0054

(実施例Aの評価結果)
実施例1〜15(合金番号1〜15)の評価結果について説明する。合金番号1〜15は、含有率が2.0質量%以上3.7質量%以下のCuと、含有率が1.3質量%以上2.2質量%以下のMgと、含有率が0.8質量%以上2.0質量%以下のFeと、含有率が0.8質量%以上2.0質量%以下のNiと、含有率が0.31質量%以上0.90質量%以下のSiと、含有率が0.01質量%以上0.20質量%以下のTiとを含み、Mnの含有率が0.1質量%未満であり、Crの含有率が0.1質量%未満であり、Zrの含有率が0.1質量%未満であり、Scの含有率が0.1質量%未満であり、Vの含有率が0.1質量%未満であった。

0055

また、合金番号1〜15のアルミニウム合金はいずれも、針状析出物の平均長さが150nm以上250nm以下であり、針状析出物の分布密度が、200個/μm2以上であった。

0056

表2に示すように、実施例1〜15(合金番号1〜15)は、いずれも、標準的な2618合金の成分に該当する比較例5(合金番号20)の高温引張強度(251MPa)、破断までの繰返し数(700,000回)と比較して高い高温引張強度(いずれの場合も270MPa以上)、および、高い破断までの繰返し数(いずれも900,000回以上)を示した。以上から、実施例1〜15のアルミニウム合金材は、高温強度および高温での疲労特性が、標準的な2618合金に比べて優れていることがわかった。

0057

一方、比較例1(合金番号16)は、Cuの含有率が2.0質量%未満であった。このため、Cuの固溶量が不足して、針状析出物S’の析出密度が低下して、十分な耐熱性が得られず、高温引張強度および高温疲労試験での破断までの繰返し数が小さかった。
比較例2(合金番号17)は、Cuの含有率が3.7質量%超過であった。このため、Cuの量が固溶限を超えてしまい、溶体化処理によって完全に固溶させることができず、Al、CuおよびMgからなる晶出物として、マトリクス中に残存したと考えられる。このような残存晶出粒子が高温疲労特性を著しく低下させ、比較例2における高温疲労試験での破断までの繰返し数が大幅に低下した。

0058

比較例3(合金番号18)は、Mgの含有率が1.3質量%未満であった。このため、Mgの固溶量が不足して、針状析出物S’の析出密度が低下して、十分な耐熱性が得られず、高温引張特性および高温疲労試験での破断までの繰返し数が小さかった。
比較例4(合金番号19)は、Mgの含有率が2.2質量%超過であった。このため、Mgの量が固溶限を超えてしまい、溶体化処理によって完全に固溶させることができず、Al、CuおよびMgからなる晶出物としてマトリクス中に残存したと考えられる。このような残存晶出粒子が高温疲労特性を著しく低下させ、比較例4における高温疲労試験での破断までの繰返し数が大幅に低下した。

0059

比較例5(合金番号20)は、Siの含有率が0.31質量%未満であった。合金番号20は、2618合金の標準的な成分であるが、Siの含有率が少ないため、溶体化処理時に形成されるSi−空孔ペア量が不十分だったと考えられる。このため、十分な耐熱性が得られず、高温引張強度および高温疲労試験での破断までの繰返し数が小さかった。
比較例6(合金番号21)は、Siの含有率が0.90質量%超過であった。このため、溶体化処理前の状態においてMgと形成されるMg2Siの量が多くなり過ぎ、溶体化処理時に完全に固溶することができず、マトリクス中に粗大なMg2Si粒子が残存してしまったと考えられる。この粗大粒子が高温疲労特性を著しく低下させ、比較例6における高温疲労試験での破断までの繰返し数が大幅に低下した。

0060

比較例7(合金番号22)は、Feの含有率が0.8質量%未満であって、Niの含有率が0.8質量%未満であった。このため、Al、FeおよびNiからなる晶出粒子の分布密度が低く、これらの粒子により十分な分散強化が得られず、十分な耐熱性が得られず、高温引張特性および高温疲労試験での破断までの繰返し数が小さかった。
比較例8(合金番号23)は、Feの含有率が2.0質量%超過、Niの含有率が2.0質量%超過であった。このため、Al、FeおよびNiからなる晶出粒子の一部が、溶解・鋳造時に著しく粗大化して、その後熱間加工や冷間加工を行った後の最終状態においても非常に粗大な晶出粒子(100μm以上)として残存していたと考えられる。このような非常に粗大な晶出粒子が高温疲労特性を著しく低下させ、比較例8における高温疲労試験での破断までの繰返し数が大幅に低下した。

0061

比較例9(合金番号24)は、Tiの含有率が0.01質量%未満であった。このため、鋳塊組織を微細化する効果が不十分であり、鋳塊組織が粗く、結果として溶体化処理後に急冷した後の結晶粒組織が粗大であったと考えられる。このため十分な耐熱性が得られず、高温引張特性および高温疲労試験での破断までの繰返し数が小さかった。
比較例10(合金番号25)は、Tiの含有率が0.20質量%超過であった。このため、鋳造時にAlとTiとからなる粗大な化合物が晶出して、最終状態においても粗大晶出物として残存していたと考えられる。このような粗大な晶出物が高温疲労特性を著しく低下させ、比較例10における高温疲労試験での破断までの繰返し数が大幅に低下した。

0062

比較例11(合金番号26)はMnの含有率が0.1質量%以上であり、比較例12(合金番号27)はCrの含有率が0.1質量%以上であり、比較例13(合金番号28)はZrの含有率が0.1質量%以上であり、比較例14(合金番号29)はScの含有率が0.1質量%以上であり、比較例15(合金番号30)はVの含有率が0.1質量%以上であった。そのため、合金番号26〜合金番号30の合金はそれぞれ焼入れ感受性が高く、比較的小さい冷却速度(4℃/秒)で焼入れを行った場合は、焼入れ途中でMgとCuからなる安定相のS相が、分散粒子とマトリクスの界面で不均一核生成しやすく、結果としてCuとMgの溶質濃度が低下して、針状析出物S’の析出密度が小さくなり、十分な耐熱性が得られず、高温引張強度および高温疲労試験での破断までの繰返し数が小さかった。

0063

(実施例B)
表1に示す合金番号1の組成に調整したアルミニウム合金について、以下の製造プロセスで、サンプルとするアルミニウム合金材を作製した。

0064

まず、アルミニウム合金を溶解して、ホットトップ鋳造法によって鋳造して、φ300mm×長さ800mmサイズの鋳塊(ビレット)を作製した。このビレットについて、表3に示される条件でそれぞれ均質化処理を行った後、一旦室温まで冷却してから、ビレットの円周方向について表皮5mmを面削した。これらのビレットを440℃に加熱保持した後、熱間押出を行い、φ50mmのサイズの丸棒形状に押出した。その後、冷間引抜きにより冷間加工を行って、φ40mmサイズの丸棒形状とした。この状態における、この合金の固相線温度は550℃であった。この丸棒について、表3に示される条件でそれぞれ溶体化処理を行った後、急冷として、25℃の水で焼入れを行った。各溶体化処理温度から100℃までの冷却速度は、約10℃/秒であった。その後、表3に示される条件でそれぞれ人工時効処理を行い、実施例Aに記載した方法と同じ方法によって、耐熱性評価試験および針状析出物S’のTEM観察を行った、得られた評価結果を表4に示す。

0065

0066

0067

(実施例Bの評価結果)
まず、実施例16〜25(条件番号1〜10)の評価結果について説明する。実施例16〜25(条件番号1〜10)は、合金番号1の成分を有し、均質化処理工程において、470℃以上、かつ、アルミニウム合金の固相線温度以下の温度で1時間以上保持され、溶体化処理工程において、470℃以上、かつ、アルミニウム合金の固相線温度以下の温度で1秒間以上保持され、人工時効処理工程において、170℃以上210℃以下の温度で5時間以上保持されて製造された。
また、実施例16〜25のアルミニウム合金の針状析出物の平均長さは150nm以上250nm以下であり、針状析出物の分布密度が、200個/μm2以上であった。
実施例16〜25のアルミニウム合金は、いずれも、高い高温引張強度(270MPa以上)および高い破断までの繰返し数(900,000回以上)を示し、高温強度および高温での疲労特性が優れていることがわかった。

0068

一方、比較例16(条件番号11)は、均質化処理の温度が470℃未満であった。このため、凝固組織の濃度偏析を十分に解消できず、十分な耐熱性が得られず、高温引張特性および高温疲労試験での破断までの繰返し数が小さかった。
比較例17(条件番号12)は、均質化処理の時間が1時間未満であった。このため、凝固組織の濃度偏析を十分に解消できず、十分な耐熱性が得られず、高温引張特性および高温疲労試験での破断までの繰返し数が小さかった。

0069

比較例18(条件番号13)は、溶体化処理の温度が470℃未満であった。このため、溶体化処理によって固溶するCu、MgおよびSi量が少ないため、十分な耐熱性が得られず、高温引張特性および高温疲労試験での破断までの繰返し数が小さかった。
比較例19(条件番号14)は、溶体化処理の保持時間が1秒間未満であった。このため、Cu、MgおよびSiが固溶するための時間が不十分であり、十分な耐熱性が得られず、高温引張特性および高温疲労試験での破断までの繰返し数が小さかった。

実施例

0070

比較例20(条件番号15)は、人工時効処理の温度が170℃未満であった。このため、人工時効がほとんど進まず、十分な耐熱性が得られず、高温引張特性および高温疲労試験での破断までの繰返し数が小さかった。
比較例21(条件番号16)は、人工時効処理の温度が210℃超過であった。このため、人工時効が進みすぎ、十分な耐熱性が得られず、高温引張特性および高温疲労試験での破断までの繰返し数が小さかった。
比較例22(条件番号17)は、人工時効処理の時間が5時間未満であった。このため人工時効が十分に進まず、十分な耐熱性が得られず、高温引張特性および高温疲労試験での破断までの繰返し数が小さかった。

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