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課題
解決手段
概要
背景
エストロゲンは、一般に卵胞ホルモンもしくは女性ホルモンとも言われ、乳癌、子宮体癌、消化器癌、心血管障害、性ホルモン代謝の先天性疾患、思春期早発、骨粗しょう症等、その他さまざまな疾患と密接な関係があると考えられている。その量をモニターすることは、疾患の解明や、薬理効果の判定等に有用である。作用の最も強いエストラ−1,3,5(10)−トリエン−3,17β−ジオール(エストラジオール:E2)は、17β−水酸化ステロイド脱水素酵素2型(17βHSD2)によって作用の弱いエストラ−1,3,5(10)−トリエン−3−オール−17−オン(エストロン:E1)へと変換され、E1は17β−水酸化ステロイド脱水素酵素1型(17βHSD1)によってE2へと再活性化される。妊娠していない成人閉経前女性の循環血中E2濃度はE1よりも1.5倍から4倍ほど高いが、男性や閉経後女性ではE1濃度のほうが高い。そのため、E2だけでなくE1も同時にモニターすることにより、代謝や疾患の状態を更に正確に把握することが可能となる。
試料中E1及びE2の量と病態との関連を精査するには、微量なE1及びE2を正確に測定することが求められる。しかし、針生検組織や新生児、小児の血液等、多量に採取することが困難な試料では、測定に用いることができる検体に含まれるE1及びE2量は自ずと少なくなる。動物実験に多く用いられるラットやマウスの血液においても、オスのE1及びE2は顕著に少ない。また、ヒトの場合、唾液が非侵襲的且つ簡便に採取できる試料として用いられることが増えたが、唾液に含まれるホルモンは、血清に含まれるホルモンの1/20から1/100であるため、男性や閉経後女性の唾液に含まれるE1及びE2は極めて少量である。これらの試料に含まれるE1及びE2の量は、分析試料あたり0.1pgよりも少ないことが予想される。よって、試料中のE1及びE2を正確に測定するには、定量下限値が0.1pg/tubeよりも低い測定法を開発することが課題となる。
従来、エストロゲンの測定法はイムノアッセイが主流である。試料中には、E1やE2の構造類似化合物や性ホルモン結合グロブリンが共存しているため、交差反応によるバックグランドの上昇等により、測定値がキット間で変動し易い。現在E1では、定量下限が4.8pg/mLと高感度の酵素免疫測定法によるキットが発売されている。また、E2においても、電気化学発光による測定では、定量下限が5pgから15pg/mLが一般的であり、さらに、検出感度が1.4pg/mLの高感度のRIA測定キットも発売されている。しかし、免疫法による測定は、低濃度域ほどばらつきが大きくなるため、10pg/mL以下において測定の信頼性は低下する。
ガスクロマトグラフ−質量分析計(GC−MS)で測定する方法も提案されている。GC−MSにおいては、一般に、試料中エストロゲンに揮発性試薬を反応させ、その誘導体をGC−MSで測定する(非特許文献1、2)。しかし、これらの誘導体は不安定なため誘導体としての精製が困難であり、測定の際に資料中の不純物及び試薬の干渉を受けやすい。また、GC−MSによる測定において、試料の注入量が全試料の5乃至10%以下と少なくなりロスが多くなる。そのため、十分な感度が得られず、分析に長時間を要すること等も大きな欠点である。さらに、GC−MSはLC−MSと比べてダイナミックレンジが狭いという欠点もある。それゆえ、微量の試料中のE1及びE2を測定するのは困難である。
また、化合物のフェノール性水酸基にペルフルオロアリールエーテルを反応させてGC−MSで検出する報告も散見される(特許文献3〜6)が、これらの文献には、E1及びE2の詳細な記載がされていない。また、固相カラム上でヒト男性尿中E2のフェノール性水酸基にペンタフルオロピリジンを反応させ、該反応物のテトラフルオロピリジン誘導体をGC−MSで測定している報告もある(非特許文献7)が、測定範囲が1〜40ng/mLであり、低濃度の試料中E2を測定するには感度が足りない。
エストロゲンを誘導体化し測定する試みは、LC−MSにおいても行われている。例えば、エストロゲンのフェノール性水酸基をダンシル化(5−ジメチルアミノナフタレン−1−イルスルホン化)し、正イオン検出エレクトロスプレーイオン化(ESI)法を用いて二次元クロマトグラフィーで測定する方法が報告されている(非特許文献8)。しかし、この方法では化合物由来のプロダクトイオンが得られず特異性に欠けるという欠点がある。
エストロンのカルボニル基をp−トルエンスルホニルヒドラジドで誘導体化して測定する方法も報告されている(非特許文献9)。この方法では、エストロンを10pg/on columnから測定可能であるが、小児及び閉経後女性の血中E1を測定するには感度が不十分である。
E2測定では、フェノール性水酸基をペンタフルオロベンジル誘導体化した後に、17位水酸基を1−低級アルキル−2−ピリジニウム化してLC−MSで測定する方法も報告されている(特許文献1)。また、E1測定では、フェノール性水酸基をペンタフルオロベンジル誘導体化した後、17位カルボニル基をヒドラジノ−1低級アルキルピリジン化してLC−MSで測定する方法が報告されている(特許文献2)。特許文献1の測定感度は0.1pg/tubeであり、特許文献2の測定感度は0.25pg/tubeといずれも高感度であるが、これらの方法でも閉経後女性の唾液や、ラットやマウスのオス血清中のE1及びE2測定には感度が足りない。
概要
試料中に存在する極めて微量のエストロゲンを高感度に測定する。試料中のエストロゲンのフェノール性水酸基にペンタフルオロピリジンを導入した後に、該反応物が有しているカルボニル基に1−低級アルキルヒドラジノピリジニウム塩を反応させ、及び/又は該反応物が有しているアルコール性水酸基にピリジンカルボン酸を反応させ、LC−MSで測定する。なし
目的
本発明の課題は、試料中に存在する極めて微量のエストロゲンをLC−MSを用いて高感度に検出・定量する方法を提供する
効果
実績
- 技術文献被引用数
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この技術が所属する分野
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請求項1
エストロゲンをLC−MSで測定する方法であって、1.試料中に存在する該化合物にペンタフルオロピリジンをアルカリ条件化で反応させる工程、及び2.上記1の反応物であるテトラフルオロピリジルエーテル誘導体が有するカルボニル基に、ヒドラジノ−1−低級アルキルピリジンを酸性条件化で反応させる工程、及び/又は、3.上記1の反応物であるテトラフルオロピリジルエーテル誘導体が有するアルコール性水酸基に、下記式(I)(式中、Rは水素原子、ハロゲン原子、C1−4アルキル基、C1−4アルコキシ基、アリルC1−4アルコキシ基、C1−4アルキルアミノ基、ジ(C1−4アルキル)アミノ基、ニトロ基又はシアノ基を表し、COXはカルボン酸又はその反応性官能基を表す。)で示される化合物を反応させる工程、4.上記2及び/又は3の工程で得られた化合物をLC−MSを用いて測定する工程、を含む測定方法。
請求項2
請求項3
ヒドラジノ−1低級アルキルピリジンが2−ヒドラジノ1−低級アルキルピリジンである、請求項1又は2のいずれか1項に記載の測定方法。
請求項4
Rが水素原子又はC1−4アルキル基を表す、請求項1〜3のいずれか1項に記載の測定方法。
請求項5
請求項6
LC−MSが、LC−MS/MSである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の測定方法。
技術分野
0001
本発明は、試料中に含まれるエストロゲンを液体クロマトグラフ−質量分析計(LC−MS)を用いて高感度に測定する方法に関する。本発明は、試料中に含まれる極めてわずかな量のエストロゲンを検出及び定量するのに有効な手法である。
背景技術
0002
エストロゲンは、一般に卵胞ホルモンもしくは女性ホルモンとも言われ、乳癌、子宮体癌、消化器癌、心血管障害、性ホルモン代謝の先天性疾患、思春期早発、骨粗しょう症等、その他さまざまな疾患と密接な関係があると考えられている。その量をモニターすることは、疾患の解明や、薬理効果の判定等に有用である。作用の最も強いエストラ−1,3,5(10)−トリエン−3,17β−ジオール(エストラジオール:E2)は、17β−水酸化ステロイド脱水素酵素2型(17βHSD2)によって作用の弱いエストラ−1,3,5(10)−トリエン−3−オール−17−オン(エストロン:E1)へと変換され、E1は17β−水酸化ステロイド脱水素酵素1型(17βHSD1)によってE2へと再活性化される。妊娠していない成人閉経前女性の循環血中E2濃度はE1よりも1.5倍から4倍ほど高いが、男性や閉経後女性ではE1濃度のほうが高い。そのため、E2だけでなくE1も同時にモニターすることにより、代謝や疾患の状態を更に正確に把握することが可能となる。
0003
試料中E1及びE2の量と病態との関連を精査するには、微量なE1及びE2を正確に測定することが求められる。しかし、針生検組織や新生児、小児の血液等、多量に採取することが困難な試料では、測定に用いることができる検体に含まれるE1及びE2量は自ずと少なくなる。動物実験に多く用いられるラットやマウスの血液においても、オスのE1及びE2は顕著に少ない。また、ヒトの場合、唾液が非侵襲的且つ簡便に採取できる試料として用いられることが増えたが、唾液に含まれるホルモンは、血清に含まれるホルモンの1/20から1/100であるため、男性や閉経後女性の唾液に含まれるE1及びE2は極めて少量である。これらの試料に含まれるE1及びE2の量は、分析試料あたり0.1pgよりも少ないことが予想される。よって、試料中のE1及びE2を正確に測定するには、定量下限値が0.1pg/tubeよりも低い測定法を開発することが課題となる。
0004
従来、エストロゲンの測定法はイムノアッセイが主流である。試料中には、E1やE2の構造類似化合物や性ホルモン結合グロブリンが共存しているため、交差反応によるバックグランドの上昇等により、測定値がキット間で変動し易い。現在E1では、定量下限が4.8pg/mLと高感度の酵素免疫測定法によるキットが発売されている。また、E2においても、電気化学発光による測定では、定量下限が5pgから15pg/mLが一般的であり、さらに、検出感度が1.4pg/mLの高感度のRIA測定キットも発売されている。しかし、免疫法による測定は、低濃度域ほどばらつきが大きくなるため、10pg/mL以下において測定の信頼性は低下する。
0005
ガスクロマトグラフ−質量分析計(GC−MS)で測定する方法も提案されている。GC−MSにおいては、一般に、試料中エストロゲンに揮発性試薬を反応させ、その誘導体をGC−MSで測定する(非特許文献1、2)。しかし、これらの誘導体は不安定なため誘導体としての精製が困難であり、測定の際に資料中の不純物及び試薬の干渉を受けやすい。また、GC−MSによる測定において、試料の注入量が全試料の5乃至10%以下と少なくなりロスが多くなる。そのため、十分な感度が得られず、分析に長時間を要すること等も大きな欠点である。さらに、GC−MSはLC−MSと比べてダイナミックレンジが狭いという欠点もある。それゆえ、微量の試料中のE1及びE2を測定するのは困難である。
0006
また、化合物のフェノール性水酸基にペルフルオロアリールエーテルを反応させてGC−MSで検出する報告も散見される(特許文献3〜6)が、これらの文献には、E1及びE2の詳細な記載がされていない。また、固相カラム上でヒト男性尿中E2のフェノール性水酸基にペンタフルオロピリジンを反応させ、該反応物のテトラフルオロピリジン誘導体をGC−MSで測定している報告もある(非特許文献7)が、測定範囲が1〜40ng/mLであり、低濃度の試料中E2を測定するには感度が足りない。
0007
エストロゲンを誘導体化し測定する試みは、LC−MSにおいても行われている。例えば、エストロゲンのフェノール性水酸基をダンシル化(5−ジメチルアミノナフタレン−1−イルスルホン化)し、正イオン検出エレクトロスプレーイオン化(ESI)法を用いて二次元クロマトグラフィーで測定する方法が報告されている(非特許文献8)。しかし、この方法では化合物由来のプロダクトイオンが得られず特異性に欠けるという欠点がある。
0008
エストロンのカルボニル基をp−トルエンスルホニルヒドラジドで誘導体化して測定する方法も報告されている(非特許文献9)。この方法では、エストロンを10pg/on columnから測定可能であるが、小児及び閉経後女性の血中E1を測定するには感度が不十分である。
0009
E2測定では、フェノール性水酸基をペンタフルオロベンジル誘導体化した後に、17位水酸基を1−低級アルキル−2−ピリジニウム化してLC−MSで測定する方法も報告されている(特許文献1)。また、E1測定では、フェノール性水酸基をペンタフルオロベンジル誘導体化した後、17位カルボニル基をヒドラジノ−1低級アルキルピリジン化してLC−MSで測定する方法が報告されている(特許文献2)。特許文献1の測定感度は0.1pg/tubeであり、特許文献2の測定感度は0.25pg/tubeといずれも高感度であるが、これらの方法でも閉経後女性の唾液や、ラットやマウスのオス血清中のE1及びE2測定には感度が足りない。
0010
0011
特許第4667832号特開2011−174710号公報
0012
Steroids,57,319−324(1992)Endocr.J.,50,783−792(2003)J.Org.Chem.,32,3163−3168(1967)J.Chem.Soc.Chem.Commun.,125−127(1984)J.Chromatogr.A,984,237−243(2003)J.Chromatogr.A,1042,1−7(2004)J.Chromatogr.A,1218,9135−9141(2011)J.Pharm.Biomed.Anal.,54,830−837(2011)Anal.Chem.,76,5829−5836(2004)
先行技術
0013
発明が解決しようとする課題
0014
本発明の課題は、試料中に存在する極めて微量のエストロゲンをLC−MSを用いて高感度に検出・定量する方法を提供することである。
課題を解決するための手段
0015
本発明者らは、鋭意検討した結果、誘導体化に用いる試薬と精製法の見直しによって、0.1pg/tubeよりも少量である極めて微量の試料中エストロゲンを高感度に測定できる方法を開発し、課題を克服した。本発明者らは、エストロゲンを微量測定するため、まず、アルカリ条件下でフェノール性水酸基を選択的にペンタフルオロピリジン化した後、該反応物のカルボニル基及びアルコール性水酸基を種々誘導体化して、その誘導体の測定感度を精査した。その結果、カルボニル基は1−低級アルキルピリジニウムヒドラゾン化及びアルコール性水酸基は、ピリジンカルボン酸エステル誘導体化することにより、LC−MSにおいて良好な感度で測定できることを見出し、本発明を完成させた。
0016
本発明は、試料中のエストロゲンのフェノール性水酸基にペンタフルオロピリジンを導入した後に、該反応物が有しているカルボニル基に1−低級アルキルヒドラジノピリジニウム塩(以下、ヒドラジノ−1低級アルキルピリジン)を反応させ、及び/又は該反応物が有しているアルコール性水酸基にピリジンカルボン酸を反応させ、LC−MSで測定することを特徴とする。
0017
すなわち、本発明は、エストロゲンをLC−MSで測定する方法であって、
1.試料中に存在する該化合物にペンタフルオロピリジンをアルカリ条件化で反応させる工程、及び
2.上記1の反応物であるテトラフルオロピリジルエーテル誘導体が有するカルボニル基にヒドラジノ−1−低級アルキルピリジンを酸性条件化で反応させる工程、及び/又は
3.上記1で得られたテトラフルオロピリジルエーテル誘導体が有するアルコール性水酸基に下記式(I)で示される化合物を反応させる工程、
(式中、Rは水素原子、ハロゲン原子、C1−4アルキル基、C1−4アルコキシ基、アリルC1−4アルコキシ基、C1−4アルキルアミノ基、ジ(C1−4アルキル)アミノ基、ニトロ基又はシアノ基を表し、COXはカルボン酸又はその反応性官能基を表す。)
を含む測定方法に関する。
発明の効果
0018
本発明のエストロゲンの測定方法は、安全且つ簡便な操作であり、試料中のエストロゲン、例えば、E1は0.05pg/tube、E2は0.01pg/tubeから検出できるという利点がある。本発明は、カルボニル基を有するエストロゲンと、水酸基を有するエストロゲンの両方を一連の操作で処理を行い、測定することが可能であるため、少量の試料であっても、E1とE2を高感度に測定することができる。
0019
図面の簡単な説明
0020
図1はE1−3−テトラフルオロピリジルエーテル−17−(1´−メチルピリジニウム−2´)−ヒドラゾン誘導体のマススペクトルである。図2はE2−3−テトラフルオロピリジルエーテル−17−フザリン酸誘導体のマススペクトルである。図3はE1−3−テトラフルオロピリジルエーテル−17−(1´−メチルピリジニウム−2´)−ヒドラゾン誘導体の0.05pg〜100pg/tubeの検量線である。図4はE2−3−テトラフルオロピリジルエーテル−17−フザリン酸誘導体の0.01〜100pg/tubeの検量線である。
0021
本発明において、「エストロゲン」とは、フェノール性水酸基を有するステロイド化合物を意味する。例えば、エストロン、エストラジオール、2−ヒドロキシエストロン、4−ヒドロキシエストロン、2−ヒドロキシエストロン3−メチルエーテル、4−ヒドロキシエストロン3−メチルエーテル、2−メトキシエストロン、4−メトキシエストロン、16α−ヒドロキシエストロン、16−オキソエストラジオール、2−ヒドロキシエストラジオール、4−ヒドロキシエストラジオール等の生体内又は自然界に存在するエストロゲンを挙げることができる。
0022
本明細書において、「固相抽出カラム」とは、一般的なカートリッジカラムを表し、本発明においては、市販されているものを使用することができる。充填剤の分離モードには、順相、逆相、分配、イオン交換、分子ふるい、アフィニティー等が挙げられるが、中でも、逆相、順相及びイオン交換が好適である。
0023
本明細書において、「LC−MS」とは、液体クロマトグラフと質量分析計とを組み合わせた装置を用いて行う分析方法を表すが、その中でも、質量分析部が複数結合したタンデム型の質量分析(LC−MS/MS)を用いることが好ましい。LC−MSにおけるイオン化は、例えば、大気圧化学イオン化法、ESI、大気圧光イオン化法等が挙げられるが、中でも正イオン検出ESIを用いることが望ましい。
0025
さらに、定量におけるイオンの検出は、目的とするイオンのみを選択的に検出する、選択イオンモニタリングや、1つ目の質量分析部で精製したイオン種のうち1つを前駆イオンとして選択し、2つ目の質量分析部で、その前駆イオンの開裂によって生じるプロダクトイオンを検出する、選択反応モニタリング(SRM)等が挙げられる。本発明では、選択性が増し、ノイズが減ることによってシグナル/ノイズ比が向上するSRMによる測定が好ましい。
0026
さらに、本明細書において、「試料」とは、特に限定はなく、生物、環境又は工業製品いずれの由来のものであってもよい。生物由来の試料としては、例えば、ヒトを含む動物の血液、唾液、涙液、汗、尿、糞、胆汁、組織、生体細胞、組織又は細胞培養液又は臓器から得られる調製物、あるいは植物からの抽出物等を挙げることができる。また、環境由来の試料としては、例えば、土壌、汚水、廃水、河川水、海水等が挙げられる。さらに、工業製品由来の試料としては、食料品、医薬品等が挙げられる。中でも、生体由来試料として、ヒトを含む動物の血液、唾液、尿、組織及び生体細胞等が、環境由来試料としては、廃水、河川水等が、工業製品由来試料としては、医薬品が好ましい。
0027
本発明において、「ペンタフルオロピリジン」とは、CAS登録番号700−16−3の下記式(II)に示す化合物のことを表す。
0028
本明細書において、「低級アルキル」は炭素数1〜6、好ましくは炭素数1〜3の直鎖状又は分枝鎖状のアルキル基を意味する。このような低級アルキル基としては、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、s−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、イソペンチル、tert−ペンチル等を挙げることができる。好適には、メチル、エチル、n−ブチル、n−プロピルを挙げることができる。
0029
また、本発明において使用することのできる、「ヒドラジノ−1−低級アルキルピリジン」としては、例えば、ジラード試薬P及び2−ヒドラジノ−1−メチルピリジン等が挙げられ、この中でも、反応性が優れ、感度が良い2−ヒドラジノ−1−メチルピリジンを用いた誘導体化が好ましい。このヒドラジノ−1−低級アルキルピリジンも、公知化合物であるか、公知化合物から公知の方法で合成することができる。
0030
さらに本発明において使用することのできる、下記式(I)
で示される化合物におけるCOXは、カルボン酸又はカルボン酸の反応性官能基を表す場合が好ましい。「カルボン酸」としては、ピコリン酸、ニコチン酸、イソニコチン酸、6−メチルピコリン酸、フザリン酸、キナルジン酸等が挙げられるが、この中でも、特にピコリン酸、フザリン酸が好ましい。「反応性官能基」としては、例えば、酸ハライド、酸無水物、混合酸無水物、活性アミド、活性エステル等を挙げることができる。この中、COXが酸ハライドを表す場合が好ましく、特にCOXが酸クロライドを表す場合が好適である。
0031
また、上記式(I)で示される化合物におけるRがハロゲン原子、C1−4アルキル基、C1−4アルコキシ基、アリルC1−4アルコキシ基又はジ(C1−4アルキル)アミノ基を表す場合が好ましく、中でもRがC1−4アルキル基を表す場合が好適である。
0034
本発明の測定方法について、以下に具体的に説明する。
0035
1.ヒドラジノ−1−低級アルキルピリジンの調製
ヒドラジノ−1−低級アルキルピリジンの調製方法については、特開2010−36810にて開示されているが、簡単に述べると、ヒドラジンと2−ハロゲノ−1−低級アルキルピリジニウムp−トルエンスルホン酸塩等の一般的な市販合成原料をアセトニトリル等の不活性溶媒に溶解して反応させることにより得ることができる。この反応は、−10℃乃至50℃の範囲で行うことができるが、反応開始から5分から15分の間は、−5℃乃至5℃の範囲内の温度で行うことが望ましい。その後は、10℃乃至40℃の範囲内が適している。また、反応溶媒としては、一般的な不活性有機溶媒、例えば、クロロホルム、ジクロロメタン、アセトニトリル、酢酸エチル、テトラヒドロフラン等を使用することができる。
0036
2.試料の調製
血清、血漿、廃水、唾液、尿、培養細胞及びヒトを含む動物の組織ホモジネート液等ら得られる試料からのエストロゲンの調製は、有機溶媒による抽出や固相抽出による簡易カラムクロマトグラフィーにより分離精製する一般的調製方法を適宜選択して用いることができる。有機溶媒は、一般に市販されている有機溶媒、例えば、酢酸エチル、アセトニトリル、ジエチルエーテル等を用いることができる。また、一般に使用されている固相抽出カラム、例えば、ウォーターズ社製のOasis(登録商標)MAXや資生堂社製のadande:lPAX(登録商標)を用いてエストロゲンのみを選択的に分離することも必要に応じて行うことができる。なお、各試料の性質、採取量等から各々調整、抽出の条件を適宜変更しても差し支えない。
0037
3.ペンタフルオロピリジン誘導体の調製
上記で調製した試料をアセトニトリル等の不活性溶媒に溶解し、アルカリ条件下でペンタフルオロピリジンを反応させることにより、上記で調製した試料中のエストロゲンをペンタフルオロピリジン誘導体化する。この反応は、−10℃乃至80℃の範囲内の温度で行うことができ、好ましくは5℃乃至40℃の範囲内の温度が適している。ペンタフルオロピリジンの使用割合は特に制限されるものではないが、一般に試験管あたり0.01乃至0.5mLとすることができ、好ましくは、0.025乃至0.075mLが適している。さらに、アルカリ条件下とは、反応液のpHを10乃至14、好ましくは12乃至14の範囲とすることを意味し、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸カリウム、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ジエチルアミン等の塩基の中から、反応液を上記pHの範囲にするのに十分な種類及び量を適宜選択して用いることができる。
0038
4.1−低級アルキルピリジニウムヒドラゾンの調製
上記3の方法より調製したエストロゲンのペンタフルオロピリジン誘導体の内、エストロンその他のカルボニル基を有するエストロゲンのカルボニル基は、アセトニトリル等の不活性溶媒に溶解した後、トリフルオロ酢酸等の酸性下で1−低級アルキルピリジニウムヒドラゾンへと変換することができる。
0039
この反応は、−10℃乃至60℃の範囲内の温度で行うことができ、好ましくは、15℃乃至40℃の範囲内の温度が適している。また、反応溶媒としては一般的な不活性溶媒、例えば、クロロホルム、ジクロロメタン、アセトニトリル、酢酸エチル、テトラヒドロフラン等を使用することができる。また、カルボニル基を有するエストロゲンのペンタフルオロピリジン誘導体に対するヒドラジノ−1低級アルキルピリジンの使用割合は、特に制限されるものではないが、一般に試験管あたり0.1μg乃至500μgとすることができ、好ましくは1μg乃至50μgが適している。
0040
5.ピリジンカルボン酸エステル誘導体の調製
上記3の方法より調製したエストロゲンのペンタフルオロピリジン誘導体の内、エストラジオールその他のアルコール性水酸基を有するエストロゲンのアルコール性水酸基に、下記式(I)
(式中、Rは水素原子、ハロゲン原子、C1−4アルキル基、C1−4アルコキシ基、アリルC1−4アルコキシ基、C1−4アルキルアミノ基、ジ(C1−4アルキル)アミノ基、ニトロ基又はシアノ基を表し、Xはヒドロキシ基又は脱離基を表す。)
で示される化合物を反応させ、ピリジンカルボン酸エステル誘導体にすることで検出感度が上昇する。
0041
この反応は、アセトニトリル等の不活性溶媒、例えば、ジオキサン、テトラヒドロフラン及びジメトキシエタン等のエーテル類、ベンゼン、トルエン及びキシレン等の芳香族炭化水素類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド等の不活性有機溶媒に溶解又は懸濁した状態にて、適当な塩基、例えば、トリエチルアミン、ピリジン等の存在下にて行うことができる。反応温度は、通常−5℃乃至80℃の範囲内の温度とすることができ、好ましくは10℃乃至60℃の範囲内の温度が適している。また、反応時間は通常5乃至240分の範囲内の時間とすることができ、好ましくは、10乃至90分の範囲内の時間が適している。
0042
上記反応及びその他の本発明における反応後の試薬等との分離、精製には、一般的な固相抽出カラム、例えば、Oasis WCX(登録商標・ウォーターズ)、InertSep Pharma(登録商標・ジーエルサイエンス)、Bond Elut C18(登録商標・バリアン)等を用いることができる。
0044
以下の実施例は、本発明をより詳細に説明するものであるが、本発明はこれに限定されるものではない。
0045
エストロン及びエストラジオールの同時定量の再現性
1−1.検量線及びQC試料の作製
検量線試料として、試験管にE1及びE2のメタノール溶液(それぞれ、0.05、0.1、0.25、1、10、100pg/50μL、0.01、0.05、0.1、1、10、100pg/50μL)を50μL添加し、精製水で1mLにした。QC(Quality Control)試料として、試験管にエストロン及びエストラジオールのメタノール溶液(それぞれ、0.05、0.075、0.1pg/50μL、0.01、0.02、0.03pg/50μL)を50μL添加し、精製水で1mLにした。
次いで、内標準(E1−13C4及びE2−13C4各10pg/50μL)、酢酸エチル3mLを加え、5分振とう後、水層を凍結分離し得られた溶媒を留去した。残渣をメタノール0.5mLで溶解した後、精製水1mLを加え、あらかじめメタノール3mL、精製水3mLでコンディショニングしたOasis(登録商標)MAXカートリッジ(ウォーターズ社)に負荷した。1%酢酸1mL、30%アセトニトリル1mL、1M水酸化ナトリウム1mL、メタノール3mL、1%酢酸1mL、ピリジン/60%メタノール(1:100)1mLで洗浄後、ピリジン/90%メタノール(1:100)1mLでE1及びE2を溶出し、溶出液を遠心エバポレーターで留去した。
0046
2−2.E1−3−テトラフルオロピリジルエーテル及びE2−3−テトラフルオロピリジルエーテルの作製
前項1−1で得られたE1及びE2を含む残留物に、ペンタフルオロピリジン0.05mL、アセトニトリル0.1mL、1M水酸化ナトリウム0.04mL、エタノール0.015mLを加え、よく振り混ぜた後、室温で20分放置した。反応後、反応試薬を減圧下で留去した後、精製水0.5mL、ヘキサン2mLを加え、5分間振とう後、水層を凍結分離し得られた溶媒を減圧下で留去した。
0047
2−3.E1−3−テトラフルオロピリジルエーテル−17−(1´−メチルピリジニウム−2´)−ヒドラゾン誘導体の作製
上記2−2で得られたE1−3−テトラフルオロピリジルエーテル及びE2−3−テトラフルオロピリジルエーテルを含む残留物に2−ヒドラジノ−1−メチルピリジン1mgを1%トリフルオロ酢酸−アセトニトリル(1:1400)で溶解したものを0.14mL加え、室温で1時間放置した。2−ヒドラジノ−1−メチルピリジンの作製法は、特開2010−36810に記載されているので、省略する。反応後、溶媒を減圧下で留去した。その残留物をメタノール0.5mLで溶解後、精製水0.5mLを加え、あらかじめメタノール3mL、精製水3mLでコンディショニングしたOasis WCXカートリッジに負荷した。0.1Mリン酸二水素カリウム1mL、40%アセトニトリル1mLでカートリッジカラムを洗浄後、メタノール1mLでE2−3−テトラフルオロピリジルエーテルを溶出し、減圧下で溶媒を留去した。次いで、アセトニトリル2mL、精製水0.5mL、ギ酸/65%メタノール(1:50)1mLでカートリッジカラムを洗浄後、ギ酸/メタノール(1:50)1mLでE1−3−テトラフルオロピリジルエーテル−17−(1´−メチルピリジニウム−2´)−ヒドラゾン誘導体(E1−TfpyHMP)を溶出した。溶出液は、減圧下で溶媒を留去した。残留物は、70%アセトニトリル0.1mLで溶解し、E1−TfpyHMP溶液とした。
0048
2−4.E2−3−テトラフルオロピリジルエーテル−17−フザリン酸誘導体の作製
上記2−3で得られたE2−3−テトラフルオロピリジルエーテルを含む残留物を30分以上減圧下で乾燥させた後、誘導体化試薬(フザリン酸40mg、2−メチル−6ニトロ安息香酸無水物40mg、4−ジメチルアミノピリジン20mg/アセトニトリル1mL)0.05mL、トリエチルアミン0.01mLを添加し、室温で30分放置した。反応後、反応液にヘキサン/酢酸(50:1)を0.5mL加え、よく振り混ぜた後に、あらかじめ酢酸エチル3mL、ヘキサン3mLでコンディショニングしたInertSep(登録商標)SIカートリッジへ負荷した。カートリッジカラムを、ヘキサン1mL、酢酸エチル/ヘキサン(15:85)2mLで洗浄した後、酢酸エチル/ヘキサン(45:55)でE2−3−テトラフルオロピリジルエーテル−17−フザリン酸誘導体(E2−TfpyFU)を溶出し、溶出液を減圧下で留去した。残留物は、80%アセトニトリル0.1mLで溶解し、E2−TfpyFU溶液とした。
0049
2−5.E1−TfpyHMPのLC−MS測定
上記2−3で得られたE1−TfpyHMP溶液0.02mLをLC−MSに注入して測定を行った。質量分析計でE1−TfpyHMPを測定したときのESIマススペクトルは、m/z525にインタクトプロトン付加イオンが検出された(図1)。また、m/z525をプレカーサーイオンとしてMS/MS測定を行った結果、m/z308が最も特異性の高いプロダクトイオンであったため、これらのイオンを用いてSRM測定を行った。測定条件を下記表1に示す。
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0051
2−6.E2−TfpyFUのLC−MS測定
上記2−4で得られたE2−TfpyFU溶液0.02mLをLC−MSに注入して測定を行った。質量分析計でE2−TfpyFUを測定したときのESIマススペクトルは、m/z583にインタクトプロトン付加イオンが検出された(図2)。また、m/z583をプレカーサーイオンとしてMS/MS測定を行った結果、m/z308が最も特異性の高いプロダクトイオンであったため、これらのイオンを用いてSRM測定を行った。測定条件を下記表2に示す。
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上記2−5及び2−6で得られたE1の再現性試験の結果を下記表3に、E2の再現性試験の結果を表4に示す。
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上記表3及び4の結果より、本発明の方法を用いると、E1は0.05pg/tube、E2は0.01pg/tubeの濃度から定量できることが示された。
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実施例1と同様にして同一血清中E1及びE2の定量をそれぞれ5回行い、再現性を確認した。その結果を下記表5及び6に示す。
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上記表5及び6の結果より、血清中のE1及びE2を再現性良く定量できることが示された。
実施例
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