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技術 耐熱へたり性に優れた高強度ステンレス鋼線、高強度ばね並びにその製造方法

出願人 新日鐵住金ステンレス株式会社日本精線株式会社
発明者 東城雅之高野光司梶村治彦飽浦常夫豊田豪
出願日 2013年3月25日 (7年9ヶ月経過) 出願番号 2013-062817
公開日 2013年11月7日 (7年1ヶ月経過) 公開番号 2013-227662
状態 特許登録済
技術分野 物品の熱処理 鋼の加工熱処理
主要キーワード 直線ばね 所定応力 ウエーブスプリング 軟質線 捻り応力 平均コイル径 捻り回数 材料割れ
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重要な関連分野

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図面 (5)

課題

耐熱へたり性に優れる高強度ばね用の析出硬化型準安定オーステナイト系ステンレス鋼線およびばね製品を提供し、従来のばね用鋼線の強度と耐熱へたり性の両特性を大幅に改善することにある。

解決手段

質量%でC:0.02〜0.12%,およびN:0.005〜0.03%を含み、かつ0.05%≦(C+N)≦0.13%で、Si:0.1〜2.0%,Mn:0.1〜2.0%,Ni:6.8〜9.0%,Cr:12.0〜14.4%,Mo:1.0〜3.0%,及びAl:0.5〜2.0%を含有し、かつ加工誘起マルテンサイト生成指数MdSが15〜60を備え、マトリックス中の加工誘起α’量が80〜99vol.%で、引張強さ1800〜2200MPaを備えることを特徴とする耐熱へたり性に優れた高強度ステンレス鋼線とこれを用い構成してなる高強度ばね、及びその製造方法である。

概要

背景

従来、高強度ばね用材料として、ピアノ線をはじめSUS304,SUS301などの高強度ステンレス鋼線が使用されてきた。しかし、従来のばね製品は、常温状態では十分な強度を有するものの、例えばピアノ線では環境温度が100℃〜300℃程度の温間域において耐熱へたり性が後述する残留剪断歪みで0.01%以上と急激に低下し、用途的な制限を受けるものであった。その傾向はステンレス鋼線による場合も同様であり、そのために、例えばMo,Al,Ti等を添加したオーステナイト系ステンレス鋼線が提案されている(特許文献1、2)。そうした成分調整によって、耐熱へたり性は改善するものの、逆に加工誘起マルテンサイト量が少なく、引張強さが1800MPa未満と強度不足となり、高強度ばね用製品として十分なものとは言い難い。

また、Mo,Al等の析出硬化を利用したマルテンサイト系ステンレス鋼も提案されている(特許文献3)。しかしながら、このステンレス鋼はCが高く、熱処理後に既にマルテンサイト生地であるため加工性に劣り、また、大きな加工硬化が期待できず高強度ばね製品としては十分でない。

更に、Mo,Al,Cu等の析出硬化を利用した高強度の析出硬化型オーステナイト鋼が提案されている(特許文献4)。しかしながら、このステンレス鋼では、多量のNi,Cuを含有するので材料コストが高価である。また、このステンレス鋼は、加工誘起マルテンサイトを抑制しており、耐熱へたり性についても満足し難い。

このように、従来の高強度ばね用ステンレス鋼線では強度と耐熱へたり性を兼ね備えることができない。

概要

耐熱へたり性に優れる高強度ばね用の析出硬化型の準安定オーステナイト系ステンレス鋼線およびばね製品を提供し、従来のばね用鋼線の強度と耐熱へたり性の両特性を大幅に改善することにある。質量%でC:0.02〜0.12%,およびN:0.005〜0.03%を含み、かつ0.05%≦(C+N)≦0.13%で、Si:0.1〜2.0%,Mn:0.1〜2.0%,Ni:6.8〜9.0%,Cr:12.0〜14.4%,Mo:1.0〜3.0%,及びAl:0.5〜2.0%を含有し、かつ加工誘起マルテンサイト生成指数MdSが15〜60を備え、マトリックス中の加工誘起α’量が80〜99vol.%で、引張強さ1800〜2200MPaを備えることを特徴とする耐熱へたり性に優れた高強度ステンレス鋼線とこれを用い構成してなる高強度ばね、及びその製造方法である。

目的

本発明の解決すべき課題は、特に前記温間域で多用される耐熱材料、特に耐熱ばね用前提として、その温度環境下でも十分な高強度特性及び耐熱へたり性を併せ持つ高強度ステンレス鋼線と、該鋼線による高強度ばね、並びにその製造方法を提供する

効果

実績

技術文献被引用数
0件
牽制数
1件

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請求項1

質量%で、C:0.02〜0.12%,およびN:0.005〜0.03%を含み、かつ0.05%≦(C+N)≦0.13%で、Si:0.1〜2.0%,Mn:0.1〜2.0%,Ni:6.8〜9.0%,Cr:12.0〜14.4%,Mo:1.0〜3.0%,及びAl:0.5〜2.0%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物で構成され、(1)式で表される加工誘起マルテンサイト生成指数MdS値が15〜60であり、且つ、マトリックス中の加工誘起マルテンサイト量が80〜99vol.%で、引張強さ1800〜2200MPaを備えることを特徴とする耐熱へたり性に優れた高強度ステンレス鋼線。MdS=551−462(C+N)−9.2Si−8.1Mn−29(Ni+Cu)−13.7Cr−18.5Mo…(1)但し、式中の元素記号は、当該元素含有量(質量%)を意味する。

請求項2

質量%で、更にV:0.01〜1.0%,Nb:0.01〜1.0%,Ti:0.01〜1.0%,W:0.05〜2.0%,Ta:0.05〜2.0%のうち、1種類以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の耐熱へたり性に優れた高強度ステンレス鋼線。

請求項3

質量%で、更にCu:0.8%以下、Co:0.1〜2.0%、B:0.0005〜0.015%のうち、1種以上を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の耐熱へたり性に優れた高強度ステンレス鋼線。

請求項4

質量%で、更にCa:0.0005〜0.01%,Mg:0.0005〜0.01%,REM:0.0005〜0.1%のうち、1種類以上を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の耐熱へたり性に優れた高強度ステンレス鋼線。

請求項5

ステンレス鋼線を、その等価線径の100倍長さの標点距離間で保持し、その一端側を捻り回転する捻り試験したときの、縦割れなく破断に至る捻回値が5回以上の高捻回特性を有するものである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の耐熱へたり性に優れた高強度ステンレス鋼線。

請求項6

時効熱処理を施したステンレス鋼線であって、該ステンレス鋼線は請求項1〜4の何れか一項に記載の成分組成、加工誘起マルテンサイト量、及びMdS値を満足し、引張強さが2100〜2600MPaであることを特徴とする耐熱へたり性に優れた高強度ステンレス鋼線。

請求項7

引張強さ(σB)とその0.2%耐力(σ0.2)との耐力比{(σ0.2/σB)×100}が80〜95%で、耐熱ばね用途に用いられるものである請求項1〜6のいずれか一項に記載の耐熱へたり性に優れた高強度ステンレス鋼線。

請求項8

請求項1〜7のいずれか一項に記載のステンレス鋼線で構成され、環境温度200℃における(2)式で表される残留剪断ひずみがε≦0.008%であることを特徴とする耐熱へたり性に優れた高強度ばね。残留剪断ひずみε={8ΔPD/πd3G}×100…(2)但し、ΔP:荷重損失(N)、D:ばねの中心径(mm)、d:鋼線の等価線径(mm)、G:鋼線の横弾性係数(N/mm2)

請求項9

鋼線のマトリックスに、粒径50nm以下のNiAl系微細化合物粒子を備えるものである、請求項8に記載の耐熱へたり性に優れた高強度ばね。

請求項10

固溶化熱処理後に、所定の等価線径に総加工率で60〜90%の冷間加工を行うことにより製造した請求項1〜7のいずれか一項に記載のステンレス鋼線を、所定のばね形状に成形処理した後、更に温度300〜600℃で時効熱処理を施すことを特徴とする耐熱へたり性に優れた高強度ばねの製造方法。

請求項11

次式(3)の時効熱処理因子が100〜10000での前記時効熱処理によって、鋼線のマトリックス中に、粒径50nm以下のNiAl系の微細化合物粒子を析出させることを特徴とする請求項10に記載の耐熱へたり性に優れた高強度ばねの製造方法。時効熱処理因子={温度(℃)×処理時間(min)}/2√{ばねの等価線径(mm)×展開長さ(mm)}・・・(3)

技術分野

0001

本発明は自動車エンジン排気系部品電装部品等の耐熱性とともに高強度特性が要求される部品、主に耐熱ばね用耐熱ロープ用など耐熱鋼線材料として使用される高強度ステンレス鋼線に関する。本発明は、オーステナイト(γ)相+加工誘起マルテンサイト(α‘)相の金属組織を有しMo,Al等を添加して冷間加工時効熱処理により微細析出物を制御した析出硬化型準安定オーステナイト系の高強度ステンレス鋼線、特に高強度耐熱ステンレス鋼線と、これを用いた高強度ばね、特に高強度耐熱ばね並びにその製造方法に関する。

背景技術

0002

従来、高強度ばね用材料として、ピアノ線をはじめSUS304,SUS301などの高強度ステンレス鋼線が使用されてきた。しかし、従来のばね製品は、常温状態では十分な強度を有するものの、例えばピアノ線では環境温度が100℃〜300℃程度の温間域において耐熱へたり性が後述する残留剪断歪みで0.01%以上と急激に低下し、用途的な制限を受けるものであった。その傾向はステンレス鋼線による場合も同様であり、そのために、例えばMo,Al,Ti等を添加したオーステナイト系ステンレス鋼線が提案されている(特許文献1、2)。そうした成分調整によって、耐熱へたり性は改善するものの、逆に加工誘起マルテンサイト量が少なく、引張強さが1800MPa未満と強度不足となり、高強度ばね用製品として十分なものとは言い難い。

0003

また、Mo,Al等の析出硬化を利用したマルテンサイト系ステンレス鋼も提案されている(特許文献3)。しかしながら、このステンレス鋼はCが高く、熱処理後に既にマルテンサイト生地であるため加工性に劣り、また、大きな加工硬化が期待できず高強度ばね製品としては十分でない。

0004

更に、Mo,Al,Cu等の析出硬化を利用した高強度の析出硬化型オーステナイト鋼が提案されている(特許文献4)。しかしながら、このステンレス鋼では、多量のNi,Cuを含有するので材料コストが高価である。また、このステンレス鋼は、加工誘起マルテンサイトを抑制しており、耐熱へたり性についても満足し難い。

0005

このように、従来の高強度ばね用ステンレス鋼線では強度と耐熱へたり性を兼ね備えることができない。

先行技術

0006

特許第4163055号公報
特開平10−68050号公報
特許第3482053号公報
特許第4327601号公報

発明が解決しようとする課題

0007

本発明の解決すべき課題は、特に前記温間域で多用される耐熱材料、特に耐熱ばね用を前提として、その温度環境下でも十分な高強度特性及び耐熱へたり性を併せ持つ高強度ステンレス鋼線と、該鋼線による高強度ばね、並びにその製造方法を提供することである。

課題を解決するための手段

0008

上記課題を解決するために種々検討した結果、析出硬化型の準安定オーステナイト系ステンレス鋼線において、
1)オーステナイト安定度を制御し、ばね形状などに成形加工する前に、冷間伸線などの強加工によりオーステナイト主体組織から加工誘起マルテンサイト(オースフォームドマルテンサイト)組織を多量に形成することで、延性を保ちつつ強度を向上させること、
2)0.05≦(C+N)≦0.13の範囲に制御することで強度を保ちつつ延性を確保すること、
3)Al,Moを添加し、強加工と時効熱処理条件の組み合わせで、特に鋼線表層近傍の強加工された加工誘起マルテンサイト組織中にNiAl,Mo系微細化合物均一分散させること
で更に強度と耐熱へたり性を大幅に高めることが有効との結論に達し、本発明を得た。

0009

すなわち、本発明は下記の構成を有する。
(1)質量%で、C:0.02〜0.12%,およびN:0.005〜0.03%を含み、かつ0.05%≦(C+N)≦0.13%で、Si:0.1〜2.0%,Mn:0.1〜2.0%,Ni:6.8〜9.0%,Cr:12.0〜14.4%,Mo:1.0〜3.0%,及びAl:0.5〜2.0%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物で構成され、
(1)式で表される加工誘起マルテンサイト生成指数MdS値が15〜60であり、且つ、マトリックス中の加工誘起マルテンサイト量が80〜99vol.%で、引張強さ1800〜2200MPaを備えることを特徴とする耐熱へたり性に優れた高強度ステンレス鋼線。
MdS=551−462(C+N)−9.2Si−8.1Mn−29(Ni+Cu)−13.7Cr−18.5Mo…(1)
但し、式中の元素記号は、当該元素含有量(質量%)を意味する。
(2)質量%で、更にV:0.01〜1.0%,Nb:0.01〜1.0%,Ti:0.01〜1.0%,W:0.05〜2.0%,Ta:0.05〜2.0%のうち、1種類以上を含有することを特徴とする前記(1)に記載の耐熱へたり性に優れた高強度ステンレス鋼線。
(3)質量%で、更にCu:0.8%以下、Co:0.1〜2.0%、B:0.0005〜0.015%のうち、1種以上を含有することを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の耐熱へたり性に優れた高強度ステンレス鋼線。
(4)質量%で、更にCa:0.0005〜0.01%,Mg:0.0005〜0.01%,REM:0.0005〜0.1%のうち、1種類以上を含有することを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の耐熱へたり性に優れた高強度ステンレス鋼線。
(5)該ステンレス鋼線を、その等価線径の100倍長さの標点距離間で保持し、その一端側を捻り回転する捻り試験したときの、縦割れなく破断に至る捻回値が5回以上の高捻回特性を有するものである、前記(1)〜(4)のいずれかに記載の耐熱へたり性に優れた高強度ステンレス鋼線。
(6)時効熱処理を施したステンレス鋼線であって、該ステンレス鋼線は前記(1)〜(4)の何れかに記載の成分組成、加工誘起マルテンサイト量、及びMdS値を満足し、引張強さが2100〜2600MPaであることを特徴とする耐熱へたり性に優れた高強度ステンレス鋼線。
(7)引張強さ(σB)とその0.2%耐力(σ0.2)との耐力比{(σ0.2/σB)×100}が80〜95%で、耐熱ばね用途に用いられるものである前記(1)〜(6)のいずれかに記載の耐熱へたり性に優れた高強度ステンレス鋼線。
(8)前記(1)〜(7)のいずれかに記載のステンレス鋼線で構成され、環境温度200℃における(2)式で表される残留剪断ひずみがε≦0.008%であることを特徴とする耐熱へたり性に優れた高強度ばね。
残留剪断ひずみε={8ΔPD/πd3G}×100…(2)
但し、ΔP:荷重損失(N)、D:ばねの中心径(mm)、d:鋼線の等価線径(mm)、G:鋼線の横弾性係数(N/mm2)
(9)鋼線のマトリックスに、粒径50nm以下のNiAl系の微細化合物粒子を備えるものである、前記(8)に記載の耐熱へたり性に優れた高強度ばね。
(10)固溶化熱処理後に、所定の等価線径に総加工率で60〜90%の冷間加工を行うことにより製造した前記(1)〜(7)のいずれかに記載のステンレス鋼線を、所定のばね形状に成形処理した後、更に温度300〜600℃で時効熱処理を施すことを特徴とする耐熱へたり性に優れた高強度ばねの製造方法。
(11)次式(3)の時効熱処理因子が100〜10000での前記時効熱処理によって、鋼線のマトリックス中に、粒径50nm以下のNiAl系の微細化合物粒子を析出させることを特徴とする前記(10)に記載の耐熱へたり性に優れた高強度ばねの製造方法。
時効熱処理因子={温度(℃)×処理時間(min)}/2√{ばねの等価線径(mm)×展開長さ(mm)}・・・(3)

発明の効果

0010

本発明の耐熱へたり性に優れた析出硬化型の高強度ステンレス鋼線は、その伸線加工段階で高い加工誘起マルテンサイト(α‘)量と所定の引張強さを有するものとなる。また、本発明の高強度ステンレス鋼線は、ばね形状に成形処理した後、時効熱処理を施すことで、微細化合物の形成、特に鋼線表層に均一分散する微細化合物の析出を促進して、更に高強度且つ特に温間域での耐熱へたり性を付与することができる。これにより、従来、両立が困難であった高強度かつ優れた耐熱へたり性を有する高強度ばね製品を提供することができる。したがって、本発明の高強度ステンレス鋼線は、特に厳しい品質特性が求められる高強度ばね用に好適である。

0011

また、ばねの製造方法の発明によれば、通常の低温熱処理の範囲内で実施でき、連続化によって特別なコストアップを伴うことなく安定的に実施できる。

図面の簡単な説明

0012

捻り試験による破面の拡大写真の一例で、図1Aは良好な捻り破面、図1Bは捻り割れした破面を示す。
ばね特性測定方法を説明する説明図。
時効熱処理による析出化合物生成状態の一例を示す顕微鏡写真。
図4Aは時効熱処理温度に伴う引張強さの変化を示す線図の一例であり、図4Bは同様に残留剪断ひずみ特性の変化を示す線図である。

0013

前記記載のように本発明のステンレス鋼線は、
質量%で、C:0.02〜0.12%,およびN:0.005〜0.03%を含み、かつ0.05%≦(C+N)≦0.13%で、Si:0.1〜2.0%,Mn:0.1〜2.0%,Ni:6.8〜9.0%,Cr:12.0〜14.4%,Mo:1.0〜3.0%,及びAl:0.5〜2.0%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物で構成され、(1)式で表される加工誘起マルテンサイト(α‘)生成指数(以下、単に「生成指数」という)MdS値が15〜60であり、
そのマトリックス中に80〜99vol.%の加工誘起α’量を含み、かつ引張強さ1800〜2200MPaを備えることを特徴とする耐熱へたり性に優れた高強度ステンレス鋼線である。本発明の高強度ステンレス鋼線は、特に高強度耐熱ステンレス鋼線として、例えばばね用の線材、特に環境温度が100〜300℃の温間域での使用に好適するものである。

0014

MdS=551−462(C+N)−9.2Si−8.1Mn−29(Ni+Cu)−13.7Cr−18.5Mo…(1)
但し、式中の元素記号は、当該元素の含有量(質量%)を意味する。また、計算に必要な元素が含まれていない、又は、その含有量が不明である元素については、その元素の含有量として0を代入するものとする。

0015

その形態は特に制限するものではなく、通常の線材として例えば線径6mm以下、より具体的には0.05〜3mm程度の2次加工用細線用途に多用され、また、その形状も丸線以外に、例えば平線角線等の非円形形状の線材として用い得る。しかし、これに限るものではなく、種々形態で応用可能である。このように、本発明のステンレス鋼線はその断面形状が非円形形状の線材をも含むことから、その場合の線径表示は、例えばその任意の横断面面積から算出される等価線径(d)によるものとする。
なお、本形態では前記丸線を対象として伸線加工による場合を中心に説明するが、これに代えて、例えば圧延加工乃至前記伸線加工と組み合わせる複合加工を採用し得る。

0016

また、ステンレス鋼線は、最終段階で行われる時効熱処理によって、そのマトリックス中に微細な化合物粒子を析出分布する析出硬化機能を備えている。本発明では、析出硬化機能を発揮するように、その組成にAl及びMo等の析出元素を加え、N及びCを適量に添加している。そして、冷間伸線や冷間圧延等の引抜加工条件によって強加工された鋼線表層近傍の加工誘起マルテンサイト相にNiAl,Mo系の化合物粒子を均一に分散して析出させることで、高強度で且つ耐熱へたり性に優れた高強度の耐熱ばね製品の提供を可能にしている。

0017

一般的にオーステナイト系ステンレス鋼は、その冷間加工によって加工硬化することは周知であり、その要因の一つに、加工に伴って誘起する加工誘起マルテンサイト相の影響がある。しかし、その誘起発生量は、これを構成する各元素の成分組成のバランスとその加工条件によって大きく異なる。例えば、安定型のSUS316系ステンレス鋼では通常の加工処理を行っても、誘起マルテンサイトの生成量はわずか数%程度に留まる。これに対し、本発明では、冷間加工に伴う加工誘起マルテンサイトの生成を積極的に促進して、その生成量を80〜99vol%に高めるように調整し、鋼線自体の引張強さを伸線等の冷間加工状態で1800〜2200MPaに高強度化することを特徴の一つにしている。

0018

そして、その高強度特性とともにばね製品での耐熱へたり性を改善する更なる手段として、微細析出物の析出核となる前記加工誘起マルテンサイト量の生成が促進されるように、各成分組成のバランスの指標として前記生成指数MdS値が15〜60になるように調整したステンレス鋼を特定の加工条件で伸線加工することとしている。
なお、MdS値は、ステンレス鋼に30%の引張変形を与えたときに組織の50%がマルテンサイト相変態する温度を意味し、加工に伴って生成される加工誘起マルテンサイト量のレベル成分元素との関係で把握するものである。

0019

これによって、伸線加工時の加工誘起マルテンサイト量を高めることができ、高強度化に寄与する。

0020

本発明で前記MdS値を前記範囲に設定する理由は、MdS値が15未満のものでは、オーステナイト相の安定化が増し伸線加工後の加工誘起マルテンサイト量が80vol%未満と低くなり、高強度化しにくくなるばかりでなく、300〜600℃での時効熱処理に伴う析出強化量も低減して、耐熱へたり性も劣化する。一方、MdS値が60を超えるものでは、所定の伸線加工で99vol%を超える余剰の加工誘起マルテンサイトが生成され、伸線後延靭性が低下して、製造性が劣る。より好ましくはMdS値の範囲を20〜50とする。

0021

こうした成分調整によって、本発明のステンレス鋼線は加工誘起マルテンサイト量80〜99vol%を可能とし、各特性向上が図られる。すなわち、マトリックス中の加工誘起α’(マルテンサイト)の分量が80vol%未満のものでは、ばね製品において時効熱処理を行っても必要な高強度特性が得られず、逆に99vol%を超えるものでは組織的安定性を欠いて耐食性靭性が満足し難い。また耐ばね疲労性に劣ることも予想される。加工誘起マルテンサイト量は、好ましくは83vol%以上であり、85vol%以上であることがより好ましい。また、加工誘起マルテンサイト量は95vol%以下であることが好ましく、より好ましくは90vol%以下の範囲とする。

0022

マルテンサイト量計測
また該マルテンサイト量の計測は、ステンレス鋼線から任意に採取した試験片に対して、例えばフェライトスコープによる方法、磁気法やX線による方法など種々方法が採用可能であり、例えば後者の磁気法などについては、例えば日本鉄鋼協会「鉄と鋼」(81−S1163)他にも多々説明されている。

0023

本発明では、加工誘起α’量は直流磁束計にて線材の1.0×104Oeでの飽和磁化値を測定し、下記の(4)〜(6)式を用いて算出した。
加工誘起α’量(vol.%)=σs/σs(bcc)×100…(4)
σs:飽和磁化値(T),σs(bcc):100%α’変態した時の飽和磁化値(計算値
σs(bcc)=1.83−0.030Creq…(5)
Creq=Cr+1.8Si+Mo+0.5Ni+0.9Mn+3.6(C+N)+1.25P+2.91S+1.85Al…(6)

0024

こうしてステンレス鋼線は、その冷間伸線加工された状態での引張強さ(σB)が1800〜2200MPaの高強度特性を有するものとしている。引張強さは、例えばJIS−Z2241により計測可能であり、その特性が1800MPa未満のものでは、その後の時効熱処理によっても強度特性の大幅向上が見込めず、また2200MPaを超える程高くしたものでは、ばね成形加工段階でばね形状のバラツキを増大したり、脆性破壊を誘発しやすいなど品質面で問題がある。より好ましい引張強さは、1900〜2100MPaである。

0025

一方、本発明の冷間伸線加工された該鋼線に、時効熱処理を施すと強度特性が更に、飛躍的に向上し、時効熱処理の条件によっては引張強さ2100〜2600MPaという好ましい値が得られる。したがって、例えばばね形状品がマイクロシャフト用などのように、直線状態で使用する用途にあっては、前記伸線加工に続いて矯正処理し、これをそのまま連続時効熱処理して長尺のばね材料とすることもできる。このことで、ワイヤー状態での機械的特性を更に高めることができる。なお、これら処理は連続的に行うことができる。
本発明は冷間伸線加工後に時効熱処理したステンレス鋼線についても他の形態として含むものとしている。その場合の引張強さは2100〜2600MPaであり、より好ましい引張強さの下限は2200MPaであり、より好ましい上限は2500MPaである。なお、鋼線に対する時効熱処理条件は、時効熱処理後の引張強さが上記範囲になるように適宜設定することができるが、一例として後述するようにばね成形後の時効熱処理条件を挙げることができる。

0026

また、引張強さ(σB)とともに求められる0.2%耐力(σ0.2)との耐力比{(σ0.2/σB)×100}が80〜95%であることが好ましい。このようなステンレス鋼線は、高強度かつ疲労破断を改善する耐熱ばね用材料として有効である。なお、この耐力比が80%未満では所定の弾性特性が得られず、95%を超えるものでは、過酷なばね加工の際の歩留りに悪影響を及ぼす恐れがある。耐力比のより好ましい下限は83%であり、より好ましい上限は91%である。

0027

[捻り試験1]
また、ばね加工性を評価する他の試験方法として、次の捻り試験による捻回特性で行うこともできる。捻回特性は、該ステンレス鋼線から採取した試験片を、その等価線径の100倍長さの標点距離間で保持して、その一端側を捻り回転することで破断するまでの回数で示され、例えば、冷間加工されたステンレス鋼線では、その捻り回数(捻回値)が縦割れ無く5回以上、例えば5〜10回程度以上の高捻回特性を有するものであるならば、種々ばね製品に対して広く用いることができる。そしてそのような時効熱処理が施された鋼線、及び耐力比が前記95%を超えるようなものでは、その捻回特性が2,3回程度に留まるか縦割れを生じ易い。このため、例えばコイルばねとして、平均コイル径(D)に対する線径(d)の比D/dが4倍以下のような過酷形状のばね加工において歩留りに悪影響を及ぼす場合がある。すなわち、捻回値に関わらず、ばね成形は可能であるが、縦割れなく5回以上の捻回値を示す鋼線がばね成形にとって好ましく、6回以上であることがより好ましい。

0028

[捻り試験2]
この捻り試験は、例えばJIS−G4314にも説明されており、またこの捻り試験での破断面を観察することで、該ステンレス鋼線の靭性状況を見ることもできる。
図1はその一例を示すもので、図1Aはほぼ均一な破断面で良好であるのに対し、図1Bでは横断面の一部に捻り割れが認められ、脆性破断したことを示している。前者のような良好な破断面のものでは前記捻り回数を満足することができる。

0029

次に、本発明が対象とするステンレス鋼線の各構成元素の限定理由について説明する。
なお、本発明では特に注記が無い場合は、元素含有量は質量%を意味する。

0030

Cは伸線加工後に高強度を得るために0.02%以上(以下は全て質量%)添加する。しかし、0.12%を超えて添加すると、鋭敏化して、耐食性が劣化するばかりか、製造性が劣化することから上限を0.12%とする。好ましくは、0.10%未満であり、更に好ましい範囲は、0.04〜0.09%である。

0031

Nは、強度に寄与する元素であると共に、炭窒化物を形成し、固溶化熱処理時の冷間加工前の素材結晶粒を微細化させる効果があるため0.005%以上添加する。しかしながら0.03%を超えて添加するとAlN等の粗大窒化物の形成および延靭性の劣化が起こり、製造性が著しく劣化する。そのため、上限を0.03%とする。N含有量の好ましい下限は0.01%であり、好ましい上限は0.025%である。

0032

CおよびNは共に侵入型元素であり、ひずみを生成し、強化に作用する固溶強化やコットレル雰囲気や微細炭窒化物を形成し、金属組織中の転位を固着する効果がある。これらの効果を得るためにC+Nを0.05%以上添加する。しかしC+Nが0.13%を超えて添加すると延靭性が劣化するため上限を0.13%とする。好ましい範囲は、0.08〜0.11%である。

0033

Siは脱酸を行うため、0.1%以上添加する。しかし、2.0%を超えて添加するとその効果は飽和するだけでなく、製造性が劣化することから上限を2.0%とする。好ましい範囲は0.3〜1.0%である。

0034

Mnは、脱酸のため、0.1%以上添加する。しかし、2.0%を超えて添加すると、耐食性劣化、加工誘起α’量が低くなり、強度が低下するだけでなく、耐熱へたり性も劣化することから上限を2.0%にする。好ましい範囲は0.5〜1.5%である。

0035

Niは、素材の延靭性を確保し、伸線加工にて適量の加工誘起マルテンサイト量を得るため、6.8%以上添加する。しかし、9.0%を超えて添加すると、MdS値が低下して加工誘起マルテンサイト量が低くなり強度が低下するばかりか、耐熱へたり性も劣化する。そのため、上限を9.0%にする。好ましい範囲は7.0%超、8.5%以下、より好ましくは7.5〜8.2%である。

0036

Crは、耐食性を確保し、適度な加工誘起マルテンサイト量を得るため、12.0%以上添加する。しかし、14.4%を超えて添加するとMdS値が低下して加工誘起マルテンサイト量が低くなり、強度が低下するばかりか、耐熱へたり性も劣化する。そのため、上限を14.4%にする。好ましい範囲は、13.0〜14.0%である。

0037

Moは、オーステナイト母相に固溶し母相の硬さを高め、さらに使用時の昇温による熱へたりを緩和する。さらにばねを製造する際の300〜600℃での時効熱処理によりMo系の微細な金属クラスターを加工誘起マルテンサイト中に微細析出させて、高強度化して耐熱へたり性を向上させるのに有効な元素であり、1.0%以上添加する。しかしながら、3.0%を超えて添加すると、その効果は飽和し、MdS値も低下するため加工誘起マルテンサイト量が低くなり強度が低下するばかりか、耐熱へたり性も劣化する。そのため、上限を3.0%にする。好ましい範囲は1.5〜2.6%、より好ましくは1.7%〜2.3%である。

0038

Alは、ばねを製造する際の例えば300〜600℃での時効熱処理により微細なNiAl系金属間化合物を加工誘起マルテンサイト中に微細析出させて高強度化して耐熱へたり性を向上させるのに有効な元素であり、0.5%以上添加する。しかしながら、2.0%を超えて添加してもその効果は飽和し、製造性が劣化する。そのため、上限を2.0%とする。好ましい範囲は、0.7〜1.5%、より好ましくは0.9%〜1.2%である。

0039

前記ステンレス鋼線はこれら構成元素により構成されるとともに、前記MdS値が15〜60になるように成分調節がなされ、残部Fe及び若干(例えば通常のステンレス鋼の製造で混入するO:0.001〜0.01%,Zr:0.0001〜0.01%,Sn:0.001〜0.1%,Pb:0.00005〜0.01%,Bi:0.00005〜0.01%,Zn:0.0005〜0.01%等、原料耐火物に含有される物質など、合計で2.0%以下)の不可避不純物の含有を許容する。

0040

また、本発明は前記構成元素に加えて更に次のいずれか第三元素を含有することができる。

0041

その第一のグループにはV,Nb,Ti,W,Taがあり、これら元素は各々微細な炭窒化物を形成して結晶粒を微細化して高強度化するとともに、耐熱へたり性を向上させることに寄与する。その効果は、V:0.01〜1.0%(好ましくは0.05〜0.6%),Nb:0.01〜1.0%(好ましくは0.05〜0.4%),Ti:0.01〜1.0%(好ましくは0.02〜0.2%),W:0.05〜2.0%(好ましくは0.05〜0.5%),Ta:0.05〜2.0%(好ましくは0.1〜0.5%)のうち、いずれか1種類以上の添加で可能となるが、各上限を超えて添加すると炭窒化物が粗大化して製造性を低下させる。したがって、より好ましくは前記併記した好ましい範囲での実施が推奨される。

0042

同様に第二グループには、ステンレス鋼線の耐食性や靭性、加工性など付帯効果を高めるものであって、必要に応じて次のいずれか元素の添加を許容するものである。

0043

Cuは、耐食性を向上するのに有効な元素で必要に応じて添加する。しかしながら、0.8%を超えて添加すると、加工硬化が小さくなって、軟質化するばかりか、耐熱へたり性も低下するため、上限を0.8%以下とする。好ましい範囲は0.1〜0.6%である。

0044

Coは延靭性を確保して耐熱へたり性を向上させるため、必要に応じて、0.1%以上添加する。しかしながら、2.0%を超えて添加すると、強度が低下して耐熱へたり性が劣化するため、上限を2.0%にする。好ましい範囲は0.5%〜1.5%である。

0045

またBは、該ステンレス鋼の熱間製造性および靭性を向上させるため、必要に応じて、0.0005%以上を添加する。しかしながら、0.015%を超えて添加するとボライドが生成するため、逆に延靭性が低下して、製造性が劣化する。そのため、上限を0.015%にする。好ましい範囲は、0.001〜0.01%である。

0046

更に第三グループとして、Ca,Mg,REMが選定される。これら元素は、脱酸のために含有でき、必要に応じて、Ca:0.0005〜0.01%,Mg:0.0005〜0.01%,REM:0.0005〜0.1%の1種類以上を添加する。しかしながら、各上限を超えて添加すると粗大介在物が生成して製造性が低下することとなる。

0047

また、本発明ではその他元素としてP及びSを特定範囲にすることで、熱間加工性や延靭性の観点で調整することも好ましい。その許容範囲として、Pは0.015〜0.045%、Sは0.0001〜0.01%とされるが、必要以上の低減は却ってコストアップの要因となり、逆に多量に含有するものでは、非金属介在物など品質低下の要因ともなる。これら各グループは、各々単独に添加できる他、いずれか2種以上のグループを選択して添加できる。

0048

このように構成された本発明のステンレス鋼線は、例えば前記所定成分組成を有する鋳片を鋳造熱間圧延を行ないロット線材とした後、これを冷間加工又はその工程間に固溶化熱処理を介して繰り返しながら細径化して、目標線径のステンレス鋼線とすることができる。冷間加工には、前記伸線加工や圧延加工を含み、例えば引抜ダイスローラーダイスを用いた連続伸線や、圧延ローラーによる圧延加工が採用されるが、特に最終の固溶化熱処理後の冷間加工では、その総加工率を60〜90%とするとよい。これにより、本発明で規定するマトリックス中の加工誘起α’量及び引張強さを実現することができ、同じく本発明で規定するステンレス鋼線の捻回値や耐力比を実現することができる。好ましくは最終冷間総加工率を65〜85%程度、更に好ましくは70〜83%の比較的抑制した範囲内で行うのがよい。

0049

また、これら冷間加工のより好ましい形態として、例えばその最終仕上げダイス最終ロール入側の鋼線表面温度を70℃以下になるように加工温度を調整し(好ましくは10〜50℃)、最終仕上げダイスまたは最終圧延での加工率を20%以下、好ましくは10%以下にして、表層均一強加工を施すことが好ましい。これにより、耐熱へたり性を更に向上させることが出来る。

0050

最終仕上げダイスの入り側鋼線表面温度と、最終仕上げダイスまたは最終圧延での加工率を制御することで耐熱へたり性が更に向上するメカニズムは、現時点では不明である。但し、本発明者らがこれら条件を制御した場合と、制御しなかった場合の鋼線をそれぞれ時効熱処理し、その時効熱処理後鋼線の表層近傍を観察・比較したところ、上記条件を制御した場合の方が、微細化合物が均一分布していることが分かった。このことから、微細化合物が鋼線表層近傍に、より均一に析出することが、耐熱へたり性の更なる向上に影響していると推測できる。

0051

また、必要ならば線の表面にNiメッキ等を付与して潤滑性を高めることで、歩留り向上することも有効である。
なお、前記加工率とは、その加工に伴う該ステンレス鋼線の横断面面積の変化率で示され、次式で算出される。
加工率(%)={(加工前の断面積−加工後の断面積)/加工前の断面積}×100

0052

[ばね製品製造方法
次に、本発明のばね製品に関する発明を説明すれば、該ばね製品は前記何れか構成のステンレス鋼線によって、例えばコイルばねやトーションばね直線ばねなど種々形状に成形されてなるものであって、更に後記する時効熱処理を施すことでそのばね特性を向上させることができる。そのばね特性は、本発明では前記温間領域で用いられることを前提とすることから、特に環境温度200℃を基準として設定し、その温度における残留剪断ひずみが0.008%以下のものとしている。

0053

ばね特性の耐熱へたり性については、例えば図2に示すように、任意応力(例えば400MPa)に相当する高さまで変形させて、これを所定の環境試験条件で加熱保持した後取り出して、その試験前後におけるばね高さに相当する負荷荷重荷重差を試験前の負荷荷重で除した荷重損失で示すことがある。

0054

しかし、この方法ではその値はばね形状によって異なり、必ずしも標準的ではないことから、本発明では、これに代えて前記残留剪断ひずみ率を用いるもので、またその環境温度も前記するように200℃に設定している。

0055

残留剪断ひずみεとは、所定のばねに対してある一定の荷重又はトルクを加えて変形させ、次に荷重又はトルクを除いたときに残るせん断ひずみ率として定義され、その算出は例えば次式(7)で行われる。すなわち、例えば圧縮コイルばねの場合を説明すれば、図2に示すコイルばねに対して前記所定の圧縮荷重を加えて、ばね高さをSからS1に変位させる。この状態を保持したまま200℃に加熱する。次いで室温に冷却して圧縮荷重を開放する。そして圧縮荷重を開放した時のばね高さをS0とし、ばね高さがS1からS0に復帰したときの荷重を用いて、荷重損失(ΔP)を算出する。具体的には、図2に示す圧縮荷重の負荷されているときのばね高さS1を所定の設定高さとするとき、所定の圧縮荷重で加熱し冷却した後の高さS0のばねと、所定の圧縮荷重で加熱する前の高さSのばねとについて、各々S1の高さまで変位させるのに必要な荷重を所定のばね荷重試験機で測定し、それらの必要な荷重の差を算出し、これを荷重損失(△P)とする。そして、その荷重損失を用いた次式(7)から残留剪断ひずみεが算出される。この残留剪断ひずみεから耐熱へたり性を評価することができる。

0056

残留剪断ひずみε={8△PD/πd3G}×100 ・・・・(7)
但し、△P:荷重損失(N)
D:ばねの中心径(mm)・・・・図2のように、対向する鋼線の中心点同士の離間寸法
d:鋼線の等価線径(mm)
G:鋼線の横弾性係数(N/mm2)(MPa)

0057

該残留剪断ひずみが0.008%以下の優れたばね製品では、その使用時の機能低下を軽減するために従来から行われる、例えばヒートセッチング処理が省略できる利点があり、より好ましい残留剪断ひずみは0.005%以下に設定される。

0058

このようなばね特性をより高めるには、例えば該ばね製品を予め所定温度加熱処理して、ステンレス鋼線の組織内に、特に表層近傍に微細化合物粒子を均一に析出させる時効熱処理を行うことが推奨される。その時効熱処理は、例えば300〜600℃の温度範囲で、好ましくは3分〜10時間程度の加熱時間が設定される。それによって、例えば図3に示すような微細かつ硬質な化合物を形成分布させることができ、結果として本発明で規定する高強度ばねの残留剪断ひずみを実現することができる。形成される化合物析出は、特に前記ステンレス鋼線が強加工されて析出硬化型になるように予め成分調整されておくことが望まれる。

0059

時効熱処理のより好ましい条件としては、例えば次式(3)の時効熱処理因子に示すようにそのばね製品の容積や形態によって、設定温度や加熱時間が関係することからその値が100〜10000、好ましくは150〜3000になるように調整しておくことが望ましい。
時効熱処理因子={温度(℃)×処理時間(min)}/2√{ばねの等価線径(mm)×展開長さ(mm)}・・・(3)
展開長さとは、そのばね製品を構成するステンレス鋼線の全長であって、こうした時効熱処理によってそのマトリックス内に所望の前記化合物の析出を図り、材料特性が向上するものとなる。

0060

その場合、時効熱処理の加熱温度が300℃未満では長時間加熱しても十分な化合物形成が得られず、また600℃を超えると線材が軟化し強度が低下しやすくなるため、より好ましくは400〜580℃程度での処理が推奨される。また、該化合物の形成は加熱時間によってもその析出状態は異なり、粒径や密度が変化することから、少なくとも3分以上の加熱を行うことが好ましい。その状況を含め、前記算式(3)によって適正範囲が設定される。より好ましい適正範囲は、400〜550℃である。

0061

なお、該化合物は非常に微細であることから、上記時効熱処理条件範囲の殆どにおいて、その存在を詳細に規定するのは困難であり、3次元アトムプローブ又は透過型電子顕微鏡にて確認することができる。特に、時効熱処理温度が高く、長時間になるにつれて化合物は徐々に成長するため、上限付近処理条件においては化合物の存在を透過型電子顕微鏡にて確認することが可能となる。

0062

例えば、前記図3は、600℃×30min.の時効熱処理によって得たステンレス鋼線の横断面を高倍率に拡大したもので、マルテンサイトのマトリックス中に平均粒径50nm以下のNiAlによる微細化合物が高い密度で析出しており、また、その電子線回折像では、該化合物はB2構造を備えるものであることも確認されている。なお、その平均粒径は、例えば該回折像の任意観察視野内に確認される各化合物粒子の径の平均値で示され、より最適な粒径は20nm以下である。

0063

図3のa)は、材料の薄膜の透過型電子顕微鏡の明視野像であり、加工誘起マルテンサイト組織の像が示されている。b)は、その領域の回折像(材料の構造をフーリエ変換したもの)を示しており、加工誘起マルテンサイトのBCC構造に加え、d)に示すようなB2構造のNiAlの存在も確認できる。c)は、B2構造のNiAlの析出物のみが映し出された暗視野像を示す。なお、前記化合物粒子は、上述した最終仕上げダイス入り側鋼線表面温度と、最終仕上げダイスまたは最終圧延での加工率を制御することにより、より均一に分布する傾向が見られる。

0064

このように、前記化合物はその加熱温度や加熱条件、鋼線の加工条件や構成元素によって大きく依存し、例えば高温加熱や長時間加熱では反応が促進し、より大型化や密度アップさせることができる。したがって、所望の化合物形成状態が得られるよう、予備試験を行いながら処理することが望ましい。

0065

本発明により得られるばね製品は、高強度で耐熱へたり性に優れることから、従来使用されてきた他のステンレス鋼線やピアノ線などで実施されているばね使用前の予熱調整(ヒートセッチング)工程の省略によるコストダウンが期待でき、前記するようにピアノ線によるものでは特性低下が生じるやや加熱状態の温間域での耐熱ばね用に好適する。また400℃以上の一般高温環境用耐熱用途への応用も見込まれるなど、その活用範囲は拡大する。

0066

以下、本発明の実施例により、更に説明する。

0067

《ステンレス鋼線の製造》
表1に実施例として用いたステンレス鋼の化学成分を示し、あわせて比較材についても併記している。表1、表2とも、本発明範囲から外れ数値アンダーラインを付している。

0068

0069

0070

これらの化学成分の鋼は真空溶解炉にて溶解し、φ178mmの鋳片に鋳造して、その鋳片を熱間鍛造にてφ62mmの棒鋼にした後、更に熱間押出しシミュレーター(1250℃加熱,押出し)でφ10.7mmの線材とした。その後、溶体化処理酸洗を行い、φ5.5mmまで伸線し、線材とした。

0071

そして、これを原材料として冷間伸線加工及び固溶化熱処理を繰り返し行ないながら素線径2.2mmの軟質線に加工した後、最終の冷間伸線加工で線径φ1.0mmの硬質細線にしたもので、最終の総伸線加工率は80%として実施した。また、加工後の鋼線は表面に厚さ1.2μmのNiめっき層が形成され、その最終仕上げの伸線ダイス減面率(加工率)を8〜25%,ダイス入り側鋼線表面温度を0〜80℃に調節し、行なったものである。

0072

本発明に係る実施例材はいずれも問題なく細径加工を行うことができ、引張強さ1800〜2200MPa(N/mm2),耐力比80〜95%,捻回値5回以上の高強度細線が得られ、また加工誘起マルテンサイト量も80〜95vol%を有するものであった。

0073

該引張強さ,0.2%耐力はJIS−Z2241により、またマルテンサイト量は前記[マルテンサイト量の計測]に記載の磁気法によって測定し、捻回値は前記[捻り試験1]、[捻り試験2]記載の方法で測定したもので、その結果を前記表3及び表4に示している。

0074

0075

0076

時効特性の検証》
次に前記各ステンレス鋼線の時効熱処理による特性の変化を見る為に、表1または表2の成分を有する実施例1の最終の伸線加工後の各試料を150mm長さに各々切断したものについて、500℃で30分の時効熱処理を行った。その前記(3)式による時効熱処理因子は612である。

0077

そして、時効熱処理後の鋼線の引張強さ、耐力、耐力比、捻回値、剛性率を評価した。その結果を前記表3および表4に示す。剛性率はねじり振り子法により評価した。

0078

本発明に係る実施例材の時効熱処理した鋼線は、引張強さ2100〜2600MPa、耐力比80〜95%、剛性率77000MPa以上の優れた高強度特性を有するものであった。なお、その任意横断面の顕微鏡観察結果として、図3と同様に平均粒径が3〜10nm程度のNiAl粒子からなる析出化合物が確認できた。

0079

なお、捻回値については、時効熱処理を施した場合は、何れの鋼線においても5回った時点で縦割れを発生した。

0080

《ばね製品の検証》
次に、実施例2の効果を更に検証するため、時効熱処理前の各ステンレス鋼線を用いて各々平均コイル径:7mm,有効捲数:4.5捲,ばね自由長:25mm,展開長さ:100mmの圧縮コイルばねにコイリング加工するとともに、同様に500℃、30分の時効熱処理を施して実際のばね製品における耐熱へたり性を評価した。耐熱へたり性は前記[ばね製品製造方法]記載の方法により200℃で、600MPaの圧縮応力を負荷し96時間保持する条件で行ったものである。

0081

その結果は、前記表3および表4に一覧しており、いずれの実施例材も残留剪断ひずみが0.008%以下で、高強度で耐熱へたり性に優れることが確認された。一方、比較例材では、No.51以外は、いずれも同剪断ひずみ特性は大きく低下するものであり、本発明の効果が認められる。No.51は、残留剪断ひずみは小さいものであったが、強度が不十分であった。

0082

製造性については、線材圧延、伸線加工、ばね加工にて割れ、断線折損が生じた場合は、製造不可として評価した。本発明品では問題なくばね製品まで製造が可能であった。

0083

時効条件の影響》
次に前記ステンレス鋼線およびばね材の時効熱処理条件の影響を見るために、表1の本発明鋼のA,D鋼および表2の比較鋼AP鋼を前記実施例1の《ステンレス鋼線の製造》記載の方法で製造したφ1.0mmの冷間伸線ままの鋼線および前記実施例3の《ばね製品の検証》記載の方法で冷間伸線まま鋼線で製造した時効熱処理前のコイルばねについて、各々温度250〜650℃で2分〜10時間で時効熱処理を実施した。そして、時効熱処理後の鋼線の引張強さ,コイルばねの耐熱へたり性を評価した。その一部結果を表5,図4に示す。

0084

0085

引張強さは特に温度450〜550℃あたりでピークが見られ、600℃ではやや軟化しており、同様に残留剪断ひずみについても、いずれもほぼ0.008%以下の特性が得られているが、600℃辺りまで高めた温度範囲では、その特性がやや低下していることが認められた。また、前記時効熱処理因子が150〜825程度のものでは残留ひずみ特性が0.005%以下で、非常に好ましいものであった。

0086

次に、表1に記載のA,D鋼を実施例1に記載の方法で伸線して採取した、線径φ1.8mmの軟質線材原料材として、表面に金属石鹸潤滑剤を付与して冷間伸線装置によって線径1.0mmの硬質細線への細径加工に続いて、更に多段圧延装置による冷間圧延加工によって、最終的に厚さ0.2mmに押圧し硬質平線を製造した。この圧延加工では、最終仕上げの圧延ロール入側の鋼線表面温度が45℃になるように最適な冷却方法を採用した。

0087

その固溶化熱処理後の総加工率は83%であり、前記多段の冷間圧延加工に伴う材料割れや断線などのトラブルはなく、良好な加工性を持つものであることが確認された。
そして、その平線によるばね製品での特性評価の為に、表面の付着潤滑剤を溶剤除却した後、前記実施例2と同様に500℃で30minの時効熱処理を行ない、その熱処理前後における該平線の特性を評価した。
結果を表6に示す。

0088

実施例

0089

ここで、引張強さは実施例1と同様に引張試験方法により評価した。また残留剪断ひずみ特性は、前記実施例3と同様に温度200℃での特性として、所定長さの該平線の両端に捻り応力を加えて解除したときの戻り角度の変化で評価した。
また、ばねの場合と同様にして、荷重損失や弾性係数、断面積を用いて、平線の残留せん断ひずみを算出した。なお、平線においては、ばねの場合と異なり、荷重損失として、フラットな平線の幅寸法の例えば5〜50倍程度の範囲内で任意に設定される距離を標点距離とし、その両端間所定応力を加えて捻り、加熱保持、開放した平線と、試験当初の平線とについて、各々同じ捻り角度にするのに要する荷重の差を用いた。
この結果に見られるように、該ステンレス鋼の平線は、例えばウエーブスプリング用のばね用材料として使用可能な優れた機械的特性を有している。またその表面性状も微細結晶粒に伴って平滑性に優れた光輝表面が得られ、好ましいものであった。

0090

以上説明のように、本発明に係わるステンレス鋼線を用いた高強度ばねは、いずれもその伸線加工状態で1800〜2200MPaの引張強さとともに加工誘起マルテンサイト量をより増加することで、その後の時効熱処理に伴うばね特性を大きく向上し、高強度かつ耐熱へたり性にも優れることから、これを例えば圧縮引張コイルばね、トーションばね、その他種々のばね用製品に応用され、高強度かつ耐熱へたり性に優れたばね製品として用い得る。

0091

具体的な用途として、例えば自動車エンジン周り電装系等の加温状態の温間領域で用いられるばね製品をはじめ、家電製品用途の耐熱ばね用への応用が好適するが、これ以外においても、例えば、耐熱高温領域で用いられる高強度ロープ用、耐熱シャフト用、耐熱ピン用など種々の高強度耐熱特性の線状製品にも利用可能であり、産業上有用である。

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