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技術 耐剥離性および耐衝撃疲労特性に優れた歯車

出願人 株式会社神戸製鋼所
発明者 藤田学土田武広
出願日 2012年3月30日 (9年6ヶ月経過) 出願番号 2012-083110
公開日 2013年10月17日 (8年0ヶ月経過) 公開番号 2013-213245
状態 特許登録済
技術分野 歯車・カム 物品の熱処理
主要キーワード 防護膜 断面平均 負荷環境 耐力向上 球状化処理後 高周波加熱後 ベイナイト形成 逃げ面磨耗
関連する未来課題
重要な関連分野

この項目の情報は公開日時点(2013年10月17日)のものです。
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課題

浸炭の代わりに高周波熱処理を適用して製造される歯車であって、製造時に良好に歯切加工を行うことのできる、耐剥離性および耐衝撃疲労特性に優れた歯車を提供する。

解決手段

C:0.40〜0.60%、Si:0.70超〜1.50%、Mn:1.20〜2.0%、P:0.03%以下(0%を含まない)、S:0.03%以下(0%を含まない)、Cr:0.01〜0.50%、Al:0.15〜0.50%、B:0.0020〜0.0100%、およびN:0.010%以下(0%を含まない)を満たし、残部が鉄及び不可避不純物であり、表面が高周波焼入れにより硬化されたものであって、内部組織が、フェライトパーライト組織であり、かつフェライト分率が10面積%以下であり、更に、内部硬さがHV300以上であり、かつ300℃で2時間焼戻し後表層硬さがHV680以上であることを特徴とする耐剥離性および耐衝撃疲労特性に優れた歯車。

概要

背景

近年、地球環境保全の観点から、CO2の大幅低減が可能な高周波熱処理が着目されている。歯車の製造においても、現状では長時間の加熱が必要な浸炭表面硬化のために行われているが、この浸炭に代えて高周波熱処理(高周波焼入れ)を適用することが検討されている。高周波熱処理は、短時間加熱急冷が可能であるため、上記浸炭の代わりに高周波熱処理を適用できれば、上記CO2の大幅な低減だけでなく、熱処理時間の大幅低減も実現できる。更には、熱処理ひずみが低減されて、仕上げ加工の低減や廃止も可能となるため、大幅なコストダウンを期待できる。

しかしながら、高周波焼入れを歯車の製造(表面硬化)に適用する場合、以下の問題がある。即ち、従来の浸炭工程では、浸炭により高い表面硬さを確保できるため、低炭素鋼熱処理用材料として用いることができるのに対し、高周波焼入れで浸炭部品浸炭歯車)並みの表面硬さを確保するには、熱処理用材料として中炭素鋼を用いる必要がある。しかし中炭素鋼は、低炭素鋼よりも硬いため、高周波焼入れ前に行う歯切加工(歯車へ加工するための切削)が困難であるといった問題がある。

これまでに、高周波熱処理が行われ、かつ切削性を考慮する必要がある鋼部品として、等速ジョイント用のアウターレースシャフトなどが挙げられる。例えば特許文献1や特許文献2には、切削性を高めるために、快削成分(低融点元素のS、Pb、Te、Se、Biなど)を添加することが示されている。この方法では、良好な切削性を確保することはできるが、形成される介在物の異方性に起因して曲げ疲労特性劣化する場合があるため、自動車変速機等の負荷環境の厳しい歯車への適用は困難である。

一方、上記快削成分を加えることなく、鋼材自体の軟化により切削性を向上させるべく、中炭素鋼の範囲内においてC量を極力低減させると、高周波焼入れ後表層硬さ及び内部硬さが低下することから、一般の浸炭歯車並みの強度すら得られない場合がある。Cと同様の効果を有するMnやCrを低減させた場合も同様の問題が生じる。例えば、特許文献3〜5では、機械構造用鋼の切削性や熱間加工性を高めた技術が示されているが、いずれもMn量Cr量が適切でないため、高周波焼入れを行っても歯車として機能する十分な硬さを確保できない。

ところで、地球環境保全の観点から自動車燃費向上を目的に、歯車の小型化も指向されている。歯車が小型化されると、歯の噛み合い面積が減少するため、歯車への負荷が増加し、歯車使用時に歯面が300℃程度にまで発熱して表層硬さが低下し、その結果、歯面の剥離寿命が低下するといった問題がある。よって、歯車には耐剥離性に優れていることが要求される。

耐剥離性を向上させるには、歯面の300℃程度(歯車摺動時の発熱温度)での表層硬さ低下を防止する必要があり、その手段として、例えば表層に炭化物を多量に生成させるべく高濃度浸炭を行うこと(例えば特許文献6)や、窒化物活用した浸炭窒化を行うこと(例えば特許文献7)、また、Siを多く添加する技術(例えば特許文献8)が提案されている。

しかしながら、浸炭や浸炭窒化では製造時のCO2削減を図ることができず、また高周波処理を適用できる鋼種であってSiを高めたものは、Siによる固溶硬化により、歯切加工性を確保することが困難である。

また、歯のモジュールサイズの小型化から歯全体の負荷が高まっており、この負荷の増加に耐えうる優れた耐衝撃疲労特性も、歯車に求められている。

上記耐衝撃疲労特性を向上させるには、一般的に、断面平均硬さ(歯車全体の硬さ)を向上させることが有効であるといわれている。その理由は次の通りである。即ち、衝撃疲労は、塑性変形が生じるような衝撃的な大きい負荷が繰り返し付与された場合に疲労破壊する現象であり、そのメカニズムは、前記大きな負荷が歯車に付与されることで、歯車の表層から内部に至って塑性変形が生じ、塑性変形量の増大に伴い割れが形成されて破損に至る、というものであり、上記塑性変形量を低減させるには、歯車全体の硬さを高めることが有効だからである。この断面平均硬さを高めるには、本質的に内部硬さを高めることが効果的である。なぜなら、断面における表面硬化層極表層であるため断面平均硬さ向上への寄与が小さく、結局のところ、断面平均硬さ≒内部硬さであり、断面平均硬さの向上は本質的に内部硬さの向上が有効だからである。

上記断面平均硬さ(内部硬さ)を向上させる手段として、Cr、Mn、Bなどの焼入れ性向上元素を添加する方法が提案されているが、この方法は詳細には、上記成分を添加し焼入れにより組織ベイナイト化することによって、硬さ向上を図るものである。この技術では、硬さ特性は向上するが、硬さの上昇に応じた耐衝撃疲労特性の向上が得られない場合がある。その理由として、上記技術では、ベイナイトを積極的に形成するものであるが、降伏現象を示さないベイナイトが増加すると、耐衝撃疲労特性の向上に本質的に有効な、耐力向上(塑性変形量の低減)を達成できないからである。

以上のことから、歯車製造時において、浸炭の代わりに高周波熱処理を適用して製造され、かつ良好に歯切加工を行うことのできる歯車であって、歯面や歯全体への負荷環境の厳しい例えば自動車変速機に適用した場合であっても、優れた耐衝撃疲労特性と耐剥離性を発揮する歯車が求められている。

概要

浸炭の代わりに高周波熱処理を適用して製造される歯車であって、製造時に良好に歯切加工を行うことのできる、耐剥離性および耐衝撃疲労特性に優れた歯車を提供する。C:0.40〜0.60%、Si:0.70超〜1.50%、Mn:1.20〜2.0%、P:0.03%以下(0%を含まない)、S:0.03%以下(0%を含まない)、Cr:0.01〜0.50%、Al:0.15〜0.50%、B:0.0020〜0.0100%、およびN:0.010%以下(0%を含まない)を満たし、残部が鉄及び不可避不純物であり、表面が高周波焼入れにより硬化されたものであって、内部組織が、フェライトパーライト組織であり、かつフェライト分率が10面積%以下であり、更に、内部硬さがHV300以上であり、かつ300℃で2時間焼戻し後の表層硬さがHV680以上であることを特徴とする耐剥離性および耐衝撃疲労特性に優れた歯車。なし

目的

本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、高周波熱処理を適用するために中炭素鋼を用いることを前提に、製造段階において優れた歯切加工性を発揮し、かつ、耐剥離性に優れると共に、耐衝撃疲労特性にも優れて、歯面・歯全体への負荷が厳しい環境(例えば自動車変速機)で用いることのできる歯車を実現することにある

効果

実績

技術文献被引用数
2件
牽制数
0件

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請求項1

C:0.40〜0.60%(質量%を示す。化学成分について以下同じ)、Si:0.70超〜1.50%、Mn:1.20〜2.0%、P:0.03%以下(0%を含まない)、S:0.03%以下(0%を含まない)、Cr:0.01〜0.50%、Al:0.15〜0.50%、B:0.0020〜0.0100%、およびN:0.010%以下(0%を含まない)を満たし、残部が鉄及び不可避不純物であり、表面が高周波焼入れにより硬化されたものであって、内部組織が、フェライトパーライト組織であり、かつフェライト分率が10面積%以下であり、更に、内部硬さがHV300以上であり、かつ300℃で2時間焼戻し後表層硬さがHV680以上であることを特徴とする耐剥離性および耐衝撃疲労特性に優れた歯車

請求項2

更に他の元素として、Mo:0.80%以下(0%を含まない)を含む請求項1に記載の歯車。

請求項3

更に他の元素として、Cu:0.80%以下(0%を含まない)、および/または、Ni:0.80%以下(0%を含まない)を含む請求項1または2に記載の歯車。

請求項4

更に他の元素として、Ca:0.005%以下(0%を含まない)、および/または、Mg:0.005%以下(0%を含まない)を含む請求項1〜3のいずれかに記載の歯車。

技術分野

0001

本発明は、耐剥離性および耐衝撃疲労特性に優れた歯車に関するものであり、特には、従来行われてきた浸炭の代わりに高周波熱処理を適用して製造される歯車であって、製造時に良好に歯切加工を行うことのできる、耐剥離性および耐衝撃疲労特性に優れた歯車に関するものである。

背景技術

0002

近年、地球環境保全の観点から、CO2の大幅低減が可能な高周波熱処理が着目されている。歯車の製造においても、現状では長時間の加熱が必要な浸炭が表面硬化のために行われているが、この浸炭に代えて高周波熱処理(高周波焼入れ)を適用することが検討されている。高周波熱処理は、短時間加熱急冷が可能であるため、上記浸炭の代わりに高周波熱処理を適用できれば、上記CO2の大幅な低減だけでなく、熱処理時間の大幅低減も実現できる。更には、熱処理ひずみが低減されて、仕上げ加工の低減や廃止も可能となるため、大幅なコストダウンを期待できる。

0003

しかしながら、高周波焼入れを歯車の製造(表面硬化)に適用する場合、以下の問題がある。即ち、従来の浸炭工程では、浸炭により高い表面硬さを確保できるため、低炭素鋼熱処理用材料として用いることができるのに対し、高周波焼入れで浸炭部品浸炭歯車)並みの表面硬さを確保するには、熱処理用材料として中炭素鋼を用いる必要がある。しかし中炭素鋼は、低炭素鋼よりも硬いため、高周波焼入れ前に行う歯切加工(歯車へ加工するための切削)が困難であるといった問題がある。

0004

これまでに、高周波熱処理が行われ、かつ切削性を考慮する必要がある鋼部品として、等速ジョイント用のアウターレースシャフトなどが挙げられる。例えば特許文献1や特許文献2には、切削性を高めるために、快削成分(低融点元素のS、Pb、Te、Se、Biなど)を添加することが示されている。この方法では、良好な切削性を確保することはできるが、形成される介在物の異方性に起因して曲げ疲労特性劣化する場合があるため、自動車変速機等の負荷環境の厳しい歯車への適用は困難である。

0005

一方、上記快削成分を加えることなく、鋼材自体の軟化により切削性を向上させるべく、中炭素鋼の範囲内においてC量を極力低減させると、高周波焼入れ後表層硬さ及び内部硬さが低下することから、一般の浸炭歯車並みの強度すら得られない場合がある。Cと同様の効果を有するMnやCrを低減させた場合も同様の問題が生じる。例えば、特許文献3〜5では、機械構造用鋼の切削性や熱間加工性を高めた技術が示されているが、いずれもMn量Cr量が適切でないため、高周波焼入れを行っても歯車として機能する十分な硬さを確保できない。

0006

ところで、地球環境保全の観点から自動車燃費向上を目的に、歯車の小型化も指向されている。歯車が小型化されると、歯の噛み合い面積が減少するため、歯車への負荷が増加し、歯車使用時に歯面が300℃程度にまで発熱して表層硬さが低下し、その結果、歯面の剥離寿命が低下するといった問題がある。よって、歯車には耐剥離性に優れていることが要求される。

0007

耐剥離性を向上させるには、歯面の300℃程度(歯車摺動時の発熱温度)での表層硬さ低下を防止する必要があり、その手段として、例えば表層に炭化物を多量に生成させるべく高濃度浸炭を行うこと(例えば特許文献6)や、窒化物活用した浸炭窒化を行うこと(例えば特許文献7)、また、Siを多く添加する技術(例えば特許文献8)が提案されている。

0008

しかしながら、浸炭や浸炭窒化では製造時のCO2削減を図ることができず、また高周波処理を適用できる鋼種であってSiを高めたものは、Siによる固溶硬化により、歯切加工性を確保することが困難である。

0009

また、歯のモジュールサイズの小型化から歯全体の負荷が高まっており、この負荷の増加に耐えうる優れた耐衝撃疲労特性も、歯車に求められている。

0010

上記耐衝撃疲労特性を向上させるには、一般的に、断面平均硬さ(歯車全体の硬さ)を向上させることが有効であるといわれている。その理由は次の通りである。即ち、衝撃疲労は、塑性変形が生じるような衝撃的な大きい負荷が繰り返し付与された場合に疲労破壊する現象であり、そのメカニズムは、前記大きな負荷が歯車に付与されることで、歯車の表層から内部に至って塑性変形が生じ、塑性変形量の増大に伴い割れが形成されて破損に至る、というものであり、上記塑性変形量を低減させるには、歯車全体の硬さを高めることが有効だからである。この断面平均硬さを高めるには、本質的に内部硬さを高めることが効果的である。なぜなら、断面における表面硬化層極表層であるため断面平均硬さ向上への寄与が小さく、結局のところ、断面平均硬さ≒内部硬さであり、断面平均硬さの向上は本質的に内部硬さの向上が有効だからである。

0011

上記断面平均硬さ(内部硬さ)を向上させる手段として、Cr、Mn、Bなどの焼入れ性向上元素を添加する方法が提案されているが、この方法は詳細には、上記成分を添加し焼入れにより組織ベイナイト化することによって、硬さ向上を図るものである。この技術では、硬さ特性は向上するが、硬さの上昇に応じた耐衝撃疲労特性の向上が得られない場合がある。その理由として、上記技術では、ベイナイトを積極的に形成するものであるが、降伏現象を示さないベイナイトが増加すると、耐衝撃疲労特性の向上に本質的に有効な、耐力向上(塑性変形量の低減)を達成できないからである。

0012

以上のことから、歯車製造時において、浸炭の代わりに高周波熱処理を適用して製造され、かつ良好に歯切加工を行うことのできる歯車であって、歯面や歯全体への負荷環境の厳しい例えば自動車変速機に適用した場合であっても、優れた耐衝撃疲労特性と耐剥離性を発揮する歯車が求められている。

先行技術

0013

特許第3579879号公報
特開平11−269601号公報
特開2011−256447号公報
特開2011−80100号公報
特開2010−280973号公報
特開2004−285384号公報
特開2010−070831号公報
特開平6−158266号公報

発明が解決しようとする課題

0014

本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、高周波熱処理を適用するために中炭素鋼を用いることを前提に、製造段階において優れた歯切加工性を発揮し、かつ、耐剥離性に優れると共に、耐衝撃疲労特性にも優れて、歯面・歯全体への負荷が厳しい環境(例えば自動車変速機)で用いることのできる歯車を実現することにある。

課題を解決するための手段

0015

上記課題を解決し得た本発明の耐剥離性および耐衝撃疲労特性に優れた歯車は、
C:0.40〜0.60%、
Si:0.70超〜1.50%、
Mn:1.20〜2.0%、
P:0.03%以下(0%を含まない)、
S:0.03%以下(0%を含まない)、
Cr:0.01〜0.50%、
Al:0.15〜0.50%、
B:0.0020〜0.0100%、および
N:0.010%以下(0%を含まない)
を満たし、残部が鉄及び不可避不純物であり、表面が高周波焼入れにより硬化されたものであって、内部組織が、フェライトパーライト組織であり、かつフェライト分率が10面積%以下であり、更に、内部硬さがHV300以上であり、かつ300℃で2時間焼戻し後の表層硬さがHV680以上であるところに特徴を有する。

0016

上記歯車は、更に他の元素として、
(a)Mo:0.80%以下(0%を含まない)や、
(b)Cu:0.80%以下(0%を含まない)、および/または、Ni:0.80%以下(0%を含まない)、
(c)Ca:0.005%以下(0%を含まない)、および/または、Mg:0.005%以下(0%を含まない)
を含んでいてもよい。

発明の効果

0017

本発明によれば、歯車の成分組成、組織および硬さ特性を適切に調整しているので、高硬度であって表層の300℃焼戻し硬さが高く優れた耐剥離性と耐衝撃疲労特性を示す、歯面への負荷が厳しい環境で使用できる歯車(例えば自動車変速機に使用される歯車)が得られる。また製造時に優れた歯切加工性を発揮するので、本発明の歯車を良好に製造することができる。

0018

詳細には、本発明の歯車は、一般の浸炭歯車以上の耐衝撃疲労特性を示すと共に、一般浸炭歯車以上の耐剥離性(表層300℃焼戻し硬さ)を示す。また、一般中炭素鋼の焼ならし品よりも歯切の工具磨耗量を1/2以下に低減できる。

0019

更に歯車製造工程において、浸炭の代わりに高周波熱処理を行うので、従来の浸炭歯車の製造方法よりも、CO2の排出を大幅に低減でき、かつ熱処理時間を大幅に低減でき、更には、熱処理ひずみが低減されて仕上げ加工の廃止も可能となるため、大幅なコストダウンを期待できる。

0020

上述した通り高周波焼入れで歯車の表層硬さを確保するには、Cを中炭素鋼レベルとする必要があり、また歯車の内部硬さ確保のためにはCrとMnを後述する通り一定以上含有させることが有効であり、更に、耐剥離性と耐衝撃疲労特性(特に断面平均硬さ、内部硬さ)を向上させるには、Siの添加が有効であることを見出した。

0021

以下、耐剥離性と耐衝撃疲労特性の両特性確保に、Si添加が有効であることを詳述する。

0022

上述した通り、耐剥離性を向上させるには、歯面の300℃程度(歯車摺動時の発熱温度)での表層硬さ低下を防止する必要がある。本発明では、Siを含有させることによって、高周波焼入れにより表層に形成されたマルテンサイト組織の、摺動発熱温度域(約300〜400℃)での組織の回復遅延され、その結果、上記発熱による表層硬さの低下を抑制することができる。

0023

また、耐衝撃疲労特性を効果的に高めるには、上述の通り、ベイナイト形成に頼らず断面平均硬さを高めることが有効であり、そのためには、鋼組織において、ベイナイト等の過冷組織を極力低減してフェライト−パーライト組織とし、かつ、降伏現象を示すフェライト組織の、硬さを高めることが有効な手段であると考える。

0024

そこで本発明者らは、上記フェライト組織の硬さ向上手段としても、Siを積極的に用いることとした。Siはフェライト強化元素であるので、内部組織の初析フェライトパーライト組織中のフェライトの固溶強化を図ることができ、内部硬さを向上することができる。その結果、断面平均硬さを高めることができ、耐衝撃疲労特性の向上を実現することができる。

0025

本発明において、Siによるこれらの効果を十分発揮させるには、Si量を0.70%超とする必要がある。好ましくは0.80%以上、より好ましくは0.95%以上である。

0026

この様にSiを多く含有させることによって、耐剥離性の向上に加え、ベイナイト形成に頼らず内部硬さを向上できるため、耐衝撃疲労特性も大きく向上させることができる。

0027

しかし、上述の通りSiはフェライトの固溶強化元素であるため、高Si含有鋼は、十分な歯切加工性の確保が難しい。歯切加工性を確保する手段として、歯切加工前に球状化処理を実施して軟化させることが考えられるが、上記高Si含有鋼の場合、球状化処理により軟化させても、良好に歯切加工を行うことができない。

0028

そこで、耐剥離性と耐衝撃疲労特性の両特性を高めた高Si含有中炭素鋼の、歯切加工性を向上すべく鋭意研究を行った結果、歯切加工前に球状化処理を行うことを前提に、成分組成において、Alを積極的に用い、かつTiとZrは用いずにBを一定量以上含むようにすることが大変有効であることが分かった。

0029

以下、これらの元素について詳述する。

0030

まず本発明ではAlを積極的に含有させることによって、固溶したAlが歯切加工時に工具へ付着し、付着したAlが酸化保護膜となり、工具の酸化磨耗を抑制するため、歯切加工性を大幅に向上することができる。この様に本発明では、Alを多く含有させて歯切加工性を大幅に改善させる観点から、Al量を0.15%以上とする。好ましくは0.17%以上であり、より好ましくは0.20%以上である。

0031

しかしながら、Alを上記の通り比較的多く含む場合、AlNが粒界に生成しやすく、またAlNは粒界強度を低下させるため、熱間鍛造性熱間延性)の低下を招き、歯車加工工程における熱間鍛造時に割れが生じる場合がある。

0032

このAlNの粒界析出を防止するには、Nを極力低減することが有効であるが、Nを0%にすることは不可能である。そのため、AlよりもNと結合しやすい元素を添加し窒化物を形成させて、AlNの析出を防止することが有効である。

0033

上記AlよりもNと結合しやすい元素として、Ti、Zr、B等が挙げられるが、TiやZrを用いた場合、窒化物を形成する一方でO(酸素)とも結合し、硬質酸化物系介在物が形成され、この介在物が歯切加工性(切削性)低下の原因となる。これに対しBは、歯切加工性に有害な硬質の介在物を形成しない(即ち、歯切加工性を低下させない元素である)。また、一般的に知られている通り(例えば特許第4500709号公報を参照)、形成されるBNは、切削性(歯切加工性)を高める効果も有する。更に、BNは異方性による強度低下が生じにくいことも分かっている。

0034

Bは、一般的に、焼入性の大幅向上を目的に用いられることの多い元素であるが、本発明では上述の通り、AlよりもNとの結合力が高いことを利用し、BNを形成することで、AlNの生成防止を図っている。そしてこの効果を得るには、B量を0.0020%以上とする必要がある。好ましくは0.0025%以上、より好ましくは0.0030%以上である。尚、Bが過剰に含まれると、AlN生成防止に作用しきれなかった余剰のBが焼入れ性を高め、球状化炭化物の全量固溶を目的とする高周波加熱後放冷時に、ベイナイトが生成するため、フェライト強化による衝撃疲労強度向上効果を十分発揮できない。また、上記ベイナイトが生成すると高周波焼入れ後の内部硬さのバラつき等も招く。

0035

よって本発明では、B量は、基本的には固溶Nを固着できるだけの量となるよう調整する。この観点から、B量の上限を0.0100%とする。好ましくは0.0070%以下、より好ましくは0.0060%以下である。

0036

尚、Al量が過剰であると、適量のBを含有させてAlNの析出を防止できたとしても、Al単独の粒界偏析により粒界が脆化し、熱間鍛造性が劣化して割れが生じる。よってAl量は0.50%以下とする。好ましくは0.30%以下、より好ましくは0.25%以下である。

0037

尚、Si量が1.50%を超えると、上述の通りAl、B等の成分組成を調整し、かつ歯切加工前に球状化焼鈍を行っても、Siによるフェライト固溶強化により鋼材が硬いままであり、良好に歯切加工を行うことができない。よって、Si量は1.50%以下とする。好ましくは1.30%以下、より好ましくは1.25%以下である。

0038

以下、上記以外の成分について説明する。

0039

[C:0.40〜0.60%]
Cは、部品として必要な表層硬さや内部硬さを確保する上で重要な元素であり、0.40%未満では上記硬さが不足し、部品としての強度が不足する。その結果、耐剥離性と耐衝撃疲労特性のどちらも十分に向上させることが難しくなるばかりか、強度を要求される歯車として成立できない。よって本発明では、C量を0.40%以上とする。好ましくは0.45%以上、より好ましくは0.48%以上である。しかしC量が多すぎても、硬さ向上の効果は飽和する。またC量が多すぎると、球状化焼鈍後セメンタイトが粗大化するため、所定量のAlを含有させても、十分な歯切加工性を確保できない。よってC量は、0.60%以下とする。好ましくは0.58%以下であり、より好ましくは0.55%以下である。

0040

[Mn:1.20〜2.0%]
Mnは、焼入性を著しく向上させることから、内部硬さの向上(即ち、耐衝撃疲労特性の向上)に寄与する元素である。よってMn量は1.20%以上とする。好ましくは1.22%以上、より好ましくは1.25%以上である。しかしMnは、Ms点を低下させる元素であるため、過剰に含まれると、表層組織における残留γ量が過剰になり、高周波焼入れ後の表面硬さを確保することができない。また、Mnは焼入れ性向上元素であるため、過剰に含まれるとベイナイトが生成され、耐衝撃疲労特性を十分に向上させることができない。更に、ベイナイトが生成すると内部硬さがバラつき易くなる。よって、Mn量は2.0%以下とする。好ましくは1.50%以下、より好ましくは1.45%以下である。

0041

[P:0.03%以下(0%を含まない)]
Pは、鋼材中不可避的に含まれる元素であり、結晶粒界偏析して部品(歯車)の衝撃特性を低下させる元素であるため、極力低減する方が好ましい。そのため上限を0.03%とした。P量は、好ましくは0.020%以下、より好ましくは0.015%以下である。

0042

[S:0.03%以下(0%を含まない)]
Sも、鋼材中に不可避的に含まれる元素であり、Mnと結合してMnS介在物を生成し、部品(歯車)の疲労強度衝撃強度を低下させるため、極力低減する方が好ましい。そのため上限を0.03%とした。S量は、好ましくは0.025%以下である。

0043

[Cr:0.01〜0.50%]
Crは、パーライト組織中のセメンタイトを、母相へ固溶させ難くする元素である。このCrが多く含まれると、高周波焼入れ時にセメンタイトの溶け残りが生じ易い。セメンタイトの溶け残りがあると、所望の硬さが得られないだけでなく、このセメンタイトを起点とする破壊を招く。またCr量が多過ぎる場合には、ベイナイトが生じやすく、耐衝撃疲労特性を十分に向上させることができない。これらの観点から、Cr量の上限を0.50%とした。Cr量は、好ましくは0.30%以下、より好ましくは0.20%以下である。しかしながらCrは、鋼材の焼入れ性を高める元素であり、内部硬さを確保するには、Cr量を0.01%以上とする必要がある。好ましくは0.05%以上、より好ましくは0.10%以上である。

0044

[N:0.010%以下(0%を含まない)]
Nは、鋼材に不可避的に含まれる元素であり、Alと結合した場合、AlNとなり結晶粒界に析出する。上述した通り、AlNが粒界に多く析出すると、熱間での粒界強度が著しく低下し、熱間鍛造性を低下させる。よってN量は、極力低減する必要があり、0.010%以下とする。好ましくは0.008%以下、より好ましくは0.006%以下である。

0045

本発明の歯車の成分は上記の通りであり、残部は鉄および(上記P、SおよびNを含む)不可避不純物からなるものである。上記不可避不純物として鋼材に含まれるTiとZrは、上述した通り、Nとの結合力がAlよりも高いことから、AlNの生成を防止できる一方、Oとも結合し易い元素である。Oと結合した場合には硬質な介在物を形成するため、歯切加工性を低下させる。よって、本発明ではTiとZrをそれぞれ0.004%以下に抑える。好ましくはそれぞれ0.002%未満であり、より好ましくはそれぞれ0.001%未満である。

0046

上記元素に加えて更に、下記に示す元素を適量含有させることにより、更なる特性の向上を図ることができる。以下、これらの元素について詳述する。

0047

[Mo:0.80%以下(0%を含まない)]
Moは、焼入性を著しく向上させる効果を有すると共に、靭性の向上に有効な元素である。これらの効果を発揮させるには、0.1%以上含有させることが好ましく、より好ましくは0.15%以上である。しかし、Mo量が過剰になっても効果は飽和し、コストアップを招くだけである。またMoが過剰に含まれていると、ベイナイトが形成されて、フェライト強化による衝撃疲労強度の向上効果を発揮させることができない。また、ベイナイトが生成すると内部硬さがバラつき易くなる。よって、Mo量は0.80%以下とすることが好ましい。より好ましくはそれぞれ0.6%以下であり、更に好ましくはそれぞれ0.3%以下である。

0048

[Cu:0.80%以下(0%を含まない)、および/または、Ni:0.80%以下(0%を含まない)]
Cu、Niも、焼入性を著しく向上させる効果を有すると共に、靭性の向上に有効な元素である。これらの効果を発揮させるには、Cuを0.1%以上(より好ましくは0.15%以上)含有させることが好ましく、Niを0.1%以上(より好ましくは0.15%以上)含有させることが好ましい。

0049

しかしこれらの元素を過剰に含有させても効果は飽和し、コストアップを招く。また、これらの元素が過剰に含まれていると、ベイナイトが形成されて、フェライト強化による衝撃疲労強度の向上効果を発揮させることができない。また、ベイナイトが生成すると内部硬さがバラつき易くなる。よってCuとNiは、それぞれ0.80%以下とすることが好ましい。より好ましくはそれぞれ0.6%以下であり、更に好ましくはそれぞれ0.3%以下である。

0050

[Ca:0.005%以下(0%を含まない)、および/または、Mg:0.005%以下(0%を含まない)]
CaとMgは、酸化物系介在物を形成して歯切加工性を向上させる元素であり、必要に応じて鋼に含有させても良い。上記効果を得るには、Ca、Mgいずれの場合も、好ましくは0.0001%以上、より好ましくは0.001%以上含有させるのがよい。しかしこれらの元素が過剰に含まれると、大型の介在物が形成されて歯車強度が低下するため、それぞれ0.005%以下とすることが好ましい。より好ましくは、それぞれ0.003%以下である。

0051

本発明の歯車の内部組織は、フェライトとパーライトからなる組織であり、ベイナイトを含まない。ベイナイトには降伏現象が認められず、効果的な耐力向上を図ることができない。また、ベイナイトが存在すると、フェライト強化による衝撃疲労強度の向上効果を発揮させることができず、耐衝撃疲労特性を十分に向上させることができない。更に、内部硬さのバラつきの原因にもなるため好ましくない。

0052

尚、歯車として機能しうる硬さを確保するため、内部組織におけるフェライトの分率は10面積%以下とする。フェライト分率は、好ましくは8面積%以下である。

0053

本発明における歯車は次の方法で得ることができる。即ち、一般的に行われている方法で溶製、鋳造分塊圧延を行った後、熱間圧延を行い、次いで熱間鍛造してから放冷する。その後、球状化焼鈍を行ってから歯切加工を行う。次いで、A3変態点以上で加熱して放冷後、高周波焼入れして得ることができる。

0054

以下、各工程について説明する。

0055

上記熱間圧延、および熱間鍛造は、一般的に行われている条件を採用することができる。尚、熱間鍛造後の放冷は、1200℃から600℃までの平均冷却速度を30〜90℃/分とすることが挙げられる。

0056

球状化焼鈍も一般的な条件を採用することができる。優れた歯切加工性を確保するための条件として、加熱温度焼鈍温度)710〜760℃、加熱時間(焼鈍時間)4〜8h、焼鈍後の室温までの平均冷却速度5〜20℃/hの範囲内とすることが挙げられる。

0057

本発明は、球状化焼鈍後に歯切加工を一般的な条件で行い、次いで、A3変態点以上に加熱する。この加熱の目的は、球状化処理後(歯切加工後)は内部硬さが低いため、この加熱により球状化炭化物を全量固溶させ、放冷することにより、所望のフェライト−パーライト組織を得ることにある。

0058

上記加熱の条件は、球状化炭化物を固溶させ、脱炭スケール生成が最小となる条件であれば限定されない。また、加熱方法についても特に限定されないが、浸炭に代えて高周波熱処理を行い、CO2の大幅低減を図ることに鑑みれば、該加熱も、高周波加熱とすることが好ましく、この場合、加熱条件として、例えば1000〜1300℃で3〜8分高周波加熱することが挙げられる。

0059

上記加熱後の放冷は、平均冷却速度を、例えば30〜90℃/分とすることが挙げられる。上記加熱後に放冷して得られる内部組織は、上述した歯車の内部組織に相当するものであり、フェライトとパーライトからなる組織であって、ベイナイトを含まない。上記放冷時の冷却速度が速い場合や合金成分が多い場合には、ベイナイトが生成しやすいが、このベイナイトが存在すると、後述する高周波焼入れにおいて、加熱時のCの溶け込みが均一にならず、高周波焼入れ後に内部硬さのバラつきが生じ易くなる。

0060

上記放冷後は、表面硬化のために、高周波焼入れを行う。該高周波焼入れの条件は、得られる歯車の表層硬さをHV730以上、かつ内部硬さをHV300以上にできる条件であればよい。

0061

以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。

0062

表1または表2に示す化学成分を有する鋼塊溶解炉にて作製後、1100℃で圧延して形状がφ80mm×L3000mmの圧延材を得た。この圧延材を用い、1200℃で熱間鍛造して放冷し、形状がφ20mm×L1000mmの鍛造品と、形状がW110mm×L155mm×T30mmの鍛造品を得た。熱間鍛造後の放冷速度は、1200℃から600℃までを平均冷却速度30〜90℃/分で冷却した。そしてこの鍛造品に球状化処理を施した。球状化処理条件は、加熱温度710〜760℃、加熱時間4〜8h、焼鈍後の室温までの平均冷却速度5〜20℃/hから選択し、JIS G3507−2記載の球状化組織の程度がNo.3以上となる組織とした。

0063

得られた鋼材を用いて、表面硬さと内部硬さの測定(耐衝撃疲労特性の評価)、耐剥離性の評価、鋼組織の測定、および歯切加工性の評価を行った。

0064

尚、表1および表2中「−」は、該当元素を添加していないこと(無添加)を意味する。更に、表1および表2におけるTiとZrの値「<0.000」は、定量下限を下回っていることを表している。

0065

0066

0067

[表面硬さと内部硬さの測定(耐衝撃疲労特性の評価)]
硬さ調査試験片は、下記の通り用意した。即ち、上記熱間鍛造および球状化焼鈍を行った上記形状がφ30mm×L1000mmの球状化焼鈍材を、φ20mm×L100mmに切削加工した鋼材をまず用意した。

0068

そして上記鋼材に対し、歯車の製造を模擬して次の処理を行った。即ち、球状化炭化物を全量固溶させフェライト−パーライト組織を得る目的で、A3変態点以上での加熱(本実施例では、高周波加熱(1150℃で5分加熱))を行い、その後、放冷した。この放冷は、1150℃から600℃の間を、表3または表4に示す平均冷却速度で冷却した。

0069

次いで再度、高周波加熱で表層のみ加熱し、焼入れ(温度1050℃、水冷ポリアルキレングリコール系を含む)、有効硬化層深さ1.4mm)を行って、硬さ調査試験片を得た。

0070

上記硬さ調査試験片を用いて、以下の通り硬さ測定を行った。即ち、硬さ調査試験片(高周波焼入れ品)のL/2位置を長さ方向に対して垂直に切断した後、切断面を観察できるように樹脂に埋め込み、表層から50μm位置のビッカース硬さ(表層硬さ)と、表層から5mm位置のビッカース硬さ(内部硬さ)を測定した。

0071

そして、表層硬さ(初期硬さ)は、一般浸炭品と同等レベル以上であるHV730以上を合格とした。

0072

また本発明において、内部硬さが一般浸炭品以上のレベルであるHV300以上であり、かつ、下記の鋼組織の観察において、内部組織にベイナイト(B)が含まれていない場合を、耐衝撃疲労特性に優れると評価した。

0073

[耐剥離性の評価]
上記硬さ調査試験片を300℃で2時間焼き戻したものを用い、表層から50μm位置のビッカース硬さ(表層300℃焼戻し硬さ)を測定した。

0074

そして、この表層300℃焼戻し硬さがHV680以上である場合を、耐剥離性に優れると評価した。

0075

[鋼組織の観察]
上記硬さ調査試験片(高周波焼入れ前)にて内部硬さの測定に用いた箇所をナイタルにて腐食し、100倍で光学顕微鏡にて観察して、内部組織を同定した(下記表3および表4において、Pはパーライト、αはフェライト、Bはベイナイトを示す)。また、3視野当たりのフェライト分率(面積%)を求めた。

0076

[歯切加工性の評価]
歯切加工性評価試験片として、上記形状がW110mm×L155mm×T30mmの鍛造品を、W100mm×L150mm×T20mmに加工したものを用いた。そして、以下の条件で切削試験を行い、刃先の工具磨耗量を測定した。工具磨耗量は、一般的な高周波用鋼として用いられるS53Cの場合で250μm程度であるため、その1/2以下である125μm以下を合格(歯切加工性に優れている)と評価した。

0077

(切削試験条件)
工具:ハイス製のホブツール
切り込み量:1.0mm
1歯あたり送り速度:0.30mm/歯
切削速度:150m/min
切削雰囲気:乾式
磨耗の判定:歯切工具により1歯あたりに加工した長さが7500mmに到達した時の、歯切工具の歯先逃げ面磨耗量を測定
これらの結果を表3および表4に示す。

0078

0079

0080

表1〜4から次の様に考察できる。No.1〜27は、本発明で規定する要件を全て満たしているため、歯車製造時において歯切加工性に優れ、かつ、強度(表面硬さおよび内部硬さ)、耐剥離性、および耐衝撃疲労特性の全ての特性に優れている。

0081

これに対し、上記No.以外の例は、本発明で規定する少なくともいずれかの要件を満たしておらず、上記特性の少なくともいずれかが劣っている。

0082

即ち、No.28は、C量が不足しているため、表層硬さ(表層300℃焼戻し硬さ)と内部硬さが低く、耐剥離性と耐衝撃疲労特性のどちらも十分に向上させることができなかった。

0083

No.29は、C量が過剰であるため、球状化焼鈍後のセメンタイトが粗大化し、所定量のAlを含むが、工具磨耗量が多くなり、十分な歯切加工性を示さなかった。

0084

No.30は、Si量が不足しているため、表層300℃焼戻し硬さが十分でなく、耐剥離性に劣っている。また、フェライトの固溶強化も十分でないため、内部硬さも低く耐衝撃疲労特性を十分向上させることができなかった。

0085

No.31は、Si量が過剰であり、表層300℃焼戻し硬さ、および内部硬さは十分高いが、球状化組織のフェライトの固溶強化により、所定量のAlを含んでいるものの十分な歯切加工性を示さなかった。

0086

No.32は、Mn量が不足しているため、内部硬さが低く、耐衝撃疲労特性を十分向上させることができなかった。

0087

No.33は、Mn量が過剰であるため、Ms点低下に伴い、表層組織における残留γ量が過剰になり、高周波焼入れ後の表面硬さを確保することができない。また、内部組織としてベイナイトが形成され、耐衝撃疲労特性の向上のために、Siによるフェライト固溶強化の効果を十分発揮させることができなかった。

0088

No.34は、S量が過剰であり、MnSが比較的多く形成されるが、MnSそのものは、表層硬さ、表層300℃焼戻し硬さ、内部硬さ(耐衝撃疲労特性)、歯切加工性に悪影響を及ぼさない。しかし、上記MnS等の介在物の異方性に起因して十分な強度特性(曲げ疲労強度等)を示さない。

0089

No.35〜38は、焼入れ性向上元素であるNi、Cr、Moが過剰に含まれているため、焼入れ性が高くなり、内部組織としてベイナイトが形成され、耐衝撃疲労特性の向上のために、Siによるフェライト固溶強化の効果を十分発揮させることができなかった。更に、No.37はCr量が過剰であるため、高周波焼入れ時にセメンタイトの固溶が遅延され、セメンタイトが溶け残るため、焼入れ時の表層固溶C量が少なくなり、十分な表層硬さが得られず、更には、十分な表層300℃焼戻し硬さも得られず、耐剥離性に劣る結果となった。

0090

No.39は、Al量が不足しているため、工具の酸化防護膜形成が不十分であり、工具磨耗量が多く十分な歯切加工性を示さない。一方、No.40は、Al量が過剰であるため、Alが粒界に過剰に偏析し、粒界強度が低下して、熱間鍛造時に割れが生じた。

0091

No.41〜43は、AlよりもNと結合しやすいTiやZrを含んでいるため、AlNの形成が抑制されて熱間鍛造性は向上するが、TiやZrが酸素(O)と結合して硬質の介在物を形成するため、工具磨耗量が多く、十分な歯切加工性を示さない。

0092

No.44および45は、AlNを低減するためのBが不足しているため、AlNが粒界に偏析し、その結果、粒界強度が低下して熱間鍛造時に割れが生じた。

0093

No.46は、N量が過剰であるため、AlNが粒界に多く析出し、粒界強度を低下させ、その結果、熱間鍛造時に割れが生じた。

実施例

0094

No.47は、一般高周波用鋼として用いられているS53Cであるが、本発明の様な成分組成でなく、かつ快削成分が添加されたものでもないため、工具磨耗量が非常に高くなっている。また、Si量が著しく少ないため、十分な表層300℃焼戻し硬さや内部硬さも得られておらず、耐剥離性と耐衝撃疲労特性のどちらも十分に向上させることができなかった。

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