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図面 (10)

課題

植物の病害虫等による外的障害に対する色素反応に関わり、病原性糸状菌に対する感受性および抵抗性を支配する遺伝子を同定すること。

解決手段

病原性糸状菌に対する抵抗性品種と感受性品種とを交配させて得られたF3からF5の集団を対象として、3-デオキシアントシアニジンの合成を担い、ソルガムに当該感受性をもたらすtan遺伝子のマッピングを行った結果、当該遺伝子の同定に成功した。さらに、tan遺伝子がコードする蛋白質機能喪失により、ソルガムに当該抵抗性が付与されることを見出した。

概要

背景

ソルガム病害虫への応答反応として、アントシアニンを合成し病気に犯された部分や食害を受けた部分の周辺は一般的に赤紫褐色からオレンジ色を呈する。これに対して、tan形質と呼ばれるものでは、これらの部分においてはアントシアニンが合成されず黄褐色を呈する(図1)。

これまでの研究から、ソルガムのtan形質は、単一劣性遺伝子支配であることが解明されるに至っている(非特許文献1)。また、tan形質を持つソルガムは紋枯病に対して圃場抵抗性が上昇することが知られている(非特許文献2)。さらに、tan形質のソルガム(非特許文献3)やアントシアニンの前駆物質であるフラバン-4-オールを溜め込むソルガムはカビに対する全体的な抵抗性が高まることが知られている(非特許文献4)。また、tan形質はインドなどの熱帯地域のソルガムでは広く用いられている形質であり、そのような環境条件下では病害抵抗性などの点で有利な形質であると考えられる。

一方、ソルガムには自然界ではあまり見られないアントシアニンである3-デオキシアントシアニンが多く含まれていることが知られている。ソルガムの果皮に多く含まれている3-デオキシアントシアニンは、アピゲニニジン(Apigeninidin(赤))および3’OHのルテオリニジン(luteolinidin(黒紫))であり(非特許文献5)、植物界に広く存在する他のアントシアニジンと同様に、これら3-デオキシアントシアニジンは、配糖体の形態にて細胞内の液胞蓄積すると考えられている(非特許文献6)。これまでの知見では、3-デオキシアントシアニンの合成経路は、アントシアニン生合成経路から分岐していると考えられている。さらに、ナリンゲニンからフラバノン-4-還元酵素DFR)により、3-デオキシアントシアニン生合成が分岐することが示唆されている(非特許文献7)。また、こうしてできたフラバン-4-オールは、重合化してフロバフェン(phlobaphenes)になるほか、3-デオキシアントシアニジンへと生成されると考えられている。この3-デオキシアントシアニジンへの合成反応は、これまではアントシアニジン合成酵素(ANS)によるものと考えられていたが、最終段階の反応をつかさどる酵素がANSである可能性は低いことが示されている(非特許文献7)。

さらに、ソルガムは、これまで日本国においては主に家畜飼料として栽培されていたが、近年になり、バイオ燃料エタノール)の原料としても注目されるようになってきた。そのため病害によるソルガムの減収を防ぐことは、農業政策のみならず、エネルギー政策の上でも重要な課題である。しかしながら、これまでソルガムにおいては、その主たる用途が家畜飼料であったことなどから、病気一般に対する薬剤による防除は、ほとんど行われてこなかったのが現状である。

そのため、カビに対する全体的な抵抗性と関連性を有する3-デオキシアントシアニン合成経路や紋枯病等に対する抵抗性と関連性を有する、tan形質をもたらす遺伝子の同定が期待されているものの、未だ明らかになってはいない。

概要

植物の病害虫等による外的障害に対する色素反応に関わり、病原性糸状菌に対する感受性および抵抗性を支配する遺伝子を同定すること。 病原性糸状菌に対する抵抗性品種と感受性品種とを交配させて得られたF3からF5の集団を対象として、3-デオキシアントシアニジンの合成を担い、ソルガムに当該感受性をもたらすtan遺伝子のマッピングを行った結果、当該遺伝子の同定に成功した。さらに、tan遺伝子がコードする蛋白質機能喪失により、ソルガムに当該抵抗性が付与されることを見出した。 なし

目的

そのため病害によるソルガムの減収を防ぐことは、農業政策のみならず、エネルギー政策の上でも重要な課題である

効果

実績

技術文献被引用数
0件
牽制数
0件

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請求項1

植物における3-デオキシアントシアニジン合成を誘導するタンパク質をコードする、下記(a)〜(d)のいずれかに記載のDNA。(a)配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA(b)配列番号:1または2に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA(c)配列番号:3に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸置換欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA(d)配列番号:1または2に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNA

請求項2

植物における3-デオキシアントシアニジン合成を抑制するタンパク質をコードする、下記(a)〜(d)のいずれかに記載のDNA。(a)配列番号:6に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA(b)配列番号:4または5に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA(c)配列番号:6に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA(d)配列番号:4または5に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNA

請求項3

植物における3-デオキシアントシアニジン合成を抑制するRNAをコードする、下記(a)〜(c)のいずれかに記載のDNA。(a)請求項1に記載のDNAの転写産物相補的二重鎖RNAをコードするDNA(b)請求項1に記載のDNAの転写産物と相補的なアンチセンスRNAをコードするDNA(c)請求項1に記載のDNAの転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有するRNAをコードするDNA

請求項4

植物に病原性糸状菌に対する感受性を付与する活性を有するタンパク質をコードする、下記(a)〜(d)のいずれかに記載のDNA。(a)配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA(b)配列番号:1または2に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA(c)配列番号:3に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA(d)配列番号:1または2に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNA

請求項5

植物に病原性糸状菌に対する抵抗性を付与する活性を有するタンパク質をコードする、下記(a)〜(d)のいずれかに記載のDNA。(a)配列番号:6に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA(b)配列番号:4または5に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA(c)配列番号:6に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA(d)配列番号:4または5に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNA

請求項6

植物に病原性糸状菌に対する抵抗性を付与する活性を有するRNAをコードする、下記(a)〜(c)のいずれかに記載のDNA。(a)請求項4に記載のDNAの転写産物と相補的な二重鎖RNAをコードするDNA(b)請求項4に記載のDNAの転写産物と相補的なアンチセンスRNAをコードするDNA(c)請求項4に記載のDNAの転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有するRNAをコードするDNA

請求項7

請求項1から6のいずれかに記載のDNAを含むベクター

請求項8

請求項1から6のいずれかに記載のDNAが導入された植物細胞

請求項9

請求項8に記載の細胞を含む植物体

請求項10

請求項9に記載の植物体の子孫またはクローンである、植物体。

請求項11

請求項9または10に記載の植物体の繁殖材料

請求項12

植物における請求項4に記載のDNAの発現または機能を抑制することを特徴とする、病原性糸状菌に対する抵抗性が付与された植物の作出方法

請求項13

植物に請求項5または6に記載のDNAを導入する工程を含む、病原性糸状菌に対する抵抗性が付与された植物の作出方法。

請求項14

請求項5もしくは6に記載のDNA、または該DNAが挿入されたベクターを含む、病原性糸状菌に対する抵抗性を付与するための薬剤

請求項15

植物における病原性糸状菌に対する感受性または抵抗性を判定する方法であって、被検植物における請求項4もしくは5に記載のDNAまたはその発現制御領域の塩基配列を解析し、対照の塩基配列と比較することを特徴とする方法。

請求項16

植物における病原性糸状菌に対する感受性または抵抗性を判定する方法であって、被検植物における請求項4もしくは5に記載のDNAの発現または発現産物分子量を検出することを特徴とする方法。

請求項17

植物における病原性糸状菌に対する感受性または抵抗性を判定する方法であって、被検植物における、請求項4または5に記載のDNAと連鎖する分子マーカーの塩基配列を解析し、対照の塩基配列と比較することを特徴とする方法。

請求項18

病原性糸状菌に対する抵抗性の植物を育種する方法であって、(a)病原性糸状菌に対する抵抗性の植物品種と任意の植物品種とを交配させる工程、(b)工程(a)における交配により得られた個体における病原性糸状菌に対する感受性または抵抗性を、請求項15から17のいずれかに記載の方法により判定する工程、および(c)病原性糸状菌に対する抵抗性を有すると判定された品種選抜する工程、を含む方法。

請求項19

請求項18に記載の方法により育種された植物体。

請求項20

請求項19に記載の植物体の子孫またはクローンである、植物体。

請求項21

請求項19または20に記載の植物体の繁殖材料。

技術分野

0001

本発明は、植物の病害虫等による外的障害に対する色素反応に関わるtan遺伝子、tan遺伝子を標的とした病原性糸状菌に対する植物の感受性または抵抗性判定方法、ならびにtan遺伝子を利用した病原性糸状菌に対する抵抗性の植物の作出方法に関する。

背景技術

0002

ソルガムは病害虫への応答反応として、アントシアニンを合成し病気に犯された部分や食害を受けた部分の周辺は一般的に赤紫褐色からオレンジ色を呈する。これに対して、tan形質と呼ばれるものでは、これらの部分においてはアントシアニンが合成されず黄褐色を呈する(図1)。

0003

これまでの研究から、ソルガムのtan形質は、単一劣性遺伝子支配であることが解明されるに至っている(非特許文献1)。また、tan形質を持つソルガムは紋枯病に対して圃場抵抗性が上昇することが知られている(非特許文献2)。さらに、tan形質のソルガム(非特許文献3)やアントシアニンの前駆物質であるフラバン-4-オールを溜め込むソルガムはカビに対する全体的な抵抗性が高まることが知られている(非特許文献4)。また、tan形質はインドなどの熱帯地域のソルガムでは広く用いられている形質であり、そのような環境条件下では病害抵抗性などの点で有利な形質であると考えられる。

0004

一方、ソルガムには自然界ではあまり見られないアントシアニンである3-デオキシアントシアニンが多く含まれていることが知られている。ソルガムの果皮に多く含まれている3-デオキシアントシアニンは、アピゲニニジン(Apigeninidin(赤))および3’OHのルテオリニジン(luteolinidin(黒紫))であり(非特許文献5)、植物界に広く存在する他のアントシアニジンと同様に、これら3-デオキシアントシアニジンは、配糖体の形態にて細胞内の液胞蓄積すると考えられている(非特許文献6)。これまでの知見では、3-デオキシアントシアニンの合成経路は、アントシアニン生合成経路から分岐していると考えられている。さらに、ナリンゲニンからフラバノン-4-還元酵素DFR)により、3-デオキシアントシアニン生合成が分岐することが示唆されている(非特許文献7)。また、こうしてできたフラバン-4-オールは、重合化してフロバフェン(phlobaphenes)になるほか、3-デオキシアントシアニジンへと生成されると考えられている。この3-デオキシアントシアニジンへの合成反応は、これまではアントシアニジン合成酵素(ANS)によるものと考えられていたが、最終段階の反応をつかさどる酵素がANSである可能性は低いことが示されている(非特許文献7)。

0005

さらに、ソルガムは、これまで日本国においては主に家畜飼料として栽培されていたが、近年になり、バイオ燃料エタノール)の原料としても注目されるようになってきた。そのため病害によるソルガムの減収を防ぐことは、農業政策のみならず、エネルギー政策の上でも重要な課題である。しかしながら、これまでソルガムにおいては、その主たる用途が家畜飼料であったことなどから、病気一般に対する薬剤による防除は、ほとんど行われてこなかったのが現状である。

0006

そのため、カビに対する全体的な抵抗性と関連性を有する3-デオキシアントシアニン合成経路や紋枯病等に対する抵抗性と関連性を有する、tan形質をもたらす遺伝子の同定が期待されているものの、未だ明らかになってはいない。

先行技術

0007

Doggett,H.、Sorghum second edition、John Wiley & Sons,Inc,、New York、1987年、171〜172ページ
日重光ら、「UV-A・Bの照射と風の複合刺激がソルガムの紋枯病抵抗性に及ぼす影響」、作物学会報、2005年、40巻、110〜112ページ
Murty,D.S.、「Development of early and mould free grain」、ICRISAT's Sorghum program: A review by international consultants InternationalCrops Research Institute for the Semi-arid Tropics、Patancheru、India、1975年、26〜30ページ
JAMBUNATHAN,R.ら、「Flavan-4-ol concentrationin leaf tissues of grain mold susceptible and resistant sorghum plants at differentstages of leaf development.」、Journal of Agricultural andFood Chemistry、1991年、39巻、1163〜1165ページ
SIAME,B.A.ら、「Role of pigments and tannins in thereaction of tan and red near isogenic sorghum lines to leaf diseases.」、American Crop Science journal、1993年、123〜130ページ
GROTEWOLD,E.、「THEGENETICS AND BIOCHEMISTRY OFFLORAL PIGMENTS.」、Annual Review of Plant Biology、2006年、57巻、761〜780ページ
LIU,H.ら、「Molecular dissection of the pathogen-inducible 3-deoxyanthocyanidin biosynthesispathway in sorghum.」、Plant Cell Physiol、2010年、51巻、1173〜1185ページ

発明が解決しようとする課題

0008

本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、ソルガムにおける3-デオキシアントシアニン合成経路や、紋枯病等に対する抵抗性と関連性を有するtan形質をもたらす遺伝子を同定することにある。さらに、本発明は、ソルガムにtan形質をもたらす遺伝子に対応する他の植物における遺伝子を同定することを目的とする。また、本発明は、同定された遺伝子に基づき、植物のtan形質を簡便に判定する方法を提供することを目的とする。さらなる本発明の目的は、解明されたtan形質の発症機構に基づき、tan形質を導入した植物を効率的に作出する方法を提供することにある。

課題を解決するための手段

0009

本発明者らは、上記課題を解決すべく、ソルガムで病害により紫色(purple)を示す品種、那系MS-3Bとtan形質の品種Greenleafの大規模交配集団(F3,F5)において、ソルガムのSSRマーカーおよび挿入・欠失マーカーを利用して、tan遺伝子のマッピングを行った(図1図2)。

0010

具体的には、まず、F5のRIL個体(組換え自殖系統(Recombinat
Inbred Line)、143個体)について、SSRマーカーを用いたラフマピングの結果から、tan遺伝子が染色体6番に座乗していることを解明した。次いで、F3部分へテロ集団個体(1142個体)について、SSRマーカーSB3751からSB3764の間で組換えのある個体(63個体)を選抜し、圃場にてtan形質の調査を行い、tan遺伝子の存在領域を、約150kbpの領域に絞り込んだ。さらに、ソルガム品種BTx623の塩基配列情報に基づいて見出したCAPSマーカー、SNPマーカーを用いたマッピングを行い、tan遺伝子の存在領域を最終的に約29kbpの領域に絞り込んだ(図3)。

0011

本発明者らが、絞り込んだ領域における遺伝子のアノテーションデーターベースで調査したところ、この領域はトウモロコシロイコアントシアニジンレダクターゼ相同性を持つ遺伝子がクラスターを作っていることが判明した。この絞り込んだ領域内には4つのトウモロコシのロイコアントシアニジンレダクターゼに相同性を持つ候補遺伝子が存在した。この4つの遺伝子の発現RT-PCRにて調査したところ、候補遺伝子のうち、特定の候補遺伝子(Sb06g029550、以下、場合により「tan遺伝子」又は「感受性型tan遺伝子」とも称する)の発現パターンのみが、ソルガムが障害により紫色を呈するときに遺伝子の発現が増加することを見出した(図4)。また、残りの遺伝子の発現はRT-PCRでは見られなかった。このことから、この遺伝子が着色の原因遺伝子であると推測された。

0012

tan遺伝子周辺の塩基配列を決定し、そのコードするアミノ酸配列を品種間で比較したところ、紫色を呈する品種の那系MS-3Bでは、タンパク質をコードする遺伝子領域がすでにゲノム塩基配列が明らかになっている品種、BTx623と完全に一致していた(図5)。しかしながら、Greenleafのtan遺伝子(以下、「抵抗性型tan遺伝子」とも称する)がコードするアミノ酸配列において、感受性型tan遺伝子がコードするアミノ酸配列と配列の異なる2つの箇所が見出された。その結果、tan形質のGreenleafでは、tan遺伝子がコードする正常なタンパク質が合成されないと推測された(図5)。

0013

また、外的障害を受けたtan形質を示すソルガムにおいては、3-デオキシアントシアニジン(アピゲニニジン及びルテオリニジン)の代わりに、ルテオリン等が蓄積されていることが明らかになった(図6〜8)。さらに、抵抗性型tan遺伝子とすす紋病に対する抵抗性との相関が明らかになった(図10)。

0014

これらの事実から、tan遺伝子はソルガムの着色にかかわる遺伝子であり、その発現抑制や変異によって、本来の機能が発揮されず、3-デオキシアントシアニジンが合成されないないことにより、個体がtan形質を示すことが判明した。さらに、tan形質においては、外的障害を受けた際に、抗菌活性等を有するルテオリン等が蓄積することから、病原性糸状菌に対する抵抗性が発揮されることも判明した。

0015

以上の知見に基づいて、本発明者らは、同定されたtan遺伝子を標的として植物における病原性糸状菌に対する感受性または抵抗性を判定することが可能であり、さらに、見出された遺伝子が3-デオキシアントシアニジンの合成反応の最終段階を行っている酵素であることから、tan遺伝子の発現や機能を抑制することにより、植物にtan形質由来の抵抗性を付与することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。

0016

本発明は、より詳しくは、下記を提供するものである。
<1> 植物における3-デオキシアントシアニジン合成を誘導するタンパク質をコードする、下記(a)〜(d)のいずれかに記載のDNA。
(a)配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(b)配列番号:1または2に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA
(c)配列番号:3に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(d)配列番号:1または2に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNA
<2> 植物における3-デオキシアントシアニジン合成を抑制するタンパク質をコードする、下記(a)〜(d)のいずれかに記載のDNA。
(a)配列番号:6に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(b)配列番号:4または5に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA
(c)配列番号:6に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(d)配列番号:4または5に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNA
<3> 植物における3-デオキシアントシアニジン合成を抑制するRNAをコードする、下記(a)〜(c)のいずれかに記載のDNA。
(a)<1>に記載のDNAの転写産物相補的二重鎖RNAをコードするDNA
(b)<1>に記載のDNAの転写産物と相補的なアンチセンスRNAをコードするDNA
(c)<1>に記載のDNAの転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有するRNAをコードするDNA
<4> 植物に病原性糸状菌に対する感受性を付与する活性を有するタンパク質をコードする、下記(a)〜(d)のいずれかに記載のDNA。
(a)配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(b)配列番号:1または2に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA
(c)配列番号:3に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(d)配列番号:1または2に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNA
<5> 植物に病原性糸状菌に対する抵抗性を付与する活性を有するタンパク質をコードする、下記(a)〜(d)のいずれかに記載のDNA。
(a)配列番号:6に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(b)配列番号:4または5に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA
(c)配列番号:6に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(d)配列番号:4または5に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNA
<6> 植物に病原性糸状菌に対する抵抗性を付与する活性を有するRNAをコードする、下記(a)〜(c)のいずれかに記載のDNA。
(a)<4>に記載のDNAの転写産物と相補的な二重鎖RNAをコードするDNA
(b)<4>に記載のDNAの転写産物と相補的なアンチセンスRNAをコードするDNA
(c)<4>に記載のDNAの転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有するRNAをコードするDNA
<7> <1>から<6>のいずれかに記載のDNAを含むベクター
<8> <1>から<6>のいずれかに記載のDNAが導入された植物細胞
<9> <8>に記載の細胞を含む植物体
<10> <9>に記載の植物体の子孫またはクローンである、植物体。
<11> <9>または<10>に記載の植物体の繁殖材料
<12> 植物における<4>に記載のDNAの発現または機能を抑制することを特徴とする、病原性糸状菌に対する抵抗性が付与された植物の作出方法。
<13> 植物に<5>または<6>に記載のDNAを導入する工程を含む、病原性糸状菌に対する抵抗性が付与された植物の作出方法。
<14> <5>もしくは<6>に記載のDNA、または該DNAが挿入されたベクターを含む、病原性糸状菌に対する抵抗性を付与するための薬剤。
<15> 植物における病原性糸状菌に対する感受性または抵抗性を判定する方法であって、被検植物における<4>もしくは<5>に記載のDNAまたはその発現制御領域の塩基配列を解析し、対照の塩基配列と比較することを特徴とする方法。
<16> 植物における病原性糸状菌に対する感受性または抵抗性を判定する方法であって、被検植物における<4>もしくは<5>に記載のDNAの発現または発現産物分子量を検出することを特徴とする方法。
<17> 植物における病原性糸状菌に対する感受性または抵抗性を判定する方法であって、被検植物における、<4>または<5>に記載のDNAと連鎖する分子マーカーの塩基配列を解析し、対照の塩基配列と比較することを特徴とする方法。
<18> 病原性糸状菌に対する抵抗性の植物を育種する方法であって、
(a)病原性糸状菌に対する抵抗性の植物品種と任意の植物品種とを交配させる工程、
(b)工程(a)における交配により得られた個体における病原性糸状菌に対する感受性または抵抗性を、<15>から<17>のいずれかに記載の方法により判定する工程、および
(c)病原性糸状菌に対する抵抗性を有すると判定された品種を選抜する工程、を含む方法。
<19> <18>に記載の方法により育種された植物体。
<20> <19>に記載の植物体の子孫またはクローンである、植物体。
<21> <19>または<20>に記載の植物体の繁殖材料。

0017

なお、本発明において、tan形質により抵抗性が付与される「病原性糸状菌」とは植物に病害をもたらす糸状菌であればよく、例えば、紋枯病をもたらすThanatephorus cucumeris、すす紋病をもたらすSetosphaeria
turcica、炭疽病をもたらすColletotrichum graminicolaが挙げられる。

0018

また、本発明において「病原性糸状菌に対する感受性」とは、植物が病原性糸状菌に感染する性質を意味する。また、本発明において「病原性糸状菌に対する抵抗性」とは、病原性糸状菌の感染に対する植物の抵抗性を意味する。この抵抗性により、植物において病原性糸状菌の感染症状の発症、あるいは、発生した症状の程度(例えば、病斑形成の程度)が抑制される。

発明の効果

0019

本発明によって、植物の病害虫等による外的障害に対する色素反応に関わり、病原性糸状菌に対する感受性をもたらす遺伝子 tan遺伝子(感受性型tan遺伝子)が同定され、該遺伝子の染色体上の位置および構造、ならびにtan形質、ひいては3-デオキシアントシアニン合成の機構や病原性糸状菌に対する抵抗性が発揮される機構が解明された。これにより、tan遺伝子やその近傍のマーカーを利用して、植物の病原性糸状菌に対する感受性および抵抗性を簡便に判定することが可能となった。また、感受性型tan遺伝子の発現や機能を抑制することにより、病原性糸状菌に対する抵抗性の植物品種を効率的に作出することが可能となった。本発明は、病原性糸状菌の病害による植物の収量低下の防止に大きく貢献するものである。

図面の簡単な説明

0020

病虫害を受けた際のソルガムの葉色を示す写真である。図中、ソルガムの感受性品種那系 MS-3Bの葉は紫色(purple)を呈しているのに対し、ソルガムの抵抗性品種Greenleafの葉は黄褐色(tan)を呈している。
那系MS-3BとGreenleafとの大規模な交配集団(ソルガムF5RIL集団)におけるtan形質(pp)の染色体マッピングを行った結果を示す、グラフである。
tan遺伝子の存在領域を、約150kbpの領域に絞り込み、さらに、ソルガム品種BTx623の塩基配列情報に基づいて見出したCAPSマーカー、SNPマーカーを用いてマッピングを行い、tan遺伝子の存在領域を最終的に約29kbpの領域に絞り込んだことを示す、概略図である。なお、図中の下部において示される「t」は病虫害等を受けた際に葉が黄褐色(tan)を呈する個体であることを示し、「p」は病虫害等を受けた際に葉が紫色(purple)を呈する個体であることを示す。また「B」は遺伝子又は領域が両アレルともGreenleaf由来であることを示し、「A」は遺伝子又は領域が両アレルとも那系MS-3B由来であることを示し、「H」はヘテロであることを示す。
図3に示した約29kbpの領域内にてクラスターを構成している、トウモロコシのロイコアントシアニジンレダクターゼに相同性を持つ遺伝子4つ、約29kbpの領域外のトウモロコシのロイコアントシアニジンレダクターゼに相同性を一部分のみ持つ遺伝子(Sb06g029520)、及びアクチン(SbActin)の発現をRT-PCRにて調べた結果を示す、電気泳動の写真である。なお、図中「0d」は切断して0日目のソルガムの葉における各遺伝子の発現結果を示し、図中「3d」は切断してから3日間、寒天培地上にて維持したソルガムの葉における各遺伝子の発現結果を示す。また「N」は那系MS-3Bの葉における各遺伝子の発現結果を示し、「G」はGreenleafの葉における各遺伝子の発現結果を示す。
感受性品種 那系MS-3B由来のtanタンパク質(配列番号:3)のアミノ酸配列(上部)とGreenleaf由来のtanタンパク質(配列番号:6)のアミノ酸配列(下部)とを示す図である。なお、図中の太字で示され下線が引かれているアルファベット文字は那系MS-3BとGreenleafとにおいて異なっているアミノ酸(C252Y、I268V)を示す。
細断し、水寒天の上でインキュベートした那系MS-3B及びGreenleafの葉から抽出した液の吸光度波長493nm)を示すグラフである。なお、図中、横軸は細断した葉の水寒天の上でのインキュベーション時間を示す。
病斑を示したBTx623(BTx)、那系MS-3B(Na)及びGreenleaf(GL)の葉から抽出した色素を薄層クラマトグラフィー(TLC)にて分析した結果を示す写真である。なお、図中には、標準品(ルテオリニジン(Lute)及びアピゲニニジン(Api))を(TLC)にて展開して得られた結果も示す。
外的障害を施したGreenleafの葉及び未処理の葉において生成される色素をHPLC-MSによって分析した結果を示す、マススペクトル図である。
ソルガムのアントシアニン合成経路、及び各反応段階で機能する酵素を示す概要図である。
tan形質における、すす紋病に抵抗性を示す遺伝子領域についてQTL解析した結果を示す図である。図中、縦軸は解析に供したRIL個体を示し、横軸は解析したSSRマーカー、並びに「tan pheno(tan形質)」を示す。また「B」は遺伝子又は領域が両アレルともGreenleaf由来であることを示し、「A」は遺伝子又は領域が両アレルとも那系MS-3B由来であることを示し、「H」はヘテロであることを示す。さらに「tan pheno」以下の数値は2010年にすす紋病の罹病試験を行った際の罹病程度を示す。なお「罹病程度」とは「罹病程度=Σ(指数x各指数に属する葉数)/(5x調査総葉数)x100」の式によって算出される値であり、式中「指数」は調査した葉におけるすす紋病の感染症状の程度を示す値である。

0021

<合成誘導型DNA、合成抑制型DNA、感受性型DNA、抵抗性型DNA>
本発明は、植物における3-デオキシアントシアニジン合成を誘導するタンパク質をコードするDNA(以下、「合成誘導型DNA」とも称する)を提供する。また、本発明は、植物に、病原性糸状菌に対する感受性を付与する活性を有するタンパク質をコードするDNA(以下、「感受性型DNA」とも称する)を提供する。本発明者らにより同定された、ソルガムの病虫害を受けた部位が紫色を示す品種であり、すす紋病等に対する感受性品種である那系MS-3B由来のtancDNAの塩基配列を配列番号:1に、tanゲノムDNAの塩基配列を配列番号:2に、これらDNAがコードするタンパク質のアミノ酸配列を配列番号:3に示す。本発明の合成誘導型DNA又は感受性型DNA(以下、「感受性型DNA等」とも称する)の1つの態様は、配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA(典型的には、配列番号:1または2に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA)である。

0022

現在の技術水準においては、当業者であれば、特定の感受性ソルガム品種(例えば、那系MS-3B)における感受性型DNA等の塩基配列情報が得られた場合、その塩基配列を改変し、そのコードするアミノ酸配列は異なるが、同じく合成誘導型又は感受性型であるDNAを取得することが可能である。また、自然界においても、塩基配列の変異によりコードするタンパク質のアミノ酸配列が変異することは起こり得ることである。従って、本発明は、那系MS-3Bにおけるtanタンパク質のアミノ酸配列(配列番号:3)において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列からなり、植物における3-デオキシアントシアニジン合成を誘導するタンパク質をコードするDNA又は植物に病原性糸状菌に対する感受性を付与する活性を有するタンパク質をコードするDNAをも含むものである。ここで「複数」とは、改変後のtanタンパク質が、植物において3-デオキシアントシアニジン合成を誘導できる範囲におけるアミノ酸の改変数、又は植物に病原性糸状菌に対する感受性を付与する活性を維持する範囲におけるアミノ酸の改変数であり、通常、50アミノ酸以内、好ましくは30アミノ酸以内、さらに好ましくは10アミノ酸以内(例えば、5アミノ酸以内、3アミノ酸以内、2アミノ酸)である。

0023

さらに、現在の技術水準においては、当業者であれば、特定の感受性ソルガム品種(例えば、那系MS-3B)から感受性型DNA等が得られた場合、その感受性型DNA等の塩基配列情報を利用して、他のソルガム品種や他の植物(例えば、イネ、トウモロコシ)から、同じく合成誘導型である相同遺伝子をコードするDNA又は感受性型である相同遺伝子をコードするDNAを取得することが可能である。従って、本発明は、那系MS-3BにおけるtanDNA(配列番号:1または2)とストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAであって、植物における3-デオキシアントシアニジン合成を誘導するタンパク質をコードするDNA又は植物に病原性糸状菌に対する感受性を付与する活性を有するタンパク質をコードするDNAをも含むものである。

0024

こうして得られた変異DNAや相同DNAが、植物において3-デオキシアントシアニジン合成を誘導するタンパク質をコードするか否かは、例えば、これらDNAを導入した、病虫害を受けた部位が黄褐色を示すtan形質の品種に、病原性糸状菌を噴霧もしくは接種し、又は該品種の成葉カッティングもしくはパンチを施し、その後、病原性糸状菌の感染部位、又は、カッティングもしくはパンチ部位が紫色を呈するか否かを検定することにより、判定することができる。(図1を参照のこと)。

0025

また、こうして得られた変異DNAや相同DNAが、植物に病原性糸状菌に対する感受性を付与する活性を有するタンパク質をコードするか否かは、例えば、これらDNAを導入した抵抗性品種に、病原性糸状菌を噴霧もしくは接種し、その後、感染症状を示すか否か、あるいは感染症状の程度を検定することにより、判定することができる。感染症状としては、例えば、病斑を形成することが挙げられる。また、非特許文献2に記載されているように、tan形質の品種に紋枯病菌を接種し、その後に発病した個体の割合(発病個体率)や病班高率を指標に判定することができる。なお、病班高率(RLH)は、例えば、個体別に葉鞘高(FH)と病班高(LH)とを測定し、「RLH(%)=LH/FH×100」の式で算出することによって得られる。

0026

本発明は、また、植物における3-デオキシアントシアニジン合成を抑制するタンパク質をコードするDNA(以下、「合成抑制型DNA」とも称する)を提供する。さらに、本発明は、植物に病原性糸状菌に対する抵抗性を付与する活性を有するタンパク質をコードするDNA(以下、「抵抗性型DNA」と称する)を提供する。本発明者らにより同定された、ソルガムの、tan形質を示し、すす紋病等に対する抵抗性品種である、Greenleaf由来のtancDNAの塩基配列を配列番号:4に、tanゲノムDNAの塩基配列を配列番号:5に、これらDNAがコードするタンパク質のアミノ酸配列を配列番号:6に示す。本発明の合成抑制型DNA又は抵抗性型DNA(以下、「抵抗性型DNA等」とも称する)の1つの態様は、配列番号:6に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA(典型的には、配列番号:4または5に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA)である。

0027

本実施例において示されたように、Greenleaf由来のtancDNAの塩基配列(配列番号:4)は、感受性品種那系MS-3B由来のtan cDNAの塩基配列(配列番号:1)と比較すると、755位と805位との塩基相違する。このため、Greenleaf由来のtanタンパク質(配列番号:6)は、感受性品種那系MS3B由来のtanタンパク質(配列番号:3)と比較すると、C252YとI268Vの2つのアミノ酸置換が生じており(図5)、本来のtanタンパク質の機能が抑制されている。この機能の抑制が個体に3-デオキシアントシアニジン合成を抑制し、病原性糸状菌に対する抵抗性を付与していると考えられる。現在の技術水準においては、当業者であれば、特定の抵抗性ソルガム品種(例えば、Greenleaf)のtan DNAの塩基配列において、そのコードするタンパク質の3-デオキシアントシアニジン合成を抑制する機能、又は病原性糸状菌に対する抵抗性が維持されるような改変を行うことが可能である。また、自然界においても、塩基配列の変異によりコードするタンパク質のアミノ酸配列が変異することは起こり得ることである。従って、本発明は、Greenleafにおけるtanタンパク質のアミノ酸配列(配列番号:6)において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質からなり、植物における3-デオキシアントシアニジン合成を抑制するタンパク質をコードするDNA又は植物に病原性糸状菌に対する抵抗性を付与する活性を有するタンパク質をコードするDNAをも含むものである。ここで「複数」とは、改変後のtanタンパク質が、植物において3-デオキシアントシアニジン合成を抑制できる範囲におけるアミノ酸の改変数、又は植物に病原性糸状菌に対する抵抗性を付与する活性を有する範囲におけるアミノ酸の改変数である。ソルガムにおけるtanタンパク質が本来の機能を発揮しなければ、3-デオキシアントシアニジンの合成は抑制され、病原性糸状菌に対する抵抗性になると考えられるため、当該アミノ酸改変数は、本質的に制限はない。改変は、例えば、100アミノ酸以内、50アミノ酸以内、30アミノ酸以内(例えば、10アミノ酸以内、5アミノ酸以内、3アミノ酸以内、2アミノ酸、1アミノ酸)である。

0028

さらに、現在の技術水準においては、当業者であれば、特定のソルガム品種からtan DNAが得られた場合、そのDNAの塩基配列情報を利用して、他のソルガム品種や他の植物(例えば、イネ、トウモロコシ)から、合成抑制型又は抵抗性型である相同遺伝子をコードするDNAを取得することができる。従って、本発明は、Greenleafにおけるtan DNA(配列番号: 4または5)とストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAであって、植物における3-デオキシアントシアニジン合成を抑制するタンパク質をコードするDNA、又は植物に病原性糸状菌に対する抵抗性を付与する活性を有するタンパク質をコードするDNAが含まれる。

0029

ソルガムのtan遺伝子に対応するイネの遺伝子としては、例えば、SALADデータベースにおけるOs04g0630300、Os04g0630400、Os04g0630600、Os04g0630800、Os04g0631000が挙げられ、ソルガムのtan遺伝子に対応するトウモロコシの遺伝子としては、例えば、GenBank
ACCESSION No. EU956420、EU966048が挙げられる。

0030

こうして得られた変異DNAや相同DNAが、植物における3-デオキシアントシアニジン合成を抑制するタンパク質をコードするか否かは、例えば、当該DNAで、病原性糸状菌に対する感受性品種のtan遺伝子を組換え、当該DNAをホモで保持する植物を作出し、病原性糸状菌を噴霧もしくは接種し、その後、感染症状を示すか否か、あるいは感染症状の程度を検定することにより、判定することができる。感染症状としては、例えば、感染部位において、3-デオキシアントシアニジンの合成が抑制されることにより、感染部位が黄褐色を呈することが挙げられる(図1を参照のこと)。または、当該DNAで、病原性糸状菌に対する感受性品種のtan遺伝子を組換え、当該DNAをホモで保持する植物を作出し、該品種の成葉にカッティングもしくはパンチを施し、その後、カッティングもしくはパンチ部位が黄褐色を呈するか否かを検定することにより、判定することができる。

0031

また、こうして得られた変異DNAや相同DNAが、植物に病原性糸状菌に対する抵抗性を付与する活性を有するタンパク質をコードするか否かは、例えば、当該DNAで、病原性糸状菌に対する感受性品種のtan遺伝子を組換え、当該DNAをホモで保持する植物を作出し、病原性糸状菌を噴霧もしくは接種し、その後、感染症状を示すか否か、あるいは感染症状の程度を検定することにより、判定することができる。感染症状としては、例えば、病斑の形成が挙げられる。また、非特許文献2に記載されているように、tan形質の品種に紋枯病菌を接種し、その後に発病した個体の割合(発病個体率)や病班高率を指標に判定することもできる。なお、病班高率(RLH)は、例えば、個体別に葉鞘高(FH)と病班高(LH)とを測定し、「RLH(%)=LH/FH×100」の式で算出することによって得られる。

0032

また、本発明の合成誘導型DNAは、その導入により、植物において3-デオキシアントシアニジン合成を誘導することが可能であるという意味において、植物における3-デオキシアントシアニジン合成を誘導するための薬剤である。一方、合成抑制型DNAは、その導入により、植物において3-デオキシアントシアニジン合成を抑制することが可能であるという意味において、植物における3-デオキシアントシアニジン合成を抑制するための薬剤である。

0033

さらに、本発明の感受性型DNAは、その導入により、植物に病原性糸状菌に対する感受性を付与することが可能であるという意味において、植物に病原性糸状菌に対する感受性を付与するための薬剤であり、一方、本発明の抵抗性型DNAは、その導入により、植物に病原性糸状菌に対する抵抗性を付与することが可能であるという意味において、植物に病原性糸状菌に対する抵抗性を付与するための薬剤である。

0034

なお、上記した変異DNAを作製するための、DNAへの人為的な変異の導入は、例えば、部位特異的変異誘発(site-directed mutagenesis)法(Kramer, W. & Fritz, HJ., MethodsEnzymol, 154:350-367, 1987)により行うことができる。

0035

また、上記した相同遺伝子を単離するための方法としては、例えば、ハイブリダイゼーション技術(Southern, E. M., Journal of Molecular Biology, 98:503, 1975)やポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術(Saiki, R. K., et al. Science, 230:1350-1354, 1985、Saiki, R. K. et al. Science, 239:487-491, 1988)が挙げられる。相同遺伝子をコードするDNAを単離するためには、通常ストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーション反応を行なう。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件としては、6M尿素、0.4%SDS、0.5xSSCの条件またはこれと同等のストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件を例示できる。よりストリンジェンシーの高い条件、例えば、6M尿素、0.4%SDS、0.1xSSCの条件を用いれば、より相同性の高いDNAの単離を期待することができる。単離されたDNAは、核酸レベルあるいはアミノ酸配列レベルにおいて、少なくとも50%以上、好ましくは70%以上、さらに好ましくは90%以上(例えば、95%、96%、97%、98%、99%以上)の配列の同一性を有する。配列の相同性は、BLASTN(核酸レベル)やBLASTX(アミノ酸レベル)のプログラム(Altschul et al. J. Mol. Biol., 215:403-410, 1990)を利用して決定することができる。該プログラムは、KarlinおよびAltschulによるアルゴリズムBLAST(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 87:2264-2268, 1990、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:5873-5877, 1993)に基づいている。BLASTNによって塩基配列を解析する場合には、パラメーターは例えばscore=100、wordlength=12とする。また、BLASTXによってアミノ酸配列を解析する場合には、パラメーターは例えばscore=50、wordlength=3とする。また、Gapped BLASTプログラムを用いて、アミノ酸配列を解析する場合は、Altschulら(Nucleic AcidsRes. 25:3389-3402, 1997)に記載されているように行うことができる。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合には、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である。

0036

本発明のtanタンパク質をコードするDNAとしては、その形態に特に制限はなく、cDNAの他、ゲノムDNA、および化学合成DNAが含まれる。ゲノムDNAおよびcDNAの調製は、当業者にとって常套手段を利用して行うことが可能である。ゲノムDNAは、例えば、ソルガムからゲノムDNAを抽出し、ゲノミックライブラリー(ベクターとしては、プラスミドファージコスミド、BAC、PACなどが利用できる)を作製し、これを展開して、tan遺伝子(例えば、配列番号:1,2,4または5のいずれかに記載のDNA)の塩基配列を基に調製したプローブを用いてコロニーハイブリダイゼーションあるいはプラークハイブリダイゼーションを行うことにより調製することが可能である。また、tan遺伝子に特異的なプライマーを作成し、これを利用したPCRを行うことによって調製することも可能である。また、cDNAは、例えば、ソルガムから抽出したmRNAを基にcDNAを合成し、これをλZAP等のベクターに挿入してcDNAライブラリーを作成し、これを展開して、上記と同様にコロニーハイブリダイゼーションあるいはプラークハイブリダイゼーションを行うことにより、また、PCRを行うことにより調製することが可能である。

0037

<感受性型tan遺伝子の発現を抑制するために用いるDNA>
また、本発明は、植物の感受性型tan遺伝子(感受性型DNA等)の発現を抑制するために用いるDNAを提供する。これらのDNAの導入により、植物における3-デオキシアントシアニジン合成を抑制し、植物に病原性糸状菌に対する抵抗性を付与することが可能である。この意味において、植物の感受性型tan遺伝子の発現を抑制するために用いるDNAは、植物における3-デオキシアントシアニジン合成を抑制するための薬剤であり、植物に病原性糸状菌に対する抵抗性を付与するための薬剤である。ここで「tan遺伝子の発現の抑制」には、遺伝子の転写の抑制およびタンパク質への翻訳の抑制の双方が含まれる。また、「発現の抑制」には、発現の完全な停止のみならず発現の減少も含まれる。

0038

植物の感受性型tan遺伝子の発現を抑制するために用いるDNAの一つの態様は、上記した本発明の感受性型DNA等の転写産物と相補的なdsRNA(二重鎖RNA)をコードするDNAである。標的遺伝子配列と同一もしくは類似した配列を有するdsRNAを細胞内に導入することにより、導入した外来遺伝子および標的内因性遺伝子の発現がいずれも抑制される、RNAi(RNA干渉、RNA interference)と呼ばれる現象を引き起こすことができる。細胞に約40〜数百塩基対のdsRNAが導入されると、ヘリカーゼドメインを持つダイサー(Dicer)と呼ばれるRNaseIII様のヌクレアーゼが、ATP存在下で、dsRNAを3'末端から約21〜23塩基対ずつ切り出し、siRNA(short interference RNA)が生じる。このsiRNAに、特異的なタンパク質が結合して、ヌクレアーゼ複合体(RISC:RNA-induced silencing complex)が形成される。この複合体はsiRNAと同じ配列を認識して結合し、RNaseIII様の酵素活性によってsiRNAの中央部で標的遺伝子の転写産物(mRNA)を切断する。また、この経路とは別にsiRNAのアンチセンス鎖がmRNAに結合してRNA依存性RNAポリメラーゼ(RsRP)のプライマーとして作用し、dsRNAが合成される。このdsRNAが再びダイサーの基質となって、新たなsiRNAを生じて作用を増幅する経路も考えられている。

0039

本発明のdsRNAをコードするDNAは、標的遺伝子の転写産物(mRNA)のいずれかの領域に対するアンチセンスRNAをコードしたアンチセンスDNAと、該mRNAのいずれかの領域のセンスRNAをコードしたセンスDNAを含み、該アンチセンスDNAおよび該センスDNAより、それぞれアンチセンスRNAおよびセンスRNAを発現させることができる。また、これらのアンチセンスRNAおよびセンスRNAよりdsRNAを作成することができる。

0040

本発明のdsRNAの発現システムをベクター等に保持させる場合の構成としては、同一のベクターからアンチセンスRNAおよびセンスRNAを発現させる場合と、異なるベクターからそれぞれアンチセンスRNAとセンスRNAを発現させる場合がある。同一のベクターからアンチセンスRNAおよびセンスRNAを発現させる構成としては、例えば、アンチセンスDNAおよびセンスDNAの上流にそれぞれpol
III系のような短いRNAを発現し得るプロモーターを連結させたアンチセンスRNA発現カセットとセンスRNA発現カセットをそれぞれ構築し、これらカセットを同方向にあるいは逆方向にベクターに挿入する構成である。

0041

また、異なる鎖上に対向するように、アンチセンスDNAとセンスDNAとを逆向きに配置した発現システムを構成することもできる。この構成では、アンチセンスRNAコード鎖とセンスRNAコード鎖とが対となった一つの二本鎖DNA(siRNAコードDNA)が備えられ、その両側にそれぞれの鎖からアンチセンスRNAとセンスRNAとを発現し得るようにプロモーターを対向して備える。この場合には、センスRNAとアンチセンスRNAの下流に余分な配列が付加されることを避けるために、それぞれの鎖(アンチセンスRNAコード鎖、センスRNAコード鎖)の3'末端にターミネーターをそれぞれ備えることが好ましい。このターミネーターは、A(アデニン)塩基を4つ以上連続させた配列などを用いることができる。また、このパリンドロームスタイルの発現システムでは、二つのプロモーターの種類は異なっていることが好ましい。

0042

また、異なるベクターからアンチセンスRNAおよびセンスRNAを発現させる構成としては、例えば、アンチセンスDNAおよびセンスDNAの上流にそれぞれpolIII系のような短いRNAを発現し得るプロモーターを連結させたアンチセンスRNA発現カセットとセンスRNA発現カセットとをそれぞれ構築し、これらカセットを異なるベクターに保持させる構成である。

0043

本発明に用いるdsRNAとしては、siRNAが好ましい。「siRNA」は、細胞内で毒性を示さない範囲の短鎖からなる二重鎖RNAを意味する。標的tan遺伝子の発現を抑制することができ、かつ、毒性を示さなければ、その鎖長に特に制限はない。dsRNAの鎖長は、例えば、15〜49塩基対であり、好適には15〜35塩基対でり、さらに好適には21〜30塩基対である。

0044

本発明のdsRNAをコードするDNAとしては、標的配列インバーテッドリピートの間に適当な配列(イントロン配列が望ましい)を挿入し、ヘアピン構造を持つダブルストランドRNA(self-complementary 'hairpin' RNA(hpRNA))を作るようなコンストラクト(Smith, N.A., et al. Nature, 407:319, 2000、Wesley, S. V. et al. Plant J. 27:581, 2001、Piccin, A. et al. Nucleic Acids Res. 29:E55, 2001)を用いることもできる。

0045

本発明のdsRNAをコードするDNAは、標的tan遺伝子の塩基配列と完全に同一である必要はないが、少なくとも70%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上(例えば、95%、96%、97%、98%、99%以上)の配列の同一性を有する。配列の同一性は上述した手法(BLASTプログラム)により決定できる。

0046

dsRNAにおけるRNA同士が対合した二重鎖RNAの部分は、完全に対合しているものに限らず、ミスマッチ(対応する塩基が相補的でない)、バルジ(一方の鎖に対応する塩基がない)などにより不対合部分が含まれていてもよい。本発明においては、dsRNAにおけるRNA同士が対合する二重鎖RNA領域中に、バルジおよびミスマッチの両方が含まれていてもよい。

0047

植物の感受性型tan遺伝子の発現を抑制するために用いるDNAの他の態様は、上記した本発明の感受性型DNAの転写産物と相補的なアンチセンスRNAをコードするDNA(アンチセンスDNA)である。アンチセンスDNAが標的遺伝子の発現を抑制する作用としては、三重鎖形成による転写開始阻害RNAポリメラーゼによって局部的に開状ループ構造がつくられた部位とのハイブリッド形成による転写抑制、合成の進みつつあるRNAとのハイブリッド形成による転写阻害、イントロンエキソンとの接合点でのハイブリッド形成によるスプライシング抑制、スプライソソーム形成部位とのハイブリッド形成によるスプライシング抑制、mRNAとのハイブリッド形成による核から細胞質への移行抑制、キャッピング部位ポリ(A)付加部位とのハイブリッド形成によるスプライシング抑制、翻訳開始因子結合部位とのハイブリッド形成による翻訳開始抑制、開始コドン近傍のリボソーム結合部位とのハイブリッド形成による翻訳抑制、mRNAの翻訳領域やポリソーム結合部位とのハイブリッド形成によるペプチド鎖伸長阻止、および核酸とタンパク質との相互作用部位とのハイブリッド形成による遺伝子発現抑制などが挙げられる。これらは、転写、スプライシング、または翻訳の過程を阻害して、標的遺伝子の発現を抑制する(平島および井上「新生化学実験講座2 核酸IV 遺伝子の複製と発現」,日本生化学会編,東京化学同人, pp.319-347, 1993)。本発明で用いられるアンチセンスDNAは、上記のいずれの作用で標的tan遺伝子の発現を抑制してもよい。一つの態様としては、標的遺伝子のmRNAの5'端近傍の非翻訳領域に相補的なアンチセンス配列を設計すれば、遺伝子の翻訳阻害に効果的であろう。しかし、コード領域もしくは3'側の非翻訳領域に相補的な配列も使用し得る。このように、遺伝子の翻訳領域だけでなく非翻訳領域の配列のアンチセンス配列を含むDNAも、本発明で利用されるアンチセンスDNAに含まれる。使用されるアンチセンスDNAは、適当なプロモーターの下流に連結され、好ましくは3'側に転写終結シグナルを含む配列が連結される。

0048

アンチセンスDNAは、本発明の感受性型DNA(例えば、配列番号:1に記載の塩基配列からなるDNA)の配列情報を基にホスホロチオネート法(Stein, Nucleic AcidsRes., 16:3209-3221, 1988)などにより調製することが可能である。調製されたDNAは、後述する公知の方法で、植物へ導入できる。アンチセンスDNAの配列は、植物が持つ内因性の感受性tan遺伝子の転写産物と相補的な配列であることが好ましいが、遺伝子の発現を有効に阻害できる限り、完全に相補的でなくてもよい。転写されたRNAは、標的とする遺伝子の転写産物に対して好ましくは90%以上(例えば、95%、96%、97%、98%、99%以上)の相補性を有する。効果的に標的遺伝子の発現を阻害するには、アンチセンスDNAの長さは、少なくとも15塩基以上であり、好ましくは100塩基以上であり、さらに好ましくは500塩基以上である。通常、用いられるアンチセンスDNAの長さは5kbよりも短く、好ましくは2.5kbよりも短い。

0049

植物の感受性型tan遺伝子の発現を抑制するために用いるDNAの他の態様は、本発明の感受性型DNA等の転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有するRNAをコードするDNAである。リボザイムには、グループIイントロン型や、RNasePに含まれるM1RNAのように400ヌクレオチド以上の大きさのものもあるが、ハンマーヘッド型やヘアピン型と呼ばれる40ヌクレオチド程度の活性ドメインを有するものもある(小誠および大塚栄子、蛋白質核酸酵素, 35:2191, 1990)。

0050

例えば、ハンマーヘッド型リボザイムの自己切断ドメインは、G13U14C15のC15の3'側を切断するが、活性にはU14が9位のAと塩基対を形成することが重要とされ、15位の塩基はCの他にAまたはUでも切断されることが示されている(Koizumi et. al., FEBSLett. 228:225, 1988)。リボザイムの基質結合部を標的部位近傍のRNA配列と相補的になるように設計すれば、標的RNA中のUC、UUまたはUAという配列を認識する制限酵素的なRNA切断リボザイムを作出することが可能である(Koizumi et. al., FEBS Lett. 239:285, 1988、小泉誠および大塚栄子,蛋白質核酸酵素,35:2191, 1990、Koizumi et. al., Nucleic. Acids. Res. 17:7059, 1989)。

0051

また、ヘアピン型リボザイムも、本発明の目的のために有用である。ヘアピン型リボザイムは、例えばタバコリングスポットウイルスサテライトRNAマイナス鎖に見出される(Buzayan, Nature 323:349, 1986)。このリボザイムも、標的特異的なRNA切断を起こすように設計できることが示されている(Kikuchi and Sasaki, Nucleic AcidsRes. 19:6751, 1992、池洋,化学と生物30:112, 1992)。標的を切断できるよう設計されたリボザイムは、植物細胞中で転写されるようにカリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーターなどのプロモーターおよび転写終結配列に連結される。このような構成単位タンデムに並べ、標的遺伝子内の複数の部位を切断できるようにして、より効果を高めることもできる(Yuyama et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 186:1271, 1992)。このようなリボザイムを用いて標的となるtan遺伝子の転写産物を特異的に切断し、該遺伝子の発現を抑制することができる。

0052

<ベクター、形質転換植物細胞形質転換植物体
本発明は、また、上記本発明のDNA(合成誘導型DNA、合成抑制型DNA、感受性型DNA、抵抗性型DNA、感受性型tan遺伝子の発現を抑制するためのDNA)を含むベクター、上記本発明のDNAまたはそれを含むベクターが導入された植物細胞(例えば、ソルガム細胞、イネ細胞、トウモロコシ細胞)、該植物細胞を含む植物体(例えば、ソルガム、イネ、トウモロコシ)、該植物体の子孫またはクローンである植物体、および、これら植物体の繁殖材料を提供する。

0053

本発明のベクターとしては、例えば、自律複製可能なベクターまたは染色体中に相同組換え可能なベクターを使用することができる。本発明のベクターは、植物細胞に導入した後、本発明のDNAが発現するように、通常、適当な発現プロモーターを含む。本発明に用いるプロモーターとして、例えば、カリフラワーモザイクウイルス由来の35Sプロモーター、トウモロコシ由来ユビキチンプロモーターを挙げることができる。ベクターは、選択マーカー複製開始点、ターミネーター、ポリリンカーエンハンサーリボゾーム結合部位などを適宜含むことができる。一般に、該プロモーターの下流に、本発明のDNAが位置し、さらに該DNAの下流にはターミネーターが位置する。ターミネーターとしては、例えば、カリフラワーモザイクウイルス由来のターミネーターやノパリン合成酵素遺伝子由来のターミネーターを挙げることができる。

0054

上記ベクターを導入する植物細胞の形態としては、特に制限はなく、懸濁培養細胞、プロトプラスト、葉の切片カルス未熟胚花粉などを例示することができる。上記ベクターを植物細胞中に導入し、植物体を再生させる方法としては、当該技術分野における常法を用いることができる。

0055

ソルガムにおいては、例えば、アグロバクテリウム法パーティクルガン法により、未熟胚やカルスに遺伝子導入して植物体を再生させる方法、超音波によって遺伝子導入した花粉を用いて受粉する方法が好適に用いられる(J. A. Able et al., In Vitro Cell. Dev. Biol. 37:341-348, 2001、A. M. Casas et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:11212-11216, 1993、V. Girijashankar et al., Plant Cell Rep 24:513-522, 2005、J. M. JEOUNG et al., Hereditas 137:20-28, 2002、V Girijashankar et al., Plant Cell Rep 24(9):513-522, 2005、Zuo-yu Zhao et al., Plant Molecular Biology 44:789-798, 2000、S. Gurel et al., Plant Cell Rep 28(3):429-444, 2009、ZY Zhao, MethodsMol Biol, 343:233-244, 2006、AK Shrawat and H Lorz, Plant Biotechnol J, 4(6):575-603, 2006、D Syamala and P Devi Indian J Exp Biol, 41(12):1482-1486, 2003、Z Gao et al., Plant Biotechnol J, 3(6):591-599, 2005)。

0056

イネにおいては、例えば、ポリエチレングリコールによりプロトプラストへ遺伝子導入し、植物体を再生させる方法(Datta,S.K. In Gene Transfer To Plants(Potrykus I and Spangenberg Eds.)pp66−74,1995)、電気パルスによりプロトプラストへ遺伝子導入し、植物体を再生させる方法(Toki et al. Plant Physiol.100,1503−1507,1992)、パーティクルガン法により細胞へ遺伝子を直接導入し、植物体を再生させる方法(Christou et al. Bio/technology,9:957−962,1991)およびアグロバクテリウムを介して遺伝子を導入し、植物体を再生させる方法(Hiei et al. Plant J.6:271−282,1994)など、いくつかの技術が既に確立し、本願発明の技術分野において広く用いられている。

0057

トウモロコシにおいては、例えば、Shillitoら(Bio/Technology, 7: 581, 1989)に記載された方法やGorden-Kammら(Plant Cell 2: 603, 1990)に記載された方法が挙げられる。

0058

上記本発明のDNAは、外因性のDNAとして植物に導入することができるが、本発明のDNAを有する品種との交配によって植物に導入することもできる。本発明における「導入」には、これら双方の形態が含まれる。

0059

一旦、染色体内に上記本発明のDNAが導入された植物体が得られれば、該植物体から有性生殖または無性生殖により子孫を得ることが可能である。また、該植物体やその子孫あるいはクローンから繁殖材料(例えば、カルス、プロトプラスト、花粉、種子、切等)を得て、それらを基に該植物体を量産することも可能である。本発明には、上記本発明のDNAが導入された植物細胞、該細胞を含む植物体、該植物体の子孫およびクローン、ならびに該植物体、その子孫およびクローンの繁殖材料が含まれる。

0060

本発明の感受性型DNAが導入された植物体は、例えば、植物に病原性糸状菌に対する抵抗性を付与するための薬剤の開発(スクリーニング)や病原性糸状菌に対する感受性発症の機構の解明のための実験用植物として利用することができる。一方、本発明の抵抗性型DNAまたは本発明の感受性型tan遺伝子の発現を抑制するためのDNAが導入された植物体は、これらDNAが導入されていない感受性の植物体と比較して、その収量の増大が期待でき、より有用性の高い農作物あるいはバイオマスとして利用することができる。

0061

<病原性糸状菌に対する抵抗性が付与された植物の作出方法>
本発明は、また、植物において、本発明の感受性型DNA(感受性型tan遺伝子)の発現または機能を抑制することを特徴とする、病原性糸状菌に対する抵抗性が付与された植物の作出方法を提供する。本発明において、植物に病原性糸状菌に対する抵抗性を「付与する」とは、病原性糸状菌に対する抵抗性を全く有しない品種に病原性糸状菌に対する抵抗性を持たせることのみならず、既に、一定の病原性糸状菌に対する抵抗性を有している品種における、病原性糸状菌に対する抵抗性を、さらに増大させることをも含む意である。

0062

植物における本発明の感受性型DNAの発現または機能を抑制するための一つの態様は、植物に、上記本発明の抵抗性型DNAを導入することである。植物における病原性糸状菌に対する抵抗性は、単一劣性遺伝子支配であるため、植物に病原性糸状菌に対する抵抗性の形質を付与するためには、通常、個体におけるtan対立遺伝子の双方を抵抗性型DNAにする必要がある。これにより個体中で抵抗性型DNAのみが発現し、植物に病原性糸状菌に対する抵抗性を付与することができる。植物染色体への本発明の抵抗性型DNAの導入は、例えば、交配や相同組換えにより行うことができる。抵抗性型DNAを導入することに代えて、植物染色体上の感受性型DNAに、特定のDNA配列を導入し、その機能を破壊してもよい。

0063

植物における本発明の感受性型DNAの発現または機能を抑制するための他の一つの態様は、植物に上記本発明のtan遺伝子の発現を抑制するためのDNAを導入することである。これにより個体中の感受性型DNAから、感受性型の翻訳産物生産されなくなるため、植物に病原性糸状菌に対する抵抗性を付与することができる。

0064

植物における本発明の感受性型DNAの発現または機能を抑制するための他の態様としては、例えば、感受性型DNAの発現を抑制する薬剤や感受性型の翻訳産物に結合し、その機能を抑制する薬剤の利用も考えられる。

0065

<植物における病原性糸状菌に対する感受性または抵抗性を判定する方法>
本発明は、また、植物における病原性糸状菌に対する感受性または抵抗性を判定する方法を提供する。本発明の判定方法の一つの態様は、植物におけるtan遺伝子の塩基配列を解析し、対照の塩基配列と比較することを特徴とする方法である。

0066

tan遺伝子の塩基配列の解析に際しては、tan遺伝子をPCRにより増幅した増幅産物を用いることができる。前記PCRを実施する場合において、用いられるプライマーは、tan遺伝子を特異的に増幅できるものである限り制限はなく、tan遺伝子の配列情報(例えば、配列番号:1,2,4または5)に基づいて適宜設計することができる。好適なプライマーとしては、後述の表2に記載の、配列番号:17、18、25または26に記載の塩基配列からなるプライマーが挙げられる。これらプライマーを適宜組み合わせて、tan遺伝子の特定の塩基配列を増幅することができる。

0067

被検植物におけるtan遺伝子の塩基配列と比較する「対照の塩基配列」は、典型的には、感受性型品種または抵抗性型品種におけるtan遺伝子の塩基配列である。決定したtan遺伝子の塩基配列と感受性型品種における塩基配列(例えば、配列番号:1,2)または抵抗性型品種における塩基配列(例えば、配列番号:4,5)とを比較することにより、被検植物におけるtan遺伝子が、抵抗性型であるか感受性型であるかを評価することができる。例えば、感受性型品種における塩基配列(例えば、配列番号:1,2)と比較して、蛋白質の機能を消失させる変異(例えば、ソルガムにおいては、C252Y、I268V)が存在する場合、被検植物におけるtan遺伝子は抵抗性型である蓋然性が高いと判定される。

0068

被検植物におけるtan遺伝子の塩基配列が、対照の塩基配列と相違するか否かは、上記した直接的な塩基配列の決定以外に、種々の方法により間接的に解析することができる。このような方法としては、例えば、PCR-SSCP(single-strand conformation polymorphism、一本鎖高次構造多型)法、制限酵素断片長多型(Restriction Fragment Length Polymorphism/RFLP)を利用したRFLP法やPCR-RFLP法、変性剤濃度勾配ゲル電気泳動法(denaturant gradient gel electrophoresis:DGGE)、アレル特異的オリゴヌクレオチド(Allele Specific Oligonucleotide/ASOハイブリダイゼーション法リボヌクレアーゼAミスマッチ切断法が挙げられる。

0069

なお、本発明の判定方法における、被検植物からのDNAの調製は、常法、例えば、CTAB法を用いて行うことができる。DNAを調製するための植物としては、成長した植物体のみならず、植物の種子や幼植物体を用いることもできる。

0070

また、塩基配列の決定は、常法、例えば、ジデオキシ法やマキサム-ギルバート法などにより行なうことができる。塩基配列の決定においては、市販のシークエンスキットおよびシークエンサーを利用することができる。

0071

本発明の判定方法の他の一つの態様は、植物におけるtan遺伝子の発現または発現産物の分子量を検出することを特徴とする方法である。ここで「遺伝子の発現の検出」には、転写レベルにおける検出および翻訳レベルにおける検出の双方を含む意である。また、「発現の検出」には、発現の有無の検出のみならず、発現の程度の検出も含む意である。

0072

転写レベルにおける検出は、常法、例えば、RT-PCR(Reverse transcribed-Polymerase chain reaction)法やノーザンブロッティング法により実施することができる。前記PCRを実施する場合において用いられるプライマーは、tan遺伝子を特異的に増幅できるものである限り制限はなく、tan遺伝子の配列情報(例えば、配列番号:1,2,4または5)に基づいて適宜設計することができる。プライマーの好適な例は、上記表2に記載の、配列番号:17に記載の塩基配列からなるプライマーと配列番号:18に記載の塩基配列からなるプライマーとの組み合わせである。

0073

一方、翻訳レベルにおける検出は、常法、例えば、ウェスタンブロッティング法により、実施することができる。ウェスタンブロッティングに用いる抗体は、ポリクローナル抗体でもモノクローナル抗体でもよく、これら抗体の調製方法は、当業者に周知である。

0074

遺伝子発現の検出の結果、被検体において、感受性型tan遺伝子の発現量が感受性品種(例えば、ソルガムにおいては那系MS-3B)の発現量よりも有意に低ければ、また、感受性型tan遺伝子の発現産物の分子量が感受性品種(例えば、ソルガムにおいては那系MS-3B)における分子量と有意に異なれば、感受性型tan遺伝子の機能の発現が抑制されると考えられる。従って、この場合には、被検植物が病原性糸状菌に対する抵抗性を有する蓋然性が高いと判定される。

0075

本発明の判定方法の他の一つの態様は、被検植物における、tan遺伝子と連鎖する分子マーカーの塩基配列を解析し、対照の塩基配列と比較することを特徴とする方法である。ここで「分子マーカー」とは、tan遺伝子と遺伝的に連鎖するDNA領域であって、他のDNA領域と識別可能なDNA領域をいう。分子マーカーは、tan遺伝子の近傍に位置する程、tan遺伝子と同時に遺伝しやすいため、本発明の判定方法において有用性が高い。有用性の高い本発明の分子マーカーは、通常、tan遺伝子のコード領域の両末端塩基から50kbp以内に存在するものであり、より好ましくは20kbp以内、さらに好ましくは10kbp以内に存在するものである。

0076

本発明の分子マーカーの好ましい態様は、挿入・欠失マーカー、SSR(単純反復配列)マーカー、CAPS(増幅切断多型)マーカーおよびSNP(一塩基多型)マーカーである。挿入・欠失マーカーは、塩基の挿入および/または欠失によって生じるDNA多型である。SSRマーカーは、2あるいは3塩基の単位(例えば、「CA」、「CG」、「TA」、「TC」、「AGG」、「CTT」、「CGC」、「GAG」など)が、数回から数百回反復する繰り返し配列である。この繰り返しの数が個体または系統によって異なっているため、この繰り返し数の違いはDNA多型として利用することができる。CAPSマーカーは、制限酵素の認識配列において、塩基の挿入、欠失、置換等によって生じるDNA多型である。SNPマーカーは、DNAの塩基配列中の塩基1個の置換によって生ずるDNA多型である。分子マーカーとなる塩基配列は、当業者であれば、例えば、品種間におけるtan遺伝子の塩基配列の比較を基に、適宜抽出することが可能である。

0077

挿入・欠失マーカーにおける塩基配列の解析は、直接的な塩基配列の決定を行う方法以外に、当該マーカー領域を含む塩基配列をプライマーを利用したPCRを行い、得られた増幅産物を電気泳動し、ゲル上におけるDNAバンドの位置の違いとして検出する方法で実施することができる。また、SSRマーカーにおける塩基配列の解析は、直接的な塩基配列の決定を行って、繰り返し配列の違いとして検出する方法以外に、当該繰り返し部分を含む塩基配列を増幅しうるプライマーを利用したPCRを行い、得られた増幅産物を電気泳動し、ゲル上におけるDNAバンドの位置の違いとして検出する方法で実施することができる。SNPマーカーにおける塩基配列の解析は、例えば、一塩基多型部分を含む塩基配列を増幅しうるプライマーを利用したPCRを行い、得られた増幅産物中の一塩基多型部分に取り込まれた塩基の種類を偏光蛍光分析器で特定する方法で実施することができる。

0078

「対照の塩基配列」としては、tan遺伝子と連鎖する公知の分子マーカーの塩基配列を利用することができる。例えば、後述の表1に示す、配列番号:7に記載の塩基配列からなるプライマー及び配列番号:8に記載の塩基配列からなるプライマーによって増幅されるソルガム6番染色体由来の領域に座乗しているSSRマーカー(SB25792)、配列番号:9に記載の塩基配列からなるプライマー及び配列番号:10に記載の塩基配列からなるプライマーによって増幅されるソルガム6番染色体由来の領域に座乗しているCAPSマーカー、配列番号:11に記載の塩基配列からなるプライマー及び配列番号:12に記載の塩基配列からなるプライマーによって増幅されるソルガム6番染色体由来の領域に座乗しているSNPマーカーが挙げられる。

0079

従って、配列番号:7に記載の塩基配列からなるプライマー及び配列番号:8に記載の塩基配列からなるプライマーで増幅されるSSRマーカーは、増幅されたDNA断片の配列または鎖長により、感受性型であるか抵抗性型であるかを判別することができる。また、配列番号:9に記載の塩基配列からなるプライマー及び配列番号:10に記載の塩基配列からなるプライマーで増幅されるCAPSマーカーは、増幅されたDNA断片が制限酵素DraIによって切断された場合には感受性型であり、増幅されたDNA断片が制限酵素DraIによって切断されない場合には抵抗性型であると判断することができる。さらに、配列番号:11に記載の塩基配列からなるプライマー及び配列番号:12に記載の塩基配列からなるプライマーで増幅されるSNPマーカーは、増幅されたDNA断片の塩基配列を解読することにより、後述の実施例に示す通り、感受性型であるか抵抗性型であるかを判別することができる。

0080

上記した通り、被検植物における分子マーカーの塩基配列と対照の塩基配列との比較は、直接的な塩基配列の比較以外に、塩基配列の違いを評価しうる他の指標(例えば、上記したPCRによる増幅産物の分子量など)の比較によって、実施することができる。

0081

比較の結果、被検植物における分子マーカーの塩基配列が、感受性型分子マーカーと同じ型である場合、被検植物は感受性の蓋然性が高いと判定され、抵抗性型分子マーカーと同じ型である場合、被検植物は抵抗性の蓋然性が高いと判定される。

0082

<病原性糸状菌に対する抵抗性の植物を育種する方法>
本発明は、また、病原性糸状菌に対する抵抗性の植物を育種する方法を提供する。本発明の育種方法は、(a)病原性糸状菌に対する抵抗性の植物品種と任意の植物品種とを交配させる工程、(b)交配により得られた個体における病原性糸状菌に対する感受性または抵抗性を、上記本発明の判定方法により判定する工程、および(c)病原性糸状菌に対する抵抗性を有すると判定された品種を選抜する工程、を含む。

0083

病原性糸状菌に対する抵抗性の植物品種と交配させる「任意の植物品種」としては、例えば、感受性品種、感受性品種と抵抗性品種との交配により得られた個体が挙げられるが、これらに制限されない。本発明の育種方法を利用すれば、病原性糸状菌に対する抵抗性の植物を、種子や幼植物の段階で選抜することが可能となり、病原性糸状菌に対する抵抗性の形質を有する品種の育成を、従来よりも短期間で行うことが可能となる。

0084

従って、本発明は、病原性糸状菌に対する抵抗性の植物を育種するための前記方法によって育種された植物体(例えば、ソルガム、イネ、トウモロコシ)、該植物体の子孫又はクローンである植物体、及びこれら植物体の繁殖材料(例えば、カルス、プロトプラスト、花粉、種子、切穂等)をも提供する。

0085

以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。また、下記実施例は以下の通りに実験、解析を行った。

0086

[実施例1]
<ソルガムのtan遺伝子の存在領域の絞り込み>
ソルガムで病障害により紫色を示す品種
那系MS-3Bとtan形質の品種Greenleafとの大規模な交配集団(F3-F5)において、ソルガムのSSRマーカーおよび挿入・欠失マーカーを利用して、tan遺伝子のマッピングを行った(図1図2図3)。なお、マッピングに用いた実験方法等については下記の通りである。

0087

(tan形質の検定)
tan形質の検定は、温室内ではパンチによる葉色の変化により行った。また、圃場で前記品種のソルガムを栽培することによって自然発生的に発生する病斑や障害、虫害による葉色の変化により検定を行った。また、那系MS-3Bは種子の穎の色が濃紫色であり、Greenleafは赤褐色であることから、この点も指標としてtan形質の検定を行った。

0088

(PCR)
ソルガムの葉からのDNAの抽出は一般的なc-TAB法や破砕による抽出法を用いた。また、多型マーカーを含む塩基配列を増幅するためのPCRにおいては、PCR試薬(GoTaq(登録商標)Green Master Mix)を5μl、蒸留水を4.4μl、DNA(20ng/μl)を0.1μl、プライマー(10p)を0.5μl含む、計10μlの反応液を調製した。そして、1反応当たり、そのうち9.5μlを使用し、94度で2分、「94度で1分→55℃で1分→72度で2分」を35サイクル、72度で10分の条件でPCR反応を行った。また、後述のマッピングに用いたCAPSマーカー及びSNPマーカーを解析するためのプライマーの情報を表1に示す。なお、表1に記載の「SB25792」は解析対象のSSRマーカーの名称であり、「Sb06g029510.1 」及び「Sb06g029530.1」は解析対象のCAPSマーカー及びSNPマーカーが各々座乗している遺伝子の名称である。

0089

0090

(各マーカーによる解析)
後述のラフマッピングには、Yonemaru J,ら、DNA Res、2009年、16巻、187〜193ページの記載のSSRマーカーを用いた。また、前述の通り、表1に示したプライマーを用いて、CAPSマーカー及びSNPマーカーの解析を行った。

0091

すなわち、CAPSマーカーによる解析においては、前記PCR反応にて増幅した産物5ulを制限酵素DraIで処理し、3%アガロースゲルにて電気泳動を行った。そして、那系MS-3Bゲノム由来の増幅産物はDraIで消化されるため、バンドサイズから多型を判別した。

0092

また、SNPマーカーによる解析に関して、前記PCR反応にて増幅した産物をダイレクトシーケンスに供し、その塩基配列を解読した。結果、解読した塩基配列において、那系MS-3BではいずれもT(チミン)であり、GreenleafにおいてはC(シトシン)とG(グアニン)となっている、2ヶ所のSNPがあることを見出し、これらのSNPを指標として、後述のマッピングを行った。

0093

先ず、F5のRIL個体(143個体)について、SSRマーカーを用いたラフマッピングを行い、tan遺伝子が染色体6番に座乗していることを解明した。次いで、F3部分へテロ集団個体(1142個体)について、SSRマーカーSB3751からSB3764の間で組換えのある個体(63個体)を選抜し、圃場にてtan形質の検定(調査)を行い、tan遺伝子の存在領域を、約150kbpの領域に絞り込んだ。

0094

さらに、ソルガム品種BTx623の塩基配列情報に基づいて見出したCAPSマーカー、SNPマーカーを用いたマッピングを行い、tan遺伝子の存在領域を最終的に約29kbpの領域に絞り込んだ(図3)。

0095

[実施例2]
<Greenleaf及び那系MS-3B間のtan遺伝子の比較>
次に、本発明者らは、前記絞り込んだ領域における遺伝子のアノテーションをデーターベースで調査したところ、この領域はトウモロコシのロイコアントシアニジンレダクターゼに相同性を持つ遺伝子がクラスターを作っていることが判明した。すなわち、この絞り込んだ領域内にはトウモロコシのロイコアントシアニジンレダクターゼに相同性を持つ4つの候補遺伝子が存在していた。そして、この4つの遺伝子の発現をRT-PCRにて調査したところ、候補遺伝子のうち、特定の候補遺伝子(以下、「tan遺伝子」と称する)の発現パターンのみが、ソルガムが病障害により紫色を呈するときに遺伝子の発現が増加することを見出した(図4)。なお、残りの遺伝子の発現はRT-PCRでは確認されなかった。このことから、この遺伝子が着色の原因遺伝子であると推測された。なお、RT-PCRは、Kikuchi R.ら、Plant Physiol、2009年、149巻、1341〜1353ページ、及びShimada S.ら、Plant J.、2009年、58巻、668〜681ページの記載に沿って行った。また、RT-PCRに用いたプライマー(配列番号:13〜24に記載の塩基配列からなるプライマー)の配列は表2に示す。

0096

0097

さらに、tan遺伝子周辺の塩基配列を決定し、そのコードするアミノ酸配列を品種間で比較したところ、紫色を呈する品種の那系MS-3Bは、タンパク質をコードする遺伝子領域のゲノム塩基配列が既に分かっている品種、BTx623と完全に一致していた(図5)。一方、Greenleafにおいては、那系MS-3Bと異なるアミノ酸配列が該領域内に2箇所あることが見出された。そして、これらの結果から、tan形質のGreenleafでは、tan遺伝子がコードするタンパク質、すなわち正常な機能を有するロイコアントシアニジンレダクターゼ様タンパク質が合成されていないことが推測された(図5)。なお、前記塩基配列及びアミノ酸配列のアライメント及び比較は、ソフトウェアGENETYX、CrastalW(http://clustalw.ddbj.nig.ac.jp/top-j.html)を用いて行った。

0098

[実施例3]
<Greenleaf及び那系MS-3Bの葉におけるアントシアニンの生成誘導についての分析>
那系MS-3B及びGreenleafの葉を5mm幅に細断し、水寒天の上で26℃でインキュベートした。そして、インキュベート開始時、インキュベート開始してから2日目、4日目、6日目に前記葉を各々回収した。次いで、得られた葉(生重量0.01g)から、1mlのメタノールにて4℃で24時間かけて抽出液を得た。そして、該抽出液の吸光度(波長493nm)を測定した。得られた結果を図6に示す。

0099

図6に示した結果から明らかなように、那系MS-3Bの葉においては細断を受け、アントシアニンの生成が誘導されているのに対し、Greenleafの葉においては誘導されていなかった。

0100

[実施例4]
<Greenleaf、那系MS-3B及びBTx623の葉における、3-デオキシアントシアニジン生成についての分析>
病斑を示したBTx623、那系MS-3B及びGreenleafの葉1gから各々0.01%塩酸メタノールにて色素を抽出した。得られた色素を2N塩酸にて100℃、1時間かけ、加水分解した後、酢酸エチルにて脂質を除去し、イソアミルアルコールで色素を抽出した。抽出した色素を風乾させた後、メタノールに溶解して、TLCシートスポッティングした。なお、薄層クラマトグラフィー(TLC)の展開は、酢酸/水/塩酸溶媒(酢酸:水:塩=30:10:3 v/v(体積比))を用いて行った。また、TLCシートはMerck社製、TLCcelluloseFを用い、アントシアニン(アピゲニニジン、ルテオリニジン)の標準品は、Fluka社製のものを用いた。得られた結果を図7に示す。

0101

図7に示した結果から明らかなように、病斑を示した那系MS-3Bの葉ではアピゲニニジン、ルテオリニジンの両方が生成しているが、Greenleafの葉ではいずれの色素も生成されていなかった。しかしながら、図には示さないが、Greenleafの葉の抽出物を展開したTLCのレーンにUVを当てることにより、スポットが観察された。このことから、Greenleafにおいても、可視光では存在を確認できないが、アントシアニンと挙動を共にしうる色素であるフラボノイド等が生成されていることが推測された。

0102

[実施例5]
<外的障害を受けたGreenleafの葉に蓄積される色素の同定>
実施例4において示唆された、外的障害を受けたGreenleafの葉において生成される色素の同定を試みた。すなわち、前記同様に、カットしたGreenleafの葉を水寒天の上でインキュベートした。そして、3日間のインキュベーションにおいて誘導された色素をメタノールで抽出し、HPLC-MSを用いて分析した。得られた結果を図8に示す。

0103

なお、HPLCの条件は、移動相の濃度(3%酢酸:メタノール)を70:30から50:50に20分かけてグラジエントに変化させた後、10分間維持した。また、分析には、カラムコスシール5C18-AR-II(ナカライテスク株式会社製)を用いた。さらに、MSの検出はAPI-ESpositiveモードにて行った。また、標準品は、CAYMANCHEMICAL社製の標品を用いた。

0104

図8に示す通り、カットしてインキュベーションしたGreenleafの葉からの抽出液においては、約18.2分にピークが見られ、このピークは、標準品との比較及びMS分析の結果から、ルテオリン由来のものであることが明らかとなった。

0105

なお、MS分析によって得られたその他のピークについては不明である。また、非特許文献4において、tan形質を示すソルガムではアピゲニンが蓄積していると記載されていたが、今回の分析では確認されなかった。

0106

また、図には示さないが、ソルガムのアントシアニン合成経路(図9参照)において、各反応段階において作用する酵素をコードする遺伝子の発現をRT-PCRにて検出したところ、那系MS-3B及びGreenleaf共に、各段階の反応を触媒する酵素をコードする遺伝子はいずれも発現していることが明らかとなった。

0107

これらの結果から、那系MS-3Bにおいては、アントシアニン合成の最終段階である3デオキシアントシアニジンレダクターゼ(3-DANS)は正常な活性を保持しているため、アピゲニニジン及びルテオニジンが合成され、葉の外的障害を受けた部位は紫色等に着色される。一方、Greenleafでは3-DANSが機能していないため、この最終反応が起きないと考えられ、その代わりにFNSII酵素の作用でルテオリンが蓄積することが推測される。

0108

さらに、外的障害を受けたGreenleafの葉においては、前述の通り、3-デオキシアントシアニジンの代わりに少なくともルテオリンが蓄積していることが明らかになった。また、ルテオリンは抗酸化活性や抗菌活性を有していることから、tan形質を示すソルガムの葉においては、この色素が蓄積することにより、病原性糸状菌等に対する抵抗性が発揮されていると推測される。

0109

[実施例6]
<tan形質と病原性糸状菌等に対する抵抗性との相関についての検証>
前述の通り、変異型のtan遺伝子を有するtan形質と病原性糸状菌等に対する抵抗性との相関を確認するため、QTL解析を行った。すなわち、那系MS-3BとGreenleafとを交配して得られたF5のRILのうち、染色体6番が部分ヘテロとなっているRIL 112を選択し、各々の植物個体から前記同様、DNAを抽出し、SSRマーカーを用いてこの領域のタイピングを行った。

0110

また、すす紋病については2010年に、信州大学伊那キャンパス圃場にて、2番草に発病するすす紋病の罹病程度を観察した。その結果、図には示さないが、tan形質を持つ個体では明らかにすす紋病に対して抵抗性を示すことが確認された。

0111

これらの結果から、図10に示す通り、すす紋病に抵抗性を示す遺伝子領域を示すQTLの領域は2MBにまで絞り込まれ、この領域はtan遺伝子(または、その遺伝子座)が含まれていることから、tan形質がすす紋病等の抵抗性を高める可能性があることが強く示唆された。

実施例

0112

以上の結果から、tan形質を示すソルガムにおいては、tan遺伝子が変異しているため、この遺伝子がコードするロイコアントシアニジンレダクターゼ様タンパク質、すなわち3デオキシアントシアニジンレダクターゼ(3-DANS)の機能が不活化している。そのため、外的障害を受けた部位においては、3-デオキシアントシアニジン(アピゲニニジン及びルテオニジン)が合成されず、代わりに抗菌活性等を有しているルテオリン等が蓄積されることにより、tan形質において、病原性糸状菌に対する抵抗性が発揮されていることが明らかになった。

0113

本発明により、植物の病原性糸状菌に対する感受性および抵抗性に関わるtan遺伝子が同定され、tan形質の発症の機構が明らかとなった。植物の病原性糸状菌に対する感受性および抵抗性を判定する場合、従来は、病原菌の感染試験を行う必要があったが、tan遺伝子をマーカーとして用いれば、病原菌の接種検定などを行うことなく、また、種子あるいは幼植物の段階においても、簡易に判定が可能であり、ひいては抵抗性品種を効率的に育種することが可能である。育種される抵抗性品種は、病原性糸状菌による被害軽減に貢献する他、バイオマスの生産量の向上や高品質飼料作成が期待される。tan遺伝子は、3-デオキシアントシアニジンの合成における利用も考えられる。

0114

配列番号7〜26
<223>人工的に合成されたプライマーの塩基配列

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