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技術 軽度認知障害の治療用医薬剤、初期認知症の治療用医薬剤、神経細胞の樹状突起形成促進剤、神経細胞のシナプス形成促進剤、検定方法およびスクリーニング方法

出願人 学校法人慶應義塾
発明者 相磯貞和笹部潤平千葉知宏
出願日 2010年10月27日 (9年3ヶ月経過) 出願番号 2010-241293
公開日 2012年5月17日 (7年9ヶ月経過) 公開番号 2012-092048
状態 未査定
技術分野 生物学的材料の調査,分析 特有な方法による材料の調査、分析 酵素、微生物を含む測定、試験 蛋白脂質酵素含有:その他の医薬 化合物または医薬の治療活性
主要キーワード 認知機能検査 死細胞率 初期イベント 日本語版 神経細胞死抑制作用 伸長促進効果 認知力 判断力
関連する未来課題
重要な関連分野

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図面 (3)

課題

軽度認知障害及び初期認知症治療用医薬剤神経細胞樹状突起形成促進剤、あるいは神経細胞のシナプス形成促進剤など、を提供すること。

解決手段

MAPGFSLLLLTSEILPVKRRA(配列番号1)またはMAPRGFSCLLLLTGEIDLPVKRRA(配列番号2)からなる配列を有するペプチド、あるいは、前記ペプチドを発現する発現ベクターを含有する医薬または試薬を製造する。その医薬または試薬は、軽度認知障害及び初期認知症の治療用医薬剤、神経細胞の樹状突起形成促進剤、あるいは、神経細胞のシナプス形成促進剤として有効である。

概要

背景

軽度認知障害(MCI: mild cognitive impairment)は、年齢相応加齢による認知力減退(ADAS: age-associated memory impairment)を有する正常群と、認知症診断される群との中間に位置する病的状態と考えられている。軽度認知障害を有する患者のうち、約70%は、アルツハイマー病へと移行し(非特許文献1参照)、約30%は、血管性認知症、Lewy小体型認知症など他の認知症に移行することもあるが、通常、症状は非進行で比較的安定である (非特許文献2及び3参照)。

軽度認知障害の診断には、2003年のMCIコンセンサス会議提唱された診断基準が、一般的に用いられている(非特許文献4参照)。それによると、
(1)正常ではなく、認知症でもない(DSMIVやICD10の認知症の診断基準を満たさない)、
(2)本人かつ/または家族から認知機能低下訴えがあり、客観的認知機能検査でも障害を認めるかつ/または検査上以前と比べて認知機能低下がある、
(3)ADL(日常生活動作)は正常あるいはごく軽度に、複雑な動作機能が障害されているのみである、という3点を満たす場合に、軽度認知障害と診断される。それ以外の診断基準としては、Clinical Dementia Rating (CDR)では0.5(認知症疑いに相当)、Global Deterioration Scale (GDS)では2〜3(年齢相応の認知障害〜軽度認知障害に相当)、簡易認知機能検査のMini-Mental State Examination (MMSE)では、26〜27程度(30満点で24までが正常)などが用いられている。

軽度認知障害を有する患者の脳においては、病理学的には、神経突起変性シナプス形成異常、あるいはシナプス数減少などのシナプス形成不全が観察され、海馬におけるシナプス数減少が認知機能の低下と相関していることが報告された(非特許文献5参照)。また、FunctionalMRIで調べられた結果、海馬内での機能的連絡、すなわちシナプスを介した神経細胞同士の連絡の低下が軽度認知障害で認められた(非特許文献6及び7参照)。

軽度認知障害の初期には、シナプス活動の低下に対する代償として、シナプスマーカーが一時的に上昇する(非特許文献8参照)が、その後、シナプス数の減少が進行性に起こり、アルツハイマー病などの認知症へ移行すると、シナプスマーカーの発現は減少する(非特許文献9参照)。

このように、シナプス活動の低下とシナプス数の減少は、軽度認知障害の発症過程における初期イベントであって、軽度認知障害の症状に重要な役割を果たしており(非特許文献5参照)、シナプス機能及び/又はシナプス数の維持は、軽度認知障害または初期認知障害の治療に有用であると考えられている(非特許文献10参照)。

一方、認知症の一種であるアルツハイマー病患者の脳内でも、神経細胞死よりも神経突起変性やシナプス数減少などが、より早期に起こることが知られている(非特許文献11参照)。しかしながら、アルツハイマー病のような神経変性疾患病因は多様であって、例えば、コリン作動性神経の機能が低下していることがその一つであると考えられ、治療薬として塩酸ドネペジルアリセプト)、リバスチグミンガランタミンなどのアセチルコリンエステラーゼ阻害剤が用いられている。

これに対し、軽度認知障害の患者では、海馬におけるコリン作動性神経の機能が上昇していることが知られており(非特許文献12、13参照)、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤をそのまま適用しても、軽度認知障害に対する治療効果は全く期待できない。実際、塩酸ドネペジルを軽度認知障害患者に使用した治験では、部分的にしか効果が得られていない(非特許文献14−18参照)。

また、神経細胞死を抑制するとされるメマンチンは、アルツハイマー性細胞死を抑制する治療薬として知られているが、シナプス活動の低下とシナプス数の減少が、認知症の発症過程における初期イベントであって、細胞死はその後に起きる(非特許文献11参照)ため、まだ細胞死が認められないような初期認知症の患者に対しては効果が得られないと考えられる。実際、メマンチンは、アルツハイマー認知症の中等度重度における適用が欧米で認められているにすぎない。

ヒューマニンペプチドおよび第14位アミノ酸置換ヒューマニンペプチドも、神経細胞死抑制作用を有することから、神経細胞の変性、脱落に起因するアルツハイマー症の治療薬としての有用性が既に報告されている(特許文献1、2参照)。しかしながら、ヒューマニンペプチドおよび第14位アミノ酸G置換ヒューマニンペプチドに関し、神経細胞死抑制以外の薬理効果については報告がなく、脳で神経細胞死が生じていないケースに対する適用は考えられていなかった。

概要

軽度認知障害及び初期認知症の治療用医薬剤、神経細胞の樹状突起形成促進剤、あるいは神経細胞のシナプス形成促進剤など、を提供すること。MAPGFSLLLLTSEILPVKRRA(配列番号1)またはMAPRGFSCLLLLTGEIDLPVKRRA(配列番号2)からなる配列を有するペプチド、あるいは、前記ペプチドを発現する発現ベクターを含有する医薬または試薬を製造する。その医薬または試薬は、軽度認知障害及び初期認知症の治療用医薬剤、神経細胞の樹状突起形成促進剤、あるいは、神経細胞のシナプス形成促進剤として有効である。 なし

目的

本発明は、軽度認知障害(MCI: mild cognitive impairment)の治療用医薬剤、初期認知症の治療用医薬剤、神経細胞の樹状突起形成促進剤、神経細胞のシナプス形成促進剤、検定方法およびスクリーニング方法を提供する

効果

実績

技術文献被引用数
0件
牽制数
0件

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請求項1

ヒューマニンペプチドまたは第14位アミノ酸置換ヒューマニンペプチド、あるいは、前記ペプチドを発現する発現ベクターを含有することを特徴とする、軽度認知障害(MCI: mild cognitive impairment)または初期認知症治療用医薬剤

請求項2

前記ペプチドのアミノ酸配列ヒト由来であることを特徴とする請求項1に記載の治療用医薬剤。

請求項3

前記ペプチドが、MAPGFSLLLLTSEILPVKRRA(配列番号1)またはMAPRGFSCLLLLTGEIDLPVKRRA(配列番号2)からなる配列を有することを特徴とする請求項2に記載の治療用医薬剤。

請求項4

前記軽度認知障害または前記初期認知症の患者においては、シナプス形成不全が生じているが、神経細胞死が事実上生じていないことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の治療用医薬剤。

請求項5

ヒューマニンペプチドまたは第14位アミノ酸G置換ヒューマニンペプチド、あるいは、前記ペプチドを発現する発現ベクターを含有することを特徴とする、神経細胞樹状突起形成促進剤

請求項6

ヒューマニンペプチドまたは第14位アミノ酸G置換ヒューマニンペプチド、あるいは、前記ペプチドを発現する発現ベクターを含有することを特徴とする、神経細胞のシナプス形成促進剤

請求項7

ヒューマニンペプチドまたはヒューマニンペプチド誘導体が、神経細胞の樹状突起形成促進効果、または神経細胞のシナプス形成促進効果を有するかどうかを調べる検定方法であって、前記ヒューマニンペプチドまたはヒューマニンペプチド誘導体を作製する工程と、作製された前記ヒューマニンペプチドまたはヒューマニンペプチド誘導体が神経細胞の樹状突起形成促進効果、または神経細胞のシナプス形成促進効果を有するかどうか、in vitroで調べる工程と、を含む検定方法。

請求項8

神経細胞の樹状突起形成促進剤、または神経細胞のシナプス形成促進剤として有効なペプチドのスクリーニング方法であって、複数のヒューマニンペプチドまたはヒューマニンペプチド誘導体を作製する工程と、作製された前記ヒューマニンペプチド誘導体が神経細胞の樹状突起形成促進剤、または神経細胞のシナプス形成促進剤として有効かどうか、in vitroで調べる工程と、前記検定の結果、有効と判定されたヒューマニンペプチド誘導体を選択する工程と、を含むスクリーニング方法。

技術分野

0001

本発明は、軽度認知障害(MCI: mild cognitive impairment)の治療用医薬剤初期認知症の治療用医薬剤、神経細胞樹状突起形成促進剤、神経細胞のシナプス形成促進剤検定方法およびスクリーニング方法に関する。

背景技術

0002

軽度認知障害(MCI: mild cognitive impairment)は、年齢相応加齢による認知力減退(ADAS: age-associated memory impairment)を有する正常群と、認知症診断される群との中間に位置する病的状態と考えられている。軽度認知障害を有する患者のうち、約70%は、アルツハイマー病へと移行し(非特許文献1参照)、約30%は、血管性認知症、Lewy小体型認知症など他の認知症に移行することもあるが、通常、症状は非進行で比較的安定である (非特許文献2及び3参照)。

0003

軽度認知障害の診断には、2003年のMCIコンセンサス会議提唱された診断基準が、一般的に用いられている(非特許文献4参照)。それによると、
(1)正常ではなく、認知症でもない(DSMIVやICD10の認知症の診断基準を満たさない)、
(2)本人かつ/または家族から認知機能低下訴えがあり、客観的認知機能検査でも障害を認めるかつ/または検査上以前と比べて認知機能低下がある、
(3)ADL(日常生活動作)は正常あるいはごく軽度に、複雑な動作機能が障害されているのみである、という3点を満たす場合に、軽度認知障害と診断される。それ以外の診断基準としては、Clinical Dementia Rating (CDR)では0.5(認知症疑いに相当)、Global Deterioration Scale (GDS)では2〜3(年齢相応の認知障害〜軽度認知障害に相当)、簡易認知機能検査のMini-Mental State Examination (MMSE)では、26〜27程度(30満点で24までが正常)などが用いられている。

0004

軽度認知障害を有する患者の脳においては、病理学的には、神経突起変性シナプス形成異常、あるいはシナプス数減少などのシナプス形成不全が観察され、海馬におけるシナプス数減少が認知機能の低下と相関していることが報告された(非特許文献5参照)。また、FunctionalMRIで調べられた結果、海馬内での機能的連絡、すなわちシナプスを介した神経細胞同士の連絡の低下が軽度認知障害で認められた(非特許文献6及び7参照)。

0005

軽度認知障害の初期には、シナプス活動の低下に対する代償として、シナプスマーカーが一時的に上昇する(非特許文献8参照)が、その後、シナプス数の減少が進行性に起こり、アルツハイマー病などの認知症へ移行すると、シナプスマーカーの発現は減少する(非特許文献9参照)。

0006

このように、シナプス活動の低下とシナプス数の減少は、軽度認知障害の発症過程における初期イベントであって、軽度認知障害の症状に重要な役割を果たしており(非特許文献5参照)、シナプス機能及び/又はシナプス数の維持は、軽度認知障害または初期認知障害の治療に有用であると考えられている(非特許文献10参照)。

0007

一方、認知症の一種であるアルツハイマー病患者の脳内でも、神経細胞死よりも神経突起変性やシナプス数減少などが、より早期に起こることが知られている(非特許文献11参照)。しかしながら、アルツハイマー病のような神経変性疾患病因は多様であって、例えば、コリン作動性神経の機能が低下していることがその一つであると考えられ、治療薬として塩酸ドネペジルアリセプト)、リバスチグミンガランタミンなどのアセチルコリンエステラーゼ阻害剤が用いられている。

0008

これに対し、軽度認知障害の患者では、海馬におけるコリン作動性神経の機能が上昇していることが知られており(非特許文献12、13参照)、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤をそのまま適用しても、軽度認知障害に対する治療効果は全く期待できない。実際、塩酸ドネペジルを軽度認知障害患者に使用した治験では、部分的にしか効果が得られていない(非特許文献14−18参照)。

0009

また、神経細胞死を抑制するとされるメマンチンは、アルツハイマー性細胞死を抑制する治療薬として知られているが、シナプス活動の低下とシナプス数の減少が、認知症の発症過程における初期イベントであって、細胞死はその後に起きる(非特許文献11参照)ため、まだ細胞死が認められないような初期認知症の患者に対しては効果が得られないと考えられる。実際、メマンチンは、アルツハイマー認知症の中等度重度における適用が欧米で認められているにすぎない。

0010

ヒューマニンペプチドおよび第14位アミノ酸置換ヒューマニンペプチドも、神経細胞死抑制作用を有することから、神経細胞の変性、脱落に起因するアルツハイマー症の治療薬としての有用性が既に報告されている(特許文献1、2参照)。しかしながら、ヒューマニンペプチドおよび第14位アミノ酸G置換ヒューマニンペプチドに関し、神経細胞死抑制以外の薬理効果については報告がなく、脳で神経細胞死が生じていないケースに対する適用は考えられていなかった。

0011

WO01/21787号公報
特開2008−19245号公報

先行技術

0012

Petersen et al, Arch Neurol. 1999 Mar; 56(3):303-8.
Jicha et al, Arch Neurol. 2006 May; 63(5):674-81.
Morris et al, J Mol Neurosci. 2001 Oct; 17(2):101-18.
Winblad et al, J Intern Med. 2004 Sep; 256(3):240-6.
Scheff et al., Neurobiol. Aging 2006 Oct; 27(10):1372-84.
Bai et al, Biol Psychiatry. 2009 Jun 1; 65(11):951-8.
Johnson et al, Neurobiol Aging. 2006 Nov; 27(11):1604-12.
Counts et al, J Neuropathol Exp Neurol. 2006 Jun; 65(6):592-601.
Masliah et al, Neurology. 2001 Jan 9; 56(1):127-9.
Selkoe, Science 2002 Oct 25; 298(5594):789-791.
Hardy and Selkoe, Science 2002 Jul 19; 297(5580):353-6.
DeKosky et al., Ann Neurol. 2002 Feb; 51(2):145-55.
Jackisch et al., Exp Neurol. 2008 Oct; 213(2):345-53.
Petrella et al., AJNR Am J Neuroradiol. 2009 Feb;30(2):411-6.
Doody et al. Neurology. 2009 May 5;72(18):1555-61.
Lu et al. Neurology. 2009 Jun 16;72(24):2115-21.
Crane and Doody Neurology. 2009 Nov 3;73(18):1514-5.
Doody et al. Am J Alzheimers Dis Other Demen. 2010 Mar;25(2):155-9.

発明が解決しようとする課題

0013

本発明は、軽度認知障害(MCI: mild cognitive impairment)の治療用医薬剤、初期認知症の治療用医薬剤、神経細胞の樹状突起形成促進剤、神経細胞のシナプス形成促進剤、検定方法およびスクリーニング方法を提供することを目的とする。

課題を解決するための手段

0014

本発明者らは、MAPGFSLLLLTSEILPVKRRA(配列番号1)またはMAPRGFSCLLLLTGEIDLPVKRRA(配列番号2)からなる配列を有するペプチドが、神経細胞の樹状突起形成促進作用およびシナプス形成促進作用を有することを見出し、本発明の完成に至った。

0015

すなわち、本発明に係る軽度認知障害(MCI: mild cognitive impairment)または初期認知症の治療用医薬剤は、ヒューマニンペプチドまたは第14位アミノ酸G置換ヒューマニンペプチド、あるいは、前記ペプチドを発現する発現ベクターを含有することを特徴とする。前記ペプチドのアミノ酸配列は、ヒト由来であることが好ましく、MAPRGFSCLLLLTSEIDLPVKRRA(配列番号1)またはMAPRGFSCLLLLTGEIDLPVKRRA(配列番号2)であることがより好ましい。前記軽度認知障害または前記初期認知症の患者においては、シナプス形成不全が生じているが、神経細胞死が事実上生じていないことが好ましい。

0016

また、本発明に係る神経細胞の樹状突起形成促進剤は、ヒューマニンペプチドまたは第14位アミノ酸G置換ヒューマニンペプチド、あるいは、前記ペプチドを発現する発現ベクターを含有することを特徴とする。

0017

さらに、本発明に係る神経細胞のシナプス形成促進剤は、ヒューマニンペプチドまたは第14位アミノ酸G置換ヒューマニンペプチド、あるいは、前記ペプチドを発現する発現ベクターを含有することを特徴とする。

0018

また、本発明に係る軽度認知障害または初期認知症の治療方法は、軽度認知障害または初期認知症の患者に対し、ヒューマニンペプチドまたは第14位アミノ酸G置換ヒューマニンペプチド、あるいは、前記ペプチドを発現する発現ベクターを投与することを特徴とする。投与方法は、静脈内投与脊髄腔内投与、脳室内投与硬膜内投与であることが好ましい。また、前記軽度認知障害または前記初期認知症の患者においては、シナプス形成不全が生じているが、神経細胞死が事実上生じていない期間に投与することが好ましい。なお、前記ペプチドのアミノ酸配列は、ヒト由来であることが好ましく、MAPRGFSCLLLLTSEIDLPVKRRA(配列番号1)またはMAPRGFSCLLLLTGEIDLPVKRRA(配列番号2)であることがより好ましい。

0019

また、本発明に係る細胞の樹状突起形成促進方法またはシナプス形成促進方法は、細胞に対し、ヒューマニンペプチドまたは第14位アミノ酸G置換ヒューマニンペプチド、あるいは、前記ペプチドを発現する発現ベクターを投与することを特徴とする。前記細胞は、培養細胞であっても、組織または器官の細胞であっても、個体の細胞であってもよく、前記個体は、ヒトでもヒト以外の脊椎動物でもよい。また、前記ペプチドまたは前記ベクターは、in vivoで投与されてもin vitroで投与されてもよい。前記細胞は、樹状突起形成能またはシナプス形成能を有する細胞であることが好ましく、神経幹細胞神経前駆細胞、または神経細胞であることがより好ましい。

0020

さらに、本発明にかかる検定方法は、ヒューマニンペプチドまたはヒューマニンペプチド誘導体が、軽度認知障害または初期認知症の治療効果、神経細胞の樹状突起形成促進効果、または神経細胞のシナプス形成促進効果を有するかどうかを調べる検定方法であって、前記ヒューマニンペプチドまたはヒューマニンペプチド誘導体を作製する工程と、作製された前記ヒューマニンペプチドまたはヒューマニンペプチド誘導体が軽度認知障害または初期認知症の治療効果、神経細胞の樹状突起形成促進効果、または神経細胞のシナプス形成促進効果を有するかどうか、in vivoまたはin vitroで調べる工程と、を含む。

0021

さらに、本発明に係るスクリーニング方法は、軽度認知障害または初期認知症の治療用医薬剤、神経細胞の樹状突起形成促進剤、または神経細胞のシナプス形成促進剤として有効なペプチドのスクリーニング方法であって、ヒューマニンペプチドまたはヒューマニンペプチド誘導体を作製する工程と、作製された前記ヒューマニンペプチドまたはヒューマニンペプチド誘導体が軽度認知障害または初期認知症の治療用医薬剤、神経細胞の樹状突起形成促進剤、または神経細胞のシナプス形成促進剤として有効かどうか、in vivoまたはin vitroで検定する工程と、前記検定の結果、有効と判定されたヒューマニンペプチド誘導体を選択する工程と、を含む。

発明の効果

0022

本発明によって、軽度認知障害(MCI: mild cognitive impairment)または初期認知症の治療用医薬剤、神経細胞の樹状突起形成促進剤、神経細胞のシナプス形成促進剤、およびスクリーニング方法を提供することができるようになった。

図面の簡単な説明

0023

本発明の一実施形態において、PC12細胞におけるヒューマニンペプチド(HN)、第14位アミノ酸G置換ヒューマニンペプチド(HNG)、第8位アミノ酸A置換ヒューマニンペプチド(HNA)、の樹状突起伸長促進効果を示す図である。
本発明の一実施形態において、皮質ニューロン初代培養細胞(PCN)におけるHNの樹状突起伸長促進とシナプス形成促進効果を示す図である。
本発明の一実施形態において、Aβ1−42またはIOAで処理したPCNに対する、HNの樹状突起伸長促進効果と、細胞死率改善効果を示す図である。

0024

以下、上記知見に基づき完成した本発明の実施の形態を、実施例を挙げながら詳細に説明する。

0025

実施の形態及び実施例に特に説明がない場合には、J. Sambrook, E. F. Fritsch & T. Maniatis (Ed.), Molecular cloning, a laboratory manual (3rd edition), Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, New York (2001); F. M. Ausubel, R. Brent, R. E. Kingston, D. D. Moore, J.G. Seidman, J. A. Smith, K. Struhl (Ed.), Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons Ltd.等の標準的なプロトコール集に記載の方法、あるいはそれを修飾したり、改変した方法を用いる。また、市販の試薬キット測定装置を用いる場合には、特に説明が無い場合、それらに添付のプロトコールを用いる。

0026

なお、本発明の目的、特徴、利点、及びそのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば、容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び具体的な実施例等は、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図ならびに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々に修飾ができることは、当業者にとって明らかである。

0027

==ヒューマニンペプチド、ヒューマニン誘導体、及びそれらを発現させるための発現ベクター==
本発明の一実施態様における医薬または試薬は、ヒューマニンペプチド(HN)またはヒューマニン誘導体(HND)を有効成分として含有する。

0028

HNおよびHNDのアミノ酸配列は、それらを含む医薬の投与対象動物や試薬の投与対象の細胞に由来することが好ましいが、投与された神経細胞において所望の樹状突起形成促進作用、あるいは、シナプス形成促進作用を持つ範囲で制限されない。例えば、医薬の投与対象がヒトの場合、GenBankAAK50430に登録されたヒトHN(MAPRGFSCLLLLTSEIDLPVKRRA、配列番号1)、あるいは、その誘導体であることが好ましいが、ヒトにおいて神経細胞の樹状突起形成促進作用またはシナプス形成促進作用を持つ他の動物種ホモログオーソログを含む)であってもよい。

0029

HNDは、所望の樹状突起形成促進作用およびシナプス形成促進作用を有する範囲で制限されず、HNの数アミノ酸残基(例えば、10アミノ酸残基、好ましくは8アミノ酸残基、より好ましくは6アミノ酸残基、さらに好ましくは4アミノ酸残基、さらに好ましくは2アミノ酸残基)が欠失、挿入、または置換されたアミノ酸配列を有していてもよいが、その神経細胞における樹状突起形成促進作用およびシナプス形成促進作用を考慮すると、αヘリックス構造が4.8〜6.6%、βシート構造が40.9〜38.3%、βターン構造が20.6〜22.1%、ランダム構造が33.8〜32.6%を占める二次構造を有することが好ましい。例えば、このような二次構造を有するヒトHNDとして、第14アミノ酸G置換ヒトHNG(MAPRGFSCLLLLTGEIDLPVKRRA、配列番号2)が挙げられる。なお、この二次構造は、円二色性スペクトル測定法(circular dichroism spectroscopy)を用いて測定することができる。また、これらのHNやHNDはその樹状突起形成促進作用およびシナプス形成促進作用を失わない範囲で、糖修飾等の翻訳後修飾や、生体内で分解されにくくするような修飾が施されていてもよい。

0030

ここで、HNおよびHNDの製造方法は特に制限されず、HNあるいはHNDを発現する細胞から単離、精製してもよく、遺伝子組換え技術によって組換えペプチドとして調製してもよく、または周知の方法で化学合成してもよい。

0031

本発明の他の態様に係る医薬または試薬は、HNまたはHNDを発現する発現ベクターを含有する。この発現ベクターは、神経細胞内でHNまたはHNDを発現させるための適切なエンハンサー及び/又はプロモーター、および、その下流にHNあるいはHNDをコードするDNAを有しており、この発現ベクターを細胞に導入すると、細胞内でHNあるいはHNDが発現する。このため、この発現ベクターを含有する医薬や試薬は、神経細胞に対し、HNあるはHNDを含有する医薬や試薬と同じ効果をもたらす。このような発現ベクターは、当業者に周知の遺伝子組換え技術を用い、HNまたはHNDをコードするDNAを好適な発現ベクターに挿入して調製することができる。

0032

==樹状突起形成促進剤及びシナプス形成促進剤==
以下の実施例で示すように、HNおよびHNDは、細胞の樹状突起形成およびシナプス形成を促進する作用を有する。従って、HN、HND、および、HNまたはHNDを発現する発現ベクターを含有する医薬や試薬は、細胞の樹状突起形成促進剤またはシナプス形成促進剤として有効である。

0033

樹状突起形成促進剤やシナプス形成促進剤は、in vitroで、培養細胞や、培養されている組織または器官の中の細胞に投与されてもよく、in vivoで、ヒトやヒト以外の脊椎動物の個体中の組織、器官、または細胞に投与されてもよい。培養細胞や、培養された組織または器官の中の細胞の場合、HNやHNDを培地に添加したり、HNやHNDを発現する発現ベクターを細胞内に導入したりすることにより、細胞に投与できる。また、HNやHNGを発現する発現ベクターを有し、これらのペプチドを細胞外分泌する細胞を培地に添加してもよい。培地は、用いる細胞、組織または器官に従って、当業者が適切なものを選択することができる。また、発現ベクターの細胞内への導入方法も、当業者が適切なものを選択することができる。一方、個体中の組織、器官、または細胞を用いる場合、樹状突起形成促進剤やシナプス形成促進剤は、典型的には、以下に述べる医薬剤として用いることができる。

0034

ここで、樹状突起形成促進剤やシナプス形成促進剤を投与する対象の細胞は、樹状突起形成能またはシナプス形成能を有する細胞であることが好ましく、例えば、神経幹細胞、神経前駆細胞、神経細胞、及びこれらの細胞に分化予定の細胞あるいはこれらの細胞に分化決定した細胞などが例示できる。

0035

==医薬剤==
HN、HND、および、HNまたはHNDを発現する発現ベクターを含有する医薬は、神経細胞の樹状突起形成やシナプス形成を促進することにより治癒、または、症状が改善される疾患に対する治療用医薬剤として使用することができる。また、そのような疾患に対して、実際に効果があるかどうか、またどのくらいの効果があるのかを、その疾患を有する患者やヒト以外のモデル脊椎動物に投与して調べることができる。

0036

本医薬剤の治療対象としては、例えば、中枢神経系や末梢神経系の神経細胞における神経突起変性、シナプス形成異常、あるいはシナプス数減少などのシナプス形成不全を原因とする疾患が挙げられる。具体的には、例えば、認知障害、変性性認知症(アルツハイマー症を含む)、血管性認知症、二次的認知症などの認知症が挙げられるが、軽度認知障害(すなわち、MCI: mild cognitive impairment)や初期認知症(例えば、初期アルツハイマー症)が好ましく、特に、シナプス形成不全が生じているが、神経細胞死が事実上生じていない軽度認知障害や初期認知症が好ましい。なお、これらの認知障害や認知症は、遺伝、加齢、外傷、または、腫瘍形成脳虚血自己免疫疾患等の二次疾患であってもよい。

0037

軽度認知障害の診断は、例えば、MCIコンセンサス会議(2003年)で提案された診断基準に従って行うことができる。この診断では、(1)正常ではなく、認知症でもない、(2)本人または家族から認知機能低下の訴えがあり、客観的な認知機能検査でも障害を認める、または、以前と比較して検査上認知機能低下が認められる、(3)日常生活動作は正常、あるいは極軽度に煩雑な動作機能が障害されているのみである、の3項目に該当するか否かを調べることにより、患者が軽度認知障害を発症しているか否かを判断する(例えば、Winblad B et al., J. Intern. Med 256(3): 240-246, 2004 参照)。なお、軽度認知障害の病理的特徴としては、脳神経細胞のシナプス形成異常やシナプス数の減少、海馬の神経伝達機能低下等(Johnson SC et al., Neurobiol. Aging 27(11): 1604-1612, 2006; Scheff SW et al., Neurobiol. Aging 27(10): 1372-1384, 2006; Bai F et al., Neurosci. Lett. 438(1): 111-115, 2008)をはじめとして、側頭葉内側の神経原線維変化(Mitchell TW et al., Ann. Neurol. 51(2): 182-189, 2002; Guillozet AL et al., Arch. Neurol. 60(5): 729-736, 2003; Markesbery WR et al., Arch. Neurol. 63(1): 38-46, 2006)等が認められる。

0038

また、認知症とは、力・記憶力低下、見当識障害判断力下等の症状を呈する疾患であり、その原因によって変性性認知症(アルツハイマー病を含む)、血管性認知症、二次性認知症等に分類される。認知症の診断は、例えば、短期記憶力の喪失に加え、失語失行失認実行機能不全計画、整理、順序付け抽象的思考ができないこと)のいずれか1項目以上の症状に該当することを基準として行えばよい(例えば、メルクマニュアル第18版日本語版、日経BP社刊参照)。このような症状に該当するか否かを診断するため臨床的に用いられている尺度としては、Clinical Dementia Rating(CDR)、Global Deterioration Scale(GDS)、Mini-Mental State Examination(MMSE)等が挙げられる。

0039

発明に係る医薬剤の投与対象は、脊椎動物であることが好ましく、ヒトでもヒト以外でもよいが、ヒト、マウスラットイヌネコウマヒツジウサギブタサル等の哺乳動物であることがより好ましく、ヒトであることが最も好ましい。また、脊椎動物の年齢、性別は制限されない。

0040

本発明に係る医薬剤の剤形化には、当業者に周知の薬学的に許容される担体希釈剤、腑形剤等の製剤用添加物が用いられる。その形態は本医薬剤を投与対象の動物体内において、投与部位から医薬剤を作用させたい部位に送達するために適切な剤形であれば特に制限されず、水溶液錠剤カプセル顆粒散剤シロップ、腸溶剤徐放性カプセル、カシュー咀嚼錠ドロップ丸剤内用液剤菓子錠剤徐放錠、徐放性顆粒等いずれの剤形であってもよい。なお、本医薬剤には、HN、HNG、HN発現ベクター、またはHNG発現ベクターと上記製剤用添加物以外に、異なる物質を一種類以上配合してもよく、そのような物質として、例えば、神経細胞間の神経伝達活性を維持または促進する作用のある物質、神経細胞の細胞死を抑制または阻害する作用のある物質、神経細胞の増殖を促進する物質が挙げられる。

0041

患者への投与方法は、治療者が適宜選択することができ、例えば、皮内投与、皮下投与、静脈内投与、リンパ節投与、腹腔内投与鼻腔内投与、経気管支投与、筋肉内投与、脳室内投与、脊髄腔内投与等であってもよいが、有効成分を適切に疾患部位に送達させることを考慮すると、静脈内投与、脊髄腔内投与、脳室内投与、硬膜内投与等が好ましい。

0042

本発明の医薬剤の投与は、安全とされている投与量の範囲内において、投与対象の動物に対し、必要量を適した方法で行うことができる。本発明の医薬剤の投与量は、剤形の種類、投与方法、投与対象の年齢や体重、投与対象の病状等を考慮して、最終的には医師または獣医師の判断により適宜決定することができる。本医薬剤は、予防または治療の対象疾患に対する、異なる医薬剤を併用して投与することもできる。

0043

また、投与時期に関しても、投与者が適切な時期を選択できる。特に、認知症患者の脳内では、神経細胞死よりもシナプス形成不全が、より早期に起こることが知られている(Hardy and Selkoe, Science 2002 Jul 19; 297(5580):353-6.)ので、軽度認知障害や初期認知症では、主に、シナプス形成不全が生じている時期に投与することが好ましく、海馬におけるシナプス形成不全が生じているが、症状に関わる神経細胞死が事実上生じていない時期に投与することが最も好ましい。なお、シナプス形成不全や細胞死は、頭部CTや頭部MRIなどの画像検査によって検出可能であるが、海馬におけるシナプス数減少が認知機能の低下と相関している(Scheff et al., Neurobiol. Aging 2006 Oct; 27(10):1372-84.)ため、シナプス形成不全を認知機能検査によって診断し、細胞死を画像検査によって診断してもよい。

0044

==HN及びHNDのスクリーニング方法==
本発明の一実施態様におけるスクリーニング方法は、軽度認知障害または初期認知症の治療用医薬剤、神経細胞の樹状突起形成促進剤、または神経細胞のシナプス形成促進剤として有効なHNまたはHNDのスクリーニング方法である。

0045

具体的には、まず、スクリーニングする対象となるHNやHNDを作製する。HNDとしては、例えば、HNに対し、数アミノ酸残基(例えば、10アミノ酸残基、好ましくは8アミノ酸残基、より好ましくは6アミノ酸残基、さらに好ましくは4アミノ酸残基、さらに好ましくは2アミノ酸残基)を欠失、挿入、または置換させたアミノ酸配列を有するHNDを作製する。HNDの作製方法は、当業者の定法を用いればよく、例えば、化学合成してもよく、HNをコードする遺伝子にin vitro mutagenesisで変異を導入し、細胞内で発現させてもよい。

0046

次に、スクリーニング対象のHNやHNDに対し、軽度認知障害または初期認知症の治療用医薬剤、神経細胞の樹状突起形成促進剤、または神経細胞のシナプス形成促進剤として有効かどうか検定し、有効と判定されたHNDを選択する。以下、この検定方法について、詳細に記載する。

0047

==検定方法==
HNやHNDの効果の検定は、例えば、培養細胞に対する樹状突起伸長促進効果、シナプス形成促進効果を調べることによって、あるいは、動物個体における神経細胞の樹状突起伸長促進効果、シナプス形成促進効果、または疾患の治癒や改善が認められるか否かを調べることによって、行うことができる。

0048

なお、効果を検定する対象の疾患は、神経細胞の樹状突起やシナプス形成を促進することにより治癒または症状が改善される疾患であって、上述したような、HNやHNDが医薬剤として治療対象にできる疾患と同じである。

0049

(1)in vitroにおけるHNやHNDの効果の検定
HNやHNDのペプチドの効果の検定方法の一つの態様は、ペプチドを添加した培養細胞群と添加しない培養細胞群において、培養細胞の樹状突起伸長、あるいは、シナプス形成を調べることを特徴とする。培養細胞は、例えば、PC12細胞やPCN等の細胞を用いることができる。例えば、培養細胞群を2つの群に分け、一方の添加群の培養細胞にはペプチドを添加し、もう一方の対照群にはペプチドを添加しないか、あるいは担体を投与する。その後、添加群と対照群における樹状突起の形成、あるいは、シナプス形成を調べ、添加したペプチドが樹状突起形成促進効果またはシナプス形成促進効果を有する場合には、そのペプチドは、神経細胞の樹状突起形成促進剤、シナプス形成促進剤、および、神経細胞の樹状突起やシナプス形成を促進することにより治癒または症状が改善される疾患に対する治療用医薬剤における有効物質として適用することができる。

0050

(2)in vivoにおけるHNやHNDの効果の検定
HNやHNDのペプチドを含有する医薬の検定方法の一つの態様は、神経細胞の樹状突起形成促進、あるいは、シナプス形成促進により治癒または症状が改善されると考えられる疾患を有する患者または患獣に対してペプチドを投与し、そのペプチドの投与前と比較して疾患の治癒または改善が認められるか否かを調べる。患者または患獣が有する具体的な疾患例は、上述したような、HNやHNDが医薬剤として治療対象にできる疾患と同じである。

0051

あるいは、患者または患獣を2つの群に分け、一方の投与群にはペプチドを投与し、もう一方の対照群にはペプチドを投与しないか、またはプラセボを投与し、対照群と比較して、投与群で疾患の治癒または改善が認められるか否かを調べてもよい。

0052

なお、そのペプチドによって個体の疾患が治癒または改善しているか否かを調べる方法は、CTやMRI等を用いた病理学的診断方法であっても、または、Clinical Dementia Rating(CDR)、Global Deterioration Scale(GDS)、Mini-Mental State Examination(MMSE)等、臨床的に用いられている診断方法であってもよい。あるいは、対象が患獣である場合には、疾患の原因疾患を有する組織を摘出し、顕微鏡下で神経細胞の樹状突起形成や、シナプス形成を観察して調べてもよい。

0053

==ペプチド==
HN(MAPRGFSCLLLLTSEIDLPVKRRA)、HNG(MAPRGFSCLLLLTGEIDLPVKRRA)、第8位アミノ酸A置換ヒューマニンペプチド(HNA(MAPRGFSALLLLTSEIDLPVKRRA、配列番号3))は、化学合成した。

0054

==細胞培養==
特記しない限り、細胞培養は全て5% CO2存在下、37℃で、10% FBS含有 Dulbecco's modified Eagle's medium (DMEM)を用いて行った。

0055

[実施例1]
本実施例では、HNおよびHNGが樹状突起伸長の促進作用を有することを示す。

0056

PC12細胞(ラット副腎髄質由来褐色細胞腫)をFBS非含有DMEMで3時間リンスした後、培地に10 μM HN、HNG、あるいは、HNAを添加してインキュベートし、0、1、3、6、24時間後の樹状突起の伸長の様子を観察した。対照群の細胞は、溶媒である水のみを添加し同様にインキュベートした。0、1、3、6、24時間後にランダムに選択した1.8 × 105 μm2(400 μm × 450 μm)の面積の5視野において樹状突起が伸長している細胞数計数し、樹状突起伸長細胞率(樹状突起が伸長している細胞数/全細胞数×100)を算出した。なお、PC12細胞は、神経分化および樹状突起伸長のモデル細胞として広く用いられている(例えば、McGee R Jr., Mol. Cell Biochem. 16, 33(3): 121-133, 1980 参照)。

0057

その結果、図1Aに示すように、インキュベート開始6時間後には、対照群およびHNAと比較してHN、HNG添加群で細胞の樹状突起が顕著に伸長していた。また、図1Bに示すように、インキュベート開始24時間後には、対照群およびHNA群と比較して、HN群およびHNG群で樹状突起伸長細胞率が有意に高かった。

0058

このように、HNおよびHNGは、樹状突起伸長の促進作用を有する。

0059

次に、HN、HNG、およびHNAの二次構造の解析を行った。HN、HNG、HNAを各々PBSに溶解し、20μM溶液を調製した。この溶液の円二色性スペクトルを、Jasco 820 spectrometer(日本分光株式会社)を用いて測定した。この際、光路長1mm、0.1nmインターバルで1分当たり100nmの測定を行った。これにより得られた楕円率平均値([θ])を基に、HN、HNG、およびHNAのそれぞれについて、二次構造の比率をJasco analytical program (Yang et al., MethodsEnzymol. 130: 208-269, 1986)を用いて予測した。

0060

表1に示すように、HNおよびHNGには各二次構造について有意な差が認められないが、HNAでは、HNと比較してβシート構造率が低く、ランダム構造率が高かった。

0061

この結果は、一定の二次構造、すなわち平均値として、αヘリックス構造が4.8〜6.6%、βシート構造が40.9〜38.3%、βターン構造が20.6〜22.1%、ランダム構造が33.8〜32.6%を占める二次構造を有するHNDはHNと同様の樹状突起伸長作用を有することを示している。

0062

[実施例2]
本実施例では、HN、HNGがシナプス形成促進作用を有することを示す。

0063

PCN(皮質ニューロン初代培養細胞)は、Sasabe et al. (EMBO J. 26(18): 4149-4159, 2007)の方法に従い、受精後14日のマウス胚から採取した皮質細胞から調製した。PCNは、poly-L-lysine コートディッシュまたはカバーガラス播種し(5x104個/cm2)、B27(×50)(Invitrogen 社)および0.5 mMグルタミン和光純薬工業株式会社)を添加した神経細胞基本培地(Invitrogen 社)で培養した。培養開始から4日目、最終濃度が10 μMになるようにHNを添加し、30分〜96時間インキュベートした後、以下の組織学検出法で樹状突起を検出した。

0064

==組織学的検出法==
細胞(5x104個/cm2)を4%パラホルムアルデヒド含有PBS溶液で20分間固定し、0.3% Triton X−100で15分間透過処理し、1%BSA(Sigma-Aldrich 社)−PBS溶液で1時間ブロッキングを行った。その後、抗Tyrosinated tubulin(Tyr-Tub)マウスモノクローナル抗体(100倍希釈、Sigma-Aldrich 社)、抗NR1マウスモノクローナル抗体(100倍希釈、BD Pharmingen 社)、または抗synapsin 1ウサギポリクローナル抗体(200倍希釈、Millipore 社)を含有した1% BSA−PBS溶液中で、室温で3時間インキュベートした。PBSで細胞をリンスした後、FITCまたはTexas−Red標識抗マウスIgGまたは抗ウサギIgG(250倍希釈、Jackson laboratories 社)を含有した1% BSA−PBS溶液中、40分間室温でインキュベートした。また、F-actin可視化のために、透過処理後の細胞を、ローダミン標識phalloidin (100 ng/ml、Sigma-Aldrich 社)を含有した1% BSA−PBS溶液中、室温で20分間インキュベートした。なお、phalloidinはF-actinの特異的検出に一般的に用いられている。以上のように染色した細胞を、PBSでリンスし、DAPI(Invitrogen 社)で核を対比染色した後、Zeiss LSM510共焦点レーザー顕微鏡下で観察した。

0065

phalloidinにより検出されたF-actinの染色強度定量的解析は、グレイスケール転換した顕微鏡写真においてランダムに選択した240 μm2の5視野について行った。また、シナプス形成数の定量的解析のため、抗synapsin 1抗体および抗NR1抗体による免疫染色の共局在を、ランダムに選択した90 μm2の10視野について計数した。

0066

その結果、図2Aに示すように、HN処理群では、対照群と比較して、樹状突起端部にF-actinがより局在していた。つまり、HN処理開始から6時間〜24時間後には、顕著な樹状突起形成が見られ、その時間経過と共に、HN処理群の樹状突起端部のF-actinの局在がさらに強まった。HN処理開始から96時間後には、HN処理群で樹状突起端部へのF-actinの局在は失われ、特に樹状突起以外の細胞体におけるF-actin局在が強まった。微小管マーカーであるTyr-Tubの染色像から、対照群と比較してHN処理群でより密に局在し、形成された樹状突起が維持されていた。

0067

次に、神経成長円錐当たりの樹状突起数を、F-actinの染色写真を用いて解析した結果を図2Bに示す。神経成長円錐あたりの樹状突起数は、対照群と比較して、HN処理群(24時間)で有意に多かった(unpaired Student's t-test)。

0068

また、HN処理開始96時間後のプレシナプス(synapsin 1陽性)、および、ポストシナプス(NR1)の形成数を図2Cに示す。シナプスは、プレシナプスとポストシナプスの対から形成されるが、対照群に比較して、HN処理群では顕著にシナプス形成数が多かった。

0069

HN処理開始24時間後の神経細胞あたりのシナプス形成数は、図2Dに示すように対照群に比較してHN処理群で有意に高かった(unpaired Student's t-test)。

0070

このように、HNはPCN細胞において樹状突起伸長促進作用、及びシナプス形成促進作用を有する。

0071

[実施例3]
本実施例は、神経細胞死因子存在下において、HNが細胞の樹状突起伸長促進作用、および死細胞率を低下させる作用を有することを示す。

0072

ヒトAβ1−42ペプチドはPeptide Institute 社から購入した。このヒトAβ1−42ペプチドをMe2SOに3mMで溶解し、氷冷した神経細胞基本培地で100μMに希釈した。その後、30秒間ボルテックスし、4℃で48時間インキュベートして、ヒトAβ1−42オリゴマーを調製した(Lambert et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95(11):6448-6453, 1998 参照)。

0073

実施例2と同様に調製したPCN(5x104個/cm2)に、Aβ1−42オリゴマー(最終濃度1μM)を加えて30分間インキュベートした(Aβ1−42群)。一方、Iodoacetic acid(IOA)群では、PCNにIOA(Sigma-Aldrich 社)(最終濃度50 μM)を加えて30分間インキュベート後、IOA非含有培地でリンスした。これらの各群において、Aβ1−42処理またはIOA処理に続いて、HNを最終濃度10 μMで加え24時間インキュベートした。なお、HN処理に対する対照として、同量の水を培地に添加して同様にインキュベートした(図ではH2O)。以上の処理後、実施例2の組織学的検出法を用い、抗体または特異的マーカーによりPCNを特異的に検出した。F-actinの染色強度の定量的解析は、実施例2と同様に行った。神経細胞死は、DAPIで核染色したPCNについて、核の凝縮指標にして形態的に判定し、全神経細胞数(核数)に対する死細胞率を算出した。これらの定量的解析は、各群、5.8×104 μm2(240×240 μm)の5視野について行った。

0074

図3Aに示すように、水添加群では、対照に比較してAβ1−42あるいはIOA群でF-actinおよびTyr-Tub陽性の樹状突起が少なかった。すなわち、Aβ1−42、およびIOAの処理によりPCNがダメージを受けていることが確認された。一方、これらの各群において、HNを添加してインキュベートを行った場合、水添加群の対照と比較してもより顕著にPCNの樹状突起が伸長していた(図3下段)。図3Bに示すように、F-actinの染色は、対照、Aβ1−42、IOAのいずれの群においてもHNを添加してインキュベートした場合に有意に強くなっていた。

0075

また、死細胞率は、Aβ1−42処理群およびIOA処理群で対照と比較して有意に上昇したが(図3C、D白棒)、HNを添加してインキュベートした場合には、Aβ処理群、IOA処理群で死細胞率が有意にあるいは顕著に低下した(図3C、D黒棒)(Turkey's post-hoc検定)。

実施例

0076

このように、神経細胞死因子によりダメージを受けた神経細胞においても、HNは細胞死抑制、および、樹状突起形成促進効果を有する。

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