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技術 転がり軸受

出願人 NTN株式会社
発明者 筒井英之大平晃也伊藤直子
出願日 2011年3月10日 (9年9ヶ月経過) 出願番号 2011-053567
公開日 2011年11月10日 (9年1ヶ月経過) 公開番号 2011-226638
状態 特許登録済
技術分野 ころがり軸受 物理蒸着
主要キーワード 鉄系材料製 摩擦痕 摩擦方向 剥離有無 本試験機 黒鉛ターゲット 傾斜組織 実使用条件
関連する未来課題
重要な関連分野

この項目の情報は公開日時点(2011年11月10日)のものです。
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図面 (12)

課題

転がり軸受の内・外輪軌道面などに形成されたDLC膜耐剥離性を向上させ、DLC膜本来の特性を発揮することで、耐焼き付き性、耐摩耗性、および耐腐食性に優れる転がり軸受を提供する。

解決手段

転がり軸受1は、外周に内輪軌道面2aを有する内輪2と、内周に外輪軌道面3aを有する外輪3と、内輪軌道面2aと外輪軌道面3aとの間を転動する複数の転動体4とを備え、曲面である内輪軌道面2aや外輪軌道面3aの表面に硬質膜8が成膜されてなり、この硬質膜8は、該表面に直接成膜されるCrを主体とする下地層と、該層の上に成膜されるWCとDLCとを主体とする混合層と、該混合層の上に成膜されるDLCを主体とする表面層とからなる構造の膜であり、混合層は、下地層側から表面層側へ向けて連続的または段階的に、WCの含有率が小さくなり、DLCの含有率が高くなる層である。

概要

背景

硬質カーボン膜は、一般にダイヤモンドライクカーボン(以下、DLCと記す。また、DLCを主体とする膜/層をDLC膜/層ともいう。)と呼ばれている硬質膜である。硬質カーボンはその他にも、硬質非晶質炭素無定形炭素、硬質無定形炭素、i−カーボンダイヤモンド状炭素など、様々な呼称があるが、これらの用語は明確に区別されていない。

このような用語が用いられるDLCの本質は、構造的にはダイヤモンドグラファイトが混ざり合った両者の中間構造を有するものである。ダイヤモンドと同等に硬度が高く、耐摩耗性固体潤滑性熱伝導性化学安定性耐腐食性などに優れる。このため、例えば、金型工具類耐摩耗性機械部品研磨材摺動部材磁気光学部品などの保護膜として利用されつつある。こうしたDLC膜を形成する方法として、スパッタリング法イオンプレーティング法などの物理的蒸着(以下、PVDと記す)法、化学的蒸着(以下、CVDと記す)法、アンバランスド・マグネトロンスパッタリング(以下、UBMSと記す)法などが採用されている。

従来より、転がり軸受軌道輪軌道面や転動体転動面に対し、DLC膜を形成する試みがなされている。DLC膜は、膜形成時に極めて大きな内部応力が発生し、また高い硬度およびヤング率を持つ反面、変形能が極めて小さいことから、基材との密着性が弱く、剥離しやすいなどの欠点を持っている。このため、転がり軸受の軌道輪の軌道面や転動体の転動面にDLC膜を成膜する場合には、密着性を改善する必要性がある。

例えば、中間層を設けてDLC膜の密着性改善を図ったものとして、鉄鋼材料で形成された軌道溝や転動体の転動面に、クロム(以下、Crと記す)、タングステン(以下、Wと記す)、チタン(以下、Tiと記す)、珪素(以下、Siと記す)、ニッケル、および鉄の少なくともいずれかの元素を含む組成下地層と、この下地層の構成元素と炭素とを含有し、炭素の含有率が下地層の反対側で下地層側より大きい中間層と、アルゴンと炭素とからなりアルゴンの含有率が0.02質量%以上5質量%以下であるダイヤモンドライクカーボン層とが、この順に形成されてなる転動装置が提案されている(特許文献1参照)。

また、アンカー効果によりDLC膜の密着性改善を図ったものとして、軌道面にイオン衝撃処理により10〜100nmの高さで平均幅300nm以下の凹凸を形成し、この軌道面上にDLC膜を形成した転がり軸受が提案されている(特許文献2参照)。

概要

転がり軸受の内・外輪軌道面などに形成されたDLC膜の耐剥離性を向上させ、DLC膜本来の特性を発揮することで、耐焼き付き性、耐摩耗性、および耐腐食性に優れる転がり軸受を提供する。転がり軸受1は、外周に内輪軌道面2aを有する内輪2と、内周に外輪軌道面3aを有する外輪3と、内輪軌道面2aと外輪軌道面3aとの間を転動する複数の転動体4とを備え、曲面である内輪軌道面2aや外輪軌道面3aの表面に硬質膜8が成膜されてなり、この硬質膜8は、該表面に直接成膜されるCrを主体とする下地層と、該層の上に成膜されるWCとDLCとを主体とする混合層と、該混合層の上に成膜されるDLCを主体とする表面層とからなる構造の膜であり、混合層は、下地層側から表面層側へ向けて連続的または段階的に、WCの含有率が小さくなり、DLCの含有率が高くなる層である。

目的

本発明はこのような問題に対処するためになされたものであり、転がり軸受の内・外輪軌道面などに形成されたDLC膜の耐剥離性を向上させ、DLC膜本来の特性を発揮することで、耐焼き付き性、耐摩耗性、および耐腐食性に優れる転がり軸受の提供を目的とする

効果

実績

技術文献被引用数
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牽制数
0件

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請求項1

外周に内輪軌道面を有する内輪と、内周外輪軌道面を有する外輪と、前記内輪軌道面と前記外輪軌道面との間を転動する複数の転動体とを備え、前記内輪、前記外輪、および前記複数の転動体が鉄系材料からなる転がり軸受であって、前記内輪軌道面および前記外輪軌道面が、前記転動体を案内する曲面であり、該内輪軌道面、該外輪軌道面、および前記転動体の転動面から選ばれる少なくとも一つの面に硬質膜成膜されてなり、前記硬質膜は、前記面の上に直接成膜されるクロム主体とする下地層と、該下地層の上に成膜されるタングステンカーバイトダイヤモンドライクカーボンとを主体とする混合層と、該混合層の上に成膜されるダイヤモンドライクカーボンを主体とする表面層とからなる構造の膜であり、前記混合層は、前記下地層側から前記表面層側へ向けて連続的または段階的に、該混合層中の前記タングステンカーバイトの含有率が小さくなり、該混合層中の前記ダイヤモンドライクカーボンの含有率が高くなる層であることを特徴とする転がり軸受。

請求項2

前記転動体が玉であり、前記内輪軌道面および前記外輪軌道面が、前記転動体を案内する円曲面であることを特徴とする請求項1記載の転がり軸受。

請求項3

前記表面層は、前記混合層との隣接側に、前記混合層側から硬度が連続的または段階的に高くなる傾斜層部分を有することを特徴とする請求項1または請求項2記載の転がり軸受。

請求項4

前記表面層は、スパッタリングガスとしてアルゴンガスを用いたアンバランスド・マグネトロンスパッタリング装置を使用して成膜した層であり、炭素供給源として黒鉛ターゲット炭化水素系ガスとを併用し、前記アルゴンガスの前記装置内への導入量100に対する前記炭化水素系ガスの導入量の割合が1〜5であり、前記装置内の真空度が0.2〜0.8Paであり、基材となる軸受部材印加するバイアス電圧が70〜150Vである条件下で、前記炭素供給源から生じる炭素原子を、前記混合層上に堆積させて成膜されたものであることを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3記載の転がり軸受。

請求項5

前記炭化水素系ガスが、メタンガスであることを特徴とする請求項4記載の転がり軸受。

請求項6

前記表面層の傾斜層部分は、基材となる軸受部材に印加するバイアス電圧を連続的または段階的に上げながら成膜されたものであることを特徴とする請求項3、請求項4または請求項5記載の転がり軸受。

請求項7

前記下地層および前記混合層は、スパッタリングガスとしてアルゴンガスを用いたアンバランスド・マグネトロン・スパッタリング装置を使用して成膜した層であり、前記混合層は、連続的または段階的に、炭素供給源となる黒鉛ターゲットに印加するスパッタ電力を上げながら、かつ、タングステンカーバイトターゲットに印加する電力下げながら成膜されたものであることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか一項記載の転がり軸受。

請求項8

前記硬質膜は、表面粗さRa:0.01μm以下、ビッカース硬度Hv:780であるSUJ2焼入れ鋼相手材として、ヘルツ最大接触面圧0.5GPaの荷重を印加して接触させ、0.05m/sの回転速度で30分間、前記相手材を回転させたときの該硬質膜の比摩耗量が200×10−10mm3/(N・m)未満であることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか一項記載の転がり軸受。

請求項9

前記硬質膜は、押し込み硬さの平均値標準偏差値との合計が25〜45GPaであることを特徴とする請求項8記載の転がり軸受。

請求項10

前記硬質膜は、スクラッチテストにおける臨界剥離荷重が50N以上であることを特徴とする請求項8または請求項9記載の転がり軸受。

請求項11

前記硬質膜の膜厚が0.5〜3μmであり、かつ該硬質膜の膜厚に占める前記表面層の厚さの割合が0.8以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項10のいずれか一項記載の転がり軸受。

請求項12

前記鉄系材料が、高炭素クロム軸受鋼炭素鋼工具鋼マルテンサイト系ステンレス鋼から選ばれることを特徴とする請求項1ないし請求項11のいずれか一項記載の転がり軸受。

請求項13

前記硬質膜が形成される面の硬さが、ビッカース硬さでHv650以上であることを特徴とする請求項12記載の転がり軸受。

請求項14

前記硬質膜が形成される面において、前記硬質膜形成前に、窒化処理により窒化層が形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項13のいずれか一項記載の転がり軸受。

請求項15

前記窒化処理が、プラズマ窒化処理であることを特徴とする請求項14記載の転がり軸受。

請求項16

前記窒化処理後の表面の硬さが、ビッカース硬さでHv1000以上であることを特徴とする請求項14または請求項15記載の転がり軸受。

請求項17

前記硬質膜が形成される面の表面粗さRaが、0.05μm以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項16のいずれか一項記載の転がり軸受。

請求項18

前記転がり軸受は、グリース封入されていることを特徴とする請求項1ないし請求項17のいずれか一項記載の転がり軸受。

技術分野

背景技術

0002

硬質カーボン膜は、一般にダイヤモンドライクカーボン(以下、DLCと記す。また、DLCを主体とする膜/層をDLC膜/層ともいう。)と呼ばれている硬質膜である。硬質カーボンはその他にも、硬質非晶質炭素無定形炭素、硬質無定形炭素、i−カーボンダイヤモンド状炭素など、様々な呼称があるが、これらの用語は明確に区別されていない。

0003

このような用語が用いられるDLCの本質は、構造的にはダイヤモンドグラファイトが混ざり合った両者の中間構造を有するものである。ダイヤモンドと同等に硬度が高く、耐摩耗性固体潤滑性熱伝導性化学安定性耐腐食性などに優れる。このため、例えば、金型工具類耐摩耗性機械部品研磨材摺動部材磁気光学部品などの保護膜として利用されつつある。こうしたDLC膜を形成する方法として、スパッタリング法イオンプレーティング法などの物理的蒸着(以下、PVDと記す)法、化学的蒸着(以下、CVDと記す)法、アンバランスド・マグネトロンスパッタリング(以下、UBMSと記す)法などが採用されている。

0004

従来より、転がり軸受の軌道輪軌道面や転動体の転動面に対し、DLC膜を形成する試みがなされている。DLC膜は、膜形成時に極めて大きな内部応力が発生し、また高い硬度およびヤング率を持つ反面、変形能が極めて小さいことから、基材との密着性が弱く、剥離しやすいなどの欠点を持っている。このため、転がり軸受の軌道輪の軌道面や転動体の転動面にDLC膜を成膜する場合には、密着性を改善する必要性がある。

0005

例えば、中間層を設けてDLC膜の密着性改善を図ったものとして、鉄鋼材料で形成された軌道溝や転動体の転動面に、クロム(以下、Crと記す)、タングステン(以下、Wと記す)、チタン(以下、Tiと記す)、珪素(以下、Siと記す)、ニッケル、および鉄の少なくともいずれかの元素を含む組成下地層と、この下地層の構成元素と炭素とを含有し、炭素の含有率が下地層の反対側で下地層側より大きい中間層と、アルゴンと炭素とからなりアルゴンの含有率が0.02質量%以上5質量%以下であるダイヤモンドライクカーボン層とが、この順に形成されてなる転動装置が提案されている(特許文献1参照)。

0006

また、アンカー効果によりDLC膜の密着性改善を図ったものとして、軌道面にイオン衝撃処理により10〜100nmの高さで平均幅300nm以下の凹凸を形成し、この軌道面上にDLC膜を形成した転がり軸受が提案されている(特許文献2参照)。

先行技術

0007

特許第4178826号
特許第3961739号

発明が解決しようとする課題

0008

しかしながら、転がり軸受において転動体を案内する内・外輪の軌道面は、その形状が平面ではなく曲面であり、主曲率と副曲率が組み合わさった形状等のものもある。また、転動体の転動面は、円筒ころの場合は円周面、玉の場合は球面となる。このような形状の面にDLC膜を成膜すると、その膜構造成膜条件によっては、膜内残留応力が大きくなり、成膜直後に剥離するおそれがある。また、成膜直後には剥離しなくとも、軸受使用時転がり接触などの負荷を受けると剥離するおそれがある。

0009

特許文献1や特許文献2の技術は、この問題の解決を図ったものであるが、得られた転がり軸受の実用性を向上させるべく、DLC膜を適用する際の膜構造や成膜条件には更なる改善の余地がある。

0010

本発明はこのような問題に対処するためになされたものであり、転がり軸受の内・外輪軌道面などに形成されたDLC膜の耐剥離性を向上させ、DLC膜本来の特性を発揮することで、耐焼き付き性、耐摩耗性、および耐腐食性に優れる転がり軸受の提供を目的とする。

課題を解決するための手段

0011

本発明の転がり軸受は、外周に内輪軌道面を有する内輪と、内周に外輪軌道面を有する外輪と、上記内輪軌道面と上記外輪軌道面との間を転動する複数の転動体とを備え、上記内輪、上記外輪、および上記複数の転動体が鉄系材料からなる転がり軸受であって、上記内輪軌道面および上記外輪軌道面が、上記転動体を案内する曲面であり、該内輪軌道面、該外輪軌道面、および上記転動体の転動面から選ばれる少なくとも一つの面に硬質膜が成膜されてなり、上記硬質膜は、上記面の上に直接成膜されるCrを主体とする下地層と、該下地層の上に成膜されるタングステンカーバイト(以下、WCと記す)とDLCとを主体とする混合層と、該混合層の上に成膜されるDLCを主体とする表面層とからなる構造の膜であり、上記混合層は、上記下地層側から上記表面層側へ向けて連続的または段階的に、該混合層中のWCの含有率が小さくなり、該混合層中のDLCの含有率が高くなる層であることを特徴とする。

0012

上記転動体が玉であり、上記内輪軌道面および上記外輪軌道面が、上記転動体を案内する円曲面であることを特徴とする。

0013

上記表面層は、上記混合層との隣接側に、上記混合層側から硬度が連続的または段階的に高くなる傾斜層部分を有することを特徴とする。

0014

上記表面層は、スパッタリングガスとしてアルゴン(以下、Arと記す)ガスを用いたUBMS装置を使用して成膜した層であり、炭素供給源として黒鉛ターゲット炭化水素系ガスとを併用し、上記Arガスの上記装置内への導入量100に対する上記炭化水素系ガスの導入量の割合が1〜5であり、上記装置内の真空度が0.2〜0.8Paであり、基材となる軸受部材印加するバイアス電圧が70〜150Vである条件下で、上記炭素供給源から生じる炭素原子を、上記混合層上に堆積させて成膜されたものであることを特徴とする。また、上記炭化水素系ガスが、メタンガスであることを特徴とする。

0015

なお、基材となる軸受部材に対するバイアス電位は、アース電位に対してマイナスとなるように印加しており、例えば、バイアス電圧150Vとは、アース電位に対して基材のバイアス電位が−150Vであることを示す。

0016

上記表面層の傾斜層部分は、基材となる軸受部材に印加するバイアス電圧を連続的または段階的に上げながら成膜されたものであることを特徴とする。

0017

上記下地層および上記混合層は、スパッタリングガスとしてArガスを用いたUBMS装置を使用して成膜した層であり、上記混合層は、連続的または段階的に、炭素供給源となる黒鉛ターゲットに印加するスパッタ電力を上げながら、かつ、WCターゲットに印加する電力下げながら成膜されたものであることを特徴とする。

0018

上記硬質膜は、表面粗さRa:0.01μm以下、ビッカース硬度Hv:780であるSUJ2焼入れ鋼相手材として、ヘルツ最大接触面圧0.5GPaの荷重を印加して接触させ、0.05m/sの回転速度で30分間、上記相手材を回転させたときの該硬質膜の比摩耗量が200×10−10mm3/(N・m)未満であることを特徴とする。また、上記硬質膜は、押し込み硬さの平均値標準偏差値との合計が25〜45GPaであることを特徴とする。また、上記硬質膜は、スクラッチテストにおける臨界剥離荷重が50N以上であることを特徴とする。

0019

上記硬質膜の膜厚が0.5〜3μmであり、かつ該硬質膜の膜厚に占める上記表面層の厚さの割合が0.8以下であることを特徴とする。

0020

上記鉄系材料が、高炭素クロム軸受鋼炭素鋼工具鋼マルテンサイト系ステンレス鋼から選ばれることを特徴とする。また、上記硬質膜が形成される面の硬さが、ビッカース硬さでHv650以上であることを特徴とする。

0021

上記硬質膜が形成される面において、上記硬質膜形成前に、窒化処理により窒化層が形成されていることを特徴とする。特に、上記窒化処理が、プラズマ窒化処理であることを特徴とする。また、上記窒化処理後の表面の硬さが、ビッカース硬さでHv1000以上であることを特徴とする。

0022

上記硬質膜が形成される面の表面粗さRaが、0.05μm以下であることを特徴とする。

0023

上記転がり軸受は、グリース封入されていることを特徴とする。

発明の効果

0024

本発明の転がり軸受は、鉄系材料製の内輪、外輪、転動体において、該内輪軌道面、該外輪軌道面、および上記転動体の転動面から選ばれる少なくとも一つの面に、DLCを含む所定の膜構造を有する硬質膜が成膜されてなる。各面上に直接成膜されるCrからなる下地層は鉄系材料と相性がよく、WやSiと比較して密着性に優れる。また、混合層に用いるWCは、CrとDLCとの中間的な硬さや弾性率を有し、成膜後の残留応力の集中も発生し難い。さらに、WCとDLCとの混合層を傾斜組成とすることで、WCとDLCとが物理的に結合する構造となっている。

0025

上記構造により、該硬質膜は、曲面である内・外輪軌道面や転動体の転動面に形成されながら耐剥離性に優れ、DLC本来の特性を発揮できる。この結果、本発明の転がり軸受は、耐焼き付き性、耐摩耗性、および耐腐食性に優れ、苛酷潤滑状態でも軌道面などの損傷が少なく長寿命となる。

図面の簡単な説明

0026

本発明の転がり軸受の一例を示す断面図である。
本発明の転がり軸受の他の例を示す断面図である。
硬質膜の構造を示す模式断面図である。
UBMS法の成膜原理を示す模式図である。
AIP機能を備えたUBMS装置の模式図である。
摩擦試験機を示す図である。
スラスト型転動疲労試験機を示す図である。
軸受寿命試験に用いた試験機を示す図である。
実施例1の硬質膜を形成した軸受内輪写真である。
比較例1の硬質膜を形成した軸受内輪の写真である。
比較例4の硬質膜を形成した軸受内輪の写真である。

0027

DLC膜などの硬質膜は膜内に残留応力があり、残留応力は膜構造や成膜条件、基材形状の影響を受け大きく異なる。実験を重ねた結果、予想外に基材形状の影響が大きいことが判明した。例えば、平面では成膜直後の剥離もなくスクラッチテストでの臨界剥離荷重も大きい硬質膜が、転がり軸受の内・外輪軌道面のような曲面では成膜直後に剥離する場合や、成膜直後には剥離しなくとも、使用時に剥離しやすいものである場合がある。本発明者らは、鋭意検討の結果、曲面である転がり軸受の内・外輪軌道面、転動体の転動面に形成する硬質膜を、下地層(Cr)と混合層(WC/DLCの傾斜)と表面層(DLC)とからなる所定の構造に限定することで、耐剥離性の大幅な向上が図れ、軸受実使用条件においても、該硬質膜の剥離を防止できることを見出した。本発明はこのような知見に基づきなされたものである。

0028

本発明の転がり軸受を図1および図2に基づいて説明する。図1は、内・外輪軌道面に後述の硬質膜を形成した転がり軸受(深溝玉軸受)の断面図を、図2は転動体の転動面に硬質膜を形成した転がり軸受(深溝玉軸受)の断面図をそれぞれ示す。転がり軸受1は、外周に内輪軌道面2aを有する内輪2と、内周に外輪軌道面3aを有する外輪3と、内輪軌道面2aと外輪軌道面3aとの間を転動する複数の転動体4とを備える。転動体4は保持器5により一定間隔で保持されている。シール部材6により、内・外輪の軸方向両端開口部がシールされ、軸受空間にグリース7が封入されている。グリース7としては、転がり軸受用の公知のグリースを使用できる。

0029

図1(a)の転がり軸受では、内輪2の外周面(内輪軌道面2aを含む)に硬質膜8が形成されており、図1(b)の転がり軸受では、外輪3の内周面(外輪軌道面3aを含む)に硬質膜8が形成されている。該硬質膜8を内・外輪に形成する場合は、少なくともその軌道面に形成してあればよい。よって、各図に示すように内輪外周面全体、外輪外周面全体に形成する、または、内・外輪の全体に形成してもよい。

0030

また、図2の転がり軸受では、転動体4の転動面に硬質膜8が形成されている。図2の転がり軸受は深溝玉軸受であることから、転動体4は玉であり、その転動面は球面全体である。図に示した態様以外の転がり軸受として、円筒ころ軸受円錐ころ軸受を用いる際に、該硬質膜8をその転動体に形成する場合は、少なくとも転動面(円筒外周など)に形成してあればよい。

0031

図1および図2に示すように、深溝玉軸受の内輪軌道面2aは、転動体4である玉を案内するため、軸方向断面が円弧溝状である円曲面である。同様に、外輪軌道面3aも、軸方向断面が円弧溝状である円曲面である。この円弧溝の曲率半径は、一般的に鋼球径をdwとすると、0.51〜0.54dw程度である。また、図に示した態様以外の転がり軸受として、円筒ころ軸受や円錐ころ軸受を用いる場合では、これらの軸受のころを案内するため、内輪軌道面および外輪軌道面は、少なくとも円周方向で曲面となる。その他、自動調心ころ軸受などの場合、転動体としてたる型ころを用いるので、内輪軌道面および外輪軌道面は、円周方向に加えて、軸方向についても曲面となる。本発明の転がり軸受は、内輪軌道面および外輪軌道面が、以上のいずれの形状であってもよい。

0032

本発明の転がり軸受1において、硬質膜8の成膜対象となる軸受部材である内輪2、外輪3、および転動体4は、鉄系材料からなる。鉄系材料としては、軸受部材として一般的に用いられる任意の鋼材などを使用でき、例えば、高炭素クロム軸受鋼、炭素鋼、工具鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼などが挙げられる。

0033

これらの軸受部材において、硬質膜が形成される面の硬さが、ビッカース硬さでHv650以上であることが好ましい。Hv650以上とすることで、硬質膜(下地層)との硬度差を少なくし、密着性を向上させることができる。

0034

上記硬質膜が形成される面において、硬質膜形成前に、窒化処理により窒化層が形成されていることが好ましい。窒化処理としては、基材表面に密着性を妨げる酸化層が生じ難いプラズマ窒化処理を施すことが好ましい。また、窒化処理後の表面の硬さがビッカース硬さでHv1000以上であることが、硬質膜(下地層)との密着性をさらに向上させるために好ましい。

0035

上記硬質膜が形成される面の表面粗さRaは、0.05μm以下であることが好ましい。表面粗さRaが0.05μmをこえると、粗さの突起先端に硬質膜が形成され難くなり、局所的に膜厚が小さくなる。

0036

本発明における硬質膜の構造を図3に基づいて説明する。図3は、図1(a)の場合における硬質膜8の構造を示す模式断面図である。図3に示すように、該硬質膜8は、(1)内輪2の内輪軌道面2a上に直接成膜されるCrを主体とする下地層8aと、(2)下地層8aの上に成膜されるWCとDLCとを主体とする混合層8bと、(3)混合層8bの上に成膜されるDLCを主体とする表面層8cとからなる3層構造を有する。ここで、混合層8bは、下地層8a側から表面層8c側へ向けて連続的または段階的に、該混合層中のWCの含有率が小さくなり、かつ、該混合層中のDLCの含有率が高くなる層である。

0037

下地層8aがCrを主体とする層であることから、基材となる鉄系材料製の軸受部材との相性がよく、W、Ti、Siなどを用いる場合と比較して基材との密着性に優れる。特に、軸受軌道輪材料として使用される高炭素クロム軸受鋼との密着性に優れる。

0038

混合層8bに用いるWCは、CrとDLCとの中間的な硬さや弾性率を有し、成膜後の残留応力の集中も発生し難い。後述の比較例5に示すように、下地層に合わせて混合層をCrとDLCとを主体とする層とする場合では、軸受使用時における十分な密着性を得ることができない。このように、曲面である転がり軸受の内・外輪軌道面、転動体の転動面において、耐剥離性に優れたDLCを含む硬質膜を形成しようとする場合では、その中間層(混合層8b)における材料選定重要な要素となる。

0039

また、混合層8bが表面層8c側に向けてWCの含有率が小さく、かつ、DLCの含有率が高くなる傾斜組成であるので、下地層8aと表面層8cとの両面での密着性に優れる。特に、該混合層内において、WCとDLCとが物理的に結合する構造となり、表面層8c側ではDLC含有率が高められているので、表面層8cと混合層8bとの密着性に優れる。

0040

表面層8cは、DLCを主体とする膜である。表面層8cにおいて、混合層8bとの隣接側に、混合層8b側から硬度が連続的または段階的に高くなる傾斜層部分8dを有することが好ましい。これは、混合層8bと表面層8cとでバイアス電圧が異なる場合、バイアス電圧の急激な変化を避けるためにバイアス電圧を連続的または段階的に変化させる(上げる)ことで得られる部分である。傾斜層部分8dは、このようにバイアス電圧を変化させることで、結果として上記のように硬度が傾斜する。硬度が連続的または段階的に上昇するのは、DLC構造におけるグラファイト構造(sp2)とダイヤモンド構造(sp3)との構成比率が、バイアス電圧の上昇により後者に偏っていくためである。これにより、混合層と表面層との急激な硬度差がなくなり、混合層8bと表面層8cとの密着性がさらに優れる。

0041

硬質膜8の膜厚(3層の合計)は0.5〜3.0μmとすることが好ましい。膜厚が0.5μm未満であれば、耐摩耗性および機械的強度に劣る場合があり、3.0μmをこえると剥離し易くなる。さらに、該硬質膜8の膜厚に占める表面層8cの厚さの割合が0.8以下であることが好ましい。この割合が0.8をこえると、混合層8bにおけるWCとDLCの物理結合するための傾斜組織が不連続な組織となるため、密着性が劣化する可能性が高い。

0042

硬質膜8を以上のような組成の下地層8a、混合層8b、表面層8cとの3層構造とすることで、耐剥離性に優れる。

0043

硬質膜8の物性としては、表面粗さRa:0.01μm以下、ビッカース硬度Hv:780であるSUJ2焼入れ鋼を相手材として、ヘルツの最大接触面圧0.5GPaの荷重を印加して接触させ、0.05m/sの回転速度で30分間、上記相手材を回転させたときの該硬質膜の比摩耗量が200×10−10mm3/(N・m)未満であることが好ましい。この摩擦摩耗試験の形態は、相手材表面粗さが小さいため、軸受内の摩耗形態に近い凝着摩耗形態であり、該試験で比摩耗量が200×10−10mm3/(N・m)未満であれば、軌道面で発生する局所的なすべりに対しても摩耗低減に効果がある。

0044

また、押し込み硬さの平均値と標準偏差値との合計が25〜45GPaであることが好ましい。この範囲であると、軌道面内に硬質な異物介入した場合に発生するアブレッシブ摩耗にも高い効果を発揮する。

0045

また、スクラッチテストにおける臨界剥離荷重が50N以上であることが好ましい。スクラッチテストにおける臨界剥離荷重の測定方法は、後述の実施例に示すとおりである。臨界剥離荷重が50N未満である場合には、高荷重条件で軸受を使用した場合に硬質膜が剥離する可能性が高い。また、臨界剥離荷重が50N以上であっても、本発明のような膜構造でなければ場合によっては容易に剥離することもある。

0046

本発明の転がり軸受において、以上のような構造・物性の硬質膜を形成することで、軸受使用時に転がり接触などの負荷を受けた場合でも、該膜の摩耗や剥離を防止でき、苛酷な潤滑状態でも軌道面などの損傷が少なく長寿命となる。また、グリースを封入した転がり軸受において、軌道輪などの損傷により金属新生面露出すると、触媒作用によりグリース劣化を促進させるが、本発明の転がり軸受では、硬質膜により金属接触による軌道面や転動面の損傷を防止できるので、このグリース劣化も防止できる。

0047

以下、硬質膜の形成方法について説明する。硬質膜は、軸受部材の成膜面に対して、下地層8a、混合層8b、表面層8cをこの順に成膜して得られる。

0048

下地層8aおよび混合層8bの形成は、スパッタリングガスとしてArガスを用いたUBMS装置を使用してなされることが好ましい。UBMS装置を用いたUBMS法の成膜原理を図4に示す模式図を用いて説明する。図中において、基材12は、成膜対象の軸受部材である内輪、外輪、または転動体であるが、模式的に平板で示してある。図4に示すように、丸形ターゲット15の中心部と周辺部で異なる磁気特性を有する内側磁石14a、外側磁石14bが配置され、ターゲット15付近高密度プラズマ19を形成しつつ、上記磁石14a、14bにより発生する磁力線16の一部16aがバイアス電源11に接続された基材12近傍まで達するようにしたものである。この磁力線16aに沿ってスパッタリング時に発生したArプラズマが基材12付近まで拡散する効果が得られる。このようなUBMS法では、基材12付近まで達する磁力線16aに沿って、Arイオン17および電子が、通常のスパッタリングに比べてイオン化されたターゲット18をより多く基材12に到達させるイオンアシスト効果によって、緻密な膜(層)13を成膜できる。

0049

ターゲット15として、下地層8aを形成する際にはCrターゲットを用い、混合層8bを形成する際にはWCターゲットおよび黒鉛ターゲットを併用する。各層の形成毎に、それぞれに用いるターゲットを逐次取り替える。

0050

混合層8bは、連続的または段階的に、炭素供給源となる黒鉛ターゲットに印加するスパッタ電力を上げながら、かつ、WCターゲットに印加する電力を下げながら成膜する。これにより表面層8c側に向けてWCの含有率が小さく、かつ、DLCの含有率が高くなる傾斜組成の層とできる。

0051

表面層8cの形成も、上記のスパッタリングガスとしてArガスを用いたUBMS装置を使用してなされることが好ましい。より詳細には、表面層8cは、この装置を利用して、炭素供給源として黒鉛ターゲットと炭化水素系ガスとを併用し、上記Arガスの上記装置内への導入量100に対する上記炭化水素系ガスの導入量の割合を1〜5とし、上記装置内の真空度を0.2〜0.8Paとし、基材となる軸受部材に印加するバイアス電圧を70〜150Vでとした条件下で、上記炭素供給源から生じる炭素原子を、混合層8b上に堆積させて成膜されたものとすることが好ましい。この好適条件について以下に説明する。

0052

炭素供給源として黒鉛ターゲットと炭化水素系ガスとを併用することで、混合層8bとの密着性を向上させることができる。炭化水素系ガスとしては、メタンガス、アセチレンガスベンゼンなどが使用でき、特に限定されないが、コストおよび取り扱い性の点からメタンガスが好ましい。

0053

上記炭化水素系ガスの導入量の割合を、ArガスのUBMS装置内(成膜チャンバー内)への導入量100(体積部)に対して1〜5(体積部)とすることで、表面層8cの耐摩耗性などを悪化させずに、混合層8bとの密着性の向上が図れる。

0054

UBMS装置内(成膜チャンバー内)の真空度は上記のとおり0.2〜0.8Paであることが好ましい。より好ましくは、0.25〜0.8Paである。真空度が0.2Pa未満であると、チャンバー内のArガス量が少ないため、Arプラズマが発生せず、成膜できない場合がある。また、真空度が0.8Paより高いと、逆スパッタ現象が起こり易くなり、耐摩耗性が悪化するおそれがある。

0055

基材である軸受部材に印加するバイアス電圧は上記のとおり70〜150Vであることが好ましい。より好ましくは、100〜150Vである。バイアス電圧が70V未満であると、緻密化が進行せず、耐摩耗性が極端に悪化するので好ましくない。また、バイアス電圧が150Vをこえると、逆スパッタ現象が起こり易くなり、耐摩耗性が悪化するおそれがある。また、バイアス電圧が高すぎると、表面層が硬くなりすぎ、軸受使用時に剥離しやすくなるおそれがある。

0056

また、スパッタリングガスであるArガスの導入量は40〜150ml/minであることが好ましい。より好ましくは50〜150ml/minである。Arガス流量が40ml/min未満であると、Arプラズマが発生せず、成膜できない場合がある。また、Arガス流量が150ml/minよりも多いと、逆スパッタ現象が起こり易くなるため、耐摩耗性が悪化するおそれがある。Arガス導入量が多いと、成膜チャンバー内でAr原子と炭素原子の衝突確率が増す。その結果、膜表面に到達するAr原子数が減少し、Ar原子による膜の押し固め効果が低下し、膜の耐摩耗性が悪化する。

0057

表面層8cの傾斜層部分8dは、上記のように、基材である軸受部材に印加するバイアス電圧を連続的または段階的に上げながら成膜することで得られる。

0058

本発明の転がり軸受に形成する硬質膜として、所定の基材に対して硬質膜を形成し、該硬質膜の物性に関する評価した。また、同様の硬質膜を転がり軸受の内輪軌道面および外輪軌道面に実際に成膜し、該軸受の評価を行なった。これらを実施例、比較例、参考例として以下に説明する。

0059

硬質膜の評価用に用いた基材、UBMS装置、スパッタリングガス、下地層および混合層の形成条件は以下のとおりである。
(1)基材材質:各表に示す基材
(2)基材寸法:鏡面(Ra0.005μm程度)の円板(φ48mm×φ8mm×7mm)
(3)UBMS装置:神戸製鋼所製;UBMS202/AIP複合装置
(4)スパッタリングガス:Arガス
(5)下地層および混合層の形成条件
下地層:成膜チャンバー内を5×10−3Pa程度まで真空引きし、ヒータで基材をベーキングして、Arプラズマにて基材表面をエッチング後、UBMS法にてCrターゲットを用いCr層を形成した。なお、Cr以外の下地層とする場合は、対応するターゲットを用いる以外は、同条件で形成した。
混合層:成膜チャンバー内を5×10−3Pa程度まで真空引きし、ヒータで基材をベーキングして、Arプラズマにて基材表面(または上記Cr層表面)をエッチング後、WCターゲットと黒鉛ターゲットに印加するスパッタ電力を調整し、WCとDLCの組成比を傾斜させた。なお、WC以外との混合層とする場合は、対応するターゲットを用いる以外は、同条件で形成した。
(6)表面層の形成条件は、各表に示す。

0060

UBMS202/AIP複合装置の概要図5に示す。図5アークイオンプレーティング(以下、AIPと記す)機能を備えたUBMS装置の模式図である。図5に示すように、UBMS202/AIP複合装置は、円盤22上に配置された基材23に対し、真空アーク放電を利用して、AIP蒸発源材料21を瞬間的に蒸気化・イオン化し、これを基材23上に堆積させて被膜を成膜するAIP機能と、スパッタ蒸発源材料(ターゲット)24を非平衡な磁場により、基材23近傍のプラズマ密度を上げてイオンアシスト効果を増大すること(図4参照)によって、基材上に堆積する被膜の特性を制御できるUBMS機能を備える装置である。この装置により、基材上に、AIP被膜および複数のUBMS被膜(組成傾斜を含む)を任意に組合せた複合被膜を成膜することができる。この実施例では、基材とする軸受部材(内輪、外輪)に、下地層、混合層、表面層をUBMS被膜として成膜している。なお、外輪軌道面は、外輪の内周に位置するが、イオン化されたターゲットが回り込むことで成膜される。

0061

実施例1〜実施例8、実施例10、比較例1〜比較例5、参考例1〜参考例8
表1〜表3に示す基材をアセトン超音波洗浄した後、乾燥した。乾燥後、基材をUBMS/AIP複合装置に取り付け、上述の形成条件にて各表に示す材質の下地層および混合層を形成した。その上に、各表に示す成膜条件にて表面層であるDLC膜を成膜し、硬質膜を有する試験片を得た。なお、各表における「真空度」は上記装置における成膜チャンバー内の真空度である。得られた試験片を以下に示す摩耗試験硬度試験膜厚試験、スクラッチテスト、およびスラスト型転動疲労試験に供した。結果を各表に併記する。

0062

実施例9
日本電子工業社製:ラジカル窒化装置を用いてプラズマ窒素処理が施された基材(ビッカース硬さHv1000)をアセトンで超音波洗浄した後、乾燥した。乾燥後、基材をUBMS/AIP複合装置に取り付け、上述の形成条件にて表1に示す材質の下地層(Cr)および混合層(WC/DLC)を形成した。その上に、表1に示す成膜条件にて表面層であるDLC膜を成膜し、硬質膜を有する試験片を得た。得られた試験片について、実施例1と同様の試験に供し、その結果を表1に併記する。

0063

摩擦試験
得られた試験片を、図6に示す摩擦試験機用いて摩擦試験を行なった。図6(a)は正面図を、図6(b)は側面図を、それぞれ表す。表面粗さRaが0.01μm以下であり、ビッカース硬度Hvが780であるSUJ2焼入れ鋼を相手材32として回転軸に取り付け、試験片31をアーム部33に固定して所定の荷重34を図面上方から印加して、ヘルツの最大接触面圧0.5GPa、室温(25℃)下、0.05m/sの回転速度で30分間、試験片31と相手材32との間に潤滑剤を介在させることなく、相手材32を回転させたときに、相手材32と試験片31との間に発生する摩擦力ロードセル35により検出した。これより、比摩耗量を算出した。

0064

<硬度試験>
得られた試験片の押し込み硬さをアジレントテクノロジー社製:ナノインデンタ(G200)を用いて測定した。なお、測定値は表面粗さの影響を受けない深さ(硬さが安定している箇所)の平均値を示しており、各試験片10箇所ずつ測定している。

0065

<膜厚試験>
得られた試験片の硬質膜の膜厚を表面形状・表面粗さ測定器テーラーホブソン社製:フォームタリサーフPGI830)を用いて測定した。膜厚は成膜部の一部にマスキングを施し、非成膜部と成膜部の段差から膜厚を求めた。

0066

<スクラッチテスト>
得られた試験片について、ナノテック社製:レベテストRSTを用いてスクラッチテストを行ない臨界剥離荷重を測定した。具体的には、得られた試験片について、先端半径200μmのダイヤモンド圧子で、スクラッチ速度10mm/min、荷重負荷速度10N/mm(連続的に荷重を増加)で試験し、試験機画面で判定し、画面上の摩擦痕摩擦方向長さ375μm、幅約100μm)に対し露出した基材の面積が50%に達する荷重を臨界剥離荷重として測定した。

0067

<スラスト型転動疲労試験>
得られた試験片について、図7に示す試験機を用いて、スラスト型転動疲労試験として、軸受の潤滑状態が苛酷な場合を想定した「低ラムダ条件」と、潤滑状態が良好な場合を想定した「高ラムダ条件」との2条件の試験を行い、硬質膜の転動疲労特性を評価した。「低ラムダ条件」は境界潤滑となるため、純粋な繰り返し転動疲労に加え接触による損傷が影響する。よって、硬質膜の耐摩耗性と密着性が要求される。各条件を以下に示す。

0068

[低ラムダ条件]
潤滑油:VG2
ラムダ:0.6
最大接触面圧:2GPa
回転数:1000r/min
軌道径:φ20mm
転動体:サイズ7/32”、個数3、材質SUJ2、硬さHv750、表面粗さ0.005μmRa
油温度:70℃
打ち切り時間:なし
(1111hで負荷回数8乗回)

[高ラムダ条件]
潤滑油:VG32
ラムダ:9.5
最大接触面圧:3GPa
回転数:4500r/min
軌道径:φ20mm
転動体:サイズ7/32”、個数3、材質SUJ2、硬さHv750、表面粗さ0.005μmRa
油温度:70℃
打ち切り時間:300h
(247hで負荷回数8乗回)

0069

図7に示すように、試験機は、転動体42が円板状の試験片41と軌道盤45との間で転動する構成であり、試験片41は調芯ボール43を介して支持されている。また、図中44は、予圧のためのロータリーボールスプライン、46はヒータ、47は熱電対である。本試験機は、試験片41を取り付け直しても転走跡がずれない構造である。評価方法は、試験時間20h毎に試験片を取り外し、光学顕微鏡観察によって試験片からの硬質膜の剥離有無を確認する。例えば、20h確認時に剥離していれば寿命は20hとなる。20h確認時に剥離していなければ、再度試験片を取り付けて試験を継続する。寿命時間を表1および表2に併記する。また、寿命判定として、低ラムダ条件では、寿命が1500h以上のものを「○」、1000h以上1500h未満のものを「△」、1000h未満のものを「×」として記録する。高ラムダ条件では、寿命が300h以上のものを「○」、300h未満のものを「×」として記録する。

0070

軸受内外輪への成膜試験>
実施例、比較例、参考例の各条件で、6206転がり軸受(深溝玉軸受)の以下の内輪軌道面および外輪軌道面に実際に成膜を行い、成膜直後の各部材からの硬質膜の剥離を確認した。成膜チャンバーから取り出したときに剥離していなかったものを「○」、剥離していたものを「×」として記録し、結果を各表に併記する。また、実施例1の試験後の写真を図9に、比較例1の試験後の写真を図10に、比較例4の試験後の写真を図11にそれぞれ示す。
内輪:軌道面に硬質膜を成膜、材質SUJ2、硬さHv750、表面粗さ0.03μmRa
外輪:軌道面に硬質膜を成膜、材質SUJ2、硬さHv750、表面粗さ0.03μmRa

0071

<軸受寿命試験>
上記成膜試験で硬質膜が成膜された実施例1〜10、比較例5の内外輪を用いて、試験用の6206転がり軸受(深溝玉軸受)を組み立て、この試験用軸受を用いて図8の試験機より寿命試験を行った。図8に示すように、試験機は、負荷用コイルバネ53から負荷用玉軸受52を介して荷重を負荷されつつ、駆動プーリ54により回転する軸55を、一対の試験用軸受51で回転支持するものである。潤滑状態は良好な場合を想定している。試験条件を以下に示す。

0072

内輪/外輪:上記成膜試験で硬質膜が成膜された内輪および外輪
転動体:サイズ3/8”、個数9、材質SUJ2、硬さHv750、表面粗さ0.005μmRa
潤滑油:VG56
ラムダ:3以上
最大接触面圧:3.3GPa
回転数:3000r/min(内輪回転
計算寿命:L10寿命127h
打ち切り時間:200h

0073

試験時間20hと試験時間200hの試験を行ない、試験後の軌道面を光学顕微鏡観察を用いて部材からの硬質膜の剥離の有無を確認した。例えば、20h試験後に剥離していれば寿命は20hとなり、200h試験後に剥離していれば寿命は200hとなる。よって、寿命水準としては、20h、200h、200h以上の3水準となる。寿命時間を表1および表2に併記する。また、寿命判定として、寿命が200h以上のものを「○」、200h未満のものを「×」として記録し、結果を表1および表2に併記する。

0074

0075

0076

0077

表1に示すように各実施例の硬質膜は、耐摩耗性や密着性に優れ、軸受使用時においても硬質膜の剥離を防止できた。

実施例

0078

また、所定の膜構造とした各実施例では内外輪軌道面への成膜状態が良好であるのに対し、下地層、中間層が本発明と異なる比較例1〜4では成膜が困難であった。例えば、実施例1(図9)では硬質膜が良好に形成されているのに対し、下地層を設けなかった比較例1(図10)では大きく剥離し、下地層を設けたがCrではなくTiとした比較例4(図11)でも剥離が見られた。また、比較例5では成膜自体はできたが、軸受使用時に剥離しやすかった。

0079

本発明の転がり軸受は、内・外輪軌道面や転動体の転動面に形成されたDLCを含む硬質膜の耐剥離性に優れ、DLC本体の特性を発揮できるので、耐焼き付き性、耐摩耗性、および耐腐食性に優れる。このため、本発明の転がり軸受は、苛酷な潤滑状態での用途を含め、各種用途に適用可能である。

0080

1転がり軸受(深溝玉軸受)
2内輪
3外輪
4転動体
5保持器
6シール部材
7グリース
8硬質膜
11バイアス電源
12基材
13 膜(層)
15ターゲット
16磁力線
17 Arイオン
18イオン化されたターゲット
19高密度プラズマ
21AIP蒸発源材料
22円盤
23 基材
24スパッタ蒸発源材料(ターゲット)
31試験片
32相手材
33アーム部
34荷重
35ロードセル
41 試験片
42 転動体
43調芯用ボール
44ロータリーボールスプライン
45軌道盤
46ヒータ
47熱電対
51試験用軸受
52負荷用玉軸受
53負荷用コイルバネ
54駆動プーリ
55 軸

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