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技術 ペプチド末端の同定方法

出願人 三菱化学株式会社
発明者 岸本太郎
出願日 2009年11月27日 (11年2ヶ月経過) 出願番号 2009-270484
公開日 2011年6月9日 (9年8ヶ月経過) 公開番号 2011-112562
状態 未査定
技術分野 その他の電気的手段による材料の調査、分析 生物学的材料の調査,分析 酵素・酵素の調製
主要キーワード 同定候補 Cガラス ピーク数 定量比 切断対象 対象イオン 質量分布 質量差
関連する未来課題
重要な関連分野

この項目の情報は公開日時点(2011年6月9日)のものです。
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図面 (6)

課題

蛋白質アミノ末端およびカルボキシ末端を、網羅的かつ簡便に決定する方法の提供。

解決手段

(a)対象ポリペプチド中の1種のアミノ酸残基のアミノ末端側又はカルボキシ末端側の一方で切断したペプチド断片群の取得工程;(b)対象ポリペプチドと同一のポリペプチド中に含まれるアミノ酸残基と同一のアミノ酸残基について、工程(a)で切断した末端と逆側の末端で切断したペプチド断片群の取得工程;(c)工程(a、b)で得た二つのペプチド断片群の質量分析スペクトルの取得工程;(d)工程(c)の質量分析スペクトルから、質量差のあるピークの組を抽出する工程;(e)工程(d)で抽出されたピークの組について、各ピークの質量差、又は、各ピークのフラグメント質量分析結果から、ピークの組が、対象ポリペプチドのアミノ末端、又は、カルボキシ末端を含むポリペプチドであると判断する工程;により、ポリペプチド末端を同定する。

概要

背景

蛋白質質量分析技術の進歩等により、プロテオミクス解析が急速に発展している。現状のプロテオミクス解析は、単純な発現差解析であるが、今後、疾患解析の精度を向上させるためには発現差のある分子名だけでなく、局在翻訳後修飾プロセッシング等のその詳細な構造/状態が、機能(酵素活性相互作用等)に与える影響を分析することが必要になってくる。
この要請応えるためには、蛋白質の配列のみならず、蛋白質のアミノ末端およびカルボキシ末端を、網羅的かつ確実簡便に解析する技術が必要となる。

ペプチド末端解析には、先ず、カルボキシ末端又はアミノ末端ペプチドのみを別々に精製することが必要となる。しかしながら、末端ペプチドのみを特異的に精製する方法は、化学修飾などの繁雑な操作が必要であり、その信頼性も充分検証されていない。

例えば、カルボキシ末端ペプチドを特異的に精製する方法として、非特許文献1には、リジルエンドペプチダーゼを用いて蛋白質を消化したのち、アミノ基転移(Transamination)反応によりペプチドのアミノ末端のアミノ基のみをカルボニル基に変換し、得られたペプチドを1,4-phenylene diisothiocyanate(DITC)ガラスに通し、蛋白質のカルボキシ末端ペプチド以外をリジンのアミノ基でDITCに固定化することにより蛋白質のカルボキシ末端ペプチドを精製する方法が開示されている。

また、アミノ末端ペプチドを特異的に精製する方法として、非特許文献2には、アミノ末端のアミノ基のみをビオチン標識したのち、適当な酵素にて消化し、アビジンビオチン相互作用にてアミノ末端ペプチドを特異的に精製する方法が開示されている。

さらに、アミノ末端ペプチドを特異的に精製する方法として、非特許文献3には、蛋白質のアミノ末端のアミノ基のみをカルボニル基に変換したのち、メタロエンドペプチダーゼで消化し、得られたペプチドをDITCガラスに通し、蛋白質のアミノ末端ペプチド以外をリジンのアミノ基でDITCに固定化することにより蛋白質のアミノ末端ペプチドを精製する方法が開示されている。

このように、従来の方法は、何れも工程が多く、操作が複雑であり、アミノ末端ペプチドとカルボキシ末端ペプチドを同時に精製して、解析することは不可能であった。また、非特許文献2の方法では、翻訳後修飾等でアミノ末端がブロックされている場合は、原理的に検出することができない。

一方、質量分析結果に基づくデータベース検索による蛋白質の配列同定は、測定データの前駆体(Precursor)イオンおよび開裂フラグメントをSwissprotやNCBIなどの公共アミノ酸配列データベースから予測される前駆体(Precursor)イオンおよび開裂フラグメントと比較することによってデータベース中の特定の位置に測定データを同定する方法である。

このような同定方法では、蛋白質のアミノ末端およびカルボキシ末端は、データベース上の末端配列と一致すること又はデータベース上で最も末端に近い部分として同定されることによってのみ、末端として認識される。従って、同一蛋白質で複数の末端が存在する場合でも、よりデータベース上の末端に近いもののみが末端として認識され、その他は内部配列としてのみ同定されてしまう。このように、データベースから推定する方法では、真の末端配列を確定することが困難である。

概要

蛋白質のアミノ末端およびカルボキシ末端を、網羅的かつ簡便に決定する方法の提供。(a)対象ポリペプチド中の1種のアミノ酸残基のアミノ末端側又はカルボキシ末端側の一方で切断したペプチド断片群の取得工程;(b)対象ポリペプチドと同一のポリペプチド中に含まれるアミノ酸残基と同一のアミノ酸残基について、工程(a)で切断した末端と逆側の末端で切断したペプチド断片群の取得工程;(c)工程(a、b)で得た二つのペプチド断片群の質量分析スペクトルの取得工程;(d)工程(c)の質量分析スペクトルから、質量差のあるピークの組を抽出する工程;(e)工程(d)で抽出されたピークの組について、各ピークの質量差、又は、各ピークのフラグメントの質量分析結果から、ピークの組が、対象ポリペプチドのアミノ末端、又は、カルボキシ末端を含むポリペプチドであると判断する工程;により、ポリペプチド末端を同定する。

目的

本発明は、上記した従来技術の問題点が解決された、蛋白質のアミノ末端およびカルボキシ末端を、網羅的かつ確実簡便に決定することができる方法の提供を課題とする

効果

実績

技術文献被引用数
0件
牽制数
0件

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請求項1

以下の工程(a)〜(e)を有することを特徴とするポリペプチド末端同定方法。(a)対象ポリペプチド中に含まれる1種のアミノ酸残基アミノ末端側又はカルボキシ末端側の何れか一方で特異的に切断したペプチド断片群を取得する工程;(b)前記対象ポリペプチドと同一のポリペプチド中に含まれる前記アミノ酸残基と同一のアミノ酸残基について、工程(a)で切断したアミノ末端側又はカルボキシ末端側と逆側の末端で特異的に切断したペプチド断片群を取得する工程;(c)前記工程(a)および(b)で取得した二つのペプチド断片群について、別々に質量分析を行い、それぞれのペプチド断片群の質量分析スペクトルを取得する工程;(d)工程(c)で取得したそれぞれのペプチド断片群の質量分析スペクトルを比較し、それぞれのペプチド断片群の質量分析スペクトルから、前記アミノ酸残基の質量分質量差のあるピークの組を抽出する工程;(e)工程(d)で抽出されたピークの組について、(e1)各ピークの質量差に基づいて、又は、(e2)各ピークのフラグメント質量分析結果に基づいて、該ピークの組が、前記対象ポリペプチドのアミノ末端を含むポリペプチドである、又は、前記対象ポリペプチドのカルボキシ末端を含むポリペプチドであると判断する工程。

請求項2

前記工程(e)において、(e1)各ピークの質量差に基づいて判断する工程が、以下の工程(f)〜(g)である、請求項1に記載の方法。(f)工程(d)で抽出されたピークの組について、(1)前記アミノ酸残基のアミノ末端側で切断したペプチド断片群の質量分析スペクトルから抽出されたピークの質量が、カルボキシ末端側で切断したペプチド断片群の質量分析スペクトルから抽出されたピークの質量より、前記アミノ酸残基の質量分小さい場合、又は、(2)前記アミノ酸残基のカルボキシ末端側で切断したペプチド断片群の質量分析スペクトルから抽出されたピークの質量が、アミノ末端側で切断したペプチド断片群の質量分析スペクトルから抽出されたピークの質量より、前記アミノ酸残基の質量分大きい場合、該ピークの組は、前記対象ポリペプチドのアミノ末端を含むポリペプチドであると判断する工程;(g)工程(d)で抽出されたピークの組について、(1)前記アミノ酸残基のアミノ末端側で切断したペプチド断片群の質量分析スペクトルから抽出されたピークの質量が、カルボキシ末端側で切断したペプチド断片群の質量分析スペクトルから抽出されたピークの質量より、前記アミノ酸残基の質量分大きい場合、又は、(2)前記アミノ酸残基のカルボキシ末端側で切断したペプチド断片群の質量分析スペクトルから抽出されたピークの質量が、アミノ末端側で切断したペプチド断片群の質量分析スペクトルから抽出されたピークの質量より、前記アミノ酸残基の質量分小さい場合、該ピークの組は、前記対象ポリペプチドのカルボキシ末端を含むポリペプチドであると判断する工程。

請求項3

前記工程(e)において、(e2)各ピークのフラグメントの質量分析結果に基づいて判断する工程が、以下の工程(h)〜(l)である、請求項1に記載の方法。(h)前記工程(d)で抽出されたピークの組、又は、前記工程(e1)もしくは前記工程(f)〜(g)の判断が行われたピークの組の各フラグメントについて、別々に質量分析を行い、それぞれのピークから生じる質量分析スペクトルを取得する工程;(i)工程(h)で取得したそれぞれのピークの質量分析スペクトルを比較し、前記アミノ酸残基のカルボキシ末端側で切断したペプチド断片群に由来するスペクトルのピークが示す質量が、前記アミノ酸残基のアミノ末端側で切断したペプチド断片群に由来するスペクトルのピークが示す質量より、前記アミノ酸残基の質量分大きいもののピーク数を数える工程;(j)工程(h)で取得したそれぞれのピークの質量分析スペクトルを比較し、前記アミノ酸残基のカルボキシ末端側で切断したペプチド断片群に由来するスペクトルのピークが示す質量が、前記アミノ酸残基のアミノ末端側で切断したペプチド断片群に由来するスペクトルのピークが示す質量より、前記アミノ酸残基の質量分小さいもののピーク数を数える工程;(k)工程(i)で得られたピーク数と工程(j)で得られたピーク数を比較し、工程(i)で得られたピーク数が多ければ、該ピークの組は、前記対象ポリペプチドのアミノ末端を含むポリペプチドであると判断する工程;(l)工程(i)で得られたピーク数と工程(j)で得られたピーク数を比較し、工程(i)で得られたピーク数が少なければ、該ピークの組は、前記対象ポリペプチドのカルボキシ末端を含むポリペプチドであると判断する工程。

請求項4

前記工程(e)において、工程(e1)を行ったうえで、工程(e2)を行う、請求項1〜3の何れか1項に記載の方法。

請求項5

さらに、以下の工程(m)を有する、請求項1〜4の何れか1項に記載の方法。(m)前記工程において、抽出されたピークの組、又は、アミノ末端を含むポリペプチド若しくはカルボキシ末端を含むポリペプチドとして判断されたピークの組について、(1)前記アミノ酸残基のカルボキシ末端側で切断したペプチド断片群に由来するスペクトルから抽出されたピークよりも、前記アミノ酸残基の質量分小さいピークが、同じカルボキシ末端側で切断したペプチド断片群に由来するスペクトルにおいても抽出されているもの、(2)前記アミノ酸残基のアミノ末端側で切断したペプチド断片群に由来するスペクトルから抽出されたピークよりも、前記アミノ酸残基の質量分大きいピークが、同じアミノ末端側で切断したペプチド断片群に由来するスペクトルにおいても抽出されているもの、(3)カルボキシ末端を含むポリペプチドであると判断されたピークのうち、前記アミノ酸残基のカルボキシ末端側で切断したペプチド断片群に由来するスペクトルから抽出されたピークよりも、前記アミノ酸残基の質量分大きいピークが、同じカルボキシ末端側で切断したペプチド断片群に由来するスペクトルから抽出されたもの、及び/又は、(4)カルボキシ末端を含むポリペプチドであると判断されたピークのうち、前記アミノ酸残基のアミノ末端側で切断したペプチド断片群に由来するスペクトルから抽出されたピークよりも、前記アミノ酸残基の質量分小さいピークが、同じアミノ末端側で切断したペプチド断片群に由来するスペクトルから抽出されたもの、を、前記アミノ酸残基が前記対象ポリペプチド中に連続していることによるピークの組の誤抽出と判断して、該ピークの組を除去する工程。

請求項6

さらに、以下の工程(n)を有する、請求項3〜5の何れか1項に記載の方法。(n)工程(h)で取得された質量分析スペクトルについて、ペプチドフラグメントアミノ酸配列データベース検索し、アミノ酸配列解析する工程。

請求項7

前記アミノ酸残基がリジン残基であって、リジン残基のアミノ末端側の切断がメタロエンドペプチダーゼ(Lys-N)で行われ、リジン残基のカルボキシ末端側の切断がリジルエンドペプチダーゼ(Lys-C)で行われる、請求項1〜6の何れか1項に記載の方法。

請求項8

前記対象ポリペプチドが、異なるポリペプチドの混合物である、請求項1〜6の何れか1項に記載の方法。

技術分野

0001

本発明は、ペプチド末端同定方法に関し、さらに詳しくは、ポリペプチド中に含まれる特定のアミノ酸残基アミノ末端側で切断した断片群とカルボキシ末端側で切断した断片群について、別々に取得した質量スペクトルの結果に基づいて、アミノ末端を含むポリペプチドか、カルボキシ末端を含むポリペプチドかを判断することによりポリペプチド末端を同定する方法に関する。

背景技術

0002

蛋白質質量分析技術の進歩等により、プロテオミクス解析が急速に発展している。現状のプロテオミクス解析は、単純な発現差解析であるが、今後、疾患解析の精度を向上させるためには発現差のある分子名だけでなく、局在翻訳後修飾プロセッシング等のその詳細な構造/状態が、機能(酵素活性相互作用等)に与える影響を分析することが必要になってくる。
この要請応えるためには、蛋白質の配列のみならず、蛋白質のアミノ末端およびカルボキシ末端を、網羅的かつ確実簡便に解析する技術が必要となる。

0003

ペプチドの末端解析には、先ず、カルボキシ末端又はアミノ末端ペプチドのみを別々に精製することが必要となる。しかしながら、末端ペプチドのみを特異的に精製する方法は、化学修飾などの繁雑な操作が必要であり、その信頼性も充分検証されていない。

0004

例えば、カルボキシ末端ペプチドを特異的に精製する方法として、非特許文献1には、リジルエンドペプチダーゼを用いて蛋白質を消化したのち、アミノ基転移(Transamination)反応によりペプチドのアミノ末端のアミノ基のみをカルボニル基に変換し、得られたペプチドを1,4-phenylene diisothiocyanate(DITC)ガラスに通し、蛋白質のカルボキシ末端ペプチド以外をリジンのアミノ基でDITCに固定化することにより蛋白質のカルボキシ末端ペプチドを精製する方法が開示されている。

0005

また、アミノ末端ペプチドを特異的に精製する方法として、非特許文献2には、アミノ末端のアミノ基のみをビオチン標識したのち、適当な酵素にて消化し、アビジンビオチン相互作用にてアミノ末端ペプチドを特異的に精製する方法が開示されている。

0006

さらに、アミノ末端ペプチドを特異的に精製する方法として、非特許文献3には、蛋白質のアミノ末端のアミノ基のみをカルボニル基に変換したのち、メタロエンドペプチダーゼで消化し、得られたペプチドをDITCガラスに通し、蛋白質のアミノ末端ペプチド以外をリジンのアミノ基でDITCに固定化することにより蛋白質のアミノ末端ペプチドを精製する方法が開示されている。

0007

このように、従来の方法は、何れも工程が多く、操作が複雑であり、アミノ末端ペプチドとカルボキシ末端ペプチドを同時に精製して、解析することは不可能であった。また、非特許文献2の方法では、翻訳後修飾等でアミノ末端がブロックされている場合は、原理的に検出することができない。

0008

一方、質量分析結果に基づくデータベース検索による蛋白質の配列同定は、測定データの前駆体(Precursor)イオンおよび開裂フラグメントをSwissprotやNCBIなどの公共アミノ酸配列データベースから予測される前駆体(Precursor)イオンおよび開裂フラグメントと比較することによってデータベース中の特定の位置に測定データを同定する方法である。

0009

このような同定方法では、蛋白質のアミノ末端およびカルボキシ末端は、データベース上の末端配列と一致すること又はデータベース上で最も末端に近い部分として同定されることによってのみ、末端として認識される。従って、同一蛋白質で複数の末端が存在する場合でも、よりデータベース上の末端に近いもののみが末端として認識され、その他は内部配列としてのみ同定されてしまう。このように、データベースから推定する方法では、真の末端配列を確定することが困難である。

先行技術

0010

Kazuhiro Sonomura et al, "The specific isolation of C-terminal peptides of proteins through a transamination reaction and its advantage for introducing functional groups into the peptide" Rapid Communications in Mass Spectrometry 2009; 23: 611-618
Yamaguchi et al, "Specific isolation of N-terminal fragments from proteins and their high-fidelity de novo sequencing." Rapid Communications in Mass Spectrometry 2007; 21: 3329-3336
Kazuhiro Sonomura et al, "A method for terminus proteomics: Selective isolation and labeling of N-terminal peptide from protein through transamination reaction." Bioorg Med Chem Lett. 2009; 19 (23): 6544-6547

発明が解決しようとする課題

0011

本発明は、上記した従来技術の問題点が解決された、蛋白質のアミノ末端およびカルボキシ末端を、網羅的かつ確実簡便に決定することができる方法の提供を課題とする。

課題を解決するための手段

0012

本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、ポリペプチド中に含まれる特定のアミノ酸残基のアミノ末端側で切断した断片群とカルボキシ末端側で切断した断片群について、別々に質量スペクトルを取得し、取得した二つの断片群の質量スペクトルについて、上記特定のアミノ酸残基分の質量量差があるピークの組を解析すれば、該ピークの組が、カルボキシ末端ペプチドに由来するものか、又は、アミノ末端ペプチドに由来するものかの判断ができることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて成し遂げられたものである。

0013

すなわち、本発明の要旨は、次の〔1〕〜〔8〕のとおりである。
〔1〕以下の工程(a)〜(e)を有することを特徴とするポリペプチド末端の同定方法。
(a)対象ポリペプチド中に含まれる1種のアミノ酸残基のアミノ末端側又はカルボキシ末端側の何れか一方で特異的に切断したペプチド断片群を取得する工程;
(b)前記対象ポリペプチドと同一のポリペプチド中に含まれる前記アミノ酸残基と同一のアミノ酸残基について、工程(a)で切断したアミノ末端側又はカルボキシ末端側と逆側の末端で特異的に切断したペプチド断片群を取得する工程;
(c)前記工程(a)および(b)で取得した二つのペプチド断片群について、別々に質量分析を行い、それぞれのペプチド断片群の質量分析スペクトルを取得する工程;
(d)工程(c)で取得したそれぞれのペプチド断片群の質量分析スペクトルを比較し、それぞれのペプチド断片群の質量分析スペクトルから、前記アミノ酸残基の質量分質量差のあるピークの組を抽出する工程;
(e)工程(d)で抽出されたピークの組について、(e1)各ピークの質量差に基づいて、又は、(e2)各ピークのフラグメントの質量分析結果に基づいて、該ピークの組が、前記対象ポリペプチドのアミノ末端を含むポリペプチドである、又は、前記対象ポリペプチドのカルボキシ末端を含むポリペプチドであると判断する工程。

0014

〔2〕前記工程(e)において、(e1)各ピークの質量差に基づいて判断する工程が、以下の工程(f)〜(g)である、〔1〕に記載の方法。
(f)工程(d)で抽出されたピークの組について、(1)前記アミノ酸残基のアミノ末端側で切断したペプチド断片群の質量分析スペクトルから抽出されたピークの質量が、カルボキシ末端側で切断したペプチド断片群の質量分析スペクトルから抽出されたピークの質量より、前記アミノ酸残基の質量分小さい場合、又は、(2)前記アミノ酸残基のカルボキシ末端側で切断したペプチド断片群の質量分析スペクトルから抽出されたピークの質量が、アミノ末端側で切断したペプチド断片群の質量分析スペクトルから抽出されたピークの質量より、前記アミノ酸残基の質量分大きい場合、該ピークの組は、前記対象ポリペプチドのアミノ末端を含むポリペプチドであると判断する工程;
(g)工程(d)で抽出されたピークの組について、(1)前記アミノ酸残基のアミノ末端側で切断したペプチド断片群の質量分析スペクトルから抽出されたピークの質量が、カルボキシ末端側で切断したペプチド断片群の質量分析スペクトルから抽出されたピークの質量より、前記アミノ酸残基の質量分大きい場合、又は、(2)前記アミノ酸残基のカルボキシ末端側で切断したペプチド断片群の質量分析スペクトルから抽出されたピークの質量が、アミノ末端側で切断したペプチド断片群の質量分析スペクトルから抽出されたピークの質量より、前記アミノ酸残基の質量分小さい場合、該ピークの組は、前記対象ポリペプチドのカルボキシ末端を含むポリペプチドであると判断する工程。

0015

〔3〕前記工程(e)において、(e2)各ピークのフラグメントの質量分析結果に基づいて判断する工程が、以下の工程(h)〜(l)である、〔1〕に記載の方法。
(h)前記工程(d)で抽出されたピークの組、又は、前記工程(e1)もしくは前記工程(f)〜(g)の判断が行われたピークの組の各フラグメントについて、別々に質量分析を行い、それぞれのピークから生じる質量分析スペクトルを取得する工程;
(i)工程(h)で取得したそれぞれのピークの質量分析スペクトルを比較し、前記アミノ酸残基のカルボキシ末端側で切断したペプチド断片群に由来するスペクトルのピークが示す質量が、前記アミノ酸残基のアミノ末端側で切断したペプチド断片群に由来するスペクトルのピークが示す質量より、前記アミノ酸残基の質量分大きいもののピーク数を数える工程;
(j)工程(h)で取得したそれぞれのピークの質量分析スペクトルを比較し、前記アミノ酸残基のカルボキシ末端側で切断したペプチド断片群に由来するスペクトルのピークが示す質量が、前記アミノ酸残基のアミノ末端側で切断したペプチド断片群に由来するスペクトルのピークが示す質量より、前記アミノ酸残基の質量分小さいもののピーク数を数える工程;
(k)工程(i)で得られたピーク数と工程(j)で得られたピーク数を比較し、工程(i)で得られたピーク数が多ければ、該ピークの組は、前記対象ポリペプチドのアミノ末端を含むポリペプチドであると判断する工程;
(l)工程(i)で得られたピーク数と工程(j)で得られたピーク数を比較し、工程(i)で得られたピーク数が少なければ、該ピークの組は、前記対象ポリペプチドのカルボキシ末端を含むポリペプチドであると判断する工程。

0016

〔4〕前記工程(e)において、工程(e1)を行ったうえで、工程(e2)を行う、〔1〕〜〔3〕何れかに記載の方法。

0017

〔5〕さらに、以下の工程(m)を有する、〔1〕〜〔4〕の何れかに記載の方法。
(m)前記工程において、抽出されたピークの組、又は、アミノ末端を含むポリペプチド若しくはカルボキシ末端を含むポリペプチドとして判断されたピークの組について、
(1)前記アミノ酸残基のカルボキシ末端側で切断したペプチド断片群に由来するスペクトルから抽出されたピークよりも、前記アミノ酸残基の質量分小さいピークが、同じカルボキシ末端側で切断したペプチド断片群に由来するスペクトルにおいても抽出されているもの、
(2)前記アミノ酸残基のアミノ末端側で切断したペプチド断片群に由来するスペクトルから抽出されたピークよりも、前記アミノ酸残基の質量分大きいピークが、同じアミノ末端側で切断したペプチド断片群に由来するスペクトルにおいても抽出されているもの、
(3)カルボキシ末端を含むポリペプチドであると判断されたピークのうち、前記アミノ酸残基のカルボキシ末端側で切断したペプチド断片群に由来するスペクトルから抽出されたピークよりも、前記アミノ酸残基の質量分大きいピークが、同じカルボキシ末端側で切断したペプチド断片群に由来するスペクトルから抽出されたもの、及び/又は、
(4)カルボキシ末端を含むポリペプチドであると判断されたピークのうち、前記アミノ酸残基のアミノ末端側で切断したペプチド断片群に由来するスペクトルから抽出されたピークよりも、前記アミノ酸残基の質量分小さいピークが、同じアミノ末端側で切断したペプチド断片群に由来するスペクトルから抽出されたもの、
を、前記アミノ酸残基が前記対象ポリペプチド中に連続していることによるピークの組の誤抽出と判断して、該ピークの組を除去する工程。

0018

〔6〕さらに、以下の工程(n)を有する、〔3〕〜〔5〕の何れかに記載の方法。
(n)工程(h)で取得された質量分析スペクトルについて、ペプチドフラグメントのアミノ酸配列データベースを検索し、アミノ酸配列を解析する工程。

0019

〔7〕前記アミノ酸残基がリジン残基であって、リジン残基のアミノ末端側の切断がメタロエンドペプチダーゼ(Lys-N)で行われ、リジン残基のカルボキシ末端側の切断がリジルエンドペプチダーゼ(Lys-C)で行われる、〔1〕〜〔6〕の何れかに記載の方法。

0020

〔8〕前記対象ポリペプチドが、異なるポリペプチドの混合物である、〔1〕〜〔6〕の何れかに記載の方法。

発明の効果

0021

本発明の方法によれば、蛋白質のアミノ末端およびカルボキシ末端を、同時に、網羅的かつ確実簡便に解析することができる。特に、本発明の方法により、同一遺伝子由来でカルボキシ末端が異なる2種類の蛋白質の末端ペプチドも確実に区別することができる。また、末端ペプチドが翻訳後修飾を受けていても何ら問題なく末端ペプチドを検出・同定できる。
従って、本発明の方法は、例えば、プロセッシングに伴うバイオマーカーの検出、蛋白質機能解析、さらには疾患解析等に特に好適に用いることができる。

図面の簡単な説明

0022

N末端ペプチドの仮想配列(アミノ酸1文字表記)「PEPTIDESKINTERNALK・・・」について、メタロエンドペプチダーゼ(Lys-N)およびリジルエンドペプチダーゼ(Lys-C)で消化した場合の切断パターンを、模式的に示した図である。
C末端ペプチドの仮想配列(アミノ酸1文字表記)「・・・KINTERNALKENDTERM」について、メタロエンドペプチダーゼ(Lys-N)およびリジルエンドペプチダーゼ(Lys-C)で消化した場合の切断パターンを、模式的に示した図である。
図1のN末端ペプチドについて、Lys-N断片とLys-C断片の質量分析スペクトルから得られるピークの組の配列[PEPTIDES(Lys-N消化)とPEPTIDESK(Lys-C消化)]のMS/MSによる解列パターンを模式的に示した図である。
図2のC末端ペプチドについて、Lys-N断片とLys-C断片の質量分析スペクトルから得られるピークの組の配列[KENDTERM(Lys-N消化)とENDTERM(Lys-C消化)]のMS/MSによる解列パターンを模式的に示した図である。
リジン(K)が連続する配列を含む仮想配列(アミノ酸1文字表記)「・・・INTERNALKKFALSETERMKINTERNAL・・・」について、メタロエンドペプチダーゼ(Lys-N)およびリジルエンドペプチダーゼ(Lys-C)で消化した場合の切断パターンを模式的に示した図である。

0023

以下に、本発明を実施するための代表的な態様を具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の態様に限定されるものではない。なお、本明細書において、「ペプチド」および「ポリペプチド」という用語は、それぞれ、「2個以上のアミノ酸がペプチド結合により結合したもの」および「通常10個以上のアミノ酸が結合したもの」の総称として用い、蛋白質を、「ポリペプチド」と称することがある。また、ペプチド、ポリペプチド又は蛋白質の「アミノ末端」および「カルボキシ末端」を、それぞれ、「N末端」および「C末端」と称することがある。

0024

本発明において、末端解析の対象となるポリペプチドの種類や大きさは特に限定されず、如何なるポリペプチド又は蛋白質も解析対象とすることができる。
対象ポリペプチドは、1種のポリペプチド又は蛋白質であっても、異なる種類のポリペプチド又は蛋白質の混合物であってもよい。

0025

対象ポリペプチドは、アミノ末端もしくはカルボキシ末端から適切な位置に、そのN末端側とC末端側で特異的切断ができる1種のアミノ酸残基(以下これを、「切断対象アミノ酸残基」と称することがある。)、例えばリジン残基が存在し、末端ペプチドとして遊離されるペプチドが質量分析装置で検出される必要がある。適切な切断対象アミノ酸残基、例えばリジン残基の位置は、少なくとも末端より4残基以上離れており、数十残基以内、好ましくは50残基以内である。
また、混合物中のポリペプチド又は蛋白質の数に理論上の制限はなく、その数の上限は、質量分析装置の分解能および精度に依存するが、数百程度が限度と考えられる。

0026

本発明において、上記対象ポリペプチドについて、対象ポリペプチド中に含まれる1種のアミノ酸残基のアミノ末端側又はカルボキシ末端側の何れか一方で特異的に切断したペプチド断片群を、別々に取得する[工程(a)、(b)]。
切断対象アミノ酸残基は、対象ポリペプチド中に含まれる特定の1種のアミノ酸残基であって上記のとおり切断可能なアミノ酸残基であれば特に限定されず何れのアミノ酸残基であってもよい。また切断方法も、該アミノ酸残基のアミノ末端側とカルボキシ末端側で切断可能な方法であれば特に限定されず、化学的切断方法、生化学的切断方法の何れの切断方法でもよい。

0027

ポリペプチド又は蛋白質の特異的切断は、生化学的方法で行なうことが好ましく、さらに、対象ポリペプチド中のアミノ酸残基をリジン残基として、リジン残基のアミノ末端側の切断をメタロエンドペプチダーゼ(Metalloendopeptidase、EC 3.4.24.20;以下これを、「Lys-N」と称することがある。)で行い、リジン残基のカルボキシ末端側の切断をリジルエンドペプチダーゼ(Lysyl Endopeptidase、EC 3.4.21.50;以下これを、「Lys-C」と称することがある。)で行うことが特に好ましい。Lys-NおよびLys-Cを、それぞれ別々に用いて対象ポリペプチドを生化学的(酵素学的)に切断することにより、対象ポリペプチドのリジン残基のアミノ末端側で特異的に切断したペプチド断片群と、対象ポリペプチドのリジン残基のカルボキシ末端側で特異的に切断したペプチド断片群の二つのペプチド断片群を取得することができる。

0028

特異的切断は、対象ポリペプチド又は蛋白質が分析中立体構造をとらないように、還元したうえで行うのが好ましい。
対象ポリペプチド又は蛋白質の還元は、それ自体既知通常用いられる方法、例えば、DTT(Dithiothreitol)で還元したのちヨードアセトアミドもしくはヨード酢酸アルキル化する方法等で行うことができる。

0029

かくして取得した二つのペプチド断片群について、別々に質量分析を行い、それぞれのペプチド断片群の質量分析スペクトルを取得する[工程(c)]。
質量分析スペクトルの取得方法は特に制限されないが、液体クロマトグラフ質量分析(以下これを、「LC-MS」と称することがある。)により行うことが好ましい。

0030

LC-MSは、液体クロマトグラフによる分離と質量分析による検出の2段階に分けられる。その条件は、適宜設定して実施することができる。
液体クロマトグラフにおいては、ペプチド断片群を、例えば、0.1%蟻酸等の酸性水溶液に溶解し、ODS等の逆相樹脂充填したカラム吸着させたのちにアセトニトリルメタノール等の非極性溶媒を用いて溶出させる。液体クロマトグラフの出口と質量分析装置の入り口をつなぐインターフェースはESI(Electro spray interface)と呼ばれ、先端に電圧印加することにより対象物イオン化し、質量分析装置内部に導く役割をする。

0031

質量分析装置内においては、対象イオンをそのまま質量電荷比(m/z)の違いで分離し、検出を行う。また、後述するとおり、質量分析装置内で、対象イオン以外のイオンを排除し単離した上で種々の方法を用いて開裂させ、生じたフラグメントイオンの質量をm/zの違いで分離し、検出を行うMS/MSと呼ばれる方法も行うことができる。

0032

次に、取得したそれぞれのペプチド断片群の質量分析スペクトルを比較し、それぞれのペプチド断片群の質量分析スペクトルから、前記アミノ酸残基の質量分の質量差のあるピークの組を抽出する[工程(d)]。この工程(d)以降におけるデータ処理は、計算機上で行われる。データ処理(計算)プログラムは、例えば、エクセルマイクロソフト社製表計算ソフト)等のマクロ機能を用いて作成すればよい。

0033

ここで、仮想配列に基づいて、N末端ペプチドとC末端にペプチドについて、対象ポリペプチド中に含まれる前記アミノ酸残基(例えばリジン残基)のN末端側およびC末端側における特異的な切断パターン、例えばLys-NおよびLys-Cによる切断パターンについて、図1および2に基づいて説明する。なお、本明細書において、Lys-Nで消化することにより得られるペプチド断片群を「Lys-N断片」、Lys-Cで消化することにより得られるペプチド断片群を「Lys-C断片」と称することがある。

0034

図1は、N末端ペプチドの仮想配列(アミノ酸1文字表記)「PEPTIDESKINTERNALK・・・」について、Lys-NおよびLys-Cで消化した場合の切断パターンを、模式的に示した図である。
図1のとおり、N末端ペプチド「PEPTIDESKINTERNALK・・・」を、Lys-Nで消化した場合、「PEPTIDES」と「KINTERNAL」に、Lys-Cで消化した場合、「PEPTIDESK」と「INTERNALK」に切断される。このように、N末端ペプチドについては、切断対象アミノ酸(リジン)残基の有無[PEPTIDES(Lys-N消化)とPEPTIDESK(Lys-C消化)]の組み合わせ、すなわち、Lys-Cで消化した場合、切断対象アミノ酸(リジン)残基をC末端に有する断片[質量がリジン残基の質量(128.01)分大きい断片]が生じることとなる。

0035

図2は、C末端ペプチドの仮想配列(アミノ酸1文字表記)「・・・KINTERNALKENDTERM」について、Lys-NおよびLys-Cで消化した場合の切断パターンを、模式的に示した図である。

0036

図2のとおり、C末端ペプチド「・・・KINTERNALKENDTERM」をLys-Nで消化した場合、「KENDTERM」と「KINTERNAL」に、Lys-Cで消化した場合、「ENDTERM」と「INTERNALK」に切断される。このように、C末端ペプチドについては、切断対象アミノ酸(リジン)残基の有無の断片[KENDTERM(Lys-N消化)とENDTERM(Lys-C消化)]の組み合わせ、すなわち、Lys-Nで消化した場合、切断対象アミノ酸(リジン)残基をN末端に有する断片[質量がリジン残基の質量(128.01)分大きい断片]が生じることとなる。

0037

従って、工程(d)で抽出されたピークの組について、例えば、各ピークの質量差に基づいて、該ピークの組が、前記対象ポリペプチドのアミノ末端を含むポリペプチドである、又は、前記対象ポリペプチドのカルボキシ末端を含むポリペプチドであると判断することができる[工程(e1)]。また、工程(d)で抽出されたピークの組について、例えば、各ピークのフラグメントの質量分析結果に基づいて、質量差を解析することにより、該ピークの組が、前記対象ポリペプチドのアミノ末端を含むポリペプチドである、又は、前記対象ポリペプチドのカルボキシ末端を含むポリペプチドであると判断することができる[工程(e2)]。

0038

さらに詳細には、工程(e1)においては、図1から明らかなとおり、例えば、工程(d)で抽出されたピークの組について、(1)前記アミノ酸残基のアミノ末端側で切断(例えばLys-Nで切断)したペプチド断片群の質量分析スペクトルから抽出されたピークの質量が、カルボキシ末端側で切断(例えばLys-Cで切断)したペプチド断片群の質量分析スペクトルから抽出されたピークの質量より、前記アミノ酸残基(例えばリジン残基)の質量分小さい場合、又は、(2)前記アミノ酸残基のカルボキシ末端側で切断(例えばLys-Cで切断)したペプチド断片群の質量分析スペクトルから抽出されたピークの質量が、アミノ末端側で切断(例えばLys-Nで切断)したペプチド断片群の質量分析スペクトルから抽出されたピークの質量より、前記アミノ酸残基(例えばリジン残基)の質量分大きい場合、該ピークの組は、前記対象ポリペプチドのアミノ末端を含むポリペプチドであると判断することができる[工程(f)]。
この工程(f)における(1)と(2)は、質量差の判断基準を逆向きにしたものであり、実質的に同じである。

0039

また、図2から明らかなとおり、例えば、工程(d)で抽出されたピークの組について、(1)前記アミノ酸残基のアミノ末端側で切断(例えばLys-Nで切断)したペプチド断片群の質量分析スペクトルから抽出されたピークの質量が、カルボキシ末端側で切断(例えばLys-Cで切断)したペプチド断片群の質量分析スペクトルから抽出されたピークの質量より、前記アミノ酸残基(例えばリジン残基)の質量分大きい場合、又は、(2)前記アミノ酸残基のカルボキシ末端側で切断(例えばLys-Cで切断)したペプチド断片群の質量分析スペクトルから抽出されたピークの質量が、アミノ末端側で切断(例えばLys-Nで切断)したペプチド断片群の質量分析スペクトルから抽出されたピークの質量より、前記アミノ酸残基(例えばリジン残基)の質量分小さい場合、該ピークの組は、前記対象ポリペプチドのカルボキシ末端を含むポリペプチドであると判断することができる[工程(g)]。
この工程(g)における(1)と(2)は、質量差の判断基準を逆向きにしたものであり、実質的に同じである。

0040

工程(e2)において、工程(d)で抽出されたピークの組の各ピークのフラグメントは、別々に質量分析を行い、それぞれのピークから生じる質量スペクトルを取得する[工程(h)]。各ピークのフラグメントの質量分析は、上記工程(f)〜(g)の判断が行われたピークの組の各ピークのフラグメントについて行ってもよい。以下、この工程(h)における質量分析ピークのフラグメントの質量分析を「MS/MS」、この分析により得られる質量分析スペクトルを「MS/MSスペクトル」と称することがある。

0041

ここで、図1図2の仮想配列のピークの組を例として、これら各ピークのフラグメントのMS/MSによる解列パターンについて説明する。

0042

図3は、図1のN末端ペプチドについて、Lys-N断片とLys-C断片の質量分析スペクトルから得られるピークの組の配列[PEPTIDES(Lys-N消化)とPEPTIDESK(Lys-C消化)]のMS/MSによる解列パターンを模式的に示したものである。
上記ピークの組の各フラグメントのMS/MSにより得られるフラグメントを、N末端側フラグメントとC末端側フラグメントに整理すれば、理論的には、図3のとおりとなる。

0043

図3から明らかなとおり、N末端ペプチドについては、MS/MSスペクトルのN末端側フラグメントはLys-C断片由来とLys-N断片由来のピークのフラグメントで同様の質量のフラグメントが生じる。これに対して、C末端側フラグメントは、Lys-C断片由来のピークのフラグメントの方が、Lys-N断片由来のピークのフラグメントより、リジン残基の質量分大きいフラグメントが生じることとなる。

0044

図4は、図2のC末端ペプチドについて、Lys-N断片とLys-C断片の質量分析スペクトルから得られるピークの組の配列[KENDTERM(Lys-N消化)とENDTERM(Lys-C消化)]のMS/MSによる解列パターンを模式的に示したものである。
上記ピークの組の各フラグメントのMS/MSにより得られるフラグメントを、N末端側フラグメントとC末端側フラグメントに整理すれば、理論的には、図4のとおりとなる。

0045

図4から明らかなとおり、C末端ペプチドについては、MS/MSスペクトルのC末端側フラグメントはLys-C断片由来とLys-N断片由来のピークのフラグメントで同様の質量のフラグメントが生じる。これに対して、N末端側フラグメントは、Lys-C断片由来のピークのフラグメントの方が、Lys-N断片由来のピークのフラグメントより、リジン残基の質量分小さいフラグメントが生じることとなる。

0046

従って、工程(e2)の各ピークのフラグメントの質量分析結果に基づくペプチド末端の判断は、例えば、工程(i)〜(l)のとおり行うことができる。

0047

工程(h)で取得したそれぞれのピークの質量分析スペクトルを比較し、前記アミノ酸残基(例えばリジン残基)のカルボキシ末端側で切断(例えばLys-Cで切断)したペプチド断片群に由来するスペクトルのピークが示す質量が、前記アミノ酸残基(例えばリジン残基)のアミノ末端側で切断(例えばLys-Nで切断)したペプチド断片群に由来するスペクトルのピークが示す質量より、前記アミノ酸残基の質量分大きいもののピーク数を数える[工程(i)]。

0048

工程(h)で取得したそれぞれのピークの質量分析スペクトルを比較し、前記アミノ酸残基(例えばリジン残基)のカルボキシ末端側で切断(例えばLys-Cで切断)したペプチド断片群に由来するスペクトルのピークが示す質量が、前記アミノ酸残基(例えばリジン残基)のアミノ末端側で切断(例えばLys-Nで切断)したペプチド断片群に由来するスペクトルのピークが示す質量より、前記アミノ酸残基の質量分小さいもののピーク数を数える[工程(j)]。

0049

工程(i)で得られたピーク数と工程(j)で得られたピーク数を比較し、工程(i)で得られたピーク数が多ければ、該ピークの組は、前記対象ポリペプチドのアミノ末端を含むポリペプチドであると判断する[工程(k)]。

0050

工程(i)で得られたピーク数と工程(j)で得られたピーク数を比較し、工程(i)で得られたピーク数が少なければ、該ピークの組は、前記対象ポリペプチドのカルボキシ末端を含むポリペプチドであると判断する[工程(l)]。

0051

なお、上記判断は、前記アミノ酸残基(例えばリジン残基)のカルボキシ末端側で切断(例えばLys-Cで切断)したペプチド断片群に由来するスペクトルのピークが示す質量を基準としたものである。当然のことながら、前記アミノ酸残基(例えばリジン残基)のアミノ末端側で切断(例えばLys-Nで切断)したペプチド断片群に由来するスペクトルのピークが示す質量を基準としても、同様に判断できる。

0052

すなわち、工程(e2)の各ピークのフラグメントの質量分析結果に基づくペプチド末端の判断は、例えば、工程(i’)〜(l’)のとおり行うこともできる。

0053

工程(h)で取得したそれぞれのピークの質量分析スペクトルを比較し、前記アミノ酸残基(例えばリジン残基)のアミノ末端側で切断(例えばLys-Nで切断)したペプチド断片群に由来するスペクトルのピークが示す質量が、前記アミノ酸残基(例えばリジン残基)のカルボキシ末端側で切断(例えばLys-Cで切断)したペプチド断片群に由来するスペクトルのピークが示す質量より、前記アミノ酸残基の質量分小さいもののピーク数を数える[工程(i’)]。

0054

工程(h)で取得したそれぞれのピークの質量分析スペクトルを比較し、前記アミノ酸残基(例えばリジン残基)のアミノ末端側で切断(例えばLys-Nで切断)したペプチド断片群に由来するスペクトルのピークが示す質量が、前記アミノ酸残基(例えばリジン残基)のカルボキシ末端側で切断(例えばLys-Cで切断)したペプチド断片群に由来するスペクトルのピークが示す質量より、前記アミノ酸残基の質量分大きいもののピーク数を数える[工程(j’)]。

0055

工程(i’)で得られたピーク数と工程(j’)で得られたピーク数を比較し、工程(i’)で得られたピーク数が多ければ、該ピークの組は、前記対象ポリペプチドのアミノ末端を含むポリペプチドであると判断する[工程(k’)]。

0056

工程(i’)で得られたピーク数と工程(j’)で得られたピーク数を比較し、工程(i’)で得られたピーク数が少なければ、該ピークの組は、前記対象ポリペプチドのカルボキシ末端を含むポリペプチドであると判断する[工程(l)]。
上記工程(i)〜(l)と工程(i’)〜(l’)は実質的に同じである。

0057

なお、質量分析スペクトルの解析に際し、各スペクトルに対し価数の違いを補正するためにデコンボリューション(deconvolution)によりm/zから1価イオンへの変換を行う必要がある。

0058

デコンボリューションとは、ペプチドイオンピークの前後のスペクトルを参照し、同位体ピークを検出したのち同位体ピークの強度および質量分布を用いて価数を判定する処理を意味する。電荷プロトンにより付加されているため、実際の質量をMとし、プロトンをH、電荷をzとすると、
観測されたm/z)=[M+(H*z)]/z
という式が成り立つ。従って1価イオンに変換する場合には、
M+H=(観測されたm/z)*z−(z−1)*H
を行う必要がある。

0059

ここで、対象ポリペプチド中に、前記アミノ酸残基が連続する配列が存在する場合、工程(d)における前記アミノ酸残基の質量分の質量差のあるピークの組が誤抽出され、誤抽出されたピークの組が、N末端又はC末端を含むポリペプチドと判断される可能性がある。従って、これらの誤抽出されたピークの組がある場合は、それらを除去することが好ましい。

0060

図5は、例えば、リジン(K)が連続する配列を含む仮想配列(アミノ酸1文字表記)「・・・INTERNALKKFALSETERMKINTERNAL・・・」について、Lys-NおよびLys-Cで消化した場合の切断パターンを模式的に示した図である。

0061

図5のとおり、リジン(K)が連続する配列を含み場合、N末端ペプチド候補として抽出されるピークの組「KFALSETERM」と「KFALSETERMK」、C末端ペプチド候補として抽出されるピークの組「KKFALSETERM」と「FALSETERMK」は、何れもポリペプチド配列中に含まれるものであり、真の末端ペプチドではない。この場合、何れも同一の質量をもつフラグメントのピークが、他の切断断片群に由来する質量スペクトル中に存在するので、それらのピークが抽出されるものを除去すればよい。

0062

従って、前記工程において、抽出されたピークの組、又は、アミノ末端を含むポリペプチド若しくはカルボキシ末端を含むポリペプチドとして判断されたピークの組について、以下の(1)〜(4)に該当するものを除けば、前記アミノ酸残基が前記対象ポリペプチド中に連続していることによるピークの組の誤抽出を無くすことができる[工程(m)]。

0063

(1)前記アミノ酸残基のカルボキシ末端側で切断(例えばLys-Cで切断)したペプチド断片群に由来するスペクトルから抽出されたピークよりも、前記アミノ酸残基(例えばリジン残基)の質量分小さいピークが、同じカルボキシ末端側で切断(例えばLys-Cで切断)したペプチド断片群に由来するスペクトルにおいても抽出されているもの。

0064

(2)前記アミノ酸残基のアミノ末端側で切断(例えばLys-Nで切断)したペプチド断片群に由来するスペクトルから抽出されたピークよりも、前記アミノ酸残基(例えばリジン残基)の質量分大きいピークが、同じアミノ末端側で切断(例えばLys-Nで切断)したペプチド断片群に由来するスペクトルにおいても抽出されているもの。

0065

(3)カルボキシ末端を含むポリペプチドであると判断されたピークのうち、前記アミノ酸残基(例えばリジン残基)のカルボキシ末端側で切断(例えばLys-Cで切断)したペプチド断片群に由来するスペクトルから抽出されたピークよりも、前記アミノ酸残基(例えばリジン残基)の質量分大きいピークが、同じカルボキシ末端側で切断(例えばLys-Cで切断)したペプチド断片群に由来するスペクトルから抽出されたもの。

0066

(4)カルボキシ末端を含むポリペプチドであると判断されたピークのうち、前記アミノ酸残基(例えばリジン残基)のアミノ末端側で切断(例えばLys-Nで切断)したペプチド断片群に由来するスペクトルから抽出されたピークよりも、前記アミノ酸残基(例えばリジン残基)の質量分小さいピークが、同じアミノ末端側で切断(例えばLys-Nで切断)したペプチド断片群に由来するスペクトルから抽出されたもの。

0067

さらに、工程(h)で取得された質量分析スペクトル(MS/MSスペクトル)について、ペプチドフラグメントのアミノ酸配列データベースを検索し、アミノ酸配列を解析することにより、末端ペプチドの配列を確認又は決定することができる[工程(n)]。

0068

配列検索は、それ自体既知のソフトウエア、例えばMascot(マトリックスサイエンス社製)を用いて、次のとおり行うことができる。このソフトウエアはSwissprotやIPI、RefSeqなどのアミノ酸配列データベースを参照することで蛋白質の配列を同定するものである。

0069

まず、計算機上で、対象ポリペプチド又は蛋白質のアミノ酸配列を、実験で使用したものと同様に切断する。例えばLys-Cを用いた場合にはデータベース上のアミノ酸配列のリジン残基のC末端側で切断し、新たにペプチドのデータベースを計算機上に生成する。次に実験で得られたペプチド断片質量と一致するペプチドをデータベース上で検索し、同定候補とする。さらに実験で得られたフラグメントイオンの質量と、データベース上の同定候補ペプチド配列から得られるであろうフラグメントイオンの質量を比較し、一致度に応じて配列が同定されたかどうかを判定する。
これら処理を行う計算機に特別な仕様は必要なく、一般に用いられるパーソナルコンピュータ(PC)でその機能は十分である。

0070

本発明の方法は、例えば、既知のペプチド定量法、すなわち標識なしでの定量法やICAT法やiTRAQ法などの同位体標識を用いた定量法のいずれにおいても、特に好適に利用することができる。これにより、次のとおり、ペプチドの定量を行うと同時に、末端ペプチドを同定することができる。

0071

まず、定量比較したい試料それぞれについて、例えばLys-CおよびLys-Nで消化したそれぞれのペプチド断片群(Lys-C断片およびLys-N断片)を用意する。標識なしでの定量法の場合、全ての試料を別々に測定する必要がある。同位体標識を用いる場合には、定量比較したい試料同士において、Lys-C断片同士およびLys-N断片同士を混合して測定することができる。末端ペプチドの定量を行うことにより、蛋白質分子種毎の定量を行うことができる。

0072

以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例により何ら限定されるものではない。

0073

実施例1MSスペクトルの比較による蛋白質末端ポリペプチドの同定
(1)蛋白質のアミノ末端およびカルボキシ末端ポリペプチドを含むペプチド混合物試料の調製
アミロイドベータ(AmyloidBeta)1-40(化学合成ポリペプチド;Sigma社製)、AmyloidBeta 1-42(化学合成ポリペプチド;BACHEM社製)を、それぞれ100pmolずつ含む混合水溶液を調製し減圧乾固したのち、0.5Mグアニジン塩酸(Sigma社製)を含む50mM重炭酸トリエチルアンモニウム(Appliedbiosystems社製)緩衝液(pH8.5)20μLに溶解した。上記蛋白質が分析中に立体構造をとらない様にTCEP[Tris(2-carboxyethyl)phosphine;Appliedbiosystems社製]を2μL加え、60度1時間還元したのちMMTS(Methyl methanethiosulfonate;Appliedbiosystems社製)を1μL加え、室温で10分間アルキル化を行った。

0074

上記で調製した試料を2つに分け、それぞれリジルエンドペプチダーゼ(Lysyl Endopeptidase;Lys-C、EC 3.4.21.50、和光純薬社製)とメタロエンドペプチダーゼ(Metalloendopeptidase;Lys-N、EC 3.4.24.20;生化学工業社製)を加えて室温で16時間反応させた。これにより上記蛋白質混合水溶液に含まれる2種の蛋白質を、それぞれリジン残基のカルボキシ末端側で切断されたペプチド断片群(各蛋白質のアミノ末端とカルボキシ末端のポリペプチドを含む)(以下、「Lys-C試料」と称する。)と、リジン残基のアミノ末端側で切断されたペプチド断片群(各蛋白質のアミノ末端とカルボキシ末端のポリペプチドを含む)(以下、「Lys-N試料」と称する。)として調製した。

0075

(2)質量スペクトルの測定
上記(1)で調製したLys-C試料およびLys-N試料を、それぞれ0.3%ギ酸水溶液を用いて20倍希釈し、そのうち1μLをnanoLC-MS/MS(日立ハイテクノロジーズ社製nanoLCおよびサーモフィッシャーサイエンティフィック社製LTQ-Orbitrap)を用いてNanosprayイオン化法にてLC-MSスペクトルを取得した。

0076

(3)LC-MSスペクトルによる末端ペプチドの計算機を用いた抽出
Lys-CおよびLys-N試料について上記(2)で取得したLC-MSスペクトルに対し、計算機上で以下の処理を行い、アミノ末端およびカルボキシ末端のポリペプチドピークを同定した。なお、計算機は一般的なIBM互換PCを用い、エクセル(マイクロソフト社製表計算ソフト)のマクロ機能を用いた自作の計算プログラムを使用した。

0077

まず、各スペクトルに対し価数の違いを補正するためにデコンボリューション(deconvolution)によりm/zから分子量への変換を行った。次に、Lys-C試料から得られたスペクトルとLys-N試料から得られたスペクトルとを比較し、両者で同じ分子量に同定されたピークの組を除き、リジン1残基分異なる分子量に同定されるピークの組を抽出した。

0078

上記で抽出されたピークの組のうち、Lys-C試料のピークが示す分子量の方がLys-N試料のピークが示す分子量よりもリジン1残基分大きいピークの組をアミノ末端候補とし、Lys-C試料のピークが示す分子量の方がLys-N試料のピークが示す分子量よりもリジン1残基分小さいピーク同士の組をカルボキシ末端候補とした。

0079

次に、上記でアミノ末端およびカルボキシ末端候補として選択されたピークの組について、リジンが配列中に連続していることによる誤抽出と思われる組を除去した。具体的には、上記で抽出されたピークの組のうち、(i)Lys-C試料で検出されたピークよりも分子量がリジン1残基分小さいピークが同じLys-C試料においても検出されているもの、(ii)Lys-N試料で検出されたピークよりも分子量がリジン1残基分大きいピークが同じLys-N試料においても検出されるもの、(iii)カルボキシ末端候補の組として抽出されたピークのうちLys-C試料で検出されたピークよりもリジン1残基分大きいピークが同じLys-C試料においても検出されたもの、および、(iv)カルボキシ末端候補の組として抽出されたピークのうちLys-N試料で検出されたピークよりもリジン1残基分小さいピークが同じLys-N試料においても検出されたものの4種類のピークの組を除いた。

0080

以上により4組のカルボキシ末端のポリペプチドを示すピークの組が同定され、29組のアミノ末端のポリペプチドを示すピークの組が同定された。

0081

(4)抽出された末端ペプチドピークの組のアミノ酸配列の確認
上記(3)で同定されたカルボキシ末端のポリペプチドを示すピークの組、および、アミノ末端のポリペプチドを示すピークの組が、本当にカルボキシ末端あるいはアミノ末端を含むものであるかを以下の方法で確認した。

0082

先ず、Lys-C試料およびLys-N試料について、(2)と同条件でLC-MSを行い、(3)でカルボキシ末端あるいはアミノ末端を含むものであると同定されたピークを質量分析装置内で単離した上で開裂し、MS/MSフラグメントの質量スペクトルを取得した。得られたスペクトルを蛋白質同定検索(マトリックスサイエンス社製Mascot)に供し、配列の確認を行った。

0083

上記(3)によってカルボキシ末端のポリペプチドであると同定されたピーク4組は、上記の結果を参照したところ、それぞれ、AmyloidBeta 29-40、AmyloidBeta 29-40のMetが酸化したもの、AmyloidBeta 29-42であり、もう1組は解析不能であった。また、(3)によってアミノ末端のポリペプチドであると同定されたピークの29組は、上記の結果を参照したところ3組が同定され、それぞれAmyloidBeta 1-15、AmyloidBeta 3-15、AmyloidBeta 4-15であった。

0084

上記(3)でアミノ末端のポリペプチドとして同定されたピークの組数が多く、またアミノ酸配列の解析の結果でアミノ末端でないはずのAmyloidBeta 3-15およびAmyloidBeta 4-15がアミノ末端のポリペプチドとして同定されているのは、本実施例で用いたAmyloidBetaの蛋白質標品がカルボキシ末端側から化学的に合成されたポリペプチドであり、アミノ末端側、本来の蛋白質より短いものが多く含まれているためと考えられた。

0085

しかしながら、MSスペクトルのピーク強度(Intensity)比で、AmyloidBeta 1-15として同定されたピークはAmyloidBeta 3-15およびAmyloidBeta 4-15として同定されたピークの50倍近くあるため、本発明の方法により同定された主たるアミノ末端のポリペプチドはAmyloidBeta 1-15で、本発明の方法が蛋白質のアミノ末端およびカルボキシ末端のポリペプチドを同定する方法として用いられることがわかった。

0086

実施例2 MS/MSスペクトルの比較による蛋白質末端ポリペプチドの同定
(1)蛋白質のアミノ末端およびカルボキシ末端ポリペプチドを含むペプチド混合物試料の調製
ウシ血清アルブミン(Sigma社製)、卵白アルブミン(Sigma社製)、卵白リゾチーム(Sigma社製)、ウマ心筋ミオグロビン(Sigma社製)をそれぞれ2nmolずつ含む混合水溶液を調製し減圧乾固したのち、0.5Mグアニジン塩酸(Sigma社製)を含む50mM重炭酸トリエチルアンモニウム(Appliedbiosystems社製)緩衝液(pH8.5)20μLに溶解した。上記蛋白質が分析中に立体構造をとらないようにTCEP[Tris(2-carboxyethyl)phosphine;Appliedbiosystems社製]を2μL加え、60度1時間還元したのちMMTS(Methyl methanethiosulfonate;Appliedbiosystems社製)を1μL加え、室温で10分間アルキル化を行った。

0087

上記で調製した試料を2つに分け、それぞれリジルエンドペプチダーゼ(Lysyl Endopeptidase;Lys-C、EC 3.4.21.50;和光純薬社製)とメタロエンドペプチダーゼ(Metalloendopeptidase;Lys-N、EC 3.4.24.20;生化学工業社製)を加えて室温で16時間反応させた。これにより上記蛋白質混合溶液に含まれる4種の蛋白質を、それぞれリジン残基のカルボキシ末端側で切断されたペプチド断片群(各蛋白質のアミノ末端とカルボキシ末端のポリペプチドを含む)(以下、「4種Lys-C試料」と称する。)と、リジン残基のアミノ末端側で切断されたペプチド断片群(各蛋白質のアミノ末端とカルボキシ末端のポリペプチドを含む)(以下、「4種Lys-N試料」と称する。)として調製した。

0088

(2)質量スペクトルの測定
上記(1)の4種Lys-C試料および4種Lys-N試料を、それぞれ0.3%ギ酸水溶液を用いて100倍希釈し、そのうち1μLをnanoLC-MS/MS(日立ハイテクノロジーズ社製nanoLCおよびサーモフィッシャーサイエンティフィック社製LTQ-Orbitrap)を用いてNanosprayイオン化法にてMSスペクトルを取得した。また同時に、得られたMSスペクトルからペプチドと考えられる2価以上のピークを強度の高い順に自動的に選択、質量分析装置内で単離したのち開裂し、MS/MSスペクトルを取得した。

0089

(3)MSおよびMS/MSスペクトルによる末端ペプチド候補の計算機を用いた抽出
4種Lys-C試料および4種Lys-N試料について上記(2)で取得したMSスペクトルから上記実施例1(3)と同様の方法でアミノ末端およびカルボキシ末端候補のピークの組を抽出し、さらにリジンが配列中に連続していることによる誤抽出と思われる組を除去した結果、アミノ末端候補として24組、カルボキシ末端候補として16組のピークの組を得た。なお、計算機は一般的なIBM互換PCを用い、エクセル(マイクロソフト社製表計算ソフト)のマクロ機能を用いた自作の計算プログラムを使用した。

0090

上記で抽出されたピークの組について、(2)で取得されたMS/MSスペクトルを用いてさらに絞り込みを行った。まず、各スペクトルに対し価数の違いを補正するためにデコンボリューション(deconvolution)によりm/zから1価イオンへの変換を行った。次に、抽出された1組のピークで示されるポリペプチド1組(2つ)について各々得られたMS/MSスペクトルを比較し、4種Lys-C試料から得られたMS/MSスペクトルのピークが示す分子量が、4種Lys-N試料から得られたMS/MSスペクトルのピークよりもリジン1残基分大きいもののピーク数を数えた。これを、以下「Lys-C>Lys-Nピーク」と称する。また、逆に、4種Lys-C試料から得られたMS/MSスペクトルのピークが示す分子量が、4種Lys-N試料から得られたMS/MSスペクトルのピークよりもリジン1残基分小さいもののピーク数を数えた。これを、以下「Lys-C<Lys-Nピーク」と称する。

0091

上記Lys-C>Lys-Nピーク数と、Lys-C<Lys-Nピーク数を比較し、Lys-C>Lys-Nピーク数が多ければ、そのピークの組はアミノ末端のポリペプチドであると同定し、逆の場合にはカルボキシ末端のポリペプチドであると同定した。

0092

その結果、上記でMSスペクトルよりアミノ末端候補として抽出された24組のうち22組がアミノ末端のポリペプチドであると同定され、MSスペクトルよりカルボキシ末端候補として抽出された16組のうち12組がカルボキシ末端のポリペプチドであると同定された。

0093

(4)抽出された末端ペプチドピークの組のアミノ酸配列の確認
上記(3)で同定されたカルボキシ末端のポリペプチドを示すピークの組、および、アミノ末端のポリペプチドを示すピークの組が、本当にカルボキシ末端あるいはアミノ末端を含むものであるかを以下の方法で確認した。

0094

先ず、上記(3)で同定されたカルボキシ末端のポリペプチドを示すピークの組、および、アミノ末端のポリペプチドを示すピークの組について得られたMS/MSスペクトルを、蛋白質同定検索(マトリックスサイエンス社製Mascot)に供してアミノ酸配列を解析した。

0095

この結果を(3)と照合したところ、アミノ末端のポリペプチドとして同定された22組のうち、7組が本実施例で用いた蛋白質のアミノ末端のポリペプチドであることが確認された。具体的には、ウシ血清アルブミン、卵白リゾチーム、ウマ心筋ミオグロビンのアミノ末端のポリペプチドであった。また、カルボキシ末端のポリペプチドとして同定された12組のうち、5組が本実施例で用いた蛋白質のアミノ末端のポリペプチドであることが確認された。具体的には、ウシ血清アルブミン、卵白リゾチーム、卵白アルブミンのカルボキシ末端のポリペプチドであった。

0096

本実施例で用いた蛋白質のうち、卵白アルブミンのアミノ末端のポリペプチド、およびウマ心筋ミオグロビンのカルボキシ末端のポリペプチドは検出されなかったが、いずれも本発明の方法によらず全てのMS/MSスペクトルを配列検索に供した場合においても検出されなかったため、今回の試料中には検出可能な形で含まれてはいないことが分かった。

実施例

0097

上より本発明の方法が蛋白質混合試料におけるアミノ末端およびカルボキシ末端のポリペプチドを同定する方法として用いられることがわかった。

0098

本発明の方法は、例えば、スプライスバリアントやプロセッシングに伴うバイオマーカーの検出、蛋白質機能解析、疾患解析等の分野に特に好適に用いることができる。また、本発明の方法を定量的に利用することにより、抗体や蛋白質、ペプチドなどの医薬品・食品の配列上の純度の確認に用いることができる。

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