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課題
解決手段
概要
背景
磁気ディスク装置(Hard Disk Drive:HDD)の制御系は、制御対象であるヘッドを目標位置トラックまで移動させ位置決めをさせるサーボ制御系である。近年ではHDDの記録密度が増加してきており、これに伴い更なるヘッドの高速移動及び高精度位置決めが求められている。磁気ディスク装置における制御系は、ヘッドの高速移動を行うシーク制御と、目標トラックに高精度に追従し続けさせるフォロイング制御の2種類の制御に大きく分類される。
比較的短距離のショートスパンシーク制御において、フィードフォワード制御とフィードバック制御をそれぞれ独立に設計できる二自由度制御系(非特許文献1乃至4参照)が一般的に使用されている。著者らの研究グループでは、ショートスパンシークの制御法として完全追従制御法(Perfect Tracking Control:PTC)(非特許文献5参照)を使用してフィードフォワード制御信号を生成し、制御対象を剛体モデルとした剛体PTC、主共振モードを積極的に制御する制振PTC(Vibration Suppression PTC:VSPTC)(非特許文献6参照)を提案してきた。また、フォロイング制御において、繰り返し完全追従制御法(Repetitive PTC:RPTC)(非特許文献7参照)を使用して周期外乱による誤差を低減している。
概要
ノミナルモデルが実プラントとモデル化誤差を含む場合に生じる、追従誤差を目標軌道に加え、目標軌道を再設計することにより目標軌道追従誤差を抑圧する学習型完全追従制御法(Learning basedPTC:LPTC)を提案する。マルチレートフィードフォワード制御を行う完全追従制御器と、シーク制御において、出力信号から目標軌道に対する追従誤差を学習し、新たな目標軌道を再設計するための目標軌道補償信号を生成する学習信号発生器とを備える学習型完全追従制御法により制御を行う磁気ディスク装置の制御装置及び制御方法を提供する。
目的
効果
実績
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この技術が所属する分野
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請求項1
マルチレートフィードフォワード制御を行う完全追従制御器と、シーク制御において、出力信号から目標軌道に対する追従誤差を学習し、新たな目標軌道を再設計するための目標軌道補償信号を生成する学習信号発生器とを備える学習型完全追従制御法により制御を行う磁気ディスク装置の制御装置。
請求項2
前記学習信号発生器は、プラントモデルとして、ノミナルモデルが無駄時間及び共振モデルを含む詳細モデルを使用する場合には、Qフィルタを含み、当該Qフィルタは前記追従誤差の高域の周波数成分を抑圧することを特徴とする請求項1に記載の磁気ディスク装置の制御装置。
請求項3
請求項4
完全追従制御器によりマルチレートフィードフォワード制御を行うステップと、学習信号発生器により、シーク制御において、出力信号から目標軌道に対する追従誤差を学習し、新たな目標軌道を再設計するための目標軌道補償信号を生成するステップとを備える学習型完全追従制御法により制御を行う磁気ディスク装置の制御方法。
請求項5
前記目標軌道補償信号を生成するステップは、プラントモデルとして、ノミナルモデルが無駄時間及び共振モデルを含む詳細モデルを使用する場合には、Qフィルタにより前記追従誤差の高域の周波数成分を抑圧して前記目標軌道補償信号を生成することを特徴とする請求項4に記載の磁気ディスク装置の制御方法。
請求項6
前記目標軌道補償信号を生成するステップは、演算時間遅れとパワーアンプの位相遅れ等のモデル化誤差要因を、無駄時間として考慮して前記目標軌道補償信号を生成することを特徴とする請求項4に記載の磁気ディスク装置の制御方法。
技術分野
背景技術
0002
磁気ディスク装置(Hard Disk Drive:HDD)の制御系は、制御対象であるヘッドを目標位置トラックまで移動させ位置決めをさせるサーボ制御系である。近年ではHDDの記録密度が増加してきており、これに伴い更なるヘッドの高速移動及び高精度位置決めが求められている。磁気ディスク装置における制御系は、ヘッドの高速移動を行うシーク制御と、目標トラックに高精度に追従し続けさせるフォロイング制御の2種類の制御に大きく分類される。
0003
比較的短距離のショートスパンシーク制御において、フィードフォワード制御とフィードバック制御をそれぞれ独立に設計できる二自由度制御系(非特許文献1乃至4参照)が一般的に使用されている。著者らの研究グループでは、ショートスパンシークの制御法として完全追従制御法(Perfect Tracking Control:PTC)(非特許文献5参照)を使用してフィードフォワード制御信号を生成し、制御対象を剛体モデルとした剛体PTC、主共振モードを積極的に制御する制振PTC(Vibration Suppression PTC:VSPTC)(非特許文献6参照)を提案してきた。また、フォロイング制御において、繰り返し完全追従制御法(Repetitive PTC:RPTC)(非特許文献7参照)を使用して周期外乱による誤差を低減している。
先行技術
0004
J.Ishikawa,T.Hattori,M.Hashimoto:“High−Speed Positioning Control for Hard Disk Drives Based on Two−Degree−of−Freedom Control”,JSME,Vol.62,No.597,pp200−208(1996)(inJapanese)
S.Nakagawa,T.Yamaguchi,H.Fujimoto,Y.Hori,K.Ito,Y.Hata:“Multi−rate Two−Degree−of−Freedom Control for Fast and Vibration−less Seeking of Hard Disk Drives”,Proc.ACC,pp2797−2802,Arlington,America(2001)
S.Takakura,T.Yamada:“Head Postioning Control System for Hard Disk Drives”,IEICE technical report.Magnetic recording,Vol.93,No.190,pp.13−18(1993)
T.Atsumi:“Shock−Response−Spectrum Analysis of Sampled−Data Polynomial for Track−Seeking Control in Hard Disk Drives”,in Proceedings of The 10thIEEE International Workshop on Advanced Motion Control,pp240−247(2008)
H.Fujimoto,Y.Hori,T.Yamaguchi,S.Nakagawa:“Seeking Control of Hard Disk Drive by Perfect Tracking using Multirate Sampling Control”,The Transactions of the Institute of Electrical Engineers of Japan,Vol.120,No.10,pp1157−1164(2000)(inJapanese)
K.Fukushima,H.Fujimoto,S.Nakagawa:“Short−Span Seeking Control of Hard Disk Drive with Vibration SuppressionPTC”,IEEJ Transactions on Industry Applications,Vol.126,No.6,pp706−712(2006)(inJapanese)
H.Fujimoto,F.Kawakami,S.Kondo:“Repetitive Control of Hard Disk Drive Based on Switching Mechanism−Comparison of Proposed Two Multirate Systems−”,T.SICE,Vol.41,No.8,pp645−651(2005)(inJapanese)
M.Tomizuka:“Zero Phase Error Tracking Algorithm for Digital Control”,Trans.ASME,Jounal of Dynamic Systems,Measurement, and Control,Vol.109,pp65−68(1987)
発明が解決しようとする課題
0005
目標軌道生成時において、ノミナルモデルがモデル化誤差を有する場合、目標軌道とヘッドの実軌道において、加減速時に大きな追従誤差が生じる。PTCを使用する場合にはロバストなフィードバックコントローラにより追従誤差を抑圧する。従って、モデル化誤差の影響によりシーク整定時にオーバーシュートが生じてしまい、追従特性が悪化するため、整定時間が遅くなってしまう問題があった。
0006
本出願では、RPTCで提案されている学習手法をシーク時に応用し、目標軌道を再設計することにより、ショートスパンシーク時に生じるオーバーシュートを低減する手法を学習型PTC(Learning based PTC:LPTC)として提案し、シミュレーション及び実験によりその有効性を確認した。
0007
PTCによる制御時において、ノミナルモデルが実プラントとモデル化誤差を含む場合には追従誤差が生じる。通常、追従誤差が生じた場合フィードバックコントローラがこれを抑圧するが、このことがシーク整定時のオーバーシュートを引き起こし、シークタイムが遅くなる。本出願では簡単のために、track to trackなどの等トラック幅のシークを前提として、この追従誤差を目標軌道に加え、目標軌道を再設計することにより目標軌道追従誤差を抑圧する学習型完全追従制御法(Learning based PTC:LPTC)を提案する。
課題を解決するための手段
0008
上記の課題を解消するために、本発明による磁気ディスク装置の制御装置は、マルチレートフィードフォワード制御を行う完全追従制御器と、シーク制御において、出力信号から目標軌道に対する追従誤差を学習し、新たな目標軌道を再設計するための目標軌道補償信号を生成する学習信号発生器とを備える学習型完全追従制御法により制御を行うことを特徴とする。
0009
また、本発明の磁気ディスク装置の制御装置は、上記学習信号発生器は、プラントモデルとして、ノミナルモデルが無駄時間及び共振モデルを含む詳細モデルを使用する場合には、Qフィルタを含み、当該Qフィルタは上記追従誤差の高域の周波数成分を抑圧するものとしてもよい。
0010
また、本発明の磁気ディスク装置の制御装置は、上記学習信号発生器は、演算時間遅れとパワーアンプの位相遅れ等のモデル化誤差要因を、無駄時間として考慮して目標軌道補償信号を生成するものとしてもよい。
0011
また、上記の課題を解消するために、本発明による磁気ディスク装置の制御方法は、完全追従制御器によりマルチレートフィードフォワード制御を行うステップと、学習信号発生器により、シーク制御において、出力信号から目標軌道に対する追従誤差を学習し、新たな目標軌道を再設計するための目標軌道補償信号を生成するステップとを備える学習型完全追従制御法により制御を行うことを特徴とする。
0012
また、本発明の磁気ディスク装置の制御方法は、上記目標軌道補償信号を生成するステップは、プラントモデルとして、ノミナルモデルが無駄時間及び共振モデルを含む詳細モデルを使用する場合には、Qフィルタにより前記追従誤差の高域の周波数成分を抑圧して上記目標軌道補償信号を生成するものとしてもよい。
0013
また、本発明の磁気ディスク装置の制御方法は、上記目標軌道補償信号を生成するステップは、演算時間遅れとパワーアンプの位相遅れ等のモデル化誤差要因を、無駄時間として考慮して上記目標軌道補償信号を生成するものとしてもよい。
発明の効果
0014
本発明によれば、提案するLPTCは、追従誤差を学習し目標軌道を再設計することにより、ショートスパンシークにおける加減速時の目標軌道追従誤差を大きく抑圧でき、シークタイムの高速化につながることを確認した。特にモデル化誤差による目標軌道追従誤差は、複数回の学習により抑圧することができた。
図面の簡単な説明
0015
磁気ディスク装置の内部構造の斜視図である。
本発明の一実施形態にかかる磁気ディスク装置の制御装置および制御方法による学習型PTC(Learning Based Perfect Tracking Control:LPTC)の制御ブロック図を示す図である。
本発明の一実施形態にかかる磁気ディスク装置の制御装置および制御方法による剛体モデルを使用したシミュレーション結果を示す図であり、図3(a)は、プラント出力を示し、図3(b)は、目標軌道追従誤差を示し、図3(c)は、追従誤差を示す図である。
本発明の一実施形態にかかる磁気ディスク装置の制御装置および制御方法による詳細モデルを使用したシミュレーション結果を示す図であり、図4(a)は、プラント出力を示し、図4(b)は、目標軌道追従誤差を示し、図4(c)は、追従誤差を示す図である。
本発明の一実施形態にかかる磁気ディスク装置の制御装置および制御方法による実験に使用したLPTCの制御ブロック図を示す図である。
本発明の一実施形態にかかる磁気ディスク装置の制御装置および制御方法による実験に使用した学習信号発生器の制御ブロック図を示す図である。
本発明の一実施形態にかかる磁気ディスク装置の制御装置および制御方法による無駄時間を考慮しない場合の学習前の実験結果であって、図7(a)は、PESを示し、図7(b)は、PES(拡大図)を示し、図7(c)は、目標軌道追従誤差を示す図である。
本発明の一実施形態にかかる磁気ディスク装置の制御装置および制御方法による無駄時間を考慮しない場合の学習後の実験結果であって、図8(a)は、PESを示し、図8(b)は、PES(拡大図)を示し、図8(c)は、目標軌道追従誤差を示す図である。
本発明の一実施形態にかかる磁気ディスク装置の制御装置および制御方法による無駄時間を考慮した場合の学習前の実験結果であって、図9(a)は、PESを示し、図9(b)は、PES(拡大図)を示し、図9(c)は、目標軌道追従誤差を示す図である。
本発明の一実施形態にかかる磁気ディスク装置の制御装置および制御方法による無駄時間を考慮した場合の学習後の実験結果であって、図10(a)は、PESを示し、図10(b)は、PES(拡大図)を示し、図10(c)は、目標軌道追従誤差を示す図である。
本発明の一実施形態にかかる磁気ディスク装置の制御装置および制御方法によるモデル化誤差をあえて大きく持たせた場合の学習前の実験結果であって、図11(a)は、PESを示し、図11(b)は、PES(拡大図)を示し、図11(c)は、目標軌道追従誤差を示す図である。
本発明の一実施形態にかかる磁気ディスク装置の制御装置および制御方法によるモデル化誤差をあえて大きく持たせた場合の1回学習後の実験結果であって、図12(a)は、PESを示し、図12(b)は、PES(拡大図)を示し、図12(c)は、目標軌道追従誤差を示す図である。
本発明の一実施形態にかかる磁気ディスク装置の制御装置および制御方法によるモデル化誤差をあえて大きく持たせた場合の5回学習後の実験結果であって、図13(a)は、PESを示し、図13(b)は、PES(拡大図)を示し、図13(c)は、目標軌道追従誤差を示す図である。
実施例
0016
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳細に説明する。
図1は、磁気ディスク装置100の内部構造の斜視図である。
図1において、磁気ディスク装置100は、ディスク101と、ロータリー・アクチュエータ102と、アーム103と、サスペンション104と、磁器ヘッド105と、ランプ106と、スピンドル107とを備える。磁気ディスク装置における制御系は、ヘッドの高速移動を行うシーク制御と、目標トラックに高精度に追従し続けさせるフォロイング制御の2種類の制御に大きく分類される。
0017
[学習型完全追従制御法]
PTCによる制御時において、ノミナルモデルが実プラントとモデル化誤差を含む場合には追従誤差が生じる。通常、追従誤差が生じた場合フィードバックコントローラがこれを抑圧するが、このことがシーク整定時のオーバーシュートを引き起こし、シークタイムが遅くなる。本出願では簡単のために、track to trackなどの等トラック幅のシークを前提として、この追従誤差を目標軌道に加え、目標軌道を再設計することにより目標軌道追従誤差を抑圧する学習型完全追従制御法(Learning based PTC:LPTC)を提案する。
0018
[学習前]
目標軌道をr[i]とし、学習前におけるノミナル出力をyn(0)[i]、プラント出力をy(0)[i]とする。ただしプラントがノミナルモデルのときのプラント出力をノミナル出力yn[i]と定義する。ノミナルモデルをPn[z]、乗法的モデル化誤差をΔ[z]とすると、プラントモデルを式(1)と表せる。
0019
0020
学習前の目標軌道を式(2)のようにすると、式(3)と式(4)が成り立つ。ただし以降の式において、各変数の添え字は学習回数と定義する。また、以下の解析では簡単のため、完全追従制御器をz-1P-1n[z]とする。P-1n[z]は不安定零点を有するが、マルチレートフィードフォワードにより安定な逆システムを構成できている(非特許文献5参照)。最初のシークを行ったとき、それぞれの信号は以下のように求められる。
0021
0022
0023
0024
ここでuff[i]、ufb[i]は、それぞれフィードフォワード入力、フィードバック入力であり、C[z]はフィードバックコントローラを表す。ただし、S[z]=1/(1+P[z]C[z])である。本出願では、ノミナル出力yn(0)[i]とプラント出力y(0)[i]との差を追従誤差efb(0)[i]と定義し、式(5)で表す。
0025
0026
また、et(0)[i]は学習前のノミナル出力yn(0)[i]=z-1r(0)[i]とプラント出力y(0)[i]との差とし、これは目標軌道追従誤差であり、式(6)で表される。
0027
0028
式(5)と式(6)より学習前の追従誤差と目標軌道追従誤差は等しく、et(0)[i]=efb(0)[i]であることが確認できる。以降、目標軌道追従誤差et[i]を抑圧することを検討する。
0029
[学習回数1回目]
学習の概念図を図2に示す。図2のようにして追従誤差efb[i]を学習し、次のシーク時において目標軌道r[i]に加えることで、目標軌道を再設計することを考えると、学習後の目標軌道r(1)[i]は式(7)となる。ここでQ[z]はQフィルタを示し、位相遅れのないLPFとして機能する(非特許文献8参照)。学習する追従誤差efb(0)[i]はPTCにより、目標軌道に対して1サンプル遅れているため、1サンプル進めたものを使用する。
0030
0031
学習後のノミナル出力yn(1)[i]とプラント出力y(1)[i]はそれぞれ式(8)、式(9)となる。
0032
0033
0034
以上より、学習後の追従誤差efb(1)[i]はノミナル出力yn(1)[i]とプラント出力y(1)[i]の差より式(10)で表される。
0035
0036
同様に、学習後の目標軌道追従誤差et(1)[i]は学習前のノミナル出力z-1r(0)[i]とプラント出力y(1)[i]の差より式(11)で表される。
0037
0038
式(11)は、Q[z]=1のときet(1)[i]は、−S[z]Δ[z]で抑圧される。
0039
[学習回数k回目]
同様にして学習を繰り返していくと、学習回数k回後のそれぞれの値は以下の式となる。
0040
0041
0042
0043
学習回数k回後の追従誤差efb(k)[i]は式(15)となる。
0044
0045
また学習回数k回後の目標軌道追従誤差et(k)[i]は式(16)となる。
0046
0047
式(16)より、式(17)を満たすとき目標軌道追従誤差は学習毎に抑圧されていく。
0048
0049
[シミュレーション]
提案手法の有効性を確認するためシミュレーションを行った。ここでシミュレーションモデルは後述する実験機と同じものとし、各パラメータは、ディスク径1.8inch、トラック幅133nm、回転数4200rpm、セクタ数256、サンプリング周期Ty=56μsとする。フィードバックコントローラはPIDコントローラとし、制御帯域が1000Hzとなるように設計した。一般に、等トラック幅のシークとして1トラックシーク時に適用するのが自然であるが、機構共振周波数からの強い影響を避けるために、本出願では移動距離を10トラックとしたショートスパンシークを行う。
0050
[剛体モデル]
ノミナルモデルを剛体とし式(18)に示す。
0051
0052
プラントモデルとして、ノミナルモデルがモデル化誤差を含むモデルとし、式(19)とする。
0053
0054
1回のシークごとに追従誤差efbを学習し、次回のシークの目標軌道を再設計する。2次のPTCでは目標軌道として位置軌道と速度軌道が必要となるため、速度軌道の追従誤差e´fb[i]を、位置軌道の追従誤差efb[i]を使用して式(20)で与える。
0055
0056
0057
シミュレーションでは学習を10回行った。学習回数0,1,5,10回のプラント出力と目標軌道追従誤差、追従誤差のシミュレーション結果をそれぞれ図3に示す。ここでは、Qフィルタは考慮していないため(すなわちQ[z]=1)、式(16)が示すように目標軌道追従誤差が学習を繰り返すことで、0に収束されていくことが確認できた。
0058
[詳細モデル]
プラントモデルとして、ノミナルモデルが無駄時間及び共振モデルを含む詳細モデルを式(21)に示す。
0059
0060
ここで、Lは演算時間遅れ、ζlは減衰係数、ωlは固有振動数、αlはl次のゲインを示す。第1項は剛体モード、第2項は複数の振動モードからなる共振モデルである。プラントの共振モードパラメータを表1に示す。プラントモデルを詳細モデルとする場合、追従誤差の高域の周波数成分を抑圧するためにQフィルタを使用する。このQフィルタは式(22)で表され、位相遅れのないLPFとして機能する。NqはQフィルタの段数を示し、Nq=5とした。このときのカットオフ周波数は1500Hzとなる。
0061
0062
シミュレーション結果を図4に示す。剛体モデルの場合と異なり、Qフィルタの影響が残っているが、式(16)が示すように加減速時の目標軌道追従誤差が学習を繰り返すことにより抑圧されていることが確認できた。
0063
[実験]
提案手法の有効性を確認するため実験を行った。実験のブロック図を図5に示す。また学習機構となる学習信号発生器を図6に示す。1シークにかかる時間をTseekとするとき、Nd=Tseek/Tyとし(ただしNdは整数とする)、Ndサンプル遅延させることにより学習を行う。ここで、PTCによる遅延と速度軌道生成時に生じる遅延に対する進み補償を行っている。スイッチは加減速時の間のみオン状態とし、フォロイング時にはオフ状態とする。
0064
本出願ではヘッド位置が1トラックの±10%域に収まった時間をシーク終了とし、シーク開始からシーク終了に要した時間をシークタイムとする。シーク動作の目標軌道は(τs+1)-6のステップ応答とし、移動トラック数を10トラックとした。応答速度を決める時定数はτ=50μsとした。シーク動作は全て、あるトラックから同一方向へ行うものとした。学習する追従誤差は、50回のシーク動作を行ったときの平均追従誤差を使用した。このシーク動作は、開始セクタが一致していないため、外乱成分が加減速時に起きる追従誤差であるとは単純にはいえない。開始セクタを一致させればRRO(Repeatable Runout:回転同期振動)とみなせるので、必ずしも50回の平均は必要ではない。
0066
[無駄時間考慮なし]
目標軌道を式(23)、式(24)で与え、シークタイムを表2に与える。
0067
0068
0069
0070
学習前とLPTC後の実験結果を図7、図8に示し(case1)、図7は学習前の実験結果を示し、図8は学習後の実験結果を示す。このときの目標軌道におけるシークタイムは715μsである。加減速時の目標軌道追従誤差が低減できたことにより、シークタイムを速くできたことを確認できる。無駄時間を考慮していないため加減速時に大きな追従誤差が生じ、追従特性が良くないことがわかる。
0071
[無駄時間考慮あり]
HDDの制御対象モデルに対して、モデル化誤差要因として演算時間遅れとパワーアンプの位相遅れが生じる。このため、モデル化誤差要因を補償するために等価時間遅れe-Ls(L=25μs)とし、以下の式で目標軌道を与えた。
0072
0073
学習前とLPTC後の実験結果を図9、図10に示し(case2)、図9は学習前の実験結果を示し、図10は学習後の実験結果を示す。このときの目標シークタイムは739μsである。PTCではモデル化誤差が小さいため、大きなオーバーシュートはない。しかしながら学習することで追従特性が改善されていることが確認できる。以下では全てノミナルモデルに対して無駄時間を考慮する。
0074
[モデル化誤差]
PTC設計時において、ゲイン変動によるモデル化誤差をあえて大きく持たせて実験を行った。
0075
0076
学習前とLPTC後の実験結果を図11、図12に示し(case3)、図11は学習前の実験結果を示し、図12は学習後の実験結果を示す。このときの目標シークタイムは739μsである。モデル化誤差が大きいため学習前のシーク特性が大きく劣化していることが確認できる。1回の学習では目標軌道追従誤差を抑圧し切れていないことが確認できた。
0077
ここで、更に学習を5回繰り返した際の実験結果を図13に示す(case4)。シミュレーションと同様に、学習を繰り返すことにより徐々に目標トラック付近でのシーク特性が改善され、シークタイムが目標シークタイムに近づいていくことが確認できた。
0078
[まとめ]
学習型完全追従制御法を提案し、シミュレーション及び実験により、その有効性を確認した。提案するLPTCは、追従誤差を学習し、目標軌道を再設計することで、ショートスパンシークにおける加減速時の目標軌道追従誤差を大きく抑圧でき、シークタイムの高速化につながる事を確認した。特にモデル化誤差による目標軌道追従誤差に対しては複数回の学習により抑圧された。
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