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図面 (11)

課題

微生物コウジ酸の産生に必須である遺伝子を利用して、コウジ酸の産生能が向上された微生物およびその製造方法の提供する。

解決手段

微生物における特定の塩基配列からなる群から選択される1または複数のコウジ酸の産生に必須の遺伝子の発現量および/または当該遺伝子にコードされるタンパク質活性を正に制御することを含む、コウジ酸の産生能が向上した微生物の製造方法。前記微生物を用いたコウジ酸の製造方法。

概要

背景

真核糸状真菌カビ)を含む微生物が産生するコウジ酸は、美白効果抗菌効果食品褐色変化阻害効果などの多岐にわたる効果を有する物質である(非特許文献1)。コウジ酸を微生物によって産生する方法が既に考案され実施されているが(特許文献1)、その方法は、高い産生量を維持するために過度試行錯誤を必要とするものや過去の経験に依存するものであった。そこで、コウジ酸を高産生する微生物を確実かつ効率的に得るために、コウジ酸の産生に関わる遺伝子などを、分子生物学的な知見に基づいて遺伝子組換え手法により制御する方法の確立が望まれている。

コウジ酸を産生する真菌として、Aspergillus属の真菌、Penicillium属の真菌が挙げられる。またコウジ酸を産生する真正細菌として、Gluconobacter属の細菌が挙げられる(特許文献1)。

コウジ酸の産生が麹菌の麹培養中から同定された1907年以来、コウジ酸の産生量向上に関する研究の報告例がある(非特許文献2−5)。しかし、いずれも培養方法の検討による産生量向上に関する報告である。従来の研究によって、コウジ酸の産生に影響を与える遺伝子は特定されていない(非特許文献1)。

コウジ酸を産生する真菌のうち、Aspergillus属である麹菌(Aspergillus oryzae)の全ゲノム塩基配列が明らかにされた(非特許文献6)。ゲノム中に約12,000個同定された遺伝子の中で、コウジ酸の産生量に影響を与える遺伝子は未だ特定されていなかった。しかし、全ゲノム塩基配列が明らかにされたことで、ゲノム科学的にコウジ酸の産生に必須の遺伝子を特定する方法論の使用が可能になった。

近年の真菌の相同組換え技術に関する研究から、ku70, ku80, ligDといった遺伝子が同定され、これらの遺伝子が非相同的遺伝子組み換えに係ることが明らかとなった(非特許文献7、非特許文献8、非特許文献9)。これらの遺伝子を破壊した真菌は、野生株と同等の表現系と生育とを示すものの、野生株に比べて非相同組換え頻度が減少し、従来では困難であった標的の遺伝子など特定の領域だけを効率的に変異することが可能となった。

概要

微生物のコウジ酸の産生に必須である遺伝子を利用して、コウジ酸の産生能が向上された微生物およびその製造方法の提供する。微生物における特定の塩基配列からなる群から選択される1または複数のコウジ酸の産生に必須の遺伝子の発現量および/または当該遺伝子にコードされるタンパク質活性を正に制御することを含む、コウジ酸の産生能が向上した微生物の製造方法。前記微生物を用いたコウジ酸の製造方法。

目的

そこで、コウジ酸を高産生する微生物を確実かつ効率的に得るために、コウジ酸の産生に関わる遺伝子などを、分子生物学的な知見に基づいて遺伝子組換え手法により制御する方法の確立が望まれている

効果

実績

技術文献被引用数
2件
牽制数
1件

この技術が所属する分野

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請求項1

微生物における配列番号1〜15からなる群から選択される1または複数のコウジ酸の産生に必須の遺伝子の発現量および/または当該遺伝子にコードされるタンパク質活性を正に制御することを含む、コウジ酸の産生能が向上した微生物の製造方法。

請求項2

1または複数のコウジ酸の産生に必須の遺伝子が、コウジ酸の生合成酵素膜輸送輸送体、またはそれらの遺伝子の転写制御因子である、請求項1記載の方法。

請求項3

1または複数のコウジ酸の産生に必須の遺伝子が、配列番号4〜11および配列番号15からなる群から選択される遺伝子である、請求項1または2記載の方法。

請求項4

1または複数のコウジ酸の産生に必須の遺伝子が、配列番号4〜6および配列番号15からなる群から選択される遺伝子である、請求項3記載の方法。

請求項5

微生物が、Aspergillus属、もしくはPenicillium属に属する真菌、またはGluconobacter属に属する真性細菌である、請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。

請求項6

微生物が、Aspergillus oryzaeである、請求項5記載の方法。

請求項7

1または複数のコウジ酸の産生に必須の遺伝子の発現量および/または当該遺伝子にコードされるタンパク質の活性を、当該遺伝子に欠失置換、付加または挿入による改変を含めることにより正に制御する、請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。

請求項8

1または複数のコウジ酸の産生に必須の遺伝子の発現量および/または当該遺伝子にコードされるタンパク質の活性を、当該遺伝子の発現制御因子を正に制御することにより、正に制御する、請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。

請求項9

1または複数のコウジ酸の産生に必須の遺伝子の発現量および/または当該遺伝子にコードされるタンパク質の活性を、当該遺伝子にコードされるタンパク質の翻訳効率を向上させることにより正に制御する、請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。

請求項10

1または複数のコウジ酸の産生に必須の遺伝子の発現量および/または当該遺伝子にコードされるタンパク質の活性を、当該遺伝子にコードされるタンパク質の翻訳後修飾を正に制御することにより正に制御する、請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。

請求項11

1または複数のコウジ酸の産生に必須の遺伝子の発現量および/または当該遺伝子にコードされるタンパク質の活性を、微生物中の当該遺伝子のコピー数を増大させることにより正に制御する、請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。

請求項12

1または複数のコウジ酸の産生に必須の遺伝子の発現量および/または当該遺伝子にコードされるタンパク質の活性を、微生物中の当該遺伝子の染色体上の位置を変えることにより正に制御する、請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。

請求項13

1または複数のコウジ酸の産生に必須の遺伝子の発現量および/または当該遺伝子にコードされるタンパク質の活性を、当該遺伝子のプロモーターを活性化する因子を添加することにより正に制御する、請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。

請求項14

1または複数のコウジ酸の産生に必須の遺伝子の発現量および/または当該遺伝子にコードされるタンパク質の活性を、当該遺伝子のプロモーターを活性の強いプロモーターに置換することにより正に制御する、請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。

請求項15

1または複数のコウジ酸の産生に必須の遺伝子の発現量および/または当該遺伝子にコードされるタンパク質の活性を、当該遺伝子のプロモーターをタンデム化して活性を強化することにより正に制御する、請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。

請求項16

1または複数のコウジ酸の産生に必須の遺伝子の発現量および/または当該遺伝子にコードされるタンパク質の活性を、当該遺伝子に対する抑制性遺伝子の発現を抑制することにより正に制御する、請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。

請求項17

1または複数のコウジ酸の産生に必須の遺伝子の発現量および/または当該遺伝子にコードされるタンパク質の活性を、当該遺伝子のUTRを改変することにより正に制御する、請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。

請求項18

請求項1〜17のいずれか1項記載の方法により得られた、コウジ酸の産生能が向上している微生物。

請求項19

請求項18記載の微生物を用いたコウジ酸の製造方法。

請求項20

微生物における配列番号1〜15からなる群から選択される1または複数のコウジ酸の産生に必須の遺伝子の発現量を指標として、該微生物におけるコウジ酸の合成量を上昇させる条件を決定するための方法。

請求項21

1または複数のコウジ酸の産生に必須の遺伝子が、配列番号4〜11および配列番号15からなる群から選択される遺伝子である、請求項20記載の方法。

請求項22

1または複数のコウジ酸の産生に必須の遺伝子が、配列番号4〜6および配列番号15からなる群から選択される遺伝子である、請求項21記載の方法。

請求項23

以下の(a)または(b)のタンパク質をコードする遺伝子。(a)配列番号16で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質(b)配列番号16で表されるアミノ酸において、1から数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を含み、コウジ酸の産生に必須な機能を有するタンパク質

請求項24

以下の(a)、(b)または(c)のDNAからなる遺伝子。(a)配列番号15で表される塩基配列からなるDNA(b)配列番号15で表される塩基配列において、1から数個の塩基が欠失、置換もしくは付加された塩基配列を含み、コウジ酸の産生に必須な機能を有するタンパク質をコードするDNA(c)配列番号15で表される塩基配列と相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、コウジ酸の産生に必須な機能を有するタンパク質をコードするDNA

請求項25

配列番号1〜15からなる群から選択される1または複数のコウジ酸の産生に必須の遺伝子のプロモーター配列レポーター遺伝子を機能し得る形で連結して含む1または複数のベクターを用いて微生物を形質転換することにより得られた、組換え微生物

請求項26

レポーター遺伝子が、β−グルクロニダーゼ遺伝子、β−ガラクトシダーゼ遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、緑色または赤色蛍光タンパク質遺伝子薬剤耐性遺伝子、および栄養要求遺伝子からなる群から選択されたものである、請求項25記載の組換え微生物。

請求項27

請求項25または26記載の組換え微生物におけるレポーター遺伝子の発現量またはレポーター遺伝子にコードされるタンパク質の活性を指標として、該微生物におけるコウジ酸の合成量を上昇させる条件を決定するための方法。

技術分野

0001

本発明は、微生物コウジ酸の産生に必須な遺伝子の発現量および/または当該遺伝子にコードされるタンパク質活性を人為的に正に制御することにより、微生物によるコウジ酸の産生量を向上させる方法に関する。さらに、該遺伝子の配列および上流領域を利用して、該遺伝子または該遺伝子の上流配列と機能的に結合されたレポーター遺伝子の発現量を測定することにより、微生物によるコウジ酸の産生量を向上させる条件の探索方法に関する。

背景技術

0002

真核糸状真菌カビ)を含む微生物が産生するコウジ酸は、美白効果抗菌効果食品褐色変化阻害効果などの多岐にわたる効果を有する物質である(非特許文献1)。コウジ酸を微生物によって産生する方法が既に考案され実施されているが(特許文献1)、その方法は、高い産生量を維持するために過度試行錯誤を必要とするものや過去の経験に依存するものであった。そこで、コウジ酸を高産生する微生物を確実かつ効率的に得るために、コウジ酸の産生に関わる遺伝子などを、分子生物学的な知見に基づいて遺伝子組換え手法により制御する方法の確立が望まれている。

0003

コウジ酸を産生する真菌として、Aspergillus属の真菌、Penicillium属の真菌が挙げられる。またコウジ酸を産生する真正細菌として、Gluconobacter属の細菌が挙げられる(特許文献1)。

0004

コウジ酸の産生が麹菌の麹培養中から同定された1907年以来、コウジ酸の産生量向上に関する研究の報告例がある(非特許文献2−5)。しかし、いずれも培養方法の検討による産生量向上に関する報告である。従来の研究によって、コウジ酸の産生に影響を与える遺伝子は特定されていない(非特許文献1)。

0005

コウジ酸を産生する真菌のうち、Aspergillus属である麹菌(Aspergillus oryzae)の全ゲノム塩基配列が明らかにされた(非特許文献6)。ゲノム中に約12,000個同定された遺伝子の中で、コウジ酸の産生量に影響を与える遺伝子は未だ特定されていなかった。しかし、全ゲノム塩基配列が明らかにされたことで、ゲノム科学的にコウジ酸の産生に必須の遺伝子を特定する方法論の使用が可能になった。

0006

近年の真菌の相同組換え技術に関する研究から、ku70, ku80, ligDといった遺伝子が同定され、これらの遺伝子が非相同的遺伝子組み換えに係ることが明らかとなった(非特許文献7、非特許文献8、非特許文献9)。これらの遺伝子を破壊した真菌は、野生株と同等の表現系と生育とを示すものの、野生株に比べて非相同組換え頻度が減少し、従来では困難であった標的の遺伝子など特定の領域だけを効率的に変異することが可能となった。

0007

特許公開平05−076378号公報

先行技術

0008

Bentley R,Nat Prod Rep., 2006; 23:1046-1062
Futamuraら, J Biosci Bioeng. 2001;92(4):360-5.
Futamura ら,J Biosci Bioeng. 2001;91(3):272-6.
Wanら,J Ind Microbiol Biotechnol. 2005 Jun;32(6):227-33. Epub 2005 May 14.
Wanら,Biotechnol Lett. 2004 Jul;26(14):1163-6.
Machidaら,Nature 438:1157-1161, 2005
Ishibashiら, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 2006: 103:14871-14876.
Takahashiら, Mol. Gen. Genomics 2004:275:460-470.
Mizutaniら, Fungal Genet. Biol. 2008:45(6):878-889.

発明が解決しようとする課題

0009

上記したことから明らかなように、微生物におけるコウジ酸の産生量を確実かつ効率的に向上させる方法の開発が望まれ、周辺の技術も整ってきているが、その要望応えるまでには至ってはいない。したがって、今日までコウジ酸の産生量を向上させるためには、コウジ酸の産生量という表現型指標にして試行錯誤的に産生量の高い菌株、産生用の培養条件を探索する以外に方法はなかった。

0010

コウジ酸の産生量を確実かつ効率的に向上させる方法として、コウジ酸を産生する微生物中の、コウジ酸の産生に必須の遺伝子の発現量および/または当該遺伝子にコードされるタンパク質の活性を人為的に正に制御する方法が挙げられる。しかし、該当する遺伝子は未知であり、課題として残っていた。コウジ酸の産生に関わる遺伝子や経路の全貌を明らかにすることは難しいが、それらの少なくとも一つ以上の遺伝子を明らかとすることで、それらの遺伝子およびその上流の制御領域を利用したコウジ酸の産生方法が可能となる。

0011

コウジ酸の産生に必須の遺伝子は、麹菌のゲノム塩基配列が明らかになったことを背景として、特定することがそれ以前と比べれば容易になった。さらに、遺伝子組換え技術を利用することにより、コウジ酸の産生に必須の遺伝子の発現量および/または当該遺伝子にコードされるタンパク質の活性を人為的に正に制御するための組換えを微生物に施すことで、コウジ酸の産生量を向上させることが現実的に可能となった。

課題を解決するための手段

0012

本発明者は、鋭意研究の結果、麹菌のゲノム全塩基配列とそれを元に開発した該真菌のゲノム科学的な解析方法を利用することにより、コウジ酸の産生に必須の遺伝子を麹菌のゲノム中に特定した。これらの遺伝子の転写レベルでの発現量がコウジ酸の産生量と相関して変化することも明らかとした。これらのことから、当該遺伝子の発現および/または当該遺伝子にコードされるタンパク質の活性を人為的に正に制御することによりコウジ酸の産生量を向上させることが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。

0013

すなわち、本発明は、以下のとおりである。
[1]微生物における配列番号1〜15からなる群から選択される1または複数のコウジ酸の産生に必須の遺伝子の発現量および/または当該遺伝子にコードされるタンパク質の活性を正に制御することを含む、コウジ酸の産生能が向上した微生物の製造方法。
[2] 1または複数のコウジ酸の産生に必須の遺伝子が、コウジ酸の生合成酵素膜輸送輸送体、またはそれらの遺伝子の転写制御因子である、[1]の方法。
[3] 1または複数のコウジ酸の産生に必須の遺伝子が、配列番号4〜11および配列番号15からなる群から選択される遺伝子である、[1]または[2]の方法。
[4] 1または複数のコウジ酸の産生に必須の遺伝子が、配列番号4〜6および配列番号15からなる群から選択される遺伝子である、[3]の方法。
[5] 微生物が、Aspergillus属、もしくはPenicillium属に属する真菌、またはGluconobacter属に属する真性細菌である、[1]〜[4]のいずれかの方法。

0014

[6]微生物が、Aspergillus oryzaeである、[5]の方法。
[7] 1または複数のコウジ酸の産生に必須の遺伝子の発現量および/または当該遺伝子にコードされるタンパク質の活性を、当該遺伝子に欠失置換、付加または挿入による改変を含めることにより正に制御する、[1]〜[6]のいずれかの方法。
[8] 1または複数のコウジ酸の産生に必須の遺伝子の発現量および/または当該遺伝子にコードされるタンパク質の活性を、当該遺伝子の発現制御因子を正に制御することにより、正に制御する、[1]〜[6]のいずれかの方法。
[9] 1または複数のコウジ酸の産生に必須の遺伝子の発現量および/または当該遺伝子にコードされるタンパク質の活性を、当該遺伝子にコードされるタンパク質の翻訳効率を向上させることにより正に制御する、[1]〜[6]のいずれかの方法。
[10] 1または複数のコウジ酸の産生に必須の遺伝子の発現量および/または当該遺伝子にコードされるタンパク質の活性を、当該遺伝子にコードされるタンパク質の翻訳後修飾を正に制御することにより正に制御する、[1]〜[6]のいずれかの方法。

0015

[11] 1または複数のコウジ酸の産生に必須の遺伝子の発現量および/または当該遺伝子にコードされるタンパク質の活性を、微生物中の当該遺伝子のコピー数を増大させることにより正に制御する、[1]〜[6]のいずれかの方法。
[12] 1または複数のコウジ酸の産生に必須の遺伝子の発現量および/または当該遺伝子にコードされるタンパク質の活性を、微生物中の当該遺伝子の染色体上の位置を変えることにより正に制御する、[1]〜[6]のいずれかの方法。
[13] 1または複数のコウジ酸の産生に必須の遺伝子の発現量および/または当該遺伝子にコードされるタンパク質の活性を、当該遺伝子のプロモーターを活性化する因子を添加することにより正に制御する、[1]〜[6]のいずれかの方法。
[14] 1または複数のコウジ酸の産生に必須の遺伝子の発現量および/または当該遺伝子にコードされるタンパク質の活性を、当該遺伝子のプロモーターを活性の強いプロモーターに置換することにより正に制御する、[1]〜[6]のいずれかの方法。
[15] 1または複数のコウジ酸の産生に必須の遺伝子の発現量および/または当該遺伝子にコードされるタンパク質の活性を、当該遺伝子のプロモーターをタンデム化して活性を強化することにより正に制御する、[1]〜[6]のいずれかの方法。

0016

[16] 1または複数のコウジ酸の産生に必須の遺伝子の発現量および/または当該遺伝子にコードされるタンパク質の活性を、当該遺伝子に対する抑制性遺伝子の発現を抑制することにより正に制御する、[1]〜[6]のいずれかの方法。
[17] 1または複数のコウジ酸の産生に必須の遺伝子の発現量および/または当該遺伝子にコードされるタンパク質の活性を、当該遺伝子のUTRを改変することにより正に制御する、[1]〜[6]のいずれかの方法。
[18] [1]〜[17]のいずれかの方法により得られた、コウジ酸の産生能が向上している微生物。
[19] [18]の微生物を用いたコウジ酸の製造方法。
[20] 微生物における配列番号1〜15からなる群から選択される1または複数のコウジ酸の産生に必須の遺伝子の発現量を指標として、該微生物におけるコウジ酸の産生量を上昇させる条件を決定するための方法。

0017

[21] 1または複数のコウジ酸の産生に必須の遺伝子が、配列番号4〜11および配列番号15からなる群から選択される遺伝子である、[20]の方法。
[22] 1または複数のコウジ酸の産生に必須の遺伝子が、配列番号4〜6および配列番号15からなる群から選択される遺伝子である、[21]の方法。
[23] 以下の(a)または(b)のタンパク質をコードする遺伝子。
(a)配列番号16で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号16で表されるアミノ酸において、1から数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を含み、コウジ酸の産生に必須な機能を有するタンパク質
[24] 以下の(a)、(b)または(c)のDNAからなる遺伝子。
(a)配列番号15で表される塩基配列からなるDNA
(b)配列番号15で表される塩基配列において、1から数個の塩基が欠失、置換もしくは付加された塩基配列を含み、コウジ酸の産生に必須な機能を有するタンパク質をコードするDNA
(c)配列番号15で表される塩基配列と相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、コウジ酸の産生に必須な機能を有するタンパク質をコードするDNA
[25] 配列番号1〜15からなる群から選択される1または複数のコウジ酸の産生に必須の遺伝子のプロモーター配列とレポーター遺伝子を機能し得る形で連結して含む1または複数のベクターを用いて微生物を形質転換することにより得られた、組換え微生物

0018

[26]レポーター遺伝子が、β−グルクロニダーゼ遺伝子、β−ガラクトシダーゼ遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、緑色または赤色蛍光タンパク質遺伝子薬剤耐性遺伝子、および栄養要求遺伝子からなる群から選択されたものである、[25]の組換え微生物。
[27] [25]または[26]の組換え微生物におけるレポーター遺伝子の発現量またはレポーター遺伝子にコードされるタンパク質の活性を指標として、該微生物におけるコウジ酸の産生量を上昇させる条件を決定するための方法。

発明の効果

0019

本発明によれば、微生物、好ましくは真菌または真正細菌において、コウジ酸の産生に必須の遺伝子、例えばコウジ酸の生合成、コウジ酸の細胞外への輸送などに関連する遺伝子およびそれらの遺伝子の転写制御に関連する遺伝子、の発現量および/または当該遺伝子にコードされるタンパク質の活性を人為的に正に制御し、コウジ酸の産生量を向上することが可能となる。

0020

また本発明によれば、コウジ酸の産生に必須の遺伝子のプロモーター配列と機能し得る形で連結されたレポーター遺伝子を含むレポーター検出系の使用により、レポーター遺伝子の発現量またはレポーター遺伝子にコードされるタンパク質活性の測定から、コウジ酸の産生量を向上させる培養条件を簡便に見つけ出すことも可能となり、本発明はコウジ酸の産生量を向上させる開発に大いに資するものである。(図1

図面の簡単な説明

0021

図1は、高頻度相同組換え株を用いた遺伝子工学による本発明の概要を示す模式図である。
図2は、遺伝子欠失破壊用DNA断片作製方法の模式図である。作製した遺伝子欠失破壊用DNA断片を用いて、Host (NS4 niaD-, ΔligD::ptrA, pyrG-)を形質転換して、PCRによりpyrG+のものを選択することによって、目的遺伝子欠失破壊株を得ることができる。図中の矢印は、プライマーの位置と方向を示す。
図3は、AO090113000138遺伝子欠失破壊用DNA断片の作製方法の模式図である。作製した遺伝子欠失破壊用DNA断片を用いて、Host (NS4 niaD-, ΔligD, pyrG-)を形質転換して、PCRによりpyrG+のものを選択することによって、目的遺伝子の欠失破壊株を得ることができる。図中の矢印は、プライマーの位置と方向を示す。
図4は、野生株(RIB40)およびホスト株(Host(niaD-, ΔligD))、さらに二つの遺伝子欠失破壊株(ΔAO090113000136, ΔAO090113000138)におけるコウジ酸産生能を示す図である。上記4つの株を、それぞれ105spore /spot となるよう、1mM FeCl3を含むコウジ酸産生培地寒天を加えて固化した培地接種し、30℃で5日間培養した。
図5は、野生株(RIB40)、AO090113000136高発現株(O/E : AO090113000136)およびAO090113000136破壊株(delta : AO090113000136)におけるコウジ酸産生能を示す図である。野生株、AO090113000136高発現株、AO090113000136破壊株それぞれを105spore /spot となるよう、10mM FeCl3を含むコウジ酸産生培地に寒天を加えて固化した培地に接種し、30℃で5日間培養した。
図6は、コントロール株宿主麹菌のpyrG変異のみを相補した株)、AO090113000137高発現株(O/E : AO090113000137)およびAO090113000137破壊株(delta : AO090113000137)におけるコウジ酸産生能を示す図である。コントロール株、AO090113000137高発現株、AO090113000137破壊株それぞれを105spore /spot となるよう、1mMおよび10mM FeCl3を含むコウジ酸産生培地に寒天を加えて固化した培地に接種し、30℃で7日間培養した。
図7は、リアルタイムPCR解析により、コウジ酸の産生に必須の遺伝子2つの遺伝子AO090113000136およびAO090113000138の発現量を定量した結果である。コウジ酸産生培地でコウジ酸を産生しているときの発現量と、硝酸ナトリウムを加えてコウジ酸の産生を阻害したときの発現量の比較である。それぞれの条件で、内在性コントロールヒストンH1の発現量を用いた値を計算し、さらに硝酸ナトリウムを加えてコウジ酸産生を阻害した際の遺伝子の発現量を1として、コウジ酸産生時の遺伝子発現を図とした。実験を3連で行い、その標準偏差をバーとして示している。
図8は、AO090113000137遺伝子のコピー数を増大させた変異株およびコントロール株(プラスミドpPTR Iで形質転換した株)におけるコウジ酸産生能を示す図である。生育させた固形培地円柱型にくり抜き、10mM FeCl3を含む寒天上に乗せて、浸み出したコウジ酸による周りの発色を示す。
図9は、培地へのコウジ酸添加によるコウジ酸生産開始時期への影響を示す図である。培養開始後24時間(コウジ酸添加後0時間)、48時間(コウジ酸添加後24時間)、81時間(コウジ酸添加後57時間)における培養液中のコウジ酸の量を塩化第二鉄とのキレートによる発色を用いて495nmでの吸収により測定し示す。
図10は、コウジ酸の添加による、コウジ酸の産生に必須の遺伝子AO090113000136遺伝子およびAO090113000138遺伝子の発現量への影響を定量RT-PCRにより解析した結果を示す。(A):AO090113000136遺伝子の発現量;(B):AO090113000138遺伝子の発現量。Δ:AO090113000137遺伝子の欠失株の発現量;cont: ΔpyrGの表現型を機能的に相補した株の発現量。

0022

本発明は、1または複数のコウジ酸の産生に必須の遺伝子の発現量および/または当該遺伝子にコードされるタンパク質の活性を正に制御することを含む、コウジ酸の産生能が向上した微生物の製造方法に関する。

0023

本発明において「1または複数」の範囲は特には限定されないが、1〜15個、好ましくは1〜9個、さらに好ましくは1〜4個である。

0024

本発明において「微生物」とは、Aspergillus属またはPenicillium属に属する真菌、あるいはGluconobacter属に属する真正細菌である。好ましくはAspergillus属またはPenicillium属に属する真菌、さらに好ましくはAspergillus oryzaeである。

0025

コウジ酸の産生に必須の遺伝子とは、微生物におけるコウジ酸の産生量に影響を与え得る遺伝子であって、当該遺伝子の発現量がコウジ酸の産生量と相関しており、当該遺伝子の発現量および/または当該遺伝子にコードされるタンパク質の活性を正に制御することにより、微生物におけるコウジ酸の産生量を向上し得るものが挙げられる。

0026

コウジ酸の産生に必須の遺伝子は、以下の方法により微生物より特定することが可能である。

0027

現在、コウジ酸を産生する微生物種として、真菌ではAspergillus属、Penicillium属のものが知られており、当該産業界での利用もこれらの種に集中している。

0028

Aspergillus属およびPenicillium属は互いに進化的近縁系統に属しており、コウジ酸の産生に必須の遺伝子は、明確な相同性を持つことが推定され、それぞれの細胞中で同等の機能を持つことが推定される。更に、これら真菌のゲノム情報が明らかとなっていること、取り扱いが安全な菌であること、ゲノム情報の研究目的の利用に制限が無いこと、遺伝子工学的技術が適用可能であること、高効率相同組換え実験系が利用可能であることなどから、これら真菌よりコウジ酸の産生に必須の遺伝子を特定することが好ましい。特に好ましくは、Aspergillus oryzaeより当該遺伝子を特定する。

0029

当該真菌のコウジ酸の産生に必須の遺伝子の多くは、コウジ酸の産生量と正に相関しており、その転写レベルでの発現量がコウジ酸の産生量と正に相関していると推定できる。したがって、コウジ酸の産生量が異なる培養条件下における当該真菌において、コウジ酸の産生量と相関関係をもって発現している遺伝子を網羅的に解析することによって、コウジ酸の産生に必須の遺伝子を特定することが可能となる。

0030

また、当該遺伝子がコウジ酸の産生に必須であるためには、当該遺伝子が機能しなくなることでコウジ酸の産生が著しく減少することが必要である。たとえば当該遺伝子を欠失することによりコウジ酸の産生が著しく減少する遺伝子を、コウジ酸の産生に必須の遺伝子として特定する。但し、該遺伝子が他の機能を持つことが明確で、間接的な影響としてコウジ酸の産生を阻害している場合は、必須とは言えない。

0031

コウジ酸の産生に必須の遺伝子の例として、コウジ酸の生合成に関与する遺伝子、例えば、コウジ酸のグルコースからの変換に直接関わる酵素遺伝子は必須な遺伝子であり得る。更に、細胞内で産生されたコウジ酸を細胞外へ輸送する輸送体もコウジ酸の産生に重要な役割を担っており、当該輸送体の遺伝子も同じく必須な遺伝子と考えることができる。更に酵素遺伝子、輸送体遺伝子の転写を促進する転写制御因子もコウジ酸の産生に重大な影響を与え得る。この転写制御遺伝子の欠失によりコウジ酸の産生が著しく低下するならば、やはりこの遺伝子も必須であると考えることができる。

0032

コウジ酸の産生に必須の遺伝子は、一度特定できれば、以降はその遺伝子情報を利用すれば良い。

0033

本発明者らによって、上記のようにして特定されたコウジ酸の産生に必須の遺伝子としては、特に限定されないが、The Central Aspergillus Data REpository (CADRE)等に、AO090113000132(配列番号1)、AO090113000133(配列番号2)、AO090113000134(配列番号3)、AO090113000136(配列番号4)、AO090113000137(配列番号5)、AO090113000138(配列番号6)、AO090113000139(配列番号7)、AO090113000140(配列番号8)、AO090113000141(配列番号9)、AO090113000142(配列番号10)、AO090113000143(配列番号11)、AO090113000144(配列番号12)、AO090113000145(配列番号13)、AO090113000146(配列番号14)として登録された遺伝子にコードされる遺伝子が挙げられ、本発明においてはこれらの遺伝子情報を利用することが可能である。

0034

好ましくは、コウジ酸の産生に必須の遺伝子は、AO090113000136(配列番号4)、AO090113000137(配列番号5)、AO090113000138(配列番号6)、AO090113000139(配列番号7)、AO090113000140(配列番号8)、AO090113000141(配列番号9)、AO090113000142(配列番号10)、AO090113000143(配列番号11)に登録された遺伝子にコードされる。

0035

さらに好ましくは、コウジ酸の産生に必須の遺伝子は、AO090113000136(配列番号4)、AO090113000137(配列番号5)、AO090113000138(配列番号6)に登録された遺伝子にコードされる。

0036

さらに、本発明者らによって、上記のようにして特定されたコウジ酸の産生に必須の遺伝子としては、配列番号15で表される遺伝子が挙げられる。配列番号15で表される遺伝子は、AO090113000138(配列番号6)で表される遺伝子の部分配列であり配列番号6の1535〜1598塩基を欠き、配列番号16で表されるアミノ酸配列をコードする。当該遺伝子は、本発明者らにより初めて見出された遺伝子である。

0037

また、コウジ酸の産生に必須の遺伝子は、配列番号1〜14のいずれかで表される遺伝子配列を有する。当該遺伝子配列はイントロンを含み得るが、本発明方法において使用する際に、当該遺伝子はイントロンを含んでも、含んでいなくても良い。

0038

好ましくは、コウジ酸の産生に必須の遺伝子は、配列番号4〜11および配列番号15のいずれかで表される遺伝子配列を有する。さらに好ましくは、コウジ酸の産生に必須の遺伝子は、配列番号4〜6および配列番号15のいずれかで表される遺伝子配列を有する。

0039

さらに、コウジ酸の産生に必須の遺伝子は、配列番号1〜15のいずれかで表される遺伝子配列において、1から数個のヌクレオチドの欠失、置換、付加または挿入を有し、かつコウジ酸の産生に必須の機能を有するタンパク質をコードする遺伝子も含まれる。「1から数個」の範囲は特には限定されないが、例えば、1から20個、好ましくは1から10個、より好ましくは1から7個、さらに好ましくは1から5個、特に好ましくは1から3個、あるいは1個または2個である。また、コウジ酸の産生に必須の遺伝子には、配列番号1〜15のいずれかで表される遺伝子配列からなるDNAに相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつコウジ酸の産生に必須の機能を有するタンパク質をコードする遺伝子も含まれる。ここで、ストリンジェントな条件とは、当業者によって容易に決定されるハイブリダイゼーション条件のことで、一般的にプローブ長、洗浄温度、及び塩濃度に依存する経験的な計算値によって導き出される条件である。

0040

一般に、プローブが長くなると適切なアニーリングのための温度が高くなり、プローブが短くなると温度は低くなる。ハイブリッド形成は、一般的に、相補鎖がその融点に近いか又はそれより低い環境に存在する場合における、変性DNAの再アニールする能力に依存する。具体的には、例えば、低ストリンジェントな条件として、ハイブリダイゼーション後のフィルター洗浄段階において、37℃〜42℃の温度条件下、0.1×SSC、0.1%SDS溶液中で洗浄することなどが挙げられる。また、高ストリンジェントな条件として、例えば、洗浄段階において、65℃、5×SSCおよび0.1%SDS中で洗浄することなどが挙げられる。高ストリンジェントな条件を用いることにより、同一性の高いポリヌクレオチドを得ることができる。さらに、コウジ酸の産生に必須の遺伝子には配列番号1〜15のいずれかで表される遺伝子配列とBLAST(Basic Local Alignment Search Tool at the National Center for Biological Information(米国国立生物学情センターの基本ローカルアラインメント検索ツール))等(例えば、デフォルトすなわち初期設定パラメータ)を用いて計算したときに、80%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の同一性を有する塩基配列からなり、かつコウジ酸の産生に必須の機能を有するタンパク質をコードする遺伝子も含まれる。

0041

また、コウジ酸の産生に必須の遺伝子は、配列番号16で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質、配列番号16で表されるアミノ酸において、1から数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を含み、コウジ酸の産生に必須な機能を有するタンパク質、または配列番号16で表されるアミノ酸とBLAST等(例えば、デフォルトすなわち初期設定のパラメータ)を用いて計算したときに、80%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつコウジ酸の産生に必須の機能を有するタンパク質をコードする遺伝子も含まれる。

0042

さらに、コウジ酸の産生に必須の遺伝子は、上記に挙げられた遺伝子のスプライシングバリアントであって、コウジ酸の産生に必須の機能を有するタンパク質をコードする遺伝子も含む。

0043

本明細書において、「遺伝子」とは三重鎖DNA、二本鎖DNAおよび一本鎖DNA、ならびに三重鎖RNA、二本鎖RNAおよび一本鎖RNAの形態のものを含む。

0044

コウジ酸の産生に必須の上記遺伝子は、例えば、Aspergillus oryzaeと異なる微生物種(例えば、Aspergillus属に属する他の真菌、Penicillium属に属する真菌およびGluconobacter属に属する真性細菌などが挙げられるが、これらに限定されない)のオルソログをコードするDNAが含まれる。

0045

Aspergillus oryzae以外の微生物種において、コウジ酸の産生に必須の遺伝子が公知でない場合は、配列番号1〜15のいずれかで表される遺伝子配列を基にして、対象微生物種のcDNAライブラリーなどに対してスクリーニングを行い、当該遺伝子を特定することが可能である。スクリーニングの方法としては、核酸ハイブリダイゼーション及びクローニングに関する当該技術分野において周知の方法を用いて、低い、中程度又は高いストリンジェントな条件下におけるハイブリダイゼーションにより得ることができる。

0046

さらに、対象とする微生物種由来のORFのデータベースが存在する場合には、該データベースに対してBLASTサーチ等を行い配列番号1〜15のいずれかで表される遺伝子配列に対するホモログを同定することも可能である。この場合、検索された配列に基づいて該当する遺伝子全体を増幅するために適当なPCR用のプライマーを作製し、得られたPCR産物を適当なクローニング用のベクターに挿入することによって、目的の遺伝子をクローン化することも可能である。同定された遺伝子は適当なクローニング用ベクター(例えば、pUC19など)にサブクローニングして配列確認を行う。

0047

コウジ酸の産生に必須の上記遺伝子は、コウジ酸の生合成に関与する酵素、膜輸送の輸送体、またはそれらの遺伝子の転写制御因子をコードし得る。

0048

本発明方法は、微生物における1または複数の上記コウジ酸の産生に必須の遺伝子の発現量および/または当該遺伝子にコードされるタンパク質の活性を正に制御することを含み得る。

0049

本明細書において、「コウジ酸の産生に必須の遺伝子の発現量および/または当該遺伝子にコードされるタンパク質の活性を正に制御する」とは、天然の微生物における当該遺伝子のmRNA量および/または当該遺伝子にコードされるタンパク質量と比べて、それらの量が増大するように、あるいは、天然の微生物における当該遺伝子にコードされるタンパク質の活性量と比べて、それらの活性量が増大するように、微生物における当該遺伝子の配列または転写もしくは翻訳機構を操作することを意味する。当該操作は、当業者に公知であり、特に限定されないが、例えば以下の遺伝子工学的手法が挙げられる:
・当該遺伝子の遺伝子配列自体の一部を欠失、置換、付加または挿入により改変する
・当該遺伝子の発現制御因子を正に制御する(例えば、転写因子などの添加、共発現など)
・当該遺伝子にコードされるタンパク質の翻訳効率を向上させる(例えば、コザック配列などの翻訳効率を向上させる塩基配列の付加など)
・当該遺伝子にコードされるタンパク質の翻訳後修飾(リン酸化糖鎖修飾ユビキチン化アセチル化メチル化脂質修飾など)を正に制御する(例えば、タンパク質の翻訳後修飾に関与し得るタンパク質(キナーゼグリコシルトランスフェラーゼユビキチンリガーゼアセチルトランスフェラーゼメチルトランスフェラーゼグリコシダーゼなど)の添加、共発現など)
・微生物中の当該遺伝子のコピー数を増大させる
・微生物中の当該遺伝子の染色体上の場所を変える
・当該遺伝子のプロモーターを活性化する因子を添加する(因子としては、例えば、コウジ酸や薬剤誘導性プロモーターにおける薬剤など)
・当該遺伝子のプロモーターを活性の強いプロモーターに置換する
・当該遺伝子のプロモーターをタンデム化して活性を強化する
・当該遺伝子に対する抑制性遺伝子の発現を抑制する
・当該遺伝子のUTRを改変する

0050

特に限定するものではないが、本発明方法において、1または複数の当該遺伝子の発現量および/または当該遺伝子にコードされるタンパク質の活性を正に制御する方法は、下記のような遺伝子組換え法を用いて達成することが可能である。

0051

一実施形態において、当該遺伝子の発現量を正に制御する方法は、例えば、以下のa)〜c)の方法により行うことが可能である。
a) 特定の転写因子のシスエレメントを当該遺伝子の5’上流領域のプロモーター領域に導入して、当該転写因子により当該遺伝子の発現量を増加させる。
b) 当該遺伝子の5’上流領域のプロモーターまたはその中の転写制御因子が結合する特定のシスエレメントをタンデム化することにより、当該遺伝子の発現量を増加させる。
c)微生物のゲノム中に存在する当該遺伝子を、該菌のゲノム中におけるコピー数を増加させることにより、当該遺伝子の発現量を増加させる。

0052

これらは単独で当該遺伝子の発現量を変化させることが可能であるが、更に、組み合わせて使用することも可能である。

0053

「プロモーター」とは、真核細胞において一般に転写開始反応の効率に関与するDNA配列を意味し、転写開始位置の40塩基対程度にある転写開始反応自体に関与するDNA領域である狭義のプロモーターに加えて、転写開始反応の効率に影響を与える様々なDNA要素(プロモーター近位配列及び遠位配列(上流制御要素))も含む広義のプロモーターを意味する。このようなプロモーターの一例として、当該遺伝子の翻訳開始コドンから上流1kb内に位置するものを挙げることができる。この領域には、上記広義のプロモーターの各配列が殆ど含まれていると考えられる。但し、本発明で使用する5’上流領域のプロモーターにこのような要素が全て含まれている必要はない。例えば、上記遺伝子の5’上流の-600〜-1、-400〜-1、及び-200〜-1領域のような上流1 kb内の領域の一部が欠失した配列にも転写制御に関与する特定のシスエレメントが含まれていると考えられ、そのようなより短い5’上流領域も本発明のプロモーターに含まれる。

0054

更に、本発明において、5’上流領域のプロモーターには、上記に挙げられた遺伝子の特定の5’上流領域のプロモーター配列に限らず、対象の遺伝子と機能的に結合した場合に、本来のプロモーターと実質的に同等の機能を示すことができる限り、そのような特定の5’上流領域のプロモーター配列において、例えば、その配列末端等のプロモーターとしての機能に実質的な影響を与えないような部位において、その塩基配列の一部、例えば、数個の塩基が欠失、置換、又は挿入された各種の修飾プロモーター配列も含まれる。

0055

このような修飾プロモーター配列の例として、上記の特定の5’上流領域のプロモーター配列の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズできるDNA配列を挙げることが出来る。ここで、「ストリンジェントな条件下」とは、各塩基配列間の同一性の程度が、例えば、全体の平均で約80%以上、好ましくは約90%以上、より好ましくは約95%以上、更に好ましくは約99%以上であるような、高い同一性を有する塩基配列間のみで、特異的にハイブリッドが形成されるような条件を意味する。

0056

「シスエレメント」とは、上記のプロモーター領域中において、特定の転写制御因子が結合することが明らかな部分を意味している。一般に、転写制御因子は数塩基対を認識することも多く、特定の結合配列があれば、それだけで機能することも知られている。プロモーターとして1kbに近い領域を該遺伝子の上流に導入する代わりに、より短い領域を導入する方が好ましい場合、ここで説明するようなシスエレメントを導入することを選択する。

0057

プロモーター、シスエレメント、コウジ酸の産生に必須の遺伝子などのDNA配列は、当業者に公知である遺伝子組換え手法により、宿主微生物に導入することが可能である。すなわち、プロモーター、シスエレメント、コウジ酸の産生に必須の遺伝子を含むプラスミドベクターまたはウィルスベクター等の適当な組換えベクターを公知の手法で作製し、当該ベクターによって宿主微生物を形質転換することによって好適に実施することが出来る。当該ベクターは、多コピー型、単コピー型染色体組込み型のいずれであっても良い。例えば、一例としてpPTR Iが挙げられる。また、ベクターには、必要に応じて、上記コウジ酸の産生に必須の遺伝子を1または複数個含めても良い。形質転換の結果、組換えベクターは宿主微生物のゲノム内に組み込まれても、プラスミド等としてゲノムとは独立して細胞内に存在しても良い。尚、当該ベクターには、各要素、例えば、エンハンサーマーカー遺伝子ターミネーター、及び各種制限酵素部位等の各要素を目的等に応じて適宜含むことが出来る。

0058

プロモーターは、上記プロモーターに代えて、転写活性の大きな公知のプロモーター、例えば、特に限定されないが、ADC1プロモーター、ARGプロモーター、ADHプロモーター、CYC1プロモーター、CUPプロモーター、ENO1プロモーター、GALプロモーター、PHOプロモーター、PGKプロモーター、GAPDHプロモーター、交配型因子プロモーターなどを導入することも可能である。

0059

別の実施形態において、当該遺伝子の発現量を正に制御する方法は、例えば、当該遺伝子のプロモーターを活性化する因子を添加することにより達成することができる。

0060

プロモーターを活性化する因子としてはコウジ酸が挙げられ、培地中にコウジ酸を0.1〜1.0 mM、好ましくは0.5 mMの濃度となるように加えることによって、当該遺伝子のプロモーターを活性化し当該遺伝子の発現量を正に制御することができる。
また、別の実施形態において、当該遺伝子にコードされるタンパク質の活性を正に制御する方法は、下記のように当該タンパク質を改変することにより達成することができる。

0061

改変型タンパク質の作製は、当該分野において周知である方法、例えば、ランダム変異および部位特異的変異を用いて作製することが可能である。一般的に、ランダム変異法では、遺伝子シャッフリングエラープローンPCRを用いてタンパク質変異体プール構築し、その中から目的の性質に改変された変異体をスクリーニングして得ることが可能である。得られた変異体をコードする遺伝子は、上記と同じく遺伝子組換え手法により宿主微生物に導入することができる。

0062

宿主微生物には、Aspergillus属またはPenicillium属に属する真菌、あるいはGluconobacter属に属する真正細菌が挙げられ、好ましくはAspergillus属またはPenicillium属に属する真菌、さらに好ましくはAspergillus oryzaeである。

0063

ベクターを宿主細胞に導入する方法としては、例えば、プロトプラスト−PEG法、エレクトロポレーション法、Ti−プラスミド法、およびパーティクルガン、並びに、例えば、本明細書の実施例中に記載されているような、それらの各種改良法等のような、当該技術分野において周知の様々な技術および手段を用いた組換え法が挙げられる。必要に応じて、1または複数種のベクターを導入しても良い。

0064

本発明方法により製造された微生物は、天然の微生物と比較して、コウジ酸の産生能が向上している。例えば、本発明方法により製造された微生物は、天然の微生物と比較して、コウジ酸の産生速度が早い、コウジ酸産生の持続時間が長い、単位時間当たりのコウジ酸の産生量が高い、および/またはグルコース(基質)当たりのコウジ酸の産生量が高いなどの特徴を有し得る。

0065

本発明は、上記コウジ酸の産生能が向上した微生物の製造方法により作製された微生物を用いて、コウジ酸を製造する方法に関する。

0066

コウジ酸の製造に用いられる発酵培地は公知のものを用いることが可能であり、例えば、窒素源としては、酵母エキス肉エキスコーンスティープリカーペプトン、各無機アンモニウム塩等を約0.1〜2.0%で使用でき、炭素源としてはグルコース、マルトース、各種澱粉ショ糖廃糖蜜等の糖類を約5〜20%、および必要に応じて資化出来る有機酸、例えば酢酸クエン酸などを約0.5〜2%使用できる。その他、これらの培地組成リン酸マグネシウムナトリウムカリウム等の無機塩や微量必須栄養素消泡剤分散剤等を適宜使用し得る。当該発酵培地中にて、当該微生物を20〜40℃にて、2〜20日間通気培養し得る。

0067

反応は、連続式で行ってもバッチ式で行っても良い。

0068

製造されたコウジ酸は、公知の手法により精製することが可能であり、例えば、再結晶アフィニティークロマトグラフィーイオン交換クロマトグラフィーゲルろ過などが挙げられ、これらを適宜組み合わせて用いることができる。

0069

本発明はまた、微生物における1または複数の上記コウジ酸の産生に必須の遺伝子の発現量を指標として、該微生物におけるコウジ酸の産生量を上昇させる条件を決定するための方法に関する。

0070

当該遺伝子の発現量は、それら遺伝子の配列を基にして作製したプローブを用いる増幅反応や、ハイブリダイゼーションを利用したDNAマイクロアレイなどの実験により定量することができる。より具体的には、PCRを利用する方法が挙げられ、例えば、競合的PCR又はリアルタイムPCR(定量RT-PCR)並びにそれらの各種改良方法等の当業者に公知の方法を挙げることが出来る。或いは、ハイブリダイゼーションを利用したDNAチップ又はマイクロアレイ等によって、コウジ酸の産生に必須の各遺伝子のmRNA量の変化を検出することも可能である。

0071

本方法において、様々な培養条件下における微生物の1または複数の上記コウジ酸の産生に必須の遺伝子の発現量を上記方法により定量し、その発現量が他の培養条件における発現量と比べて増大している培養条件を、該微生物におけるコウジ酸の産生量を上昇させる条件とみなすことが可能である。

0072

本発明はまた、上記コウジ酸の産生に必須の遺伝子のプロモーターとレポーター遺伝子を機能し得る形で連結して含むベクターを用いて形質転換した微生物における、当該レポーター遺伝子の発現量またはレポーター遺伝子にコードされるタンパク質の活性を指標として、当該微生物におけるコウジ酸の産生量を上昇させる条件を決定するための方法に関する。

0073

「機能し得る形で連結して含む」とは、当該ベクターが導入された微生物内において、プロモーターの制御の下、レポーター遺伝子が発現されるように、プロモーターとレポーター遺伝子を連結して含むことを意味する。

0074

当該方法に用いられる形質転換体は、プロモーターに機能し得る形で連結したレポーター遺伝子を含むプラスミドベクターまたはウィルスベクター等の適当な組換えベクター(レポーター遺伝子ベクター)を公知の手法で作製し、該ベクターによって宿主微生物を形質転換することによって得ることができる。形質転換の結果、このような組換えベクターは宿主ゲノム内に組み込まれるか、又は、プラスミド等としてゲノムとは独立して細胞内に存在することができる。従って、本発明は、こうして作製される、コウジ酸の産生に必須の遺伝子の5’上流領域のプロモーターに機能し得るかたちで連結したレポーター遺伝子を含む組換えベクターによって形質転換された組換え微生物自体にも係るものである。このような形質転換菌の宿主となる微生物は、各種の栄養要求性株又はその復帰株であっても良い。

0075

尚、このような組換えベクター(又は、プロモーターと機能し得る形で連結したレポーター遺伝子)が複数コピーで宿主ゲノム内に組み込まれることによって、測定感度を更に向上することが出来る。又は、プロモーター又は該プロモーター中の転写制御に関与する特定のシスエレメントがレポーター遺伝子ベクター中でタンデム化されることにより該レポーター系での検出感度を向上することも可能である。

0076

コウジ酸の産生に必須の遺伝子の5’上流領域のプロモーター又はそれらの修飾プロモーター配列は、公知の任意の方法で容易に調製することが出来る。例えば、寄託されている菌株から下記実施例で記載した方法によって容易にクローニングすることが出来る。或は、各種のデータベースに記載された真核糸状真菌のゲノム情報に基づき、コウジ酸の産生に必須の遺伝子およびそれらに類似の遺伝子の5’上流領域のプロモーターをPCRにより増幅して調製し、該プロモーターとすることが出来る。

0077

尚、本発明における組換えベクターには、各要素、例えば、エンハンサー、マーカー遺伝子、ターミネーター、及び各種制限酵素部位等の各要素を目的等に応じて適宜含むことが出来る。

0078

本発明におけるレポーター遺伝子としては、β−グルクロニダーゼ遺伝子、β−ガラクトシダーゼ遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、緑色又は赤色蛍光蛋白質遺伝子、EGFP-LacI等の融合体遺伝子、薬剤耐性遺伝子、及び栄養要求遺伝子等の公知の任意の遺伝子をその目的等に応じて使用することが出来る。β−グルクロニダーゼ遺伝子又はβ−ガラクトシダーゼ遺伝子を使用した場合には、該遺伝子がコードするタンパク質発現量の変化をその酵素活性量を基質の発色反応で測定することにより、それを指標として該遺伝子の発現量を検出することができる。ルシフェラーゼ遺伝子又は緑色蛍光蛋白質遺伝子を使用した場合には、それがコードするタンパク質が発する蛍光を測定することにより、該遺伝子の発現量の変化を検出することができる。或いは、該レポーター遺伝子がコードするタンパク質とそれに対する特異的抗体との反応を該遺伝子の発現量の変化の指標として検出することもできる。更に、CAT遺伝子をレポーター遺伝子として用いたCATアッセイ放射能アッセイ)を行うことも出来る。

0079

尚、上記形質転換菌は、例えば、プロトプラスト−PEG法、エレクトロポレーション法、Ti−プラスミド法、及びパーティクルガン、並びに、例えば、本明細書の実施例中に記載されているような、それらの各種改良法等のような、当該技術分野において周知の様々な技術及び手段を用いた組換え法によって、宿主微生物を該組換えベクターにより形質転換することによって容易に調製することが出来る。必要に応じて、1または複数種のベクターを導入しても良い。

0080

宿主微生物としては、真菌であるAspergillus属またはPenicillium属、あるいは真正細菌であるGluconobacter属が挙げられ、好ましくはAspergillus属またはPenicillium属に属する真菌、さらに好ましくはAspergillus oryzaeである。

0081

本方法において、様々な培養条件下における上記形質転換菌のレポーター遺伝子の発現量および/または活性を上記方法により定量し、その発現量および/または活性が他の培養条件における発現量および/または活性と比べて増大している培養条件を、微生物におけるコウジ酸の産生量を上昇させる条件とみなすことが可能である。

0082

本発明はまた、天然の変異により、1または複数の上記コウジ酸の産生に必須の遺伝子の発現量が増大している、および、1または複数の上記コウジ酸の産生に必須の遺伝子にコードされるタンパク質の活性が増大している、微生物も含む。

0083

以下、実施例に即して本発明を具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの記載によって何等制限されるものではない。尚、実施例における各種遺伝子操作は、Current protocols in molecular biology (edited by Fredrick M. Ausubel et al., 1987)に記載されている方法に従った。
(実施例)

0084

コウジ酸の産生に必須の遺伝子の同定
アスペルギルスオリゼ(Aspergillus oryzae)の菌株RIB40(以下、単にアスペルギルス・オリゼと書いた場合にはこの菌株を指す)は、以下の組成液体培地で、30度、150回転/毎分で生育させた場合、コウジ酸を培地中に産生する。500 mLのこぶつき三角フラスコ中に、250 mLの培地を入れ、アスペルギルス・オリゼの胞子懸濁液を105-107 / mLになるように接種する。

0085

(培地組成:以下コウジ酸産生培地と呼ぶ)
10%(W/V)グルコース
0.25%(W/V)イーストエクストラクト(Yeast Extract)
0.1%(W/V)K2HPO4
0.05%(W/V)MgSO4・7H2O
pHを6.0に調整後、オートクレーブにより滅菌する。

0086

アスペルギルス・オリゼは、ゲノム情報が明らかとなっていること(Machidaら, 2005)、取り扱いが安全な菌であること、遺伝子操作が可能であること、高効率相同組換え実験系が利用可能であること、発明者らが過去にゲノムを解読し、関連する特許を出願(特開2005−176602号公報)しておりゲノム情報の研究目的の利用に制限が無いこと、などの理由から本発明の実験にとって良いモデル生物になると考えた。

0087

アスペルギルス・オリゼが上記の培養によりコウジ酸を産生することは、コウジ酸と塩化第二鉄とのキレート化合物の生成による赤色の発色により検出することが可能である。さらにコウジ酸量は培養の上清など適宜希釈した試料最終濃度として10mM程度になるように高濃度の塩化第二鉄溶液を添加した液の500nmの吸光度の測定によって定量も可能である。この500nmの吸光度は、0.1〜1.0程度の範囲でコウジ酸濃度に比例する。

0088

このような検出法によれば、接種後3または4日目には産生を検出することが可能であり、少なくとも7日目には十分な速度をもってコウジ酸の産生が行われている。

0089

また、このコウジ酸の産生は、上記の産生培地に0.1%(W/V)以上の硝酸ナトリウムを加えることで阻害される。この硝酸ナトリウムによる阻害は可逆的である。硝酸ナトリウムの添加によって阻害された菌糸を、培地成分を洗浄した後に、新たに用意した産生条件を満たす培地に移すことによって、菌はコウジ酸の産生を開始する。

0090

アスペルギルス・オリゼのコウジ酸の産生量が異なる下記のa〜cに記載の条件で、ゲノム中にコードされたほとんどの遺伝子の網羅的な発現の解析を、DNAマイクロアレイを用いた実験により比較した。それぞれの実験で、コウジ酸をより産生している条件で強く発現している遺伝子が、コウジ酸の生合成に最も関係する遺伝子であると考え、結果からコウジ酸の産生に必須な遺伝子の候補を得ることを目的とした。

0091

a)上記コウジ酸産生培地で生育させた菌体と、上記コウジ酸産生培地に0.3%(W/V)の硝酸ナトリウムを添加して、コウジ酸産生を阻害した菌体を比較した。どちらも4日間、30度、150回転の条件で生育させた。
b)上記コウジ酸産生培地で、2日間および4日間生育させた菌体の遺伝子の発現を比較した。
c)上記コウジ酸産生培地で、4日間および7日間生育させた菌体の遺伝子の発現を比較した。

0092

上記各条件下における菌体の遺伝子発現を、DNAマイクロアレイを用いて解析した結果、a)〜c)それぞれにおいて比較する2つの菌体での各遺伝子の発現の比、および発現強度に相当する値が得られた。各比較する条件間で、コウジ酸の産生がより顕著な条件で、発現がより顕著になっている遺伝子を抽出するために、以下の手続きにより、候補を抽出した。

0093

発現の比、および発現強度に相当する値は、それぞれで正規分布に近い分布をするが、値の絶対値は大きな違いがある。この両者を統合して候補を抽出するために、発現の比、発現強度は、それぞれで値の正規化を実施した後で、比較した。それぞれ規格化した発現の比、および発現強度に相当する値の積を作成した。その積が高いほど、コウジ酸の産生に関係する可能性が高いと考え、それぞれの実験で高い積の値をもつもの上位5つを下記表1に示す。

0094

0095

ここに示した遺伝子は、それぞれの比較した条件で、コウジ酸の産生条件でより顕著に発現が高くなっている遺伝子である。すなわちコウジ酸の産生に必須の遺伝子である可能性が高い。これらの遺伝子について、上位のものから遺伝子欠失破壊実験を行った。

0096

ここで比較した3つの条件ではいずれもコウジ酸の産生量が有意に異なる2つの条件を比較したものである。したがって理想的には、どの条件でもコウジ酸の産生に必須の遺伝子が上位に現れると予想した。しかし、現実的には、3つの条件の全てで上位にくる遺伝子はなかった。このため、どの条件でも上位に来るものは、コウジ酸の産生に必須である可能性と、各条件に特異的に誘導される遺伝子との両者を含む。これらの中からコウジ酸の産生に必須の遺伝子を選び出すために、それら候補遺伝子のいずれかを破壊して、変異体を作製し、当該変異体のコウジ酸産生能を解析した。

0097

遺伝子欠失破壊用DNA断片の作製
表1の遺伝子のうち、それぞれ上位3位に入っているものの欠失破壊用DNA断片を作製した。最初に欠失破壊を試みる遺伝子の開始コドンから5’側上流領域(5’-UTR)と終止コドンから3’側下流領域(3’-UTR)の各1kb程度のDNA領域をPCRで増幅した。また、欠失破壊株の選択用マーカーとしてUMPの合成に関連するpyrG栄養要求性マーカー遺伝子とその上流と下流の一部を含む断片もPCRで増幅した。ここではゲノム中のpyrGへの組換えを防ぐ目的で、Aspergillus nidulans由来のpyrG遺伝子を用いている。その後、5’-UTR, pyrG, 3’-UTRを混合してPCRを行い、5’-UTR, pyrG, 3’-UTRの順にDNA断片をつなぎ合わせた欠失破壊用DNA断片をFusion PCRにより作製することになるが、その模式図を図2に記す。

0098

FusionPCRに用いる5’-UTR, pyrG, 3’-UTRの各DNA断片の作製の際に、Fusion PCRで隣り合うDNA断片との連結部になる位置にアニールするプライマー(5RとpyrG-R、3FとpyrG-F)のテール部に、アダプター配列を導入した。(5RとpyrG-RにGCAGGGATGCGGCCGCTGAC(配列番号17)、3FとpyrG-FにCACGGCGCGCCTAGCAGCGG(配列番号18))これは、PCRによる増幅や遺伝子を欠失して破壊株を作成することには必須ではないが、プライマーの設計において効率化が可能になる。AO090113000138に関してはアダプター配列を用いず、遺伝子部分が重なるようにしてプライマーを作成した。LLとPUの一部が相補であり、RUとPLの一部が相補になるように設計されている(図3)。

0099

用いたプライマーの配列を以下の表2に示す。なお、表中のプライマーの名称は、図2および3に記載のプライマーに対応する。

0100

0101

・1stPCR
5’-UTR, pyrG, 3’-UTRの各DNA断片の作製は、KODPLUS, Version 1(東洋紡)で増幅した。テンプレートは全てアスペルギルス・オリゼ野生株RIB40の染色体DNAを用いた。

0102

上記の反応液50μlを0.2 ml反応チューブ中で混合してDNA Thermal Cyclerにセットし、以下のような温度設定によりPCRを行った。

0103

94℃、2分 1サイクル
94℃、15秒 63℃、30秒 68℃、2分30秒 35サイクル
68℃、7分 4℃、〜O/N 1サイクル

0104

PCR反応液50μlに6×Loading Bufferを10μl添加して混和後、ウェル幅が1 cm程度のコームで作製した0.7%アガロースゲルに30μlずつ2レーンサンプルを電気泳動した。目的のDNA断片のバンドを含むゲル切り出し、Wizard(登録商標SVGel andPCRClean-Up System (プロメガ)を用いて、Nuclease Free Waterを50μlカラムに通し、カラムからDNAを溶出させ、DNA断片を精製した。

0105

・FusionPCR
精製した5’-UTR, pyrG, 3’-UTRの各DNA断片を並べてアガロースゲルで泳動し、バンドの濃さを参考にDNA断片のモル比が5’-UTR断片:pyrG断片:3’-UTR断片=1:3:1となるようにして、かつこれらの3つのDNA断片の合計液量が12 μl以内として、DNA断片を混合し、以下の反応系でFusion PCRを行った。

0106

上記の反応液100μlを0.2 ml反応チューブ中で混合してDNA Thermal Cyclerにセットし、以下のような温度設定によりPCRを行った。

0107

94℃、2分 1サイクル
94℃、15秒 66℃、30秒 68℃、6分 35サイクル
68℃、7分 4℃、〜O/N 1サイクル

0108

FusionPCRで5.0〜6.0kbの遺伝子欠失破壊用DNA断片を増幅した。その後、必要により再PCRやNested PCRを行い、目的のDNA断片がメジャーバンドで最も多く増幅しており、非特異増幅したDNA断片がほとんど無い状態とした。また、上記のPCRを2チューブ上用いて行うことにより、遺伝子欠失破壊用DNA断片を20マイクログラム程度作製した。PCR反応液は、エタノール沈殿を行い、欠失破壊用DNA断片を精製した。当DNA断片は形質転換に使用するので、コンタミがおこらないよう、DNA溶解には滅菌水を用いた。

0109

形質転換
アスペルギルス・オリゼNS4 ΔligD::ptrA ΔpyrG株を宿主麹菌として利用した。これはNS4 ΔligD::ptrA(Mizutaniら、Fungal Genetics Biology 45 (2008) 878-889、東北大学五味勝也博士(東北大学大学院農学研究科農学部生物産業創成科学専攻)より譲渡)をさらに改変したものであり、sC遺伝子の変異の相補を利用して、pyrG遺伝子を破壊したものである。この株の分生子懸濁液を、ウリジンを20 mM添加したポリペプトンデキストリン液体培地(4 g デキストリン水和物(和光純薬), 2 g ポリペプトン(日本製薬), 0.2 gカザミノ酸ディフコ), 1 g KH2PO4, 0.2 g NaNO3, 0.1 g MgSO4・7H2O, pH 6.0)に植菌し、30℃、20時間振盪培養した。17G1滅菌済ガラスフィルターを用いて集菌後、菌体を滅菌水2回、滅菌0.8 M NaClで1回洗浄した。その後、菌体を30 mlのプロトプラスト化溶液(0.8 M NaCl, 10 mM NaH2PO4, 100 mg/30 ml Lysing enzyme (シグマ), 50 mg/30 ml Cellulase Onozuka R-10 (ヤクルト薬品), 100 mg/30 ml Yatalase (タカラバイオ))の入った50 ml容の滅菌済遠心チューブに移して懸濁し、30℃、50 rpm、2.5時間振盪しプロトプラスト化反応を行った。滅菌した17G3ガラスフィルターにて濾過し、濾液中のプロトプラストを3,000xg、4℃、5分間遠心分離して沈澱として得た。Solution B(1.2 M Sorbitol, 50 mM CaCl2, 10mM Tris-HCl、pH 7.5)にて3回プロトプラストを洗浄し、3,000xg、4℃、5分間遠心分離することで沈澱として得た。このプロトプラストをSolution B 1 mlで懸濁した。プロトプラスト懸濁液を200 μlずつ滅菌した1.5 mlエッペンドルフチューブに移し、それぞれにSolution C(50%(w/v) PEG♯3350, 50 mM CaCl2, 10 mM Tris-HCl、pH 7.5)25μlと前述の形質転換用DNA溶液各10 μl(DNA量として20μg)を加えよく混合し、中で30分間放置した。50 ml容の遠心チューブに2 mlのSolution Bと1 mlのSolution Cとを加え混合し、そこにプロトプラスト懸濁液を加えて懸濁した。そして、70℃に温めておいたソルビトールを1.2 Mの濃度で添加したCzapek−Dox(CD)軟寒天最少培地10〜25 mlをそこに加えて混合し、ソルビトールを1.2 Mの濃度で添加したCD寒天培地重層した。その後、30℃で分生子を形成するまで培養した。

0110

形質転換後に再生した菌体のうちシングルコロニーを形成した菌体の分性子を単離し、CD寒天培地に植え継いだ。その後、30℃で分生子を形成するまで培養した。

0111

単核分性子濃縮法による核の純化
アスペルギルス・オリゼの菌糸及び分生子は複数の核を有する多核の形態をとり、外から導入したDNAは一部の核の染色体だけに組み込まれる場合がある。従って、遺伝子欠失破壊株を作製する場合、当該遺伝子が欠失破壊された核だけが細胞に存在するホモカリオンとして純化することが必要である。その際に、形質転換候補株中に存在する単核の分生子を選抜継代すれば、目的の遺伝子が欠失破壊された核のみを持つ株を純化できる確率が高くなる。そこで、単核の分生子は多核のそれと比較して大きさが小さいという特性を生かして、メンブランフィルターを通すことで単核の分生子を濃縮し、それらからコロニーが形成されるよう継代培養を行った。

0112

方法は、Haraら(Biosci. Biotechnol. Biochem. 2002:66(3):693-696.(2002))の方法を参考にして、滅菌した0.01% Tween 20溶液に分生子を懸濁し、それをフィルターホルダーにセットした孔径5 μm、直径25 mmのISOPORETMMEMBRANE FILTERミリポア)にシリンジを用いて通した。この操作により、通過した分生子の約80%が単核の分生子からなる濃縮画分を調製した。これを適宜希釈して1つの分生子から1つのコロニーが形成されるようにCD寒天培地に撒いた。その後、30℃で分生子を形成するまで培養した。

0113

遺伝子欠失破壊株の確認
形質転換体からの遺伝子欠失破壊株の確認は、FusionPCRに用いたLUとRLのプライマー、あるいは5Fと3Rのプライマーを用いて形質転換体のゲノムDNAに対してPCRを行い、欠失破壊用DNA断片に相当する大きさのDNA断片の増幅のみが見られたものをホモ欠失破壊株、野生株の場合と同じ大きさのDNA断片の増幅のみが見られたものはpyrGが染色体にectopicに取り込まれた非欠失破壊株、これらの両方のDNA断片の増幅が見られたものはヘテロ欠失破壊株とした。

0114

ヘテロ欠失破壊株となったものは、可能な限り純化の作業を繰り返してホモ欠失破壊株となるようにした。しかし、生育に必須の遺伝子の破壊をしている場合には、原理的にホモ欠失破壊株が得られないこともある。したがって、ホモ欠失破壊株の純化は出来る限り行うこととし、次項に説明するコウジ酸の産生量に変化があるかどうかの実験を優先した。コウジ酸の産生量に明確な影響が見られ、かつホモ欠失破壊株として得られたものを、コウジ酸の産生に必須の遺伝子とした。

0115

遺伝子欠失破壊株におけるコウジ酸産生
コウジ酸産生への影響は、遺伝子欠失破壊株を、コウジ酸を産生する条件で生育させ、培地に分泌されたコウジ酸と、予め培地に混入させた塩化第二鉄とのキレートによる赤色の発色により判断した。このためには、プレート上で生育させ、プレートの培地の赤色を見ることが簡便である。上記コウジ酸産生培地に、1.5%になるように寒天を加えて固形培地を作成した。この際に、最終濃度が1 mMになるように塩化第二鉄を加えておいた。

0116

プレートの中央部に分生子を十マイクロリットル程度おいて生育させた。このとき、分生子の個数は105個程度であった。分生子を植える工程では、他のプレートで予め生育した菌糸の一部を移植することでも同様の結果を与える。プレートは30℃の恒温槽中に静置した。5日目くらいより培地に赤色の着色が認められ、通常では一週間程度で、明確な円盤状の赤色の着色が認められた(図4)。例えば野生株RIB40では、5日目よりの着色が認められ、この着色は一ヶ月以上放置しても、色が付いたままであった。この着色は、野生株やホスト株で見られるだけでなく、ほとんどの遺伝子欠失破壊株でも見られた。

0117

一方で、AO090113000136およびAO090113000138の各遺伝子欠失破壊変異株は、プレート上での生育に伴って、培地の赤色への着色が見られなかった(図4)。ただし、2つの株の表現型には多少の違いが見られた。AO090113000136の欠失破壊変異株は、全く色の変化が認められなかった。一方で、AO090113000138の欠失破壊変異株は、薄い赤色への変化が見られた。ただし、この色の変化は野性株の赤色の変化とは明確に区別されるものであった。

0118

赤色への変化が見られなかった上記2つの遺伝子は、その遺伝子の欠失に拠ってコウジ酸の産生が認められないことを意味する。すなわちコウジ酸の産生に必須な遺伝子と定義することが可能である。しかも、下記の理由により、コウジ酸の産生に関わっていることは、明らかである。

0119

上記2つの遺伝子は、他のゲノム中の機能が既知の遺伝子とのオーソロガスな関係を持たず、この点で、両遺伝子の機能は未知であった。ただし、該遺伝子のアミノ酸配列には散在する既知の配列のモチーフが存在し、機能の概略を予測することが可能であった。AO090113000136の遺伝子は、FAD依存性酸化還元酵素のモチーフを持っている。これはグルコースからのコウジ酸への変換を考えたとき、その変換の過程では複数の酸化還元反応が関係していると予想されていることから、この遺伝子がコウジ酸の生合成における酵素であることを強く示唆している。このことは、この遺伝子の欠失破壊変異が、培地の着色を全く呈しなかったことと整合性がある。

0120

一方で、AO090113000138は、膜輸送に関わる配列モチーフを持っており、Major facilitator superfamilyと分類される。コウジ酸の生合成に伴って、産生されたコウジ酸が培地中に分泌されることは明確であり、この遺伝子がコウジ酸の産生に必須であることを示唆している。実際に、この遺伝子の欠失変異株が、培地の薄い赤色を呈することは示唆的であり、コウジ酸への変換自体は正常に進行するものでありながら、培地中への分泌に機能欠損を持つことと整合性がある。

0121

また、この2つの遺伝子は、麹菌RIB40のゲノム配列上で、極近傍に位置している。この2つの遺伝子の間には、AO090113000137の遺伝子があるのみであり、周辺の遺伝子群クラスターを構成しているようにも見える。この中間に位置する遺伝子は転写因子のモチーフを持っており、酵素、転写因子、輸送体がクラスターを成すことは、麹菌など糸状菌二次代謝系の遺伝子群では頻繁に見られる事実であることを考慮すると、これらはコウジ酸という二次代謝物の産生に関わる遺伝子群のクラスターとして典型的な特徴をもっている。

0122

遺伝子の高発現による、コウジ酸の産生能の向上
遺伝子の高発現により、コウジ酸産生能が向上することを以下、AO090113000136およびAO090113000137を対象に示した。

0123

高発現用に導入するプラスミドは、以下のように構築した。pBlueascrit IISK(+) (Stratagene社)のKpn I-Xho IサイトにKpnI-AsiS I-Xho Iリンカーを挿入し、8塩基認識制限酵素AsiS Iの認識配列を1か所有するプラスミドベクターpBSIISK(+)AsiSIを作製した。KpnI-AsiS I-Xho Iリンカーは、2つの相補な合成オリゴヌクレオチド(GGGGTACCGCGATCGCCTCGAGCGG) (配列番号63)および (CCGCTCGAGGCGATCGCGGTACCCC) (配列番号64)を、5μMとなるように等量混合して二本鎖DNAを形成させ、制限酵素Kpn IおよびXho Iで消化後に、同じ制限酵素で消化したプラスミドベクターにライゲーション反応によって連結した。ライゲーション反応では、Ligation-Convenience Kit (ニッポンジーン)を使用した。

0124

上記pBSIISK(+)Asi SIのCla I-EcoR Iサイトに、PCRで増幅したAspergillus nidulans pryG遺伝子を含むDNA断片を挿入したプラスミドベクターpENPYRGを作成した。PCRはPrimeSTAR HS DNA Polymerase (Takara)を用いて実施した。プライマーはEn_pyrG_F (GGAATTCAGCCAGCTAGCTCAGTCTTACCC) (配列番号65)およびEn_pyrG_R (CCATCGATTCGTTCAGAGCTGGTCACAATAA)(配列番号66)を使用し、A. nidulans pryG 遺伝子を含むプラスミドを鋳型として使用した。WizardSVGel and PCR Clean-Up System (Promega) により精製したPCR産物をCla IおよびEcoR Iで消化し、Cla IおよびEcoR Iで同様に消化した pBSIISK(+)Asi SIとのライゲーション反応に使用した。

0125

上記pENPYRGのEcoR I-Pst Iサイトに、PCRで増幅した A. oryzae tef1遺伝子プロモーター領域を含むDNA断片を挿入し、プラスミドベクターpENPYRG-tefとした。プライマーはtef1p-F (GGAATTCTAGCGAGAGTAAAAAAAAAAAAAGATTTTCAC) (配列番号67)およびtef1p-R (CCAATGCATTTTGAAGGTGGTGCGAAC)(配列番号68)を使用し、A. oryzaeRIB40ゲノムDNAを鋳型として使用した。PCR産物はEcoR IおよびEcoT 22Iで消化し、EcoR IおよびPst I で消化したpENPYRGとのライゲーション反応に使用した。

0126

pENPYRG-tefをSma Iで消化し、Gateway Vector Conversion System Reading Frame Cassette A (RfA) (Invitrogen)とライゲーション反応により連結し、デスティネーションベクターpPGWTとした。

0127

AO090113000136、およびAO090113000137遺伝子を持つDNA断片は、アスペルギルス・オリゼRIB40ゲノムDNAを鋳型に、以下のプライマーを用いたPCRで増幅した。

0128

0136-F: CACCATGCGTGTCGCGACACAG (配列番号69)
0136-R: TAGCAAGCTCGGAAGCCAAT (配列番号70)
0137F: CACCATGTCGTTGAATACCGACGATTC(配列番号71)
0137R:TTTTAGTATTGACGCGCTCACAG (配列番号72)

0129

AO090113000136およびAO090113000137遺伝子を含むDNA断片をクローニングベクターpENTR/D-TOPO (Invitrogen) と混合し、pENTR Directional TOPO Cloning Kit (Invitrogen)の方法に従った反応により、エントリーベクターpENTR0136および pENTR0137を作製した。このエントリーベクターと、上記デスティネーションベクターpPGWTとを混合し、Gateway LR Clonase Enzyme Mix (Invitrogen) を用いた方法により、AO090113000136およびAO090113000137遺伝子高発現プラスミドを取得した。このプラスミドで A. oryzae ΔligD ΔpyrG 株を形質転換し、得られた形質転換体をAO090113000136およびAO090113000137遺伝子高発現株とした。

0130

また、AO090113000137に関しては、上記の高発現株と別に、遺伝子の欠失破壊株も作製している。破壊株の作製は、上記した方法と同じである。これら高発現株は、プレートによるアッセイを用いてコウジ酸の産生を確認している。1 mM または10 mMを含んだコウジ酸産生培地を寒天により固化した培地上で生育させ、培地中に分泌されたコウジ酸による鉄とのキレートでの赤色の発色で見ることが出来た。同時にコウジ酸を産生する野生株またはコントロールとして宿主麹菌(A. oryzae ΔligD ΔpyrG 株)のpyrG変異のみを相補した株でも産生を見ている。さらに遺伝子の破壊株の産生を同時に実験した結果と並べて比較した。図5にAO090113000136の結果を、図6にAO090113000137の結果を示した。

0131

リアルタイムPCR解析によるコウジ酸の産生に必須の遺伝子の発現量の定量
AO090113000136およびAO090113000138とコウジ酸の産生能との相関関係をリアルタイムPCR法によって解析した。

0132

アスペルギルス・オリゼを上記コウジ酸産生培地または上記コウジ酸産生培地に硝酸ナトリウムを添加したコウジ酸産生を阻害する培地で、30℃にて4日間培養した。その後、各培地の菌体よりISOGEN(日本ジーン)を用いてtotalRNAを抽出し、次にOligotexTM-dT30mRNAPurification Kit(TAKARA)を使用してmRNAを精製した。

0133

リアルタイムPCRは、メーカー推奨する方法に従ってSuperScriptIII Two-Step qR-PCR with SYBR(登録商標)Greenキット(Invitrogen)を使用し、解析にはABIPRISM(登録商標) 7500を用いて行った。反応条件としては逆転写反応及びリアルタイムPCR反応ともにメーカーの推奨条件に従った。プライマーはそれぞれ、AO090113000136プライマー[F:ACACAAACGAGCCCCTTCAG(配列番号73);R:CCTCGTGACGGTCGAATGA(配列番号74)]およびAO090113000138プライマー[F:TTTGGAGGATGCCGACGAT(配列番号75)およびR:TTCCTGGCGTGGAGTATGG(配列番号76)]を用いた。内在性コントロールにはヒストンH1を使用し、解析は3連で実施した。

0134

リアルタイムPCR解析の結果を図7に示す。内在性コントロールにヒストンH1の発現量を使用して、硝酸ナトリウムを加えてコウジ酸産生を阻害した際の各遺伝子の発現量を1として示す。この結果、コウジ酸の産生とAO090113000136およびAO090113000138の発現量とは正に相関することが判明した。

0135

この結果は、コウジ酸の産生に必須の遺伝子の発現量を調べることにより、コウジ酸の産生を予測できることを示している。

0136

遺伝子のコピー数増大による、コウジ酸の産生能の向上
転写因子AO090113000137 の遺伝子およびそのプロモーターをアスペルギルス・オリゼのゲノム中に導入し、当該遺伝子のコピー数を増加させた。

0137

AO090113000137 の遺伝子およびそのプロモーターは、アスペルギルス・オリゼのゲノムDNAをテンプレートとして用い、以下の2本のプライマーを用いてPCRにより増幅して調製した。プロモーター配列は、AO090113000137の遺伝子の5'末端より1115塩基からなる配列および当該遺伝子の3'末端より669塩基からなる配列を有する。PCR反応は実施例5と同様に行っている。

0138

0137-F2(GGGGTACCAACCGCAGTACACTCAGGAGATT)(配列番号77)
0137-R2(GGGGTACCTTTTAGTATTGACGCGCTCACAG)(配列番号78)(プライマーはそれぞれ5'末端にKpnI認識配列を含む)。

0139

増幅後のPCR産物はKpnIで消化後、同様に消化したプラスミドpPTR I(Takara)とライゲーション反応により連結した。このプラスミドで、ピリチアミン感受性のアスペルギルス・オリゼを形質転換し、得られた形質転換体を、AO090113000137のコピー数の増加した株とした。コントロールには、遺伝子およびプロモーターを入れていないプラスミドpPTR Iでピリチアミン感受性のアスペルギルス・オリゼを形質転換して得られたものを用いた。

0140

形質転換によりコピー数の増加した変異株4株を上記コウジ酸産生培地に、1.5%になるように寒天を加えて固形培地上で生育させた。コウジ酸の産生は塩化第二鉄とのキレートによる発色を利用したが、この際、コウジ酸の産生の増加分を明確に見るため、生育させた固形培地中に塩化第二鉄を入れるのではなく、生育させた固形培地を円柱型にくり抜き、10 mMで塩化第二鉄を含んだ寒天上に乗せて、浸み出したコウジ酸による周りの発色で観察した。生育させる固形培地に塩化第二鉄を入れた場合には、コントロール株も強く発色してしまい、コウジ酸の産生の増加による変化が分かり難い。

0141

変異株4株を比較した結果、少なくとも3株においてコウジ酸の産生を示す赤の発色がコントロール株よりも上昇することが判明した(図8)。

0142

導入したAO090113000137の遺伝子およびそのプロモーターの、ゲノム中への挿入位置によりコウジ酸の産生量に差が生じると考えられるが、AO090113000137 の遺伝子およびそのプロモーターのコピー数を増加させることによって、コウジ酸の産生が増加することを確認した。

0143

コウジ酸添加による生産開始までの時期の短縮
300 mLのフラスコ内に、50 mLの上記コウジ酸産生培地を入れ、アスペルギルス・オリゼの胞子を接種して培養した。培養条件は、30℃、180回転/毎分であった。

0144

培養開始後、24時間経ったところに0.5mMになるようにコウジ酸を添加し、なにも添加しなかった培養物(コントロール)とのコウジ酸の産生量を比較した。培養開始後24時間(コウジ酸添加後0時間)、48時間(コウジ酸添加後24時間)、81時間(コウジ酸添加後57時間)経ったところでの培養液中の上清を採取し、含まれるコウジ酸の量を塩化第二鉄とのキレートによる発色を用いて495nmでの吸収により測定した。

0145

結果を図9に示す。コウジ酸を添加しなかったコントロールと比較して、コウジ酸を添加した培養条件下では有意にコウジ酸の産生開始時期が早まることを確認した。なお、図9において、培地中に添加した0.5 mMのコウジ酸による吸収は無視できるくらいに小さい。

0146

コウジ酸添加によるコウジ酸の産生に必須の遺伝子の発現量の増大
コウジ酸の添加による、コウジ酸の産生に必須の遺伝子AO090113000136遺伝子およびAO090113000138遺伝子の転写への影響を調べた。

0147

アスペルギラス・オリゼ−NS4DLP株 (niaD ̄, sC ̄, ΔpyrG, ΔligD::ptrA)を基にして作成したAO090113000137遺伝子の欠失株、およびA. nidulans由来のpyrG遺伝子を導入し、ΔpyrGの表現型を機能的に相補した株の2つの株で、コウジ酸の存在下および非存在下におけるAO090113000136およびAO090113000138の転写量を定量RT-PCRにより解析した。

0148

RNAはWizard Genomic DNA Purification Kit (Promega)と RNAiso (Takara)を用いて細胞中より抽出した。次にRNeasy Plant Mini Kit withRNase-free DNase (Qiagen)を用いて残存のDNAを切断した。これにより得たRNA(200 ng)をHigh capacitycDNAreverse transcription kit (Applied biosynthesis)を用いてcDNA化した。

0149

10倍に希釈した溶液を、Lightcycler ST300 (Roche) により、 LightCycler FastStart DNA MasterPlusSYBR Green I (Roche)を用いて、RNAの定量に使用した。

0150

プライマーqrt0136-F / qrt0136-RをAO090113000136の増幅に用い、qrt0138-F / qrt0138-R をAO090113000138の増幅に用いた。
コントロールとして、プライマーqrt1324-F and qrt1324-R を使用してヒストン2A 遺伝子を定量した。

0151

各プライマーの配列を以下に示す。
qrt0136-F CCGAACTAGTCGTCCACCAT(配列番号79)
qrt0136-RACATCCCTGAATGCCTCATC(配列番号80)
qrt0138-F ATGAGCTCTTCGCAGCAAGT(配列番号81)
qrt0138-R ATTTCCGTACATCGGGATTG(配列番号82)
qrt1324-F GCCTGGTGGAAAGGGAAAG(配列番号83)
qrt1324-R CTTTGCGCTGTGGGACTT(配列番号84)

0152

RT-PCRの結果を図10に示す。図10中、AO090113000137遺伝子の欠失株の結果をΔと表示し、ΔpyrGの表現型を機能的に相補した株の結果をcontと表示する。各発現量の値はヒストン2A遺伝子の量と比べた値を、グラフとして図示して解析した。

0153

24時間培養時に、0.5 mMになるようにコウジ酸を加えた結果、加えないものではmRNAの量は、どちらの遺伝子でも増えていないが、コウジ酸を加えた場合は、添加後1時間後から、顕著にmRNAの量が増加していた。このコウジ酸添加の影響は、AO090113000137の欠失株(図中のΔ)では見られない。上記のとおり、AO090113000137の遺伝子は転写因子のモチーフを有していることから当該遺伝子は転写因子をコードする遺伝子であると考えられる。したがって、コウジ酸の添加は、転写因子による転写の活性化の過程に影響していることが示唆された。

実施例

0154

なお、本発明に関する研究の一部は、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構平成19年度産業技術研究助成事業助成金を受けなされたものである。

0155

本発明のコウジ酸の産生能を向上した微生物、およびその製造方法を利用したコウジ酸の産生方法は、コウジ酸の産生を確実にかつ効率的に上昇させることにつながる。試行錯誤に頼ることなく、確実かつ効率的に上昇させることは、再現性よく、高産生性を維持することにつながり、コウジ酸を利用する産業にとって望ましい方法である。コウジ酸の利用は、美白効果として化粧品医薬品、酸化による食品の褐変を抑制する効果として食品に利用されるなど幅広い。本発明は、これらの幅広い産業に、原材料の安定的な供給をもたらすものである。

0156

また、本発明は遺伝子というコウジ酸産生の実体を利用して産生能を上げるものであり、産生量の上昇だけでなく、産生の改良にもつながる方法である。生合成に必須の遺伝子群の活性の改変、および他の遺伝子との組合せによって、産生するコウジ酸の修飾体を作成することも原理的に可能となる。これは従来のコウジ酸の使用の範囲を広げることにつながり、現状よりもさらに広い範囲の産業に好ましい影響を与えることが可能である。

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