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課題
解決手段
概要
背景
鉄鉱石や酸化鉄等の酸化鉄含有物質から鉄を生産する方法としては、高炉法が主流である。その一方で、比較的小規模で、多品種・少量生産向きの製鉄法として、酸化鉄含有物質と、石炭やコークス等の炭素質還元剤(以下、炭材ということがある)とを含む原料混合物(あるいは該混合物を押し固めた簡易成形体、更にはペレットやブリケットなどに成形した炭材内装成形体)を移動炉床式の加熱還元炉(例えば、回転炉床炉など)の炉床上に装入し、原料混合物が該炉内を移動する間に、加熱バーナーによる熱や輻射熱で加熱することによって原料混合物中の酸化鉄を炭素質還元剤で直接還元し、得られた金属鉄(還元鉄)を続いて浸炭・溶融させ、次いで副生するスラグと分離しつつ粒状に凝集させた後、冷却凝固させて粒状の金属鉄(還元鉄)を製造する方法が開発され、注目を集めている(特許文献1〜3など)。
こうした直接還元製鉄法は、高炉等の大規模な設備が不要になるため、最近実用化研究が盛んに行われている。しかし工業的規模で実施するには、操業安定性や安全性、経済性、粒状金属鉄(製品)の品質などを含めて更に改善しなければならない課題も多い。
当該課題の1つは、炭素質還元剤として最も汎用性の高い石炭を使用した場合に、石炭中に多く含まれる硫黄分が粒状金属鉄に不可避的に混入するのを防止することが挙げられる。本発明者らが確認したところによると、炭素質還元剤として石炭を配合した原料混合物を加熱還元した場合、石炭に含まれる硫黄分のうち70%程度以上は、加熱還元によって生成する粒状金属鉄内に取り込まれ、該粒状金属鉄中の硫黄含有量(以下、粒状金属鉄中の硫黄含有量を[S]、スラグ中の硫黄含有量を(S)と表わすことがある)は0.1%以上、用いる石炭の銘柄によっては0.2%以上にも達することがある。従ってこの様に高い硫黄含有量では製品価値が著しく損なわれ、用途も著しく制限されることになる。特に直接還元製鉄法によって得られた粒状金属鉄は、電気炉や転炉のような既存の製鋼設備へ送られ、鉄源としても使用されるため、粒状金属鉄中の硫黄含有量をできるだけ低減することが望まれる。
そこで本発明者らは、上記方法によって得られる粒状金属鉄の硫黄含有量を可及的に低減するために改良研究を進めた。その結果、本発明者らは、粒状金属鉄の品質向上を期して、粒状金属鉄の純度を高める技術を特許文献4に提案している。この特許文献4には、浸炭・溶融時における成形体近傍の雰囲気ガスの還元度を適切に制御することによって、還元末期から浸炭・溶融が完了するまでに粒状金属鉄の再酸化を防止すれば、粒状金属鉄の純度を向上できることが開示されている。この特許文献4には、粒状金属鉄の硫黄含有量低減技術についても記載されており、金属鉄を溶融させたときに副生するスラグに含まれるCaO量とSiO2量から求められる塩基度(CaO/SiO2)を適切に制御すれば、硫黄含有量を低減できることが開示されている。
粒状金属鉄の硫黄含有量低減技術としては、上記特許文献4の他に、特許文献5の技術も本発明者らは先に提案した。特許文献5では、原料混合物中に含まれるCaO、MgOおよびSiO2の含有量から求められるスラグ形成成分の塩基度[(CaO+MgO)/SiO2]を1.3〜2.3の範囲とすると共に、スラグ形成成分中に占めるMgO量を適切に制御することによって、粒状金属鉄に含まれる硫黄量を低減している。
特開平2−228411号公報
特開2001−279313号公報
特開2001−247920号公報
特開2001−279315号公報
特開2004−285399号公報
概要
石炭やコークスのように硫黄を多く含む炭素質還元剤を使用したときであっても、粒状金属鉄に混入する硫黄量を可及的に抑えることができ、硫黄含有量が低減された高品質の粒状金属鉄を生産性よく製造できる方法を提供する。原料混合物1に、スラグの塩基度[(CaO+MgO)/SiO2]を1.4〜2.3の範囲とし、前記原料混合物に、Na2O供給物質を配合するときは、該スラグ中のNa2O含有量を0.10%以上、K2O供給物質を配合するときは、該スラグ中のK2O含有量を0.10%以上、Li2O供給物質を配合するときは、該スラグ中のLi2O含有量を0.05%以上とする。
目的
本発明は、この様な状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、回転炉床式などの移動炉床式加熱還元炉を使用し、酸化鉄含有物質と炭素質還元剤を含む原料混合物を加熱し、該原料混合物中の酸化鉄含有物質を炭素質還元剤により直接還元して粒状金属鉄を製造する際に、石炭やコークスのように硫黄を多く含む炭素質還元剤を使用したときであっても、粒状金属鉄に混入する硫黄量を可及的に抑えることができ、硫黄含有量が低減された高品質の粒状金属鉄を生産性よく製造できる方法を提供することにある。
効果
実績
- 技術文献被引用数
- 0件
- 牽制数
- 0件
この技術が所属する分野
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請求項1
酸化鉄含有物質と炭素質還元剤を含む原料混合物を、移動炉床式加熱還元炉の炉床上に装入して加熱し、該原料混合物中の酸化鉄を炭素質還元剤により還元し、生成する金属鉄を副生するスラグと分離しつつ粒状に凝集させた後、冷却凝固させて粒状金属鉄を製造する方法において、前記原料混合物に、Na2O供給物質、K2O供給物質およびLi2O供給物質よりなる群から選ばれる少なくとも1種を配合し、前記原料混合物に含まれるCaO供給物質、MgO供給物質およびSiO2供給物質の量と、配合する前記Na2O供給物質、前記K2O供給物質、前記Li2O供給物質の量とを調整することによって、(1)スラグ中のCaO、MgOおよびSiO2の含有量から求められる該スラグの塩基度[(CaO+MgO)/SiO2]を1.4〜2.3の範囲とし、(2)前記原料混合物に、前記Na2O供給物質を配合するときは、該スラグ中のNa2O含有量を0.10%以上とし、前記K2O供給物質を配合するときは、該スラグ中のK2O含有量を0.10%以上とし、前記Li2O供給物質を配合するときは、該スラグ中のLi2O含有量を0.05%以上とすること特徴とする低硫黄含有量の粒状金属鉄の製造方法。
請求項2
前記スラグ中のMgO含有量を5〜22%(質量%の意味。以下同じ)とする請求項1に記載の製造方法。
請求項3
前記Na2O供給物質として、Na2Oおよび/または炭酸ナトリウムを配合する請求項1または2に記載の製造方法。
請求項4
前記K2O供給物質として、K2Oおよび/または炭酸カリウムを配合する請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
請求項5
前記Li2O供給物質として、Li2Oおよび/または炭酸リチウムを配合する請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
請求項6
Na2OとK2Oの供給物質として、ネフェリンを配合する請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
請求項7
前記原料混合物に含まれる前記MgO供給物質以外のMgO供給物質、および/または前記原料混合物に含まれる前記CaO供給物質以外のCaO供給物質を更に配合する請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
請求項8
MgOとCaOの供給物質として、ドロマイト鉱石を配合する請求項7に記載の製造方法。
請求項9
前記原料混合物に含まれる前記MgO供給物質以外のMgO供給物質として、MgOおよび/または炭酸マグネシウムを配合する請求項7または8に記載の製造方法。
請求項10
前記原料混合物に含まれる前記CaO供給物質以外のCaO供給物質として、CaOおよび/または炭酸カルシウムを配合する請求項7または8に記載の製造方法。
請求項11
請求項1〜10のいずれかに記載の製造方法で副生するスラグ。
請求項12
(1)スラグ中のCaO、MgOおよびSiO2の含有量から求められる該スラグの塩基度[(CaO+MgO)/SiO2]が1.4〜2.3で、(2)該スラグ中のMgO含有量が5〜22%で、且つ(3)該スラグ中のNa2O含有量が0.10%以上、K2O含有量が0.10%以上、或いはLi2O含有量が0.05%以上の少なくとも一つを満足する請求項11に記載のスラグ。
技術分野
0001
本発明は、粒状金属鉄の製造方法に関するものであり、より詳細には、酸化鉄含有物質と炭素質還元剤を含む原料混合物を移動炉床式加熱還元炉で加熱して直接還元し、粒状金属鉄を製造する方法に関するものである。
背景技術
0002
鉄鉱石や酸化鉄等の酸化鉄含有物質から鉄を生産する方法としては、高炉法が主流である。その一方で、比較的小規模で、多品種・少量生産向きの製鉄法として、酸化鉄含有物質と、石炭やコークス等の炭素質還元剤(以下、炭材ということがある)とを含む原料混合物(あるいは該混合物を押し固めた簡易成形体、更にはペレットやブリケットなどに成形した炭材内装成形体)を移動炉床式の加熱還元炉(例えば、回転炉床炉など)の炉床上に装入し、原料混合物が該炉内を移動する間に、加熱バーナーによる熱や輻射熱で加熱することによって原料混合物中の酸化鉄を炭素質還元剤で直接還元し、得られた金属鉄(還元鉄)を続いて浸炭・溶融させ、次いで副生するスラグと分離しつつ粒状に凝集させた後、冷却凝固させて粒状の金属鉄(還元鉄)を製造する方法が開発され、注目を集めている(特許文献1〜3など)。
0003
こうした直接還元製鉄法は、高炉等の大規模な設備が不要になるため、最近実用化研究が盛んに行われている。しかし工業的規模で実施するには、操業安定性や安全性、経済性、粒状金属鉄(製品)の品質などを含めて更に改善しなければならない課題も多い。
0004
当該課題の1つは、炭素質還元剤として最も汎用性の高い石炭を使用した場合に、石炭中に多く含まれる硫黄分が粒状金属鉄に不可避的に混入するのを防止することが挙げられる。本発明者らが確認したところによると、炭素質還元剤として石炭を配合した原料混合物を加熱還元した場合、石炭に含まれる硫黄分のうち70%程度以上は、加熱還元によって生成する粒状金属鉄内に取り込まれ、該粒状金属鉄中の硫黄含有量(以下、粒状金属鉄中の硫黄含有量を[S]、スラグ中の硫黄含有量を(S)と表わすことがある)は0.1%以上、用いる石炭の銘柄によっては0.2%以上にも達することがある。従ってこの様に高い硫黄含有量では製品価値が著しく損なわれ、用途も著しく制限されることになる。特に直接還元製鉄法によって得られた粒状金属鉄は、電気炉や転炉のような既存の製鋼設備へ送られ、鉄源としても使用されるため、粒状金属鉄中の硫黄含有量をできるだけ低減することが望まれる。
0005
そこで本発明者らは、上記方法によって得られる粒状金属鉄の硫黄含有量を可及的に低減するために改良研究を進めた。その結果、本発明者らは、粒状金属鉄の品質向上を期して、粒状金属鉄の純度を高める技術を特許文献4に提案している。この特許文献4には、浸炭・溶融時における成形体近傍の雰囲気ガスの還元度を適切に制御することによって、還元末期から浸炭・溶融が完了するまでに粒状金属鉄の再酸化を防止すれば、粒状金属鉄の純度を向上できることが開示されている。この特許文献4には、粒状金属鉄の硫黄含有量低減技術についても記載されており、金属鉄を溶融させたときに副生するスラグに含まれるCaO量とSiO2量から求められる塩基度(CaO/SiO2)を適切に制御すれば、硫黄含有量を低減できることが開示されている。
0006
粒状金属鉄の硫黄含有量低減技術としては、上記特許文献4の他に、特許文献5の技術も本発明者らは先に提案した。特許文献5では、原料混合物中に含まれるCaO、MgOおよびSiO2の含有量から求められるスラグ形成成分の塩基度[(CaO+MgO)/SiO2]を1.3〜2.3の範囲とすると共に、スラグ形成成分中に占めるMgO量を適切に制御することによって、粒状金属鉄に含まれる硫黄量を低減している。
特開平2−228411号公報
特開2001−279313号公報
特開2001−247920号公報
特開2001−279315号公報
特開2004−285399号公報
発明が解決しようとする課題
0007
本発明は、この様な状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、回転炉床式などの移動炉床式加熱還元炉を使用し、酸化鉄含有物質と炭素質還元剤を含む原料混合物を加熱し、該原料混合物中の酸化鉄含有物質を炭素質還元剤により直接還元して粒状金属鉄を製造する際に、石炭やコークスのように硫黄を多く含む炭素質還元剤を使用したときであっても、粒状金属鉄に混入する硫黄量を可及的に抑えることができ、硫黄含有量が低減された高品質の粒状金属鉄を生産性よく製造できる方法を提供することにある。
課題を解決するための手段
0008
上記課題を解決することのできた本発明に係る低硫黄含有量の粒状金属鉄の製造方法とは、酸化鉄含有物質と炭素質還元剤を含む原料混合物を、移動炉床式加熱還元炉の炉床上に装入して加熱し、該原料混合物中の酸化鉄を炭素質還元剤により還元し、生成する金属鉄を副生するスラグと分離しつつ粒状に凝集させた後、冷却凝固させて粒状金属鉄を製造する方法において、前記原料混合物に、Na2O供給物質、K2O供給物質およびLi2O供給物質よりなる群から選ばれる少なくとも1種を配合すると共に、前記原料混合物に含まれるCaO供給物質、MgO供給物質およびSiO2供給物質の量と、配合する前記Na2O供給物質、前記K2O供給物質、前記Li2O供給物質の量とを調整することによって、(1)スラグ中のCaO、MgOおよびSiO2の含有量から求められる該スラグの塩基度[(CaO+MgO)/SiO2]を1.4〜2.3の範囲とし、(2)前記原料混合物に、前記Na2O供給物質を配合するときは、該スラグ中のNa2O含有量を0.10%以上とし、前記K2O供給物質を配合するときは、該スラグ中のK2O含有量を0.10%以上とし、前記Li2O供給物質を配合するときは、該スラグ中のLi2O含有量を0.05%以上とする点に要旨を有する。
0009
前記スラグ中のMgO含有量は、5〜22%(質量%の意味。以下同じ)とすることが好ましい。
0010
前記Na2O供給物質としては、例えば、Na2Oおよび/または炭酸ナトリウム(Na2CO3)を配合すればよい。前記K2O供給物質としては、例えば、K2Oおよび/または炭酸カリウム(K2CO3)を配合すればよい。前記Li2O供給物質としては、例えば、Li2Oおよび/または炭酸リチウム(Li2CO3)を配合すればよい。Na2OとK2Oの供給物質としては、例えば、ネフェリンを配合すればよい。
0011
前記原料混合物に含まれる前記MgO供給物質以外のMgO供給物質、および/または前記原料混合物に含まれる前記CaO供給物質以外のCaO供給物質を更に配合してもよい。MgOとCaOの供給物質としては、例えば、ドロマイト鉱石を配合すればよい。前記原料混合物に含まれる前記MgO供給物質以外のMgO供給物質としては、例えば、MgOおよび/または炭酸マグネシウムを配合すればよい。前記原料混合物に含まれる前記CaO供給物質以外のCaO供給物質としては、例えば、CaOおよび/または炭酸カルシウムを配合すればよい。
0012
本発明には、上記製造方法で副生するスラグも包含される。当該スラグは、(1)スラグ中のCaO、MgOおよびSiO2の含有量から求められる該スラグの塩基度[(CaO+MgO)/SiO2]が1.4〜2.3で、(2)該スラグ中のMgO含有量が5〜22%で、且つ(3)該スラグ中のNa2O含有量が0.10%以上、K2O含有量が0.10%以上、或いはLi2O含有量が0.05%以上の少なくとも一つを満足していればよい。
発明の効果
0013
本発明によれば、原料混合物に含まれるCaO供給物質、MgO供給物質およびSiO2供給物質の量と、該原料混合物に配合するNa2O供給物質、K2O供給物質、或いはLi2O供給物質の量を調整することによって、粒状金属鉄を製造する際に副生するスラグの塩基度[(CaO+MgO)/SiO2]を適正範囲に調整すると共に、該スラグ中に占めるNa2O量、K2O量、或いはLi2O量を適正な範囲に制御している。その結果、石炭やコークスのように硫黄を多く含む炭素質還元剤を使用したときであっても、粒状金属鉄に不可避的に混入する硫黄量の増大を可及的に抑えることができ、硫黄含有量の少ない高品質の粒状金属鉄を生産性よく製造できることになった。
発明を実施するための最良の形態
0015
実用炉として一般的に使用される大型の回転炉床式加熱還元炉では、回転炉床の上部に設けた複数個のバーナーで天然ガスなどの燃料ガスを燃焼させ、その燃焼熱を、炉床上の原料混合物の還元溶融に必要な熱として供給されるが、該燃焼によって発生する排ガス中に含まれるCO2やH2O等の酸化性ガスは、原料混合物周辺の雰囲気ガス組成に影響を及ぼすため、雰囲気ガスの還元ポテンシャルを高く維持することはかなり難しい。その一方で、原料混合物内またはその周辺ガスの還元ポテンシャルが十分に高ければ、原料混合物内に配合されている石炭やコークスなどの炭素質還元剤に含まれている硫黄分は、スラグに含まれるCaO分によりCaSとして固定され、スラグと共に分離される。特に原料混合物内に蛍石(CaF2)等のフッ素含有物質を配合すると、上記硫黄分を更に固定できることが知られている。
0016
そのため図1に示した加熱還元炉Aの炉床上に、図には示していない炭素質粉末の層(以下、床敷き層という)を予め形成しておき、該床敷き層上に原料混合物を装入して加熱還元を行えば、回転炉床式加熱還元炉の炉床が一巡する8分から16分程度の短時間の間に、目標とする還元溶融反応が効率よく進行すると共に、原料混合物近傍における雰囲気ガスの還元ポテンシャルを高レベルに維持することができ、併せて脱硫能も相対的に高められる。
0017
しかし実用規模の回転炉床式加熱還元炉で、低硫黄含有量の粒状金属鉄を確実に得るには、床敷き層を形成する上記操作のみでは依然として不十分であるという観点に基づいて研究を進めた結果、前述した特許文献4および特許文献5では、粒状金属鉄の低硫化をより確実に進めることのできる技術を確立した。これらの特許文献では、いずれも、スラグの塩基度に着目したが、その理由を要約すると以下の通りである。
0018
粒状金属鉄中の硫黄分[S]を低減するには(即ち、見掛け上の脱硫率を高めるには)、CaSとしてスラグ中に固定されている硫黄分(S)をスラグ中に固定したままの状態で如何に安定に保ち、還元鉄方向への移行を阻止するかが極めて重要である。そのためには、雰囲気ガスの還元度を高く維持すると共に、最終スラグの塩基度を可能な限り高くすることが重要となる。しかし本発明の対象となる還元溶融プロセスでは、溶鉄を扱う従来の製銑・製鋼炉とは異なり、移動炉床式加熱還元炉の設備面および操業面から、雰囲気温度を1550℃を超えて高めることは好ましいことではなく、雰囲気温度は1550℃程度以下、好ましくは1500℃以下に維持しながら操業することが望まれる。ところがこの様な温度条件下では、前記還元溶融工程で副生するスラグの塩基度が1.7を超えるように高めると、スラグの融点が上昇して相互の凝集が阻害されるばかりでなく、還元鉄の凝集をも阻害するため、大粒の粒状金属鉄を高歩留まりで製造することが困難になる。
0019
そこで本発明法では、原料混合物に含まれるCaO供給物質、MgO供給物質およびSiO2供給物質の量と、前記Na2O供給物質、前記K2O供給物質、或いは前記Li2O供給物質の量を調整することによって、(1)スラグの塩基度を1.4〜2.3の範囲内に制御すると共に、(2)該スラグに占めるNa2O量が0.10%以上、K2O量が0.10%以上、或いはLi2O量が0.05%以上となるように原料の成分調整を行えば、最終的に生成するスラグ−粒状金属鉄間の硫黄分配比(S)/[S]が著しく向上し、粒状金属鉄中に歩留る硫黄含有量[S]を大幅に低減できる。また、本発明では、スラグに占めるMgO量が5〜22%の範囲となるように原料の成分調整を行うことが好ましい。以下、本発明について詳しく説明する。
0020
[(2)スラグ中のNa2O量、K2O量、Li2O量]
通常の製銑・製鋼時におけるスラグ−メタル間反応において、硫黄分配比(S)/[S]がスラグの塩基度と密接な関係を有していることは知られている。
0021
ところが本発明では、スラグ中にNa2O、K2O、およびLi2Oよりなる群から選ばれる少なくとも1種を含有させることによって、従来のように、スラグ中にCaOとMgOを含有させた場合よりも脱硫効果を発揮させる点で特異性を有している。
0022
Na2O、K2O、およびLi2Oよりなる群から選ばれる少なくとも1種を併用することで卓越した脱硫効果が得られる原因については、現在のところ理論的に解明されていないが、後述する実験結果も踏まえて考えると、次の様に推定される。即ち、粒状金属鉄を製造する際に副生するスラグの塩基度に加えてスラグ中のNa2O量、K2O量、或いはLi2O量を適切に制御することによって、副生スラグの融点が低下し、またスラグの流動性などの物性が最適化され、副生スラグに対する硫黄分配比(S)/[S]が最大限に高められたと考えられる。特にNa2O、K2OおよびLi2Oは、スラグの融点降下に大きく影響を及ぼし、スラグ中にNa2Oを0.10%程度、またはK2Oを0.10%程度、またはLi2Oを0.05%程度含有させるだけで、その効果を発揮させる。生成スラグに含まれるLi2O量は、0.1%以上であることが好ましく、より好ましくは0.3%以上である。
0023
生成スラグに含まれるNa2O量の上限は5%、K2O量の上限は5%、Li2O量の上限は12%とするのがよい。生成スラグに、Na2OやK2O、Li2Oを積極的に含有させることで、副生するスラグの融点は低下し、スラグへの硫黄分配は向上する。しかしスラグ中のNa2OやK2O、Li2Oの含有量を多くするとNa2O成分やK2O成分、Li2O成分の蒸発が激しくなり、蒸発したNa2OやK2O、Li2Oが炉内の耐火物と反応して損傷を早める。Na2O含有量は、好ましくは4.5%以下、より好ましくは4%以下とする。K2O含有量は、好ましくは3%以下、より好ましくは2%以下とする。Li2O含有量は、好ましくは11%以下、より好ましくは10%以下とする。Na2OとK2OとLi2Oは、夫々単独で使用してもよいし、2種以上を用いてもよい。
0024
なお、上記スラグに、Na,KまたはLi以外のアルカリ金属の酸化物を含有するように原料混合物にアルカリ酸化物供給物質を配合してもよい。即ち、前記原料混合物に、Na2O供給物質、K2O供給物質およびLi2O供給物質よりなる群から選ばれる少なくとも1種を配合すればよい。
0025
[(1)スラグの塩基度[(CaO+MgO)/SiO2]:1.4〜2.3]
スラグの塩基度[(CaO+MgO)/SiO2]は、1.4〜2.3の範囲とする。塩基度調整材として配合する石灰石やドロマイト鉱石などのCaO/MgO供給物質の配合比率を更に高め、最終スラグに含まれるMgO量を更に高めてやれば、スラグの塩基度を2.3超に高めることができ、最終スラグの融点を更に低下させることができる。しかしスラグの塩基度を高くし過ぎると、スラグの粘性(流動性)が増大して還元鉄の凝集が阻害され、球形に近い好適形状の粒状金属鉄が得られ難くなるばかりでなく、粒状金属鉄としての歩留りも低下する傾向が見られるので、スラグの塩基度の上限は2.3と定めた。スラグの塩基度は、好ましくは2.2以下、より好ましくは2.0以下に調整するのがよい。
0026
スラグの塩基度の下限を1.4と定めたのは、塩基度がこれを下回ると、スラグそのものによる脱硫能が低下し、たとえ雰囲気の還元ポテンシャルが充分に高く維持できたとしても本来の目的が達成できなくなるからである。本発明を実施する上で好ましい塩基度は、1.5以上である。
0027
[スラグ中のMgO量:5〜22%]
本発明では、スラグ中のMgO量を5%以上とするのがよい。スラグの塩基度がたとえ2.3以下であっても、該塩基度が1.9以上の比較的高い領域では、基本的には塩基度の上昇に伴って、原料混合物中で酸化鉄含有物質が還元されることによって生成する還元鉄微粒子同士の凝集能は徐々に低下する傾向が認められるからである。即ち、スラグ塩基度が比較的高い領域では、スラグの凝集能が大きく低下し、延いては生成する還元鉄粒子の凝集能も低下し、本発明で意図する大粒の粒状金属鉄が高歩留りで得られ難くなるからである。そのため塩基度が比較的高い領域では、最終スラグの塩基度が2.3以下であっても、本発明法の経済的操業性を確保するために、スラグ中のMgO量を5%以上とするのがよい。MgO量が5%を下回ると、通常の操業温度では、2CaO・SiO2で表される複合酸化物がスラグ内に晶出し、スラグの流動性が失われ、凝集性が失われるからである。一方、スラグの塩基度が1.9以上の比較的高い領域で、スラグ中のMgO量が22%を超えると、スラグ中にMgOが晶出して却って凝集性が阻害される。そのため目標とする大粒の粒状金属鉄を高歩留りで製造できない。従ってスラグ中のMgO量は、5〜22%とするのがよい。MgO含有量のより好ましい上限は20%である。
0028
上述したスラグの塩基度とスラグ中のMgO量は、酸化鉄含有物質および炭素質還元剤の量を調整することによって制御できる。酸化鉄含有物質や炭素質還元剤は、少なくともCaO、MgOおよびSiO2を含んでいるからである。なお、酸化鉄含有物質として配合される鉄鉱石や、炭素質還元剤として配合される石炭やコークスは天然物であり、種類に応じてCaOやMgO、SiO2の各含有量も変化するため、それらの配合量を一律に規定することは困難であるが、酸化鉄含有物質として配合される鉄鉱石等に含まれる脈石の成分組成と、炭素質還元剤として配合される石炭やコークス等に含まれる灰分の成分組成を考慮し、適切に調整することが好ましい。
0029
例えば、床敷材として炭素質粉末を装入する場合は、該炭素質粉末の成分とその量も考慮して、酸化鉄含有物質と炭素質還元剤の量を調整することによって、上記スラグの塩基度や該スラグに占めるMgO含有量を制御する。
0030
なお、本発明は、前述の如く生成スラグの塩基度と、Na2O含有量、K2O含有量、Li2O含有量を定めたところに最大の特徴を有しており、床敷材として炉床上に装入される炭素質粉末の使用は必ずしも必須ではないが、炉床上に炭素質粉末を床敷材として装入すれば、炉内の還元ポテンシャルがより効率的に高められ、金属化率の向上と硫黄含有量の低減の両作用をより一層効果的に発揮させることができるので好ましい。こうした床敷材としての作用をより確実に発揮させるには、炉床上へ2mm程度以上の厚みで粉粒状の炭素質粉末を敷いておくことが望ましい。しかも炭素質粉末を床敷材としてある程度の厚みを持った層状に敷き詰めておけば、該床敷層が原料混合物と炉床耐火物の緩衝材となり、或いは副生スラグ等に対する炉床耐火物の保護材となり、炉床耐火物の寿命延長にも役立つ。
0031
但し、床敷層が厚くなり過ぎると、原料混合物が炉床上の床敷層内へ潜り込んで還元の進行が阻害される、などの問題を生じることがあるので、7.5mm程度以下に抑えることが望ましい。
0032
上記床敷材として用いる炭素質粉末の種類は特に限定されず、通常の石炭やコークス等を粉砕し、好ましくは適度に粒度調整したものを使用すればよく、また石炭を使用する場合は、流動性が低く且つ炉床上で膨れや粘着性を帯びることのない無煙炭が好適である。
0033
また、上記原料混合物に含まれる前記MgO供給物質以外に、新たに「他のMgO供給物質」を配合する場合は、当該「他のMgO供給物質」の成分組成とその配合量も考慮して酸化物含有物質と炭素質還元剤の量を調整することによって、上記スラグの塩基度や該スラグに占めるMgO含有量を制御する。
0034
上記原料混合物に含まれる前記MgO供給物質以外に、新たに配合する「他のMgO供給物質」の種類は特に制限されないが、例えば、MgO粉末や天然鉱石や海水などから抽出されるMg含有物質、或いは炭酸マグネシウム(MgCO3)などが挙げられる。
0035
また、上記原料混合物に含まれる前記CaO供給物質以外に、新たに「他のCaO供給物質」を配合する場合は、当該「他のCaO供給物質」の成分組成とその配合量も考慮して酸化物含有物質と炭素質還元剤の量を調整することによって、上記スラグの塩基度や該スラグに占めるCaO含有量を制御する。
0036
上記原料混合物に含まれる前記CaO供給物質以外に、新たに配合する「他のCaO供給物質」の種類は特に制限されないが、代表例として生石灰(CaO)や炭酸カルシウム(CaCO3)などが挙げられる。
0037
また、MgOとCaOの供給物質として、例えば、ドロマイト鉱石を配合してもよい。
0038
スラグに占めるNa2O量やK2O量、Li2O量は、上記原料混合物に配合するNa2O供給物質やK2O供給物質、Li2O供給物質の種類に応じて配合量を調整することで、各アルカリ酸化物の含有量を調整すればよい。
0039
上記Na2O供給物質の種類は特に制限されないが、例えば、炭酸ナトリウム(Na2CO3)などが挙げられる。
0040
上記K2O供給物質の種類は特に制限されないが、例えば、炭酸カリウム(K2CO3)などが挙げられる。
0041
上記Li2O供給物質の種類は特に制限されないが、例えば、炭酸リチウム(Li2CO3)などが挙げられる。
0043
上記酸化鉄含有物質と炭素質還元剤以外に配合されるMgO供給物質やCaO供給物質、或いはNa2O供給物質やK2O供給物質、Li2O供給物質の添加法にも格別の制限はなく、原料混合物の調整段階で配合したり、床敷材と共に、或いはこれとは独立に回転炉床上へ予め装入しておき、或いは原料混合物の装入と同時もしくは後に上方から別途装入する方法、等を適宜採用できる。
0045
なお、「環境対策重視」の観点に基づけば、原料混合物に蛍石は配合しないことが望まれ、上述した本発明によれば、蛍石を配合しなくとも充分に脱硫能と凝集性能の向上が図れる。しかし原料混合物に蛍石を配合して脱硫能および凝集性能の一層の向上を図ることもできる。
0046
上述したように、本発明では、実用規模の移動炉床式加熱還元炉を用いて操業を行う際に、塩基度調整材としてMgO供給物質を使用して最終スラグの塩基度を最大で2.3程度にまで高めれば、実操業を踏まえた1450℃までの温度域でスラグを十分に溶融させることができる。これにより粒状金属鉄を安定した操業状況の下で製造でき、しかもスラグ−メタル間の硫黄分配比(S)/[S]で10程度以上、特に20以上を確保できる。その結果、炭素質還元剤や床敷材などとして配合する石炭等の銘柄によって多少に違いはあるが、最終的に得られる粒状金属鉄の硫黄含有量を0.080%以下、特に0.05%以下にまで安定して抑えることが可能となる。
0047
特に本発明では、実用炉の加熱方式として最も汎用性の高いガスバーナーによる燃焼加熱方式を採用した場合に避けることのできない、雰囲気ガス還元ポテンシャルの低下に伴う硫黄分配比(S)/[S]の低下を、スラグの塩基度と、スラグ中のNa2O量、K2O量、Li2O量を調整することによって防止できるようにした意義は大きい。
0048
次に、本発明に用いられる移動炉床式加熱還元炉の概略と該加熱還元炉を用いた粒状金属鉄の製造方法の概略、および粒状金属鉄を製造できるメカニズムについて図1を用いて詳細に説明するが、下記図面は、本発明を限定するものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
0050
回転炉床式の加熱還元炉Aには、酸化鉄含有物質と炭素質還元剤を含む原料混合物1が、原料投入ホッパー3を通して、回転炉床4上へ連続的に装入される。酸化鉄含有物質としては、通常、鉄鉱石やマグネタイト鉱石などが、炭素質還元剤としては、通常、石炭やコークスなどが用いられる。
0051
前記原料混合物1を供給するときの形態は特に限定されず、酸化鉄含有物質と炭素質還元剤などを適度に混合したものを供給してもよいが、通常は、酸化鉄含有物質と炭素質還元剤などを含む原料混合物を押し固めて得られた簡易成形体を供給するか、または該原料混合物をペレットやブリケットなどに成形した炭材内装成形体を供給するのがよい。また、簡易成形体や炭材内装成形体と併せて粉粒状の炭素質粉末2を供給してもよい。
0052
本発明法では、上述したように、加熱還元炉Aに、原料混合物1の他にNa2O供給物質、K2O供給物質、およびLi2O供給物質よりなる群から選ばれる少なくとも1種を装入する。また、必要に応じて、原料混合物以外の物質(例えば、MgO供給物質やCaO供給物質など)を装入してもよい。但し、環境対策重視の観点に基づき、フッ素含有脱硫剤は装入しないことが好ましい。
0053
次に、上記原料混合物1を加熱還元炉Aに装入するときの手順を具体的に説明する。原料混合物1の装入に先立って、原料投入ホッパー3から回転炉床4上に粉粒状の炭素質粉末2を床敷として装入して敷き詰めておき、その上に原料混合物1を装入しておくのがよい。
0054
図1に示した例では、1つの原料投入ホッパー3を炭素質粉末2の装入と、原料混合物1を装入するために共用する例を示しているが、ホッパーを2つ以上用いて炭素質粉末2と原料混合物1を別々に装入することも勿論可能である。なお、床敷として装入される炭素質粉末2は、還元効率を高めると共に加熱還元によって得られる粒状金属鉄の低硫化を増進する上でも極めて有効であるが、装入を省略してもよい。床敷として装入する炭素質粉末の種類は特に限定されず、例えば、石炭やコークスであってもよい。床敷として装入する炭素質粉末は、原料混合物として配合する炭素質還元剤よりもS含有量が少ないものを用いるのがよい。
0055
図1に示した加熱還元炉Aの回転炉床4は、反時計方向に回転されている。回転速度は、加熱還元炉Aの大きさや操業条件によって異なるが、通常は8分から16分程度で1周する。加熱還元炉Aにおける炉体8の壁面には加熱バーナー5が複数個設けられており、該加熱バーナー5の燃焼熱あるいはその輻射熱によって炉床部に熱が供給される。加熱バーナー5は、炉の天井部に設けてもよい。
0056
耐火材で構成された回転炉床4上に装入された原料混合物1は、該回転炉床4上で加熱還元炉A内を周方向へ移動する中で、加熱バーナー5からの燃焼熱や輻射熱によって加熱される。そして当該加熱還元炉A内の加熱帯を通過する間に、当該原料混合物1内の酸化鉄は還元された後、副生する溶融スラグと分離しながら、且つ残余の炭素質還元剤による浸炭を受けて溶融しながら粒状に凝集して粒状金属鉄10となり、回転炉床4の下流側ゾーンで冷却固化された後、スクリューなどの排出装置6によって炉床上から順次排出される。このとき副生したスラグも排出されるが、これらはホッパー9を経た後、任意の分離手段(例えば、篩目や磁選装置など)により金属鉄とスラグの分離が行われる。なお、図1中、7は排ガス用ダクトを示している。
0057
以上の通り、本発明では、加熱還元して副生する(1)スラグの塩基度と(2)スラグ中に占めるNa2O含有量、K2O含有量、Li2O含有量を適切に調整し、生成スラグの融点と硫黄分配比(S)/[S]をうまくコントロールすることによって、低硫黄含有量の粒状金属鉄を効率よく製造することが可能となる。
0058
以下、本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、下記実施例は本発明を限定する性質のものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。なお、下記実施例では、小型の実験用加熱還元炉を用いて試験を行った結果を示す。
0060
上記原料混合物には、酸化鉄含有物質と炭素質還元剤の他にバインダー(小麦粉)を配合し、必要に応じて、CaO供給物質として炭酸カルシウム(CaCO3)、MgOとCaOの供給物質としてドロマイト鉱石(主成分はCaCO3・MgCO3)等のスラグ塩基度調整用副原料と、Na2O供給物質として炭酸ナトリウム(Na2CO3)、Na2OとK2Oの供給物質としてネフェリン[組成は(Na,K)(Al,Si)O4]、Li2O供給物質として炭酸リチウム(Li2CO3)等を配合して配合物を得た。配合物の成分組成を下記表3に示す。
0061
得られた配合物を成形することによりペレット状の原料成形体を作製した。得られた原料成形体を小型の実験用加熱還元炉内へ装入して加熱還元した。炉床上には、床敷材として表2に示す成分組成の石炭(炭素質粉末)を5mm程度の厚みで敷いておいた。炉内温度は1450℃に調整した。加熱還元炉の炉床上に装入された原料成形体中の酸化鉄分は、約10〜16分かけて炉内で加熱される間に固体状態を維持しながら還元され、生成した還元鉄は、還元後に残っている炭素質粉末による浸炭を受けながら融点降下して相互に凝集した。このとき副生するスラグも、部分的、もしくはほぼ完全に溶融して相互に凝集し、溶融状態の粒状金属鉄と溶融スラグに分離した。その後、これら溶融状態の粒状金属鉄と溶融スラグを冷却して融点以下に降温(具体的には、1100℃程度までに冷却)して凝固させ、固体状態の粒状金属鉄またはスラグとして炉外へ排出した。
0062
粒状金属鉄とスラグの成分組成を下記表4または表5に示す。また、スラグに含まれるCaO、MgOおよびSiO2量からスラグの塩基度[(CaO+MgO)/SiO2]を算出し、下記表4または表5に併せて示す。
0063
また、配合計算から求められるFe量に対して、凝集して粒状金属鉄として得られたFe量の歩留まり率を算出した。歩留まり率が98%を超えるものを凝集性が良好(○)、歩留まり率が98%以下のものを凝集性が不良(△)として評価した。評価結果を下記表4または表5に示す。表5において、凝集性×とは、粒状金属鉄とスラグが分離せずに粒状金属鉄として回収できなかったことを意味している。
0064
また、粒状金属鉄に含まれる硫黄量[S]に対するスラグに含まれる硫黄量(S)の比(硫黄分配比(S)/[S])を算出し、下記表4または表5に併せて示す。
0066
図2中、■は原料混合物にNa2OとK2Oの供給物質を配合するか、原料混合物にNa2O供給物質を配合し、且つ、スラグの要件が本発明の範囲を満足する表4のNo.1〜12の結果を示している。図2中、▲は原料混合物にLi2O供給物質を配合し、且つ、スラグの要件が本発明の範囲を満足する表4のNo.13〜21の結果を示している。図2中、◇は原料混合物にNa2O供給物質とLi2O供給物質を配合し、且つ、スラグの要件が本発明の範囲を満足する表4のNo.22〜23の結果を示している。図2中、○は原料混合物にLi2O供給物質を配合したが、スラグの要件が本発明の範囲を満足しないか、原料混合物にNa2O供給物質、K2O供給物質、Li2O供給物質のいずれも配合しない表5のNo.26〜34の結果を示している。
0067
表4および表5から明らかなように、粒状金属鉄の硫黄含有量を0.080%以下に抑えるには、スラグの塩基度およびスラグ中のNa2O量、K2O量、或いはLi2O量を本発明の範囲内とすることで、硫黄分配比(S)/[S]を10以上確保することが望ましいことが分かる。
0068
図2から明らかなように、スラグの塩基度が高まるにつれて、硫黄分配比(S)/[S]は急速に増大している。特にスラグの塩基度が1.4を超えると、硫黄分配比は顕著に増大している。
0069
また、図2から明らかなように、スラグの塩基度を1.4以上にした場合、塩基度が高まるにつれて硫黄分配比(S)/[S]も高まるが、原料混合物にMgO供給物質と、Na2O供給物質、K2O供給物質、或いはLi2O供給物質を配合してスラグ中にNa2O、K2O、或いはLi2Oを含有させると、Na2O等を含有しない場合と比べて硫黄分配比(S)/[S]が確実に高くなることが分かる。
0070
また、原料混合物にNa2O供給物質、K2O供給物質、或いはLi2O供給物質を配合しない場合は、最終スラグの塩基度が1.7程度まで高まるとスラグの融点が高くなり、溶融スラグの凝集が進み難くなって還元鉄の凝集も阻害される傾向がみられ、細かな粒状金属鉄が多数生成して、大粒の粒状金属鉄を高歩留りで得ることが困難になる。
0071
本実施例では、MgOとCaOの供給物質としてドロマイト鉱石を配合することによってスラグの塩基度とスラグ中のMgO量を調整しているが、本実施例の配合物組成の場合は、配合物中に占めるドロマイト鉱石をおおむね0〜6.5%の範囲内に制御すれば、本発明で定める塩基度およびMgO含有量の範囲内に制御できる。
0072
以上の通り、本発明では、原料混合物中にMgO供給物質と、更にNa2O供給物質、K2O供給物質、或いはLi2O供給物質等を適正に配合し、CaO、MgO、SiO2の含有量から求められる最終スラグの塩基度を1.4〜2.3の範囲内に、且つスラグ中のNa2O量を0.10%以上、K2O量を0.10%以上、Li2O量を0.05%以上の範囲に入るように調整することによって、硫黄分配比を10以上にすることができ、得られる粒状金属鉄の硫黄含有量[S]を0.080%以下に低減できることが実証された。
0073
0074
0075
0076
0077
図面の簡単な説明
符号の説明
0079
A回転炉床式加熱還元炉
1原料混合物
2炭素質粉末
3原料投入ホッパー
4 回転炉床
5加熱バーナー
6排出装置
7排ガス用ダクト
8炉体
9ホッパー
10 粒状金属鉄