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技術 精子細胞の保存方法

出願人 国立研究開発法人理化学研究所
発明者 大田浩坂出祐子若山照彦
出願日 2007年6月29日 (11年8ヶ月経過) 出願番号 2007-171788
公開日 2009年1月15日 (10年2ヶ月経過) 公開番号 2009-005651
状態 未査定
技術分野 微生物、その培養処理
主要キーワード ストロー状 顕微授精 組織包 射出精液 精子サンプル 発生能 フリージング 精子頭部
関連する未来課題
重要な関連分野

この項目の情報は公開日時点(2009年1月15日)のものです。
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図面 (9)

課題

簡便かつ効率的な精子細胞保存方法の提供。

解決手段

精子細胞を含む、動物精巣切片を作製する工程;および作製された切片を冷凍保存する工程を包含する、精子細胞の保存方法であって、冷凍保存した切片を解凍することによって、顕微授精による卵子への注入において機能的な精子細胞が得られる、方法。

概要

背景

遺伝子改変動物(例えば、マウス)の作製による遺伝子機能解析は、基礎生物学および医学分野発展に大きな貢献を果たしてきた。今後も数多くの動物が作製されると予想される。このためには、効率的な系統保存法の開発が必要である。

精子細胞保存方法として現在最も広く用いられている方法は、精子ストロー状容器凍結保護剤と共に充填し、液体窒素中に保存する方法である(非特許文献1)。この方法では、解凍後の精子は運動能を保持しているため、精子を未授精共培養することにより授精を行わせるIVF(in-vitro fertilization)による顕微授精によって子孫作出することができる。上記方法によれば、例えば1匹の雄マウスから10個程度のサンプルを作製できる。

類似の方法として、精子を、凍結保護剤を用いず、ストロー状の容器に充填し液体窒素中に保存する技術が報告されている(非特許文献2)。この方法では、解凍後の精子は運動能を有さないため、精子を直接マイクロマニピュレーターで未授精卵へ注入するICSI(intracytoplasmic sperm injection)と呼ばれる顕微授精法により子孫を作出する必要がある。上記方法によれば、例えば1匹の雄マウスから100個程度の精子サンプルが作製可能と報告されている。

上記2つの方法は、いずれもストロー状の容器に精子を充填するため、凍結操作が繁雑である。また、保存状態を維持するためには液体窒素が必要である。

近年開発された方法として、精巣凍結チューブに入れて−30℃または−80℃の冷凍庫中で保存する方法が報告されている(非特許文献3)。凍結に際してフリージングコンテナと称する特定の容器を使用することによって温度の低下を穏やかにすることが推奨されるものの、精巣を凍結するだけでそこに含まれる精子細胞を保存できるため操作は容易である。また、凍結保護剤や液体窒素の使用も不要である。しかし、精巣そのものを凍結するため、1匹の動物から作製できるサンプル数は非常に限られている。

上記のいずれの方法によっても、顕微授精などにより授精可能な精子を保存することは可能であるが、十分量の凍結サンプルを作製するのに多数の雄マウスが必要である、操作が繁雑である、多数の系統保存にはかなりの保存スペースが必要となるなどの問題点があった。

Nakagata N. Cryopreservation of mouse spermatozoa. Mammalian genome, 11: 572-576 (2000).
Ward MA et al. Long-term preservation of mouse spermatozoa after freeze-drying and freezing without cryoprotectoin. Biology of Reproduction, 69: 2100-2108 (2003).
Ogonuki N et al. Spermatozoa and spermatidsretrieved from frozen reproductive organs or frozen whole bodies of male mice can produce normal offspring. Proc Natl Acad Sci USA, 103: 13098-13103. (2006).

概要

簡便かつ効率的な精子細胞の保存方法の提供。精子細胞を含む、動物の精巣の切片を作製する工程;および作製された切片を冷凍保存する工程を包含する、精子細胞の保存方法であって、冷凍保存した切片を解凍することによって、顕微授精による卵子への注入において機能的な精子細胞が得られる、方法。なし

目的

本発明の目的は、簡便かつ効率的な精子細胞の保存方法を提供することにある。

効果

実績

技術文献被引用数
0件
牽制数
0件

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請求項1

(i)精子細胞を含む、動物精巣切片を作製する工程;および(ii)作製された切片を冷凍保存する工程、を包含する、精子細胞の保存方法であって、冷凍保存した切片を解凍することによって、顕微授精による卵子への注入において機能的な精子細胞が得られる、方法。

請求項2

切片がクライオスタットを使用して作製される、請求項1記載の方法。

請求項3

切片の厚さが10〜25μmである、請求項1または2記載の方法。

請求項4

冷凍保存が1日〜1ヶ月の期間行われる、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。

請求項5

冷凍保存が−30℃で行われる、請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。

請求項6

作製された切片が支持体に付着される、請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。

請求項7

精子細胞を含む、動物の精巣の切片を作製する工程を包含する、精子細胞保存用切片の製造方法であって、作製された切片を冷凍保存後解凍することによって、顕微授精による卵子への注入において機能的な精子細胞が得られる、方法。

請求項8

切片がクライオスタットを使用して作製される、請求項7記載の方法。

請求項9

切片の厚さが10〜25μmである、請求項7または8記載の方法。

請求項10

冷凍保存が1日〜1ヶ月の期間行われる、請求項7〜9のいずれか1項記載の方法。

請求項11

冷凍保存が−30℃で行われる、請求項7〜10のいずれか1項記載の方法。

請求項12

作製された切片が支持体に付着される、請求項7〜11のいずれか1項記載の方法。

請求項13

精子細胞を含む、動物の精巣の切片を含む、精子細胞保存用組成物であって、切片を冷凍保存後解凍することによって、顕微授精による卵子への注入において機能的な精子細胞が得られる、組成物。

請求項14

切片がクライオスタットを使用して作製される、請求項13記載の組成物。

請求項15

切片の厚さが10〜25μmである、請求項13または14記載の組成物。

請求項16

冷凍保存が1日〜1ヶ月の期間行われる、請求項13〜15のいずれか1項記載の組成物。

請求項17

冷凍保存が−30℃で行われる、請求項13〜16のいずれか1項記載の組成物。

請求項18

切片が支持体に付着されている、請求項13〜17のいずれか1項記載の組成物。

技術分野

0001

本発明は、精子細胞簡便かつ効率的な保存方法に関する。

背景技術

0002

遺伝子改変動物(例えば、マウス)の作製による遺伝子機能解析は、基礎生物学および医学分野発展に大きな貢献を果たしてきた。今後も数多くの動物が作製されると予想される。このためには、効率的な系統保存法の開発が必要である。

0003

精子細胞の保存方法として現在最も広く用いられている方法は、精子ストロー状容器凍結保護剤と共に充填し、液体窒素中に保存する方法である(非特許文献1)。この方法では、解凍後の精子は運動能を保持しているため、精子を未授精共培養することにより授精を行わせるIVF(in-vitro fertilization)による顕微授精によって子孫作出することができる。上記方法によれば、例えば1匹の雄マウスから10個程度のサンプルを作製できる。

0004

類似の方法として、精子を、凍結保護剤を用いず、ストロー状の容器に充填し液体窒素中に保存する技術が報告されている(非特許文献2)。この方法では、解凍後の精子は運動能を有さないため、精子を直接マイクロマニピュレーターで未授精卵へ注入するICSI(intracytoplasmic sperm injection)と呼ばれる顕微授精法により子孫を作出する必要がある。上記方法によれば、例えば1匹の雄マウスから100個程度の精子サンプルが作製可能と報告されている。

0005

上記2つの方法は、いずれもストロー状の容器に精子を充填するため、凍結操作が繁雑である。また、保存状態を維持するためには液体窒素が必要である。

0006

近年開発された方法として、精巣凍結チューブに入れて−30℃または−80℃の冷凍庫中で保存する方法が報告されている(非特許文献3)。凍結に際してフリージングコンテナと称する特定の容器を使用することによって温度の低下を穏やかにすることが推奨されるものの、精巣を凍結するだけでそこに含まれる精子細胞を保存できるため操作は容易である。また、凍結保護剤や液体窒素の使用も不要である。しかし、精巣そのものを凍結するため、1匹の動物から作製できるサンプル数は非常に限られている。

0007

上記のいずれの方法によっても、顕微授精などにより授精可能な精子を保存することは可能であるが、十分量の凍結サンプルを作製するのに多数の雄マウスが必要である、操作が繁雑である、多数の系統保存にはかなりの保存スペースが必要となるなどの問題点があった。

0008

Nakagata N. Cryopreservation of mouse spermatozoa. Mammalian genome, 11: 572-576 (2000).
Ward MA et al. Long-term preservation of mouse spermatozoa after freeze-drying and freezing without cryoprotectoin. Biology of Reproduction, 69: 2100-2108 (2003).
Ogonuki N et al. Spermatozoa and spermatidsretrieved from frozen reproductive organs or frozen whole bodies of male mice can produce normal offspring. Proc Natl Acad Sci USA, 103: 13098-13103. (2006).

発明が解決しようとする課題

0009

本発明の目的は、簡便かつ効率的な精子細胞の保存方法を提供することにある。

課題を解決するための手段

0010

上記のような問題を改善するために、本発明者らは鋭意検討し、冷凍保存した精巣凍結切片から顕微授精により子孫を作出することができることを見出した。この方法により、例えば1匹の雄マウスから理論上数百以上の精子サンプルを調製することが可能である。また、精巣組織枚当たりの厚さは数十μmであるため、大量のサンプルを省スペースで保存することができる。

0011

本発明は、
[1](i)精子細胞を含む、動物の精巣の切片を作製する工程;および
(ii)作製された切片を冷凍保存する工程、
包含する、精子細胞の保存方法であって、冷凍保存した切片を解凍することによって、顕微授精による卵子への注入において機能的な精子細胞が得られる、方法;
[2]切片がクライオスタットを使用して作製される、[1]の方法;
[3]切片の厚さが10〜25μmである、[1]または[2]の方法;
[4]冷凍保存が1日〜1ヶ月の期間行われる、[1]〜[3]のいずれかの方法;
[5]冷凍保存が−30℃で行われる、[1]〜[4]のいずれかの方法;
[6]作製された切片が支持体に付着される、[1]〜[5]のいずれかの方法;
[7]精子細胞を含む、動物の精巣の切片を作製する工程を包含する、精子細胞保存用切片の製造方法であって、作製された切片を冷凍保存後解凍することによって、顕微授精による卵子への注入において機能的な精子細胞が得られる、方法;
[8]切片がクライオスタットを使用して作製される、[7]の方法;
[9]切片の厚さが10〜25μmである、[7]または[8]の方法;
[10]冷凍保存が1日〜1ヶ月の期間行われる、[7]〜[9]のいずれかの方法;
[11]冷凍保存が−30℃で行われる、[7]〜[10]のいずれかの方法;
[12]作製された切片が支持体に付着される、[7]〜[11]のいずれかの方法;
[13]精子細胞を含む、動物の精巣の切片を含む、精子細胞保存用組成物であって、切片を冷凍保存後解凍することによって、顕微授精による卵子への注入において機能的な精子細胞が得られる、組成物;
[14]切片がクライオスタットを使用して作製される、[13]の組成物;
[15]切片の厚さが10〜25μmである、[13]または[14]の組成物;
[16]冷凍保存が1日〜1ヶ月の期間行われる、[13]〜[15]のいずれかの組成物;
[17]冷凍保存が−30℃で行われる、[13]〜[16]のいずれかの組成物;
[18]切片が支持体に付着されている、[13]〜[17]のいずれかの組成物
に関する。

発明の効果

0012

本発明により、簡便かつ効率的な精子細胞の保存方法が提供される。

発明を実施するための最良の形態

0013

本発明の精子細胞の保存方法は、(i)精子細胞を含む、動物の精巣の切片を作製する工程;および(ii)作製された切片を冷凍保存する工程を包含し、冷凍保存した切片を解凍することによって、顕微授精による卵子への注入において機能的な精子細胞が得られる。また、本発明の精子細胞保存用切片の製造方法は、精子細胞を含む、動物の精巣の切片を作製する工程を包含し、作製された切片を冷凍保存後解凍することによって、顕微授精による卵子への注入において機能的な精子細胞が得られる。さらに、本発明の精子細胞保存用組成物は、精子細胞を含む、動物の精巣の切片を含み、切片を冷凍保存後解凍することによって、顕微授精による卵子への注入において機能的な精子細胞が得られる。

0014

本明細書における用語「顕微授精による卵子への注入において機能的な精子細胞」とは、顕微授精技術を使用して卵子中に注入した際に、授精・発生を生じさせる能力を有する精子細胞をいう。授精・発生を生じさせる能力は、例えば、得られた授精卵における前核の形成、2細胞期胚への発生、2細胞の動物への移植後の子孫の作出などによって確認される。

0015

本明細書における用語「顕微授精」とは、顕微鏡下で人為的に授精を行わせる技術をいう。顕微授精の技術としては、IVF(in-vitro fertilization、体外受精ともいう)、ICSI(intracytoplasmic sperm injection、卵細胞内精子注入法ともいう)などが知られている。前者のIVFにおいては、精子を未授精卵と共培養することにより授精を行わせる。この技術には、操作が容易で一度に大量の授精卵を作製することが可能であるという利点があるが、精子が運動能を保持している必要があるという制約がある。後者のICSIにおいては、精子を直接マイクロマニピュレーターで未授精卵へ注入する。この技術には、習熟に一定期間のトレーニングが必要であり、一度に作製できる授精卵の数はIVFよりも少ない。しかし、ICSIには、精子が運動能を有していなくても授精卵を得ることができるという利点がある。本発明によって得られる精子細胞は、ICSIによる顕微授精のために好適に使用される。

0016

本発明において使用する動物には限定はなく、精巣を有する任意の動物が使用される。1つの実施態様において、動物は哺乳動物である。哺乳動物の例としては、ヒト、サルウシウマヒツジヤギブタイヌネコウサギラット、マウスが挙げられる。精巣は精子形成を行う器官である。従って、精巣中には精子細胞が含まれる。

0017

本明細書において「精子細胞」とは精巣中に含まれる細胞であって、顕微授精による卵子への注入において機能を有する限り限定はない。すなわち、精子細胞は、成熟精子およびより未熟雄性生殖細胞(例えば、精母細胞)を含む。使用する精子細胞が卵子活性化能を有しない場合は人為的に卵子を活性化する。上記性質を有している限り精子細胞は運動性を示す必要はなく、また生存している必要もない。精子細胞の生存は、例えばヨウ化プロピジウム(PI)染色によって確認することができる。成熟精子を使用する場合一般に頭部のみを卵子に注入するので、尾部が切断されていても使用可能であり得る。

0018

本発明において動物の精巣の切片を作製する手段には、顕微授精による卵子への注入において機能的な精子細胞が得られる限り限定はない。1つの実施態様において、切片はクライオスタット(クリオスタットともいう)を使用して作製される。クライオスタットは、病理診断において組織病変や、細胞内部のタンパク質糖鎖局在、DNA・RNAの存在などを知るために、細胞・組織の形態をそのままの状態で保持した像を顕微鏡下で観察する目的で(例えば、手術中に行われる組織診断、すなわち術中迅速診断などに)使用される装置である。具体的には、切片を作製しようとする生体試料(器官など)を凍結組織包埋剤(例えば、OCTコンパウンド)で包んで凍結し、クライオスタットを使用して低温(一般に−10〜−40℃、例えば−20〜−25℃)でミクロトームにより切片を作製し、次いで作製された切片をスライドガラスに付着させる。得られた切片は一般的には染色やインサイチュハイブリダイゼーションに供され観察される(例えば、廣安 誠、Bio View、39号、38−41頁(2002年)、廣川 満良ら、Medical Technology、31巻10号1064〜1068頁(2003年)参照)。従って、この技術は、機能的な細胞を保存する目的では使用されていない。ここで、上記のOCTコンパウンドは代表的な凍結組織包埋剤であり、ポリニルアルコールポリエチレングリコール、否活性物質からなる混合物である。人体などへの有害性は確認されていないが、冷凍保存した切片中の精子細胞に対する影響は未知である。

0019

切片の厚さは精子細胞の損傷などを回避するためには厚い方が好ましいが、より多数の切片を得るためには薄い方が好ましい。当業者は本願の開示に基づいて適切な切片の厚さを決定することができる。本発明において、切片の厚さは、例えば2〜100μm、好ましくは5〜50μm、より好ましくは10〜25μmである。

0020

保存期間中精子細胞の機能が維持される限り、作製された切片を冷凍保存する際の温度に限定はない。温度は、例えば−80℃〜−5℃、好ましくは−60℃〜−10℃、より好ましくは−40℃〜−20℃、さらに好ましくは−30℃である。温度の低下方法にも限定はなく、冷凍保存しようとする試料を直接冷凍庫に入れても良く、あるいはフリージングコンテナやプログラムされた冷却装置を使用して穏やかに温度を低下させてもよい。また、本発明においては一般に精子の保存に使用されているような凍結保護剤を使用する必要はない。保存期間にも限定はなく期間は、例えば1時間以上、好ましくは5時間以上、より好ましくは1日以上であり、例えば10年以下、好ましくは1年以下、より好ましくは1ヶ月以下である。

0021

1つの実施態様において、切片は支持体に付着される。支持体としては任意の材料(ガラスプラスティックなど)および形態(チューブプレートなど)のものを使用することができる。好ましくは、支持体はスライドガラスである。スライドガラスを支持体として用いることにより、切片を解凍して得られた精子細胞を、直ちに顕微授精に使用することができる。

0022

冷凍保存した切片を解凍し、顕微授精に使用する精子細胞を得る。詳細には、解凍した切片を適当な培地中で懸濁し、分離した精子細胞を回収する。

0023

本発明によって機能的な精子細胞が分離した状態で得られたことは予想外であった。これは、凍結保護剤を使用して精子を凍結する従来の方法や、精巣全体を凍結して器官自体が保護剤代替物として作用し得る場合に比較して、切片を使用する方法には下記のような悪条件が予測されていたからである。例えば、クライオスタットを使用した場合、精巣は一旦凍結され、作製された凍結切片はスライドガラスに付着させる際に解凍され、スライドガラスに付着した切片は冷凍保存され、顕微授精に供する際に冷凍保存された切片が解凍される。すなわち、この場合、精子細胞は2回の凍結融解を経た後に顕微授精に供される。ここで凍結融解が精子細胞の損傷をもたらすことは一般的に知られている(Wakayama, T. et al., Journal of Reproduction and Fertility, 112: 11-17 (1998))。また、切片を作製する際に精子細胞自体が切断される可能性もある。これらの物理的な影響に加えて、切片を作製する際に使用するOCTコンパウンドや、切片化して精子細胞を外気曝露することによる酸化ストレス(Twigg, J.P. et al., Human Reproduction, 13: 1864-1871 (1998))などが悪影響を及ぼす可能性があった。それにもかかわらず、本発明によって保存された精巣の切片から得られた精子細胞を使用して正常な子孫を効率よく得ることができた。

0024

本発明は、例えば、実験動物または家畜として有用な動物の系統保存に有用である。また、本発明は、射出精液中には精子が認められないが精巣組織には精子が存在する場合の男性不妊(すなわち、精子形成障害に起因する男性不妊)の治療に使用され得る。さらに、ヒト免疫不全ウイルスHIV)は免疫系の細胞に感染するが、精巣の精細管内腔部は精巣−血管関門によって免疫系から隔離されているので、本発明によれば、HIV感染男性の精細管の内腔部からHIVが存在しない精子細胞を得ることができる。

0025

精子を組織切片として保存できることのさらなる利点は、多大な保存スペースを要しない点である。組織切片は非常に薄いため、シート状(もしくは「本」のような形態)での保存が可能になると思われる。また例えば1匹のマウスから理論上数百サンプルを作製可能である。さらに、凍結サンプルの送付手紙のような状態で送付可能になると思われ、従来法(発泡スチロールの容器に梱包)より簡便になると予想される。

0026

以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例に限定されるものではない。

0027

精巣切片の作成とその凍結保存
マウスはB6D2F1(C57BL/6×DBA/2;以下、BDF1)の成熟雄個体(10週齢)を使用し、凍結切片の作製は通常の組織切片作成方法に従った。具体的には、BDF1の雄マウスより精巣を採取し、OCTコンパウンド(Sakura Finetechnical Co., Ltd.)に包埋した。冷凍庫(−30℃)で凍結後、クライオスタット(MICROM社)を用いて厚さ10μmまたは25μmの凍結切片を作製した。作製した切片はスライドガラスに付着させ、−30℃で保存した。

0028

精巣凍結切片からの精子細胞の回収と顕微授精による子孫の作出
保存後24時間(1日)または1ヶ月の凍結切片から精子の回収を試みた。まず、スライドガラスに付着させた精巣切片から精子を回収するため、スライドガラスをNIM溶液(Kuretake S. et al. Fertilization and development of mouse oocytes injected with isolated sperm heads. Biology of Reproduction, 55:789-795. (1996))に浸した(4℃、2分)。その後マイクロピペットを用いて精巣切片をスライドガラスから剥離し、1.5mlのマイクロチューブに移した。マイクロピペットを用いてよく懸濁し、2300gで2分間遠心した。上清を捨てた後、NIM溶液に再懸濁し、顕微授精まで4℃で保存した。

0029

顕微授精による子孫の作出はKimura and Yanagimachiの方法(Kimura Y and Yanagimachi R. Intracytoplasmic sperm injection in the mouse. Biology of Reproduction, 52: 709-720. (1995))に従って行った。具体的には、まず、BDF1の雌マウス過排卵処理(ウマ絨毛性性腺刺激ホルモン(eCG)(5IU)を投与し、48時間後にヒト胎盤性性刺激ホルモン(hCG)(5IU)を投与)を施し、卵管より卵子を採取した。卵子の周り卵丘細胞ヒアルロニダーゼを用いて乖離し、得られた卵子はCZB培地(Chatot CL et al. An improved culture medium supports development of random-bred 1-cell mouse embryos in vitro. Journal of Reproduction and Fertility, 86: 679-688. (1989))を用いて37℃、5%CO2で培養した。

0030

先に調製しておいた精子懸濁液を12%ポリビニルピロリドンPVP)溶液に懸濁し、ピエゾパルスにより精子頭部のみを回収した。これらの精子頭部を未授精卵に注入することにより顕微授精を行った。授精後の卵子はCZB培地で24時間培養し、2細胞期に発生した胚を偽妊娠マウスへ移植した。これらのマウスは移植後18.5日で帝王切開し、子孫の有無を確認した。

0031

結果
精巣切片をスライドガラスとして保存し(図1a)、精子の回収を試みた。精子回収前の切片を顕微鏡により観察したところ、図1b,cのように精子形成を確認することができた。マイクロピペットにより切片を剥離後、細胞懸濁液を作製したところ(図1d)、尾部が切断された精子だが顕微授精可能な細胞懸濁液を調製することに成功した(図1e−g)。また、ヨウ化プロピジウム(PI)染色により精子を染色したところ、これらの精子は細胞としては死んでいることが明らかとなった(図1h)。

0032

次にこれらの精子細胞の授精・発生能を顕微授精ICSIにより確認した。10μmおよび25μmの精巣切片を−30℃で24時間(1日)保存しICSIを行ったところ、90%以上の胚で前核が形成され、そのうち60〜70%程度の胚が2細胞期胚へと発生した(表1)。これらの2細胞期胚を偽妊娠マウスへ移植したところ、移植した胚の10〜20%が正常な子孫へと発生した(表1、図1i)。以上の結果から、精巣切片から調製した精子は正常な授精・発生能を有していることが明らかとなった。

0033

さらに、1ヶ月保存した精巣切片から精子を調製し、ICSIを行ったところ、24時間保存の精子と同等の成績で子孫を作出することに成功した(表1)。また、この方法により得られたマウスを観察したところ、成長生殖能力に異常は認められず、正常なマウスが得られていると考えられる。これらの結果から、機能的な精子細胞を精巣凍結切片として保存可能なことが明らかとなった。

0034

また、全ての実験区において25μmの切片から調製した精子の方が10μmの切片から調製した精子より成功率が高かった(表1)。このことは切片化することにより精子がある程度のダメージを受けていることが示唆される。

0035

0036

本発明により、簡便かつ効率的な精子細胞の保存方法が提供される。

図面の簡単な説明

0037

凍結切片からの精子の回収とその子孫の作出を示す図である:スライドガラスで凍結保存した精巣切片。
凍結切片からの精子の回収とその子孫の作出を示す図である:保存した精巣切片(精子形成が確認できる)。
凍結切片からの精子の回収とその子孫の作出を示す図である:保存した精巣切片(精子形成が確認できる)。
凍結切片からの精子の回収とその子孫の作出を示す図である:精巣切片から調製した精子細胞。
凍結切片からの精子の回収とその子孫の作出を示す図である:精子(正常に近い精子細胞)
凍結切片からの精子の回収とその子孫の作出を示す図である:精子(尾部が切断された精子細胞)
凍結切片からの精子の回収とその子孫の作出を示す図である:精子(尾部が切断された精子細胞)
凍結切片からの精子の回収とその子孫の作出を示す図である:PI染色した精子細胞。
凍結切片からの精子の回収とその子孫の作出を示す図である:顕微授精により作出したマウス。

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