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技術 高張力厚鋼板の溶接継手

出願人 新日鐵住金株式会社
発明者 長谷川俊永大北茂皆川昌紀
出願日 2006年3月20日 (14年8ヶ月経過) 出願番号 2006-077029
公開日 2007年10月4日 (13年1ヶ月経過) 公開番号 2007-254767
状態 特許登録済
技術分野 鋼の加工熱処理
主要キーワード 中央切欠 再加熱段階 累積体積分率 停止能 シミュレーション試験 端部片 オーステナイト粒子 厚手鋼板
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課題

板厚が35mm以上の厚手高張力鋼板溶接した継手において、脆性破壊発生の破壊靱性値(Kc値)及び脆性破壊き裂伝播停止破壊靱性値(Kca値)の両方が良好な高張力鋼板の溶接継手を提供する。

解決手段

鋼板を、質量%で、C:0.01〜0.3%、Si:0.01〜2%、Mn:0.1〜3%、Al:0.003〜0.1%、N:0.001〜0.01%を含有すると共に、P:0.02%以下及びS:0.01%以下に規制し、残部がFe及び不可避不純物からなる組成とし、鋼板及びその溶接熱影響部における板厚の1/4の位置での2mmVノッチシャルピー衝撃特性破面遷移温度で−20℃以下とし、更に、鋼板の表面から板厚の1/6の位置までの範囲の降伏応力YPSと、板厚の1/4の位置から板厚中心までの範囲の降伏応力YPCとの比(YPS/YPC)を1.3以下にする。

概要

背景

近年、船舶及び海洋構造物等の溶接構造物の大型化に伴い、使用される鋼の高強度化及び厚手化が進められている。また、安全性の追求から、厚手高強度化の要求と共に低温靱性に対する要求も厳格化してきている。

低温靱性の厳格化は、シャルピー衝撃試験における試験温度低温下及び要求吸収エネルギーの増加にも反映されるが、より実際の構造物に近い全厚での大型破壊試験による破壊靱性値の要求も増加している。即ち、脆性破壊の発生破壊靱性(Kc値)については、母材だけでなく、溶接継手についても、全厚でのディープノッチ試験及びCTOD試験での保証が求められ、更に一旦発生した脆性き裂停止能力を表す脆性き裂伝播停止破壊靱性値としてのKca値を、最低限母材において保証することが求められている。

従来、継手の脆性破壊特性に関しては、溶接継手において靱性が最も劣化する可能性が高い溶接熱影響部(Heat Affected Zone:HAZ)の靱性に注目し、この部分の靭性を向上させるために、HAZの組織微細化を中心に金属組織学的な靱性向上が図られている。そして、その評価手段としては、鋼板の一定位置から採取された小型の試験片を使用したシャルピー衝撃試験が一般的であり、このシャルピー衝撃試験の結果を向上させるための金属組織学的手法が、鋼板全体の脆性破壊特性の向上にも適用されている。

しかしながら、母材においては、鋼板の組織、強度特性及び靱性が板厚方向に変化しており、HAZにおいては、さらに複雑な組織及び機械的性質分布を有している。このため、シャルピー衝撃特性で評価される全厚での破壊靱性値は、この複雑な組織及び機械的性質の分布の総合的特性として決定される。特に、母材が厚手材になる程、全厚で測定される破壊靱性値と、シャルピー衝撃試験のような小型試験との差が大きくなる。従って、シャルピー衝撃特性に基づいて、特定位置での靱性だけを向上させただけでは、必ずしもKc値及びKca値を直接的に向上させることができない場合もある。また、母材である鋼板の破壊靱性値及び継手全体としての破壊靱性値を、金属組織学的な手段だけで確実に向上させるためには、鋼板及び継手の全ての位置において靱性を高める必要がある。このため、高価な合金元素を多量に添加したり、TMCP技術を駆使したりする必要が生じ、製造コストの増加及び溶接性の劣化を伴う問題が生じる。

そこで、従来、靱性分布を制御することによって、鋼板全体の破壊靱性値を向上させる技術が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。この特許文献1に記載の溶接用構造用鋼板においては、Ni等の高価な元素を添加せずに、Kca特性及びNDT特性を両立させるため、粗圧延後表層部のみ冷却してAr1点以下とした後、板厚内部の顕熱により復熱しながら圧延することにより、表層から少なくとも0.1mm以上の範囲を、平均円相当径で3μm以下のフェライト粒からなり、かつそのフェライト粒の同一結晶方位を有する集合組織コロニーアスペクト比長径短径)が4以上の組織により構成している。

特開平5−148542号公報

概要

板厚が35mm以上の厚手高張力鋼板溶接した継手において、脆性破壊発生の破壊靱性値(Kc値)及び脆性破壊き裂伝播停止破壊靱性値(Kca値)の両方が良好な高張力鋼板の溶接継手を提供する。鋼板を、質量%で、C:0.01〜0.3%、Si:0.01〜2%、Mn:0.1〜3%、Al:0.003〜0.1%、N:0.001〜0.01%を含有すると共に、P:0.02%以下及びS:0.01%以下に規制し、残部がFe及び不可避不純物からなる組成とし、鋼板及びその溶接熱影響部における板厚の1/4の位置での2mmVノッチシャルピー衝撃特性を破面遷移温度で−20℃以下とし、更に、鋼板の表面から板厚の1/6の位置までの範囲の降伏応力YPSと、板厚の1/4の位置から板厚中心までの範囲の降伏応力YPCとの比(YPS/YPC)を1.3以下にする。

目的

本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、板厚が35mm以上の厚手高張力鋼板を溶接した継手において、脆性破壊発生の破壊靱性値(Kc値)及び脆性破壊き裂伝播停止破壊靱性値(Kca値)の両方が良好な高張力鋼板の溶接継手を提供することを目的とする。

効果

実績

技術文献被引用数
2件
牽制数
0件

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請求項1

板厚が35mm以上の高張力厚鋼板溶接して得た高張力厚鋼板の溶接継手において、前記鋼板とこの鋼板の溶接熱影響部を含む溶接部とからなり、前記鋼板は、質量%で、C:0.01〜0.3%、Si:0.01〜2%、Mn:0.1〜3%、Al:0.003〜0.1%、N:0.001〜0.01%を含有すると共に、P:0.02%以下及びS:0.01%以下に規制し、残部がFe及び不可避不純物からなり、前記鋼板及び前記溶接熱影響部は、板厚の1/4の位置での2mmVノッチシャルピー衝撃特性破面遷移温度で−20℃以下であり、かつ前記鋼板の表面から板厚の1/6の位置までの範囲の降伏応力YPSと、板厚の1/4の位置から板厚中心までの範囲の降伏応力YPCとの比(YPS/YPC)が1.3以下であることを特徴とする高張力厚鋼板の溶接継手。

請求項2

前記鋼板は、更に、質量%で、Ti:0.005〜0.03%及びCa:0.0005〜0.003%を含有し、かつ前記鋼板及び前記溶接熱影響部の組織中には、平均円相当径が0.005〜2μmの酸化物粒子が、単位面積当たり個数で、100〜3000個/mm2含まれていることを特徴とする請求項1に記載の高張力厚鋼板の溶接継手。

請求項3

前記鋼板は、更に、質量%で、Mg:0.0001〜0.002%を含有することを特徴とする請求項2に記載の高張力厚鋼板の溶接継手。

請求項4

前記鋼板におけるS含有量が、質量%で、0.002〜0.01%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の高張力厚鋼板の溶接継手。

請求項5

前記鋼板は、更に、質量%で、Ni:0.1〜6%、Cu:0.05〜1.5%、Cr:0.05〜2%、Mo:0.05〜2%、W:0.05〜2%、V:0.01〜0.2%、Nb:0.003〜0.1%、Ta:0.01〜0.2%、Zr:0.005〜0.1%及びB:0.0002〜0.005%からなる群から選択された1種又は2種以上の元素を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の高張力厚鋼板の溶接継手。

請求項6

前記鋼板は、更に、質量%で、Y:0.001〜0.01%及びCe:0.005〜0.1%からなる群から選択された1種又は2種以上の元素を含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の高張力厚鋼板の溶接継手。

技術分野

0001

本発明は、引張強さが490MPa以上で、板厚が35mm以上の高張力厚鋼板溶接して得た高張力厚鋼板の溶接継手に関する。

背景技術

0002

近年、船舶及び海洋構造物等の溶接構造物の大型化に伴い、使用される鋼の高強度化及び厚手化が進められている。また、安全性の追求から、厚手高強度化の要求と共に低温靱性に対する要求も厳格化してきている。

0003

低温靱性の厳格化は、シャルピー衝撃試験における試験温度低温下及び要求吸収エネルギーの増加にも反映されるが、より実際の構造物に近い全厚での大型破壊試験による破壊靱性値の要求も増加している。即ち、脆性破壊の発生破壊靱性(Kc値)については、母材だけでなく、溶接継手についても、全厚でのディープノッチ試験及びCTOD試験での保証が求められ、更に一旦発生した脆性き裂停止能力を表す脆性き裂伝播停止破壊靱性値としてのKca値を、最低限母材において保証することが求められている。

0004

従来、継手の脆性破壊特性に関しては、溶接継手において靱性が最も劣化する可能性が高い溶接熱影響部(Heat Affected Zone:HAZ)の靱性に注目し、この部分の靭性を向上させるために、HAZの組織微細化を中心に金属組織学的な靱性向上が図られている。そして、その評価手段としては、鋼板の一定位置から採取された小型の試験片を使用したシャルピー衝撃試験が一般的であり、このシャルピー衝撃試験の結果を向上させるための金属組織学的手法が、鋼板全体の脆性破壊特性の向上にも適用されている。

0005

しかしながら、母材においては、鋼板の組織、強度特性及び靱性が板厚方向に変化しており、HAZにおいては、さらに複雑な組織及び機械的性質分布を有している。このため、シャルピー衝撃特性で評価される全厚での破壊靱性値は、この複雑な組織及び機械的性質の分布の総合的特性として決定される。特に、母材が厚手材になる程、全厚で測定される破壊靱性値と、シャルピー衝撃試験のような小型試験との差が大きくなる。従って、シャルピー衝撃特性に基づいて、特定位置での靱性だけを向上させただけでは、必ずしもKc値及びKca値を直接的に向上させることができない場合もある。また、母材である鋼板の破壊靱性値及び継手全体としての破壊靱性値を、金属組織学的な手段だけで確実に向上させるためには、鋼板及び継手の全ての位置において靱性を高める必要がある。このため、高価な合金元素を多量に添加したり、TMCP技術を駆使したりする必要が生じ、製造コストの増加及び溶接性の劣化を伴う問題が生じる。

0006

そこで、従来、靱性分布を制御することによって、鋼板全体の破壊靱性値を向上させる技術が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。この特許文献1に記載の溶接用構造用鋼板においては、Ni等の高価な元素を添加せずに、Kca特性及びNDT特性を両立させるため、粗圧延後表層部のみ冷却してAr1点以下とした後、板厚内部の顕熱により復熱しながら圧延することにより、表層から少なくとも0.1mm以上の範囲を、平均円相当径で3μm以下のフェライト粒からなり、かつそのフェライト粒の同一結晶方位を有する集合組織コロニーアスペクト比長径短径)が4以上の組織により構成している。

0007

特開平5−148542号公報

発明が解決しようとする課題

0008

しかしながら、前述した従来の技術には、以下に示す問題点がある。特許文献1に記載の技術は、鋼板の表層部に靱性が極めて良好な超細粒組織を形成させて、鋼板全体としてのKca値を高める技術であるが、溶接継手としたときの破壊靱性値については考慮されていない。更に、従来、個々の位置での化学組成の調整及び組織制御によるシャルピー衝撃特性の向上だけでなく、鋼板の板厚方向又は継手全体における組織及び機械的性質の分布の総合的制御という観点で、母材のKca値に加えて、母材及び継手の脆性破壊発生の破壊靱性値(Kc値)を向上させる技術は、開発されていない。

0009

本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、板厚が35mm以上の厚手高張力鋼板を溶接した継手において、脆性破壊発生の破壊靱性値(Kc値)及び脆性破壊き裂伝播停止破壊靱性値(Kca値)の両方が良好な高張力鋼板の溶接継手を提供することを目的とする。

課題を解決するための手段

0010

本発明に係る高張力厚鋼板の溶接継手は、板厚が35mm以上の高張力厚鋼板を溶接して得た高張力厚鋼板の溶接継手において、前記鋼板とこの鋼板の溶接熱影響部を含む溶接部とからなり、前記鋼板は、質量%で、C:0.01〜0.3%、Si:0.01〜2%、Mn:0.1〜3%、Al:0.003〜0.1%、N:0.001〜0.01%を含有すると共に、P:0.02%以下及びS:0.01%以下に規制し、残部がFe及び不可避不純物からなり、前記鋼板及び前記溶接熱影響部は、板厚の1/4の位置での2mmVノッチシャルピー衝撃特性が破面遷移温度で−20℃以下であり、かつ前記鋼板の表面から板厚の1/6の位置までの範囲の降伏応力YPSと、板厚の1/4の位置から板厚中心までの範囲の降伏応力YPCとの比(YPS/YPC)が1.3以下であることを特徴とする。

0011

この溶接継手では、前記鋼板は、更に、質量%で、Ti:0.005〜0.03%及びCa:0.0005〜0.003%を含有しており、かつ前記鋼板及び前記溶接熱影響部の組織中には、平均円相当径が0.005〜2μmの酸化物粒子が、単位面積当たり個数で、100〜3000個/mm2含まれていてもよい。

0012

また、前記鋼板は、更に、質量%で、Mg:0.0001〜0.002%を含有することもできる。

0013

更に、前記鋼板におけるS含有量は、例えば、質量%で、0.002〜0.01%としてもよい。

0014

更にまた、前記鋼板は、更に、質量%で、Ni:0.1〜6%、Cu:0.05〜1.5%、Cr:0.05〜2%、Mo:0.05〜2%、W:0.05〜2%、V:0.01〜0.2%、Nb:0.003〜0.1%、Ta:0.01〜0.2%、Zr:0.005〜0.1%及びB:0.0002〜0.005%からなる群から選択された1種又は2種以上の元素を含有していてもよく、また、Y:0.001〜0.01%及びCe:0.005〜0.1%からなる群から選択された1種又は2種以上の元素を含有していてもよい。

発明の効果

0015

本発明によれば、引張強さが490MPa以上で、板厚が35mm以上の厚手高張力鋼板の溶接継手において、母材となる鋼板の組成を適正化すると共に、鋼板及び溶接熱影響部における板厚の1/4位置での低温靱性、及び母材における鋼板表層部と内部の各降伏応力の比を適正化しているため、脆性破壊発生の破壊靱性値(Kc値)及び脆性破壊き裂伝播停止破壊靱性値(Kca値)の両方を良好にすることができ、産業上の効果は極めて大きい。

発明を実施するための最良の形態

0016

以下、本発明を実施するための最良の形態について、詳細に説明する。本発明者は溶接継手の破壊靱性値の支配因子を詳細に検討し、従来から知られているように、比較的厚さの薄い溶接継手では、板厚の1/4位置でのシャルピー衝撃特性と、全厚の脆性破壊発生の破壊靱性値(Kc値)又は脆性破壊き裂伝播停止破壊靱性値(Kca値)との間には相関はあるものの、板厚が35mm以上の厚手の溶接継手においては、板厚の1/4位置でのシャルピー衝撃特性が同等でも、溶接継手の全厚のKc値及び/又はKca値が大きく異なる場合があることを確認した。また、この原因を鋼材の成分、組織及び機械的性質等から調べた結果、溶接継手の全厚におけるKc値及びKca値の破壊靱性値は、シャルピー衝撃特性の他に、特に、母材となる鋼板の板厚方向の降伏応力(YP)分布が、大きな影響していることを知見した。

0017

本発明は上記知見に基づき、溶接継手の母材である板厚が35mm以上の厚手の鋼板及びその溶接熱影響部における板厚の1/4位置での低温靱性、及び母材(鋼板)の表層部の降伏応力と内部の降伏応力との比を適正化することにより、溶接継手全厚のKc値及びKca値の破壊靱性値を向上するものであり、その要件とするところは下記に示す通りである。

0018

即ち、本発明の高張力厚鋼板の溶接継手(以下、単に溶接継手という。)は、板厚が35mm以上の高張力厚鋼板を溶接して得た継手であり、母材である鋼板と、この鋼板の溶接熱影響部を含む溶接部とにより構成される。そして、この鋼板は、質量%で、C:0.01〜0.3%、Si:0.01〜2%、Mn:0.1〜3%、P:0.02%以下、S:0.01%以下、Al:0.003〜0.1%、N:0.001〜0.01%を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなる組成を有する。また、鋼板及びその溶接熱影響部は、板厚の1/4の位置での2mmVノッチシャルピー衝撃特性が破面遷移温度で−20℃以下であり、かつ鋼板の表面から板厚の1/6の位置までの範囲の降伏応力YPSと、板厚の1/4の位置から板厚中心までの範囲の降伏応力YPCとの比(YPS/YPC)が下記数式(1)を満足するものである。

0019

0020

図1横軸に鋼板の表層部の降伏応力YPSと、鋼板の内部の降伏応力YPCとの比(YPS/YPC)をとり、縦軸に継手のKc値をとって、各破面遷移温度(vTrs)における継手のKc値とYPS/YPCとの関係を示すグラフ図であり、図2はシャルピー衝撃試験と大型破壊試験との違いを示す概念図である。なお、図1に示すKc値は、溶接継手の溶接金属と溶接熱影響部との境界フュージョンラインFL)において、図2に示すように全厚にノッチを入れたディープノッチ試験によって測定された−20℃におけるKc値である。また、破面遷移温度(vTrs)及び鋼板の表層部の降伏応力YPSと鋼板の内部の降伏応力YPCとの比(YPS/YPC)は、板厚のt/4位置を中心とする範囲のみにノッチを入れた2mmVノッチシャルピー衝撃試験によって測定した値である。

0021

また、鋼板の表層部の降伏応力YPSは、溶接継手の母材部である鋼板の表面から板厚の1/6位置までの範囲の降伏応力、鋼板の内部の降伏応力YPCは、板厚の1/4位置から板厚中心までの範囲の降伏応力を示す。これらの降伏応力YPS及びYPCの測定は、夫々鋼板の表面から板厚の1/6位置及び板厚の1/4位置から板厚中心までを試験片厚とする板状引張試験片を使用して行うことが好ましいが、鋼板が厚く、各試験片の厚さが引張試験機能力を超えてしまう場合は、夫々の範囲を分割して複数の板状又は丸棒引張試験片を採取し、これらの試験片を使用して試験を行った後、各分割位置での降伏応力を平均してもよい。

0022

更に、上述した測定に使用した溶接継手は、炭素当量が約0.3〜0.5質量%程度の種々の化学組成を有する高張力鋼を、熱間圧延する際に圧延条件又は圧延後の冷却・熱処理条件を変えることによって板厚方向の強度分布を変化させ、板厚が50mm、引張強度TSが490〜600MPaの厚手鋼板を製造し、これらの厚手鋼板を簡易エレガス溶接法により1パス大入熱溶接を行って作製した。

0023

図1に示すように、シャルピー試験により測定された板厚の1/4位置でのシャルピー衝撃特性(破面遷移温度:vTrs)が同程度の場合でも、ディープノッチ試験により測定された板厚全厚保における脆性破壊発生の破壊靭性(Kc値)は、鋼板の表層部と内部の降伏応力比(YPS/YPC)に影響を受ける。特に、上記数式(1)で定義される鋼板の表層部の降伏応力YPSと鋼板の内部の降伏応力YPCとの比(YPS/YPC)が1.3を超えて高くなると、継手のKc値は大きく低下する。これは、溶接継手が荷重を受けた際に、母材鋼板の表層部の降伏応力YPSが鋼板の内部の降伏応力YPCに比べて高く、上述した降伏応力比(YPS/YPC)が1.3を超えるような条件の場合には、鋼板の変形が拘束され、その結果、板厚中心部での局部応力が通常よりも上昇する。このような理由から、シャルピー衝撃試験のような小型試験で得られる板厚の1/4位置での低温靱性が良好であっても、Kc値が大きく低下ことがある。

0024

本発明者は、このような現象は、母材が板厚35mm以上の厚板の場合に特に顕著となり、化学組成及び微視組織にはよらず、また継手及び母材の違いによらず、更にディープノッチ試験及びCTOD試験で求められる脆性破壊発生の破壊靱性値(Kc値)だけでなく、2重引張試験及びESSO試験により測定される脆性き裂の伝播停止破壊靱性値(Kca値)においても同様であることを確認した。

0025

一方、図1に示すように、上記数式(1)で定義される鋼板の表層部の降伏応力YPSと鋼板の内部の降伏応力YPCとの比(YPS/YPC)が1.3以下の条件であっても、板厚の1/4位置でのシャルピー衝撃特性(vTrs)が低下することにより、脆性破壊発生の破壊靱性値(Kc値)は低下する。このため、目標とする脆性破壊発生の破壊靱性値(Kc値)を確保するためには、板厚の1/4位置でのシャルピー衝撃特性(vTrs)も良好にする必要がある。

0026

図1によれば、溶接継手における板厚の1/4位置でのシャルピー衝撃特性(vTrs)が−20℃以下を満足し、上記数式(1)式で定義される鋼板の表層部(鋼板の表面から板厚の1/6位置までの範囲)の降伏応力YPSと鋼板の内部(板厚の1/4位置から板厚中心までの範囲)の降伏応力YPCとの比(YPS/YPC)が1.3以下を満足する条件であれば、溶接継手の全厚における脆性破壊発生の破壊靱性値(Kc)を、3920N/mm1.5(400kgf/mm1.5)以上とすることができる。

0027

同様に、本発明者は、板厚50mmの厚手鋼板を溶接した溶接継手について、上述した降伏応力比(YPS/YPC)と、ESSO試験により測定される溶接継手における鋼板(母材)の脆性き裂の伝播停止破壊靱性値(Kca値)及び板厚の1/4位置でのシャルピー衝撃特性(vTrs)との関係についても検討し、この板厚の1/4位置でのシャルピー衝撃特性(vTrs)が−20℃以下を満足し、かつ降伏応力比(YPS/YPC)が1.3以下を満足する条件にしたとき、鋼板(母材)の全厚における脆性き裂の伝播停止破壊靱性値(Kca値)が3920N/mm1.5(400kgf/mm1.5)となる温度が−40℃以下となり、伝播停止破壊靱性も良好となることを確認している。

0028

以上の検討結果から、本発明においては、溶接継手の全厚における脆性破壊発生の破壊靱性値(Kc)及び溶接継手における鋼板の脆性き裂の伝播停止破壊靱性値(Kca値)を十分に向上するために、溶接継手における鋼板(母材)及び溶接熱影響部の夫々について、板厚の1/4位置での2mmVノッチシャルピー衝撃特性が破面遷移温度で−20℃以下を満足し、かつ鋼板の表面から板厚の1/6位置までの範囲の降伏応力YPSと、板厚の1/4位置から板厚中心までの範囲の降伏応力YPCとの比(YPS/YPC)が上記数式(1)の関係を満足することとした。

0029

なお、上述した降伏応力比(YPS/YPC)の下限は、脆性破壊発生の破壊靱性値(Kc)を向上させる点からは特に限定する必要はなく、鋼板の表層部の過度軟質化によって継手強度要求値を下回ることがない範囲で、この降伏応力比(YPS/YPC)を低下することができる。

0030

また、溶接継手の脆性破壊発生の破壊靱性値(Kc値)、脆性破壊き裂伝播停止破壊靱性値(Kca値)及びシャルピー衝撃特性は、以下の方法で測定することができる。脆性破壊発生の破壊靱性値(Kc値)は、例えば、ディープノッチ試験により求めることができる。具体的には、図2に示すように、突き合わせ継手から幅が400mm程度の試験片を作製し、溶接金属と母材鋼板の溶接熱影響部との境界部に先端径の小さい機械加工により鋼板全厚にわたる切欠き(以下、ノッチともいう)を、試験片の端部両側又は幅方向の中央部に設け、この切欠きに直角な方向に荷重をかけ、脆性破壊が発生したときの荷重から脆性破壊発生の破壊靱性値(Kc値)求める。

0031

脆性破壊き裂伝播停止破壊靱性値(Kca値)は、例えば、ESSO試験により求めることができる。具体的には、前述のディープノッチ試験とほぼ同様の試験片幅の全厚試験片に対して、試験片の端部片側にノッチを導入し、一定の予荷重をかけると共に、ノッチ部から試験片幅方向の反対側にわたって、ノッチから遠ざかるに伴い温度が上昇する温度勾配を設けた上で、ノッチ部に打ち込む等によって脆性破壊を発生させる。そして、この脆性破壊が停止した位置と荷重とから、脆性破壊停止時の応力拡大係数、即ち、脆性破壊き裂伝播停止破壊靱性値(Kca値)を求める。このように、上述の如く、脆性破壊発生の破壊靱性値(Kc値)及び脆性破壊き裂伝播停止破壊靱性値(Kca値)は、溶接継手の全厚試験片に対して測定されるため、通常、大型の試験装置が使用される。

0032

これに対して、シャルピー衝撃試験は、ディープノッチ試験及びESSO試験に比べて簡便な小型試験装置を使用することができ、試験片の厚さも標準的には10mm程度である。このため、板厚が厚い鋼板においては、全厚での靭性を表すものではなく、例えば、板厚の1/4位置での特定温度における吸収エネルギー及び破面遷移温度(vTrs)等によって、鋼材同士の靭性の相対評価及び簡便な品質管理として利用される。なお、シャルピー試験片は、き裂進展長さは最大でも8mmであり、また、ノッチもそれほど先端半径が小さくない機械ノッチであるため、シャルピー衝撃特性は脆性破壊の発生特性を表しているものと考えられる。

0033

本発明は、上述した溶接継手における鋼板(母材)及び溶接熱影響部の夫々について、板厚の1/4位置での2mmVノッチシャルピー衝撃特性が共に破面遷移温度で−20℃以下を満足し、かつ鋼板の表面から板厚の1/6位置までの範囲の降伏応力YPSと、板厚の1/4位置から板厚中心までの範囲の降伏応力YPCとの比(YPS/YPC)が、上記数式(1)の関係を満足するように、溶接継手の母材鋼板の化学組成を規定する必要がある。

0034

次に、本発明の溶接継手における母材鋼板の成分組成の限定理由について説明する。なお、本発明の溶接継手においては、溶接部のうち溶接金属を除いた部分、即ち、溶接熱影響部は、溶接材料溶融による成分混入はないため、その成分組成は以下に示す母材鋼板の成分組成と同じものとなる。また、以下の説明においては、特に説明のない限り、「%」は「質量%」を意味するものとする。

0035

C:0.01〜0.3%
Cは、鋼の強度を向上させる有効な成分として含有するものである。しかしながら、C含有量が0.01%未満では、溶接継手に必要な母材強度の確保が困難となる。一方、C含有量が0.3%を超える程の過剰の含有は、母材靱性が著しく劣化するため、脆性破壊発生の破壊靱性値(Kc値)及び脆性破壊き裂伝播停止破壊靱性値(Kca値)が共に劣化する。また、C含有量が0.3%を超えると、耐溶接割れ性も低下するため好ましくない。従って、C含有量は0.01〜0.3%の範囲とする。

0036

Si:0.01〜2%
Siは、鋼中の脱酸元素として、また、母材の強度確保に有効な元素である。しかしながら、Si含有量が0.01%未満の場合、これらに関して明確な効果が得られない。一方、Si含有量が2%を超える過剰の含有は、鋼中に粗大な酸化物を形成して母材の延性や靭性の劣化を招く。そこで、Siの含有量は0.01〜2%とする。

0037

Mn:0.1〜3%
Mnは、母材の強度及び靭性の確保に必要な元素であり、また、Sと結合して硫化物を形成し、更に、酸化物と複合化するか又は酸化物周囲に析出することにより、特に溶接熱影響部のピン止めによる加熱オーステナイト粒の微細化に効果をもたらす。
しかしながら、母材鋼板中のMn含有量が0.1%未満の場合、このような効果が得られない。一方、Mnを過剰に含有すると、具体的には、Mn含有量が3%を超えると、硬質相の生成及び粒界脆化等により、母材靱性、溶接部の靭性、更には溶接割れ性等が劣化する。よって、Mn含有量は0.1〜3%とする。

0038

Al:0.003〜0.1%
Alは、鋼中の脱酸として作用する他、Al酸化物を形成し、特に、溶接熱影響部においてピン止めによる加熱オーステナイト粒径細粒化に有効な元素である。しかしながら、Al含有量が0.003%未満の場合、加熱オーステナイト粒径の細粒化により靭性を高める効果が得られない、一方、Alを過剰に含有すると、具体的にはAl含有量が0.1%を超えると、溶接熱影響部においてピン止めによる加熱オーステナイトの微細化に有効なAl酸化物の微細分散が困難となり、逆に粗大な酸化物が形成するため靱性が劣化する。このため、Al含有量は0.003%〜0.1%とする。

0039

N:0.001〜0.01%
Nは、鋼中で固溶状態のときには、母材の延性及び靭性に悪影響を及ぼす。このため、母材の延性及び靭性を確保するためには、N含有量をできるだけ低減することが望ましい。具体的には、N含有量が0.01%を超えると、固溶Nが増加することによる延性及び靭性への悪影響が顕著となる。一方、鋼中のNを完全に除去することは工業的に不可能であり、Nを必要以上に低減することは、製造工程に過大な負荷をかけるため好ましくない。また、Nは、Al及び後述するTiと結合して窒化物を形成し、母材鋼板及びその溶接熱影響部においてオーステナイト粒の微細化や析出強化に有効に働くため、その含有量が微量であれば、母材鋼板の強度及び靭性等の機械的特性向上に有効である。しかしながら、N含有量が0.001%未満の場合、このような効果は得られない。よって、N含有量は、延性及び靭性への影響が許容でき、かつ工業的に制御が可能で、更に製造工程への負荷が許容できる範囲、即ち、0.001〜0.01%とする。

0040

P:0.02%以下
Pは、不純物元素であり、母材鋼板の機械的性質に対して有害であるため、極力低減する方が好ましい。特に、P含有量が0.02%を超えると、機械的性質が低下する。そこで、本発明の溶接継手においては、母材鋼板におけるP含有量を、実用上悪影響が許容できる量以下、即ち、0.02%以下に規制する。

0041

S:0.01%以下
Sも前述のPと同様に、母材鋼板の延性及び靱性に悪影響を及ぼす不純物元素であり、0.01%を超える量のSを含有すると、母材の延性や靱性が低下する。よって、S含有量は0.01%以下に規制する。また、Sは、Mn等と結合し、酸化物粒子の周囲にこれらの硫化物を形成することにより、特に溶接継手の溶接熱影響部においてピン止めにより加熱オーステナイト粒径の粗大化を抑制し、靭性を高める効果がある。この効果を発揮させるためには、S含有量を0.002%以上とすることが好ましい。更に、母材鋼板の延性及び靱性をより向上させるためには、S含有量を0.005%以下にすることが好ましい。

0042

以上が本発明の溶接継手の母材鋼板における基本的な成分組成の限定理由であるが、本発明の溶接継手においては、特に、母材鋼板及びその溶接熱影響部における低温靭性を向上させるために、母材中に上記各元素に加えて、Ti及びCaを含有させることもできる。

0043

Ti:0.005〜0.03%
Tiは、前述したAlと同様に脱酸作用を有する元素である。また、Tiは、Alに比べてOとの親和力が小さいため、Alに比べ鋼中に残存する酸化物は少ないが、Al酸化物を微細分散化させる作用を有するため、Alと共に添加することにより、特に溶接熱影響部においてピン止めによる加熱オーステナイト粒径の微細化を促進させ、靭性を高める効果がある。更に、Nと結合してTi窒化物を形成し、母材鋼板の強度及び靭性等の機械的特性を向上させる作用がある。しかしながら、Ti含有量が0.005%未満の場合、これらの効果を十分に発揮されない。一方、Ti含有量が0.03%を超えると、粗大なTiN及び酸化物を形成し、靭性が低下する虞がある。このため、本発明の溶接継手においては、母材鋼板にTiを含有させる場合は、その含有量を0.005〜0.03%とする。

0044

Ca:0.0005〜0.003%
Caは、Al及びTiよりも強い脱酸作用があり、Alと共に添加することにより、溶接熱影響部において酸化物を微細分散して加熱オーステナイトの微細化を促進し、更に靭性を高める効果がある。しかしながら、Ca含有量が0.0005%未満の場合、この効果が発揮されない。一方、Ca含有量が0.003%を超えると、粗大な硫化物及び酸化物が形成されるため、却って靭性が低下する虞がある。このため、本発明の溶接継手においては、母材鋼板にCaを含有させる場合は、その含有量を0.0005〜0.003%とする。

0045

また、本発明の溶接継手においては、母材中に上記各元素に加えて、Mgを含有させてもよい。

0046

Mg:0.0001〜0.002%
Mgは、前述のAl及びTiよりも強い脱酸作用があり、Alと共に添加することにより、溶接熱影響部において酸化物微細分散を促進させ、靭性を高める効果がある。しかしながら、Mg含有量が0.0001%未満の場合、この効果が得られない。一方、Mg含有量が0.002%を超えると、酸化物の粗大化し、却って靭性が低下することが懸念される。よって、母材鋼板にMgを含有させる場合は、その含有量を0.0001〜0.002%とする。

0047

本発明の溶接継手においては、更に、溶接継手における母材鋼板の強度及び靭性の調整のために、必要に応じて、上記各成分に加えて、Ni、Cu、Cr、Mo、W、V、Nb、Ta、Zr及びBからなる群から選択された1種又は2種以上の元素を含有することもできる。

0048

Ni:0.1〜6%
Niは、溶接継手における母材鋼板の強度及び靭性を共に向上することができ、極めて有益な元素である。しかしながら、Ni含有量が0.1%未満の場合、この効果が発揮されない。一方、Ni含有量が増加する程、母材鋼板の強度及び靭性は向上するが、Ni含有量が6%を超えるような過剰な添加は、その添加効果飽和すると共に、溶接性が劣化する懸念もあり、更には、Niは高価な元素であるため、経済性も低下する。よって、本発明の溶接継手においては、母材鋼板にNiを添加する場合は、その含有量を0.1〜6%とする。

0049

Cu:0.05〜1.5%
Cuも前述のNiとほぼ同様の効果を有する元素である。しかしながら、Cu含有量が0.05%未満の場合、その効果が発揮されない。一方、Cu含有量が1.5%を超えると、熱間加工性及びHAZ靭性に問題が生じる。このため、本発明の溶接継手においては、母材鋼板にCuを添加する場合は、その含有量を0.05〜1.5%とする。

0050

Cr:0.05〜2%
Crは、焼入性の向上及び固溶強化による強度向上に有効な元素であるが、母材鋼板中のCr含有量が0.05%未満の場合、その効果が得られない。一方、Crを過剰に含有させると、具体的には、Cr含有量が2%を超えると、硬さの増加及び粗大析出物の形成等により、母材鋼板及びHAZの靭性に悪影響を及ぼす。よって、母材鋼板にCuを添加する場合は、その含有量を0.05〜2%とする。

0051

Mo:0.05〜2%
Moも前述のCrと同様の効果を有し、強度向上に有効な元素である。しかしながら、Mo含有量が0.05%未満の場合はその効果が得られず、また、Mo含有量が2%を超えると、他の特性に悪影響を及ぼす。よって、母材鋼板にMoを添加する場合は、その含有量を、添加効果を発揮でき、更に他の特性に悪影響をおよぼさない範囲、即ち、0.05〜2%に限定する。

0052

W:0.05〜2%
Wも前述したCr及びMoと同様の効果によって強度の向上に有効な元素である。しかしながら、W含有量が0.05%未満の場合はその効果が得られず、また、W含有量が2%を超えると、他の特性に悪影響を及ぼす、よって、母材鋼板にWを添加する場合は、その含有量を、添加効果を発揮でき、更に他の特性に悪影響をおよぼさない範囲、即ち、0.05〜2%に限定する。

0053

V:0.01〜0.2%
Vは、主として析出強化により高強度化に寄与する元素である。しかしながら、V含有量が0.01%未満では、その効果が発揮されない。一方、Vを過剰に含有すると、具体的にはV含有量が0.2%を超えると、析出脆化により靭性が極端に劣化する。よって、本発明の溶接継手においては、母材鋼板にVを添加する場合は、その含有量を0.01〜0.2%の範囲に限定する。

0054

Nb:0.003〜0.1%
Nbは、変態強化及び析出強化により、微量でも高強度化に寄与する元素である。また、Nbは、オーステナイトの加工及び再結晶挙動に大きな影響を及ぼすため、母材鋼板の靭性向上にも有効である。しかしながら、Nb含有量が0.003%未満の場合、これらの効果が発揮されない。一方、Nbを過剰に含有すると、具体的には、Nb含有量が0.1%を超えると、靭性が極端に劣化する。よって、本発明の溶接継手においては、母材鋼板にNbを添加する場合は、その含有量を0.003〜0.1%の範囲に限定する。

0055

Ta:0.01〜0.2%
Taも前述のNbと同様の効果を有し、適正量を添加することにより、強度及び靭性の向上に寄与する。しかしながら、Ta含有量が0.01%未満では効果が明瞭には生ぜず、また、Ta含有量が0.2%を超える過剰な含有では、粗大な析出物に起因した靭性劣化が顕著となる。よって、母材鋼板にTaを添加する場合は、その含有量を0.01〜0.2%とする。

0056

Zr:0.005〜0.1%
Zrも強度向上に有効な元素であるが、その含有量が0.005%未満の場合、その効果が発揮されない。一方、Zrを過剰に含有すると、具体的には、Zr含有量が0.1%を超えると、粗大な析出物を形成して靭性に悪影響を及ぼす。よって、母材鋼板にZrを添加する場合は、その含有量を0.005〜0.1%とする。

0057

B:0.0002〜0.005%
Bは、極微量の添加で焼入性を高めることができる元素であり、高強度化に有効な元素である。また、Bは、固溶状態でオーステナイト粒界偏析することにより焼入性を高めるため、極微量でも有効に作用するが、B含有量が0.0002%未満では、粒界への偏析量を十分に確保できなくなり、焼入性向上効果が不十分となったり、効果にばらつきが生じたりすることがある。一方、B含有量が0.005%を超えると、鋼片製造時又は再加熱段階で粗大な析出物を形成する場合が多く、焼入性向上効果が不十分となったり、鋼片の割れ、析出物に起因した延性劣化及び靭性劣化を生じたりする危険性が増加する。そのため、本発明の溶接継手においては、母材鋼板にBを添加する場合は、その含有量を0.0002〜0.005%とする。

0058

更に、本発明の溶接継手においては、母材鋼板の延性向上及び継手靭性の向上等のために、必要に応じて、上記各成分に加えて、Y及び/又はCeを含有することもできる。

0059

Y:0.001〜0.01%,Ce:0.005〜0.1%
Y及びCeは、いずれも酸化物を微細化して、母材鋼板及び溶接熱影響部の延性向上及び靭性向上に有効に作用する元素である。しかしながら、Y含有量が0.001%未満又はCe含有量が0.005%未満の場合、その効果が発揮されない。一方、これらの元素を過剰に含有すると、具体的には、Y含有量が0.01%を超えるか、又はCe含有量が0.1%を超えると、硫化物及び酸化物が粗大化し、延性及び靭性の劣化を招く。よって、母材鋼板にY及び/又はCeを添加する場合は、夫々Y含有量を0.001〜0.01%、Ce含有量を0.005〜0.1%とする。

0060

以上が本発明の溶接継手における母材鋼板の成分組成に関する限定理由である。なお、本発明の溶接継手の母材鋼板における残部は、Fe及び不可避的不純物である。

0061

上記各母材成分のうち、Al、Ti、Ca及びMgは、上述したとおり、母材鋼板及びその溶接熱影響部において、ピン止めによる加熱オーステナイト粒を微細化する効果があるが、本発明の溶接継手においては、これらの効果をより安定して向上させるために、更に溶接継手の母材鋼板及び溶接熱影響部中に微細分散させる酸化物中の成分組成及び個数密度の好ましい範囲を規定する。

0062

Al、Ti、Ca及びMgの酸化物は、特に溶接時に高温に晒される溶接熱影響部において、ピン止めによるオーステナイト粒径の微細化を促進し、靭性向上に特に有効である。また、これらの酸化物は、母材においても加熱オーステナイト粒径の微細化により鋼の焼入性が低減されるため、鋼板の焼入及び加工熱処理において鋼板表面側の強度を過剰に高めず、その結果、鋼板表層部と内部との降伏応力の比を小さくすることで母材の破壊靭性の向上に寄与し得る。

0063

従来から、鋼中に存在する分散粒子は、高温においてオーステナイト粒界の移動をピン止めして粒成長を抑制し、再加熱オーステナイト粒の細粒化を促進させることが知られている。従来、このような作用をする分散粒子としては、Ti窒化物が知られている。しかしながら、Ti窒化物は、熱延工程では有効であるが、溶接時における1400℃以上の高温では固溶する割合が大きくなり、ピン止め効果が小さくなるため、再加熱オーステナイト粒の細粒化効果は十分に得られない。

0064

そこで、本発明の溶接継手では、溶接時に高温に晒される溶接熱影響部においても、固溶せずにピン止め粒子として安定して存在し得るAl、Ti、Ca及びMgの酸化物を活用する。

0065

一方、鋼材中のMn、Ca及びMgは、Sと結合して硫化物を形成し、上述した酸化物と複合化するか又はこれらの酸化物の周囲に析出することで、分散粒子のサイズを大きくし、上述したピン止めによる再加熱オーステナイト粒の細粒化を更に促進する効果がある。

0066

一般に、分散粒子による結晶粒界のピン止め効果は、鋼中に占める分散粒子の累積体積率が増加する程、また、1個当りの分散粒子のサイズが大きい程その効果が大きくなる。しかしながら、鋼中に占める分散粒子の累積体積率の増加は、分散粒子の構成元素の含有量によって限界がある。また、1個当りの分散粒子のサイズの増大は、分散粒子の累積体積率を低下及び材質に有害な粗大介在物となるため限度がある。

0067

分散粒子の構成元素であるO含有量及びS含有量が増大すると、酸化物又は酸化物と硫化物とからなる分散粒子は、材質に有害な粗大介在物が増加するため、好ましくない。そこで、本発明の溶接継手においては、O含有量を増大させずに酸化物ま又は酸化物と硫化物とからなる分散粒子の累積体積分率を増加するため、Oとの溶解度積が小さい、即ち、強脱酸元素であるAlを活用し、更にAlよりも強い脱酸元素であるCa、更には必要に応じてMgを活用する。

0068

また、Tiは、Al、Ca及びMgに比べて脱酸力は小さいが、TiをAl、Ca及びMgと共に添加することにより、Al、Ca及びMgの酸化物を微細分散させ、酸化物又は酸化物と硫化物からなる分散粒子の累積体積率の増加させる効果がある。

0069

本発明者のAlと、Ti、Ca及びMg等の脱酸元素の1種又は2種以上とを複合添加した溶解実験結果によれば、酸化物又は酸化物と硫化物とからなる分散粒子の累積体積率を増加させて、ピン止めによる再加熱オーステナイト粒の細粒化をより促進させるためには、鋼中に生成する酸化物の分散粒子の組成として、酸化物粒子中のOを除いた全成分元素の質量に対する割合(質量%)で、(1)AlとTi及びCaとを複合添加する場合は、Ca及びAlの含有量を夫々5%以上とし、(2)AlとTi、Ca及びMgとを複合添加する場合は、Ca及びAlの含有量を夫々5%以上とすると共に、Mgの含有量を1%以上とすることが好ましい。また、上述したCa及びMgは、硫化物の形成元素であるMnに比べて、Sとの溶解度積が小さい元素であり、酸化物と複合化するか又は酸化物周辺に析出する硫化物(MnS,CaS,MgS)を安定化させて、S含有量を増加させずに酸化物と硫化物とからなる分散粒子の累積体積分率を増加させる効果がある。

0070

また、本発明者のAlと、Ti、Ca及びMg等の脱酸元素の1種又は2種以上とを複合添加した溶解実験結果によれば、酸化物と硫化物とからなる分散粒子の累積体積率を増加し、ピン止めによる再加熱オーステナイト粒の細粒化をより促進させるためには、鋼中に生成する酸化物と硫化物とからなる分散粒子の組成として、酸化物粒子中のOを除いた全成分元素の質量に対する割合(質量%)で、(3)AlとTi及びCaを複合添加する場合は、Ca及びAlの含有量を夫々5%以上とすると共にS含有量を1%以上とし、(4)AlとTi、Ca及びMgとを複合添加する場合は、Ca及びAlの含有量を夫々5%以上とすると共にMg及びSの含有量を1%以上とすることが好ましい。

0071

次に、本発明の溶接継手における鋼板及び溶接熱影響部の組織中に存在する酸化物粒子の平均円相当径、及び単位面積当たりの個数(以下、個数密度ともいう。)の好ましい範囲の限定理由について説明する。なお、酸化物中にSを含む場合、酸化物と硫化物とが複合化している場合、酸化物を核として硫化物がこの酸化物の周囲に析出している場合のいずれの場合においても、オーステナイトの成長抑制には同等の効果を有する。このため、以下の粒子サイズ及び個数密度の説明において、酸化物の分散粒子と、酸化物と硫化物からなる分散粒子とは、特に断らない限り、同等に扱う。

0072

平均円相当径:0.005〜2μm
上述したように、溶接熱影響部の結晶粒界のピン止め効果は、鋼中に占める分散粒子の累積体積率が増加する程、また1個当りの分散粒子のサイズが大きい程、その効果が大きくなる。酸化物又は酸化物と硫化物とからなる分散粒子の大きさを変化させた溶接継手試験片を使用し、高温に加熱したときのオーステナイト粒径を詳細に調査した結果によれば、分散粒子の平均円相当径が0.005μm未満になると、分散粒子1個当りのピン止め効果が小さくなり、粒界に存在する分散粒子の割合が小さくなるため、加熱オーステナイト粒の微細化効果が安定して得られなくなる。一方、分散粒子の平均円相当径が2μmを超えると、鋼中に占める分散粒子の累積体積率が減少するため、同様に加熱オーステナイト粒の微細化効果が安定して得られなくなる。これらの理由から、大入熱溶接〜超大入熱溶接に相当する溶接時の加熱温度及び保持時間において、安定的にオーステナイト粒径をピン止めするためには、分散粒子のサイズを平均円相当径で0.005〜2μmとすることが好ましい。

0073

単位面積当たりの個数:100〜3000個/mm2
上述したように、溶接熱影響部の結晶粒界のピン止め効果は、鋼中に占める分散粒子の累積体積率が増加する程、また1個当りの分散粒子のサイズが大きい程、その効果が大きくなる。本発明者が酸化物又は酸化物と硫化物とからなる分散粒子の大きさが一定の条件で、その個数密度を変化させた溶接継手試験片を使用して、高温に加熱したときのオーステナイト粒径を詳細に調査した結果、分散粒子の大きさが前述した平均円相当径の範囲を満足していても、分散粒子の個数密度が100個/mm2未満になると、ピン止め効果が小さくなり、加熱オーステナイト粒の細粒化の安定した効果が得られなくなることがわかった。そして、本発明者の検討によれば、溶接部のうち、フュージョンライン(FL:溶融金属と溶接熱影響部との境界)から2mm以内の溶接熱影響部のオーステナイト粒径を、確実に200μm以下に細粒化するためには、粒子径が0.005〜2μmの粒子を100個/mm2以上とすることが好ましい。

0074

一方、分散粒子の個数密度が増加する程ピン止めによる組織単位は微細になり、溶接熱影響部の加熱オーステナイト粒子は微細化するが、分散粒子の個数密度が3000個/mm2を超えると、その効果は飽和し、却って延性及び靭性に有害な粗大な粒子が生成する可能性を高めることにもなる。このため、本発明の溶接継手においては、分散粒子の個数密度の上限を3000個/mm2とすることが好ましい。

0075

なお、上述した酸化物又は酸化物と硫化物とからなる分散粒子の大きさ及び個数密度(単位面積当たりの個数)の測定は、例えば、以下の要領で行なうことができる。先ず、溶接継手の母材となる鋼板及びその溶接熱影響部から抽出レプリカを作製し、その抽出レプリカを電子顕微鏡にて10000倍の倍率で20視野以上、観察面積にして1000μm2以上を観察することにより、この酸化物の大きさ及び個数を測定する。このとき、鋼板の表層部から中心部までの間であれば、どの部位から採取した抽出レプリカでもよい。また、粒子が適正に観察可能であれば、観察倍率を低くしても問題はない。

0076

次に、本発明の溶接継手において母材として使用される板厚が35mm以上の高張力厚鋼板を製造するための好ましい実施形態について説明する。本発明の溶接継手においては、上述した要件を満足する鋼板であれば、その製造方法については特に限定する必要はないが、上述した要件を満足する鋼板を製造するための好ましい方法及び条件を以下に示す。但し、本発明の溶接継手における金属組織学的要件及び力学的要件を満足するための方法は、下記に示す方法に限定されるものではない。

0077

上述した本発明の要件を満足できる鋼板製造方法としては、例えば、以下に示す(a)〜(f)の方法がある。

0078

(a) C:0.01〜0.3%、Si:0.01〜2%、Mn:0.1〜3%、Al:0.003〜0.1%、N:0.001〜0.01%を含有すると共に、P:0.02%以下及びS:0.01%以下に規制し、更に、必要に応じて、Ti:0.005〜0.03%及びCa:0.0005〜0.003%、Mg:0.0001〜0.002%、Ni:0.1〜6%、Cu:0.05〜1.5%、Cr:0.05〜2%、Mo:0.05〜2%、W:0.05〜2%、V:0.01〜0.2%、Nb:0.003〜0.1%、Ta:0.01〜0.2%、Zr:0.005〜0.1%及びB:0.0002〜0.005%からなる群から選択された1種又は2種以上の元素を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなる組成の鋼片を、AC3変態点〜1300℃に加熱した後、熱間圧延して、変態前の平均オーステナイト粒径を50μm以下とした上で、平均冷却速度を3〜100℃/秒として、Ar3変態点以上の温度から600℃〜200℃の温度範囲にまで加速冷却する。

0079

(b) 前述した(a)と同様の鋼組成の鋼片を、AC3変態点〜1300℃に加熱した後、オーステナイトの再結晶域又は部分再結晶域で熱間圧延して、平均オーステナイト粒径が100μm以下とし、更にこの状態からオーステナイトの未再結晶域において累積圧下率が30〜90%の熱間圧延を行う。その後、均冷却速度を3〜100℃/秒として、Ar3変態点以上から600℃〜200℃の温度範囲にまで加速冷却する。

0080

(c) 前述した(a)の方法において、オーステナイト域での熱間圧延に加えて、圧延開始時フェライト分率が10〜30%のフェライト/オーステナイト二相域で累積圧下率が10〜60%の圧延を行う。

0081

(d) 前述した(b)の方法において、オーステナイト域での熱間圧延に加えて、圧延開始時のフェライト分率が10〜30%のフェライト/オーステナイト二相域で累積圧下率が10〜60%の圧延を行う。

0082

(e) 前述した(a)〜(d)の熱間圧延及び加速冷却を行った後、必要に応じて、450℃〜AC1変態点の温度範囲で焼戻しを施す。

0083

なお、上述した(a)及び(c)の方法は、オーステナイトの状態が再結晶か、未再結晶かを問わない場合に好ましい製造条件であり、上述した(b)及び(d)の方法は、オーステナイトの状態をより限定した場合に好ましい製造条件である。

0084

また、焼戻し処理を施す場合は、誘導加熱によって表面の降伏応力を制御する方法も有効である。その際、誘導加熱による焼戻しの加熱温度は、表面温度で500℃〜AC1変態点の範囲とすることが好ましい。誘導加熱による焼戻しは、必要に応じて、前述した(a)〜(d)の方法で製造した鋼板に適用することも可能であるが、熱間圧延条件を(a)〜(d)のように限定せずに、以下に示す(f)の方法で製造した鋼板にも適用可能である。

0085

(f) 前述した(a)と同様の鋼組成の鋼片を、AC3変態点〜1300℃に加熱して熱間圧延した後、平均冷却速度を3〜100℃/秒として、400℃以下まで加速冷却する。

0086

通常の炉加熱焼戻しを必要に応じて施す場合には、前述した(a)〜(d)の熱間圧延及び加速冷却処理前提となる。一方、誘導加熱焼戻しの場合は、表層部の方が内部よりも焼戻しによる軟化が大となるため、表層部と内部の材質差を小さくする上で有利である。このため、前述の(a)〜(d)の方法によって鋼板を製造してもよいし、オーステナイト状態を特に規定しない方法、即ち、前述の(f)のように、鋼片をAC3変態点〜1300℃に加熱して熱間圧延した後で、平均冷却速度を3〜100℃/秒として、400℃以下まで加速冷却する方法を適用してもよい。

0087

以上が本発明の溶接継手における鋼板の要件についての詳細な説明である。本発明の溶接継手の母材鋼板は、大入熱溶接により溶接継手を作製しても、その溶接熱による鋼板の溶接熱影響部の組織粗大化を抑制し、必要な靱性を確保できることが可能であるため、溶接継手を作製する場合の溶接方法及び条件は問わない。即ち、本発明の溶接継手を製造する際は、母材鋼板を、MAG溶接等による多層盛溶接はもちろん、エレガス溶接及びエレクトロスラグ溶接等の1パス大入熱溶接で溶接したとしても,上述した効果が損なわれることはない。

0088

以上詳述したように、本発明の溶接継手においては、板厚が35mm以上の厚手の溶接継手の母材鋼板及び溶接熱影響部における板厚の1/4位置での低温靱性を適正化すると共に、母材鋼板の表層部の降伏応力YPSと内部の降伏応力YPCとの比(YPS/YPC)を適正化しているため、溶接継手全厚のKc値やKca値の破壊靱性値を向上することができる。

0089

以下、本発明の実施例により、本発明の効果を詳細に説明する。本実施例においては、下記表1に示す組成のインゴット及びスラブ等の形態の鋼片を、下記表2に示す条件で加工及び熱処理し、板厚が50〜80mmの厚手鋼板を作製した。なお、下記表1におけるNo.1〜No.10の鋼片は鋼組成が本発明の範囲内のものであり、No.11〜No.15の鋼片は鋼組成が本発明の範囲から外れているものである。そして、下記表1における下線は、本発明の範囲外であることを示す。また、下記表1に示す鋼組成における残部は、Fe及び不可避的不純物である。更に、下記表2におけるNo.A1〜No.A13の鋼板は、本発明の要件の全てを満足する実施例であり、No.B1〜No.B8の鋼板は、いずれかの要件が本発明の範囲から外れた比較例である。更にまた、下記表1には、昇温速度を2.5℃/分として各鋼片を昇温したときの加熱変態点も併せて示す。

0090

0091

0092

また、各鋼板の組織中に含まれる酸化物粒子の組成及び粒子径0.005〜2μmの粒子数を調べた。各鋼板の組織中に含まれる酸化物粒子の組成、大きさ及び個数は、鋼片と同じであり、その後の圧延及び熱処理等の加工条件には影響されない。即ち、同じ鋼片を使用している鋼板は、その組織中に含まれる酸化物粒子の組成、大きさ及び個数は同じとなる。このため、これらの測定は、各鋼片の板厚の1/4位置及び板厚中心部の夫々10箇所以上から試験片を採取し、この試験片から作製した抽出レプリカを電子顕微鏡にて観察することにより行った。その結果を下記表3に示す。なお、下記表3に示す酸化物組成は、Oを除いた全成分元素の質量に対する割合(質量%)である。

0093

0094

次に、上述の方法で作製した実施例及び比較例の各鋼板の機械的性質の評価、並びにこれらの鋼板を溶接して得た溶接継手のシャルピー衝撃特性の評価及びディープノッチ試験を行った。各鋼板(母材)の特性は、表層部及び内部の引張特性、シャルピー衝撃特性、及び全厚での温度勾配型ESSO試験による脆性き裂伝播停止特性(Kca)について調査した。

0095

引張試験は、試験片長手方向が圧延方向に平行となるように採取した板状引張試験片を使用し、室温下で行った。そして、表層部の引張特性は、試験片厚が鋼板表面〜板厚の1/6までとなるようにし、また内部の引張特性は、試験片厚が板厚の1/4〜板厚中心部までとなるようにして採取した試験片により測定した。

0096

また、シャルピー衝撃特性は、破面遷移温度(vTrs)により評価した。その際、シャルピー衝撃試験片は、引張試験片と同様に、試験片長手方向が圧延方向に平行となる方向で、表層部については試験片中心が鋼板表面から6mmの位置となるように、内部については試験片中心が鋼板の板厚1/4位置となるように採取した。

0097

更に、脆性き裂伝播停止特性は、温度勾配条件と負荷応力を種々変化させた複数の試験結果に基づいて、Kca値が3920N/mm1.5(400kgf/mm1.5)となる温度(Tkca400)で評価した。

0098

一方、溶接継手は、簡易エレクトロガス溶接機を使用し、鋼板原厚のままで、入熱が約30〜45kJ/mmの1パス溶接により作製した。そして、シャルピー衝撃試験は、試験片中心が鋼板板厚の1/4となる位置で、ノッチをFusion Lineに一致させた試験片を使用し、その破面遷移温度(vTrs)により評価した。また、溶接継手の破壊靭性値は、ディープノッチ試験により求めたKc値を使用した。更に、ディープノッチ試験は、板厚貫通中央切欠タイプの試験片で、Fusion Lineに切欠を導入し、−20℃で試験を行った。

0099

以上の結果を下記表4にまとめて示す。なお、下記表4に示すオーステナイト粒径は、再結晶域〜部分再結晶域圧延を終了した時点での平均オーステナイト粒径である。また、未再結晶上限温度は、100%未再結晶粒となる上限の温度であり、その再結晶率加速冷却開始直前での再結晶率とし、小型シミュレーション試験結果に基づいて推定した値である。更に、累積圧下率は、未再結晶上限温度〜Ar3変態点の温度範囲における圧延の累積圧下率であり、Ar3変態点は、未再結晶域圧延後、空冷での実測値である。更にまた、二相域圧延はAr3変態点未満の温度域での圧延であり、そのフェライト分率は、別途、二相域圧延開始前に途中焼入を行った実験による測定値である。更にまた、焼戻し方式は、炉加熱の場合は熱処理炉での焼戻しであり、誘導加熱の場合は高周波誘導加熱での焼戻しである。また、炉加熱においては、加熱温度での保持時間を10〜120分とし、誘導加熱においては保持はなしとし、いずれも冷却は空冷で行った。更にまた、焼戻し温度は、炉加熱の場合は加熱炉温度であり、高周波誘導加熱の場合は表面の実測値である。

0100

0101

上記表2〜4に示すように、実施例No.A1〜No.A13の鋼板は、本発明の要件を全て満足しているため、母材鋼板及び溶接継手共に、シャルピー衝撃試験による靭性が良好であり、かつ鋼板全厚で行う大型破壊靭性値も良好な値であった。

0102

これに対して、比較例No.B1〜No.B8の鋼板は、本発明のいずれかの要件を満足していないため、表4に示す機械的性質からも明らかなように、前述した実施例No.A1〜No.A13の鋼板と比べて、シャルピー衝撃特性及び破壊靭性値が共に劣っているか、又はシャルピー衝撃特性は良好であっても、大型破壊試験による破壊靭性値が劣っていた。

0103

具体的には、No.B1の鋼板は、C含有量が本発明の範囲を超えているため、母材鋼板及びHAZ共に、シャルピー衝撃試験による靭性値自体が著しく劣化しており、その結果、破壊靭性値が極めて低かった。また、No.B2〜No.B5の鋼板は、各々、Si、Mn、P又はSの含有量が本発明の範囲を超えているため、C含有量が過剰である場合と同様の理由により、良好な破壊靭性値が得られなかった。更に、No.B6〜No.B8の鋼板は、鋼組成は本発明の範囲内であるため、母材鋼板及びHAZ共に十分に高い靭性が得られているが、鋼板の製造方法が適切でないために、鋼板表層部の降伏応力が内部の降伏応力に比べて過大となっている。このため、表層部の降伏応力と内部の降伏応力との比(YPS/YPC)が1.3以下という本発明の要件の1つを満足しておらず、その結果、全厚で測定される母材鋼板の脆性亀裂伝播停止特性(Kca値)及び継手の脆性破壊発生特性(Kc値)が、同様の鋼組成を有する実施例の鋼板と比べて大きく劣っていた。

0104

以上の結果から、本発明の溶接継手は、母材鋼板及び溶接継手において、シャルピー衝撃試験による靭性だけでなく、全厚で測定され、良好な特性を得ることが容易でない大型破壊試験による破壊靭性値も極めて良好であることが確認された。

図面の簡単な説明

0105

横軸に鋼板の表層部の降伏応力YPSと、鋼板の内部の降伏応力YPCとの比(YPS/YPC)をとり、縦軸に継手のKc値をとって、各破面遷移温度(vTrs)における継手のKc値とYPS/YPCとの関係を示すグラフ図である。
シャルピー衝撃試験と大型破壊試験との違いを示す概念図である。

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