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技術 熱疲労特性に優れたフェライト系ステンレス鋼材および自動車排ガス経路部材

出願人 日新製鋼株式会社トヨタ自動車株式会社
発明者 奥学冨田壮郎鷲見洋介田中健久
出願日 2004年10月20日 (16年2ヶ月経過) 出願番号 2004-305767
公開日 2006年5月11日 (14年7ヶ月経過) 公開番号 2006-117985
状態 特許登録済
技術分野 薄鋼板の熱処理
主要キーワード 上流部材 金属組織状態 中温度域 排ガス部材 排ガス経路部材 フェライト系ステンレス鋼材 延性脆性遷移温度 センターパイプ
関連する未来課題
重要な関連分野

この項目の情報は公開日時点(2006年5月11日)のものです。
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課題

比較的安価な成分組成において熱疲労特性を改善したフェライト系ステンレス鋼材、およびそれを用いた自動車排ガス経路部材を提供する。

解決手段

質量%で、C:0.03%以下、Cr:10〜20%、Ti:0.05〜0.30%、Nb:0.10〜0.60%、Cu:0.8〜2.0%であり、下記式(1)および式(2)を満たす組成を有し、長径0.5μm以上のε−Cu相が10個/25μm2以下に調整された組織を有する熱疲労特性に優れたフェライト系ステンレス鋼材。Nb−8(C+N)≧0…(1)、10Si+20Mo+30Cu+20(Ti+V)+160Nb−(Mn+Ni)≧100…(2)。これを用いた自動車排ガス経路部材としては、例えばエキゾーストマニホールド触媒コンバーターフロントパイプまたはセンターパイプを構成するものが好適な対象となる。

概要

背景

自動車排ガス経路部材のうち、特に使用中に700℃以上に昇温されるような上流側の部材には、いうまでもなく700℃を超える高温領域での耐熱性が要求される。そこで、従来一般的には、例えば700〜1000℃といった高温域での高温強度を高めることを主眼に材料開発が行われてきた。また、自動車排ガス経路部材は、エンジン起動・停止に伴って高温域への昇温と常温への降温という熱サイクルを繰り返し受ける。このため、昇温過程冷却過程で通過する500〜700℃の中温域での強度も重要であり、500〜1000℃の広い温度領域で高温強度を向上させる成分設計が研究されている。

一方、自動車排ガス経路部材は、繰り返しの昇温・降温に対する抵抗力として熱疲労特性に優れることも重要であるとの見地から、特許文献1ではフェライト系ステンレス鋼において600〜750℃の中温度域での強度向上が熱疲労特性の向上につながるとして、中温度域での強度低下の防止を図っている。その主たる手段は鋼中にCuを1〜3%含有させ、中温度域でCuの微細析出物を生成させるものである。

また、特許文献2でもフェライト系ステンレス鋼にCuを1.0〜1.7%含有させ、加熱中にこれを析出させることで700℃あるいは800℃での高温強度の向上を図っている。

特許第3468156号公報
国際公開第03/004714号パンフレット

概要

比較的安価な成分組成において熱疲労特性を改善したフェライト系ステンレス鋼材、およびそれを用いた自動車排ガス経路部材を提供する。質量%で、C:0.03%以下、Cr:10〜20%、Ti:0.05〜0.30%、Nb:0.10〜0.60%、Cu:0.8〜2.0%であり、下記式(1)および式(2)を満たす組成を有し、長径0.5μm以上のε−Cu相が10個/25μm2以下に調整された組織を有する熱疲労特性に優れたフェライト系ステンレス鋼材。Nb−8(C+N)≧0…(1)、10Si+20Mo+30Cu+20(Ti+V)+160Nb−(Mn+Ni)≧100…(2)。これを用いた自動車排ガス経路部材としては、例えばエキゾーストマニホールド触媒コンバーターフロントパイプまたはセンターパイプを構成するものが好適な対象となる。なし

目的

効果

実績

技術文献被引用数
4件
牽制数
4件

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請求項1

質量%で、C:0.03%以下、Si:1.0%以下、Mn:1.5%以下、Ni:0.6%以下、Cr:10〜20%、Ti:0.05〜0.30%、Nb:0.10〜0.60%、Mo:0〜0.10%未満、Cu:0.8〜2.0%、Al:0〜0.10%、B:0.0005〜0.02%、V:0〜0.20%、N:0.03%以下、残部Feおよび不可避的不純物からなり、下記式(1)および式(2)を満たす組成を有し、長径0.5μm以上のε−Cu相が10個/25μm2以下に調整された組織を有する熱疲労特性に優れたフェライト系ステンレス鋼材。Nb−8(C+N)≧0…(1)10Si+20Mo+30Cu+20(Ti+V)+160Nb−(Mn+Ni)≧100…(2)

請求項2

前記鋼材鋼板である請求項1に記載の熱疲労特性に優れたフェライト系ステンレス鋼材。

請求項3

請求項1に記載の鋼材を用いた自動車排ガス経路部材

請求項4

当該部材はエキゾーストマニホールド触媒コンバーターフロントパイプまたはセンターパイプを構成するものである請求項3に記載の自動車排ガス経路部材。

請求項5

当該部材はエンジン作動中に700℃以上の温度に昇温され、エンジン停止後に前記昇温温度から400℃まで平均冷却速度0.1〜30℃/秒で冷却されるものである請求項3または4に記載の自動車排ガス経路部材。

技術分野

0001

本発明は、熱疲労特性に優れたフェライト系ステンレス鋼材、およびそれを用いた自動車排ガス経路部材に関する。特に排ガス経路上流部を構成して、自動車使用時に700℃以上に昇温される部材が好適な対象となる。

背景技術

0002

自動車の排ガス経路部材のうち、特に使用中に700℃以上に昇温されるような上流側の部材には、いうまでもなく700℃を超える高温領域での耐熱性が要求される。そこで、従来一般的には、例えば700〜1000℃といった高温域での高温強度を高めることを主眼に材料開発が行われてきた。また、自動車排ガス経路部材は、エンジン起動・停止に伴って高温域への昇温と常温への降温という熱サイクルを繰り返し受ける。このため、昇温過程冷却過程で通過する500〜700℃の中温域での強度も重要であり、500〜1000℃の広い温度領域で高温強度を向上させる成分設計が研究されている。

0003

一方、自動車排ガス経路部材は、繰り返しの昇温・降温に対する抵抗力として熱疲労特性に優れることも重要であるとの見地から、特許文献1ではフェライト系ステンレス鋼において600〜750℃の中温度域での強度向上が熱疲労特性の向上につながるとして、中温度域での強度低下の防止を図っている。その主たる手段は鋼中にCuを1〜3%含有させ、中温度域でCuの微細析出物を生成させるものである。

0004

また、特許文献2でもフェライト系ステンレス鋼にCuを1.0〜1.7%含有させ、加熱中にこれを析出させることで700℃あるいは800℃での高温強度の向上を図っている。

0005

特許第3468156号公報
国際公開第03/004714号パンフレット

発明が解決しようとする課題

0006

前述したような、500〜1000℃といった広い範囲で高温強度を上昇させる思想では、特殊元素を多量に添加した成分設計に頼らざるを得ず、素材コストが高くなる。また、成形加工性についても不利になる。

0007

特許文献1、2のCuを添加する手法では、Cu析出相による析出硬化を利用して600℃あるいは700〜800℃の温度域鋼材の強度向上が図られている。
しかし、発明者らが詳細な検討を行ったところ、単にCuを適量添加したフェライト系ステンレス鋼の焼鈍材を製造してみても、700℃を超える温度への昇温と常温への降温を繰り返す自動車排ガス経路上流部材において、必ずしも満足できる熱疲労特性が再現性良く実現できるとは限らなかった。

0008

本発明は、フェライト系ステンレス鋼材において、自動車排ガス経路上流部材を想定した場合の基本的な高温強度レベルと成形加工性、さらには低温靱性具備しつつ、部材の耐久性に大きく関わる「熱疲労特性」を、比較的安価な成分設計により安定的に改善する技術を開発し、その技術を適用した鋼材および自動車排ガス部材を提供しようというものである。

課題を解決するための手段

0009

発明者らは種々検討の結果、自動車排ガス経路上流部材の耐久性・信頼性を向上させるには、総合的にみて、熱疲労特性を安定的に改善することが極めて有利であることを知見した。700℃を超える高温域の基本的耐熱性(高温強度や耐酸化性)は従来からの技術の積み重ねにより、現時点ではかなり高水準にある。これをさらに向上させるには特殊元素の添加など多大なコスト増を必要とする。一方、自動車使用時の昇温・降温の熱サイクルに耐えうる耐久性(熱疲労特性)には未だ改善の余地が大きく、現状ではこの点を改善することが自動車排ガス経路上流部材の耐久性・信頼性向上に極めて効果的であると考えられる。

0010

発明者らの詳細な研究の結果、Cuを添加したフェライト系ステンレス鋼材において、排ガス部材として実際の使用に供される前の段階で、Cuの析出物(ここでは「ε−Cu相」という)の存在形態をある特定の状態にしておくことによって、その後の昇温および降温の繰り返しサイクルにおいて熱疲労特性が安定して改善されることがわかった。本発明はこのような知見に基づいて完成したものである。

0011

すなわち、本発明で提供する熱疲労特性に優れたフェライト系ステンレス鋼材(例えば鋼板)は、質量%で、C:0.03%以下、Si:1.0%以下、Mn:1.5%以下、Ni:0.6%以下、Cr:10〜20%、Ti:0.05〜0.30%、Nb:0.10〜0.60%、Mo:0〜0.10%未満、Cu:0.8〜2.0%、Al:0〜0.10%、B:0.0005〜0.02%、V:0〜0.20%、N:0.03%以下、残部Feおよび不可避的不純物からなり、下記式(1)および式(2)を満たす組成を有し、長径0.5μm以上のε−Cu相が10個/25μm2以下に調整された組織を有するものである。
Nb−8(C+N)≧0 …(1)
10Si+20Mo+30Cu+20(Ti+V)+160Nb−(Mn+Ni)≧100 …(2)

0012

ここで、Mo、AlおよびVの下限0%は、製鋼工程で行う通常の分析手法でこれらの元素の含有量測定限界以下の場合である。ε−Cu相の存在は鋼材の圧延方向に垂直な断面(C-断面)の試料についての透過型電子顕微鏡観察によって確かめることができる。式(1)(2)の元素記号の箇所には質量%で表された当該元素の含有量が代入される。

0013

また、本発明では前記鋼材で構成される自動車排ガス経路部材が提供される。当該部材は、例えば前記鋼材である鋼板に曲げ溶接造管などの加工を施して製造される。その自動車排ガス経路部材としては、例えばエキゾーストマニホールド触媒コンバーターフロントパイプまたはセンターパイプを構成するものが挙げられ、特に、エンジン作動中に700℃以上の温度に昇温され、エンジン停止後に前記昇温温度から400℃まで平均冷却速度0.1〜30℃/秒で冷却される部材が好ましい適用対象となる。

発明の効果

0014

本発明によれば、Mo等の高価な元素に頼ることなくフェライト系ステンレス鋼材の熱疲労特性を顕著に改善することができた。この鋼材は、700℃を超える高温域で必要以上に高温強度を高めることを避けた合理的な成分設計を採用し、700℃を超える高温域への昇温および常温への降温を繰り返す用途で優れた耐久性を発現するものである。また鋼板として提供されるものは曲げ加工や溶接造管が可能で、低温靱性も良好である。このため、このフェライト系ステンレス鋼材は、自動車排ガス経路部材の、特に700℃を超える温度に昇温する上流部材に好適である。そして、この鋼板を用いた自動車排ガス経路部材は、材料コストの低減および耐久性・信頼性の向上を同時に実現するものである。

発明を実施するための最良の形態

0015

例えば自動車排ガス経路の上流部材のように、700℃、あるいは800℃を超えるような高温に曝されて使用される部材に用いるフェライト系ステンレス鋼材では、従来一般的に、そのような高温域での高温強度および耐酸化性を向上させることを重視して成分設計がなされてきた。そのためには高価な元素の添加が不可欠であり、素材コストの増大が避けられなかった。

0016

しかしながら発明者らの詳細な検討によれば、自動車排ガス経路部材のように頻繁に高温域への昇温と常温への降温が繰り返される用途においては、部材の耐久寿命を総合的に考慮すると、500℃から例えば900℃までといった、広範囲での高温強度を、いわばオールラウンドに向上させることよりも、むしろ500〜700℃の中温域における熱疲労特性を改善することの方が、耐久性・信頼性の向上および低コスト化に有利であることがわかってきた。

0017

本発明ではその熱疲労特性を改善するために、Cuを添加したフェライト系鋼において、ε−Cu相の析出を利用する。Cuを例えば1〜2質量%程度添加したフェライト系ステンレス鋼においては、600℃前後の中温域でε−Cu相の析出が起こり、これがマトリックス中に微細分散しているとき析出強化現象が発現する。温度が900℃程度を超えるとε−Cu相のマトリックス中への固溶化が進む。そして、その後の降温過程で再び析出する。

0018

従来からε−Cu相の析出を利用して中温域の強化を図った例はある(特許文献1、2)。しかし、これらを自動車排ガス経路の上流部材に使用した場合、熱疲労特性は必ずしも安定して改善されるとは限らず、信頼性の面で満足できなかった。発明者らはこの問題を解消すべく種々検討した結果、自動車排ガス経路に搭載されて最初の昇温・降温履歴を受ける前の段階(以下「初期段階」ということがある)における鋼材の金属組織状態が、その後の使用における熱疲労特性に重大な影響を与えることを突き止めた。

0019

すなわち、鋼板素材を加工して自動車排ガス経路上流部材にする場合であれば、部材へ成形加工する前の鋼板段階において、長径0.5μm以上のε−Cu相が10個/25μm2以下(すなわち25μm2当たり10個以下)に調整された組織状態を実現しておけばよい。5個/25μm2以下であることが一層好ましい。

0020

長径0.5μm以上のε−Cu相が10個/25μm2より多く存在していると、部材に加工後、実際の使用時での最初の昇温において、例えば800℃以上といったエンジン稼働時の温度に到達したときにε−Cu相の固溶化が十分に起こらないケースが出てくる。この場合、エンジンを停止すると、既にかなりのε−Cu相が存在している状態で降温を開始することになる。そうすると、降温過程では既に存在するε−Cu相の表面を主たる析出サイトとして新たなε−Cu相の析出が起こるので、微細分散による十分な析出強化が発現しない。つまり、熱疲労特性を左右する降温過程での強度が十分に確保されない。そして、次回の昇温時にはこの粗大化したε−Cu相が存在する組織状態から昇温が始まるので、その後、昇温・降温の熱サイクルを繰り返す過程で、ε−Cu相が微細分散した組織状態はいつまでたってもなかなか実現しないことになる。その結果、熱疲労特性の改善は達成されない。

0021

一方、初期段階で長径0.5μm以上のε−Cu相は0個/25μm2(実質的に観察されない状態)であることが望ましいが、それより小さいε−Cu相がマトリックス中に分散して存在していても構わない。微細なε−Cu相が存在しても、排ガス経路部材としての最初の昇温過程で再固溶し、続く冷却過程でε−Cu相がマトリックス中に微細析出して、析出強化現象が発現する。

0022

長径0.5μm以上のε−Cu相が10個/25μm2以下に調整された組織状態は、鋼材の製造段階で行われる仕上焼鈍冷却速度を大きくすることで実現できる。ただし、冷却速度が大きすぎるとCuは完全に固溶したままとなり、微細なε−Cu相の分散した組織状態にはならず、好ましくない。発明者らの実験では、後述の成分組成を有するフェライト系ステンレス鋼板の製造工程において、連続ラインにて950〜1050℃×均熱0秒〜均熱60秒の仕上焼鈍を施す場合の例では、900℃から400℃までの平均冷却速度を10〜30℃/秒にコントロールすることで、望ましい組織状態が得られた。

0023

以下、成分組成について説明する。
CおよびNは、一般的にはクリープ強度等の高温強度向上に有効な元素とされるが、過剰に含有すると酸化特性加工性、低温靱性、溶接性が低下する。本発明ではC、Nとも0.03質量%以下に制限する。

0024

Siは、高温酸化特性の改善に有効であるが、過剰に添加すると硬さが上昇し、加工性、低温靱性が低下する。本発明ではSi含有量は1.0質量%以下に制限される。

0025

Mnは、高温酸化特性、特に耐スケール剥離性を改善する。ただし過剰添加は加工性、溶接性を阻害する。またMnはオーステナイト安定化元素であるため、多量に添加するとマルテンサイト相が生成し易くなり、熱疲労特性、加工性の低下要因となる。このためMn含有量は1.5質量%以下とする。

0026

Crは、フェライト相を安定化するとともに、高温材料に重視される耐酸化性の改善に寄与する。ただし、過剰のCr含有は鋼材の脆化や加工性劣化を招く。このためCr含有量は10〜20質量%とする。Cr含有量は、好ましくは材料の使用温度に合わせて調整される。例えば、950℃までの優れた耐高温酸化性を要求する場合は16質量%以上のCr含有が望まれ、900℃までであれば12〜16質量%の範囲で良い。

0027

Tiは、成形性の改善に有効である。そのメカニズムは必ずしも明確ではないが、熱延板熱処理する際にNb−Ti系析出物を生成させると冷延焼鈍板の成形性が著しく向上することから、この析出現象が成形性の改善に有効な集合組織すなわち圧延面に平行に(111)面または(211)面が集積した集合組織の形成に寄与しているものと推察される。析出物自体が直接作用するか、析出物の生成に伴う固溶Cの減少が作用することが考えられる。
しかし、過剰のTi添加はTiNの生成に起因する表面性状の劣化を招き、溶接性、低温靱性にも悪影響を及ぼすようになる。Ti含有量は0.05〜0.30質量%に規定される。

0028

Nbは、700℃を超える高温域での高温強度を確保するために非常に有効な元素である。本成分系では固溶強化による寄与が大きいと考えられる。ただし、過剰のNb添加は加工性、低温靱性の劣化、溶接高温割れ感受性の増大を招き、好ましくない。Nb含有量は0.10〜0.60質量%に規定される。

0029

Moは、高温強度の向上に有効な面もあるが、本発明では高価なMoを特に必要としない。多量のMo含有は加工性、低温靱性、溶接性を劣化させる。Mo含有量は0.10質量%未満に制限される。

0030

Cuは、本発明において重要な元素である。すなわち、本発明では前述のようにε−Cu相の微細分散析出現象を利用して500〜700℃の中温域での強度を高め、熱疲労特性を向上させる。そのためには少なくとも0.8質量%のCu含有が必要となる。ただし過剰のCu含有は加工性、低温靱性、溶接性を低下させるのでCu含有量の上限は2.0質量%に制限される。

0031

Alは、脱酸剤であるとともに、耐高温酸化性を改善する。しかし、多量にAlを含有させると表面性状、加工性、溶接性、低温靱性に悪影響を及ぼす。このため、Alを添加する場合は0.10質量%以下の含有量範囲で行う。

0032

Bは、二次加工脆性を改善するために有効である。そのメカニズムは粒界固溶Cの減少や粒界強化によるものと推察される。しかし、過剰なB添加は製造性や溶接性を劣化させる。本発明では0.0005〜0.02質量%の範囲でBを含有させる。

0033

Vは、Nb、Cuとの複合添加によって高温強度の向上に寄与する。また、Nbとの共存により、加工性、低温靱性、耐粒界腐食感受性溶接熱影響部の靱性を改善する。ただし、過剰添加すると却って加工性、低温靱性を招くようになる。したがって、Vを添加する場合は0.20質量%以下の範囲で行う。V含有量は0.03〜0.20質量%の範囲とすることが望ましく、0.04〜0.15質量%とすることが一層好ましい。

0034

各元素の含有量を以上の範囲にすると共に、下記式(1)および式(2)を満たすように組成調整する必要がある。
Nb−8(C+N)≧0 …(1)
10Si+20Mo+30Cu+20(Ti+V)+160Nb−(Mn+Ni)≧100 …(2)
ここで、式(1)は固溶Nbを確保するための規定であり、式(2)は基本的な高温強度を確保するための規定である。

0035

本発明のフェライト系ステンレス鋼材は、例えば上記のように組成調整された鋼を溶製し、熱間圧延→焼鈍→酸洗の工程、あるいは更に、「冷間圧延→焼鈍→酸洗」を1回または複数回行う工程で製造することができる。ただし、前記のようなε−Cu相の析出形態を得るためには、仕上焼鈍において、900℃から400℃までの平均冷却速度を10〜30℃/秒の範囲にコントロールすることが望ましい。ここで、「仕上焼鈍」とは、鋼材の製造段階で行われる最後の焼鈍であり、例えば950〜1050℃で均熱0〜3分保持する熱処理が挙げられる。

0036

このようにして得られた鋼材に成形加工や溶接を施し、自動車排ガス経路部材を製造する。例えば、エキゾーストマニホールドやフロントパイプの場合、所望の板厚の鋼板を溶接造管し、必要に応じて曲げ加工等を施して部材とすることができる。

0037

表1に示すフェライト系ステンレス鋼を溶製し、熱間圧延→熱延板焼鈍→冷間圧延→仕上焼鈍→酸洗の工程で板厚2mmの焼鈍鋼板を得た。また、鋳造スラブの一部を用いて熱間鍛造にて直径約25mmの丸棒を作り、これを仕上焼鈍した。冷間圧延後の仕上焼鈍、および熱間鍛造後の仕上焼鈍は、鋼No.10を除き、いずれも1000℃×1分保持後、900℃から400℃までの平均冷却速度が10〜30℃/秒となるように冷却速度をコントロールした。鋼No.10では、1000℃×1分保持後、900℃から400℃までの平均冷却速度を約50℃/秒と遅くした(圧延材棒材とも共通条件)。

0038

0039

仕上焼鈍後の板材および棒材について、それぞれ圧延方向および長手方向に垂直な断面における金属組織観察を行った。透過型電子顕微鏡を用いてε−Cu相のサイズを調べ、25μm2当たりに観察される長径0.5μm以上のε−Cu相の数を求めた。1つの試料につき少なくとも10視野の観察を行い、平均を採った。長径0.5μm以上のε−Cu相が10個/25μm2以下のものを○、それ以外のものを×として、表2に結果を示してある。各鋼とも、板材と棒材との間で結果に差はなかったため、表2に示すε−Cu量の評価は板材、棒材のいずれにも当てはまる

0040

板材を用い、常温での引張試験を実施して加工性を評価した。引張方向は圧延方向に対し0°(平行)、45°、90°の3種類とし、試験片はJIS 13B号試験片とした。JIS Z2241の引張試験を破断まで行い、破断後の試験片を突き合わせて破断時の伸びを測定した。下記の式で平均伸び値ELAを求めた。
ELA=(ELL+2ELD+ELT
ただし、ELLは圧延方向に対し0°方向の伸び(%)、ELDは圧延方向に対し45°方向の伸び(%)、ELTは圧延方向に対し90°方向の伸び(%)である。
ELAが30%以上のものを○、30%未満のものを×として評価した。

0041

板材を用い、衝撃試験を実施して低温靱性を評価した。衝撃を付与する方向が板の圧延方向となるようにVノッチ衝撃試験片採取し、JIS Z2242の衝撃試験を−75〜25℃の範囲で25℃ピッチで行い、延性脆性遷移温度を求めた。遷移温度が−50℃より低いもの(−50℃でも延性破面を呈するもの)を○、−50℃以上のものを×として評価した。

0042

板材を用い、高温連続酸化試験を実施して耐高温酸化性を評価した。表面および端面を#400湿式研磨仕上した25×35mmの試験片を用い、JIS Z2281に準拠した高温連続酸化試験を大気中、900℃×200時間の条件で行い、試験後の試験片を目視観察し、こぶ状の厚い酸化スケールの生成を異常酸化と定義し、異常酸化の有無を判定した。異常酸化が認められなかったものを○、認められたものを×として評価した。

0043

板材を用い、高温引張試験を実施して高温強度を評価した。JIS G0567に準拠した高温引張試験を600℃にて行い、0.2%耐力を求めた。その値が180MPa以上のものを○、180MPa未満のものを×として評価した。

0044

棒材を用いて熱疲労試験を実施し、熱疲労特性を評価した。棒材から直径10mm、標点間中央部の直径が7mmの切欠丸棒試験片を作製し、拘束力20%で、大気中にて「200℃×0.5分保持→昇温速度約3℃/秒で900℃まで昇温→900℃×0.5分保持→冷却速度約3℃/秒で200℃まで冷却」を1サイクルとするヒートサイクルを繰り返した。応力初期応力の75%に低下したときの繰り返し数熱疲労寿命と定義し、熱疲労寿命が900サイクル以上のものを○、900サイクル未満のものを×として評価した。
これらの結果を表2に示す。

0045

0046

表2から判るように、本発明で規定する化学組成およびε−Cu相の析出形態を満たす本発明例のものは、優れた熱疲労特性を呈し、かつ加工性、低温靱性、耐高温酸化性、高温強度とも、自動車排ガス経路上流部材に適した特性を具備していた。なお、表中には記載していないが、これらはいずれも、長径0.5μm未満の微細なε−Cu相がマトリックス中に分散した組織を呈していた。

0047

他方、比較例の鋼No.10は本発明で規定する化学組成を有しているが、仕上焼鈍後の冷却速度が10℃/秒より遅かったため、長径0.5μm以上のε−Cu相が10個/25μm2を超えて多くなり、600℃での高温強度および熱疲労特性に劣った。鋼No.11および18はCu含有量が低いのでε−Cu相の析出が十分に起こらず、また式(2)の値が小さいために、高温強度および熱疲労特性に劣った。鋼No.12はCu含有量が高すぎたため、長径0.5μm以上のε−Cu相が10個/25μm2を超えて多くなり、高温強度および熱疲労特性に劣った。また過剰なCu添加のため低温靱性も不十分であった。鋼No.13はNb含有量が低く式(1)を満たさず、鋼No.14はC含有量が高く、鋼No.15はSi含有量が高く、鋼No.16はMoを多量に含むためいため、いすれも加工性および低温靱性に劣った。鋼No.16ではさらにCu含有量が低いため、熱疲労特性も改善できていない。鋼No.17はMn含有量が高すぎたため、加工性に劣った。鋼No.19はAl含有量が高いため、低温靱性に劣った。鋼No.20はB含有量が多すぎたため、加工性に劣った。

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