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課題
解決手段
概要
背景
遊歩道、駅構内通路、建物内順路など、歩行者用の双方向進行通路は都市部のいたるところにみられ、衝突や滞留を事前に回避して歩行者の動線を整然化するために、多くの通路では順方向と逆方向の少なくともふたつの方向の歩行帯に通路を区切り、歩行者に進行方向の遵守を促している。しかし、進行方向を歩行者に表示するための従来の手段や器具は必ずしも直観的なものであるとはいえない(鹿島出版会編、2002)。
例えば、駅構内階投において「上り」「下り」という言語表示がしばしば使用されているが、「上り方面」「下り方面」と意味論的混同を起こすため好ましくない場合がある。また例えば、矢印記号などのアイコン表現を呈示したり言語表示と併記したりすることによって進行方向を表示する従来方法では、混雑時などでアイコン表現の存在自体が検出しにくい場合には、容易に用途をなしえない。
かといって、矢印記号などのアイコン表現を検出しやすくするために路面あるいは壁面の全部に表示するのは費用対効果の面で望ましくなく、利用者に圧迫感を与えるなどの問題が生じる可能性もある。進行方向をアニメーションで表現する方法も考えられるが、それを表示し続けるためのコストから最善の方法とはいえない。
通路の行き先を言語やアイコン表現やアニメーションを用いずに指示する技術としては、各通路を行き先のシンボル色で表示しわけたり、進むべき進路に明るい照明、進むべきでない進路に暗い照明をつけて進路を指示したりする方法が実用化されている。しかし、シンボル色の解釈には歩行者の予備知識を要するため直観性に欠け、また双方向進行通路においては異なる照明を異なる歩行帯に適用することは−般に困難である。
鹿島出版会編,「駅再生スペースデザインの可能性」,鹿島出版会,2002年11月
Kitaoka, A. and Ashida, H., “Phenomenal characteristics of the peripheraldrift illusion.” VISION, (2003) 15, pp.261-262.
Howard, IP and Howard, A., “Vection: thecontributions of absolute and relative visual motion.” Perception, (1994)vol.23, pp.745-751.
概要
歩行者用通路に錯視形を描いた錯視シートを配置することによって歩行者に無意識的に進行方向を認知させることにより歩行者動線を整理する歩行者用通路の錯視シートの提供。静止した形を周辺視観察すると特定方向に視覚運動印象が誘発される錯覚現象を利用して、歩行者の双方向進行通路αにおいて床面2あるいは壁面3,4あるいは天井面に錯視形a,bで構成された錯視シートc,dを適切に配置し、日常的照明条件下にこれを置くことによって、当該歩行帯α1,α2に定められた進行方向がいずれの方向なのかを歩行者に無意識的に認知させ、その結果、歩行者動線を整理して歩行者のスムーズな歩行を実現する特徴的構成手段の採用。
目的
効果
実績
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請求項1
請求項2
請求項3
前記静止図形は、進行方向に向かって、黒、濃灰、白、淡灰、に相当する4段階の異なる明度をもつか、黒、灰、白、に相当する3段階の異なる明度をもつか、又は、それらと位相等価とみなせる空間周波数成分を含む連続的もしくは不連続的な明度勾配をもつ、異明度色の定順図形を、それぞれの順で反復繰返す連続図形であって、順方向歩行帯上を歩行する歩行者の視覚認知において進行方向と同一方向の視覚運動印象を誘発するよう日常的照明条件下で歩行者が周辺視観察できる場所に連続帯状に配置する、ことを特徴とする請求項2に記載の歩行者用通路の錯視シート。
請求項4
前記静止図形は、逆方向の歩行帯に対して進行方向と反対方向の視覚運動印象を誘発するよう当該逆方向歩行帯に沿って日常的照明条件下で歩行者が周辺視観察できる場所に前記異明度色の定順図形とそれぞれ逆順となるよう前後逆転して連続帯状に配置する、ことを特徴とする請求項2又は3に記載の歩行者用通路の錯視シート。
請求項5
前記錯視図形は、路面あるいは壁面あるいは天井面などの全部又は一部の広さの面に配置したシート上に塗装あるいは印刷あるいは任意の描画方法によって静的に表示する、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の歩行者用通路の錯視シート。
請求項6
前記静止図形は、一方通行の通路か、あるいは、順方向と逆方向の少なくともふたつの進行方向が前記歩行帯ごとに区切られて定められ、歩行者に当該歩行帯に定められた進行方向を遵守した歩行を促す必要を有する往復歩行帯を並行する通路に用いるものであって、前記順方向歩行帯においては、前記異明度色の定順図形を、前記逆方向歩行帯においては、前記異明度色定順図形とは逆順図形を、それぞれ路面、壁面、天井面などの全部又は一部の広さの面に連続帯状に配置したシート上に、片方向のみに表示するか、又は、両方向に同時に表示することにより、各歩行帯に定められた進行方向を、それらと一貫した方向の視覚運動印象を歩行者に誘発することが期待される各対応連続帯状に錯視図形をそれぞれ表示する、ことを特徴とする請求項3、4又は5に記載の歩行者用通路の錯視シート。
請求項7
技術分野
背景技術
0002
遊歩道、駅構内通路、建物内順路など、歩行者用の双方向進行通路は都市部のいたるところにみられ、衝突や滞留を事前に回避して歩行者の動線を整然化するために、多くの通路では順方向と逆方向の少なくともふたつの方向の歩行帯に通路を区切り、歩行者に進行方向の遵守を促している。しかし、進行方向を歩行者に表示するための従来の手段や器具は必ずしも直観的なものであるとはいえない(鹿島出版会編、2002)。
0003
例えば、駅構内階投において「上り」「下り」という言語表示がしばしば使用されているが、「上り方面」「下り方面」と意味論的混同を起こすため好ましくない場合がある。また例えば、矢印記号などのアイコン表現を呈示したり言語表示と併記したりすることによって進行方向を表示する従来方法では、混雑時などでアイコン表現の存在自体が検出しにくい場合には、容易に用途をなしえない。
0004
かといって、矢印記号などのアイコン表現を検出しやすくするために路面あるいは壁面の全部に表示するのは費用対効果の面で望ましくなく、利用者に圧迫感を与えるなどの問題が生じる可能性もある。進行方向をアニメーションで表現する方法も考えられるが、それを表示し続けるためのコストから最善の方法とはいえない。
0005
通路の行き先を言語やアイコン表現やアニメーションを用いずに指示する技術としては、各通路を行き先のシンボル色で表示しわけたり、進むべき進路に明るい照明、進むべきでない進路に暗い照明をつけて進路を指示したりする方法が実用化されている。しかし、シンボル色の解釈には歩行者の予備知識を要するため直観性に欠け、また双方向進行通路においては異なる照明を異なる歩行帯に適用することは−般に困難である。
0006
鹿島出版会編,「駅再生スペースデザインの可能性」,鹿島出版会,2002年11月
Kitaoka, A. and Ashida, H., “Phenomenal characteristics of the peripheraldrift illusion.” VISION, (2003) 15, pp.261-262.
Howard, IP and Howard, A., “Vection: thecontributions of absolute and relative visual motion.” Perception, (1994)vol.23, pp.745-751.
発明が解決しようとする課題
0007
以上に鑑み、本発明が解決しようとする重要な目的は次の通りである。即ち、本発明の第1の目的は、歩行者にその存在を必要以上に意識させることなく、直観的かつ明確に、むしろ、無意識的に進行方向を促す表示機能を備えた通路を、低コストで実現することが可能な歩行者用通路錯視シートを提供せんとするものである。
0008
本発明の第2の目的は、利用客が激しく往来するターミナルステーション構内や飛行場ターミナルビル内やターミナルストア内や巨大ビル内の盛り場や劇場、博物館、絵画館、各種展示館や遊園地等の道路や順路に最適な歩行者用通路錯視シートを提供せんとするものである。
0010
本発明の他の目的は、明細書、図面、特に特許請求の範囲の各請求項の記載から自ずと明らかになろう。
課題を解決するための手段
0011
本発明は、前記課題の解決に当り、静止した図形を周辺視観察すると特定方向に視覚運動印象が誘発される錯覚現象(Kitaoka&Ashida,2003)を利用し、当該錯視観察を応用して歩行者の進行方向を錯示図形で呈示する錯示シートの特徴的構成手段を講じる。
0012
さらに、具体的詳細に述べると、当該課題の解決には、本発明が次に列挙する、それぞれの新規な特徴的構成手段を採用することにより、上記目的を達成するようになされる。
0013
即ち、本発明の第1の特徴は、歩行帯に沿って錯視図形を配置して歩行者の進行方向を錯視表示してなる、構成手段の採用にある。
0014
本発明の第2の特徴は、前記本発明の第1の特徴における前記錯視図形が、周辺視観察すると特定方向に視覚運動印象が誘発される静止図形としてなる、構成手段の採用にある。
0015
本発明の第3の特徴は、前記本発明の第2の特徴における前記静止図形が、進行方向に向かって、黒、濃灰、白、淡灰、に相当する4段階の異なる明度をもつか、黒、灰、白、に相当する3段階の異なる明度をもつか、又は、それらと位相等価とみなせる空間周波数成分を含む連続的もしくは不連続的な明度勾配をもつ、異明度色の定順図形を、それぞれの順で反復繰返す連続図形であって、順方向歩行帯上を歩行する歩行者の視覚認知において進行方向と同一方向の視覚運動印象を誘発するよう日常的照明条件下で歩行者が周辺視観察できる場所に連続帯状に配置してなる、構成手段の採用にある。
0016
本発明の第4の特徴は、前記本発明の第2又は第3の特徴における前記静止図形が、逆方向の歩行帯に対して進行方向と反対方向の視覚運動印象を誘発するよう当該逆方向歩行帯に沿って日常的照明条件下で歩行者が周辺視観察できる場所に前記異明度色の定順図形とそれぞれ逆順となるよう前後逆転して連続帯状に配置してなる、構成手段の採用にある。
0017
本発明の第5の特徴は、前記本発明の第1又は第2の特徴における前記錯視図形が、路面あるいは壁面あるいは天井面などの全部又は一部の広さの面に配置したシート上に塗装あるいは印刷あるいは任意の描画方法によって静的に表示するものである、構成手段の採用にある。
0018
本発明の第6の特徴は、前記本発明の第3、第4又は第5の特徴における前記静止図形が、一方通行の通路か、あるいは、順方向と逆方向の少なくともふたつの進行方向が前記歩行帯ごとに区切られて定められ、歩行者に当該歩行帯に定められた進行方向を遵守した歩行を促す必要を有する往復歩行帯を並行する通路に用いるものであって、前記順方向歩行帯においては、前記異明度色の定順図形を、前記逆方向歩行帯においては、前記異明度色定順図形とは逆順図形を、それぞれ路面、壁面、天井面などの全部又は一部の広さの面に連続帯状に配置したシート上に、片方向のみに表示するか、又は、両方向に同時に表示することにより、各歩行帯に定められた進行方向を、それらと一貫した方向の視覚運動印象を歩行者に誘発することが期待される各対応連続帯状に錯視図形をそれぞれ表示するものである、構成手段の採用にある。
0019
本発明の第7の特徴は、前記第1又は第2の特徴における前記錯視図形が、中央から外方に向う多重同心円隣接相互間に前記一連の定順の各異明度色を反復彩色した静止図形であって、進行方向歩行帯が突き当る正面に配置して吸い寄せられる視覚運動印象を歩行者に誘発してなる、構成手段の採用にある。
発明の効果
0020
本発明によれば、この錯視図形で構成された錯視シートを通路の要所に適切に配置することにより、定められた進行方向と一致した視覚運動印象を歩行者に誘発することが期待できる。視覚運動印象は、平面上に呈示された錯視図形の領域内部に低速度の動きがあるように見えるのみで、その図形近傍の空間が動いているようには感じられず、特殊な配置(図3参照)にしないかぎり観察者自身が動いているようにも感じられない。しかも、視野中心で図形を観察する場合にはこの錯視現象は生じない。
0021
このことから、その錯視の存在に注意を向け続ける必要はなく、行動を妨害されたりすることもなく、ただ視野の周辺に見える動きの方向に歩行を進めればそれが正しい進行方向であるように歩行者に促す働きをもつ図形パターンとして、本錯視図形を呈示することができる。
0022
錯視図形は、複数の異なる明度で塗られた面を反復するという単純なパターンでよく、実際の運動や明度の時間変化などを−切伴わず、単なる静止図形であるため、矢印記号や文字などを多数描画することやアニメーションなどに比べて低コストで実現できる。
しかも、本発明にかかわる通路の錯視シートにより、歩行者用の双方向進行通路の進行方向を表示できる結果、衝突や滞留を事前に回避して歩行者の動線を整然化するための、進行方向を表示する直観的かつ低コストの技術が実現した。
0023
本発明にかかわる通路の錯視シートは、明度を初めとする種々の刺激パラメータ一によってその錯視量を操作可能であり、知覚される速度を適切に操作することにより、単にふたつの相反する進行方向の歩行帯で仕切られた双方向進行通路のみでなく、走行車線と追越車線を備えた片側二車線道路に相当するようなふたつの帯すなわち低速度歩行帯と高速度歩行帯とを備えた双方向進行通路にも適用可能である。
発明を実施するための最良の形態
0024
以下図面に基づいて本発明の実施の形態例を説明する。
(実施形態例1)
図1は本実施形態例1を示す錯視図形の典型的な刺激布置で双方向通路の両方に錯視シートを配置した平面図である。
例えば、黒、濃灰、白、淡灰、に分けて表記した明度は、典型的例においてCMYK値がそれぞれ(0,0,0,100)、(90,45,0,0)、(0,0,0,0)、(20,10,95,0)であり、対応する色名がそれぞれ黒D、青C、白A、黄B、であるような4色を定順で用いることで静止図形としての錯視図形を表示することができる。
0025
また、本実施形態例1の色は典型例にすぎず、使用する色は任意でかまわないのであって、明度の関係が不等式A>B>C>Dを満たす任意の色の組み合わせをDCABの順番に並べて配置することにより、その並び順の方向に動きの印象を感じさせることができる。この順番は、視覚系の情報処理の自然法則を利用して錯視を生じさせるのに必要な条件である。
0026
ここで、錯視図形aに使用する色の明度について説明すると、C−M−Y−K値では明るさの量がわからない為、それぞれの色をH−S−B(色相、飽和度、明度)表現しなおすと次のようになる。
黒=CMYK(0,0,0,100)=HSB(346,11,14):D
青=CMYK(90,45,0,0)=HSB(202,100,76):C
白=CMYK(0,0,0,0)=HSB(0,0,100):A
黄=CMYK(20,10,95,0)=HSB(57,76,83):B
0027
それぞれの色の最も右側の値、すなわち、14,76,100,83が、色の明るさの目安になる。これらの値を比較すると、白>黄>青>黒という不等式が満たされており、それらを黒青白黄の順に並べているということは、A>B>C>Dが満たされている4色をDCABの順に並べるひとつの典型例となる。青Cと黄Bの間での値が76と83と言うように非常に近くなっているが、あくまでも印刷段階での見た目として、二つの色の明るさは充分違って見えるし、錯視も強く生じるから、典型的実施形態例としては充分である。
0028
ところで、上方向錯視図形aと下方向錯視図形bを周辺視観察したとき、左半分は上方向に、右半分は下方向に、低速度で並進運動している視覚印象が誘発される。上方向各色D,C,A,B、下方向各色B,A,C,Dの縦幅を3.5cm、横の広がりを40cm以上とし、錯視図形a,bを前記並び順でそれぞれ配置した錯視シートc,dを双方向進行通路αにおいて歩行中の観察者の前方2mの路面に貼付し、その際、左半分が歩行者の属する歩行帯α1に、右半分が隣の歩行帯α2に、それぞれ配置されるようにする。
0029
歩行者が本錯視図形a,bを周辺視観察することにより、左半分は歩行者の進行方向と同方向、右半分は逆方向に、同時に動いて知覚されるか、または、一方は上記方向に動いて知覚されて他方は静止して知覚される。
いずれの場合も、歩行者が異なるふたつの歩行帯の定められた進行方向を知るために必要十分な情報をもたらすことができる。すなわち、本実施形態例では、左側通行が定められていることを歩行者は知ることができる。
0030
(実施形態例2)
前記の典型実施形態例1においては双方向歩行帯α1,α2の両方に互いに反対方向の運動印象を誘発させることを目的として錯視シートc,dを配置していたが、本実施形態例2が示す錯視図形aの錯視シートc’は一方通行の例えば順路歩行帯βにのみ配置してもよい。
本実施形態例2を図2で錯視シートc’の配置平面図を示す。
現実の通路において静止した構造物がランダムに配置されていることを模倣するために周囲ランダムな位置に矩形状の図形1を描き、中央に本実施形態例2に基づく錯視図形aのシートc’を配置する。
0031
歩行者が錯視図形aを周辺視観察することにより、歩行帯βが歩行者の進行方向と同方向に動いて知覚される。周囲に描いた矩形図形1群は本実施形態例2の必要条件ではなく、これらを除いても有効な錯視が得られるものの、周囲に静止参照枠が存在している場合に中央の運動印象がより明確に得られることと、現実の通路においては周囲に静止構造物が存在することがふつうであることから、本実施形態例2においては周囲に静止視覚刺激を置いている。
0032
本実施形態例2においては、各色の縦幅を3.5cm、横の広がりを40cmとした場合について説明してきたが、これらの値を変更しても同等な効果が得られる。周辺視観察では解像度視力は中心視のそれより劣るため、通路の錯視シートc’に用いることのできる縦幅の実行最小値は2cm程度であり、これ以下の幅の錯視図形aを床面に置くと有効な運動印象を得ることが困難である。
0033
一方、縦幅を大きくするにつれて、運動印象が得られる最適な位置が歩行者近傍から次第に遠方へとずれて行く。これは、網膜に結像した時点の空間周波数が錯視にとって最適の帯域であるためには、刺激サイズと観察距離とが反比例の関係となるためである。進行方向を表示する目的には、歩行者近傍において錯視が最大となることが望ましいことから、縦幅の実行最大値は10cm程度と見積もれる。
0034
横の広がりに関しては、10〜100cmにわたる範囲で有効の錯視が得られる。それ以上のサイズでも錯視が得られないことはないが、横の広がりを仮に最大限として、周囲の静止参照枠が全く与えられないとすると、視覚系の特性から相対運動検出感度に比べて絶対運動検出感度が劣るので錯視量は弱まってしまうため、実行最大値は100cm程度と考えられる。
0035
(実施形態例3)
前記実施形態例1,2の目的は錯視図形aのシートc,c’,dを主に床面に配置することにより進行方向を表示することであるが、この技術を応用して静止観察者にあたかも自分が前方に進んでいくような錯覚を起こさせることにより、劇場や遊園地などでの臨場感向上をもたらすことができる。一般に、自分をとりまく視覚対象の運動に誘発されて自己運動感覚が逆方向に生じることは知られているが、この錯覚の誘発刺激として従来は物理的運動刺激を用いていた(Howard&Howard,1994参照)。提案する本実施形態例3においては、物理的運動ではなく、前記実施形態例1,2で利用している錯覚的運動印象を用いることで、同様の自己運動感覚を誘発することができる。
0036
本実施形態例3を図3で床面以外に錯視シートを立体的に配置した展開平面図を示す。
観察者1名が床面2に静止していられるようなサイズを確保して、床面2、左右壁面3,4、正面5を立体的に室内に配置する。床面2には本実施形態例3の錯視図形aの錯視シートc”を配置し、床面2に進行方向の運動印象を誘発させる。左右の壁面3,4には錯視図形bの錯視シートe,fを床面2とは逆に配置し、壁の風景が自分の後方に動いていくような運動印象を誘発させる。正面5には同心円状に錯視図形gを錯視シートh上に描き、図3に示すように同心円錯視図形gが中心から周辺へ向かって錯視図形a同様、黒D,青C,白A,黄Bの順で彩色し拡大するような運動印象を誘発させる。
0037
このような運動印象の組み合わせがもたらされたとき、床面2に静止している観察者は自己運動しているかのような錯覚を生じる。すなわち、床面2はいわゆる動く歩道のように自分を乗せた床全体が前方へ滑っていくように感じられ、左右壁面3,4の並進運動および正面5の拡大運動は自分自身が前方へ進んでいくことに伴って生じる光流動であるかのように解釈される。
0038
その結果、観察者自身は物理的には静止しているにもかかわらず、あたかも前方に進んでいくような錯覚が生じる。付け加えるに、図3で示すよう重描した正面5の放射状矢印iの運動印象を生じさせるための錯視図形gの形状から容易に拡大基調を想像されると同様に、平面状に描いた図形形状を適切に変更すれば図1のような並進運動の印象のみならず拡大や縮小のような2次元的な運動印象を自由自在に与えることができる。
0039
例えば、錯視図形a,bを任意の曲線に沿って曲げて描くことにより、その曲線形状に沿った運動方向の動きが知覚されるし、円周上に沿って描くことにより、回転が知覚されるし、螺旋関数にしたがって描くことにより、渦巻状の回転および拡大の印象が得られる。さらにこれらを平面でなく局面あるいは部屋の周囲の壁面のような立体面の上に描くことによって、3次元的な運動印象が生まれることは、図3の本実施形態例3により明らかである。これらのことから、遊園地などの商業施設で動画像や照明操作などを用いて作り出される視覚効果と定性的に同等な臨場感を、低コストで実現することができる。
図面の簡単な説明
0040
本発明の実施形態例1における図形の錯視シートで、双方向通路の両方に錯視シートを配置した平面図である。
本発明の実施形態例2における図形の錯視シートで、一方通行路にのみ錯視シートを配置した平面図である。
本発明の実施形態例3における図形の錯視シートで、床面以外に錯視シートを主体的に配置して臨場感を高めた展開平面図である。
符号の説明
0041
a,b,g…錯視図形
c,c’,c”,d,e,f,h…錯視シート
i…放射状矢印
A…白
B…黄
C…青
D…黒
α…双方向進行通路
α1,α2,β…歩行帯
1…矩形図形
2…床面
3,4…左右壁面
5…正面