図面 (/)

技術 膵管細胞を利用した膵管癌特異的遺伝子の同定方法、同方法により同定される膵管癌特異的遺伝子を利用した膵管癌の検査方法、および膵管癌の治療または予防のための医薬候補化合物のスクリーニング方法。

出願人 間野博行
発明者 間野博行
出願日 2003年5月22日 (18年8ヶ月経過) 出願番号 2004-505392
公開日 2005年9月2日 (16年5ヶ月経過) 公開番号 2005-525810
状態 未査定
技術分野 化合物または医薬の治療活性 特有な方法による材料の調査、分析 酵素、微生物を含む測定、試験 蛋白脂質酵素含有:その他の医薬 生物学的材料の調査,分析 突然変異または遺伝子工学
主要キーワード 共通表 子ツリー カラースキーム 検査用試料 検査用薬剤 細胞分離カラム IPM グリーン色
関連する未来課題
重要な関連分野

この項目の情報は公開日時点(2005年9月2日)のものです。
また、この項目は機械的に抽出しているため、正しく解析できていない場合があります

図面 (7)

課題・解決手段

本発明者らは、健常者ならびにPDC患者から単離した膵液より、MUC1に対するアフィニティーカラムを用いて膵管上皮細胞を精製した。このようなバックグラウンドマッチさせたヒト遺伝子3456個の試料を対象としてマイクロアレイ解析を行い、AC133、CEACAM7、およびSOD2に対応する遺伝子などの癌特異的遺伝子をいくつか同定した。これらの遺伝子の癌特異的発現をさらに定量リアルタイムPCR法で確認した。精製膵管細胞を対象とした本発明者らのマイクロアレイ解析は、臨床現場で一般的な方法で得られる膵液を使用して行うPDCの高感度検出法の開発に新たな道を開くものである。この方法を利用することで、効率的に膵管癌特異的遺伝子を同定することができ、膵管癌検査、および膵管癌の治療または予防のための薬剤開発に重要な標的を提供することが可能となる。

概要

背景

背景技術
消化器悪性腫瘍のなかでも膵臓癌は依然として極めて難治性の疾患であり、5年生存率は5%未満である(Bornman, P.C.およびBeckingham, I.J.、Pancreatic tumours. Brit. Med. J.、322:721-723、2001;Rosewicz, S.およびWiedenmann, B.、「Pancreatic carcinoma.」 Lancet、349:485-489、1997)。患者に認められる膵臓癌の90%以上が膵管細胞起源腺癌である。一つには、疾患特異的な症状がないために、膵臓癌の初期段階の患者が見つかることはまれであり、したがって腫瘍外科切除に値する可能性は極めて低い(10〜20%)。近年、内視鏡的逆行性胆管膵管造影ERCP)、磁気共鳴胆管膵管造影(MRCP)、および超音波内視鏡ステムなどの膵臓構造の画像解析には、いくつかの改良が施されている(Adamek, H.E.、Albert, J.、Breer, H.、Weitz, M.、Schilling, D.、およびRiemann, J.F.「Pancreatic cancer detection with magnetic resonance cholangiopancreatography and endoscopic retrograde cholangiopancreatography:a prospective controlled study.」Lancet、356:190〜193、2000)。しかし、これらの手順を用いたとしても、慢性膵炎などの他の疾患と膵臓癌を区別することは困難な場合がある。

さらに状況を悪くしているのが、これらの方法で通常検出できる膵臓腫瘍は直径が5 mmを上回ることである。さらに小さくて切除可能な腫瘍であっても5年生存率が低い(20〜30%)ことを考えると、現在の技術は、膵臓癌を「初期」段階で検出可能とするには感度が十分ではない。この疾患の「治癒」を達成するためには、腫瘍を真の初期段階で、すなわち上皮内癌を検出することが必要であると考えられる。

膵管癌(PDC)は膵管の上皮細胞から生じるため、癌細胞の一部は膵液中に剥がれ落ちる。このような細胞を調べることは、膵臓癌を高感度診断する新しい手段を開発するための有望な方法であると考えられる。そして実際に、このような腫瘍細胞分子生物学解析から、膵臓癌の発症におけるさまざまな遺伝的変化の存在が明らかになりつつある。K-RAS原癌遺伝子活性点突然変異は80%を上回る症例で認められており(Kondo, H.、Sugano, K.、Fukayama, N.、Kyogoku, A.、Nose, H.、Shimada, K.、Ohkura, H.、Ohtsu, A.、Yoshida, S.、およびShimosato, Y.「Detection of point mutations in the K-ras oncogene at codon 12 in pure pancreatic juice for diagnosis of pancreatic carcinoma.」Cancer、73:1589-1594、1994)、またp53腫瘍抑制遺伝子不活性化が類似の頻度で認められている(Sugano, K.、Nakashima, Y.、Yamaguchi, K.、Fukayama, N.、Maekawa, M.、Ohkura, H.、Kakizoe, T.およびSekiya, T.「Sensitive detection of loss of heterozygosity in theTP53 gene in pancreatic adenocarcinoma by fluorescence-based single-strand conformation polymorphism analysis using blunt-end DNA fragments.」Genes Chromosomes Cancer、15:157-164、1996)。他の遺伝的変異は、p16、DPC4、およびDCCの遺伝子に見つかる場合がある(Caldas, C.、Hahn, S.A.、da Costa, L.T.、Redston, M. S.、Schutte, M.、Seymour, A.B.、Weinstein, C.L.、Hruban, R.H.、Yeo, C.J.、およびKern、S. E.「Frequent somatic mutations and homozygous deletions of the p16 (MTS1) gene in pancreatic adenocarcinoma.」Nat. Genet.、8:27-32、1994;Hahn, S.A.、Schutte, M.、Hoque, A.T.、Moskaluk, C.A.、da Costa, L.T.、Rozenblum, E.、Weinstein, C.L.、Fischer, A.、Yeo, C.J.、Hruban, R.H.、およびKern, S.E.、DPC4, a candidate tumor suppressor gene at human chromosome 18q21.1.、Science、271:350-353、1996;Hohne, M.W.、Halatsch, M.E.、Kahl, G.F.、およびWeinel, R.J.「Frequent loss of expression of the potential tumor suppressor gene DCC in ductal pancreatic adenocarcinoma.」Cancer Res.、52:2616-2619、1992)。しかし、K-RAS変異は、非悪性膵臓疾患でも比較的高頻度で検出されうる(Furuya, N.、Kawa, S.、Akamatsu, T.、およびFurihata, K.「Long-term follow-up of patients with chronic pancreatitis and K-ras gene mutation detected in pancreatic juice.」Gastroenterology、113:593-598、1997)。現在までに、膵管起源の癌細胞に特異的なことが証明された分子マーカーは存在しない。

概要

本発明者らは、健常者ならびにPDC患者から単離した膵液より、MUC1に対するアフィニティーカラムを用いて膵管上皮細胞を精製した。このようなバックグラウンドマッチさせたヒト遺伝子3456個の試料を対象としてマイクロアレイ解析を行い、AC133、CEACAM7、およびSOD2に対応する遺伝子などの癌特異的遺伝子をいくつか同定した。これらの遺伝子の癌特異的発現をさらに定量リアルタイムPCR法で確認した。精製膵管細胞を対象とした本発明者らのマイクロアレイ解析は、臨床現場で一般的な方法で得られる膵液を使用して行うPDCの高感度検出法の開発に新たな道を開くものである。この方法を利用することで、効率的に膵管癌特異的遺伝子を同定することができ、膵管癌の検査、および膵管癌の治療または予防のための薬剤開発に重要な標的を提供することが可能となる。

目的

したがって、上記の方法により同定される膵管癌特異的遺伝子を標的とした膵管癌の検査方法、および膵管癌の治療または予防のための医薬候補化合物スクリーニング法を提供する

効果

実績

技術文献被引用数
1件
牽制数
0件

この技術が所属する分野

(分野番号表示ON)※整理標準化データをもとに当社作成

ライセンス契約や譲渡などの可能性がある特許掲載中! 開放特許随時追加・更新中 詳しくはこちら

請求項1

膵管癌特異的遺伝子を同定するための方法であって、(a)膵管癌患者および健常者から膵管細胞を調製する工程、(b)膵管癌患者から調製した膵管細胞における遺伝子発現、および健常者から調製した膵管細胞における遺伝子発現を検出する工程、(c)膵管癌患者から調製した膵管細胞における遺伝子発現を、健常者から調製した膵管細胞における遺伝子発現と比較する工程、ならびに(d)膵管癌患者に特異的に発現する遺伝子、および健常者に発現する遺伝子を同定する工程、を含む方法。

請求項2

膵管細胞を膵液から調製する、請求項1記載の方法。

請求項3

MUC1の遺伝子発現を指標にして膵管細胞を調製する、請求項1記載の方法。

請求項4

膵管癌検査方法であって、(a)組織または細胞被験者から調製する工程、(b)組織または細胞において、請求項1記載の方法により同定される膵管癌特異的遺伝子の発現を検出する工程、ならびに(c)工程(b)で検出された発現を、対照組織または対照細胞における遺伝子の発現と比較する工程、を含み、膵管癌特異的遺伝子が膵管癌患者に特異的に発現する遺伝子であり、工程(b)で検出された発現が、対照組織もしくは対照細胞における該遺伝子の発現より有意に高い場合、または膵管癌特異的遺伝子が健常者に特異的に発現する遺伝子であり、工程(b)で検出された発現が、対照組織もしくは対照細胞における該遺伝子の発現より有意に低い場合に、被験者に膵管癌のおそれがあると判断される方法。

請求項5

膵管癌特異的遺伝子が、CEACAM7遺伝子、AC133遺伝子、SOD2遺伝子、CDKN1C遺伝子、HSP105遺伝子、IGFBP1遺伝子、UBE3A遺伝子、またはCAPN2遺伝子、またはこれらの遺伝子の2つもしくはそれ以上の組み合わせである、請求項4記載の方法。

請求項6

被験者から調製した細胞が膵管細胞である、請求項4または5のいずれか一項記載の方法。

請求項7

膵管細胞を膵液から調製する、請求項6記載の方法。

請求項8

MUC1遺伝子の発現を指標にして膵管細胞を調製する、請求項6記載の方法。

請求項9

下記(a)および(b)からなる群より選択される分子活性成分として含む、膵管癌の検査用薬剤:(a)請求項1記載の方法により同定される膵管癌特異的遺伝子がコードするタンパク質に結合する抗体、および(b)請求項1記載の方法により同定される膵管癌特異的遺伝子の転写産物と特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチド

請求項10

膵管癌特異的遺伝子が、CEACAM7遺伝子、AC133遺伝子、SOD2遺伝子、CDKN1C遺伝子、HSP105遺伝子、IGFBP1遺伝子、UBE3A遺伝子、またはCAPN2遺伝子、またはこれらの遺伝子の2つもしくはそれ以上の組み合わせである、請求項9記載の薬剤

請求項11

膵管癌の検査方法であって、(a)被験者において、請求項1記載の方法により同定される膵管癌特異的遺伝子の発現異常または該遺伝子がコードするタンパク質の活性異常をもたらす遺伝的多型または変異を検出する工程、を含み、該被験者が遺伝的多型または変異を有する場合に、該被験者に膵管癌のおそれがあると判断される方法。

請求項12

膵管癌特異的遺伝子が、CEACAM7遺伝子、AC133遺伝子、SOD2遺伝子、CDKN1C遺伝子、HSP105遺伝子、IGFBP1遺伝子、UBE3A遺伝子、またはCAPN2遺伝子、またはこれらの遺伝子の2つもしくはそれ以上の組み合わせである、請求項11記載の方法。

請求項13

膵管癌の治療または予防のための薬剤候補化合物同定方法であって、(a)試験化合物を、試験動物または試験細胞投与する工程、または試験化合物を、試験動物または試験細胞に接触させる工程、および(b)試験動物または試験細胞において、請求項1記載の方法により同定される膵管癌特異的遺伝子の発現を検出する工程、を含み、膵管癌特異的遺伝子が膵管癌患者に特異的に発現する遺伝子であり、該試験化合物が、工程(b)で検出された発現を低下させる場合、または膵管癌特異的遺伝子が健常者に特異的に発現する遺伝子であり、試験化合物が、工程(b)で検出された発現を上昇させる場合に、該試験化合物が膵管癌の治療または予防のための薬剤候補化合物であると判断される方法。

請求項14

膵管癌の治療または予防のための薬剤候補化合物の同定方法であって、(a)試験化合物を、請求項1記載の方法により同定される膵管癌特異的遺伝子の発現制御領域に機能的に連結されたレポーター遺伝子を有する試験動物または試験細胞に投与する工程、または試験化合物を、該試験動物または試験細胞に接触させる工程、および(b)試験動物または試験細胞における、該レポーター遺伝子の発現を検出する工程、を含み、膵管癌特異的遺伝子が膵管癌患者に特異的に発現する遺伝子であり、試験化合物が、工程(b)で検出された発現を低下させる場合、または膵管癌特異的遺伝子が健常者に特異的に発現する膵管癌特異的遺伝子であり、試験化合物が、工程(b)で検出された発現を上昇させる場合に、該試験化合物が膵管癌の治療または予防のための薬剤候補化合物であると判断される方法。

請求項15

膵管癌の治療または予防のための薬剤候補化合物の同定方法であって、(a)試験化合物を、請求項1記載の方法により同定される膵管癌特異的遺伝子がコードするタンパク質に接触させる工程、および(b)該タンパク質の活性を検出する工程、を含み、膵管癌特異的遺伝子が膵管癌患者に特異的に発現する遺伝子であり、試験化合物が、工程(b)で検出された活性を低下させる場合、または膵管癌特異的遺伝子が健常者に特異的に発現する遺伝子であり、試験化合物が、工程(b)で検出された活性を増加させる場合に、該試験化合物が膵管癌の治療または予防のための薬剤候補化合物であると判断される方法。

請求項16

膵管癌特異的遺伝子が、CEACAM7遺伝子、AC133遺伝子、SOD2遺伝子、CDKN1C遺伝子、HSP105遺伝子、IGFBP1遺伝子、UBE3A遺伝子、またはCAPN2遺伝子、またはこれらの遺伝子の2つもしくはそれ以上の組み合わせである、請求項13〜15のいずれか一項記載の方法。

請求項17

請求項13〜15のいずれか一項記載の方法により同定される化合物を活性成分として含む、膵管癌の治療または予防のための薬剤。

技術分野

0001

技術分野
本発明は、膵管細胞を利用した膵管癌特異的遺伝子同定方法、ならびに同方法により同定される膵管癌特異的遺伝子を利用した膵管癌検査方法、および膵管癌の治療または予防のための医薬候補化合物スクリーニング方法に関する。

背景技術

0002

背景技術
消化器悪性腫瘍のなかでも膵臓癌は依然として極めて難治性の疾患であり、5年生存率は5%未満である(Bornman, P.C.およびBeckingham, I.J.、Pancreatic tumours. Brit. Med. J.、322:721-723、2001;Rosewicz, S.およびWiedenmann, B.、「Pancreatic carcinoma.」 Lancet、349:485-489、1997)。患者に認められる膵臓癌の90%以上が膵管細胞起源腺癌である。一つには、疾患特異的な症状がないために、膵臓癌の初期段階の患者が見つかることはまれであり、したがって腫瘍外科切除に値する可能性は極めて低い(10〜20%)。近年、内視鏡的逆行性胆管膵管造影ERCP)、磁気共鳴胆管膵管造影(MRCP)、および超音波内視鏡ステムなどの膵臓構造の画像解析には、いくつかの改良が施されている(Adamek, H.E.、Albert, J.、Breer, H.、Weitz, M.、Schilling, D.、およびRiemann, J.F.「Pancreatic cancer detection with magnetic resonance cholangiopancreatography and endoscopic retrograde cholangiopancreatography:a prospective controlled study.」Lancet、356:190〜193、2000)。しかし、これらの手順を用いたとしても、慢性膵炎などの他の疾患と膵臓癌を区別することは困難な場合がある。

0003

さらに状況を悪くしているのが、これらの方法で通常検出できる膵臓腫瘍は直径が5 mmを上回ることである。さらに小さくて切除可能な腫瘍であっても5年生存率が低い(20〜30%)ことを考えると、現在の技術は、膵臓癌を「初期」段階で検出可能とするには感度が十分ではない。この疾患の「治癒」を達成するためには、腫瘍を真の初期段階で、すなわち上皮内癌を検出することが必要であると考えられる。

0004

膵管癌(PDC)は膵管の上皮細胞から生じるため、癌細胞の一部は膵液中に剥がれ落ちる。このような細胞を調べることは、膵臓癌を高感度診断する新しい手段を開発するための有望な方法であると考えられる。そして実際に、このような腫瘍細胞分子生物学解析から、膵臓癌の発症におけるさまざまな遺伝的変化の存在が明らかになりつつある。K-RAS原癌遺伝子活性点突然変異は80%を上回る症例で認められており(Kondo, H.、Sugano, K.、Fukayama, N.、Kyogoku, A.、Nose, H.、Shimada, K.、Ohkura, H.、Ohtsu, A.、Yoshida, S.、およびShimosato, Y.「Detection of point mutations in the K-ras oncogene at codon 12 in pure pancreatic juice for diagnosis of pancreatic carcinoma.」Cancer、73:1589-1594、1994)、またp53腫瘍抑制遺伝子不活性化が類似の頻度で認められている(Sugano, K.、Nakashima, Y.、Yamaguchi, K.、Fukayama, N.、Maekawa, M.、Ohkura, H.、Kakizoe, T.およびSekiya, T.「Sensitive detection of loss of heterozygosity in theTP53 gene in pancreatic adenocarcinoma by fluorescence-based single-strand conformation polymorphism analysis using blunt-end DNA fragments.」Genes Chromosomes Cancer、15:157-164、1996)。他の遺伝的変異は、p16、DPC4、およびDCCの遺伝子に見つかる場合がある(Caldas, C.、Hahn, S.A.、da Costa, L.T.、Redston, M. S.、Schutte, M.、Seymour, A.B.、Weinstein, C.L.、Hruban, R.H.、Yeo, C.J.、およびKern、S. E.「Frequent somatic mutations and homozygous deletions of the p16 (MTS1) gene in pancreatic adenocarcinoma.」Nat. Genet.、8:27-32、1994;Hahn, S.A.、Schutte, M.、Hoque, A.T.、Moskaluk, C.A.、da Costa, L.T.、Rozenblum, E.、Weinstein, C.L.、Fischer, A.、Yeo, C.J.、Hruban, R.H.、およびKern, S.E.、DPC4, a candidate tumor suppressor gene at human chromosome 18q21.1.、Science、271:350-353、1996;Hohne, M.W.、Halatsch, M.E.、Kahl, G.F.、およびWeinel, R.J.「Frequent loss of expression of the potential tumor suppressor gene DCC in ductal pancreatic adenocarcinoma.」Cancer Res.、52:2616-2619、1992)。しかし、K-RAS変異は、非悪性膵臓疾患でも比較的高頻度で検出されうる(Furuya, N.、Kawa, S.、Akamatsu, T.、およびFurihata, K.「Long-term follow-up of patients with chronic pancreatitis and K-ras gene mutation detected in pancreatic juice.」Gastroenterology、113:593-598、1997)。現在までに、膵管起源の癌細胞に特異的なことが証明された分子マーカーは存在しない。

0005

発明の開示
DNAマイクロアレイは、数千個の遺伝子の発現プロファイルを同時にモニタリングすることが可能であるため(Duggan, D.J.、Bittner, M.、Chen, Y.、Meltzer, P.、およびTrent, J.M.「Expression profiling usingcDNAmicroarrays.」Nat. Genet.、21:10-14、1999;Schena, M.、Shalon, D.、Davis, R.W.、およびBrown, P.O.「Quantitative monitoring of gene expression patterns with a complementary DNA microarray.」Science、270:467-470、1995)、PDC特異的遺伝子を同定するための適切なスクリーニング系であると考えられる。しかし、この方法のハイスループット能力は「諸刃の」となりうる。試料の調製、またはデータを正規化する手順を周到に設計しないことには、DNAマイクロアレイ実験は、多数の偽陽性および偽陰性の結果を生じてしまう。

0006

PDCについては、非悪性および癌性の症例から得られる膵臓組織を単純に比較することが、その方法の一例であると本発明者らは考えている。正常膵臓組織の大半は外分泌細胞および内分泌細胞からなり、正常膵臓中に膵管構造が占める容積の割合は極めて低い。しかし、これとは対照的に、癌性組織は主に膵管上皮細胞を起源とする腫瘍細胞で占められている。したがって、非悪性組織癌組織とを比較することにより、同起源の正常細胞と形質転換細胞との間ではなく、主に外分泌/内分泌細胞と管細胞起源細胞との間の遺伝子発現プロファイルの差が同定される。

0007

本発明の目的は、膵管起源の癌細胞に特異的な遺伝子の同定に伴って発生する偽陽性および偽陰性の結果を減らすことにある。したがって本発明により、膵管癌特異的遺伝子を効率的に同定できる方法が提供される。

0008

また、このような同定方法で得られる膵管癌特異的遺伝子が、膵管癌の検査用薬剤、および膵管癌の治療または予防のための薬剤開発の重要な標的となると考えられる。したがって、上記の方法により同定される膵管癌特異的遺伝子を標的とした膵管癌の検査方法、および膵管癌の治療または予防のための医薬候補化合物のスクリーニング法を提供することも本発明の目的である。

0009

治癒可能な段階におけるPDCの外科的切除は、PDCに対する高感度で信頼性の高い検出法がないために阻まれている。DNAマイクロアレイは、数千個の遺伝子の発現プロファイルを同時にモニタリングできるため、PDCの臨床診断用の新たな分子マーカーを同定する適切な手段となる可能性がある。この方法は有望であると思われるが、しかし正常組織と癌性膵臓組織との単純な比較では、標本内の細胞組成の差(正常膵臓組織は主に内分泌/外分泌細胞からなり、癌性膵臓組織は主に管細胞起源の癌細胞で占められている)を主に反映した偽陽性データが生じる。そして実際に、正常組織と癌性組織を対象に本発明者らが行ったマイクロアレイによる比較では、前者に対する最も特異的な遺伝子の1つとしてインスリン遺伝子が同定された。このような「集団シフト(population shift)」作用を除くためには、PDC細胞およびこの起源となる正常膵管細胞を単離して、精製された画分のトランスクリプトームを直接比較することが有用であろう。この目的のために本発明者らは、健常者ならびにPDC患者から単離した膵液より、MUC1に対するアフィニティカラムを用いて膵管上皮細胞を精製した。このようなバックグラウンドマッチさせた3456個のヒト遺伝子試料を対象としたマイクロアレイ解析では、AC133や癌由来胎児性抗原関連細胞接着分子7(CEACAM7)などの、いくつかの癌特異的遺伝子が同定された。これらの遺伝子の癌特異的な発現を定量リアルタイムPCR法でさらに確認した。精製膵管細胞を対象に本発明者らが行った、臨床現場において一般的な方法で得られる膵液を使用したマイクロアレイ解析は、高感度のPDC検出法を開発するための新しい方法となりつつある。

0010

この方法を利用すれば、効率的に膵管癌特異的遺伝子を同定することができる。そのため、膵管癌の検査、および膵管癌の治療または予防のための薬剤開発に重要な標的を提供することが可能となる。

0011

<膵管癌特異的遺伝子の同定方法>
本発明は、膵管癌特異的遺伝子を同定する方法を提供する。本発明における「膵管癌特異的遺伝子」という用語は、健常者と比較して膵管癌患者で発現が有意に変化している遺伝子を意味する。したがって、膵管癌患者に特異的に発現する遺伝子と、健常者に特異的に発現する遺伝子はいずれも「膵管癌特異的遺伝子」に含まれる。本明細書において、「有意」という表現は、対照との発現レベルの差が1.5倍以上、好ましくは3倍以上、また好ましくは5倍以上(例えば10倍以上、20倍以上、30倍以上、および50倍以上)であることを意味する。

0012

この方法では、まず膵管癌患者および健常者から膵管細胞を調製し、膵管癌患者から調製した膵管細胞における遺伝子発現、および健常者から調製した膵管細胞における遺伝子発現を検出し、膵管癌患者から調製した膵管細胞における遺伝子発現を、健常者から調製した膵管細胞における遺伝子発現と比較し、そして膵管癌患者に特異的に発現する遺伝子、および健常者に特異的に発現する遺伝子を同定する。

0013

膵管細胞を患者および健常者から調製する手法には例えば、膵管細胞特異的タンパク質指標として用い、アフィニティカラムによって膵液から細胞を調製する方法があるが、特にこれに制限されるわけではない。この場合、膵管細胞の指標に使用するタンパク質としては、例えばMUC1タンパク質が好ましい。膵管細胞を調製する他の手法として、顕微鏡観察下で対象細胞領域レーザー照射摘出する方法、例えばレーザー捕捉顕微解剖LCM)法を用いることも考えられる。しかしながら、顕微鏡で観察するには、組織を固定して染色する必要があり、また細胞内のRNAが、このような操作中に損傷を受ける恐れがあるため、上述の膵液を使用する方法が好ましい。

0014

本発明における「遺伝子発現」には、転写および翻訳の双方が含まれる。したがって、「遺伝子発現の検出」には、転写レベルmRNA、cDNA)での検出、および翻訳レベル(タンパク質)での検出の双方が含まれる。

0015

転写レベルにおける遺伝子発現の検出は、例えばDNAアレイ法で測定することができる(M. Muramatsu、M. Yamamoto「新遺伝子工学ハンドブック土社、280〜284)。

0016

DNAアレイ法においては、まず膵管細胞からcDNA試料を調製し、このcDNA試料を、表面にオリゴヌクレオチドプローブが固定された基質に接触させ、cDNA試料と、基質上に固定されたオリゴヌクレオチドプローブとのハイブリダイゼーションシグナルを検出する。

0017

cDNA試料の調製は、当業者に周知の方法で実施することができる。cDNA試料を調製する好ましい態様においては、まず膵管細胞から全RNAを抽出する。純度の高い全RNAが調製できる方法であれば、既存の方法およびキットなどを使用することができる。例えば全RNAは、RNAゾルB(Teltest Inc.、Friendswood、Texas)を用いて抽出することができる。またアンビオン社(Ambion Co.)の「RNA later」で前処理し、ニッポンジーン社(Nippon Gene Co., Ltd.)の「Isogen」を用いて全RNAを抽出することができる。具体的には、この方法は、製品に添付されたプロトコールにしたがって実施することができる。次に、抽出された全RNAを鋳型として、逆転写酵素を用いてcDNAの合成を行う。これにより、cDNA試料を調製する。全RNAからのcDNA試料の合成は、当業者に周知の方法で実施することができる。調製したDNA試料は、必要に応じて、検出目的で標識する。標識物質は、検出可能であれば特に制限されず、例えば蛍光物質放射性元素などが挙げられる。標識は、当業者が一般的に行う方法(L. Luoら「Gene expression profile of laser-captured adjacent neuronal subtypes.」Nat Med. 1999、117-122)で実施することができる。例えば、ExpressChipラベリングシステム(Mergen、San Leandro、California)を用いて、増幅試料RNA(2 μg)から、ビオチン標識cDNAを合成することができる。ビオチン標識cDNAを使用する場合は、DNAアレイとのハイブリダイズ後に、続けてストレプトアビジン、ストレプトアビジンに対する抗体、およびCy3結合二次抗体(すべてMergen Co.から入手)と共にインキュベートする。ハイブリダイゼーションシグナルの検出およびデジタル化は、GMS 418アレイスキャナー(Affymetrix Co.、Santa Clara、California)を用いて実施することができる。

0018

DNAアレイ法の利点は、ハイブリダイゼーション時の溶液量が非常に少なく、また細胞中の全RNAに由来するcDNAを含む標的が極めて複雑であっても、あらかじめ固定されたヌクレオチドプローブを用いてハイブリダイズ可能なことにある。一般にDNAアレイは、基質上に高密度プリントされた数千のヌクレオチドからなる。このようなDNAは通常、非多孔性基質の表面層にプリントされる。基質の表面層は通常ガラスであるが、多孔質膜(例えばニトロセルロース膜)を使用してもよい。ヌクレオチドの固定(アレイ)には2つのタイプがある。1つは、アフィメトリクス社(Affymetrix Co.)が開発したオリゴヌクレオチドを基本とするアレイであり、もう一つは、主にスタフォード大学が開発したcDNAアレイである。オリゴヌクレオチドアレイでは、オリゴヌクレオチドは通常、インサイチューで合成される。例えば、フォトリソグラフィー法(Affymetrix Co.)や、化学物質を固定するインクジェット法(Rosetta Inpharmatics Inc.)などによってオリゴヌクレオチドをインサイチューで合成する方法が知られている。いずれの手法も、本発明の基質の調製に使用することができる。

0019

基質上に固定するオリゴヌクレオチドプローブとしては、ヒト遺伝子と特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプローブが好ましい。本発明のオリゴヌクレオチドプローブには、合成オリゴヌクレオチドおよびcDNAが含まれる。オリゴヌクレオチドプローブが固定されたDNAアレイとして市販品を使用することも可能であり、例えば全3456個のヒト遺伝子に対応するオリゴヌクレオチドを含むミクロアレイ(HO-1〜3、Mergen)が好ましい一例である。

0020

cDNA試料と、基質上のオリゴヌクレオチドプローブとのハイブリダイゼーションの反応溶液および反応条件は、基質上に固定されるヌクレオチドプローブの長さなどの、さまざまな因子によって変動しうるが、当業者であれば、ハイブリダイゼーション反応を行う適切な条件を設定することができる。

0021

DNAアレイ法以外に、遺伝子発現を転写レベルで網羅的に検出する方法としては、cDNAサブトラクションクローニング法がある。この手法は、DNAアレイ法と比べて発現レベルを定量的に評価できないという欠点があるが、未知の遺伝子も一様にクローン化できるという利点がある。市販のキット、例えば「PCR-Select cDNAサブトラクションキット(#K1804-1)」(Clontech Co.)を、この方法に使用することができる。

0022

さらに本発明では、遺伝子の発現を翻訳レベルで検出することも考えられる。この場合、まずタンパク質試料を膵管細胞から調製し、各タンパク質の発現を検出する。タンパク質の検出法として、当業者に周知の方法、例えばSDSポリアクリルアミド電気泳動法や2次元電気泳動法などを使用することができる。

0023

上記の検出に続いて、膵管癌患者から調製した膵管細胞における遺伝子発現を、健常者から調製した膵管細胞における遺伝子発現と比較する。比較の結果、健常者の場合と比較して膵管癌患者において発現レベルが有意に高い遺伝子または低い遺伝子を膵管癌特異的遺伝子として同定することができる。

0024

<検査方法>
本発明は、膵管癌を検査する方法も提供する。本発明の膵管癌の検査方法の1つの態様は、上記の方法により同定される膵管癌特異的遺伝子の発現異常を指標として使用することである。

0025

この検査では、まず、被験者から組織または細胞を調製し、本発明の上記の同定方法により同定される膵管癌特異的遺伝子の発現を組織または細胞で検出し、そして検出された膵管癌特異的遺伝子の発現を、対照の組織または細胞における遺伝子の発現と比較する。

0026

被験者から調製する組織または細胞としては、膵管細胞を好適に使用することができる。膵管細胞の調製は上述の通りである。検出対象の膵管癌特異的遺伝子には例えば、膵管癌に対する特異性が本発明の本発明者らによって同定された受容体タンパク質チロシンホスファターゼU(PTPRU;GenBankアクセッション番号U73727)、膜成分、第1染色体表面マーカー1(M1S1;X77753)、マトリクスメタロプロテイナーゼ9(MMP9;J05070)、AC133(AF027208)、タンパク質ホスファターゼ2、調節サブユニットBのαイソ型(PPP2R5A;L42373)、プロパージンB因子(BF;L15702)、アミロイドP成分、血清APCS;X04608)、およびCEACAM7の遺伝子(X98311)、さらに表1〜8に記載された遺伝子が含まれる。AC133、CEACAM7、SOD2、およびHSP105は、膵管癌に対して極めて高い特異性をもつため、膵管癌の特に好ましい指標である。

0027

検査対象となる膵管癌特異的遺伝子は、上記遺伝子群の組み合わせであってもよい。SOD2とHSP105の組み合わせが本発明では好ましい。表3〜8および表11〜14の「2e(act-マーカー遺伝子)×1000」は、膵管癌を検査するための好ましい指標である。仮に被験者の指標の値が1を上回る場合(例えば2、3、4、または5を上回る場合)、被験者に膵管癌のおそれがあると判断される(表9および10)。例えば、仮に「2e(act-SOD2)×1000」の値が5を上回るか、または「2e(act-HSP105)×1000」の値が1を上回る場合、被験者に強く膵管癌のおそれがあると判断される(表13および14)。

0028

転写と翻訳の両方が本発明の「遺伝子発現」に含まれる。したがって、「遺伝子発現の検出」には、転写レベル(mRNA、cDNA)の検出、および翻訳レベル(タンパク質)の検出の双方が含まれる。

0029

転写レベルにおける遺伝子発現の検出では、被験者から調製される組織または細胞からRNA試料を調製し、RNA試料に含まれる膵管癌特異的遺伝子のRNAレベルを測定する。このような方法の例として、膵管癌特異的遺伝子の転写産物とハイブリダイズするプローブを使用したノーザンブロッティング、膵管癌特異的遺伝子の転写産物とハイブリダイズするプライマーを使用したRT-PCR法、または膵管癌特異的遺伝子の転写産物から調製されたcDNAとハイブリダイズするプライマーを使用したPCR法などを挙げることができる。RNA試料およびcDNA試料の調製は、上述の手順で行う。

0030

翻訳レベルにおける遺伝子発現の検出では、被験者から調製される組織または細胞からタンパク質試料を調製し、タンパク質試料に含まれる膵管癌特異的遺伝子がコードするタンパク質の量を測定する。このような方法の例として、SDSポリアクリルアミド電気泳動法、膵管癌特異的遺伝子がコードするタンパク質と結合する抗体を使用したウェスタンブロッティング法、ドットブロッティング法、免疫沈降法、酵素結合免疫アッセイ法ELISA)、および免疫蛍光法を挙げることができる。被験者における膵管癌特異的遺伝子の発現を検出する際の対照としては、健常者における膵管癌特異的遺伝子の発現レベルが通常用いられる。

0031

膵管癌患者に特異的に発現する遺伝子は、膵管癌発症に関与していることが考えられる。一方、膵管癌患者に特異的に発現しない遺伝子は、膵管癌発症の抑制に関与していることが考えられる。したがって、膵管癌特異的遺伝子として膵管癌患者に特異的に発現する遺伝子を標的とした場合には、被験者の膵管癌特異的遺伝子の発現レベルが対照者の発現レベルと比較して有意に上昇していれば、被験者は膵管癌のおそれがあると判定される。膵管癌特異的遺伝子として膵管癌患者に特異的に発現しない遺伝子を標的とした場合には、被験者の膵管癌特異的遺伝子の発現レベルが対照者の発現レベルと比較して有意に低下していれば、被験者は膵管癌のおそれがあると判定される。

0032

本発明の検査の別の態様としては、上述の方法により同定される膵管癌特異的遺伝子の発現異常、またはその遺伝子がコードするタンパク質の活性異常をもたらす遺伝的多型または変異を指標として用いる方法がある。

0033

本明細書における「変異」という用語は、アミノ酸配列中のアミノ酸の変化、またはヌクレオチド配列中のヌクレオチドの変化(即ち、1個または複数のアミノ酸またはヌクレオチドの置換欠失、付加、または挿入)を意味する。さらに「遺伝的多型」という表現は、遺伝学分野で一般に、集団中で1%以上の頻度で存在する遺伝子中の任意のヌクレオチドの変化と定義される。しかし、本発明における「遺伝的多型」という表現は、この定義に制限されず、「多型」には1%未満のヌクレオチドの変化も「多型」に含む。したがって、本明細書における「変異」および「遺伝的多型」は厳密に区別されず、また両者一体として用いて(「遺伝的多型または変異」と表現する)、アミノ酸配列内のアミノ酸の変化、またはヌクレオチド配列中のヌクレオチドの変化を意味する。

0034

被験者における遺伝的多型または変異は、それが膵管癌特異的遺伝子の発現異常、またはその遺伝子がコードするタンパク質の活性異常をもたらす限りは、その種類、数、および部位は特に制限されない。

0035

遺伝的多型または変異の検出は、例えば被験者の膵管癌特異的遺伝子のヌクレオチド配列を直接決定して行うことができる。この方法では、まず被験者からDNA試料を調製する。DNA試料は、膵液、血液、皮膚、口腔粘膜、および外科的に切除または除去された膵臓に由来する組織または細胞から採取される染色体DNAまたはRNAを元に調製することができる。次に、膵管癌特異的遺伝子の領域を含むDNAを単離する。膵管癌特異的遺伝子の領域を含むDNAにハイブリダイズするプライマーを使用して、染色体DNAまたはRNAを鋳型にPCRなどを実施し、DNAを単離することができる。次に、単離されたDNAのヌクレオチド配列を決定する。単離されたDNAのヌクレオチド配列は、当業者に周知の方法で決定することができる。決定されたDNAのヌクレオチド配列中に上述の遺伝的多型および変異が存在する場合に、被験者は膵管癌のおそれがあると判断される。

0036

本発明の検査は、被験者のDNAのヌクレオチド配列を直接決定する上述の方法以外に、多型または変異を検出するためのさまざまな方法で実施することができる。

0037

1つの態様では、まずDNA試料を被験者から調製する。次に、調整後のDNA試料を制限酵素で切断する。得られたDNA断片を大きさに応じて分離する。次に、検出されたDNA断片の大きさを、対照の断片の大きさと比較する。あるいは別の態様では、まずDNA試料を被験者から調製し、次に、膵管癌特異的遺伝子の発現制御領域を含むDNAを増幅する。さらに、増幅したDNAを制限酵素で切断する。次に、DNA断片を大きさに応じて分離する。そして、検出されたDNA断片の大きさを、対照の断片の大きさと比較する。

0038

上記の方法には例えば、制限酵素切断断片長多型/RFLPやPCR-RFLP法などを使用することができる。具体的には、制限酵素認識部位に変異が存在する場合、または(1つまたは複数の)ヌクレオチドの挿入もしくは欠失が、制限酵素処理で生じたDNA断片中に存在する場合は、制限酵素処理後に得られた断片は、その大きさが対照とは異なる。変異を含む部分をPCRで増幅し、次に各制限酵素で処理して、電気泳動によりバンド移動度の差として変異を検出する。あるいは、染色体DNAをこれらの制限酵素で処理し、断片を電気泳動にかけ、そして次に膵管癌特異的遺伝子とハイブリダイズするプローブDNAを用いてサザンブロッティングを行うことで染色体DNA上における変異の有無を検出することができる。使用する制限酵素は、個々の変異について適切に選択することができる。サザンブロッティングは、ゲノムDNAだけでなく、制限酵素で直接切断されたcDNAを対象として実施することもできる(cDNAは、被験者より調製したRNAから逆転写酵素で合成する)。あるいは、膵管癌特異的遺伝子の発現制御領域を含むDNAを、cDNAを鋳型としてPCRで増幅し、cDNAを制限酵素で切断し、移動度の差を調べてもよい。

0039

また別の方法では、まずDNA試料を被験者から調製する。次に、膵管癌特異的遺伝子の領域を含むDNAを増幅する。さらに、増幅後のDNAを1本鎖DNAに解離させる。解離した1本鎖DNAを非変性ゲルで分離する。分離した1本鎖DNAの、ゲル上における移動度を対照の移動度と比較する。

0040

上記の方法では例えば、PCR-SSCP(1本鎖コンホメーション多型)法(「Cloning and polymerase chain reaction-single-strand conformation polymorphism analysis of anonymous Alu repeats on chromosome 11.」Genomics、1992、Jan. 1、12(1):139-146;「Detection of p53 gene mutations in human brain tumors by single-strande conformation polymorphism analysis of polymerase chain reaction products.」Oncogene、1991、Aug. 1;6(8):1313-1318;「Multiple fluorescence-based PCR-SSCP analysis with postlabeling.」、PCR MethodsAppl.、1995、Apr. 1;4(5):275-282)を用いることができる。この方法は、操作が比較的単純なことや、必要な検査用試料が少量で済むことなどの利点があることから、複数のDNA試料のスクリーニングに特に好ましい。この方法の原理を以下に説明する。2本鎖DNA断片が解離して生じた1本鎖DNAは、個々のヌクレオチド配列に依存して固有高次構造を形成する。変性剤を使わないポリアクリルアミドゲル電気泳動を行うと、解離後のDNA鎖鎖長が同じで相補的な1本鎖DNAは、個々の高次構造の差に基づいて異なる位置に移動する。1本鎖DNAの構造は1塩基の置換によっても変化する。このような変化は、ポリアクリルアミドゲル電気泳動における移動度の差を生じる。したがって、わずか1か所の点突然変異、欠失、挿入などによるDNA断片中の変異の存在を、移動度の変化を検出することで決定することができる。

0041

具体的には、膵管癌特異的遺伝子の領域を含むDNAを、まずPCRなどの方法で増幅する。増幅の範囲は、約200〜400 bpの長さが好ましい。当業者であれば、その反応条件などを適切に選択することでPCRを実施することができる。増幅後のDNA産物は、32Pなどの同位体蛍光色素ビオチン等の分子で標識されたプライマーを用いてPCRを行うことによって、または32Pなどの同位体;蛍光色素;ビオチン等の分子で標識された基質ヌクレオチドPCR溶液中に添加することで標識することができる。あるいはDNA断片の標識を、PCR後に32Pなどの同位体;蛍光色素;ビオチン等の分子で標識された基質ヌクレオチドを、クレノウ酵素などを用いて増幅されたDNA断片に添加することによって標識することができる。次に、得られた標識DNA断片を、加熱するなどして変性させ、尿素などの変性剤は使用せずにポリアクリルアミドゲル電気泳動にかける。電気泳動でDNA断片を分離する条件は、適量(約5〜10%)のグリセロールポリアクリルアミドゲルに添加することで最適化することができる。また、個々のDNA断片の特徴に応じて電気泳動条件は変動するものの、通常は室温(20〜25℃)で行う。好ましい分離がこの温度で達成されない場合は、最適な移動度を達成する温度を4〜30℃の温度から選択するとよい。電気泳動後に、DNA断片の移動度を、X線フィルム蛍光検出用のスキャナーを用いて、オートラジオグラフィーにより結果を解析する。異なる移動度のバンドが検出されたら、バンドをゲルから直接切り出し、これを再びPCRで増幅し、増幅断片の配列を直接決定することで、変異の存在を確認することができる。また、標識DNAを使用せずに、電気泳動後にゲルを臭化エチジウムや銀などで染色することでバンドを検出することもできる。

0042

また別の方法では、DNA試料をまず被験者から調製する。次に、膵管癌特異的遺伝子の領域を含むDNAを増幅する。さらに、増幅後のDNAを、DNA変性剤の濃度を徐々に高めたゲルで分離する。次に、ゲル上で分離したDNAの移動度を、対照の移動度と比較する。

0043

例示的な方法として、変性勾配ゲル電気泳動法(DGGE法)などが挙げられる。DGGE法は、DNA断片の混合物を変性剤勾配ポリアクリルアミドゲル中で移動させ、DNA断片を、個々の不安定性の差で分ける方法である。ミスマッチを有する不安定なDNA断片が、ゲル中の特定の変性剤濃度の部分へ移動すると、ミスマッチの周囲のDNA配列は、その不安定さのために、部分的に1本鎖に解離する。部分的に解離したDNAの断片の移動度は極めて遅くなり、解離部分のない完全2本鎖DNAの移動度とは区別されるので、両者は分離可能となる。具体的には、膵管癌特異的遺伝子の領域を含むDNAを、本発明のプライマーを用いたPCR法などで増幅し、尿素などの変性剤の濃度を進行方向に沿って徐々に高めたポリアクリルアミドゲルで電気泳動を行い、対照と比較する。変異が存在するDNA断片の場合、DNA断片は、変性剤濃度の低い位置において1本鎖となるため、移動度は極めて遅くなり、変異の有無を、移動度の差を検出することで判定できる。

0044

上記の方法以外に、対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチドASOハイブリダイゼーション法を、特定の位置のみにおける変異の検出に用いることができる。変異が存在するとみなされるヌクレオチド配列を含むオリゴヌクレオチドを調製し、試料DNAとハイブリダイズさせる。変異が存在する場合、ハイブリッド形成効率は低くなる。これは、ハイブリッドギャップに特定の蛍光試薬インターカレートして反応を停止させ、サザンブロッティング法などで検出することができる。また、リボヌクレアーゼAを用いる検出には、ミスマッチ断片化法を実施してもよい。具体的には、膵管癌特異的遺伝子の領域を含むDNAをPCR法などで増幅し、増幅産物を、プラスミドベクターなどに組み入れられた膵管癌特異的遺伝子などのcDNAから調製した標識RNAとハイブリダイズさせる。ハイブリッドは、変異が存在する位置で1本鎖構造をとるため、この部分をリボヌクレアーゼAで切断し、これをオートラジオグラフィーなどで検出することで変異の存在を判定することができる。

0045

上記検出法による検出の結果、膵管癌特異的遺伝子の発現異常、またはその遺伝子がコードするタンパク質の活性異常をもたらす遺伝的多型または変異が被験者に存在する場合、被験者は膵管癌のおそれがあると判定される。

0046

<検査薬剤>
本発明は、膵管癌の検査用の薬剤も提供する。本発明の検査薬剤の1つの態様は、有効成分として、膵管癌特異的遺伝子の転写産物と特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドを含む。これらは、上述の遺伝子発現を指標とする膵管癌の検査、あるいは遺伝的多型または変異を指標とする膵管癌の検査に使用することができる。

0047

本明細書における、「特異的にハイブリダイズする」という表現は、他のタンパク質をコードするDNAとの交差ハイブリダイゼーションが、通常のハイブリダイゼーション条件で、また好ましくは、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件(例えば、Sambrookら、「Molecular Cloning」、Cold Spring Harbour Laboratory Press、New York、USA、第2版、1989に記載されている条件)で有意に生じないことを意味する。特異的なハイブリダイゼーションが可能な場合、オリゴヌクレオチドが、検出対象の膵管癌特異的遺伝子のヌクレオチド配列と完全に相補的である必要はない。

0048

オリゴヌクレオチドは、本発明の上記の検査でプローブまたはプライマーとして使用することができる。オリゴヌクレオチドをプライマーとして使用する場合は、その長さは通常、15 bp〜100 bpであり、また好ましくは17 bp〜30 bpである。プライマーは、膵管癌特異的遺伝子の転写産物の少なくとも一部を増幅する限りは特に制限されない。

0049

また、上記のオリゴヌクレオチドをプローブとして用いる場合、同プローブは、膵管癌特異的遺伝子の転写産物の少なくとも一部と特異的にハイブリダイズする限りは特に制限されない。このようなプローブは合成オリゴヌクレオチドの場合があり、その鎖長は通常、少なくとも15 bp以上である。

0050

本発明のオリゴヌクレオチドは例えば、市販のオリゴヌクレオチド合成装置で作製することができる。プローブは、制限酵素処理などで得られる2本鎖DNA断片として調製することもできる。

0051

本発明のオリゴヌクレオチドをプローブとして用いる場合、好ましくは必要に応じて標識する。例示的な標識法には、T4ポリヌクレオチドキナーゼでオリゴヌクレオチドの5'末端を32Pでリン酸化する標識法、ならびにプライマーとしてランダムヘキサマーオリゴヌクレオチドを用いて32Pなどの同位体、蛍光色素、またはビオチンで標識された基質ヌクレオチドを、クレノウ酵素などのDNAポリメラーゼで組み入れる方法(ランダムプライム法等)などがある。

0052

本発明の検査薬剤の別の態様では、膵管癌特異的遺伝子がコードするタンパク質に結合する抗体を有効成分として使用する。このような抗体は、検査に使用可能な抗体である限りは特に制限されないが、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体がその代表である。このような抗体は、必要に応じて標識する。

0053

抗体は、当業者に周知の方法で調製することができる。ポリクローナル抗体は、例えば以下の手順で得られる。膵管癌特異的遺伝子がコードする天然タンパク質、GSTとの融合タンパク質として大腸菌などの微生物で発現させた組換えタンパク質またはこの部分ペプチドウサギなどの小動物に免疫して血清を得る。これを、例えば硫酸アンモニウム沈降法;タンパク質Aカラムもしくはタンパク質Gカラム;DEAEイオン交換クロマトグラフィー;または、膵管癌特異的遺伝子がコードするタンパク質、もしくはこの合成ペプチドを結合させたアフィニティカラムなどによって精製してポリクローナル抗体を調製する。あるいはモノクローナル抗体の場合であれば、膵管癌特異的遺伝子がコードするタンパク質、またはこの部分ペプチドを例えばマウスなどの小動物に免疫を行い、同マウスから脾臓を摘出し、これをすりつぶして細胞を分離し、同細胞をポリエチレングリコールなどの試薬を用いてマウスの骨髄腫細胞と融合し、この結果得られた融合細胞ハイブリドーマ)から、膵管癌特異的遺伝子がコードするタンパク質と結合する抗体を産生するクローンを選択する。次に、得られたハイブリドーマをマウスの腹腔移植し、腹水を同個体から回収し、例えば硫酸アンモニウム沈降法、タンパク質カラムAもしくはタンパク質Gカラム、DEAEイオン交換クロマトグラフィー、膵管癌特異的遺伝子がコードするタンパク質、または合成ペプチドを結合させたアフィニティカラムなどで精製してモノクローナル抗体を調製する。

0054

上記の検査薬剤には、必要に応じて例えば滅菌水生理食塩水植物油界面活性剤、脂質、溶解補助剤緩衝剤、タンパク質安定剤(BSAやゼラチンなど)、保存剤等の薬剤を、有効成分であるオリゴヌクレオチド、および抗体に混合することができる。

0055

<医薬候補化合物の同定方法>
本発明は、膵管癌の治療または予防のための医薬候補化合物を同定する方法も提供する。

0056

本発明の医薬候補化合物の同定方法の1つの態様は、膵管癌特異的遺伝子の発現を指標として用いる方法である。

0057

この方法では、まず試験化合物試験動物または試験細胞投与または接触させ、次に、試験動物または試験細胞における膵管癌特異的遺伝子の発現を検出する。

0058

使用される試験動物には、例えばサル、マウス、ラットウシブタイヌなどが含まれる。試験動物の起源としては、例えばヒト、サル、マウス、ラット、ウシ、ブタ、およびイヌが含まれる。しかし試験動物は、これらに限定されない。「試験細胞」としては、例えば膵管細胞を好適に使用することができる。

0059

この方法に使用される試験化合物は、例えば天然化合物有機化合物無機化合物、タンパク質およびペプチドなどの単一化合物化合物ライブラリーおよび遺伝子ライブラリー発現産物細胞抽出物細胞培養上清発酵微生物の産物、海洋生物抽出物、ならびに植物抽出物を含む。

0060

試験動物への試験化合物の「投与」には、例えば注射による血中投与、経口投与経皮投与などが考えられる。また、試験細胞への試験化合物の「接触」は、通常、試験細胞を含む培地試験対象化合物を添加することによって行われる。しかし、この方法による「投与」および「接触」の手法は、これらに限定されない。試験化合物がタンパク質などの場合、「接触」は、そのタンパク質を発現するDNAベクターを細胞に導入することで行われてもよい。

0061

この方法における遺伝子発現の検出は、転写レベルの検出と翻訳レベルの検出の両方を含む。転写レベルの測定は、当業者に周知の方法で実施することができる。例えば、試験細胞からmRNAを標準的な方法で抽出し、鋳型としてmRNAを使用し、ノーザンハイブリダイゼーション、またはRT-PCR法により遺伝子の転写レベルを決定することができる。遺伝子の転写レベルは、DNAアレイ法でも測定することができる。さらに、タンパク質画分を試験細胞から回収し、標的タンパク質の発現をSDS-PAGEなどの電気泳動法で検出することでもその翻訳レベルを決定できる。また翻訳レベルは、標的タンパク質に対する抗体を用いてウェスタンブロッティングを行い、タンパク質の発現を検出することでも決定できる。検出に使用する抗体は特に制限されず、例えばモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、またはこれらの断片を使用することができる。

0062

膵管癌患者において特異的に発現する遺伝子は、膵管癌の発症に関与していることが考えられる。一方で、膵管癌患者において特異的に発現しない遺伝子は、膵管癌の発症抑制に関与していることが考えられる。したがって検出の結果、膵管癌特異的遺伝子として膵管癌患者に特異的に発現する遺伝子を標的とした場合は、試験化合物の投与によって遺伝子の発現レベルが有意に低下すれば、その試験化合物は、膵管癌の治療または予防のための医薬候補化合物であると判断される。一方、膵管癌特異的遺伝子として膵管癌患者に特異的に発現しない遺伝子を標的とした場合は、試験化合物の投与によって遺伝子の発現レベルが有意に上昇すれば、その試験化合物は、膵管癌の治療または予防のための医薬候補化合物であると判断される。

0063

本発明における医薬候補化合物の同定方法の別の態様では、膵管癌特異的遺伝子の発現を、レポーター系を用いて検出する。

0064

この方法では、膵管癌特異的遺伝子の発現制御領域(プロモーター領域)に機能的に連結されたレポーター遺伝子を有する試験動物または試験細胞に、まず試験化合物を投与または接触させる。本明細書において「機能的に連結された」という表現は、発現制御領域がレポーター遺伝子に結合されていて、このため転写因子と膵管癌特異的遺伝子の発現制御領域との結合によりレポーター遺伝子の発現が誘導されることを意味する。したがって、レポーター遺伝子が他の遺伝子に結合していて、他の遺伝子産物に結合した融合タンパク質が形成される場合、転写因子と発現制御領域との結合により融合タンパク質の発現が誘導される限りは、上記「機能的に連結された」の意味に含まれる。

0065

本発明で使用されるレポーター遺伝子は、その発現が検出可能な限り特に制限されず、また例えばCAT遺伝子、lacZ遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、およびGFP遺伝子を含む。

0066

膵管癌特異的遺伝子の発現制御領域(プロモーター領域)に機能的に連結されたレポーター遺伝子を有するベクターは、当業者に周知の方法で調製することができる。ベクターの細胞への導入は、リン酸カルシウム沈殿法エレクトロポレーション法リポフェクタミン法、およびマイクロインジェクション法などの一般的な方法で実施できる。「膵管癌特異的遺伝子の発現制御領域に機能的に連結されたレポーター遺伝子を有する」という表現は、同構築物が染色体に挿入されている状態も含む。DNA構築物の染色体への挿入は、当業者が通常用いている方法、例えば相同組換えを利用した遺伝子導入法で実施できる。

0067

試験動物への試験化合物の「投与」には、例えば注射による血中投与、経口投与、経皮投与などが考えられる。さらに、試験細胞への試験化合物の「接触」は通常、試験細胞を含む培地に試験対象化合物を添加することによって行われる。しかし、この方法による「投与」および「接触」の手法は、これらに限定されない。試験化合物がタンパク質などの場合、「接触」は、そのタンパク質を発現するDNAベクターを細胞に導入することで行われてもよい。

0068

この方法におけるレポーター遺伝子の発現レベルは、レポーター遺伝子の種類に応じて、当業者に周知の方法で測定することができる。例えば、レポーター遺伝子がCAT遺伝子の場合、遺伝子産物のアセチル化クロラムフェニコールで検出することによりレポーター遺伝子の発現レベルが測定できる。レポーター遺伝子がlacZ遺伝子の場合は、遺伝子発現産物触媒作用による色素化合物の発色を検出することでレポーター遺伝子の発現レベルが測定できる。またレポーター遺伝子がルシフェラーゼ遺伝子の場合は、遺伝子発現産物の触媒作用による蛍光化合物蛍光を検出することで、またレポーター遺伝子がGFP遺伝子の場合は、GFPタンパク質による蛍光を検出することで、それぞれ発現レベルを測定することができる。

0069

この検出の結果、膵管癌特異的遺伝子として膵管癌患者において特異的に発現する遺伝子を標的とした場合は、試験化合物の投与によってレポーター遺伝子の発現レベルが有意に低下すれば、その試験化合物は、膵管癌の治療または予防のための医薬候補化合物であると判断される。一方、膵管癌特異的遺伝子として膵管癌患者において特異的に発現しない遺伝子を標的とした場合は、試験化合物の投与によってレポーター遺伝子の発現レベルが有意に上昇すれば、その試験化合物は、膵管癌の治療または予防のための医薬候補化合物であると判断される。

0070

本発明における医薬候補化合物の同定方法の別の態様は、膵管癌特異的遺伝子がコードするタンパク質の活性を指標として用いる方法である。この方法では、膵管癌特異的遺伝子がコードするタンパク質の活性を、試験化合物をタンパク質に接触させることで検出する。

0071

膵管癌特異的遺伝子がコードするタンパク質は、その活性が検出可能な限り、その形状は特に制限されない。タンパク質は例えば、精製された形態、細胞内または細胞表面に発現した形態、細胞の膜画分としての形態、またはアフィニティカラムに結合した形態であってもよい。

0072

タンパク質活性の検出は、タンパク質の種類によって異なる場合がある。例えばPTPRUは、基質タンパク質におけるリン酸化されたチロシン残基からリン酸を除去する活性を有し;MMP9はプロテアーゼ活性を有し;タンパク質ホスファターゼ2は、基質タンパク質におけるリン酸化されたセリン残基、またはリン酸化されたスレオニン残基のいずれかからリン酸を除去する活性を有し;またSOD2は、細胞内で産生されるフリーラジカルイオン失活させる活性を有する。PTPRU、MMP9、およびタンパク質ホスファターゼ2のこうした活性は、活性測定用の市販のキットを用いて検出することもできる。SOD2活性の検出に関しては文献を参照されたい(J. Report、Fertil.、97:347-351、1993)。

0073

膵管癌患者に特異的に発現する遺伝子は、膵管癌の発症に関与していることが考えられる。一方、膵管癌患者に特異的に発現しない遺伝子は、膵管癌の発症の抑制に関与していることが考えられる。したがって検出の結果、膵管癌特異的遺伝子として膵管癌患者に特異的に発現する遺伝子がコードするタンパク質を標的とした場合、試験化合物の投与によってそのタンパク質の活性が低下するのであれば、その試験化合物は、膵管癌の治療または予防のための医薬候補化合物であると判断される。一方、膵管癌特異的遺伝子として膵管癌患者に特異的に発現しない遺伝子がコードするタンパク質を標的とた場合は、試験化合物の投与によってそのタンパク質の活性が増加するのであれば、その試験化合物は、膵管癌の治療または予防のための医薬候補化合物であると判断される。

0074

本発明を実施するための最良の態様
以下に本発明を実施例を参照して説明するが、本発明がそれらに制限されるとは解釈されない。

0075

実施例1:膵液からの膵管細胞の精製
膵液は、膵管細胞、赤血球好中球、およびリンパ球を含む、さまざまな種類の細胞を含有する(図1A)。膵液中の、これらの成分の比率は患者ごとに大きく変化するため、信頼できる解析のためには膵管細胞を精製する工程が必要であろう。正常細胞と癌由来膵管細胞はいずれも、数種類ムチンを発現することが知られている。なかでもMUC1は、正常細胞および癌性膵管細胞で共通して発現するが、MUC3やMUC5のような他のムチンは各疾患で発現が異なる(Balague, C.、Audie, J.P.、Porchet, N.、およびReal, F.X.「In situ hybridization shows distinct patterns of mucin gene expression in normal, benign, and malignant pancreas tissues.」Gastroenterology、109:953-964、1995;Terada, T.、Ohta, T.、Sasaki, M.、Nakamura, Y.、およびKim, Y. S.「Expression of MUC apomucins in normal pancreas and pancreatic tumours.」J. Pathol.、180:160-165、1996)。したがって本発明者らは本研究で、膵管細胞の共通表面マーカーとしてMUC1を選択し、磁気ビーズ分離カラムを使用したMUC1のアフィニティ精製系を開発した。膵管細胞の精製手順を具体的に以下に示す。

0076

ERCPを受ける被験者、および細胞診用の膵液採取が行われる被験者から、検査参加に関し書面により同意を得た。患者の診断は、ERCP、膵液の細胞診、腹部CT、CA19-9の血清レベル、および継続観察の結果を組み合わせることで確認した。膵液の約3分の1を、以下の手順によるMUC1+膵管細胞の精製に用いた。細胞を膵液から遠心法で採取し、1 mlのMACS結合緩衝液(3%ウシ胎仔血清および2 mMEDTAを添加したリン酸緩衝食塩水)中に再懸濁した。次に、この細胞を0.5 μgの抗MUC1抗体(Novocastra Laboratories、Newcastle upon Tyne、UK)と4℃で30分間反応させ、MACS結合緩衝液で洗浄し、抗マウスIgGMACS MicroBeads(Miltenyi Biotec、Auburn、CA)と混合した。次に、製造業者のプロトコールにしたがって、細胞/MicroBeads混合物をminiMACS磁気細胞分離カラム(Miltenyi Biotec)上でのクロマトグラフィーに供した。溶出したMUC1+細胞をアリコートに分け、-80℃で保存した。各被験者の未分画細胞の一部、ならびにMUC1+細胞をライト-ギムザ溶液で染色して、膵管細胞を高濃度で含む画分の純度を調べた。

0077

図1Bに示すように、カラムから溶出した液体中には、上皮性の形状を示す細胞が含まれていた。

0078

実施例2:膵臓癌のBAMPスクリーニングの必要性
PDCに特異的な遺伝子の同定を試みた過去の研究では、正常組織と癌性膵臓組織の遺伝子発現プロファイルを比較することが多かった。しかし導入部で説明したように、この方法は、外分泌/内分泌細胞と膵管細胞との間で異なって発現する遺伝子を同定しかねない。この問題を明らかにするために、本発明者らはまず、外科的に切除された正常膵臓組織(n=1)および癌性膵臓組織(n=2)のトランスクリプトームを、オリゴヌクレオチドマイクロアレイを用いて比較した。

0079

MUC1+細胞調製物から全RNAをRNAzol B(Tel-Test Inc.、Friendswood、TX)を用いて抽出し、RNAの一部(20 μg)を対象に、T7RNAポリメラーゼを用いてvan Gelderらの方法(Van Gelder, R.N.、von Zastrow, M.E.、Yool, A.、Dement, W.C.、Barchas, J.D.、およびEberwine, J. H.「Amplified RNA synthesized from limited quantities of heterogeneouscDNA.」Proc. Natl. Acad. Sci. USA、87:1663-1667、1990)でmRNAの増幅を行った。次に、ビオチンで標識したcRNAを、増幅後の試料RNA(2 μg)からExpressChipラベリングシステム(Mergen、San Leandro、CA)を用いて合成し、全3,456個のヒト遺伝子に対応するオリゴヌクレオチドを含むマイクロアレイ(HO-1〜3;Mergen)とハイブリダイズさせた(遺伝子のリストウェブサイトhttp://www.mergen-ltd.com/から入手可能)。このマイクロアレイを次に、ストレプトアビジン、ストレプトアビジンに対する抗体、およびCy3結合二次抗体(すべてMergenから入手)と連続してインキュベートした。ハイブリダイゼーションシグナルの検出およびデジタル化は、GMS 418アレイスキャナー(Affymetrix、Santa Clara、CA)で行った。

0080

ヒト遺伝子3456個のデジタル化された発現強度を、各ハイブリダイゼーションにおける全遺伝子の発現レベルの中央値に対して正規化し、また癌組織については2つの標本の各遺伝子の平均発現値をさらに計算した。データの統計解析にはGeneSpring 4.0ソフトウェア(Silicon Genetics、Redwood、CA)を使用した。次に各遺伝子の発現レベルを正常組織と癌組織との間で比較した(図2A)。興味深いことに、癌組織との比較で、正常膵臓組織に対して最も特異的な遺伝子の1つはインスリンをコードする遺伝子であった。インスリンはランゲルハンス島のみで発現するため、この結果は、正常細胞と癌細胞との間の細胞1個あたりのインスリン転写物数の差ではなく、試料間の内分泌細胞の割合の差を反映している可能性がある。

0081

また本発明者らは、病理検査においてPDCでないことが判明した2人の被験者からMUC1+膵管細胞を調製した。正常膵管細胞と正常組織切片との間における、これらの標本のDNAマイクロアレイ解析とデータの比較からも、インスリンをコードする遺伝子が2群間で最も異なって発現する遺伝子の1つであることがわかった(図2B)。また多くの遺伝子の発現強度が、組織切片と精製膵管細胞との間で異なることが明らかであった。

0082

膵管起源の細胞の割合が、正常膵臓組織と比べて癌性組織では極めて高くなるのは当然であるため、これらのデータは集合的に、膵臓に由来する正常組織と癌性組織との間で外科的に切除された標本を単純に比較することは、膵管細胞系列に関する形質転換関連遺伝子群を同定するための適切な方法ではないという、本発明者らの推定を支持するものである。

0083

実施例3:膵液から得られた膵管細胞の発現プロファイル
PDCに特異的な、可能性のある分子マーカーを同定するための理想的な戦略の1つは、健常者および癌患者から得られた膵液中の膵管細胞におけるトランスクリプトームを比較することであろう。このようなスクリーニングにおいては、両者間のトランスクリプトームに生じるある程度の差が、形質転換過程を反映する可能性は高い(両標本は同起源であるため)。

0084

また臨床応用の観点からも、同アプローチは望ましいとも考えられる。真の癌特異的遺伝子を膵液中の細胞から同定することができれば、ERCP法で得られる膵液を対象に、逆転写PCR法でPDCを診断する高感度の方法の開発が現実のものとなる。

0085

この目的に向けて、遺伝子3456個の発現プロファイルを、1つの正常膵臓組織、2つの癌性膵臓組織、2つの正常膵管細胞の標本、およびPDC患者から得た3つの膵管細胞標本を対象に比較した。各標本のトランスクリプトームの特徴を画像化するために、本発明者らはデータを対象にクラスリング解析を行い、類似の発現プロファイルの遺伝子をひとまとめにした樹状図すなわち「遺伝子ツリー」を作成した(図3A)。この図から、正常膵管細胞標本#1(ND #1)の遺伝子発現パターンと、癌性膵管細胞標本(CD #1〜3)の同パターンが類似していることが明らかである。しかし重要な点は、膵臓の発癌関連遺伝子を含みうるこれらの中に、さらに有意差が存在することである。

0086

試料のトランスクリプトームの類似性統計学的に解析するために、本発明者らは次に2元クラスタリング解析(Alon, U.、Barkai, N.、Notterman, D.A.、Gish, K.、Ybarra, S.、Mack, D.、およびLevine, A.J.「Broad patterns of gene expression revealed by clustering analysis of tumor and normal colon tissues probed by oligonucleotide arrays.」Proc. Natl. Acad. Sci. USA、96:6745-6750、1999)を行い、トランスクリプトームの類似する標本同士が近傍に配置される「患者ツリー」を得た。図3Bに示すように、すべての膵管細胞標本は同じ枝にまとめられた。癌性膵管細胞のトランスクリプトームが、癌組織よりも正常膵管細胞のトランスクリプトームに対して類似度が高いとわかったことは、やや驚きであった。癌患者#2および#3に由来する膵管細胞標本は、ほぼ類似のトランスクリプトームを有していた。癌患者#1と健常者#1の膵管細胞は、わずかに異なっていたが、癌患者#2と癌患者#3のトランスクリプトームには関連性が認められた。これとは対照的に、癌患者(CT #1、2)に由来する組織切片は別の枝に配置され、切除組織のトランスクリプトームが、膵管細胞のトランスクリプトームとは大きく異なることがわかる。

0087

実施例4:PDCについての可能性のある分子マーカー
膵管癌細胞に特異的に発現する遺伝子を同定するために、各遺伝子の平均発現値を、癌性組織切片、健常者の膵管細胞、および癌患者の膵管細胞の各群内で計算した。この平均値に基づき、本発明者らは次に、別の樹状図である「平均ツリー」を作成して、平均発現値が各群に特異的であった遺伝子群のクラスター可視化した(図4A)。同図では、このような疾患依存性のクラスターがいくつか存在することがわかる。

0088

本発明者らは次に、発現が膵管癌細胞集団では誘導されているが、正常組織または正常膵管細胞集団では無視できるか、極めて低レベルである一連の遺伝子を抽出することを試みた。正常組織、および正常膵管細胞群内の発現が任意単位(U)で3.0未満であるが、癌性膵管細胞群の少なくとも1つの試料においては15.0 U以上に上昇した全38個の遺伝子を選択した(図4B)。このような可能性のある癌特異的分子マーカーには、受容体型タンパク質チロシンホスファターゼU(PTPRU;GenBankアクセッション番号U73727)、膜成分、第1染色体、表面マーカー1(M1S1;X77753)、マトリクスメタロプロテイナーゼ9(MMP9;J05070)、AC133(AF027208)、タンパク質ホスファターゼ2、調節サブユニットB、αイソ型(PPP2R5A;L42373)、プロパージンB因子(BF;L15702)、アミロイドP成分、血清(APCS;X04608)、およびCEACAM7(X98311)の遺伝子などが含まれる。これらの遺伝子の発現プロファイルを図4Bに示す。興味深いことに、癌組織試料中の、これらの遺伝子の発現レベルは、弱いか、または無視できる(「CT」の列を参照)ため、膵管細胞ベースアッセイ法が優れていることがさらに支持される。

0089

図4Bに示した遺伝子名およびアクセッション番号、ならびに遺伝子の発現強度データは、Cancer Researchのウェブサイトより「Supplementary Information」として閲覧できる。

0090

実施例5:可能性のある膵管癌マーカーのmRNAの定量
本発明者らは次に、遺伝子発現プロファイルを「リアルタイム」PCR法で確認した。増幅していないcDNAを、8人の健常者および10人の膵臓癌患者から得たMUC1+膵管細胞から調製した。β-アクチン、AC133、またはCEACAM7のcDNAの一部をPCRで増幅し、PCR産物の量をリアルタイムでモニタリングし、各cDNAのCT値を決定した。

0091

具体的には、まず増幅していないcDNAの一部を対象に、SYBRグリーンPCRコア試薬(PE Applied Biosystems、FosterCity、CA)を用いてPCRを行った。PCR産物へのSYBRグリーン色素の取り込みはABIPRISM7700配列検出システム(PE Applied Biosystems)によってリアルタイムでモニタリングし、PCR産物の指数関数的な増幅が始まる閾値サイクル(CT)を決定した。β-アクチン遺伝子および標的遺伝子に対応するcDNAのCT値を用いて、β-アクチンのmRNAに対する標的転写物の量を算出した。使用したPCR用のオリゴヌクレオチドプライマーは以下の通りである:β-アクチンcDNA用に5'-CCATCATGAAGTGTGACGTGG-3'(配列番号:1)および5'-GTCCGCCTAGAAGCATTTGCG-3'(配列番号:2)、癌由来胎児性抗原関連細胞接着分子(CEACAM)7 cDNA用に5'-CCATCATGAAGTGTGACGTGG-3'(配列番号:3)および5'-GTCCGCCTAGAAGCATTTGCG-3'(配列番号:4)、AC133 cDNA用に5'-GAGACTCAGAACACAACCTACCTG-3'(配列番号:5)および5'-AGCCAGTACTCCAATCATGATGCT-3'(配列番号:6)。

0092

図5から明らかなように、アレイデータと良好に一致し、AC133遺伝子およびCEACAM7遺伝子の発現はいずれもPDCに高度に特異的であった。両遺伝子の転写は、正常膵管細胞ではほとんど認められなかった。したがって、これらの遺伝子はPDC特異的マーカーとして優れた候補となる可能性がある。AC133遺伝子またはCEACAM7遺伝子の発現レベルが、癌標本でも多様であることが判明したことは意外ではないと言ってよい。というのは、膵管細胞の形質転換過程が一様ではないはずだからである。

0093

実施例6:可能性のあるPDCマーカーの再評価
遺伝子3456個の発現プロファイルを、正常膵臓組織1例、癌性膵臓組織2例、正常膵管上皮3例、および癌性膵管上皮6例において、実施例3と同様に比較した。

0094

膵管癌特異的遺伝子の抽出を以下の2つの基準を用いて行った。

0095

(1)統計的に発現の差が有意な遺伝子
まず、「正常膵管上皮」と「癌性膵管上皮」との間において、遺伝子発現の差が有意である遺伝子を調べた。各遺伝子の両群における発現の平均値の差を調べた。この目的のために、以下の2点を満たす遺伝子を抽出した:(i)ウェルチ-t検定で平均値にP<0.05で有意差があること、ならびに(ii)正常膵管上皮と癌性膵管上皮全9例の少なくとも2つの試料について、正規化後の発現量が3を超えること。遺伝子および得られた発現データを表1に示す。

0096

0097

(2)通常発現せず、いずれかの癌において高度に発現する遺伝子
方法(1)では、各群において発現レベルの標準偏差が小さい遺伝子が選択される傾向にある。したがって、このような遺伝子を、たとえ分散が大きい場合であっても、「通常は全く発現せず、いずれかの癌で高度に発現する」という基準を元に選択した。すなわち以下の2点を満たす遺伝子を選択した:(i)正常膵臓組織と正常膵管上皮全4例の全ポイントについて、正規化後の発現量が1未満であること、ならびに(ii)癌性膵管上皮6例中の少なくとも1ポイントについて、正規化後の発現量が10以上であること。遺伝子および得られた発現データを表2に示す。

0098

0099

表2のSOD2(スーパーオキシドジスムターゼ2)は、細胞で作られたフリーラジカルイオンを失活させる酵素であり、マンガンSOD(Mn SOD)と呼ばれる。SOD2は細胞を、過剰な酸化状態から守る役割を果たし、SOD2遺伝子が破壊されたマウスは、心筋障害および代謝性アシドーシスのために生後10日以内に死亡する。SOD2が膵臓癌で高度に発現していることは、SOD2が、過度増殖状態にある膵臓癌細胞細胞死から守る役割を担っている可能性を意味する。

0100

SOD2に関しては例えば、腫瘍壊死因子α(TNF-α)を膵臓癌細胞系列へ添加すると発現が誘導されることが報告されている(Oncology Research 9:623-627、1997)。

0101

したがって、本発明者らはSOD2に注目し、以下の実験を行った。

0102

実施例7:SOD2のmRNAの定量
本発明者らは、SOD2の遺伝子発現を、実施例5と同様に「リアルタイム」PCR法で確認した。増幅していないcDNAを、膵管癌(28例)、良性腫瘍(16例)、慢性膵炎(4例)、および正常膵臓(12例)から得たMUC1+膵管細胞より調製した。β-アクチンおよびSOD2のcDNAの一部をPCRで増幅し、PCR産物の量をリアルタイムでモニタリングし、各cDNAのCT値を決定した。

0103

具体的には、増幅していないcDNAの一部を対象に、SYBRグリーンPCRコア試薬(PE Applied Biosystems、FosterCity、California)を用いてPCRを行った。PCR産物へのSYBRグリーン色素の取り込みはABIPRISM7700配列検出システム(PE Applied Biosystems)によってリアルタイムでモニタリングし、PCR産物の指数関数的な増幅が始まる閾値(CT)を決定した。β-アクチン遺伝子および標的遺伝子に対応するcDNAのCT値を用いて、β-アクチンのmRNAに対する標的転写物の量を計算した。

0104

具体的には、SOD2を増幅するオリゴヌクレオチドプライマーとして、センスプライマー:5'-CAGGATCCACTGCAAGGAACAACA-3'(配列番号:7)、およびアンチセンスプライマー:5'-CATGTATCTTTCAGTTACATTCTC-3'(配列番号:8)を使用した。あるいは、内部対照のβ-アクチンを増幅するオリゴヌクレオチドプライマーとして、センスプライマー:5'-CCATCATGAAGTGTGACGTGG-3'(配列番号:9)、およびアンチセンスプライマー:5'-GTCCGCCTAGAAGCATTTGCG-3'(配列番号:10)を使用した。各プライマーは94℃で15秒、60℃で30秒、72℃で1分のサイクルで60回反応させ、Ct値を算出した。

0105

膵管癌患者であると診断された被験者の約50%にSOD2が検出されたことは、図6から明らかである。この値は、膵管癌患者の正確な診断率としては非常に高い。

0106

実施例8:CDKN1C、HSP105、IGFBP1、UBE3A、CAPN2、およびSOD2のmRNAの定量
本発明者らは、CDKN1C、HSP105、IGFBP1、UBE3A、CAPN2、およびSOD2の遺伝子発現を、実施例7と同様に「リアルタイム」PCR法で確認した。PCR用のオリゴヌクレオチドプライマーは以下のものを使用した:CDKN1CcDNA用に5'-agagatcagcgcctgagaag-3'(配列番号:11)および5'-tgggctctaaattggctcac-3'(配列番号:12)、HSP105 cDNA用に5'-cacagccccaggtacaaact-3'(配列番号:13)および5'-tttgctttgtcagcatctgg-3'(配列番号:14)、IGFBP1 cDNA用に5'-ctgccaaactgcaacaagaa-3'(配列番号:15)および5'-tatctggcagttggggtctc-3'(配列番号:16)、UBE3A cDNA用に5'-aagcctgcacgaatgagtt-3'(配列番号:17)および5'-ggagggatgaggatcacaga-3'(配列番号:18)、CAPN2 cDNA用に5'-aggcatacgccaagatcaac-3'(配列番号:19)および5'-gccaaggagagagccttttt-3'(配列番号:20)、SOD2 cDNA用に5'-caggatccactgcaaggaacaaca-3'(配列番号:21)および5'-catgtatctttcagttacattctc-3'(配列番号:22)、β-アクチンcDNA用に5'-ccatcatgaagtgtgacgtgg-3'(配列番号:23)および5'-gtccgcctagaagcatttgcg-3'(配列番号:24)。

0107

PCRを実施してCt値を算出した。PCRの条件は、UNG(ウラシル-N-グリコシラーゼ)の存在下で、50℃で2分、95℃で15分に続いて、94℃で15秒、60℃で30秒、72℃で1分を60サイクルとした。得られた発現データを表3〜8に示す(表中の省略形は以下を示す:Ca=膵臓癌患者、IPMT=良性腫瘍患者、Chr. pancreatitis=慢性膵炎患者、Normal=健常者)。

0108

各疾患の全被験者に対して「2e(act-マーカー遺伝子)×1000」の値が1を上回る被験者の占める比を表9に示し、また各疾患の全被験者に対して「2e(act-マーカー遺伝子)×1000」の値が5を上回る被験者の占める比を表10に示す。

0109

各疾患の全被験者に対して「2e(act-SOD2)×1000」の値、または「2e(act-HSP105)×1000」の値が1を上回る被験者の占める比を表11および12に示す。

0110

さらに、各疾患の全被験者に対して「2e(act-SOD2)×1000」の値が5を上回るか、または「2e(act-HSP105)×1000」の値が1を上回る被験者の占める比を表13および14に示す。

0111

0112

0113

0114

0115

0116

0117

0118

0119

0120

0121

0122

0123

産業上の利用可能性
本発明者らは、膵臓の正常組織と癌性組織との間の単純な比較が、形質転換過程を解析するのに良好な方法ではないことを明らかにした。これとは対照的に、分画化後の正常および癌起源の膵管細胞を対象としたスクリーニングにより、本発明者らは、PDCの診断に有用となりうる一連の遺伝子を同定することができた。

0124

同定された38個の遺伝子の一部は、癌細胞で高度に発現することが既にわかっていたものであった。例えばPTPRUは、膵臓癌細胞系列に由来する新規のタンパク質チロシンホスファターゼを単離する取り組みの過程で同定されている(Wang, H.、Lian, Z.、Lerch, M. M.、Chen, Z.、Xie, W.、およびUllrich, A.「Characterization of PCP-2, a novel receptor protein tyrosine phosphatase of the MAM domain family.」Oncogene、12:2555-2562、1996)。Wangらは、この発現の存在を、正常膵臓組織および膵臓癌細胞系列の両方で明らかにしたが、本発明者らの今回の研究は、PTPRUの発現を癌患者由来の膵管細胞に限定した。これらの観察で認められる不一致は、アッセイ系の差(組織全体の比較か、または分画後の膵管細胞の比較か)に起因する可能性がある。

0125

CEACAM7はCEAファミリーのタンパク質に属する。結腸直腸癌におけるCEAの高度な発現とは対照的に、CEACAM7は、正常結腸上皮で大量に発現していることが報告されている。しかし、その発現は、悪性形質転換時に抑制されることが報告されている(Scholzel, S.、Zimmermann, W.、Schwarzkopf, G.、Grunert, F.、Rogaczewski, B.、およびThompson, J.「Carcinoembryonic antigen family members CEACAM6 and CEACAM7 are differentially expressed in normal tissues and oppositely deregulated in hyperplastic colorectal polyps and early adenomas.」Am. J. Pathol.、156:595-605、2000;Thompson, J.、Seitz, M.、Chastre, E.、Ditter, M.、Aldrian, C.、Gespach, C.、およびZimmermann, W.「Down-regulation of carcinoembryonic antigen family member 2 expression is an early event in colorectal tumorigenesis.」Cancer Res.、57:1776-1784、1997)。膵臓における、この発現は十分にはわかっていないが、CEACAM7タンパク質は、正常膵管細胞に存在する可能性がある(Scholzel, S.、Zimmermann, W.、Schwarzkopf, G.、Grunert, F.、Rogaczewski, B.、およびThompson, J.「Carcinoembryonic antigen family members CEACAM6 and CEACAM7 are differentially expressed in normal tissues and oppositely deregulated in hyperplastic colorectal polyps and early adenomas.」Am. J. Pathol.、156:595-605、2000)。しかし、CEACAM7の癌特異的発現に関する本発明者らの観察により、この遺伝子の、血清および膵管細胞ベースのアッセイ法の両方における新しい癌マーカーとしての可能性が開かれるであろう。

0126

AC133は当初、CD34high、CD38low/neg、およびc-kit+の表現型を示す造血幹細胞富む画分に特異的な細胞表面マーカーとして同定された(Hin, A.H.、Miraglia, S.、Zanjani, E.D.、Almeida-Porada, G.、Ogawa, M.、Leary, A.G.、Olweus, J.、Kearney, J.、およびBuck, D.W.「AC133, a novel marker for human hematopoietic stem and progenitor cells.」Blood、90:5002-5012、1997)。AC133は内皮細胞の前駆体でも発現し(Gallacher, L.、Murdoch, B.、Wu, D.M.、Karanu, F.N.、Keeney, M.、およびBhatia, M.「Isolation and characterization of human CD34(-)Lin(-) and CD34(+)Lin(-) hemtopoietic stem cells using cell surface markers AC133 and CD7.」Blood、95:2813-2820、2000)、これはAC133が、血液細胞および血管の共通の前駆体である、極めて未成熟血管芽細胞のマーカーとなりうる可能性があることを意味する。骨髄網膜以外の組織におけるAC133の発現はこれまで報告されていなかったため、本発明者らの研究は、膵管細胞系列でAC133の発現を同定した最初の例となろう。AC133が、正常細胞で大量に発現し、形質転換後の血管芽細胞では発現しないことを考えれば、癌性膵管細胞で発現することは、AC133が膵管細胞の前駆体に対するマーカーでもあるということを意味する可能性がある。PDCにおけるAC133発現の上昇は、膵管細胞の分化プログラムにおける、癌細胞の未成熟性を反映している可能性がある。

0127

M1S1または消化器腫瘍関連抗原1(GA733-1)は当初、腺癌細胞系列上の腫瘍関連抗原として同定され、膵臓癌細胞系列でも発現することが報告されていた(Linnenbach, A.J.、Wojcierowski, J.、Wu, S.、Pyrc, J.J.、Ross, A.H.、Dietzschold, B.、Speicher, D.、およびKoprowski, H.「Sequence investigation of the major gastrointestinal tumor-associated antigen gene family, GA733.」Proc. Natl. Acad. Sci. USA、86:27-31、1989)。MMP9は、細胞外マトリクスの分解を触媒し、その発現は、造血幹細胞の動員(Pruijt, J.F.、Fibbe, W.E.、Laterveer, L.、Pieters, R.A.、Lindley, I.J.、Paemen, L.、Masure, S.、Willemze, R.、およびOpdenakker, G.「Prevention of interleukin-8-induced mobilization of hematopoietic progenitor cells in rhesus monkeys by inhibitory antibodies against the metalloproteinase gelatinase B(MMP-9).」Proc. Natl. Acad. Sci. USA、96:10863-10868、1999)、および癌細胞の浸潤性(Turner, H.E.、Nagy, Z.、Esiri, M.M.、Harris, A.L.、およびWass, J.A.「Role of matrix metalloproteinase 9 in pituitary tumor behavior.」J. Clin. Endocrinol. Metab.、85:2931-2935、2000)に寄与する可能性がある。

0128

結論として、精製後の膵管細胞画分を対象としたDNAマイクロアレイ解析は、組織標本の単純な比較と比べて、PDC特異的遺伝子を抽出するための効率的で優れた方法であることが証明された。本発明者らが今回得たデータは、ERCPベースの高感度で特異的な膵臓癌検出検査に至る道を開くものである。

図面の簡単な説明

0129

(A)PDC癌患者から得た膵液のアリコートを対象に、サイトスピン(Cytospin)に続き、ライト-ギムザ染色(×100)を行った。上皮起源の細胞のほかに、赤血球と好中球(矢頭)の両方が認められる。(B)MUC1-アフィニティカラムからの溶離液も染色した(×200)。癌特異的な異常な表現型(明瞭なクロマチン構造を伴う大きな核)が一部の細胞に認められることに注目されたい。
(A)正常組織と癌性膵臓組織との間におけるヒト遺伝子3456個の発現レベルの比較。発現レベルの中央値を、2つのPDC組織の各遺伝子について計算し、これを正常膵臓組織の同値と比較した。個々の線は、アレイ上の1つの遺伝子に対応し、正常組織における発現レベルに応じて色分けして示す(右にカラースキームを示す)。(B)遺伝子3456個の発現プロファイルを(A)と同様に、1つの正常膵臓組織と2つのMUC1+正常膵管細胞との間で比較した。
(A)1人の健常者(NT)、2人の癌患者(CT)から得た組織試料の発現プロファイル、ならびに2人の健常者(ND)、および3人の癌患者(CD)から得たMUC1+膵管細胞の発現プロファイルに基づく遺伝子3456個の階層的クラスタリング。各行はマイクロアレイ上の1つの遺伝子を示し、各列は、異なる患者(または正常者)の試料に対応する。各遺伝子について正規化した蛍光強度を図2Aと同様に色分けして示す。(B)Aに示したトランスクリプトームを元に、2元クラスタリング(two-way clustering)解析を行って、異なる被験者に由来する試料の類似性を統計学的に評価し、被験者の樹状図を得た。
(A)健常者(ND)または癌患者(CD)から得た癌性膵臓組織試料(CT)およびMUC1+膵管細胞に関して、各遺伝子の平均発現値を計算した。これらのデータは、正常膵臓組織(NT)における発現レベルとともに、樹状図または「平均ツリー」の作成に使用した(カラースキームは図2Aに示す)。(B)平均ツリーから、平均発現レベルがCD標本で特異的に上昇した遺伝子を選択し、クラスタリング解析を行った。各列は1つの遺伝子に対応し、行は、異なる試料における対応発現レベルを示す。遺伝子名、アクセッション番号、ならびに発現強度はCancer Scienceのウェブサイトより閲覧できる。
MUC1+膵管細胞におけるAC133およびCEACAM7の転写物の定量。8人の健常者および10人のPDC患者の膵管細胞から調製した相補的DNAを対象に、AC133(A)もしくはCEACAM7(B)、またはβ-アクチンの遺伝子に特異的なプライマーを用いてリアルタイムPCRを行った。β-アクチンのmRNAの転写物量に対する標的転写物量の比を2nとして算出した(nはβ-アクチンcDNAのCT値から、標的cDNAのCT値を差し引いた値)。
MUC1+膵管細胞におけるSOD2転写物の定量。28人の膵臓癌患者、16人の良性腫瘍患者、4人の慢性膵炎患者、および12人の健常者の膵管細胞から調製した相補的DNAを対象に、SOD2またはβ-アクチンの遺伝子に特異的なプライマーを用いてリアルタイムPCRを行った。β-アクチンのmRNAの転写物に対するSOD2の転写物量の比を2nとして算出した(nはβ-アクチンcDNAのCT値から、標的cDNAのCT値を差し引いた値)。

ページトップへ

この技術を出願した法人

この技術を発明した人物

ページトップへ

関連する挑戦したい社会課題

関連する公募課題

ページトップへ

技術視点だけで見ていませんか?

この技術の活用可能性がある分野

分野別動向を把握したい方- 事業化視点で見る -

(分野番号表示ON)※整理標準化データをもとに当社作成

ページトップへ

おススメ サービス

おススメ astavisionコンテンツ

新着 最近 公開された関連が強い技術

  • 株式会社CYBOの「 イメージングフローサイトメーター、ソート方法、及びキャリブレーション方法」が 公開されました。( 2021/09/30)

    【課題】簡易な構成で対象物の速度ばらつきを考慮したソート精度の高いイメージングフローサイトメーターを提供する。【解決手段】第1,第2スポットに、第1,第2レーザ光を照射するレーザユニット20と、第1,... 詳細

  • 中国電力株式会社の「 残留塩素自動分析計」が 公開されました。( 2021/09/30)

    【課題・解決手段】従来技術に比較して、メンテナンス効率を向上させた残留塩素自動分析計を提供する。残留塩素自動分析計1は、分析対象液中の残留塩素濃度を測定する測定セル11と、測定セルの上流側に設置され、... 詳細

  • 第一工業製薬株式会社の「 ヒアルロニダーゼ阻害剤」が 公開されました。( 2021/09/30)

    【課題】ヒアルロニダーゼ阻害活性により肌の老化を防ぐ技術を提供する。【解決手段】ヒアルロニダーゼ阻害剤は、セルロース繊維の一部の水酸基が所定の式で表される置換基によって修飾されている硫酸化セルロース繊... 詳細

この 技術と関連性が強い技術

関連性が強い 技術一覧

この 技術と関連性が強い人物

関連性が強い人物一覧

この 技術と関連する社会課題

関連する挑戦したい社会課題一覧

この 技術と関連する公募課題

関連する公募課題一覧

astavision 新着記事

サイト情報について

本サービスは、国が公開している情報(公開特許公報、特許整理標準化データ等)を元に構成されています。出典元のデータには一部間違いやノイズがあり、情報の正確さについては保証致しかねます。また一時的に、各データの収録範囲や更新周期によって、一部の情報が正しく表示されないことがございます。当サイトの情報を元にした諸問題、不利益等について当方は何ら責任を負いかねることを予めご承知おきのほど宜しくお願い申し上げます。

主たる情報の出典

特許情報…特許整理標準化データ(XML編)、公開特許公報、特許公報、審決公報、Patent Map Guidance System データ