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技術 アミロイドβ蛋白質のアミロイド線維化を増幅するための試薬

出願人 国立研究開発法人科学技術振興機構
発明者 三原久和高橋剛大島秀夫
出願日 2003年8月19日 (16年3ヶ月経過) 出願番号 2003-295153
公開日 2005年3月10日 (14年8ヶ月経過) 公開番号 2005-060336
状態 特許登録済
技術分野 生物学的材料の調査,分析 ペプチド又は蛋白質
主要キーワード 中期段階 増加度 自己触媒反応 TFE溶液 励起出力 原因蛋白質 ランダムコイル状 サンプリング前
関連する未来課題
重要な関連分野

この項目の情報は公開日時点(2005年3月10日)のものです。
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図面 (8)

課題

アミロイド線維化した微量のアミロイドβ蛋白質の核とテンプレート反応を起こしてアミロイド線維を形成し、線維を増量して増幅する天然ペプチドの探索、並びにそれに代り得る新たな人工ペプチドの設計、開発と、これらを用いたアミロイドβ蛋白質のアミロイド線維化増幅方法及びそれに用いる試薬、並びにアミロイドーシスに起因する疾病検出方法及びそれに用いる試薬の提供。

解決手段

アミロイドβペプチドの14残基から23残基からなるペプチド又は該ペプチドの正電荷側鎖アミノ酸が全てLysに置換され、且つ負電荷側鎖アミノ酸が全てGluに置換された形のペプチドを含んでなる試薬を用いるアミロイドβ蛋白質のアミロイド線維化増幅方法及びこれに用いる試薬、該ペプチドを含んでなる試薬を用いるアミロイドーシスに起因する疾病の検出方法及びこれに用いる試薬、並びにこれらに使用し得る新規な人工ペプチド。

概要

背景

アルツハイマー病は1907年にドイツの神経病理学者Alois Alzheimerによって報告された疾患である。発症年齢初老以降であり、進行性痴呆が症状の中核となる疾患である。痴呆とは正常であった知的機能が徐々に障害された結果、日常生活に障害をきたしてくる状態をいう。アルツハイマー病の場合に症状として最初に現れてくるものは、物忘れに代表されるような記憶力の障害である。さらに、失語失認失行などを含む様々な知的機能の障害も加わり、徐々に進行性の経過をとり、末期には寝たきり失禁など高度の痴呆状態へと至る。病理学的には脳のび漫性の萎縮神経細胞脱落に加え、老人班、神経原線維変化と呼ばれる特徴的な構造物が数多く観察される。これらの変化は特に海馬において著しい傾向にある。
神経原線維変化はAlzheimerが初めて記載した変化で、神経細胞全体の嗜銀性の線維状構造物の蓄積を指す。その線維は特徴的な二重らせん構造をとっていることからPaired helical filaments(PHF)と名付けられた。しかしPHFは多くの神経疾患出現することが発見されたことから、現在ではPHFの形成は神経細胞が変性していく過程における非特異的な反応様式であると考えられている。
老人班は元来、中心に密集したアミロイド線維があり、その周囲に変成しつつある神経突起アストロサイトなどが集まった構造全体を定義していた。アミロイド線維は種々の溶媒不溶であるので、この性質を利用してアルツハイマー病脳の髄膜血管および脳実質から精製され、その構成成分が分子量約4kDの新しいペプチドであるアミロイドβ蛋白質(Aβ)と同定された。分子量が小さいことからその前駆体の存在が予測され、cDNAクローニングによりAPP(β Amyloid protein precursor)が同定された。これは一回膜貫通型膜蛋白質であり、AβはAPPの細胞外ドメインから膜ドメインの内部2残基までであることが判った。
その後、単離されたAβから抗Aβ抗体が作製され、アルツハイマー病患者の脳を抗体染色したところ、以前から知られていた球状の老人班の他に多くの形態でのAβの存在が観察され、アミロイド沈着はこれまでの考えよりも遙かに広範に渡っていることが明らかとなった。アミロイド沈着のなかにはその程度が軽く、変成神経突起を伴わないものがある。これはび慢性老人班と名付けられ、アルツハイマー病の初期病理像であると考えられ、アルツハイマー病に特異的なものとして広く支持されている。
近年、アルツハイマー病やプリオン病などの致死性アミロイドーシス(amyloidosis:アミロイド細胞周囲組織間隙に沈着機能障害をおこす疾患)において、蛋白質ミスフォールド体形成やアミロイド線維形成が重要な段階であることが明らかになりつつあり、アミロイド線維を検出することはアミロイドーシスの診断において極めて重要である。

Aβとはアミノ酸40残基もしくは42残基で構成されるペプチドで、それぞれAβ(1−40)およびAβ(1−42)と呼ばれ、アルツハイマー病の発症過程において重要な役割を果たしていると考えられている。Aβはアミノ酸695残基から770残基で構成される一回膜貫通蛋白質であるAPPから酵素(β−secretase,γ−secretase)によって切り出されて生成し、健康な人の脳内には0.1nM〜10nM程度の濃度でモノマーのAβ(1−40)が存在しているとされ、α−secretaseによって分解され代謝される。
Aβ(1−40)は生理的条件下においてランダムコイル状態で存在し、Aβ(1−40)が生成する場合は脳内に沈着することなくα−secretaseによって代謝される。しかしAβ(1−42)は生理的条件下において、ランダムコイル状態から集合化してα−ヘリックス構造を経由しβシート構造をとる。その後βシート構造のAβは更に重合しアミロイド線維化してプロテアーゼ耐性を獲得する。そして不溶化して脳内に沈着し老人班を形成する。このことがアルツハイマー病発症過程において重要であると考えられている。しかしAβ(1−42)は稀にしか生成せず、その生成機構およびアミロイド線維化の機構も良く判っていない。

アルツハイマー病の診断は、初期段階ではDSM−4(米国精神医学協会から公示されたアルツハイマー病の診断基準)等を用いた精神医学的な手法が大部分を占めている。しかし精神医学的な手法ではアルツハイマー病初期段階における確定診断が難しく、またアルツハイマー病患者およびその家族がその症状に気付くにはその病状がかなり進行していることが多い。また、中期段階以降はMRIにより脳の萎縮を判定することで診断が可能だが、ごく初期段階においては脳の萎縮が始まっていないので診断することは難しい。
またその他の診断法として低濃度トロピカミドアセチルコリン受容体アンタゴニスト;アルツハイマー病患者はアセチルコリン受容体が減少するのでアセチルコリン受容体アンタゴニストに対して過敏になる)点眼に対する瞳孔散大、および固視による記憶力テスト(アルツハイマー病においては海馬の損傷が著しく、それをテストする)などがあるが、現時点では信頼性が低く、副次的な診断法としてしか用いられていない。現時点では、ごく初期段階のアルツハイマー病の診断は非常に難しく、そのことがアルツハイマー病の治療をより一層困難なものとしている。

概要

アミロイド線維化した微量のアミロイドβ蛋白質の核とテンプレート反応を起こしてアミロイド線維を形成し、線維を増量して増幅する天然ペプチドの探索、並びにそれに代り得る新たな人工ペプチドの設計、開発と、これらを用いたアミロイドβ蛋白質のアミロイド線維化増幅方法及びそれに用いる試薬、並びにアミロイドーシスに起因する疾病検出方法及びそれに用いる試薬の提供。アミロイドβペプチドの14残基から23残基からなるペプチド又は該ペプチドの正電荷側鎖アミノ酸が全てLysに置換され、且つ負電荷側鎖アミノ酸が全てGluに置換された形のペプチドを含んでなる試薬を用いるアミロイドβ蛋白質のアミロイド線維化増幅方法及びこれに用いる試薬、該ペプチドを含んでなる試薬を用いるアミロイドーシスに起因する疾病の検出方法及びこれに用いる試薬、並びにこれらに使用し得る新規な人工ペプチド。 なし

目的

Aβのアミロイド線維沈着はアルツハイマー病に特異的であり、アルツハイマー病の他の症状に先行するので、アルツハイマー病のごく初期段階においてアミロイド線維化したAβを検出することが可能となれば、アルツハイマー病の初期段階の確定診断が可能になると考えられる。しかし、アルツハイマー病の初期段階において、アミロイド線維化したAβはごく微量であるため、現時点では検出が困難である。そこで、微量のアミロイド線維化したAβを増幅することが可能となれば、初期段階でのアルツハイマー病検出に多大な応用が期待される。
本発明は、斯かる状況に鑑みなされたもので、アミロイド線維化した微量のAβの核とテンプレート反応を起こしてアミロイド線維を形成し、線維を増量して増幅する天然ペプチドの探索、並びにそれに代り得る新たな人工ペプチドの設計、開発と、これらを用いたアミロイドβ蛋白質のアミロイド線維化増幅方法及びそれに用いる試薬、並びにアミロイドーシスに起因する疾病の検出方法及びそれに用いる試薬を提供することを目的とする。

効果

実績

技術文献被引用数
1件
牽制数
1件

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請求項1

アミロイドβペプチドの14残基から23残基からなるペプチド[以下、Aβ(14−23)と略す。]又は該ペプチドの正電荷側鎖アミノ酸が全てLysに置換され、且つ負電荷側鎖アミノ酸が全てGluに置換された形のペプチドを含んでなる、アミロイドβ蛋白質アミロイド線維化を増幅するための試薬

請求項2

Aβ(14−23)の正電荷側鎖アミノ酸が全てLysに置換され、且つ負電荷側鎖アミノ酸が全てGluに置換された形のペプチドが、更に、ペプチド鎖内部の疎水性残基の1乃至複数個が他の疎水性アミノ酸残基に置換されてなるペプチドである、請求項1に記載の試薬。

請求項3

Aβ(14−23)の正電荷側鎖アミノ酸が全てLysに置換され、且つ負電荷側鎖アミノ酸が全てGluに置換された形のペプチドが、更に、ペプチド鎖内部の疎水性残基が全てLeuに置換されるか、ペプチド鎖内部の疎水性部位N末端側から3残基目或いは4残基目のPheを残して全てLeuに置換されるか、又は疎水性部位のN末端側から3残基目がAlaに置換され、残りの疎水性残基が全てLeuに置換されてなるペプチドである、請求項1に記載の試薬。

請求項4

アミロイドβペプチドの14残基から23残基からなるペプチド[Aβ(14−23)]又は該ペプチドの正電荷側鎖アミノ酸が全てLysに置換され、且つ負電荷側鎖アミノ酸が全てGluに置換された形のペプチドを含んでなる試薬を用いることを特徴とする、アミロイドβ蛋白質のアミロイド線維化増幅方法

請求項5

Aβ(14−23)の正電荷側鎖アミノ酸が全てLysに置換され、且つ負電荷側鎖アミノ酸が全てGluに置換された形のペプチドが、更に、ペプチド鎖内部の疎水性残基の1乃至複数個が他の疎水性アミノ酸残基に置換されてなるペプチドである、請求項4に記載の方法。

請求項6

Aβ(14−23)の正電荷側鎖アミノ酸が全てLysに置換され、且つ負電荷側鎖アミノ酸が全てGluに置換された形のペプチドが、更に、ペプチド鎖内部の疎水性残基が全てLeuに置換されるか、ペプチド鎖内部の疎水性部位のN末端側から3残基目或いは4残基目のPheを残して全てLeuに置換されるか、又は疎水性部位のN末端側から3残基目がAlaに置換され、残りの疎水性残基が全てLeuに置換されてなるペプチドである、請求項4に記載の方法。

請求項7

アミロイドβペプチドの14残基から23残基からなるペプチド[Aβ(14−23)]又は該ペプチドの正電荷側鎖アミノ酸が全てLysに置換され、且つ負電荷側鎖アミノ酸が全てGluに置換された形のペプチドを含んでなる、アミロイドーシスに起因する疾病検出用試薬

請求項8

Aβ(14−23)の正電荷側鎖アミノ酸が全てLysに置換され、且つ負電荷側鎖アミノ酸が全てGluに置換された形のペプチドが、更に、ペプチド鎖内部の疎水性残基の1乃至複数個が他の疎水性アミノ酸残基に置換されてなるペプチドである、請求項7に記載の検出用試薬。

請求項9

Aβ(14−23)の正電荷側鎖アミノ酸が全てLysに置換され、且つ負電荷側鎖アミノ酸が全てGluに置換された形のペプチドが、更に、ペプチド鎖内部の疎水性残基が全てLeuに置換されるか、ペプチド鎖内部の疎水性部位のN末端側から3残基目或いは4残基目のPheを残して全てLeuに置換されるか、又は疎水性部位のN末端側から3残基目がAlaに置換され、残りの疎水性残基が全てLeuに置換されてなるペプチドである、請求項7に記載の検出用試薬。

請求項10

アミロイドーシスに起因する疾病がアルツハイマー病である請求項7〜9の何れかに記載の検出用試薬。

請求項11

アミロイドβペプチドの14残基から23残基からなるペプチド[Aβ(14−23)]又は該ペプチドの正電荷側鎖アミノ酸が全てLysに置換され、且つ負電荷側鎖アミノ酸が全てGluに置換された形のペプチドを含んでなる試薬を用いることを特徴とする、アミロイドーシスに起因する疾病の検出方法

請求項12

Aβ(14−23)の正電荷側鎖アミノ酸が全てLysに置換され、且つ負電荷側鎖アミノ酸が全てGluに置換された形のペプチドが、更に、ペプチド鎖内部の疎水性残基の1乃至複数個が他の疎水性アミノ酸残基に置換されてなるペプチドである、請求項11に記載の検出方法。

請求項13

Aβ(14−23)の正電荷側鎖アミノ酸が全てLysに置換され、且つ負電荷側鎖アミノ酸が全てGluに置換された形のペプチドが、更に、ペプチド鎖内部の疎水性残基が全てLeuに置換されるか、ペプチド鎖内部の疎水性部位のN末端側から3残基目或いは4残基目のPheを残して全てLeuに置換されるか、又は疎水性部位のN末端側から3残基目がAlaに置換され、残りの疎水性残基が全てLeuに置換されてなるペプチドである、請求項11に記載の検出方法。

請求項14

アミロイドーシスに起因する疾病がアルツハイマー病である請求項11〜13の何れかに記載の検出方法。

請求項15

下記一般式[1]R−Lys−Gln−Lys−Leu−Leu−X−Y−Leu−Glu−Glu−R’[1](式中、Rは、水素原子又はアミノ基の保護基を表し、Xは、Leu、Phe又はAlaを表し、Yは、Leu又はPheを表し、R’は、OH又はNH2を表す。)で示されるペプチド。

請求項16

式:R−Lys−Gln−Lys−Leu−Leu−Leu−Leu−Leu−Glu−Glu−R’(式中、R及びR’は前記と同じ。)で示される請求項15に記載のペプチド。

請求項17

式:R−Lys−Gln−Lys−Leu−Leu−Leu−Phe−Leu−Glu−Glu−R’(式中、R及びR’は前記と同じ。)で示される請求項15に記載のペプチド。

請求項18

式:R−Lys−Gln−Lys−Leu−Leu−Phe−Leu−Leu−Glu−Glu−R’(式中、R及びR’は前記と同じ。)で示される請求項15に記載のペプチド。

請求項19

式:R−Lys−Gln−Lys−Leu−Leu−Ala−Leu−Leu−Glu−Glu−R’(式中、R及びR’は前記と同じ。)で示される請求項15に記載のペプチド。

技術分野

0001

本発明は、アミロイド線維化したアミロイドβ蛋白質(以下、Aβと略す。)の増幅方法とそのための試薬に関するもので、アルツハイマー病プリオン病等のアミロイドーシス予兆診断法基盤となるものである。

背景技術

0002

アルツハイマー病は1907年にドイツの神経病理学者Alois Alzheimerによって報告された疾患である。発症年齢初老以降であり、進行性痴呆が症状の中核となる疾患である。痴呆とは正常であった知的機能が徐々に障害された結果、日常生活に障害をきたしてくる状態をいう。アルツハイマー病の場合に症状として最初に現れてくるものは、物忘れに代表されるような記憶力の障害である。さらに、失語失認失行などを含む様々な知的機能の障害も加わり、徐々に進行性の経過をとり、末期には寝たきり失禁など高度の痴呆状態へと至る。病理学的には脳のび漫性の萎縮神経細胞脱落に加え、老人班、神経原線維変化と呼ばれる特徴的な構造物が数多く観察される。これらの変化は特に海馬において著しい傾向にある。
神経原線維変化はAlzheimerが初めて記載した変化で、神経細胞全体の嗜銀性の線維状構造物の蓄積を指す。その線維は特徴的な二重らせん構造をとっていることからPaired helical filaments(PHF)と名付けられた。しかしPHFは多くの神経疾患出現することが発見されたことから、現在ではPHFの形成は神経細胞が変性していく過程における非特異的な反応様式であると考えられている。
老人班は元来、中心に密集したアミロイド線維があり、その周囲に変成しつつある神経突起アストロサイトなどが集まった構造全体を定義していた。アミロイド線維は種々の溶媒不溶であるので、この性質を利用してアルツハイマー病脳の髄膜血管および脳実質から精製され、その構成成分が分子量約4kDの新しいペプチドであるアミロイドβ蛋白質(Aβ)と同定された。分子量が小さいことからその前駆体の存在が予測され、cDNAクローニングによりAPP(β Amyloid protein precursor)が同定された。これは一回膜貫通型膜蛋白質であり、AβはAPPの細胞外ドメインから膜ドメインの内部2残基までであることが判った。
その後、単離されたAβから抗Aβ抗体が作製され、アルツハイマー病患者の脳を抗体染色したところ、以前から知られていた球状の老人班の他に多くの形態でのAβの存在が観察され、アミロイド沈着はこれまでの考えよりも遙かに広範に渡っていることが明らかとなった。アミロイド沈着のなかにはその程度が軽く、変成神経突起を伴わないものがある。これはび慢性老人班と名付けられ、アルツハイマー病の初期病理像であると考えられ、アルツハイマー病に特異的なものとして広く支持されている。
近年、アルツハイマー病やプリオン病などの致死性のアミロイドーシス(amyloidosis:アミロイド細胞周囲組織間隙に沈着機能障害をおこす疾患)において、蛋白質ミスフォールド体形成やアミロイド線維形成が重要な段階であることが明らかになりつつあり、アミロイド線維を検出することはアミロイドーシスの診断において極めて重要である。

0003

Aβとはアミノ酸40残基もしくは42残基で構成されるペプチドで、それぞれAβ(1−40)およびAβ(1−42)と呼ばれ、アルツハイマー病の発症過程において重要な役割を果たしていると考えられている。Aβはアミノ酸695残基から770残基で構成される一回膜貫通蛋白質であるAPPから酵素(β−secretase,γ−secretase)によって切り出されて生成し、健康な人の脳内には0.1nM〜10nM程度の濃度でモノマーのAβ(1−40)が存在しているとされ、α−secretaseによって分解され代謝される。
Aβ(1−40)は生理的条件下においてランダムコイル状態で存在し、Aβ(1−40)が生成する場合は脳内に沈着することなくα−secretaseによって代謝される。しかしAβ(1−42)は生理的条件下において、ランダムコイル状態から集合化してα−ヘリックス構造を経由しβシート構造をとる。その後βシート構造のAβは更に重合しアミロイド線維化してプロテアーゼ耐性を獲得する。そして不溶化して脳内に沈着し老人班を形成する。このことがアルツハイマー病発症過程において重要であると考えられている。しかしAβ(1−42)は稀にしか生成せず、その生成機構およびアミロイド線維化の機構も良く判っていない。

0004

アルツハイマー病の診断は、初期段階ではDSM−4(米国精神医学協会から公示されたアルツハイマー病の診断基準)等を用いた精神医学的な手法が大部分を占めている。しかし精神医学的な手法ではアルツハイマー病初期段階における確定診断が難しく、またアルツハイマー病患者およびその家族がその症状に気付くにはその病状がかなり進行していることが多い。また、中期段階以降はMRIにより脳の萎縮を判定することで診断が可能だが、ごく初期段階においては脳の萎縮が始まっていないので診断することは難しい。
またその他の診断法として低濃度トロピカミドアセチルコリン受容体アンタゴニスト;アルツハイマー病患者はアセチルコリン受容体が減少するのでアセチルコリン受容体アンタゴニストに対して過敏になる)点眼に対する瞳孔散大、および固視による記憶力テスト(アルツハイマー病においては海馬の損傷が著しく、それをテストする)などがあるが、現時点では信頼性が低く、副次的な診断法としてしか用いられていない。現時点では、ごく初期段階のアルツハイマー病の診断は非常に難しく、そのことがアルツハイマー病の治療をより一層困難なものとしている。

発明が解決しようとする課題

0005

Aβのアミロイド線維沈着はアルツハイマー病に特異的であり、アルツハイマー病の他の症状に先行するので、アルツハイマー病のごく初期段階においてアミロイド線維化したAβを検出することが可能となれば、アルツハイマー病の初期段階の確定診断が可能になると考えられる。しかし、アルツハイマー病の初期段階において、アミロイド線維化したAβはごく微量であるため、現時点では検出が困難である。そこで、微量のアミロイド線維化したAβを増幅することが可能となれば、初期段階でのアルツハイマー病検出に多大な応用が期待される。
本発明は、斯かる状況に鑑みなされたもので、アミロイド線維化した微量のAβの核とテンプレート反応を起こしてアミロイド線維を形成し、線維を増量して増幅する天然ペプチドの探索、並びにそれに代り得る新たな人工ペプチドの設計、開発と、これらを用いたアミロイドβ蛋白質のアミロイド線維化増幅方法及びそれに用いる試薬、並びにアミロイドーシスに起因する疾病検出方法及びそれに用いる試薬を提供することを目的とする。

課題を解決するための手段

0006

本発明は、アミロイドβペプチドの14残基から23残基からなるペプチド[以下、Aβ(14−23)と略す。]又は該ペプチドの正電荷側鎖アミノ酸が全てLysに置換され、且つ負電荷側鎖アミノ酸が全てGluに置換された形のペプチドを含んでなる、アミロイドβ蛋白質のアミロイド線維化を増幅するための試薬に関する。

0007

また、本発明は、アミロイドβペプチドの14残基から23残基からなるペプチド[Aβ(14−23)]又は該ペプチドの正電荷側鎖アミノ酸が全てLysに置換され、且つ負電荷側鎖アミノ酸が全てGluに置換された形のペプチドを含んでなる試薬を用いることを特徴とする、アミロイドβ蛋白質のアミロイド線維化増幅方法に関する。

0008

更に、本発明は、アミロイドβペプチドの14残基から23残基からなるペプチド[Aβ(14−23)]又は該ペプチドの正電荷側鎖アミノ酸が全てLysに置換され、且つ負電荷側鎖アミノ酸が全てGluに置換された形のペプチドを含んでなる、アミロイドーシスに起因する疾病の検出用試薬に関する。

0009

更にまた、本発明は、アミロイドβペプチドの14残基から23残基からなるペプチド[Aβ(14−23)]又は該ペプチドの正電荷側鎖アミノ酸が全てLysに置換され、且つ負電荷側鎖アミノ酸が全てGluに置換された形のペプチドを含んでなる試薬を用いることを特徴とする、アミロイドーシスに起因する疾病の検出方法に関する。

0010

また、本発明は、下記一般式[1]
R−Lys−Gln−Lys−Leu−Leu−X−Y−Leu−Glu−Glu −R’ [1]
(式中、Rは、水素原子又はアミノ基の保護基を表し、Xは、Leu、Phe又はAlaを表し、Yは、Leu又はPheを表し、R’は、OH又はNH2を表す。)
で示されるペプチドに関する。

発明の効果

0011

本発明に係る、アミロイドーシスに起因する疾病の検出用試薬によれば、体内にあるアミロイド線維の核を安全な人工ペプチドを利用して増幅し、検出不可能原因蛋白質を予兆段階の検査において増幅して検出可能なレベルにすることが出来るので、アルツハイマー病やプリオン病(狂病やヒトのヤコブ病など)等のアミロイドーシスに起因する疾病を初期段階で検出することが出来る。

発明を実施するための最良の形態

0012

本発明において用いられる、Aβ(14−23)としては、天然のものでも、ペプチド合成法の常法に従って合成したものでも何れでも良い。
本発明において用いられる、Aβ(14−23)の正電荷側鎖アミノ酸が全てLysに置換され、且つ負電荷側鎖アミノ酸が全てGluに置換された形のペプチドとしては、例えば、Aβ(14−23)の正電荷側鎖アミノ酸が全てLysに置換され、且つ負電荷側鎖アミノ酸が全てGluに置換された形のペプチドであって、更にペプチド鎖内部の疎水性残基の1乃至複数個が他の疎水性アミノ酸残基に置換されてなるペプチドが、好ましいものとして挙げられる。置換し得る他の疎水性アミノ酸残基としては、例えば、ロイシン(Leu)、イソロイシン(Ile)、フェニルアラニン(Phe)、バリン(Val)等のアミノ酸残基が挙げられる。
そのようなペプチドの好ましい具体例としては、例えば、Aβ(14−23)の正電荷側鎖アミノ酸が全てLysに置換され、且つ負電荷側鎖アミノ酸が全てGluに置換された形のペプチドであって、更に、i)ペプチド鎖内部の疎水性残基が全てLeuに置換された形のもの、ii)ペプチド鎖内部の疎水性部位N末端側から3残基目或いは4残基目のPheを残して全てLeuに置換された形のもの、或いは、iii)疎水性部位のN末端側から3残基目がAlaに置換され、残りの疎水性残基が全てLeuに置換された形のもの等が挙げられるが、勿論これらに限定されるものではない。

0013

本発明に係る、アミロイドβ蛋白質のアミロイド線維化を増幅するための試薬、及び本発明に係る、アミロイドーシスに起因する疾病の検出用試薬は、上記した如きAβ(14−23)又は該ペプチドの正電荷側鎖アミノ酸が全てLysに置換され、且つ負電荷側鎖アミノ酸が全てGluに置換された形のペプチドを含んでなる点に特徴を有する。
また、本発明に係る、アミロイドβ蛋白質のアミロイド線維化増幅方法、及び本発明に係る、アミロイドーシスに起因する疾病の検出方法は、上記した如きAβ(14−23)又は該ペプチドの正電荷側鎖アミノ酸が全てLysに置換され、且つ負電荷側鎖アミノ酸が全てGluに置換された形のペプチドを含んでなる試薬を用いる点に特徴を有する。

0014

本発明に係る、Aβ(14−23)の正電荷側鎖アミノ酸が全てLysに置換され、且つ負電荷側鎖アミノ酸が全てGluに置換された形のペプチドの好ましい具体例を一般式で示すと、例えば、以下のようになる。
R−Lys−Gln−Lys−Leu−Leu−X−Y−Leu−Glu−Glu −R’ [1]
(式中、Rは、水素原子又はアミノ基の保護基を表し、Xは、Leu、Phe又はAlaを表し、Yは、Leu又はPheを表し、R’は、OH又はNH2を表す。)

0015

上記一般式[1]で示されるペプチドの好ましい具体例としては、例えば、下記の如きものが挙げられる。
1)R−Lys−Gln−Lys−Leu−Leu−Leu−Leu−Leu−Glu −Glu−R’
2)R−Lys−Gln−Lys−Leu−Leu−Leu−Phe−Leu−Glu −Glu−R’
3)R−Lys−Gln−Lys−Leu−Leu−Phe−Leu−Leu−Glu −Glu−R’
4)R−Lys−Gln−Lys−Leu−Leu−Ala−Leu−Leu−Glu −Glu−R’
(上記式中のR及びR’は前記と同じ。)
上記1)〜4)に示されるペプチドは何れも新規化合物である。

0016

上記一般式[1]において、Rで表されるアミノ基の保護基としては、例えば、アセチル基、t−ブトキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基フルオレニルメトキシカルボニル基ベンゾイル基等のアシル基や、フルオレッセイン基、オレゴングリーン基等の蛍光性アシル基などが挙げられるが、より簡便なアセチル基が好ましい。
なお、上記1)〜4)に示されるペプチドにおけるRもこれと全く同様である。

0017

本発明において用いられる、Aβ(14−23)の正電荷側鎖アミノ酸が全てLysに置換され、且つ負電荷側鎖アミノ酸が全てGluに置換された形のペプチドの好ましい具体例としては、上記一般式[1]で示されるものの他に、例えば、一般式[1]において、Xが、ペプチド鎖内部の疎水性部位のN末端側から1残基目、2残基目、或いは5残基目の位置にあるものや、一般式[1]におけるLeuがIleに置き換わったもの、或いは一般式[1]におけるXやYがIleに置き換わったもの等々が挙げられる。

0018

これら本発明に係るペプチド類は、何れも、ペプチド合成器を用いたBoc固相合成法やFmoc固相合成法等の常法により容易に合成し得る。

0019

本発明に係る、アミロイドーシスに起因する疾病の検出用試薬、或いはアミロイドーシスに起因する疾病の検出方法により検出可能な疾病としては、先ず第一にアルツハイマー病が挙げられる。また、例えば、狂牛病やヒトのヤコブ病などのプリオン病も同様に検出可能である。その他、アミロイドーシスに起因する各種疾病が同様に検出し得る。
これらアミロイドーシスに起因する各種疾病は、本発明に係るペプチドを含んでなる検出試薬を用いることにより、予兆段階、初期段階において、感度良く検出することが出来る。

0020

以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。

0021

(1)ペプチドAc−Lys−Gln−Lys−Leu−Leu−Leu−Phe−Leu−Glu−Glu−NH2[ペプチド(10−4F)]の合成
(1−1)試薬、機器・装置
Fmocアミノ酸誘導体および固相担体としての樹脂は、ノババイオケム(Novabiochem)社より購入し、そのまま用いた。他の試薬は市販品のものをそのまま使用した。
ペプチドはFmoc(9−フルオレニルメトキシカルボニル固相法により手動で合成した。ペプチド鎖の手動合容器にはポリプロピレン製エンプティーカラムファルマシアバイオテック社製)を用いた。吸収スペクトルは、SHIMADZU BioSpc−1600 Spectrometerを用いて測定した。高速液体クロマトグラフィーHPLC)には、HITACHI 7000 systemを用いた。HPLC溶媒として、A液:0.1%TFA/H2O、B液:0.08%TFA/CH3CNの混合溶媒を用い、30分間でA液とB液の直線勾配により溶出した。逆相カラムとして分析にはCosmosil 5C18−AR−2(Nacalai tesque)(4.6×150 mm)を流速1ml/minで使用した。ペプチドの精製にはCosmosil 5C18−AR−2(ナカライ テスク)(10×250 mm)を流速3ml/minで使用した。検出波長には220nmを用いた。飛行時間型質量分析(TOF−MS)はSHIMADZU KRATOS MALDI IIIを用いて行い、マトリックスとして3,5−ジメトキシ−4−ヒドロキシ桂皮酸シナピン酸)を用いた。蛍光プレートリーダーは、BERTHOLD Twinkle LB970を用いた。

0022

(1−2)ペプチド(10−4F)の合成
10−4Fの合成はFmoc固相法により20μmolスケールで行った。樹脂はNovaSyn TGR resinを用いた。各アミノ酸残基のカップリングは樹脂上のアミノ基に対して3当量のFmoc−アミノ酸(Fmoc−AA−OH)を用いて反応を完全に進行させるようにした。本実施例ではFmoc−AA−OHとしてFmoc−Gln(Trt)−OH、Fmoc−Glu(Ot-Bu)−OH、Fmoc−Leu−OH、Fmoc−Lys(Boc)−OH、Fmoc−Phe−OH、(t-Bu:tert−ブチル、Trt:トリチル、Boc:tert−ブトキシカルボニル)を使用した。カップリング試薬として、2−(1H−ベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェートHBTU)(3当量)、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール水和物(HOBt−H2O)(3当量)、N,N−ジイソプロピルエチルアミン(DIEA)(6当量)を用いた。反応溶媒としてN−メチルピロリドン(NMP)を使用した。Fmoc基の除去には20%ピペリジンPPD)/NMPを使用した。アミノ酸誘導体をカルボキシル末端から順次カップリングした。反応中は適宜ボルテックス攪拌し、カップリングの終了をKaiser Test(KT)により確認した。全てのアミノ酸をカップリング後、アミノ末端のアミノ酸のFmoc基を除去した後、NMP中で無水酢酸(10等量)を用いてペプチドのN末端のアミノ基をアセチル化した。その後、樹脂をNMP、クロロホルムで順次洗浄し、4時間減圧乾燥した。
減圧乾燥した樹脂を50mlナスフラスコに取り、m−クレゾール(0.13ml)、チオアニソール(0.38ml)及びトリフルオロ酢酸(TFA)(5ml)を順次加え室温で1時間攪拌し反応させた。エバポレーターを用いてTFAを除去した後、約30 mlのジエチルエーテルを加えてペプチド(10−4F)を沈殿させた。遠心分離器(3000rpm、5分)にかけデカンテーションを5回繰り返した後、ジエチルエーテルを窒素気流下で気化させた。沈殿を減圧乾燥し、粗ペプチド(10−4F)を得た。得られた粗ペプチド(10−4F)を逆相HPLCにより精製し、CH3CNをエバポレーターで除去した後、凍結乾燥回収した。収率35%。得られたペプチド(10−4F)はMALDI−TOFMSを用いて同定した。
MALDI−TOFMS:
実測値(M+H+)1301.6。
計算値(M+H+)1302.5。

0023

(2)ペプチドAc−Lys−Gln−Lys−Leu−Leu−Leu−Leu−Leu−Glu−Glu−NH2[ペプチド(10−3L)]、ペプチドAc−Lys−Gln−Lys−Leu−Leu−Phe−Leu−Leu−Glu−Glu−NH2[ペプチド(10−3F])及びペプチドAc−Lys−Gln−Lys−Leu−Leu−Ala−Leu−Leu−Glu−Glu−NH2[ペプチド(10−3A)]の合成。
上記(1)で用いたと同じ試薬及び機器・装置を用い、上記(1)に記載の方法と同様の方法でペプチド合成及び逆相HPLCによる精製を行ない、ペプチド(10−3L)、ペプチド(10−3F)及びペプチド(10−3A)をそれぞれ合成した。
得られた、これらペプチドのMALDI−TOFMSを以下に示す。
ペプチド(10−3L):実測値(M+H+)1290.1
計算値(M+H+)1290.6
ペプチド(10−3F):実測値(M+H+)1302.2。
計算値(M+H+)1302.5。
ペプチド(10−3A):実測値(M+Na+)1226.2。
計算値(M+Na+)1226.5。

0024

(3)Aβ(14−23)及びAβ(10−35)の合成
上記(1)で用いたと同じ試薬及び機器・装置を用い、上記(1)に記載の方法と同様にして、アミロイドβペプチドの14残基から23残基からなるペプチド[Aβ(14−23)]、及びアミロイド線維の核として、疎水性残基に富み線維形成能が高いことが知られている、アミロイドβペプチドの10残基から35残基からなるペプチド[Aβ(10−35)]を合成した。
得られたこれらペプチドのMALDI−TOFMSを以下に示す。
Aβ(14−23):実測値(M+H+)1274.8
計算値(M+H+)1274.4
Aβ(10−35):実測値(M+H+)2946.5
計算値(M+H+)2945.3
本実施例で合成した各ペプチドについて、25℃でCDスペクトルの測定を行った結果を図1に示す。図1中、(1)はインキュベーション前(=0日)、(2)はインキュベーション(1日)後の測定結果をそれぞれ示す。

0025

(1)人工ペプチド単独でのアミロイド線維形成
実施例1で合成したペプチド(10−4F)、(10−3L)、(10−3F)、(10−3A)、Aβ(14−23)及びAβ(10−35)単独の水溶液中でのアミロイド線維形成能を評価した。CDスペクトルを用いて二次構造を調べ、アミロイド線維に特異的に結合して蛍光を発する色素チオフラビンT(ThT)及び透過型電子顕微鏡TEM)を用いて線維形成能を評価した。

0026

(1−1)CDスペクトルを用いたペプチドの二次構造測定
合成した各ペプチドについて、[ペプチド]=2mMのトリフルオロエタノール(TFE)溶液を作製し、それぞれ原料溶液とした。それを20mMトリス−HCl緩衝液(pH7.4)中へと希釈し、ペプチドの終濃度を100μMとして常温インキュベートし、25℃でCDスペクトルの測定を行った(図1)。
その結果、10−4F、10−3L、10−3F及びAβ(10−35)は初めから218nm付近に負の極大を持ち、205nm付近に正の極大を持つβ−シート構造特有スペクトルを取り、更に、時間経過と共にシグナルが増大し、β−シート性が強まったことから、アミロイド線維形成の進行が示唆された。また、10−3A及びAβ(14−23)は何れもランダムコイル状態に特有のスペクトルを示し、経時的なスペクトルの変化は示さなかった。
人工ペプチドのうち、疎水性の低いAlaを導入したペプチドがランダムコイル状態で、それ以外のペプチドがβ−シート構造をとったことから、ペプチド鎖内部の疎水性がアミロイド線維化には重要であることが示唆された。

0027

(1−2)ThTを用いたAβ(10−35)のアミロイド線維化条件選定
ThT(λex=440nm、λem=482nm)を用いてAβ(10−35)のアミロイド線維化を追跡し、アミロイド線維の核として用いるAβ(10−35)のインキュベーション条件を選定した(図2)。
インキュベーション条件
使用原料溶液:[Aβ(10−35)]=2mMTFE溶液
・濃度:[Aβ(10−35)]=100μMトリス−HCl 20mM溶液(pH7. 4)
・温度:室温
測定条件
・濃度:[Aβ(10−35)]=5μM、[ThT]=6μM
(トリス−HCl 20mM溶液(pH7.4))
・温度:室温
攪拌条件試料サンプリング前パスツールピペットで全量を充分に撹拌
セル内でパスツールピペットを用い全量を充分に撹拌
励起波長:440nm、検出波長:482nm

0028

結 果
Aβ(10−35)はThTの存在下で482nm付近の蛍光強度を経時的に増大させ、グラフプロットすると、シグモイド型の変化を示した。これは、アミロイド性タンパク質に特徴的な自己複製自己触媒反応を示唆する。また、蛍光強度の変化が終了したサンプルをTEMを用いて観察したところ、線維が観察された(図3)。
変化は大体24時間から30時間の間に終了し、アミロイド線維化終了時の蛍光強度および終了までの時間の再現性が良好なことから、核としてこの条件で30時間以上インキュベートし、ThT存在下の蛍光強度が700〜1000程度の値を示したものをAβの核として使用することとした。

0029

(1−3)ThTを用いた人工ペプチド単体でのアミロイド線維形成能評価
ThTを用いて、実施例1で得られた人工ペプチド単体でのアミロイド線維形成能を評価した。
インキュベーション条件
・使用原料溶液:[ペプチド]=2mMTFE溶液
・濃度:[ペプチド]=200μMトリス−HCl 20mM溶液(pH7.4)
・温度:室温又は40℃
測定条件
・濃度:[ペプチド]=5μM、[ThT]=6μM
(トリス−HCl 20mM溶液(pH7.4))
・温度:室温
・攪拌条件:試料サンプリング前にパスツールピペットで全量を充分に撹拌
セル内でパスツールピペットを用い全量を充分に撹拌
・励起波長:440nm、検出波長:482nm

0030

結 果
(i)室温(常温)でインキュベーションを行った場合
人工ペプチド10−3L、10−3F、10−4Fでは時間経過と共に顕著な蛍光強度増大を示し、人工ペプチド単体でアミロイド線維を形成する能力があることが示唆された。また10−3Aはまったく蛍光強度増大を示さなかった。蛍光強度増大が終了するまでにかかった時間は10−3Lが3日間と一番短く、10−3F、10−4Fは6日間かかった。また終点での蛍光強度は、10−3Lと10−4Fが同程度で、10−3Fは、10−3L、10−4Fの半分弱だったことから、単体でのアミロイド線維形成能は10−3L、10−4Fが高く、10−3Fは低いことが判った。
各人工ペプチドの蛍光強度増大前後における蛍光強度の比較を図4に示す。

0031

(ii)40℃でインキュベーションを行った場合
次に、常温では線維化が遅く、経時変化を追跡しづらいので、線維形成が早まると考えられる40℃の高温での人工ペプチド単体での線維形成能を評価した。
Aβ(14−23)、10−3Lは顕著に線維化終了が早まり、10−3F、10−4Fは線維化終了までの時間はほぼ変化しなかった。10−3Aはほとんど蛍光強度増大を見せなかった。また、全体的に線維化終了時の蛍光強度が低下した。
各人工ペプチドの蛍光強度増大終了時における蛍光強度の比較を図5に示す。
また、蛍光強度変化が終了した後のこれらのサンプルをTEMにより観察したところ、10−3L、10−4Fに線維が観察された(図6)。このことから、10−3L、10−4Fが繊維を形成することが確認された。

0032

上記の結果をまとめると、殆ど全ての条件において、10−3L、10−3F、10−4Fが蛍光強度増大を示し、特に10−3L、10−4Fが顕著であることが判る。このことから、10−3Lと10−4Fは高いアミロイド線維形成能を持つことが示唆された。
また、疎水性の低いAlaを導入した10−3Aがランダムコイル状態のスペクトルを示し、ThTでも全く蛍光強度増大を示さなかったことから、ペプチド鎖内部の疎水性がβ−シート構造形成およびアミロイド線維形成に際して重要であることが示唆される。

0033

(2)人工ペプチドを用いた線維化Aβ(10−35)の線維化増幅(ThTを用いた線維化増幅の追跡)
実施例1で合成した人工ペプチドを用いてアミロイド線維化したAβ(10−35)の線維化増幅を試みた。人工ペプチド溶液に上記(1−2)の条件で線維化させたAβ(10−35)を少量添加し、ThTを用いて線維化増幅を追跡した。
インキュベーション条件
・使用原料溶液:[ペプチド]=2mMTFE溶液
・濃度:[ペプチド]=200μM、[Aβ(10−35)(核)]=10μM
(トリス−HCl 20mM溶液(pH7.4))
*Aβ(10−35)(核)は希釈前に1時間ソニケーションし、均一化した。
・温度:室温
測定条件
・濃度:[ペプチド]=5μM、[ThT]=6μM
(トリス−HCl 20mM溶液(pH7.4))
・温度:室温
・攪拌条件:試料サンプリング前にパスツールピペットで全量を充分に撹拌
セル内でパスツールピペットを用い全量を充分に撹拌
・励起波長:440nm、検出波長:482nm

0034

結 果
結果を図7に示す。
図7から明らかなように、ペプチド単独でのアミロイド線維形成能が高かった10−3Lと10−4Fが核存在下で顕著な蛍光強度増大を示した。特に10−3Lは室温で核を添加したものが核を添加していないものの2倍程度の蛍光強度を示したことから、核を増幅する能力が高いことが示唆される。単独でのアミロイド線維形成能が低かった10−3F及び10−3Aは核添加、核非添加両方とも蛍光強度増大を示さず、線維増幅能も線維形成能同様低いことが示唆された。

0035

実施例2の(2)で実施した、本発明に係る人工ペプチドを用いたアミロイド線維化したAβ(10−35)の線維化増幅テストを、プレートリーダーを使用して試みた。
[プレートリーダーを使用した測定]
インキュベーション条件
・使用原料:[ペプチド]=5mMDMSO溶液
・濃度:[ペプチド]=20μM、[Aβ(10−35)(核)]=2.5μM
(トリス−HCl 20mM溶液(pH7.4))
*Aβ(10−35)(核)は希釈前に1時間ソニケーションし、均一化した。
・温度:40℃
測定条件
・濃度:[ペプチド]=18μM、[ThT]=25μM
(トリス−HCl 20mM溶液(pH7.4))
・サンプル量:200μl
・温度:30℃
・攪拌条件:測定前にサンプル全量をvoltexで2秒間に3回
ウェル内でマイクロピペットを用い100μl×2
・励起波長:440nm、測定波長:490nm
励起出力:30000

0036

結 果
結果を図8に示す。
本発明に係る人工ペプチドは、何れも核存在下で蛍光強度を増大させ、何れも30時間程度で蛍光強度増大が終了した。核非存在下では10−4Fのみ蛍光強度増大を示し、その他のペプチドは蛍光強度増大を示さなかった。この結果から、本発明に係る人工ペプチドは全て線維増幅能を持つことが判り、アミロイド線維化Aβ(10−35)の増幅に成功した。
線維増幅前後の蛍光強度増加度を核存在下及び非存在下について棒グラフに示した(図8)。核を添加したものの中で10−4Fがもっとも大きな蛍光強度増大を示し、10−4F、10−3L、10−3F、10−3Aの序列を示した。核を添加したもの、添加しなかったものについて蛍光強度変化終了時の差をとると10−3Lが一番大きく、以降10−4F、10−3F、10−3Aの序列を示した。核添加、非添加で蛍光強度の差が大きいほうが検出系への応用が容易であると考えられるので、線維増幅能は10−3L、10−4F、10−3F、10−3Aの序列である。

0037

本発明に係る人工ペプチドは、体内にあるアミロイド線維の核を増幅し、検出不可能な原因蛋白質を予兆段階の検査において増幅して検出可能なレベルにするための試薬として有用である。当該試薬を用いることによりアルツハイマー病やプリオン病(狂牛病やヒトのヤコブ病など)等のアミロイドーシスに起因する疾病を初期段階(予兆段階)で検出することが出来るので、本発明は斯業に貢献するところ極めて大なるものである。

図面の簡単な説明

0038

実施例1で合成した各ペプチドについて、25℃でCDスペクトルの測定を行った結果を示す。図1中、(1)はインキュベーション前(=0日)、(2)はインキュベーション(1日)後の測定結果をそれぞれ示す。
Aβ(10−35)存在下でのThTの経時的な蛍光スペクトルの変化(A)と、482nmにおける蛍光強度のタイムコース(B)を示す。[実施例2の(1−2)]
実施例2の(1−2)において、蛍光強度の変化が終了したサンプルをTEMを用いて観察した結果を示す。
本発明に係る各ペプチド存在下でのThTの482nmにおける蛍光強度を、それぞれインキュベーション(室温)の前と後について測定、比較したものであり、□はインキュベーション前、■はインキュベーション後の結果をそれぞれ示す。[実施例2の(1−3)]
本発明に係る各ペプチド存在下でのThTの482nmにおける蛍光強度を、それぞれインキュベーション(40℃)の前と後について測定、比較したものであり、□はインキュベーション前、■はインキュベーション後の結果をそれぞれ示す。[実施例2の(1−3)]
実施例2の(1−3)において、人工ペプチド(10−3L)を用い、40℃でインキュベーションを行ない、蛍光強度変化が終了した後のサンプルをTEMにより観察した結果を示す。
本発明に係る各ペプチド存在下でのThTの482nmにおける蛍光強度を、線維化させたAβ(10−35)(核)を添加、非添加のそれぞれの場合について測定、比較したものである。図7中、□は核無し(1日後)、■は核10μM添加(1日後)の結果をそれぞれ示す。[実施例2の(2)]
図8は、線維化させたAβ(10−35)(核)を添加した場合と添加したかった場合の、本発明に係る各ペプチド存在下でのThTの490nmにおける蛍光強度の増加の程度を示したものである。図8中、□はAβ(10−35)無添加の場合、■はAβ(10−35)を添加した場合の結果をそれぞれ示す。[実施例3]

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