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課題・解決手段
概要
背景
概要
被験者の血行動態を決定するための非侵襲的な装置。当該装置は、(a)少なくとも2つの電極(20)、(b)該電極に結合された電気的全身積分型生体インピーダンス測定ユニット(26)、および(c)該電気的全身積分型生体インピーダンス測定ユニットおよび任意に表示手段(34)に結合された、積分型生体インピーダンスの能動的な成分から被験者の心拍出量を算出するためのデータ処理および分析ユニットを備えている。また、被験者の血行動態を決定し、被験者の心疾患の傾向を診断するための方法が開示されている。
目的
効果
実績
- 技術文献被引用数
- 1件
- 牽制数
- 3件
この技術が所属する分野
(分野番号表示ON)※整理標準化データをもとに当社作成
請求項1
被験者一人に関する血行動態を判定するための非侵襲性装置であって、該非侵襲性装置が、(a)2枚またはそれ以上の数量の電極板、(b)前記電極板に接続された全身積分型電気性生体インピーダンス測定用の器具ならびに同生体インピーダンス測定用の器具に接続された高精度の振幅安定性を示す交流電源ならびに得られた生体インピーダンス測定値からその有効成分を自動的に分離獲得する電子回路、(c)前記積分型電気性生体インピーダンス測定用の器具に接続され、また必要によっては表示手段にも接続された、前記積分型生体インピーダンスの有効成分から当該被験者の心拍出量を算出するためのデータ処理分析用装置、および(d)必要により追加される表示手段、を備え、前記データ処理分析用装置は、心拍出量(CO)から当該被験者の心係数(CI)を算出できる様に事前に設定完成された分析機能ユニットを備え、当該被験者の平均動脈血圧(MAP)は、事前に同データ処理分析用装置に入力されており、つぎの数式Cpi= CI × MAPを用いて当該被験者の心臓筋力係数(Cpi)ならびに同Cpi値と一対をなす当該被験者の体血管抵抗係数(SVRi)を、つぎの数式SVRi= n × MAP/CI(n = 0.85〜0.95)を用いて算出する機能を事前に設定導入された分析機能ユニットを備え、収縮期鬱血性心不全(sCHF)、肺水腫(PE)、心臓ショック(CS)、血管拡張型ショック(VS)および正常者の血行動態にそれぞれ対応するCpi値とSVRi値の複数の対のデータを過去にこれら疾患を有すると診断された多人数の事例に基づき蓄積しておく記憶ユニットを内包する様に事前に準備された分析機能ユニットを備え、当該被験者の前記Cpi値とSVRi値の対である数値を前記過去の事例に基づき蓄積されたCpi値とSVRi値の対の数値データと比較する機能を事前に設定導入された分析機能ユニットを備え、さらに当該被験者の前記Cpi値とSVRi値の対である数値に最も近似したCpi値とSVRi値の対の数値データを検出する機能を事前に設定導入された分析機能ユニットを備え、該被験者の血行動態が、前記検出された対の数値に対応する血行動態であると特定する血行動態の判定用装置。
請求項2
請求項3
前記SVが、実質的につぎの数式にしたがって算出され、ここにHctcorr.はヘマトクリットに依存する修正係数であり、145 + 0.35 (Hct − 40) であり、Hctはヘマトクリットであり各被験者の血液の分析から得られる数値であり、K (shape*sex*age)は各被験者の身体にかかわり決定される係数で、被験者が20才未満の男性:527.3 − (3.1 × (実年齢− 20))被験者が20才以上40歳未満の男性:527.3被験者が40才以上の男性:527.3 + (3.1 × 実年齢 − 40))被験者が18才未満の女性:587.6 − (2.9 × (実年齢 − 18))被験者が18才以上50歳未満の女性:587.6被験者が50才以上の女性:587.6 + (2.9 × (実年齢 − 50))として与えられ、δrは心臓脈動の一サイクルにおける上行脚隆起(収縮)でおこる各被験者の基本身体抵抗Rの変化量であり、Rは個々の被験者の基本身体抵抗の心臓脈動一サイクル期間にわたる平均値であり、Hcorr.は被験者の修正身長であり、つぎの式により与えられ、α + βは心臓の脈動一サイクルに要する時間であり、その上行脚隆起(収縮)期時間と拡張期時間との合計であり、βは心臓の脈動一サイクルの内の拡張期に相当する時間であり、Kelは個々の被験者の血漿中のイオン濃度に関係して定まる係数であり、血液分析の結果からつぎの式a)被験者が血液透析を受けている場合Kel =血液濃度の合計、すなわちb)前記以外の被験者の場合の血液濃度により与えられ、Kwは体重係数であり、で表され、理想体重とは「インターナショナル・理想体重表」に示されたものであり、IBはバランス係数であり、つぎの数式で表され、すなわち被験者個々の最適細胞外液量の当該被験者の細胞外液量の実測値に対する比率であり、Rmeasuredは当該被験者の生体インピーダンス中の実測された抵抗値成分であり、当該被験者の皮膚に依存する抵抗成分を含まず、一方、Rind.propは当該被験者の生体インピーダンス中の最適抵抗値成分であり、つぎの式により算出され、ここに、Hは個々の被験者の身長、Wは個々の被験者の体重である請求項2記載の装置。
請求項4
請求項5
n = 0.9である請求項1記載の装置。
請求項6
前記被験者の血行動態が前記表示手段に表示される請求項1記載の装置。
請求項7
前記被験者のCpi値とSVRi値の対が前記表示手段に表示される請求項6記載の装置。
請求項8
前記被験者のHR、SV、COおよびCIそれぞれの値が前記表示手段に表示される請求項6記載の装置。
請求項9
被験者一人に関する血行動態を特定するための方法であって(a) 一人の被験者の身体に2枚もしくはそれ以上の数の電極板を該電極間に流れる電流が少なくとも片方の腕からもう一方の腕、あるいは片方の脚から他方に脚に流れるような配置に、かつ同身体部分と電極間のインピーダンスがごく小さくなる様な方法で接続する工程、(b) 前記2枚もしくはそれ以上の数の電極板を通して振幅が一定で安定した交流電流を通電すると共に同電流を流す際の電圧変化を測定し、前記2枚もしくはそれ以上の数の電極間の電圧測定値から当該被験者に関する電気性生体インピーダンス測定値を入手する工程、(c) 前記積分型生体インピーダンスから同時進行的に有効成分を分離入手する工程、(d) 積分型生体インピーダンス測定用に利用が可能な半実験式を使用して、前記積分型生体インピーダンスの有効成分から当該被験者のストローク容量(SV)を、一回の呼吸サイクルの間に発生する心臓の複数回脈動のそれぞれに対応するSV値を得ると共に同一回の呼吸サイクル期間中のSVの平均値を獲得するために、算出する工程、(e) 前記被験者の心拍出量(CO)を前記SVから算出する工程、(f) 前記被験者の心係数(CI)を前記COから算出する工程、(g) 前記被験者の心臓筋力係数(Cpi)を数式:Cpi = CI ×平均動脈血圧(MAP)にしたがって算出し、さらに当該被験者の体血管抵抗係数(SVRi)を数式:SVRi= n × MAP/CI、n = 0.85 〜 0.95にしたがって算出し、すなわち当該被験者に関するするCpiとSVRiの一対の値を算出する工程、(h) CpiとSVRi値の各対は血行動態の様々な状況、すなわち収縮期鬱血性心不全(sCHF)、肺水腫(PE)、心臓ショック(CS)、血管拡張型ショック(VS)および正常の各状況のいずれかと対応付けられており、またCpiとSVRi値の前記複数の対は過去に血行動態にかかわりこれら各種の状況のいずれかに該当すると診断された複数の被験者に由来するものであることを踏まえ、前記被験者に関するするCpiとSVRiの一対の値を複数対のCpiとSVRi値の対と比較する工程、および(i) 前記被験者に関するするCpiとSVRi値の対に最も近似した値をもつCpiとSVRi値の対を判別し、判別した対が属する血行動態を当該被験者の血行動態として特定する工程を含む方法。
請求項10
被験者個々が心臓に関連した病気になる傾向を診断する方法であって、(a) 当該被験者に関するCpiとSVRiの一対の一回目の値の測定し、(b) 当該被験者へのストレス負荷試験の実施し、(c) 当該被験者に関するCpiとSVRiの一対の二回目の値の測定し、(d) 必要な場合のみ、(b)と(c)の工程をさらに1回あるいはそれ以上回数繰り返し、(e) 前記CpiとSVRiの一対の一回目の測定値と同二回目、実施した場合にあっては同三回目あるいはその後繰り返した回数分の測定値との比較を行い、15%を超えるCpiの減少、15%を超えるSVRiの増加あるいは前記ストレス負荷試験の第三回目ないし第四回目においてCpi値が400 Watt/M2未満にとどまる程度の増加が起った場合は当該被験者が心筋虚血に陥り易いと判定し、および前記第一回目のCpi値が2.7 L./min/M2未満であり前記第一回目のSVRi値が35 wood/M2以上であり、かつCpi値における400 Watt/M2未満にとどまる程度の前記増加が第三回目ないし第四回目の前記ストレス負荷試験において発生し、その後同Cpi値が減少しないあるいは同SVRi値が増加しない場合は当該被験者が収縮期鬱血性心不全(sCHF)に陥り易いと判定する方法。
請求項11
請求項12
請求項13
当該被験者のCpi値とSVRi値の対が請求項1記載の非侵襲性装置を用いて決定される請求項10記載の方法。
背景技術
0002
本発明の理解には、つぎに掲げる文献の参照を必要とする場合がある。また本明細書中においては、これら各文献をこの項の記載において示した番号によって引用するものとする。
1. ラウル・ジー(Roul G),マウリコンエム.イー.(Moulichon M.E.),ベアライス・ピー(Bareiss P),グリース・ピー(Gries P),ケグラー・エイ(Koegler A),セイクレッズ・ジェイ(Sacrez J),ガーメン・ピー(Germain P),モッサードジェイ.エム.(Mossard J.M.),セイクレッズ・エイ(Sacrez A)著,「プログノスティックファクターズオブクロニックヒートフェイラーインエヌワイエイチエイクラスIIオアIII(Prognostic factors of chronic heat failure in NYHAclass II or III):バリューオブ インベイシブエクササイズヘモダイナミックデータ(value of invasive exercise haemodynamic data)」,ユーロ・ハート・ジャーナル(Eur Heart J),1995年,第16号,p.1387-98
2. マーマー・エイ(Marmor A), シュネーヴァイス・アー(Schneeweiss A)著, 「プログノスティック バリュー オブ ノンベイシブリー オブテインドレフトベンティキュラーコントラクタイルリザーブインペイシャンツ ウイズシビア ハート フェイラー(Prognostic value of noninvasively obtained left ventricular contractile reserve in patients with severe heart failure)」,ヨット・アム・コール・カージオル(J Am Coll Cardiol),1997年2月,第29(2)号,p.422-8
3. マーマー・エイ(Marmor A), ジェイン・ディー(Jain D), コーエン・エルエス(Cohen LS), ニボ・イー(Nevo E), ヴァッカース・エフジェイ(Wackers FJ), ゼアレット・ビーエル(ZaretBL)著, 「レフト ベンティキュラーピークパワージュアリングエクササイズ(Left ventricular peak power during exercise): ア ノンイベイシブアプローチフォアアセスメントオブ コントラクタイル リザーブ(a noninvasive approach for assessment of contractile reserve)」,ジェイ・ニュークリアクリア・メディシン(J Nucl Med),1993年11月,第34(11)号,p.1877-85
4.タン・エルビー(Tan LB)著,「カーディアックパンピングケイパビリティーアンドプログレスイン ハート フェイラー(Cardiac pumpingcapability and prognosis in heart failure)」,ランセット(Lancet),1986年,第13(2)号,p.1360-63
5.シャリル・ティー(Sharir T), フェルドマン・エムディー(Feldman MD), ヘイバー・エイチ(Haber H), フェルドマン・エイエム(Feldman AM), マーマー・エイ(Marmor A), ベッカー・エルシー(Becker LC), カッス・ディーエイ(Kass DA)著,「ベンティキュラーシストリック アセスメント イン ペイシャンツ ウイズ ダイレイティッド カージオマイオパシーバイプリロード‐アジャスティッドマキシマル パワー(Ventricular systolic assessment in patients with dilated cardiomyopathy by preload-adjusted maximal power)−バリデーションアンド ノン インベイシブアプリケーション(Validation and noninvasive application)」,サーキュレーション(Circulation),1994年5月,第89(5)号,p.2045-53
6. タン・エルビー(Tan LB)著,「クリニカルアンドリサーチインプリケーションズ オブ カージアック パンピングパフォーマンスイン ハート フェイラー(Clinical and research implications of new concepts in the assessment of cardiac pumping performance in heart failure)」,カージオバスク・リサーチ(Cardiovasc Res),1987年8月,第21(8)号,p.615-22.
7.コッター・ジー(Cotter G), メツカー・イー(Metzkor E),カルスキー・イー(Kaluski E)ファイゲンバーグ・ゼッド(Faigenberg Z),ミラー・アール(Miller R), シモヴィッツ・エイ(Simovitz A), シャハム・オー(Shaham O), マーギサイ・ディー(Margithay D), コーリン・ディー(Koren D),ブラット・エイ(Blatt A), モシュコヴィッツ・ワイ(Moshkovitz Y), ザイデンスタイン・アール(Zaidenstein R), ゴーリック・エイ(Golik A)著,「ランダマイズドトライアルオブハイ‐ドースアイソソーバイドダイナイトレイトプラスロー‐ドースフロサマイド ヴァーサスハイ‐ドース フロサマイド プラス ロー‐ドース アイソソーバイド ダイナイトレイト イン シビアパルマナリー イディーマ(Randomized trial of high-dose Isosorbide Dinitrate plus low-dose Furosamide versus high-dose Furosamide plus low-dose Isosorbide Dinitrate in severe pulmonary oedema)」,ランセット(Lancet),1998年,第351号,p.389-93
8. コッター・ジー(Cotter G), カルスキー・イー(Kaluski E), ブラット・エイ(Blatt A), ミロヴァノフ・オー(Milovanov O), モシュコヴィッツ・ワイ(Moshkovitz Y), ザイデンスタイン・アール(Zaidenstein R),サラー・エイ(Salah A),アロン・ディー(Alon D), ミモヴィッツ・ワイ(Mibovitz Y), メツガー・エム(Metzger M), ヴェレド・ゼッド(Vered Z), ゴーリック・エイ(Golik A)著, 「エル‐エヌエムエムエイ(L-NMMA) (ア ナイトリックオキサイドシンターゼインヒビター(a Nitric Oxide Synthase Inhibitor))イズ エフェクティブ イン ザトリートメントオブ カーディオジェニックショック(is Effective in the Treatment of Cardiogenic Shock. Circulation)」,2000年3月28日,第101 (12)号,p.1358-61
9. ピー.ディー.サシエニ(P.D. Sasieni)著, 「スタティスティカルアナリシス オブ ザ パフォーマンス オブ ディアグノスティック テスツ(インバイティッド リビュー)(Statistical Analysis of the performance of diagnostic tests (Invited review))」, サイトパソロジー(Cytopathology), 1999年, 第10号, p.73-78
10. ジェレン・ジー・リジュマー(Jeroen G. Lijmer), ベン・ヴィレン・モル(Ben Willen Mol), ジーム・ハイスターカンプ(Siem Heisterkamp), ゴウケ・ヨット・ボンゼル(Gouke J. Bonsel),マルティン・ハー・プリンス(Martin H Prins), ヤン・ハー.ペー.(Jan H.P.),ファン・デルモイレン(van der Meulen), パトリック・エム.エム.ボスイート(Patrik M.M. Bossuyt)著,「エンピリカルエビデンスオブディザインリレイティッドバイアスインスタディーズ オブ ディアグノスティック テスツ(Empirical Evidence of Design Related Bias in Studies of Diagnostic Tests)」, ジェイエイエムエイ(JAMA), 1999年11月, 第282号, p.1061-1066
11.ケリー(Cary)著, エスエイエス/エスティーエイティーユーザーズガイド(SAS/STATUser's Guide), 第6版,フォースエディション(Fourth Edition),第1巻(Volume 1),エスエイエス インスティテュート インコーポレイテッド(SAS Institute Inc.), ノースキャロライナ州,1989年.
12.ラング・アールエイ(Lange RA), ヒリス・エルディー(Hillis LD)著,カーディアック キャシテリゼーションアンド ヘモダイナミック アセスメント(Cardiac catheterization and hemodynamic assessment)」,トポル・イージェイ(Topol EJ),インジアナ州,テキストブックオブ カージオヴァスキュラー メディシン(Textbook of Cardiovascular Medicine)
0003
鬱血性心不全(CHF)の患者に関して、侵襲性手段による当該患者の血行動態の計測データと同患者の臨床的症状とのあいだに今日まで何ら明確な相関は見出されていない(1)。肺水腫や心臓性ショックに繋がる進行性呼吸困難などの心機能の急速低下を訴えて入院する患者ならびに収縮期慢性安定CHFの患者にあっては、心係数(CI)や体血管抵抗係数(SVRii)の計測が病気の診断、治療あるいは予見するといった観点で信頼にたる成果を何ら上げるにはいたっていない。
0004
SVRiは、血流に対する脈管系の抵抗の指標であり、Kg*M4/sec3(=wood*
M2)で示される。循環系においては、SVRi= (動脈の血圧平均値(MAP)−右動脈圧)/CIとなる。もしこの値の入手ができない場合は右動脈圧をMAP値の10〜15%と想定することも可能である。
0005
心臓筋力係数(Cpi)は心筋の収縮状態の指標であり、Watt/M2を単位として表現される。このCpi値を計測することは最近になって心臓病理学の分野に導入された概念である(2−6)。この値は流体に関する物理法則にしたがうものであり、
動力= 流量 × 圧力
の関係が成り立つ。
0007
すなわち、
Cpi=CI×MAP
となる。
0008
この計測値はこれまでのところ主としてCHF患者の心筋収縮能を計測するために用いられた(2-6)。CHF患者にあってはCpiが低下するにつれてそれを補う形でSVRiの増加が起こるものと考えられるが、その増加幅は通常値にとどまる程度と想定できる。ただしCpiの急激な低下が診られる患者にあっては、このSVRiの増加は、(1)適切(補償された応答またはそれに近い応答を導く)、(2)過剰(必要なMAPの増加を上回る増加を生起しひいては肺水腫を導く)、または(3)不充分(MAPが低い値にとどまり致命的器官(脳、心臓、腎臓)に血液灌流量の不足をもたらし、加えて心臓ショックを導く)のいずれかとなる。
0009
イスラエル国特許出願第135032号明細書(出願日2000年3月13日)、国際出願第PCT/IL01/00234号明細書(出願日2001年3月12日)には、患者の血行動態状況計測の方法が記載されている。当該法は、(a)それぞれの血行動態状況を診断測定された複数の被験者についてその心臓筋力係数(Cpi)ならびに体血菅抵抗係数(SVRi)を決定する工程、(b)前記血行動態がとる各々の状況に対応して定まるCpi値とSVRi値の対が分布する範囲を決定する工程、(c)当該被験者のCpi値とSVRi値を一対として求める工程、(d)上記被験者のCpi値とSVRi値の一対と(b)で求めたCpi値とSVRi値の対が分布する複数の範囲とを比較する工程、および(e)当該被験者のCpi値とSVRi値の一対に最も近いCpi値とSVRi値の対が存在する範囲を求める工程を含む。範囲に対応する血行動態が当該被験者の血行動態を示す。専用的装置は当該特許出願明細書に記述されていない。
0010
熱希釈はヒトの身体における血行動態に係わる主要なパラメータを決定するための周知の侵襲性測定法である。患者は集中治療室に収容されると共に、肺動脈カテーテルの挿入をうける。氷温の(ice cold)生理食塩水を使用して熱希釈法による測定が行われるものである。この方法はかなり精度の高い方法であるが、侵襲性の方法であることにともなう自明の欠点からまぬがれることはない。
0011
数種類の非侵襲性の方法は、従来技術において開示されている侵襲性の熱希釈法に替わることを意図している。中でも二種類の非侵襲性測定法が広く知られており、その一つは心エコー検査法であり、他の一つは生体インピーダンス検査法である。
0012
これら非侵襲性測定法の評価において明らかに必要となるのはそれらにより得られた測定値の熱希釈法など侵襲性測定法で得られる結果に対する関連性評価である。心エコー検査でよってこれまでに得られた測定値は、その多くのケースにおいて技術的観点からして満足いくものではなかったことがわかっている。
0013
これに対して、生体インピーダンス測定法にあっては、最新のインピーダンス測定型心臓検査法(impedance cardiography)に基づくものにおいて、熱希釈法に依る測定値とのあいだに有為な関連性の存在を示す関連性評価係数を得るにいたっている−シー.ジュウクスら(C.Jewkes et al.) (ブリティッシュ・ジャーナル・オブ・アネシージア(British Journal of Anaesthesia) 1991年; 第67号: 788-794頁)。インピーダンス測定型心臓検査法に信ぴょう性が確認されたことは集中治療の実行時において使用できる可能性を拓くことから重要な関心事となっている。インピーダンス測定型心臓検査法は集中治療室において実行され、特に心臓手術後の患者に対し血行動態に関連したパラメター(心拍出量値、体血管抵抗値など)の変動を継続的にモニターできることを意味し、投薬治療において摂取した医薬に対する患者側反応をこれらパラメター値の変化として測定できる事をも意味する。
0014
生体組織や身体全体に係わる電気的性質である生体インピーダンスとは身体に装着した複数の電極間の組織を通って流れる電流に対する電気的抵抗の大きさを測定するものである。このうち、身体全体に関するインピーダンス値を構成する3要素成分は、つぎのとおりである。
1.基本インピーダンス(Zo)。これは細胞組織を形成する基本的物質(本質的には細胞外液)がもつ電気的性質に依存して定まる。
2.インピーダンス変量(δZ)。これはその値が心臓の周期的な動きに同期して変化するインピーダンスの変動量である。本要素成分は「レオグラム」と称する連続曲線を形成し、その曲線は当該心臓の活動に関る状況を提供する。
3.インピーダンス波形(δV)呼吸にともなって空気の体積が変化すると共に血液量の再分布が起こるがこれによるインピーダンス変化に対応するものである。
0016
このプレシスモグラムには血行動態を代表する3大パラメターが反映されており、プレシスモグラムから逆にこの3大パラメター値を求めることができる。
0017
生体の電気的性質である生体インピーダンスの測定がなされその意義を検討する研究は既に30年以上の歴史を有するが、病気治療の手段として捉え、臨床試験報告として生体インピーダンス値の有効性が文書化されることになったのはここ数年のことである。
0018
心拍出量値を算出するための電気性生体インピーダンス測定法として主たるもの2種類が知られている。
0019
局所(部位別)電気性生体インピーダンス測定法(EBM、electrical bioimpedance measurement)は、身体内の特定した臓器に対して測定するものである。この測定手法の一つである胸部EBMはキュビセク、ダブリュ.ジーら(Kubicek W.G., et al.)(バイオメディカル・エンジニアリング(Biomedical Engineering)、1974年、第9号: 410-416頁)によって示唆された後、スラメック ビー.ビー.(Sramek B.B.)(メディカル・エレクトロニクス(Med. Elect.)、1982年、4月: 93-97頁)およびバーンスタイン、ディー.ピー.(Bernstein, D.P.)(クリティカル・ケア・メディシン(Crit. Care Med.)、1986年;第14号: 904-9頁)によって修正されている。
0020
積分電気性生体インピーダンス測定法(身体全体分EBM)は、実質的に全身の血液循環系を一まとめとして捉えるものである。この手法は、ティシュエンコ、エム.アイ.(Tischenko, M.I.)によって記載されている(サシェノフ・フュジオル(Sechenov Physiol)、ソヴィエト連邦共和国の雑誌、1973年; 第49号: 1216-24頁)。ここでいう全身EBM測定手法はその論拠を理論的な考察に置くに留まるものの先の局所電気性生体インピーダンス測定手法よりもより多様な情報を提供すると考えられる。すなわち、信頼して臨床現場で使用できるとするに足る報告はまだなされていない。
0021
胸部を対象とした局所EBMにあっては、微弱な電流を胸部に導き胸部の導電性を測定するが、胸大動脈内の血流の体積流量ならびに流速の変化が誘起する当該胸部の伝導性の変化量が検出可能であることが示された。キュビセク他(Kubicek et al.)は胸部生体インピーダンスの振動成分の微分値(dZ/dt)が大動脈内の血流とが比例関係にあることを証明した(前述のとおり)この関係を使ってストローク容積(SV)さらには心拍出量(CO)を推定する実験式が導出された(フランシス ジー.スピネイルら(Francis G. Spinale et al)、クリティカル・ケア・メディシン(Critical Care Medicine)、1990年、第18巻第4号、アメリカ合衆国)。
0022
ミネソタインピーダンスカージオグラフと呼ばれる心臓検診の一手法がキュビセクの方法を基礎にして開発されたがこの手法を実施し得られるデータと前期熱希釈手法によるデータとの関連性評価係数が大きく振れること、(良いときにはr = 0.97、悪いとr = 0.41となる)をC. Jewkes et al.が報告している(前掲)。
0023
米国再発行特許第Re30,101号明細書(ウィリアムキュビセクら(William Kubicek et al.))はインピーダンス・プレシスモグラフィについて記載している。それによると心拍出量は、患者の胸部の上端と下端にそれぞれ励起用電極を接続し、測定用電極を当該胸部の前期励起用電極の内側に接続することによって測定される。該励起用電極には定常な交流電流を通電し、この時測定用電極間に現れるインピーダンスの変化を測定するものである。またこれと同時に一回の収縮に関する開始と終了のタイミングをも確認する。心拍出量はこの一回の収縮の間におけるインピーダンス値の減少勾配の最大値を元に算出される。
0024
米国特許第4,450,527号明細書(バフマイアスラメク(Bohumir Sramek))は、その事業分野が関連する企業、ボーメッド(BoMED、登録商標)メディカル・マニュファクチュアリング・リミテッドの保有になるが、非侵襲性の心拍出量モニターについて記述している。これによると、当該測定系は、胸部EBMに基づき該心拍出量を導出しようとするものであり、得られる胸部インピーダンス値からそれへの呼吸による影響を時刻と共に変化する一定の関数で表されるものとして減算し該影響を除去することで胸部インピーダンス値の内から心臓の脈動のみに依存した変化を示す信号を継続的に得ようとするものである。このようにして得られる脈動依存胸部インピーダンス信号はマイクロプロセッサーに送出され改良型収縮吐出数式に基づいた心拍一回あたりの血液吐出容量の算出に利用される。ここでマイクロプロセッサーに送出される信号は該送出に先立って心室からの吐出時刻および脈動依存胸部インピーダンス値の最大変化速度のそれぞれを示す別々の信号に加工変換されている。
0025
ボーメッド(BoMED、登録商標)(カリフォルニア州アーバイン)は現在も同分野の事業をつづけており同分野に関連した幾種類もの製品を販売している。その製品の一つはBoMED(登録商標)NCCOM3と呼ばれるもので従来のミネソタ型インピーダンスカージオグラフにおいてそのバンド形電極対を標準的なECG電極対に変更し患者への装着感を改良したものである。加えて、同製品においては高機能のコンピュータが備えられ、バーンスタイン-スラメック式に基づく新しいアルゴリズムの元にオンラインでストローク容積(SV)と心拍出量(CO)が算出される(シー.ジュウクスら(C. Jewkes et al.)、前述のとおり)。
0026
心拍出量(CO)、ストローク容量(SV)、心拍数(HR)および基本インピーダンス(Zo)または胸部流体インデックス(TFI)の測定には上述の製品装置が用いられる。胸部上、中腋窩線の高さで頸部側面にそった位置に2対の探査電極対を配置する。これらとは別に2対の電流供給電極対を頸部の上方5cm、胸部に配した前記探査電極に下方5cmに配置しこれらには合計2.5mA、70 KHzの電流を流す。
0028
しかしながら、本製品装置BoMED(登録商標)NCCOM3(商品名)に関してはいくつかの研究報告されており次の通りのことが判明している(シー.ジュウクスら(C. Jewkes et al.)前述のとおり、フランシス ジー.スピネイルら(Francis G. Spinale, et al.)前述のとおり、コウ シュウ ホワンら(Kou Chu Huang et al.)、クリティカル・ケア・メディシン(Critical Care Medicine)、1990年、第18巻、第11号)。
・該製品装置は心拍出量について、その値が低い場合は高めに、高い場合は低めの値を示す。すなわち、当該測定はその特徴として線形性にかける。
・得られる数値結果は使用する電極の形、種類および配置する位置に著しく依存する。
0029
米国特許第4,807,638号明細書(ビー.スラメク(B. Sramek)、特許権者はBoMED(登録商標)である)には、米国特許第4,450,527号明細書にある胸部EBMに追加する改良に関して開示がある。当該モニターは身体の部分組織2箇所(胸部と脚部)で電気的インピーダンスを測定し各部分ごとに、それぞれの部分で血流値の増加があったことそして心臓の脈動サイクルの始まり時点を特定する信号を発生、送出する。当該患者の心拍出量も測定されその値から当該患者の心係数が算出される。
0030
当該モニターにおいて使用される電極はこれら2箇所の部分において米国特許第4,450,527号明細書に開示されている方法にしたがい配置される。すなわち、励起用電極対と探査用電極対の配置場所の違いやこれら電極対間の距離の違いによって予期しない誤りが測定値として現れることになる。
0031
キュビセックならびにスラメックによる各々の方法を現実のシステムとしそれらを分析することで、これら誤りの原因が以下の通りであることがわかる。
1.「容量」を単位とする血行動態パラメター(ストローク容量、心拍出量など)のいずれもがインピーダンスの微分値(dZ/dt)に基づき計算されるのみで、流体の容量を直接実在の特性であるところの、活動中の生体インピーダンス成分(δr)の変量を実測しているわけではない。
2.測定時に供給する電流は当該測定対象組織内から同一体のそれ以外の部分に分散流出する。このような分散は、ストローク容量の算定に誤差をきたす原因となる。
3.測定対象部分の形状の異同が測定結果に影響する。
4.胸部に最初に配置する電極について、その位置が不正確であり加えてその位置が呼吸行為にともなって移動することで測定値に誤差が生じる。
5.dZ/dtが胸部という身体の一部に関するインピーダンスであり身体全体部分に関連した値でないことから計算誤差が大きくなる。
0032
以上の他、当該測定系においては呼吸系にかかわるパラメターを取得することも計算に組み込むこともおこなわないことにも原因がある。
0033
ソルバ・メディカル・システムズ・インコーポレイテッド(Sorba Medical Systems, Inc)が保有する米国特許第5,178,154号明細書には、さらに新しい発明になる局所EBM方法が記載されている。当該米国特許に記載されているのは、インピーダンスカージオグラフとそれを実施する方法であり、頂点整列型アンサンブル平均を有効に利用するものであり、比較的正確度の高い測定値をもたらす。
0034
しかし、ソルバの方法系にはいくつかの欠点もある。その一つは、測定に用いる4極系の電極が複雑で、当該患者に不便でありさらに得られる測定値は実施方法に左右されやすいものである。
0035
その二つ目は、主たる測定対象のパラメター(心臓ストローク容量)が生体インピーダンス曲線の心臓の脈動一サイクル分から数学的に導かれる線分の下に位置する限定された領域に基づいて同システム自身により算出されることにある。今一歩具体的にいうなれば、ここでいう領域は、該心臓による吐出のうち高速度吐出段階に該当する部分にのみ関係するものあり、それ故心臓の脈動一サイクル全体にわたりなされる血液の送出過程の全体を反映することになっていないことである(したがって同血液の送出過程全体と関連して定まる心臓関連パラメターを正しく測定することにならない)。さらには、ソルバによる測定系は胸部インピーダンスの測定をともなうが心臓の活動特性を表現する各種信号が呼吸のサイクルのキャリヤー信号に比してその10%と弱いことである。とはいえ、この微弱な心臓活動特性信号に関しては充分に対策がなされ平均化され処理される一方、呼吸由来の振動は不要な成分として分析から除外される。このような対処方法をとる限り呼吸に関連したパラメターを確定できることがなく、引いては、心臓の活動に係わるパラメターの正確な算出も困難になると考えられる。
0036
積算型EBMは部分別EBMよりも多様な情報をもたらすものと期待できる。しかしながら、今日までこの型のEBMで広く臨床的に利用できる装置は完成されていない。
0037
最初に身体全身を測定対象とする積算型EBMを提案したのはティシェンコ(M.I. Tishcenko, supra)である。この方法においては、電極を電流が身体の一部分のみでなく全身を通って伝わる様に配置する。導入するのは振幅の小さい30KHzの交流電流であり、測定用ブリッジを備えたインピーダンス・プレシスモグラフを用いて全身のインピーダンスを測定する。また、測定により得られるインピーダンス値から目的とするインピーダンス成分をマニュアルでチューニングし分離すると共に分離された成分を次工程の計算に使用する。
0038
上記積算型EBMによって測定者が得られる情報は、全身の循環系全体に係るものであり、同積分型測定法のためにティシェンコによって導出された複数種の実験式を使い分けることによって血行動態に関する種々の主要なパラメター値を算出できる。身体は全体としてサイズが大きく、それを囲い込む電極も大きくなりこの結果、理論的には、算出値の誤差を低減することができる。また、この測定においては2極型電極システムが使用される。これは部分型EBMの測定法に係わるキュビセックの4極型電極システムよりも単純であり誤用などの可能性も小さい。
0039
ティシェンコの提案による測定系は、しかしながら、それを用いる測定の実施の度に毎回事前のキャリブレーションが必要であり、さらにインピーダンス測定値に反応成分が含まれない様に微妙な調整を行うことが必要になる。これらの問題の他に問題となるものに、前述の反応成分によってもたらされるものであるが、電極とそれが接触する箇所の皮膚とのあいだの関係に起因する誤差がある。この誤差は前記のような微調整によって除くといったことはまず不可能である。算出値の精度はこの方法による場合、手作業にて行う微調整のやり方にすべてが係ってくることになり、このティシェンコによる測定系の信頼性を低いものにしている。
0040
循環系パラメターの算出に使用するティシェンコの複数種の数式は性差調整パラメターによる以外の変更を想定していない。一方、身体全身のインピーダンス、特にそれに寄与する抵抗値構成成分が性差以外の多くのパラメター(たとえばヘマトクリットや身体の組成)にも依存していることが報告されている。
0041
2件の米国特許第5,469,859号明細書および第5,735,284号明細書はその全内容をここに参照文書として示すことで本明細書を構成する部分と考えるが、そこには次の通りの記述がある。まず、非侵襲性方法によって被験者一人の少なくとも一つの主要な心肺関連パラメター(ストローク容量など)、および身体内部の細胞外液のバランス状態を特定するパラメターの少なくとも一つ(バランス係数など)とを測定する方法ならびにそれを実施する測定装置システムを公開している。また、血液の循環不全と心臓機能の一方または双方を診断する方法ならびにその実施のための測定装置システムを公開している。前述の主要な心肺関連パラメターの測定方法は次の工程で構成される。すなわち、被験者一人の全身電気性生体インピーダンスの測定値が得られる様な配置方法をもって当該被験者の身体に一対もしくはそれ以上の電極を接続する工程、その電極を通して振幅が一定で安定した交流電流を通電する工程、同電流を通電することにより発生する積分型生体インピーダンスを測定すると同時に得られた積分型生体インピーダンス値から必要な有効成分を分離する工程、ならびに当該被験者の心肺関連パラメターを分離入手した同有効成分をもとに積分型生体インピーダンス測定値からの算出用に準備された実験式にしたがって算出する工程である。ここでいう算出は当該個々のパラメターを呼吸一サイクルの間に発生する複数回の心臓の脈動サイクル分繰り返し算出することを前提とし、その呼吸サイクル一回に相当する間にわたる心肺パラメター値の平均値を算出することを意味する。
0043
[発明の要旨]
本発明は生体インピーダンスの測定値に基づき、またこれ以外のデータも利用しながら個々の患者にかかる血行動態を判定する装置を提供しようとするものである。
0044
上記目的のほか、本発明はストレス負荷試験を使用して行う心臓に関連した疾患の発生傾向を診断評価する方法を提供しようとするものでもある。
0045
本発明の第一の態様にあっては、被験者一人に関する血行動態を判定するための非侵襲性装置を
(a) 2枚またはそれ以上の数量の電極板、
(b) 前記電極板に接続された全身積分型電気性生体インピーダンス測定用の器具ならびに同生体インピーダンス測定用の器具に接続された高精度の振幅安定性を示す交流電源ならびに得られた生体インピーダンス測定値からその有効成分を自動的に分離獲得する電子回路、
(c) 前記積分型電気性生体インピーダンス測定用の器具に接続され、また必要によっては表示手段にも接続された、前記積分型生体インピーダンスの有効成分から当該被験者の心拍出量を算出するためのデータ処理分析用装置、および
(d) 必要により追加される表示手段、
で構成する。ここでいうデータ処理分析用装置には
心拍出量(CO)から当該被験者の心係数(CI)を算出できる様に事前に設定完成された分析機能ユニットを備え、
当該被験者の平均動脈血圧(MAP)は事前に同データ処理分析用装置に入力されており、
数式:Cpi= CI × MAPを用いて当該被験者の心臓筋力係数(Cpi)ならびに当該被験者の体血管抵抗係数(SVRi)を、つぎの数式
SVRi= n × MAP/CI(n = 0.85〜0.95)
を用いて算出することにより当該被験者のCpi値とSVRi値の対の数値を得る機能を事前に設定導入された分析機能ユニットを備え、
収縮期鬱血性心不全(sCHF)、肺水腫(PE)、心臓ショック(CS)、血管拡張型ショック(VS)および正常者の血行動態にそれぞれ対応するCpi値とSVRi値の複数の対のデータを過去にこれら疾患を有すると診断された多人数の事例に基づき蓄積しておく記憶ユニットを内包する様に事前に準備された分析機能ユニットを備え、
当該被験者の前記Cpi値とSVRi値の対である数値を前記過去の事例に基づき蓄積されたCpi値とSVRi値の対の数値データと比較する機能を事前に設定導入された分析機能ユニットを備え、さらに
当該被験者の前記Cpi値とSVRi値の対である数値に最も近似したCpi値とSVRi値の対の数値データを検出する機能を事前に設定導入された分析機能ユニットを備えている。
0046
本明細書において、該被験者の血行動態は、前記検出された対の数値に対応する血行動態であると理解される。
0047
好ましくは、n = 0.9である。
0048
好適な一実施例にあっては、COはストローク容積(SV)から算出され、SVは実質的には次に示す数式に基づいて算出される。
0049
0050
ここでHctcorr.はヘマトクリットに依存する修正係数であり、145 + 0.35 (Hct − 40) である。
Hctはヘマトクリットであり各被験者の血液の分析から得られる数値である。
K (shape*sex*age)は各被験者の身体にかかわり決定される係数であり具体的には以下の通りである。
被験者が20才未満の男性: 527.3 − (3.1 × (実年齢− 20))
被験者が20才以上40歳未満の男性: 527.3
被験者が40才以上の男性: 527.3 + (3.1 × 実年齢 − 40))
被験者が18才未満の女性: 587.6 − (2.9 × (実年齢 − 18))
被験者が18才以上50歳未満の女性: 587.6
被験者が50才以上の女性: 587.6 + (2.9 × (実年齢 − 50))
δrは心臓脈動の一サイクルにおける上行脚隆起(収縮)でおこる各被験者の基本身体抵抗Rの変化量である。
Rは個々の被験者の基本身体抵抗の心臓脈動一サイクル期間にわたる平均値である。
Hcorr.は次式により定まる被験者の修正身長である。
0051
0052
α + βは心臓の脈動一サイクルに要する時間であり、その上行脚隆起(収縮)期時間と拡張期時間との合計である。
βは心臓の脈動一サイクルの内の拡張期に相当する時間である。
Kelは個々の被験者の血漿中のイオン濃度に関係して定まる係数であり、血液分析の結果から次式により算出される。
a) 被験者が血液透析を受けている場合
Kel =血液濃度の合計、すなわち
0053
0054
b) 上記以外の被験者の場合
0055
0056
の血液濃度
Kwは体重係数であり、
0057
0059
0060
で表される。すなわち被験者個々の最適細胞外液量(individual's proper volume)の当該被験者の細胞外液量の実測値に対する比率であり、Rmeasuredは当該被験者の生体インピーダンス中の実測された抵抗値成分であり、当該被験者の皮膚に依存する抵抗成分を含まない。一方、Rind.propは当該被験者の生体インピーダンス中の最適抵抗値成分であり次式により算出される。
0061
0062
ここで、Hは個々の被験者の身長、Wは個々の被験者の実体重である。
0063
我々は驚くべきことに任意のひとりの患者にとって、そのCpiとSVRiなる2種のパラメター値で構成される一対の値が当該患者の血行動態を示すことを発見した。本明細書においては、用語「一対の値」は患者一人の実質的に同時に測定して得たCpiとSVRiなる2種の値の対を指すものとする。
0064
本発明になる装置によると2種類のパラメターCpiとSVRiの値を決定するだけで当該患者の血行動態を判定できる様になる。またこれらパラメターは非侵襲性方法である生体インピーダンスの測定法によって得た値から決定できる。その方法は以下の通りである。上記のとおり測定値として得られた値は本発明の装置を構成する前記データ処理分析用装置によって事前に蓄えたデータと比較される。この事前に蓄えたデータとは血行動態が既知である多数の被験者に関し収集した同様測定値を同装置が内包する記憶ユニットに蓄積されているものである。判定対象の被験者のCpiとSVRiの一対の値に最も近似した事前に蓄積データ中のCpiとSVRiの一対の値の領域が当該判定対象の被験者が属するクラスということになる。本発明になる装置を構成する前記データ処理分析装置において近似性の判定をおこなうには、従来から知られた確率統計に依拠する方法が採用できる。
0065
本発明になる装置による判定に係わる血行動態については次のグループに区分する。(1)収縮期ないし補償されたCHF(sCHF):このグループには似た血行動態を示すことから、また、このグループの状態に関する研究報告が少ないことから高血圧患者(HTN)も併せ含める、(2)PE、(3)CS、(4)血管拡張性または敗血性ショック(VS)ならびに(5)「正常」と称されるグループで、CHFと呼べる疾患のない被験者グループである。因みに最後のグループには正常な患者、たとえば、SVRi値が概ね15〜35 wood × M2でCpi値が190 Watt/M2以上の患者が相当する。
0066
患者の前記CpiとSVRiからなる一対の値で定まる位置はその患者に対してどのような処置をすべきかを示します。たとえば、心臓ショックに特有の領域に当該一対の値が位置するならその患者には血管抵抗を上昇させる処置をするのが適当であるといえる(8)。反対に、当該一対の値が肺水腫に特有の領域に位置するならその患者には血管抵抗を降下させる処置が望ましいといえる(7)。
0067
当該患者の状態がその疾患の当然の進行によると治療的処置の結果に因るとに係わらず変化するが、本発明になる装置を使用すれば簡単にこの変化を継続的に監視することが可能になる。すなわち、当該患者に関する前記CpiとSVRiからなる一対の値の位置が、あらかじめ蓄積されているこれに相当するデータとの比較として、どこに移動したかを追跡するのである。患者に施す処置の効果の有無もこの様にして評価できることになる。したがって、医薬品を使用してSVRiを調整する、因みに、血管拡張剤(硝酸イオン、エンドスリン、アンタゴニスト)あるいは血管収縮剤(L-NMMA、バソプレシン)を投与する形の治療に対して本発明が大きな意義をもつ可能性をはらんでいる。
0068
本発明になる装置によって作成されたグラフは、「ノモグラム」と呼ばれるがモニター
の画面に表示できるもので、その結果当該装置が自動的に患者のCpi値とSVRi値を同グラフ内にプロットし同患者のその時々の状況をリアルタイムで特定できる様になる。
0069
本発明になる装置は、米国特許第5,469,859号明細書および米国特許第5,735,284号明細書に開示された方法、システムあるいは装置を前提としている。ちなみに、当該2件の米国特許を参照文献としてここに記し、当該米国特許に記載された内容のすべてを本明細書の一部分とするものである。これらにより既に公開済みとなった装置とは、簡単に表現するならば、患者を侵襲することがない電極を患者に装着しその電極を介して心臓から循環系に送出される血液の量を継続的に表示するある種の測定分析用装置であるといえる。同測定による測定値はリットル/分を単位として表現されるもので循環器系分野における測定項目中では最も基礎的な項目である。
0070
同様に既に公開済みとなった方法とは、身体が電流に対して示すインピーダンスの変化を測定することを基本に据えたものであり、当該インピーダンスとは、生体インピーダンスという言葉で呼ばれるものである。血液の電気性インピーダンスが身体を作るほかの組織のよりも低いことから、当該方法は特に心拍出量の変化を測定するのに適している。
0071
たとえば、心拍出量を監視するとする。このために低品質の交流電流(1.4mA, 31KHz)を、一方を腕に他方を足首に装着した合計二枚の電極に連続して通電する。この2枚の電極は電流の伝送と身体のインピーダンスを検出することの両方の役目を果たす。既に公開済みとなっている前記方法によって基本的血行関連の測定項目であるストローク容量(SV)を求めることができる。あらかじめ判っている心拍数(HR)と既知の数式:CO = SV × HRに基づいて心拍出量を算出できる。
0072
本発明の一実施例にあっては、当該装置は既存の生理学関連の測定器とそれに追加するだけの工夫を凝らしたユニットボックスとで、あるいは必要なら液晶表示ユニットやユーザーインターフェースをも含む独立した専用装置として構成できるハードウェア装置のセトとして完成される。この様に完成された本装置は上述した2件の特許の中で公開されているアルゴリズムに基づいて複数種類の血行動態パラメターを算出する。当該システムは次の通りの患者データを連続的に測定収集できる。
1.ストローク容量(同時に波形を記録できる)
2.ストローク係数(SV/身体の表面積)
3.心拍出量(CO)
4.心係数(CO/身体の表面積)
5.心拍数
6.呼吸数(同時に波形を記録できる)
7.周辺全抵抗(平均血圧/CO)
0073
本装置は上述の特許に開示されたと同様の当該システムに適した特別の電極を使用して身体から各種信号を収集する。本発明の一実施例においては、使用する電極は一対で、当該患者への設置は腕と腕あるいは腕と足首のいづれかに限られる。加えて標準的な3線ECG接続が行われる。電極に設置箇所については厳格にその位置を特定する必要はなく訓練を受けていないオパレーターにも装着作業は可能である。装置システムは自動的にその電極装着の良否をユーザーに知らせ電極設置の完了を確認することになっている。
0074
SV値と心係数(CI)を算出するため当該装置に身長、体重、年齢、性別といった患者情報を入力する。これら情報は当該装置が身体の表面積(BSA)を算出するのに利用する。そして次にはCI = CO/BSAの数式に基づき同装置はCIを算出することになる。
0075
本実施例になる装置は一旦起動されると、最初の測定には1分間程度の時間を要するもののその後は20秒ごとに自動的に測定を繰り返し測定対象のパラメターを更新し続ける。加えてストローク容量とCOについては、ユーザーが時間の経過にともなう変化を明確に把握できる様に、その動向の軌跡を表示画面に表示し20秒ごとに更新することもできる。
0077
当該装置にあっては表示手段あるいはモニターの接続の有無は任意である。また接続する場合は該被験者の血行動態を画面表示する様に設定できる。加えて、当該患者に関する前記CpiとSVRiの一対の値のほかHR値、SV値、CO値やCI値など様々な血行動態関連パラメターを画面表示することが可能である。
0078
本発明の第二の態様にあっては、被験者一人に関する血行動態を特定するための方法を
(a) 一人の被験者の身体に2枚もしくはそれ以上の数の電極板を該電極間に流れる電流が少なくとも片方の腕からもう一方の腕、あるいは片方の脚から他方に脚に流れるような配置に、かつ同身体部分と電極間のインピーダンスがごく小さくなる様な方法で接続する工程、
(b) 前記2枚もしくはそれ以上の数の電極板を通して振幅が一定で安定した交流電流を通電すると共に同電流を流す際の電圧変化を測定する工程、ちなみに前記2枚もしくはそれ以上の数の電極間の電圧測定値から当該被験者に関する電気性生体インピーダンス測定値を入手できる。
(c) 前記積分型生体インピーダンスから同時進行的に有効成分を分離入手する工程、
(d) 積分型生体インピーダンス測定用に利用が可能な半実験式を使用して、前記積分型生体インピーダンスの有効成分から当該被験者のストローク容量(SV)を、一回の呼吸サイクルの間に発生する心臓の複数回脈動のそれぞれに対応するSV値を得ると共に同一回の呼吸サイクル期間中のSVの平均値を獲得するために、算出する工程、
(e) 前記被験者の心拍出量(CO)を前記SVから算出する工程、
(f) 前記被験者の心係数(CI)を前記COから算出する工程、
(g) 前記被験者の心臓筋力係数(Cpi)を数式:Cpi = CI ×平均動脈血圧(MAP)にしたがって算出し、さらに当該被験者の体血管抵抗係数(SVRi)を数式:SVRi= n × MAP/CIにしたがって算出し、それにより当該被験者に関するCpiとSVRiの一対の値を算出する工程。ここで、n = 0.85 〜 0.95である。
(h) 前記被験者に関するするCpiとSVRiの一対の値を複数対のCpiとSVRi値の対と比較する工程。ここでCpiとSVRi値の各対はさまざまな血行動態、すなわち収縮期鬱血性心不全(sCHF)、肺水腫(PE)、心臓ショック(CS)、血管拡張型ショック(VS)および正常の各状況のいずれかと対応付けられており、またCpiとSVRi値の前記複数の対は過去に血行動態にかかわり、これら各種血行動態のいずれかに該当すると診断された複数の被験者に由来するものである。および
(i) 前記被験者に関するするCpiとSVRi値の対に最も近似した値をもつCpiとSVRi値の対を判別し、判別した対が属する血行動態に関する状況を当該被験者の血行動態として特定する工程
から構成する。
0079
本発明の第三の態様にあっては、各被験者が心臓関連の病気になる傾向を診断する方法を下記より構成する。
(a) 当該被験者に関するCpiとSVRiの一対の一回目の値の測定。
(b) 当該被験者へのストレス負荷試験の実施。
(c) 当該被験者に関するCpiとSVRiの一対の二回目の値の測定。
(d) 必要な場合のみ、(b)と(c)の工程をさらに1回あるいはそれ以上回数繰り返すこと。
(e) 前記CpiとSVRiの一対の一回目の測定値と同二回目、実施した場合にあっては同三回目あるいはその後繰り返した回数分の測定値との比較。ここで15%を超えるCpiの減少、15%を超えるSVRiの増加あるいは前記ストレス負荷試験の第三回目ないし第四回目においてCpi値が400 Watt/M2未満にとどまる程度の増加が起った場合は当該被験者が心筋虚血に陥り易いと判定する。および
(f) 前記第一回目のCpi値が2.7 L./min/M2未満であり前記第一回目のSVRi値が35 wood/M2以上であり、かつCpi値における400 Watt/M2未満にとどまる程度の前記増加が第三回目ないし第四回目の前記ストレス負荷試験において発生し、その後同Cpi値が減少しないあるいは同SVRi値が増加しない場合は当該被験者が収縮期鬱血性心不全(sCHF)に陥り易いと判定する。
発明の開示
0080
本発明の方法を構成するものとして利用できるストレス負荷試験のタイプには薬理的ストレス負荷試験、運動ストレス負荷試験および精神的ストレス負荷試験がある。薬理的ストレス負荷試験に使用できる薬品にはドブタミン、ジピリダモールおよびアデノシンがある。
0081
本発明の理解のためまた当該発明がどのように実施されるのかを理解するため、図を参照しながら至適実施例について記述するが参照のために、特許請求の範囲を制限しないとの条件での例示として示す図は次の通りである。
0083
収集対象の基準:
一般の臨床基準(下記参照)のもとに収縮期CHF(sCHF)、高血圧クリーゼ、急性肺水腫(PE)、血管膨張性ショック(VS)あるいは心臓性ショック(CS)と診断された全患者を収集した。
0085
臨床診断基準:
1)収縮期CHF:CHFの悪化があり侵襲性方法による血行動態検査を受ける患者、CHF、NYHAクラスIII − IVに該当する臨床的症状および兆候を示していると認められると共に心エコー検査においてEF < 35%でありかつ直前6時間以内に経口薬を投与されていないか直前2時間以内に静脈注射薬の投与を受けていない患者、心臓性ショックや肺水腫と判断する診断基準を満たさない患者。
2)肺水腫:急性の肺鬱血と診断される臨床的症状および兆候を示している認められると共に胸部X線撮影で肺水腫が判明し、かつ侵襲性方法による測定時パルスオキシメーターによる測定で室内の空気環境での酸素飽和度が90%未満となった患者。
3)心臓性ショック:皮膚の切開をともなう血管再開通手術後、収縮期血圧が100 mmHg未満となって1時間以上が経過した場合。同血圧低下が血管再開通手術、人工呼吸、大動脈内バルーンポンプ(IABP)、輸液注入および少なくとも10μg/kg/min量のドーパミンの投与にも反応せず、38℃を超える発熱や全身性炎症症候群を示さないものの終末器官血流低下の兆候を示す場合。
4)血管拡張型ショック:輸液投与や少なくとも10 μg/kg/minの量のドーパミンの静脈投与にも反応せず38℃を超える発熱、全身性炎症症候群ならびに終末器官血流低下をともなって収縮期血圧が100 mmHg未満の状態が3時間以上続く場合。
5)高血圧:終末器官血流低下、虚血あるいは肺水腫のいずれの兆候をもともなわないでMAP> 135 mmHgとなる場合。該当患者はsCHFのグループに分類された。
0086
血行動態変数の測定と評価:
いずれの患者にあっても血行動態変数は蛍光透視の下でスワンーグランツカテーテルの挿入を行う右心カテーテル検査によって収集されたものである。これらすべての測定値は、患者の当該病気治療における臨床検査時にはIABPを使用するものの、当該患者が少なくとも30秒間はIABPを行っていない時点で得られたものである。
0087
CIの測定は熱希釈に拠るもので少なくとも連続した三回の測定値の平均を採用した。またこれら測定値間の差は15%未満であった。正常者を被験者とした時は倫理的配慮から右心カテ−テル検査は実施していない。本グループに関する測定値はしたがって標準の非侵襲性法である腕部分での血圧測定やアメリカ合衆国食品衛生局(FDA)認定NICaS 2001 によるCIの評価、すなわち前述の複数の米国特許に基づいた測定器を用いた(コーエンジェイエイ(Cohen JA)、アーノウドブディー(Arnaudov D)、ザビーダ ディー(Zabeeda D)、スクルシーズエル(Schlthes L)、ラシンジャージェイ(Lashinger J)、スカッチナー エイ(Schachner A)、ノンインベイシブ メジュアメントオブカーディアックアウトプットジュアリングコロナリーアーテリーバイパスグラフティング(Non-invasive measurement of cardiac output during coronary artery bypass grafting)、Eur. J. Card刊、胸部外科(Thoracic Surg.)、1998年第14巻64-9頁)。したがって正常者である被験者については楔入圧の評価はせず、代替として文献(12)にある標準値を利用した。
0089
結果:
合計100人の患者(56人は収縮期CHF、5人はHTNクリーゼ、11人は肺水腫、17人は心臓性ショック、11人は血管拡張性ショック)と20人の正常者(ボランティア参加)が本研究に参加した。臨床診断による平均CI、楔入圧、MAP、SVRiおよびCpiは表1および図1〜図4のボックス表示として示した。高血圧クリーゼ(HTN)の患者数が小さすぎて統計的に有意性を持たないため、今後の分析では当該患者は収縮期CHFのグループに分類した。
0090
0091
血行動態変数:
1)心係数(CI)(図1):CIの平均値は収縮期CHF、肺水腫ならびに心臓性ショックの患者グループでは正常者グループと比べてかなり低く、逆に血管拡張型ショックの患者グループで高くなっている。ROC分析に基づき、患者が何らかの心臓疾患(収縮期CHF、肺水腫または心臓性ショック)をもつているか否かの境界点をCI < 2.7 litter/min/M2にとるのが有用であることが判明した(感度=1、特異性=0.99)。しかし、収縮期CHFの患者のすべて、肺水腫の患者73%と心臓性ショックの患者の47%が1.2〜2.7 litter/min/M2のあいだの値を示した。さらには、肺水腫患者の平均CIと心臓性ショック患者の平均CIとがほとんど同じであることが分かった(1.4 ± 0.4 対 1.35 ± 0.7 litter/min/M2、p = ns)。
0092
2)平均動脈血圧(MAP):正常者との比較において、MAPの平均値は肺水腫の患者グループでかなり高く、また理論としてはHTNクリーゼの患者グループで高くなる一方、血管拡張型ならびに心臓性ショック患者のグループで低くなるものである。この理論にもかかわらず、MAP測定値に関しては肺水腫、収縮性CHFおよびHTNクリーゼ(MAP > 100 mmHg)のあいだに大きな重なり領域ができ、また収縮性CHF、心臓性ショックおよび血管拡張型ショック(MAP < 100 mmHg)のあいだにも大きな重なり領域ができた。
0093
3)肺毛細血管楔入圧(図2):正常者との比較において、肺毛細血管楔入圧の平均は収縮性CHFの患者グループおよび肺水腫の患者グループでかなり高くなっており、血管拡張型ショックの患者グループで低くなっている。本分析には文献に報告されている正常者の楔入圧値(< 12 mmHg (12) (p = 0.001))を用いた。しかし、異なる疾患をもつ患者グループ間でその楔入圧値が重なり合う領域は非常に大きいものであった。この値について12〜38 mmHgの範囲には、収縮期CHFの患者の82%、肺水腫の患者の64%、心臓性ショックの患者の76%および血管拡張型ショック患者の18%が属することが分かった。
0094
4)心臓筋力係数(図3):正常者との比較において、Cpiの平均値は収縮性CHFおよび肺水腫の患者グループにおいて低く、心臓性ショックの患者グループでは極度に低くなった。HTNクリーゼと血管拡張型ショックの患者グループでは高くなった。しかし、ある程度の重なり合いがこれら5つの患者グループ間に認められた。200 − 300 Watt/M2の値の範囲に正常者の75%、収縮期CHF患者の39%、肺水腫患者の27%、血管拡張型ショック患者の18%が属している。一方、心臓性ショックの患者はひとりもこの範囲に属さなかった(心臓性ショックの患者のCpi値はすべて170 Watt/M2未満であった)。
0095
5)体血管抵抗係数(図4):正常者との比較において、SVRiの平均値は収縮性CHFとHTNクリーゼの患者でかなり高く、肺水腫患者では極端に高い値となった。血管拡張型ショックの患者では低かった。ROC分析によると正常者といずれのCHF症候群の患者の区別診断にはSVRi< 35 wood × M2の点を境界に採るのが有効であると判明した(感度=1、特異性=0.95)。また、SVRi値が肺水腫を診断するのに実用的であることが分かった。なぜなら、この症状をもつすべての患者でSVRi> 67 wood × M2であり、それ以外のグループの患者は、正常者も含めてすべてそのSVRi値はこれよりかなり低くかった。
0096
Cpi/SVRiのグラフ(図5):
SVRiとCpiの分布は非常に偏っている。ただしLog(SVRi)とLog(Cpi)のグラフにするとその偏りはかなり減少する。したがってこれ以降の解析ではその対数のみを使用する。ただしここに示した図は対数表記を元に戻した値によっている。
0097
対数表記した2種のパラメターの分布はグループごとに異なったものになる。しかし表2に示したとおり、このどちらか1種のパラメターではこれら5グループのどれをも分離できない。
0098
0099
この様なことから本データは2次元空間での判別分析によって分離が可能となる可能性が考えられた。ここでは不均等共分散マトリックスの正規分布に対する古典的な判別分析を用いたがこれは二つのグループにおいて観察数が小さいため、より柔軟性のあるカーネル関数を使用できなかったことによる。
0100
当該5グループにおける各パラメターの偏差が異なるパラメター間で大きく異なるためこれらグループに共通の共変変数マトリックスを仮定できなかった。(共変変数マトリックス内のホモジニティーを算出したがP < 0.0001であった。)
0101
ノモグラムを使った分別
患者一人の状況を特定するのに、当該患者のCpiとSVRiを求め、この2値の対を本発明になる装置に属するデータ処理分析装置によってグラフ上にプロットした。その例を図5に示す。測定値として得られた該2値の対のグラフ上の位置が当該患者がいずれの病状かにつき下される診断結果を示すことになる。
0102
CHFを臨床的に症状から判定を行うにあたっては心機能の低下に対する血管の反応を判断することが鍵となる。SVRiの増加が不充分であると心臓性ショックを発症しやすく、逆に血管収縮が強くなりすぎると肺水腫に発展する進行性の肺鬱血を誘発する。医薬品によりSVRiを操作すること、そしてCIとMAPの測定と簡単なノモグラムの使用によって各患者の悪化の機構を正確に把握することが可能になる。たとえば、ISDNを使用しPEの患者をcCHFの患者にしたり、1-NMMAを使用して心臓性ショックの患者を別の患者グループに動かすこともできる。
0103
図6は本発明にの一実施例による装置の機能を図示するものである。電極20が被験者24の肢体22の内異なる手足3本にそれぞれ設置されている。該電極はそれぞれ電気的全身積分型生体インピーダンス測定器26に接続されている。必要により血圧計28を当該被験者の何れかの手足29に設置しても良い。該生体インピーダンス測定器と血圧計は心肺関連パラメター値に関連した信号をそれぞれ生成しそれらをデータ処理分析装置30に送信する。該データ処理分析装置30はこれら器具からの信号を処理し当該被験者のCI値あるいはCpi値とSVRi値の対の値を算出する。Cpi値とSVRi値の対の値であって、過去に診断を受けた多数の被験者に由来するものでまた当該被験者の血行動態がここに分かっているデータを前記データ処理分析装置30と情報交換できる記憶ユニット32に保存することができる。こうすることで該被験者の血行動態をそれ以外の毛っ子動態関連パラメター値と共に次の段階で表示用モニター34に表示することができる。
0104
例II:統計分析による血行動態の特定
本発明にかかる装置に属するデータ処理分析装置において、一人の被験者にかかわる前記一対とした値を分析し分類する方法を例をあげて説明する。しかし、本分野の専門知識を有するものにとっては別の分析用統計手法をもちいてここに示した実施例以外の方法で本発明を実施できることは明らかである。
0105
1.データ
統計的方法:
当該5種類の臨床グループは関連するすべてのパラメターに関して一元分散分析分析の手法により比較される。2値の対単位で該グループ間の比較を行うためにライアン-アイノット-ガブリエル-ウェルシュのマルチプルレンジ検定を用いた。ただし、すべてのグループを健康管理と比較するためにはダンネットのT検定を用いた。
0107
臨床的症状を区分するのに血行動態パラメターが如何に有効であるかを評価するため、ロジスティック回帰モデルから得たROC曲線をそれらデータに当てはめ各種パラメターの最良の分離境界点をその感度と特異性を高くする観点で決定した。
0108
Cpi/Sviのノルモグラム:
2次の判別分析を用いて区分規則を作成した。まず最初に、両方に変数(CpiとSVRi)を対数スケールに変換し正規性の向上をはかり近似の正確度の改善を図った。HTNの患者数が少ないためこの患者については収縮性CHFのグループに合体した。クラス分離を2工程で行った。第一工程では、前記規則により3クラスに分離した。血管拡張型ショック、心臓性ショックおよび未分離のグループである。未分離のグループ(N-C-P)には正常者(P)、収縮性CHF(C)、肺水腫(P)が含まれている。この第一工程でN-C-Pに振り分けられた患者はつぎの工程での分離において正常者、収縮性CHF、肺水腫のサブグループのいずれかに振り分けられることになる。
0109
すべての計算はSAS6.12 [ノースキャロライナ州、ケアリーのエスエイエス・インスティテュート・インコーポレイテッド(SAS Institute Inc.)]によって行われた。使用された手法はFREQ、MEANS、GLM、DISCRIM、GRLOTであった。
0111
0112
つぎに当該患者を
−v1が最小であれば血管弛緩型ショックに分類する。
−v2が最小であれば心臓性ショックに分類する。
−v3が最小であれば工程2に進む。
0113
工程2.v4、v5、v6、の3値を次の数式により算出する。
0114
0115
つぎに当該患者を
−v4がv4、v5、v6の中で最小で、かつLSVRi < Log(67)であれば収縮型CHFに分類する。
−v5がv4、v5、v6の中で最小で、かつLSVRi > Log(67)であれば肺水腫に分類する。
−v6がv4、v5、v6の中で最小であれば正常者に分類する。
0116
上記でSVRi= 67としたのは収縮型CHF患者を肺水腫患者から分けるためである。なぜなら肺水腫のグループは属するメンバーがかなり少なく、通常の規則通り分類するとCpiのパラメターでの分類用の境界点、Cpi> 250 Watt/M2が得られなくなるからである。したがって分類結果の近似としてSVRi = 67 wood × M2のラインを採用した。
0117
3.分類結果
表3に分類規則をサンプルに対して実行した結果を示した。
0118
0119
4.分類規則の有用性
診断工程の有用性については、想定される判定結果が2種類で、判定を受ける患者のクラスもその2種類のどちらかに限定されるという場合は一般にポジティブ(ネガティブ)予測値(9)や診断的予想比(10)のような評価方法を用いることができる。しかし結果の種類も多く患者のクラス種類も多くなりもっと複雑な場合は、全体としての評価にはあやまったクラスに振り分けられる患者の割合を検定の手法を用いた場合と用いない場合とで比較する方法を用いる。この方法は一般にラムダアシンメトリックと呼ばれ(R|C)、R(行)を真のグループ、C(列)を各患者が割り振られたグループとして表す。我々の使用したデータに関しては、ラムダ(R|C)=0.95 (S.D. (Lambda) = 0.03) であり、これは従来のグループの確率による場合の59件の誤りに対して当該分類規則にしたがった分類が3件の誤りを発生したことを意味する。
0120
例III:心不全と心筋虚血診断のための心係数と血管抵抗の算出
ここでの研究の目的は鬱血性心不全(chf)や心筋虚血の診断のとしてのスクリーニングのために行うドブタミン投与によるストレス負荷試験の特異性と感度を本発明の実施例である装置を使用して評価することにおいた。
0121
方法:一般のプロトコールにしたがってドブタミン投与ストレス負荷試験を実施した。本発明になる装置を使って非侵襲性方法による平均動脈血圧(MAP)とCIの測定を本試験実施の前と試験中の各ステージ終了時において実行した。心筋収縮能はCI × MAPとして得られる心臓筋力係数(Cpi)から推定した。体血管抵抗係数(SVRi)はMAP × 0.9/CIにより算出した。
0122
図7に示すように、正常者の前記2値の対は矢印線50で示したような動きをするものと考えられる。心筋虚血と診断するための基準は、Cpiが15%を超える幅で減少すること、またはSVRiが15%を超える幅で増加すること、あるいはまた、ステージ3や4においてドブタミンの増量点滴中(矢印線54)にCpiが400 Watt/M2未満の範囲で増加することである。 CHFと診断するための基準はベースラインにおいてCI< 2.7 litter/min/M2でかつSVRi> 35 wood/M2であったものがステージ3や4においてドブタミンの増量点滴中に徐々にCpiが上昇し(400 Watt/M2未満の範囲で)その後Cpiが減少したりせずまたSVRiも上昇したりしないことである(矢印線52)。
0123
本発明になる装置を使用して合計27の被験者に対し先を見越したドブタミン心エコーストレス負荷試験とドブタミン投与ストレス負荷試験をおこなった。ドブタミン心エコーストレス負荷試験による臨床診断結果は、正常者(n=10)、高血圧のみ(n=4)、心筋虚血をともなわないCHF(n=7)そして、重い心筋虚血(n=6)となった。
発明を実施するための最良の形態
0124
結果:本発明になる装置を使用したドブタミンストレス負荷による被験者のCHFならびに心筋虚血の診断の感度は100%であり特異性は80%であった。
0125
結論:本発明になる装置をストレス負荷試験に用いるとCHFと心筋虚血の発見は簡便でかつ正確なものになる。
図面の簡単な説明
0126
【図1】
次の6種類の診断結果グループそれぞれにおけるCI(litter/min/M2)値を図示するものである:CS、PE、HTN、sCHF、正常およびVS。
【図2】
同様6種類のグループのそれぞれにおける肺毛細血管楔入圧(mmHg)を図示するものである。
【図3】
同様6種類のグループのそれぞれにおけるCpi(Watt/M2)を図示するものである。
【図4】
同様6種類のグループのそれぞれにおけるSVRi(wood × M2)を図示するものである。
【図5】
Y軸にCpi(単位:Watt/M2)、X軸にSVRi(単位:Wood × M2)を対応させたグラフであり、本明細書では「ノモグラム」とも呼ぶが患者の血行動態に関する状況の分別に使用するものである。本「ノモグラム」は本発明の一実施例においては統計分析の手法で作成される。正常患者は(△)で示し、PE患者は(?)で示し、CS患者は(○)で示し、VS患者は(*)で示しそしてsCHFとHTN患者は(●)で示した。
【図6】
本発明になる装置の一実施例を示すブロック図である。
【図7】
Cpi値とSVRi値の対がストレス負荷試験によって変化する様子を図5に示したノモグラム上に様々な被験者を例にとり示したものである。