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技術 臨海湿地の育成方法及び臨海湿地

出願人 鹿島建設株式会社大成建設株式会社
発明者 池谷毅田中昌宏上野成三高山百合子
出願日 2002年2月14日 (19年0ヶ月経過) 出願番号 2002-037347
公開日 2003年8月27日 (17年5ヶ月経過) 公開番号 2003-239241
状態 特許登録済
技術分野 水工一般、港湾設備 養殖 植物の栽培
主要キーワード 会議報告書 緩衝帯 後背地 地表近傍 生態系破壊 透水壁 ダルシーの法則 通過質量
関連する未来課題
重要な関連分野

この項目の情報は公開日時点(2003年8月27日)のものです。
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図面 (9)

課題

ヨシ原と干潟とを空間的に連ねて保全又は再生できる臨海湿地育成方法及び臨海湿地を提供する。

解決手段

10から海底へ緩やかに下降傾斜する沿岸土13に汀線以上の高さから淡水12を供給し、その淡水供給部位から汀線近傍に連なる地下水位15を形成する。地下水位15を湿生植物3の生息に適する深さとし、沿岸土13を湿生植物3に適する粒度砂質土とすることができる。好ましくは、沿岸土13上の満潮時汀線と干潮時汀線との間の部位に干潟底質土18を客土する。干潟底質土18は、スナガニ類、貝類及び/又は多毛類の生息に適する粒度とすることができる。更に好ましくは、沿岸土13上の干潮時汀線より低い部位に藻類の生息に適する藻場底質土19を客土する。

概要

背景

多くの臨海域において、図8(A)に示すように、海水11による浸食から10を保護するため、コンクリート擁壁等の直立護岸8が建設されている。しかし、直立護岸8による生態系破壊の問題点が指摘され、最近では直立護岸8により直線化された海岸線勾配のある自然な海岸線に再生し、衰弱しつつある自然の生態系を健全なものに蘇らせることが提案されている(例えば、21世紀『環の国』づくり会議報告書)。具体的には、同図に示すように、自然の生態系を蘇らせるために必要な干潟33や藻場35等の生物生息環境保全又は再生が積極的に推進されている。また、特定の生物(例えばアサリカニ類ゴカイ類、アマモ等)の生息に適する干潟33や藻場35の材料(底質土)や構造の研究・開発も進められている。

概要

ヨシ原と干潟とを空間的に連ねて保全又は再生できる臨海湿地育成方法及び臨海湿地を提供する。

岸10から海底へ緩やかに下降傾斜する沿岸土13に汀線以上の高さから淡水12を供給し、その淡水供給部位から汀線近傍に連なる地下水位15を形成する。地下水位15を湿生植物3の生息に適する深さとし、沿岸土13を湿生植物3に適する粒度砂質土とすることができる。好ましくは、沿岸土13上の満潮時汀線と干潮時汀線との間の部位に干潟底質土18を客土する。干潟底質土18は、スナガニ類、貝類及び/又は多毛類の生息に適する粒度とすることができる。更に好ましくは、沿岸土13上の干潮時汀線より低い部位に藻類の生息に適する藻場底質土19を客土する。

目的

そこで本発明の目的は、ヨシ原と干潟とを空間的に連ねて保全又は再生できる臨海湿地の育成方法及び臨海湿地を提供することにある。

効果

実績

技術文献被引用数
0件
牽制数
3件

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請求項1

から海底へ緩やかに下降傾斜する沿岸土に汀線以上の高さから淡水を供給し、該淡水供給部位から汀線近傍に連なる地下水位を形成してなる臨海湿地育成方法

請求項2

請求項1の育成方法において、前記地下水位を湿生植物の生息に適する深さとしてなる臨海湿地の育成方法。

請求項3

請求項1又は2の育成方法において、前記沿岸土を湿生植物に適する粒度砂質土としてなる臨海湿地の育成方法。

請求項4

請求項1から3の何れかの育成方法において、前記沿岸土中に地下水位を所要深さとするための不透水層を設けてなる臨海湿地の育成方法。

請求項5

請求項1から4の何れかの育成方法において、前記地下水位の調節により前記地下水中の淡水から塩水に至る塩分勾配を湿生植物の生息に適するものとしてなる臨海湿地の育成方法。

請求項6

請求項1から5の何れかの育成方法において、前記沿岸土上の満潮時汀線と干潮時汀線との間の部位に干潟底質土客土してなる臨海湿地の育成方法。

請求項7

請求項6の育成方法において、前記干潟底質土をスナガニ類、貝類及び/又は多毛類の生息に適する粒度のものとしてなる臨海湿地の育成方法。

請求項8

請求項1から7の何れかの育成方法において、前記沿岸土上の干潮時汀線より低い部位に藻類の生息に適する藻場底質土を客土してなる臨海湿地の育成方法。

請求項9

請求項1から8の何れかの育成方法において、前記淡水中に湿生植物、干潟生物及び/又は藻類の栄養物質溶存させてなる臨海湿地の育成方法。

請求項10

請求項1から9の何れかの育成方法において、前記淡水を適当な有機物濃度河川水地下水、雨水、中水又は排水処理後の放流水としてなる臨海湿地の育成方法。

請求項11

請求項8から10の何れかの育成方法において、前記沿岸土を岸からへ向かう方向に緩やかに下降傾斜するものとし、前記岸から沖へ向かう方向に沿って連なる湿生植物・干潟生物・藻類の生息環境育成してなる臨海湿地の育成方法。

請求項12

請求項8から10の何れかの育成方法において、岸と平行に不連続な消波壁を設け、岸と消波壁と間に沿岸土を緩やかに岸に沿って下降傾斜するように且つ前記消波壁の不連続部が干潮時汀線より低くなるように客土し、前記不連続部から沿岸土上に海水を浸入させることにより岸に沿って連なる湿生植物・干潟生物・藻類の生息環境を育成してなる臨海湿地の育成方法。

請求項13

岸から海底まで緩やかに下降傾斜させて客土した沿岸土、及び前記沿岸土に汀線以上の高さから淡水を供給する淡水供給設備を備え、該淡水供給部位から汀線近傍に連なる地下水位を形成してなる臨海湿地。

請求項14

請求項13の湿地において、前記淡水供給設備に前記沿岸土の岸側に沿って透水壁を介して設けた淡水流路を設け、該淡水流路の水位を前記汀線以上としてなる臨海湿地。

請求項15

請求項13又は14の何れかの湿地において、前記地下水位を湿生植物の生息に適する深さとしてなる臨海湿地。

請求項16

請求項13から15の何れかの湿地において、前記沿岸土を湿生植物に適する粒度の砂質土としてなる臨海湿地。

請求項17

請求項13から16の何れかの湿地において、前記沿岸土中に地下水位を所要深さとするための不透水層を設けてなる臨海湿地。

請求項18

請求項13から17の何れかの湿地において、前記沿岸土上の満潮時汀線と干潮時汀線との間の部位に干潟底質土を客土してなる臨海湿地。

請求項19

請求項18の湿地において、前記干潟底質土をスナガニ類、貝類及び/又は多毛類の生息に適する粒度のものとしてなる臨海湿地。

請求項20

請求項13から19の何れかの湿地において、前記沿岸土上の干潮時汀線より低い部位に藻類の生息に適する藻場底質土を客土してなる臨海湿地。

請求項21

請求項13から20の何れかの湿地において、前記淡水中に湿生植物、干潟生物及び/又は藻類の栄養物質を溶存させてなる臨海湿地。

請求項22

請求項21の湿地において、前記淡水を適当な有機物濃度の河川水、地下水、雨水、中水又は排水処理後の放流水としてなる臨海湿地。

請求項23

請求項20から22の何れかの湿地において、前記沿岸土を岸から沖へ向かう方向に緩やかに下降傾斜させて客土したものとしてなる臨海湿地。

請求項24

請求項20から22の何れかの湿地において、岸と平行に不連続な消波壁を設け、前記沿岸土を、岸と消波壁と間に岸に沿って緩やかに下降傾斜するように且つ前記消波壁の不連続部が干潮時汀線より低くなるように客土したものとしてなる臨海湿地。

技術分野

(ト)に沿ってヨシ原・干潟藻場育成することにより、狭い水域でも緩やかな勾配の広い臨海湿地を育成できる。

背景技術

0001

本発明は臨海湿地の育成方法及び臨海湿地に関し、とくに多様な生物が生息できる臨海湿地を育成する方法及び臨海湿地に関する。

発明が解決しようとする課題

0002

多くの臨海域において、図8(A)に示すように、海水11による浸食から岸10を保護するため、コンクリート擁壁等の直立護岸8が建設されている。しかし、直立護岸8による生態系破壊の問題点が指摘され、最近では直立護岸8により直線化された海岸線を勾配のある自然な海岸線に再生し、衰弱しつつある自然の生態系を健全なものに蘇らせることが提案されている(例えば、21世紀『環の国』づくり会議報告書)。具体的には、同図に示すように、自然の生態系を蘇らせるために必要な干潟33や藻場35等の生物生息環境保全又は再生が積極的に推進されている。また、特定の生物(例えばアサリカニ類ゴカイ類、アマモ等)の生息に適する干潟33や藻場35の材料(底質土)や構造の研究・開発も進められている。

0003

しかし、従来の保全又は再生した干潟33や藻場35では、特定の生物をある程度生息させ得ることは確認されているが、自然の海岸線に見られる種類・量が豊富な生態系を蘇らせることが難しい問題点がある。この理由の1つは、自然の海岸線には単に物理的な勾配が存在するだけでなく、図8(B)にようにヨシ等の湿生植物3の生息環境2(以下、ヨシ原2ということがある。)・干潟生物5の生息環境である干潟4・藻類7の生息環境である藻場6等の複数の生物生息環境が空間的に連接ないし隣接して存在しているのに対し、保全又は再生した干潟33や藻場35では自然の一部の構成要素が単独で存在するに過ぎないことにある。例えば、自然の海岸線で生息する生物のなかには、ライフスタイル餌場産卵場休息場等)や生活史浮遊幼生期、稚児期、成体期等)に応じて複数の生息環境を必要とするものがある。このような生物を含む多様な生物が生息できる海岸線を保全又は再生するためには、ヨシ原2・干潟4・藻場6等の複数の生物生息環境を空間的に連ねて一体的に保全又は再生する必要がある。

課題を解決するための手段

0004

そこで本発明の目的は、ヨシ原と干潟とを空間的に連ねて保全又は再生できる臨海湿地の育成方法及び臨海湿地を提供することにある。

0005

本発明者は、自然の臨海湿地では後背地から淡水地下水として供給されていることに注目した。臨海湿地で淡水と海水とが交じり合うことにより汽水域が形成され、その汽水域がヨシ原2となっている。汽水域のヨシ原2は、カニ類やそれ等をとする生態系上位の鳥類生息場所となっており、有機物窒素リン等の水質浄化能力も高いことが報告されている。ヨシ原2を育成するためには汽水域を形成することが必要である。

0006

更に本発明者は、ヨシ原2に隣接して干潟4を有する自然の臨海湿地の調査に基づき、ヨシ原2の地下水位及び地下水中の塩分(以下、単に塩分ということがある。)が干潟に近づくに応じて連続的に変化していることを見出した。図7は自然の臨海湿地における地下水位及び塩分等の調査結果を示し、同図の各グラフ横軸水際線汀線)から調査地点までの距離(即ち、干潟と調査地点との間の距離)を示す。同図(A)はヨシ原2の代表生物であるヨシのバイオマス生物体量)の変化、同図(B)はヨシ原2の地盤ベル及び地下水レベルの変化、同図(C)はヨシ原2の塩分(実用塩分)の変化を表わす。

0007

図7(A)のグラフから、ヨシ原2におけるヨシのバイオマスは、汀線近傍を除き、汀線からの距離に応じて減少していることが分かる。同図(B)に示すように汀線からの距離に応じて地下水面の深さ(地盤レベルと地下水レベルとの差)が増大しているので、ヨシのバイオマスの減少要因は地下水面深さの増大であることが分かる。また、同図(C)に示すように汀線近傍で塩分が非常に高いので、汀線近傍におけるヨシのバイオマスの減少要因は塩分の上昇であることが分かる。即ち、ヨシ原2の海側境界は塩分により、陸側境界は土壌の水分量を示す地下水面深さにより規定されている。

0008

自然のヨシ原2と干潟4との境界では、ヨシ原2の湿生植物3が徐々に減少すると共に塩分を必要とする干潟生物5が徐々に増加しており、境界線が必ずしも明確ではない。このようなヨシ原2と干潟4という2つの生物生息環境の空間的な連接ないし隣接を可能にする要因は、図7(C)のような塩分の連続的な変化にあると考えられる。このような塩分の連続的な変化は、同図(B)のような地下水位の連続的な変化により形成されたものである。臨海湿地を育成する際に、前記塩分の連続的な変化が生じるように地下水位を形成すれば、ヨシ原2と干潟4とを空間的に連ねて育成することが期待できる。本発明はこの知見に基づく研究開発の結果、完成に至ったものである。

0009

図1の実施例を参照するに、本発明の臨海湿地の育成方法は、岸10から海底へ緩やかに下降傾斜する沿岸土13に汀線以上の高さから淡水12を供給し、該淡水供給部位から汀線近傍に連なる地下水位15を形成してなるものである。地下水位15を湿生植物3の生息に適する深さとし、沿岸土13を湿生植物3に適する粒度砂質土とすることが望ましい。

0010

また図1及び図4の実施例を参照するに、本発明の臨海湿地は、岸10から海底まで緩やかに下降傾斜させて客土した沿岸土13、及び沿岸土13に汀線以上の高さから淡水12を供給する淡水供給設備20を備え、該淡水供給部位から汀線近傍に連なる地下水位15を形成してなるものである。

発明を実施するための最良の形態

0011

好ましくは、図1(A)に示すように、沿岸土13上の満潮時汀線と干潮時汀線との間の部位に干潟底質土18を客土する。干潟底質土18は、スナガニ類、貝類及び/又は多毛類の生息に適する粒度のものとすることができる。更に好ましくは、沿岸土13上の干潮時汀線より低い部位に藻類7の生息に適する藻場底質土19を客土する。ここに満潮時汀線とは平均満潮線HWLと沿岸土13との交線、干潮時汀線とは平均干潮線LWLと沿岸土13との交線である。

0012

図1及び図4は、岸10からへ向かう方向に緩やかに下降傾斜する臨海湿地を育成する本発明の実施例を示す。本発明による臨海湿地の育成対象の一例は、図4に示すように潜堤32上に人工的に客土した沿岸土13である。但し、本発明は人工的に造成した沿岸土13への適用に限定されず、例えば図1に示すように生態系が衰弱した天然又は人工の沿岸土13に本発明を適用して臨海湿地の保全・再生に用いることができる。

0013

臨海湿地を育成するため、沿岸土13に汀線以上の高さで淡水12を供給する淡水供給設備20を設ける。図示例の淡水供給設備20は、沿岸土13の岸10側に沿って透水壁22を介して設けた淡水流路21を有し、淡水流路21から透水壁22経由で淡水12を沿岸土13に供給する。例えば河川水や地下水、雨水等の淡水12をポンプ等の淡水導入手段30によって淡水流路21へ導き、淡水流路21の水位を汀線以上の所要水位に保ち、汀線以上の高さから淡水12を供給する(図4参照)。透水壁22は後述するように所要流速又は流量で淡水12を通すものであれば足り、例えば透水コンクリート壁、適当な孔を設けた壁体石積壁等とすることができる。また、淡水流路21を有孔管により構成し、その有孔管の周壁を透水壁22としてもよい。

0014

沿岸土13が砂質土、シルト粘土等の細粒径の土で構成されている場合は、透水壁22を介して沿岸土13が淡水流路21中に漏れ出ないように、淡水流路21に沿岸土13の吸い込みを防ぐフィルター材28を設置することが望ましい(図4参照)。フィルター材28としては、粒度を調整した砂礫材、防砂シートフィルターユニット砕石網袋工)等を用いることができる。例えば、フィルター材28の内部に有孔管を敷設して淡水流路21とする。また、フィルター材28の上部から淡水12を供給して淡水流路21とすることができる。

0015

淡水流路21に導入された淡水12の一部分は透水壁22を通って沿岸土13中に供給される。沿岸土13の汀線以下の部分には海水11が滞留しているが、淡水12は海水11よりも比重が小さいので、供給された淡水12は海水11上に浮いて汀線以上の地下水位15を形成する。但し、本発明における淡水供給設備20は図示例に限定されず、汀線以上の高さから淡水12を供給できるものであれば足り、例えば沿岸土13の表面への散水により淡水12を供給するものとしてもよい。

0016

淡水流路21の淡水12を所要水位に保つため、図4では淡水流路21に越流堰26付き排水ピット25を設け、淡水流路21に導入された淡水12のうち余剰水を越流堰26により排水ピット25内へ導き、排水路27を通じて海域に排出している。但し、淡水位の保持方法は図示例に限定されず、例えば淡水導入量の調整により所要の淡水位を保持してもよい。

0017

淡水流路21の底部が汀線以下である場合は、淡水12よりも比重が大きい海水11が淡水流路21に流れ込むおそれがあるので、図4(B)及び(C)に示すように透水壁22の汀線以上の部位のみを透水部23とし、汀線以下の部位を非透水部24とすることが好ましい。また、図1のように淡水流路21の底部を満潮時汀線より高くして淡水流路21への海水11の流入を防ぐことも可能である。

0018

沿岸土13にヨシやナガミノオニシバ、クサヨシ、アイアシギシギシ、フクド、ウラギク、シオクグ(カヤツリグサ科)、ホウキギク等の湿生植物3を生息させるため、好ましくは沿岸土13を湿生植物3に適する粒度の砂質土とするか又は沿岸土13上の汀線以上の部位に湿生植物3に適する粒度の砂質土を客土する。例えばヨシの生息には粒径0.2mm程度の土壌が好ましく、粒径が大き過ぎる岩石、粒径が小さ過ぎるシルトや粘土質では不適切であるとの報告がある。このため、沿岸土13上にヨシを生息させる場合は、沿岸土13上の汀線以上の部位に粒径0.02〜0.3mm程度の砂質土を客土する。また、ヨシの生育には50〜60cmの土壌厚さが必要であるとの報告があるので、例えば沿岸土13上に中央粒径通過質量百分率50%の粒径)0.02〜0.3mm程度の砂質土を50〜60cmの厚さで客土することが望ましい。

0019

また、沿岸土13中の地下水位15を湿生植物3の生息に適する深さとすることが望ましい。本発明者は、前述した自然の臨海湿地における調査から、地下水面深さ(地盤レベルと地下水レベルとの差)dが15cm以上になるとヨシのバイオマスが減少し、35cm以上になると著しく減少することを見出した。このため、ヨシを生息させる場合は、沿岸土13中に地下水面深さdを35cm以下、好ましくは15cm以下とする。このような地下水位15を形成するためには、例えば図1(B)のように、線よりH1だけ高い部位に淡水流路21を設け、淡水流路21内の淡水位、即ち淡水11の水頭を潮線よりΔH(=H1−d)だけ高く保つ。

0020

更に、沿岸土13に湿生植物3を生息させるため、前記適切な地下水位15が広い範囲で確保できるように沿岸土13の汀線以上の勾配を定めることができる。図1では淡水流路21を汀線から距離Lだけ離して設け、沿岸土13の緩やかな勾配に応じて、地下水位15を淡水流路21から汀線近傍まで緩やかに下降させている。この場合、満潮時における地下水14の動水勾配iは図1(B)に示すようにΔH/Lとなる。他方、前述した沿岸土13の粒度から沿岸土13の透水係数kを定めることができる。土中の地下水14の動きは下記(1)式又は(2)式で示すダルシーの法則に従うことが知られており、透水係数kの沿岸土13中に動水勾配iの地下水位15を形成するためには、沿岸土13に対して(1)式の流速u又は(2)式の流量Qで淡水12を供給するように透水壁22を設計すればよい。なお、透水の流量Qは透水の流速uと透水壁22の透水孔断面積Aとの積で表わされる。

0021

u=ki=k・(ΔH/L) …………………………………………………(1)
Q=Au=A・ki=A・k・(ΔH/L) ………………………………(2)

0022

上述した流速u又は流量Qで淡水12を透水係数kの沿岸土13中に供給すれば、図1(B)に示すように淡水供給部位から汀線近傍に連なる地下水位15を形成できる。即ち、図7を参照して説明したように、干潟に近づくに応じて地下水面深さが徐々に減少する自然の臨海湿地と同様な地下水位15を沿岸土13中に形成できる。また、このように地下水面深さが連続的に変化する地下水位15を形成すれば、沿岸土13中に淡水から海水に至る塩分の連続的な変化を作り出すことができる。例えば、ヨシは塩分10PSU以上で発芽率が低下し、生息可能限界値は塩分20PSU以上であるとの報告がある。このため、塩分が20PSU以下、好ましくは10PSU以下となる広い範囲が確保できるように地下水位15を形成することにより、汀線近傍域までヨシを生息させることが可能となる。

0023

好ましくは、沿岸土13上の満潮時汀線と干潮時汀線との間の部位に干潟底質土18を客土することにより、アサリ、カニ類、ゴカイ類等の干潟生物5の生息を図ることができる。本発明者の調査によれば、例えばスナガニ類の生息可能な塩分は0.2PSU以上であり、稚ガニの生息には5PSU以上が望ましい。本発明は、沿岸土13に供給した淡水12をそのまま干潟底質土18に流入させるのではなく、汀線への接近に応じて塩分を高めた上で流入させるので、干潟底質土18の全域をスナガニ類等の干潟生物5の生息環境とすることができる。また、干潮時には図1(C)に示すように干潟底質土18の表面近傍に地下水位15が形成されるが、この場合も地下水14の塩分が海水と同程度であるため、干潟生物5の生息環境に対する地下水14の流入の影響を最小限に抑えることができる。

0024

本発明は、沿岸土13中に汀線への接近に応じて塩分が徐々に増加する地下水位15を形成するので、汽水域の湿生植物3と海水域の干潟生物5とが共に生息する境界域を作り出すことができ、ヨシ原2と干潟4という2つの生物生息環境を空間的に連ねて育成できる。また、干潮時においても地下水位15が地表近傍に維持されるので、満潮時汀線と干潮時汀線との間の部位を干潟生物5の生息に適する湿潤状態に保つことができる。なお、本発明によればヨシ原2と干潟4とを連接ないし隣接させて育成可能であるが、必要に応じて両者の間に緩衝帯段差等を設けてもよい。

0025

こうして本発明の目的である「ヨシ原と干潟とを空間的に連ねて保全又は再生できる臨海湿地の育成方法及び臨海湿地」の提供を達成できる。

0026

好ましくは、図1(A)に示すように、沿岸土13上の干潮時汀線より低い部位に適当な水深で藻類7の生息に適する藻場底質土19を客土する。藻場底質土19を客土することにより、沿岸土13上にヨシ原2・干潟4・藻場6という3つの生物生息環境を空間的に連ねて一体的に育成することが可能となり、自然に極めて近い健全な海岸線の育成が期待できる。

0027

なお、極度有機汚染された土壌ではヨシ原2や干潟4を育成できないが、ヨシ原2や干潟4の育成にはある程度の有機物が必要である。例えばヨシの場合は、土壌中の有機物が減少するにつれてヨシが衰退水コケ類に遷移するといわれている。このため、例えば適当な有機物濃度の淡水12(例えば中水排水処理後の放流水等)を沿岸土13に供給し、沿岸土13、底質土18、19を湿生植物3や干潟生物5の生息に適する強熱減量に調整することが好ましい。更に好ましくは、淡水12中に湿生植物3、干潟生物5及び/又は藻類7の栄養物質溶存させ、それら栄養物質を沿岸土13、底質土18、19に供給する。なお、栄養物質として微量要素も挙げられる。

0028

図2は、図1(B)よりも高い地下水位15を形成した本発明の他の実施例を示す。本発明は、地下水位15により沿岸土13中に汀線からの距離に応じて変化する図7(C)のような塩分濃度勾配を形成するが、その塩分勾配は供給する淡水12の水量等に応じて変化し得る。沿岸土13上に湿生植物3の広い生息範囲を確保するためには、汀線近傍域まで湿生植物3が生息可能な低い塩分であることが望ましい。しかし、例えば淡水量が少ない場合は、汀線近傍域の塩分が湿生植物3の生息可能範囲より高くなる場合も起こり得る。

0029

図2では、地下水位15の調節により、沿岸土13中の淡水から塩水に至る塩分勾配を湿生植物3の生息に適する範囲としている。すなわち、淡水供給部位から汀線よりδだけ高い部位に連なる地下水位15を形成することにより、汀線近傍域における塩分を図1(B)の場合に比して低く維持し、淡水量が少ない場合でも汀線近傍域の塩分を湿生植物3が生息可能な範囲内とすることができる。

0030

また図3は、沿岸土13中に地下水位15を所要深さとするための不透水層17a、17b、17cを設けた本発明の実施例を示す。上述したように沿岸土13の透水係数kは粒度等から定まるが、沿岸土13の粒度によっては湿生植物3の生息に適する深さの地下水位15とすることが難しい場合も起こり得る。このような場合は、沿岸土13中に適当な不透水層17を設けて地下水位15を調整することができる。なお、図示例では沿岸土13中に3層の不透水層17a、17b、17cをそれぞれ鉛直方向に設けているが、不透水層17の数や配置は図示例に限定されない。例えば水平又は所要勾配の不透水層17を設けて沿岸土13中の地下水位15を調整することができる。

0031

本発明は、図5に示すような直立護岸8により直線化された海岸線の保全・再生に効果的に利用できる。図5の実施例では、沿岸土13を岸10から沖へ向かう方向に緩やかに下降傾斜させて客土し、沿岸土13上の満潮時汀線と干潮時汀線との間の部位、及び干潮時汀線より低い部位にそれぞれ干潟底質土18、及び藻場底質土19を客土することにより、岸10から沖へ向かう方向に沿って湿生植物3、干潟生物5、藻類7の生息環境を空間的に連ねて育成している。ヨシ原2・干潟4・藻場6を一体的に育成することにより、自然に近い種類・量が共に豊富な生態系の蘇生が期待できる。また同図では、護岸8に淡水導入孔34を穿ち(即ち、護岸8を透水壁構造とし)、導入孔34を介して護岸8の岸側の淡水流路21から海側の沿岸土13へ淡水12を供給している。但し、淡水12の供給方法は図示例に限定されない。

0032

但し、図5のようにヨシ原2・干潟4・藻場6を一体的に育成する場合は、岸沖方向の距離が問題となる場合がある。干潟底質土18は泥質やシルトを含むので、干潟底質土18の流出を避けるために干潟4を緩やかな勾配とする必要がある。また、ヨシ原2も適正な地下水位15を広い範囲で確保するために緩やかな勾配が必要である。更に、沖の海底に藻場6を育成するためには、更に長い岸沖方向の距離が必要となる。護岸8の海側前面の水域が狭い場合は、図5の方法では臨海湿地の育成が難しい場合がある。また、臨海湿地全体の規模が非常に大きくなるので、人工構造物としての実現性が困難となる場合もある。

0033

図6の実施例は、緩やかな勾配の広い臨海湿地を造成するため、岸10から沖へ向かう方向に代えて、ヨシ原2・干潟4・藻場6を岸10に沿って連ねて一体的に育成する実施例を示す。同図(A)及び(B)では、護岸8に沿って海側に不連続の消波壁36を設け、護岸8と消波壁36と間に沿岸土13を、護岸8と平行に且つ消波壁36の不連続部37が干潮時汀線より低くなるように緩やかに下降傾斜させて客土し、消波壁36の不連続部37から沿岸土13上に海水11を浸入させ、湿生植物3と干潟生物5と藻類7とを護岸8に沿って生育させている。このように岸10に沿ってヨシ原2・干潟4・藻場6を再生すれば、既存の護岸前面の水域が狭い場合でも、護岸8の前面に適当な勾配の広い臨海湿地を比較的小規模な人工構造物として造成することできる。

0034

また、図6(C)に示すように、護岸8の前面ではなく、護岸8の一部分を開削した裏側(岸10側)に沿岸土13を護岸8と平行に且つ開削部39が干潮時汀線より低くなるように緩やかに下降傾斜させて客土し、開削部39から沿岸土13上に海水11を浸入させることにより、ヨシ原2・干潟4・藻場6を護岸8に沿って一体的に育成することもできる。

0035

以上説明したように、本発明による臨海湿地の育成方法及び臨海湿地は、岸から海底へ緩やかに下降傾斜する沿岸土に汀線以上の高さから淡水を供給し、淡水供給部位から汀線近傍に連なる地下水位を形成するので、次の顕著な効果を奏する。

図面の簡単な説明

0036

(イ)沿岸土中に淡水から塩水に至る所要塩分勾配を形成することができ、ヨシ原と干潟とを空間的に連ねて一体的に育成できる。
(ロ)沿岸土に形成した地下水の塩分を高めつつ汀線近傍に流入させるので、干潟生物に対する影響を最小限に抑えつつ、干潟を湿潤状態に保つことができる。
(ハ)ヨシ原と干潟という複数の生物生息環境を空間的に連ねて育成できるので、種類・量が豊富な自然の生態系を作ることが期待できる。
(ニ)満潮時汀線と干潮時汀線との間の部位に干潟底質土を客土することにより、自然の干潟に一層近い臨海湿地が育成できる。
(ホ)更に干潮時汀線より低い部位に藻場底質土を客土することにより、ヨシ原・干潟・藻場を空間的に連ねて一体的に再生し、自然に極めて近い海岸線の育成が期待できる。
(ヘ)直立護岸により直線化された既存の水際線を勾配のある自然な海岸線に育成する自然再生型海岸造成事業への寄与が期待できる。

--

0037

図1は、本発明の一実施例の説明図である。
図2は、本発明の他の実施例の説明図である。
図3は、不透水層を設けた本発明の更に他の実施例の説明図である。
図4は、本発明で用いる淡水供給設備の一実施例の説明図であり、(A)は平面図、(B)、(C)及び(D)はそれぞれ平面図(A)のB−B、C−C及びD−Dにおける断面図である。
図5は、ヨシ原・干潟・藻場を岸から沖へ向かう方向に沿って連ねて育成した本発明の実施例の説明図である。
図6は、ヨシ原・干潟・藻場を岸に沿って連ねて育成した本発明の他の実施例の説明図であり、(B)及び(C)はそれぞれ平面図の一例、(A)は平面図(B)又は(C)のA−Aにおける断面図である。
図7は、ヨシ原におけるバイオマス、地下水レベル、塩分濃度の変化を示すグラフである。
図8は、従来の直立護岸を設けた海岸線(A)と自然の海岸線(B)との相異を表わす説明図である。

0038

1…臨海湿地2…ヨシ原
3…湿生植物4…干潟
5…干潟生物6…藻場
7…藻類8…直立護岸
9…埋立地10…岸
11…海水12…淡水
13…沿岸土 14…地下水
15…地下水位
17…不透水層18…干潟底質土
19…藻場底質土20…淡水供給設備
21…淡水流路22…透水壁
23…透水部 24…不透水部
25…排水ピット26…越流堰
27…排水路28…フィルター材
30…淡水導入手段 32…潜堤
33…干潟 34…淡水導入孔
35…藻場 36…消波壁
37…不連続部 39…開削部

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