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課題
解決手段
Cr:2.0質量%以下,Ni:5.0質量%以下,Mo:1.0質量%以下の普通鋼または特殊鋼の鋼板表面に、中心線平均粗さRaが1.0〜4.0μm、好ましくは最大高さRyが25μm以下であり、さらに好ましくは凹凸の平均間隔Smが0.03〜0.1mmである電解粗面化表面を形成した粗面化鋼板。この鋼板は、硝酸と強電解質硝酸塩の混合水溶液中、例えば、硝酸5〜30質量%と硝酸ナトリウム50〜100g/Lを含む水溶液20〜40℃中において、上記普通鋼または特殊鋼の鋼板を+1.5〜+2.2VSCEの電位のアノード極とし、その鋼板表面上で酸素気泡を発生させながら当該鋼板を50〜150A/dm2の電流密度で5〜120秒間アノード電解することにより、製造することができる。
概要
背景
一般に鋼板素材の表面には、防錆や塗膜密着性の観点からめっきが施される場合が多い。しかし、用途によっては、めっき層を介さずに鋼板素地に直接塗膜を形成させたり接着剤を塗布する必要が生じることがある。
鋼板素地は一般に有機高分子等の塗膜や接着剤との密着性があまり良好ではない。このため、鋼板素地に直接塗料や接着剤を塗布した場合、曲げ加工や絞り加工において塗膜が剥離したり、接着剤を介して接合された被覆材料が外部応力によって剥離するといった問題が生じやすい。そこで、前処理として、鋼板表面の粗面化が行われることがある。その代表的手段として、ブラスト処理およびダルロール圧延が挙げられる。
ブラスト処理は、シュートやグリッドなどの研磨粒子を高圧の空気で送り出して粗面化すべき材料の表面に衝突させるものであり、その衝突によって材料の表面を削り取って凹凸形状にする粗面化手段である。しかし、ブラスト処理は、削り取られた鋼粉の処理により連続生産性が低下し、また特に薄ゲージ鋼板に適用した場合には鋼板が反り返る等の形状不良の問題が生じやすい。さらに、研磨粒子の材質,形状,粒径,空気圧等の条件によって表面粗さが変動し易いため、品質管理が難しいという面もある。
ダルロール圧延は、圧延ロール表面に施した凹凸形状を鋼板に転写する粗面化手段であり、表面粗さの制御はある程度可能である。しかし、塗膜等との密着性を大幅に向上させるような微細な粗面化は困難である。
一方、ステンレス鋼を対象とした粗面化技術としては、電解粗面化方法がいくつか開発されている。ステンレス鋼には強固な不動態皮膜を形成し、腐食形態が本来孔食状になりやすいという性質があることから、不動態化と活性溶解が混在する電解条件、すなわち粗面化が可能な電解条件を実現しやすいと言える。
その電解粗面化方法として、例えば、特開平6−136600号公報には、硝酸または硝酸を主成分とする水溶液中でステンレス鋼の陽極電解または陽極電解+陰極電解を行う粗面化方法が開示されている。具体的には、表面電位1.21〜1.82V vs SCE,陽極電解電流25〜220mA/cm2(=2.5〜22A/dm2),電解時間20〜60分といった、比較的低電流密度で長時間の過不動態溶解を行う例が示されている。
また、特開平10−259499号公報には、塩化第二鉄水溶液中でステンレス鋼板を交番電解することにより、アンカー効果の高い特異な形状のピットを高密度に形成する方法が開示されている。
概要
ステンレス鋼以外の普通鋼や特殊鋼において、塗膜密着性の良い電解粗面化鋼板を提供する。
Cr:2.0質量%以下,Ni:5.0質量%以下,Mo:1.0質量%以下の普通鋼または特殊鋼の鋼板表面に、中心線平均粗さRaが1.0〜4.0μm、好ましくは最大高さRyが25μm以下であり、さらに好ましくは凹凸の平均間隔Smが0.03〜0.1mmである電解粗面化表面を形成した粗面化鋼板。この鋼板は、硝酸と強電解質硝酸塩の混合水溶液中、例えば、硝酸5〜30質量%と硝酸ナトリウム50〜100g/Lを含む水溶液20〜40℃中において、上記普通鋼または特殊鋼の鋼板を+1.5〜+2.2VSCEの電位のアノード極とし、その鋼板表面上で酸素気泡を発生させながら当該鋼板を50〜150A/dm2の電流密度で5〜120秒間アノード電解することにより、製造することができる。
目的
ところが、上記のような電解粗面化技術を、普通鋼、あるいはステンレス鋼以外の特殊鋼に適用しても表面を粗面化することはできない。これらの鋼種は本来孔食よりも全面溶解の傾向が強いため、不動態化と活性溶解を混在させることが困難だからである。このため、普通鋼、あるいはステンレス鋼以外の特殊鋼など、強固な不動態皮膜を形成しない鋼種の電解粗面化は容易でなく、その方法は確立されていない。本発明は、このような鋼種について、鋼板素地の塗膜密着性を大幅に改善し得るような粗面化を、電解にて実現し、ブラスト処理やダルロール圧延の欠点を解消した粗面化鋼板を提供することを目的とする。
効果
実績
- 技術文献被引用数
- 0件
- 牽制数
- 5件
この技術が所属する分野
請求項1
請求項2
Cr:2.0質量%以下,Ni:5.0質量%以下,Mo:1.0質量%以下の普通鋼または特殊鋼の鋼板表面に、中心線平均粗さRaが1.0〜4.0μm、かつ最大高さRyが25μm以下の電解粗面化表面を形成した粗面化鋼板。
請求項3
Cr:2.0質量%以下,Ni:5.0質量%以下,Mo:1.0質量%以下の普通鋼または特殊鋼の鋼板表面に、中心線平均粗さRaが1.0〜4.0μm、最大高さRyが25μm以下、かつ凹凸の平均間隔Smが0.03〜0.1mmの電解粗面化表面を形成した粗面化鋼板。
請求項4
請求項5
硝酸と強電解質硝酸塩の混合水溶液中において、Cr:2.0質量%以下,Ni:5.0質量%以下,Mo:1.0質量%以下の普通鋼または特殊鋼の鋼板をアノード極とし、その鋼板表面上で酸素気泡を発生させながら当該鋼板を50〜150A/dm2の電流密度でアノード電解することにより、中心線平均粗さRaが1.0〜4.0μmの電解粗面化表面を形成する鋼板の粗面化方法。
請求項6
硝酸5〜30質量%と硝酸ナトリウム50〜100g/Lを含む水溶液中において、Cr:2.0質量%以下,Ni:5.0質量%以下,Mo:1.0質量%以下の普通鋼または特殊鋼の鋼板をアノード極とし、その鋼板表面上で酸素気泡を発生させながら当該鋼板を50〜150A/dm2の電流密度でアノード電解することにより、中心線平均粗さRaが1.0〜4.0μmの電解粗面化表面を形成する鋼板の粗面化方法。
請求項7
中心線平均粗さRaが1.0〜4.0μm、かつ最大高さRyが25μm以下の電解粗面化表面を形成する請求項5または6に記載の粗面化方法。
請求項8
中心線平均粗さRaが1.0〜4.0μm、最大高さRyが25μm以下、かつ凹凸の平均間隔Smが0.03〜0.1mmの電解粗面化表面を形成する請求項5または6に記載の粗面化方法。
請求項9
硝酸5〜30質量%+硝酸ナトリウム50〜100g/Lの水溶液20〜40℃中において、Cr:2.0質量%以下,Ni:5.0質量%以下,Mo:1.0質量%以下の普通鋼または特殊鋼の鋼板をアノード極とし、その鋼板表面上で酸素気泡を発生させながら当該鋼板を50〜150A/dm2の電流密度で5〜120秒間アノード電解する鋼板の粗面化方法。
請求項10
請求項11
電流密度を80〜120A/dm2とする請求項5〜10に記載の粗面化方法。
技術分野
背景技術
0002
一般に鋼板素材の表面には、防錆や塗膜密着性の観点からめっきが施される場合が多い。しかし、用途によっては、めっき層を介さずに鋼板素地に直接塗膜を形成させたり接着剤を塗布する必要が生じることがある。
0003
鋼板素地は一般に有機高分子等の塗膜や接着剤との密着性があまり良好ではない。このため、鋼板素地に直接塗料や接着剤を塗布した場合、曲げ加工や絞り加工において塗膜が剥離したり、接着剤を介して接合された被覆材料が外部応力によって剥離するといった問題が生じやすい。そこで、前処理として、鋼板表面の粗面化が行われることがある。その代表的手段として、ブラスト処理およびダルロール圧延が挙げられる。
0004
ブラスト処理は、シュートやグリッドなどの研磨粒子を高圧の空気で送り出して粗面化すべき材料の表面に衝突させるものであり、その衝突によって材料の表面を削り取って凹凸形状にする粗面化手段である。しかし、ブラスト処理は、削り取られた鋼粉の処理により連続生産性が低下し、また特に薄ゲージ鋼板に適用した場合には鋼板が反り返る等の形状不良の問題が生じやすい。さらに、研磨粒子の材質,形状,粒径,空気圧等の条件によって表面粗さが変動し易いため、品質管理が難しいという面もある。
0005
ダルロール圧延は、圧延ロール表面に施した凹凸形状を鋼板に転写する粗面化手段であり、表面粗さの制御はある程度可能である。しかし、塗膜等との密着性を大幅に向上させるような微細な粗面化は困難である。
0006
一方、ステンレス鋼を対象とした粗面化技術としては、電解粗面化方法がいくつか開発されている。ステンレス鋼には強固な不動態皮膜を形成し、腐食形態が本来孔食状になりやすいという性質があることから、不動態化と活性溶解が混在する電解条件、すなわち粗面化が可能な電解条件を実現しやすいと言える。
0007
その電解粗面化方法として、例えば、特開平6−136600号公報には、硝酸または硝酸を主成分とする水溶液中でステンレス鋼の陽極電解または陽極電解+陰極電解を行う粗面化方法が開示されている。具体的には、表面電位1.21〜1.82V vs SCE,陽極電解電流25〜220mA/cm2(=2.5〜22A/dm2),電解時間20〜60分といった、比較的低電流密度で長時間の過不動態溶解を行う例が示されている。
発明が解決しようとする課題
課題を解決するための手段
0009
ところが、上記のような電解粗面化技術を、普通鋼、あるいはステンレス鋼以外の特殊鋼に適用しても表面を粗面化することはできない。これらの鋼種は本来孔食よりも全面溶解の傾向が強いため、不動態化と活性溶解を混在させることが困難だからである。このため、普通鋼、あるいはステンレス鋼以外の特殊鋼など、強固な不動態皮膜を形成しない鋼種の電解粗面化は容易でなく、その方法は確立されていない。本発明は、このような鋼種について、鋼板素地の塗膜密着性を大幅に改善し得るような粗面化を、電解にて実現し、ブラスト処理やダルロール圧延の欠点を解消した粗面化鋼板を提供することを目的とする。
0010
Cr:2.0質量%以下,Ni:5.0質量%以下,Mo:1.0質量%以下の普通鋼や特殊鋼(以下、これらを「普通鋼等」という)は、不動態化傾向があまり強くなく、酸やアルカリ水溶液中では孔食よりも全面溶解を生じやすい。発明者らは、このような鋼種について、表面を電解により粗面化する方法を鋭意研究してきた。その結果、以下のような知見を得た。
硝酸水溶液中で、被処理材をアノード極とし、高電流密度で酸素気泡を多量に発生させながら電解すると、粗面化が可能であること。
ただし、その場合、液温上昇が著しいため連続処理には適さないこと。
ところが、硝酸水溶液中に強電解質硝酸塩を添加すると連続処理も可能になること。
比較的短時間で電解を終了することで塗膜密着性の良い粗面化面が達成できること。
硫酸や塩酸の水溶液では粗面化できないこと。
本発明は、このような知見に基づいて完成したものである。
0011
すなわち、発明者らは、Cr:2.0質量%以下,Ni:5.0質量%以下,Mo:1.0質量%以下の普通鋼または特殊鋼の鋼板表面に、中心線平均粗さRaが1.0〜4.0μmであり、好ましくは最大高さRyが25μm以下であり、さらに好ましくは凹凸の平均間隔Smが0.03〜0.1mmである電解粗面化表面を形成した粗面化鋼板を提供し、上記目的を達成した。
0012
また、硝酸と強電解質硝酸塩の混合水溶液中、例えば、硝酸5〜30質量%と硝酸ナトリウム50〜100g/L(リットル)を含む水溶液中において、Cr:2.0質量%以下,Ni:5.0質量%以下,Mo:1.0質量%以下の普通鋼または特殊鋼の鋼板をアノード極とし、その鋼板表面上で酸素気泡を発生させながら当該鋼板を50〜150A/dm2の電流密度でアノード電解することにより、中心線平均粗さRaが1.0〜4.0μm、好ましくは最大高さRyが25μm以下、さらに好ましくは凹凸の平均間隔Smが0.03〜0.1mmの電解粗面化表面を形成する鋼板の粗面化方法を提供する。ここで、Ra,Ry,SmはJIS B 0660に規定されているものである。
0013
より具体的な好ましい方法として、硝酸5〜30質量%+硝酸ナトリウム50〜100g/Lの水溶液20〜40℃中において、Cr:2.0質量%以下,Ni:5.0質量%以下,Mo:1.0質量%以下の普通鋼または特殊鋼の鋼板をアノード極とし、その鋼板表面上で酸素気泡を発生させながら当該鋼板を50〜150A/dm2の電流密度で5〜120秒間アノード電解する鋼板の粗面化方法を提供する。その際、特に、+1.5〜+2.2VSCEのアノード電位でアノード電解する方法を提供する。ここで、「VSCE」は飽和カロメル参照電極電位に対する電位(V)を表す。
発明を実施するための最良の形態
0014
さらに、上記の各粗面化方法において、特に、電流密度を80〜120A/dm2とする方法を提供する。
0015
本発明では、粗面化の対象鋼として、Cr:2.0質量%以下,Ni:5.0質量%以下,Mo:1.0質量%以下の普通鋼または特殊鋼を規定している。この範囲に属する鋼は広範な用途に使用されているが、ステンレス鋼のように強固な不動態皮膜を形成しないため、本質的に電解粗面化が困難なものである。しかし、このような鋼種でも、後述の電解方法により、塗料や接着剤との密着性を大きく改善させることのきる粗面化が可能になった。
0016
具体的な対象鋼として、例えば以下のようなものが挙げられる。
質量%で、C:0.32%,Si:0.17%,Mn:0.72%,P:0.018%,S:0.021%,残部:Feおよび不可避的不純物
質量%で、C:0.098%,Si:0.01%,Mn:0.39%,P:0.015%,S:0.004%,Al:0.031%,残部:Feおよび不可避的不純物
質量%で、C:0.92%,Si:0.23%,Mn:0.42%,P:0.014%,S:0.021%,Cr:0.31%,残部:Feおよび不可避的不純物
質量%で、C:0.90%,Si:0.22%,Mn:0.49%,P:0.013%,S:0.011%,Ni:0.45%,Cr:0.37%,残部:Feおよび不可避的不純物
質量%で、C:0.22%,Si:0.18%,Mn:0.44%,P:0.012%,S:0.011%,Ni:3.15%,Cr:1.22%,Mo:0.19%,残部:Feおよび不可避的不純物
0017
これらの鋼板表面にめっき層を形成させることなく、鋼板素地を粗面化することによって塗膜や接着剤との密着性を大きく向上させるには、電解粗面化後の鋼板素地の中心線平均粗さRaが1.0〜4.0μmの範囲に調整されていることが重要である。Raが1.0μm未満では、塗膜等に対するアンカー効果が十分に発揮されず、塗膜剥離を生じやすい。一方、Raが4.0μmを超えると、凹凸の凸部が細く鋭利になる傾向が大きくなるため、加工時にこの凸部が破断する場合がある。
0018
また、凹凸部の最大高さRyが25μm以下であること、さらには凹凸の平均間隔Smが0.03〜0.1mmであることが一層望ましい。鋼板単位面積あたりの塗膜付着量が同じなら、Ryが大きくなるほど凸部と塗膜最表面との距離が短くなるので、加工時に凸部による塗膜破断が生じやすくなる。Smが小さくなると単位断面曲線当たりの凹凸のピッチが細かい構造となり、深さ方向への塗料・接着剤の流れ込みが悪くなる箇所が生じて塗膜や接着剤との密着性が低下する。Smが大きくなりすぎると凹凸のピッチが大きくなって平面に近い状態となり、アンカー効果が十分に発揮されなくなり、この場合も塗膜や接着剤との密着性は低下する。種々検討の結果、Raが1.0〜4.0μmであって、かつRyが25μm以下に抑えられていると、塗膜に対するアンカー効果は十分に発揮されるとともに、比較的厳しい曲げ加工においても凸部による塗膜破断が生じにくいことがわかった。つまり、Raが1.0〜4.0μm、かつRyが25μm以下の場合に、特に優れた塗膜密着性が確保されると言える。また、特にSmが0.03〜0.1mmの範囲にあるとき、一層優れた塗膜・接着剤との密着性が安定して得られることがわかった。
0019
次に、電解粗面化方法について述べる。電解粗面化は、基本的に、アノード溶解が生じる部分と生じない部分を材料表面に混在させることによって達成される。材料がステンレス鋼の場合、不動態化傾向が強いために適度な酸化力を有する溶液中でアノード電解すると材料表面のいたるところに孔食状のピットを形成させることができる。つまり、比較的小さい電流密度で孔食状の局部腐食を連続的に生じさせることにより粗面化が達成される。ところが、普通鋼等の場合は不動態化傾向が弱いために、アノード電解時に局部的な孔食状の溶解を生じさせることが困難であり、ステンレス鋼と同様のメカニズムで粗面化することはできない。
0020
本発明では、普通鋼等の鋼板表面にアノード溶解が生じる部分と生じない部分を混在させるために、水の電気分解によってアノード極上で発生する酸素の酸化力を積極的に利用するという、新たな手法を採用した。すなわち、鋼板をアノード極とし、水の電気分解が生じる電位で電解すると鋼板表面上で酸素気泡が発生するが、その際、特定の電解液を用いると、酸素気泡が発生する部分とアノード溶解が生じる部分が不規則に混在する状況を作り出せることがわかった。このとき、発生した酸素が、その発生箇所近傍の鋼板表面を酸化するに充分な量だけ存在すれば、その部分で局所的にアノード溶解が防止され、その結果、鋼板表面を粗面化することができるものと考えられる。
0021
以下、電解条件について説明する。
〔電解液〕本発明では、普通鋼等の表面で酸素による酸化とアノード溶解を同時に生じさせることによって粗面化を実現する。そのためには、普通鋼等のアノード分極曲線(例えば、掃引速度50mV/secとしたときの分極曲線)において、活性溶解領域,不動態領域および過不動態領域がみられるような溶液、すなわち、普通鋼等をある程度不動態化させる性質のある溶液を使用する必要がある。このような溶液を用いると、水の電気分解によってアノード極上に生じる酸素の酸化力を利用して、アノード溶解が生じる部分と生じない部分を普通鋼表面に混在させることが可能になり、粗面化が実現できる。発明者らは、そのような溶液の例として、硝酸を主体とした水溶液が使用できることを確認した。塩酸や硫酸を含む水溶液では活性溶解が主体的となり、普通鋼等の粗面化はできなかった。
0022
硝酸を主体とし、塩酸や硫酸等の活性溶解を助長する酸を含まない水溶液(以下「硝酸系の水溶液」という)を使用した場合であっても、酸素の発泡が多量に生じるような高電流密度でアノード電解しなくては、普通鋼等を粗面化することはできない。これは、ステンレス鋼の場合と大きく異なる点である。このため、本発明に適用する電解液は、導電性が高いこと、すなわち液抵抗が低いことが望ましい。硝酸のみを溶解した「硝酸水溶液」を用いても普通鋼等の粗面化は可能である。しかし、この場合、液抵抗が高いため、高電流密度での電解を行うと短時間で液温が上昇してしまう。これでは工業的な連続生産に利用することは困難である。そこで、検討の結果、硝酸と強電解質硝酸塩の混合水溶液を用いることでこの問題は解消できることがわかった。強電解質硝酸塩としては、硝酸ナトリウム,硝酸カリウム,硝酸カルシウム等が挙げられる。これらを添加することにより液抵抗が大幅に低下し、大量生産に対応できるようになる。
0023
発明者らは、工業的な連続生産ラインへの適用を想定して、硝酸系の水溶液を用いた電解液組成を種々検討してきた。その結果、硝酸5〜30質量%と硝酸ナトリウム50〜100g/Lを含む水溶液が好適であることを見出した。硝酸と硝酸ナトリウム以外には、他の硝酸塩やその他のイオンを含んでも構わないが、塩酸や硫酸等、活性溶解を促進させる成分は極力含まないことが望ましい。いずれにしても、後述する電流密度でアノード電解することによって、発泡酸素によるアノード極表面の酸化が起こり、中心線平均粗さRaが1.0〜4.0μmの粗面化面が形成できる電解液であることが必要である。
0024
〔アノード電流密度〕電解液に硝酸と強電解質硝酸塩を含む混合水溶液を用いた場合、普通鋼等の表面を酸化するに十分な量の酸素の発泡を生じさせるには、50A/dm2以上の高電流密度で電解することが好ましい。ただし、150A/dm2を超えると消費電力が過大になり、酸素の発泡が多くなりすぎて安定したアノード電解を維持するのが難しくなる。このため、本発明の粗面化方法では50〜150A/dm2の範囲の電流密度を規定している。一般的な連続ラインにおいて一層安定した操業を行うためには、80〜120A/dm2の範囲にコントロールするのが望ましい。ラインの電力供給能力が許せば、100超え〜120A/dm2、あるいは100超え〜150A/dm2の特に高い電流密度領域で操業することも生産性向上に有効である。アノード電流密度はアノード電位および液抵抗に大きく依存する。したがって、アノード電流密度は、アノード電位や、電解液の成分・濃度,液温,電極間の距離によってコントロールすることができる。
0025
〔アノード電位〕水の電気分解が盛んに起こるアノード電位で電解する必要がある。硝酸と強電解質硝酸塩を含む混合水溶液を用いる場合、上述のように、50A/dm2以上のアノード電流密度が確保される電位とするのが好ましい。具体的に電解液として硝酸5〜30質量%+硝酸ナトリウム50〜100g/Lの水溶液を使用する場合について説明すると、浸漬電位から約+0.3VSCEの電位までは電位が高くなるほど溶解電流が増大し、鋼板表面は平滑に活性溶解される。この状態ではいわゆる電解研磨面となり、粗面化はできない。約+0.3VSCEを超え約+1.5VSCE未満の範囲では、電解中に鋼板表面は不動態皮膜で覆わる。この皮膜はステンレス鋼の場合のように強固なものではないが、絶縁性が高いため電流が流れにくくなり、粗面化は困難である。約+1.5VSCE以上では、水の電気分解が盛んに起こり、アノード極である鋼板表面では酸素が、カソード極では水素が発生する。このような電位で電解すると、鋼板表面では酸素の発泡により酸化される部分と、電解によって溶解される部分が不規則に混在し、鋼板表面には微細な凹凸を持つ粗面が形成されるのである。
0026
〔液温〕電解液が硝酸5〜30質量%+硝酸ナトリウム50〜100g/Lの水溶液である場合において、液温が40℃を超えると活性溶解も激しくなるため、既に形成された粗面の凸部が化学エッチングされはじめ、表面粗さRaのコントロールが難しくなる。一方、液温が20℃未満であると溶解効率が低いために、粗面化には長時間を要する。このため、上記電解液において液温は20〜40℃の範囲に保つことが好ましい。30〜40℃の範囲に液温をコントロールすることが一層望ましい。
0027
〔電解時間〕本発明は基本的に、i)高電流密度,ii)多量の酸素発泡,iii)短時間の電解、の思想によって普通鋼等を電解粗面化しようというものである。電解を長時間続けると、既に形成された粗面の凸部が電解と化学溶解によって平滑化されるので、Raは却って小さくなる点に留意すべきである。つまり、適度な粗面が形成された時点で電解を終了させることが重要となり、この点が普通鋼等の電解粗面化技術の成否を分ける大きな要因である。適正な電解時間の範囲は、電解液の種類,温度,電流密度などの諸条件によって異なるが、例えば、硝酸5〜30質量%+硝酸ナトリウム50〜100g/Lの水溶液20〜40℃中において、アノード電流密度を50〜150A/dm2にコントロールして粗面化する場合、5〜120秒間の電解時間とすることが望ましい。
0028
本発明に係る新規鋼板の今後期待される用途の一つに、自動車のオートマチック・トランスミッションの構成材料であるフリクションプレートのコア材が挙げられる。フリクションプレートは、粗面化した鋼板からなるコア材の表面に摩擦材(例えば、繊維基材に充填材や樹脂結合材などを含浸させて加熱硬化させた複合体)を貼り付けたものであり、トランスミッション内で湿式クラッチ板を構成する。コア材と摩擦材は接着剤を介して接合される。このため、コア材には接着剤との高い密着性が要求される。従来、コア材には炭素鋼板等にリン酸塩処理,エッチング処理,あるいはショットブラスト処理等を施して粗面化した材料が使用されてきた。しかし、これらの材料の接着剤との密着性は、今後の高負荷・高耐久ニーズを考慮すると、必ずしも満足できるものではない。この点、本発明に係る粗面化鋼板、特にRa,RyおよびSmを上記範囲に規定した鋼板は、従来の処理により製造された粗面化鋼板よりも接着剤との密着性に優れ、ひいては摩擦材との接合強度およびフリクションプレートの耐久性を向上させることができる。
0029
〔実施例1〕まず、電解粗面化鋼板の表面粗度がどの程度になると十分な塗膜密着性を呈するようになるかを調べるために、Raが0.5〜1.5μmの範囲の電解粗面化鋼板を作製し、塗膜密着性を評価した。素材鋼板としては、質量%でC:0.22%,Si:0.18%,Mn:0.44%,P:0.012%,S:0.011%,Cr:1.22%,Ni:3.15%,Mo:0.19%を含む特殊鋼の冷延鋼板、板厚0.8mmを用いた。前処理として、オルソケイ酸ソーダ50g/L,液温55℃のアルカリ電解液で、電流密度5A/dm2で10秒間カソード電解することにより電解脱脂した後、硫酸10g/L,液温25℃の硫酸液に10秒間浸漬して酸洗し、水洗した。この原板を硝酸10質量%+硝酸ナトリウム80g/Lの水溶液35℃中で、酸素気泡を発生させながらアノード電解することにより粗面化した。アノード電位は+1.9VSCE、電流密度は80A/dm2とし、電解時間を変えることで中心線平均粗さRaを0.5〜1.5μmの範囲にコントロールした。なお、いずれのサンプルも、最大高さRyは25μm以下になるようにした。
0030
得られた粗面化表面にフェノール系接着剤を20μm厚さでを塗布し、250℃で焼き付けた。ここで、接着剤層の厚さは、「塗布した接着剤の質量」を「塗布面積×比重」で除した値であり、概念的にはJIS B 0601に規定される「粗さ曲線の中心線」から接着剤層最表面までの距離に相当するものである。接着剤層を形成させたままのサンプル、およびこれを沸騰水の蒸気に5時間曝したサンプルを用意した。これらのサンプルをポンチ先端半径が1mm(1R)の金型で90度V曲げ加工し、加工部にセロハンテープを貼り付けた後、セロハンテープを剥がす剥離試験を行い、接着剤の密着性を評価した。
0031
結果を図1に示す。図1中「接着剤剥離なし」のものは、接着剤層を形成させたままのサンプルおよび蒸気に曝したサンプルともに剥離が全く認められなかったものである。硝酸+強電解質硝酸塩の水溶液を用いた電解粗面化表面について、Raが1.0μm以上になると接着剤との密着性は非常に良好になることがわかる。
0032
なお、図1中に示したa〜hの各プロットにおけるSmの測定値(mm)は以下のとおりであった。
a:0.027,b:0.025,C:0.033,d:0.036,E:0.033,F:0.037,G:0.043,h:0.050。
0033
〔実施例2〕次に、電解条件と、Raおよび塗膜密着性の関係を調べた。素材鋼板として、質量%でC:0.098%,Si:0.01%,Mn:0.39%,P:0.015%,S:0.004%,Al:0.031%を含有する普通鋼(中炭素鋼)のブライト仕上鋼板、板厚0.8mmを使用した。これに実施例1と同様の前処理を施して電化粗面化用の原板を準備した。電解液は硝酸+硝酸ナトリウムの水溶液とした。電解条件は、硝酸濃度,硝酸アンモニウム濃度,液温,アノード電位,アノード電流密度,電解時間を種々の値にすることで変化させた。なお、アノード電流密度は、アノード電位や、電解液の濃度,液温,電極間の距離によって変動するので、これらの諸条件の組み合わせによってコントロールした。
0034
アノード電解後の鋼板について、RaおよびRyを測定した。これらの鋼板表面にアクリル系樹脂を15μm厚さで塗布し、220℃で焼き付けたのち水冷した。塗膜厚さについては実施例1で説明したとおりである。塗膜密着性は以下の方法で調査した。
0035
各塗装鋼板について、塗装ままのサンプル、および、塗装材を沸騰水中に2時間浸漬したサンプルを用意した。これらのサンプルの表面にカッターナイフにて1mm間隔に11本の線を引き、さらにこれらの線に直角に交わる線を同様に1mm間隔に11本引き、100個の升目を作った。100個の升目の中央をエリクセン試験機で6mm押し出し加工を行った。この加工部の升目全体を覆うようにセロハンテープを貼り付けた後、セロハンテープを剥がす剥離試験を行い、100個の升目の塗膜が1つも剥離しないものを○、1つでも剥離したものを×と評価した。これらの結果を、電解条件とともに表1に示す。表1中、「一次密着性」とは塗装ままのサンプルについての剥離試験結果、「二次密着性」とは沸騰水浸漬後のサンプルについての剥離試験結果である。
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表1中、試料No.1〜10は適正な電解条件によってアノード極上で多量の酸素気泡を発生させながらRaを1.0〜4.0μmにコントロールした発明例であり、いずれもRyは25μm以下,Smは0.03〜0.1mmに収まっていた。これらは、一次密着性,二次密着性とも良好で、塗膜剥離は認められなかった。
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これに対し、試料No.11は硝酸濃度が低かったためにRaが1.0μm以上,Smが0.03mm以上にならず、二次密着性に劣った。試料No.12はアノード電位が低く十分に酸素気泡が発生しない状態で電解したためほとんど粗面化が達成できず、一次密着性,二次密着性とも改善されなかった。試料No.13は電解時間が長かったため凸部が溶解され平滑化し、Raが1.0μm未満になってしまった例であり、一次密着性,二次密着性とも悪くなった。試料No.14は硝酸濃度が高かったためRaが1.0μm以上,Smが0.03mm以上にならず、二次密着性に劣った。試料No.15は硝酸濃度が低く電解時間が長かったためRaが4.0μmを超えた例であり、凸部が鋭利になって一次密着性,二次密着性とも却って悪くなった。試料No.16は硝酸ナトリウム等の強電解質硝酸塩を添加しない硝酸水溶液を使用した例であり、液抵抗が大きいために短時間で液温が上昇し、Raが1.0μm以上,Smが0.03mm以上の粗面化が達成できなかったものである。