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技術 高強度ばね用熱処理鋼線

出願人 新日鐵住金株式会社日鉄住金SGワイヤ株式会社本田技研工業株式会社
発明者 橋村雅之萩原博宮木隆成林博昭鈴木章一椎木克昭山田範之小池精一
出願日 2001年2月7日 (20年6ヶ月経過) 出願番号 2001-030511
公開日 2002年8月23日 (19年0ヶ月経過) 公開番号 2002-235151
状態 特許登録済
技術分野 ばね
主要キーワード セッチング 非定常作業 カットワイヤー オイル槽 破壊歪 Mf点 針状組織 材料硬度
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重要な関連分野

この項目の情報は公開日時点(2002年8月23日)のものです。
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図面 (3)

課題

高強度においてもコイリング性に優れたばね用鋼線を提供する。

解決手段

質量%において、C:0.75〜0.85%、Si:1.5〜2.5%、Mn:0.5〜1.0%、Cr:0.3〜1.0%、P:0.015%以下、S:0.015%以下、N:0.001〜0.007%、W:0.05〜0.3%残部が鉄および不可避的不純物を含み、引張強度2000MPa以上、かつ検鏡面に占めるセメンタト系球状炭化物に関して、円相当径0.2μm以上の占有面積率が7%以下、円相当径0.2〜3μmの存在密度が1個/μm2以下、円相当径3μm超の存在密度が0.001個/μm2以下を満たし、旧オーステナイト粒径番号が10番以上、残留オーステナイトが12質量%以下、最大炭化物径が15μmかつ最大酸化物径が15μm以下であることを特徴とする高強度ばね熱処理鋼線

概要

背景

自動車の軽量化、高性能化に伴い、ばねも高強度化され、熱処理後に引張強度1500MPaを超えるような高強度鋼がばねに供されている。近年では引張強度1900MPaを超える鋼線も要求されている。それはばね製造時の歪取り焼鈍窒化処理など、加熱によって少々軟化してもばねとして支障のない材料硬度を確保するためである。

その手法としては特開昭57−32353号公報ではV、Nb、Mo等の元素を添加することで焼入れで固溶し、焼戻し析出する微細炭化物を生成させ、それによって転位動きを制限し、耐へたり特性を向上させるとしている。

一方、鋼のコイルばねの製造方法では鋼のオーステナイト域まで加熱してコイリングし、その後、焼入れ焼戻しを行う熱間コイリングとあらかじめ鋼に焼入れ焼戻しを施した高強度鋼線を冷間にてコイリングする冷間コイリングがある。冷間コイリングでは鋼線の製造時に急速加熱急速冷却が可能なオイルテンパー処理高周波処理などを用いることができるため、ばね材の旧オーステナイト粒径を小さくすることが可能で、結果として破壊特性に優れたばねを製造できる。またばね製造ラインにおける加熱炉などの設備を簡略化できるため、ばねメーカーに取っても設備コストの低減につながるなどの利点があり、最近ではばねの冷間化が進められている。

しかし冷間コイリングばね用鋼線の強度が大きくなると、冷間コイリング時に折損し、ばね形状に成形できない場合も多い。強度と加工性両立しないために工業的には不利ともいえる方法でコイリングせざるを得なかった。通常、弁ばねの場合、オンラインでの焼入れ焼戻し処理、いわゆるオイルテンパー処理した鋼線を冷間でコイリングするが、例えば特開平05−179348号公報では900〜1050℃に加熱してコイリングし、その後425〜550℃で焼戻し処理するなど、コイリング時の折損を防止するためにコイリング時に線材を加熱して変形を容易な温度でコイリングし、その後、高強度を得るためにコイリング後調質処理を行っている。このようなコイリング時の加熱とコイリング後の調質処理は、ばね寸法の熱処理ばらつきの原因になったり、処理能率極端に低下したりするため、コスト、精度の点で冷間コイリングされたばねに比べ劣る。

また炭化物粒径に関しては例えば特開平10−251804号公報のようにNb、V系の炭化物の平均粒径に注目した発明がなされているが、V、Nb系炭化物の平均粒径の制御だけでは不十分であることを示している。この先行技術では圧延中の冷却水によって異常組織が生じることを懸念する記述があり、実質的には乾式圧延推奨している。このことは工業的には非定常作業であり、通常の圧延と明らかに異なることが推定され、たとえ平均粒径を制御しても周辺マトリックス組織に不均一を生じると圧延トラブルを生じることを示唆している。

概要

高強度においてもコイリング性に優れたばね用鋼線を提供する。

質量%において、C:0.75〜0.85%、Si:1.5〜2.5%、Mn:0.5〜1.0%、Cr:0.3〜1.0%、P:0.015%以下、S:0.015%以下、N:0.001〜0.007%、W:0.05〜0.3%残部が鉄および不可避的不純物を含み、引張強度2000MPa以上、かつ検鏡面に占めるセメンタト系球状炭化物に関して、円相当径0.2μm以上の占有面積率が7%以下、円相当径0.2〜3μmの存在密度が1個/μm2以下、円相当径3μm超の存在密度が0.001個/μm2以下を満たし、旧オーステナイト粒径番号が10番以上、残留オーステナイトが12質量%以下、最大炭化物径が15μmかつ最大酸化物径が15μm以下であることを特徴とする高強度ばね熱処理鋼線

目的

本発明は冷間でコイリングされ、十分な大気強度とコイリング加工性を両立できる引張強度2000MPa以上のばね用鋼線を提供することを課題としている。

効果

実績

技術文献被引用数
1件
牽制数
5件

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請求項1

質量%で、C:0.75〜0.85%、Si:1.5〜2.5%、Mn:0.5〜1.0%、Cr:0.3〜1.0%、P:0.015%以下、S:0.015%以下、N:0.001〜0.007%、W:0.05〜0.3%残部が鉄および不可避的不純物を含み、引張強度2000MPa以上、かつ検鏡面に占めるセメンタイト系球状炭化物に関して、円相当径0.2μm以上の占有面積率が7%以下、円相当径0.2〜3μmの存在密度が1個/μm2以下、円相当径3μm超の存在密度が0.001個/μm2以下を満たし、かつ旧オーステナイト粒径番号が10番以上、残留オーステナイトが12質量%以下、最大炭化物径が15μm以下かつ最大酸化物径が15μm以下であることを特徴とする高強度ばね熱処理鋼線

請求項2

さらに、Mo:0.05〜0.2%、V:0.05〜0.2%の内の1種または2種を含むことを特徴とする請求項1記載の高強度ばね用熱処理鋼線。

技術分野

0001

本発明は冷間でコイリングされ、高強度かつ高靭性を有するばね用鋼線に関するものである。

背景技術

0002

自動車の軽量化、高性能化に伴い、ばねも高強度化され、熱処理後に引張強度1500MPaを超えるような高強度鋼がばねに供されている。近年では引張強度1900MPaを超える鋼線も要求されている。それはばね製造時の歪取り焼鈍窒化処理など、加熱によって少々軟化してもばねとして支障のない材料硬度を確保するためである。

0003

その手法としては特開昭57−32353号公報ではV、Nb、Mo等の元素を添加することで焼入れで固溶し、焼戻し析出する微細炭化物を生成させ、それによって転位動きを制限し、耐へたり特性を向上させるとしている。

0004

一方、鋼のコイルばねの製造方法では鋼のオーステナイト域まで加熱してコイリングし、その後、焼入れ焼戻しを行う熱間コイリングとあらかじめ鋼に焼入れ焼戻しを施した高強度鋼線を冷間にてコイリングする冷間コイリングがある。冷間コイリングでは鋼線の製造時に急速加熱急速冷却が可能なオイルテンパー処理高周波処理などを用いることができるため、ばね材の旧オーステナイト粒径を小さくすることが可能で、結果として破壊特性に優れたばねを製造できる。またばね製造ラインにおける加熱炉などの設備を簡略化できるため、ばねメーカーに取っても設備コストの低減につながるなどの利点があり、最近ではばねの冷間化が進められている。

0005

しかし冷間コイリングばね用鋼線の強度が大きくなると、冷間コイリング時に折損し、ばね形状に成形できない場合も多い。強度と加工性両立しないために工業的には不利ともいえる方法でコイリングせざるを得なかった。通常、弁ばねの場合、オンラインでの焼入れ焼戻し処理、いわゆるオイルテンパー処理した鋼線を冷間でコイリングするが、例えば特開平05−179348号公報では900〜1050℃に加熱してコイリングし、その後425〜550℃で焼戻し処理するなど、コイリング時の折損を防止するためにコイリング時に線材を加熱して変形を容易な温度でコイリングし、その後、高強度を得るためにコイリング後調質処理を行っている。このようなコイリング時の加熱とコイリング後の調質処理は、ばね寸法の熱処理ばらつきの原因になったり、処理能率極端に低下したりするため、コスト、精度の点で冷間コイリングされたばねに比べ劣る。

0006

また炭化物粒径に関しては例えば特開平10−251804号公報のようにNb、V系の炭化物の平均粒径に注目した発明がなされているが、V、Nb系炭化物の平均粒径の制御だけでは不十分であることを示している。この先行技術では圧延中の冷却水によって異常組織が生じることを懸念する記述があり、実質的には乾式圧延推奨している。このことは工業的には非定常作業であり、通常の圧延と明らかに異なることが推定され、たとえ平均粒径を制御しても周辺マトリックス組織に不均一を生じると圧延トラブルを生じることを示唆している。

発明が解決しようとする課題

0007

本発明は冷間でコイリングされ、十分な大気強度とコイリング加工性を両立できる引張強度2000MPa以上のばね用鋼線を提供することを課題としている。

課題を解決するための手段

0008

発明者らは従来のばね鋼線では注目されていなかった鋼中炭化物、特にセメンタイトの大きさを制限することで高強度とコイリング性を両立させたばね用鋼線を開発するに至った。

0009

すなわち、本発明は次に示す鋼線を要旨とする。

0010

(1) 質量%で、C:0.75〜0.85%、Si:1.5〜2.5%、Mn:0.5〜1.0%、Cr:0.3〜1.0%、P:0.015%以下、S:0.015%以下、N:0.001〜0.007%、W:0.05〜0.3%残部が鉄および不可避的不純物を含み、引張強度2000MPa以上、かつ検鏡面に占めるセメンタイト系球状炭化物に関して、円相当径0.2μm以上の占有面積率が7%以下、円相当径0.2〜3μmの存在密度が1個/μm2以下、円相当径3μm超の存在密度が0.001個/μm2以下を満たし、かつ旧オーステナイト粒径番号が10番以上、残留オーステナイトが12質量%以下、最大炭化物径が15μm以下かつ最大酸化物径が15μm以下であることを特徴とする高強度ばね熱処理鋼線

0011

(2) さらに、Mo:0.05〜0.2%、V:0.05〜0.2%の内の1種または2種を含むことを特徴とする上記(1)記載の高強度ばね用熱処理鋼線。

発明を実施するための最良の形態

0012

発明者は高強度を得るために化学成分を規定しつつ、熱処理によって鋼中炭化物形状を制御することで、ばねを製造するに十分なコイリング特性を確保した鋼線を発明するに至った。

0013

その詳細を以下に示す。

0014

まず、鋼成分を限定した理由を説明する。

0015

Cは鋼材の基本強度に大きな影響を及ぼす元素であり、従来より十分な強度を得られるように0.75〜0.85%とした。0.75%未満では十分な強度を得られない。特にばね性能向上のための窒化を省略した場合でも十分なばね強度を確保するには0.75%以上のCが必要である。0.85%超では過共析となり、粗大セメンタイトを多量に析出するため、靭性を著しく低下させる。このことは同時にコイリング特性を低下させる。

0016

Siはばねの強度、硬度と耐へたり性を確保するために必要な元素であり、少ない場合、必要な強度、耐へたり性が不足するため、1.5%を下限とした。またSiは粒界の炭化物系析出物球状化微細化する効果があり、積極的に添加することで粒界析出物の粒界占有面積率を小さくする効果がある。しかし多量に添加しすぎると、材料を硬化させるだけでなく、脆化する。そこで焼入れ焼戻し後の脆化を防ぐために2.5%を上限とした。

0017

Mnは硬度を十分に得るため、また鋼中に存在するSをMnSとして固定し、強度低下を抑制するために0.5%を下限とする。またMnによる脆化を防止するために上限を1.0%とした。

0018

Nは鋼中マトリックスを硬化させるが、Ti、Vなどの合金元素が添加されている場合には窒化物として存在し、鋼線の性質に影響を与える。Ti、Nb、Vを添加した鋼では炭窒化物の生成が容易になり、オーステナイト粒微細化のピン止め粒子となる炭化物、窒化物および炭窒化物の析出サイトになりやすい。そのため、ばね製造までに施される様々な熱処理条件で安定的にピン止め粒子を生成することができ、鋼線のオーステナイト粒径を微細に制御することができる。このような目的から0.001%以上のNを添加させる。一方、過剰なNは窒化物および窒化物を核として生成した炭窒化物および炭化物の粗大化を招く。例えばTiを添加する場合には粗大なTiNを析出したり、Bを添加するとBNを析出し、破壊特性を損なう。そこでそのような弊害の伴わない0.007%を上限とする。

0019

Pは鋼を硬化させるが、さらに偏析を生じ、材料を脆化させる。特にオーステナイト粒界に偏析したPは衝撃値の低下や水素侵入により遅れ破壊などを引き起こす。そのため少ない方がよい。そこで脆化傾向が顕著となる0.015%以下に制限した。

0020

SもPと同様に鋼中に存在すると鋼を脆化させる。Mnによって極力その影響を小さくするが、MnSも介在物の形態をとるため、破壊特性は低下する。特に高強度鋼では微量のMnSから破壊を生じることもあり、Sも極力少なくすることが望ましい。その悪影響が顕著となる0.015%を上限とした。

0021

Crは焼入れ性および焼戻し軟化抵抗を向上させるために有効な元素であるが、添加量が多いとコスト増を招くだけでなく、焼入れ焼戻し後に見られるセメンタイトを粗大化させる。結果として線材は脆化するためにコイリング時に折損を生じやすくする。そこで焼入れ性および焼戻し軟化抵抗の確保のために0.3%を下限とし、脆化が顕著となる1.0%を上限とした。

0022

特にC量0.75%以上と共析成分に近い場合にはCr量を抑制した方が粗大炭化物生成を抑制でき、強度とコイリング性を両立しやすい。一方、窒化処理を行う場合にはCrが添加されている方が窒化による硬化層を深くできる。従って0.3〜1.0%と規定した。

0023

Wは焼入れ性を向上させるとともに、鋼中で炭化物を生成し、強度を高める働きがある。従って極力添加する方が好ましい。Wの特徴は他の元素とは異なり、セメンタイトを含む炭化物の形状を微細にすることである。その添加量が0.05%未満では効果は見られず、0.3%超では粗大な炭化物を生じ、かえって延性などの機械的性質を損なう恐れがあるのでWの添加量を0.05〜0.3%とした。

0024

MoおよびVは鋼中で窒化物、炭化物、炭窒化物として析出する。従ってこれらの元素を1種または2種を添加すれば、これら析出物を生成し、焼戻し軟化抵抗を得ることができ、高温での焼戻しや工程で入れられる歪取り焼鈍や窒化などの熱処理を経ても軟化せず高強度を発揮させることができる。このことは窒化後のばね内部硬度の低下を抑制したり、ホットセッチングや歪取り焼鈍を容易にするため、最終的なばねの疲労特性を向上させることとなる。しかしMoおよびVは添加量が多すぎると、それらの析出物が大きくなりすぎ、鋼中炭素と結びついて粗大炭化物を生成する。このことは鋼線の高強度化に寄与すべきC量を減少させ、添加したC量相当の強度が得られなくなる。さらに粗大炭化物が応力集中源となるためコイリング中の変形で折損しやすくなる。

0025

Moは0.05〜0.2%を添加することで焼入れ性を向上させるとともに、焼戻し軟化抵抗を与えることができる。すなわち強度を制御する際の焼戻し温度を高温化させることができる。この点は粒界炭化物の粒界占有面積率を低下させるのに有利である。すなわちフィルム状に析出する粒界炭化物を高温で焼戻すことで球状化させ、粒界面積率を低減することに効果がある。またMoは鋼中ではセメンタイトとは別にMo系炭化物を生成する。特にV等に比べその析出温度が低いので炭化物の粗大化を抑制する効果がある。その添加量は0.05%未満では効果が認められない。ただしその添加量が多いと、圧延や伸線前の軟化熱処理などで過冷組織を生じやすく、割れや伸線時の断線の原因となりやすい。すなわち、伸線時にはあらかじめ鋼材をパテンチング処理によってフェライトパーライト組織としてから伸線することが好ましい。しかし、Moが0.2%を超えると、パーライト変態終了までの時間が長くなり、通常のパテンチング設備ではパーライト変態を終了させることがで疵、鋼材中不可避的なミクロ偏析部にマルテンサイトの生成を招く。このマルテンサイトは、伸線時に断線の原因になったり、断線せず、内部クラックとして存在した場合には、最終製品の特性を大きく劣化させる。そのためこのマルテンサイト組織の生成を抑制し、工業的に安定して圧延、伸線が容易な0.2%を上限とした。

0026

また、Vについては窒化物、炭化物、炭窒化物の生成によるオーステナイト粒径の粗大化抑制のほかに焼戻し温度での鋼線の硬化や窒化時の表層の硬化に利用することもできる。その添加量は0.05%未満では添加した効果がほとんど認められない。また多量添加は粗大な未固溶介在物を生成し、靭性を低下させるとともに、Moと同様、過冷組織を生じやすく、割れや伸線時の断線の原因となりやすい。そのため工業的に安定した取り扱いが容易な0.2%を上限とした。

0027

炭化物規定に関して説明する。強度と加工性の両立には鋼中の炭化物の形態が重要になってくる。ここでいう鋼中炭化物とは鋼中に熱処理後に鋼中に認められるセメンタイトおよびそれに合金元素の固溶した炭化物、(以後、両者を総じてセメンタイトと記す)およびNb、V、Ti等の合金元素の炭化物および炭窒化物のことである。これら炭化物は鋼線を鏡面研磨し、エッチングすることで観察することができる。

0028

図1に典型的な観察例を示す。これによると鋼中には針状と球状の2種の炭化物が認められる。一般に鋼は焼入れによって、マルテンサイトの針状組織を形成し、焼戻しによって炭化物を生成させることで強度と靭性を両立させることが知られている。しかし本発明では図1にあるように必ずしも針状組織だけではなく、球状炭化物1も多く残留していることに注目し、この球状の炭化物の分布がばね用鋼線の性能に大きく影響することを見出した。この球状の炭化物はオイルテンパー処理や高周波処理による焼入れ焼戻しにおいて、十分に固溶されず、焼入れ焼戻し工程で球状化かつ成長または縮小した炭化物と考えられる。この寸法の炭化物は焼入れ焼戻しによる強度と靭性には全く寄与しない。そのため、鋼中Cを固定して単に添加Cを浪費しているだけでなく、応力集中源にもなるため、鋼線の機械的性質を低下させる要因となることを見出した。

0029

本材料のように鋼を焼入れ焼戻ししてから冷間コイリングする場合、炭化物がそのコイリング特性、すなわち破断までの曲げ特性に影響する。これまで高強度を得るためにCだけでなく、Cr、V等の合金元素を多量に添加することが一般的であったが、強度が高すぎて、変形能が不足し、コイリング特性を劣化させる弊害があった。その原因は鋼中に析出している粗大な炭化物が考えられる。

0030

図2(a)および(b)にSEMに取り付けたEDXによる解析例を示す。この結果は透過電子顕微鏡でのレプリカ法でも同様の解析結果が得られる。従来の発明はV、Nb等の合金元素系の炭化物だけに注目しており、その一例が図2(a)であり、炭化物中にFeピークが非常に小さいことが特徴である。しかし本発明では従来の合金元素系炭化物だけでなく、図2(b)に示すように、円相当径3μm以下のFe3Cとそれに合金元素がわずかに固溶した、いわゆるセメンタイト系炭化物析出形態が重要であることを見出した。本発明のように従来鋼線以上の高強度と加工性の両立を達成する場合には3μm以下のセメンタイト系球状炭化物が多いと、加工性が大きく損なわれる。以後、このように球状かつ図2(b)に示したようなFeとCを主成分とする炭化物をセメンタイト系炭化物と記す。

0031

これらの鋼中炭化物は鏡面研磨したサンプルにピクラールなどのエッチングを施すことで観察可能であるが、その寸法などの詳細な観察評価には走査型電子顕微鏡により3000倍以上の高倍率で観察する必要があり、ここで対象とするセメンタイト系球状炭化物は円相当径0.2〜3μmである。通常、鋼中炭化物は鋼の強度、焼戻し軟化抵抗を確保する上で不可欠ではあるが、その有効な粒径は0.1μm以下で、逆に1μmを超えるとむしろ強度やオーステナイト粒径微細化への貢献はなく、単に変形特性を劣化させるだけである。しかし、従来技術ではこの重要性がそれほど認識されず、V、Nbなどの合金系炭化物にのみ注目し、円相当径3μm以下の炭化物、特にセメンタイト系球状炭化物は無害と考えられ、本発明で主に対象としている0.1〜5μm程度の炭化物に関しては検討された例は見当たらない。

0032

また本発明で対象としている3μm以下のセメンタイト系球状炭化物の場合には寸法だけでなく、数も大きな要因となる。従ってその両者を考慮して本発明範囲を規定した。すなわち円相当径の平均粒径で0.2〜3μmと小さくとも、その数が非常に多く、検鏡面における存在密度が1個/μm2を超えるとコイリング特性の劣化が顕著になるのでこれを上限とする。

0033

さらに炭化物の寸法が3μmを超えると寸法の影響がより大きくなるため、検鏡面における存在密度が0.001個/μm2を超えるとコイリング特性の劣化が顕著になる。従って炭化物円相当径3μm超の炭化物の検鏡面における存在密度0.001個/μm2を上限とし、本発明の範囲をそれ以下とした。

0034

またセメンタイト系球状炭化物の寸法に関わらず、その検鏡面における占有面積が7%を超えるとコイリング特性の劣化が顕著になり、コイリングできなくなる。そこで本発明では検鏡面における占有面積を7%以下と規定した。

0035

一方、旧オーステナイト粒径は炭化物と並んで鋼線の基本的性質に大きな影響をもつ。すなわち、旧オーステナイト粒径が小さい方が疲労特性やコイリング性に優れる。しかし、いくらオーステナイト粒径が小さくとも上記炭化物が規定以上に多く含まれていると、その効果は少ない。一般にオーステナイト粒径を小さくするには加熱温度を低くすることが有効であるが、そのことは逆に上記炭化物を増加させることになる。従って炭化物量と旧オーステナイト粒径のバランスのとれた鋼線に仕上げることが重要である。ここで炭化物が上記規定を満たしている場合について旧オーステナイト粒径番号が10番未満であると十分な疲労特性を得られれないので旧オーステナイト粒径番号10番以上と規定した。

0036

残留オーステナイトは偏析部や旧オーステナイト粒界付近に残留することが多い。残留オーステナイトは加工誘起変態によってマルテンサイトとなるが、ばね成形時に誘起変態すると材料に局部的な高硬度部が生成され、むしろばねとしてのコイリング特性を低下させることを見出した。また、最近のばねはショットピーニングセッチングなど塑性変形による表面強化をおこうが、このように塑性変形を加える工程を複数含む製造工程を有する場合、早い段階で生じた加工誘起マルテンサイト破壊歪を低下させ、加工性や使用中のばねの破壊特性を低下させる。また、打ち疵等の工業的に不可避の変形が導入された場合にもコイリング中に容易に折損する。従って、残留オーステナイトを極力低減し、加工誘起マルテンサイトの生成を抑制することで、加工性を向上させる。具体的には残留オーステナイト量が12%(質量%)を超えると、打ち疵などの感受性が高くなり、コイリングやその他取り扱いにおいて容易に折損するため、12%以下に制限した。

0037

特に本発明のようにC量0.75%以上のような場合、マルテンサイト生成温度(開始温度Ms点終了温度Mf点)が低温になると、焼入れ時にかなりの低温にしなければマルテンサイトを生成せず、残留オーステナイトが残留しやすい。工業的な焼入れでは水またはオイルが用いられるが、残留オーステナイトの抑制は高度な熱処理制御が必要となる。具体的には冷却冷媒を低温に維持したり、冷却後も極力低温を維持し、マルテンサイトへの変態時間を長く確保するなどの制御が必要となる。工業的には連続ラインで処理されるため、冷却冷媒の温度は容易に100℃近くまで上昇するが、60℃以下に維持することが好ましい。

0038

また合金元素系炭化物等を含む全炭化物の最大炭化物および最大酸化物の粒径はともに15μmを超えると疲労特性を低下させるため、これを15μmを上限として制限した。

0039

一般にばね鋼は連続鋳造後ビレット圧延、線材圧延を経て伸線され、冷間コイリングばねではオイルテンパー処理や高周波処理によって強度を付与する。セメンタイト系球状炭化物を抑制するにはオイルテンパー処理や高周波処理などの鋼線の強度を決定する最終熱処理だけでなく、伸線に先立つ圧延時にも注意払う必要がある。すなわちセメンタイト系球状炭化物は圧延などでの未溶解のセメンタイトや合金炭化物が核となって成長したと考えられることから、圧延などの各加熱工程において十分成分を固溶させることが重要である。本発明では圧延においても十分に高揚できる高温に加熱して圧延し、伸線に供することが重要である。

0040

表1にφ4mmで処理した場合の本発明と比較鋼の化学成分、円相当径0.2μm以上のセメンタイト系球状炭化物占有面積率、円相当径0.2〜3μmのセメンタイト系球状炭化物存在密度、円相当径3μm超のセメンタイト系球状炭化物存在密度、最大炭化物径および最大酸化物径、旧オーステナイト粒度番号、残留オーステナイト量(質量%)、引張強度、コイリング特性(ノッチ曲げ角度)および平均疲労強度を示す。

0041

本発明の発明例1は250t転炉によって精錬したものを連続鋳造によってビレットを作成した。またその他の実施例は2t−真空溶解炉で溶製後、圧延によってビレットを作成した。その際、発明例では1200℃以上の高温に一定時間保定した。その後いずれの場合もビレットからφ8mmに圧延し、伸線によってφ4mmとした。一方、比較例は通常の圧延条件で圧延され伸線に供した。

0042

化学成分によって炭化物量、強度は異なってくるが、本発明については引張強度2100MPa程度かつ請求項に示す規定を満たすように化学成分にあわせて熱処理した。一方、比較例に関しては単に引張強度をあわせるように熱処理した。

0043

焼入れ焼戻し処理(オイルテンパー処理)では伸線材を連続的に加熱炉を通過させ、鋼内部温度が十分に加熱されるよう、加熱炉通過時間を設定した。本実施例ではでは加熱温度950℃、加熱時間150sec、焼入れ温度50℃(オイル槽)とした。さらに焼戻し温度400〜500℃、焼戻し時間1minで焼戻し、強度を調整した。その結果得られた大気雰囲気での引張強度は表1中に明記したとおりである。

0044

0045

得られた鋼線はそのまま炭化物の評価、引張特性、ノッチ曲げ試験に供した。一方、疲労特性評価に関しては表面にばね製作時の歪取り焼鈍を模した熱処理400℃×20minを施したのち、ショットピーニング処理カットワイヤーφ0.6mm×20min)を行い、さらに低温歪取り180℃×20minを施して疲労試験片とした。

0046

炭化物の寸法および数の評価は熱処理ままの鋼線の長手方向断面に鏡面まで研磨し、さらにピクリン酸によってわずかにエッチングして炭化物を浮き出させた。光学顕微鏡ベルでは炭化物の寸法測定は困難なため、鋼線の1/2R部を走査型電子顕微鏡で倍率×5000倍にて無作為に10視野写真撮影した。走査型電子顕微鏡に取り付けたX線マイクロアナライザーにてその球状炭化物がセメンタイト系球状炭化物であることを確認しつつ、その写真から球状炭化物を画像処理装置を用いて2値化することで、その寸法、数、占有面積を測定した。全測定面積は3088.8μm2ある。

0047

残留オーステナイトの測定は、直流磁化装置によって発生させたサンプルの磁束密度を測定し、磁束密度を残留オーステナイト量に換算して求めた。換算にはあらかじめ磁束密度と残留オーステナイト量の関係を求めておいた校正曲線を用いた。

0048

引張特性はJIS Z 2201 9号試験片によりJIS Z 2241に準拠して行い、その破断荷重から引張強度を算出した。

0049

ノッチ曲げ試験の概要図3(a)および(b)に示す。ノッチ曲げ試験は以下のような手順で行った。先端半径50μmのポンチによって鋼線の長手方向に直角に最大深さ30μmの溝(ノッチ)を付け、図3(a)に示すように、その溝部に最大引応力負荷させるように荷重2により3点曲げ変形を加えた。ノッチ部から破断するまで曲げ変形を加え続け、図3(b)に示すように、破断時の曲げ角度を測定した。測定角度3は、図3(b)に示すとおりで、角度が大きいほどコイリング特性が良好である。経験的にはφ4mmの鋼線においてノッチ曲げ角度25°以下ではコイリングは困難である。

0050

疲労試験は中回転曲げ疲労試験であり、10本のサンプルが50%以上の確率で107サイクル以上の寿命を示す最大負荷応力を平均疲労強度とした。

0051

表1に示すとおり、φ4mmの鋼線に関しては化学成分が規定範囲外であると炭化物の制御が困難になり、コイリング性の指標となるノッチ曲げ試験における曲げ角度が小さくコイリング特性が劣ったり、中村式回転曲げ疲労強度が劣る。また化学成分が規定範囲内であっても事前焼鈍による炭化物の安定化や焼入れ時の加熱不足による未固溶炭化物の残留、焼入れの冷却不足など、熱処理条件の不備により最大酸化物径や旧オーステナイト粒径が本規定範囲外にある比較材もコイリング特性あるいは疲労特性が劣る。一方、炭化物に関する規定を満たしても強度が不足していると疲労強度が不足し、高強度ばねには使用できない。

発明の効果

0052

本発明鋼線は、冷間コイリングばね用鋼線中のセメンタイトを含む球状炭化物の占有面積率、存在密度、オーステナイト粒径、残留オーステナイト量を小さくすることで、強度を2000MPa以上に高強度化するとともに、コイリング性を確保し高強度かつ破壊特性に優れたばねを製造可能になる。

図面の簡単な説明

0053

図1鋼の焼入れ焼戻し組織を示す顕微鏡写真である。
図2球状炭化物分析例を示す図で、(a)は合金系球状炭化物、(b)はセメンタイト系球状炭化物の分析例を示す図である。
図3ノッチ曲げ試験方法の概要を示す図で、(a)は荷重前、(b)荷重後を示す図である。

--

0054

1球状炭化物
2荷重
3 測定角度

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