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図面 (9)

解決手段

ストロー内において、内部に哺乳動物胚を有するガラス化保存液層と希釈液層とを隣接して設けるとともに、その両端部に空気層を配してなること、を特徴とするストロー内希釈型の哺乳動物胚ガラス化保存ストロー。ガラス化保存液としては、40%エチレングリコール、18%フィコール、0.3Mシュークロースを添加したPB1液(EFS40)が好適である。

効果

液体窒素中に保存した本ストローを、温水にごく短時間浸漬、融解するだけで、細胞傷害が小さく、高い生存性を保った哺乳動物胚を容易に得ることができ、胚移植実験等に活用できる。

概要

背景

優良形質をもった動物を増産するために、雌の生殖器から回収した受精卵)や体外受精によって作製した胚をレシピエント(受動物)に移植して子畜を得る、胚移植技術が普及してきた。胚は、レシピエントの性周期に応じた時期に移植する必要があるため、生存率を低下させずに胚を凍結保存する技術は不可欠である。現在、牛胚マウス胚では、−30℃前後までを毎分−0.3〜−0.5℃の極めて緩慢な速度で冷却したのち液体窒素投入して保存する緩慢凍結法が広く用いられている。

しかしこの緩慢凍結法では、細胞外氷晶由来する物理的障害を完全に回避することはできない。融解後の胚にはしばしば物理的な亀裂が見られ、フラクチャ傷害と呼ばれている。ウシ胚においても見られるが(29%、Lehn-Jensenand Rall,1983)、特にウサギ胚においては重要で、ムチン層透明帯の物理的傷害は、50%に達することもあり(Landa,1982)、着床前後の発育にとって致命的なことが知られている。凍結融解ウサギ胚の移植後の発育率(胎仔数/移植胚数)は23〜48%であった(Tsunoda et al., 1982; Kojima et al., 1990)。従って、生存性の面から現在のレベル以上の大きな改善は望めない。さらに、植と緩慢冷却に手間と時間を要し、温度制御に高価な機器を必要とするなどのデメリットもあり、より簡易な胚の保存方法が求められてきた。

近年、究極的な簡便法として開発されたのが、ガラス化法(Rall & Fahy,1985,Nature 313, 573-576)である。EFS40(ガラス化保存液、後述)によるウサギ胚のガラス化保存では、透明帯の傷害率はわずか3.6%(13/361)であり、保存胚の92%を移植して、移植胚の65%が末期の胎仔まで発育するなど、移植後の発育率も極めて高い(Kasai et al., 1992)。また、最近マウス胚を使用した実験で、ガラス化法ではフラクチャー傷害を完全に防止しうることも明らかにされている(Kasai et al., 1996)。

ガラス化の原理は、次の通りである。水溶液グリセロールエチレングリコールなどの耐凍剤を多量に加えると、溶液凝固点が低下し、氷点下でも氷晶ができにくくなる。この溶液を急速に液体窒素中に冷却すると、氷晶を生じさせないまま固体化させることができる。これは、本来の凝固点を速く通過するために過冷却が生じ、水分が結晶化することなくガラス状の固体になるもので、ガラス化と呼ぶ。ガラス化した固体を加温すると、−130℃付近で液状に戻るが、耐凍剤の濃度が十分高くない場合には、本来の凝固点付近(通常−60〜−40℃)で氷晶が生じる可能性がある。加温時に、ガラス化していた溶液に氷晶が生じる現象を脱ガラス化と呼ぶ。脱ガラス化は、氷晶が細胞外だけに留まっていれば、細胞の生存にとって悪影響を与えないと考えられるが、細胞外の氷晶によって細胞内が植氷され、細胞内に氷晶形成を引き起こす可能性が高まる。細胞内の氷晶形成は細胞の死滅につながる。

ガラス化法を用いると、細胞内外とも氷晶がないために物理的障害を完全に回避することが可能である。しかも、サンプルを室温から直接液窒素に浸して保存できるために、温度制御のための機器は必要なく、冷却に要する時間もわずか数秒間である。ガラス化法を用いた実験動物胚の超低温保存では、生存率が極めて高く維持される条件が明らかにされており(Kasai et al, 1990, J. Reprod.Fertil. 89, 91-97)、家畜胚においてもその有効性は確認されている(Tachikawa et al., 1993, Mol. Reprod. Dev. 34, 266-271)。

ガラス化法の唯一の問題点は、保存液に含まれる極めて高濃度保護物質(耐凍剤)による化学的毒性である。これを避けるために、融解後はただちに保存液を希釈することが必要である。

現在、家畜の胚移植では、ウシの胚移植が最も普及している。ウシ胚は、細型ストロー充填して液体窒素中に保存するのが一般的である。現在普及している緩慢凍結法で保存した胚を移植する場合、ストロー中の保存液の毒性が低いため、融解後ストローから胚を取り出さず、そのままレシピエント雌牛子宮注入する方法(直接移植法;ダイレクトトランスファー)が可能である。従って、人工授精における精液と同様に、庭先での直接移植が一般に行われている。一方ガラス化法で保存した胚(ガラス化保存胚)を移植する場合は、保存液の毒性が強いため、ストロー内で融解した胚を一旦ストローから取り出して、保存液を希釈し、胚の中に浸透している耐凍剤を除去しなければならない。そして再度胚を移植用のストローに充填し直すことになるが、この時の胚の操作には顕微鏡等が必要であり、庭先での作業は困難となる。従って、ガラス化保存胚の利用を実用的にする為には、ストロー内で保存液を希釈できるように工夫し、従来の緩慢凍結法の場合と同様に、庭先での直接移植が行えるようにする必要がある。

また、ウシガラス化保存胚の利用を普及させる為には、体外受精卵にも応用できることが必要となる。移植する時に用いる体外受精卵の発育段階は、一般に胚盤胞や拡大胚盤胞である。胞胚腔の拡大した胚盤胞期胚は、ガラス化処理する場合に胞胚腔内への耐凍剤の透過と濃縮が不十分となり、8細胞期胚初期胚盤胞に比べてこれまで相対的に生存性が低くなると見られた。胚盤胞期の胚に対し最も安定して高い生存率の得られる方法として、2段階ガラス化法(Zhu et al.,J. Reprod. Fertil., 98, 139-145)が挙げられる。彼らは、エチレングリコール濃度の低い溶液で胚を事前平衡処理(前処理)したのちガラス化溶液に移すことによって、胞胚腔の拡大した胚盤胞を効率的にガラス化しうることを示した。しかし、彼らの方法は、融解後に胚をストロー外に取り出して融解・希釈することを前提としている。

したがって、ガラス化法を実用化し、普及させる為には、胚盤胞期の胚でも安定して高い生存率が得られ、しかもストロー内希釈ができる新しい技術の開発が必要である。

ストロー内希釈を行うための手法については、従来の緩慢凍結法やガラス化法を含めて既にいくつか報告されており、『振とう法』または『重層法』が挙げられる。

『振とう法』:従来の緩慢凍結法においては、ウシ胚のストロー内希釈法が報告されている(Leibo, 1983, Cryo-Lett., 4, 387-400)。これは、ストロー内に、保存液と希釈液空気層を介して配置し、体温計を振る要領で両液を混合させて希釈するものである。ガラス化保存胚においても、同様の試みが報告されている(Wurthe et al., 1994, Theriogenology 42, 1275-1284; Vajta et al., 1995, Vet. Rec, 137, 672; Leeuw et al., 1995, Cryobiology 32, 157-167)。しかし、ガラス化法では、保存液の粘度が高いために両液層が必ずしもスムーズに混和するとは言えず、この振とう法は適していないと思われる。Wurthe et al.(1994)の報告では、胚移植後の妊娠率は低く(24%、20/85)、またVajta et al. (1995)は、胚移植実験を行っていない。

『重層法』:比重の大きい保存液と比重の小さい希釈液を、ストロー内で空気層を介さずに縦向きに重層して配置すれば、希釈時にストローの向きを逆にすると、比重の差により、重い保存液が軽い希釈液の中を下降していく。ガラス化保存胚にも、この原理を利用して両液を混合させる方法が提案されている(Ishimoriet al., 1993, Theriogenology 39, 238; Kuwayama et al., 1994, Cryobiology 31, 609-610)。しかし、先に述べた様に、胚盤胞期の胚を安定してガラス化保存する為には、2段階ガラス化法で胚をガラス化処理する必要がある。しかし、彼等が使用した耐凍剤濃度の低い溶液で前処理した胚を、ガラス化保存液に導入し、その上に希釈液を重層する重層法を用いた場合、基本的に以下の様に問題点がある。

◎ガラス化保存液の比重は、前処理に用いた耐凍剤濃度の低い溶液(前処理液)に比べかなり重く、胚を前処理後にガラス化保存液に導入すると浮上してしまう。従って、ガラス化保存液の上に希釈液を重層させた場合、胚が希釈液側に移動してしまい、胚の脱ガラス化が起こる危険性が高くなる。
◎ストローを室温の水中に浸して希釈する時、希釈液内に比較的大きな気泡が発生しやすい。気泡が発生して浮上し、ストロー内のガラス化保存液の付近で結集すると、気泡が塞ぐ形になり、ガラス化保存液の下降が中断され、希釈できない。
◎ ストローを横向きに置いて操作した場合、重層したガラス化保存液と希釈液が、比重の差により両液の境界面が崩れてしまう。従って、重層法では縦向きの操作が必要だが、この場合、重層と封入に時間を要し、その間に毒性の影響を受けてしまう。

Ishimori et al., (1993)の方法は、2段階ガラス化法と重層法を組み合わせているが、未だ充分ではなく、以下の様な問題点が挙げられる。
◎ −20〜−25℃に冷却したガラス化保存液に胚を注入する方法なので、ガラス化保存液の粘性増し、操作がしにくく不確実となる。また、ガラス化保存液の温度制御に高度な機器を必要としている。
◎ ガラス化保存液の粘性が強い為、胚をストロー内からウシ体内に排出する時に、胚がガラス化保存液に取り込まれ、ストロー内に付着して残る可能性が若干ある。そこで、胚を確実に移植する為には、胚がストロー先端近くに位置していることが好ましいが、この方法では、希釈によって反対側の綿栓側に移動することになる。

Kuwayama et al. (1994)の方法も、簡易な方法で2段階ガラス化法と重層法を組み合わせて、成果も挙げているが、この方法も未だ充分なものではなく、以下の様な問題点が挙げられる。
◎希釈後の胚のストロー内での位置については、Ishimori et al.と同様の問題が残る。
◎希釈液の材料に卵黄を用いており、個々の卵黄の質の差による希釈液の質のばらつき、および希釈液の保存性に問題がある。

◎ストロー内でのガラス化保存液のカラム円柱状の層)の作成方法は、希釈液と連続した吸引による方法を用いている。この方法は、希釈液とガラス化保存液が接する部分で若干両液の混合が起きるため、ガラス化保存液の濃度を維持するためには、ガラス化保存液のカラムの長さは10mm程度は必要となり、ガラス化保存液の量が多くなってしまう。ストロー内希釈を行う際、ガラス化保存液の融解後の希釈倍率を高めるためには、ガラス化保存液は量が少ない事が望ましい。実際には、ガラス化保存液は希釈液にそれほど容易に混合はしないため、融解後、ガラス化保存液はストローの下部に下降して沈殿し、胚は希釈液中に止まって浮遊していることが多いが、その場合も、ガラス化保存液が量が多いと、胚がガラス化保存液の中から脱出できない確率が高くなる。また、胚をストローから家畜等に移植する場合、ストローを平行に戻して作業する時、あるいは、胚がストローから子宮内に排出された時に、再度ガラス化保存液が胚に接触する可能性もあるので、やはりガラス化保存液の量は少ない方が良い。
透過性耐凍剤濃度が低く(30%エチレングリコールまたは30%グリセロールを使用)、脱ガラス化しやすい保存液を用いており、希釈液と保存液が接する重層法では細胞内外の氷晶が生じやすい。
◎ 前処理に5分間を要しており、多数の胚をガラス化処理する場合は、長時間を必要とする。

以上述べたように、いずれも充分に満足できるものではなく、更に大幅な改良、修正が要求される。

概要

ストロー内において、内部に哺乳動物胚を有するガラス化保存液層と希釈液層とを隣接して設けるとともに、その両端部に空気層を配してなること、を特徴とするストロー内希釈型の哺乳動物胚ガラス化保存ストロー。ガラス化保存液としては、40%エチレングリコール、18%フィコール、0.3Mシュークロースを添加したPB1液(EFS40)が好適である。

液体窒素中に保存した本ストローを、温水にごく短時間浸漬、融解するだけで、細胞の傷害が小さく、高い生存性を保った哺乳動物胚を容易に得ることができ、胚移植、実験等に活用できる。

目的

効果

実績

技術文献被引用数
4件
牽制数
7件

この技術が所属する分野

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請求項1

ストロー内において、内部に哺乳動物胚を有するガラス化保存液層と希釈液層とを隣接して設けるとともにその両端部に空気層を配してなること、を特徴とする哺乳動物胚ガラス化保存用ストロー。

請求項2

更に、液体で浸した綿栓側から短い空気層を隔てた箇所にガラス化保存液層を設けること、を特徴とする請求項1に記載のストロー。

請求項3

ガラス化保存液が、細胞透過性耐凍剤、細胞非透過性ガラス化物質、及び、細胞非透過性脱水促進物質を含有するものであること、を特徴とする請求項1又は2に記載のストロー。

請求項4

細胞透過性耐凍剤がエチレングリコールプロピレングリコールグリセロールプロパンジオール、1,3−ブタンジオール、及び/又は、ジメチルスルホキシドであり;細胞非透過性易ガラス化物質がフィコールパーコールウシ血清アルブミンポリビニールピロリドン、及び/又は、ポリエチレングリコールであり;細胞非透過性脱水促進物質がシュークロースガラクトーストレハロース、及び/又は、グルコースであること、を特徴とする請求項3に記載のストロー。

請求項5

ガラス化保存液が、エチレングリコール、フィコール、シュークロースを含有するEFS液であること、を特徴とする請求項3又は4に記載のストロー。

請求項6

ストロー内に希釈液を吸引して移動させ、綿栓部を塞ぎ;該希釈液から空気層を隔てた個所にガラス化保存液を注入してガラス化保存液のカラムを作成し;前処理した哺乳動物胚を、少量の前処理液とともに、ストロー内のガラス化保存液のカラムの中に注入し;ストローを綿栓部を下にして縦方向正立させ、氷水中に浸し;ガラス化保存液のカラム上に希釈液を直接重層し;空気層を介してストローの先端をシールする;ことを特徴とする哺乳動物胚ガラス化保存用ストローの作成方法

請求項7

更に、ストローを、液体窒素ガスにて冷却し、液体窒素にて保存することを特徴とする請求項6に記載の方法。

請求項8

請求項1〜5に記載のストローを液体窒素から取り出し、綿栓部を上にして縦方向に正立させてその一部を温水中に保持してシール側の希釈液の下方端部を融解した後、ストロー全体を温水中に保持すること、を特徴とする哺乳動物におけるガラス化保存のストロー内希釈法

技術分野

0001

本発明は、ストロー希釈型の哺乳動物胚ガラス化保存ストローに関するものであり、本発明はの保存、融解及び移植に広く利用することができるものである。

背景技術

0002

優良形質をもった動物を増産するために、雌の生殖器から回収した受精卵(胚)や体外受精によって作製した胚をレシピエント(受動物)に移植して子畜を得る、胚移植技術が普及してきた。胚は、レシピエントの性周期に応じた時期に移植する必要があるため、生存率を低下させずに胚を凍結保存する技術は不可欠である。現在、牛胚マウス胚では、−30℃前後までを毎分−0.3〜−0.5℃の極めて緩慢な速度で冷却したのち液体窒素投入して保存する緩慢凍結法が広く用いられている。

0003

しかしこの緩慢凍結法では、細胞外氷晶由来する物理的障害を完全に回避することはできない。融解後の胚にはしばしば物理的な亀裂が見られ、フラクチャ傷害と呼ばれている。ウシ胚においても見られるが(29%、Lehn-Jensenand Rall,1983)、特にウサギ胚においては重要で、ムチン層透明帯の物理的傷害は、50%に達することもあり(Landa,1982)、着床前後の発育にとって致命的なことが知られている。凍結融解ウサギ胚の移植後の発育率(胎仔数/移植胚数)は23〜48%であった(Tsunoda et al., 1982; Kojima et al., 1990)。従って、生存性の面から現在のレベル以上の大きな改善は望めない。さらに、植と緩慢冷却に手間と時間を要し、温度制御に高価な機器を必要とするなどのデメリットもあり、より簡易な胚の保存方法が求められてきた。

0004

近年、究極的な簡便法として開発されたのが、ガラス化法(Rall & Fahy,1985,Nature 313, 573-576)である。EFS40(ガラス化保存液、後述)によるウサギ胚のガラス化保存では、透明帯の傷害率はわずか3.6%(13/361)であり、保存胚の92%を移植して、移植胚の65%が末期の胎仔まで発育するなど、移植後の発育率も極めて高い(Kasai et al., 1992)。また、最近マウス胚を使用した実験で、ガラス化法ではフラクチャー傷害を完全に防止しうることも明らかにされている(Kasai et al., 1996)。

0005

ガラス化の原理は、次の通りである。水溶液グリセロールエチレングリコールなどの耐凍剤を多量に加えると、溶液凝固点が低下し、氷点下でも氷晶ができにくくなる。この溶液を急速に液体窒素中に冷却すると、氷晶を生じさせないまま固体化させることができる。これは、本来の凝固点を速く通過するために過冷却が生じ、水分が結晶化することなくガラス状の固体になるもので、ガラス化と呼ぶ。ガラス化した固体を加温すると、−130℃付近で液状に戻るが、耐凍剤の濃度が十分高くない場合には、本来の凝固点付近(通常−60〜−40℃)で氷晶が生じる可能性がある。加温時に、ガラス化していた溶液に氷晶が生じる現象を脱ガラス化と呼ぶ。脱ガラス化は、氷晶が細胞外だけに留まっていれば、細胞の生存にとって悪影響を与えないと考えられるが、細胞外の氷晶によって細胞内が植氷され、細胞内に氷晶形成を引き起こす可能性が高まる。細胞内の氷晶形成は細胞の死滅につながる。

0006

ガラス化法を用いると、細胞内外とも氷晶がないために物理的障害を完全に回避することが可能である。しかも、サンプルを室温から直接液窒素に浸して保存できるために、温度制御のための機器は必要なく、冷却に要する時間もわずか数秒間である。ガラス化法を用いた実験動物胚の超低温保存では、生存率が極めて高く維持される条件が明らかにされており(Kasai et al, 1990, J. Reprod.Fertil. 89, 91-97)、家畜胚においてもその有効性は確認されている(Tachikawa et al., 1993, Mol. Reprod. Dev. 34, 266-271)。

0007

ガラス化法の唯一の問題点は、保存液に含まれる極めて高濃度保護物質(耐凍剤)による化学的毒性である。これを避けるために、融解後はただちに保存液を希釈することが必要である。

0008

現在、家畜の胚移植では、ウシの胚移植が最も普及している。ウシ胚は、細型ストローに充填して液体窒素中に保存するのが一般的である。現在普及している緩慢凍結法で保存した胚を移植する場合、ストロー中の保存液の毒性が低いため、融解後ストローから胚を取り出さず、そのままレシピエント雌牛子宮注入する方法(直接移植法;ダイレクトトランスファー)が可能である。従って、人工授精における精液と同様に、庭先での直接移植が一般に行われている。一方ガラス化法で保存した胚(ガラス化保存胚)を移植する場合は、保存液の毒性が強いため、ストロー内で融解した胚を一旦ストローから取り出して、保存液を希釈し、胚の中に浸透している耐凍剤を除去しなければならない。そして再度胚を移植用のストローに充填し直すことになるが、この時の胚の操作には顕微鏡等が必要であり、庭先での作業は困難となる。従って、ガラス化保存胚の利用を実用的にする為には、ストロー内で保存液を希釈できるように工夫し、従来の緩慢凍結法の場合と同様に、庭先での直接移植が行えるようにする必要がある。

0009

また、ウシガラス化保存胚の利用を普及させる為には、体外受精卵にも応用できることが必要となる。移植する時に用いる体外受精卵の発育段階は、一般に胚盤胞や拡大胚盤胞である。胞胚腔の拡大した胚盤胞期胚は、ガラス化処理する場合に胞胚腔内への耐凍剤の透過と濃縮が不十分となり、8細胞期胚初期胚盤胞に比べてこれまで相対的に生存性が低くなると見られた。胚盤胞期の胚に対し最も安定して高い生存率の得られる方法として、2段階ガラス化法(Zhu et al.,J. Reprod. Fertil., 98, 139-145)が挙げられる。彼らは、エチレングリコール濃度の低い溶液で胚を事前平衡処理(前処理)したのちガラス化溶液に移すことによって、胞胚腔の拡大した胚盤胞を効率的にガラス化しうることを示した。しかし、彼らの方法は、融解後に胚をストロー外に取り出して融解・希釈することを前提としている。

0010

したがって、ガラス化法を実用化し、普及させる為には、胚盤胞期の胚でも安定して高い生存率が得られ、しかもストロー内希釈ができる新しい技術の開発が必要である。

0011

ストロー内希釈を行うための手法については、従来の緩慢凍結法やガラス化法を含めて既にいくつか報告されており、『振とう法』または『重層法』が挙げられる。

0012

『振とう法』:従来の緩慢凍結法においては、ウシ胚のストロー内希釈法が報告されている(Leibo, 1983, Cryo-Lett., 4, 387-400)。これは、ストロー内に、保存液と希釈液空気層を介して配置し、体温計を振る要領で両液を混合させて希釈するものである。ガラス化保存胚においても、同様の試みが報告されている(Wurthe et al., 1994, Theriogenology 42, 1275-1284; Vajta et al., 1995, Vet. Rec, 137, 672; Leeuw et al., 1995, Cryobiology 32, 157-167)。しかし、ガラス化法では、保存液の粘度が高いために両液層が必ずしもスムーズに混和するとは言えず、この振とう法は適していないと思われる。Wurthe et al.(1994)の報告では、胚移植後の妊娠率は低く(24%、20/85)、またVajta et al. (1995)は、胚移植実験を行っていない。

0013

『重層法』:比重の大きい保存液と比重の小さい希釈液を、ストロー内で空気層を介さずに縦向きに重層して配置すれば、希釈時にストローの向きを逆にすると、比重の差により、重い保存液が軽い希釈液の中を下降していく。ガラス化保存胚にも、この原理を利用して両液を混合させる方法が提案されている(Ishimoriet al., 1993, Theriogenology 39, 238; Kuwayama et al., 1994, Cryobiology 31, 609-610)。しかし、先に述べた様に、胚盤胞期の胚を安定してガラス化保存する為には、2段階ガラス化法で胚をガラス化処理する必要がある。しかし、彼等が使用した耐凍剤濃度の低い溶液で前処理した胚を、ガラス化保存液に導入し、その上に希釈液を重層する重層法を用いた場合、基本的に以下の様に問題点がある。

0014

◎ガラス化保存液の比重は、前処理に用いた耐凍剤濃度の低い溶液(前処理液)に比べかなり重く、胚を前処理後にガラス化保存液に導入すると浮上してしまう。従って、ガラス化保存液の上に希釈液を重層させた場合、胚が希釈液側に移動してしまい、胚の脱ガラス化が起こる危険性が高くなる。
◎ストローを室温の水中に浸して希釈する時、希釈液内に比較的大きな気泡が発生しやすい。気泡が発生して浮上し、ストロー内のガラス化保存液の付近で結集すると、気泡が塞ぐ形になり、ガラス化保存液の下降が中断され、希釈できない。
◎ ストローを横向きに置いて操作した場合、重層したガラス化保存液と希釈液が、比重の差により両液の境界面が崩れてしまう。従って、重層法では縦向きの操作が必要だが、この場合、重層と封入に時間を要し、その間に毒性の影響を受けてしまう。

0015

Ishimori et al., (1993)の方法は、2段階ガラス化法と重層法を組み合わせているが、未だ充分ではなく、以下の様な問題点が挙げられる。
◎ −20〜−25℃に冷却したガラス化保存液に胚を注入する方法なので、ガラス化保存液の粘性増し、操作がしにくく不確実となる。また、ガラス化保存液の温度制御に高度な機器を必要としている。
◎ ガラス化保存液の粘性が強い為、胚をストロー内からウシ体内に排出する時に、胚がガラス化保存液に取り込まれ、ストロー内に付着して残る可能性が若干ある。そこで、胚を確実に移植する為には、胚がストロー先端近くに位置していることが好ましいが、この方法では、希釈によって反対側の綿栓側に移動することになる。

0016

Kuwayama et al. (1994)の方法も、簡易な方法で2段階ガラス化法と重層法を組み合わせて、成果も挙げているが、この方法も未だ充分なものではなく、以下の様な問題点が挙げられる。
◎希釈後の胚のストロー内での位置については、Ishimori et al.と同様の問題が残る。
◎希釈液の材料に卵黄を用いており、個々の卵黄の質の差による希釈液の質のばらつき、および希釈液の保存性に問題がある。

0017

◎ストロー内でのガラス化保存液のカラム円柱状の層)の作成方法は、希釈液と連続した吸引による方法を用いている。この方法は、希釈液とガラス化保存液が接する部分で若干両液の混合が起きるため、ガラス化保存液の濃度を維持するためには、ガラス化保存液のカラムの長さは10mm程度は必要となり、ガラス化保存液の量が多くなってしまう。ストロー内希釈を行う際、ガラス化保存液の融解後の希釈倍率を高めるためには、ガラス化保存液は量が少ない事が望ましい。実際には、ガラス化保存液は希釈液にそれほど容易に混合はしないため、融解後、ガラス化保存液はストローの下部に下降して沈殿し、胚は希釈液中に止まって浮遊していることが多いが、その場合も、ガラス化保存液が量が多いと、胚がガラス化保存液の中から脱出できない確率が高くなる。また、胚をストローから家畜等に移植する場合、ストローを平行に戻して作業する時、あるいは、胚がストローから子宮内に排出された時に、再度ガラス化保存液が胚に接触する可能性もあるので、やはりガラス化保存液の量は少ない方が良い。
透過性耐凍剤濃度が低く(30%エチレングリコールまたは30%グリセロールを使用)、脱ガラス化しやすい保存液を用いており、希釈液と保存液が接する重層法では細胞内外の氷晶が生じやすい。
◎ 前処理に5分間を要しており、多数の胚をガラス化処理する場合は、長時間を必要とする。

0018

以上述べたように、いずれも充分に満足できるものではなく、更に大幅な改良、修正が要求される。

発明が解決しようとする課題

0019

本発明者らは、上記した当業界における技術の現状及び要望に鑑み、ガラス化保存法を実用化することを目的として、次のような技術課題を新たに設定した。

0020

ガラス化保存した胚が、融解・希釈後にストローの先端に位置する様にする。
希釈液の重層、シール熱処理によるストロー先端の封鎖)の操作は、縦向きに行う。
前処理を終えた胚をガラス化保存液内に導入した時、胚がガラス化保存液内を浮上して希釈液に接触する事を防ぎ、しかもストロー内のガラス化保存液は、少量に抑える様にする。
前処理の作業が確実に、能率よく短時間に行えるような前処理液を用いる。
胚のガラス化保存液への注入、希釈液の重層、シールまでの一連の作業を、胚がガラス化保存液の毒性の影響を受けない時間内に終える様にする。
胚を注入する時のガラス化保存液の温度は、操作を確実に行える室温とし、温度制御等の高度な機器を使用しない。
ストローを融解・希釈する段階で起こりやすい、希釈液内からの気泡の発生を抑制する。

課題を解決するための手段

0021

上記したように新たに設定した技術課題を一挙に解決するため、本発明者(西高知大学)は、各方面から鋭意研究の結果、従来既知の方法とは発想を全く異にする下記a)〜d)の手段からなる新しい方法により、上記した技術課題を一挙に解決できるとの有用な新知見を得た。

0022

a)ストロー内への溶液の導入における新しい重層配置方法の使用
スパイナル針、先を長く伸ばしたピペット等を用い、ストローの奥(綿栓側)にガラス化保存液のカラムを作り、その上に直接希釈液を重層する。
b)前処理液、ガラス化保存液の組成の改善
前処理液、ガラス化保存液に、Ficoll, Sucroseなどの細胞非透過性物質を高濃度に含む溶液を使用する。
c)耐凍剤の毒性を緩和できる処理過程での氷水の利用
胚をガラス化保存液で一定時間平衡させた後、氷水を利用してガラス化保存液の毒性を停止させ、残りの作業を行う。
d)気泡の発生を最小に抑える、ストローの冷却および融解方法
○冷却は、ストローを液体窒素ガスの中に数分間静置することにより行う。
○融解・希釈は、ストローを十数秒間室温の空気中で保持した後、一旦氷水中に浸し、その後室温水中に浸す。あるいは、ストローを数秒間室温の空気中で保持した後、綿栓を上にし、ストロー下部(シール部分)の空気層の部分と、希釈液の端部を数ミリ室温水中に数秒間浸し、希釈液の先端(空気層との境界)を液状とした後、ストロー全体を水中に浸す。

0023

この新知見を基に、そして他の発明者とも協力して、遂に本発明は完成されたものであって、本発明は、ストロー内において、内部に哺乳動物胚を1個又はそれ以上有するガラス化保存液層と希釈液層とを隣接して設けるとともにその両端部に空気層を配してなる基本構造からなるストローに関するものであり、実際の使用に当っては、液体窒素中に保存した本ストローを、温水にごく短時間浸漬、融解するだけで、ストロー内で希釈し終えた生存性の高い胚を確実に得ることができる。

0024

このように本発明に係るストローは、実験室内はもとより野外においても簡単に哺乳動物に対して使用することができ、しかも、融解したガラス化保存液によって胚がダメージを受けることがない。以下、本発明について詳しく述べる。

発明を実施するための最良の形態

0025

本発明に係わるストローを作成するには、先ず、対象哺乳動物に合わせて、常用されるプラスチック製の細管からなる人工授精用ストロー又は受精卵移植用ストローを用意する。ストローから希釈液を吸引して綿栓(プラグ)に密着させる。あるいは、希釈液をスパイナル針やピペットを用いて綿栓側に注入する。次いで、希釈液から間隔をあけて、ストローの奥(線栓側)にスパイナル針等を用いてガラス化保存液を注入する。

0026

このガラス化保存カラム内に、予め前処理液に浮遊、平衡しておいた胚を、長く伸ばしたパスツールピペット等を用いて注入する。この時、前処理液からストロー内の該カラム内に胚を移す前に、別途用意したガラス化保存液と同じ保存液内で胚をピペッティング処理すれば、胚の生存率は安定して高くなる。

0027

次いでストローを、綿栓部を下にして縦方向正立させ、氷水中に浸し、ガラス化保存液カラムの上に希釈液を静かに重層した後、空気層を介してストローの先端を熱シールする。得られたストローは、液体窒素ガス中に静置して冷却するが、この際、必らずしもストローを縦方向に正立させる必要はなく、適宜冷却処理すればよい。なお、冷却時に、ガラス化保存液カラム内に隣接する希釈液が円錐状に伸長凍結して両者の境界が不明瞭となる現象が生じてガラス化保存液中の胚がダメージを受ける危険性があるときには、綿栓側の希釈液の量を増量すればよい。

0028

このようにして作成した哺乳動物胚ガラス化保存ストローは、液体窒素からとりだした後、1分以内というごく短時間、空気中次いで氷水中に保存した後、温水に数分間浸すだけで、気泡の発生なしでストロー内希釈が行われる。あるいは、より簡易な融解・希釈方法として、ストローを液体窒素から取り出した後、数秒間室温の空気中で保持した後、綿栓を上にし、ストローの下部(シール部分)の空気層の部分と、希釈液の端部を数ミリ室温水中に数秒間浸し、希釈液に端部(空気層との境界)を液状とした後、ストロー全体を水中に数分間浸す、という方法でも、ストロー内希釈が行われる。希釈液の毒性は小さい為、希釈後は、胚をストロー内で保留させても、数分間は生存性に影響はない。従って、この間に、ストローの熱シール側の空気層の部分をカットして、綿栓側からストロー内部を押し出せば、生存性の高く保たれた胚が得られるので、胚移植あるいは実験等に利用すれば好適である。

0029

本発明において、哺乳動物としては、ウシ、ウマヤギ、メン、ウサギ、マウスラット等の家畜、実験動物のほか、哺乳動物であればすべてのものが包含される。そして、保存液に注入する胚の数も、1個に限定されることなく、2個以上注入することができる。

0030

本発明において使用するガラス化保存液は、細胞透過性耐凍剤、細胞非透過性易ガラス化物質、細胞非透過性脱水促進物質を含有するものである。細胞透過性耐凍剤としては、エチレングリコール、グリセロール、ジメチルスルホキサイドDMSO)、プロピレングリコールプロパンジオール、1,3−ブタンジオール等が一種又は二種以上使用される。細胞非透過性易ガラス化物質としては、フィコール(Ficoll)、パーコールポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニールピロリドンウシ血清アルブミンBSA)等が一種又は二種以上使用される。細胞非透過性脱水促進物質としては、シュークローストレハロースグルコースガラクトース等が一種又は二種以上使用される。

0031

ガラス化保存液の好適例としては、エチレングリコールをベースに、フィコールとシュークロースを加えたPB1液(修正リン酸緩衝生理食塩水)であるガラス化溶液(EFS液)が挙げられる。そして具体的には、40%(v/v)エチレングリコールをベースとしたEFS40、20%(v/v)エチレングリコールをベースとしたEFS20等が例示される。

0032

ガラス化保存液は、また、耐凍剤濃度を低くすれば胚の前処理液としても使用することができる。そして希釈液としては、シュークロースを添加したPB1液(具体的には、0.5M/Lシュークロース含有PB1液等)といった常用される希釈液が適宜使用される。

0033

このようにして、既述した従来法の問題点〜は、いずれも、既述したa)〜d)の手段を採用することによって、すべて解決することができる。

0034

すなわち、
a)ストロー内への溶液の導入における新しい重層配置方法の使用
前述したIshimori et alやKuwayama et alの方法は、ガラス化保存液のカラムをストローの入口付近に配置させているので、根本的に方法が異なっている。この方法により、前述した、ガラス化保存の実用化の為の課題の、は解決される。

0035

なお、ストロー内に吸引あるいは注入する希釈液の長さ、及び使用するストロー、スパイナル針等の長さの違いによって、ガラス化保存液と希釈液の間隔(空気層の幅)が変わる。空気層の幅が短すぎると、ガラス化保存液と希釈液が接触する恐れがあり、長すぎると、後の工程でストローを冷却する際に空気層の縮みの幅が大きく、ガラス化保存液と、重層した希釈の境界が崩れてしまう。ストロー冷却後も、ガラス化保存液と、重層した希釈の境界を明確に保つには、空気層の幅は5〜7mmとするのが好ましい。その為に、ストロー内に吸引あるいは注入する希釈液の長さを増量するなどの方法により調節することが必要である。

0036

b)前処理液、ガラス化保存液の組成の改善
フィコール、シュークロースなどの細胞非透過性物質を高濃度に含み、細胞透過性物質であるエチレングリコール濃度は低く設定した溶液で胚を処理すると、脱水作用が強いため、胞胚腔内への透過性耐凍剤の透過は促進されるが、毒性は低い。これは、細胞透過性耐凍剤であるエチレングリコールの毒性がDMSO、グリセロール、プロピレングリコールなどより低く、また分子量が小さいため、平衡時の透過や融解後の除去が容易なこと、フィコールはPEGに比べて融解度が高く粘性と毒性は低い事、さらにシュークロースは脱水を促し、細胞内に透過するエチレングリコールの量を制限することによって毒性の影響を緩和し、同時にエチレングリコールの除去過程浸透圧的膨脹も防ぐことなどが、総合的に作用するためと考えられる。従って、この様な溶液を前処理液として使用すると、前処理には時間の制限が少なく、室温で、作業実験に合わせた処理時間で、確実に胚を処理することができる。同時に、前処理液の比重をガラス化保存液よりも大きくすれば、前処理した胚をガラス化保存液に導入すると沈降し、重層する希釈液の反対側へ移動させることができる。従って、ガラス化保存液のカラムを短くすることができる。a)、b)により、前述の課題の、が解決される。

0037

c)耐凍剤の毒性を緩和できる処理過程での氷水の利用
胚をガラス化保存するためには、細胞内への耐凍剤の浸透が必須であり、耐凍剤の浸透を確保するために、室温でガラス化保存液内で胚を平衡させる必要がある。しかしガラス化保存液は、耐凍剤濃度が高く毒性が強いため、平衡時間を必要以上長くすると、胚の生存性は低下する。ここで、耐凍剤の浸透性や毒性は、温度に大きく依存している。そこで、胚を室温のガラス化保存液に移した後、一定時間保持後は、ストローを氷水に浸すことによってガラス化保存液の毒性の影響をほぼ停止させることができる。氷水中で希釈液の重層とシールを行なえば、毒性の影響を受ける心配をせずに、確実な操作が可能となる。この方法により、前述の課題の、が解決される。

0038

d)気泡の発生を最少に抑える、ストローの冷却および融解方法
気泡の発生は、急速な凍結と急速な融解の過程に、水分の体積が急激に変化することによって生じると推測される。従って、気泡の発生の防止のためには、冷却と加温の時、急速な温度変化を避けることが必要である。そこで、冷却は、上記の様に、ストローサンプルを直接液体窒素に浸すのではなく、液体窒素ガスの中に数分間静置して冷却速度をやや緩慢にすることにより、気泡の発生はかなり抑制できる。この冷却法によって生存性が低下しないことは、すでに確認されている。(Kasai et al., 1996, Cryobiology, 33, 459-464)。一方融解については、ストローを空気中に保持した後、直接温水中に浸す前に、氷水中に浸すことで急激な温度変化を緩和した。あるいは、ストローのシール側の希釈液の先端(空気層との境界)数ミリを、あらかじめ室温水中に数秒間浸して液状とすることで、シール側の空気が融解中の希釈液の層に侵入するのを阻止した。以上の結果、気泡の発生は、最少に抑制された。この方法により、前述の課題のが解決される。

0039

以上により、前述〜の課題は、すべて解決される。次に、本発明の実施例について述べる。

0040

上記した本発明の方法によってガラス化保存し、ストロー内希釈したマウス桑実胚における生存性について、以下により測定、確認を行った。

0041

使用材料および胚の生存性の判定方法を以下に示す。
(1)保存容器:0.25mlプラスチックストローを用いる。
(2)ガラス化保存液(EFS40):40%エチレングリコール+18%Ficoll(フィコール;分子量約70,000の高分子化合物)+0.3Mシュークロースを添加したPB1液(修正リン酸緩衝生理食塩水)(Kasai et al., 1990, J.Reprod. Fertil., 89, 91-97)を用いる。EFS40の比重;約1.139
(3)前処理溶液(EFS20):20%エチレングリコール+24%フィコール+0.4Mシュークロースを添加したPB1液(Zhu et al., 1993)を用いる。EFS20の比重;約1.148
(4)希釈液:0.5Mシュークロースを添加したPB1液を用いる。
(5)胚の培養液:修正KRB液(Toyoda & Chang, 1974, 36, 9-22)を用いる。
(6)胚の処理温度:25℃とする。
(7)胚:ICR系マウスから採取した、体内受精桑実胚、およびそれを体外培養して発育させた拡大胚盤胞を用いる。
(8)胚の生存性の判定:希釈液で希釈した胚は、5分後にピペットでPB1液に回収し、ついで修正KRB液に移して、炭酸ガス培養器内で培養する。桑実胚の生存性は拡大胚盤胞への発育能力で、拡大胚盤胞の生存性は、胞胚腔の再拡大によって、それぞれ判定する。

0042

マウス胚のガラス化保存用ストロ−の作成、冷却、及びストロー内融解、希釈は次のようにして行う。

0043

(A)ストロー内への溶液および胚の導入:重層法を用いる。
1)ストロー内に希釈液を約15mm吸引し移動させ、綿栓部を塞ぐ。(図1(I)〜(III))
2)綿栓を塞いだ希釈液から、約20mmの空気層を隔てた箇所に、スパイナル注射針(21G×3 1/3、せき髄麻酔等に用いる長さ約9cmの長針)付注射筒を用いて、EFS40を5〜15mm注入してガラス化保存液のカラムを作成する。(図1(IV)〜(V))
3)胚を1〜5分間、EFS20に浮遊させる前処理を施す。(図2(VI))
4)前処理を終えた胚を、少量の前処理液と共に、先を長く伸ばしたピペットを用いて、ストロー内のガラス化保存液のカラムの中に注入する。(図2(VII)〜(VIII))
5)30〜60秒間ガラス化保存液内で胚を平衡させた後、ストローを、綿栓部を下にして縦向きに正立させ、氷水中に浸す。(図3(IX))
6)別のスパイナル注射針付注射筒を用いて、EFS40の上に直接約70mmの希釈液を静かに重層する。(図3(X))
7)ストローの先端を熱シールする。(図3(XI))

0044

(B)冷却・保存方法
8)ストローを氷水中から液体窒素ガス中に移し、縦向きに静置して希釈液を凍結させる。(図4(XII))
9)ストローを横向きにして、液体窒素ガス中で数分間静置する(図4(XIII)) 10)ストローを液体窒素中に投入する。(保存)(図4(XIV))

0045

(C)ガラス化保存した胚の、ストロー内での融解・希釈方法
1)ストローを液体窒素から取り出し、十数秒間室温の空気中で保持する。
2)ストローを氷水中に浸し、数十秒間保持する。
3)ストローを氷水中から取り出し、綿栓部を上にして縦向きに正立させ、25℃水中で数分間保持する(図5(XV)〜(XVII))
4)なお、融解・希釈後にストローをカットする箇所は、熱シール側の空気層の部分とする。

0046

得られた結果を下記表1に示す。従来、緩慢な凍結方法により凍結・融解された場合の生存率は、マウス8細胞〜桑実胚では、およそ80%程度である(82%, Kasai et al., 1980 ; 72%, Glenister, 1984 ; 〜80%, Whittingham, 1980 ; 80%, Quinn and Kerin, 1986)。また、マウス胚盤胞を同様に処理した場合の生存率は、8細胞〜桑実胚に比べ若干劣り(74%、Whittingham et al., 1979 ; J. Reprod. Fertil. 56, 11-21)、胞胚腔の拡大とともに生存率が低下することが示されている(Massip etal., 1984, Cryobiology 21, 574-577)。

0047

0048

表1の結果から、A)〜C)の方法によりガラス化保存し、ストロー内希釈をしたマウス胚の生存率は、桑実胚で97%、拡大胚盤胞で95%となり、従来の緩慢な凍結方法に比べ生存性は著しく上昇した。なお、一連の実験の中で、今回の様に、ガラス化保存液をストロー内で希釈した時の胚の生存率は、ストロー外で希釈した時の胚の生存率と比べて遜色ない事が判明した。ストロー外で希釈する場合は、耐凍剤の毒性を避けるために希釈の措置を素早く行う必要があり、希釈の操作に手間取ると、胚の生存性が低下する恐れがある。それに対し、今回考察したストロー内希釈の方法を用いれば、その様なリスクは回避できるので、より安全な胚の保存方法と言える。

0049

胚を前処理溶液(EFS20)中で1〜5分間平衡化することにより前処理し、この前処理した胚をストロー内のEFS40カラムに注入する前に、別に用意したEFS40内でピペッティング処理し、その効果確認試験を行った。

0050

1.使用材料
1)保存容器:実施例1で記載した材料と同一とした。
2)ガラス化保存液(EFS40):実施例1で記載した材料と同一とした。
3)前処理溶液(EFS20):実施例1で記載した材料と同一とした。
4)希釈液:実施例1で記載した材料と同一とした。
5)胚:Lu et al.(1987.Veterinary Record 121. 259-260)の方法にて作出した、7〜8日令黒毛和種またはホルスタイン種の体外受精由来の胚盤胞および拡大胚盤胞で、品質は形態的に正常なものを用いた。
6)胚の処理温度:実施例1で設定した温度(25℃)と同一とした。
7)胚の生存性の判定:ストロー内で希釈した胚を、5分後にピペットでPB1液に回収し、ついで25mM Hepes緩衝TCM−199(Earle塩)に移して、72時間炭酸ガス培養器内で培養した。胚の生存は、培養後に元の状態に戻るか否かで判定した。なおその際の共培養細胞として、顆粒膜細胞を用いた。

0051

2.試験方法
(A)ストロー内への溶液および胚の導入方法
1)綿栓を塞ぐためにストロー内に吸引する希釈液の長さは約28mmとし、ガラス化保存液と希釈液の間の空気層の幅を約6mmとした。
3)および5):EFS20での処理時間を2分、EFS40での処理時間を30秒とした。
4)EFS20で前処理した胚の、ストロー内のガラス化溶液への導入方法を(a)法と(b)法で比較する。
(a)法:EFS20で前処理した胚を、少量のEFS20と共にそのままストロー内のEFS40のカラムの中央に導入する。(ピペッティングなし=従来の方法通り)
(b)法:EFS20で前処理した胚を、別のデッシュに用意したEFS40内に移し、数回ピペッティング処理した後、少量のEFS40と共にストロー内のEFS40のカラムのほぼ中央に導入する。(ピペッティングあり)他については、実施例1と同一とした。

0052

(B)冷却・保存方法:実施例1と同一とした。
(C)ガラス化保存した胚のストロー内での融解・希釈方法:実施例1と同一とした。

0053

3.結果
得られた結果を下記表2に示す。

0054

0055

4.考察
マウス桑実胚においては、実施例1で示されていた様に、前処理液で平衡した後、直接ストロー内のEFS40カラムに導入する方法で、高い生存性が得られた。しかし、ウシ胚盤胞においては、融解後の生存性は、処理したストロー毎にばらつきが大きく、また相対的に拡大胚盤胞で低く、全般では生存率は50%以下となっていた。生存した胚は、従来のエチレングリコールを用いた緩慢凍結法を用いた時に比べて活力が強く、透明帯の脱出率が高いことから、一連の工程の中で、何か生存率を下げている具体的な原因があると思われた。

0056

本実施例で、胚を前処理液からストロー内のEFS40カラムに移す前に、別に用意したEFS40内でピペッティング処理をする(b)法は、ピペッティング処理をしない(a)法に比べ、生存率、脱出率ともに急激に高くなり、有意な差(P<0.01)となった。従って、ガラス化処理後の胚の生存率を下げていた要因は、胚がEFS40に導入された後に、前処理時から存在する胚の周囲のEFS20がEFS40に換わっていなかった為と判明した。

0057

EFS20はEFS40よりも更に粘性が高く、両者は容易には混合しない。EFS20内で平衡した胚を、少量のEFS20とともに、直接ストロー内のEFS40に導入した場合、胚が周囲のEFS20から抜けださないと、胚の周囲は、EFS40に換わらない。EFS20を着色して状況を観察すると、胚は周囲のEFS20と一体となってゆっくり沈降しているのみで、胚の周囲のEFS20は、それほどEFS40と混合していない。ウシ胚はマウス胚よりも胚の直径が大きく、胞胚腔も大きいために、胚の周囲がEFS40に完全に換わらないと、胚全体のガラス化が不完全になるものと考えられる。以前から融解後の胚の生存率は相対的には初期の胚盤胞で高く、拡大胚盤胞で低い事は判明していたが、このことも今回判明した原因と一致して説明づけられる。

0058

今回の実験で、ウシ胚盤胞においても、胚をEFS20からストロー内のEFS40に移す前に、別に用意したEFS40内でピペッティング処理を行い、胚の周囲のEFS20をEFS40に換えれば、高い生存率が得られる事が判明した。

0059

ピペッティング処理を取り入れた結果、従来のエチレングリコールを用いた緩慢凍結法(Voelkel et al., 1992)で処理した胚(緩慢凍結胚)よりも生存率が上昇したため、ガラス化保存をした体外受精卵(ガラス化保存胚)での移植試験を開始した。また、緩慢凍結で保存した体外受精胚および体内受精胚も同時に移植しているので、結果を比較した。

0060

1.使用材料
胚は、体内受精胚、体外受精胚ともDay7の胚を使用した。胚のステージは、体内受精胚は後期桑実胚または初期胚盤胞、体外受精胚は、胚盤胞または拡大胚盤胞とし、すべて形態的に正常なものを用いた。他は実施例2の通りとした。

0061

2.試験方法
○ガラス化保存および融解・希釈:
(A)ストロー内への溶液および胚の導入方法
4):実施例2の(b)法と同一の方法でピペッティング処理を行った。他は、すべて実施例3と同一とした。
○緩慢凍結処理および融解:耐凍剤に1.5Mエチレングリコールを使用する、ウシ胚のダイレクト・トランスファー法(Voelkel et al., 1992, Theriogenology 37, 23-37)で記述されている一般的な緩慢凍結・融解法を用いた。

0062

3.移植
(A)受卵県内の『ひので酪農協』及び『美野里酪農協』管内の一般酪農家の保有するホルスタイン種を用いた。
(B)移植の時期:レシピエントの発情日を0日とし、7日目に非外科的な方法で移植を実施した。
(C)移植の期間:96年5月16日〜96年7月26日
(D)受胎確認方法:発情日から43日以内に、超音波診断装置を用いて受胎確認を行なった。

0063

4.結果
得られた結果を下記表3に示す。

0064

0065

5.考察:ガラス化胚の受胎率は、体内受精胚(緩慢凍結処理)には劣る(有意差はない)ものの、同じ体外受精胚での緩慢凍結処理胚に対しては、有意差はないが高い傾向を示した。しかし、実施例2の融解試験で示された高い生存率を考慮すると、今回はそれ程高い受胎率は得られなかった。またガラス化保存胚の受胎率の内訳では、胚盤胞が高く、拡大胚盤胞で低い傾向が見られた。

0066

胚のEFS20およびEFS40での平衡時間についての検討を行った。

0067

1.使用材料:実施例2と同一とした。
2.試験方法
(A)ストロー内への溶液および胚の導入方法
3)および5):胚のEFS20およびEFS40での平衡時間を下記表4の組み合わせで試験した。他はすべて実施例2と同一とした。

0068

3.結果
得られた結果を下記表4に示す。

0069

0070

4.考察
EFS20での平衡時間は、1分以内では短すぎ、2分で十分であることが示され、1.5分〜5.0分では大差は見られなかった。EFS40での平衡時間は、20秒ではやや短すぎ、60秒では若干長過ぎる傾向があり、30秒〜45秒では大差は見られなかった。一連の実験の中では、EFS20で1.5分、EFS40で35秒の組み合わせで良い結果が出ている。作業能率から考えると、EFS20の平衡時間については、一連の作業(先を長く延ばしたピペットを用いて、胚をEFS20からEFS40に移し、ピペッティング処理を行ってからストロー内のEFS40に導入し、胚の確認後、氷水に浸すまで)は、やや熟練を要し確実に行うには30秒程度必要であり、30秒〜35秒は作業上で好都合である。

0071

ガラス化保存胚と緩慢凍結胚の、生存率および脱出率の比較を行った。

0072

これまでに改善を加えたガラス化処理法を用いて保存した胚(ガラス化保存胚)と、現在ウシ胚の保存方法として一般的に実用化されている方法である、低濃度エチレングリコール溶液を利用した緩慢凍結法により保存された胚(緩慢凍結胚)とで、生存率、透明帯脱出率の比較を行った。

0073

1.実験材料
胚は、Day7〜8のウシ体外受精胚(胚盤胞または拡大胚盤胞)を使用した。他は実施例2と同一の材料を用いた。

0074

2.実験方法
(a)胚のガラス化保存
(A)ストロー内への溶液および胚の導入方法
3)及び5):胚のEFS20およびEFS40での平衡時間は、EFS20で1.5分、EFS40で35秒とした。
4):実施例3(b)法を用い、ピペッティング処理を加えた。
他は実施例3と同一の方法とした。

0075

(b)エチレングリコールによる胚の緩慢凍結および融解法
実施例3と同様にVoelkel et alの方法を用いた。

0076

3.結果
得られた結果を下記表5に示す。

0077

0078

4.考察
今回の実験でDay7〜8の合計では、生存率、透明帯脱出率とも、ガラス化胚が緩慢凍結処理胚よりも有意(P<0.05)に高く、特に透明帯脱出率についてはかなりの差があり、ガラス化保存胚は緩慢凍結処理胚よりもダメージが少なく活力が高い事が確認された。

0079

融解・希釈方法の簡略化を図るため、a)法を考案し、従来の方法であるb)法と比較を行った。

0080

1.使用材料:実施例2と同一とした。
2.試験方法
(A)ストロー内への溶液および胚の導入方法:実施例4と同一とした。3)及び5):胚のEFS20およびEFS40での平衡時間は、EFS20で1.5分、EFS40で35秒とした。
4):実施例2(b)法を用い、ピペッティング処理を加えた。他は実施例4と同一の方法とした。
(C)ストロー内での融解・希釈方法:今回考案したa)法と、従来のb)法と比較した。

0081

a)法:ストローを液体窒素から取りだし、空気中で15秒間保持する。
プラグを下にして、25℃の水にストローの下半分を浸し、8秒間保持する。(図6(XVIII))
素早くストローを逆向き(プラグを上)にして、ストロー全体を25℃の水に浸し、ストローを倒さない様にして、3〜5分間保持する。(図6(XIX))
b)法:ストローを15秒間室温の空気中で保持したのち氷水に30秒間浸し、その後25℃水中に浸す。
他はすべて実施例4と同一の方法とする。

0082

3.結果:得られた結果を下記表6に示す。

0083

0084

4.考察:(a)法と(b)法を比べると、気泡の発生量の差はほとんど見られず、融解後の胚の生存率、脱出率においても、両者に差は見られなかった。従来の(b)法は、氷水の準備、ストローの氷水中での30秒間の待機、氷水中から25℃水中への移し換え作業などがやや繁雑となる。ストローを氷水中に浸す手順を省略し、25℃水中のみで融解する方法を試した場合、気泡の発生する位置をストローの部位別で観察すると、シール部分に近い箇所からの発生が大部分である。今回の(a)法のように、ストローのプラグ側から中央までの半分のみを先に7〜8秒間25℃水中に浸し、その後ストロー全体を25℃水中に浸すことで、気泡の発生はほぼ抑えられた。これにより、庭先でのより簡便な融解方法として(a)法が実用的なことが判明した。

0085

融解・気泡発生の原因を解明し、希釈方法の簡略化を図るため、更に次の様に方法の改善を行った。

0086

使用材料、試験方法は実施例6と同様としたが、(C)ストロー内での融解・希釈は、次のようにして行った。

0087

ストローを液体窒素から取りだし、綿栓部分を持ち、空気中で7秒間(5〜10秒間)保持する。
綿栓を上にし、ストロー下端(シール部分)の空気層の部分と、希釈液の端部を0〜5mm、本実施例では2mm、水中(25℃)に浸し、7秒間(5〜10秒間)保持する。(図7(XX))
プラグを上にしたまま、ストロー全体を25℃の水に浸し、1分間保持する(図7(XXI))
ストローを空気中に出し、綿栓部分を下にし、30秒間保持する(この間にストローの消毒、カット等を行う。)
(を行うことにより、希釈液の先端(空気との境界)を液状とし、でシール部分の空気が希釈液の層に侵入するのが防止される。)

0088

ガラス化ストローの急速融解時に気泡が発生する原因は次のとおりである。
(a)ガラス化ストローを急激に温水に浸すと、凍結している希釈液は、ストロー壁に接触する表面がランダムに融解し始め、その際に融解した部分の体積が収縮する(希釈液のほとんどはまだ凍結したままである)。図8(XXII))
(b)ストロー壁と、希釈液の融解した表面部分との間にすき間(真空状態)がまだら帯状)にできる。(図8(XXIII))
(c)の工程を省略すると、(b)でできたすき間を通って、ストロー先端側にある空気が侵入する。(図8(XXIII))
(d)希釈液が完全に融解し液体になると、すき間に入って長く伸びていた空気が球状となり、気泡となる。(図8(XXIV))

0089

の工程により、気泡発生が抑制される仕組みは次のとおりである。(A)で、希釈液のストロー先端側(空気と接触する境界部分)の、端から数ミリを、先に25℃の水に5〜10秒間浸すことにより、凍結した希釈液と空気の境界は液状となる(図9(XXV))
(B)この結果、でストロー全体を25℃の水に浸して融解する際、ストロー壁と、希釈液の融解した表面部分との間に真空状態が発生しても、ストロー先端側にある空気は、希釈液との境界にすき間がないため、侵入できない。(図9(XXVI))
(C)希釈液の融解が進み、体積が更に収縮しても、希釈液と空気の境界が移動するのみで、気泡は発生しない。(図9(XXVII))
以上により、の工程を採用することによって気泡の発生が抑制される。

0090

本実施例によれば、より短時間に処理することができ、融解途中でのストローの向きの変更の必要もないため、より実用的である。胚が、温度が上昇したEFS40内から脱出するまでの時間は、本実施例の方法が最も短かいため、融解・希釈後の胚のダメージをより小さくできる。

発明の効果

0091

今回の発明により、液体窒素中に保存した本ストローを、温水に数分間浸すだけで、ガラス化保存した哺乳動物胚をストロー内で融解・希釈できるので、結果として、細胞の傷害が小さく、高い生存性を保った胚を容易に得ることができる。保存が可能な胚のステージは、桑実期から拡大胚盤胞期まで広く含まれ、胚の生存性は、従来の緩慢凍結法で胚を凍結・融解した場合よりも明らかに高い。融解・希釈の操作においては、以前のガラス化法の場合では必要だった顕微鏡等の機器を必要とせず、一般に普及している緩慢凍結法における融解法と比べても簡便性で大差はなく、実用性が高い。従って、ウシなどの家畜に対し、庭先で胚移植を行う際には本ストローが活用でき、高い受胎率が期待できる。マウスなどの実験動物の胚の保存においても、本発明の方式が最も高い生存率を期待できる確実な保存方法となり、貴重な動物の種や系統の保存にも活用できる。

0092

また、本発明のストローの作製方法は、以前のガラス化法の場合よりも短い時間で、かつ胚を安定して確実に処理できる方式を採用している。従来の緩慢凍結法で必要であったプログラムフリーザー等の高価な機器は不要であり、最少の設備で胚の保存ができる。緩慢凍結の時間(約1時間)を省略することができるので、処理する胚(ストロー)の数が特に多くなければ、胚の保存に必要な時間は、緩慢凍結法よりも短縮することができる。

0093

以上の様に、本発明は実用性が高く、現在一般に普及している胚の保存方法よりも高い生存率や受胎率を期待できる、画期的な胚の保存法である。酪農、畜産業界において、ウシなどの家畜の胚移植における高受胎率の確保は悲願であり、本発明が業界に貢献できる可能性は高いと思われる。

図面の簡単な説明

0094

図1ガラス化保存用ストローの作製方法を示す。
図2同上続きを示す。
図3同上続きを示す。
図4ガラス化保存用ストローの凍結、保存方法を示す。
図5哺乳動物胚ガラス化保存用ストローのストロー内希釈を示す。
図6哺乳動物胚ガラス化保存用ストローの融解・希釈方法の別の実施例を示す。
図7哺乳動物胚ガラス化保存用ストローの融解・希釈方法の更に別の実施例を示す。
図8ガラス化ストローの急速融解時に気泡が発生する原因を示す。
図9気泡発生の抑制方法を示す。

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